読切小説
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ブラザーにうずく
 実の弟と、性的な関係を持ってしまった。
「はぁ……」
 ため息をつく。
 といっても、別にあいつと関係を持ってしまったことに微塵も後悔はない。誘ったのは私なんだし。
 弟の部屋に入って、オナニーに使えるオカズはないかと探していたら、ベッドの下からエロ本を発掘。
 しかも内容は姉弟物ばかり。
 その上弟がちょうど家に帰ってきてその様子を見られてしまったら、襲う以外に選択肢はないでしょう。
 と、自分を正当化しようとするが、ため息は止まらない。
 処女と童貞を捧げあって、見事初エッチで同時絶頂。
 最後の方なんかは、あいつの口から「お姉ちゃん大好き!」なんて素直な言葉まで飛び出しちゃって……。
 それに気をよくして、二回戦を始めようとしたのがまずかった。
――まさか、母に見られるとはね。
 どちらかというと、高校生の私よりも中学に入ったばかりのあいつの方を可愛がっている両親。
 思い切り私たちを引き剥がし、彼を連れて行ってしまった。
 私は気まずくて、それから自分の部屋に篭りきりである。
「はぁ……これからどうしよ」
 先ほど、父が帰ってくる音がした。
 母は、私とあいつがヤったことを報告するのだろう。
 両親に顔を合わせたくない。

 すっかり部屋が真っ暗だ。
――電気をつけることすら忘れてたんだな。私。
 腰掛けていた勉強机の椅子から立ち上がり、部屋の明かりをつけようとしたとき。
 カーテンが開いている窓に、何か光るものがあった。
 外の光が入ってきているのだろうか。
 いや、違う。
 この横に並んだ二つの光……室内のものだ。
 ぱちり、と光が明滅した。そしてそこから
「こんばんはー」
 声がした。
「えっ」
 驚いて、思わず後ずさりしてしまう。
 光の正体が、そんな私にじりじりと近づき。
 パチン。電灯の紐を引っ張り部屋の電気を灯した。
「あ……」
 悪魔!私が目の前の相手を見て最初に思ったことはそれであった。
 体は人間の女性のものである。しかし、人間ではありえない証がいくつも付いていた。
 頭には角。腰には翼と尻尾。
 珍妙なコスプレ女もいたものだと思ったが、質感が本物としか思えないほどしっかりしていたし、何より翼は自在にはためき、尻尾は重力に逆らってくねっているのだ。
 どう見ても本物だ。
「サキュバス」
「え?」
 唐突な相手の言動。思わず聞き返してしまった。
「だから、私は悪魔じゃなくてサキュバスなんですよ」
 心外であるといった口調で、頬を膨らませて彼女は言った。
 しかし、それ以前に気になることがある。
「あんた、4組の野村さんでしょ?野村春奈」
「ぎくり」
 サキュバスが目に見えて狼狽し始めた。
 そう、私は目の前のサキュバスに見覚えがあるのだ。
 隣のクラスの野村春奈。
 かつては学校のアイドル的存在であったが、最近持ち前の明るさがなくなっていて、その上彼氏もできたという噂が立っている。
 そのせいで、男子の間で人気ががた落ちしてしまったらしい。
 同じクラスの人間とすらあまり接さない私には、彼女に対する情報はこのような噂レベルのものしかない。
 むしろ、別クラスなのにフルネームを知っているという時点で奇跡に値する。
 それだけ、彼女はかつては学校内で目立つ存在だったのだ。
 しかし、噂が立ち始めたころから、彼女の話をさっぱり聞かなくなった。
 いや、それよりも……もっと気にすべき点があった。
「あんた。どこから入って来たの」
 いくら電気を付け忘れるくらい呆けていたとはいえ、さすがに窓の鍵はきちんとかけていたはずである。
 それに、私はずっと扉の方に視線を向けていた。よって、扉からわざわざ入って真反対の窓側に移動することも難しい。
 そもそも、家族がそれを気付かないはずがないし、許すはずもない。
「どこからって、窓からですよ?ほら」
 野村さんはそう言うと、勢いよくこぶしを窓ガラスへと突き出した。
「あっ!」
 割れる!と叫ぼうとした瞬間。
 彼女の腕は音も立てずするりとガラスをすり抜けてしまった。
「こうやって」
 意地の悪い笑みを彼女は浮かべる。
 人気者というのは、みんなこう性格が悪いのだろうか。彼女の場合は元人気者なんだろうが。
「それで、何しに来たの」
 私はまた問いかけた。
 正直、まだ彼女が本当に悪魔……じゃなくてサキュバスだということを信用していない。
 それに、窓を突き抜けて侵入したなんて馬鹿馬鹿しい種明かしも一切信じていない。
 しかし、こんな格好をして、よく分からない理由をつけてまで私の前に姿を現す理由はあるはずだ。それならば、聞いて理解できるだろう。そう思っての質問である。
「さっき一階の様子を見たんですけどぉ、可愛いですねぇ、弟さん。名前は……九郎(くろう)君でしたっけ?」
 そのときの私の顔は、今までの人生で一番怖いものであったと思う。
 眉間にしわを寄せ、キッと彼女をにらみつけた。
「あんた……私の弟に何を」
「弟君と、結ばれたくありませんか?」
 一世一代の大啖呵を、あっさりとさえぎられてしまった。
「え?」
 そして、聞き捨てならないセリフを彼女は吐いた。
「あなた、彼のこと、愛しているんでしょ?」
 あくまで笑みを絶やさず、しかし口調は真剣そのもので、目の前の悪魔は囁いた。
「どうして……」
 その言葉を聞くと、彼女は舌をぺろりと外へ出し、唇をなめていった。
 笑みは絶やさない。しかし、その質が一瞬で変化したように感じた。
 先ほどまでは、いたずらっ子のような無邪気なもの。しかし今は、娼婦のような―実際に見たことはないが―淫乱さをもったものであった。
「だってぇ……あなたから精子の美味しそうな匂いがぷんぷんするんですもん……」
 うっとりとまぶたを下ろし、甘ったるい声でつぶやいた。
「いっぱい、中に出してもらったんでしょ?あなたの股間から、濃厚な香りが漂ってますよぉ」
 顔を私の目の前に突き出し、くんくんと鼻をひくつかせて言う。
「……」
 私は、息を詰まらせることしかできなかった。図星であったからだ。
 私は処女であったし、九郎は童貞であった。
 二人とも恋人がいない年月と、今まで生きてきた年月が完全に一致していたので、コンドームなんてものは持っていなかった。
 そして、私は騎乗位で快楽を貪り、何度も中に出してくれとねだった。
 Tシャツのおなかの部分を強くにぎる。ぎゅっと子宮がうごめき、中の精子がたぷんと動く感触がした。
 精子が子宮の奥壁を叩く感触を思い出し、ごくりと唾を飲み込む。
「でも、ご両親に見つかった……まあ、これは推測なんですけど」
 でも、当たらずとも遠からずでしょ?と彼女はふふっと笑う。
「それで……私をどうするつもりなの……?」
 ようやく閉ざしていた口を開き、搾り出すように声を発した。
「ですから……あなたと、九郎君の恋を成就させようと、私はここに来たんですよ」
 彼女の腰から生えた翼が、ばさりと大きくはためいた。
「このぉ……サキュバスの力で」

「それじゃあ、力を抜いてくださいねぇ」
 ベッドの上で仰向けに寝転んだ私を見て、彼女は言った。
 結局、彼女の提案を受け入れることにした。
 私の中に魔力を入れて、彼女の仲間……つまりサキュバスにする。
 正直、いまだに彼女の言い分を信じているわけではない。しかし、このままでいても何も解決しないというのが分かっているせいか、自暴自棄に近い心理状態になってしまっていたのだ。
 とりあえず、彼女の言う通りにしてみよう。そう思ったのだ。
「あ、そういえば……一つ聞いておきたいことがあるんですけど」
 彼女の突然の言葉に、私は視線で続きをうながす。
「ファーストキス、ちゃんと済ませてありますか?」
「え?」
 あまりにも唐突な質問に、声が裏返ってしまった。
「それ、答えなくちゃいけないの?」
 彼女は何度もうなずいた。
「はい。とっても大事なので」
「……」
 沈黙が辛い。
 彼女はじっと私の目から視線を外さないで、答えを待っている。
 何かしら返答をしないと、この沈黙が永久に破られない気がした。
「……済ませた。ちゃんと九郎と、キス……した……」
 顔が熱い。
「それじゃあ、大丈夫ですね」
 彼女がそう言うと、次の瞬間、私の唇は温かな感触につつまれていた。
 これは……この柔らかい感触は……まさか。
「んっ!んん!んーっ!」
 じたばたともがき、何とかそこから逃れようとする。しかし、彼女の腕が、足が、それを許さなかった。
 そんな細い体のどこにそんな力があるのかというばかりに、私の体が彼女の四肢でがっちりと固定されている。
 手足が動かないのなら……ここで私の防衛本能が働いた。
「いっ……!」
 歯をむき出し、私は彼女の唇に噛み付いた。
 鉄の味が口内に伝って落ちる。
 彼女は思わず私の顔から離れていった。
「ちょっと……何するんですかぁ……!」
 眉をひそめ、口に手を当てて抗議してくるが、彼女がいきなりキスをしてきたのが悪いので、私は謝らなかった。
「もう、本当に……」
 目を見開いてしまった。
 手を離し、私の視界にさらされた彼女の唇。
 噛まれたところから真っ赤な血を流していたが、その傷がみるみるふさがっていったのだ。
「私がサキュバスじゃなかったら、大変なことになってましたよ?」
 驚異的な再生力。私はただ口をぱくぱくとさせて驚くしかなかった。
「次は、ちゃんとキス、させてくださいね?」
 彼女は手の甲で顎の血液をぬぐった。
 もはや、怪我をしていたなんて信じられないくらい、まっさらになった彼女の顔。
 それが近づいて……
「んっ……」
 私に重なった。
 それは、キスというよりも、人工呼吸に近かった。
 私の唇に、彼女の開いた口がおおいかぶさるように重ねられている。
「ふぅ……」
 彼女の喉奥から、吐息に混じって何かが漏れ出た。
 それが私の口内に侵入し、肺へと進んでいく。
「んっ!ふぅっ!」
 その瞬間、全身がびりびりと痺れるような感触に包まれた。
――何これ……すごいっ!
 胸の中でばちばちと弾けるように熱が生まれて……
 心臓の鼓動に合わせて、血液のように熱が広がって……
 しばらくすると、熱が腰の後ろと頭に集まって……
 あっ、熱が集まったところがビリッビリッて痺れて……
 気持ちいい……あぁ……ざわざわと何かが生えるような感覚が……
「ふふっ、さっそくサキュバスの体に病みつきですねぇ……ほら、ここ、触ってみてください」
 春奈が私の手を取り、私の頭へと導いた。さっきから甘く痺れる場所。
 髪の毛の間から、硬い何かが生えていた。
「なにぃ……これぇ……」
「角ですよ?サキュバスの角です」
 彼女がそう言っている間にも、めりめりと角が頭の皮膚から伸びてきている。
「つのぉ……?つのぉ……めりめり、きもちいぃ……」
 順調に魔物化してきているのに。人間をやめつつあるのに、私はもうそれどころではなかった。
――気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい!
 角が出るのが気持ちいい。腰の痺れも気持ちいい。
 何かが生える感覚が気持ちいい。
 びりびり痺れて気持ちいい。
 快楽が我慢の限界まで駆け上がり、目の前でバチバチと火花が散った。
 春奈の笑顔がスパークする。
 慈愛に満ちた顔。愛する我が子に向ける顔。
 いや、まさにそうなのだろう。彼女の力で、私……魔物になっちゃう。
 春奈の……お姉さまの力でぇ……サキュバスになっちゃう……
 あっ、痺れが強くなってきたっ、すごいっ、すごいっ、びりびりひゅごいっ、魔物化しゅごいっ!
 イくっ、イくっ、魔物化でイきゅっ!お姉さまの前でぇ、びりびりびくびくしてイっちゃうぅ!
「あっ、あぁっ、あぁあ゛ぁぁぁ!」
 体が大きく一度跳ね、海老反りになって絶頂した。
 腰が浮いた瞬間、圧迫がなくなったそこから、ばさりと音がして風が起こる。
「あぁら、とっても綺麗な翼ですねぇ。それにぬらぬらとエッチな尻尾……」
 あぁ……お姉さまに褒めてもらえた……
「お姉さまぁ……ありがとうございますぅ……」
 ひくひくと何度も震え、絶頂の余韻に浸る中、何とかそれだけをつぶやいた。

 午前二時。私は全裸で、一階の両親の部屋の中で立っていた。
 二つの布団に、両親と九郎が川の字になって眠っている。
 母は、九郎の腰に腕を回し、守っているかのような寝姿であった。
 忌々しいことこの上ない。
 でももう大丈夫。サキュバスの力さえあれば、どんな障害も取り除くことができる。
 サキュバスになる前に中出ししてもらった精液で、たいていの魔法は使える状態だと、お姉さまは言っていた。
――難しいことは考えなくていいですよ。ただ、今一番したいことを願えば、それが魔法になるんです。
 お姉さまのありがたいお言葉を、心の中で反芻する。
 そして言われた通り、今一番したいことを考えた。
――九郎とセックスしたい。
――父と母に邪魔されることなく、二人っきりでいちゃいちゃしたい。
――好きだって言いたいし、愛してるって言われたい。
――はぁ……はぁ……おちんちん、しゃぶりたい……
――でもぉ、その前にキスぅ……
――舌を絡ませあって、唾液でぬちゅぬちゅにして……
――ぬとぬとになった口で愛情たっぷりのフェラチオをして……
――精液、ごくごく飲みたい……
――もちろん、上の口で味わったら、下の口にいっぱい……
「うぅーん……あれ……お姉ちゃん?」
 あっ、九郎が起きた。
 そう思った次の瞬間、私と九郎の二人を残し、全ての世界が暗転した。
 暗闇の中に、私たちだけが浮かんでいる状態。
 だが、真っ暗闇だったのは一瞬だけだった。
 すぐにぼんやりと色が浮かび始め、しばらくするとぼやけた輪郭がはっきりとしてきた。
 立方体に区切られた空間。その中に私たちはいた。
 壁は赤褐色で、四角く細かく切り取られたような模様であった。それがすぐにレンガで組まれたものであると分かった。
 天井はこげ茶色の木でできていて、まるでレンガでできた箱にふたをしているようであった。
 視線を落とす。
 目を開け、私を見つめている九郎。彼がいる場所は真っ白であった。
 真っ赤な床に、四角く切り取られた大きな白。
 輪郭がはっきりすると、それは赤絨毯と巨大なクイーンサイズのベッドであると気付いた。
 ぱちぱちと木の爆ぜる音がする。
 音のする方を振り返ると、そこでオレンジ色の炎が燃えていた。暖炉である。
 そこから発せられる熱が、全裸の私の体を優しく包んでいた。
 上半身を起こし、眠い目をこすりながら、九郎は辺りを見渡す。
「あれ?ここどこ?父さんと母さんは?」
 壁に取り付けられた燭台と、背中側の壁にある暖炉の炎で、九郎のまだ幼い顔が照らされていた。
 彼の体に、私の影が覆いかぶさるように伸びている。
 まるで、これから私が行おうとしている動作を暗示しているようだった。
「お姉ちゃん?」
 質問に答えない私に、ただならぬ不安を感じたのだろうか。
 眉が下がり、困ったような、泣きそうな表情をしている。正直、今すぐ襲ってしまいたくなるほど可愛い。
 彼の姿を見るだけで、子宮がきゅんきゅんとうずく。
 この空間を作るために、彼の精をほとんど使い切ってしまっていた。
 空っぽの子宮が、早く九郎の精子を飲みたいと痛いほどうずく。
「ねぇ……お姉ちゃ……っ」
 気付いたら、彼の唇に貪りついていた。
「お、おねぇ……んっ、んぅっ」
「はむっ、ちゅるぅ……くろう、くろぉ……」
 名前を呼びながら、彼の口内に舌をねじこむ。
 ああ、さっきまで寝てたから、九郎の唾液が濃くて粘度が高い。
 ぬちょぬちょと舌を押し付け、唾液を交換し合う。
「んっ、くぅん……」
 彼が鼻を鳴らし、犬みたいな声を上げた。気持ちいいのだろうか。
 そう思っていると、彼の両手が私の両肩をつかみ、強引に唇を引き剥がされた。
「ちょっ……と、どうしたの?九郎……」
 拒絶されたという悲しみに、私の視界は涙でぼやけた。
「お姉ちゃん……お姉ちゃんは、僕のこと嫌いなの?」
 何故そんな質問をされるのか分からなかった。
「何で、そんなこと聞くの?」
「だって……お母さんが、お姉ちゃんがこんなことをするのは、僕を困らせたいから、嫌いだからって……」
――あのババア……!
 頭の中に熱がこもる感じを覚え、今まで思ったことのない暴言を心の中で叫んでしまった。
 母は、何てことを九郎に吹き込んだんだ。
「そんなわけないでしょ!」
 語気を強めてしまった。
 ビクッと九郎が震えた。
「そんなわけ……ないでしょう……?キスは、大好きな人とするものよ?」
 唾液で湿っている彼の唇に、そっと指で触れる。
「あ……」
 彼が、切なげに声を漏らした。
「好きだから、世界で一番大好きだから、私は九郎にこんなことするんだよ?」
 誤解を一刻も早く解きたかった。
 だから、彼の背中に両腕を回し、ぎゅっと抱きついた。
 耳元に口を寄せ、囁く。
「好き。好き。……世界の誰よりも……愛してる」
 強張っていた彼の体から、力が抜けた。
 彼の腕が、そっと私の背中に回る。
 ああ……九郎に受け入れてもらえた。
「じゃあ、続き、していい?」
 肩に乗せた彼の顎が、縦に動いた。
「ちゅ……ちゅ……じゃあ、下、脱がすからね?」
 唇に軽く口付けし、手を彼の腰へと下げる。
 九郎は顔を赤らめ、小さくうなずいた。
 パジャマのズボンの上に手をかけ、ゆっくりとずり下ろす。
「ん?あれ、引っかかるなぁ……これ、何かしら?」
 股間の目の前に顔を近づけたまま、上目遣いで彼の顔を覗く。
「えっ、あうぅ……」
 目線を泳がせ、彼は恥ずかしそうに眉を寄せた。
「そんな、恥ずかしがらなくてもいいのに。私のことが好きだから、こうなってくれたんでしょ?それじゃあご開帳ぅ」
 力を込めて引き下ろすと、ばね仕掛けのように勃起しきったペニスが跳ね起きた。
「わぁ……すごい……」
 ため息を漏らし、ごくりと唾を飲み込んでしまった。
 血液を溜め込んで、ぱんぱんに膨らんだ九郎のおちんちん。幼さを残し、勃起しきっても亀頭が半分ほど皮に隠れたおちんちん。九郎のどきどきに合わせて、ひくひくと上下に動くおちんちん。キスでもう我慢ができなくなったのか、先っぽからねちっこい雫が漏れているおちんちん。
 美味しそう。
「いただきます……」
 両手を合わせ、しっかりとあいさつをした私は、言い終えるや否やそのとても美味しそうなペニスにむしゃぶりついた。
「えっ、お姉ちゃん……あぅっ!」
 弟が私を呼んだが、聞こえないふりをしてフェラチオを続けた。
 おちんちんをしゃぶるのは初めてだが、私はもう人間ではない、サキュバスなのだ。
 魔物の本能が、勝手に私の口内の筋肉を動かす。
「えるっ、ぬろぉ、ぬちゅっぬちゅっ」
 亀頭と皮の間に舌をねじ入れ、くるんくるんと回す。
 何周かさせると、一番下、裏筋で舌を止め、ちろちろと前後に細かく動かし、舌先を裏筋にこすりつけた。
 それと同時に、露出している亀頭の上半分、桃色の敏感そうな部分を、何度も唇で吸い付いた。
「おっねぇっ……うっ」
 ペニスがびくんびくんと何度か震えた。
 それと同時に、温かい液体が口内に流れ込んでくる。
――この匂い……味……
 口に入れたことはなかったが、本能で理解した。
――九郎の精液……?
 理解した瞬間、脳内に喜びがほとばしった。
――魔物の技術……すごいっ!
 ものの十秒で彼を絶頂に導いてしまった。
 ご飯を食べて、お風呂に入って、さっきまで眠っていたから精力が回復したのだろう。九郎の精液はぷりぷりこってりで、噛むと歯を押し返すような弾力があった。
 歯で精液を潰すたびに、じわっと味が口内に広がる。
 美味しい。今まで食べた物の中で一番美味しい。
 言葉に表すのは難しいが、濃厚で、苦味の中にほんのりと甘みが広がって、喉を通るたびに幸せな気分になり、体がふわふわと浮いてしまいそうな心地になる、極上の味であった。
――きゅんっ
 下腹部に甘い痺れが走った。
 子宮が、こっちにもザーメンをくれと叫んでいる。
――そうだね……もう我慢できない。
 さっきの射精で完全にスイッチが入ってしまった。
 内ももが温かく、互いがこすれるたびにぬちぬちと音がする。
 もう愛液が駄々漏れ状態じゃないか。
――これはもう、入れてもらうしか……
「はぁ……はぁ……」
 いっぱい射精をしたせいで疲れたのか、彼は荒く息を吐きながらベッドに身を預けて仰向けに倒れていた。
「ねぇ……」
 そんな彼の体に覆いかぶさり、私は精一杯甘えた声で呼びかけた。
「私ね、おまんこがこんなにぐじぐじに濡れちゃったの」
 両手の人差し指で、くぱっと大陰唇を左右に広げる。
――ああ……九郎ったら、そんなに刺すような視線で見つめちゃって……
 彼の喉がごくりと鳴った。
「お姉ちゃんの体……綺麗……」
 彼の口から漏れた言葉。
 ため息交じりの、感嘆の声。
 思わず出てきた、偽らざる本心なのであろう。
「ありがとう。私ね、九郎と気持ちいいことするために、生まれ変わったんだよ……いっぱいいっぱいエッチしたくて、がんばったんだよ」
 そう言って私は微笑んだ。その顔は、今まで誰にも見せたことのない、とてつもなく淫乱でねっとりとしたものではないかと思う。
「それに、羽も、尻尾も……とっても似合ってる……」
 おまけに、彼は私のサキュバスの部分も褒めてくれた。
――ああ、九郎……人間をやめちゃった私を、ありのまま愛してくれるのね……
 もう少しじらしてやろうかとも思ったが、これ以上待つと私の方がもたなくなると痛感した。それくらい子宮のおねだりがひどいのだ。
 だから、性欲に従って素直に腰を下ろすことにした。
「九郎は楽にしてていいからね。全部私がしてあげるから」
 やっと、魔物の体で彼とセックスできる。
 嬉しさのあまり、無意識の内に翼がはためいて、尻尾がふるふると左右に揺れた。
 互いの性器が触れ合った。
 たったそれだけのことなのに、私の背筋から脳へと、ぞくぞくとした快感が流れ込んでくる。
――これでもし、私の膣内にこのペニスが挿入されたら……
 もう、我慢なんてできない。
 息を吐き出し、一気に腰を下ろした。
「ひっ……!」
 喉から息が漏れた。
 膣内の神経の量が数倍に増えたような、そんな感覚。
 彼の亀頭が、カリが、竿が……おまんこ肉をかき分けるたびに、スタンガンを突きつけられたかのような快感の電流が、容赦なく私の全身を駆け巡った。
――だめっ!これだめっ、だめぇ!おかしくなるっ、こんなの全部入れちゃったら……気持ちよすぎてどうにかなっちゃうぅ!
 でも……足に力が入らない以上、どうしようもなかった。
 重力に任せて腰を落とすのみ。
 そして最奥。子宮口に亀頭がぶつかったとき……
「ひぁっ!あぁぁ!イぃぃ……イきゅぅぅぅんっ!」
 天を仰ぎ、笑みを浮かべながら、私は絶頂した。
 駆け巡っていた快楽の電流が、子宮口を叩かれた瞬間に、全て脳の快楽を司る部分に集約されたようであった。
 足に力が入らない。腰に力が入らない。全身ががくがくと震える。
――気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい!
「あ……かはっ……あふっ……」
 喉が奇妙な音を奏でる。
 呼吸が浅く、途切れ途切れになってしまっている。
 まるで、あまりの快楽に呼吸を忘れてしまったかのような。
 酸素を取り入れる量が減り、頭がぼーっとしてきた。
「あはっ……はぁ、はぁっ」
 かくんと操り人形の糸が切れたかのように、私は力を抜き彼の胸元へ倒れてしまった。そのショックでようやく呼吸を取り戻す。
 右頬に、九郎の汗ばんだ胸板が触れる。
 とくとく、とくとく。彼の鼓動が鼓膜を揺さぶる。
――九郎も、すごく興奮してるんだ……
「ねえ……」
 胸板に顎を乗せ、彼の顔を覗いた。
 頬を朱に染め、呆けた表情を浮かべている愛する弟。時折、快楽に耐えるようにきゅっと顔を強張らせるのが可愛らしい。
「私の中、気持ちいい?」
 彼の背中とベッドの間に両腕を差し入れ、きゅっと抱きつく。ついでに尻尾も彼のお尻の下へもぐりこませた。
 尻尾の動かし方も慣れてきたから、このようなこともできるようになったようだ。
「私は、九郎のおちんちんすごく気持ちいいんだけど……私だけ気持ちよくなっちゃってるんじゃないかって不安になって……」
 もじもじと、両足を彼の太ももにこすりつけながらつぶやいた。
 そう、とても不安だった。
 私ばかり、入れたときから気持ちよくて、絶頂しっぱなしだったのだ。
 その間、九郎は射精していなかった。
 もしかしたら、私の膣肉がぎゅっと締めっぱなしだったから、精液の道をふさがれていただけかもしれないが。
 それでも、不安だったのだ。もしかしたら、魔物の体は人間の男には合わないのかもしれないと。
 彼は答えなかった。
「え……ちょっと……きゃあ!」
 その代わりに、行動で答えてくれた。
 私の肩を強く押すと、私の体を後ろへと押し倒したのだ。
 背中がマットレスにぶつかりそうになる直前で、彼の腕が私の体を抱き支える。
 驚きで翼がばたばたとはためいてしまった。
「ほっ……」
 彼が息を吐いて安堵の表情を浮かべた。
「よかった……翼、大丈夫?」
 心配そうに眉をひそめ、私に気遣いの言葉を投げかけてくれた。
 そうか。勢いよく背中をぶつけることで、翼が折れてしまわないか心配だったのか。
 こんなときでもちゃんと私のことを気にかけてくれる彼に、私はさらに愛情を深めた。
「うつぶせになって」
 腰を引き、ペニスを私の肉壷から抜きつつ、彼は言った。
 粘液がはがれる音がして、肉棒が全て引き抜かれてしまった。
 膣内が寒い。そしてそれに勝る喪失感が全身を襲った。
 次の瞬間には、もう子宮が悲鳴を上げつつ収縮する。
 今回はまだ、精液を下の口で飲み干していないのだ。魔物の本能がきりきりと締め付けるのも無理はない。
 よって、私は彼に襲い掛かりたい欲望を押さえ込んで、彼の言うことに従うことにした。
 マットレスに体の前面を預ける。両手を交差させて、その上に顎を乗せた。
「お姉ちゃんの腰、すごいね。本物みたい」
 彼の視線が私の腰に注がれているのが分かる。初めて見るサキュバスのパーツに興味津々のようだ。
 彼の興味を注がれて、私も悪い気はしない。腰に軽く力を入れて、翼をぱたぱたと動かした。
「わっ」
 彼の驚きの声が背後から注がれる。声色からは喜びがうかがえた。気に入ってもらえたようだ。
「すごい……これ、もしかして本物?」
 さわさわと、彼の手が私の腰を優しく這い回った。
 翼と尻尾の付け根を、恐る恐る撫でていく。
「くっ、うぅんっ……うん……本物だよ……」
 たったそれだけのことなのに、私の脳内に快楽の電流が駆け込んでくる。
「お姉ちゃんはね……大好きな九郎のためにぃ……とっても、とってもエッチになったんだよ……だから……だから早く……」
 先ほどまで隅々までペニスでこすられていたというのに、もう入れて欲しくて仕方がない。股間から温かい粘液が滴っているのを感じていた。
「う……うん……」
 ごくりと喉を鳴らす九郎。どうやら、私の言った言葉の意図が理解できたようだ。
 まだ幼い彼の手が、がっしりと私のお尻をつかむ。
 手のひらは汗でしっとりとしていて、尻肉をしっかりと固定された。
「うんっ……もう、我慢ができないから……早く……」
 私の切羽詰った言葉に合わせ、九郎が私のお尻の上にまたがった。
 そしてそのまま、硬く反り返った肉棒を、私のおまんこの中に……
「はぁっ、あぁぁ……!」
「うっ、くぅ……!」
 二人が同時に声を漏らした。私は喉を開き、彼は声を押し殺して。
「今度は、僕が動いてあげるからね……」
 鼻息荒く九郎が言った。
 魔物化して手に入れた能力なのだろう、彼の視線が注ぐところがちりちりと甘く痺れる。
 彼の熱いまなざしが、私の背面全体に注がれる。
 特に、今まで気にしていたおなか周りの辺りにびりびりと快楽が走る。
 サキュバスになったおかげで、私の腰にきゅっとくびれが生まれたのだ。
 そこにちゃんと気付いてくれたのが嬉しかった。
「ふっ、うぅっ」
 そんな軽い快楽を上書きするように、大きな快楽が下腹部から伝わってきた。
 ゆったりとした、九郎の腰の動き。
 私がうつぶせになっているため、おまんこの上をえぐるように彼のおちんちんがこすれる。
――それがたまらなく気持ちいい!
「お姉ちゃんの中のお肉ぅ……僕のおちんちんぞりぞりこすってすごいよぉ……」
 涙交じりに声を上げながらも、彼は腰の動きを一切止めなかった。
 とても弱弱しい動き。しかし、一定のリズムで前後、前後、とおちんちんが出たり入ったりする感触が伝わる。
「はっ、あんっ、くぅっ、きゅんっ」
 腰を打ち付けるリズムに合わせて、彼は女の子のような可愛らしい声を上げる。
「はぁっ、はぁっ、何で……何でぇ……気持ちよすぎて腰が止まらないよ……きゅぅんっ」
 ぽたぽたと、私の背中に彼の涙が落ちる。
 ぎゅっと目をつぶり、私から伝わる暴力的な快楽に腰を止めることができないのだ。
 それがたまらなく嬉しかった。
「あっ、うっ……いいんだよ?はぅっ、出したくなったらっ、いつでもっ、出して、いいんだからねっ」
 枕に顔をうずめ、私は声をつまらせながら言った。
「遠慮、なんかっいらないんだよ?ふぅんっ、お姉ちゃんのぉ、一番……奥に、精子ちょうだいっ」
 次の瞬間、彼の亀頭が大きくなるのを感じた。
 魔物の本能が、直接脳に囁いてくる。
 これは……射精する兆し。
――射精、射精くるんだね?射精……しゃせい……せぇし、くるぅ……
「ぐぅっ、くぅっ……お姉ちゃぁんっ、でるぅ……!」
 搾り出すような九郎の声とともに、私の体内に温かい感覚が広がった。
 いや、これは温かいという生ぬるい言葉では表せない。
 マグマのように熱く、熱が一気に広がって……
「はぁっ、ああっ、ひきゅぅぅぅ!」
 その熱が子宮の奥壁を叩いたとき、私は無意識の内に喉の奥底から声を漏らしていた。
――何これぇ……精液美味しい!しぇいぇきぃ!しきゅぅのなかで弾けて気持ちいいぃぃぃ!
 口で味わったのと比べ物にならないほどの美味が、私の子宮の中で広がった。
 子宮の全ての細胞が、さながら味蕾の役割を果たしているかのように、精液を味覚として脳に伝えてくる。
 どくっ、どくっ、どくっと何度も何度も、九郎のペニスが脈動し、そのたびに濃くてぷりぷりとした精液が、塊となって私の中に流れ込んでくる。
――あは……は……せいえきぃ、いっぱいだぁ……
「お、ねえ……ちゃ……」
 息も絶え絶えという感じで、九郎が声を漏らす。
 彼も、あまりの快楽に何もできないのだろう。私の尻肉をぎゅっとつかみ、ぴたりと腰を密着させて精液を送り込んでくる。
 どくっ……どくっ……
――すごいぃ……まだしゃせぇとまらないぃ……
 10秒、20秒、30秒……精液がまだ止まらない。
 ぴたりと子宮口に貼り付いた尿道口から、直接精液が子宮内に届く。
 40秒、50秒……さすがに弱くなってきたが、まだとぷとぷと漏れ込んでくる。
 1分。ようやく長い長い射精が終りを迎えた。
「はぁ!はぁ!はぁ!」
 短く強く、九郎は息を吸って吐いて。彼は私の背中にゆっくりと倒れこんだ。
 私も彼も汗で全身がべとべとで、ぴたりと湿った肌が触れ合った。
 彼の熱い息が背中に当たる。
「それにしても……」
 私は小さく息を吐きながらつぶやいた。
「いっぱい出しちゃったね。お姉ちゃんのおなか、もうたぷたぷ……」
 おなかをさする。そこはぽこりとふくらんでいて、さながら妊婦のようであった。
「ごめんなさい……」
 申し訳なさそうに彼が言った。
「ううん、大丈夫。私でこんなに気持ちよくなってくれて、嬉しい」
 そう言うと、私は腰を彼の方へ少しねじり、彼の後頭部へ手を置いた。
 そのまま彼の顔を、私の顔へ誘って……
「ちゅっ」
 キスをした。舌を絡めず、唇を合わせるだけ。
「身長、伸びたね」
 頭をなでながら言った。
「この前まで私の肩にも届かなかったのに」
 また唇同士で触れ合う。
「多分……お姉ちゃんとこうやって、つながりながらキスするために大きくなったんだと思うよ」
 ぎゅっと私に両腕で抱きつきながら、彼はささやいた。

 その後、私たち二人の生活は大きく変わった。
 家の中にいようが、外にいようが、学校の中にいようが、私と九郎が同時にムラムラすると、あの部屋に全裸でワープするようになってしまったのだ。
 そして私の子宮が精液で満たされ満足すると、元いた場所に戻っているのである。
 服装は来る前のものと同じだし、一瞬たりとも時間が経っていない。つまり、誰にも近親相姦を咎められることなく、思う存分彼とセックスすることができるようになったのだ。
――最近、特にあの部屋に行く回数といる時間が増えているような気がする。
「んっ……じゅぷっ、じゅるぅ……」
 舌で彼のおちんちんを絡めとり舐めしゃぶりながら、私はそんなことを考えていた。
「お姉ちゃん……もうだめ……」
 私の頭のてっぺんに手を置いて、彼が切なそうな声を上げた。
「ちゅぽっ。うん、いいよ。一回口の中に出しちゃおうね」
 一度口をペニスから離し言うと、またすぐにフェラチオに戻る。一瞬たりとも口を離すのが惜しい。
「あっ、おねえっ……ちゃっ……そんなに吸ったらっ!あぁっ!」
――んっ、濃い精液きたぁ……
 とどめのバキュームで屈服したペニスの先から、熱い精液がほとばしった。
 どんな体の構造になっているのだろうか。一日に何度もこの部屋に来て、そのたびに何発も発射しているのに、精液の量がいつまで経っても減らない。
「んくっ、ごくっ、ごくっ」
 私は彼に聞かせるために、わざと喉を大きく鳴らして精液を飲み干す。
 茎の根元を右手指で作ったリングで支え、時折ちゅぅちゅぅと吸い付いて、尿道に残った一滴も残さずに口内に搾り出す。
「あんっ、はぁっ……はぁ……」
 一滴残らず吸い尽くすと、九郎はベッドの上に腰を下ろした。
 やはりサキュバスの性技は素晴らしい。フェラチオ一回で完全に彼を腰砕けにしてしまった。
「それじゃあ、今度は私が気持ちよくなる番だね。いつも通り、九郎は楽にしてていいからね」
 彼を優しく横たわらせると、私は馬乗りになって蜜壷にペニスを招き入れた。

 またこの部屋の滞在時間が伸びる。
 それはつまり、私の子宮がより貧欲に、より貪欲になっているということである。
 魔物の性欲は底なしである。
 私はいつか、この部屋に二人で永遠に閉じ込められることになるであろうという、確信めいた予感があった。
 だが、それでいい。それが私の夢なのだ。
 愛する九郎と二人っきりで、永遠につながり合う。そんな未来を想像するだけで、子宮がきゅんと切なくうごめいた。
 サキュバスになって、本当によかった。
11/04/30 17:37更新 / 川村人志

■作者メッセージ
サキュバスサーガになりつつあります。
看護士のお姉さん→真由美→野村春奈→この話の主人公
今回の主人公をサキュバスにした野村春奈を主人公にした話も出すつもり。

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