その8
鈴をかき鳴らすようなコオロギの声が響く、夏の住宅街。
駅や商店街と程近いこの場所はその恵まれた立地にも関わらず家賃が手頃な価格帯に収まっており、大学生や独身の社会人に結構な人気を誇っていた。下宿探しに目を光らせるような人間なら誰でも一度は目にするであろう。
北上厚志という青年も、ここに居を構えている。
彼の住所は3F建てアパートの2F角部屋。隣には学生が住んでいるが、夏休みという時期もあってか部屋に人の気配はなかった。
一方で、北上の住む部屋の窓からは明かりが漏れている。
玄関を開けて中に入ると、右側に個室トイレへの扉があった。「バストイレは別」という北上のこだわりだ。
トイレ扉の隣には引き戸があり、そこを潜った先は脱衣所。
そこの床に置かれた洗濯カゴの中には、無造作に脱ぎ捨てられたワイシャツ、タンクトップ、トランクスが収まっている。その上には、畳まれたタンクトップと短パン、そしてピンク色のショーツが置かれていた。
男物の下着と女物の下着が、同じカゴの中で折り重なっている。
脱衣所と風呂場を仕切るのは曇りガラスの引き戸だ。十字に入った格子の隙間から、風呂場の光景がうっすらと滲んで見えていた。
二つの人影が向き合うようにして座っている。
互いの脚を交差させ、付け根を重ね合わせるように。
人影はゆらゆらと揺れ動く。椅子代わりに膝を貸している方に対し、座り込んでいる方の影の動きは激しかった。立ち上がりかけてはまた座るというような、スクワットの要領で上下運動を繰り返す。両手を相手の肩に添え、弓なりにしならせた上半身を支えていた。胸部を大胆に晒した体勢でぐっと腕を伸ばし、相手の頭を迎え入れる。
揺れ弾む2つの膨らみの片方が頂点から押さえ込まれた。その頂点からぎゅうっと引っ張られ、釣鐘状になるまで形を歪まされる。それと連動するようにシルエットはおとがいを反らし、動きを止めた。
がくがくと脚を痙攣させつつも、相手との距離を少しでも詰めるべく膝を引き締め腕を回してしがみつく。引き戸越しに、ちゃぱちゃぱと水の滴る音が聞こえた。
やがて震えが落ち着いてきた頃、再び影は踊り出す。
繰り返し繰り返し。互いの境界を重ね合わせるように。
○
○
○
「あんっ♥ あんっ♥ あんっ♥」
風呂場の中では、水滴の落ちる音と肉のぶつかり合う音と女の嬌声とが、所狭しと反響していた。
まるで楽器のようだと、北上は快楽に染まりつつある頭で考える。尻肉を鷲掴み、マシュマロのような肉枕に頭を埋められるこの楽器は、雄を滾らせる歌声を奏でてくれる。
始めこそ滅茶苦茶だった2人の動きは、少しずつ要領を掴みつつあった。欲望のまま自分本位に動くのではなく、相手の状態を汲みとろうとする努力が実を結びつつある。
男が膣内の抉り方を変えようとすれば女は腰を捻ってそれを補助し、女の動きが鈍ってくれば男は腕を使ってそれを支えた。
特に女の動作は劇的に変化している。男の腰に両足を絡めて抱きついていたかと思えば、次の瞬間には大胆に両足を開けっ広げ、激しい上下運動を繰り出し始めた。羞恥心に頬を染めつつも、男の反応を逐一窺う目つきは真剣そのものだ。
これ? それともこれ? と、男を飽きさせないよう気を張る姿は商売女以上に熱心である。
(やっぱ、人じゃ、ないな)
北上は述懐する。
改めて、人ならざるものと交わっているのだと自覚した。そこには処女でこれだけ乱れているのはあり得ないという思いもある。だがそれ以上に、桁外れに"具合"が良過ぎるのだ。彼女の身体はこの為だけに創られているのではないかと思うほどに。
肉棒からの刺激だけではなくて、乳房や尻など、こちらから一方的に与えている筈の性感さえも跳ね返ってくるようだった。
彼女に触れている舌も手も、先っぽから溶けているんじゃないかというほど気持ちが良い。風呂場ということもあってか、視界を覆わんばかりの水蒸気が、立ち上る湯気なのか蒸発した汗なのか分からなくなってきた。滴り落ちる汗で素肌がぬめり合う感触は例えようがない。不快じゃない気持ち悪さとでも言おうか。
膣内も、ひと突きするごとに具合が良くなっていた。狭く締め付けるだけだった動きは瞬く間に洗練され、こちらの形に会わせるかのようにうねうねと容貌を変えていく。入り口をキツく締めつつも、中程でぷりぷりとした肉ヒダが引っかかるように隆起してくるかと思えば、奥は優しく包み込むように亀頭をねぶる。人のものを経験したことがない俺が言うのもなんだが、これは名器を超越した名器ではなかろうか。
そして何より。ゴム越しでもはっきりと分かるほど、彼女の内側は凄まじく熱い。炉に突き込み、炎で炙られているかのようだ。しかし辛い熱さではない上、皮膚がひりつく感覚でより鋭敏に彼女が感じ取れる。
(これ、マジで、ヤバい、……けどッ!)
意識は保つのがやっとだ。それでも気絶せずにいられるのは、装着していた魔道具のおかげだった。視界が白んでくると電流のような鋭い快感が走り、有無をいわさず覚醒させられる。そしてその間隔は段々と長くなっていた。
つまりこれが、"適応"というヤツなのだろう。
『カオルの魔力を吸い上げてあなたの身体を一気に作り替えるわ。カオルを抱くのにもっとも適した形に』
篠宮さんの説明を思い出す。魔道具からの刺激は、俺の身体を再構成している証だ。カオルの刺激は激しさを増すばかりだが、それを受け止められるだけの器が出来つつあるのを感じる。
(まだだ、もっと、もっとッ!)
覚えたての性欲に振り回される少年のように、北上は貪欲にカオルを味わった。
悪魔がお膳立てした舞台を思うさま愉しむ為に。
そしてカオルは。
(またっ、またくるっ! くるっ、くるっ、くるぅ…………ッ!!)
「――ひぁあああっ!!」
爆発するような快感に、もう何度目かも忘れた絶頂に追いやられる。背筋を目いっぱいに伸ばして喉を反らし、子宮からこみ上げて来る嬌声を真っ直ぐに吐き出した。
達しそうな予兆を感じたらすぐに身構えているのだが、まるで防げない。
オーガズムを受け入れたくないわけではない。むしろ自分から求めていやらしく腰を振っている。だが、交わる内に身体が覚えてしまったのだ。
僅かでも刃向かおうとする方が、より深く"クる"ことに。
我慢して我慢して我慢して。
くるぞくるぞと身構えて。
耐えて見せようと抗って。
それらが一斉に瓦解する瞬間が、あり得ないほどキモチいい。
精一杯に堪らえようとして堪え切れず、彼の剛直にはしたなく絶頂させられる。
そんな恥辱極まる屈服の悦び。
(これ、バカに、バカになる……! 頭、バカになる……♥)
性欲に関してだけは、他の意識よりも堪え性があると自負していた。弱点を攻められた時でも、意識の片隅で冷静にコトを観察する私がいる。いつからかは分からないが、他の意識に呑まれて快感に晒されている時でも、その冷静な私は常に存在していた。
今だってそうだ。彼の寵愛を一身に搾り取ろうと腰を回す私の後ろで、落ち着いて事態を眺める私がいる。これはもう性分なのだと割り切っていた。自分ではどうしようもないものだから。
だがどうだ。その冷静な自分の存在が、この淫らなアクメを教えてくれた。怠惰に呑み込まれようとする意識を優しく導き、『こっちの方がもっと気持ち良くなれる』と諭してくれる。まるで、かつて"僕"を導いてくれた主神様のように。
(あ、れ……わたし、ぼく……?)
この冷静さが僕の役目だと悟ったのは、全ての魔族を襲ったあの大転換が起きた後だ。
魔王のサキュバスによる統治。
それにより、僕たちは生き方の見直しを迫られた。心に空いた孤独感を埋めようと、誰しもが自分だけのパートナーを求めて彷徨うようになる。
あれは、お母様に連れられるまま、世界中を旅していたときのことだった。
不思議の国という場所に迷い込んだ僕たちは、恐ろしい力の魔物に襲われて窮地に陥った。お母様も含めて他の意識も烈火のごとく発情してしまい、あのままでは全員あそこの住人と化してしまったことだろう。それでは彼に出会えなかった。耐え難い未来だ。
それを救ったのは"私"だった。
そう。あの時初めて、私はお母様に誉められたのだ。
あの感謝の言葉は昨日のことのように思い出せる。
『ありがとうルクセリオ。流石は勇者様ね』
「――えっ?」
名前? 名前を、呼ばれた? 誰の?
ばじゅんッ
「んぁぁああアアアアアアっ!?」
泡のように浮かんだ疑問が、肉棒を突き込まれた刺激に呆気なく弾ける。
いつの間にか、彼の片腕が私の身体に巻き付いていた。右手で尻たぶを、左手で脇腹を掴み、抱き込むように逃げ場をなくして腰を突き上げてくる。
次の瞬間には、攻守が逆転していた。
ばじゅぶじゅぼぢゅぼぢゅぼぢゅ
「ん"っん"っい"っ、き"っ、ひ、ィいいいいッ!?」
これまで決して開かなかった扉を、叩き壊されたかのような衝撃だった。
私が彼を求めるのではなく、彼が私を求めてくれる。
それに気づいてしまった途端、冷静だった筈の自分がぺろりと剥がれ落ち、だらしなく涎を垂らした雌トカゲが正体を晒した。これを待っていたと言わんばかりに。
彼女は私に肉薄すると、どろりと身体を蕩かせて心臓にへばり付く。ぐぢゅぐぢゅと、容赦なく意識を掻き回しては同化してきた。
ああ。この感覚は、いつかどこかで感じたことがある。
人格が淘汰された記憶。僕という存在が駆逐され、眠りにつきながら母を間近に感じた一瞬。不安定な意識同士を繋ぎ止めてくれた彼女との出会い。
そうして目が覚めた時には、僕は"僕たち"になっていた。1つの身体に4つの魂という異形に成り果てていた。そうして魔王の代替わりが起こり、"僕"だった記憶は奥底に……。
あの瞬間、僕は私に。
そしてこの瞬間、私は雌に堕ちたのだ。
絶対の伴侶に出会ってしまったが最後、これはもう覆せるものじゃない。我慢できるものじゃない。だってこれが魔物の本懐だから。
彼の肩越しに鏡が見える。そこに映る女は、汗と涙で顔を汚しながらも幸せそうに笑っていた。かつて僕は、生涯を掛けてこの御方をお守りすると誓っていたのに。
でも、もうどうでもいい。
雌は雄に屈服したのだ。
かつての記憶を掘り起こされ、その全てを塗り潰す圧倒的な幸福に晒されて。
心に刻まれたこの感情を忘れ去るなど、最早あり得ない。
(だって、こんなの、こんなの――ってぇっ♥)
内臓を容赦なく抉ってくる彼の剛直に意識が引っ張られる。
カリ首の凹みすらありありと感じられるほど薄い膜。ゴムと思わせる要素はそれだけだ。
何せ、さっきから彼の精は私の膣内に注がれている。精液ではない、それを結晶化させたような、形のない精の塊だ。
彼はもう4回射精している。その絶倫ぶりは期待通りだが、ここまでの勢いは想定外だ。射精している本人も自覚していないだろうし、せいぜい陰茎が痙攣してるくらいに思っていることだろう。だからゴムを替えようという意識が働かない。
だが私には分かっていた。彼の放った精は、溝に注がれた水のように亀頭から竿、根元まで全体へ行き渡り……まとめて弾け飛ぶ。精を純化させた麻薬のような成分を私の中にぶち撒けるのだ。
そうして私の意識を飛ばした一瞬で私の魔力を吸いだし、あまさず取り込んでは精力をますます増大させていく。
既に私は小娘のようにか弱くなり、彼は魔物のように逞しくなっていた。
こんな凶悪な道具がこの世界に存在する筈がない。いわんや、彼の手に渡る筈がない。
(お、かあ、さ、まぁっ! な、にを、し、ひぃっ!!)
ぶぢゅん
「ほおっっぁッ♥」
思考が働かない。
酸素が足りない。
それでも息を吐き出すことは止められなかった。この快感を内側で留めてしまったら、どうなってしまうか分からない。
それは純粋に恐ろしかった。何か、すごく不安だ。
彼の背に手を回し、より近くで密着する。これなら激しいピストンは出来ないだろう。彼も私の意図に気づいたのか、ゆったりとした動きで応えてくれた。既に私たちは、無言でコミュニケーションがとれるだけの経験値を得ていたようだ。
その気遣いに、身体の芯がじんわりと火照る。激しい交わりも良いが、こんな穏やかな繋がりも得難いものだった。
(もう少し、このまま、)
「休んじゃ駄目よ。もっと激しくなさいな」
「うぅぅあっ!?」
「――ッッッ!!」
北上が叫ぶ。
対してカオルは、声のない叫びを上げた。
突然、北上の男根が暴発したのだ。
不意打ちの精発射に、カオルは視界が裏返るほどに意識を飛ばす。脊髄反射で仰け反った背中が、背後の存在に受け止められた。
誰かがいる。
カオルが知覚できたのはそこまでだった。
「ほらほらほら♥ もっと♥ もっと♥ もっとぉ♥」
背後の存在は脇から腕を通すと、お椀を持つようにカオルの乳房に手を添えて、ぎゅっぱぎゅっぱと上下に動かしてきた。だがカオルと北上の身体はほとんど密着している。カオルの豊かな双丘は北上の胸板に半ば埋まっていたのだが、手はそんなことを気にも留めず、ごしごしと上下運動を繰り返した。
北上の胸部をおろし金に見立てて、カオルの乳首が容赦なく摺り下ろされる。興奮で痛いほど張り詰めていた先端は、面積を増した分だけ、より強い摩擦を生みだした。
実に呆気なく、カオルは意識を手放す。
そしてそれは北上も同様だった。
陰茎への不意の刺激に加えて、カオルの膣内は今まででもっとも複雑怪奇なうねりを見舞ってきたのである。コツコツと積み上げていた彼の防壁は紙を破くように決壊した。
北上が、射精すると自覚した一撃。
それはカオルが感じていた計4回の射精のどれよりも、激しく、濃厚で、凶悪なものだった。
亀頭から射出された精は瞬く間にゴムを膨らませ、カオルの最奥まで深く食い込み、その僅かに隆起した先端を女の入り口にくわえ込ませる。そして、内側で暴れ回る子種たちをその一点から解き放った。
カオルの膨大な魔力に北上の精力を上乗せし、散々に奪い溜め込んだモノを還元するように。
女の小部屋は瞬く間に白濁色に蹂躙される。
今日初めての中出しであった。
「――♥」
カオルの目はもう、何も見てはいなかった。
糸の切れた人形のように、背後の悪魔に身を委ねる。
意識を失う最後まで、初めての性交に翻弄されていた彼女は気づくことができなかった。
他の3人の意識が、誰も出てこないことに。
○
○
○
「ごほッ……はっ、はぁっ、はぁああ……」
余りの息苦しさに喉が詰まった。左手をカオルに添えたまま、右手を心臓に当てる。
凄まじい動悸、さながらマラソン直後だ。吐き出す息も酷く熱い。鏡は俺の後ろなので顔は見れないが、手の平まで真っ赤になっているのを見るに、達磨もかくやとばかりに赤くなっていることだろう。
身体の疲労はそれほどでもない。肉体が変わりつつある証拠だ。
だが精神は相当に参っている。ついさっきの射精は、それこそ魂を根元からぶっこ抜かれたような衝撃だった。オナニーとは比べるべくもなく、フェラチオや素股でもまるで敵わない。
これが魔性の快楽。人智の及ばない領域か。
(こんなのがあと3回とか……嘘だろ?)
冗談抜きで死ぬかも知れない。身体ではなく精神が。
この世のものではあり得ない悦楽に晒され、理性が擦り切れてもおかしくなかった。そうなれば廃人まっしぐらであろう。
それも悪くないと考えている自分に最早疑問もなかった。魔の愉悦を浸した棺桶に、もう肩まで浸かっているのだから。
「イイ顔してるわねぇ……♥」
篠宮さんの声は嬉しげだ。気を失ったカオルを後ろから抱きとめていた彼女は、ほのかに上気した顔をこちらに向けた。赤い舌で薄青い唇をチロリと舐め、そのまま口を寄せてくる。
「壊れなかったご褒美あげる♪ 今ならもっとキモチいいから、ね?」
美女がねだるように唇を差し出してくるのを拒める筈も……あった。
「よしてくれ。カオルがいる」
篠宮さんに寄りかかっていたカオルをこちらに抱き寄せる。柔らかな膨らみを胸で受け止めながら、ぐっと腕に力を込めた。
「今朝のは……俺が悪かった。だけどもう思い出したんだ。俺はこの子を裏切れない」
「あら残念」
思いのほかあっさりと引き下がる。余裕の笑みはまるで崩れていないし、予想済みだったのだろう。冗談にしてはちょっと悪趣味だが、悪魔なら普通なのかも知れない。
「それじゃ移動しましょう。すぐ目を覚ますかも知れないから」
「分かった。……ってか、さっきの。心臓に悪いからもうやめてくれ。傍観者のつもりで来てるんだろ?」
いっそ清々しいまでのアヘっぷりだったものの、カオルの顔を見て割と焦った。「イ"く"ゥ"♥」とか言いそうだったし白目剥いてたんですけど。それに、名誉的に言及は避けるけど、潮吹きとは違う生温い液体も出してた気がする。風呂場で良かったとだけ言っておこう。
「ごめんなさいね。ちょっと寂しかったから」
冗談ともとれる微笑を浮かべて、篠宮さんは背を向けてしまう。
そこに掛ける言葉も思いつかず、俺は目を逸らすようにカオルを見た。
(っと、ゴム替えないと……)
少しだけ身体を持ち上げて、入れっぱなしだった息子を外に出す。未だいきり立つ股間に手を伸ばしたところで、妙なことに気がついた。
「あれ?」
ゴムの紋様が消えている。不思議だが、それ以上の疑問があった。
(俺、ちゃんと出したよな?)
先端が膨らんでないのだ。射精した感じというか、先端から吐きだした感覚は確かにあるというのに。正直、ゴルフボール並になってるのを期待してた。美少女の隣に使用済みゴムを並べるとか浪漫だし。
冗談はさて置いて、割と洒落にならない事態に頭が冷える。責任は取れるけど社会に顔向けできませんよ? 魔物なことはさておいて、見た目は未成年なんだから。
慌ててゴムを外し、シャワーで中に水を入れる。たちまち水を貯め込みタラコのようになるが、どこからも漏れ出てはこなかった。
カオルのぴっちり閉じた股筋に目を向けるも、愛液以外の液体は見当たらない。流石に、眠る彼女のそこを広げて確かめるつもりはないが……。というか散々広げたのにもう戻ってるのか。
「言ったでしょ? それはただのゴムじゃないって」
いつの間にか振り返っていた篠宮さんが、どこか得意げな声で告げた。
嵌めおったなこの悪魔。ハメたのは俺ですけど。
○
それは今朝の喫茶店でのこと。
「戦いにおける多対一。1人が勝つにはどうすればいいと思う?」
紅茶を淹れたティーカップを手に篠宮さんが尋ねてくる。コーヒーを淹れたマグカップを口に寄せていた俺は、少し考えてから答えた。
「1人ずつ相手にすること」
「はい正解♪ なんだ、意外と知ってるじゃない」
「ゲームでも似たようなことあるからな」
偶然にも日曜。カオルにそういうゲームを遊ばせていた。
1人が複数人に襲われた場合、余程の実力差がない限りまず勝てない。そういう時はとにかく逃げ回るなり狭い道に逃げるなりして、敵とタイマンの状況を作り出すのが常套だ。それだけで勝率はぐっと上がる。
おそらくカオルのことを言ってるのだろうとは思ったが、正直実感が湧かない。
何故って、人格が複数あろうと身体はひとつなのだ。カオルと相対しても複数人を相手取っているというイメージに繋がらなかった。
「その認識が甘いわ。ただの多重人格じゃなくて、あの子たちはキマイラ。精神が変われば肉体まで変わるの。
例えるなら……そうね。
あなたとカオルがマラソン勝負をしたとしましょう。あ、このマラソンてのがセックスって意味なんだけど」
それ言っちゃうのね、とツッコみたい。野暮なので言わないが。
「走り始めてからコースの折り返し地点まで来て、あなたもカオルも結構な体力を消耗してる。良い勝負してるなーと思ってるところで、カオルがコースを外れます。
次の瞬間、カオルの代わりに私が現れて、あなたと走り始めるの。体力はほぼ満タンでね。あ、別に私とあなたはセックスしないけどね?」
それ言うなよ、とツッコみたい。ツッコまないけど。上手いこと言った俺。
「で、その間にカオルは車に乗ってゴールまで先回りしてるわけ。あなたと2周目の勝負をするためにね」
「それはひどい」
勝負は1回じゃないのかよ。マラソンってそう何度もするものじゃないだろ。つまりセックスなわけだけども。これまで味わったカオルの性欲性技を思い出すに、今の俺でも相当キツいだろう。1人を満足させるだけで枯れるんじゃないか?
「つまりそういうこと。精神が入れ替われば精力も入れ替わるのがあの子たちの特性。多少の消耗はあっても、表に出てる子以外は満足できなくて悶々としてるのよ。
あなたはカオルと私を相手にずっとマラソンし続けるってこと。別に私とあなたはセックスしないけどね?」
もうダ○ョウ倶楽部じゃないかなこれ。背中を見せられたら襲っちゃいそう。
だがまあ。この話が真実だとしたら。
カオルという魔物は、4人分の性欲を1人の身体に宿していることになる。それを思うさま入れ替えられるのなら、単純な4倍では済まないだろう。俺如きが童貞ブースト乗っけたくらいで敵うとは思えなかった。
勝てないな、これは。そもそも勝ち負けが何かも良く分かってないけど。
「それじゃあ最初の、タイマン狙おうって話はどうなるんだ?」
カオルの身体が1つという点がメリットにしかなっていない。1体ずつ相手取ろうにも、その状況を作りようがないではないか。
「そこで。今回の秘密兵器が――これ」
ピっと指の間に挟んで見せつけられる。その形状には見覚えがあった。というか、昨日も俺の家で見ている。
篠宮さんが取り出したのはコンドームだった。偶然にも俺が持っているのと同じピンク色だ。
美女×コンドームの黄金式が完成する。
ちょっと咥えてみてもらえませんか? 髪結いゴムみたいな感じで。
「だんだん遠慮がなくなってきたわね……。別にいいけど♥」
にこりと頬笑み、篠宮さんは端っこをはむっと唇で挟んだ。長い黒髪をかき上げ、脇を大胆に見せつける脳殺ポーズのおまけ付き。見下すような目つきが堪らん。
圧倒的感謝。だが股間に伸びてきた足は容赦なく叩き落とした。
「んもう。いけず」
構えを崩さない俺に、篠宮さんは分かってる風に微笑む。お互いに悪ノリが過ぎる気もするが、出会ったばかりなのに気安い感じがするのは何故だろうか。
彼女の性格か、俺の性格か。あるいは……カオルの影響だろうか。『あの子たちの1人は元悪魔で私』という言葉が思い出された。魔法的要素は俺にとって想像の域でしかないが、仮にカオルという人格に『元になった』ものがある場合。それは篠宮さんにとってどういう意味を持つのだろう。
俺の黙考をどう思ったのか、篠宮さんは感情の読めない微笑で、再びコンドームを見せつけてくる。
「これを着けて性交すれば、表の意識を固着させることが出来るわ。晴れて2人の時間の出来上がり。
射精した後は他の意識に切り替わるようにしてるから、あの子たち全員とできる筈よ。でも4つしかないから無駄撃ちは厳禁ね」
「……なるほど。でもこれ、1回しか通用しなくないか?」
さりげに俺が4回マラソンすることになってるのは置いといて。
コンドームというのは1回使ったら取り替えなければならない。他の意識が出てこられないと分かれば、カオルも対策してくる可能性があるのではなかろうか。
「1人が気絶するまで滅茶苦茶に犯しまくって、寝てる間に次を突っ込めばいいじゃない」
「鬼畜じゃねえか……!」
童貞にそこまで要求されても困るんだが。まず気絶するまでやれるかも分からんし、そこから眠姦とかレベル高すぎる。
「冗談よ。あの子たちがそれに対策してくることは絶対にないわ」
「えっ?」
断言する口調に。俺は思わず顔を上げた。
「みんなね。……自分だけを見て欲しいのよ」
篠宮さんは寂しげな顔で言う。
俺は初めて見る表情に息を飲み、何も返すことができなかった。
○
シャワーで身体を洗い流した後。
「魔物を一発で孕ませたら大したものよ」
という篠宮さんのよく分からない説得を受け、俺は行為を続行することに決めた。いずれにせよ、その辺の覚悟も決めてはいるのだし。
カオルをお姫様抱っこで抱え上げて風呂場を出る。篠宮さんが手伝ってくれたので実にスムーズだった。
加えて、時間が惜しいということなのか、魔法を大判振る舞いしてくれる。
まず水拭き。石鹸などはきっちり洗い流したのだが、それで俺もカオルもぐっしょりと濡れていた。そこを篠宮さんが手を叩くと、どこからともなくドライヤーの温風のような風が俺たちを包み込み、たちまちの内に全身がさっぱりした。便利過ぎるな。
次に服。俺は全裸のままで構わなかったのだが、篠宮さんは気になったらしく、どこからともなく服を取り出しては俺とカオルに着せていった。着せるとはいうものの、俺の目には腕の中のカオルの服が、さながらゲームの装備選択画面のように瞬く間に切り替わっていくのしか見えない。着せるというより選ぶというのが正しいだろうか。
やがて篠宮さんがチョイスしたのは、俺には白いガウン。カオルにはピンクのベビードールだった。フリルで縁取った極薄の布をワンピースのように垂らしているが、胸元の下からヘソまでは両脇に割けている。ブラもショーツも付けているものの、透けた布地のせいでエロさが一層増していた。ワンアクセントに、片足にフリルのガーターリングを巻いている。
「あなたのはただの糸だけれど、カオルのはアラクネ糸で編んだ最高級品。勝負下着は用意していたけれど、まさか先にこの子たちに着せるなんてね」
とか言いつつ、ちゃっかり篠宮さんも黒色バージョンかつハイソックス+ガーターベルトまで付けていた。
2人の下着は隠すものじゃない。魅せるためのものだ。ガーターリングを食い込ませて、それぞれ肉つきの良さを強調している。透けた布地の向こうは下着も薄っすらと透けていて、土手や乳頭を縁取るように紐が囲っているのまで見えた。
無論、俺は恥ずかしげもなくガン見である。過去最大級に目を瞠っていたことだろう。
「何か言うことは?」
「とてもエロいです」
「あら。それだけ?」
だって他に言えることがない。証というなら股間をご覧頂ければ幸いです。
なんかもう、約束を守らせるつもりがないんじゃないかという気までしてくる。ようやく童貞からランクアップした俺に対してやることが卑怯すぎではなかろうか。悪魔かよ。
「だぁめ。カオルの中に全部出す約束でしょ?」
俺の目に宿るものに気づいた篠宮さんが、悪戯に成功した子供のように笑う。
「約束を破ったらぁ……私にぴゅっぴゅすることしか頭にないお人形さんになっちゃうの……。そんなの、絶対ダメよねぇ?」
分かって言ってると断言できるくらい素敵な笑顔だった。爛れた未来を垣間見て、俺は思わず目を伏せる。
この女に一生搾られるだけの生活。
想像だにしない快楽が待っていると確信した途端、形容しがたい衝動が内に湧いた。半ば恐怖のような興奮が全身を掻き毟る。生死の間際に生殖欲求が増大するかのような、究極的昂奮。
出し抜けに湧いた怖気を振り払おうと、俺は腕の中の彼女を抱き直した。
俺はカオルを選んだのだ。それを見失うようなことがあってはならない。
「そうよ。そうやって、もっと素敵な魂になって頂戴♥」
悪魔の声はどこまでも俺を絡め取るようだった。
ここに来てようやく、篠宮さんはただ覗きにきたわけではないと気づく。俺を試しながら何かを狙っていると、そんな気がしてならなかった。
ともあれ。
洗面所を後にして居間に戻る。
俺が風呂に入っている間にベッドメイキングまで済ませていたのか、我が家のベッドは見たこともないほどに仕上がっていた。皺ひとつなく明かりを照り返す様は新品かと見紛うほどだ。くたびれていた枕はカバーまで取り替えられており、俺の部屋なのにここだけが別空間のようだった。
その上にカオルを横たえると、何だか眠り姫のような、おとぎ話のワンシーンのような光景が出来上がる。
「……すごいな」
眠る彼女はまさに宝石の如く。
美しいモノを眼前にした人間は溜め息しか出ないというのがよく分かった。喩えようのない感動とはこういうものだろうか。つい先ほどまでその身体に触れていたのが嘘みたいだ。
その時、カオルの身体に変化が訪れた。
「……ん……」
わずかに身じろぎしたかと思うと、濃藍色だった髪が、頭頂から徐々に塗り替わっていったのである。
その色は亜麻色だった。
「まあぴったり。次はお姫様みたいよ?」
篠宮さんが楽し気に言う。だが俺にそれを聞く余裕はなかった。
そろそろカオルが目覚めると感づいた身体が、独りでに動き始めたのだ。一時でも彼女を手放したことで、肌が温もりに飢えていた。眠ってる間は駄目だろうと自重していた欲望が、そろそろいいんじゃないかと前のめりになっていく。
ベッドに足を掛け、仰向けに眠るカオルに覆い被さる。ガウンは着たままだが帯は解いていた。前開きから飛び出た息子が、彼女のむっちりとした太ももを舐める。
「……」
カオルの頬に手を当てた。温かく、柔らかで、肌に吸い付くようだ。感触を楽しみながら指を滑らせて、彼女の下唇に引っ掛ける。
これまで2度、俺は彼女の風呂上りに出くわしている。3度目にしてようやく、その肌に触れることが出来たのだと考えると、妙に感慨深い。先ほどまでもっと深い行為に励んでいたのに不思議なものだ。
昨日。俺は彼女に命令してファーストキスを捧げさせた。勝手だと言われるかも知れないが、あれはあれで勿体ないことをしたと少し後悔している。今ならもっと上手に彼女を味わえるかも知れない。
カオルの目が、うっすらと開かれた。
間近に迫った俺の顔に動揺するでもなく、蕩けるような笑みを浮かべる。
「キスしたいの……? いいよぉ……」
眠たげな声でも溢れる色香。俺は自身の獣性をくすぐられる思いで、噛みつかんばかりに口を寄せた。
ちゅ
「んぁ……♥」
ちゅっ んちゅっ ちゅぅぅっ
唇を重ねたまま、少しずつ強く吸い付いてみせた。するとカオルも合わせて吸い付いてきて、互いの境界が被さったまま、じゅるじゅると涎が混ざり合う。
んぢぅっ ぢゅぅううっ
恋人同士が交わすような甘いキスから、頬を凹ませるまでの下品なキスへ徐々に変わっていく。脳への酸素が足りなくなってきて段々と視界が白んできた。それすらも心地よくて何となく止まれない。鼻先が擦れ合い吐き出す息が交じり出す。このまま気絶するのも悪くないとさえ思えた。
やがてどちらからともなく離れ、呼吸も絶え絶えに見つめ合った。俺とを繋ぐ唾液の糸が垂れ落ち、カオルの口元を彩る。彼女はそれをぺろりと舐めとり飲み下した。
「えへへ。必死すぎ」
はにかむと、俺の首に手を回してぐいっと抱き寄せる。首筋に顔を押しつけ、これ見よがしに鼻を埋めた。ふーはーと、何度となく深呼吸を繰り返し、匂いフェチを露わにする。止めてくれとは言わないけど、こう何べんもやられると流石に恥ずかしくなってくるな。
「はぁぁ……。この感じ、久しぶりだなぁ」
「ん?」
「私が"私だけ"って感じ。キタガミ、何かしたでしょ?」
「――っ」
返答に困った。カオルは自分の異変に気付いている。
正直に答えるべきだろうか。だが篠宮さんとの約束のこともあるし、彼女の口車に乗った俺は明らかに加害者だ。開き直り気味に明かすのはちょっと躊躇われた。
顔色を変えたのが伝わったのか、カオルはぺしぺしと俺の背中を叩く。
「ちょっとちょっと。勝手しといて凹まないでよ、もう」
「……悪い」
「別に良いって。怒ってないし。みんなも気持ち良さそうに寝てるしさ」
カオルが笑っているのが気配で伝わった。ぽんぽんと、子供をあやすような強さで叩き直してくる。包容力溢れる優しい対応にドキリとした。昨日のカオルの天真爛漫な態度を思い出すにつけ、ギャップで威力倍増してる。
動揺したまま何か言わなくてはと思い、ついカオルの言葉を反芻してしまう。
「あー……寝てるって、分かるもんなんだな」
「あはは。引っ掛かった。もうそこまで知ってるんだねー」
「うおっ!?」
決定的な事を言ってしまった。
慌てて篠宮さんの方を見ると、彼女はやれやれと大げさなジェスチャーで首を振っている。
『勘づかれる分なら何も言わないわ。ずっと騙すなんて無理だし。でも、あなたも案外ちょろいわね』
ぐぅの音も出ない。だが色々と切羽詰まってるというか、腹芸なんてできる余裕はないんだから勘弁して欲しかった。緊張ってのは自覚してほぐれるものじゃないのだ。
カオルはおもむろに肩ひもを掴み、下着を引っ張って見せる。
「そもそもさ。こんなの着せられたら嫌でも分かるよ。隠す気ないでしょこれ」
「……そっすね」
言われてみれば確かに。透け生地の女性用下着とか、独身男が用意する品としてはガチ過ぎてヤバい。エア彼女用か自分用か、どっちに転んでもカンストしてる。何故さっき気づかなかった俺。「エロいですね」とか呑気に感想言ってる場合じゃないだろ。
篠宮さんがニヤニヤしてる気配がするが、もう無視することにした。
「ま。今さらどうこう言う気ないし。むしろ見せつけちゃうもんね」
色々と察した風な顔で、カオルは俺の肩をぐっと押してきた。上体を起こされた俺の視界に、カオルの得意げな顔が入ってくる。
「昨日はいいとこで終わっちゃったからさ。今日こそ、私のしたいことするからね♥」
三日月の形に歪んだ目は、まさしく捕食者のそれだった。
○
○
○
「おー♪」
仰向けに寝そべった男にのしかかったカオルは、天高く屹立する雄の分身を尻の谷間に挟み、弾んだ声を上げた。後ろ手に軽く撫でくり回しながらその全貌を把握する。
怒張の名に相応しく、肉幹に浮き上がった血管は指に引っ掛かるほどだ。触れてみて分かる硬さは鉄塊のごとく。桜色の亀頭に若干初々しさが見えるものの、迫力だけは歴戦のそれである。これから経験を重ねていけば相応の凶悪さを見せつけて来るだろう。
今からこれで貫かれるのかと、カオルはお腹の奥が疼くのを抑え切れない。つい先ほど、気絶するまで犯された竜の意識からは何も伝わってこなかったのだ。"1人だけ"になっている今この瞬間、カオルは寄る辺のない処女と何ら変わりなかった。
不安がないと言えば嘘になるが、それ以上に期待の方が優る。昔から、知らないことに挑む時は愉しくて仕方がなかったのだ。それは魔に堕ちた今も変わっていない。
「すごいねぇ。昨日よりおっきくなってるよ」
「1日でそんな変わらんだろ。成長期じゃないんだから」
「絶対そうだって。ファーストキスを捧げた私が言うんだから間違いないね」
「……そうかい」
ふっと目を逸らした北上にはどこか照れが混じっていた。昨日のことを思い返したのだと気づいたカオルは、にんまりと微笑む。
もっともっと、この男は凄くなる。そう確信した笑みだった。
「ね。誰のフェラが一番良かった?」
「ぶっ!?」
あまりにも直截な言葉に噴き出す北上。計らずも、昨日のアレはカオルの意識が全て出てきていたのだと気づかされてしまった。だがあの時の記憶は初めての快感に塗り潰されていて、どこで誰が出てきたのかまでは思い出せない。
それすらも織り込み済みなのか、カオルはぐっと北上の耳に顔を寄せて囁いた。
「あの時は山羊が最初に飲むことになってたの。それまではキタガミがイキそうになったら交換って決めてたんだ。
始めは私がてっぺんをなめなめしたんだよ? キタガミってばすぐに出しそうになっちゃって、もっとお汁を吸いたかったのにすごく残念だったなぁ。
そしたら蛇が出てきて、喉ちんこまで押し潰すくらいがっぽり咥えちゃったよね。あの子ったらそれで我慢できなくなって、キタガミをおバカにしちゃう毒を出そうとしたの。慌てて竜が抜かなかったら、今日起きられなかったと思うよ。
そのあと竜が頑張ってじゅっぽじゅっぽしてあげたら、キタガミってばすんごい目をしてたよね。あれだけでおマンコきゅんきゅんしちゃって大変だったんだから。
でもその分、喉マンコを乱暴にされちゃって山羊ってば涙流して喜んでたよ。キタガミがたくさん射精してくれた後も、濃ゆい塊を口いっぱいに溜めてもぐもぐしたんだ。涎と混ぜたのを皆で順番にごっくんしてさ。それなのにキタガミはまだ出し足りないって元気なままだから、全部出るまでみんなで仲良くぺろぺろしたの。でも舐めても舐めても味がなくならなくて、ベロがもうキタガミの味を覚えちゃったよ……?」
はぁぁぁ♥
桃色の吐息が北上の耳朶をくすぐり、暴力のような剥き出しの甘言が脳を犯す。
カオルは耳まで赤くした北上になおも言葉を重ねた。股に挟んだ棒にますます血が巡ってくるのを感じる。その熱はカオルにも伝播するようだった。
「やっぱ深いのが好きなのかな。でもするのとされるのは違うよね? 舌使いだと蛇が一番だけど、私は涎いっぱい出せるし結構自信あるんだぁ」
んべぇ、と舌を出すと、たらたらと粘液が零れ出す。カオルはそれを北上の耳の溝に塗り込んでいった。ひたすらに外耳をなぶり、音すらも駆使して雄を追い込んでいく。唾液に塗された耳穴をこれみよがしに啜ってみせた。
「先っぽをぺろぺろしただけなのに早かったよねぇ。今なら、もう少し頑張れるかなぁ?」
「う……くっ……!」
囁く様に。優しく優しく責め立てる。北上が堪えようと唇を噛むのを見て、ますますカオルの中の雌が盛り出した。
「続きしたい? したいよねぇ? でも、だぁめ♥」
思うさま挑発した後、カオルは上体を起こす。透けた布地に包まれた肢体を見せつけるように広げてみせ、北上の腹上でぱっかりと脚を開いた。
「今からパンパンするんだから♥ 上から下から、たっくさんパンパンするんだよぉ♥」
左右に開いた脚の合間に北上の怒張を添える。散々に興奮を煽った結果のそれは湯気をあげんばかりに熱く、ひと回りもふた回りも凶悪さを増したように思えた。
カオルは自分が期待した以上の成長ぶりに目尻が下がる。もう不安など欠片もなかった。
凶悪に育てたそれを片手でなだめながら、カオルはショーツの紐を緩める。溢れだす蜜はもう、男の肌に垂れ落ちるまでになっていた。
「……ちょっと待った」
不意に、北上が制した。
「どうかした? あ、ゴムつけないとなのかな」
「それもあるんだが……お前、処女なのか?」
「へっ?」
思わぬ言葉に目を丸くするカオル。
だが欲望に従順すぎる身体は、自ずから答えを出していた。
「どうかなぁ……♥ 確かめてみればぁ……?」
M字に広げていた脚を崩し、膝立ちで北上の上半身を縦断する。彼の顔まで腰を運んだカオルは、その鼻先まで己の花弁を寄せて見せた。
北上はまじまじと観察する。ふくよかな肉びらは涎を垂らす様に蜜を零しており、内股まで鈍く光を反射させていた。もの欲しそうにわなないているのはさっきと同じだが、ぴっちり閉じた一本筋まで同じというのは違和感しかない。
何故なら、つい先ほどまでそこは、散々に広げられていたからだ。カオル当人も北上も、遠慮などせずに酷使していたにも関わらず、色が薄い桜色に留まっているのは有り得ない。本来であれば赤く充血しているくらいだろう。
美少女の生殖器官を眼前に、疑問と興奮とがないまぜになり硬直する北上。すっかり仕上げられた性欲に身を任せてしまおうかと思考が停止しそうになる。
「ん〜……」
我慢できなかったのはカオルの方だった。北上の息が当たってもじもじと腰をゆすっていたが、やがて手を下へ。
「……中まで見ないと、分かんないでしょ……?」
くぱぁ、と大陰唇が割り開かれた。
染み一つないピンク色の粘膜。包皮に隠れた大きめの陰核。指一本入るかどうかも危うい膣口。それら全てが北上の視覚を捉えて離さない。カオルの身体に光源を遮られている筈なのに、彼の目は不思議なほど鮮明に、その恥部を映しこんでいた。
「どうかな……私って、処女?」
「バカみたいな台詞だな」
「それ、キタガミに言われたくない」
軽口を叩き合い気恥ずかしさを誤魔化す。しかして北上は結論を出した。
「分からん」
「だろうね」
当然の帰結であった。限りなく童貞に近似している北上に、処女膜の有無など分かろう筈もない。その昔リビドーに任せてその手の画像収集をしていた彼の思い出はまるで役に立たなかった。今ここに比較対象があるならまだしも。
『はいはーい。ここにも処女がいますよー』
青肌の痴女は無視するとして。
北上はどうすべきか迷った。風呂場では初めての生殖にがっつく猿の如く暴れてしまい、パートナーへの気遣いが足りてないように思えたのだ。現に最後、カオルが限界を訴えてくるまでそれに気づくことが出来なかった。今また同じような勢いで自分本位な欲望をぶつけるのは躊躇われる。カオルの中に経験が蓄積していないのであれば尚更だ。
そこを考えての質問だったのだが。
「あ、そうだ。キスしてよほら」
そんな意図は伝わる筈もなかった。
くいくいっと挑発的に腰を近づけてくる始末である。
「……いや僕、ファーストキスなんで」
「私のもそうだよ。これからお世話してくれるんだし、挨拶代わりによろしく」
「――根に持ってるか?」
「冗談。だったらやらないっての……っ♥」
歯を見せて笑うカオルの目元が嬉しげに垂れ落ちる。
我が意を得たりとばかりに、北上の口はカオルの雌果にかぶりついていた。舌をすぼめ、膣口の周りをほぐすように舐め回す。
じゅぶ ぢゅべぉ じゅるぅ
「んっ、はぁ♥ ぁんっ♥」
北上の舌が触れた途端、膣口からコプコプと蜜が溢れ出した。中に溜まっていたのが刺激で漏れ出たのかと思った北上はしかし、ひっきりなしに出てくる愛液に慌てて口を離す。涎ばりに呑み込めてしまえるほどだった。冗談みたいに甘酸っぱい。
「漏らしすぎじゃね?」
「……うるさい。そういう体質なんですー」
耳まで真っ赤にして抗議するカオル。
そういえば涎も多い方だと自慢していたなと思い返した北上は、カオルの太股に触れている自分の手が少しばかりベトついているのに気がついた。風呂場ということもあったが、先ほどのカオルの汗はさながら陸上部のようにさらっさらだった。
汗を流しに流した、こなれた汗腺からの汗。
それよりも僅かに粘性のある、今のカオルの汗。
はたと気づく、体臭の明らかな違い。爽やかな柑橘類のような匂いと、僅かに甘たるい花のような匂い。
初めての性交を全霊で味わっていたからこそ北上は確信した。
「……優しく、するからな」
「えっ? ――ぁっ♥」
「この子は別人だ」と。実感のこもった感想だった。
彼女は、カオルであってカオルでない。髪色も性格も、顔だって似ているだけだ。俺がさっき抱いた彼女と今の彼女は違う。
悪魔に教えられて、彼女自身もそれを認めて。髪色が変わったのを間近に見ても、どこか納得できてない自分がいた。全く異なるキャラクターを同じ役者が演じているのを眺めているような。だから気付けなかった。
(くそっくそっ!! こんなの、ありかよ……っ!)
だが今、北上は自らの五感で痛感する。
この子は俺がさっき抱いた女の子じゃない。
それが持つ意味は明白だった。
『気づいちゃったのね。でも本当は気づいてたんでしょう?』
心の底にともったドス黒い情欲の火に、悪魔が薪をくべていく。
『そう。あなたは今夜、別な女の子を順番に犯すのよ』
ベッドのシーツに手をかけた悪魔は誘うように髪を梳かしていた。
『ハジメテの女の子に、他の子で磨いた欲望を突き立てるの』
花のような穏やかな香りが、血のように鮮烈な香りに塗り潰されていく。
『あなたは本当に立派な人。だから彼女は裏切れない。そうよね?』
囁く声。恐怖を固めたような呼気が耳を撫でた。
『じゃあ彼女は? あなたが犯し尽くした彼女は? あなたが犯そうとしている彼女は?』
嘲るように、歪む。
『あなたがどれだけ邪な思いを吐きだそうが、彼女たちは分からない。だって独りだから。知っているのは、私だけ……♥』
覚悟が、歪む。
『この味を覚えて。この子たちを犯すたびに思い出すのよ……』
雌の恥肉から男の口が離れる。瑞々しく濡れそぼった果実を含んだ口内は果汁に溢れていた。
そこに、青い悪魔が紅い舌を差し入れる。男は抵抗することもままならなかった。
断固として動かない男の舌などお構いなしに、悪魔は思うさま蹂躙する。頬を凹ませるまですぼまった口が、じゅるじゅると汁気を吸い上げた。さっき見せつけられたキスをなぞるかのように。
北上に跨っていたカオルは、秘所を弄る初めてな舌の感触に放心していて気付けない。
悪魔はベロリと舌を出し、男の口の中に挿し込んだ。教え込むように、馴染ませるように丹念に唾液を塗していく。
やがて、男の男根がさらに硬く起ち上がる頃。悪徳の味を覚えた証が立った時。
名残りの跡を丁寧に舐め取って、悪魔はゆっくりと離れていった。
『私はいつでもいいからね♥』
その誘いを跳ねのける言葉は奪い取られている。
悪魔の罠が、形を為した瞬間だった。
駅や商店街と程近いこの場所はその恵まれた立地にも関わらず家賃が手頃な価格帯に収まっており、大学生や独身の社会人に結構な人気を誇っていた。下宿探しに目を光らせるような人間なら誰でも一度は目にするであろう。
北上厚志という青年も、ここに居を構えている。
彼の住所は3F建てアパートの2F角部屋。隣には学生が住んでいるが、夏休みという時期もあってか部屋に人の気配はなかった。
一方で、北上の住む部屋の窓からは明かりが漏れている。
玄関を開けて中に入ると、右側に個室トイレへの扉があった。「バストイレは別」という北上のこだわりだ。
トイレ扉の隣には引き戸があり、そこを潜った先は脱衣所。
そこの床に置かれた洗濯カゴの中には、無造作に脱ぎ捨てられたワイシャツ、タンクトップ、トランクスが収まっている。その上には、畳まれたタンクトップと短パン、そしてピンク色のショーツが置かれていた。
男物の下着と女物の下着が、同じカゴの中で折り重なっている。
脱衣所と風呂場を仕切るのは曇りガラスの引き戸だ。十字に入った格子の隙間から、風呂場の光景がうっすらと滲んで見えていた。
二つの人影が向き合うようにして座っている。
互いの脚を交差させ、付け根を重ね合わせるように。
人影はゆらゆらと揺れ動く。椅子代わりに膝を貸している方に対し、座り込んでいる方の影の動きは激しかった。立ち上がりかけてはまた座るというような、スクワットの要領で上下運動を繰り返す。両手を相手の肩に添え、弓なりにしならせた上半身を支えていた。胸部を大胆に晒した体勢でぐっと腕を伸ばし、相手の頭を迎え入れる。
揺れ弾む2つの膨らみの片方が頂点から押さえ込まれた。その頂点からぎゅうっと引っ張られ、釣鐘状になるまで形を歪まされる。それと連動するようにシルエットはおとがいを反らし、動きを止めた。
がくがくと脚を痙攣させつつも、相手との距離を少しでも詰めるべく膝を引き締め腕を回してしがみつく。引き戸越しに、ちゃぱちゃぱと水の滴る音が聞こえた。
やがて震えが落ち着いてきた頃、再び影は踊り出す。
繰り返し繰り返し。互いの境界を重ね合わせるように。
○
○
○
「あんっ♥ あんっ♥ あんっ♥」
風呂場の中では、水滴の落ちる音と肉のぶつかり合う音と女の嬌声とが、所狭しと反響していた。
まるで楽器のようだと、北上は快楽に染まりつつある頭で考える。尻肉を鷲掴み、マシュマロのような肉枕に頭を埋められるこの楽器は、雄を滾らせる歌声を奏でてくれる。
始めこそ滅茶苦茶だった2人の動きは、少しずつ要領を掴みつつあった。欲望のまま自分本位に動くのではなく、相手の状態を汲みとろうとする努力が実を結びつつある。
男が膣内の抉り方を変えようとすれば女は腰を捻ってそれを補助し、女の動きが鈍ってくれば男は腕を使ってそれを支えた。
特に女の動作は劇的に変化している。男の腰に両足を絡めて抱きついていたかと思えば、次の瞬間には大胆に両足を開けっ広げ、激しい上下運動を繰り出し始めた。羞恥心に頬を染めつつも、男の反応を逐一窺う目つきは真剣そのものだ。
これ? それともこれ? と、男を飽きさせないよう気を張る姿は商売女以上に熱心である。
(やっぱ、人じゃ、ないな)
北上は述懐する。
改めて、人ならざるものと交わっているのだと自覚した。そこには処女でこれだけ乱れているのはあり得ないという思いもある。だがそれ以上に、桁外れに"具合"が良過ぎるのだ。彼女の身体はこの為だけに創られているのではないかと思うほどに。
肉棒からの刺激だけではなくて、乳房や尻など、こちらから一方的に与えている筈の性感さえも跳ね返ってくるようだった。
彼女に触れている舌も手も、先っぽから溶けているんじゃないかというほど気持ちが良い。風呂場ということもあってか、視界を覆わんばかりの水蒸気が、立ち上る湯気なのか蒸発した汗なのか分からなくなってきた。滴り落ちる汗で素肌がぬめり合う感触は例えようがない。不快じゃない気持ち悪さとでも言おうか。
膣内も、ひと突きするごとに具合が良くなっていた。狭く締め付けるだけだった動きは瞬く間に洗練され、こちらの形に会わせるかのようにうねうねと容貌を変えていく。入り口をキツく締めつつも、中程でぷりぷりとした肉ヒダが引っかかるように隆起してくるかと思えば、奥は優しく包み込むように亀頭をねぶる。人のものを経験したことがない俺が言うのもなんだが、これは名器を超越した名器ではなかろうか。
そして何より。ゴム越しでもはっきりと分かるほど、彼女の内側は凄まじく熱い。炉に突き込み、炎で炙られているかのようだ。しかし辛い熱さではない上、皮膚がひりつく感覚でより鋭敏に彼女が感じ取れる。
(これ、マジで、ヤバい、……けどッ!)
意識は保つのがやっとだ。それでも気絶せずにいられるのは、装着していた魔道具のおかげだった。視界が白んでくると電流のような鋭い快感が走り、有無をいわさず覚醒させられる。そしてその間隔は段々と長くなっていた。
つまりこれが、"適応"というヤツなのだろう。
『カオルの魔力を吸い上げてあなたの身体を一気に作り替えるわ。カオルを抱くのにもっとも適した形に』
篠宮さんの説明を思い出す。魔道具からの刺激は、俺の身体を再構成している証だ。カオルの刺激は激しさを増すばかりだが、それを受け止められるだけの器が出来つつあるのを感じる。
(まだだ、もっと、もっとッ!)
覚えたての性欲に振り回される少年のように、北上は貪欲にカオルを味わった。
悪魔がお膳立てした舞台を思うさま愉しむ為に。
そしてカオルは。
(またっ、またくるっ! くるっ、くるっ、くるぅ…………ッ!!)
「――ひぁあああっ!!」
爆発するような快感に、もう何度目かも忘れた絶頂に追いやられる。背筋を目いっぱいに伸ばして喉を反らし、子宮からこみ上げて来る嬌声を真っ直ぐに吐き出した。
達しそうな予兆を感じたらすぐに身構えているのだが、まるで防げない。
オーガズムを受け入れたくないわけではない。むしろ自分から求めていやらしく腰を振っている。だが、交わる内に身体が覚えてしまったのだ。
僅かでも刃向かおうとする方が、より深く"クる"ことに。
我慢して我慢して我慢して。
くるぞくるぞと身構えて。
耐えて見せようと抗って。
それらが一斉に瓦解する瞬間が、あり得ないほどキモチいい。
精一杯に堪らえようとして堪え切れず、彼の剛直にはしたなく絶頂させられる。
そんな恥辱極まる屈服の悦び。
(これ、バカに、バカになる……! 頭、バカになる……♥)
性欲に関してだけは、他の意識よりも堪え性があると自負していた。弱点を攻められた時でも、意識の片隅で冷静にコトを観察する私がいる。いつからかは分からないが、他の意識に呑まれて快感に晒されている時でも、その冷静な私は常に存在していた。
今だってそうだ。彼の寵愛を一身に搾り取ろうと腰を回す私の後ろで、落ち着いて事態を眺める私がいる。これはもう性分なのだと割り切っていた。自分ではどうしようもないものだから。
だがどうだ。その冷静な自分の存在が、この淫らなアクメを教えてくれた。怠惰に呑み込まれようとする意識を優しく導き、『こっちの方がもっと気持ち良くなれる』と諭してくれる。まるで、かつて"僕"を導いてくれた主神様のように。
(あ、れ……わたし、ぼく……?)
この冷静さが僕の役目だと悟ったのは、全ての魔族を襲ったあの大転換が起きた後だ。
魔王のサキュバスによる統治。
それにより、僕たちは生き方の見直しを迫られた。心に空いた孤独感を埋めようと、誰しもが自分だけのパートナーを求めて彷徨うようになる。
あれは、お母様に連れられるまま、世界中を旅していたときのことだった。
不思議の国という場所に迷い込んだ僕たちは、恐ろしい力の魔物に襲われて窮地に陥った。お母様も含めて他の意識も烈火のごとく発情してしまい、あのままでは全員あそこの住人と化してしまったことだろう。それでは彼に出会えなかった。耐え難い未来だ。
それを救ったのは"私"だった。
そう。あの時初めて、私はお母様に誉められたのだ。
あの感謝の言葉は昨日のことのように思い出せる。
『ありがとうルクセリオ。流石は勇者様ね』
「――えっ?」
名前? 名前を、呼ばれた? 誰の?
ばじゅんッ
「んぁぁああアアアアアアっ!?」
泡のように浮かんだ疑問が、肉棒を突き込まれた刺激に呆気なく弾ける。
いつの間にか、彼の片腕が私の身体に巻き付いていた。右手で尻たぶを、左手で脇腹を掴み、抱き込むように逃げ場をなくして腰を突き上げてくる。
次の瞬間には、攻守が逆転していた。
ばじゅぶじゅぼぢゅぼぢゅぼぢゅ
「ん"っん"っい"っ、き"っ、ひ、ィいいいいッ!?」
これまで決して開かなかった扉を、叩き壊されたかのような衝撃だった。
私が彼を求めるのではなく、彼が私を求めてくれる。
それに気づいてしまった途端、冷静だった筈の自分がぺろりと剥がれ落ち、だらしなく涎を垂らした雌トカゲが正体を晒した。これを待っていたと言わんばかりに。
彼女は私に肉薄すると、どろりと身体を蕩かせて心臓にへばり付く。ぐぢゅぐぢゅと、容赦なく意識を掻き回しては同化してきた。
ああ。この感覚は、いつかどこかで感じたことがある。
人格が淘汰された記憶。僕という存在が駆逐され、眠りにつきながら母を間近に感じた一瞬。不安定な意識同士を繋ぎ止めてくれた彼女との出会い。
そうして目が覚めた時には、僕は"僕たち"になっていた。1つの身体に4つの魂という異形に成り果てていた。そうして魔王の代替わりが起こり、"僕"だった記憶は奥底に……。
あの瞬間、僕は私に。
そしてこの瞬間、私は雌に堕ちたのだ。
絶対の伴侶に出会ってしまったが最後、これはもう覆せるものじゃない。我慢できるものじゃない。だってこれが魔物の本懐だから。
彼の肩越しに鏡が見える。そこに映る女は、汗と涙で顔を汚しながらも幸せそうに笑っていた。かつて僕は、生涯を掛けてこの御方をお守りすると誓っていたのに。
でも、もうどうでもいい。
雌は雄に屈服したのだ。
かつての記憶を掘り起こされ、その全てを塗り潰す圧倒的な幸福に晒されて。
心に刻まれたこの感情を忘れ去るなど、最早あり得ない。
(だって、こんなの、こんなの――ってぇっ♥)
内臓を容赦なく抉ってくる彼の剛直に意識が引っ張られる。
カリ首の凹みすらありありと感じられるほど薄い膜。ゴムと思わせる要素はそれだけだ。
何せ、さっきから彼の精は私の膣内に注がれている。精液ではない、それを結晶化させたような、形のない精の塊だ。
彼はもう4回射精している。その絶倫ぶりは期待通りだが、ここまでの勢いは想定外だ。射精している本人も自覚していないだろうし、せいぜい陰茎が痙攣してるくらいに思っていることだろう。だからゴムを替えようという意識が働かない。
だが私には分かっていた。彼の放った精は、溝に注がれた水のように亀頭から竿、根元まで全体へ行き渡り……まとめて弾け飛ぶ。精を純化させた麻薬のような成分を私の中にぶち撒けるのだ。
そうして私の意識を飛ばした一瞬で私の魔力を吸いだし、あまさず取り込んでは精力をますます増大させていく。
既に私は小娘のようにか弱くなり、彼は魔物のように逞しくなっていた。
こんな凶悪な道具がこの世界に存在する筈がない。いわんや、彼の手に渡る筈がない。
(お、かあ、さ、まぁっ! な、にを、し、ひぃっ!!)
ぶぢゅん
「ほおっっぁッ♥」
思考が働かない。
酸素が足りない。
それでも息を吐き出すことは止められなかった。この快感を内側で留めてしまったら、どうなってしまうか分からない。
それは純粋に恐ろしかった。何か、すごく不安だ。
彼の背に手を回し、より近くで密着する。これなら激しいピストンは出来ないだろう。彼も私の意図に気づいたのか、ゆったりとした動きで応えてくれた。既に私たちは、無言でコミュニケーションがとれるだけの経験値を得ていたようだ。
その気遣いに、身体の芯がじんわりと火照る。激しい交わりも良いが、こんな穏やかな繋がりも得難いものだった。
(もう少し、このまま、)
「休んじゃ駄目よ。もっと激しくなさいな」
「うぅぅあっ!?」
「――ッッッ!!」
北上が叫ぶ。
対してカオルは、声のない叫びを上げた。
突然、北上の男根が暴発したのだ。
不意打ちの精発射に、カオルは視界が裏返るほどに意識を飛ばす。脊髄反射で仰け反った背中が、背後の存在に受け止められた。
誰かがいる。
カオルが知覚できたのはそこまでだった。
「ほらほらほら♥ もっと♥ もっと♥ もっとぉ♥」
背後の存在は脇から腕を通すと、お椀を持つようにカオルの乳房に手を添えて、ぎゅっぱぎゅっぱと上下に動かしてきた。だがカオルと北上の身体はほとんど密着している。カオルの豊かな双丘は北上の胸板に半ば埋まっていたのだが、手はそんなことを気にも留めず、ごしごしと上下運動を繰り返した。
北上の胸部をおろし金に見立てて、カオルの乳首が容赦なく摺り下ろされる。興奮で痛いほど張り詰めていた先端は、面積を増した分だけ、より強い摩擦を生みだした。
実に呆気なく、カオルは意識を手放す。
そしてそれは北上も同様だった。
陰茎への不意の刺激に加えて、カオルの膣内は今まででもっとも複雑怪奇なうねりを見舞ってきたのである。コツコツと積み上げていた彼の防壁は紙を破くように決壊した。
北上が、射精すると自覚した一撃。
それはカオルが感じていた計4回の射精のどれよりも、激しく、濃厚で、凶悪なものだった。
亀頭から射出された精は瞬く間にゴムを膨らませ、カオルの最奥まで深く食い込み、その僅かに隆起した先端を女の入り口にくわえ込ませる。そして、内側で暴れ回る子種たちをその一点から解き放った。
カオルの膨大な魔力に北上の精力を上乗せし、散々に奪い溜め込んだモノを還元するように。
女の小部屋は瞬く間に白濁色に蹂躙される。
今日初めての中出しであった。
「――♥」
カオルの目はもう、何も見てはいなかった。
糸の切れた人形のように、背後の悪魔に身を委ねる。
意識を失う最後まで、初めての性交に翻弄されていた彼女は気づくことができなかった。
他の3人の意識が、誰も出てこないことに。
○
○
○
「ごほッ……はっ、はぁっ、はぁああ……」
余りの息苦しさに喉が詰まった。左手をカオルに添えたまま、右手を心臓に当てる。
凄まじい動悸、さながらマラソン直後だ。吐き出す息も酷く熱い。鏡は俺の後ろなので顔は見れないが、手の平まで真っ赤になっているのを見るに、達磨もかくやとばかりに赤くなっていることだろう。
身体の疲労はそれほどでもない。肉体が変わりつつある証拠だ。
だが精神は相当に参っている。ついさっきの射精は、それこそ魂を根元からぶっこ抜かれたような衝撃だった。オナニーとは比べるべくもなく、フェラチオや素股でもまるで敵わない。
これが魔性の快楽。人智の及ばない領域か。
(こんなのがあと3回とか……嘘だろ?)
冗談抜きで死ぬかも知れない。身体ではなく精神が。
この世のものではあり得ない悦楽に晒され、理性が擦り切れてもおかしくなかった。そうなれば廃人まっしぐらであろう。
それも悪くないと考えている自分に最早疑問もなかった。魔の愉悦を浸した棺桶に、もう肩まで浸かっているのだから。
「イイ顔してるわねぇ……♥」
篠宮さんの声は嬉しげだ。気を失ったカオルを後ろから抱きとめていた彼女は、ほのかに上気した顔をこちらに向けた。赤い舌で薄青い唇をチロリと舐め、そのまま口を寄せてくる。
「壊れなかったご褒美あげる♪ 今ならもっとキモチいいから、ね?」
美女がねだるように唇を差し出してくるのを拒める筈も……あった。
「よしてくれ。カオルがいる」
篠宮さんに寄りかかっていたカオルをこちらに抱き寄せる。柔らかな膨らみを胸で受け止めながら、ぐっと腕に力を込めた。
「今朝のは……俺が悪かった。だけどもう思い出したんだ。俺はこの子を裏切れない」
「あら残念」
思いのほかあっさりと引き下がる。余裕の笑みはまるで崩れていないし、予想済みだったのだろう。冗談にしてはちょっと悪趣味だが、悪魔なら普通なのかも知れない。
「それじゃ移動しましょう。すぐ目を覚ますかも知れないから」
「分かった。……ってか、さっきの。心臓に悪いからもうやめてくれ。傍観者のつもりで来てるんだろ?」
いっそ清々しいまでのアヘっぷりだったものの、カオルの顔を見て割と焦った。「イ"く"ゥ"♥」とか言いそうだったし白目剥いてたんですけど。それに、名誉的に言及は避けるけど、潮吹きとは違う生温い液体も出してた気がする。風呂場で良かったとだけ言っておこう。
「ごめんなさいね。ちょっと寂しかったから」
冗談ともとれる微笑を浮かべて、篠宮さんは背を向けてしまう。
そこに掛ける言葉も思いつかず、俺は目を逸らすようにカオルを見た。
(っと、ゴム替えないと……)
少しだけ身体を持ち上げて、入れっぱなしだった息子を外に出す。未だいきり立つ股間に手を伸ばしたところで、妙なことに気がついた。
「あれ?」
ゴムの紋様が消えている。不思議だが、それ以上の疑問があった。
(俺、ちゃんと出したよな?)
先端が膨らんでないのだ。射精した感じというか、先端から吐きだした感覚は確かにあるというのに。正直、ゴルフボール並になってるのを期待してた。美少女の隣に使用済みゴムを並べるとか浪漫だし。
冗談はさて置いて、割と洒落にならない事態に頭が冷える。責任は取れるけど社会に顔向けできませんよ? 魔物なことはさておいて、見た目は未成年なんだから。
慌ててゴムを外し、シャワーで中に水を入れる。たちまち水を貯め込みタラコのようになるが、どこからも漏れ出てはこなかった。
カオルのぴっちり閉じた股筋に目を向けるも、愛液以外の液体は見当たらない。流石に、眠る彼女のそこを広げて確かめるつもりはないが……。というか散々広げたのにもう戻ってるのか。
「言ったでしょ? それはただのゴムじゃないって」
いつの間にか振り返っていた篠宮さんが、どこか得意げな声で告げた。
嵌めおったなこの悪魔。ハメたのは俺ですけど。
○
それは今朝の喫茶店でのこと。
「戦いにおける多対一。1人が勝つにはどうすればいいと思う?」
紅茶を淹れたティーカップを手に篠宮さんが尋ねてくる。コーヒーを淹れたマグカップを口に寄せていた俺は、少し考えてから答えた。
「1人ずつ相手にすること」
「はい正解♪ なんだ、意外と知ってるじゃない」
「ゲームでも似たようなことあるからな」
偶然にも日曜。カオルにそういうゲームを遊ばせていた。
1人が複数人に襲われた場合、余程の実力差がない限りまず勝てない。そういう時はとにかく逃げ回るなり狭い道に逃げるなりして、敵とタイマンの状況を作り出すのが常套だ。それだけで勝率はぐっと上がる。
おそらくカオルのことを言ってるのだろうとは思ったが、正直実感が湧かない。
何故って、人格が複数あろうと身体はひとつなのだ。カオルと相対しても複数人を相手取っているというイメージに繋がらなかった。
「その認識が甘いわ。ただの多重人格じゃなくて、あの子たちはキマイラ。精神が変われば肉体まで変わるの。
例えるなら……そうね。
あなたとカオルがマラソン勝負をしたとしましょう。あ、このマラソンてのがセックスって意味なんだけど」
それ言っちゃうのね、とツッコみたい。野暮なので言わないが。
「走り始めてからコースの折り返し地点まで来て、あなたもカオルも結構な体力を消耗してる。良い勝負してるなーと思ってるところで、カオルがコースを外れます。
次の瞬間、カオルの代わりに私が現れて、あなたと走り始めるの。体力はほぼ満タンでね。あ、別に私とあなたはセックスしないけどね?」
それ言うなよ、とツッコみたい。ツッコまないけど。上手いこと言った俺。
「で、その間にカオルは車に乗ってゴールまで先回りしてるわけ。あなたと2周目の勝負をするためにね」
「それはひどい」
勝負は1回じゃないのかよ。マラソンってそう何度もするものじゃないだろ。つまりセックスなわけだけども。これまで味わったカオルの性欲性技を思い出すに、今の俺でも相当キツいだろう。1人を満足させるだけで枯れるんじゃないか?
「つまりそういうこと。精神が入れ替われば精力も入れ替わるのがあの子たちの特性。多少の消耗はあっても、表に出てる子以外は満足できなくて悶々としてるのよ。
あなたはカオルと私を相手にずっとマラソンし続けるってこと。別に私とあなたはセックスしないけどね?」
もうダ○ョウ倶楽部じゃないかなこれ。背中を見せられたら襲っちゃいそう。
だがまあ。この話が真実だとしたら。
カオルという魔物は、4人分の性欲を1人の身体に宿していることになる。それを思うさま入れ替えられるのなら、単純な4倍では済まないだろう。俺如きが童貞ブースト乗っけたくらいで敵うとは思えなかった。
勝てないな、これは。そもそも勝ち負けが何かも良く分かってないけど。
「それじゃあ最初の、タイマン狙おうって話はどうなるんだ?」
カオルの身体が1つという点がメリットにしかなっていない。1体ずつ相手取ろうにも、その状況を作りようがないではないか。
「そこで。今回の秘密兵器が――これ」
ピっと指の間に挟んで見せつけられる。その形状には見覚えがあった。というか、昨日も俺の家で見ている。
篠宮さんが取り出したのはコンドームだった。偶然にも俺が持っているのと同じピンク色だ。
美女×コンドームの黄金式が完成する。
ちょっと咥えてみてもらえませんか? 髪結いゴムみたいな感じで。
「だんだん遠慮がなくなってきたわね……。別にいいけど♥」
にこりと頬笑み、篠宮さんは端っこをはむっと唇で挟んだ。長い黒髪をかき上げ、脇を大胆に見せつける脳殺ポーズのおまけ付き。見下すような目つきが堪らん。
圧倒的感謝。だが股間に伸びてきた足は容赦なく叩き落とした。
「んもう。いけず」
構えを崩さない俺に、篠宮さんは分かってる風に微笑む。お互いに悪ノリが過ぎる気もするが、出会ったばかりなのに気安い感じがするのは何故だろうか。
彼女の性格か、俺の性格か。あるいは……カオルの影響だろうか。『あの子たちの1人は元悪魔で私』という言葉が思い出された。魔法的要素は俺にとって想像の域でしかないが、仮にカオルという人格に『元になった』ものがある場合。それは篠宮さんにとってどういう意味を持つのだろう。
俺の黙考をどう思ったのか、篠宮さんは感情の読めない微笑で、再びコンドームを見せつけてくる。
「これを着けて性交すれば、表の意識を固着させることが出来るわ。晴れて2人の時間の出来上がり。
射精した後は他の意識に切り替わるようにしてるから、あの子たち全員とできる筈よ。でも4つしかないから無駄撃ちは厳禁ね」
「……なるほど。でもこれ、1回しか通用しなくないか?」
さりげに俺が4回マラソンすることになってるのは置いといて。
コンドームというのは1回使ったら取り替えなければならない。他の意識が出てこられないと分かれば、カオルも対策してくる可能性があるのではなかろうか。
「1人が気絶するまで滅茶苦茶に犯しまくって、寝てる間に次を突っ込めばいいじゃない」
「鬼畜じゃねえか……!」
童貞にそこまで要求されても困るんだが。まず気絶するまでやれるかも分からんし、そこから眠姦とかレベル高すぎる。
「冗談よ。あの子たちがそれに対策してくることは絶対にないわ」
「えっ?」
断言する口調に。俺は思わず顔を上げた。
「みんなね。……自分だけを見て欲しいのよ」
篠宮さんは寂しげな顔で言う。
俺は初めて見る表情に息を飲み、何も返すことができなかった。
○
シャワーで身体を洗い流した後。
「魔物を一発で孕ませたら大したものよ」
という篠宮さんのよく分からない説得を受け、俺は行為を続行することに決めた。いずれにせよ、その辺の覚悟も決めてはいるのだし。
カオルをお姫様抱っこで抱え上げて風呂場を出る。篠宮さんが手伝ってくれたので実にスムーズだった。
加えて、時間が惜しいということなのか、魔法を大判振る舞いしてくれる。
まず水拭き。石鹸などはきっちり洗い流したのだが、それで俺もカオルもぐっしょりと濡れていた。そこを篠宮さんが手を叩くと、どこからともなくドライヤーの温風のような風が俺たちを包み込み、たちまちの内に全身がさっぱりした。便利過ぎるな。
次に服。俺は全裸のままで構わなかったのだが、篠宮さんは気になったらしく、どこからともなく服を取り出しては俺とカオルに着せていった。着せるとはいうものの、俺の目には腕の中のカオルの服が、さながらゲームの装備選択画面のように瞬く間に切り替わっていくのしか見えない。着せるというより選ぶというのが正しいだろうか。
やがて篠宮さんがチョイスしたのは、俺には白いガウン。カオルにはピンクのベビードールだった。フリルで縁取った極薄の布をワンピースのように垂らしているが、胸元の下からヘソまでは両脇に割けている。ブラもショーツも付けているものの、透けた布地のせいでエロさが一層増していた。ワンアクセントに、片足にフリルのガーターリングを巻いている。
「あなたのはただの糸だけれど、カオルのはアラクネ糸で編んだ最高級品。勝負下着は用意していたけれど、まさか先にこの子たちに着せるなんてね」
とか言いつつ、ちゃっかり篠宮さんも黒色バージョンかつハイソックス+ガーターベルトまで付けていた。
2人の下着は隠すものじゃない。魅せるためのものだ。ガーターリングを食い込ませて、それぞれ肉つきの良さを強調している。透けた布地の向こうは下着も薄っすらと透けていて、土手や乳頭を縁取るように紐が囲っているのまで見えた。
無論、俺は恥ずかしげもなくガン見である。過去最大級に目を瞠っていたことだろう。
「何か言うことは?」
「とてもエロいです」
「あら。それだけ?」
だって他に言えることがない。証というなら股間をご覧頂ければ幸いです。
なんかもう、約束を守らせるつもりがないんじゃないかという気までしてくる。ようやく童貞からランクアップした俺に対してやることが卑怯すぎではなかろうか。悪魔かよ。
「だぁめ。カオルの中に全部出す約束でしょ?」
俺の目に宿るものに気づいた篠宮さんが、悪戯に成功した子供のように笑う。
「約束を破ったらぁ……私にぴゅっぴゅすることしか頭にないお人形さんになっちゃうの……。そんなの、絶対ダメよねぇ?」
分かって言ってると断言できるくらい素敵な笑顔だった。爛れた未来を垣間見て、俺は思わず目を伏せる。
この女に一生搾られるだけの生活。
想像だにしない快楽が待っていると確信した途端、形容しがたい衝動が内に湧いた。半ば恐怖のような興奮が全身を掻き毟る。生死の間際に生殖欲求が増大するかのような、究極的昂奮。
出し抜けに湧いた怖気を振り払おうと、俺は腕の中の彼女を抱き直した。
俺はカオルを選んだのだ。それを見失うようなことがあってはならない。
「そうよ。そうやって、もっと素敵な魂になって頂戴♥」
悪魔の声はどこまでも俺を絡め取るようだった。
ここに来てようやく、篠宮さんはただ覗きにきたわけではないと気づく。俺を試しながら何かを狙っていると、そんな気がしてならなかった。
ともあれ。
洗面所を後にして居間に戻る。
俺が風呂に入っている間にベッドメイキングまで済ませていたのか、我が家のベッドは見たこともないほどに仕上がっていた。皺ひとつなく明かりを照り返す様は新品かと見紛うほどだ。くたびれていた枕はカバーまで取り替えられており、俺の部屋なのにここだけが別空間のようだった。
その上にカオルを横たえると、何だか眠り姫のような、おとぎ話のワンシーンのような光景が出来上がる。
「……すごいな」
眠る彼女はまさに宝石の如く。
美しいモノを眼前にした人間は溜め息しか出ないというのがよく分かった。喩えようのない感動とはこういうものだろうか。つい先ほどまでその身体に触れていたのが嘘みたいだ。
その時、カオルの身体に変化が訪れた。
「……ん……」
わずかに身じろぎしたかと思うと、濃藍色だった髪が、頭頂から徐々に塗り替わっていったのである。
その色は亜麻色だった。
「まあぴったり。次はお姫様みたいよ?」
篠宮さんが楽し気に言う。だが俺にそれを聞く余裕はなかった。
そろそろカオルが目覚めると感づいた身体が、独りでに動き始めたのだ。一時でも彼女を手放したことで、肌が温もりに飢えていた。眠ってる間は駄目だろうと自重していた欲望が、そろそろいいんじゃないかと前のめりになっていく。
ベッドに足を掛け、仰向けに眠るカオルに覆い被さる。ガウンは着たままだが帯は解いていた。前開きから飛び出た息子が、彼女のむっちりとした太ももを舐める。
「……」
カオルの頬に手を当てた。温かく、柔らかで、肌に吸い付くようだ。感触を楽しみながら指を滑らせて、彼女の下唇に引っ掛ける。
これまで2度、俺は彼女の風呂上りに出くわしている。3度目にしてようやく、その肌に触れることが出来たのだと考えると、妙に感慨深い。先ほどまでもっと深い行為に励んでいたのに不思議なものだ。
昨日。俺は彼女に命令してファーストキスを捧げさせた。勝手だと言われるかも知れないが、あれはあれで勿体ないことをしたと少し後悔している。今ならもっと上手に彼女を味わえるかも知れない。
カオルの目が、うっすらと開かれた。
間近に迫った俺の顔に動揺するでもなく、蕩けるような笑みを浮かべる。
「キスしたいの……? いいよぉ……」
眠たげな声でも溢れる色香。俺は自身の獣性をくすぐられる思いで、噛みつかんばかりに口を寄せた。
ちゅ
「んぁ……♥」
ちゅっ んちゅっ ちゅぅぅっ
唇を重ねたまま、少しずつ強く吸い付いてみせた。するとカオルも合わせて吸い付いてきて、互いの境界が被さったまま、じゅるじゅると涎が混ざり合う。
んぢぅっ ぢゅぅううっ
恋人同士が交わすような甘いキスから、頬を凹ませるまでの下品なキスへ徐々に変わっていく。脳への酸素が足りなくなってきて段々と視界が白んできた。それすらも心地よくて何となく止まれない。鼻先が擦れ合い吐き出す息が交じり出す。このまま気絶するのも悪くないとさえ思えた。
やがてどちらからともなく離れ、呼吸も絶え絶えに見つめ合った。俺とを繋ぐ唾液の糸が垂れ落ち、カオルの口元を彩る。彼女はそれをぺろりと舐めとり飲み下した。
「えへへ。必死すぎ」
はにかむと、俺の首に手を回してぐいっと抱き寄せる。首筋に顔を押しつけ、これ見よがしに鼻を埋めた。ふーはーと、何度となく深呼吸を繰り返し、匂いフェチを露わにする。止めてくれとは言わないけど、こう何べんもやられると流石に恥ずかしくなってくるな。
「はぁぁ……。この感じ、久しぶりだなぁ」
「ん?」
「私が"私だけ"って感じ。キタガミ、何かしたでしょ?」
「――っ」
返答に困った。カオルは自分の異変に気付いている。
正直に答えるべきだろうか。だが篠宮さんとの約束のこともあるし、彼女の口車に乗った俺は明らかに加害者だ。開き直り気味に明かすのはちょっと躊躇われた。
顔色を変えたのが伝わったのか、カオルはぺしぺしと俺の背中を叩く。
「ちょっとちょっと。勝手しといて凹まないでよ、もう」
「……悪い」
「別に良いって。怒ってないし。みんなも気持ち良さそうに寝てるしさ」
カオルが笑っているのが気配で伝わった。ぽんぽんと、子供をあやすような強さで叩き直してくる。包容力溢れる優しい対応にドキリとした。昨日のカオルの天真爛漫な態度を思い出すにつけ、ギャップで威力倍増してる。
動揺したまま何か言わなくてはと思い、ついカオルの言葉を反芻してしまう。
「あー……寝てるって、分かるもんなんだな」
「あはは。引っ掛かった。もうそこまで知ってるんだねー」
「うおっ!?」
決定的な事を言ってしまった。
慌てて篠宮さんの方を見ると、彼女はやれやれと大げさなジェスチャーで首を振っている。
『勘づかれる分なら何も言わないわ。ずっと騙すなんて無理だし。でも、あなたも案外ちょろいわね』
ぐぅの音も出ない。だが色々と切羽詰まってるというか、腹芸なんてできる余裕はないんだから勘弁して欲しかった。緊張ってのは自覚してほぐれるものじゃないのだ。
カオルはおもむろに肩ひもを掴み、下着を引っ張って見せる。
「そもそもさ。こんなの着せられたら嫌でも分かるよ。隠す気ないでしょこれ」
「……そっすね」
言われてみれば確かに。透け生地の女性用下着とか、独身男が用意する品としてはガチ過ぎてヤバい。エア彼女用か自分用か、どっちに転んでもカンストしてる。何故さっき気づかなかった俺。「エロいですね」とか呑気に感想言ってる場合じゃないだろ。
篠宮さんがニヤニヤしてる気配がするが、もう無視することにした。
「ま。今さらどうこう言う気ないし。むしろ見せつけちゃうもんね」
色々と察した風な顔で、カオルは俺の肩をぐっと押してきた。上体を起こされた俺の視界に、カオルの得意げな顔が入ってくる。
「昨日はいいとこで終わっちゃったからさ。今日こそ、私のしたいことするからね♥」
三日月の形に歪んだ目は、まさしく捕食者のそれだった。
○
○
○
「おー♪」
仰向けに寝そべった男にのしかかったカオルは、天高く屹立する雄の分身を尻の谷間に挟み、弾んだ声を上げた。後ろ手に軽く撫でくり回しながらその全貌を把握する。
怒張の名に相応しく、肉幹に浮き上がった血管は指に引っ掛かるほどだ。触れてみて分かる硬さは鉄塊のごとく。桜色の亀頭に若干初々しさが見えるものの、迫力だけは歴戦のそれである。これから経験を重ねていけば相応の凶悪さを見せつけて来るだろう。
今からこれで貫かれるのかと、カオルはお腹の奥が疼くのを抑え切れない。つい先ほど、気絶するまで犯された竜の意識からは何も伝わってこなかったのだ。"1人だけ"になっている今この瞬間、カオルは寄る辺のない処女と何ら変わりなかった。
不安がないと言えば嘘になるが、それ以上に期待の方が優る。昔から、知らないことに挑む時は愉しくて仕方がなかったのだ。それは魔に堕ちた今も変わっていない。
「すごいねぇ。昨日よりおっきくなってるよ」
「1日でそんな変わらんだろ。成長期じゃないんだから」
「絶対そうだって。ファーストキスを捧げた私が言うんだから間違いないね」
「……そうかい」
ふっと目を逸らした北上にはどこか照れが混じっていた。昨日のことを思い返したのだと気づいたカオルは、にんまりと微笑む。
もっともっと、この男は凄くなる。そう確信した笑みだった。
「ね。誰のフェラが一番良かった?」
「ぶっ!?」
あまりにも直截な言葉に噴き出す北上。計らずも、昨日のアレはカオルの意識が全て出てきていたのだと気づかされてしまった。だがあの時の記憶は初めての快感に塗り潰されていて、どこで誰が出てきたのかまでは思い出せない。
それすらも織り込み済みなのか、カオルはぐっと北上の耳に顔を寄せて囁いた。
「あの時は山羊が最初に飲むことになってたの。それまではキタガミがイキそうになったら交換って決めてたんだ。
始めは私がてっぺんをなめなめしたんだよ? キタガミってばすぐに出しそうになっちゃって、もっとお汁を吸いたかったのにすごく残念だったなぁ。
そしたら蛇が出てきて、喉ちんこまで押し潰すくらいがっぽり咥えちゃったよね。あの子ったらそれで我慢できなくなって、キタガミをおバカにしちゃう毒を出そうとしたの。慌てて竜が抜かなかったら、今日起きられなかったと思うよ。
そのあと竜が頑張ってじゅっぽじゅっぽしてあげたら、キタガミってばすんごい目をしてたよね。あれだけでおマンコきゅんきゅんしちゃって大変だったんだから。
でもその分、喉マンコを乱暴にされちゃって山羊ってば涙流して喜んでたよ。キタガミがたくさん射精してくれた後も、濃ゆい塊を口いっぱいに溜めてもぐもぐしたんだ。涎と混ぜたのを皆で順番にごっくんしてさ。それなのにキタガミはまだ出し足りないって元気なままだから、全部出るまでみんなで仲良くぺろぺろしたの。でも舐めても舐めても味がなくならなくて、ベロがもうキタガミの味を覚えちゃったよ……?」
はぁぁぁ♥
桃色の吐息が北上の耳朶をくすぐり、暴力のような剥き出しの甘言が脳を犯す。
カオルは耳まで赤くした北上になおも言葉を重ねた。股に挟んだ棒にますます血が巡ってくるのを感じる。その熱はカオルにも伝播するようだった。
「やっぱ深いのが好きなのかな。でもするのとされるのは違うよね? 舌使いだと蛇が一番だけど、私は涎いっぱい出せるし結構自信あるんだぁ」
んべぇ、と舌を出すと、たらたらと粘液が零れ出す。カオルはそれを北上の耳の溝に塗り込んでいった。ひたすらに外耳をなぶり、音すらも駆使して雄を追い込んでいく。唾液に塗された耳穴をこれみよがしに啜ってみせた。
「先っぽをぺろぺろしただけなのに早かったよねぇ。今なら、もう少し頑張れるかなぁ?」
「う……くっ……!」
囁く様に。優しく優しく責め立てる。北上が堪えようと唇を噛むのを見て、ますますカオルの中の雌が盛り出した。
「続きしたい? したいよねぇ? でも、だぁめ♥」
思うさま挑発した後、カオルは上体を起こす。透けた布地に包まれた肢体を見せつけるように広げてみせ、北上の腹上でぱっかりと脚を開いた。
「今からパンパンするんだから♥ 上から下から、たっくさんパンパンするんだよぉ♥」
左右に開いた脚の合間に北上の怒張を添える。散々に興奮を煽った結果のそれは湯気をあげんばかりに熱く、ひと回りもふた回りも凶悪さを増したように思えた。
カオルは自分が期待した以上の成長ぶりに目尻が下がる。もう不安など欠片もなかった。
凶悪に育てたそれを片手でなだめながら、カオルはショーツの紐を緩める。溢れだす蜜はもう、男の肌に垂れ落ちるまでになっていた。
「……ちょっと待った」
不意に、北上が制した。
「どうかした? あ、ゴムつけないとなのかな」
「それもあるんだが……お前、処女なのか?」
「へっ?」
思わぬ言葉に目を丸くするカオル。
だが欲望に従順すぎる身体は、自ずから答えを出していた。
「どうかなぁ……♥ 確かめてみればぁ……?」
M字に広げていた脚を崩し、膝立ちで北上の上半身を縦断する。彼の顔まで腰を運んだカオルは、その鼻先まで己の花弁を寄せて見せた。
北上はまじまじと観察する。ふくよかな肉びらは涎を垂らす様に蜜を零しており、内股まで鈍く光を反射させていた。もの欲しそうにわなないているのはさっきと同じだが、ぴっちり閉じた一本筋まで同じというのは違和感しかない。
何故なら、つい先ほどまでそこは、散々に広げられていたからだ。カオル当人も北上も、遠慮などせずに酷使していたにも関わらず、色が薄い桜色に留まっているのは有り得ない。本来であれば赤く充血しているくらいだろう。
美少女の生殖器官を眼前に、疑問と興奮とがないまぜになり硬直する北上。すっかり仕上げられた性欲に身を任せてしまおうかと思考が停止しそうになる。
「ん〜……」
我慢できなかったのはカオルの方だった。北上の息が当たってもじもじと腰をゆすっていたが、やがて手を下へ。
「……中まで見ないと、分かんないでしょ……?」
くぱぁ、と大陰唇が割り開かれた。
染み一つないピンク色の粘膜。包皮に隠れた大きめの陰核。指一本入るかどうかも危うい膣口。それら全てが北上の視覚を捉えて離さない。カオルの身体に光源を遮られている筈なのに、彼の目は不思議なほど鮮明に、その恥部を映しこんでいた。
「どうかな……私って、処女?」
「バカみたいな台詞だな」
「それ、キタガミに言われたくない」
軽口を叩き合い気恥ずかしさを誤魔化す。しかして北上は結論を出した。
「分からん」
「だろうね」
当然の帰結であった。限りなく童貞に近似している北上に、処女膜の有無など分かろう筈もない。その昔リビドーに任せてその手の画像収集をしていた彼の思い出はまるで役に立たなかった。今ここに比較対象があるならまだしも。
『はいはーい。ここにも処女がいますよー』
青肌の痴女は無視するとして。
北上はどうすべきか迷った。風呂場では初めての生殖にがっつく猿の如く暴れてしまい、パートナーへの気遣いが足りてないように思えたのだ。現に最後、カオルが限界を訴えてくるまでそれに気づくことが出来なかった。今また同じような勢いで自分本位な欲望をぶつけるのは躊躇われる。カオルの中に経験が蓄積していないのであれば尚更だ。
そこを考えての質問だったのだが。
「あ、そうだ。キスしてよほら」
そんな意図は伝わる筈もなかった。
くいくいっと挑発的に腰を近づけてくる始末である。
「……いや僕、ファーストキスなんで」
「私のもそうだよ。これからお世話してくれるんだし、挨拶代わりによろしく」
「――根に持ってるか?」
「冗談。だったらやらないっての……っ♥」
歯を見せて笑うカオルの目元が嬉しげに垂れ落ちる。
我が意を得たりとばかりに、北上の口はカオルの雌果にかぶりついていた。舌をすぼめ、膣口の周りをほぐすように舐め回す。
じゅぶ ぢゅべぉ じゅるぅ
「んっ、はぁ♥ ぁんっ♥」
北上の舌が触れた途端、膣口からコプコプと蜜が溢れ出した。中に溜まっていたのが刺激で漏れ出たのかと思った北上はしかし、ひっきりなしに出てくる愛液に慌てて口を離す。涎ばりに呑み込めてしまえるほどだった。冗談みたいに甘酸っぱい。
「漏らしすぎじゃね?」
「……うるさい。そういう体質なんですー」
耳まで真っ赤にして抗議するカオル。
そういえば涎も多い方だと自慢していたなと思い返した北上は、カオルの太股に触れている自分の手が少しばかりベトついているのに気がついた。風呂場ということもあったが、先ほどのカオルの汗はさながら陸上部のようにさらっさらだった。
汗を流しに流した、こなれた汗腺からの汗。
それよりも僅かに粘性のある、今のカオルの汗。
はたと気づく、体臭の明らかな違い。爽やかな柑橘類のような匂いと、僅かに甘たるい花のような匂い。
初めての性交を全霊で味わっていたからこそ北上は確信した。
「……優しく、するからな」
「えっ? ――ぁっ♥」
「この子は別人だ」と。実感のこもった感想だった。
彼女は、カオルであってカオルでない。髪色も性格も、顔だって似ているだけだ。俺がさっき抱いた彼女と今の彼女は違う。
悪魔に教えられて、彼女自身もそれを認めて。髪色が変わったのを間近に見ても、どこか納得できてない自分がいた。全く異なるキャラクターを同じ役者が演じているのを眺めているような。だから気付けなかった。
(くそっくそっ!! こんなの、ありかよ……っ!)
だが今、北上は自らの五感で痛感する。
この子は俺がさっき抱いた女の子じゃない。
それが持つ意味は明白だった。
『気づいちゃったのね。でも本当は気づいてたんでしょう?』
心の底にともったドス黒い情欲の火に、悪魔が薪をくべていく。
『そう。あなたは今夜、別な女の子を順番に犯すのよ』
ベッドのシーツに手をかけた悪魔は誘うように髪を梳かしていた。
『ハジメテの女の子に、他の子で磨いた欲望を突き立てるの』
花のような穏やかな香りが、血のように鮮烈な香りに塗り潰されていく。
『あなたは本当に立派な人。だから彼女は裏切れない。そうよね?』
囁く声。恐怖を固めたような呼気が耳を撫でた。
『じゃあ彼女は? あなたが犯し尽くした彼女は? あなたが犯そうとしている彼女は?』
嘲るように、歪む。
『あなたがどれだけ邪な思いを吐きだそうが、彼女たちは分からない。だって独りだから。知っているのは、私だけ……♥』
覚悟が、歪む。
『この味を覚えて。この子たちを犯すたびに思い出すのよ……』
雌の恥肉から男の口が離れる。瑞々しく濡れそぼった果実を含んだ口内は果汁に溢れていた。
そこに、青い悪魔が紅い舌を差し入れる。男は抵抗することもままならなかった。
断固として動かない男の舌などお構いなしに、悪魔は思うさま蹂躙する。頬を凹ませるまですぼまった口が、じゅるじゅると汁気を吸い上げた。さっき見せつけられたキスをなぞるかのように。
北上に跨っていたカオルは、秘所を弄る初めてな舌の感触に放心していて気付けない。
悪魔はベロリと舌を出し、男の口の中に挿し込んだ。教え込むように、馴染ませるように丹念に唾液を塗していく。
やがて、男の男根がさらに硬く起ち上がる頃。悪徳の味を覚えた証が立った時。
名残りの跡を丁寧に舐め取って、悪魔はゆっくりと離れていった。
『私はいつでもいいからね♥』
その誘いを跳ねのける言葉は奪い取られている。
悪魔の罠が、形を為した瞬間だった。
16/09/01 14:34更新 / カイワレ大根
戻る
次へ