連載小説
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#4:「魔物娘たちは消滅する」
 正月三が日が明けた2010年1月4日。
 恵玲奈のエーテルを吸収し、俺自身のエーテル・コア(魔力のエネルギータンクのようなもの)に侵食された出来事からエーテル・コアが増幅したため、彼女のエーテルを吸収しても、さほど問題がなくなった。
 そして俺は恵玲奈を連れて、管轄部へ出向いた。
「明けましておめでとう、祐樹。どうだった……って、その様子じゃ聞くまでもないか」
 恵玲奈が俺の腕に抱きついているところを見て、蒼井さんは言った。
「え、えぇ……。そのせいで、正月三日目は苦しむはめになりましたが」
「ははは、そうか。……それは俺がインキュバス化するのに似ているな。
 俺がインキュバス化する時も、苦しんださ。身体中の細胞が書き換わるようなものだからな」
「祐樹くんとは似たもの同士ってことですね、蒼井さん?」
「そうだな」と笑いながら答える蒼井さん。
「まあ、これぐらいにして……。正月の間に依頼が入っていた」
「依頼?」
 蒼井さんは、依頼書を机の上に置いた。
「ダークスライムを魔界へ返還してくれ、という事だ。……ダークスライムの生態は、これを見てくれ」
 そう言って、もう一枚の紙を机の上に置いた。
「……解釈は違うかもしれないけど、まるでフェストゥムの同化だ……」
「………。お前の言う『フェストゥムの同化』という意味はよく分からないが、人間の女性を見かけると襲いかかるらしいからな、早急に魔界へ飛ばさなければならない。
 そうなれば、この地方の人類は衰退してしまう」
「分かりました。直ぐにやります」
「ああ、頼むぞ」


 その夜。俺は、恵玲奈と共に白銀町を歩いていた。
 途中、ガラの悪い人が絡んできたが、ゴミだと思い跡形もなく消し飛ばしてしまった。
「……結構、勢い余った感があるけどね」
「良いんじゃないかな。お兄ちゃん以外の私に寄ってくるようなガラの悪い男は死んじゃっても」
「はは、怖いことを言うね」
 そして、逃げたその仲間は突然、粘着質の様なものに頭からどっぷりと被り、身動きが取れなくなっていた。
 その粘着質のようなものからスライムコアが確認できた。
「ダークスライムのようだな……」
「そうみたい。……そのまま、魔界に送り返す?」
「そうだな。精を奪うことに夢中になっているみたいだしな。――ソルブレイド」
 魔法陣を展開した後、ソルブレイドに命じた。
「ダークスライムを魔界へ送り返したまえ……。トラポート!」
「Yes,Master.」
 目の前にいたダークスライムを、その男ごと魔界へ送り返した。
「これでひとーつ、ってね」
「このまま、全部行っちゃう?」
「あぁ。確認できたら、直ぐに飛ばす。
 ……でも、一度でいいから女性が取り込まれるところを見てみたいがな……」
「それなら直ぐに見れそうだよ、ほらあそこに」
 恵玲奈が指差した方向に、同じようなダークスライムが。
 スライムコアが作り出される瞬間を目の当たりにして、不覚にも『下』が伸びていた。
「……このヘンタイ。仕事中なんだよ?」
「申し訳ない。……さてっと、これ以上の被害を防ぐためにトラポートっと」

 ◇

「……ふぅ、これで全部か?」
「そうみたい、だけど……。あっちは消し飛んじゃってる」
 俺が目にしたのは、天使がダークスライムを消し飛ばしていた。
『おいおいマジかよ……、って天使!?』
 その現場に向かうと、3人の天使がダークスライムを消し飛ばし、もう1人は後方で待機していた。
「……まさか、お前ら……」
「……ン? ……! 貴様は、ユウキ・シキドウ!」
「エイクスか……。俺の名を知っているってことは……」
 ソルブレイドを向ける。
「おい、エイクス。こいつも咲希の敵なのか?」
「それなら、倒さないといけないんじゃないかしら?」
「……お前らな、一気に話しかけるな。とにかく、そうであることには間違いないがな」
「――ダークスライムとじゃれあうのも良いがよ、俺はお前らを回収することも任務なんだぜ?」
「お、お兄ちゃん!?」
 恵玲奈が気がついたときには遅かった。
「回収? どういうことだ、ユウキ」
「………。とにかく、上の命令なんでね」
 3人の天使をバインドで拘束する。
「よし、生け捕り完了っと。恵玲奈、後は任せる」
「え、えぇっ!?」
「既に蒼井さん達には連絡を入れている、問題ない」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」
 俺はダークスライムを多く送り返すために、動き始めた。

 ◇

「……お手柄だな、祐樹。依頼遂行の上に3人の天使を確保してしまうとは」
「偶然ですよ、ハハハ……」
「さてと。……名前を聞こうか」
 蒼井さんは3人の天使の名前を聞いた。
「――黙秘権行使は、出来ないか」
「別にソレは構わないが、種族名で呼ぶぞ」
「……問題有りませんから、早く解放してくださいませんか?」
「無理だな、ヴァーチャー。早く解放して欲しければ、私の話を聞いてもらおう。
 まず、お前らのマスターは誰だ?」
 ヴァーチャーはそれに答えた。
「……保科咲希? 教団の関係者か?」
「違うぜ。咲希はただの寂しい女の子だ。教団とは関係はねぇよ」
「そうか……。では、何故お前らはその咲希と言う少女に遣える」
「彼女が私たちを解き放ったからだ。それ以外の理由など存在しない」
 エイクスがそれに答えたようだ。
「……ふむ。では、誰が何のためにエンジェルクレイドルを保科咲希と言う少女の手元に……。
 祐樹、彼らを解放してやってくれ。もういい」
「了解です」と言って、俺はバインドを解いた。
「それでは失礼致しますわ」
 ヴァーチャーはそう言って飛んで行った。
「ユウキ、借りができたみたいだな。これは後で返させてもらう」
「ふぅん、こいつユウキって言うのか。……覚えてろよ」
 エイクスとメルキセデクも同じように飛んで行った。
「……思ったより謎が多いな……」
「どういう事です?」
「なんで、教団から消えたエンジェルクレイドルが、教団と関係ない少女の手元にあるか、と言うことだ。……いや、何も知らない少女の方が帰って恐ろしいことになるぞ」
「ですから、どういう事なんですか?」
 次の瞬間、蒼井さんからとんでもない言葉が飛び出した。


 ――魔界にいる魔物娘たち以外は、消滅する。


 と。
10/01/07 22:20更新 / ヘイズル
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