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幼馴染の女の子
5/21 金曜日

 僕の名前は伊藤修平。大平高校に通う高校一年生です。

 身長はちょっと低くて、運動も苦手で、少し太っている、顔も平凡な、どこにでもいるモテない男子高校生モブです。

 僕が唯一、普通のモブでないところがあるとすれば、それは――

「おはよう。伊藤君」

 隣の家に幼稚園の頃から一緒の幼馴染がいることです。

「おはよう、岡村さん」

 彼女の名前は、岡村里佳子さん。同じ大平高校に通う高校一年生です。

 身長は僕よりも少し低くて、髪の毛も染めずに黒髪で、校則を守って三つ編みのおさげにしている。黒ぶち眼鏡でそばかすのある、正直、パッとしない女の子です。

 もし、彼女が美人だったら、僕は主人公属性だったかもしれないけど、その場合は存在を黒歴史にされている自信はあります。もしかして、今の彼女にも黒歴史扱いされているかも。

 朝の挨拶を済ませると、そのまま黙って表通りのバス停に向かいます。もちろん、会話はありません。

 僕もおしゃべりは得意じゃありませんし、彼女も物静かです。クラスのうるさい下品な女子とは違う。さすがは、特進クラスだと思う。

 バス停でバスに乗って、学校までは二十分ほどです。朝のラッシュ時ですけど、ここは始発に近いので座れることもあります。

 彼女はバスに乗ると本を読み始めます。読んでいるのは小説です。ジャンルはミステリーからファンタジーまで、さまざまです。でも、恋愛小説は苦手みたいで、読んでいるのは見たことないです。

 バスが学校前のバス停に止まって、バスを降りて、校門に向かいます。

「それじゃあ」

「うん」

 普通科の僕と特進コースの彼女とは、校舎が違うので、校門で僕たちは短く言葉を交わして別れます。

「おはようであります、伊藤殿」

「いいよなー、幼馴染。俺も欲しーっす」

「おはよう、加藤君、佐藤君」

 彼女を見送った後、クラスの友達と合流するのが、いつものルーチンです。

 軍事マニアの加藤君と、アニメオタクの佐藤君です。二人ともヒョロガリです。クラスでは「兄弟?」とか言われるぐらい似ています。話すと見分けつくんだけどね。

 僕もアニメや漫画、声優、アイドルとかは好きだけど、オタクやマニアと言われるほど詳しくないから、少し二人のことがうらやましいです。

 僕の個性は幼馴染がいることだけだから。

「確かに幼馴染は得難き存在でありますな」

「そうっすよ。幼馴染に彼氏ができても、結婚しても、幼馴染だって事実は消えないんすよ。それって、最初の人と同じぐらいのインパクトっすよ」

「そ、そうかなぁ……」

 二人に言われると、僕もちょっとうれしくて照れます。

「話は変わるでありますが、貴殿らは魔界の話を知っておられますか?」

「魔物娘のっすよね? 当然、知ってるっすよ。三次元はアレっすけど、魔物娘のクオリティなら、余裕でアリっす。ていうか、二次元に行けない俺のために二次元から三次元にやってきてくれたって運命感じてるっすよ」

 佐藤君の鼻息が荒いです。

「その魔界と限定的ではありますが、交流が開始されたそうであります。そのうち、街で魔物娘を見かける日も遠くないでありますよ」

 加藤君も鼻息が荒いです。

「それは楽しみだね。でも、あんな美人の人は僕らなんかには高嶺の花だけどね」

「伊藤氏、夢を壊さないでくださいっすよ」

「ご、ごめん……」

「ふふふ、そこは安心するであります。魔物娘たちは男であれば、イケメンにはこだわらないということであります。しかも、ベタぼれになってくれるという情報を入手したであります」

「マジか! ワンチャンある?」

「ワンチャンどころか、メニーチャンであります」

「うおおお! 生きる気力がわいてきたっす!」

 僕たちは教室の隅に固まって、静かに盛り上がっていた。

 魔物娘か。僕のところにも来てくれたらいいな。

 ― ― ― ― ―
5/24 月曜日

「おはよう、伊藤君」

「おはよう、岡村さん」

 毎朝の挨拶を済まして、バス停へと向かう。

 いつもは並んで歩かないのに、今日は珍しく並んで歩いてきた。

「もうすぐ衣替えだね」

「あ、うん、そうだね」

 話しかけてきたのは、高校に入ってから初めてかも。

「梅雨ももうすぐだし、いい季節って過ぎるの早いよね」

「あ、うん、そうだね」

 二言以上の会話って、いつ以来だろう? やばい、緊張する。

 でも、三言目はなかった。バス停に着いて、いつものようにバスに乗り込んで学校に向かった。

「今日、久しぶりに会話したんだ」

「詳しく!」

 学校について友人二人に今朝のことを相談した。

「ふむ。心境の変化でありますか。何かを隠すための陽動作戦の可能性もありますな」

「いやいや、離れ離れになって、存在に気が付き始めたってことっすよ」

「同じ学校だよ?」

「校舎が違うとほとんど会わないっすよね? それはほぼ他の学校って設定っすよ」

「そうかな?」

「罠かもしれませぬが、虎穴に入らずば虎児を得ずであります」

 僕は二人に背中を押されて、様子見することにした。

 ― ― ― ― ―
5/25 火曜日

「おはよう、伊藤君」

「おはよう、岡村さん」

 毎朝の挨拶を済まして、バス停へと向かう。

 今日も昨日と同じく並んで歩いてきた。

 気のせいか、いつもよりも肌や髪の艶がきれいに見える。

「今日はちょっと肌寒いね」

「あ、うん、そうだね」

 僕には昨日とあまり変わらない気がするけど、女の子の言うことを否定してはいけないって、佐藤君に教えてもらった。彼はラブコメアニメ、ハーレム漫画、恋愛ゲームに精通しているマイスターだから、うんちくが違う。

「衣替えしてから今日みたいな日だと風邪ひいちゃうね」

「あ、うん、そうだね」

 ちょっと大げさだなと思うけど、これも肯定しなきゃ。

「中間テスト、どうだった?」

「あ、うん。まあまあかな?」

「そっか……」

 今日はこれで会話終了だった。

「ふむ。見た目に変化があるということは、好きな男性ができたのかもしれませぬな」

「好きな人が?」

 加藤君が僕の話から推測する。

「違うっすよ。中間の結果が悪かったら、しょうがないわねー。私が勉強教えてあげる。って、口実を探してきたんすよ」

「そ、そうなのかな?」

 佐藤君がアニメのツンデレキャラっぽく演じてくれたけど、ヒョロガリの佐藤君だとちょっと気持ち悪い。

 話し合いの結果、様子見になった。

 ― ― ― ― ―
5/26 水曜日

「おはよう、伊藤君」

「おはよう、岡村さん」

 毎朝の挨拶を済まして、バス停へと向かう。

 今日も同じく並んで歩いてきた。

 気のせいじゃなく、そばかすが消えていた。

 お化粧? 指摘して校則違反だったら気まずいからスルーしよう。

「今日は暑いね」

「あ、うん、そうだね」

 昨日より涼しいけど、否定は厳禁と佐藤君に言われている。女の子を否定するのは、一発逆転もあるが、ほとんどが地雷だと聞いている。

 ブラウスの襟首に指を入れて広げて、手扇で扇いでいる。そんなに暑い?

「だ、大丈夫? 熱とか、あるんじゃない?」

 昨日は寒いと言っていたし、もしかして風邪かもしれない。

 僕に聞かれて、岡村さんは首をまわして、僕の方を勢い見た。びっくりした。

「う、うん。だ、だいじょうぶ」

 顔が真っ赤で、大丈夫そうには見えない。

「そ、そう、それなら、いいけど。無理しないでね」

 とりあえず、社交辞令で切り抜ける。

「あ、ありがとう」

 会話はそこで終わった。

「それ、絶対、脈ありっすよ。好感度ゲージが急上昇っす。でも、ここでいい気になると、一気に爆弾っすから、これまで以上に気を遣うっす。ここの工程で最後のイベントが変化するっす」

「う、うん。頑張るよ」

「しかし、何らかの秘密を隠蔽している可能性も高まっているであります。相手の思惑がはっきりしない現状では戦術に余裕を持たせるのが肝要であります」

「うん。そうするよ」

 作戦会議の結果、様子見が決定した。

 ― ― ― ― ―
5/27 木曜日

「おはよう、伊藤君」

「おはよう、岡村さん」

 毎朝の挨拶を済まして、バス停へと向かう。

 今日も同じく並んで歩いてきた。

 気のせいか、いつもより距離が近い。

「昨日は、心配してくれてありがとう」

「あ、うん。別に大したことじゃないよ」

 今日も少し顔が赤くて、目が潤んでいる気がする。

「ううん。それだけで、私、うれしいの」

「そう? それなら、よかった」

 家か学校で何かあったのかな?

「僕なら、いつでも、相談に乗るから」

「ほんと!」

 勢いよくこっちを見られて、僕は思わずのけぞった。

「あ、ごめんなさい……」

 岡村さんは驚く僕を見て、しゅんとしてしまった。

「い、いや、僕こそ、ごめん。びびりで」

「そんなことないです。ほんと、ごめんなさい」

「いや、僕こそ」

 お互いに謝りあいながらバス停まで行った。

「うらやましいっす! 血の涙があふれそうっす! なんすか、その甘酸っぱいのは! リア充、爆ぜろ!」

 佐藤君が地団駄を踏んでいる。音を立てて目立たないように、エア地団駄だけど。

「相談に強く反応したというところは、何か悩みがあるのは確実でありますな。その悩み解決の協力者を欲しているのが接近の意図ではないかと推測するであります」

「えーと、どういうこと?」

「加藤氏は、幼馴染さんが伊藤氏以外の男を好きになって、その応援をしてほしいから接近してきたかもしれないって言ってるっすよ」

「そんな……」

「でも、その心づもりもしてた方がいいのは確かっすね。思わせぶりな態度で攻略できると思わせといて、非攻略キャラとわかった時は、テンション最悪っすからね」

「常に最悪を想定することが戦場を生き抜くコツであります」

 僕は暗澹とした気持ちで様子見することにした。

 ― ― ― ― ―
5/28 金曜日

「おはよう、伊藤君」

「おはよう、岡村さん」

 いつも通り並んで歩いてきた。

 今日は手が触れそうなぐらい距離が近い。

「昨日はごめんね」

「こっちこそ、ごめん」

 距離が近いせいか、なんだかすごくいい匂いがする。女の子って、こんなにいい匂いがするんだ。

 岡村さんがこっちを見て笑ってる。匂いかぎすぎてバレた?

「あ、ごめんなさい。昨日から、私たち、謝ってばかりだったから、思い出すとちょっとおかしくて」

「あ、うん、そうだね」

「謝ってばかりじゃだめだよね。だから、ありがとうって言うことにするね」

「あ、うん。僕こそ、ありがとう」

 岡村さんがまた笑った。何か失敗しちゃった?

「今度は感謝してばかりになっちゃうよ。謝ってばかりよりマシだけど」

「あ、うん。そうだね」

 僕もつられて笑った。なんだか、愛想笑いみたいだけど。

 岡村さんは、それでパッとさらに明るく笑顔になった。

 岡村さんって、笑顔はこんなにかわいいんだ。幼馴染だけど、あんまりかわいいと思ったことなかったけど。

「私、伊藤君の幼馴染でよかった」

「え?」

 ぽつりとつぶやいた言葉に僕は反応した。

「急ぎましょう。バス、来ちゃうよ」

 岡村さんに急かされてバス停に急いだ。バスの時間までまだ時間があるのに。でも、僕も顔が赤くなりそうなので、何も言わずに従った。

「あー……伊藤氏は、俺らと違う次元の存在になったっす」

「ふっ。戦友の昇進を喜ぶことができないのは心が狭いでありますよ、加藤殿」

「いいもんね。俺には魔物娘という運命の赤い糸で結ばれた存在がいるっすから」

「そうであります。いかなる状況でも諦めないことが死中に活を求める。戦士に必要な資質であります」

 親友二人に言われたけど、僕のどこがいいかわからない。もしかして、罰ゲームか何かしているのかもしれない。だから、様子見の姿勢は崩さない。

 ― ― ― ― ―
5/31 月曜日

「おはよう、伊藤君」

「おはよう、岡村さん」

 いつも通り並んで歩いてきた。

 土日をはさんだら身長が伸びた?

 いや、姿勢がよくなって、そう見えるだけみたいだ。

 岡村さんは勉強のし過ぎか、ちょっと猫背だったから。

「明日から衣替えだね」

「あ、うん。そうだね」

 と言っても、濃紺のブレザーを脱ぐだけで、あまり変化はないけど。

 佐藤君は「透けブラの季節っす!」加藤君は「脇チラの季節であります!」と興奮していたけど。

 大平高校の制服って、濃紺のジャケットに同じ色のズボン、女子は赤のチェック柄スカート。男子がネクタイで、女子がリボンタイ。学年ごとに色の違うだけ。校則も緩めで男子の半分ぐらいはネクタイをしていないけど、注意もされない。

「伊藤君はクラスで仲がいい人っているの?」

「あ、うん。加藤君と佐藤君と仲がいいよ」

「男子?」

「うん? そうだよ。僕が女子と仲良くなるなんて、岡村さん以外では絶対ないよ」

「っ!」

 岡村さんが僕の台詞に急に顔を逸らした。……何か、気持ち悪いこと言っちゃった?

「お、岡村さん?」

「あ、ご、ごめん。ちょ、ちょっと、くしゃみが、出そうになっちゃって」

 厳しい言い訳だけど、ツッコまない。僕が傷つくから。

 そのまま、バス停に到着して、バスに乗り込むと、珍しく、岡村さんが僕の隣に立ってきた。いつもは離れていたのに。って、今日は少し混んでいるから偶然だろうけど。

 岡村さんはいつも通り、本を読み始める。今日はファンタジーのライトノベルみたいだ。僕もこのシリーズは好きで買っているから内容は知っている。いつも思うけど、読書の幅が広い。

 バスが走り出してしばらくすると、手の甲に何かすべすべしたものが何度も当たる感触がした。視線だけ動かすと、岡村さんの手の甲が僕の手の甲に当たっている。

 女の子に触れるのって、いつ以来だろう? 小学生の体育の時間でペア組んで以来?

 むっちゃ、すべすべ、手の甲でこんなんなんて、お、お、おっぱいとか、やばっ! 鎮まれ! 俺の第三の足!

 岡村さんは本に夢中で、僕の手に自分の手が当たっていることに気づかなないようだった。

 それにしても、ページが全然進んでいない。このシーン、好きなのかな? 確かにいいシーンだよね。魔物になりかけて主人公たちの元からそっと一人で出ていこうとするヒロインを、主人公が後ろから抱きしめて止める。かっこいいよなー。さすが主人公。僕には無理だ。だって、魔物になるって危険じゃないか。

「個人情報漏洩っすか? 困るんすよね。幼馴染さんの個人情報も聞き出して、俺たちに紹介するっすよ」

「魔物娘の赤い糸はどこ行ったんだよ」

「それは言わない約束っす! どうせ、紹介されたって、声もかけれないチキンにワンチャンなんてないっすから」

「泣かないでほしいであります。それは自分も同じであります、佐藤殿」

「加藤氏ぃ」

 ヒョロガリ同士が抱き合っているのは絵面的にアウトだよな。

「毎朝、女子とあいさつをして、女子免疫のある伊藤殿には、男子純粋培養の我々の悩みなどわからないであります」

「VRで練習してるっすよ。でも、リアルは違うっす!」

 とりあえず、こちらの情報を聞き出してきたことから、誰かとの橋渡しを依頼するための篭絡かもしれないと加藤君に指摘され、様子見になった。

 ― ― ― ― ―
6/1 火曜日

「おはよう、伊藤君」

「おはよう、岡村さん」

「今日から衣替えだね」

 半袖のブラウスに青のリボンタイ、赤いチェック柄のスカート姿だ。露出した肌が白くてまぶしい。

 それにしても、岡村さんって、こんなに胸、大きかった? ブレザーでわからなかっただけ?

「ねえ、変じゃない?」

 岡村さんが僕の前でくるりと回って見せた。スカートが、ふわって、ふわって、なったよ。やばい、やばいって!

「ど、どうかな?」

 何も言わない僕に岡村さんが心配そうに聞いてきた。

「う、うん。か、かわいいと思う」

 僕は顔を真っ赤にして答えた。

「あ、ありがとう」

 それを聞いた岡村さんも顔を真っ赤にした。

 バスに乗り込むと、今日も僕の隣に立っている。今日も少し混んでいるから、多分、偶然だと思うことにする。

 いつも通り、岡村さんは本を読んでいる。珍しく、昨日と同じ本だ。速読するから、毎日違う本なのに。この本は速読していないから、お気に入りなのかもしれない。

 今日は主人公がヒロインをかばって負傷するシーンだ。泣いて謝るヒロインに、やせ我慢して主人公が強がる。僕ならかばわないし、怪我したら、絶対痛がる。

 そして、今日も手の甲が当たっている。吸い付くような肌って、比喩じゃないんだと、僕は大人の階段を一つ上った。童貞卒業の階段はまだまだ続く。

 それにしても、斜め上からの岡村さんのオッパイはちょっと特別感がある。

 女の子になったら、こういう視界かもしれない。

 これが僕? か……

 ないな。TSFは話としては好きだけど、僕ならTSした主人公の友人ポジションがいい。ああ、でも、加藤君と佐藤君だとどっちが……うん。TS後の容姿による。

「失礼でありますな、伊藤殿は」

「そうっすよ。TSしたら美少女がデフォ! これは世界の真理っすよ」

「かわいい女の子になって厳つい軍服を着るのは夢計画の一つであります」

「俺は百合もいけるっすよ」

「魔物娘の赤い糸がそろそろ切れそうだよ?」

「魔物娘を甘く見ないことっすよ! それぐらいで切れる糸なら、俺との糸なんて、とっくに切れてるっす!」

「その通りであります。辛い現実を生き抜くためには、妄想は不可欠であります。それを許容できない程度では友好条約の締結は無理であります」

 話し合いにもならなかったので、様子見を延長することにした。

 ― ― ― ― ―
6/2 水曜日

「おはよう、伊藤くん」

「お、おはよう、岡村さん」

 今日はただの挨拶なのに、何か甘い匂いがしそうな、柔らかいものに包まれているような気がした。

「どうかしたの?」

「な、なんでもない。大丈夫だ。問題ない」

 何とかごまかしたけど、第三の足が封印解除しそうで、ちょっとやばい。

「なんだか、いつもと感じが違うね?」

「そう? いつも通りだと思うけど?」

 小首をかしげる岡村さんがかわいい。えーと、こんなにかわいかった?

「あ、あの、伊藤くんに聞きたいことがあるんだけど……」

「え、えーと、何かな? 僕に答えられることなら……」

「ありがとう! 伊藤くんじゃなきゃダメだから……」

「え?」

「な、なんでもない。えっとね、私の友達の話なんだけど、その子、眼鏡をかけてるの。それで、コンタクトにしようか迷ってるんだけど、どっちがいいと思う?」

 僕は首を捻った。それを僕に聞いてどうするのだろう?

「だ、男子的意見が聞きたいっていうか、眼鏡が大好きで、眼鏡をおかずに三杯はいけるとかあるじゃない?」

 岡村さんが慌てふためいている。パニックになった女の子って、かわいいよね。アイドルの出てる番組とかで見るけど、わざとかもしれないけど、かわいいは正義。

「あー……そういう人って少ないから、心配しなくていいと思うよ。今はおしゃれ眼鏡とかもあるし、そういうのがいいなら、そっちもありだし」

「い、伊藤くんは眼鏡好き?」

 小首をかしげて聞いてきた。むっちゃ、かわいいんですけど!

「ぼ、僕? うーんと……あんまり考えたことないけど、眼鏡かけてた子が外したりすると、ちょっと、特別なものが見れたって気がするのはいいかな? あ、でも、眼鏡をはずしたら美少女だったとか、現実あったら、見てみたい気もする」

 僕はテンパっていたようで、何かわけのわからないことをしゃべっていた。

「そっかー、眼鏡をはずすと美少女かぁ」

 岡村さんは何か納得したようだった。

 バスに乗り込むと、当然のように僕の隣に立っている。

 いつも通り、岡村さんは本を読んでいる。珍しく、また同じ本だ。お気に入りなの確定だね。僕も同じ本を持っているよ。

 今日はヒロインが勇気を振り絞って主人公に告白するシーンだ。僕なら絶対、浮かれて踊りだす。主人公みたいに、自分からも逆に告白するなんて恥ずかしくてしない。

 バスが走り出して、少しして、腕をつつかれた。

「ごめんなさい。ちょっと、腕に掴まらせてもらってもいい?」

 手すりやつり革があるのに? でも、佐藤君が脳内に降臨した。女子の言うことは絶対服従。

「うん。いいよ」

「あ、ありがとう」

 岡村さんは真っ赤になりながらも、僕の腕に掴まって、本を読みつづけた。

 いい匂い。柔らかい。小さい声で音読している岡村さんの声。

「好き」「好き」「大好き」「ずっと一緒にいたい」「もう離れたくない」

 脳髄が痺れて溶けそう。小説の台詞を音読しているのはわかっているけど、マッドテープのようにエンドレスで聴くと、脳死確定だ。

「もうさ、俺らのライフ0なんっすよ」

「オーバーキルは感心しないであります」

「そんなつもりじゃ……」

「やった方の主観じゃなくて、やられた方の主観なんっすよ!」

「ご、ごめん」

 僕は二人に本気で謝った。そうだ。やられた側の主観が一番なんだ。

「まあまあ。我々も大人げなかったであります」

「あう、俺も言い過ぎたっす」

 二人とも僕の謝罪を受け入れてくれた。

「ありがとう、二人とも」

 僕はちょっと感動しそうになった。

「伊藤氏が彼女できても、また俺たちとつるんでくれると嬉しっす」

「伊藤殿との同盟は童貞喪失ぐらいでは切れたりしないでありますよ」

 二人との友情を確かめ合って、様子見延長を決めた。

 ― ― ― ― ―
6/3 木曜日

「おはよう、伊藤くん」

 今日の岡村さんは、眼鏡もしていないし、髪もおさげじゃなくてハーフアップにしている。三つ編みにしていたからか、毛先が軽くウェーブしているし、髪の色も栗色っぽく見える。

 アイドルとか言われても納得してしまうぐらい、かわいい。

 岡村さんの顔って、こんなに整ってた? 眼鏡の印象が強かったから記憶があいまいだ。

 まあ、いい。かわいいは大正義。

「おはよう、伊藤くん?」

 聞こえていないのかと思われたらしく、もう一度挨拶されて、僕は意識を取り戻した。

「お、おはよう、岡村さん。眼鏡は……」

「あ、うん……私も、ついでに、友達のついでに、一緒にコンタクトにしてみたの。どう、かな?」

 上目づかいで、もじもじしながら僕に聞いてきた。

「え、あ、その、なんていうか、とっても、とっても似合ってる。岡村さん、眼鏡をはずすと美少女って、実在したんだって、思った」

 僕の言葉に岡村さんがパッと明るく笑顔になった。さっきまでの少し不安そうな表情とのギャップに僕のハートはおかしくなりそう。とりあえず、第三の足の封印がやばい。最近は、この朝の試練があるから、早起きして、何回か爆弾処理しているのに。

「うれしー! しゅ、修平くんにそういってもらえて、自信がついた。ありがとう、しゅ、修平くん」

 どさくさにまぎれて、名前呼びだと! しかも、ちょっと恥ずかしそうに!

「役に立てて、うれしいよ、岡村さん」

 岡村さんはその言葉に不機嫌そうな顔をした。うわ、美少女だと、不機嫌そうな顔もかわいいよ。どうしよう? 幼馴染がかわいすぎて、僕の心臓がやばい件。

「修平くんも、私のことを下の名前で呼んでよ」

「え? で、でも……」

 小学校六年の時に下の名前で呼んだら、名字で呼んでほしいと言ったのは岡村さんなのに。

「もしかして、下の名前忘れたとか?」

 彼女の目がすっと細くなる。背筋がぞくぞくして、アソコが興奮する。やばい。これは色々ヤバイ!

「わ、わすれて、ないよ! 里佳子さん」

「だめ。もっと、昔みたいに、かわいく呼んで」

 怖いモードは改善されたが、まだオコだ。

「え、えー……リカちゃん?」

「……うん。合格!」

 一瞬、リカちゃんはポーっとしていたけど、ちょっとエロい笑顔になって機嫌が直ったみたい。佐藤君の言う通り、女子、どこに爆弾あるかわからないから、こえー。

「じゃあ、早く、学校行こう、シュウくん」

 手をつながれ、引っ張られた。先を歩く、リカちゃんの耳が真っ赤だ。多分、僕も真っ赤だと思う。

 そのまま、学校まで手をつなぎっぱなしだった。

 学校では、突然現れた美少女と、その美少女と手をつないで登校してきたモブ男子という異色取り合わせで騒然となった。

 クラスメイトからの事情聴取とやっかみからの逃亡で会議はできずに様子見は継続となった。

 ― ― ― ― ―
6/4 金曜日

「おはよう、シュウくん」

「お、おはよう、リカちゃん」

 いつもの朝の挨拶なのに、下の名前で呼び合うだけで、なんだか興奮する。

 リカちゃんも同じらしく、照れてもじもじしている。

 今日は雨だから、傘をさして距離は少し離れているけど、以前より近く感じる。

「あはは。私が言い出したのに、なんだか恥ずかしいね」

「えーと、それじゃあ、元に戻す?」

「ダメ! このままがいい!」

 即答で拒否された。それはそれで嬉しい。

 リア充って、すごいな。世界がカラフルに見える。

 今日だって、雨が降っているのにいい気分だもん。

 昨日、自分の部屋に帰ったのに、リカちゃんが部屋にいるみたいにいい匂いがした。

 多分、僕の処理済のティッシュが片付けられていたから、母さんが掃除してくれたみたいで、オス臭さが和らいでいるせいだろうけど。

 制服のまま布団に入って、リカちゃんの残り香を少しでも布団に移そうとしたのもよかったかもしれない。リカちゃんの匂いに包まれて、はかどってしまった。リカちゃんが知ったら、幻滅するかもしれないけど、男子の日常と思って許してほしい。

 それにしても僕は思う。世界中の人全員がリア充になれば、きっとイジメはなくなる。戦争だって無くなる。だって、生きてるだけで楽しいんだ。他人を傷つける時間があるぐらいなら、自分が幸せになることに時間を使うよ。

 あはは。ノーベル平和賞を狙っちゃうよ。

 世界平和を夢見ながら、バス停まで傘を並べて歩いて行く。リカちゃんがそっと手を出してきたので、恋人つなぎで手をつないだ。えーと、手を繋いだら付き合ってもOKだよね?

 バスに乗り込むと、雨のせいか少し混んでいた。僕が手すりにつかまって、リカちゃんは僕に向き合う形で密着してきた。

「ごめんね、窮屈でしょ?」

 体を押し付けたまま、上目遣いでリカちゃんが謝ってくる。オッパイを押し当てながら。

「だ、大丈夫だよ。僕だって、男なんだから少しは力があるよ」

 強がりじゃなく、リカちゃんはオッパイを押し付けてくるぐらいの体重のかけ方なので、支えるのは問題ない。むしろ、股間の男力が強すぎるから、ちょっと腰が引けてしまう。

「シュウくんも男の子だもんね」

 僕の胸の中で微笑むリカちゃんは眩暈がするほどエロかわいい。

 リカちゃん密着され、彼女のにおいが僕に染み込んでいく感じがする。甘い匂いで頭が痺れるような、理性が溶かされ、股間が元気になっていく匂いだ。

 僕の中で眠っていた男気が勘違いして目を覚ましてしまうような、今なら、リカちゃんのお気に入りの小説の主人公のようにふるまえるかもしれない。

 彼女のぬくもりが僕の体を熱くさせていく。どんどん、どんどん、彼女の熱を吸い込んで、腰のあたりが痺れるようになりながら快感がたまっていく。なのに、射精する気配もなく、頭の中がかき乱されるようだ。

「ねえ、大丈夫?」

 リカちゃんの声だけがはっきりと聞こえる。それ以外の音は聞こえない。甘えるような骨抜きになるような声に僕の顔は蕩けそうだ。

 もう、我慢できずに抱きしめたくなる。ここで抱きしめて痴漢扱いされても、一生の悔いを残さないで天に拳を突き上げて死ねる。

 リカちゃんを決意して抱きしめようとしたとき。

「朝からいちゃついてんじゃねーよ」

 ごつい中年サラリーマンの男が睨みながら文句を言ってきた。

「別にいちゃついていません」

 不思議なことに、僕は怖気づかずにサラリーマンを睨み返していた。当然、リカちゃんを守るように抱きしめながら。

 リカちゃんは僕の腕の中で俯いて震えている。きっと、怖いんだ。僕が守らなくっちゃ!

「それがいちゃついてないってんなら、何がいちゃついてんだっていうんだよ!」

 サラリーマンが僕の方に詰め寄ろうとしたので、とっさに僕はリカちゃんと場所を入れ替え、サラリーマンに背を向けて、彼女に覆いかぶさるようにして彼女を守った。暴力はできないけど、盾にはなれる。今こそ、脂肪の鎧の見せ所だ。

 しかし、何の変化もなかったので、恐る恐る振り返ると、そこにサラリーマンの姿はなかった。

「あれ? あの人は?」

「あの怒鳴ってた人? さっきのバス停で降りてったわよ」

 近くにいたすごい美人のOLさんが教えてくれた。僕はほっとして、リカちゃんから覆いかぶさるのをやめた。

「ごめん。怖い思いさせて」

「ううん。私のために頑張ってくれてありがとう」

 お礼を言うリカちゃんの瞳孔がハートに見えた気がしたけど、気のせいだと思う。

 絡まれたおかげで、僕の股間の男力は消費されたみたいで、変態と罵られることなく、バスを降りて学校に行けた。

「俺たちって、付き合いいいっすよね?」

「そう思うであります」

 親友二人はうんざりしていた。

「なんか、ごめん」

「謝罪は幼馴染の友達ちゃんを紹介で頼むっす」

「まだ、諦めてなかったでありますか?」

「ふふふ、俺は不可能を可能と信じる男っす」

「それ、どこの牟田〇中将でありますか?」

「あ、でも、友達が眼鏡からコンタクトにするのを相談されたって」

「なにぃ! それは阻止! 阻止するっすよ!」

 佐藤君がいきなり暴れだして、びっくりした。

「知らなかったでありますか? 佐藤殿は隠れメガネスキーであります」

 眼鏡談議によって会議は延期になり、様子見は現状維持になった。

 ― ― ― ― ―
6/5

「おはよう、シュウくん」

「おはよう、リカちゃん」

 今日は何事もなく賢者の気持ちで挨拶できた。

 限界まで絞り出したからね。ちょっと痛いぐらいだ。

「昨日、シュウくん、格好良かったよ。助けてくれて、ありがとう」

 リカちゃんが腕に手をまわして、オッパイを押し付けてきても、ブラウスの第一ボタンをはずして、胸元を見せてきても、僕は平常心を崩すことはない。まさに鉄壁。

「なんだか、今日のシュウくん、変だよ?」

「そんなことはないよ。いつもの僕だよ」

 疲れた笑いを浮かべた。自家発電の最高記録を更新しただけはある。これ、痩せれるかも。

 バスに乗り込むとすごく空いてた。僕らが乗るバス停は始発に近いから空いていることが多いけど、ここまで空いているのは珍しい。

「今日はすごく空いてるね」

 二人掛けの席に僕が窓側、リカちゃんが通路側に座った。

「だって、今日は土曜日だし」

「え?」

 驚いてスマホを見ると確かに土曜日だった。

「どうして?」

「特進コースは土曜日は自由参加の補講があるの。知らなかった?」

 知らなかった。

「学校じゃなくて予備校の方で勉強したい人は参加しないから、参加してるのは三分の一ぐらいだけど」

 土曜日なんて、金曜日夜更かしして、朝なんて起きないから。

「でも、うれしいな。一人で登校するの、寂しかったんだ」

 リカちゃんが僕の腕に抱きついてくる。柔らかいオッパイの感触がリアルの熱とともに脳を刺激する。

 屋外なら空気が流れるからいいけど、屋内だと、リカちゃんからの香りが濃厚で、あれだけ絞り出したのに、まだ立ち上がるのか、僕のエクスカリバー!

 勇者の剣を見られてはいけないと、僕はカバンで股間をガードした。でも、リカちゃんにそれを阻止された。

「シュウくんも男の子だから仕方ないよ。私も女の子だし」

 ズボンの上からさすられるだけで、自分でするのより何倍も気持ちよくて、体が跳ねる。女の子の手、すげー!

「昨日も窮屈そうにさせて、ごめんね」

 リカちゃんが僕の耳元でささやきながら、ズボンのチャックを下ろしているのがわかる。わかるけど、止められない。外で、それもバスの中で、股間を丸出しにするなんて、変態だけど、変態でいいと本能がクーデターを起こしている。僕の前頭前野はどこかに亡命したみたいだ。

 股間が少し寒くなって、しばらくして、リカちゃんの甘い香りに僕の生臭い匂いが混じる。余計な香りが混じっているのに、もっと良い匂いに変化した気がする。いい匂いは悪臭も含んでいると聞いたことがあるけど、そういうことかもしれない。とにかく、興奮する匂いだ。

「シュウくんのおちんちん……」

 熱っぽい声でリカちゃんがささやく、吐息が荒く、暖かい息が僕にまとわりつく。

 彼女の指が恐る恐る、僕のものをなでる。それだけで果てそうになる。

「まだ、だめぇ」

 彼女が体を密着しながら、甘えるように言うと、僕の息子はその命令を必死で守ろうとする。僕に息子の所有権はないみたいだ。でも、そんなものより、彼女が暮れる快感の方がいい。

「いい子ぉ」

 絶妙な手加減で僕のマグナムは暴発寸前で制御されていく。リカちゃんがこんな経験豊かだっていうのは、正直ショックだけど、僕はそんなに処女厨じゃない。

「おチンポ触るのはじめてだけど、気持ちいい、シュウくん?」

「は、はじめて? うそ、だよね?」

 衝撃の事実にちょっと正気に戻りそうになる。

「本当だよ。私のこと、よく知ってるでしょ? どんな本が好きかとか、どんなファッションするとか。小さい時から、私のこと、よく知っているでしょう? 男子と付き合う感じしたぁ?」

 優しく愛撫をつづけられ、腰が痙攣するのに、射精を寸止めされている。

「しない。してない。だから、こんなにうまいから、びっくりしてた」

 正直に言うと、リカちゃんはうれしそうに微笑んだ。

「うれしい。ふふ、女の子は、誰だって、これぐらいはできるようになるの。本当に好きな人には」

 え? いま、ぼく、告白された? チンポ丸出し状態で寸止めされて、告白された?

「ねえ、私のこと、好き?」

 僕の股間を棒質にとっているのが本能的に分かった。もう、僕はリカちゃんなしでは射精できない体になっている。

「好き! 大好き! すごく好き! リカちゃんのことがすごく大好きでたまりません! だから、お願い!」

 僕が懇願すると、リカちゃんは明るく笑顔になった。妖艶な微笑みもいいけど、こっちの笑顔の方が僕は好き。でも、どっちもリカちゃんだから好き。射精したい。

「私も、シュウくんのことがだぁいすきぃ〜♥」

 ちょっとリカちゃんらしくないほど馬鹿っぽい声で言うと、キスされて、股間をひと撫でされた。

 それで発射した。

 今朝、あれだけ出したのに。赤玉が出るかと思うぐらい出したのに。リカちゃんの手で、オナ禁解禁日の一発目のように噴き出した。

 リカちゃんはそれを手で受け止めて、白濁した粘り気のある液体を蕩けた表情で舐め取っている。

 リカちゃんの赤い舌が僕の白い汚液をおいしそうに、いとおしそうに夢中で舐め取っていく。

 それを見ただけで、僕の股間は次弾装填完了し、クールタイムなしで発射状態だった。

「うれしい。でも、学校に着いたから、休み時間に、ね」

 股間をしまわれ、手を引かれて、バスを降りて、僕は特進コースの校舎に連れていかれた。

「ここで待ってて」

 なぜか、僕は女子トイレの個室の一つに入れられた。

 こんなところを見つかれば、退学になる。でも、もう、僕にはリカちゃん以外のものに価値を感じない。リカちゃんがいるなら、世界を敵に回しても、僕は戦える。あの小説の主人公のように。

 僕は自分の手で息子を慰めようとしたが、息子は反抗期のようで、リカちゃんの言うことしか聞かないと駄々をこねている。ああ、早くリカちゃん、授業終わってきてくれないかな?

 僕の願いが聞き届けられ、授業終了のチャイムが鳴った。

 でも、トイレにやってきたのは、リカちゃん以外の特進コースの女子だった。

「もー、あの先生、教え方下手だよね。受験対策の問題しなきゃ意味ないのに」

「学校だからしょうがないよ。予備校のコマが空いてないからこっち来てるだけだしさ」

「でも、それなら、家でやっててもよくない?」

「確かにねー。まあ、家は家でうるさいのがいるしさ。やってるときにのぞきにくるとか」

「あー、あるある。集中切らせて何がしたいのかってね」

 女子同士がだべりながら、用を済ませていく。僕の股間は破滅へのカウントダウンで興奮状態になっている。僕って、そういう人だったっけ?

「ねー、ここ、使用中のままだけど、誰入ってるの?」

 その言葉に僕の股間は委縮した。外の女子の間にも緊張が走るのを感じる。

「そこは故障して使用禁止らしいですよ。張り紙外れてました」

 リカちゃんの声がした。

「なんだ、そっか。男子が中に隠れてるとか、警戒しちゃった」

「見かけによらず、ビビりだよねー」

「いやいや、びびれよ。男子だぞ、野獣だぞ?」

 女子たちはワイワイ言いながらトイレを出ていった。

 静かになったトイレでホッとしていると、ノックされて、再び緊張する。

「ずっと入っているけど、大丈夫ですか?」

 リカちゃんのくすくすと笑う声に僕はドアを少し開ける。

「リカちゃん、心臓に悪いよ」

「ふふふ。ごめんなさい。つい、楽しくって」

 リカちゃんが狭い個室に入り込むと、便器をまたぐようにして立った。

「びっくりさせてお詫びに、私の処女をあげちゃいます」

 スカートをたくし上げて、お尻を丸出しにして、上半身を給水タンクに寄りかかりながら僕の方を肩越しに振り返った。

「え? いや、それは……」

 さすがに僕もためらった。

「え? 私の処女はいらないんですか?」

 リカちゃんが泣き出しそうな顔になる。

「いや、欲しい。喉からチンポが出るぐらいほしいけど、ここ、トイレだよ? リカちゃんの初めてがトイレって、それはかわいそう過ぎるていうか、なんというか……」

 僕は最初はやっぱり、ちゃんとしたベッドの上とかがいいと思う。

「それなら大丈夫です。私、トイレで処女を奪われるのが夢だったから」

 ……

 僕はおかずはネット派なのに、佐藤君が名作と言って無理やり貸してくれたエロ漫画で、そういう女の子いた。あれ、フィクションじゃなかったのか! 確かに、名作で何度も抜けたのは、ノンフィクションだったからか!

「やっぱり、ドン引きします?」

 また、リカちゃんが悲しい顔をする。彼女にこんな顔を指せてはいけない。佐藤君が言ってたじゃないか。女子の言うことは肯定する。これが王道だって。

「そんなことないよ! 素敵な夢だよ。僕がかなえてあげるよ、リカちゃんの夢を」

「うれしい! 私のこと、精液便器になるぐらい、いっぱい犯して!」

 感激したリカちゃんに抱きつかれて、キスをされ、僕の股間は準備万端になった。自分の一部とはいえ、単純で心配になる。

 リカちゃんは便器の前に立って、便器に上半身を預けた。

 僕がスカートをめくりあげると、バスの中で嗅いだリカちゃんの匂いを濃縮したものがトイレの個室に充満した。脳髄が痺れて、脊髄が熱くなる。股間のものは、痛いほど膨張して犯る気にみなぎっている。

 ふんーっ、ふんーっ……

 自分の荒い鼻息の音がうるさく聞こえる。

 リカちゃんの白いショーツを引き下ろすと、ショーツから透明な糸がリカちゃんの大事なところに伸びる。リカちゃんも準備万端で、秘所は濡れてほぐれているみたい。

 童貞でもネット世界でかき集めた知識と経験があれば、脳内シミュレーションは精度高く完璧だ。

 棒を穴に入れるだけの単純な作業を失敗するわけがない。

「あ、あれ?」

 入らない。腰に付けた棒を穴に突っ込む作業なんて生まれて初めてだ。うまくできるわけがない。

「ん、ここぉ♥」

 顔を便器のふたに押し当てる格好になりながらも、両手で両サイドから秘所を開いて、ターゲットを露出させてくれた。

 濡れたピンク色の粘膜の中に、ひくひくと物欲しそうに蠢く穴が見えた。

「あ、ありがとう」

 再び、棒を握り、穴へと導く。微調整はリカちゃんが感触で腰を動かしてくれたようだ。

 粘膜同士が密着し、熱いぐらいのリカちゃんの体温が流れ込んでくる。

「あふぅんっ♥」

 先っぽが接触しただけで、リカちゃんのお尻が二回ほど痙攣した。

「ああんっ♥ シュウくんのおチンポ、当たっただけで、いかされちゃったぁ」

 痺れるような甘い声で言われて、興奮しない男がいるなら、男に掘られてろ! 僕は犯す! 目の前の女を、リカちゃんを僕のものにする! ホモは帰ってくれ!

 僕はスーバー如意棒をリカちゃんの中に押し込んだ。

「んっあっ!」

 狭い膣内に僕のたくましく成長したものが入り込んだから、それを締め付ける力は脳の神経細胞が焼き切れるぐらいの快感負荷だった。

 音を立てるような締め付けをかき分け、先端が何かにひっかかる。これが、処女膜。リカちゃんの初めての証。僕が最初の男だという証明。

 僕は処女厨ではない。処女厨ではないが、処女がうれしくないわけがない。

 前人未到の地を踏むことは、男の本懐。

 人はなぜ、処女を犯すのか?

 そこにチンポが入るからだ。

「ああっ! んぅっ♥」

 処女膜を突破すると、リカちゃんが背中を反らせて痙攣した。膣がギュッと締まって、愛液が噴き出たので、また、イったのだと思う。

「リカちゃんって、感じやすいんだね?」

 僕は少し意地悪な気分になって言ってみた。

「だ、だいしゅきなぁ、シュウくぅんにぃ、おチンポ入れ、られたりゃぁ。こう、なっちゃうのは、とうぜんなのぉ〜♥」

 あ、ダメだ。これは、ダメだ。

 僕はリカちゃんに覆いかぶさり、顔をこちらに向けさせて、蕩けただらしない美少女顔にキスをした。腰を振り、チンポを乱暴に乱雑に思いのままにリカちゃんの中を犯した。

 テクニックなどないし、リカちゃんを見やる余裕もない。ただ、自分が犯したいように犯す。自分がどれだけリカちゃんが愛おしいか証明して、リカちゃんのオマンコに刻み付けるように。

「あっ、あっ、ああぁ、は、はげしぃっ♥ す、すごいっ、わたし、犯されてるぅ! 大好き♥ シュウくん♥ だいしゅきぃ♥ もっと、もっと、はげしく、おかしてぇ……あ、はぁあああっんっ♥」

 涙を流し、よだれを垂らし、トイレの床にはおしっこ混じりの愛液を垂らして、アイドル以上の美少女が白い丸いお尻を振って、チンポをオマンコにくわえこみ、声優よりもかわいい声で喜びの喘ぎ声をはしたなく上げている。それだけで、僕はもう、興奮から覚めることはない。一生、このまま腰を振り続けることも可能だ。

 お尻に腰を打ち付ける音と、膣中をチンポがかき混ぜる音がトイレに響いて、それをリカちゃんの喘ぎ声が彩る。

 射精するのがもったいない。ずっとハメ続けたい。

 リカちゃんの膣が何度目かの痙攣をすると、さすがに僕の我慢も限界だった。

「うっ、で、でるっ」

 膣外に。

 そう思うぐらいの理性が残っていたのが不思議だったが、それは実行されなかった。リカちゃんが僕のが抜けないように腰を突き出して、お尻をこちらに押し付けてきた。

「う、うあっ!」

 尿道を粘度の高い液体が通過するのを感じる。精子の行進がリカちゃんの子宮めがけて突撃ラッパを吹いている。

 一番槍がリカちゃんの子宮に勢いよくぶち当たると、突撃はその後も続いた。どれだけの精子が突撃したかはわからない。一億? 二億?

 ただ、これだけはわかる。

 中出し、最高ぉーっ!

 僕のチンポで処女を奪い、僕の精子でマーキングする。

 僕は人間として、一ランク上に成長したみたいだ。

 ごめんよ、加藤君、佐藤君。僕は先に成長させてもらったよ。

 快感と優越感に浸って、僕はトイレの床に座り込んだ。

 リカちゃんは緩み切った表情で立ち上がって、股間から垂れる愛液と破瓜の血と僕の精液の混じったものを手で掬い取って、もったいないと、それを口に運ぶ。

「おいしぃ……」

 妖艶にしたが唇を舐めて、少し乱れた髪が妖しく艶っぽい。

「今日、お父さん、お母さん、お姉ちゃんも出かけて、私の家、誰もいないの」

 いつの間にか、片足だけに引っかかっていたショーツを脱いで、僕の胸ポケットに入れてくれた。

「落とし物。ちゃんと届けてね。待ってるから」

 そういって、トイレを出ていったリカちゃんを慌ててズボンを穿いて追いかけたが、追いつけなかった。

 特進コースの教室をのぞいてみたがいなかったし、よく行っている図書室も締まっていた。

 仕方なく、バスに乗って家に帰った。家の鍵を取り出そうとして、ポケットに押し込んだ濡れたショーツに手が触れた。

 ポケットから手を引き抜くと、指先が蜜でかすかに濡れている。

 熟れた果実のような甘ったるく、少し平衡感覚を狂わせるような香りが鼻に吸い込まれ、指先を自然に舐めると、体の芯が熱くなるような、体験したことのない味覚に膝が崩れそうになった。

「僕は馬鹿だった」

 そうだ。オッパイをもんでないし、クンニもしてない。フェラチオもしてもらってない。

「何を満足してるんだ、僕は」

 帰る場所を家から十メートル変更する。

 インターフォンを鳴らして、待っていることもできずに、扉を開ける。扉はあっさり開いた。

「あんっ、おかえりぃ♥ シュウくん、遅かったぁね」

 玄関入ったところの廊下で制服姿のまま、リカちゃんは自分の指で慰めていた。

「落とし物、届けに来た。あがっていいか?」

 ポケットからショーツを取り出して、後ろ手で玄関の鍵を閉めた。

「うん。あがってぇ♥ シュウくんが家に来るの、何年ぶりかなぁ」

 リカちゃんが立ち上がって、僕にしなだれかかってきた。

「小学校以来だから、四年ぶりだよ」

 リカちゃんを抱き寄せてキスして、そのまま、押し倒そうとした。

「私の部屋で、しよ♥」

 軽く拒まれて、僕の股間は暴発寸前だった。これは俺の女だ。そう思い込んでいたのに拒まれたのがショックで、俺の女にするまで犯すと、燃えている。もちろん、僕も同意だ。

 リカちゃんの家は勝手知ったる他人の家。配置が換わっていないなら、リカちゃんの部屋は二階の上がってすぐ。

 僕はリカちゃんをお姫様抱っこして、階段を駆け上がった。運動してないけど、力がみなぎってくる。これが愛の力か!

 ドアを開けて、リカちゃんの部屋に入る。整理整頓されて、寒色系のパステル調の壁紙、絨毯、クッションカバーでさわやかに整えられている。部屋に立ち込める甘酸っぱい匂いがする。リカちゃんの匂いだ。今なら、何の匂いかわかる。

「あん、もう、獣みたいで、素敵だよぉ、シュウくん」

 リカちゃんをベッドに寝かして、上から覆いかぶさった。

「んふぅっ……あぁ……」

 唇を奪いキスをする。舌を入れて、リカちゃんを味わう。彼女の舌が僕の舌に絡みついて、背筋に甘い電流が走る。よだれが垂れて、彼女の顔を汚すけど、それを見て、僕は興奮する。僕の匂いを、味を彼女に染み込ませるんだと。

「あぁ……くふぅ……あ、ふうぅ……」

 狂ったようにむさぼり、のどが渇けば、彼女の唾液をすする。今まで飲んだどんな飲み物よりもおいしい。チョコレートを溶かして飲んでも、こんなに甘くおいしくない。

「そうだ、おっぱい」

 ブラウスのボタンはいつの間にか、外されていた。僕はそれをはだけさせ、下着をあらわにした。

 白い控えめなレースがついている清楚なブラだ。

 女子トイレで処女を奪ってほしいとお尻を突き出した清楚な女にピタリの童貞心をくすぐるブラだ。

 背中に手をまわして、ホックを外す。

 ブラ外しの練習は加藤君と佐藤君と特訓したから大丈夫。練習の成果を今ここに!

 連取通り、ホックを外せて、ブラをずらすと、オッパイとご対面だ。

 結構、大きい。何カップかはわからないけど、標準以上なのは確かだと思う。

 形は釣り鐘型で、美乳の代名詞。乳輪も小さめで、色もピンク。乳首は大豆程度で、陥没もない。

 オッパイソムリエが一級品と評価するだろう、いいオッパイだ。

 両手で鷲掴みにする。

「あんっ♥」

 手の指を押し返してくる張りと弾力。それでいて、指が沈み込む柔らかさ。すべすべとした肌触り。いつまでも揉んでいられる。

「んっ、くっ、ふっ、ああっ、おっぱい、ばっかり、もまないでぇ、切なくなっちゃうぅ」

 肌が赤みを帯びて、じんわりと汗ばむリカちゃんが切なげに哀願してきた。オッパイのトップに君臨する乳首が固く尖っている。

 そこに口を近づけて、息を吹きかけるたびに、細かく、リカちゃんの身体が痙攣する。

「早く、なめてぇ」

 急かされるがままに乳首に吸い付く。その途端、びくっっとリカちゃんの身体が跳ねる。

「いいっ♥ 乳首、かんじりゅ〜」

 美少女のだらしない顔が視界の端に映る。この顔をさせているのが僕かと思うと、自信と力がわいてくる。

 乳首を舐めまわし、もう片方を指でいじくる。

「あっ、あっ、そこっ! そ、それだめぇ。いいおぉ! すごうぃっ、あん、あんっ♥ いっちゃう、また、乳首て、いっちゃう〜♥」

 あの、成績優秀なリカちゃんを馬鹿のように絶頂させている自分が、偉くなったように感じる。いや、本当に偉いかも? 僕の隠れた能力は、女の子を感じさせる能力なんだ。

「ひぁっ! あ、あ、ああぁ……すきぃ、シュウくん、だいしゅきぃ♥」

 僕を抱きしめながら体を痙攣させている。ショーツを吐いていないから、スカートとシーツはリカちゃんの匂いの元でぐちょぐちょになっている。

「スカートも、脱いじゃおう」

 僕は少し苦労しながら、スカートを脱がすことに成功した。

 もう、ベッドの上のリカちゃんは、靴下以外は全裸だ。

 靴下は脱がさない。これが僕のジャスティス。

 僕はリカちゃんの股間に顔をうずめた。

 そして、じっくり観察する。ネットより高画質で立体的だ。

「やぁ、そんあ、じっくり見ないでぇ♥」

 リカちゃんが僕の頭に手を添える。

「はずかしい?」

 僕がしゃべる吐息が当たるのか、リカちゃんの腰が軽く跳ねる。

「恥ずかしいけど、感じちゃうからぁ♥」

 言葉の通り、とろりとした愛液がにじみ出てくる。

「私もシュウくんのなめるのぉ」

 リカちゃんはそういうと、信じられない早業と力で、僕をベッドに寝かしつけて、上にまたがった。

 僕の顔の上には、リカちゃんのお尻があり、リカちゃんの顔の前には僕の股間がある。

 これは、69女性上位版!

「いただきまぁーす♥」

 リカちゃんが僕のズボンをいつの間にかに脱がしていて、おいしそうな声で僕の股間のアメリカンドックを頬張った。

「あふぅ……シュウくんの匂いで、口の中を犯しゃれりゅ」

 くわえながらしゃべって、その振動と舌の動きが腰に快感を流し込む。

 僕も負けずにリカちゃんのオマンコをいじりはじめる。

 愛液に指先を濡らして、小陰唇の端にある小さい突起を指先で撫でる。

「ひゅひゃぁっ! あ、ああっ、そこ、そこ敏感だからぁ♥」

 僕のをくわえることも忘れて、喘ぎ声をあげる。リカちゃんの喘ぎ声をもっと聞きたいから、やめない。

「あっ、だめぇ、ん、んっんんっ♥ はぁん、シュウくん、上手すぎぃ、こんなの、知ったら、もう、シュウくん抜きで、生きていけないからぁ〜♥」

 僕の顔に愛液を吹き出しながら、うれしいことを叫んでくれる。僕は顔の愛液を舐めながら興奮を強めて、リカちゃんのクリトリスをいじめる。

「ああぁっ、い、いぃいぃ……いいのぉっ、それ、それえ、いいっ、いくぅっ♥」

 びくびく震えて、プシッと音を立てて愛液を吹き散らし、リカちゃんの匂いに包まれる。いい加減、鼻が慣れてきそうなのに、この匂いは脳を刺激する。僕の快感神経はオーバーヒート寸前になっている。

「ねえ、そろそろ、中に欲しいんだけど、いい?」

 体を反転させて、リカちゃんが僕の身体に密着してくる。弾力のあるオッパイ、引き締まったお腹、薄い陰毛の生えた股間、すべすべの太もも。リカちゃんの身体で気持ちよくないところはないんじゃないかと真剣に思う。

「しょうがないなぁ。いいよ。だけど、今度は、リカちゃんが上で腰振って」

「もう、シュウくんのエッチ♥」

 顔を赤くしながらも、股間のそそり立つ、僕の最高峰チョモランマを、リカちゃんのマリアナ海溝にゆっくりと腰を下ろして、沈めていく。

 今日の朝に処女を失ったばかりでの、二回目だから、まだ怖さがあるのだろう。

 ゆっくりとゆっくりと腰を下ろしていく。

「えいっ」

 僕はつい悪戯心を止められず、腰を突き上げてしまった。

「んっんん!」

 リカちゃんが天井を仰ぎ見て、僕の方に倒れてくるので、それを受け止めた。

「もぉっ、ばぁかぁぁ〜♥」

 怒っているが、目の瞳孔がハートになっている。感じているのはまるわかりだ。

「ごめん、ごめん」

「もう、ゆるさないんだからぁ」

 リカちゃんは激オコで僕の上に座りなおし、腰をグラインドし始めた。

「おほぉ! こ、これ、すぐ出る!」

「出して、いっぱい出して、私の子宮がシュウくんの精子で伸び切るぐらいいっぱいだしてぇ」

「うぐっ!」

 蠢く膣と、腰のグラインドであっさりと射精したけど、腰のグラインドが止まらない。

「ちょ、まて、待って! いったから、出したから、出てすぐだから!」

「だーめ、待たないのぉ。もう、待たないの」

 射精したばかりのチンポを責められ、腰がざわつく快感と恐怖で発射準備だけは整えてしまう僕の十六センチ砲の性能が憎い。

「おっおおっ、だめ。これ、だめなやつ」

 快感神経が焼き切れているような刺激に全身が痙攣して、スパークが飛ぶ。

「うぎゅっ!」

 間抜けな声で射精してしまった。

 そのあと、僕はリカちゃんがおしっこをおもらしするほどクンニした。お互い様だ。

 そうして、エッチをし続けて、そろそろ日付が変わるころ、リカちゃんの部屋が僕の精液とリカちゃんの愛液の匂いしかしなくなって、やっと、僕たちは落ち着いた。

「ごめんね、シュウくん」

 リカちゃんが僕に謝った。

「何が?」

「シュウくんに秘密にしていたことがあるの」

 僕は首をかしげた。

 リカちゃんはベッドから立ち上がり、ふらっと窓際によると、何か力を抜くような仕草をした。

 淡い紫の靄がリカちゃんを包み、そこにいたのは、頭に小さな角を生やして、透けた小さな蝙蝠の翼を腰につけ、翼と同じく透けた小さな尻尾、そして、レオタードのように柔らかな体毛が体を覆っている、リカちゃんに似た魔物娘だった。

「リカ、ちゃん?」

「うん。私ね、魔物になっちゃったの」

 彼女はその場で一回転してみせた。コスプレじゃないのは、佐藤君によく画像を見せてもらっているからわかる。

「うそ、だよね?」

 僕の声が震えている。

「ううん。本当」

 彼女の声も震えている。

「なんで!」

「魔界の食べ物が手に入って、それを食べてたら……。ママもお姉ちゃんも魔物になって、パパを連れて、魔界に移住するの。もちろん、私も」

「そんな!」

「最後に、シュウくんに本当の気持ちを伝えて、お別れ出来て、嬉しかった……」

 リカちゃんの目から大粒の涙が一粒頬を伝って、床ではじけた。

「だから、ありがとう。さよなら、大好きな、シュウくん」

 リカちゃんが背中を向け、窓から外に出ようとした。

 僕は迷わず、リカちゃんを後ろから抱きしめた。

「行くな! どうしても行くんなら、僕もつれていけ! 僕は、リカちゃんがいれば、何もいらない! 将来だって、未来だって、世界だって、リカちゃん一人に比べたら、ちっぽけで無価値なんだ! だから、僕を連れていけ! 連れて行かなくても、追いかけてやる。地の底だって、天の上だって!」

 僕はリカちゃんを後ろから抱きしめて、もう、折れるほど使った勇者の剣を彼女の鞘に捧げた。

「んっ♥ シュウくん」

「リカちゃん」

「後悔、しないぃ?」

「するもんか!」

「うれしいぃ!」

 肩越しにキスすると、床に光の魔法陣が広がり、僕らは繋がったまま魔界へと旅立った。

 ― ― ― ― ―

 僕はリカちゃんの好きな小説の主人公のようにはなれない。

 だけど、リカちゃんの最愛の人にはなれる。

 たった一人の魔物娘の最愛の人になら、誰だってなれる。

 だって、彼女を愛せばいいだけなのだから。

<了>
21/01/07 18:58更新 / 南文堂

■作者メッセージ
久しぶりの投稿です。
去年は投稿できなかったので、今年は投稿すると元旦の計をさっそく実行。

さて、魔物化は前から書いてみたいジャンルだったので、楽しく書けました。
徐々に変化していくのを上手く表現できていればいいのですが、意外と難しいですね。
ともあれ、よく知る女の子が魔物娘になっていく過程を男の子側から楽しんでもらえれば、幸いです。

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