読切小説
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こんな危険なレスカティエにいられるか!俺は部屋に篭もる!
『首都南大通りに、魔物が進入! 応援を、至急応援を頼む!』
『最終防衛線突破されました! このままじゃ城内に――』
『たす・・・・・・、助けてくれ! うわああああ!!』
『ああ、大いなる主神よ。わたくしたちをお守りください・・・・・・』

魔王第四王女デルエラがレスカティエを攻め落としたその日、言うまでもなく国中は蜂の巣をひっくり返したようにパニックを極めた。人々の悲鳴と怒号と叫喚が、草木も眠る丑三つ時を支配した。

だがその混乱の中で唯一、静謐と言ってすらよい落ち着いた空間があった。
その一室の中央、椅子に深く腰かけている男は呟いた。物憂げで、どこか余所事な意思を感じさせる声だった。

「この国も、もうお終いか」

頬杖をつきながら溜め息を吐く。
今まさに祖国が異形のものたちの侵略を受けているというのに、そこには怒りや焦りの色はまったく見えず、ただただ情勢を俯瞰するように見守っている。

男の名前はロナルド=グランツ。
二十代前半という異例の早さにして王室付きの宮廷魔術師という最高の階位を勝ち取った天才魔術師である。もっとも――その数年後に彼以上のスピードで昇進した少女が現れ、ロナルドとしては不満を持っているのだが。

とはいえ彼の才能が偽物ということにはならない。勇者産出大国であるレスカティエにおいても、こと魔術部門に限れば間違いなく五指に入る大魔導士だ。
本来ならこの火急の事態、先陣を切って対処に当たるべき立場だ。

だが、彼は動かなかった。

「冗談じゃない。泥船と一緒に沈むのはごめんだ」

この10平米にも満たない隠し部屋は、彼が魔術により巧妙に隠蔽した緊急時の研究室だ。城内の一見なんの変哲もない通路の一角に、七重の感覚誤認と三重のパズル式錠前の扉をしつらえ、更に十三階層にも及ぶトラップだらけの術式迷宮を越えてようやく到達することができる。
そしてこの部屋の存在は、ロナルド以外ひとりとして知らない。

「誰だろうが・・・・・・たとえあの忌々しいミルティエの小娘だろうが、この場所に辿り着くのは――断言する。不可能だ」

絶対の自信を顕わにしつつ、ロナルドは備蓄の食料を確認した。
五日ぶん――といったところだろうか。その間ここで籠城してやり過ごし、ほとぼりが冷めたのを見計らって他国にでも落ち延びるか。
ロナルドの思考はすでに目下起きている惨状ではなく、どうやって新しく自分を売りこむかに向かっていた。

「それにしても――」

ふと、耳に意識を割く。
光も音も届かぬ地下深くであっても、ロナルドが街中に放った『虫』によって情勢は手に取るように知ることができた。

『ちくしょう、放せこの魔物め! お前たちなんかに――て、うわっ! ズボンが・・・・・・、な、何をするやめろ!』
『わ〜た〜し〜の〜旦那さま〜♪ よりどりみどりで困っちゃうわ〜♪』
『カイル、カイルぅー? 何処にいるの。一緒に愛し合いましょうよぉー?』

「魔物ってやつは、男とヤることしか頭の中にないのか?」
これだから女という生き物は――と、偏見丸出しの憤懣をロナルドは顕わにする。
思えば研究ひと筋で、浮いた話など一度もなかった。魔術の腕前だけがアイデンティティだった。

(その結果が、俺の半分しか生きてないガキからの嘲弄だ)
追い抜かれた瞬間の、あの胆が煮えるような屈辱を今も覚えている。おかげで今やロナルドは、もはや女性という存在そのものに憎しみを抱きさえするほどだった。

『よ、よせ! 僕は、こんな、ふしだらな・・・・・・、うああああっ!?』
『私の首を落とすとは・・・・・・。流石レスカティエ、骨がある。だが残念、ますます貴様と交わりたくなったぞ♪』
『ああ、大いなる堕落神よ。わたくしたちの激しい愛の営みを、どうか見守っていてください!』

げんなりしながらロナルドは、『虫』の端末を操作して回線を次々切り替えていく。だがすでに大勢は決したようで、魔物たちはすっかりお楽しみタイムに突入していた。
「くそ、どのチャンネルに繋げてもセックスしか映らねえ・・・・・・」

『あは♪ あんなに嫌がってたのに、もう自分から腰振っちゃって。あ、いいよ・・・・・・』
『う、ぅ・・・・・・、もうだめ、だ、射精る・・・・・・っ』
『そらそらどうしたぁ? 魔物娘なんかに絶対負けないんじゃなかったのか!』
「ほぉ〜、こんな地下深くに、こんな部屋が隠されてあるとはのぉ」
『カイル、見つけたぁ。もう絶対放さないよぉ♪』

「だァーっ! 至るところで盛りやがって。猿か、こいつらはッ」
ほとんど夢中になりながら、ロナルドは端末のボタンを乱打していた。こうなったら、いっそ一度切断して――

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、え?」

いま、何か重要なことを聞き流さなかったか?
というか、一つだけやけに近くから聞こえた音声が――――

「・・・・・・・・・・・・――――ッ!?」

椅子を蹴立てて勢いよく振り返る。――そこには、

「おっ、やっと気付いたか。お邪魔しておるぞ」

あどけない顔をした少女が、にこやかに手を振っていた。
いや、子供ではない。
手足を覆う獣毛に、陰部以外を剥き出しにした扇情的な服飾。身の丈ほどの大鎌に、そして何よりも目立つ――山羊の角。

「ば、バフォメッ・・・・・・・・・!?」
「遅い」

呪文を唱える隙などなかった。
悪魔が腕を一振りした次の瞬間、鋏のような形状の鋲が二つ、何もない空間から飛び出した。勢いよく射出された枷は対象の両手首を捕らえると、弾丸のように食いこんでロナルドを壁に縫いつけた。

「が・・・・・・ッ!?」
一切の抵抗をする間もなく、ロナルドは万歳の体勢で身動き一つできなくなった。まさにまな板の鯉・・・・・・いや、それ以上に悲惨である。

「き、貴様・・・・・・、どうやってこの場所に・・・・・・!?」
「どうやってって・・・・・・まあ、歩いて? なるほど確かに人間にしては神業じゃな。周到に隠匿されておって・・・・・・、そこそこ骨は折れたよ。じゃがわしに言わせれば、若さは仕事を雑にする――というところかのう」

童女の風貌に似つかわしくない、老獪な笑み。今更ながら自分の生殺与奪を握られていることに、ロナルドの背筋が凍った。

「自己紹介が遅れたの。わしは魔王軍第四王女部隊『最高幹部』がひとり、幻弄(げんろう)のザホロトール。ザッホちゃんと気安く呼んでくれ、勇者グランツ殿」
「なんで、俺の名前を・・・・・・」
「そりゃあ勿論この襲撃におけるわしのターゲットがおぬしだったからじゃ。途中寄り道で思わぬ収穫もあったがの」

つかつかと、蹄の音を立ててザホロトールが接近してくる。なんとか手枷を外そうとロナルドは奮闘するが、当然びくともしない。

「割と前からおぬしの評判は聞いておった。是非とも一目会ってみたかった。・・・・・・つまりわしに狙われた時点で、逃げようが隠れようが全て無駄だったというわけじゃな?」
「畜生ッ!」

足掻きに顎を蹴飛ばそうと足を伸ばすが、簡単に受け止められた。魔物の膂力の前には、子供同然だった。

「そう暴れるでない。魔物がおぬしらを取って食うわけでないことくらい、よく知っておろうに」
取って食うのは精液だけじゃ――と、ザホロトールは嘯いた。

「ふん、あいにく俺は、魔物に限らず貴様ら女という生き物が大っ嫌いなんだ。下半身で物事を考える低脳が。寄られただけで反吐が出る」
「ほう、そうなのか?」

足を押さえた獣毛の指が、つつとロナルドの股間まで滑った。

「おかしいのう。何もせずとも、もう硬くなっておる。本当は興味津々なのではないか?」
「違う・・・・・・。やめろ、触るな・・・・・・っ」
「まあ仕方ないか。この部屋で他の魔物娘の情事を、散々盗み聞きしておったのじゃからな。まったく勇者さまが出歯亀とは、感心せんな」
「違うって言ってるだろうが・・・・・・!」

だがいくら否定しようが、ザホロトールが弄るたびロナルドの陰茎はぐんぐんと肥大していく。

「下半身で考える、か・・・・・・。果たして他人のことを言えるかのう? じゃが案ずるな。それは本能に忠実でこそあれ、決して低脳ではない。何故なら――」

あぁーん、とザホロトールが小さな口を大きく開いた。

「ま、まさか・・・・・・」

「おぬしはこれからその魔物に堕とされるのじゃからな♪ ぁあむぷっ」

制止の声を上げる暇すら与えず、ザホロトールがロナルドの男根を一息に飲みこんだ。

「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「ぁむ、んぷっ、ん、んく、んぺろ、ぇろ、くちゅ、んむく、れろっ・・・・・・。ふくく、どうじゃ? 自分より二回りは幼い外見のおなごに、ご奉仕フェラされる感想は。背徳感で背筋がゾクゾクするじゃろう?」
「ぅ、ぅああ・・・・・・、あ、く・・・・・・ッ。こ、こんな、も、の・・・・・・! ぁああっ、そ、そこはァァっ!?」

ぷっくりとした唇が砂糖菓子でもねぶるようにペニスを覆う。
絶えず動く舌が這い回り、カリ首の恥垢をこそぎ取る。
柔らかい内頬の肉が撫でるように亀頭をこすりあげる。

どれだけ外見が未発達だろうと、上級淫魔の手管に人間が敵うはずがない。いやむしろ、無邪気さの裏に見え隠れする淫蕩さのギャップがロナルドの性感をますます助長した。

「ぅくあぁがぁあああっ」
「はむん、ぇろ、んほっ、く、ちゅちゅ、ず、んく、んれろぉ・・・・・・、痩せ我慢も、そう保たなそうじゃなあ」

(こ、の・・・・・・、野郎・・・・・・ッ!)

絶望的な状況。
だが、ロナルドは勝機を諦めてはいなかった。

(――迂闊だったな、バフォメット)

というのも、未知の快感に翻弄されながらも、ロナルドの口内ではひっそりと呪文の構築が進められていた。

修練を積んだ魔術師にとって、詠唱とは技術でなく習慣だ。体調の不良や精神の動揺――極限状態であろうと人間の肉体が呼吸の仕方を忘れないように、身体に染みついたルーチンワークが不全になることはない。
ロナルドほどの達人であればたとえ脳の99%が快楽に浮かされようと、残り1%で魔術の行使に取り組むのは、決して不可能なことではない。

加えて敵は幸いにも自分の陰茎を咥えこむのにご執心だ。スキだらけでかつこの隣接至近距離――外せという方が、無茶な注文だ。

(でかい口叩きやがって・・・・・・。いま、その脳天を黒焦げにしてやる!)

魔術回路の構築が終わった。魔力の奔流が現れ、ロナルドの気息が充填する。

「くたばれ、バフォメット――――!」
猛々しい雷が、無防備なザホロトールに襲いかかる!

――ことは、なかった。

「――迂闊じゃったなあ、若き勇者よ」

いきなり、ザホロトールの喉奥がきゅっと締まった。不意打ちの未体験の刺激に、ロナルドの男根は一瞬のうちに音を上げた。
耐えるとか――そういう発想すら浮かばなかった。

「う、か、ぁ・・・・・・? あぁぁぁぁああッ!」

そして、それが致命的な勝敗の決定だった。

「ぐ、く・・・・・・、射精て・・・・・・――――ッ!? な、んだ、これは・・・・・・? 力が、吸われ・・・・・・、くぁぁああああああッ♪?」

一瞬、脳が裏返ったのかと思った。まるで死人に電気ショックを浴びせたように、意識と無関係に身体が痙攣する。指はぶるぶると震え、脚はがくがくと崩れた。
ふだん射精の後に来る倦怠感とは、明らかに違う。魂を咀嚼されるかのような快感に、ロナルドは半狂乱になって絶叫した。

「ごくっ、んくっ、ん、くちゅ、んぷ・・・・・・、ぷはぁ・・・・・・っ。いやあ、飲んだ飲んだ。やはり勇者の精液はなんというかこう、コクが違うのう」
「きさ、ま・・・・・・、俺に何をした・・・・・・?」

いつの間にか拘束が解かれていることにロナルドは気付いた。
だが遅すぎた。すでにロナルドの身体には、なめくじのような速さで這う力も残されていなかった。倒れ伏すロナルドの眼前で、ザホロトールが自慢げに嗤う。

「簡単な話じゃのに、わからんのか。わしら魔物にとって、精飲とは食事――つまり魔力補給の手段じゃ。逆に言えば、魔力が練りこまれた精液ほどわしらにとってご馳走はない。術のためにおぬしが一生懸命こさえた魔力は、ぜぇんぶわしの――」
ぽん、ぽん、と幼児体型でぽっこりと膨らんだお腹をザホロトールがたたいた。

「――胃の中じゃ。いやあ、美味じゃったぞ。しかもそれだけではない。残存したおぬしの余剰魔力すらも、まとめて奪わせてもらった。絶頂の瞬間は誰しも無防備になるからのう。・・・・・・わしが何が言いたいか、わかるか?」
「く、そ・・・・・・」

「おぬしの魔力はもう――からっけつということじゃよ」

ふと、ロナルドの鼻腔をどこからか甘い香りがくすぐった。果物とも、生花とも違う――精根尽き果てたロナルドを、まるで激励するような――そんな香り。

(・・・・・・? ま、マズイ・・・・・・!)
「さて説明するまでもないと思うが――わしら上級悪魔の肢体からは、絶えずオスを発情させる魔力が無意識に発散されているのは知っておるよな?」
「ぁ、ぁ・・・・・・、ああ――――!」
「さっきまでは魔力障壁で防いでいたようじゃが・・・・・・、すっからかんのおぬしがわしのフェロモンに当てられたら、どうなってしまうのじゃろうな?」

嗅ぐなと理性が警戒したときには――もう遅い。
麻薬でも摂ったように――もっともそんな経験はなかったが――ロナルドの全感覚が鋭敏化する。

触覚は空気が『甘ったるく』なっているのを感じた。聴覚はどくどくとやけにうるさい自分の血流を捉え、それが男根に集約するのを聞いた。
そして視覚は、香りの源泉を――

「はぁ・・・・・・ッ、はぁ・・・・・・ッ、あ、ァ・・・・・・ッ!」
「ん〜、どうした? 血走ったまなざしでわしのロリまんこ凝視して。そんなにここから漂う匂いが気になるのか? くふふ、端から見たらまるっきし変態じゃのう。けどしょうがないか。魔術師どのはどうしようもないロリコンじゃからのう」
「ち、違う! 俺は、そんな、女子供に欲情など・・・・・・むぐっ!」

しかし最後まで言い終わるより、ザホロトールがショーツをずらし秘裂を露出させてロナルドの顔面に押しつける方が速かった。驚きのあまり思わずロナルドは、一服ですら男を狂わせる蠱惑の甘臭を肺いっぱいに吸いこんだ。

「ん――ッ! ンむ〜〜〜〜ッ!? ―――〜〜〜〜ッッ♪」
(離れろ! すぐ離れるんだ!)
だが倫理概念が発する警告も何処吹く風、まるで精神と肉体が分離したようにロナルドの肉体はすん、すん、と鼻を鳴らしザホロトールを堪能していた。

「くっふふふ、蕩けた顔で犬みたいにくんかくんかしおって・・・・・・。完全に幼女の味を覚えてしまったようじゃの」
(俺が・・・・・・、幼女に・・・・・・?)

くちびるを三日月に歪め、バフォメットが嗤う。

「きっともうこれからおぬしは、小さい女の子を見るだけでどうやって犯そうか考えてしまうじゃろう。良心が疼いても、それでしか興奮できないんじゃから仕方ないわな――幼女に負けた、おぬしが悪いのじゃ」
(俺は・・・・・・、俺は――――)

酩酊した意識に、しかし苦虫を噛み潰したような記憶がフラッシュバックする。
天才と呼ばれた自分。その自分を軽々追い抜いていった、年端も行かぬ少女が自分を嘲弄している。卑下している。挫折。嫉妬。敗北。――敗北。

「ちが、う・・・・・・、俺は、ガキに・・・・・・、ガキなんかに、負けてない――」

絞り出すような声だった。
それは今にも摘み取られそうな弱々しいものだったがロナルドの瞳には確かに、抵抗の意思が宿っていた。こどもに負けじという薄っぺらい、だが捨てられない矜持が。
これにはさしものザホロトールも、少々驚いたようだった。

「ほう、さすが勇者ともなると一筋縄ではいかんようじゃな」
「何とでも言え・・・・・・。俺はお前なんかに、はあ、堕ち、ない・・・・・・!」

にちゃり・・・・・・という、容貌に似つかわしくない粘着質な笑みで見据えられ、ロナルドの動機と息遣いはますます激しくなる。
実際ザホロトールの甘い股間から逃れこそしたものの、状況は好転したわけではなかった。

ともすれば転がり落ちたくなるような快楽への誘惑の中で、うなされるようにうわごとを口ずさむことしかロナルドにはできない。
トドメは――目前だった。

「ふむ・・・・・・、おぬしがその様子では『こいつ』を使うことはなさそうじゃのう、残念じゃ」

そう言いながらザホロトールが掌をかざすと、虚空から謎の物体が降るように現れた。

「それ、は・・・・・・?」
「くふふ、聞きたいか?」

それはなめし革で作られた、大型犬用の首輪に見えた。
ただ違うのはリードがついていないことと、目を凝らすと表面に複雑な紋様がいくつも走っていることだ。

「これはわしが作ったマジックアイテムの一つ『敗け犬のチョーカー』じゃ。効果は――簡単に言うと、そうじゃな――装備した者は、その者がご主人さまと認めた者の命令に『絶対服従』となる」
ぞくり・・・・・・、とロナルドの背筋を甘い痺れが走った――気がした。

「絶対服従とはなにもやらせたくないことをさせられる、という意味ではない。主人の『命令』はその者の能力の限界や物理法則を超克して実行される。・・・・・・ああ、蕩けたおぬしの脳みそでは上手く飲みこめんかのう」
「ぁ・・・・・・、く・・・・・・」

たぶん――聞く耳を持つべきではなかったのかもしれない。
だがロナルドは、生唾を飲みながら説明の先を促した。それは魔術師としての好奇心によるものだけでは――きっとなかった。

「ならばわかりやすく言おう。これを身に着けてわしがおぬしに『指を鳴らすたびイけ』と命ずれば、おぬしは100回でも200回でも連続で絶頂できる。逆に『死んでもイくな』と言われれば、おぬしが金玉にたぁっぷりと溜めこんだザーメンは、生涯射精されることは永遠にない――そういうことじゃ。おやどうした? もしかして・・・・・・想像だけで勃起がおさまらんか?」

「だッ、誰が――」
「――しかしのう」

しかしロナルドが反論するより早く、ザホロトールが掌を翻した。

「作ったがいいが、わし自身どうかと思うんじゃよ。こんな夫の自由意思を奪う魔導具、邪道とは思わんか? まさか――ま・さ・か・・・・・・こんなものを好んで着けてくれる変態が、都合よく現れてはくれんじゃろうしの。あぁ〜、小さな女の子にめいっぱい虐められたいって物好きが、どこかに落ちてたりはせんかのぉ〜?」

(こ、こいつ・・・・・・ッ!)
白々しさ極まる独り言を歌うように、ザホロトールの指が手元の魔導具をもてあそんでいるのを眺めながら、ロナルドはまるで精神が肉体と乖離したような錯覚に陥っていた。

(駄目だ! 駄目だ駄目だダメダ耳を貸すな悪魔の誘惑に――甘言に乗るな! 甘言? 馬鹿な! 何が魅力的なものか! こんな――こんなガキに――いじ、虐められ・・・・・・)
「あ、ぁっあ、あぁ・・・・・・」

腕をかき抱き内なる自分と戦うロナルドの目の前にぽとりと――何かが落ちてきた。

首輪だった。

「おぉっと〜♪ 悩んでる間にうっかり――ついウッカリ魔導具を落としてしまったぁ〜。けど面倒じゃのー。誰かが拾ってくれたり・・・・・・、せんかのー」
(やめろ・・・・・・、やめろやめろやめてくれぇっ!)

ロナルドの精神の絶叫は――恭しく首輪を拾うロナルドの右手には届かなかった。
まるでそれが当然のように、摂理のように、義務のように――寸分の迷いもなくロナルドの肉体はそれを首に巻きつけた。

「はっ、は・・・・・・っ、ああ、ザホロトールさま・・・・・・」
「これで――晴れてわしのイヌというわけじゃな」

毒婦の笑みを浮かべて、ザホロトールの秘所がじゅんと濡れそぼった。まるで本物の犬のようにしなだれクゥンと鳴くロナルドを、あやしつけるように撫で回していく。
髪、うなじ、あご、背中、おなか、尻、そして――

「ザホ、さま・・・・・・! 俺、もう、もう・・・・・・ッ」
張り詰めきった怒張を持て余しながら、ロナルドが切なげにうめく。ザホロトールはそれに愛おしげに指を這わせながら、ロナルドの身体をゆっくりと寝かしつけた。

「よしよし、そうがっつくでない。心配せずともわしとて我慢の限界じゃ。すぐに挿入れてやるからの――じゃが」

ザホロトールがまたもほくそ笑んだ。
だが今度は、さっきまでの老獪なものとは違う。見た目相応のさっぱりとした――それ故に、時としてひとを破滅させる笑顔。そう例えば、こどもが洒落にならない悪戯を思いついたときとか――

「折角の主従プレイで何も無しというのも、芸がないと思わんか? よし、こうしよう。おぬしはこれから、一切身体を動かせなくなる。わしの極上の性技、身じろぎひとつせず受けきってみせよ」
なかば死刑宣告に近い提案に、ロナルドの顔から血の気が引く。

「ざ、ザホさま、それは――」
「はい、けってぇーい♪」

だが抗議など許されるはずもなかった。
ロナルドが何か言う前に、かちかちに固まった肉槍がザホロトールの肉穴を貫いた――いや、貫かされた。

「かっ――――――――?」

ロナルドは一瞬、心臓が止まったかと思った。いや、多分止まった。自分を構成する全ての細胞が、挿入の刹那その活動を停止したような――そんな感覚。
ロナルドはいま、小さな悪魔によって天国に連れられていた。

「うあああぁぁぁっ♪ ひ、きぃぃいいっ!? な、んだこ、れ・・・・・・、違う! さっきのフェラと、全然ちがうぅぅぅッ!」
「ん、ぉぉおおおっ♪ 勇者のイヌちんぽ、わしのきつきつ幼女おまんこ、ブチぬいてぇぇっ♪ くぅぅ、太い♪ まるで脳天まで串刺しにされたようじゃ・・・・・・ッ!」

ザホロトールも悶えていたが、ロナルドは更にのっぴきならない状態だった。それもそうだろう。ほとんど過呼吸だった。

「あ・・・・・・ッ、か、は・・・・・・」

挿入直後で制止しているにもかかわらずザホロトールの膣肉は複雑怪奇にうごめき、ロナルドのペニスを余すことなく咀嚼していた。
食べられている――誇張でも比喩でもなく、ロナルドはそう思った。

しかし勿論――これで終わりではない。
指一本動かない逃げることも逆らうこともできない状況で、自分の腹の上の幼女が舌なめずりするのを見ながら、絶望のなかロナルドはそう悟った。

「それではそろそろ・・・・・・、わしも動くとしようかのう。おぬしは何もせんでもよい。わしのいつでも初潮迎えたてのきっつきつおまんこで、ザー汁たぁっぷり絞ってやるからの。なに、怯えることはない。たとえ気持ち良すぎて壊れても――なんせわしはバフォメット――何度でも何度でもすぐに修復してやるからのう」
「やめ・・・・・・、待っ、ぁ――――ぅぁぁぁああああああっ♪」

弱々しい懇願など、聞き入れられるはずもなく。
狭い室内にぐっぽ、くっぽ、ぐっぽ――と獣欲の水音と芳香が撒き散らされる。ロナルド謹製の魔物から身を守るためのシェルターは、いまや劣情を煽るかけらを外に逃がさない箱庭と化していた。

「ああ・・・・・・ッ、あぁ・・・・・・ッ♪ このちんぽデカすぎて、打ちつける度えぐられひぇぅ・・・・・・ッ、わしの子宮こそぎ取られぅ・・・・・・♪ あぁ、止まらん、止められんよぉぉおおっ!」
「ざ、ほさぁ・・・・・・、ま、ぁっへ、しう・・・・・・、いんひゃうっ、はぁ、そっこ、そ、いまのだめ、ぅくわあっぁああああッ!?」

総体積で考えれば、握られているのは総身の僅か一部位に過ぎない。だがロナルドにとってそれは、全身をザホロトールの膣肉に扱かれているのと同義だった。

主導権などという概念はとっくになかった。けどせめて、少しでも身体の自由が欲しかった。背すじを逸らしたかった。足をぴんと伸ばしたかった。後頭部を床に打ちつけたかった。性交のとき気持ち良すぎるのを逃すべく、人体が無意識に取る防衛行動。

しかし首輪をつけて『動くな』と命じられた以上ロナルドには、脊髄による反射行動すら許可されない。
一突きごとに襲いくる、僅かばかりも軽減されない快感に耐えるしか――いや耐えられなくても、ザホロトールがすぐさま再構成を開始する。

まるで背骨に電極を刺して痙攣するような、脳をミキサーに入れて攪拌するような、暴力的な快楽。なのに――なのにロナルドの中には、確かにそれに慶びを感じている自分が存在した。

(ああ――もう、だめだ)
ようやくロナルドは、自らの本質を理解した。
自分より圧倒的にか弱い――それでいて、絶対的な強者。その存在にかしずけることの、なんと幸福なことか。

「ザホさま、俺、もう、もう・・・・・・ッ!」
「おぉ、もう限界か? 射精そうなのか? 虐められて喜ぶロリコンザーメン、たっぷり膣内出しの準備はできたのか?」
「はい・・・・・・、はいぃ・・・・・・! 射精そうです、どうしようもないロリコンが溜めこんだ精液を、ザホさまの子宮にぶちまけるの許してくださいぃぃぃっ!」
「ふ、ふくくく・・・・・・♪ よう言った・・・・・・。よし、躾の行き届いたわんこには、わしもご褒美をあげんとの」

ふいに、ザホロトールが騎乗位からロナルドの胸の上に腹這いになった。怪訝な表情のロナルドに、くすりとザホロトールが笑みをこぼす。
そしてそのまま、敏感になっている耳にふぅっ、と囁いた。
まるでおねだりする妹が出すような――特段に甘ったるい声色で。

「――射精して、『おにいさま』♥」

絶大だった。
睾丸の中がぐるんと一回転するような――そうとしか言えない感覚だった。

「う、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああっ?!??!」

干からびかねない量の吐精でちかちかと意識を明滅させながらも、ロナルドは確かにザホロトールが嬌声をあげてくれているのを聞いた。

「うはぁぁぁぁぁぁっ♪ すご、これ・・・・・・っ、さっきあんにゃ絞ったのにっ! 魔力たっぷりの特濃ザーメンが、全部、ぜんぶ膣内にぃぃぃっ♪ うぁぁ、多すぎてぱん、パンクしてしまう・・・・・・、もう無理・・・・・・っ、子宮が精液で、ぎっちぎちになるの感じるのおぉぉっ♪」

口ではそう言いながら、ザホロトールの腰は動くのをやめない――いや、やめられない。一方では満腹を感じながらも、本能はなおも目の前のご馳走を貪らんとグラインドし続けていた。
ロナルドの泉が枯れ果てたのは、たっぷり二分は経ってからだった。

「う、はぁ・・・・・・、美味しかったぁ・・・・・・♪」
「あ、ァ・・・・・・――――もう、だ、め・・・・・・」
ぽっこりと膨らんだ下腹部をザホロトールが愛おしげに撫でる様を見ながら、ロナルドの意識は泥闇へと沈んでいった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。

夜が明けたときには、国中はすっかり変わってしまっていた。
女たちは昼日中から人目も憚らずつがいと淫蕩にふけるか、あるいは淫蕩にふけるつがいを求めて徘徊する。男たちも逃げ惑い口では拒絶しながらも半数は力ずくで、もう半数は内心喜んで彼女たちとの行為に没頭していた。

魔物との戦いの最前線に立つレスカティエとしての姿は、もうどこにもなかった。
そしてそれは、中枢であるレスカティエ城とて例外ではない。魔王軍第四王女部隊によって陥落し接収されたかつての難攻不落の要塞は、元々の住人も残しつつも反魔物領に対する軍事拠点として利用されることになった。

「ほれロン、急がんと軍議に遅刻するぞ」
先立っての戦いの幹部報告会へと向かっていたザホロトールが、大廊下の真ん中でぼやいた。もっとも――別に自分で歩いていたわけではない。

「は・・・・・・、はい、ザホさま・・・・・・。け、けど、力はいりゃなくて・・・・・・。どうかこ、これ抜いてくだ――ひくぁああああッ!?」
ペしィん! という乗馬鞭の音と嬌声で、ロナルドは最後まで喋ることはできなかった。身じろぎする度に『イヌの尻尾』が前立腺を刺激し、ますます力が抜けていく。

「ん〜〜〜〜? いま何か、抗議のようなものが聞こえたかのう。きっと気のせいじゃろう。なあ、ロン」
「はッ、はひぃぃぃっ♪ その通りです申し訳ありませんザホさまぁぁぁぁっ!」

四つん這いの飼い犬にまたがり移動手段として引き回しながら、ザホロトールは満足げにロナルドの頭を撫でた。
いまやロナルドには一般的に衣服と呼ばれるようなものはなにひとつ許されない。件の首輪に可愛らしい犬の着け耳、そしてアナルバイブとして今も暴れ狂っている尻尾と――がちがちに勃起して、真っ昼間の往来で先走りをだらだらと漏らすペニス。

当然侍女やもともと城付きの騎士など、顔馴染みとすれ違うことも一度や二度ではない。
偏屈な魔術師として知られていた勇者が、幼女にいたぶられ痴態を見せびらかして興奮している。白い目でこそ見られなかったが、頬を赤らめ口を抑えるものは決して少なくなかった。

「あれ〜? ザホ様にグランツのおじちゃんじゃん。何してんの」
聞き覚えのある――かつて蛇蝎のごとく嫌っていた甘ったるい声をかけられた。以前のロナルドなら、絶対にこのような弱みは見せたくない相手。

「おお、ミミルか。見ての通り、通勤兼飼い犬の散歩じゃよ。おぬしも息災か?」
「もっちろん♪ ザホ様に貰ったこの力で、たっぷりお兄ちゃんに可愛がってもらってるよ。今日はやっとあたしの当番なんだ〜。ああ、待ちきれなくて、まだ朝なのに濡れそう・・・・・・」
にへら――と唇をだらしなく歪めて、くねくねと扇情的に紅潮するミミル。放っておいたら、今にもここで自慰を始めかねない勢いだ。

ぞくり、とロナルドの中の獣が鎌首をもたげた。
かつてなら――脳裏に思い描くことすら良心と倫理にもとる欲望。だが飼い慣らされた今となっては、ロナルドの思考は勝手にミミルと『お兄ちゃん』のまぐわいの場面を紡ぎ出していた。

「あーぁ、すっかり染まっちゃったねおじちゃんも・・・・・・」
知ってか知らずか、にんまりと悪戯な笑みをミミルが浮かべる。
「それじゃそろそろ、あたしも行くね。ザホ様もお仕事頑張ってね〜」

「ハァ・・・・・・、ハァ・・・・・・ッ」
手を降りながら去っていくミミルの臀部を凝視していたのにロナルドが自分で気付いたのは、その姿が完全に見えなくなってからだった。

「ふんっ」
「痛たッ!」
脇腹を蹴飛ばされた衝撃で、ようやっとロナルドが我に返る。ザホロトールが、普段より数段ねちっこい、それでいて有無を言わさぬ猫撫で声で問うた。

「なあロンよ、まさか――本当にまさかとは思うんじゃが、よもやミミルに発情したりしとらんよな? いくらおぬしが盛りのついたオス犬でも・・・・・・、わしというご主人さまがありながら、わしの弟子に色目を使うなど――許されるわけがないよなあ?」
「め・・・・・・、滅相もありません! 俺はそんなこと、微塵も――ぁひゃぁあああああッ!?」
パァン――と再び乗馬鞭の一撃がうなり、むき出しの尻に充血の跡が増えた。

「残念ながら――今日の会議は欠席じゃ。それよりも重要な案件が出来たでの」
身も心も凍るような、冷たい視線。なのに――ロナルドの心根と男根は、それでもってどうしようもなく熱を帯びる。

「ほれロン、Uターンじゃ。おぬしの部屋で、おぬしがいったい誰の所有物なのかきっっっちりと調教してやるからのう」
「は、はい・・・・・・、身に余る光栄、です・・・・・・、ザホさま・・・・・・」

(ああ、もう戻れないんだな――けど、まあ)
堕ちた勇者に堕ちた国。
お似合いと言えば、お似合いの結末かもしれなかった。

(これはこれで、悪くない――)
レスカティエの朝は、まだ始まったばかりだった。
15/05/01 02:12更新 / メガカモネギ

■作者メッセージ
魔物娘怖いなーとづまりしとこ(無策)
何かとコメディリリーフにされがちな印象のあるバフォ様ですが、自分の中でのイメージはこんな感じ。

なお、大事なことですが作者はロリコンではありません。
これだけは真実を伝えたかった。

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