おやすみ。
放心しているルーナの頭を胴体の上に乗せても、しばらくは呆けていたが、やがて目が定まると変化が見て分かるくらいすぐに顔を紅潮させた。
「……あわわわ、私、なんてことを」
「き、気にしないでください。あなたの首を取ったのは私ですし」
「ううぅぅ、見ないでください……」
そう言ってフォローするも、彼女は僕と目を合わせてくれず、自分の顔を毛布で隠してしまった。そして、微かに肩を震わせ始めた。もしかして、泣いているのだろうか。
「大丈夫ですよ。僕だって恥ずかしい声、出してましたし」
そう言って、僕は毛布越しに彼女を抱きしめた。火照った彼女の体温が伝わってくる。気付けば二人とも、汗にまみれていた。熱い。べとべとする。でもそんなの関係なしに、僕は彼女を抱きしめていた。
「……私のこと、嫌いになっちゃいましたか?」
「えっ? 何でですか?」
「あんなに、はしたない声を上げて……」
「ああ、……あはは。そのくらいで嫌いになるわけないですよ。むしろ、その、興奮したというか」
「ふえぇぇっ!? そ、そうなんですかっ?」
「はい、だから安心してください」
そう言って、ルーナを強めに抱きしめた。「はうぅ」と空気の漏れるような声が聞こえた。やがて、彼女も僕の背中に手をまわして、強く抱きしめてきた。お互いにべとべとしていて、本来なら不快なはずなのに、今、この状況においては、それすらも興奮する理由になった。
「……また、大きくなってますね」
「はい、大きくなってます。あなたが嫌いだったら、こんな風にはなりませんよ」
「ふふふ、そのとおりですね」
幾分落ち着きを取り戻した彼女は、僕のペニスをそっと握ってきた。
「こんなに汗をかいて……れろっ」
「うあっ!?」
そして、僕の体をぺろぺろと舐め始めた。くすぐったくて、そして気持ちがいい。思わず、もっと強く抱きしめてしまう。いつの間にか二人の境目にあった毛布は、取り払われていた。僕の胸と、彼女の胸が密着する。どちらも汗まみれで、ぬるぬるとしていた。
ペニスは自らの精液やルーナの愛液で既にべちゃべちゃで、それが潤滑油となって快感を強めた。彼女の手はカリを中心にして往復する。そして器用にも、人差し指でくりくりと尿道も弄っていた。
「あんっ、んぅっ……えへへ、気持ちいいですか?」
「はい、とっても……」
僕の手を扱きながらも、なぜか彼女自身が気持ちよくなっていることに気付いた。その理由はすぐに分かった。彼女は、自分の胸を僕の体に押し付けて、快楽を味わっていたのだ。それに気付いた僕は、思い切って彼女の胸を揉みしだいてみた。
「んひっ!? ど、どうしたんですか?」
「いや、こうすればあなたも気持ちがいいかなって」
「っ、ありがとうござい、ますぅっ……」
女性の胸を揉んだことなんてないから、もう彼女の喘ぎ声の様子を聞きながらやるしかなかった。乳首をつまむとより大きく反応してくれたので、乳首を強くつまみ続けた。
「やぁあっ、そんな、乳首ばっかりやられたら、おかしくなっちゃいます……!」
「ご、ごめんなさい」
やはり何事もバランスが大事らしい。今度は乳房を軽めに揉んで様子を見る。
「んんぅ、いあっ、気持ちいい、です……ふふっ。んっ」
そして、またキスを交わした。今度は舌を入れず、ソフトに。そして、長く。胸を揉むのを忘れずに。
「一度くらい、こういうキスしたいですよ」
「えへへっ。確かに、そうですね」
右手でペニスを扱く彼女は、にこやかに笑った。恋する乙女のような顔で。そして、こう言った。
「セックスしませんか?」
「えぇ!? な、何ですかいきなり」
唐突な誘いに素で驚いてしまった。さっきまであれ程やっていたにも関わらず、こう直球に言われるとかなり恥ずかしい。
「さっきまでは、精力がなかったから余裕なくて、つい強引にやってしまって……。だから、次は愛のあるセックスをしましょう!」
「あ、愛ですか」
確かに言われてみれば、先程までの行為は「愛のある」というよりはただの性欲の貪り合いに近かった。僕も幾分落ち着いたことだし、今度は余裕を持ってできるはずだ。……たぶん。
いや、でも、ちょっと待て。これはおかしい。
「……そもそも僕たち、出会って一日も経ってないですよ」
「うっ」
そこだ。僕たちはまだ、一応出会ったばかりなわけだし、本来なら「愛のある」というか愛などないのだ。出会ってすぐ行為に及ぶなんて、むしろ売春行為に近い。
だというのに、それを愛のあるセックスと称するのは、何というか、この子に申しわけない気がした。この子を、一時の熱情を利用して騙しているような気分だった。
彼女は困ったように目を泳がせた。その目は充血していた。
「……でも、私にとっては、そんなんじゃないんです」
「え?」
「私は、15年間忘れたことがないんです。あの一日、たった半日程度の、あなたと一緒だった時間を」
……そうか。それはそうだ。15年前の約束をきっちり覚えていて、そして迎えに来てくれたくらいなんだ。彼女がその思い出を、大切にしていないわけがない。
「5年を過ぎた頃から、ときどき胸が締め付けられて、切なさを感じるようになりました。10年を過ぎた頃から、『やっぱり10年後って言った方がよかったかな』って、15年後と言ったことをちょっぴり後悔するようになりました。約束の日が近くなって、『事故に遭ってはいないかな』とか『もう引っ越しちゃったんじゃないかな』とか、いろんな不安でいっぱいになりました」
今までの、この15年間の想いが、僕に向かって届けられる。15年間の彼女の様子を知る。ゆっくりと、理解を深めていく。果てしなく広がった、時間の空白を埋めるようにして。
「そして、ようやく約束の日が来たんです。あなたは変わらずここにいました。元気な姿でここにいました。窓から見えたあなたは、身長は私よりも高くなっていて、顔も大人びていて。それでも、あの優しい雰囲気は変わってませんでした。だから、あなただってすぐに分かったんですよ。姿は変わっていても、私には分かりました。この人が、私の初恋の人だって」
僕は、姿が変わっていなかったのにすぐには気付かなかった。そのことに対して、何となく申し訳ない気持ちになった。15年間、人間にしたら途方もなく長い時間、ルーナは待ち続けたのだ。
「私は、昔はもっとデュラハンが多い地域に住んでいました。だけど私は、そこにうまく馴染むことができませんでした。デュラハン族は本来、とっても冷静沈着な性格なんです。だけど私は、よく慌てますし、それに、昔から誰かと話すのが苦手で……。だから、あんまり優しくされたことってなかったんですよ。私は耐えられなくなって、その地域を離れ、そして魔物すらほとんどいないあの森を見つけたんです。そこで、誰にも会わず、誰とも話さず、一人寂しく暮らしていたんです。だからこそあなたが私を助けてくれようとしてるんだって知ったとき、とても嬉しかったんです。そして、恋をしたんです。生まれて初めて。この15年間、あなたのことを想わない日はありませんでした。私の世界には、あなただけしか映っていませんでした」
そこまで言って、ルーナは目を一点に定め、僕をしっかりと見据えた。
「私は、あなたを愛しています。世界で一番、愛しています」
ことばが出なかった。ここまで重みのある愛に対して、なんと答えるべきなのか分からなかったから。しっかり答えなければならない。ここまで本気で僕を愛してくれた女性に対して、ちゃんと誠意を示さなければ。簡単に返事なんてできない。だって、ルーナはあんなにも真っ直ぐ僕を見つめて、言葉を紡いでくれたんだ。だから……。
だから僕は、彼女にもう一度キスをした。
お互い、少しも声を出さなかった。少しも動かなかった。時が止まっているみたいにして、僕らはキスをした。さっきよりも柔らかく、丁寧に。唇以外に触れ合うところはなかった。唇だけで僕たちは繋がっていた。やがてキスを止めると、僕たちは再び二つに分かれた。
「今は、こうすることでしか僕の気持ちを、表現できません。ごめんなさい。でも、あなたに嘘なんてつけません。だけど信じてください。今、あなたにキスをした僕の気持ちは、本当です」
「……優しいですね。とっても嬉しいです。これ以上ないくらいに」
「そう言ってくれると僕も嬉しいです」
彼女が笑ってくれると、僕も笑ってしまう。彼女が嬉しいと言ってくれるなら、僕も嬉しくなる。その気持ちは、どうやら確からしかった。僕の心には、彼女に対する特別な感情が確かに存在していた。うまくことばで表現できない、とても繊細な感情が。
「……しましょうか。愛のあるセックス」
「ふえっ? あ、え、えー!?」
「さ、早くしないと夜が明けちゃいますよ」
「えぇぇっ。その、えーと……お、お願い、します」
今度はルーナが下になる。ベッドに寝て、恥ずかしげに足を広げる彼女を見ると、官能的な気持ちがどんどんと沸き上がってくる。その衝動的な本能を押さえて、僕はゆっくりと彼女の膣にペニスをあてがった。そして、丁寧に、できるだけ優しく、ペニスを彼女の中へ挿入した。
再び、僕たちは繋がった。
「っは、あぁぁ……。きもち、いいです。とっても」
ルーナがひと際甘い声を上げる。小刻みに震える。そして、僕の背中に手をまわしてきた。僕もそれに合わせて、彼女の背中に手を回そうとするけど、ベッドに寝ているので、なかなかベッドと背中の間に手を差し込むことができない。ルーナは困ったように笑って、背中を浮かせて僕の手を受け入れてくれた。
不馴れながらも腰を動かす。じゅぷじゅぷと、ペニスがルーナの中を出入りする音。パン、パンと肌と肌がぶつかり合う音。先程とは違い、これらは僕自身が出している音だった。僕が腰を動かして出している音だった。
「あうぅ、んひゃぁふっ! んにぃぃ……!」
先程とは打って変わって、蕩けるような声で喘ぐルーナ。やはり、自分が腰を動かすのと、相手に腰を動かされるのとでは感覚が全く違う。
ペニスを深く突き入れると、彼女もそれに呼応するように激しく悶える。僕がゆっくり腰を動かすと、彼女も柔らかく喘いだ。まるで、僕がタクトを持ちながら演奏をしているみたいにして、淫らな二人だけの夜宴は続いた。
そして、僕とルーナはキスをした。今度は舌を入れて、深く。互いの舌が絡み合う。まるで、相手を求めるようにして。
「ぷは、ノエルひゃんっ、好きですっ、大好きです! もっと突いてください、もっと奥までっ、きてくださいぃ!」
「うあっ……! そんな締めなくても、ちゃんと奥まで入れます、って!」
疲れてきた体を気合いで動かす。さっきまでは彼女が腰を振ってくれていたのだ、僕がこの程度で音を上げるわけにはいかない。
「やっ、あっ♪ おく、奥まで届いてるっ、あなたのがっ、入ってるぅ!」
ルーナが満足そうな声を出す。ふと僕は、大きく揺れている彼女の豊満な胸に目がいった。それらは、腰を振りながらでも、なんとか口が届きそうな距離にあった。
「んにゃあぁぁっ!? はっ、はひぃぃ! そんにゃ、いきなりおっぱい吸わないでっ、おかひくなっひゃいますからぁっ!」
まず右胸の乳首に吸い付くと、新鮮な反応が返ってきた。びくんびくんと体を震わせて悶えるばかりで、呂律もまったく回っていない。
「気持ち、いいですかっ?」
「こ、こんなの、気持ちよすぎますっ。一度にそんないっぱい弄られたら、壊れちゃいます!」
「僕もさっきそう思いましたけど意外と大丈夫でしたよ。んっ」
「んくぅぅっ!」
次は左胸の乳首に吸い付く。吸いながら、舌でころころと転がすと、また気持ち良さそうに喘いでくれた。どっちかの胸だけ責めるというのも半端な気がして、左手を使って右胸を揉んだ。危うく腰を振るのを止めてしまいそうになるが、どうにか3ヶ所の同時責めを続ける。
「だ、だめぇっ、もうイッちゃう、イッちゃうイッちゃうイッちゃうぅっ!」
「どうぞ、イッてください! 思う存分気持ちよくなってください!」
「キスぅ、キスしてくらひゃいっ! あなたとぜんぶ、つながりたいんですっ。アソコもっ、口もぉっ!」
「繋がりましょうっ。全身で繋がって、とろけて、一つになりましょうっ!」
僕たちは深くキスをして、二人の境界線がいずれ消えてしまうのではないかというくらいに、ぴったりと体をくっつけた。そして、ラストスパートをかけた。
蜜壺から愛液がとめどなく溢れる。ベッドが濡れていく。気を緩めればペニスが抜けてしまいそうなくらいに膣内はぬめっていて、さらに気持ち良さを高めた。それでいて、内壁のひだがねっとりと絡みつき、蠕動してくる。僕は、桃源郷のような快感の頂にいた。
暑い、熱い。熱気で火照った体が、火照った体と密着してさらに体温を上げる。汗が際限なく流れ出る。僕が腰を動かして、汗まみれの肌と肌がぶつかり合う度に、ばちゅっばちゅっという音が鳴った。
「んっ、んん! ひぅっ、いっひゃう! ふぐっ、んふうぅぅぅっ!!」
「んあふっ、んんんん!!」
彼女が絶頂する直前に膣をきつく締め付けたことで、僕たちはほぼ同時にイッた。ろうそくの火が消える直前に勢いよく燃え上がるように、僕の射精は長く続いた。その精液の全てが彼女の中に入っていくのを、二人で感じた。
そのまま、彼女の体にのしかかる形で、僕は倒れこんだ。もう、彼女の大きな胸が当たることなんて気にする余裕もないくらい、僕は疲れきっていた。
ルーナは、そんな疲弊した僕の頭を優しく撫でた。
「……すっごく、気持ちよかったですよ」
「あ、はは。それは、よかった」
「このまま、朝まで繋がっていたいくらいです」
「いいですよ、それでも」
「えぇぇ!?」
「朝になる頃には、お互い溶けちゃって、一つになれるかもしれませんね」
「あ、あははは。それは、それで、いいですね……」
ルーナの声が、急に細くなった。顔を上げて、彼女の顔を見ると、まぶたを重たそうにして、目を開いたり閉じたりしていた。
「やっぱりこのまま寝ちゃいますか」
「えぇっ?」
彼女に負担をかけないよう、ごろんと横に転がった。このベッドでは、二人が寝るには狭い。しかし一つになっていれば、そう気にはならなかった。
「……えへへへ」
「どうしたんですか?」
「幸せです。私が夢見てたこと、みんな叶っちゃって。逆に不安なくらい」
ふにゃ、と笑う彼女の顔が、とても愛しかった。
ベッド横に置いてあるろうそくの灯を消すと、いつの間にか雲は消え、月が輝いていることに気づいた。窓から差し込む光で、彼女の顔がまだ見えるくらいに。
「ところで、僕をさらうっていうのは、あなたの見ていた夢には含まれていないんですか?」
「私は、あなたと一緒ならどこだっていいんです。森の中でも、あなたの家でも……」
彼女の目が閉じて、そのまま諦めたように開かなくなった。軽く頬をつねったり、つついたりしてみるが、まるで反応がない。本当に熟睡しているようだ。彼女も相当疲れていたのだろう。あれだけ激しく動いていたのだから、当然といえば当然だ。
すぅすぅと心地の良い寝息をたてて寝ている彼女を見ていると、こちらも眠くなってきた。これからどうするのか、いろいろ考えることがたくさんあるというのに。まるでまぶたに重しがかかったみたいに、目を開けるのがつらくなる。
やっぱり、考えるのは朝になってからでいいか、と思った途端、また眠気がずっしりと重みをました気がした。いいや、このまま寝てしまおう。どうせ答えは一つなんだから、考えるだけ無駄だ。
彼女のことが愛しい。照れた顔も、笑った顔も、寝ている顔も、すべて愛しかった。その顔を見ていると、15年間の空白を埋めるのも難しいことではない気がした。二人が互いに愛し合える日は、そう遠くないと、そう思えた。
だから、おやすみ。
「……あわわわ、私、なんてことを」
「き、気にしないでください。あなたの首を取ったのは私ですし」
「ううぅぅ、見ないでください……」
そう言ってフォローするも、彼女は僕と目を合わせてくれず、自分の顔を毛布で隠してしまった。そして、微かに肩を震わせ始めた。もしかして、泣いているのだろうか。
「大丈夫ですよ。僕だって恥ずかしい声、出してましたし」
そう言って、僕は毛布越しに彼女を抱きしめた。火照った彼女の体温が伝わってくる。気付けば二人とも、汗にまみれていた。熱い。べとべとする。でもそんなの関係なしに、僕は彼女を抱きしめていた。
「……私のこと、嫌いになっちゃいましたか?」
「えっ? 何でですか?」
「あんなに、はしたない声を上げて……」
「ああ、……あはは。そのくらいで嫌いになるわけないですよ。むしろ、その、興奮したというか」
「ふえぇぇっ!? そ、そうなんですかっ?」
「はい、だから安心してください」
そう言って、ルーナを強めに抱きしめた。「はうぅ」と空気の漏れるような声が聞こえた。やがて、彼女も僕の背中に手をまわして、強く抱きしめてきた。お互いにべとべとしていて、本来なら不快なはずなのに、今、この状況においては、それすらも興奮する理由になった。
「……また、大きくなってますね」
「はい、大きくなってます。あなたが嫌いだったら、こんな風にはなりませんよ」
「ふふふ、そのとおりですね」
幾分落ち着きを取り戻した彼女は、僕のペニスをそっと握ってきた。
「こんなに汗をかいて……れろっ」
「うあっ!?」
そして、僕の体をぺろぺろと舐め始めた。くすぐったくて、そして気持ちがいい。思わず、もっと強く抱きしめてしまう。いつの間にか二人の境目にあった毛布は、取り払われていた。僕の胸と、彼女の胸が密着する。どちらも汗まみれで、ぬるぬるとしていた。
ペニスは自らの精液やルーナの愛液で既にべちゃべちゃで、それが潤滑油となって快感を強めた。彼女の手はカリを中心にして往復する。そして器用にも、人差し指でくりくりと尿道も弄っていた。
「あんっ、んぅっ……えへへ、気持ちいいですか?」
「はい、とっても……」
僕の手を扱きながらも、なぜか彼女自身が気持ちよくなっていることに気付いた。その理由はすぐに分かった。彼女は、自分の胸を僕の体に押し付けて、快楽を味わっていたのだ。それに気付いた僕は、思い切って彼女の胸を揉みしだいてみた。
「んひっ!? ど、どうしたんですか?」
「いや、こうすればあなたも気持ちがいいかなって」
「っ、ありがとうござい、ますぅっ……」
女性の胸を揉んだことなんてないから、もう彼女の喘ぎ声の様子を聞きながらやるしかなかった。乳首をつまむとより大きく反応してくれたので、乳首を強くつまみ続けた。
「やぁあっ、そんな、乳首ばっかりやられたら、おかしくなっちゃいます……!」
「ご、ごめんなさい」
やはり何事もバランスが大事らしい。今度は乳房を軽めに揉んで様子を見る。
「んんぅ、いあっ、気持ちいい、です……ふふっ。んっ」
そして、またキスを交わした。今度は舌を入れず、ソフトに。そして、長く。胸を揉むのを忘れずに。
「一度くらい、こういうキスしたいですよ」
「えへへっ。確かに、そうですね」
右手でペニスを扱く彼女は、にこやかに笑った。恋する乙女のような顔で。そして、こう言った。
「セックスしませんか?」
「えぇ!? な、何ですかいきなり」
唐突な誘いに素で驚いてしまった。さっきまであれ程やっていたにも関わらず、こう直球に言われるとかなり恥ずかしい。
「さっきまでは、精力がなかったから余裕なくて、つい強引にやってしまって……。だから、次は愛のあるセックスをしましょう!」
「あ、愛ですか」
確かに言われてみれば、先程までの行為は「愛のある」というよりはただの性欲の貪り合いに近かった。僕も幾分落ち着いたことだし、今度は余裕を持ってできるはずだ。……たぶん。
いや、でも、ちょっと待て。これはおかしい。
「……そもそも僕たち、出会って一日も経ってないですよ」
「うっ」
そこだ。僕たちはまだ、一応出会ったばかりなわけだし、本来なら「愛のある」というか愛などないのだ。出会ってすぐ行為に及ぶなんて、むしろ売春行為に近い。
だというのに、それを愛のあるセックスと称するのは、何というか、この子に申しわけない気がした。この子を、一時の熱情を利用して騙しているような気分だった。
彼女は困ったように目を泳がせた。その目は充血していた。
「……でも、私にとっては、そんなんじゃないんです」
「え?」
「私は、15年間忘れたことがないんです。あの一日、たった半日程度の、あなたと一緒だった時間を」
……そうか。それはそうだ。15年前の約束をきっちり覚えていて、そして迎えに来てくれたくらいなんだ。彼女がその思い出を、大切にしていないわけがない。
「5年を過ぎた頃から、ときどき胸が締め付けられて、切なさを感じるようになりました。10年を過ぎた頃から、『やっぱり10年後って言った方がよかったかな』って、15年後と言ったことをちょっぴり後悔するようになりました。約束の日が近くなって、『事故に遭ってはいないかな』とか『もう引っ越しちゃったんじゃないかな』とか、いろんな不安でいっぱいになりました」
今までの、この15年間の想いが、僕に向かって届けられる。15年間の彼女の様子を知る。ゆっくりと、理解を深めていく。果てしなく広がった、時間の空白を埋めるようにして。
「そして、ようやく約束の日が来たんです。あなたは変わらずここにいました。元気な姿でここにいました。窓から見えたあなたは、身長は私よりも高くなっていて、顔も大人びていて。それでも、あの優しい雰囲気は変わってませんでした。だから、あなただってすぐに分かったんですよ。姿は変わっていても、私には分かりました。この人が、私の初恋の人だって」
僕は、姿が変わっていなかったのにすぐには気付かなかった。そのことに対して、何となく申し訳ない気持ちになった。15年間、人間にしたら途方もなく長い時間、ルーナは待ち続けたのだ。
「私は、昔はもっとデュラハンが多い地域に住んでいました。だけど私は、そこにうまく馴染むことができませんでした。デュラハン族は本来、とっても冷静沈着な性格なんです。だけど私は、よく慌てますし、それに、昔から誰かと話すのが苦手で……。だから、あんまり優しくされたことってなかったんですよ。私は耐えられなくなって、その地域を離れ、そして魔物すらほとんどいないあの森を見つけたんです。そこで、誰にも会わず、誰とも話さず、一人寂しく暮らしていたんです。だからこそあなたが私を助けてくれようとしてるんだって知ったとき、とても嬉しかったんです。そして、恋をしたんです。生まれて初めて。この15年間、あなたのことを想わない日はありませんでした。私の世界には、あなただけしか映っていませんでした」
そこまで言って、ルーナは目を一点に定め、僕をしっかりと見据えた。
「私は、あなたを愛しています。世界で一番、愛しています」
ことばが出なかった。ここまで重みのある愛に対して、なんと答えるべきなのか分からなかったから。しっかり答えなければならない。ここまで本気で僕を愛してくれた女性に対して、ちゃんと誠意を示さなければ。簡単に返事なんてできない。だって、ルーナはあんなにも真っ直ぐ僕を見つめて、言葉を紡いでくれたんだ。だから……。
だから僕は、彼女にもう一度キスをした。
お互い、少しも声を出さなかった。少しも動かなかった。時が止まっているみたいにして、僕らはキスをした。さっきよりも柔らかく、丁寧に。唇以外に触れ合うところはなかった。唇だけで僕たちは繋がっていた。やがてキスを止めると、僕たちは再び二つに分かれた。
「今は、こうすることでしか僕の気持ちを、表現できません。ごめんなさい。でも、あなたに嘘なんてつけません。だけど信じてください。今、あなたにキスをした僕の気持ちは、本当です」
「……優しいですね。とっても嬉しいです。これ以上ないくらいに」
「そう言ってくれると僕も嬉しいです」
彼女が笑ってくれると、僕も笑ってしまう。彼女が嬉しいと言ってくれるなら、僕も嬉しくなる。その気持ちは、どうやら確からしかった。僕の心には、彼女に対する特別な感情が確かに存在していた。うまくことばで表現できない、とても繊細な感情が。
「……しましょうか。愛のあるセックス」
「ふえっ? あ、え、えー!?」
「さ、早くしないと夜が明けちゃいますよ」
「えぇぇっ。その、えーと……お、お願い、します」
今度はルーナが下になる。ベッドに寝て、恥ずかしげに足を広げる彼女を見ると、官能的な気持ちがどんどんと沸き上がってくる。その衝動的な本能を押さえて、僕はゆっくりと彼女の膣にペニスをあてがった。そして、丁寧に、できるだけ優しく、ペニスを彼女の中へ挿入した。
再び、僕たちは繋がった。
「っは、あぁぁ……。きもち、いいです。とっても」
ルーナがひと際甘い声を上げる。小刻みに震える。そして、僕の背中に手をまわしてきた。僕もそれに合わせて、彼女の背中に手を回そうとするけど、ベッドに寝ているので、なかなかベッドと背中の間に手を差し込むことができない。ルーナは困ったように笑って、背中を浮かせて僕の手を受け入れてくれた。
不馴れながらも腰を動かす。じゅぷじゅぷと、ペニスがルーナの中を出入りする音。パン、パンと肌と肌がぶつかり合う音。先程とは違い、これらは僕自身が出している音だった。僕が腰を動かして出している音だった。
「あうぅ、んひゃぁふっ! んにぃぃ……!」
先程とは打って変わって、蕩けるような声で喘ぐルーナ。やはり、自分が腰を動かすのと、相手に腰を動かされるのとでは感覚が全く違う。
ペニスを深く突き入れると、彼女もそれに呼応するように激しく悶える。僕がゆっくり腰を動かすと、彼女も柔らかく喘いだ。まるで、僕がタクトを持ちながら演奏をしているみたいにして、淫らな二人だけの夜宴は続いた。
そして、僕とルーナはキスをした。今度は舌を入れて、深く。互いの舌が絡み合う。まるで、相手を求めるようにして。
「ぷは、ノエルひゃんっ、好きですっ、大好きです! もっと突いてください、もっと奥までっ、きてくださいぃ!」
「うあっ……! そんな締めなくても、ちゃんと奥まで入れます、って!」
疲れてきた体を気合いで動かす。さっきまでは彼女が腰を振ってくれていたのだ、僕がこの程度で音を上げるわけにはいかない。
「やっ、あっ♪ おく、奥まで届いてるっ、あなたのがっ、入ってるぅ!」
ルーナが満足そうな声を出す。ふと僕は、大きく揺れている彼女の豊満な胸に目がいった。それらは、腰を振りながらでも、なんとか口が届きそうな距離にあった。
「んにゃあぁぁっ!? はっ、はひぃぃ! そんにゃ、いきなりおっぱい吸わないでっ、おかひくなっひゃいますからぁっ!」
まず右胸の乳首に吸い付くと、新鮮な反応が返ってきた。びくんびくんと体を震わせて悶えるばかりで、呂律もまったく回っていない。
「気持ち、いいですかっ?」
「こ、こんなの、気持ちよすぎますっ。一度にそんないっぱい弄られたら、壊れちゃいます!」
「僕もさっきそう思いましたけど意外と大丈夫でしたよ。んっ」
「んくぅぅっ!」
次は左胸の乳首に吸い付く。吸いながら、舌でころころと転がすと、また気持ち良さそうに喘いでくれた。どっちかの胸だけ責めるというのも半端な気がして、左手を使って右胸を揉んだ。危うく腰を振るのを止めてしまいそうになるが、どうにか3ヶ所の同時責めを続ける。
「だ、だめぇっ、もうイッちゃう、イッちゃうイッちゃうイッちゃうぅっ!」
「どうぞ、イッてください! 思う存分気持ちよくなってください!」
「キスぅ、キスしてくらひゃいっ! あなたとぜんぶ、つながりたいんですっ。アソコもっ、口もぉっ!」
「繋がりましょうっ。全身で繋がって、とろけて、一つになりましょうっ!」
僕たちは深くキスをして、二人の境界線がいずれ消えてしまうのではないかというくらいに、ぴったりと体をくっつけた。そして、ラストスパートをかけた。
蜜壺から愛液がとめどなく溢れる。ベッドが濡れていく。気を緩めればペニスが抜けてしまいそうなくらいに膣内はぬめっていて、さらに気持ち良さを高めた。それでいて、内壁のひだがねっとりと絡みつき、蠕動してくる。僕は、桃源郷のような快感の頂にいた。
暑い、熱い。熱気で火照った体が、火照った体と密着してさらに体温を上げる。汗が際限なく流れ出る。僕が腰を動かして、汗まみれの肌と肌がぶつかり合う度に、ばちゅっばちゅっという音が鳴った。
「んっ、んん! ひぅっ、いっひゃう! ふぐっ、んふうぅぅぅっ!!」
「んあふっ、んんんん!!」
彼女が絶頂する直前に膣をきつく締め付けたことで、僕たちはほぼ同時にイッた。ろうそくの火が消える直前に勢いよく燃え上がるように、僕の射精は長く続いた。その精液の全てが彼女の中に入っていくのを、二人で感じた。
そのまま、彼女の体にのしかかる形で、僕は倒れこんだ。もう、彼女の大きな胸が当たることなんて気にする余裕もないくらい、僕は疲れきっていた。
ルーナは、そんな疲弊した僕の頭を優しく撫でた。
「……すっごく、気持ちよかったですよ」
「あ、はは。それは、よかった」
「このまま、朝まで繋がっていたいくらいです」
「いいですよ、それでも」
「えぇぇ!?」
「朝になる頃には、お互い溶けちゃって、一つになれるかもしれませんね」
「あ、あははは。それは、それで、いいですね……」
ルーナの声が、急に細くなった。顔を上げて、彼女の顔を見ると、まぶたを重たそうにして、目を開いたり閉じたりしていた。
「やっぱりこのまま寝ちゃいますか」
「えぇっ?」
彼女に負担をかけないよう、ごろんと横に転がった。このベッドでは、二人が寝るには狭い。しかし一つになっていれば、そう気にはならなかった。
「……えへへへ」
「どうしたんですか?」
「幸せです。私が夢見てたこと、みんな叶っちゃって。逆に不安なくらい」
ふにゃ、と笑う彼女の顔が、とても愛しかった。
ベッド横に置いてあるろうそくの灯を消すと、いつの間にか雲は消え、月が輝いていることに気づいた。窓から差し込む光で、彼女の顔がまだ見えるくらいに。
「ところで、僕をさらうっていうのは、あなたの見ていた夢には含まれていないんですか?」
「私は、あなたと一緒ならどこだっていいんです。森の中でも、あなたの家でも……」
彼女の目が閉じて、そのまま諦めたように開かなくなった。軽く頬をつねったり、つついたりしてみるが、まるで反応がない。本当に熟睡しているようだ。彼女も相当疲れていたのだろう。あれだけ激しく動いていたのだから、当然といえば当然だ。
すぅすぅと心地の良い寝息をたてて寝ている彼女を見ていると、こちらも眠くなってきた。これからどうするのか、いろいろ考えることがたくさんあるというのに。まるでまぶたに重しがかかったみたいに、目を開けるのがつらくなる。
やっぱり、考えるのは朝になってからでいいか、と思った途端、また眠気がずっしりと重みをました気がした。いいや、このまま寝てしまおう。どうせ答えは一つなんだから、考えるだけ無駄だ。
彼女のことが愛しい。照れた顔も、笑った顔も、寝ている顔も、すべて愛しかった。その顔を見ていると、15年間の空白を埋めるのも難しいことではない気がした。二人が互いに愛し合える日は、そう遠くないと、そう思えた。
だから、おやすみ。
13/08/04 22:33更新 / 明鏡
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