連載小説
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長き時得て目覚める躯
 「主神サマ―。」

 「どうしたのかな?アンジェ。」
 「ユウシャの管理手帳なのデス。」
 「おっと、まだ仕事が残っていたのか。」
 「そうじゃないのデス。」

 辺り一帯に広がる雲、その上をさまざまの天使たちが資料、記録帳などの書類を抱きかかえながら歩いている、そこは天界、その一画に建つ大きな神殿でエンジェルのアンジェは主神と話していた。

 「それでデスねー、ここデスよ!ここ!」
 「あーそれねぇ。」

 勇者管理手帳のとある一ページ、さまざまな人名の横に、新規、転生中、覚醒済み、堕落、魂回収済み、未覚醒などの近況が記入されている中、一つだけ<保留>と書かれている

 「このユウシャは一体どうなっているデス?魔王の世代交代前からこのままデスよ?」
 「ええと、ねぇ.....。」
 「アンジェの話をまともに聞いてほしいのデス、」
 「...フゥ、それね、特殊な事例だから私も気になって気になって仕方ないんだけどさぁ。」

 (ああ、ナルホド...。)

 「あとちょっと、あとちょっとだけで結末が見えそうなんだ。」
 「主神サマのお気に入りデスか..。」
 「そうっ!ちなみにキミにも縁がある勇者だよ。」
 「...もしかしてモドキデスか....?」
 「フフフ..そのモドキがどんな子かはしらないけど、彼を巻き込んだ小さな国の物語、この際もう一度見返してみようっと。」

 そう言うとそばにあった大きな鏡に手を触れる、すると鏡は正面の風景とは異なるものを映し始めた





―――――――――――――――――――――――――――――







 とあるところに魔法使いがいました、彼はとある国の魔法学者で自分のお国のために変質魔法、いわゆる強化魔法の研究をしていました。

 そして彼にはゴーレム職人の助手がいました、変質魔法といっても試作品をいきなり人に使うにはあまりにも危険なため実験用のゴーレムを制御できる彼女を雇ったのであった。

 二人はその業績を称えられ国の研究施設を任されるまでになります、しかしそこには一つ問題がありました、国の研究施設ははるか遠い場所、なんと助手には生まれたばかりの子供がいたのでした。

 助手は採用される際、子供のことを隠していたのです、自分が唯一出来る仕事で子供のことが原因により解雇されてしまえは母子ともに生活できなくなってしまうからです。

 助手は仕方なく、召使に造ったゴーレムを置いて家を後にするのでした。



 とあるところに一人の少年がいました、彼はぶっきらぼうでしたが困った人をほおっておけないおせっかいで優しい子でした。

 彼は広場で自分よりも小さな子どもたちの相手をしていると、隅っこの方で一人ポツンと背を向けて泥人形で遊んでいる少女がいました。

 彼は不思議に思い、少女に声をかけました、「どうして一人で遊んでいるの?」と。

 すると少女は「わたしは一人じゃないから平気、みんなの相手をしてあげて。」と言いました。

 泥人形をよく見るとそれはゴーレムでした、少女は泥人形で、ではなく泥人形と遊んでおりました。

 相手がいるのなら問題はないだろう、彼はそう思い、子供たちのもとへ戻って行きました、少女の小さな呼び声に気づかぬまま.....。



 日が暮れて子供たちが帰る時がやってきました、彼は沢山の子供たちが親に連れられて帰るなか一人とぼとぼと帰る先ほどの少女を見つけました。

 「さびしそうに見えるけど、大丈夫?」

 それを聞いた少女はぽろぽろと涙をこぼしながらこう言いました。

 「ママが..ね?お仕事で帰れないから..いつもひとっ....りで、ほんとう..は、みんなっ..と遊びたい、けどっ...こわくて..ごーれむつくっても..すぐに..こわれて...。」

 「だったらあんしんしろ、おれがみんなにしょうかいしてやる。」
 「でもっ。」
 「それにごーれむだなんてすごいぜ、おとなでもつくれないんだ、ほこれることだとおもう。」

 「とにかく、あしたぜったいみんなにしょうかいするからぜったいこい。」

 臆病な少女は自身にとってあまりにも唐突な事だったのではじめはきょとんとしておりました、ただその言葉を理化すると涙を拭きちいさなこえで「うん」と答えるのでした。

 こうして少女にとってのはじめての友達ができたのでした。




 いくらかの年月が過ぎ少年は青年になり自警団に、臆病な少女は青年以外の人間が苦手なものの家にあったゴーレムの本や、生物の構造の本を読み漁った知識を生かし、魔法道具のお店を営んでおりました。

 「おーい、見回りのついでに様子見に来たぞ・・・って、今日も新商品の開発か?どうせまた朝食抜いてんだろ「うっ」・・・やっぱりな。」
 「道具ってのは日に日に進化していくものなんだ、だから寝る間も惜しんで新しいものを生み出さないと。」
 「そう言ってこのあいだ俺の目の前でぶっ倒れた奴はどこのどいつだった?」

 「....それはわたしだけどさ..願わくば、また君に料理をふるまってもらいたいな、知ってるよね?わたしが料理できないこと。」

 「おれはまだ見回りがおわってないの、いいかげん一人で外食に出たらどうだ、子供じゃあるまいし。」
 「子供のころは親がいつも留守でひとりぼっちだったからまだまだ甘えたりないのさ。」

 「・・・軽めのサンドイッチ作っておくからちゃんと食っておけ、まったく、いつになったら独立するんだか・・・。
 「はーいっ。」

 そして同時に、ずっと一人寂しく暮らしていた人生に転機を与えてくれた彼に淡い恋心をいだいており

 (ずっとそばにいれたらいいのに..。)

 キッチンに向かう青年を頬杖をついて見つめながら思うのでした。



 そのころ魔法学者は切羽詰まる状況に立たされていました、研究に進展はなし、試作魔法のテストは失敗、成果は得られずじまい、いつお国から見放されるか分かったものじゃありません、そしてある時、学者仲間からとある噂を聞きました、「この国ある地域に若くて優秀な魔具職人の少女がいるらしい。」「なんでも戦争で足を失った人のためにゴーレム技術の応用で義足を造ったとか」大人げの無いことですがその時学者はその魔具職人に嫉妬をしてしまいました。

 自分が苦しみながら努力しているというのににそれをしり目にゆうゆうと民衆の注目を浴びていることが憎たらしく、はたから見ればそれは自己中心的な発想でしかないのですが精神が追い込まれた彼にそれを理解することや湧き上がる衝動を抑えることは不可能なのでした。

 その少女は助手が家を離れて以来、鳥型の魔法道具で文通していた彼女の大切な娘でした、ですが同時に彼も少女が助手の娘と知っていたのです。

 助手の家にはゴーレムの資料のほかに自分の研究データも残っています、それの応用で有名になったと考えると、まるで自分の努力を盗まれたようでその娘が一層許せなくなってしまいました。

 彼は思わず助手を新しい魔法の試験の媒体にしてしまいます、魔物の力を身につけるためのモノでした、研究は初期段階でしたので、誰が見ても失敗するのは目に見えていました、案の定、試験は失敗、醜い魔物の体を取り込み不完全な肉体となった助手はデータを記録されたあとに廃棄されてしまいました。

それでも彼は止まりません、彼女の魔法道具を使い次の段階の試作魔法を組み込んだ罠を少女の家に紛れこませたのです。



 国の一画で大規模な爆発音が響き渡る、少女の営む魔法道具店からだ、それを聞きたまたま通りかかった男の子は慌てて店の中に入る、すると

 「うっ、うわあああああ!!バッバケモノ!!」

 そこにいたのはむき出しの骨、のたうちまわる触手、そして無理な変形によってできたであろう血だまりにうずくまるナニか、彼から見ればそれは間違いなく気持ち悪い化け物がいるように見えたのだろう。

 しかしそれは魔法学者の罠によって醜い姿になった少女だった、出血多量で意識が朦朧としている中聞こえたのは「化け物」という臆病な彼女にとってあまりにも酷な言葉だった。

 しばらくして青年を含める自警団がそこに集う

 「おい!いったいなんだこりゃ!なにがどうなってる!」

 「・・・!!オマエ、意識はあるか?」

 「ははっ..、分かってくれるんだ、とっても..嬉しいな、キミが来て...くれたなら...安心さ..、ちょっと、この通りに...して..くれないか...な..?それなら..いける..よね..。」

 「....!!」

 青年はとある魔術書を受け取ると黙ってその指示に従う、魔法陣を彼女を中心に魔法陣を書き、蝋燭を並べる、そして彼女の落したロケットペンダントを腹に置き書かれた呪文をつぶやく、すると彼女のペンダントが輝き、みるみると変形した体が元の形に戻っていく。

 「みんな、このことに関しては他言無用だ。」

 少女の血相は今以上に悪くなり、体の色素がしだいに抜けていくと同時に荒れた呼吸は整って行く、しかしこれは俗に言う黒魔術、魔術師がさらなる探求のために人間を辞め魔物になるものだった。

 「見ての通りだ、彼女は人間ではなくなっちまったが、今まで通りに接してくれないか?なにかあったら術を発動した俺が責任を取る。」

 人間の天敵が目の前で生まれたその場では、しばし静寂が漂った。

 「誰が恩人を裏切るってんだ、じょーちゃんは大切な町の仲間じゃないか。」

 義足の男が胸に拳をあてながら言う、この男は元々事故で片足を失って松葉杖の生活を余儀なくされていたのだが彼女の作った魔法の義足によって再び自警団の仕事に復帰できたのだ、するとそれに続いて、自分も、私もだと沢山の声が上がる。

 皆の返事に青年は胸をなでおろす、と、その時ふいに玄関の方からノックが聞こえてくる、町人たちはあわてて少女を隠し青年がおそるおそる玄関を開ける。

 そこには純白の小さな翼と光の輪を携えた人ならざる小さきもの、エンジェルであった。

 「エンジェルがなんでこんなところに・・・?」
 「ふっふっふ..よろこぶのデス!お前ははユウシャの素質があると認定されましたデス!」
 「はあ?なんで俺が。」

 「えっと...思いやり...だったけ....イヤ、崇高な..デスかね....これは..イヤイヤ、ないデス..」

 「・・・おい。」
 「まあとにかく主神サマにそのタマシイが選ばれたデス!お前はアンジェといっしょに教会に来るデス!そしたらパパッと祝福をほどこして(アレッどうやるんだっけ).....」
 「断る。」

 「デス?」

 「勇者にはならないって言ってんだ。」

 「デスぅぅぅ!?ナ、ナゼデス!何かデメリットがあるというデスか!?」
 「理由は簡単、俺は此処の自警団、勇者になって世界を回ることは不可能だからな。(それにさっき魔物をこしらえたからな・・・始める前から勇者失格だろ。)」
 「世界の命運よりも、ここの方が大事だと言うデスか!?」
 「悪いな、俺はな世界の知らない誰かよりもここのみんなの方がよっぽど大切って思ってるんだ。」

 「んぎぎぎぎ.....、もうっいいデッス!!

 そう言うとエンジェルはそっぽを向く

 「お前のような分からずやなんてユウシャじゃないデス!お前なんかユウシャモドキデス!もう知ったこったないデス!!」
 「こっちはご理解いただけてありがたいんだが・・・、あ、そうだせっかく来たんだ、名前くらい・・・」

 「ふんっデス!」

 エンジェルは後ろを向いたまま飛び去って行った、「お前のかーちゃんでーべそ!!」などといった、見た目の通り子供の様なセリフか聞こえること以外はいつもどうりの町並みがそこにはあった、まるで少女の身に起きた不幸などなかったかのように・・・。

 「何も起きなけれはそれでいいさ・・・。」






 「なぜだ!なぜ何も起きない!魔法が発動したというのに!!」

 魔法学者は今まで以上に荒んでいた、あの娘が化け物と化したというのになぜ平気で接するのか、なにが彼らに娘を守ろうとさせるのか。
 この事件のデータによって完成した新しい変質魔法は、国王に認められさらなる地位をもらったが、もはや理由のない復讐の鬼になった彼にとって本当に求めていたはずのモノは些細なものへとなっていた

 「そうだ・・・。こういうことにしてやれば・・、あの協力者どもを・・・、娘を処分できる口実ができたな・・、邪魔な奴らをまとめて処分できるじゃないか・・・。」

 そう、魔法学者はつぶやくとのそのそと城の中央、王の謁見の間に向かうのであった..。







 「はあ?彼女をしばらく死者として墓に埋めろ!?」
 「うむ、その通りだ。」

 早朝、自警団の隊長である義足の男が青年を呼び出した

 「どうして、別に腐敗臭がするでもないし、今だって人間のときの姿になって暮らしているしそれをみんな受け入れている、国の中心からの視察だって何も問題はないとも思うんだが。」

 「実はな、この町で教団兵の魔女狩りが行われるらしい、」

 「!!」
 「アンデットのリッチだとばれようがばれなかろうが関係ない、怪しい魔法使いは片っ端からしょっ引かれる。」
 「なるほど、木を隠すなら森の中だとね、それにしてもなんでいきなり・・。」
 「どっかのお偉いさんがななんでもお前さんが勇者を辞退したのは魔女にたぶらかされたからなんて噂を国王に吹き込んだらしい、」
 「お、俺はどうなるんだ。」
 「しばらく中央に身柄を拘束されるそうだ、」
 「それで・・、なんで重要人物の俺を彼女の方に向かわせるんだ?」
 「簡単さ、お前は昔っから面倒を見てる一番の親友だろ、そのお前がむこうにに行っちまうんだ、いきなり消えちまったら彼女自分の殻に閉じこもっちまうぞ?」
 「・・・・・せわのやけるやつだなアイツも。」




 「そんなことがあったのかい?」

 少年は彼女の手を引き墓地のある教会へと向かっている、さきほど事情を説明したところだ、もしものときの護衛には彼女のゴーレムたちがついている、戦闘用ではないが役には立つだろう。

 「ごめんね、わたしのために...、キミだって大変だっていうのに、」
 「しゃべっている暇があったら足を動かせ、教団に捕まりたくなかったらな。」
 「それはキミの方だよ、わたしは魔物だからそうそうつかれないさ。」
 「・・・・。」
 
 目的地の教会に着くと中には今日行われる魔女狩りを知ってか知らずか、国民たちの祈りの言葉が聞こえてくる、それを尻目に教会の裏にある墓地に向かうと彼女の名が刻まれた墓石が存在していた、墓石の根元には蓋が隠れており、人一人入れるほどの穴になっていた。

 「いつの間にこんなもんを・・・。」
 「ねえ、」
 「まあいい、早くこん中に・・・。」

 「教会が.....何か騒がしいよ...。」

 「・・・・大人しく中で寝てろ、後で起こしにくる。」

 彼女を穴に押し込め青年は教会の中へ向かう、危険を無意識に肌で感じ取っていたのか胸騒ぎの中自分の武器であるランスを力強く握りしめながら..。

 「......。」






 教会の中は地獄絵図となっていた地面や壁には血がへばりついている神に祈りを捧げた者たちの声は悲鳴と断末魔に変わっていた、そしてその者たちを襲っているのはあろうことか教団の兵士たちだった。

 「どうなっていやがる、なんで教団の兵士が国民を襲ってるんだ!」
 「見ちまったか・・・、この有様を。」
 「おいっ、しっかりしろっ、どうして!どうしてこうなった!」

 「あいつら魔女の手にかかったこの区域はもう助からないって言いやがった!はなっから皆殺しにするつもりだったんだ!」

 その場に居合わせた唯一生き残っていた自警団から情報をもらう、

 「お前たち!何をしている!彼らははお前たちの守るべき国民のはずだろう!!」
 「彼らはもはや手遅れなのです、彼らを救うにはいち早く楽にするほかないのです!」

 そこには銀の鎧を着た勇者と、あの魔法学者がいました、どうやら魔女退治に呼ばれた勇者はこの光景に驚きを隠せないようです。

 「おやぁ?噂の彼が来たようだねぇ。」
 「お前が・・!お前のせいでみんなが・・、なんでだ・・なんで・・!!」
 「元はと言えば君が悪いんじゃないかな?君が魔女に惑わされなければこんなことにはならなかったんだよ、そう、君の隣人が悪いのだよ・・・、

 「だったら!!」

 「「「!!!」」」

 声の主がいる入口の方に全員が顔を向ける、そこには青白い肌に首に掛けたペンダント、人ならざる生きる屍となった少女がいた、もし彼女が感情を隔離できるリッチになっていなければ、今頃足が小鹿のように震えていただろう、いや、そもそもこの場には来ていなかっただろう。

 「わたしが..、出頭していればよかったじゃないか....。」
 「馬鹿野郎!!なんで出てきた!!」
 「あれはたしかリッ...」
 「そうだ!全てお前が悪いんだ!!」
 「と、とにかく、あのリッチを抑えればすべておわ」
 「いけませんっ言ったでしょう全て手遅れだとっ!!この区域の者たちは生きて救われることなど不可能なのです!!肉体から解放し天で生まれ変わることが唯一の救済なのです!!」

 そう叫び散らし教団兵の持つクロスボウをひったくると少女に狙いを定める、

 「貴様はそこで全てが壊れる瞬間を指をくわえて見てるがいい!!」



 鈍い音が走る、放たれた矢が刺さった音だ、地面には新たな血の池が出来上がる、しかしそこに流れた血は少女の濁りきった死体の血ではなく、生きている者の、青年の新鮮な鮮血だった、とっさに少女をかばったのだ

 「な..んで..。」
 「ほーおぉ!、はりつけにするつもりだったんだが・・、いやぁ、もっと面白くなったぞぉ・・・・。」

 「だ・・いじょう・・ぶ・・だか・・・ら・・なく・・んじゃ。」

 少女の頬に添えた手が力なく崩れ落ちる

 「くっ!この!!」

 同時刻、勇者が魔法学者に剣を振り下ろす、危険人物だと判断したのだろう、だがその剣が届くよりも早くナイフが鎧を突き通し刺さっていた。

 「勇者を...出し抜くだ..と..、それに..その力は...。」
 「私の研究結果ですよぉ。」
 「きっ貴様あああ!!よくも勇者様を!!」

 教団兵が魔法学者を取り囲む

 「私よりもあっちを気にしたらどうだぃ?」

 青年を抱えた少女は涙を流しながらへたり込んでいる、やがてその涙が血の涙と変わると同時に少女の姿が異型へと姿を変える、変形により皮膚は破れ、赤黒い肉は彼女の上半身を包む大きなつぼみの様なものへと姿を変える。
 それに従って彼女の下半身は植物の根を見立てたような触手に姿を変える、

 「おまえたちのせいだ...。」

 つぼみが開くと青年を抱えた少女の姿が現れる、ただしその腕には筋肉の代わりに肩から肉でできた二対の触手が生えている。

 「絶対に許さない...。」








 少し落ち着いたのか少女は青年をそっと起き、沢山の死体の中辺りを見渡す

 「チョーク、は無い、血、は書く空間がない、木炭、....松明のカスじゃたりない..。」
 「魂を器に....、天に行くまえに...。」

 そのときコトリと小さな物音が鳴った、些細な音ではあったがもはや死体しかいないエントランスには十分聞こえる音だった、

 「....倉庫...?」

 倉庫に着いた少女の目の前に不自然に揺れる樽ががある、大きさはそれほど大きくはない、入れて子供一人といったところだ。
 少女は少し安心した、もし大人が隠れていたとしたら教団兵の可能性があったからだ。

 「大丈夫?今開けるよ。」
 「あ・・ありが・・・・」

 そこにいたのは男の子、騒ぎの混乱に乗じてここに隠れたのだろう、心なしか震えているので少し抱きしめてみる

 「ちょっとお姉ちゃんは冷たいけど我慢してね...?」
 「・・・・・!!!」
 「....そんなに冷たい?」

 「う、うああああ!!」

 「えっ?なにっ、って、きゃあ。」

 「さわるなバケモノ!!」

 男の子は少女を突き飛ばすと一目散に走り去る、少女はそのまま後ろの荷物に激突する。

 「痛い...。」

 その衝撃で一つの荷物に掛けられていたシーツが落ちる。
 そこにあったのは鏡、映るのは青白い顔と鉤爪になった骨に血を染めた少女の姿。

 「化け物...そうか、化け物か....、」

 彼女は経箱を持つがゆえにこの時気付かなかっただろう、自分が心の奥底でどれだけ傷ついていたか、

 「あ、チョーク。」

 倉庫にあったチョークを持ち帰りエントランスに戻る、青年を中心として魔法陣を描く、かつて自分が魔物になる際に使用したものだ。

 「経箱は..、しかたない、自分のを使うか..。」

 自分のペンダントを握り呪文を唱え始める、半分まで済ませペンダントが輝き始めた時だった

 「ンぼエッ!カハッ、はあはぁ。」

 せりあがってくる吐き気に少女は思わず嘔吐する。

 「イヤ...、イヤイヤイヤ!!

 経箱に詰めた魂が入れ替わり彼女の魂はあるべき場所に戻る、魂がもどるとき同時に戻ってきたのはこの現場に対する恐怖、幾人もの人間を殺した感触、そして何よりも

 「さわるなバケモノ!!」

 言葉の暴力による悲しみだった。

 「まったくてこずらせて・・・。」

 魔法学者が外で待機していたゴーレムを目の前に投げ捨てる少女が暴走しているあいだに外へ逃げ出し鉢合わせしたゴーレムを機能停止にしたようだ。
 彼女の様子を見て魔法学者はにやりと笑う。

 「きったないなあッ!」

 少女ごとゴーレムを蹴り飛ばし、青年から突きはなす、

 「ほら!どうした!愛しの王子サマの肉体はここにあるぞぉ?取り返してみろよぅ、そんで自分の欲望のために生き返らすんだろぉ!?」

 青年を担ぎながら魔法学者は不敵に笑う、少女は無言で立ち上がるとゴーレムの関節を外しカバンに詰める、そして魔法学者に背を向け歩き始める

 「いつか絶対に取り戻して見せる....。」
 「おやァ、逃げるのかなぁ?まあいいや、いつでも待ってるよ?といっても人のまねごとしかできん君に勝てる見込みなんてないけどね。」

 少女は国を飛び出した、たしかに今あの魔法学者に勝てる見込みはない、ならばわたしは今まで以上の知識をむさぼり立ち向かおう、このゴーレムとともに。







 長き年月がたった遠き町の廃坑にて時代は変わる、それでも少女はゴーレムの改良を続ける、彼女の直感は感じているのだ、かの者はいまだに健在していると。
 少女は再び知識をむさぼった、物を造るには金がかかる、魔物娘の誕生、それに合わせた資金集め、一体幾つの魔道具を造っただろうか、ついに母のゴーレムを礎にしたわたしのゴーレムがもうすぐ出来上がる、彼女もまた魔物娘と化した身、一途な思いは今まで以上に膨れ上がり、すぐにでも青年に会いたいと胸の内にある魂が囁いたのだろう、彼女がゴーレムの核に使ったのは

 少女自身の大切な物が詰まったペンダントだった。






――――――――――――――――――





 「ああ、たのしみだなぁ。」
 「主神サマこれ、デス。」
 「見てないんかいっ、てっうわわわわ!」
 「なんでこんなところに「おはなとふたりのまほうつかい」の原稿があるんデス?それにこれなんか、改良版みたいなやつもあるのデス。」
 「人のものを勝手に物色しないでアンジェちゃん。」
 「物語を改造しすぎて後半が別物デス!」
 「つっ作り話は大体そんなものだよ、」
 「それに神様が何下界用の絵本なんて「それよりもさっ」デス?」

 「続き、見ようじゃないか。アンジェにはお仕事があるんだから、ほらっこっちこっち。」

 主神はアンジェを手招きし下界を映す泉を覗かせる

 「仕事の何と関係あるんです?」







――――――――――――――――――







 「くうっ!」

 そろそろ本格的にまずいことになってきた、相手はどうも上級の魔物らしい、攻撃をはじき返すのに精一杯になってきたこのままでは押し切られる!!

 「ほいっ」

 フードの男の魔法によってクロススピアが弾き飛ばされる、しまった、思わず取りにいくと先代の剣が振られる、右の一撃は何とか受け止めるだがもうひと振り目はどうあがいても受け止めきれない、万事休すか!!

 「最近の勇者ってのはずいぶんと気が抜けているんだな。」
 ―対象は上級魔物1魔術師1の二名と対峙しています、このような状況でも致し方ないかと―

 ギリギリと金物同士がこすれ合う音がする私に突き刺さるはずだった剣はランスによって受け止められる、ランスを持っているのは先ほど崩れていたはずのスケルトンだ。
 どうなっている!?奴の下僕ではなかったのか!そんなことを考えているとぐるりと頭がこちらに回る

 「ぼさっとすんな!」
 「お、おう!」

 この感じスケルトンというより先ほど動かなくなったゴーレムその者だ

 「きさま・・・!」

 「ああ....、帰ってきたんだね...。」

 剣を振り払うとスケルトンは名乗りを上げる

 「俺はフレジア第5区の自警団団員<シエグ>!!お前を地獄にたたき落とすため、深いまどろみの中から舞い戻ってきた!!」

 「シエグ....うぐ...。」
 「まったく無茶しやがって、あとでたっぷり説教してやる。」
 ―今はそれどころではないでしょう?―
 「これは?」

 シエグの青い瞳とは別に髑髏の瞳から紫の発光体が顔を出している

 「えーとな・・。」
 ―あなた方の魂のカケラが集まってできた魂の子供というところですよお母さん―
 「ウェっ!?」「はあ!?」

 「そ、そんなわたし達もう子供ができていただなんて」
 ―それよりも―
 「!!」
 ―勇者様、この状況あなたも不利でしょう?一度わたし達と手を組みませんか?敵は魔物二体分、いや、それ以上のものです、悪い相談ではないでしょう?―

 「.....おまえたち、わが先代の最後はどんなものだった。」
 「目の前の狂気に立ち向かい腹を突かれて死んじまった。」

 「そうか」

 「ならば私も先代と同じく目の前の狂気に立ち向かおう、そしてわが宿命に決着をつけるのだ!!」

 剣の剣先をローブの男に向ける

 ―わたしは解析、ナビゲートをします彼とひたすら戦って情報収集をさせてください―

 「了解」「御意」

 ―母さん、ゴーレムの修理、起動してこのパーツに換装してください―

 「.....!なるほどね。」



 「おい、そんなボロボロな体で大丈夫か?」
 「身の詰まっておらん貴様には言われとうないわ。」
 「上出来だな」「ああ!」
 「なら・・・。」



 「いくぜ!!」「ゆくぞっ!!」
15/01/07 11:21更新 / B,バス
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■作者メッセージ
 読んでいただきありがとうございます、

 いまさらですがグロリアはリーベルの思い人、シエグの魂を使った経箱ゴーレムでした、伏線って難しいですね、ちなみにグロリア(Gloria)は栄光の意味を持つ女性名で、シエグのもとはジーク(Sieg)で勝利を意味し、ジークフリート(Siegfried)からも取ったものです、負ける気がしねぇ。

 そういえばコアユニット系とか生物兵器系ヒロインは好きですか?パ●ドラの塔のセ●スとか、ゴ●ドイーターの●オとかの無垢な感じがすきです(ゲームはやってない)
 その結果リーベルを考えた際、生物兵器要素が混じったと思います。

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