読切小説
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天使が僕と出会って堕天するまで
「はぁ……」
 石畳が敷き詰められた道を、一人の男が歩いていた。名はアルマ。
 彼は頭を垂らし、視線を斜め下に向けている。
 肩は力が入っておらず、背筋もだらしなく曲がっている。
 そして時折ため息をつく。
 誰から見ても、彼が落ち込んでいることが分かるであろう。
 彼はつい先ほど一世一代の大勝負をして、見事に敗北した。
 好きな女の子への告白。相手は向かいの家に住む同い年のサアラ。
 小さな頃から仲良しで、いつも一緒に遊んでいた仲だ。
 当時、彼の住む村には子供が少なく、自然と二人きりで遊ぶようになっていた。
 しかし、それが災いした。
「私、アルマとそういう風に付き合えないと思う」
 村が一望できる丘の上、そこに高くそびえる木の下で、彼女はそう答えた。
 友人として付き合う期間が長すぎた。サアラにとって、アルマと恋人として生活するということを考えることが出来なかったのだ。

――明日から、サアラとどんな顔をして付き合えばいいのだろう。
 成功してみせる、いや、成功すると直前まで意気込んでいただけに、落胆も激しかった。
 何しろ、彼女は向かいの家に住んでいるのである。毎日嫌でも顔を合わせないといけない。
 朝、出かけるときに鉢合わせするかもしれない。洗濯物を干そうと前庭に行ったときに、窓の彼女と目が合うかもしれない。帰り道、彼女とすれ違うかもしれない。
 そう思うと、憂鬱で仕方がなかった。

 アルマは、垂れていた頭をゆっくりと上げた。彼の視界に、ボロボロで今にも朽ち落ちてしまいそうな小屋が建っている。彼が住んでいる家である。
 彼の両親はすでに亡くなっているので、彼一人が住んでいる家である。一人で住むには、この程度の大きさの家で十分なのだ。
 なるべく視界にサアラの家が入らないように、目を背けながら門を開けた。
「おかえりなさい」
 そのとき、彼は誰かに声をかけられた。前方からの声。先ほども書いたように、この家には彼一人しか住んでいない。週に一度、叔父が裏の畑仕事の手伝いに来てくれるだけである。今日はその日ではない。そもそも、この声は女性のものだ。かといって、サアラのものでもない。彼女の声はこんなに高くない。
 アルマは声のする方、玄関の扉の方へ顔を上げた。
 そこには、見たこともない少女がいた。
 一言で表すなら「清楚」……手入れの整ったさらさらのセミロングの金髪。シルクなのだろうか、適度に光沢があって、上品な質感の純白のブラウス。胸元には、十字架の形に穴が開いている。同じ素材で出来た膝丈のスカート。半袖のブラウスとスカートからは、まだ幼さを残すみずみずしい素肌が露出していた。
 そして、特に目を引いたのは、彼女の頭の天辺に浮かぶ、輝く輪っかと、ブラウスとスカートの間から覗く純白の翼。
 彼はこの姿を見たことがある。おとぎ話に出てきたエンジェルである。
「あなたは、誰?」
 アルマが目の前のエンジェルに声をかけた。
「私はメルって言います!あなたに幸せを届けに来ました!」

 アルマはとりあえずメルを家に招き入れた。
 このまま玄関の前で話しているのが辛いというのもあったが、彼女に何か言おうとしたときに、自分の家に向かうサアラが目に入ったからというのが最大の理由である。
 しばらくはサアラと顔を合わせたくなかった。
「で、何で僕のところに?」
 先ほどの告白の失敗を思い出し、彼は少し不機嫌に声を上げた。
「空からこの村を眺めてたら、ちょうど木の下のあなたを見てしまって……」
 アルマは顔を真っ赤にした。彼の当たって砕けたあの場面をばっちり見られていたのだ。
「え、あ、あれを……」
「はい。それであなたがすごくしょんぼりしてたので、私が慰めてあげようと」
 この言葉に、彼の顔はさらに赤みを増した。自分よりも年下であろう彼女に、ふられたことを慰められようとしているのだ。男としてのプライドがズタズタに引き裂かれた。
「私の仕事ですから。下界の人々を一人でも多く、幸せにしてあげたいんです。何でもいいです、何でもいいですから、何か私にできることがあれば……」
――何で僕は初めて会った女の子に情けをかけなければいけないんだ……
 強く握った拳がプルプルと震える。アルマは、彼女の慰めなんか欲しくなかった。
「あ、そうだ、まだあなたの名前を聞いてませんでしたね」
「うるさい!」
 彼は叫ぶと、平手で机を勢いよく叩いた。
「僕は一人になりたいんだ……帰ってよ……帰ってよ!」
「だめです!」
 彼の言葉に、メルは頬を膨らませて拒否の意を示した。
「一人で閉じこもってたって、何も解決しませんよ!一人でいたら、いつまで経ってもあの子のことを考えちゃいますよ?いつまで経っても忘れられませんよ?いつまで経っても幸せになれませんよ?」
 だから!と彼女は大きく両腕を広げて声を張り上げた。
「私に不幸をぶつけてください!何でも言ってください!」
「だったら……」
 アルマが搾り出すように声を出した。
「だったらヤらせてよ。セックスさせてよ」
 メルの顔を睨みつける。
 何も、彼は本当に彼女と性行為をしたいわけではない。無理難題をぶつけて、早く帰ってもらおうと思っただけだ。
 神の使いであるエンジェルは、欲望を極端に嫌う。特に性欲に関しては否定的である。
 これで帰ってもらえると、彼は考えていた。しかし。
「……わかりました」
 彼の思惑に反して、彼女はうなずいた。
 そして、彼女はしっかりとした足取りでベッドへ向かうと、その上で四つんばいになった。
「それで、あなたが幸せになるのなら。それくらい何ともありません」
 これに困惑したのはアルマである。まさか、こんな無茶な要求をあっさり受け入れるとは思わなかった。
「どうしましたか?これはあなたが望んだことなのでしょう?これで、幸せになれるんでしょう?私も恥じらいというものがあるんですから、早くしてくださいっ」
 アルマの方に顔を向けるメル。その顔は羞恥に真っ赤に染まっていた。彼女は露出狂なわけではない。彼女にとって、『相手を幸せにする』『相手の望みを叶えてあげる』ことが最大の存在意義であるので、それに逆らうのはエンジェルの、神の使いのプライドに反するのである。
 羞恥に頬を染め、目を潤ませた彼女の表情を見て、アルマの理性が少しずつ溶かされていった。
――そうだよな、僕の幸せのためだもんな。彼女の仕事だもんな。
 ふらふらとおぼつかない足取りで、彼は彼女の待つベッドへ向かった。
 そして、彼女の後へ回る。
 彼の視界いっぱいに、彼女のお尻が飛び込んできた。
 四つんばいによって強調されたお尻は、少女特有の甘い香りと相まって、強烈なセックスアピールになっていた。
 本人に全くそんな意思がないのも、清楚なエロスに拍車をかけていた。
 装飾がいっさいなく、ただ股間を隠すためだけに存在する、純白のパンティ。
 彼の刺すような視線を感じながら、彼女はたどたどしくそれを下ろした。
 下ろされるパンツが通過すると、それによって少しへこんだ尻肉が、強い弾力をもってぷるんと震える。
 その二つの桃を思わせる肉の間に、彼女の最も恥ずかしい部分、いまだ誰の目にも触れられていない部分が露わになっていた。
「……」
 アルマは無言でそれを見つめ、唾を飲み込む。
 彼は今まで女性器を見たことが無かった。性知識も一切なかったが、そこが性行為に使う部分であり、男が最も興奮する部分であることを、本能的に悟っていた。
 そこは無毛であり、まっさらなシルクを思わせた。
 事実、彼女の恥部を目にした瞬間から、彼のペニスは血液を溜めこみ、性交をする準備を整えていたのだ。
「さ、さ、触って……いい、かな……?」
 声を震わせ、彼が言う。
「そ、それで、あなたが幸せになるの、なら……」
 メルも同じくらい声を震わせる。
 その言葉を聞くと、アルマは震えた指を、徐々に女性器に近づけた。
――くちっ……
 親指と人差し指で大陰唇を広げると、湿った音がした。
 ぞくっ、と彼の背筋が震える。
――もっと触りたい……!
 彼は欲望に従うまま、もう片方の人差し指を、広げられ露わになった膣内に差し入れた。
――ちゅくっ……
 先ほどよりも大きく音が響いた。
「ふぅっ……!」
 差し入れられた瞬間、腰の大きな震えとともに、彼女の口から呼吸とも喘ぎともつかない声が漏れる。
 膣内は暖かかった。皮膚の体温よりもはるかに高い温度が指に伝わり、さらに尻肉よりもはるかに柔らかい肉が、人差し指を優しく包み込む。
 経験が一切ないため、比較対象がないアルマであったが、彼女の膣が相当な名器であることははっきりと分かった。
――指でなく、早く僕のおちんちんを……
 だから、彼がこう思ってしまったのも無理はない。
 性欲がピークを迎え、たまらず指を抜く。
「くぅっ……うんっ」
――にゅぽぉ……ちゅるんっ
 さらに膣内は粘度を増し、彼女から漏れる声も大きくなった。
「じゃあ、入れるからね……!」
「ど、どうぞ……」
 彼が急いでズボンを脱ぎ捨てると、彼女は腕の力を抜き、上半身をベッドのマットに預けた。
――ギシッ
 すっかり古くなっているベッドの木枠が悲鳴を上げる。
 アルマは汗ばんだ手でメルのお尻を掴んだ。男を知らないその皮膚が、餅のように両手に張り付く。手が触れると、彼女はぶるっと一度震えた。仕事とはいえ、これから起こる未知の体験を恐れているのだろう。
 震えたのはアルマも同じである。しかし、こちらは恐れではなく、これから体験するであろう快楽に対する期待で震えたのだ。
 膝立ちの状態で、ペニスが彼女の女性器と同じ高さになるように位置を調節した。
 そしてその高さを維持したまま、腰を前に突き出す。
――にちっ……にゅるぅ
 膣の入り口が押し広げられ、ペニスは優しく、すんなりと受け入れられた。
「ぐぅっ!」
 シーツを噛み、メルは声を押し殺す。破瓜による痛みに耐えるためである。その証拠に、ペニスをくわえ込んだヴァギナからは、一筋の血が流れ落ちていた。
 だが、性欲に脳の奥まで支配されたアルマは、そんなことを気にしている余裕がなかった。
――何、これ……すごいぃ……
 彼はただひたすら、今まで経験したことのない快楽に酔いしれるばかりであった。
 メルの膣内は、処女でありながら、優しく彼の欲望の塊を包み込んでいた。まるで、百戦錬磨の娼婦のような、余裕たっぷりの刺激。
 最初の一突きで、ペニス全体に粘液をまとわり付かせる。二突き目、三突き目で子宮口の位置を調節し、ペニスの先端がちょうど子宮口とキスできる状態にする。その後は、上下左右、そして奥の五方向でペニスを優しく揉み解すのである。
 もちろん、初体験のメルがそんな高度なテクニックを意識的に行うことは不可能である。その動きは、魔王の魔力を知らない内に浴び、魔物化が進んでいたからこそできる、無意識の行動なのである。
「あ……あ、あっ、あぁぁ……」
 全身の筋肉を弛緩させ、だらしなく口を開き、垂れる唾液をぬぐいもせず、アルマは狂ったからくり人形のように腰を前後させた。
 そして早くも限界を迎えることになった。
「ぐぅっ、もうダメ、だぁっ!出るぅっ!」
 その言葉を聞いて、メルはシーツを噛んだまま、小さく何度もうなずいた。
「うぅっ、で、るぅっ」
 勢いよく腰を前に突き出すと、遠慮なく膣の最奥に精液をぶちまけた。
「はぁっ、あぁっ、くうぅ……」
 全身、特に腰と背筋を大きく震わせ、睾丸に溜まった精液を搾り出す。あまりの気持ちよさに顔の筋肉が引きつり、彼の表情は狂人の笑顔にも見える。
 全て出し切ると、彼は体の力を抜き、前方へ、メルの背中の上へ倒れた。
 その彼の体を、彼女は腰の翼で優しく包み込む。
「幸せに、なれましたか?」
 絶頂の余韻に浸り、自分の頭の真横で安らいだ表情で目を閉じるアルマに、メルは優しく、慈愛のある声色で話しかけた。
 しかし、
「すぅ……すぅ……」
 眠りについてしまった彼から返事が返ってくることはなかった。

 アルマは規則正しい生活を送っている。
 早く寝るし、早く起きる。
 これは、彼が畑で作物を育てて生計を立てているからである。
 日の出とともに起き、日の入りとともに帰宅する。
 今日も、東の窓から差し込む太陽の光を顔に受け、アルマは目を覚ました。
 普段なら、一人しか住んでいないため、実に静かな朝なのだが。
「ふんふんふーん」
 今日は違った。
 台所から音程の高い鼻歌が聞こえてくる。
 不思議に思って、彼がその歌が聞こえる方向へ顔を向けると……
「あ、おはようございます。えーと……」
 そこにはエンジェルがいた。
「そういえば、結局昨日、あなたのお名前聞けませんでしたね」
「え、ああ、アルマ、だけど……」
 寝起きで頭がぼーっとしているのか、彼は意外に素直に答えた。
「あ、それより!」
 突如、彼は思い出したかのように叫ぶ。
「何でメルは帰ってないんだよ!僕の要求聞いてくれたから……その、もう仕事は終わりじゃあ……」
 途中で昨日のセックスを思い出したのか、表情を赤らめるアルマ。
「だって、昨日『幸せになれましたか?』って聞いたのに、アルマさん答えてくれなかったですから」
 だから……と言って、メルは腰に手を当てる。
「私の仕事は継続です!本当にアルマさんが幸せになるまで、私はここに住み込むことにしました!」
「頼んでないぞ!そんなこと!」
 アルマが顔を真っ赤にさせて反論する。
「ダメですよー。私が帰っちゃったら、アルマさんまた閉じこもってうじうじしちゃいますからー……っと、できた!」
 いつの間にか台所に戻っていた彼女が歓声を上げた。
「じゃーん、お昼ごはん用のお弁当ですよ。はい、今日も畑仕事がんばってくださいね!」
 アルマは何か言おうと思ったが、彼女に弁当を押し付けられ、そのまま玄関まで押し切られてしまったので、仕方なく仕事に出かけることにした。
「アルマさんが仕事に行っている間、掃除洗濯をしっかりしておきますからね!行ってらっしゃぁい!」
 笑顔で手を振る彼女を尻目に、アルマは渋々裏の畑に向かうことにした。
「あ……」
 前に視線を向けた彼は、視界に飛び込んできた情景に硬直した。
 サアラがいた。
 向かいの家、彼女の住む家の玄関脇に植えてある植物に、水をあげていた彼女と、目が合ってしまったのだ。
「おはよう……」
 少し気まずそうに挨拶するサアラ。
 アルマは、挨拶を返すことなく、無言のまま家の裏に回った。

 夕方。太陽が地平線に隠れる直前。
 アルマは家に戻った。
 畑仕事は重労働である。その上、元々両親と彼、三人で耕すはずだった畑である。それを週に一度叔父が手伝いに来るとはいえ、それ以外の日は一人で耕すのだ。帰ってくる頃には精も根も尽き果てている。
「おかえり」
 だから、メルの笑顔と夕食の美味しそうな匂いで迎えられたとき、彼は思わず安らいで表情が緩んでしまった。
 しかし、すぐに我に帰ると、何度も首を横に振って言った。
「何でまだいるんだよ!頼んでないだろ!?」
「そんなこと言って、さっきすごく嬉しそうな顔をしてましたよ?」
 にやりと意地の悪い笑顔を浮かべるメル。
 図星だけに、アルマは何も言えず、無言でメルの作った夕飯を貪るように平らげた。

「ふぅ……」
 想像以上に美味しい彼女の手料理を綺麗さっぱり食べ終え、アルマは満足そうにおなかをさすった。
「美味しかったですか?」
 嬉しそうに微笑みながら、メルは彼の顔を覗き込んだ。
「うん、すごく美味しかった……幸せ……あ」
 言い終わった後に気付いた。
――しまった!
 彼は思わず『幸せ』とつぶやいてしまった。彼は少年特有の天邪鬼な考えで、彼女の前では『幸せ』という言葉を決して使わないでおこうと、昼畑を耕しながら誓っていたのだ。
 それが、手料理一発で崩れ去ってしまった。
「ふふふん。天界でいっぱい料理の勉強をしましたからね!もちろん、掃除も洗濯もばっちりです!」
『幸せ』と言ってもらったおかげか、メルはものすごく上機嫌である。
 一方のアルマは、「ぐぬぬ……」と悔しそうである。
「じゃあ、食事も終わってちょっぴり幸せになったところで……」
 すすす……と彼女は彼の横に近づく。
「もっともっと、幸せになりませんか?」

 それからもずっとメルはアルマの家に居座り続けた。
 毎日彼の弁当を作り、彼が仕事に行っている間に家事をこなす。
 そして、彼が帰ってくる前に、夕食の支度をする。
 夕食を食べたら、夜の世話を行うのである。
 もちろん、叔父が来たら、叔父の分の弁当、夕食も作るのだ。
「おやアルマ、その可愛い女の子は誰だい?もしかして、カノジョ?」
 叔父に二人の関係をしゃべるのは苦労した。メルは彼の前では翼と輪を隠し、天使であることを隠しているからである。
 どうやら、世話をする相手以外にはみだりに正体を明かしてはいけないルールがあるらしい。
 アルマは行き倒れになっていた彼女を拾って一緒に住んでいるということにして、何とかごまかした。

 彼が異変に気付いたのは、彼女が来てから十日ほど後のことである。
「あぁ……ぐぅっ……」
「うぅっ、ふぅっ!」
 いつものように、夜の営みを行う二人。
 二人はいつも後背位でつながり合う。翼がベッドに当たってしまうので、この体位以外で行ったことがないのである。
 彼はすでに彼女とのセックスの虜になっていた。悔しいので、絶対に口には出さないが。
 だから、自分から言わずに、彼女の「私の中で、幸せになりませんか?」という誘いの言葉がないと、絶対にセックスを行わないようにしていた。
「メルぅ……出すぞ、中に出すからなっ」
 彼が感極まって声を上げると、シーツを噛んでいたメルがこくこくとうなずいた。
 それと同時に、ペニスは小さく震え、一日溜めた精液を元気よく放出した。
 ここで、異変に気付いたのだ。
 射精と同時に、膣肉がうごめき、さながら牛の搾乳のようにペニスをやんわりと揉み始めたのだ。
――何、これ……!?搾られる……!
 絶頂を迎えたばかりで敏感になっていたペニスに、この刺激は強烈であった。この動作によって、彼は間髪入れずに二度目の精液を中に放ってしまった。

 それからさらに一週間ほどが経ち、またもや彼女の変化に気付くことになった。
 彼女に対するプライドも少しずつ薄らぎ、彼の方から誘うこともできるようになった頃。
 腰を前後させていると、いつもよりも抜き差しするスピードが速いことに、彼は気付いた。
 日に日に技術が上がっていく彼女の膣肉。快楽のために自らの腰の動きが遅くなることはあっても、速くなることはないはずなのに。
 事実、今も彼の腰の動きにはまるで力が入っておらず、かくんかくんとゆるやかに動いているのだ。
 アルマは視線を落とした。そして、異変の正体に気付いたのである。
 メルが腰を前後させていたのだ。
 彼が腰を引くと、彼女も腰を引く。
 彼が腰を押すと、彼女も嬉しそうにお尻を突き出して迎え入れるのだ。
「ふっ……うんっ……」
 彼女はギリギリと音が鳴るほど強くシーツを噛み、手を前にだらりと投げ出している。時折きゅっとシーツを握る。
 目を閉じ、汗を垂らし、全身を朱に染めて何かに耐えるような表情をしている。
 試しに、彼は自分の腰の動きを止めてみた。
――ぬちゅっ、ぬちっ……
 優しく、包み込むような刺激は変わらない。
「くっ……ふっ、ふっ……」
 彼女は荒い呼吸に合わせ、ゆっくりとお尻を前後させている。
――気付いていないのか?

 翌日。
 いつものように、彼女が作った弁当を持たされ、玄関まで見送りされるアルマ。
 手を振って「いってらっしゃーい」と言っている彼女に、彼は背中を向けながら手を上げて答える。
 二人の関係は、少しずつ良い方向へ向かっていた。
「アルマ……」
 畑に向かう彼を呼び止める声があった。サアラである。
「最近、私としゃべってくれないね」
 アルマは無言で彼女の言葉を聞く。
 彼女の表情はどことなく悲しそうである。
 彼はまだ、彼女に告白を断られたことを、少なからず引きずっていた。だから、彼女に鉢合わせしても、彼は目をそらして声をかけなかったのだ。
 サアラは、それに耐えかねて、今日ついに彼に話しかけたのである。
 彼女は、薄い木の板でくるまれた包みを腕に抱いていた。
「こ、これ……お弁当。その……アルマが私に声をかけられなかったのは、私のせいだから……おわびに……」
 頬を赤らめて、その包みを彼の方へ突き出した。
「ごめん。僕にはもう弁当あるから」
 彼はそっけなくそう言うと、彼女の弁当を受け取らずに、そのまま畑へと向かってしまった。
 サアラは、立ち尽くしたまま、彼の背中をじっと見つめていた。

 それから毎朝、サアラはアルマの家の前に立ち、彼が仕事に出るのを待つようになった。
 その腕には、弁当が抱えられている。
 しかし、彼は受け取るのを毎回断っていた。
 すでにメルの手作り弁当があるのが理由の一つ。
 そしてもう一つは、以前ほど彼女に対する情熱が薄れていたからだ。
 以前の、告白したときの彼ならば、メルの弁当を放ってサアラの弁当を受け取っていただろう。
 これはアルマ自身、不思議に思っていた。
 サアラのことが嫌いになったわけではない。今でも彼女のことが好きだ。
――サアラよりも、メルの方が……?ははっ、まさか……
 アルマは突如湧き上がった考えを一笑に付した。

 サアラが玄関の前に立つようになってから、一週間ほどが経過した。
 その日、いつものようにサアラが立っていたが、弁当を持っていなかった。
「おはよう、アルマ」
「……」
 今日も、彼は挨拶を返さない。
「私ね、最近ずっと考えてたんだ」
 彼女は視線を落とし、両手指をこねこねとうごめかせている。
「どうして私、アルマに弁当を作ってあげてるんだろうって……私、料理苦手なのに」
 彼女が呼吸を整える。
「メルちゃんが来てからね、私、おかしいんだ……アルマのこと、すごくたくさん考えるようになった。一緒に遊んでた頃、毎日隣にいた頃よりも、今の方が……ずっと、ずっと、アルマのことが頭から離れない……」
 ゆっくりと彼女が顔を上げた。
「私、おかしくなっちゃったのかな?アルマからの告白、断っちゃったのに、今は私の方が、アルマのこと、好きで好きで仕方がないみたいなの」
 目を潤ませた。
「だから、返事、待ってるね。いつでもいいから……仕事、頑張ってね」
 そう言うと、彼女は振り返って自分の家まで駆けて行ってしまった。
 かつてアルマをふったはずのサアラ。この心境の変化は何故起こったのか。
 その原因は、アルマが毎日メルを抱いていたからである。
 魔王の魔力に知らず知らずの内に侵され、自覚しないままほぼ魔物と化してしまったメル。
 彼女を毎晩後ろから犯すアルマに、彼女の匂い、彼女が無意識の内に放出していた、魅了の魔法が込められた香りを、彼はまとっていたのだ。
 それがサアラの心に浸透し、いつしか隠しきれないほどの彼女の恋慕につながったのだ。
 元々、サアラはアルマのことが好きだった。
 彼の告白を拒んだのは、恋人になることで、かえって付き合いにくくなることを恐れたからである。
 彼女にとっては、彼とは友人としての付き合い方が一番心地よいと感じていた。
 だから、その心地よさが壊れるのを恐れたのだ。
 メルの匂いが、サアラのそんな精神の枷を外していたのである。
 しかし、アルマの心はこのとき、驚くほど冷めていた。
 本来ならば、その場で了承するはずの、彼女からの告白。しかし、彼は返事をしなかった。
 彼の心の中では、サアラ以外の女性の存在が、大きくなっていたからである。

「よかったじゃないですか!」
 その日の夜。彼の報告を聞いたメルは歓声を上げた。
「両想いですよ両想い!カップルですよ、恋の成就ですよ。いやー、エンジェルをやっててよかったですー」
 彼女は鼻歌を奏で、腰をふりふりと揺らしながら、夕食を机の上に並べていく。
「うん……」
 一方のアルマは、元気のない声で返した。
「どうしたんですか?そんなに元気のない声を出して。仕事、疲れたんですか?」
「いや……」
 そう言って、彼は溜息をつく。
「何て答えたらいいのか、分からなくてさ……」
「え、どういうことですか?」
 彼女が目を見開く。彼の言葉が信じられないようだ。
「確かに、今もサアラのことが好きだ。でも、どうも付き合うということがしっくりと来ないんだ」
 頬杖をつき、またもや溜息。
「何言ってるんですか!前はアルマさんの方から告白したんじゃないですか!それなのに、向こうから告白されたら今度はしっくり来ないって。何なんですか?その心変わりは」
 煮え切らない彼の返答に、彼女は頬を膨らませて抗議した。
「俺、今サアラより好きな人がいるんだ……」
「え?」
 彼は、彼女の方をじっと見つめた。彼の顔は、心なしか赤い。
「え、えっ……え、もしかして……私?」
 彼はそれに答えず、視線を外さない。
「な、何言ってるんですかー。冗談はやめてくださいよー。ははは……」
 まだ彼の視線は外れない。
「ははは、はは……は……まさか……本気、ですか?」
 彼は目線を下にそらし、小さくうなずいた。
「それは、違いますよー……毎日一緒に生活してるから、勘違いしちゃっただけ、ですよ……」
 いまだ無言のアルマを見て、メルは気まずそうにうーんとうなった。
「でしたら、私の中にいっぱい出して、頭をすっきりさせましょう!そうしたら、冷静になりますよ、ねっ!」
 そう言って、彼女は彼の手を引き、ベッドへと向かった。

「それじゃあいつものように、後ろからどうぞ」
 メルはうつぶせに寝た状態でお尻を持ち上げ、慣れた手つきでパンツをずり下ろした。
 アルマはごくりと喉を鳴らす。
 毎日彼女とセックスをしているが、全く飽きが来ない。
 お尻の形は崩れないし、女性器はいまだにぴったりと閉じられていて、まるで処女のようである。
「いっぱい幸せになって、すっきりしましょうね」
 彼女のお尻が、待ちきれないとばかりにふりふりと揺れる。これも、最近始めた行為である。
「じゃあ、入れるよ」
 そう前置きして、彼はすでに固くなっていたペニスを挿入した。
――じゅぷぅっ
 押し出された勢いで、ペニスとヴァギナの隙間から、愛液が噴出す。彼女の愛液は、最初の頃に比べてはるかに量が多くなっていた。
「ふうぅ……うんっ」
 メルが声を漏らす。
 次の瞬間から、彼女は無意識の内にお尻を前後に動かしていた。さらに、たまにひねりを加える。
「くっ」
 彼女が腰をひねるたびに、違う刺激がもたらされ、アルマは情けなく声を漏らした。
「メ、メルっ……前から言いたかったんだけどさ……うぅっ、お前、最初よりもっ……自分から、動くようになったなっ」
「ふぇ……えぇっ……?」
 予想外の言葉に、思わず彼女は口からシーツを離してしまった。
「ひょ、ひょんなっ……わらしが自分から、腰をうごかひゅわけっ、あるわけないじゃないですかっ」
 彼女はそう言いながらも、腰の動きを止めない。
「わひゃしは、アルマひゃんの幸せにためにしているだけであって……ふぅんっ!仕事なんれふよ!?あんっ、わたひはぁ……神の使い、エンジェルぅ、なんれふよ?快楽をぉ、自分から貪る行為なんれぇ……んっんっんぅっ」
「そんなこと言ってもっ、今僕、腰を動かして、ないっ……」
 その瞬間、彼女の全身がびくっと震え、翼がピンとこわばった。
「え、嘘……じゃあ……」
 自分の腰の動きを、彼女は初めて意識した。そして、気付いてしまった。自分がすでに、彼のペニスの虜になっていたことに。
「んっ!ふぅっ、くぅっ、くぅぅぅんっ!」
 がくがくと腰を震わせ、さらにその震えが全身に伝わり、メルは盛大に絶頂した。
 口をだらしなく開き、舌がこぼれ、よだれを流し、目には涙を浮かべた。
 その表情は、初めての絶頂に幸せを感じ、淫らで、魔物のそれそのものであった。
 アルマは彼女が今まで見せたことのない表情と、豹変した膣肉の締め付けに驚いた。
 そして、次の瞬間には、精液を漏らしていた。
「あぁぁ!しゅごいっ!せいえきぃ、精液れてますぅっ!気持ちいいですぅ!」
 かくかくと力なく震えると、彼女は止めていた腰の動きを再開させた。
 今度は、きちんと快楽を意識した動き。
 8の字を描くように腰を動かしたかと思うと、今度はがつんがつんと強烈に前後移動させる。
 膣肉もきゅぅっと締め付けたかと思うと、次の瞬間にはゆるゆると優しく、包み込むような肉圧になる。
「くぁっ、あぁあっ!」
 魔性の快楽にアルマは勝てるはずもなく、彼は間髪入れずに二度目の射精をしてしまった。
「またぁ、きたぁ!おちんぽしゅごいっ、みるくおいひぃれすぅ!アルマひゃんのおちんぽぉ……すきれすぅ!」
 ぞくり、とアルマの背筋が震えた。
「僕も、僕も、メルのことが好きだっ」
 彼は叫ぶと彼女の腰をがっちりと掴み、全力で自らの腰を前後させた。
「わらひもぉ、わらひもっアルマしゃんのことがらいすきれすぅ!だからぁ、だからぁ!もっろがつがつ突いてくらひゃぁいっ!」
 彼女に笑顔が浮かぶ。
 メルも、本当はアルマのことが好きであった。
 そもそも、天界にいた頃から、彼女は彼をチェックしていたのだ。
 そのときは、何だか放っておけない程度の感情でしかなかったのだが。
 彼がサアラにふられたとき、彼女は急いで下界に下りていった。表向きでは、不幸な人間を幸せにしてあげないとという使命感かくる行動であったのだが。本心では、彼女すら知らない心の奥底では、この隙に優しくしてカノジョになってやろうという、欲望にまみれていたのだ。この時点で、彼女には魔物になる素質が十分にあった。
 そして、今、その素質が花開いた。
「うぅんっ、くぅんっ、気持ちいいれしゅ!らいすきなアルマひゃんのおちんぽっ、きもちいぃれしゅっ!もう、らめぇ!イくぅ、イくぅ!飛んじゃう、幸せになるぅっ!」
「ぐぅっ、メルぅ!出るっ、出るっ、出るぅっ!」
 二人は同時に叫び、同時に絶頂した。その瞬間。
――どくんっ
 メルの心臓が大きく一鳴き。
「ひゃぁ、あぁぁぁぁ!!!」
 彼女の欲望と彼の精が混ざり、彼女の皮膚と翼、そして頭の上の輪を黒く染め上げた。

「あんっ、あうっ、くぅん……」
 アルマは艶っぽい声を聞いて目を覚ました。
――ぬちゅっ、ぐちゅっ……
 声と同時にねっとりとした音が耳に入る。
 音の次に、彼は股間から這い上がる快楽を感じた。
「うっ」
 彼は思わず声を漏らす。
「アルマさぁん……目を覚ましましたねぇ……」
 甘えるような、こびるような声がする。
――そうか、確かメルとセックスして、そのまま……
 彼は先ほどまでの情景を反芻しながら、まぶたをさらに開けた。
 目が慣れ、徐々にピントが合っていく。
「うふっ、ふっ、アルマさぁん、気持ちいいれすかぁ?」
 彼はいつの間にか仰向けにされていた。そして、その体の上、股間の上に、メルがまたがっていた。
――ぬちゅぅ、ぐちゅぅっ……
 彼女は彼のペニスをくわえ込み、腰をひねる。
「くぅっ」
 また彼は声を漏らしてしまった。彼女は、眠っている彼を騎乗位で犯していた。
 そして、状況を理解すると、快楽が耐え切れないほどの大きさになってしまった。
「うぅっ」
「あはぁ……ザーメン出ましたぁ……」
 あっけなく精を漏らすアルマ。それを美味しそうに、嬉しそうに下の口で食すメル。
 彼女の体は、先ほどまでの純白とはうって変わって、黒く染まっていた。まるで、純真な白が、快楽という墨で染まってしまったかのようであった。
 漆黒の翼が、精液を歓迎するかのようにはためく。
「アルマさん……幸せですかぁ?私はぁ、今、とぉっても幸せですぅ……」
 彼は返事ができない。快楽の余韻に浸り、荒く息をするのが精一杯である。
「あはぁ、幸せそうでひゅねぇ……わたしぃ、決めましたぁ。もう、神様の仕事なんてどうでもいいですぅ。わらひ、アルマさん専属になりますぅ。私の全部は、もぅアルマさんだけのものですぅ」
 そう言うと、彼女は体を前に倒し、そのまま彼の口にむしゃぶりついた。
「ちゅっ、じゅるっ……ぷぁっ、この唇もぉ……おっぱいもぉ……もちろん、ふふっ、おまんこもぉ……全部ぜぇんぶアルマさんだけのものです」
 膣肉をきゅっきゅっと締めると、彼はまたうめいた。
「あ、そうだっ。どうせだったらサアラさんも、アルマさん専属にしてあげますよぉ?どうですかぁ?」
「え……?」
 ようやく言葉を出せたアルマ。
「サアラさん、アルマさんのことが大好きなんでしょう?今の私ならぁ、人間の女の子を、素直にすることができるんですよぉ?」
 ふふっ、と彼女は笑う。
「人間の女の子を素直にして、好きな男のことしか考えられない、淫乱な魔物……堕落神様の教えに忠実なぁ、大好きな男の子のおちんぽしか考えられなくなる娘にできるんですよ、私。どうですか?サアラさんと私とアルマさん、三人一緒に幸せになりませんかぁ?」
 膣肉でペニスをこねられ、まるで脳みそに直接快楽を叩き込まれているかのような状態のアルマ。彼にとって、その提案は、とてつもなく魅力的に思えた。
11/01/10 17:31更新 / 川村人志

■作者メッセージ
本当はサアラちゃんの魔物化も入れるつもりでしたが、キリがいいのでまた今度。

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