人形
「店で見つけたときは、とても魅力的に思えたんです」
佐野さんがその人形を見つけたのは、偶然入った骨董品店だった。
日曜日、彼は友人と遊びに行く約束をしていたのだが、相手の急用により、キャンセルとなってしまった。待ち合わせ場所で時間を持て余した彼は、特に目的もなく街を散策することにした。
今思い返すと、特に目立った外観ではなかったという。大通りから一本逸れた路地の、よくある雑居ビル。骨董品店は、その二階だった。
「看板を見て、入ろうと思ったわけではないんです。何となく入って、ようやくそこが骨董品店であると気付いたんです」
彼が骨董品店と聞いて、おぼろげながら浮かぶイメージ。店内はそれとほぼ違わないものであった。
壺。掛け軸。彫刻品。机。椅子。そのどれもが古めかしく、何十年もの歳月を感じさせるものばかりであった。
「一際目立っていたのが、その人形でした」
入口から続く、他人とすれ違うことすら苦労するほど細い通路。その一番奥に、人形があった。
「初めは、子供が座っていると思いました」
佐野さんがそう勘違いするほど、その人形は精巧で、大きさも本物の子供と同じであった。彼がそれを人形と何とか判別を付けられたのは、わざとらしいほど人形らしく作られた球体関節のおかげであった。
「そうは言っても、僕の目に見えたのは、指の関節だけでしたが」
人形は、ドレスを身にまとっていた。フープ・スカートと呼ばれる、裾が丸く広がったスカートをはいており、腹部はコルセットを巻いているかのように細く、肩と腕がゆったりとしたブラウスを着ていた。白と青を基調としており、手首やスカートの裾といった要所に、金をあしらっていた。
髪はドレスに使われているものよりもさらに綺麗な金髪。腰までかかるほどの長さで、手入れの行き届いた癖のないストレートだった。
「一目見て、絶対に買わないといけないという気分にさせられたんです」
彼には人形を集めるという趣味はない。しかし、それでも彼は、その人形を絶対に手に入れないといけないという、強迫観念にも似た衝動に襲われたのだという。
「それに、店員がすごく美人で。ぽんと景気よく買って、いいところを見せたくなってしまったんですよね」
店員はハーフと思しき女性で、綺麗な銀髪と、人形に負けないくらいの白い肌だった。
「気が付いたときには、すでに人形を購入し、家に向かって歩いていました」
人形としては巨大ともいえるサイズだったため、木のケースに入れ、取っ手のついた台車に乗せ、キャリーバッグの要領で運んだ。
「家に着いた瞬間、猛烈に後悔したんです」
財布の中身を見ると、家を出る前よりも一万円札が五枚減っていた。
その上、彼は言い知れぬ不安感を覚えた。
「だって、球体関節とはいえ、それ以外は完全に人間そっくりですからね。そういうの、不気味の谷って言うんでしたっけ？」
材質はセルロイドだろうか、つるつるとして硬い感触だった。
「本当はすぐにでも捨てたかったんですけど、やっぱり、大金払って買ってしまったものですからね。もったいなくて」
唸るほど悩んだが、結局部屋に放置したまま、その日は眠ることにした。
それから一週間が経った。
佐野さんは、癒えることのない倦怠感に悩まされることになった。
「きちんといつも通りの睡眠をしているんですけど、全く疲れが取れないんです」
仕事のミスが増えるようになった。
思い当たる節は、あの人形しかなかった。
彼はその日の内に、人形をアパート前のゴミ捨て場に置いた。
「ちょうど粗大ごみの日でしたから。当然、箱に入れて捨てました」
彼はこれで、ようやくぐっすり眠れると思ったという。
その日の夜。彼は自分の呻き声で目を覚ました。普段の倦怠感が何倍も強く感じられ、全身が汗で濡れていた。
枕の横から、強烈な視線を感じる。そちらへ目を向ける。
布団と壁の間。畳の上に、人形が座っていた。
「恥ずかしいことに、生まれて初めて気絶してしまいました」
気付いたら、朝だった。
以降、月に二回ある粗大ごみの日のたびに人形を捨てていたが、全てその日の内に戻ってしまった。
全身のだるさは、捨てるごとに強くなっていき、ついに家から出るのも億劫になってしまった。
「このままでは、絶対にまずいと思いました」
人形を買ってから五回目の粗大ごみの日に、彼は一計を案じた。
部屋にビデオカメラを設置することにした。
「さすがに、人形が一人で歩くなんてことは信じていませんでしたから。悪意ある誰かが、部屋に持ち込んでいるのではないか、カメラで分かると思って」
彼は持っていたカメラを、箪笥の上に設置した。侵入者に発見されないよう、段ボール箱を置きカムフラージュする。
簡単な作業であったが、設置を終え脚立から降りる頃には全身が悲鳴を上げていた。
寝てしまおう。そう思い、リモコンの録画開始ボタンを押し、倒れこむように布団に横になり、意識を手放した。
部屋に差し込む朝日で目を覚ました。
疲れはさらに増したように思える。視線を枕元に移すと、やはり人形が座っていた。背筋に悪寒は走るものの、もはや見慣れた光景であった。
重い体を何とか持ち上げ、箪笥の上のカメラを下ろす。
ビデオモニタで確認すると、ちゃんと布団に倒れこむ自分が見えた。
早送りをする。録画時間が一時間を迎えるあたりまでは、寝返りをする自分以外に全く動きがなかった。しかし、一時間と五分が経過したとき、動画に動きがあった。
「僕が、布団から立ち上がったんです」
すぐに早送りをやめ、動画を眺める。起き上がった自分は、ゆっくりとした動作で部屋から出て行ってしまった。
自分は夢遊病だったのかと、呆然と録画を見つめる。
二十分ほど経過したところで、玄関扉が開く音がした。出ていったときと同じくらいの速さで、自分が部屋に戻ってくる。
「僕が、人形と手をつないで戻ってきたんです」
右手で人形の手をしっかりと握り、並んで歩いてきたのだ。人形はまるで、生きている幼女のように自立して動いており、動画の中の彼を見て、うっとりとほほ笑んでいた。自分も、彼女の方を向いて笑みを浮かべていた。
二人は布団に対面して座る。互いの顔を寄せ合い、唇を重ねた。
◆ ◆ ◆
「ちゅく、ちゅく……れるる」
二人は唇を触れ合わせ、舌を絡め合わせる。
「はぁ、はぁぁ……」
一息。顔が離れる。彼女の柔らかな唇が形を戻し、唾液に濡れ光る。
「メリー」
男が名を呼ぶ。
「うん、もっと、もっと私の名前を呼んで」
うっとりと目を潤ませ、メリーと呼ばれた人形が言う。
しかし、彼女は人形であって人形でない。つるつるであった肌は、柔らかく温かくなっている。胸は激しく上下し、熱い吐息が漏れる。
「メリー、ごめん」
男は頭を下げる。
「いくら覚えてなかったとはいえ、メリーを捨ててしまうなんて」
それを聞いて、彼女は声を漏らし笑う。
「ふふ、全く気にしていませんわ。お兄様のことですもの。必ず連れ戻してくれると信じていました」
でも、と彼女は言葉を続ける。
「ほんの少しだけ、不安でした。ひょっとしたら、今度こそ、私をお捨てになるのではないかと……。本当に、お別れになってしまうのではないかと、少しだけ、怖くて」
彼女が、彼にすがりつく。
「ですから、いっぱい、甘えさせてください。愛してください」
彼の顔を見上げる。彼女の瞳には、獣欲にまみれ、濁った色で女を見ている、男の瞳が映った。
彼女の体が、小さく震えた。しかし、彼女の顔は嬉しさでとろけている。その震えは恐怖からくるものではなく、これから自分が乱暴に犯されることを理解したことによる歓喜のためだった。
「あっ」
布団の上に、彼女が押し倒される。驚きと期待で、彼女から声が漏れる。男がその上に覆いかぶさり、乱暴に彼女のスカートを引っ張り上げる。
彼の目には、疼いた子宮から漏れ出る愛液によりべたべたになった彼女の下着が見える。
「お兄様のお好きなように、どうぞ……」
顔を真っ赤にさせ、メリーはまくり上げられたスカートの裾を唇で挟んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……！」
男は荒く息を吐きながら、彼女の肩を押さえる。Ｍの字に開脚している彼女の下半身、ひくつかせながら中を覗かせる膣に、彼は迷うことなく自らの剛直を突き入れた。
「ぐっ、うぅぅっ！」
男が喉から絞り出すように声を上げる。
挿入するまでは早かった。しかし、亀頭が膣口に迎え入れられた瞬間から、彼の腰の前進はひどくゆっくりとなった。
飢えた膣が、待ちわびていたものを熱烈に歓迎したからだ。肉が締まり、襞が逆立ち、侵入してきたもの全てに強い抵抗を与える。
「くぁ、あぁぁ……」
溜息のように、男は安らいだ声を漏らす。抵抗は強いが、与えられる刺激は心地よく、甘美なものなのであろう。
「はいって、きたぁ……。お兄様の、おちんちん……」
鼻から甘い吐息を出し、メリーはうっとりと甘い声を出す。
亀の歩みのように鈍く、腰が突き出される。何分もかけ、ようやく二人が密着する。
「うっ、ううっ」
その瞬間、男は全身を震わせ、歯を食いしばる。二人の接合部からは、白い粘液がわずかに漏れた。
「あは、はぁぁ……。出して、しまわれたのですね」
表情をとろけさせ、彼女が言う。腕を伸ばし、彼の体を優しく抱き寄せる。
「お兄様の精液、大変美味ですわ。もっと、もっと、私の中に放ってください」
彼は小さくうなずく。力強く彼女を抱きしめると、本能のままに、腰を激しく前後させた。
◆ ◆ ◆
佐野さんと人形の性行為は、何時間も続いた。
彼は、口を閉じるのを忘れ、映像を眺めた。
「何しろ、全く記憶にない映像でしたから。まさか、僕が人形とそういった行為をしているだなんて」
早送りにするが、一向に終わる気配がない。
前に後ろに、上に下に、体位を入れ替え、いつまでも映像内の二人はつながり続ける。
やがて、玄関横の窓ガラスに、陽光と思しき光が漏れるようになった。朝になったのだ。
そのころになると、映像はほとんど動きがなくなる。映像の中の佐野さんが、つながったままの状態で、仰向けの腹の上に、人形を寝かせていた。
録画映像の終盤、人形が立ち上がった。彼の下半身に衣服を着せ、布団をかぶせる。枕元へ移動し、壁を背にして足を投げ出して座り、ぴくりとも動かなくなった。
直後、佐野さんが体を起こす。頭を押さえ、重い体をひきずるようにして箪笥に迫ると、カメラの横へ手を回し、映像が終了した。
「背筋に悪寒が走りましたよ。人形が動きを止めてから僕が録画を止めるまで、一分とかかってませんでしたから」
彼は、背後に強烈な気配を感じた。
◆ ◆ ◆
彼は、背中から優しく抱きしめられた。
「ようやく、気付いてくださったのね」
アイスクリームのように甘くとろけた、小さな女の子の声がする。
「あ、ああ……」
喉が震え、声がかすれる。
――動けない。
金縛り。動く人形の存在を背中で感じながら、彼は指一本動かすことができなくなっていた。動くのは喉と、眼球のみ。
「大丈夫ですわ、心配なさらないで」
彼の体から腕が離れ、背後の感触が消える。
視界の右側から、気配と感触の正体が現れた。
「人形……」
ぐぐっと、喉が鳴った。あの人形、彼が何度も捨て、何度も戻ってきた人形が、彼の顔を嬉しそうに覗き込んでいた。
「お兄様、初めまして」
柔らかく、人形がほほ笑む。
「本当は、何度もこうやってお話ししているんですけどね」
ふふっと、声を漏らし笑う。
「朝になると、お兄様、私とお話したことを忘れてしまわれますから」
でも、今日からは違います、と彼女は言った。
「お兄様は、私の魔力の影響の外で、動く私を見てくれた。私の存在を自覚してくれた……。呪縛が、解けたんです」
だから……と彼女は続けた。
「今日からは、ずっとずっと、一緒です」
彼の前に回り込んだ人形は、彼のズボンのチャックをゆっくりと下ろし始めた。
「おい……一体何を……」
「うわぁ……♥」
彼の言葉は、彼女の歓声によってかき消された。彼女の眼前に、大きくそそり立ったペニスが現れる。
「すごい、もうこんなに大きくされていたのですね」
彼の顔が羞恥で真っ赤に染まる。
目の前の少女との性交映像を見て、彼の性器はすでに準備を整えていたのだ。
「はぁぁ、おちんちんさまぁ、さっきぶりですねぇ……はむっ」
口を大きく広げ、彼女は亀頭を口に含んだ。
「あうっ」
敏感な部分に刺激が与えられ、彼は小さくうめく。
「はむっ、じゅるっ、ちゅぅぅ……。はぁぁ、お兄様のおちんちん、エッチな匂いがします。さっきまで、いぃっぱい、私を愛してくださりましたものね」
唇を離すと、愛おしげに、彼女はペニスに口づけをする。二度、三度……。触れるたびに、金縛りになっている彼の体が、快楽により震える。無意識の反応は、彼女の魔力の影響を受けない。
「れろぉ……。あは、味もとっても、エッチです。精液のあまぁい味、好きですよ」
舌を伸ばし、幹を根元から舐め上げる。舌先がカリに当たると、ペニスがぞくりと大きく動いた。
「はい、存じ上げております。お兄様は、ここが大好きですものね」
くるくると、時計回りにカリを舌先でくすぐる。
「はっ、ぐっ、うぅぅ……」
顔を反らし、彼は彼女の口淫に酔いしれた。
「お兄様は、ここもお好きでしたよねぇ……。ちろちろ」
次は、裏筋を上下に舐める。
「な……何で……こんな、気持ちいいところばかり」
「お兄様が教えてくださったのですよ？私に、何度も、何度も」
にぃ……と、青い瞳が細くなる。
「何度もって、まさか、俺がお前を捨てるたびに……録画のようなことを？」
ぞっとする。
――まさか、僕が、そんな……人形と性交する男だったなんて……。
人形は、首を左右に振る。
「違いますわ」
ホッと彼は胸を撫で下ろす。
「ええ、違いますとも。捨てるたびではありません。毎日です」
彼の体が強張る。
「ああ、そうでした。お兄様は覚えていませんものね」
目を潤ませ、彼女がほほ笑む。
「私とお兄様は、毎日、朝まで、ずぅっと愛し合っていたのですよ。捨てられた日は、いつもより激しく……」
彼は、自分の疲れの原因を理解した。毎日、幼女と夜通しセックスをしていたのだ。
――そりゃあ、疲れるわけだな。
でも、と彼女は続ける。
「今日、呪縛は解けました。もう心配はいりませんよ」
大きく口を開き、ペニスを根元まで頬張る。
「おにいひゃまは、今日で、インキュバスになれまふからね」
舌に濃厚な唾液を絡め、口をもごもごと動かす。
――人形のはずなのに、舌が、ぷりぷりで、温かくて……。
彼は――記憶している限りでは――女性経験がないが、彼女の口内は、少なくとも人形の感触ではなかった。人肌よりもやや高い温度。ペニスだけではなく、全身がとろけてしまいそうになる柔らかさ。その中で、確かな刺激を与えてくる、厚い舌。魂が吸い取られそうになるほど激しい吸引。
「んもっ、じゅっじゅっじゅぅぅぅ……！」
喉の奥まで亀頭を咥え入れ、喉を締めながらのバキュームに、彼はいとも簡単に屈してしまった。
「あぐっ、ぐぅあぁぁぁぁ！」
彼の腰が力強く跳ねる。同時に、彼女の食道に直接流し込むように、大量の精液が放たれた。
「んっ」
射精の勢いで喉の最奥の壁が叩かれるが、それを一切苦痛に感じないまま、喉を上下させる。
まぶたが半分ほど下り、青空のような瞳が、情欲と歓喜で濁る。
「ごくっ、ごくっ……ふぅぅ……」
喉を二度鳴らし、大きく鼻から息を吐く。空気に触れることなく飲み込まれた精液の、混じり気のない香りが、彼女の思考をぼやけさせる。彼以外のことが、何も考えられなくなる。
「ごくっ、ごくっ……んんー……ちゅぽっ」
ゆっくりと漏れる精液が止まると、尿道を外から舌で絞り、吸引しながら口内から性器を解放した。
「はぁ、はぁぁ……美味しい。全部、残さず、飲んでしまいました」
言葉を証明するかのように、口を広げ、彼に中を見せつける。そこには、白い精液は一滴も残っていなかった。
彼は、肩で大きく息をついた。射精により、金縛りの魔力はほぼ解けていたが、精神力を全て削るような口淫に、逃げる余裕は残っていなかった。
「あら、お兄様」
妖しい笑みを浮かべ、彼女は視線を下ろす。その先には、いまだ硬さを失わないペニスが立っていた。
「まだ、萎えませんのね」
一つ溜息をつくと、嬉しそうな表情のまま、球体関節の指が、彼の肩を押した。
「仕方ありませんわね。お口で満足しないのならば、もう、こちらで」
彼の体を布団に横たわらせると、彼女は自らのスカートを持ち上げ、唇で裾を挟む。録画とは違い、その表情は、自分が上位者であるという、嗜虐心を孕んでいた。
さらに見せつけるように、両方の人差し指で、まだ幼く無毛の女性器を割り開く。粘度の高い液体が、ひくつく桃色の穴から糸を引いて滴った。
「わらくひのおまんこで、楽にひてさしあげないと、いけまふぇんわね」
膝を折り、腰を下ろす。
ひたりと、膣の粘膜が、亀頭に触れた。
「うあっ……」
思わず、彼が悲鳴を上げる。
――何だ、これっ……！口よりも熱くて、ちゅっちゅって、吸い付いて……！
甘噛みするように、膣肉が、ひくひくと閉じたり開いたりを繰り返す。
「はぁぁ、お兄様の、あつぅい……」
裾から唇を離す。粘り気のある唾液が、裾から一本の糸を伸ばした。
「お兄様、よく、見ていてくださいね。お兄様の、本当の、童貞卒業」
えいっ、と小さく声を出すと、重力に任せ、彼女は一気に腰を落とした。
ぞりぞりと逆立つ肉のひだが、熱烈に異物を歓迎する。
「はぁっ、あぁあ゛っ！」
喉を絞るように、彼がうめいた。弱い部分が一度に刺激され、快楽の神経が焼き切れるほどの衝撃を受けたからだ。
「んくっ、うぅぅんっ！」
彼女も、同時に声を上げる。目をぎゅっと閉じ、端からは歓喜の涙が漏れる。
「はぁぁ……いっきに、おまんこ奥まできたぁ……」
目を薄く開き、彼女は表情を緩めさせる。
「はい、お兄様、これで、童貞卒業です♥」
彼女が満面の笑顔を浮かべる。
「あとは、インキュバスになるまで、思う存分、くちゅくちゅどぴゅどぴゅ……です♥」
まずは、と彼女がつぶやくと、ぬるぬるの刺激が強まった。
「おまんこのお肉で、もみもみ、もみもみ……」
「あうっ、うぅっ」
挿入時よりもずっと弱い刺激であったが、それだけで彼はこらえきれない呻き声を上げた。
「さっき、いっぱいびゅーってなされましたからね。ゆぅっくり、ゆーっくりっ……」
ぬちゅ、ぐちゅ……と、スカートに隠れた接合部から、小さな音が漏れる。
「はぁ、すっごく、エッチですわね。外からは全く動いて見えないのに、中はとろとろぐちゅぐちゅ、なんですもの」
ペニスの根元から先端まで順番に締め、緩み、また順番に締める。何度も繰り返すと、次は亀頭だけを重点的に、すり潰すように強めにもみほぐす。
「こんなのは、いかがでしょうか？」
くすりとほほ笑むと、カリと裏筋が、同時にくすぐられた。
「うぁっ、これ……！」
彼が声をだす。
「お口で順番にしたのを、同時にやっているんですから、絶対に気持ちいいですわよね、これ」
ぺろりと舌を出し、彼女は自らの唇を舐めた。唾液に濡れ、しっとりと光る。
「出したくなったら、いつでも出していいですからね」
彼女が体を倒し、彼の耳元に唇を近付けた。
「お兄様、全てのことを忘れて、私だけ見てください。私だけ、愛してくださいね。私は、いつでも、いつまでも、おそばにいますから……愛していますわ」
両手で優しく彼の頬を包み、濡れた唇で彼女は接吻をした。二人は同時に目を閉じる。
「んっ、んんっ！うぅっ、うぅぅっ……！」
彼が、唇の隙間から快楽のうめきを漏らす。睾丸が収縮し、漏れるように精液が放たれた。とぷとぷと音を立て、それは外に一滴も漏れることなく、直接子宮に注がれる。
「ちゅっ、ちゅっ……ざーめん、おいひいざーめん……どぷどぷ♥ってでたぁ……」
膣肉を根元から締め、排出されなかった精液を搾る。
「んっ、のこりも、おいひく、いたらきまふ」
彼の唇に吸い付きながら、子宮口で亀頭に感謝のキスをする。
このとき、彼の体に変化が起きていた。
――あれ、体が軽くなって、目が冴えてきた？
何週間も彼を苦しめていた体の重さがなくなり、今抱いている人形を買う以前の状態、もしくはそれ以上の健康体になっていることを、彼は自覚した。
「目を、見せてください」
まぶたを上げた彼女が、囁く。言われた通りに彼が目を開くと、彼女はその瞳をまじまじと眺めた。
「あはっ、インキュバスに、なりましたね」
「インキュバス？さっきから何回も言っているけど、それって……」
彼女は、説明をした。この世界に潜む魔物のこと、魔物は人間が大好きであること、そして、インキュバスのこと。
「ごめんなさい。お兄様を苦しめるつもりはなかったのですが、まさか、私の魔力にあんな呪いがあっただなんて」
しゅんと、彼女がうなだれる。
動く人形、リビングドールの魔力は、サキュバスの突然変異種であるアリスと相性がいい。彼女、メリーの魔力はアリスのものと親和性が高く、愛し合った相手の記憶を無意識のうちに消してしまう副作用があった。
「でも、お兄様は、私の呪縛を解き放ってくださった。やはり、運命は正しかったのですね」
うっとりとつぶやき、彼女は体を抱き起していた彼の体に、華奢な両腕を回した。
「ずっと、一緒ですよ。お兄様♥」
二人はつながったまま、いつまでもいつまでも、互いを優しく抱きしめ合っていた。
◆ ◆ ◆
取材を終えると、佐野さんは隣に座っていた彼女、メリーを連れ帰って行った。
二人はしっかりと手をつなぎ合い、幸せそうな笑顔を浮かべながら歩いていた。
近頃、街行く人々から、笑顔が増えているように思える。
そして、街に漂う魔力も、日に日に濃くなっている。
この世界が、お母様の理想とする、魔物と人間の共存世界に変わるのは、時間の問題であろう。
これで百話集まった。お母様も、きっとこの本を読んでお喜びになるに違いない。
佐野さんがその人形を見つけたのは、偶然入った骨董品店だった。
日曜日、彼は友人と遊びに行く約束をしていたのだが、相手の急用により、キャンセルとなってしまった。待ち合わせ場所で時間を持て余した彼は、特に目的もなく街を散策することにした。
今思い返すと、特に目立った外観ではなかったという。大通りから一本逸れた路地の、よくある雑居ビル。骨董品店は、その二階だった。
「看板を見て、入ろうと思ったわけではないんです。何となく入って、ようやくそこが骨董品店であると気付いたんです」
彼が骨董品店と聞いて、おぼろげながら浮かぶイメージ。店内はそれとほぼ違わないものであった。
壺。掛け軸。彫刻品。机。椅子。そのどれもが古めかしく、何十年もの歳月を感じさせるものばかりであった。
「一際目立っていたのが、その人形でした」
入口から続く、他人とすれ違うことすら苦労するほど細い通路。その一番奥に、人形があった。
「初めは、子供が座っていると思いました」
佐野さんがそう勘違いするほど、その人形は精巧で、大きさも本物の子供と同じであった。彼がそれを人形と何とか判別を付けられたのは、わざとらしいほど人形らしく作られた球体関節のおかげであった。
「そうは言っても、僕の目に見えたのは、指の関節だけでしたが」
人形は、ドレスを身にまとっていた。フープ・スカートと呼ばれる、裾が丸く広がったスカートをはいており、腹部はコルセットを巻いているかのように細く、肩と腕がゆったりとしたブラウスを着ていた。白と青を基調としており、手首やスカートの裾といった要所に、金をあしらっていた。
髪はドレスに使われているものよりもさらに綺麗な金髪。腰までかかるほどの長さで、手入れの行き届いた癖のないストレートだった。
「一目見て、絶対に買わないといけないという気分にさせられたんです」
彼には人形を集めるという趣味はない。しかし、それでも彼は、その人形を絶対に手に入れないといけないという、強迫観念にも似た衝動に襲われたのだという。
「それに、店員がすごく美人で。ぽんと景気よく買って、いいところを見せたくなってしまったんですよね」
店員はハーフと思しき女性で、綺麗な銀髪と、人形に負けないくらいの白い肌だった。
「気が付いたときには、すでに人形を購入し、家に向かって歩いていました」
人形としては巨大ともいえるサイズだったため、木のケースに入れ、取っ手のついた台車に乗せ、キャリーバッグの要領で運んだ。
「家に着いた瞬間、猛烈に後悔したんです」
財布の中身を見ると、家を出る前よりも一万円札が五枚減っていた。
その上、彼は言い知れぬ不安感を覚えた。
「だって、球体関節とはいえ、それ以外は完全に人間そっくりですからね。そういうの、不気味の谷って言うんでしたっけ？」
材質はセルロイドだろうか、つるつるとして硬い感触だった。
「本当はすぐにでも捨てたかったんですけど、やっぱり、大金払って買ってしまったものですからね。もったいなくて」
唸るほど悩んだが、結局部屋に放置したまま、その日は眠ることにした。
それから一週間が経った。
佐野さんは、癒えることのない倦怠感に悩まされることになった。
「きちんといつも通りの睡眠をしているんですけど、全く疲れが取れないんです」
仕事のミスが増えるようになった。
思い当たる節は、あの人形しかなかった。
彼はその日の内に、人形をアパート前のゴミ捨て場に置いた。
「ちょうど粗大ごみの日でしたから。当然、箱に入れて捨てました」
彼はこれで、ようやくぐっすり眠れると思ったという。
その日の夜。彼は自分の呻き声で目を覚ました。普段の倦怠感が何倍も強く感じられ、全身が汗で濡れていた。
枕の横から、強烈な視線を感じる。そちらへ目を向ける。
布団と壁の間。畳の上に、人形が座っていた。
「恥ずかしいことに、生まれて初めて気絶してしまいました」
気付いたら、朝だった。
以降、月に二回ある粗大ごみの日のたびに人形を捨てていたが、全てその日の内に戻ってしまった。
全身のだるさは、捨てるごとに強くなっていき、ついに家から出るのも億劫になってしまった。
「このままでは、絶対にまずいと思いました」
人形を買ってから五回目の粗大ごみの日に、彼は一計を案じた。
部屋にビデオカメラを設置することにした。
「さすがに、人形が一人で歩くなんてことは信じていませんでしたから。悪意ある誰かが、部屋に持ち込んでいるのではないか、カメラで分かると思って」
彼は持っていたカメラを、箪笥の上に設置した。侵入者に発見されないよう、段ボール箱を置きカムフラージュする。
簡単な作業であったが、設置を終え脚立から降りる頃には全身が悲鳴を上げていた。
寝てしまおう。そう思い、リモコンの録画開始ボタンを押し、倒れこむように布団に横になり、意識を手放した。
部屋に差し込む朝日で目を覚ました。
疲れはさらに増したように思える。視線を枕元に移すと、やはり人形が座っていた。背筋に悪寒は走るものの、もはや見慣れた光景であった。
重い体を何とか持ち上げ、箪笥の上のカメラを下ろす。
ビデオモニタで確認すると、ちゃんと布団に倒れこむ自分が見えた。
早送りをする。録画時間が一時間を迎えるあたりまでは、寝返りをする自分以外に全く動きがなかった。しかし、一時間と五分が経過したとき、動画に動きがあった。
「僕が、布団から立ち上がったんです」
すぐに早送りをやめ、動画を眺める。起き上がった自分は、ゆっくりとした動作で部屋から出て行ってしまった。
自分は夢遊病だったのかと、呆然と録画を見つめる。
二十分ほど経過したところで、玄関扉が開く音がした。出ていったときと同じくらいの速さで、自分が部屋に戻ってくる。
「僕が、人形と手をつないで戻ってきたんです」
右手で人形の手をしっかりと握り、並んで歩いてきたのだ。人形はまるで、生きている幼女のように自立して動いており、動画の中の彼を見て、うっとりとほほ笑んでいた。自分も、彼女の方を向いて笑みを浮かべていた。
二人は布団に対面して座る。互いの顔を寄せ合い、唇を重ねた。
◆ ◆ ◆
「ちゅく、ちゅく……れるる」
二人は唇を触れ合わせ、舌を絡め合わせる。
「はぁ、はぁぁ……」
一息。顔が離れる。彼女の柔らかな唇が形を戻し、唾液に濡れ光る。
「メリー」
男が名を呼ぶ。
「うん、もっと、もっと私の名前を呼んで」
うっとりと目を潤ませ、メリーと呼ばれた人形が言う。
しかし、彼女は人形であって人形でない。つるつるであった肌は、柔らかく温かくなっている。胸は激しく上下し、熱い吐息が漏れる。
「メリー、ごめん」
男は頭を下げる。
「いくら覚えてなかったとはいえ、メリーを捨ててしまうなんて」
それを聞いて、彼女は声を漏らし笑う。
「ふふ、全く気にしていませんわ。お兄様のことですもの。必ず連れ戻してくれると信じていました」
でも、と彼女は言葉を続ける。
「ほんの少しだけ、不安でした。ひょっとしたら、今度こそ、私をお捨てになるのではないかと……。本当に、お別れになってしまうのではないかと、少しだけ、怖くて」
彼女が、彼にすがりつく。
「ですから、いっぱい、甘えさせてください。愛してください」
彼の顔を見上げる。彼女の瞳には、獣欲にまみれ、濁った色で女を見ている、男の瞳が映った。
彼女の体が、小さく震えた。しかし、彼女の顔は嬉しさでとろけている。その震えは恐怖からくるものではなく、これから自分が乱暴に犯されることを理解したことによる歓喜のためだった。
「あっ」
布団の上に、彼女が押し倒される。驚きと期待で、彼女から声が漏れる。男がその上に覆いかぶさり、乱暴に彼女のスカートを引っ張り上げる。
彼の目には、疼いた子宮から漏れ出る愛液によりべたべたになった彼女の下着が見える。
「お兄様のお好きなように、どうぞ……」
顔を真っ赤にさせ、メリーはまくり上げられたスカートの裾を唇で挟んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……！」
男は荒く息を吐きながら、彼女の肩を押さえる。Ｍの字に開脚している彼女の下半身、ひくつかせながら中を覗かせる膣に、彼は迷うことなく自らの剛直を突き入れた。
「ぐっ、うぅぅっ！」
男が喉から絞り出すように声を上げる。
挿入するまでは早かった。しかし、亀頭が膣口に迎え入れられた瞬間から、彼の腰の前進はひどくゆっくりとなった。
飢えた膣が、待ちわびていたものを熱烈に歓迎したからだ。肉が締まり、襞が逆立ち、侵入してきたもの全てに強い抵抗を与える。
「くぁ、あぁぁ……」
溜息のように、男は安らいだ声を漏らす。抵抗は強いが、与えられる刺激は心地よく、甘美なものなのであろう。
「はいって、きたぁ……。お兄様の、おちんちん……」
鼻から甘い吐息を出し、メリーはうっとりと甘い声を出す。
亀の歩みのように鈍く、腰が突き出される。何分もかけ、ようやく二人が密着する。
「うっ、ううっ」
その瞬間、男は全身を震わせ、歯を食いしばる。二人の接合部からは、白い粘液がわずかに漏れた。
「あは、はぁぁ……。出して、しまわれたのですね」
表情をとろけさせ、彼女が言う。腕を伸ばし、彼の体を優しく抱き寄せる。
「お兄様の精液、大変美味ですわ。もっと、もっと、私の中に放ってください」
彼は小さくうなずく。力強く彼女を抱きしめると、本能のままに、腰を激しく前後させた。
◆ ◆ ◆
佐野さんと人形の性行為は、何時間も続いた。
彼は、口を閉じるのを忘れ、映像を眺めた。
「何しろ、全く記憶にない映像でしたから。まさか、僕が人形とそういった行為をしているだなんて」
早送りにするが、一向に終わる気配がない。
前に後ろに、上に下に、体位を入れ替え、いつまでも映像内の二人はつながり続ける。
やがて、玄関横の窓ガラスに、陽光と思しき光が漏れるようになった。朝になったのだ。
そのころになると、映像はほとんど動きがなくなる。映像の中の佐野さんが、つながったままの状態で、仰向けの腹の上に、人形を寝かせていた。
録画映像の終盤、人形が立ち上がった。彼の下半身に衣服を着せ、布団をかぶせる。枕元へ移動し、壁を背にして足を投げ出して座り、ぴくりとも動かなくなった。
直後、佐野さんが体を起こす。頭を押さえ、重い体をひきずるようにして箪笥に迫ると、カメラの横へ手を回し、映像が終了した。
「背筋に悪寒が走りましたよ。人形が動きを止めてから僕が録画を止めるまで、一分とかかってませんでしたから」
彼は、背後に強烈な気配を感じた。
◆ ◆ ◆
彼は、背中から優しく抱きしめられた。
「ようやく、気付いてくださったのね」
アイスクリームのように甘くとろけた、小さな女の子の声がする。
「あ、ああ……」
喉が震え、声がかすれる。
――動けない。
金縛り。動く人形の存在を背中で感じながら、彼は指一本動かすことができなくなっていた。動くのは喉と、眼球のみ。
「大丈夫ですわ、心配なさらないで」
彼の体から腕が離れ、背後の感触が消える。
視界の右側から、気配と感触の正体が現れた。
「人形……」
ぐぐっと、喉が鳴った。あの人形、彼が何度も捨て、何度も戻ってきた人形が、彼の顔を嬉しそうに覗き込んでいた。
「お兄様、初めまして」
柔らかく、人形がほほ笑む。
「本当は、何度もこうやってお話ししているんですけどね」
ふふっと、声を漏らし笑う。
「朝になると、お兄様、私とお話したことを忘れてしまわれますから」
でも、今日からは違います、と彼女は言った。
「お兄様は、私の魔力の影響の外で、動く私を見てくれた。私の存在を自覚してくれた……。呪縛が、解けたんです」
だから……と彼女は続けた。
「今日からは、ずっとずっと、一緒です」
彼の前に回り込んだ人形は、彼のズボンのチャックをゆっくりと下ろし始めた。
「おい……一体何を……」
「うわぁ……♥」
彼の言葉は、彼女の歓声によってかき消された。彼女の眼前に、大きくそそり立ったペニスが現れる。
「すごい、もうこんなに大きくされていたのですね」
彼の顔が羞恥で真っ赤に染まる。
目の前の少女との性交映像を見て、彼の性器はすでに準備を整えていたのだ。
「はぁぁ、おちんちんさまぁ、さっきぶりですねぇ……はむっ」
口を大きく広げ、彼女は亀頭を口に含んだ。
「あうっ」
敏感な部分に刺激が与えられ、彼は小さくうめく。
「はむっ、じゅるっ、ちゅぅぅ……。はぁぁ、お兄様のおちんちん、エッチな匂いがします。さっきまで、いぃっぱい、私を愛してくださりましたものね」
唇を離すと、愛おしげに、彼女はペニスに口づけをする。二度、三度……。触れるたびに、金縛りになっている彼の体が、快楽により震える。無意識の反応は、彼女の魔力の影響を受けない。
「れろぉ……。あは、味もとっても、エッチです。精液のあまぁい味、好きですよ」
舌を伸ばし、幹を根元から舐め上げる。舌先がカリに当たると、ペニスがぞくりと大きく動いた。
「はい、存じ上げております。お兄様は、ここが大好きですものね」
くるくると、時計回りにカリを舌先でくすぐる。
「はっ、ぐっ、うぅぅ……」
顔を反らし、彼は彼女の口淫に酔いしれた。
「お兄様は、ここもお好きでしたよねぇ……。ちろちろ」
次は、裏筋を上下に舐める。
「な……何で……こんな、気持ちいいところばかり」
「お兄様が教えてくださったのですよ？私に、何度も、何度も」
にぃ……と、青い瞳が細くなる。
「何度もって、まさか、俺がお前を捨てるたびに……録画のようなことを？」
ぞっとする。
――まさか、僕が、そんな……人形と性交する男だったなんて……。
人形は、首を左右に振る。
「違いますわ」
ホッと彼は胸を撫で下ろす。
「ええ、違いますとも。捨てるたびではありません。毎日です」
彼の体が強張る。
「ああ、そうでした。お兄様は覚えていませんものね」
目を潤ませ、彼女がほほ笑む。
「私とお兄様は、毎日、朝まで、ずぅっと愛し合っていたのですよ。捨てられた日は、いつもより激しく……」
彼は、自分の疲れの原因を理解した。毎日、幼女と夜通しセックスをしていたのだ。
――そりゃあ、疲れるわけだな。
でも、と彼女は続ける。
「今日、呪縛は解けました。もう心配はいりませんよ」
大きく口を開き、ペニスを根元まで頬張る。
「おにいひゃまは、今日で、インキュバスになれまふからね」
舌に濃厚な唾液を絡め、口をもごもごと動かす。
――人形のはずなのに、舌が、ぷりぷりで、温かくて……。
彼は――記憶している限りでは――女性経験がないが、彼女の口内は、少なくとも人形の感触ではなかった。人肌よりもやや高い温度。ペニスだけではなく、全身がとろけてしまいそうになる柔らかさ。その中で、確かな刺激を与えてくる、厚い舌。魂が吸い取られそうになるほど激しい吸引。
「んもっ、じゅっじゅっじゅぅぅぅ……！」
喉の奥まで亀頭を咥え入れ、喉を締めながらのバキュームに、彼はいとも簡単に屈してしまった。
「あぐっ、ぐぅあぁぁぁぁ！」
彼の腰が力強く跳ねる。同時に、彼女の食道に直接流し込むように、大量の精液が放たれた。
「んっ」
射精の勢いで喉の最奥の壁が叩かれるが、それを一切苦痛に感じないまま、喉を上下させる。
まぶたが半分ほど下り、青空のような瞳が、情欲と歓喜で濁る。
「ごくっ、ごくっ……ふぅぅ……」
喉を二度鳴らし、大きく鼻から息を吐く。空気に触れることなく飲み込まれた精液の、混じり気のない香りが、彼女の思考をぼやけさせる。彼以外のことが、何も考えられなくなる。
「ごくっ、ごくっ……んんー……ちゅぽっ」
ゆっくりと漏れる精液が止まると、尿道を外から舌で絞り、吸引しながら口内から性器を解放した。
「はぁ、はぁぁ……美味しい。全部、残さず、飲んでしまいました」
言葉を証明するかのように、口を広げ、彼に中を見せつける。そこには、白い精液は一滴も残っていなかった。
彼は、肩で大きく息をついた。射精により、金縛りの魔力はほぼ解けていたが、精神力を全て削るような口淫に、逃げる余裕は残っていなかった。
「あら、お兄様」
妖しい笑みを浮かべ、彼女は視線を下ろす。その先には、いまだ硬さを失わないペニスが立っていた。
「まだ、萎えませんのね」
一つ溜息をつくと、嬉しそうな表情のまま、球体関節の指が、彼の肩を押した。
「仕方ありませんわね。お口で満足しないのならば、もう、こちらで」
彼の体を布団に横たわらせると、彼女は自らのスカートを持ち上げ、唇で裾を挟む。録画とは違い、その表情は、自分が上位者であるという、嗜虐心を孕んでいた。
さらに見せつけるように、両方の人差し指で、まだ幼く無毛の女性器を割り開く。粘度の高い液体が、ひくつく桃色の穴から糸を引いて滴った。
「わらくひのおまんこで、楽にひてさしあげないと、いけまふぇんわね」
膝を折り、腰を下ろす。
ひたりと、膣の粘膜が、亀頭に触れた。
「うあっ……」
思わず、彼が悲鳴を上げる。
――何だ、これっ……！口よりも熱くて、ちゅっちゅって、吸い付いて……！
甘噛みするように、膣肉が、ひくひくと閉じたり開いたりを繰り返す。
「はぁぁ、お兄様の、あつぅい……」
裾から唇を離す。粘り気のある唾液が、裾から一本の糸を伸ばした。
「お兄様、よく、見ていてくださいね。お兄様の、本当の、童貞卒業」
えいっ、と小さく声を出すと、重力に任せ、彼女は一気に腰を落とした。
ぞりぞりと逆立つ肉のひだが、熱烈に異物を歓迎する。
「はぁっ、あぁあ゛っ！」
喉を絞るように、彼がうめいた。弱い部分が一度に刺激され、快楽の神経が焼き切れるほどの衝撃を受けたからだ。
「んくっ、うぅぅんっ！」
彼女も、同時に声を上げる。目をぎゅっと閉じ、端からは歓喜の涙が漏れる。
「はぁぁ……いっきに、おまんこ奥まできたぁ……」
目を薄く開き、彼女は表情を緩めさせる。
「はい、お兄様、これで、童貞卒業です♥」
彼女が満面の笑顔を浮かべる。
「あとは、インキュバスになるまで、思う存分、くちゅくちゅどぴゅどぴゅ……です♥」
まずは、と彼女がつぶやくと、ぬるぬるの刺激が強まった。
「おまんこのお肉で、もみもみ、もみもみ……」
「あうっ、うぅっ」
挿入時よりもずっと弱い刺激であったが、それだけで彼はこらえきれない呻き声を上げた。
「さっき、いっぱいびゅーってなされましたからね。ゆぅっくり、ゆーっくりっ……」
ぬちゅ、ぐちゅ……と、スカートに隠れた接合部から、小さな音が漏れる。
「はぁ、すっごく、エッチですわね。外からは全く動いて見えないのに、中はとろとろぐちゅぐちゅ、なんですもの」
ペニスの根元から先端まで順番に締め、緩み、また順番に締める。何度も繰り返すと、次は亀頭だけを重点的に、すり潰すように強めにもみほぐす。
「こんなのは、いかがでしょうか？」
くすりとほほ笑むと、カリと裏筋が、同時にくすぐられた。
「うぁっ、これ……！」
彼が声をだす。
「お口で順番にしたのを、同時にやっているんですから、絶対に気持ちいいですわよね、これ」
ぺろりと舌を出し、彼女は自らの唇を舐めた。唾液に濡れ、しっとりと光る。
「出したくなったら、いつでも出していいですからね」
彼女が体を倒し、彼の耳元に唇を近付けた。
「お兄様、全てのことを忘れて、私だけ見てください。私だけ、愛してくださいね。私は、いつでも、いつまでも、おそばにいますから……愛していますわ」
両手で優しく彼の頬を包み、濡れた唇で彼女は接吻をした。二人は同時に目を閉じる。
「んっ、んんっ！うぅっ、うぅぅっ……！」
彼が、唇の隙間から快楽のうめきを漏らす。睾丸が収縮し、漏れるように精液が放たれた。とぷとぷと音を立て、それは外に一滴も漏れることなく、直接子宮に注がれる。
「ちゅっ、ちゅっ……ざーめん、おいひいざーめん……どぷどぷ♥ってでたぁ……」
膣肉を根元から締め、排出されなかった精液を搾る。
「んっ、のこりも、おいひく、いたらきまふ」
彼の唇に吸い付きながら、子宮口で亀頭に感謝のキスをする。
このとき、彼の体に変化が起きていた。
――あれ、体が軽くなって、目が冴えてきた？
何週間も彼を苦しめていた体の重さがなくなり、今抱いている人形を買う以前の状態、もしくはそれ以上の健康体になっていることを、彼は自覚した。
「目を、見せてください」
まぶたを上げた彼女が、囁く。言われた通りに彼が目を開くと、彼女はその瞳をまじまじと眺めた。
「あはっ、インキュバスに、なりましたね」
「インキュバス？さっきから何回も言っているけど、それって……」
彼女は、説明をした。この世界に潜む魔物のこと、魔物は人間が大好きであること、そして、インキュバスのこと。
「ごめんなさい。お兄様を苦しめるつもりはなかったのですが、まさか、私の魔力にあんな呪いがあっただなんて」
しゅんと、彼女がうなだれる。
動く人形、リビングドールの魔力は、サキュバスの突然変異種であるアリスと相性がいい。彼女、メリーの魔力はアリスのものと親和性が高く、愛し合った相手の記憶を無意識のうちに消してしまう副作用があった。
「でも、お兄様は、私の呪縛を解き放ってくださった。やはり、運命は正しかったのですね」
うっとりとつぶやき、彼女は体を抱き起していた彼の体に、華奢な両腕を回した。
「ずっと、一緒ですよ。お兄様♥」
二人はつながったまま、いつまでもいつまでも、互いを優しく抱きしめ合っていた。
◆ ◆ ◆
取材を終えると、佐野さんは隣に座っていた彼女、メリーを連れ帰って行った。
二人はしっかりと手をつなぎ合い、幸せそうな笑顔を浮かべながら歩いていた。
近頃、街行く人々から、笑顔が増えているように思える。
そして、街に漂う魔力も、日に日に濃くなっている。
この世界が、お母様の理想とする、魔物と人間の共存世界に変わるのは、時間の問題であろう。
これで百話集まった。お母様も、きっとこの本を読んでお喜びになるに違いない。
13/06/03 20:06更新 / 川村人志