サクセスストーリー
今日も俺の主夫生活が始まる。今まで碌に料理もしなかった俺がいつのまにかシェフ並の料理を作れるようになっている。料理だけじゃない。家事スキル全般が当たり前のようにこなせる。それもこれも全てアイツのおかげだ。もし俺があのまま生活していたら確実にこの世から居なかっただろう。本当にアイツには感謝している。これからもアイツの為だけに俺は生きていこう。、と・・・姫君が御目覚めだ。
「おはよぅ〜・・・、今日の朝ご飯は何〜〜〜?」
「アルラウネの蜜入りシークヮーサードリンクと黒コッペパン、パンには昨日グレープフルーツで作ったジャムがあるからそれを塗ってくれ。デザートは抹茶アイスにホルミルク印の練乳を掛けておくよ」
「いゃ〜〜〜ん♪うちの好み良くわかってるわ〜〜」
「その腹を見れば誰でもわかるよ。それに先日、うちの姫君は夜中にこっそり酸っぱい物を食べてたしなー」
「いややわ〜、こっそり覗き見するなんて。でも、うちとしては酸っぱいもんよりアンタの濃厚な精液さえあればいいんやけど?」
「朝からバカ言ってないで早く食べなさい。もうすぐ出勤時間だろう」
「ぶぅ〜〜・・・うちの旦那が朝からいけずやわ〜・・」
一人愚痴を零しながらもきゅもきゅとパンを頬張っていく姫君。それでも時々、嬉しそうに味わっているのを見てると作った甲斐があったもんだ。姫君は朝食を済ますと急ぎ顔を洗いスーツに着替え、チラリとこちらを振り返る。いってらっしゃいのキスは?と催促顔だ。もちろん俺は当然のように応える。
「あんまり無理するんじゃないぞ?」
「大丈夫や、うちは頑丈やから心配せんでもええよ。それより、うちが居らん間に他所の女連れ込んだら…どうなるかわかってるやろな?」
「・・・くっ、・・・はははははは!それは無いな。俺は姫君の丸い耳、ふさふさ尻尾、童顔、ちょっと嫉妬深い所、金にシビアなとこ全てを愛しているからな」
「うぅっ〜〜〜、そんなん出掛ける前に言われたら発情してまうやんか〜・・」
「ほらほら・・むくれてないで・・チュッ・・」
「んんっ・・。しゃーないなー。帰ったらおもいっきり可愛がってもらうから覚悟しときやー」
そしてうちのちょっと我侭な姫君は出勤する。妊娠六ヶ月だというのにパワフルだ。さて、姫君も出掛けましたし、いつもの日課を済ませてしまうか。俺は鼻歌混じりに朝食の食器を下げのんびり皿洗いをする。うん、今日も良い洗濯日和だ。
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俺は柏木 亮一郎。若いながらも一流とは言えないがそこそこの企業の社長だ。今日はクズな社員を見回る日、心の中で何度も『つまらん人間見ても金にならん』と愚痴を考えながら視察に回る。営業課、会計、外回りするフリして昼寝してるクズ共、名前ばかりの役職連中。右を見ても左を見てもクズクズクズ。こんなクズに俺は給料を支払う気なんて一切無い。だが社員として居る以上は最低限の保証は必要だ。くだらない、本当にくだらない。無能ばかり集まっても意味が無い。そんな愚痴を心の中で呟きながら社長室に戻る。
「大学在籍の頃にベンチャー企業として名を馳せたが・・・、いざ立ち上げたら無能ばかり集まりやがって・・。あんなクズ共はとっととクビにして新しい人材でも探すのがいいか」
亮一郎は一人呟いていたが、社長を快く思わない連中が盗聴器を仕掛け一言一句逃さず聞き耳を立てていた。
「あのクソ社長が・・!誰のおかげで椅子に座ってられると思ってやがんだ!この会社は大学サークル仲間で立ち上げた俺達の夢だったはずなのに・・いつのまにかアイツがのさばりやがって・・」
「全くだ。それにアイツにはあまり良くない噂が出てるし、おかげで営業が総スカンの日も出てきている」
「…悪い噂ってのは何だ?」
「ああ、俺達初めは10人居ただろ。それがいつのまにかアイツを含めて四人しか残っていない。噂だが、アイツが裏で辞めさせたみたいだ。きっといつかは俺達も何かしら理由を付けられ捨てられるだろう」
「それって・・まさか、アイツ!全ての権利を我が物にする為に社長になったのか!」
「そういうことだな・・。俺達が気付くのが遅すぎたんだ」
「くそったれ!!」
口汚い言葉を出した瞬間、デスクに拳を叩き付ける社員。我関せずに就職マガジンを見る社員。ほとんどの社員が既に社長を見限っていた。大学サークル時代の四人以外の社員はここに就職したものの社長の傲慢さ、素行の悪さなどに呆れまともに働こうとしない。一企業として成り立っているかすら怪しい。それでもかろうじて残れるのは残ったメンバー三人が必死に盛り立てているからだった。そしてまた社員一同が聞き耳を立てながら社長室の音に集中する。
「ふん・・。何かと思えば盗聴器か。おい!クズ共!今これを聞いてるクズ共だ!お前らは全員クビだ!今すぐ荷物纏めて今日の夕方までに辞表を持ってこい!」
亮一郎は薄々勘付いていた。部屋に盗聴器があるだろうとなんとなくだが確信があった。これを理由に要らない社員を切ろうと算段していたのだ。亮一郎は部屋に盗聴器を付けられるのを待っていた。会社のトップでもある社長室の会話を盗聴する社員、これだけで充分な理由になる。亮一郎は心の中で悪魔のような笑いが出るのを我慢する。込み上げて来る笑いに耐え、盗聴器を握り潰し社長室を後にする。
「くくくっ・・・・、これで全ては俺のもんだ。今の世の中勝ったもんが生き残るんだ」
亮一郎は会社の駐車場に停めてあった外車に乗り込むと悠々と発進させる。明日からは俺だけの会社になるんだ、と。小気味良くエンジンを噴かせながらのんびり市街地を走り抜けようとした時、ふとネオンの光が視界に跳び込む。
「パーラーDE☆A☆I?で・・あ、い・・出逢い?なんだそりゃ?・・まぁ、どうせ暇だ。明日から良い人材との出逢いをする為にはちょうどいい」
そう考えた亮一郎は車を駐車場へと入れパーラーへと足を運ぶ。自動ドアが開き一歩踏みだした所で真横から声を掛けられた。
「当店へ御越し頂き誠にありがとうございます。当店は一人一人との出逢いを大切に、をモットーに営業させていただいております。当店での御遊戯は貴方様に一生の出逢いを与えてくれます。それでは、ごゆるりと・・・」
声を掛けられた亮一郎は固まっていた。この世の者とは思えないほどの絶世の美女。まるで流れるような腰まで伸びたプラチナの髪。凛々しい目、宝石のような瞳、美しい肢体。触れなくてもわかる瑞々しい唇。これほどの女性を見た事がなかった亮一郎だがすぐに我に返り声を掛ける。
「な・・・なぁ、あんた・・。うちの・・社員にならないか・・・?」
途切れ途切れにしか声が出せない。触れるだけで気が狂いそうなほどの妖艶さ。話すだけでも胸が圧迫されそうな雰囲気。亮一郎はそれだけを言うと黙りこんでしまった。
「あらあら・・、お誘いは嬉しいのですが私はここのオーナーなんですよ。ここを簡単に手放す事は出来ませんのであしからず♪」
それだけ答えた女性はカウンターへと戻っていく。いまだ亮一郎は固まっていたが女性の姿が見えなくなった瞬間にどっと汗が噴き出し膝が震えた。
「な、・・なんなんだ・・あの女性は・・。もしかしてあれが本物の風格の持ち主なのか・・?あれほどの覇気を持った女性を初めてみた・・」
噴き出した汗を持っていたハンカチで拭うとなるべくオーナーの視界に入らないようにこそこそと台を覗いていく。情けなくも思いながら台を物色していく。
「お?サクセスストーリー・・・人生ゲームか。懐かしいな、昔はこれでよく億万長者になったもんだ。景気付けに一発打つか」
椅子に座り千円札を入れのんびり打ち始める。打ち初めて僅か一回転目、・・・まさかの全揃い状態でキャラクター全員が行進していた。
「おいおい、こんな偶然ってあるもんだな。これはあれだな、明日からの俺の人生を祝福してるんだな」
一人で勝手に納得しのんびり行進を眺める。これでもうアタリは確定してるので後は何が当るかだけを楽しみに待つ。行進はゆっくりゆっくりと歩みを遅くすると丸みのある耳を頭のてっぺんに付けた少女でピタリと止まった。
「うちを当ててくれておおきにな〜♪」
その言葉と同時に入賞口が開く。亮一郎は気分爽快で打ち始めたがいくら入賞口に入れようとも玉が出てこない。機械の故障なのかと思ったが千円分の玉を使い切ったところで下の受け皿に一枚の金貨がカランと音を立てて滑るように出てきた。
「???」
「おめでとうございます、御客様。それは幸運の出逢いの金貨です。これで貴方様には幸せな出逢いが約束されました。その金貨を手放す事が無いようお気をつけくださいませ」
真後ろから声を掛けられビクビクしたが、千円が金貨に変わった幸運に浮かれ金貨を握りしめると急ぎ店を飛び出す。そんな亮一郎の後ろ姿を見送りながらオーナーは嬉しそうに独り言を言う。
「んふふ♪少し時間が掛かっちゃったけど・・やっとあの子にも旦那様が出来るのね・・。あんまり無茶しなきゃいいけど」
亮一郎は浮かれ気分で会社に戻ると社長室の机の上には三割りほどの社員が辞表を置いて消えていた。
「ははははははっ♪いい出だしだ!幸運の金貨様様だな。美味い具合に進んでくれる!」
全て幸運の金貨のおかげだと思い込んだ亮一郎だったが、この日を境に次々と不幸が訪れるようになった。
社員が施錠をせずに帰宅し強盗に金庫を荒らされ、辞めた社員が顧客名簿をこっそりとライバル社に売り渡していたり、極め付けは唯一盛り上げていた三人が同時に消えたせいで残った社員は日々だらけた状態で過ごしていた。ここまで壊滅的な状況でも亮一郎は『今からでも良い人材が入れば元に戻る』と信じていた。だが現状は坂道を転がる如く最悪の道に陥ってゆく。辞めた社員からの未払い分の給料の催促、滞った取引による不良債権の始末。流出した顧客データの処置が間に合わず信用を失墜させる。負のスパイラルが勢いを増して加速してゆく。そして・・とうとう、亮一郎は全てを失い、持ち家も売却され今では安アパートで一日を生き延びる為だけに生活をするようになった。慣れない家事をし、三着二万円前後の安いスーツに着替え毎日就職活動をする。今までの生活が当たり前だと思っていた亮一郎はあまりの惨めさに、そして情けなさに絶望感を抱いていた。あの日、手に入れた幸運の金貨はいつのまにか失っていた。
「・・・あの金貨を失った時に、俺の幸運も失ったんだな・・・・・。今の俺の手元には催促状しか残ってないとは・・」
催促状にはとんでもない金額が記されていた。それこそ身を粉にして一生働いても全額返せないだろう。これから亮一郎を待つのは返済だけの人生。そして借金を少しでも伸ばしてもらえるように頭を下げる日常。
「嘆いてもしょうがない・・・、職探しに行くか・・」
職探しに出る毎日。しかし、今までの悪行が知れ渡っているせいでどこに行っても門前払いだった。酷い企業になると正面玄関を潜る前に塩を撒かれる事もあった。自らの行いが招いた種だとは重々承知している。これからも・・いや、きっと一生こんな扱いだろう。結局いつも通り夕方になっても門前払いされた亮一郎はトボトボと安アパートに戻っていく。
「・・ただいま・・・・ははっ・・、誰も居ないのに何言ってんだろうな・・」
暗く寂しい安アパートの一室で眠る毎日。部屋は12部屋あるというのに住んでるのは2人だけという現実が亮一郎の心を少しづつ蝕んでいく。
「なんか・・疲れたな。飯も残り僅かだ・・。風呂に行く金も昨日で尽きた・・。このまま寝て明日には死んでるといいな・・・」
心が完全に砕け散った亮一郎は4畳半の部屋で大の字になり深く眠りに就いた。
朝、自室のオンボロなドアを叩く音で目が覚めた。
「出てこい!今日が返済日ってわかってんのか!出てこねぇとくそボロいドア潰すぞ!」
ドンドンと叩く音からガンガンと音が変わった。まるで金属片で殴ってるような音だった。あまりの恐怖に亮一郎は部屋の隅でガタガタ震える。そしてとうとうドアが潰され取立て屋が部屋に土足で侵入してくる。
「おぅ、にいちゃんよー。借金は返すってのがスジやなぁ・・。いつまで待たせんや?金無いんやったら臓器でも売るか?ん〜〜・・・?」
脅し文句をかけながら近寄る取立て屋。だがこれは脅しでは無いと感じていた。本気で臓器を売ってでも借金を取り立てる目をしていた。
「まままっまあま・・・待ってくれ・・・金はなんとかする!頼む・・臓器だけは・・・勘弁してくれ!」
必死に土下座して頼み込むが取り立て屋には情けなどない。
「にいちゃん勘違いしてへんか?金無いんやったら作ればいいだけのこっちゃ?そうやろ?幸いにもにいちゃんは健康そうやしの、高値で売れるわ」
そう言って亮一郎の腕を引っ張り部屋から引き摺りだそうとする。
「お願いだ!辞めてくれ!体だけは!体だけは勘弁してくれ!!」
叫ぼうにも誰も助けてくれない。このまま引き摺り出されるのかと思ったが玄関に一人の女性が立っているのが見えた。
「ん〜〜・・うっさいわ〜・・。朝はよぅから五月蝿いわー・・。ゆっくり寝られへんやろ〜・・・」
「なんや・・変なねーちゃんやのー。今すぐ静かにしたるわ。わかったらそこどけや」
「ん〜?・・・なんや〜、借金に追われてるんか〜、そこのにいちゃん?」
「邪魔や言うとんじゃ!はよどかんかい!」
「・・・アンタ・・誰に向かって言っとるんや・・?しばきまわすぞ・・」
いきなりの豹変ぶりに亮一郎も取り立て屋も動きが止まる。その隙に取り立て屋の懐から催促状の束を一瞬で抜き盗った。
「あっ!それ返さんかい!」
「ふ〜ん・・、結構な額やねぇ・・。でも、この程度やな」
それだけを言うといきなり破いてしまう。ばらばらに散っていく返済書類や催促状を必死に集めながら取り立て屋が叫ぶ。
「何しよんじゃああああああ!こんな事してタダで済む思ってんか!」
「タダで済むとは思うてないわ。それにさっきの金額は覚えたし、それぐらいやったらウチが今すぐ返済したるわ」
そういって女性はどこから出したのか一枚の名刺を渡した。
「あぁん!?どこの名刺・・じゃ・・・。・・・うっ・・ああ・・おおああああああああああああああああああ!!」
取り立て屋が名刺を貰った瞬間、人とは思えない速さで床に額を擦りつける。
「すすうすすうすすっす・・・すんませんしたあああああ!」
名刺を握り絞めたまま猛ダッシュで去っていく取り立て屋。そして訳がわからず呆然とする亮一郎。一体、何をしたのか気になったので尋ねてみた。
「ん?名刺渡しただけやで?アンタにも一枚やるわ」
一枚の名刺に書かれていたのは「褐マ狸狐狸 代表取締り役 徳間 姫子」と書かれていた。亮一郎の記憶には全く覚えがなかった。初めて聞く企業なうえに何をしてるのかすら知らない。
「ウチの会社はつい最近設立したばかりやから知らんのもムリないわ〜」
まるで昔の自分みたいだな、と深く考えたが今は借金まみれな毎日。目の前に居る女性とは全く正反対だ。あまりの情けなさに目頭が熱くなった。
「どないしたんや、にいちゃん?急に目頭押さえて・・泣いとるんか?」
「ううっ、・・・見ず知らずの女性に助けられる自分が不甲斐無く・・・ううっ・・」
「そんなん気にせんでええよー?たかが数億やんか?なっ?なっ?」
必死に慰める女性だったが金額を出された瞬間、俺は膝を付いて大泣きしてしまう。初対面の女性に救われた挙句に目の前で大泣きする自分は情けない。だけど、神に見捨てられたと思ったが女神は居たんだと・・。
「うっ・・ううっ・・。済まない・・この借りは必ず・・意地でも返す。だから・・「ちょい待ち」・・えっ?」
「ウチがいつ返せって言うた?別に金は返さんでいいねん。ちょいこの紙の一番下に名前書いてくれるだけでええわ」
またもやどこから出したのかわからない紙を手渡された俺は涙で滲む視界を頼りに一番下の欄に名前を書き入れた。
「あ、それともう一枚や。これは上のほうの欄に名前書いてなー」
きっと2枚とも借用書だろう。涙でぐしゃぐしゃになった視界で書き込んでいく。返さなくてもいいと言ってはいたが最低限の縛りだけでも残しておこうという思惑だろうと。俺はそれでも構わなかった。消えるはずだった命だ、一生掛けてもこの女性の為に全てを捧げようと誓った。
「ほな、・・これで契約完了やな♪ほなら、とっととボロアパートなんて捨てて我が家に戻ろうか〜♪」
「えっ?・・我が家って何の事だ・・?」
「何言うてんねん。アンタが今契約したやんか。きっちり守ってもらうで!」
契約?何の事かわからなかったが、目の前の女性が先ほどの紙の内容を読みあげた。
「私こと柏木 亮一郎は徳間 姫子の専属奴隷と成り一生を掛けて生活を守ります、ってサインしてるやん」
「んで、もう一枚が・・こうやって・・こう剥がすと・・(ペリッ)、表の一枚取ったら婚姻届けに早変わりや〜♪おもろいやろ♪」
俺は魂が抜けたように燃え尽きていた。だた何も考えられず引っ張っていかれた俺は成すがままの状態で姫子の家に連れ込まれ、ちょっと臭うからと風呂に放り込まれ風呂から上がった途端、いきなり寝室に放り投げられ腰の上に跨られる。もうどうなってもいいと思った。姫子は俺のチンポをムリヤリ立たせ秘所に宛がったかと思うと一気に腰を落とし処女膜を自ら破る。それ以降の記憶が全く無い。記憶に残ったのは翌朝起きた時に味わった強烈な腰痛とダルさ。姫子は同じベットで嬉しそうな顔で寝ている。
「お〜ぃ・・すまないが起きてくれないか・・」
「んふふ〜・・・、妊娠してまうやんか〜・・にゅふふ♪」(ポンッ!)
「…!!!!なんだ!?耳が生えてきたぞ!?し、・・尻尾にふわふわした足・・」
・・・・・ドサッ!
俺は全く理解出来ずそのまま気を失った。意識を失う瞬間・・姫子はまだ嬉しそうに寝たままだった。
「んでな・・・ウチは刑部狸っちゅう魔物でな。ウチに合う相性のいい旦那探しに来てたんよ。んで、たまたまやで、あの日にアンタを偶然見てどうしても欲しなったんや」
「それは、直感的な何かと言うやつか?」
「んー・・そやなぁ。そうとも言うわなー。ウチらは直感で相性のいい男を探すんや。これが魔物娘としての性活やしなー」
「今変な字が混じってた気がするが・・、だが本当に俺でいいのか・・。あんたぐらいなら俺の悪評も聞いてるはずだ。得する事なんて無いぞ。むしろマイナスだ」
「今も言うたやろ〜、ウチらは直感で決めるんや。ウチらの直感は外れる事は無いんや。だから安心しぃ〜」
「そうか・・。まずは契約通りに働きますか」
一人貧乏生活を経験したおかげで多少は食える程度の料理が出来るようになってた俺は朝食の準備に取り掛かる。横から姫子がもっふもふな尻尾を振りながら眺めてくる。嬉しそうに揺れる尻尾を見るたびに俺も嬉しくなった。誰かの為に朝食を作る。今までの俺からは考えられない。他人を踏み台にして他人の人生を犠牲にして、他人の全てを奪ってきた今までの自分を恥じたい。誰かの為に、喜ばれる為に自ら動くのが楽しい時期があったのを思い出す。皆、済まなかった。朝食を作りながら心の中で謝罪をする。
「さ、出来たぞ。・・あまり出来のいいもんじゃないけどな」
「何言うてんねん〜、ウチの旦那が作ってくれたもんやで。不味い訳ないやろ♪」
「・・・ありがとうな、姫子・・」
「ん〜、ウマウマ♪ん?なんや?」
「いや、なんでもない・・(落ち着いたら皆に謝罪に行こう・・)」
皆に謝罪して、もう一度人生をやり直そう・・。姫子と一緒なら出来るような気がする。これから謝罪ばかりの生活になるだろうが頑張っていこうと心に決めた。
「生活ちゃうで〜。性活やで〜」
姫子、お願いだから俺の心にツッコミ入れないでくれ・・。
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「はぁ〜〜・・・、ほんま苦労したわぁー」
あのパーラーからお持ち帰りされた晩、ウチはこっそり解放され深夜の街に消えていった。あれから魔物娘達の援助で資金を集めて小さなテナントビルを買収し、余った金は全部地回りに配った。地盤固めるより先に壁は必要やからな。そして、こっそりあの男の会社をテナントの屋上から眺める。ふふふ・・、悪いけど堕ちてもらうで・・。
ウチは一気に勝負に賭けた。まずは外回りの連中の大半をウチに抜いてやった。どうやら初日の結果では痛みを感じていないみたいだった。むしろ嬉々としている雰囲気だった。
「ふぅ〜〜〜ん・・ほなら、今度はあの三人貰おうか♪」
あの三人とは勿論、設立当時のメンバーの三人。説得するには時間掛かるやろうと思ったけど案外簡単にこっちに転がってくれたわ。理由話したら喜んで退職届けを書きに行ってたわ。もちろん三人はウチの会社にとってはかなり有益なのでそれなりのポストに座ってもらった。あれから一ヶ月ほどだろうか、アイツの回りでは次々と不幸が訪れる。
「くふふふ♪どうなるやろな〜」
そして更に一月経過した。もう誰も居ない企業。現実から捨てられ、ただそこに有るというだけの無機質な建物。後でウチが綺麗にしたるさかい、恨まんといてや。
あの日から随分と時間が経った。あの男も今ではボロアパートで催促状に怯える毎日らしい。そろそろ出番かな。ウチは前々から用意していた取り立て屋に連絡を入れる。
「あー・・ウチや。ちょい若いの貸して欲しいんやけどええか?」
「もちろんです、姐さん!んで、今日は誰をヤるんですかい?」
「いや〜、ちょっとちゃうねん。後であんたにも説明するからその通りにやって欲しいねん」
今日が絶好のチャンス!今なら心も体もボロボロなはず!そこでウチが用意した取り立て屋に一芝居打たせて王手や。
「や・・辞めてくれ!体だけは!体だけは!」
案の定巧い事いっとるわ。成功したらあの若い取り立て役のにーちゃんには謝礼出さんといかんなー。
巧くいった。借用書も婚姻届けも見事にサインしよった!これでウチにも旦那が出来たんや!ちょい呆けてるけど畳み込むんなら今のうちや。
「んじゃ、ウチいこか♪」
後は簡単やったなー・・。呆けたままの旦那を犯して既成事実作るんわ楽やったわ〜。翌日寝ぼけて耳と尻尾出たのは失敗やったけどなー。
でも、これからは毎日妊娠するまで濃厚な精液貰えるんや。催促状の金額はちょい痛手やったけどあの程度で済むんなら安いわ。ウチが本気出せば取り返せるわ。
さて、これから増えるだろう魔物娘達の為に一肌脱ごか・・。
「おはよぅ〜・・・、今日の朝ご飯は何〜〜〜?」
「アルラウネの蜜入りシークヮーサードリンクと黒コッペパン、パンには昨日グレープフルーツで作ったジャムがあるからそれを塗ってくれ。デザートは抹茶アイスにホルミルク印の練乳を掛けておくよ」
「いゃ〜〜〜ん♪うちの好み良くわかってるわ〜〜」
「その腹を見れば誰でもわかるよ。それに先日、うちの姫君は夜中にこっそり酸っぱい物を食べてたしなー」
「いややわ〜、こっそり覗き見するなんて。でも、うちとしては酸っぱいもんよりアンタの濃厚な精液さえあればいいんやけど?」
「朝からバカ言ってないで早く食べなさい。もうすぐ出勤時間だろう」
「ぶぅ〜〜・・・うちの旦那が朝からいけずやわ〜・・」
一人愚痴を零しながらもきゅもきゅとパンを頬張っていく姫君。それでも時々、嬉しそうに味わっているのを見てると作った甲斐があったもんだ。姫君は朝食を済ますと急ぎ顔を洗いスーツに着替え、チラリとこちらを振り返る。いってらっしゃいのキスは?と催促顔だ。もちろん俺は当然のように応える。
「あんまり無理するんじゃないぞ?」
「大丈夫や、うちは頑丈やから心配せんでもええよ。それより、うちが居らん間に他所の女連れ込んだら…どうなるかわかってるやろな?」
「・・・くっ、・・・はははははは!それは無いな。俺は姫君の丸い耳、ふさふさ尻尾、童顔、ちょっと嫉妬深い所、金にシビアなとこ全てを愛しているからな」
「うぅっ〜〜〜、そんなん出掛ける前に言われたら発情してまうやんか〜・・」
「ほらほら・・むくれてないで・・チュッ・・」
「んんっ・・。しゃーないなー。帰ったらおもいっきり可愛がってもらうから覚悟しときやー」
そしてうちのちょっと我侭な姫君は出勤する。妊娠六ヶ月だというのにパワフルだ。さて、姫君も出掛けましたし、いつもの日課を済ませてしまうか。俺は鼻歌混じりに朝食の食器を下げのんびり皿洗いをする。うん、今日も良い洗濯日和だ。
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俺は柏木 亮一郎。若いながらも一流とは言えないがそこそこの企業の社長だ。今日はクズな社員を見回る日、心の中で何度も『つまらん人間見ても金にならん』と愚痴を考えながら視察に回る。営業課、会計、外回りするフリして昼寝してるクズ共、名前ばかりの役職連中。右を見ても左を見てもクズクズクズ。こんなクズに俺は給料を支払う気なんて一切無い。だが社員として居る以上は最低限の保証は必要だ。くだらない、本当にくだらない。無能ばかり集まっても意味が無い。そんな愚痴を心の中で呟きながら社長室に戻る。
「大学在籍の頃にベンチャー企業として名を馳せたが・・・、いざ立ち上げたら無能ばかり集まりやがって・・。あんなクズ共はとっととクビにして新しい人材でも探すのがいいか」
亮一郎は一人呟いていたが、社長を快く思わない連中が盗聴器を仕掛け一言一句逃さず聞き耳を立てていた。
「あのクソ社長が・・!誰のおかげで椅子に座ってられると思ってやがんだ!この会社は大学サークル仲間で立ち上げた俺達の夢だったはずなのに・・いつのまにかアイツがのさばりやがって・・」
「全くだ。それにアイツにはあまり良くない噂が出てるし、おかげで営業が総スカンの日も出てきている」
「…悪い噂ってのは何だ?」
「ああ、俺達初めは10人居ただろ。それがいつのまにかアイツを含めて四人しか残っていない。噂だが、アイツが裏で辞めさせたみたいだ。きっといつかは俺達も何かしら理由を付けられ捨てられるだろう」
「それって・・まさか、アイツ!全ての権利を我が物にする為に社長になったのか!」
「そういうことだな・・。俺達が気付くのが遅すぎたんだ」
「くそったれ!!」
口汚い言葉を出した瞬間、デスクに拳を叩き付ける社員。我関せずに就職マガジンを見る社員。ほとんどの社員が既に社長を見限っていた。大学サークル時代の四人以外の社員はここに就職したものの社長の傲慢さ、素行の悪さなどに呆れまともに働こうとしない。一企業として成り立っているかすら怪しい。それでもかろうじて残れるのは残ったメンバー三人が必死に盛り立てているからだった。そしてまた社員一同が聞き耳を立てながら社長室の音に集中する。
「ふん・・。何かと思えば盗聴器か。おい!クズ共!今これを聞いてるクズ共だ!お前らは全員クビだ!今すぐ荷物纏めて今日の夕方までに辞表を持ってこい!」
亮一郎は薄々勘付いていた。部屋に盗聴器があるだろうとなんとなくだが確信があった。これを理由に要らない社員を切ろうと算段していたのだ。亮一郎は部屋に盗聴器を付けられるのを待っていた。会社のトップでもある社長室の会話を盗聴する社員、これだけで充分な理由になる。亮一郎は心の中で悪魔のような笑いが出るのを我慢する。込み上げて来る笑いに耐え、盗聴器を握り潰し社長室を後にする。
「くくくっ・・・・、これで全ては俺のもんだ。今の世の中勝ったもんが生き残るんだ」
亮一郎は会社の駐車場に停めてあった外車に乗り込むと悠々と発進させる。明日からは俺だけの会社になるんだ、と。小気味良くエンジンを噴かせながらのんびり市街地を走り抜けようとした時、ふとネオンの光が視界に跳び込む。
「パーラーDE☆A☆I?で・・あ、い・・出逢い?なんだそりゃ?・・まぁ、どうせ暇だ。明日から良い人材との出逢いをする為にはちょうどいい」
そう考えた亮一郎は車を駐車場へと入れパーラーへと足を運ぶ。自動ドアが開き一歩踏みだした所で真横から声を掛けられた。
「当店へ御越し頂き誠にありがとうございます。当店は一人一人との出逢いを大切に、をモットーに営業させていただいております。当店での御遊戯は貴方様に一生の出逢いを与えてくれます。それでは、ごゆるりと・・・」
声を掛けられた亮一郎は固まっていた。この世の者とは思えないほどの絶世の美女。まるで流れるような腰まで伸びたプラチナの髪。凛々しい目、宝石のような瞳、美しい肢体。触れなくてもわかる瑞々しい唇。これほどの女性を見た事がなかった亮一郎だがすぐに我に返り声を掛ける。
「な・・・なぁ、あんた・・。うちの・・社員にならないか・・・?」
途切れ途切れにしか声が出せない。触れるだけで気が狂いそうなほどの妖艶さ。話すだけでも胸が圧迫されそうな雰囲気。亮一郎はそれだけを言うと黙りこんでしまった。
「あらあら・・、お誘いは嬉しいのですが私はここのオーナーなんですよ。ここを簡単に手放す事は出来ませんのであしからず♪」
それだけ答えた女性はカウンターへと戻っていく。いまだ亮一郎は固まっていたが女性の姿が見えなくなった瞬間にどっと汗が噴き出し膝が震えた。
「な、・・なんなんだ・・あの女性は・・。もしかしてあれが本物の風格の持ち主なのか・・?あれほどの覇気を持った女性を初めてみた・・」
噴き出した汗を持っていたハンカチで拭うとなるべくオーナーの視界に入らないようにこそこそと台を覗いていく。情けなくも思いながら台を物色していく。
「お?サクセスストーリー・・・人生ゲームか。懐かしいな、昔はこれでよく億万長者になったもんだ。景気付けに一発打つか」
椅子に座り千円札を入れのんびり打ち始める。打ち初めて僅か一回転目、・・・まさかの全揃い状態でキャラクター全員が行進していた。
「おいおい、こんな偶然ってあるもんだな。これはあれだな、明日からの俺の人生を祝福してるんだな」
一人で勝手に納得しのんびり行進を眺める。これでもうアタリは確定してるので後は何が当るかだけを楽しみに待つ。行進はゆっくりゆっくりと歩みを遅くすると丸みのある耳を頭のてっぺんに付けた少女でピタリと止まった。
「うちを当ててくれておおきにな〜♪」
その言葉と同時に入賞口が開く。亮一郎は気分爽快で打ち始めたがいくら入賞口に入れようとも玉が出てこない。機械の故障なのかと思ったが千円分の玉を使い切ったところで下の受け皿に一枚の金貨がカランと音を立てて滑るように出てきた。
「???」
「おめでとうございます、御客様。それは幸運の出逢いの金貨です。これで貴方様には幸せな出逢いが約束されました。その金貨を手放す事が無いようお気をつけくださいませ」
真後ろから声を掛けられビクビクしたが、千円が金貨に変わった幸運に浮かれ金貨を握りしめると急ぎ店を飛び出す。そんな亮一郎の後ろ姿を見送りながらオーナーは嬉しそうに独り言を言う。
「んふふ♪少し時間が掛かっちゃったけど・・やっとあの子にも旦那様が出来るのね・・。あんまり無茶しなきゃいいけど」
亮一郎は浮かれ気分で会社に戻ると社長室の机の上には三割りほどの社員が辞表を置いて消えていた。
「ははははははっ♪いい出だしだ!幸運の金貨様様だな。美味い具合に進んでくれる!」
全て幸運の金貨のおかげだと思い込んだ亮一郎だったが、この日を境に次々と不幸が訪れるようになった。
社員が施錠をせずに帰宅し強盗に金庫を荒らされ、辞めた社員が顧客名簿をこっそりとライバル社に売り渡していたり、極め付けは唯一盛り上げていた三人が同時に消えたせいで残った社員は日々だらけた状態で過ごしていた。ここまで壊滅的な状況でも亮一郎は『今からでも良い人材が入れば元に戻る』と信じていた。だが現状は坂道を転がる如く最悪の道に陥ってゆく。辞めた社員からの未払い分の給料の催促、滞った取引による不良債権の始末。流出した顧客データの処置が間に合わず信用を失墜させる。負のスパイラルが勢いを増して加速してゆく。そして・・とうとう、亮一郎は全てを失い、持ち家も売却され今では安アパートで一日を生き延びる為だけに生活をするようになった。慣れない家事をし、三着二万円前後の安いスーツに着替え毎日就職活動をする。今までの生活が当たり前だと思っていた亮一郎はあまりの惨めさに、そして情けなさに絶望感を抱いていた。あの日、手に入れた幸運の金貨はいつのまにか失っていた。
「・・・あの金貨を失った時に、俺の幸運も失ったんだな・・・・・。今の俺の手元には催促状しか残ってないとは・・」
催促状にはとんでもない金額が記されていた。それこそ身を粉にして一生働いても全額返せないだろう。これから亮一郎を待つのは返済だけの人生。そして借金を少しでも伸ばしてもらえるように頭を下げる日常。
「嘆いてもしょうがない・・・、職探しに行くか・・」
職探しに出る毎日。しかし、今までの悪行が知れ渡っているせいでどこに行っても門前払いだった。酷い企業になると正面玄関を潜る前に塩を撒かれる事もあった。自らの行いが招いた種だとは重々承知している。これからも・・いや、きっと一生こんな扱いだろう。結局いつも通り夕方になっても門前払いされた亮一郎はトボトボと安アパートに戻っていく。
「・・ただいま・・・・ははっ・・、誰も居ないのに何言ってんだろうな・・」
暗く寂しい安アパートの一室で眠る毎日。部屋は12部屋あるというのに住んでるのは2人だけという現実が亮一郎の心を少しづつ蝕んでいく。
「なんか・・疲れたな。飯も残り僅かだ・・。風呂に行く金も昨日で尽きた・・。このまま寝て明日には死んでるといいな・・・」
心が完全に砕け散った亮一郎は4畳半の部屋で大の字になり深く眠りに就いた。
朝、自室のオンボロなドアを叩く音で目が覚めた。
「出てこい!今日が返済日ってわかってんのか!出てこねぇとくそボロいドア潰すぞ!」
ドンドンと叩く音からガンガンと音が変わった。まるで金属片で殴ってるような音だった。あまりの恐怖に亮一郎は部屋の隅でガタガタ震える。そしてとうとうドアが潰され取立て屋が部屋に土足で侵入してくる。
「おぅ、にいちゃんよー。借金は返すってのがスジやなぁ・・。いつまで待たせんや?金無いんやったら臓器でも売るか?ん〜〜・・・?」
脅し文句をかけながら近寄る取立て屋。だがこれは脅しでは無いと感じていた。本気で臓器を売ってでも借金を取り立てる目をしていた。
「まままっまあま・・・待ってくれ・・・金はなんとかする!頼む・・臓器だけは・・・勘弁してくれ!」
必死に土下座して頼み込むが取り立て屋には情けなどない。
「にいちゃん勘違いしてへんか?金無いんやったら作ればいいだけのこっちゃ?そうやろ?幸いにもにいちゃんは健康そうやしの、高値で売れるわ」
そう言って亮一郎の腕を引っ張り部屋から引き摺りだそうとする。
「お願いだ!辞めてくれ!体だけは!体だけは勘弁してくれ!!」
叫ぼうにも誰も助けてくれない。このまま引き摺り出されるのかと思ったが玄関に一人の女性が立っているのが見えた。
「ん〜〜・・うっさいわ〜・・。朝はよぅから五月蝿いわー・・。ゆっくり寝られへんやろ〜・・・」
「なんや・・変なねーちゃんやのー。今すぐ静かにしたるわ。わかったらそこどけや」
「ん〜?・・・なんや〜、借金に追われてるんか〜、そこのにいちゃん?」
「邪魔や言うとんじゃ!はよどかんかい!」
「・・・アンタ・・誰に向かって言っとるんや・・?しばきまわすぞ・・」
いきなりの豹変ぶりに亮一郎も取り立て屋も動きが止まる。その隙に取り立て屋の懐から催促状の束を一瞬で抜き盗った。
「あっ!それ返さんかい!」
「ふ〜ん・・、結構な額やねぇ・・。でも、この程度やな」
それだけを言うといきなり破いてしまう。ばらばらに散っていく返済書類や催促状を必死に集めながら取り立て屋が叫ぶ。
「何しよんじゃああああああ!こんな事してタダで済む思ってんか!」
「タダで済むとは思うてないわ。それにさっきの金額は覚えたし、それぐらいやったらウチが今すぐ返済したるわ」
そういって女性はどこから出したのか一枚の名刺を渡した。
「あぁん!?どこの名刺・・じゃ・・・。・・・うっ・・ああ・・おおああああああああああああああああああ!!」
取り立て屋が名刺を貰った瞬間、人とは思えない速さで床に額を擦りつける。
「すすうすすうすすっす・・・すんませんしたあああああ!」
名刺を握り絞めたまま猛ダッシュで去っていく取り立て屋。そして訳がわからず呆然とする亮一郎。一体、何をしたのか気になったので尋ねてみた。
「ん?名刺渡しただけやで?アンタにも一枚やるわ」
一枚の名刺に書かれていたのは「褐マ狸狐狸 代表取締り役 徳間 姫子」と書かれていた。亮一郎の記憶には全く覚えがなかった。初めて聞く企業なうえに何をしてるのかすら知らない。
「ウチの会社はつい最近設立したばかりやから知らんのもムリないわ〜」
まるで昔の自分みたいだな、と深く考えたが今は借金まみれな毎日。目の前に居る女性とは全く正反対だ。あまりの情けなさに目頭が熱くなった。
「どないしたんや、にいちゃん?急に目頭押さえて・・泣いとるんか?」
「ううっ、・・・見ず知らずの女性に助けられる自分が不甲斐無く・・・ううっ・・」
「そんなん気にせんでええよー?たかが数億やんか?なっ?なっ?」
必死に慰める女性だったが金額を出された瞬間、俺は膝を付いて大泣きしてしまう。初対面の女性に救われた挙句に目の前で大泣きする自分は情けない。だけど、神に見捨てられたと思ったが女神は居たんだと・・。
「うっ・・ううっ・・。済まない・・この借りは必ず・・意地でも返す。だから・・「ちょい待ち」・・えっ?」
「ウチがいつ返せって言うた?別に金は返さんでいいねん。ちょいこの紙の一番下に名前書いてくれるだけでええわ」
またもやどこから出したのかわからない紙を手渡された俺は涙で滲む視界を頼りに一番下の欄に名前を書き入れた。
「あ、それともう一枚や。これは上のほうの欄に名前書いてなー」
きっと2枚とも借用書だろう。涙でぐしゃぐしゃになった視界で書き込んでいく。返さなくてもいいと言ってはいたが最低限の縛りだけでも残しておこうという思惑だろうと。俺はそれでも構わなかった。消えるはずだった命だ、一生掛けてもこの女性の為に全てを捧げようと誓った。
「ほな、・・これで契約完了やな♪ほなら、とっととボロアパートなんて捨てて我が家に戻ろうか〜♪」
「えっ?・・我が家って何の事だ・・?」
「何言うてんねん。アンタが今契約したやんか。きっちり守ってもらうで!」
契約?何の事かわからなかったが、目の前の女性が先ほどの紙の内容を読みあげた。
「私こと柏木 亮一郎は徳間 姫子の専属奴隷と成り一生を掛けて生活を守ります、ってサインしてるやん」
「んで、もう一枚が・・こうやって・・こう剥がすと・・(ペリッ)、表の一枚取ったら婚姻届けに早変わりや〜♪おもろいやろ♪」
俺は魂が抜けたように燃え尽きていた。だた何も考えられず引っ張っていかれた俺は成すがままの状態で姫子の家に連れ込まれ、ちょっと臭うからと風呂に放り込まれ風呂から上がった途端、いきなり寝室に放り投げられ腰の上に跨られる。もうどうなってもいいと思った。姫子は俺のチンポをムリヤリ立たせ秘所に宛がったかと思うと一気に腰を落とし処女膜を自ら破る。それ以降の記憶が全く無い。記憶に残ったのは翌朝起きた時に味わった強烈な腰痛とダルさ。姫子は同じベットで嬉しそうな顔で寝ている。
「お〜ぃ・・すまないが起きてくれないか・・」
「んふふ〜・・・、妊娠してまうやんか〜・・にゅふふ♪」(ポンッ!)
「…!!!!なんだ!?耳が生えてきたぞ!?し、・・尻尾にふわふわした足・・」
・・・・・ドサッ!
俺は全く理解出来ずそのまま気を失った。意識を失う瞬間・・姫子はまだ嬉しそうに寝たままだった。
「んでな・・・ウチは刑部狸っちゅう魔物でな。ウチに合う相性のいい旦那探しに来てたんよ。んで、たまたまやで、あの日にアンタを偶然見てどうしても欲しなったんや」
「それは、直感的な何かと言うやつか?」
「んー・・そやなぁ。そうとも言うわなー。ウチらは直感で相性のいい男を探すんや。これが魔物娘としての性活やしなー」
「今変な字が混じってた気がするが・・、だが本当に俺でいいのか・・。あんたぐらいなら俺の悪評も聞いてるはずだ。得する事なんて無いぞ。むしろマイナスだ」
「今も言うたやろ〜、ウチらは直感で決めるんや。ウチらの直感は外れる事は無いんや。だから安心しぃ〜」
「そうか・・。まずは契約通りに働きますか」
一人貧乏生活を経験したおかげで多少は食える程度の料理が出来るようになってた俺は朝食の準備に取り掛かる。横から姫子がもっふもふな尻尾を振りながら眺めてくる。嬉しそうに揺れる尻尾を見るたびに俺も嬉しくなった。誰かの為に朝食を作る。今までの俺からは考えられない。他人を踏み台にして他人の人生を犠牲にして、他人の全てを奪ってきた今までの自分を恥じたい。誰かの為に、喜ばれる為に自ら動くのが楽しい時期があったのを思い出す。皆、済まなかった。朝食を作りながら心の中で謝罪をする。
「さ、出来たぞ。・・あまり出来のいいもんじゃないけどな」
「何言うてんねん〜、ウチの旦那が作ってくれたもんやで。不味い訳ないやろ♪」
「・・・ありがとうな、姫子・・」
「ん〜、ウマウマ♪ん?なんや?」
「いや、なんでもない・・(落ち着いたら皆に謝罪に行こう・・)」
皆に謝罪して、もう一度人生をやり直そう・・。姫子と一緒なら出来るような気がする。これから謝罪ばかりの生活になるだろうが頑張っていこうと心に決めた。
「生活ちゃうで〜。性活やで〜」
姫子、お願いだから俺の心にツッコミ入れないでくれ・・。
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「はぁ〜〜・・・、ほんま苦労したわぁー」
あのパーラーからお持ち帰りされた晩、ウチはこっそり解放され深夜の街に消えていった。あれから魔物娘達の援助で資金を集めて小さなテナントビルを買収し、余った金は全部地回りに配った。地盤固めるより先に壁は必要やからな。そして、こっそりあの男の会社をテナントの屋上から眺める。ふふふ・・、悪いけど堕ちてもらうで・・。
ウチは一気に勝負に賭けた。まずは外回りの連中の大半をウチに抜いてやった。どうやら初日の結果では痛みを感じていないみたいだった。むしろ嬉々としている雰囲気だった。
「ふぅ〜〜〜ん・・ほなら、今度はあの三人貰おうか♪」
あの三人とは勿論、設立当時のメンバーの三人。説得するには時間掛かるやろうと思ったけど案外簡単にこっちに転がってくれたわ。理由話したら喜んで退職届けを書きに行ってたわ。もちろん三人はウチの会社にとってはかなり有益なのでそれなりのポストに座ってもらった。あれから一ヶ月ほどだろうか、アイツの回りでは次々と不幸が訪れる。
「くふふふ♪どうなるやろな〜」
そして更に一月経過した。もう誰も居ない企業。現実から捨てられ、ただそこに有るというだけの無機質な建物。後でウチが綺麗にしたるさかい、恨まんといてや。
あの日から随分と時間が経った。あの男も今ではボロアパートで催促状に怯える毎日らしい。そろそろ出番かな。ウチは前々から用意していた取り立て屋に連絡を入れる。
「あー・・ウチや。ちょい若いの貸して欲しいんやけどええか?」
「もちろんです、姐さん!んで、今日は誰をヤるんですかい?」
「いや〜、ちょっとちゃうねん。後であんたにも説明するからその通りにやって欲しいねん」
今日が絶好のチャンス!今なら心も体もボロボロなはず!そこでウチが用意した取り立て屋に一芝居打たせて王手や。
「や・・辞めてくれ!体だけは!体だけは!」
案の定巧い事いっとるわ。成功したらあの若い取り立て役のにーちゃんには謝礼出さんといかんなー。
巧くいった。借用書も婚姻届けも見事にサインしよった!これでウチにも旦那が出来たんや!ちょい呆けてるけど畳み込むんなら今のうちや。
「んじゃ、ウチいこか♪」
後は簡単やったなー・・。呆けたままの旦那を犯して既成事実作るんわ楽やったわ〜。翌日寝ぼけて耳と尻尾出たのは失敗やったけどなー。
でも、これからは毎日妊娠するまで濃厚な精液貰えるんや。催促状の金額はちょい痛手やったけどあの程度で済むんなら安いわ。ウチが本気出せば取り返せるわ。
さて、これから増えるだろう魔物娘達の為に一肌脱ごか・・。
13/05/29 17:13更新 / ぷいぷい
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