連載小説
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お一人様一品限りです
 
やぁ、久しぶりだな。今日も満員でなかなか御目当ての食事にありつけなくて困ってるんだ。ところで、今日はどうしたんだ?来るには早過ぎる時間だろう?何?我慢出来なくて朝一番から店の前に座ってたって?本当に物好きな奴だな。ここは12時開店なんだから焦る必要は無いはずだろうに・・ん?どうしても逢いたかった子が居るから早く来た、と。甘い性春・・んんっ!青春してるねぇ。それで、その逢いたい子はどこに居るんだ?黙ってちゃわからんだろ?いいから言ってみなさい、多少は力になれるかもしれないぞ。ふんふん、なるほどー・・・それなら今日のオススメは、・・・おっとすまないな、少しばかり知った顔が居たので少々失礼するよ。さて、何時も通りのんびり拝見させてもらいましょうか。






〜よ〜かい氏の場合〜

今日の昼も適当に済ますかあ。今はそんなに食べたい気分じゃないし、食べたところで何が変わる訳でもないし。ま、そんな事よりも早く仕事終わらせて適当に食べてのんびり休憩しとこ。無駄に体力使うのはあんまり好きじゃないし。んで、どうでもいい事考えてたら後5分で昼休憩かあ。どうしよ・・・。

「手早く食べれるのがいいなあ、昼は飯より休憩がメインだし」

饂飩?蕎麦?まぁ麺類なら早く食べれるだろうけど。それだとちょっと寂しいから、もうちょっとだけ何か付け足したいな。そうだ、刺身食いたい!これは流石に贅沢か・・・でも少しぐらいなら食べたいなー。こう、小鉢でちょい足しみたいな感じで。・・・ま、いいや。っと・・休憩時間になったか。それじゃあ適当にふらついてきますかー。


まあ、こうなるのわかってたし。適当とか考えてたら絶対に乗り遅れちゃうんだよなー。どの店見ても満員満員。もう別に昼飯無くてもいいかなー。家に帰ってから食うほうが一番落ち着くし。ん、そうしよう!今日の昼食は無・・・し?

「あの店凄い並んでるなあ。リピーターが多いっぽい?・・冷やかしに並んでみますかー。気に入ったのが無ければ店を出てしまえばいいだけの話だし」

はーい並びましたよ〜。最後尾でだらだら待ちますよ〜・・・・、って・・・えええええええええええええええええええええええええ!???

いつの間にか後ろに20人以上が・・・。さっきまで誰も居なかっただろ!どっから湧いてきたんだよ!うはっ!見てる間にどんどん増えてる。しかも、厳ついのまで結構並んでるし、もしかしてヤバイ店に並んじゃった・・?

「・・・・・・(ど、どうしよ・・本当にヤバイ店だったらダッシュで逃げよう)」



「お待ちのお客様どうぞ〜」


おおおおおおおおおおおお!一気に雪崩れ込んだ。くっ・・・まさか自分で一旦区切られるなんてツイテナイ。でも、これで待ってる間は店の中が覗けて何があるかわかるし。あ、あれ?店の中には・・・稲荷さんとダークプリーストさんだけしか見えないぞ?一体何故・・・?


「次の方どうぞ〜〜」


はやっ!?待ってまだ1分ぐらいでしょ!あーもぅ!入るしかないじゃないか!


「「いらっしゃいませ〜〜♪どちらかお一つお選びくださいな〜」」


・・・稲荷さんでファイナルアンサー。まぁ、なんとなく御飯が欲しかっただけ。

「はい、どうぞ〜」

「ありがとう」

「それでは〜、奥のほうへとお進みください」

奥・・もしかして御飯持ったままあの部屋に入れと。どこぞの某チェーン店みたいにおかずが並んでるんだろうなあ。ま、入りますか。



「理想郷は此処なんだ・・・・」


まさか魔物娘達のおかず直売所があるなんて夢にも思わなかった。これってもうあれだよね、ここで死んじゃっても悔い残らないよね。これだけ一同に集まってるのは今までに見た事ないよ。うちの会社にも数人居るけどこれほど居るってのは壮観だ。それでとりあえずこれからどうしたらいいのかな。

「ん?壁に張り紙が・・おかずは一品のみ・・です。一品でも十分過ぎると思うんだけど」

んじゃ、おかずを買いに行きますか。もちろん目当てはシー・ビショップさん一択。結構広いから探すだけでも時間食いそう。どこに居るんですかねー。

「居ないなあ・・どこに・・・居た!」

ま さ か の 壁 際!なんだか大手の・・・何でも無い。でも、誰も並んでないなあ。もしかしてもしかすると・・・もう既に売り切れとか!?ヤバイ!ダッシュで確認するしか!うおおおおおおおおお、御飯持ってのダッシュはきつい!!

「はぁ・・はぁ・・・あ、あの・・もしかして・・・はぁ・・・はぁ・・」

「は、はい!なんでしょうか?」

「もう・・売り切れでしょうか・・はぁ・・はぁ」

「・・・はい?」

くそっ・・ブースの上には何も乗ってないし帰る準備してたのかも。だらだらと適当に探してた罰か・・・。折角偶然にも理想郷を見つけたというのに。

「あのぉ〜・・・」

「すいませんでした・・他をあたります」

「今からなんですけど〜・・」

へ?今何て言ったの?今から?聞き間違いじゃなければ自分が一番なの!?

「先程までお友達の結婚式に呼ばれてまして・・・お恥ずかしながら遅れてしまいまして・・・」

お友達アリガトウ・・・心の底から祝福させてもらうよ。新たな門出に幸あらんことを!

「それでは調理を始めますね、・・本日のオススメはこちらです♪」

平目と鰈・・・ツバスか。なかなか渋いとこを突いてるなあ。あっさり淡白な平目と鰈に、ほんの少しだけ脂が乗ったツバスの組み合わせは最強だな。んで、これをどう調理してくれるのかな。

「では〜、まずは細かい鱗を削って〜・・捌きますねー。ふんふ〜ん・・・♪」

やっぱり海に住んでるだけあって魚の扱いが巧いなあ。自分だったら始めの鱗剥がしで指をガリッと削りそう。本当に手際いいなあ・・・ん、これはもしかして刺身なのか!?さっきまで刺身が欲しいと願ってたばかりなのに!新鮮なネタでこんなに綺麗に捌いてくれて・・・感激で涙が止まらないぞ。ありがとう、シー・ビショップさん・・やはり貴女は海の女神様です!あれ?盛り付けとかしないの?え?え?

「はい、御飯をこちらに♪」

「あ、はい・・・」

手渡した御椀の上にこれでもかと盛られていく刺身・・これはまさか。

「新鮮なお魚で作った海鮮丼出来あがりました〜♥」

「おおおおっ・・・三色丼。シー・ビショップさん手作りの三色・・」

ああ、丼が輝いて見えるよ。ビバ!三色の輝き。では、いただきま・・・。

「ふぇ?なんで手を引っ込めるんですか・・」

「受け取ってはダーメ!はい、あ〜んしてください♪」

嘘!?何その公開羞恥プレイ!新婚プレイは自分には早過ぎる!


でもそんなの関係ネェ!!


「あ〜〜ん・・・んふ・・美味いです!」

「お口に合ったようでなによりです。はい、あ〜〜ん」

「あ〜ん・・・うまぁ・・・」

普段はそんなに食べる気しないけど、これなら何杯でも食える。絶対に!


嗚呼、美味いよ・・。今日の自分はシー・ビショップさんの手作り丼を味わう為に生きてるんだ。これこそが聖地。誰にも穢されない神から許された神聖な時間。んまいんまい・・・。

「はい、食後の御茶をどうぞ♪」

「・・・・へっ!?う、うそ・・・もう食い終わってたの!?」

幸せを噛み締めてる間に食い終わってるなんて・・・、くそっ!もう一度だけ・・もう一口だけでも欲しい!

「お・・・おかわり・・欲しいです・・・・」

「あらあら・・申し訳ありませんがおかずは一品と決まってますの・・。ごめんなさい」

そ、そうだった。張り紙に書いてたんだ。ど、どうすればいいんだ、これまでの人生でここまで悩んだ事なんて一度も無いぞ。一体どうすれば・・。


「んふふ♪おかわりは・・・・来週の水曜日にお願いしますね♥」


来週の水曜日!良し、スマホにメモしたぞ。・・・って、あら?なんで片付けてるの?

「あのぉ・・どうしてブースを綺麗に?」

「それはもちろん・・・愛情込めて作るのは一品だけですから♥」

おふ・・・その一品に出逢えた事に感謝しなくては。くぅ・・・来週の水曜日が待ち遠しい。

「それでは、また・・・水曜日に御逢いしましょうね♪他の子の所に行っちゃったら・・お姉さん拗ねちゃいますから」

絶対行かない!約束するから!って、ああああっ!?もうこんな時間じゃないか!早く戻らないと!

「また・・絶対に来ますから!」

急いで会計して戻らないと。レジはどこに・・・あそこか。




「220円になりま〜す」


・・・安い。稲荷さんの炊き立て御飯にシー・ビショップさんの三色・・、これだけでも千円は超えるかと思ってたのに。よし、500円置いていこう。


「お客さーん、御釣り〜〜」

「御釣りはそこの募金箱にでも入れておいて!それじゃ!」

あ〜〜、来週の水曜日が待ち遠しいなぁ。自分だけの一品・・・自分だけの逸品・・・。想像するだけで涎出ちゃったよ。




           「次は絶対に遅れないぞ!!」





〜BABA氏の場合〜


お腹空いたー。腹減ったのー。久しぶりの連休だからって当てもなくぶらぶらしてても腹は減るー。何か食おうかなー。でも、昼にはちょっと早いしもうちょいぶらぶらしてよう。はい、ぶ〜らぶら〜・・・。

「なんで連休だというのに何もする事が無いんだ。なんかこうあるだろう?48時間あったら何が出来る?みたいな」

独り言とか口に出してる時点で最悪だなー。いや、ほんと・・何もする事が無いわー。普段は休みの日はこれしようだのあれしようだの計画練って考えてる癖に当日になったら全く手に付かないんだよなあ。まぁ、たぶん・・皆同じだろうと思うけど。しかし、腹減ったわー。やっぱり何か食おう。

「で、どこの店入ろう・・・、前に見つけた店は値段はまぁまぁだったけどその分ちょっと味がなあ・・。やっぱり値段に比例するんだなー」

全部が、とは言えないけどやっぱりその手の店って増えてきたよな。値段が安心出来ても味が・・その逆に味はしっかりしてるけど値段のほうが、ってやつなー。どこかに良心価格の店でも無いかな。

「・・・ないな。あったら行ってるだろうし」

常連です、と言えるような店に巡り会った事ないからなー。入る店はいつも手当たり次第だし。適当にラーメンでも食って帰ろうかなあ。うん、そうしよう。

「んじゃ、身近なラーメン屋でも探して・・・」

お?斜め向かいに食堂発見。あそこでいいや。

「数人並んでるな・・・ま、あの人数ならすぐに入れるか」

はいはい、お邪魔しますよー・・。あ、ここ12時からの営業なのか。今はー・・11時53分か。この人数なら開いたと同時に入れるな。ちょっとラッキー。


「は〜い、お待たせしました〜。只今より開店で〜す」


「はいはい、待ってましたよ〜。それじゃ何食おうか」

おっおっおっ・・・?皆凄い勢いで入っていくなあ。もしかしてこの店かなり美味いの?それなら期待しよっかな。


「「いらっしゃいませ〜、お好きなほうをどうぞ〜♪」」


キタコレ!稲荷さんとダークプリーストさんが並んでる!ん・・どちらか一方を選ぶのか。・・・よし、パンを食べよう!

「焼きたてロールパン5つですね。ありがとうございました〜♪」

ほおぅっ・・ダークプリーストさんの笑顔が輝いてる。選んで良かったぁ〜。

「それでは、奥にお進みください♪」

奥か・・・さーて、何が出ますかねぇ〜・・・



「パラダイス!!」


おっと、・・思わず口に出して叫んでしまった。ここは冷静に的確にブースを選ばないと。さて、自分の手持ちはロールパン5つだが・・まず、御飯に合うおかずブースは無理っぽい。いくらなんでもロールパンに焼き魚を挟むのは無理あるし。そうなるとおかずは限られてくるなあ。

「牛乳お一つどうぞ〜♥」

「・・・ん?ありがとう」

「パンの方には牛乳の無料サービスが付いてきます〜」

つい心の中でガッツポーズしてしまった。目の前に居るおっぱいちゃんのミルクが飲めるなんて・・・パンを選んで本当に良かった。

さて、気を取り直して何を選ぼうか。これはかなり緊張するぞ。まずはパンに合うおかずコーナーに突撃だ。

「やきそば・・うん、パンに挟むとかなり美味いな。生ハムにピクルス・・ぅんぅん!スクランブルエッグ・・よしよし。リブサンド・・・じゅる・・・」

どれもこれも魅力的じゃないか。と、さっきのホルスちゃんがブースに居るな。・・・バターとチーズを並べてるのか。ふむぅ、そうだなー・・ここはちょいベターかもしれないけどそっち系を見てみるか。


「いらっしゃーい、摘み立て苺を煮詰めたジャムありますよー♪」
「おにいさーん!チョコクリームあるよー♪」
「林檎のシロップ漬けはどうです?生クリームも置いてますからフルーツサンドが作れますわよ?」


ふほぉぉおぅ・・・!なんて酷い誘惑なんだ。全部食べたくてしょうがないじゃないか!でも、壁に貼られた紙にはおかずは一品のみって書かれてるんだよなぁ。これ完全に御目当ての子の手作りを食べろって事だよなー。

「よ、よ〜〜し・・ここは慎重に選ばないと。・・・ん、あそこのグリズリーはぼ〜〜っとしてるけど何してんだ??」

まだ出してないみたいだな・・ちょっとだけ気になるし何を出すか見てこよ。

「・・・いらっしゃぁ〜〜〜い〜〜〜〜〜〜・・」

凄い間延びだな・・、まあいいか。

「ここは何があるのかな?」

「ここにあるよ〜〜」

いや・・何も持ってないもこもこ手を出されてもなあ。って、何か匂うな・・凄く甘ったるい香りがする。

「お試しに〜一つどうぞ〜〜」

「って、パン握って何して・・・あっ!?」

パンの先端が蜂蜜まみれになってる!これってまさか・・

「一口どうぞ〜〜」

「・・・んむぅ・・・美味い」

なんて言えばいいんだ・・市販の物では出せないまろやかな甘味。べたつかないさらりとした食感。口の中に甘味がしつこく残らず胃に一気に落ちていくこの喉越し感。ただ一言・・美味いとしか言えない。

「す、すまないけど・・・もう一口くれないか」

「はぁ〜〜い〜〜・・・どうぞ〜〜〜〜〜♪」

差し出されたもこもこの手にパンを擦り付けて蜂蜜を拭ってくれということか。たっぷり頂こう!

「手から・・・んっ・・蜂蜜が染み出してるなんて・・便利いいなっと・・」

「でもぉ〜〜・・お腹が空くと〜、手をずっと舐めてるから〜〜・・いつまでも湧いてきて〜〜動けないんです〜〜」

「まぁ・・そうなるのかな・・・んぐ・・美味いなあ・・・もうちょっとだけ蜂蜜を・・・」

「沢山食べてくださ〜い♪」

ああ・・美味い。蜂蜜そんなに好きじゃなかったけど、これならいくらでも食べれるぞ。んで、合間に先程もらった牛乳を・・・・ぷは・・・牛乳もうまー・・・。

「美味いわー・・・美味い牛乳と美味い蜂蜜の味が重なって最高だ・・・って・・・あれ?蜂蜜出なくなった??」

「あ〜れ〜??どうして出ないの〜?」

「・・・案外舐めたら出るんじゃないの?」

「あ〜〜・・そうですね〜。はい〜どうぞー」

え?もしかして舐めろと?・・・・試しに舐めてみるか。

「んぅ・・ぺろ・・んちゅ・・」

「ひゃぅん!!・・くすぐったいですぅ〜〜♥」

・・・おおっ!?舐めたら本当に肉球の隙間から蜂蜜が湧いてきた!もうちょっと舐めてみよ。うまぁ・・・・

「んん・・んふ・・・ちゅ・・んっ。・・・肉球の・・・ん・・隙間に結構・・・んふぅ・・溜まってきてるな」

「はっ・・・はっ・・・はふぅ・・、そんなに激しく〜舐めないで〜〜♪」

ん、これぐらいかな?では・・・最後の1個を・・・いただきまっす!!



「ごちそうさまでした!」



はぁぁぁ〜〜〜、美味かったああ〜〜・・・。たまには蜂蜜パンもいいもんだ。それじゃ食い終わったし、ちょっと名残惜しいけど、そろそろ店を出るか。

「んじゃ、これで・・・ん?上着の裾を掴まれてると動けないんだけど」

「土曜日も〜・・・」

「土曜?」

「土曜日も〜・・来てくれると嬉しい〜」

・・・・土曜日か。今週の土曜は上手い感じに休みになってるし・・・うーん・・。

「だ〜め〜・・・・?」

「・・・絶対に来るよ。だからそんな悲しそうな顔しないで、な?」

「うん〜待ってる〜〜♥」

よっし、満腹になったし・・次の約束も取り付けたし今日は余計な寄り道せずに帰ろう。んで、会計は。




「100円になりまーす」


・・・・、いいのか?本当に100円でいいのか。まぁ、100円と言われたからにはそうなんだろうなぁ。んじゃ、次は土曜日に並びに来るか。




            「常連になれそうな気がする!いや、きっとなる!」



15/09/27 00:34更新 / ぷいぷい
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■作者メッセージ
生きてます。最近は投稿する事に臆病になって部屋の隅でガタガタしております。初めの頃の勢いを取り戻したい・・・

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