その3
「ぐぉおおおおおああああああッッ!!」
獣のような雄叫びが喉を飛び出す。痺れ茸の成分を取り込んだ僕の身体からは出るはずのない声だった。
だが、体組織を短時間で作り替えるレベルの魔力を注がれた身体は凄まじい勢いで代謝を行っており、痺れを生んでいたものは一瞬で分解されていた。
熱い、熱い、身体が熱い。
それだけにとどまらず、魔力を生み出す器官とされる心臓は狂ったように激しい膨張、収縮を繰り返し、左胸がはちきれんばかりに張り出している。
苦しい、苦しい、栄養が足りない。
人間ならば耐えられないほどの苦痛や飢餓感で、呆気なくショック死していたことだろう。しかし種から魔力が溢れた一瞬から、僕はもはや人間とは呼べない存在になっていた。
魔王の加護より、魔物の生み出す魔力は誰も傷つけない。だから僕が上げた雄叫びは痛みからではなく、尋常ならざる快楽からであった。
「(なんだこれなんだこれなんだこれはぁぁぁッ!?)」
僕の思考はピンク色の刺激に翻弄されていた。まともになどいられない快楽、気が狂わんばかりの劣情。今までになく張りつめた股間の分身は、しかし果てることなく、快感が臨界点を超えていても射精することはない。
その理由は理解している。僕の中に流れ込んだ魔力が語りかけてくるのだ。
(出せないッッッ!! カレルの、中でなくてはッッッ!! くそぉぉぉあああッッッ!!)
自分の中に異なる意志をもったナニカがいる。それは僕の男の象徴に集まり、急かしてくるのだ。
『カレルを襲え』と。
(フォーリオとやらの差し金かぁ……! 小賢しい真似をッ!!)
脳をかき回すような情欲の濁流を制する術はただ一つ。この興奮を彼女にぶつけること。それしかない。
躊躇いはあった。迷いもあった。
僕はいいのか。僕でいいのか。
しかし状況は逃げることを許さなかった。
自我を保つには自我を捨てるしかない。その矛盾を飲み込まなくては、その先に待つのは終わりのない煉獄だ。
やがて、僕は内なる声に屈服する。
その瞬間、胸の中の何かがくっきりとした輪郭を持った。
先ほどの苦しさが嘘のように消えるも、ただ淫欲だけが、立ち上る陽炎よりもさらに熱い炭火のようにくすぶっていた。
「え、エデルくん……?」
カレルが青ざめた顔で呼びかけてくる。
無理もないだろう、先ほどの僕の様子は傍から見れば、ともすれば死んでしまうと思いかねないほどに酷い有様だった筈だ。
目に涙を溜め、すがるように見つめてくる様は否応無しに庇護欲をそそったが、今の僕には逆効果だった。
「――ッと」
気合いを込め、飛び跳ねるように体を起こす。後ろ手を縛られていてもバランスを崩すことはなかった。ずいぶんと身体が軽い、これも魔力の影響だろうか。
驚きに目を見開くカレルへ、みなぎる情欲をありったけ込めた視線を送る。それだけで、彼女は頬を紅潮させて目を俯かせた。もじりと太股を擦らせたのを見るに、甘い痺れすら感じたのだろう。
ボソボソと詠唱し、手を縛っていた魔力の縄をほどく。あれだけ暴れたにも関わらずカレルを傷つけずに済んだのはこれのおかげだ。
だが、僕を縛るものは消えた。
カレルが身を守る術は失われた。
放たれた獣は、欲望のままに獲物を襲うだろう。
「カレル」
「……!」
「こっちに来るんだ」
獲物に向けて呼びかける。このような愚策が許されるのは人間同士だけだ。しかも圧倒的な力関係がなければ成り立たない。
「急に、なに……?」
「いいから来い」
有無を言わせぬ口調と視線に、カレルはピンと背筋を伸ばす。
「……は、い……♪」
彼女は歓喜に口元を歪ませた。その感情は顔を見ずとも分かってしまった、僕の中にはフォーリオの生み出した魔力が通っているからだ。テレキネスの技法は既に馴染んでいる。
それに何より、この魔力はカレルの為に存在している。ならば、彼女の意を汲むことなどたやすいことだ。
カレルの心情は、行為への期待に満ち満ちていた。
このままいけば、蹂躙されてしまう侵食されてしまう征服されてしまう。あらゆる被虐欲が彼女の意識を塗りつぶしている。それは僕の魔力のせいでもあるが、フォーリオが彼女の為に生み出した魔力は一番に彼女の願望を捉えているのだから、いわゆるマッチポンプってやつだろう。
フォーリオはカレルに、女として男に支配される喜びを見いだしたのだ。
「ん……ふ……♡」
熱っぽい息を吐き、カレルは四つん這いの格好で近づいてくる。まるで捕食者のように。
だが実際の立場はその逆だ。甘い果実に誘われて罠に飛び込まんとしているのはカレルの方、僕はさながら食虫植物だ。
おもむろに手を伸ばし、カレルの頬に重ねる。そのまま首もとにかけて撫でさする動きを、カレルはぶるりと震えて受け入れた。
なんて気持ちの良い愛撫だろう。
あまりの心地よさに目を細めるカレルを満足げに眺めた後、僕は彼女の口に指を押し込んだ。打って変わって激しい動きに驚くカレルだったが、それすらも受け入れた。心地よさとはまた異なる、舌の先から根本まで容赦なくなぶる指に快感を覚え始める。カレルは積極的に舌を絡め、より貪欲に快楽を求めていく。
……あまり彼女の意識を読むのはまずい。どちらの快感なのか、その境界がわからなくなってくる。もしや教団は、この淫らさを戒める為にテレキネスを封じたのかもしれない。
「いい顔だ、カレル」
「んちゅ……ちゅ……ふびゅぢゅ……はぁ……ねぇ……なんで……?」
カレルは夢中で這わせていた舌をふと離し、唾液まみれの口を拭おうともせずに疑問した。
「言いたいことはわかるよ。なんで僕がこんなに落ち着いてるのか、訊きたいんだろう?」
「ん、そう。先生から聞いた話と、大分様子が違うから……」
「テレキネスを使えばいいよ」
「こんなんじゃ無理だってば。……ねぇ、意地悪しないで……」
口ではそういいながら、目が期待に輝いてる。知らない彼女の一面を知ってしまった気分だ。
「……フォーリオは多分、君を試したんだ。どこまでの覚悟を持っていたのかをね」
レイプ紛いの行為に及ばれても、構わない。そう言えるほどの好意を抱いていたのか計ったのだろう。
「それにこの魔力は僕をインキュバスに変えるものじゃない。代謝は半端じゃなかったし今だって悶々してるけれど……それだけだ、決定的じゃない。
よく考えるといい、一度も性交しないでインキュバスになるだなんて、虫の良すぎる話じゃないか? 処女が魔物化するのと訳が違うだろ」
「それは……そうだけど……」
「今の僕はインキュバスに最も近しい人間らしい。いやまあ、それは人間とは呼ばないのかも知れないけど、魔物的には未完成だ。
取り込んだ魔力は、未だ僕の中に留まっている。これが解放された瞬間、僕は生まれ変わるんだろうな」
「解放って……?」
「こういうことさ」
ゆっくりと身を乗り出し、カレルを肩から押し倒した。雄々しく猛るそれを彼女のヘソあたりに押し当ててやれば、皮と肉を隔てた向こうで、女を象徴する器官がズクンと疼くのを感じる。
「あう……」
「僕は今、なけなしの理性で踏ん張っている。何故かわかるかい?」
「あ、当たってる……エデルくんのがッ……当たってるよぉ……」
押しつけてる僕自身にときめいて、カレルは答えるどころではない。構うことか、もはや彼女の願望は僕の願望なのだ。
「君を征服できるからだ、カレル。ずっと憎らしくて負かせたくて勝ちたくて堪らなかった君を、こうして屈服させられるからだよ。念願が叶うって言うのに、ただ本能に身を委ねて済ますなんて勿体ないだろう?」
与えられた魔力はきっかけでしかない。
僕は結局のところ、己の欲望に負けたのだ。
ずっと夢見ていた、カレルを負かすという目標。それは今のように歪んだ形で叶えられようとしていた。分かっていても、止められるものじゃない。
そしてカレルは笑いかける。儚げな顔で、目に涙すら浮かべて。
「……いいよ、それで。負けとか勝ちとか正直よく分からないけど……私はエデルくんが好き。すっごい好き。ずっとずっと前から好き。だから、何度だって言えるの」
カレルは僕の首に腕を回し、顔を近づけた。
「私をさらって。王子様」
「当然さ。君は僕のものだ」
口づける。
粘膜を削り合うようなディープキス。互いの舌をキャンディーに見立てたねっとりとした絡み合いに、カレルの身体がもどかしげに動く。興奮している為か、キスの間も瞼は開け放しであった。お互いの瞳に情欲に狂った自分が映し出される。
下着はいつの間にか脱げていた。勢いに任せて破り捨てたのかも知れない。どうでもいい。
僕はカレルの太腿を押し上げ、カレルはされるがままに身を委ねる。きゅっと指を噛み、期待に目を輝かせていた。
カレルの女陰に亀頭を押しつける。宿りつつあるインキュバスの力のせいか、あるいはカレルが受け入れる準備をしていたためか、手によるガイドもなくゆっくりと、塗れそぼる穴に埋没していった。焼けるような熱さを内々から感じたカレルは深く息を吐き出す。
まずい、魔力の制御がおいつかない。彼女の意識が、僕の中に飛び込んでくる。でも、ここに来て止まることなど不可能だ。
「は……ぁ……!」
「くぅ……」
興奮に目が眩む。
かつてないほどに張りつめた陰茎が頭を焼かんばかりの快感を絶え間なく送り込んでくる上に、無防備に秘所をさらけ出すカレルの姿が堪らない。彼女の中に入ってから今の瞬間まで保っているのは、奇跡だった。
「(頼むぞ……! せめて、最後まで……!)」
達した瞬間、自分は自分でなくなる。断言できた。ならば理性が残る今を堪能しなくてはなるまい。暴発など以ての外。
両手を彼女の太股から膝裏まで移し、覆い被さるような体位に変える。
「ん……んぃう……♪」
カレルの顔が歓喜に歪んだ。直裁に、オスがメスを種付けする姿勢であると感じ取ったのだ。やはり彼女の願いは、ここにあるのだろう。
「(進むしか……ないッ!)」
包み込まれた亀頭をゆっくりと動かし、具合を確かめようとするも、ぞるりとカリに襞が引っかかり衝撃が走る。
これはダメだ、抑えられる気がしない。
溜める余裕も躊躇う余裕もなく、急かされるように腰を思い切り突き出した。
「んあッ!?」
突き破る感触は一瞬で、包み込むように襲いかかってきた快楽の波は僕の何もかもを攫っていく。
「あっ、は、ぁぁああああッッ!!」
「――――!」
笑っている。意識を飛ばすまいと目を瞑り、必死に意識を保っていた僕の耳には、カレルの嬌声が笑っているように聞こえた。
睾丸から管を伝い、何億もの子種たちが我先にと出口を目指して駆けているのがありありと分かるほど、鋭敏になった意識が一瞬を彷徨う。
長い長い射精感、カレルの感触がなければここに居ると認識できないほど、自分自身が曖昧になっているのを感じた。
――いや違う。僕は彼女にいる。彼女も僕にいるんだ。
繋がるとはこういうものかと実感した。己を他人に預けるような、あまりに無防備な行為。しかし気が狂うほどに気持ちいい。読心の魔法が暴走し、互いの快楽が脳裏を行き交っていくせいもあったろう。
だが、"気持ちいい"と思えるのはまさしく刹那のことであった。次から襲ってきた感覚は、そんな余裕を欠片も抱かせない。
「ふ、う、うううううううううう!!」
堪えようと、歯を食いしばった口から漏れ出た息が酷く熱い。
心の臓に行き交う血液に、自前でない外部からの魔力が干渉してくるのを感じる。いや、干渉なんてものじゃない。
これは淘汰だ。
自然界の縮図が、僕の中で繰り広げられている。元の僕が、今の僕に食らいつくされる。欠片の慈悲もない蹂躙に魔の根源を見た。
種を出し切った筈の男根がまるで焼けた鉄杭を打ったように熱く、硬く、膨らんでいくのが分かる。その根本で、パンパンに張り詰めた双球が脈打つほどに種を製造し、性欲の権化とでも呼ぶべき情動が、脳細胞のひとつひとつを上書きしていく。
生まれ変わった内なる魔力は、しかし不思議なことにしっくりと身体に馴染んだ。それはおかしなことではないのかも知れない、今やサキュバスの魔力は濃度の差こそあれ世界に満ちていて、身体を巡るこの魔力もそれと同一なのだから。いま、僕は世界を身を置いたのだ。
(ああ……僕は、人間を辞めてしまった)
悲しみはない。ないが。
ひとたび実感すると、どうしても寂寥感を感じずにはいられなかった。
「え、でるぅ……♪」
そんな僕の心情を知ってか知らずか。カレルは息も絶え絶えに、自分を奪った男を呼んだ。目の焦点は合ってなく、呂律の回らない口からは唾液も垂れながしだ。もはや人に見せられる顔じゃない。学園を代表する女生徒を、みんなの憧れを、こうも汚してしまうとは。
だが、知ったことか。もはや僕は、人でなしなのだから。
「きす、してぇ……♪」
「カレル。君が僕を変えたんだ」
「うん……うん……♪」
「覚悟しろよ。泣き叫んだって、気をやったって構いやしないからな。僕をこんなにした罰だ、枯れ果てるまで犯ってやる」
「うん……いっぱい……お願い……♪」
蕩けた笑顔を中空に向けたカレルだったが、
「っんほぁッ!?」
下腹を抉るように突き出された熱棒に息を詰まらせた。勢いに乗せられて、強制的にまどろみから覚醒に持ってかれる
一度や二度ではない。休むことなく繰り出す、機械的なピストン。
どちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅ
たちまちに汁が溢れ返り、シーツに次々染みだしていく。攪拌された精液が彼女のと混ざりあい泡だった。
「おっおっおっぉおああっあんっあんっあんっんああっあーッ!?」
抽挿が数十回目を越えた時にはカレルは息をするので精いっぱいだ。そんな状態でも、腹から息が押し出てくるのが止まらないらしい。
まるで人形のような扱い。気遣いなど毛ほどもなく、それこそ殺しに掛かるような動き。脳に送る酸素が足りなくなり、カレルの意識は混濁する。
テレキネス、これはいい。
どこまでが限界で、どこまでを求めているのか、彼女の全てが手に取るように分かる。ここから先は僕のワンサイドゲームだ。
カレルは、男本位の乱雑な動きにも適応しようとしてしまう、慣れようとしてしまう。身体を捻り、腰をくねらせて、とびきりキモチイイ場所に導こうと動いてしまう。僕の放った魔の奔流が、彼女をも蝕みつつあるのだ。
いつの間にかカレルの片足を手放していた。自由になった足を使い、彼女は自ら身体を横にして、少しでも楽な体勢を探す。だが、僕はその身じろぎに併せ、逐一動きを変化させた。いくら動こうとも快感を高めるだけだ、逃がしはしない。
僕がギリギリのラインを見極めて攻めてきているのだと、彼女は本能で察していた。まるで実験動物だ、カレルは必死でいるのに、僕は悠々と高みで観察している。
ああ、くそ。たまらない。
「んッ!? そ、こはぁッ!」
腰の動きを大きく変える。ゴリゴリと抉るのではなくヌチヌチと擦り付ける動きだ。それも、彼女の一番キツイところに。
『普通逆じゃない!?』って叫びたそうだな。でも十二分に興奮してるじゃないか。
カレルは、弄ばれる羞恥心に身体の芯からぶるぶる震えていた。ぷつぷつと痒みすら感じるほど膣壁の感覚が鋭敏になっているらしいが、そこだけを避けて擦ってやる。
「だめ、だめ……! それ、おかしくなる……!」
それこそ必死で抗議するカレル。呼吸もままならなかった先ほどに比べて体力的に楽だろうに、精神的な余裕がなくなっている。
「だけど嫌じゃない。だろ?」
「うっくぅううう♡」
円を描くように腰を動かし、色んな角度で中をこね回す。この感覚は一向に飽きる気配がない。まさしくヤミツキという奴だ。
浅ましくも、これでは足りないとばかりに自ら腰を押し付けたのはカレルの方だった。僕が笑う気配を感じ、カレルの頬が熱くなる。
「恥ずかしくなると一層締め付けてくるんだな」
「……知ら、ない」
「正直が一番だ。……腰を上げるぞ」
「あぅ!」
ぐりんと身体を倒し、カレルをベッドにうつ伏せにした。回転の刺激に声が漏れ出る。
僕の両手をカレルの足の付け根に回し、その腰を高々と持ち上げた。
カレルはまたも恥じ入っている。いくらインキュバス化で滾っているとはいえ、初めての交配にしては中々ハードではなかろうかと、聞きかじりの性知識から疑問していた。だが、怖くて抗議の声が出せないらしい。
……出す気もない癖に。
獣じみた体勢のまま、カレルの無防備な尻に腰を容赦なく叩きつける。乱雑に、独りよがりに、僕の衝動を満たすためだけに。
「はっはっあっはぁっはぅっうっうっうっんっんっんっん」
だんだんとカレルの頭は下がり、ついにベッドへ顔を押し付けるまでになるが、ペースは落とさない。シーツに染みたお日様の匂いに、カレルの唾液の匂いが混じっていく。
カレルはいつの間にかシーツを噛んでいた。そうでもしなければ意識が飛びそうになるのだろう。先ほどぐりぐりと刺激されたところが過敏になっていて、一突きされる度にじんじんと快楽が増していくのだ。
(だめ、また、い、いくぅッ)
声を出す暇は与えなかった。
明滅する視界に、カレルは半ば反射的にうずくまり、信じられない強さで腔を締め付けてくる。僕は歯を食いしばって耐えた、快感への耐性がはね上がってるのを感じる。行為の主導権は僕にあるのだ、暴発は絶対にしない自信があった。
ぱくぱくと餌を欲しがる魚のように息を飲み込むカレル。目は開いていても、どこも見てはいなかった。だが、
(なん、でぇッ!? わたし、イッテるのにっ! トンじゃいそうなのにぃいいッ!?)
腰の動きは止めない。カレルを貫く肉の塊を、勢いを弱めるどころかより一層の激しさでもって襲わせる。震える襞は彼女の意思と関係なく吸いつき、貪欲に快楽を貪っている。魔物に堕ちつつある身体の変化に追いつかず、一段階も二段階も上の刺激が彼女の脳をスパークさせる。
始めは尻から脚を逆U字型にしていたのを、段々と広げておにぎり型に変えていった。当然、挿入感は深くなり、また違うベクトルの快感がカレルを覆っていく。またしても限界がやってきて、彼女は首を反らせて中を締め付けた。
(キス、したい、な、)
そのとき、途切れ途切れのカレルの意識が僕を捉えた。
気をやる時は、どうしても不安になる。私が遠くに飛んでいきそうで、存在が曖昧になってしまうのだ。
だからエデルの存在を楔にしたい。ひとつの杭ではまだ足りない、もう一つ、自分を縛り付けるものを、
「んんッ!?」
ぶちゅううううううううう、
カレルの顎を捕まえ、無理矢理に顔を横に向けさせ、そのぽってりした唇に噛みついてやる。容赦なく吸引すれば、彼女の弱りきった舌はいともたやすく僕の口へ取り込まれた。入れ替わりに、カレルの口内に僕の舌を乗り込ませる。
歯の裏を、舌の裏を、口壁の奥の奥まで、自分では届きようのない箇所をこれでもかとほじくり回し、高みにつれていく。
(ずるい、よ。私だって……)
自分が受けている快楽の何分の一でもいいからお返ししてやりたい。尽くす喜びを、与える喜びを、私にも。
その一心だった。
もはや視界を迎えたような朦朧とした状態で、カレルはエデルの後頭部に片手を添えた。逃がさないとでも言うように。
「はむッ、ぢゅるぅるるるうううううっっ!!」
「っ!?」
突然、カレルの口内を犯し続けていた僕の舌が、彼女の唇で挟み押さえつけられた。固定された後には、僕の口から逃げ出した彼女の舌が上面の襞をぞりぞりとなぞってくる。ここは自分のテリトリーだとでも言わんばかりに。舐り、吸い、擦ってくる。
(く、まずい!)
予想外の快感に急速に射精の予感が高まってくるのを感じた。これはいけないと、カレルの腰元に添えていた手をするりと這わせる。下腹、ヘソ、脇を伝って、横合いから乳房をホールドした。力任せに握りしめる。
「いあっ!」
まだ芯が残った、未成熟で若々しい胸。その固い芯をこね回すように揉みほぐす。力が強すぎたのか、カレルは痛みに声を上げた。舌の攻守逆転から逃れた僕はチャンスとばかりにカレルを胸で抱えるようにして、上体を持ち上げる。
「よっと」
「んあっ!」
互いに膝立ちの体勢で、カレルは体重のほとんどを僕に預けていた。押し込まれるのではない、乗りかかる挿入感がある。だが乗りこなす余裕は彼女にはなかった。
ずしんと斜め下から突き上げられるがまま、喉を震わせて艶声を上げる。目の前のうなじにかかった髪をかき分け、僕はカレルの首筋に吸いついた。
「ひゃう♪」
弛緩しつつあるカレルの体を、胸を掴んだ左手と、腰元に回した右腕の2点でしっかり支える。そして3つ目は接合部。いわゆる三点ホールドだ。背後から優しく包み込む感覚に、またしてもカレルの情欲は高ぶっていく。そこを見逃す僕ではない。
曲げた足をバネのようにスプリングさせ、下から容赦なく突き上げる。体勢的に長いストロークはできず、深くに押し付けて突き回す動きになった。
「はあッはあっ、はあんッあっうっんあっ」
背後から腕ごと抱き付かれた状態ではろくに動けず、カレルはされるがままに喘ぐ。先ほどの力みとは打って変わって優しくこねくり回してくる乳房の手も堪らないだろうが、首筋の口食みがじわじわと快感を生んでいくのが信じられないようだ。
(私、開発されてる……)
ぞくぞくと、カレルの背筋が喜悦に震えていた。
「……出すぞ」
応える余裕はないだろうけど。
ひときわ強く挿し込み、彼女の奥で肉棒が跳ね動くのを感じた。
「っ」
びゅくびゅくと、精液を吐きだしつつも、まだも硬く反り返る自分に、エデルはもはや何の感慨も湧かなかった。
目の前の女を征服する。
不純物の一切を取り去った結晶のような本能をただただ研ぎ澄ませ、磨き、さらに純粋なものへと昇華していく。だから、この性行為は自らの精神を高めるものである。
魔に染まりつつあったエデルの思考は、元の貪欲なまでの知識欲とも相まって、性への認識を大きく塗り替えていた。
女を抱くことに哲学的な思想を持つのは実にエデルらしいとも言えるが、元の潔癖なまでの克己心は相方への配慮を欠くことにも繋がっている。
生娘だったにも関わらず数度の絶頂へ叩き込まれたカレルはとっくに体力の限界を迎えそうなものだが、気を失いそうになる前にエデルが加減してくるのでなかなか終われなかった。気分はまるでフルマラソンに挑むランナーだ。エデルは完璧に自分のペースを把握し、より長く行為に溺れるようにしてくる。しかも小休止のように見せて、深い快楽に導くための前準備なのだから質が悪い。休みたくとも身体が疼いてしまい、結局自分から求めてしまう。もはや、堕ちるところまで堕ちてしまった気分。
エデルは膣への刺激を変える度、反射的に痙攣するカレルの感触を分析しながら、やがて行為そのものに没頭しつつあることにも気づかない。
そうして行為に励む2人の耳に、扉のノックが飛び込んできた。
「ミスタ・クラヴィッツ。具合は如何かね?」
獣のような雄叫びが喉を飛び出す。痺れ茸の成分を取り込んだ僕の身体からは出るはずのない声だった。
だが、体組織を短時間で作り替えるレベルの魔力を注がれた身体は凄まじい勢いで代謝を行っており、痺れを生んでいたものは一瞬で分解されていた。
熱い、熱い、身体が熱い。
それだけにとどまらず、魔力を生み出す器官とされる心臓は狂ったように激しい膨張、収縮を繰り返し、左胸がはちきれんばかりに張り出している。
苦しい、苦しい、栄養が足りない。
人間ならば耐えられないほどの苦痛や飢餓感で、呆気なくショック死していたことだろう。しかし種から魔力が溢れた一瞬から、僕はもはや人間とは呼べない存在になっていた。
魔王の加護より、魔物の生み出す魔力は誰も傷つけない。だから僕が上げた雄叫びは痛みからではなく、尋常ならざる快楽からであった。
「(なんだこれなんだこれなんだこれはぁぁぁッ!?)」
僕の思考はピンク色の刺激に翻弄されていた。まともになどいられない快楽、気が狂わんばかりの劣情。今までになく張りつめた股間の分身は、しかし果てることなく、快感が臨界点を超えていても射精することはない。
その理由は理解している。僕の中に流れ込んだ魔力が語りかけてくるのだ。
(出せないッッッ!! カレルの、中でなくてはッッッ!! くそぉぉぉあああッッッ!!)
自分の中に異なる意志をもったナニカがいる。それは僕の男の象徴に集まり、急かしてくるのだ。
『カレルを襲え』と。
(フォーリオとやらの差し金かぁ……! 小賢しい真似をッ!!)
脳をかき回すような情欲の濁流を制する術はただ一つ。この興奮を彼女にぶつけること。それしかない。
躊躇いはあった。迷いもあった。
僕はいいのか。僕でいいのか。
しかし状況は逃げることを許さなかった。
自我を保つには自我を捨てるしかない。その矛盾を飲み込まなくては、その先に待つのは終わりのない煉獄だ。
やがて、僕は内なる声に屈服する。
その瞬間、胸の中の何かがくっきりとした輪郭を持った。
先ほどの苦しさが嘘のように消えるも、ただ淫欲だけが、立ち上る陽炎よりもさらに熱い炭火のようにくすぶっていた。
「え、エデルくん……?」
カレルが青ざめた顔で呼びかけてくる。
無理もないだろう、先ほどの僕の様子は傍から見れば、ともすれば死んでしまうと思いかねないほどに酷い有様だった筈だ。
目に涙を溜め、すがるように見つめてくる様は否応無しに庇護欲をそそったが、今の僕には逆効果だった。
「――ッと」
気合いを込め、飛び跳ねるように体を起こす。後ろ手を縛られていてもバランスを崩すことはなかった。ずいぶんと身体が軽い、これも魔力の影響だろうか。
驚きに目を見開くカレルへ、みなぎる情欲をありったけ込めた視線を送る。それだけで、彼女は頬を紅潮させて目を俯かせた。もじりと太股を擦らせたのを見るに、甘い痺れすら感じたのだろう。
ボソボソと詠唱し、手を縛っていた魔力の縄をほどく。あれだけ暴れたにも関わらずカレルを傷つけずに済んだのはこれのおかげだ。
だが、僕を縛るものは消えた。
カレルが身を守る術は失われた。
放たれた獣は、欲望のままに獲物を襲うだろう。
「カレル」
「……!」
「こっちに来るんだ」
獲物に向けて呼びかける。このような愚策が許されるのは人間同士だけだ。しかも圧倒的な力関係がなければ成り立たない。
「急に、なに……?」
「いいから来い」
有無を言わせぬ口調と視線に、カレルはピンと背筋を伸ばす。
「……は、い……♪」
彼女は歓喜に口元を歪ませた。その感情は顔を見ずとも分かってしまった、僕の中にはフォーリオの生み出した魔力が通っているからだ。テレキネスの技法は既に馴染んでいる。
それに何より、この魔力はカレルの為に存在している。ならば、彼女の意を汲むことなどたやすいことだ。
カレルの心情は、行為への期待に満ち満ちていた。
このままいけば、蹂躙されてしまう侵食されてしまう征服されてしまう。あらゆる被虐欲が彼女の意識を塗りつぶしている。それは僕の魔力のせいでもあるが、フォーリオが彼女の為に生み出した魔力は一番に彼女の願望を捉えているのだから、いわゆるマッチポンプってやつだろう。
フォーリオはカレルに、女として男に支配される喜びを見いだしたのだ。
「ん……ふ……♡」
熱っぽい息を吐き、カレルは四つん這いの格好で近づいてくる。まるで捕食者のように。
だが実際の立場はその逆だ。甘い果実に誘われて罠に飛び込まんとしているのはカレルの方、僕はさながら食虫植物だ。
おもむろに手を伸ばし、カレルの頬に重ねる。そのまま首もとにかけて撫でさする動きを、カレルはぶるりと震えて受け入れた。
なんて気持ちの良い愛撫だろう。
あまりの心地よさに目を細めるカレルを満足げに眺めた後、僕は彼女の口に指を押し込んだ。打って変わって激しい動きに驚くカレルだったが、それすらも受け入れた。心地よさとはまた異なる、舌の先から根本まで容赦なくなぶる指に快感を覚え始める。カレルは積極的に舌を絡め、より貪欲に快楽を求めていく。
……あまり彼女の意識を読むのはまずい。どちらの快感なのか、その境界がわからなくなってくる。もしや教団は、この淫らさを戒める為にテレキネスを封じたのかもしれない。
「いい顔だ、カレル」
「んちゅ……ちゅ……ふびゅぢゅ……はぁ……ねぇ……なんで……?」
カレルは夢中で這わせていた舌をふと離し、唾液まみれの口を拭おうともせずに疑問した。
「言いたいことはわかるよ。なんで僕がこんなに落ち着いてるのか、訊きたいんだろう?」
「ん、そう。先生から聞いた話と、大分様子が違うから……」
「テレキネスを使えばいいよ」
「こんなんじゃ無理だってば。……ねぇ、意地悪しないで……」
口ではそういいながら、目が期待に輝いてる。知らない彼女の一面を知ってしまった気分だ。
「……フォーリオは多分、君を試したんだ。どこまでの覚悟を持っていたのかをね」
レイプ紛いの行為に及ばれても、構わない。そう言えるほどの好意を抱いていたのか計ったのだろう。
「それにこの魔力は僕をインキュバスに変えるものじゃない。代謝は半端じゃなかったし今だって悶々してるけれど……それだけだ、決定的じゃない。
よく考えるといい、一度も性交しないでインキュバスになるだなんて、虫の良すぎる話じゃないか? 処女が魔物化するのと訳が違うだろ」
「それは……そうだけど……」
「今の僕はインキュバスに最も近しい人間らしい。いやまあ、それは人間とは呼ばないのかも知れないけど、魔物的には未完成だ。
取り込んだ魔力は、未だ僕の中に留まっている。これが解放された瞬間、僕は生まれ変わるんだろうな」
「解放って……?」
「こういうことさ」
ゆっくりと身を乗り出し、カレルを肩から押し倒した。雄々しく猛るそれを彼女のヘソあたりに押し当ててやれば、皮と肉を隔てた向こうで、女を象徴する器官がズクンと疼くのを感じる。
「あう……」
「僕は今、なけなしの理性で踏ん張っている。何故かわかるかい?」
「あ、当たってる……エデルくんのがッ……当たってるよぉ……」
押しつけてる僕自身にときめいて、カレルは答えるどころではない。構うことか、もはや彼女の願望は僕の願望なのだ。
「君を征服できるからだ、カレル。ずっと憎らしくて負かせたくて勝ちたくて堪らなかった君を、こうして屈服させられるからだよ。念願が叶うって言うのに、ただ本能に身を委ねて済ますなんて勿体ないだろう?」
与えられた魔力はきっかけでしかない。
僕は結局のところ、己の欲望に負けたのだ。
ずっと夢見ていた、カレルを負かすという目標。それは今のように歪んだ形で叶えられようとしていた。分かっていても、止められるものじゃない。
そしてカレルは笑いかける。儚げな顔で、目に涙すら浮かべて。
「……いいよ、それで。負けとか勝ちとか正直よく分からないけど……私はエデルくんが好き。すっごい好き。ずっとずっと前から好き。だから、何度だって言えるの」
カレルは僕の首に腕を回し、顔を近づけた。
「私をさらって。王子様」
「当然さ。君は僕のものだ」
口づける。
粘膜を削り合うようなディープキス。互いの舌をキャンディーに見立てたねっとりとした絡み合いに、カレルの身体がもどかしげに動く。興奮している為か、キスの間も瞼は開け放しであった。お互いの瞳に情欲に狂った自分が映し出される。
下着はいつの間にか脱げていた。勢いに任せて破り捨てたのかも知れない。どうでもいい。
僕はカレルの太腿を押し上げ、カレルはされるがままに身を委ねる。きゅっと指を噛み、期待に目を輝かせていた。
カレルの女陰に亀頭を押しつける。宿りつつあるインキュバスの力のせいか、あるいはカレルが受け入れる準備をしていたためか、手によるガイドもなくゆっくりと、塗れそぼる穴に埋没していった。焼けるような熱さを内々から感じたカレルは深く息を吐き出す。
まずい、魔力の制御がおいつかない。彼女の意識が、僕の中に飛び込んでくる。でも、ここに来て止まることなど不可能だ。
「は……ぁ……!」
「くぅ……」
興奮に目が眩む。
かつてないほどに張りつめた陰茎が頭を焼かんばかりの快感を絶え間なく送り込んでくる上に、無防備に秘所をさらけ出すカレルの姿が堪らない。彼女の中に入ってから今の瞬間まで保っているのは、奇跡だった。
「(頼むぞ……! せめて、最後まで……!)」
達した瞬間、自分は自分でなくなる。断言できた。ならば理性が残る今を堪能しなくてはなるまい。暴発など以ての外。
両手を彼女の太股から膝裏まで移し、覆い被さるような体位に変える。
「ん……んぃう……♪」
カレルの顔が歓喜に歪んだ。直裁に、オスがメスを種付けする姿勢であると感じ取ったのだ。やはり彼女の願いは、ここにあるのだろう。
「(進むしか……ないッ!)」
包み込まれた亀頭をゆっくりと動かし、具合を確かめようとするも、ぞるりとカリに襞が引っかかり衝撃が走る。
これはダメだ、抑えられる気がしない。
溜める余裕も躊躇う余裕もなく、急かされるように腰を思い切り突き出した。
「んあッ!?」
突き破る感触は一瞬で、包み込むように襲いかかってきた快楽の波は僕の何もかもを攫っていく。
「あっ、は、ぁぁああああッッ!!」
「――――!」
笑っている。意識を飛ばすまいと目を瞑り、必死に意識を保っていた僕の耳には、カレルの嬌声が笑っているように聞こえた。
睾丸から管を伝い、何億もの子種たちが我先にと出口を目指して駆けているのがありありと分かるほど、鋭敏になった意識が一瞬を彷徨う。
長い長い射精感、カレルの感触がなければここに居ると認識できないほど、自分自身が曖昧になっているのを感じた。
――いや違う。僕は彼女にいる。彼女も僕にいるんだ。
繋がるとはこういうものかと実感した。己を他人に預けるような、あまりに無防備な行為。しかし気が狂うほどに気持ちいい。読心の魔法が暴走し、互いの快楽が脳裏を行き交っていくせいもあったろう。
だが、"気持ちいい"と思えるのはまさしく刹那のことであった。次から襲ってきた感覚は、そんな余裕を欠片も抱かせない。
「ふ、う、うううううううううう!!」
堪えようと、歯を食いしばった口から漏れ出た息が酷く熱い。
心の臓に行き交う血液に、自前でない外部からの魔力が干渉してくるのを感じる。いや、干渉なんてものじゃない。
これは淘汰だ。
自然界の縮図が、僕の中で繰り広げられている。元の僕が、今の僕に食らいつくされる。欠片の慈悲もない蹂躙に魔の根源を見た。
種を出し切った筈の男根がまるで焼けた鉄杭を打ったように熱く、硬く、膨らんでいくのが分かる。その根本で、パンパンに張り詰めた双球が脈打つほどに種を製造し、性欲の権化とでも呼ぶべき情動が、脳細胞のひとつひとつを上書きしていく。
生まれ変わった内なる魔力は、しかし不思議なことにしっくりと身体に馴染んだ。それはおかしなことではないのかも知れない、今やサキュバスの魔力は濃度の差こそあれ世界に満ちていて、身体を巡るこの魔力もそれと同一なのだから。いま、僕は世界を身を置いたのだ。
(ああ……僕は、人間を辞めてしまった)
悲しみはない。ないが。
ひとたび実感すると、どうしても寂寥感を感じずにはいられなかった。
「え、でるぅ……♪」
そんな僕の心情を知ってか知らずか。カレルは息も絶え絶えに、自分を奪った男を呼んだ。目の焦点は合ってなく、呂律の回らない口からは唾液も垂れながしだ。もはや人に見せられる顔じゃない。学園を代表する女生徒を、みんなの憧れを、こうも汚してしまうとは。
だが、知ったことか。もはや僕は、人でなしなのだから。
「きす、してぇ……♪」
「カレル。君が僕を変えたんだ」
「うん……うん……♪」
「覚悟しろよ。泣き叫んだって、気をやったって構いやしないからな。僕をこんなにした罰だ、枯れ果てるまで犯ってやる」
「うん……いっぱい……お願い……♪」
蕩けた笑顔を中空に向けたカレルだったが、
「っんほぁッ!?」
下腹を抉るように突き出された熱棒に息を詰まらせた。勢いに乗せられて、強制的にまどろみから覚醒に持ってかれる
一度や二度ではない。休むことなく繰り出す、機械的なピストン。
どちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅどちゅ
たちまちに汁が溢れ返り、シーツに次々染みだしていく。攪拌された精液が彼女のと混ざりあい泡だった。
「おっおっおっぉおああっあんっあんっあんっんああっあーッ!?」
抽挿が数十回目を越えた時にはカレルは息をするので精いっぱいだ。そんな状態でも、腹から息が押し出てくるのが止まらないらしい。
まるで人形のような扱い。気遣いなど毛ほどもなく、それこそ殺しに掛かるような動き。脳に送る酸素が足りなくなり、カレルの意識は混濁する。
テレキネス、これはいい。
どこまでが限界で、どこまでを求めているのか、彼女の全てが手に取るように分かる。ここから先は僕のワンサイドゲームだ。
カレルは、男本位の乱雑な動きにも適応しようとしてしまう、慣れようとしてしまう。身体を捻り、腰をくねらせて、とびきりキモチイイ場所に導こうと動いてしまう。僕の放った魔の奔流が、彼女をも蝕みつつあるのだ。
いつの間にかカレルの片足を手放していた。自由になった足を使い、彼女は自ら身体を横にして、少しでも楽な体勢を探す。だが、僕はその身じろぎに併せ、逐一動きを変化させた。いくら動こうとも快感を高めるだけだ、逃がしはしない。
僕がギリギリのラインを見極めて攻めてきているのだと、彼女は本能で察していた。まるで実験動物だ、カレルは必死でいるのに、僕は悠々と高みで観察している。
ああ、くそ。たまらない。
「んッ!? そ、こはぁッ!」
腰の動きを大きく変える。ゴリゴリと抉るのではなくヌチヌチと擦り付ける動きだ。それも、彼女の一番キツイところに。
『普通逆じゃない!?』って叫びたそうだな。でも十二分に興奮してるじゃないか。
カレルは、弄ばれる羞恥心に身体の芯からぶるぶる震えていた。ぷつぷつと痒みすら感じるほど膣壁の感覚が鋭敏になっているらしいが、そこだけを避けて擦ってやる。
「だめ、だめ……! それ、おかしくなる……!」
それこそ必死で抗議するカレル。呼吸もままならなかった先ほどに比べて体力的に楽だろうに、精神的な余裕がなくなっている。
「だけど嫌じゃない。だろ?」
「うっくぅううう♡」
円を描くように腰を動かし、色んな角度で中をこね回す。この感覚は一向に飽きる気配がない。まさしくヤミツキという奴だ。
浅ましくも、これでは足りないとばかりに自ら腰を押し付けたのはカレルの方だった。僕が笑う気配を感じ、カレルの頬が熱くなる。
「恥ずかしくなると一層締め付けてくるんだな」
「……知ら、ない」
「正直が一番だ。……腰を上げるぞ」
「あぅ!」
ぐりんと身体を倒し、カレルをベッドにうつ伏せにした。回転の刺激に声が漏れ出る。
僕の両手をカレルの足の付け根に回し、その腰を高々と持ち上げた。
カレルはまたも恥じ入っている。いくらインキュバス化で滾っているとはいえ、初めての交配にしては中々ハードではなかろうかと、聞きかじりの性知識から疑問していた。だが、怖くて抗議の声が出せないらしい。
……出す気もない癖に。
獣じみた体勢のまま、カレルの無防備な尻に腰を容赦なく叩きつける。乱雑に、独りよがりに、僕の衝動を満たすためだけに。
「はっはっあっはぁっはぅっうっうっうっんっんっんっん」
だんだんとカレルの頭は下がり、ついにベッドへ顔を押し付けるまでになるが、ペースは落とさない。シーツに染みたお日様の匂いに、カレルの唾液の匂いが混じっていく。
カレルはいつの間にかシーツを噛んでいた。そうでもしなければ意識が飛びそうになるのだろう。先ほどぐりぐりと刺激されたところが過敏になっていて、一突きされる度にじんじんと快楽が増していくのだ。
(だめ、また、い、いくぅッ)
声を出す暇は与えなかった。
明滅する視界に、カレルは半ば反射的にうずくまり、信じられない強さで腔を締め付けてくる。僕は歯を食いしばって耐えた、快感への耐性がはね上がってるのを感じる。行為の主導権は僕にあるのだ、暴発は絶対にしない自信があった。
ぱくぱくと餌を欲しがる魚のように息を飲み込むカレル。目は開いていても、どこも見てはいなかった。だが、
(なん、でぇッ!? わたし、イッテるのにっ! トンじゃいそうなのにぃいいッ!?)
腰の動きは止めない。カレルを貫く肉の塊を、勢いを弱めるどころかより一層の激しさでもって襲わせる。震える襞は彼女の意思と関係なく吸いつき、貪欲に快楽を貪っている。魔物に堕ちつつある身体の変化に追いつかず、一段階も二段階も上の刺激が彼女の脳をスパークさせる。
始めは尻から脚を逆U字型にしていたのを、段々と広げておにぎり型に変えていった。当然、挿入感は深くなり、また違うベクトルの快感がカレルを覆っていく。またしても限界がやってきて、彼女は首を反らせて中を締め付けた。
(キス、したい、な、)
そのとき、途切れ途切れのカレルの意識が僕を捉えた。
気をやる時は、どうしても不安になる。私が遠くに飛んでいきそうで、存在が曖昧になってしまうのだ。
だからエデルの存在を楔にしたい。ひとつの杭ではまだ足りない、もう一つ、自分を縛り付けるものを、
「んんッ!?」
ぶちゅううううううううう、
カレルの顎を捕まえ、無理矢理に顔を横に向けさせ、そのぽってりした唇に噛みついてやる。容赦なく吸引すれば、彼女の弱りきった舌はいともたやすく僕の口へ取り込まれた。入れ替わりに、カレルの口内に僕の舌を乗り込ませる。
歯の裏を、舌の裏を、口壁の奥の奥まで、自分では届きようのない箇所をこれでもかとほじくり回し、高みにつれていく。
(ずるい、よ。私だって……)
自分が受けている快楽の何分の一でもいいからお返ししてやりたい。尽くす喜びを、与える喜びを、私にも。
その一心だった。
もはや視界を迎えたような朦朧とした状態で、カレルはエデルの後頭部に片手を添えた。逃がさないとでも言うように。
「はむッ、ぢゅるぅるるるうううううっっ!!」
「っ!?」
突然、カレルの口内を犯し続けていた僕の舌が、彼女の唇で挟み押さえつけられた。固定された後には、僕の口から逃げ出した彼女の舌が上面の襞をぞりぞりとなぞってくる。ここは自分のテリトリーだとでも言わんばかりに。舐り、吸い、擦ってくる。
(く、まずい!)
予想外の快感に急速に射精の予感が高まってくるのを感じた。これはいけないと、カレルの腰元に添えていた手をするりと這わせる。下腹、ヘソ、脇を伝って、横合いから乳房をホールドした。力任せに握りしめる。
「いあっ!」
まだ芯が残った、未成熟で若々しい胸。その固い芯をこね回すように揉みほぐす。力が強すぎたのか、カレルは痛みに声を上げた。舌の攻守逆転から逃れた僕はチャンスとばかりにカレルを胸で抱えるようにして、上体を持ち上げる。
「よっと」
「んあっ!」
互いに膝立ちの体勢で、カレルは体重のほとんどを僕に預けていた。押し込まれるのではない、乗りかかる挿入感がある。だが乗りこなす余裕は彼女にはなかった。
ずしんと斜め下から突き上げられるがまま、喉を震わせて艶声を上げる。目の前のうなじにかかった髪をかき分け、僕はカレルの首筋に吸いついた。
「ひゃう♪」
弛緩しつつあるカレルの体を、胸を掴んだ左手と、腰元に回した右腕の2点でしっかり支える。そして3つ目は接合部。いわゆる三点ホールドだ。背後から優しく包み込む感覚に、またしてもカレルの情欲は高ぶっていく。そこを見逃す僕ではない。
曲げた足をバネのようにスプリングさせ、下から容赦なく突き上げる。体勢的に長いストロークはできず、深くに押し付けて突き回す動きになった。
「はあッはあっ、はあんッあっうっんあっ」
背後から腕ごと抱き付かれた状態ではろくに動けず、カレルはされるがままに喘ぐ。先ほどの力みとは打って変わって優しくこねくり回してくる乳房の手も堪らないだろうが、首筋の口食みがじわじわと快感を生んでいくのが信じられないようだ。
(私、開発されてる……)
ぞくぞくと、カレルの背筋が喜悦に震えていた。
「……出すぞ」
応える余裕はないだろうけど。
ひときわ強く挿し込み、彼女の奥で肉棒が跳ね動くのを感じた。
「っ」
びゅくびゅくと、精液を吐きだしつつも、まだも硬く反り返る自分に、エデルはもはや何の感慨も湧かなかった。
目の前の女を征服する。
不純物の一切を取り去った結晶のような本能をただただ研ぎ澄ませ、磨き、さらに純粋なものへと昇華していく。だから、この性行為は自らの精神を高めるものである。
魔に染まりつつあったエデルの思考は、元の貪欲なまでの知識欲とも相まって、性への認識を大きく塗り替えていた。
女を抱くことに哲学的な思想を持つのは実にエデルらしいとも言えるが、元の潔癖なまでの克己心は相方への配慮を欠くことにも繋がっている。
生娘だったにも関わらず数度の絶頂へ叩き込まれたカレルはとっくに体力の限界を迎えそうなものだが、気を失いそうになる前にエデルが加減してくるのでなかなか終われなかった。気分はまるでフルマラソンに挑むランナーだ。エデルは完璧に自分のペースを把握し、より長く行為に溺れるようにしてくる。しかも小休止のように見せて、深い快楽に導くための前準備なのだから質が悪い。休みたくとも身体が疼いてしまい、結局自分から求めてしまう。もはや、堕ちるところまで堕ちてしまった気分。
エデルは膣への刺激を変える度、反射的に痙攣するカレルの感触を分析しながら、やがて行為そのものに没頭しつつあることにも気づかない。
そうして行為に励む2人の耳に、扉のノックが飛び込んできた。
「ミスタ・クラヴィッツ。具合は如何かね?」
14/08/02 23:32更新 / カイワレ大根
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