プロローグ:聖典揺り篭の消失
――2009年12月24日。オリュンポス世界・管理局『クロス・スクランブル』
「局長。……教団から、エンジェルクレイドルが消えたと」
「――年末の忙しい時に、どういう事だ」
「は、はぁ……。それが……」
教団が言うには、聖典として保存されていた「天使の揺り篭」。
ある時、聖典を見ていたらそれだけ失われていたと。
「何処に消えたのか、分からないのか?」
「――極東の島国、ジパング地方の様です」
「………。そうか……。なら、ジパング地方出身の奴が、直属魔導師の中にいただろう?
魔物娘管轄部に転属させて、調査をしてくれと伝えてくれ」
局長は部下である秘書にそう命令した。
◇
――同日。ジパング地方・白銀町。
『……2009年もあと数日でオシマイか……。どうせまた、一人なんだろうなぁ……』
少女は一人リビングでテレビを見ながら、そう思っていた。
彼女は交通事故で両親が死んでから、近所の人達の力を借りながら、一人で生活している。
そして、自分の部屋に戻り眠ろうとしたとき、見たこともないモノが枕元に置かれていた。
『なにこれ……。新しいコンピュータなのかしら……』
開けてみると、左側に液晶画面が有り、右側にキーボードがあった。
その後突然、液晶が光りだし、その眩しさで彼女は目を閉じた。
◇
――それから数日後。ジパング地方・白銀町。
「――さてっと。ソルブレイド、どんな感じだ?」
『悪くないですね。空気中のエーテル量も多い。もしかすると、マスターが直属魔導師になったのもこの空気を吸っていたからかと思いますが』
「かもしれんな。それにしても変わらんか。……久しぶりのジパングだけども。
相変わらず、って感じだな。俺的には。……それにしても」
『どうしたんですか、マスター?』
ソルブレイドがマスターと呼ぶ青年に尋ねる。
「俺が管理局へ行く前って、こんな感じだったのかなって」
『魔物が溢れている、という意味で、ですか?』
「ああ。稲荷や女郎蜘蛛が外をウロウロしているところを見ているが、他の魔物もウロウロしているなって、思ったからなんだけどね」
青年は、街中の様子を見てそう言った。
「さて、ソルブレイド。俺の実家へ向かおうか」
「Yes,Master.」
青年の実家は、普通の一軒家であった。
「ただいま、母さん。姉さん」
「お帰り、祐樹。帰省で帰ってきたの?」
「まあ、時期的にそうかもしれないけど、ちょっと違うんだ。今度はここで働くことになったからさ」
「それじゃ、ユウ君はここから職場に出掛けるの?」
そうなるかな、と祐樹は姉に言った。
「良かった。暫くはユウ君といることが出来るんだね」
「まあ……そうなるかな。……そうだ、姉さん。俺に合いそうな魔物娘、探しておいてくれた?」
「え、何のこと?」
「とぼけないでよ。帰る前に頼んだじゃないか」
溜息をつきながら言う祐樹。
「――そう言えば、そんなコトを聞いていたわね。ちょっと待って」
祐樹の姉はそう言った後、暫くして戻ってきた。
「こんな感じかしら。……一応、魔物娘図鑑からサーチした結果だけどね」
姉が持ってきたプリントアウトされた図鑑データを持ち、リビングで読んだ。
『サキュバスはいいや。……バフォメットは……。うん……。
ワーウルフか……。忠実なのは良いけど、ちょっと危険なときもありそうだな……。
……ヴァンパイアか……。候補の一つかな……。――うーむ、悩むなぁ……』
「やっぱり、悩むわよね」
「あぁ……。それでこれさ、姉さんの趣味も入ってるでしょ?」
「……あちゃー……。やっぱ、見抜かれてたか」
彼女は額に手を置きながら言った。
「……まあ、姉さんの趣味で選んだっぽいモノは外したけど……」
「それじゃ、今手に持っているのは候補?」
「うん。えーっと、……『ヴァンパイア』『稲荷』『烏天狗』あたりかな」
「ふーん……。結構ここ出身の魔物をチョイスしたんだね」
それにうなづく祐樹。
「家に帰ってきたときに、姉さんや母さんに襲いかかりそうなものも排除した結果もあるけどね」
「なるほどー。……それじゃ、お姉ちゃん、交渉してくるね」
「え、交渉?」
「うん。ユウ君は私の職業、忘れちゃってたの?」
「……じゃあ、さっきのアレはわざとトボけたの?」
「質問を質問で返さないでよ。……そうだよ、さっきのはわざとトボけたの。
それに魔物娘との交渉なんてチョチョイのチョイよ」
「……そうだった。魔物交渉人(デーモンネゴシエイター)になりたいから、って身体の一部分をサイバー化したんだっけね」
「そうそう。魔物に襲われても、魔物化しないようにね。
……それじゃ、『ヴァンパイア』『稲荷』『烏天狗』と会ってくるから。ユウ君は呼び出しがあるまではゆっくりしていくといいよ」
祐樹に告げて、姉は出かけて行った。
「……ふぅ。さて、管轄部へは明日向かえばいいんだよね」
「All right.」
「それなら、一日ゆっくり出来そうだな……」
――この時、祐樹は何故自分が魔物娘管轄部という場所に転属になった詳しいことを知る由もなかった。
しかし、のちに『聖典揺り篭事件』と呼ばれる事件に巻き込まれ、その転属の訳を知る……。
「局長。……教団から、エンジェルクレイドルが消えたと」
「――年末の忙しい時に、どういう事だ」
「は、はぁ……。それが……」
教団が言うには、聖典として保存されていた「天使の揺り篭」。
ある時、聖典を見ていたらそれだけ失われていたと。
「何処に消えたのか、分からないのか?」
「――極東の島国、ジパング地方の様です」
「………。そうか……。なら、ジパング地方出身の奴が、直属魔導師の中にいただろう?
魔物娘管轄部に転属させて、調査をしてくれと伝えてくれ」
局長は部下である秘書にそう命令した。
◇
――同日。ジパング地方・白銀町。
『……2009年もあと数日でオシマイか……。どうせまた、一人なんだろうなぁ……』
少女は一人リビングでテレビを見ながら、そう思っていた。
彼女は交通事故で両親が死んでから、近所の人達の力を借りながら、一人で生活している。
そして、自分の部屋に戻り眠ろうとしたとき、見たこともないモノが枕元に置かれていた。
『なにこれ……。新しいコンピュータなのかしら……』
開けてみると、左側に液晶画面が有り、右側にキーボードがあった。
その後突然、液晶が光りだし、その眩しさで彼女は目を閉じた。
◇
――それから数日後。ジパング地方・白銀町。
「――さてっと。ソルブレイド、どんな感じだ?」
『悪くないですね。空気中のエーテル量も多い。もしかすると、マスターが直属魔導師になったのもこの空気を吸っていたからかと思いますが』
「かもしれんな。それにしても変わらんか。……久しぶりのジパングだけども。
相変わらず、って感じだな。俺的には。……それにしても」
『どうしたんですか、マスター?』
ソルブレイドがマスターと呼ぶ青年に尋ねる。
「俺が管理局へ行く前って、こんな感じだったのかなって」
『魔物が溢れている、という意味で、ですか?』
「ああ。稲荷や女郎蜘蛛が外をウロウロしているところを見ているが、他の魔物もウロウロしているなって、思ったからなんだけどね」
青年は、街中の様子を見てそう言った。
「さて、ソルブレイド。俺の実家へ向かおうか」
「Yes,Master.」
青年の実家は、普通の一軒家であった。
「ただいま、母さん。姉さん」
「お帰り、祐樹。帰省で帰ってきたの?」
「まあ、時期的にそうかもしれないけど、ちょっと違うんだ。今度はここで働くことになったからさ」
「それじゃ、ユウ君はここから職場に出掛けるの?」
そうなるかな、と祐樹は姉に言った。
「良かった。暫くはユウ君といることが出来るんだね」
「まあ……そうなるかな。……そうだ、姉さん。俺に合いそうな魔物娘、探しておいてくれた?」
「え、何のこと?」
「とぼけないでよ。帰る前に頼んだじゃないか」
溜息をつきながら言う祐樹。
「――そう言えば、そんなコトを聞いていたわね。ちょっと待って」
祐樹の姉はそう言った後、暫くして戻ってきた。
「こんな感じかしら。……一応、魔物娘図鑑からサーチした結果だけどね」
姉が持ってきたプリントアウトされた図鑑データを持ち、リビングで読んだ。
『サキュバスはいいや。……バフォメットは……。うん……。
ワーウルフか……。忠実なのは良いけど、ちょっと危険なときもありそうだな……。
……ヴァンパイアか……。候補の一つかな……。――うーむ、悩むなぁ……』
「やっぱり、悩むわよね」
「あぁ……。それでこれさ、姉さんの趣味も入ってるでしょ?」
「……あちゃー……。やっぱ、見抜かれてたか」
彼女は額に手を置きながら言った。
「……まあ、姉さんの趣味で選んだっぽいモノは外したけど……」
「それじゃ、今手に持っているのは候補?」
「うん。えーっと、……『ヴァンパイア』『稲荷』『烏天狗』あたりかな」
「ふーん……。結構ここ出身の魔物をチョイスしたんだね」
それにうなづく祐樹。
「家に帰ってきたときに、姉さんや母さんに襲いかかりそうなものも排除した結果もあるけどね」
「なるほどー。……それじゃ、お姉ちゃん、交渉してくるね」
「え、交渉?」
「うん。ユウ君は私の職業、忘れちゃってたの?」
「……じゃあ、さっきのアレはわざとトボけたの?」
「質問を質問で返さないでよ。……そうだよ、さっきのはわざとトボけたの。
それに魔物娘との交渉なんてチョチョイのチョイよ」
「……そうだった。魔物交渉人(デーモンネゴシエイター)になりたいから、って身体の一部分をサイバー化したんだっけね」
「そうそう。魔物に襲われても、魔物化しないようにね。
……それじゃ、『ヴァンパイア』『稲荷』『烏天狗』と会ってくるから。ユウ君は呼び出しがあるまではゆっくりしていくといいよ」
祐樹に告げて、姉は出かけて行った。
「……ふぅ。さて、管轄部へは明日向かえばいいんだよね」
「All right.」
「それなら、一日ゆっくり出来そうだな……」
――この時、祐樹は何故自分が魔物娘管轄部という場所に転属になった詳しいことを知る由もなかった。
しかし、のちに『聖典揺り篭事件』と呼ばれる事件に巻き込まれ、その転属の訳を知る……。
10/01/04 18:41更新 / ヘイズル
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