恋人は蛇彼女
高校三年生の夏は短い。
毎日補習を繰り返し、家に帰れば予習復習。勉強勉強勉強漬けの日々。
学校に行っては、汗水垂らして模擬を受け、塾に行っては、凶悪な冷気を浴びながら講師の話を聞く。
そんな修行僧のような日々の小さな隙間で、彼らは何とか余暇を満喫する。
「おばさん、お邪魔します」
「あら、奈美ちゃん久しぶりじゃない」
太陽が天高く昇り、下界の人々を凶悪な熱光線で襲う直前の時間。海野奈美は隣の家に上がりこんだ。
幼馴染で恋人の夏目葉月が住んでいる家である。
数年ぶりの突然の訪問にも関わらず、葉月の母は温かく歓迎してくれた。
「葉月ー、奈美ちゃんが来たわよー」
葉月母が奥のリビングに声をかけると、一声返事が返った後にひょっこりと葉月が出てきた。
「あ……」
奈美は自分の胸が高鳴るのを感じた。
夏休み直前のあの日、ただの幼馴染から恋人同士になったあの日以来、彼女は彼の姿を見ただけで頬が赤く染まり、心臓の鼓動が速くなり、視界が桃色の霧に覆われる気分がし、股間から熱い蜜が漏れ出るのを感じた。
「ああ、とりあえず俺の部屋に行ってて。ジュースとお菓子持って行くから」
「うん」
彼女は小さくうなずくと、ぺたぺたと階段を上がっていった。今日も当然裸足である。
「葉月」
彼がお盆の上に二人分のジュースとお菓子を用意していると、不意に背後から母に声をかけられた。
「奈美ちゃんの事、大切にするのよ」
「え、どういう事……」
「私の目は誤魔化せないわよー。あんた達、付き合ってるんでしょ」
母がニタニタと意地の悪い微笑をした。
「え、な、何の事だか」
彼の声色には、明らかに焦りの色が伺えた。
「奈美ちゃんの目を見れば一発で分かるわよ。あれは相当あんたに惚れ込んでるわね。全く、親が言うのは何だけど、あんたのどこがいいのやら……」
そう言って、彼女はため息を吐く。
「な、何だよ!別にいいだろ!」
早く母の元を離れようと、せっせとお盆の上にジュースとお菓子を乗せていく。
「まあ、奈美ちゃんならいいんじゃない?お母さん応援するわよ」
そして、何かを思いついたのか、手をポンと叩く。
「何だったら、これから買い物に行くから、部屋でいちゃいちゃしてもいいのよー?」
そう言って、彼女はまた意地悪な笑みを浮かべた。
「ば、ば、馬鹿じゃねーの!?これから勉強するんだよ勉強!そんな事するわけないだろぉ!」
上の物がこぼれそうな勢いでお盆を持ち上げると、葉月はそそくさと階段を上っていった。
自分の部屋の扉を開けると、エアコンの気持ちいい冷気が彼の体を撫でた。
「ごめん、お待たせ」
葉月がそう言うと、奈美が笑顔でそれを出迎えた。
部屋の真ん中に置かれている背の低い小さな机には、すでに参考書やノートが広げられていた。
そして、本来彼が座るはずの座椅子には、重力に逆らうようにして揺らめく、藍色の物体。
彼女はすでに人化の術を解き、本来の姿を露にしていた。
「座れないんですけど」
机の上にお盆を置き、彼はつぶやいた。
「ああ、ごめんね」
彼女はそう言ってのっそりと自らの下半身を横にずらした。だが、いまだにそれは座椅子にぴったりと寄り添っている。
犬が嬉しい時に揺らす尻尾のように、くねくねと蠢いているそれを尻目に、彼は座椅子に遠慮なく座った。
蛇身を挟み、二人が隣り合う形になる。
「ねぇ」
彼の顔を覗き込みながら、奈美は問いかけた。彼が答える間もなく次の言葉を口にする。
「巻きついていい?」
驚いて葉月は思わず彼女の方を向いた。
彼女の顔はすでに赤く染まっており、目は潤み、息が荒くなっている。唇を舐める舌を見て、彼はドキッとした。
「な、何でだよ……」
心中を彼女に悟られないように、彼はそっぽを向いてぶっきらぼうに答える。
「あの日以来、私たち、学校でしか会わなかったでしょ?」
『あの日』とは、放課後の教室で二人が「初めて」を捧げ合った日のことである。
二人はあの日以来セックスどころかキスすらもしていない。
「学校が終わったら今度は塾。家に帰ったらご飯を食べて、後はお風呂で寝るだけ。だから、ずっと寂しかった。ずっとずっと、頭の中から葉月の事が離れなかった」
ここで彼女はごくりと唾を飲み込んだ。
「ここに来て、葉月の顔を見た時、嬉しくて……今すぐ抱きついて、キスして、それから……でも、今日は勉強しに来たんだから。でも、気が緩むと爆発しそうで……頭がふわふわして……」
床に置かれた彼の左手を、彼女の右手がそっと包んだ。
「だから、そうならないように、せめて、せめて私の下半身で葉月にすがっていたくて……駄目、かな」
しゅんと首を垂れ、力なくつぶやいた。そこまで頼られて、無碍に断れる程彼は人でなしではない。
「あぁ……分かった。いいよ」
顔を赤らめ、恥ずかしそうに頭を掻きながら言った。
「ほ、本当……?」
目をキラキラと輝かせ、葉月の顔を覗き込む彼女。太陽のようなその笑顔の眩しさに、彼の心臓はまた高鳴った。
「あ、ああ、嘘じゃねぇよ」
小さくつぶやきながら目を泳がせていると、彼の体に蛇の下半身がゆっくりと巻き付いてきた。
蛇の体は鱗に覆われているから、下手すると相手の体を傷つけてしまう。愛する葉月をそうさせないように、彼女は細心の注意を払って、ゆっくりと自らの体を絡ませていった。
「どうかな、痛く……ない?」
腕や腰などの部分を邪魔しない程度に、胴体に幾重にも巻かれた蛇身。
「あ……うん。押さえつけられてる感じはするけど、邪魔じゃないな」
「よかった」
嬉しそうに彼女が微笑む。その表情を見ただけで、彼は彼女の申し出を受けて良かったと思った。
「それにしても、蛇の体って、思ったより冷たいんだな。ひんやりしてる」
自分の体に巻きついている蛇身をそっと撫でながら、彼がつぶやく。
彼の指や手のひらが鱗を撫でるたび、彼女はぴくっと小さく震える。
「う、うん……変温動物だからね。クーラーで部屋が涼しいし」
「そして、思ったよりすべすべ」
すりすり、すりすり……と、彼は何度も蛇身を撫で上げた。
「ひゃぁぁぁん!」
その突然の強い刺激に、奈美は体を仰け反らせて声を漏らしてしまった。
「あ!ご、ごめん……痛かった?」
「違う……気持ち良かった」
慌てて手を離した葉月の問いかけに、彼女は小さく首を振って答えた。
彼女の目は先程よりも蕩け、息遣いも疲れた犬の様に荒く、涎も少し垂れている。
このままでは勉強どころではないと思った葉月は、
「さあて、勉強勉強!」
と大きな声で宣言し、わざとらしく大きな音を立てて参考書のページをめくった。
「ほら、ここは解の公式を使って……」
「二倍角の公式は……」
「奇関数だから積分の式が……」
部屋の中に、奈美の可愛らしい声が満ちる。
一方の葉月は、「ふむ」とか「ほう」とか「うーん」などと、言葉とは思えない唸り声しか上げることが出来なかった。数学は苦手科目なのだ。
「その、ごめん、俺のレベルに合わせてもらって」
葉月が申し訳なさそうに言った。
「いいのよ全然。教えるのも立派な勉強になるものなのよ」
彼の左手を包み込んでいた自らの左手をきゅっと握り、彼女は答える。
勉強をしている間、二人はずっと手を握り合っていた。葉月が右利き、奈美が左利きなので、そうしていても勉強に差支えがない。
「その代わり、世界史は葉月が教えてね」
彼女はそう言いながら、鞄を開けて歴史の参考書を取り出した。
『必修世界史一問一答』よくある答えが赤シートで隠せるタイプの小さな参考書だ。
「はい」
その本を、葉月に渡す。
「数学が一息ついたから、今度は歴史の勉強ね!そこから適当に問題を出して。私が答えるから」
「オーケー」
ジュースを一口飲み、彼は了承した。
「連続正解したら、ご褒美ちょうだいね」
そう言うと、今度は胸ポケットから四つ折になった紙を広げつつ、彼に見せた。
「昨日、寝る前に考えたんだ。勉強のやる気を出す方法。付き合ってから初めてじゃん?家に行くの。だから、せっかくだから……」
葉月はその紙に書かれていた文章に目を疑った。
『連続正解のごほうび!
10問:頭なでなで
20問:ハグ!
30問:キス♥
40問:♥
50問:♥♥
60問:♥♥♥♥♥』
「何……これ……」
「世界史苦手だから、これならやる気出るよ!」
何故か胸を張って威張っている奈美を見て、彼はため息しか出なかった。
でも、数学をあれだけ丁寧に優しく教えてもらった手前、断るのも気が引ける。彼に拒否権は無いも同然だった。
「正解」
「やった!10問正解!」
胸の前で手を組み、くねくねと喜びを表現する奈美。
「はいはい、良かったね。で、10問連続で当たると何だったっけ?」
「頭なでなでー」
にっこり微笑んで、彼女が彼の目の前に頭を突き出した。彼の鼻腔を、シャンプーのいい香りがくすぐる。
そして、ポニーテールが変化した黒い蛇達が、重力に逆らって彼の顔を覗き込んだ。そのどれもが舌をちろちろと出し、彼には嬉しそうに見える。
「それくらいならいいな。はい、じゃあ、なでなで……」
彼が彼女の頭を優しく撫でると、彼女は嬉しそうに喉を鳴らした。猫みたいだなと彼は思う。
「お、また正解」
「ふふっ、これで20問連続だね!」
そう言って、彼女は両手を広げた。
「ああ、20問目はハグか」
「うん、うん!」
首を立てに大きく動かしながら、さらに両腕を大きく広げる。
「いや、その前に奈美の下半身を……」
葉月はいまだにしっかりと巻きついている蛇身を軽く撫でて、困った表情をした。
「あ……ごめん」
奈美の下半身が、巻き付いた時に比べてかなり速く解かれていく。早くハグされたくて仕方が無いようだ。
「はい、解けたよ!いっぱいギュッてして!」
「はいはい、そう慌てるな」
呆れつつも、彼は彼女の大きく広げられた腕の下から自らの腕を回し、しっかりと抱き寄せた。
「うーむ、上半身は温かいな」
「うん、恒温動物だからね」
「いったい、境目の血管はどうなっているのやら……」
「本当に世界史苦手なのか?また正解なんだけど」
「ふふん、愛の力よ!これで30問連続だね!」
愛の力じゃなくてご褒美の力だろ、という言葉を葉月はぐっと飲み込んだ。
「えーと、30問はキス……か」
目を閉じ、唇を突き出して準備万端の奈美を見て、彼はため息をついた。
――全く、まだ二度目なのにな。慣れてないっての。
ぎゅっと目をつぶり、葉月は自らの唇を彼女の唇に軽く触れさせた。そして、すぐに離す。
彼女の唇は、さっき食べていたケーキの味がした。
「もう、終わり?」
ゆっくりと目を開けた奈美がつぶやく。
「え、どういう事だよ。キスはもうしただろ?」
「舌、入れてくれないの?」
「ぶっ!舌ぁ!?」
彼女の唐突な問いかけに、葉月は驚いて噴出してしまった。
彼は性に関しては興味はあるが、そこまで知識があるわけではない。確かに、舌を入れるキスがあるというのは聞いた事あるが……
「舌と舌を絡ませてキスするとね、とっても気持ちいいんだよ?しないの?」
舌なめずりをして、目を潤ませる奈美。口から時折見え隠れする桃色の肉が、たまらなくエロティックである。
「気持ちいいって、やった事あるのかよ……」
「ないけど、そんな事、大好きな人として気持ち悪いわけないでしょ?」
彼女はそう言って、ずずいと彼の眼前に迫った。熱い吐息が鼻先にかかる。彼女の吐息は、甘い蜜のような香りがした。葉月の思考が蕩ける。
「ねぇ、舌を入れるキス、しようよ……」
軽く口を開き、徐々に彼女は彼の唇に自分の唇を近づける。吐息の香りに魅了されていた彼は、それに抵抗する事ができなかった。
「あむ……ちゅぅ……」
彼の唇全体を包み込むように、彼女は自分の唇で覆い、
「れるぅ……あむぅ……」
舌を彼の口内に滑り込ませた。そのまま、彼女の舌先が、彼の縮こまった舌先に触れる。
その瞬間、彼の頭の中のキスに関する辞書は、一気に書き換えられてしまった。
――キスって、こんなに気持ちいいんだ……
そこで彼の思考は停止した。
彼は彼女の頭の後ろに腕を回し、自ら進んで彼女の舌にむさぼりついた。
嬉しそうに目を細め、彼女もそれに応える。
「ふぁむ……じゅるっ……じゅぷ……れろぉ……」
言葉は聞こえず、ただ舌を絡ませる湿った音が部屋に響き渡る。
何分経っただろうか。先に唇を離したのは奈美だった。
「あ……」
離れた瞬間に、葉月は思わず声を漏らしてしまう。
「ふふ……どうだった?舌を入れるキス、気持ちよかったでしょ?」
彼女は微笑んでそう言った。しかし、その微笑みは、先程の様な太陽を思わせる眩しいものではなく、淫魔特有の艶かしさのある笑顔であった。
「あ、あぁ……すごかった」
素直に彼はうなずく。
「よく集中力がもつなぁ。40問連続正解だよ」
「ふふん」
胸を張る奈美。
「で、この(ハートマーク)は何なんだ?」
「ふふふ……」
またもや艶かしく微笑むと、彼女はそっと彼の右手をつかんだ。
そのまま、ゆっくりと自らの胸の前にそれを持っていく。
「おっぱい、触って……」
その言葉を聞き、彼はごくりと唾を飲み込んだ。
彼は彼女の控えめな胸が大好きなのである。
――これは、奈美のご褒美というより、俺のご褒美なんじゃないか?
そう思った次の瞬間には、すでに彼は彼女の胸を揉みしだいていた。
「あんっ」
嬉しそうに彼女は声を上げる。
「うん、もっと、揉んでいいんだよ……」
彼女の可愛らしい水色のワンピースの上から、彼は両手で左右の胸を揉む。息を荒げ興奮しながらも、彼の手つきは優しく、彼女への配慮に満ちていた。
「もっと、激しく揉んでもいいんだよ?」
頬を赤らめながら彼女は言うが、彼の手つきは変わらない。
「ゆっくり揉んだ方が、感触が良く分かるから……」
「変な所にこだわるんだね。んっ、でも、それ、気持ちいい……」
「苦手って嘘だろ……また正解だよ」
「これで、50問正解だね」
得意げに奈美が微笑む。
実は、彼女はご褒美を貰おうと、この本で世界史を猛勉強していたのだ。なので、大抵の事は答えられる。もはや苦手科目とは言えないだろう。
「それじゃあ、ベッドに座ってね」
奈美が微笑みながら言う。その表情は、これから起こることにわくわくしているように見えた。
「え?ああ、いいけど」
(ハートマークふたつ)の意味が分からないまま、言われた通りに葉月はベッドの端に座った。
「それじゃー脱がしますねー」
ニコニコした顔を崩さずに、彼女は彼のズボンのベルトに手をかけた。
「えっ!ちょ!いきなり何するんだよ!」
「え、何って、フェラチオだよ」
「ぶっ!」
葉月、二回目の噴出し。
「ちゃんと50問連続正解したんだから、大人しくしててねー」
そう言いながら、彼女はてきぱきと彼のズボンと下着をずり下ろしてしまった。
「あ……ちょっと硬くなってる……」
先程のキスの影響で、彼のペニスは半勃ち状態になっていた。
「う……そんなじろじろ見るなよ、恥ずかしい……」
ひくひくと震えるペニスをまじまじと見られるのが恥ずかしくて、彼は目を伏せて頬を染めた。
「あ、そうだね、見てるだけじゃ駄目だね。それじゃあ、始めるよ……あむ……」
大きく口を開け、彼女はいきなり彼のペニスを口いっぱいに頬張った。
「うっ」
突然のねっとりとした感触に、彼は背筋を仰け反らせた。視界いっぱいに白い天井が見える。
「あむ……はむ……じゅっぐちゅっ……」
口をすぼめ、舌を押し上げて裏筋を含むペニスの裏面を圧迫する。きゅぅきゅぅとペニス全体を圧迫する刺激。決して強い刺激ではない。しかし、確実に彼の脳内に快楽を送り込む。
「はっ、はっ。奈美、本当に初めて、なのか……?」
「じゅぽっ、そうだよ?あむぅ……練習は、じゅるぅ、したけどね……」
そう言うと、今度は顔を前後に動かし始めた。
唇をすぼめ、顔が前後に動くたびに、カリを優しく刺激する。口内から引くときには、唇で吸い付き亀頭に吸引刺激も与える。
先っぽへの集中刺激。彼の腰は思わずがくがくと震えた。
「じゅぽっじゅぽっ、ふふっ、気持ちいいんだね……嬉しい」
今度は喉の奥までペニスを入れると、大きく音を立てて吸引し始めた。
「じゅぅ、じゅぅぅぅぅぅ!」
「あぐぅ!あぁぁ!」
尿道から魂が吸い取られるような刺激。思わず彼は悲鳴を上げてしまった。彼の限界はもう近い。
「じゅるぅ、出そう?全部飲んであげるから、遠慮しないで出してね……じゅぅぅ!」
彼女の優しい言葉に、彼はついに我慢の限界を迎えた。
「ごめ、んっ、もう、出る……」
びゅるっ、びゅるるぅぅぅ!
「んっ、んむぅ、ごく、ごく、ごくぅ……」
精液が発射された瞬間、彼女は目を細め、うっとりとした表情になった。そのまま、嫌がるそぶりを一切見せず、吐き出された精液を一滴残らず飲み干していく。
「じゅぅぅぅ……ちゅぽんっ。ごくっ、ごちそうさま……」
「で、ついにここまで来たわけか……」
「ついに60問連続だね」
目を潤ませた奈美の目の前で、葉月は今日何度目か分からないため息をついた。
「ここまで来たら、もうあれしかないな……」
「そうだね、もうあれしかないね……」
そう言いながら、彼女はゆっくりと彼をベッドに押し倒す。
「まあ、ご褒美だから仕方がないな」
「うん、仕方ないよね……見て」
そう言うと、彼女はワンピースの裾をたくし上げ、彼の目の前に自分の最も恥ずかしい部分を晒した。
「キスしたりフェラチオしたり……ずっとずっと挿入れたかったんだから……」
そのまま、彼女は腰を下ろし、亀頭をその塗れた部分に擦り付けた。ぬちゃりと粘り気のある音がする。
ごくりと葉月が唾を飲み込む。
「葉月も、挿入れたくて仕方がなかったんだね。じゃあ、挿入れるね……」
そそり立つ亀頭が膣の入り口の肉を押し広げ、まだ一度しか男を味わったことの無い肉穴に埋もれて行く。
「ふっうぅぅぅぅん!」
「あぁ、あぁぁ……」
二人は同時に声を上げた。
初めてのセックスで完全に調教されきった肉穴。それが彼のペニスを優しく包み込み、彼のペニスの出っ張りで彼女の発達した性感帯を優しく刺激する。
ただ挿入しただけなのに。それだけで、我慢できずに腰ががくがくと震える程の快感が、二人に駆け巡った。
そしてその震えが、さらに性感帯に刺激を与える。
「ふぁ……しゅごいぃ……」
ぴくっぴくっと細かく震えながら、奈美は彼の上半身に倒れこむ。
彼女の視界いっぱいに、葉月の快楽に染まりきった顔が映りこんだ。
「葉月……大好き……」
二人の唇が触れ合う。今度は、どちらともなく舌を突き出し、貪る様に絡ませ合った。唾液が混ざり、吸い付き、飲み込む。
キスしている間に、彼女の彼を放したくないという本能が働き、無意識の内に彼の下半身に蛇身を巻き付けた。
それと共に腕も彼の胴体に巻き付かせた。彼もそれに応えて強く抱きついた。
完全に密着。これでは腰も動かせないが、反射的な震えのみで、十分すぎる程の快楽が与えられる。
「ちゅるぅ……ちゅぅ……はぢゅきぃ、好きだよぉ……大好きだよぉ……」
「ちゅっ……俺もだ、じゅるぅ……俺も、奈美の事……世界で一番、ちゅぅ……好き、だ」
快楽の震えは、共鳴反応の様に次第に大きくなり、一際大きく一度震えた後、二人は同時に絶頂を迎えた。
「あれ、もう陽が落ちてる……」
葉月が目を覚ますと、部屋はすでに薄暗くなっていた。
あまりの大きな快楽に二人の頭はショートし、しばらく気絶していたのだ。
「うーん……あれ、もう夜?」
彼の声で奈美も目を覚ました。太陽が落ちた事に気づくと、急いで身支度を整える。
「もう帰らないと!」
そう言って、彼女は「むんっ!」と声を上げる。しかし、何も起こらない。
「あれ?」
彼女はもう一度気合を入れて、「むぅんっ!」と叫ぶが、また何も起こらない。
「あれ?あれ?」
その後も何度力を入れても、一切何も起こらない。蛇身が人の足に戻らない。
「え……何これ……」
彼女の全身から汗が噴出す。その頃には、彼は彼女の異変に気づき、声をかけた。
「どうした?何があった?」
「どうしよう……変身できない……」
しばらく彼女は呆然としていたが、突然彼女は鞄を探り始めた。そして、携帯電話を取り出す。
「あ、もしもし、お母さん?大変な事になっちゃったんだけど……」
目に涙を浮かべながら、彼女は母に電話をした。
「あれ、もしかして奈美も?」
「え、奈美もって……」
「それがね、お母さんの下半身が人間のに戻らなくなっちゃって。買い物から帰った後だから良かったんだけど……ひょっとして、奈美も?」
電話をする奈美の雰囲気がどうも重苦しくて、葉月は気を紛らわせるためにテレビをつけた。
<緊急特番>
どのチャンネルも、そんなテロップが貼り付けられていた。
――何か、大事件でも起こったのか?
彼はそう思いつつ、テレビを眺めていた。
その内容は想像以上のものだった。
曰く、街中の大勢の女性が突然、異形の姿に変身してしまったという。
ある女性は下半身が蜘蛛になり、ある女性は背中から翼が生え、またある女性は下半身が蛇になったと。
何故そのような事が起こったのかは一切不明で、詳しい情報が入り次第お知らせするとの事。
それからの半年、ニュース番組は話題が尽きなかった。
某48人アイドルグループの全員が魔物娘で、プロデューサーの趣味が露呈したり。
「ヤッチマイナー」で有名な映画で鉄球を振り回していた女優が実はダークエルフで、「さもありなん」とファンに言われたり。
舞台ででんぐり返しする事で有名な超大物女優が、実はキリストより年上のエキドナだったり。
ローティーン雑誌のモデルの半数がアリスだったり。
日本人の事なかれ主義ここに極まれり。魔物娘達はありのままの姿を受け入れられたのだ。
そしてその頃、葉月と奈美の二人はというと。
「ふぅ……よし、これで荷物は全部だな」
葉月は部屋中に積まれている大量のダンボールを眺めつつ、一人つぶやいた。
「ご苦労様。タイミングいいね。丁度ご飯ができたところよ」
キッチンから奈美が姿を現し、唯一ダンボールから取り出されていた小さなちゃぶ台の上に、二枚の皿を置いた。そこには、巨大なオムライスが盛り付けられている。
「ははっ、奈美は本当に卵料理が好きだな」
「まあ、蛇だからね」
そう言って笑い合い、彼女の料理に舌鼓を打つ。
結局彼らは二人で猛勉強をし、同じ大学に合格した。
二人の両親には完全に公認されているカップルだったので、反対される事なく同棲する事になったのである。
「あー、疲れた……明日からこのダンボールの山を開けないといけないと思うと、気が滅入るなぁ……」
「ふふ、頑張ってね。終わったら、ご・ほ・う・び、あげるからね」
そう言って、彼女は艶かしく微笑んだ。
毎日補習を繰り返し、家に帰れば予習復習。勉強勉強勉強漬けの日々。
学校に行っては、汗水垂らして模擬を受け、塾に行っては、凶悪な冷気を浴びながら講師の話を聞く。
そんな修行僧のような日々の小さな隙間で、彼らは何とか余暇を満喫する。
「おばさん、お邪魔します」
「あら、奈美ちゃん久しぶりじゃない」
太陽が天高く昇り、下界の人々を凶悪な熱光線で襲う直前の時間。海野奈美は隣の家に上がりこんだ。
幼馴染で恋人の夏目葉月が住んでいる家である。
数年ぶりの突然の訪問にも関わらず、葉月の母は温かく歓迎してくれた。
「葉月ー、奈美ちゃんが来たわよー」
葉月母が奥のリビングに声をかけると、一声返事が返った後にひょっこりと葉月が出てきた。
「あ……」
奈美は自分の胸が高鳴るのを感じた。
夏休み直前のあの日、ただの幼馴染から恋人同士になったあの日以来、彼女は彼の姿を見ただけで頬が赤く染まり、心臓の鼓動が速くなり、視界が桃色の霧に覆われる気分がし、股間から熱い蜜が漏れ出るのを感じた。
「ああ、とりあえず俺の部屋に行ってて。ジュースとお菓子持って行くから」
「うん」
彼女は小さくうなずくと、ぺたぺたと階段を上がっていった。今日も当然裸足である。
「葉月」
彼がお盆の上に二人分のジュースとお菓子を用意していると、不意に背後から母に声をかけられた。
「奈美ちゃんの事、大切にするのよ」
「え、どういう事……」
「私の目は誤魔化せないわよー。あんた達、付き合ってるんでしょ」
母がニタニタと意地の悪い微笑をした。
「え、な、何の事だか」
彼の声色には、明らかに焦りの色が伺えた。
「奈美ちゃんの目を見れば一発で分かるわよ。あれは相当あんたに惚れ込んでるわね。全く、親が言うのは何だけど、あんたのどこがいいのやら……」
そう言って、彼女はため息を吐く。
「な、何だよ!別にいいだろ!」
早く母の元を離れようと、せっせとお盆の上にジュースとお菓子を乗せていく。
「まあ、奈美ちゃんならいいんじゃない?お母さん応援するわよ」
そして、何かを思いついたのか、手をポンと叩く。
「何だったら、これから買い物に行くから、部屋でいちゃいちゃしてもいいのよー?」
そう言って、彼女はまた意地悪な笑みを浮かべた。
「ば、ば、馬鹿じゃねーの!?これから勉強するんだよ勉強!そんな事するわけないだろぉ!」
上の物がこぼれそうな勢いでお盆を持ち上げると、葉月はそそくさと階段を上っていった。
自分の部屋の扉を開けると、エアコンの気持ちいい冷気が彼の体を撫でた。
「ごめん、お待たせ」
葉月がそう言うと、奈美が笑顔でそれを出迎えた。
部屋の真ん中に置かれている背の低い小さな机には、すでに参考書やノートが広げられていた。
そして、本来彼が座るはずの座椅子には、重力に逆らうようにして揺らめく、藍色の物体。
彼女はすでに人化の術を解き、本来の姿を露にしていた。
「座れないんですけど」
机の上にお盆を置き、彼はつぶやいた。
「ああ、ごめんね」
彼女はそう言ってのっそりと自らの下半身を横にずらした。だが、いまだにそれは座椅子にぴったりと寄り添っている。
犬が嬉しい時に揺らす尻尾のように、くねくねと蠢いているそれを尻目に、彼は座椅子に遠慮なく座った。
蛇身を挟み、二人が隣り合う形になる。
「ねぇ」
彼の顔を覗き込みながら、奈美は問いかけた。彼が答える間もなく次の言葉を口にする。
「巻きついていい?」
驚いて葉月は思わず彼女の方を向いた。
彼女の顔はすでに赤く染まっており、目は潤み、息が荒くなっている。唇を舐める舌を見て、彼はドキッとした。
「な、何でだよ……」
心中を彼女に悟られないように、彼はそっぽを向いてぶっきらぼうに答える。
「あの日以来、私たち、学校でしか会わなかったでしょ?」
『あの日』とは、放課後の教室で二人が「初めて」を捧げ合った日のことである。
二人はあの日以来セックスどころかキスすらもしていない。
「学校が終わったら今度は塾。家に帰ったらご飯を食べて、後はお風呂で寝るだけ。だから、ずっと寂しかった。ずっとずっと、頭の中から葉月の事が離れなかった」
ここで彼女はごくりと唾を飲み込んだ。
「ここに来て、葉月の顔を見た時、嬉しくて……今すぐ抱きついて、キスして、それから……でも、今日は勉強しに来たんだから。でも、気が緩むと爆発しそうで……頭がふわふわして……」
床に置かれた彼の左手を、彼女の右手がそっと包んだ。
「だから、そうならないように、せめて、せめて私の下半身で葉月にすがっていたくて……駄目、かな」
しゅんと首を垂れ、力なくつぶやいた。そこまで頼られて、無碍に断れる程彼は人でなしではない。
「あぁ……分かった。いいよ」
顔を赤らめ、恥ずかしそうに頭を掻きながら言った。
「ほ、本当……?」
目をキラキラと輝かせ、葉月の顔を覗き込む彼女。太陽のようなその笑顔の眩しさに、彼の心臓はまた高鳴った。
「あ、ああ、嘘じゃねぇよ」
小さくつぶやきながら目を泳がせていると、彼の体に蛇の下半身がゆっくりと巻き付いてきた。
蛇の体は鱗に覆われているから、下手すると相手の体を傷つけてしまう。愛する葉月をそうさせないように、彼女は細心の注意を払って、ゆっくりと自らの体を絡ませていった。
「どうかな、痛く……ない?」
腕や腰などの部分を邪魔しない程度に、胴体に幾重にも巻かれた蛇身。
「あ……うん。押さえつけられてる感じはするけど、邪魔じゃないな」
「よかった」
嬉しそうに彼女が微笑む。その表情を見ただけで、彼は彼女の申し出を受けて良かったと思った。
「それにしても、蛇の体って、思ったより冷たいんだな。ひんやりしてる」
自分の体に巻きついている蛇身をそっと撫でながら、彼がつぶやく。
彼の指や手のひらが鱗を撫でるたび、彼女はぴくっと小さく震える。
「う、うん……変温動物だからね。クーラーで部屋が涼しいし」
「そして、思ったよりすべすべ」
すりすり、すりすり……と、彼は何度も蛇身を撫で上げた。
「ひゃぁぁぁん!」
その突然の強い刺激に、奈美は体を仰け反らせて声を漏らしてしまった。
「あ!ご、ごめん……痛かった?」
「違う……気持ち良かった」
慌てて手を離した葉月の問いかけに、彼女は小さく首を振って答えた。
彼女の目は先程よりも蕩け、息遣いも疲れた犬の様に荒く、涎も少し垂れている。
このままでは勉強どころではないと思った葉月は、
「さあて、勉強勉強!」
と大きな声で宣言し、わざとらしく大きな音を立てて参考書のページをめくった。
「ほら、ここは解の公式を使って……」
「二倍角の公式は……」
「奇関数だから積分の式が……」
部屋の中に、奈美の可愛らしい声が満ちる。
一方の葉月は、「ふむ」とか「ほう」とか「うーん」などと、言葉とは思えない唸り声しか上げることが出来なかった。数学は苦手科目なのだ。
「その、ごめん、俺のレベルに合わせてもらって」
葉月が申し訳なさそうに言った。
「いいのよ全然。教えるのも立派な勉強になるものなのよ」
彼の左手を包み込んでいた自らの左手をきゅっと握り、彼女は答える。
勉強をしている間、二人はずっと手を握り合っていた。葉月が右利き、奈美が左利きなので、そうしていても勉強に差支えがない。
「その代わり、世界史は葉月が教えてね」
彼女はそう言いながら、鞄を開けて歴史の参考書を取り出した。
『必修世界史一問一答』よくある答えが赤シートで隠せるタイプの小さな参考書だ。
「はい」
その本を、葉月に渡す。
「数学が一息ついたから、今度は歴史の勉強ね!そこから適当に問題を出して。私が答えるから」
「オーケー」
ジュースを一口飲み、彼は了承した。
「連続正解したら、ご褒美ちょうだいね」
そう言うと、今度は胸ポケットから四つ折になった紙を広げつつ、彼に見せた。
「昨日、寝る前に考えたんだ。勉強のやる気を出す方法。付き合ってから初めてじゃん?家に行くの。だから、せっかくだから……」
葉月はその紙に書かれていた文章に目を疑った。
『連続正解のごほうび!
10問:頭なでなで
20問:ハグ!
30問:キス♥
40問:♥
50問:♥♥
60問:♥♥♥♥♥』
「何……これ……」
「世界史苦手だから、これならやる気出るよ!」
何故か胸を張って威張っている奈美を見て、彼はため息しか出なかった。
でも、数学をあれだけ丁寧に優しく教えてもらった手前、断るのも気が引ける。彼に拒否権は無いも同然だった。
「正解」
「やった!10問正解!」
胸の前で手を組み、くねくねと喜びを表現する奈美。
「はいはい、良かったね。で、10問連続で当たると何だったっけ?」
「頭なでなでー」
にっこり微笑んで、彼女が彼の目の前に頭を突き出した。彼の鼻腔を、シャンプーのいい香りがくすぐる。
そして、ポニーテールが変化した黒い蛇達が、重力に逆らって彼の顔を覗き込んだ。そのどれもが舌をちろちろと出し、彼には嬉しそうに見える。
「それくらいならいいな。はい、じゃあ、なでなで……」
彼が彼女の頭を優しく撫でると、彼女は嬉しそうに喉を鳴らした。猫みたいだなと彼は思う。
「お、また正解」
「ふふっ、これで20問連続だね!」
そう言って、彼女は両手を広げた。
「ああ、20問目はハグか」
「うん、うん!」
首を立てに大きく動かしながら、さらに両腕を大きく広げる。
「いや、その前に奈美の下半身を……」
葉月はいまだにしっかりと巻きついている蛇身を軽く撫でて、困った表情をした。
「あ……ごめん」
奈美の下半身が、巻き付いた時に比べてかなり速く解かれていく。早くハグされたくて仕方が無いようだ。
「はい、解けたよ!いっぱいギュッてして!」
「はいはい、そう慌てるな」
呆れつつも、彼は彼女の大きく広げられた腕の下から自らの腕を回し、しっかりと抱き寄せた。
「うーむ、上半身は温かいな」
「うん、恒温動物だからね」
「いったい、境目の血管はどうなっているのやら……」
「本当に世界史苦手なのか?また正解なんだけど」
「ふふん、愛の力よ!これで30問連続だね!」
愛の力じゃなくてご褒美の力だろ、という言葉を葉月はぐっと飲み込んだ。
「えーと、30問はキス……か」
目を閉じ、唇を突き出して準備万端の奈美を見て、彼はため息をついた。
――全く、まだ二度目なのにな。慣れてないっての。
ぎゅっと目をつぶり、葉月は自らの唇を彼女の唇に軽く触れさせた。そして、すぐに離す。
彼女の唇は、さっき食べていたケーキの味がした。
「もう、終わり?」
ゆっくりと目を開けた奈美がつぶやく。
「え、どういう事だよ。キスはもうしただろ?」
「舌、入れてくれないの?」
「ぶっ!舌ぁ!?」
彼女の唐突な問いかけに、葉月は驚いて噴出してしまった。
彼は性に関しては興味はあるが、そこまで知識があるわけではない。確かに、舌を入れるキスがあるというのは聞いた事あるが……
「舌と舌を絡ませてキスするとね、とっても気持ちいいんだよ?しないの?」
舌なめずりをして、目を潤ませる奈美。口から時折見え隠れする桃色の肉が、たまらなくエロティックである。
「気持ちいいって、やった事あるのかよ……」
「ないけど、そんな事、大好きな人として気持ち悪いわけないでしょ?」
彼女はそう言って、ずずいと彼の眼前に迫った。熱い吐息が鼻先にかかる。彼女の吐息は、甘い蜜のような香りがした。葉月の思考が蕩ける。
「ねぇ、舌を入れるキス、しようよ……」
軽く口を開き、徐々に彼女は彼の唇に自分の唇を近づける。吐息の香りに魅了されていた彼は、それに抵抗する事ができなかった。
「あむ……ちゅぅ……」
彼の唇全体を包み込むように、彼女は自分の唇で覆い、
「れるぅ……あむぅ……」
舌を彼の口内に滑り込ませた。そのまま、彼女の舌先が、彼の縮こまった舌先に触れる。
その瞬間、彼の頭の中のキスに関する辞書は、一気に書き換えられてしまった。
――キスって、こんなに気持ちいいんだ……
そこで彼の思考は停止した。
彼は彼女の頭の後ろに腕を回し、自ら進んで彼女の舌にむさぼりついた。
嬉しそうに目を細め、彼女もそれに応える。
「ふぁむ……じゅるっ……じゅぷ……れろぉ……」
言葉は聞こえず、ただ舌を絡ませる湿った音が部屋に響き渡る。
何分経っただろうか。先に唇を離したのは奈美だった。
「あ……」
離れた瞬間に、葉月は思わず声を漏らしてしまう。
「ふふ……どうだった?舌を入れるキス、気持ちよかったでしょ?」
彼女は微笑んでそう言った。しかし、その微笑みは、先程の様な太陽を思わせる眩しいものではなく、淫魔特有の艶かしさのある笑顔であった。
「あ、あぁ……すごかった」
素直に彼はうなずく。
「よく集中力がもつなぁ。40問連続正解だよ」
「ふふん」
胸を張る奈美。
「で、この(ハートマーク)は何なんだ?」
「ふふふ……」
またもや艶かしく微笑むと、彼女はそっと彼の右手をつかんだ。
そのまま、ゆっくりと自らの胸の前にそれを持っていく。
「おっぱい、触って……」
その言葉を聞き、彼はごくりと唾を飲み込んだ。
彼は彼女の控えめな胸が大好きなのである。
――これは、奈美のご褒美というより、俺のご褒美なんじゃないか?
そう思った次の瞬間には、すでに彼は彼女の胸を揉みしだいていた。
「あんっ」
嬉しそうに彼女は声を上げる。
「うん、もっと、揉んでいいんだよ……」
彼女の可愛らしい水色のワンピースの上から、彼は両手で左右の胸を揉む。息を荒げ興奮しながらも、彼の手つきは優しく、彼女への配慮に満ちていた。
「もっと、激しく揉んでもいいんだよ?」
頬を赤らめながら彼女は言うが、彼の手つきは変わらない。
「ゆっくり揉んだ方が、感触が良く分かるから……」
「変な所にこだわるんだね。んっ、でも、それ、気持ちいい……」
「苦手って嘘だろ……また正解だよ」
「これで、50問正解だね」
得意げに奈美が微笑む。
実は、彼女はご褒美を貰おうと、この本で世界史を猛勉強していたのだ。なので、大抵の事は答えられる。もはや苦手科目とは言えないだろう。
「それじゃあ、ベッドに座ってね」
奈美が微笑みながら言う。その表情は、これから起こることにわくわくしているように見えた。
「え?ああ、いいけど」
(ハートマークふたつ)の意味が分からないまま、言われた通りに葉月はベッドの端に座った。
「それじゃー脱がしますねー」
ニコニコした顔を崩さずに、彼女は彼のズボンのベルトに手をかけた。
「えっ!ちょ!いきなり何するんだよ!」
「え、何って、フェラチオだよ」
「ぶっ!」
葉月、二回目の噴出し。
「ちゃんと50問連続正解したんだから、大人しくしててねー」
そう言いながら、彼女はてきぱきと彼のズボンと下着をずり下ろしてしまった。
「あ……ちょっと硬くなってる……」
先程のキスの影響で、彼のペニスは半勃ち状態になっていた。
「う……そんなじろじろ見るなよ、恥ずかしい……」
ひくひくと震えるペニスをまじまじと見られるのが恥ずかしくて、彼は目を伏せて頬を染めた。
「あ、そうだね、見てるだけじゃ駄目だね。それじゃあ、始めるよ……あむ……」
大きく口を開け、彼女はいきなり彼のペニスを口いっぱいに頬張った。
「うっ」
突然のねっとりとした感触に、彼は背筋を仰け反らせた。視界いっぱいに白い天井が見える。
「あむ……はむ……じゅっぐちゅっ……」
口をすぼめ、舌を押し上げて裏筋を含むペニスの裏面を圧迫する。きゅぅきゅぅとペニス全体を圧迫する刺激。決して強い刺激ではない。しかし、確実に彼の脳内に快楽を送り込む。
「はっ、はっ。奈美、本当に初めて、なのか……?」
「じゅぽっ、そうだよ?あむぅ……練習は、じゅるぅ、したけどね……」
そう言うと、今度は顔を前後に動かし始めた。
唇をすぼめ、顔が前後に動くたびに、カリを優しく刺激する。口内から引くときには、唇で吸い付き亀頭に吸引刺激も与える。
先っぽへの集中刺激。彼の腰は思わずがくがくと震えた。
「じゅぽっじゅぽっ、ふふっ、気持ちいいんだね……嬉しい」
今度は喉の奥までペニスを入れると、大きく音を立てて吸引し始めた。
「じゅぅ、じゅぅぅぅぅぅ!」
「あぐぅ!あぁぁ!」
尿道から魂が吸い取られるような刺激。思わず彼は悲鳴を上げてしまった。彼の限界はもう近い。
「じゅるぅ、出そう?全部飲んであげるから、遠慮しないで出してね……じゅぅぅ!」
彼女の優しい言葉に、彼はついに我慢の限界を迎えた。
「ごめ、んっ、もう、出る……」
びゅるっ、びゅるるぅぅぅ!
「んっ、んむぅ、ごく、ごく、ごくぅ……」
精液が発射された瞬間、彼女は目を細め、うっとりとした表情になった。そのまま、嫌がるそぶりを一切見せず、吐き出された精液を一滴残らず飲み干していく。
「じゅぅぅぅ……ちゅぽんっ。ごくっ、ごちそうさま……」
「で、ついにここまで来たわけか……」
「ついに60問連続だね」
目を潤ませた奈美の目の前で、葉月は今日何度目か分からないため息をついた。
「ここまで来たら、もうあれしかないな……」
「そうだね、もうあれしかないね……」
そう言いながら、彼女はゆっくりと彼をベッドに押し倒す。
「まあ、ご褒美だから仕方がないな」
「うん、仕方ないよね……見て」
そう言うと、彼女はワンピースの裾をたくし上げ、彼の目の前に自分の最も恥ずかしい部分を晒した。
「キスしたりフェラチオしたり……ずっとずっと挿入れたかったんだから……」
そのまま、彼女は腰を下ろし、亀頭をその塗れた部分に擦り付けた。ぬちゃりと粘り気のある音がする。
ごくりと葉月が唾を飲み込む。
「葉月も、挿入れたくて仕方がなかったんだね。じゃあ、挿入れるね……」
そそり立つ亀頭が膣の入り口の肉を押し広げ、まだ一度しか男を味わったことの無い肉穴に埋もれて行く。
「ふっうぅぅぅぅん!」
「あぁ、あぁぁ……」
二人は同時に声を上げた。
初めてのセックスで完全に調教されきった肉穴。それが彼のペニスを優しく包み込み、彼のペニスの出っ張りで彼女の発達した性感帯を優しく刺激する。
ただ挿入しただけなのに。それだけで、我慢できずに腰ががくがくと震える程の快感が、二人に駆け巡った。
そしてその震えが、さらに性感帯に刺激を与える。
「ふぁ……しゅごいぃ……」
ぴくっぴくっと細かく震えながら、奈美は彼の上半身に倒れこむ。
彼女の視界いっぱいに、葉月の快楽に染まりきった顔が映りこんだ。
「葉月……大好き……」
二人の唇が触れ合う。今度は、どちらともなく舌を突き出し、貪る様に絡ませ合った。唾液が混ざり、吸い付き、飲み込む。
キスしている間に、彼女の彼を放したくないという本能が働き、無意識の内に彼の下半身に蛇身を巻き付けた。
それと共に腕も彼の胴体に巻き付かせた。彼もそれに応えて強く抱きついた。
完全に密着。これでは腰も動かせないが、反射的な震えのみで、十分すぎる程の快楽が与えられる。
「ちゅるぅ……ちゅぅ……はぢゅきぃ、好きだよぉ……大好きだよぉ……」
「ちゅっ……俺もだ、じゅるぅ……俺も、奈美の事……世界で一番、ちゅぅ……好き、だ」
快楽の震えは、共鳴反応の様に次第に大きくなり、一際大きく一度震えた後、二人は同時に絶頂を迎えた。
「あれ、もう陽が落ちてる……」
葉月が目を覚ますと、部屋はすでに薄暗くなっていた。
あまりの大きな快楽に二人の頭はショートし、しばらく気絶していたのだ。
「うーん……あれ、もう夜?」
彼の声で奈美も目を覚ました。太陽が落ちた事に気づくと、急いで身支度を整える。
「もう帰らないと!」
そう言って、彼女は「むんっ!」と声を上げる。しかし、何も起こらない。
「あれ?」
彼女はもう一度気合を入れて、「むぅんっ!」と叫ぶが、また何も起こらない。
「あれ?あれ?」
その後も何度力を入れても、一切何も起こらない。蛇身が人の足に戻らない。
「え……何これ……」
彼女の全身から汗が噴出す。その頃には、彼は彼女の異変に気づき、声をかけた。
「どうした?何があった?」
「どうしよう……変身できない……」
しばらく彼女は呆然としていたが、突然彼女は鞄を探り始めた。そして、携帯電話を取り出す。
「あ、もしもし、お母さん?大変な事になっちゃったんだけど……」
目に涙を浮かべながら、彼女は母に電話をした。
「あれ、もしかして奈美も?」
「え、奈美もって……」
「それがね、お母さんの下半身が人間のに戻らなくなっちゃって。買い物から帰った後だから良かったんだけど……ひょっとして、奈美も?」
電話をする奈美の雰囲気がどうも重苦しくて、葉月は気を紛らわせるためにテレビをつけた。
<緊急特番>
どのチャンネルも、そんなテロップが貼り付けられていた。
――何か、大事件でも起こったのか?
彼はそう思いつつ、テレビを眺めていた。
その内容は想像以上のものだった。
曰く、街中の大勢の女性が突然、異形の姿に変身してしまったという。
ある女性は下半身が蜘蛛になり、ある女性は背中から翼が生え、またある女性は下半身が蛇になったと。
何故そのような事が起こったのかは一切不明で、詳しい情報が入り次第お知らせするとの事。
それからの半年、ニュース番組は話題が尽きなかった。
某48人アイドルグループの全員が魔物娘で、プロデューサーの趣味が露呈したり。
「ヤッチマイナー」で有名な映画で鉄球を振り回していた女優が実はダークエルフで、「さもありなん」とファンに言われたり。
舞台ででんぐり返しする事で有名な超大物女優が、実はキリストより年上のエキドナだったり。
ローティーン雑誌のモデルの半数がアリスだったり。
日本人の事なかれ主義ここに極まれり。魔物娘達はありのままの姿を受け入れられたのだ。
そしてその頃、葉月と奈美の二人はというと。
「ふぅ……よし、これで荷物は全部だな」
葉月は部屋中に積まれている大量のダンボールを眺めつつ、一人つぶやいた。
「ご苦労様。タイミングいいね。丁度ご飯ができたところよ」
キッチンから奈美が姿を現し、唯一ダンボールから取り出されていた小さなちゃぶ台の上に、二枚の皿を置いた。そこには、巨大なオムライスが盛り付けられている。
「ははっ、奈美は本当に卵料理が好きだな」
「まあ、蛇だからね」
そう言って笑い合い、彼女の料理に舌鼓を打つ。
結局彼らは二人で猛勉強をし、同じ大学に合格した。
二人の両親には完全に公認されているカップルだったので、反対される事なく同棲する事になったのである。
「あー、疲れた……明日からこのダンボールの山を開けないといけないと思うと、気が滅入るなぁ……」
「ふふ、頑張ってね。終わったら、ご・ほ・う・び、あげるからね」
そう言って、彼女は艶かしく微笑んだ。
13/02/01 23:18更新 / 川村人志