監禁十日目
股間から全身へ駆け巡る、寒気にも似た快感。
金子雄平(かねこ ゆうへい)にとって、射精による起床は、すでに日常になりつつあった。
意識が覚醒する。
背中には、弾力のあるベッドのスプリングと、綿の感触。腹には、それなりの重みと、三十六度の暖かさ。
鼻から息を吸うと、甘いミルクのような香り。
「あー……あぁあ゛ぁー……」
鼓膜を震わせるのは、獣のうめき声のような。長い長い、牝の絶頂の咆哮。
彼はまぶたを開いた。
白い天井。もう見慣れた天井。
視線を下へ向けると、布団の隙間に、匂い、体温、声、快楽の正体が垣間見えた。
素肌を晒した彼の胸板に、左頬を乗せている女。艶やかな黒髪がいくつかの筋を描き、汗で濡れた頬に貼り付いている。側頭部からは山羊のような角を生やしている。彼女の腰がある辺りの布団が、もそもそとうごめいている。彼は知っている。彼女のそこからは、翼と尻尾が生えていることを。
彼女の顔は、朱に染まり、まぶたは半ばまで降りていた。
「あっ、あぁっ、はっ……うっ、あ゛ー」
断続的に、喉から絞り出すように、彼女の口からは音が漏れる。舌がこぼれ、彼の胸板に小さく触れている。熱い吐息が、彼の胸を蒸らす。
雄平は、彼女の後頭部を、そっとなでた。自分が覚醒したことを、彼女に知らせるためだ。
「あっ」
彼女が、小さく震えた。どろりと濁っていた瞳に、わずかに光が戻る。
緩慢な動きで、彼女が顔を彼の方へと向ける。潤んだ瞳。欲情と恋慕にまみれている。
「ゆーくん……おはよう」
うっとりと、彼女が挨拶する。
「おはよう、幽華」
足立幽華(あだち かすか)、それが彼女の名前。雄平をこの部屋に閉じ込め、片時も離れないサキュバスの名前である。
雄平は、彼女の頭をなでていた手を離し、両腕でしっかりと彼女の体を抱きしめる。彼女自身の体重に彼の腕の力が加わり、さらに二人は密着する。小さいと本人は気にしている乳房が、彼の胸板と触れ合う。丸められていた彼女の背中は伸び、似通った身長の二人の顔が、同じ位置に収まる。
腕の力が、強まる。二人は、情欲に濁った目で見つめ合う。
彼女は、視界いっぱいに飛び込んでくる彼の瞳から、不安の色を感じ取った。
「ゆーくん、大丈夫だよ……。私は、絶対に、ゆーくんから離れないから」
その証を示すように、彼女も彼を抱き返す。唇を合わせ、しかしまぶたは降ろさず、彼を視線で射止めたまま、口づけを交わす。
彼は、安心したようで、腕の力を弱める。代わりに、執拗に、彼女の背中、そして尻をなで回した。
彼の心は既に、自分の自由を奪い、この牢獄に閉じ込めた淫魔の虜になっていた。抗い、ここから抜け出す気力は、三日と保たなかった。
「ずっと、ずっと、一緒。だって、もう私たち、ご飯食べなくていいし……」
もう一度キス。
「魔法で綺麗になるから、お風呂も行かなくて大丈夫……」
すりすりと、腹と胸を前後させてすりつける。
「もう、動かなくていい。働かなくていい。ゆーくんの仕事は、私の目の前にいて、ずっと、ずーっとセックスすること」
「ぐっ、あっ、あぁ……」
膣の肉ひだが複雑に絡まり、彼は容易く屈した。
目覚めをもたらした、この日一番の射精と比べて、量も、勢いも、全く衰えてない。快感はむしろ、きちんと意識がある分、より強く感じられた。
「そう……そぉぅぅ……ゆーくんは、わらしにしゃせーするのがぁ……おひごとぉ……」
子宮の奥を叩く感触に、彼女の脳内がバチバチと弾ける。舌の根まで痺れ、発生が拙くなる。
彼女の瞳孔がぽっかりと開く。遠い目をしつつ、しかし視線はまだ彼の顔から離さない。
愛しい彼の絶頂顔を見ながら、彼女も自らの顔を晒す。それが、二人の毎日だった。
◆ ◆ ◆
十日前まで、二人は普通の高校生だった。
同じ学校に通い、家も近所、クラスも同じ、席は隣同士だったが、特に交流はなかった。
口を利くことはないし、かといって、仲が悪いわけでもない。
雄平は友人は少なかったが、その分絆は強かった。いつも同じクラスの男子二人と三人グループを作り、ほぼ常にその三人でつるんでいた。
一方の幽華は、いつも一人ですごしていた。決して、クラスメイトに疎まれていたわけではない。しかし、彼女の美貌は人間とは思えないほどであり、近寄りがたい雰囲気を周囲に与えていた。
幽華の中で、雄平の存在が黒く渦巻き始めたのは、彼女自身は覚えていない。彼女にとって、彼が自分の生活に存在していなかった頃の思い出は曖昧で、彼が存在している時期だけが、彼女の人生全てだったからだ。
それは高校一年の五月。彼が友人に見せた、笑顔。
――その笑顔、私に向けて欲しい。
たまたま視界に入ったそれが、彼女の心を狂わせた。
“私に向けて欲しい”だったその想いが、“私だけに向けて欲しい”に変わるのに、あまり時間を必要としなかった。
この頃から、彼女はさらに孤独になった。何をしていても、気付いたら彼の方に視線を向けてしまう。人が離れていったが、その黒い心からにじみ出る雰囲気が、彼女の美貌にさらなるすごみを与え、人間であることを忘れさせるほどの高みへと登りつつあった。
なので、彼女が魔の存在に目をつけられるのも、当然であった。
人間を超えた美貌を持ち、恋慕で心身を焦がす彼女を、サキュバスが放っておくはずがなかった。
幽華がサキュバスに出会ったのは、彼女が自分の部屋で自慰に耽っていた夜のことであった。
黒い欲望が渦巻いてから、彼女は毎日、脳裏に雄平の笑顔を浮かべ、性器を指で弄んでいた。
「その想い」
突如、彼女の頭上から声が降る。驚いて振り返ると、宙に浮かび、妖しく微笑む淫魔がいた。
「その、あなたが燃えるように恋焦がれる相手と、結ばれる方法、あるよ」
「なにを言って……」
わずかながらの羞恥、そして目の前に起こっている非日常に、幽華の声が震える。
「金子雄平くん」
ぞくり、と幽華の背筋が震える。彼の名前をつぶやく淫魔の声は、女である彼女が聞いても艶めかしく思えた。
「好きなんでしょう?彼のこと」
彼女は一度、力強くうなずいた。
「やっぱり。だから、私は来たの」
淫魔は、仰々しく腕を広げた。
「私はあなたに、力を与えるために来たの」
幽華は沈黙を続ける。
「愛する異性を、自分のものにする力を」
幽華は、淫魔の方へ身を乗り出した。
その時、淫魔には、幽華の全身を包む、漆黒のオーラが見えた。人間では持ちえるはずのない、魔のオーラ。すでに彼女は、半分人間を辞めている。
――人間の身でここまで……。あとは、私がきっかけをあげるだけ。
淫魔は、近い将来、必ず強大な魔物娘になるであろう幽華を見て、畏怖と愉悦を感じた。
◆ ◆ ◆
「ちゅっ、ちゅっ……」
雄平と幽華は、レースカーテンごしに漏れ入る陽の光を浴びながら、小さく唇を合わせる。
互いに両腕を相手の体に回し、片時も離れないようにする。二人の腕は、魂をつなげ合う命綱のようだ。
「はぁ……」
キスの合間に、彼が小さく息を吐く。
愛と温もりに包まれた、歓喜のため息だ。
感情、欲望、そして命さえも、目の前の恋人に預けてしまっていることへの安心感。
彼女は、自分の全てを受け入れ、愛してくれるということへの、絶大な信頼が、彼の声となって漏れ出たのだ。
ぬくぬくとした布団と同じように、彼女の膣肉もまた、やんわりと、優しく彼を包む。
「ゆーくん、これ、好きだよね」
膣全体が、彼の陰茎を絶妙な力加減でもみほぐす。温泉に浸かりながら、マッサージを受けているような心地よさ。
魔物化直前に見せた漆黒のオーラは、すでに彼女にはなかった。
世界を敵に回してでも欲しいと思っていた彼を、手に入れることができたからだ。
彼の心が完全に彼女に堕ちた時点で、彼女はもう病まなくてよくなったのだ。
監禁四日目から今日まで、二人の性器は絡み合ったままで、離れていない。
「うっ、くっ……かすかぁ……」
彼の腕の力が強くなる。甘い声を上げ、彼は恋人の蜜壺に屈した。
「んっ、また、たっぷり、でた……」
うっとりと、彼女は声を漏らす。目尻は下がり、瞳が潤む。
この日三度目の射精となるが、精液の量や勢いが衰えることはない。
彼はこの一週間で、インキュバスになっているからだ。
老いも病みもせず、ただ愛する番と性交しているだけで生きられる存在。
彼女からその話を聞かされたが、彼にとってはもう、自分が人間を辞めていることなど、どうでもよかった。
ただただ、永遠に彼女と繋がりっぱなしで生きられることが嬉しかった。
「幽華、今までごめん」
彼はぽつりと、声を漏らす。
彼女は真意がつかめず、首を傾げる。
「俺、幽華にここに閉じ込められたとき、すごく怖かった。外に出たかった」
でも……と彼は続ける。
「俺は馬鹿だった。俺のことを、こんなにも、愛してくれる相手から逃げようとするなんて……。全てを受け入れてくれる幽華から離れようとするなんて……」
彼の腕の力が強まった。
「ごめん、本当に。もう、俺は、幽華から、絶対に離れないから。永遠に、一緒だから」
彼の言葉に、彼女は力強く、一度、うなずいた。
「うん、知ってる。私も、絶対に、永久に、ゆーくんから離れない。世界で一番、愛しているから」
すりすりと、彼の首元に頬をこすりつけると、彼は安心しきった、緩んだ笑顔を見せた。
――この笑顔は、もう、私だけのもの、世界が滅ぶまで、私だけのもの。
脳へ満ちる幸福感とともに、幽華は全身を震わせながら絶頂した。
金子雄平(かねこ ゆうへい)にとって、射精による起床は、すでに日常になりつつあった。
意識が覚醒する。
背中には、弾力のあるベッドのスプリングと、綿の感触。腹には、それなりの重みと、三十六度の暖かさ。
鼻から息を吸うと、甘いミルクのような香り。
「あー……あぁあ゛ぁー……」
鼓膜を震わせるのは、獣のうめき声のような。長い長い、牝の絶頂の咆哮。
彼はまぶたを開いた。
白い天井。もう見慣れた天井。
視線を下へ向けると、布団の隙間に、匂い、体温、声、快楽の正体が垣間見えた。
素肌を晒した彼の胸板に、左頬を乗せている女。艶やかな黒髪がいくつかの筋を描き、汗で濡れた頬に貼り付いている。側頭部からは山羊のような角を生やしている。彼女の腰がある辺りの布団が、もそもそとうごめいている。彼は知っている。彼女のそこからは、翼と尻尾が生えていることを。
彼女の顔は、朱に染まり、まぶたは半ばまで降りていた。
「あっ、あぁっ、はっ……うっ、あ゛ー」
断続的に、喉から絞り出すように、彼女の口からは音が漏れる。舌がこぼれ、彼の胸板に小さく触れている。熱い吐息が、彼の胸を蒸らす。
雄平は、彼女の後頭部を、そっとなでた。自分が覚醒したことを、彼女に知らせるためだ。
「あっ」
彼女が、小さく震えた。どろりと濁っていた瞳に、わずかに光が戻る。
緩慢な動きで、彼女が顔を彼の方へと向ける。潤んだ瞳。欲情と恋慕にまみれている。
「ゆーくん……おはよう」
うっとりと、彼女が挨拶する。
「おはよう、幽華」
足立幽華(あだち かすか)、それが彼女の名前。雄平をこの部屋に閉じ込め、片時も離れないサキュバスの名前である。
雄平は、彼女の頭をなでていた手を離し、両腕でしっかりと彼女の体を抱きしめる。彼女自身の体重に彼の腕の力が加わり、さらに二人は密着する。小さいと本人は気にしている乳房が、彼の胸板と触れ合う。丸められていた彼女の背中は伸び、似通った身長の二人の顔が、同じ位置に収まる。
腕の力が、強まる。二人は、情欲に濁った目で見つめ合う。
彼女は、視界いっぱいに飛び込んでくる彼の瞳から、不安の色を感じ取った。
「ゆーくん、大丈夫だよ……。私は、絶対に、ゆーくんから離れないから」
その証を示すように、彼女も彼を抱き返す。唇を合わせ、しかしまぶたは降ろさず、彼を視線で射止めたまま、口づけを交わす。
彼は、安心したようで、腕の力を弱める。代わりに、執拗に、彼女の背中、そして尻をなで回した。
彼の心は既に、自分の自由を奪い、この牢獄に閉じ込めた淫魔の虜になっていた。抗い、ここから抜け出す気力は、三日と保たなかった。
「ずっと、ずっと、一緒。だって、もう私たち、ご飯食べなくていいし……」
もう一度キス。
「魔法で綺麗になるから、お風呂も行かなくて大丈夫……」
すりすりと、腹と胸を前後させてすりつける。
「もう、動かなくていい。働かなくていい。ゆーくんの仕事は、私の目の前にいて、ずっと、ずーっとセックスすること」
「ぐっ、あっ、あぁ……」
膣の肉ひだが複雑に絡まり、彼は容易く屈した。
目覚めをもたらした、この日一番の射精と比べて、量も、勢いも、全く衰えてない。快感はむしろ、きちんと意識がある分、より強く感じられた。
「そう……そぉぅぅ……ゆーくんは、わらしにしゃせーするのがぁ……おひごとぉ……」
子宮の奥を叩く感触に、彼女の脳内がバチバチと弾ける。舌の根まで痺れ、発生が拙くなる。
彼女の瞳孔がぽっかりと開く。遠い目をしつつ、しかし視線はまだ彼の顔から離さない。
愛しい彼の絶頂顔を見ながら、彼女も自らの顔を晒す。それが、二人の毎日だった。
◆ ◆ ◆
十日前まで、二人は普通の高校生だった。
同じ学校に通い、家も近所、クラスも同じ、席は隣同士だったが、特に交流はなかった。
口を利くことはないし、かといって、仲が悪いわけでもない。
雄平は友人は少なかったが、その分絆は強かった。いつも同じクラスの男子二人と三人グループを作り、ほぼ常にその三人でつるんでいた。
一方の幽華は、いつも一人ですごしていた。決して、クラスメイトに疎まれていたわけではない。しかし、彼女の美貌は人間とは思えないほどであり、近寄りがたい雰囲気を周囲に与えていた。
幽華の中で、雄平の存在が黒く渦巻き始めたのは、彼女自身は覚えていない。彼女にとって、彼が自分の生活に存在していなかった頃の思い出は曖昧で、彼が存在している時期だけが、彼女の人生全てだったからだ。
それは高校一年の五月。彼が友人に見せた、笑顔。
――その笑顔、私に向けて欲しい。
たまたま視界に入ったそれが、彼女の心を狂わせた。
“私に向けて欲しい”だったその想いが、“私だけに向けて欲しい”に変わるのに、あまり時間を必要としなかった。
この頃から、彼女はさらに孤独になった。何をしていても、気付いたら彼の方に視線を向けてしまう。人が離れていったが、その黒い心からにじみ出る雰囲気が、彼女の美貌にさらなるすごみを与え、人間であることを忘れさせるほどの高みへと登りつつあった。
なので、彼女が魔の存在に目をつけられるのも、当然であった。
人間を超えた美貌を持ち、恋慕で心身を焦がす彼女を、サキュバスが放っておくはずがなかった。
幽華がサキュバスに出会ったのは、彼女が自分の部屋で自慰に耽っていた夜のことであった。
黒い欲望が渦巻いてから、彼女は毎日、脳裏に雄平の笑顔を浮かべ、性器を指で弄んでいた。
「その想い」
突如、彼女の頭上から声が降る。驚いて振り返ると、宙に浮かび、妖しく微笑む淫魔がいた。
「その、あなたが燃えるように恋焦がれる相手と、結ばれる方法、あるよ」
「なにを言って……」
わずかながらの羞恥、そして目の前に起こっている非日常に、幽華の声が震える。
「金子雄平くん」
ぞくり、と幽華の背筋が震える。彼の名前をつぶやく淫魔の声は、女である彼女が聞いても艶めかしく思えた。
「好きなんでしょう?彼のこと」
彼女は一度、力強くうなずいた。
「やっぱり。だから、私は来たの」
淫魔は、仰々しく腕を広げた。
「私はあなたに、力を与えるために来たの」
幽華は沈黙を続ける。
「愛する異性を、自分のものにする力を」
幽華は、淫魔の方へ身を乗り出した。
その時、淫魔には、幽華の全身を包む、漆黒のオーラが見えた。人間では持ちえるはずのない、魔のオーラ。すでに彼女は、半分人間を辞めている。
――人間の身でここまで……。あとは、私がきっかけをあげるだけ。
淫魔は、近い将来、必ず強大な魔物娘になるであろう幽華を見て、畏怖と愉悦を感じた。
◆ ◆ ◆
「ちゅっ、ちゅっ……」
雄平と幽華は、レースカーテンごしに漏れ入る陽の光を浴びながら、小さく唇を合わせる。
互いに両腕を相手の体に回し、片時も離れないようにする。二人の腕は、魂をつなげ合う命綱のようだ。
「はぁ……」
キスの合間に、彼が小さく息を吐く。
愛と温もりに包まれた、歓喜のため息だ。
感情、欲望、そして命さえも、目の前の恋人に預けてしまっていることへの安心感。
彼女は、自分の全てを受け入れ、愛してくれるということへの、絶大な信頼が、彼の声となって漏れ出たのだ。
ぬくぬくとした布団と同じように、彼女の膣肉もまた、やんわりと、優しく彼を包む。
「ゆーくん、これ、好きだよね」
膣全体が、彼の陰茎を絶妙な力加減でもみほぐす。温泉に浸かりながら、マッサージを受けているような心地よさ。
魔物化直前に見せた漆黒のオーラは、すでに彼女にはなかった。
世界を敵に回してでも欲しいと思っていた彼を、手に入れることができたからだ。
彼の心が完全に彼女に堕ちた時点で、彼女はもう病まなくてよくなったのだ。
監禁四日目から今日まで、二人の性器は絡み合ったままで、離れていない。
「うっ、くっ……かすかぁ……」
彼の腕の力が強くなる。甘い声を上げ、彼は恋人の蜜壺に屈した。
「んっ、また、たっぷり、でた……」
うっとりと、彼女は声を漏らす。目尻は下がり、瞳が潤む。
この日三度目の射精となるが、精液の量や勢いが衰えることはない。
彼はこの一週間で、インキュバスになっているからだ。
老いも病みもせず、ただ愛する番と性交しているだけで生きられる存在。
彼女からその話を聞かされたが、彼にとってはもう、自分が人間を辞めていることなど、どうでもよかった。
ただただ、永遠に彼女と繋がりっぱなしで生きられることが嬉しかった。
「幽華、今までごめん」
彼はぽつりと、声を漏らす。
彼女は真意がつかめず、首を傾げる。
「俺、幽華にここに閉じ込められたとき、すごく怖かった。外に出たかった」
でも……と彼は続ける。
「俺は馬鹿だった。俺のことを、こんなにも、愛してくれる相手から逃げようとするなんて……。全てを受け入れてくれる幽華から離れようとするなんて……」
彼の腕の力が強まった。
「ごめん、本当に。もう、俺は、幽華から、絶対に離れないから。永遠に、一緒だから」
彼の言葉に、彼女は力強く、一度、うなずいた。
「うん、知ってる。私も、絶対に、永久に、ゆーくんから離れない。世界で一番、愛しているから」
すりすりと、彼の首元に頬をこすりつけると、彼は安心しきった、緩んだ笑顔を見せた。
――この笑顔は、もう、私だけのもの、世界が滅ぶまで、私だけのもの。
脳へ満ちる幸福感とともに、幽華は全身を震わせながら絶頂した。
14/01/29 00:11更新 / 川村人志