読切小説
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つめあわせ
 僕の隣の席にはマンティスさんがいる。

 いつも無表情で、全くと言って良いほど話をすることもなく。
 一応学校に来て授業は受けているけれど、興味があるのか無いのかも分からない。
 友人付き合いみたいなこともほとんど見られず、ただただ僕の隣の席にいる……そんな存在だったんだけど。

 最近僕は彼女と親しく? なった……のかな? とにかく、ちょっと彼女と接する機会が増えた。
 こう、なんていうか、妙な方向で。

「………………」

 お昼休みのチャイムが鳴って、みんなで思い思いの休憩を取り始める頃。


 マンティスさんは表情を崩すことなく、すくっと立って、椅子を僕の席の目の前に移動させて、再び行儀よく座り。
 じっと、僕のことを真っ直ぐ見つめてくる。

「ま、待っててね。今支度をするから」

 その無言の圧力に簡単に負け、僕は手早く自分の鞄を漁り、弁当箱を取り出す。

 今度は出てきた弁当箱をじーっと、穴が空きそうなぐらい見つめてきて。
 包みを解いて、パカっと蓋を開けると、マンティスさんもお口をパカっと開けて。

 あー。

 そこに僕はすかさずお弁当のシュウマイを入れる。

 あむ、もぐもぐ……。

 無表情だけど、何だか目尻が下がり、嬉しそうな様子になった気がするマンティスさん。
 続いて胡麻塩を振ったご飯を一口。紅生姜と昆布、蒲鉾……彼女は次々にお弁当の中身を平らげていく。

 周囲はすっかりお決まりになった僕らのお昼の光景を見て、クスクスと忍び笑いを漏らしている。僕だって恥ずかしいのだけれど、でも仕方ない。最初に始めてしまったのは僕の方からなのだ。

 ある日お弁当を忘れたらしく、大きな音でお腹を鳴らしていたマンティスさんを不憫に思い。
 そしてお弁当を上げたのをきっかけに、彼女はちょこちょこお弁当を忘れるようになり。

 その度お弁当を差し入れしているうちに、彼女はお弁当を持参することをやめてしまったのだ。

 おまけに自分でお弁当をつつくこともしなくなった。お箸で竹の子の甘煮をポロポロこぼしているのを見兼ねてお口に運んであげたのが運の尽き。

 ……生きることに無駄なことは一切しない。
 だから黙っててお弁当が出てきてお口に入るなら、それが一番。
 すっかり僕はマンティスさんな彼女にとって、非常に都合の良い給餌係認定されてしまったのである。

「……おいしい?」

 無言のまま、こくりと頷く彼女。
 それは良かったと、僕は米粒も残さずお弁当を全て彼女に献上していく。
 我ながら何とも言えないことをしてると思うけれど……でも、けれども。

 お弁当を食べきり、満足げにけふっと息をつく彼女の。
 僕に向けて、ほんのちょっぴりだけ微笑んで口にする。

「……ごちそうさま」

 この一言が、凄く嬉しく感じてしまうから。
 僕は明日も、これからも。
 マンティスさんにお弁当を作ってきて、そして食べさせてあげようと。
 彼女に都合の良いことこの上ないことを考えてしまうのだった。





男の子「ただいまー」
ママン「おかえりー」
男の子「あのさー、母さん。この後女の子が来るから」
ママン「女の子? やだアンタ、彼女?」
男の子「違うよクラスの子だよ。ちょっと仲良いかなってだけ」
ママン「ふーん……ふふーん」
男の子「ニヤニヤしないでよもう」
ママン「別に恥ずかしからずに良いのにねー。どんな子? 魔物娘?」
男の子「あー、ヴァンパイア。映画好きで、家にあるホラー映画観たいって言うから呼んだんだけど――」
ママン「」

ママン「 は ? ヴ ァ ン パ イ ア を 家 に 呼 ん だ ? 」
男の子「え? あ、うん」
ママン「何アンタマジでその子好きなの? それともまさか知らないとか?」
男の子「? いったい何さ……別にその子とは何でもないって」
ママン「……あのさ、その子の誘いをOKした時どんな様子だった?」
男の子「? えっと、凄く顔真っ赤で……『本気だな?』とか『本当に良いんだな?』とか、念押しがやたらあったけど……」
ママン「で、アンタはそれで?」
男の子「別にやましいこともないし、『本気だし大丈夫だよ』って」
ママン「はぁ……この鈍チンおバカ息子ったら……」
男の子「いやだって、別に俺はその子に変なことしようなんて気はないってば」
ママン「そういうことじゃないの。はぁ……ホラー映画観るくせに何でこんなこともしらないんだか……」
男の子「だから何さ。分かんないからハッキリ言ってよ」
ママン「ヴァンパイアの特徴は?」
男の子「血を吸う。日の光、真水、ニンニクに弱い……あ、あと十字架もか」
ママン「それだけ? 良い? ヴァンパイアはね、『招かれざる人の家には入れない』の」
男の子「……まねかれざるいえ?」
ママン「そう。招かれざる家には一歩も足を踏み入れられない。だからヴァンパイアはあの手この手で狙いの人間がいる家に招待されようとする。まあ、これはあくまでも旧ヴァンパイアのことなんだけど……」
男の子「それが何なのさ」
ママン「今のヴァンパイアも伝統には凄く厳しくてね。だから、基本的に他人の家には招待が無いと絶対に行かない」
男の子「で?」
ママン「……ヴァンパイアが男の家に行って良いかを聞くってのはね、『私は貴方を眷属として迎えます』って意味なのよ。詰まるところ愛の告白ね、うん」
男の子「」

男の子「 え ? 愛 の 告 白 ? 」
ママン「そう、愛の告白。そっかぁ、その子アンタにゾッコンなのねぇ……」
男の子「……マジで?」
ママン「マジ」
男の子「どうしよママン」
ママン「一度招いたらもう取り消しなんてできないから。さ、今日は若いお二人に任せて今度相手のご両親にご挨拶に行かないと――」
男の子「ごごごごごごりょうしんんんんんんん?」
ママン「そういうことで、それじゃ私はお父さんと一晩デートに行ってくるから。お金は置いておくからご自由に使ってどうぞ」
男の子「ちょっ、まっ、えっ、なっ、は、いや、あ、あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ」

男の子「えええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

※この後特別気合の入った格好ででも頬をほんのり染めたヴァンパイアちゃんをお部屋に入れてバッチリ襲われましたとさ。めでたしめでたし♪





 捨て犬を拾ってしまった。
 そう、捨て犬だ。ダンボールの箱の中に座り、道行く人に縋るような視線を向けていくアレだ。
 その捨て犬と俺は、目が合ってしまったのである。
 こうなると最早無視をすることはできない。まだ小綺麗かつ無闇やたらとデカい毛玉生物に顔をベロベロに舐め回されてから、俺は仕方なく其奴を家に連れて帰ることにしたのが先ほどの事。

 しかし、問題かつ障壁となるのは家長の存在である。
 我が家においては母。ていうか、母子家庭なので二人しかおらず、母が家長なのは必然なのだけれど。
 とにかく彼女の許可無くしては俺はこのモフモフを堪能することは叶わない。そのため俺は覚悟を決めて説得に当たっている……のだが。

「――ダメっ! ぜぇーーったいにダメぇ!! ママは犬を飼うなんて許さないもん!!」

 おおう、猛反対を食らってしまっているぞ。

「そう言わずに頼むよ母さん。ほら、見てよこの無垢でつぶらな瞳を」
「くぅん……」
「何言ってるの! その犬メス犬じゃない!! ウチで飼ったら絶対にクー・シーになるに決まってるわよしかもその巨体よ間違いなくダイナマイトボディで貴方にイヤらしい視線を送るようになるわよ浮気なんてママは認めないんだからバカバカバカバカぁっ!!」

 そう言ってものすごい剣幕でポチ子(命名・俺)を指差す母さん。

 身長。物差し程度。
 体重。風で飛ばされそう。
 性格。母性溢れるけど子供っぽいところ多々あり。
 種族。リビングドール。

 なんて具合の母親なわけだけど、それにしたって両手を振り回して怒られると……どうしたものだろう。
 いや、魔物娘がありふれた昨今だ。いつかこの毛玉と不貞の道を歩むかもしれないってのは理解できてしまう。うーむ、だけどまだポチ子は普通の犬だしなぁ。

「ポチ子、お前は将来俺の嫁さんになりたいか?」
「わぅん♡」
「ほら母さん、首を横に振ったからまぁ安心」
「どこが安心なのよっ! まず人の言葉を理解してる時点で怪しさ満点じゃないのその語尾のハートマークが分からないの貴方はっ!!」

 ポチ子の聡明さが逆に、母さんの疑いをより深くしてしまい。
そろそろ実力行使でポチ子を排除しかねないなと思い始めたその時。

「な、何よメス犬のくせに……! やる気なの……!?」

 ずいっ、と母さんの前に歩み出すポチ子。
 巨漢に思わずたじろぐ母さんを見下ろし、尚も目をキラキラと輝かせて尻尾をブンブンさせると。

「あ」
「へっ?」

 ハグっと母さんの矮躯を咥え。

「〜〜〜〜〜〜っ!!」
「いやっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 はち切れんばかりの尻尾と同じ勢いで、母さんをブンブンと振り回し始めた。

「ははっ、ポチ子は母さんのことが気に入ったみたいだなー」
「〜〜っ! 〜〜っ! 〜〜っ! 〜〜っ!」
「どこが気に入ったって!? あなっ、とめっ、とめ止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 両手足を投げ出して八の字を描くように宙を舞う母さんとその絶叫。(>ω<)みたいな顔して大喜びのポチ子。
 そう言えば俺も小さなころ、母さんのことを掴んで遊んだりもしたっけなぁ。なんだか懐かしくて微笑ましい――

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!! だめぇっ、胴体が分離しちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!! テケテケになっちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

――っと、ちょっとこのままだと母さんがちびっ子達のトラウマ妖怪になりそう。そろそろ止めてあげないと。

「ポチ子、その人はお人形だけど玩具じゃありません。ペッてしなさい。」
「わうっ!」
「はぐぁっ!」

 俺の一言にポチ子は母さんをパッと放し、行儀良く座りなおした。おおう、やっぱりこの子は賢い良い子だなぁ。

「ゆ、許さない……呪ってやる……呪ってやるんだから……」

 顔面から落下して床に顔をぶつけた母さんは這いつくばった姿勢のままプルプル。キッとこちらを見上げて睨む瞳には涙が滲んでおり、発言も物騒だ。こうなったら承諾を得られるまでポチ子におねだりをしてもらおう。

「ポチ子、おねだりっ!」
「〜〜っ! 〜〜っ! 〜〜っ! 〜〜っ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? これのどこがおねだりなのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 再び振り回される母さんと喜色満面(>ω<)のポチ子。

「ポチ子、ペッ!」
「わうっ!」
「はぐぁっ!」

 再び床に落下する母さん。

「ねえ母さん、ポチ子飼っても良い?」
「どうして良いって答えが返って来ると思うわけっ!?」
「ポチ子、おねだりっ!」
「〜〜っ! 〜〜っ! 〜〜っ! 〜〜っ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? もう止めてお願いだからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 三度振り回される母さんと喜色満面(>ω<)のポチ子。

 こうしてブンブンされてはペッとされて床とキスすることを何度も繰り返し、無事にポチ子は我が家の一員として迎えることになったのであった。

 そして後日。

「ただいまー」
「あら、お帰りなさーい」
「わおんっ!」

 玄関で俺をお迎えしてくれる母さんとポチ子。
 ポチ子の首回りには立派な首輪が取り付けられており。
 そしてポチ子の背中に跨って笑顔を向ける母さん。

「それじゃ、私は晩御飯作ってくるから。ポチ子、キッチンにゴー!」
「わんっ!」
「よしよし、ポチ子は良い子ねーホントに!」

 そう言って母さんはギュッとポチ子に抱き着き、ポチ子は心底嬉しそうに尻尾を振り回して廊下の奥へと消えていった。母さんをお馬さんしたままで。

 心配された母さんとポチ子の関係も、我が家の家長であることを知り従順に母さんに尽くし。
 すっかりポチ子を溺愛するようになった母さんは、毎日ポチ子の背中に跨って移動したり、ポチ子のお腹を枕にしてお昼寝をするようになりましたとさ。うん、めでたい。


 ◇


淫魔商事 営業部飲み会における新人くんへのセクハラ一例

・デーモン部長・ダークプリースト次長・サッきゅん係長の三名がお胸にグラスを挟み、新人くんにビールを注がせようとする。なお、すぐにビール瓶はアルプ課長とデビルちゃん先輩にひったくられ、二名がビールを注ぐことに。

・そして三名はお胸にグラスを挟んだまま「乾パ〜イ♡」とお胸同士を合わせて飲み会が開始。新人くんのグラスにもお胸を押し付けようとするも二名に阻まれる。

・サッきゅん係長により新人くんのグラスが取られ、間接キスのビール回し飲みがスタート。もちろん新人くんには上司たちのグラスが順番に回ってくるので、そこに口づけることを余儀なくされる。

・「はい、新人くん。あーんして♡」とデビルちゃん課長を筆頭に次々に新人くんのお口にお通しを運ぶ営業部社員たち。お相子にと新人くんもあーんを求められる。

・ポテトがやってきて沸き立つ一同。皆が我先にとポテトを口に咥えて新人くんにポッキーゲームを強要する。新人くん、全員と何度もキスをする羽目になる。

・酔いが回り始め、大声で繰り広げられる部長たちの猥談。どうすれば一番新人くんをオカズに気持ちよくオナニーできるかを熱く議論するデーモン部長とサッきゅん係長とそれを窘めるデビルちゃん先輩。新人くんの自慰の頻度を尋ねてケラケラ笑うアルプきゅん課長と、恥ずかしがらずに言ってくださいなと頬を撫でるダークプリーストさん次長。新人くんはお顔を真っ赤にして俯いてる。

・ビールが無くなったところで注文されるヨーグルトリキュールのロック。大盛り上がりでヨーグルトリキュールのごっくん大会がスタート。全員で順番にリキュールを飲んだ後に舌を出して新人くんに見せつけ、誰が一番エロチックだったかを競い始める。

・ますますテンションの上がる(レイプ目した新人くんを除いた)一同。全員で下着を脱ぎ始め『パンティー当てクイズ』を開始。回答者、タオルで目隠しされた新人くん。匂いや味を確かめさせられる。当たってしまったダークプリーストさん次長の下着は新人くんにプレゼントされてしまった。

・フラフラになりながらトイレに退避する新人くん。なお、追ってきたアルプきゅん課長に「このままシちゃおうか?」と男子トイレで迫られ、大慌てで逃げ帰ってくる。

・お刺身の盛り合わせが届き大歓声が上がる。「女体盛り! 女体盛り!!」のコールと共にデーモン部長達が服を脱ぎ始める。再びデビルちゃん先輩により目隠しをされてその様子を見ることだけは回避できた模様。

・しかし容赦なく始まる女体盛りの食べ放題。新人くん、目隠しをされて腕を使うことも禁止され、舌を這わせて部長たちの身体に乗ったお刺身を食べさせられることに。

・更に追加で届いた日本酒。案の定「わかめ酒! わかめ酒!!」のコールが上がり、新人くんは順番にわかめ酒を飲み干す展開を強制される。

・時間が迫り二次会(ホテル)に行くわよと天に指を上げるデーモン部長。「3P!」「4P!!」「5P!!!」と順繰りに参加を表明する上司たち。「もうやだ。おうちかえる」と幼児退行してシクシクする新人くんをお膝で泣かせて「よしよし、大丈夫だからね。お姉さんが最後まで守ってあげるからね」と頭を優しく撫でるデビルちゃん先輩。


 ◇


息子くん(ショタ)「おかーさーん♪」
リビングドールちゃんママン(以下、リビママ)「あら、どうしたの?」
息子くん「あのね、これお母さんにプレゼント!」
リビママ「まぁ、この子ったら♡ ありがとう、ママ感激しちゃう♡」ナデナデ
息子くん「えへへー♪」
リビママ「さて、それじゃ何が入ってるのかしら……」ガサゴソ

リビママ「……プロペラにベルト?」

息子くん「お母さん、バンザーイ」
リビママ「バンザーイ……って」
息子くん「ここをこーして……くっつけて……できた!」
リビママ「ねぇ、ママの背中にプロペラを取り付けて何してるの? 何をするの? そのコントローラーは何?」
息子くん「お母さん、発進!」
リビママ「ちょっ……な、え、何っ!? か、身体が宙に!?」ブロロロロロロロ

リビママ「こ、こらっ! ママを玩具にしちゃダメよ、はやく下ろしなさい!」
息子くん「えー、でもお母さんってお人形さんだから玩具なんじゃ」
リビママ「揚げ足を取らないの! きゃっ!? ダメ、そんな左右に振るのもダメ!」
息子くん「かっとべ、マグナーム」
リビママ「そのネタ知ってるショタがいてたまるもんですか――いやぁぁぁぁぁぁっ! 空中回転させちゃダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

※この後メチャメチャ叱られました。


 ◇


 神よ……私は今、見てはいけないものを目の当たりにしています。

「はっけん! おいしそうなおとこのこ〜♪ じゅるるん♪」

 彼女は私のご主人様であるヴァンパイアさんです。
 綺麗です。いつも凛々しく麗しく、気品があって。
 ちょっとプライドが高くて意地っ張りなところもあるけど、そんなところが また可愛らしい、私にとって最高のご主人様です。

「いいも〜のあげるく〜らやみ〜で〜♪」

 そんなご主人様が……歌を歌われています。
 熱唱しておられます。
 普段の様子からは全く想像もできない、アイドルの歌うキャピキャピした歌を、ノリノリで。
 私が部屋に入ってきたのに気付かず、棚の本を整理しながら、それはもう楽しそうに。

「おもわせぶりにういんく〜♪」

 ついでに言えば、振り付けもノリノリでこなされています。
 本の整理をしていたはずなのに、その本を棚に横倒しにしたまま、鼻にかかった甘い声で、踊っておられます。

「は〜にかみながら〜め〜をふせて〜て〜♪」

 神よ、ある意味コレは絶景です。すっげー可愛いです。私史上でもトップを争う可愛いご主人様です。
 でも、同時にヤバイです。コレはマジヤバ案件です。
 だって、誰しもそれなりに経験があるでしょう?
『誰もいないと思って自分が熱唱していたところを人に聞かれていたことに気付いて死ぬほど恥ずかしかった経験』ってやつが。

「ぱっとまって♪」

 ただでさえ人前で恥をかくことを嫌うご主人様のことです。
 それをまさか執事の私の前で晒すなんてことになれば、もはや発狂も同然の事態になるでしょう。
 しかし、ここでうかつに退室をしようにも、ご主人様にバレずに戸を閉められるのか。
 でも、もう無理そうです。ちょうどそろそろサビに入って、ご主人様がこっちを振り向きそうなんです。マジで振り向く5秒前。

「がっとやって♪」

 あっ。

「ちゅっとすって♪」

 振り向いて。

「はぁ〜〜〜ん♡」

 目が合った。

「………〜〜〜〜〜〜っ!?!?!?」

\(^o^)/オワタ





旦那くん「………………」シクシク

白蛇さん「あらあら、貴方様。そんなに泣かれてどうされたのですか?」

旦那くん「………………」シクシク

白蛇さん「怖い夢でも見られたのですか? それともどこか痛いところでも?」

旦那くん「………………」シクシク

白蛇さん「お腹が空いたのですか? お夕飯は貴方様の好きなハンバーグにしますか?」

旦那くん「………………」シクシク

白蛇さん「困りましたねぇ……貴方様、どうしてずっと泣いていらっしゃるのですか?」

旦那くん「――よぅ………………っ」シクシク

白蛇さん「……?」

旦那くん「――お外に出してよぅ……」シクシク

白蛇さん「それは絶対にダメですよぉ……」ハイライトオフ


 ◇


 俺にはちょっとした悩みがある。
 それは可愛い妹の……いや、一応義妹って言った方が良いのか。毛娼妓だし。魔物娘だし。
 とにかく、その義妹のことでちょっと困ってる。
 あー、いや、義妹から性的な関係を迫られてっていうのは当たり前過ぎるから、そっちで悩んでるわけではない。
 それも大変なことではあるかもだけど、このご時世で魔物娘の肉親だなんて婚約者(強制)に他ならないのだ。仕方ないことである。
 問題なのは、風呂。お風呂。バスタイムのことで悩んでるのだ。

 恥ずかしながら、義妹は『お兄ちゃんと一緒のお風呂』から卒業できてない。
 重度のブラコンを患っている義妹は、もう16歳になってもまだお兄ちゃんとお風呂に入りたがるのである。
 お風呂ぐらい入ってあげれば、なんて思われるかもだけど、ここでお話の二行目をもう一度読んでほしい。
 毛娼妓なのだ、義妹は。見目麗しい魔物娘達の中でも、とってもキューティクルでビューティフルなロングヘアーで有名な。

 ……察しの良い人はもう気付いてくれただろうか。
 そう、義妹は入浴の時間がメチャメチャ長い。あの髪のお手入れにアホみたいな時間を費やす。
 そしてお兄ちゃん大好きな甘えん坊な義妹ちゃんは、その髪を自分じゃなくて俺に洗ってもらいたがる。
 お手入れにどれぐらいの時間がかかるかって? 俺と一緒だと全部で3時間はかかる。はっきり言おう、付き合ってられるかっての。
 だので俺は最近、義妹に引っ張られて風呂場に連れ込まれる前に、とっとと入浴を済ませてしまうことを心掛けてるわけなのだが……。

「お兄ちゃん……入れて、入れてよ……」

 それがまた最悪な絵面を生むのだ。

「お兄ちゃん……どうして開けてくれないの? お兄ちゃん、一緒にお風呂入ろうよ……」
「……………………」

 俺が一人で入浴をしていることに気付いた義妹。
 入り口を封鎖しているため入ることのできない浴室。
 すりガラス越しに響くすすり泣きと人型のシルエット。
 カリカリとガラスを引っかく影にうごめく長い黒髪。

 うん……最初に見たときには絶叫したよ。Jホラーか何かかってぐらいに怖い場面だ。

「お兄ちゃん……ねぇ、お兄ちゃんってばぁ……」

 さっさと諦めてくれれば良いものの、義妹は非常に諦めが悪いことに、こうやって風呂に入れろと必死になって嘆願してくるのである。

「お兄ちゃん……! お願い、入れて! お兄ちゃん! 開けてよぉ、お兄ちゃぁん!」

 遂にバンバンと叩かれ始めたすりガラスと、隙間からザワザワと侵入しだす髪の毛。
 もうダメだ。良心の呵責とかじゃなくて、恐怖映像過ぎて耐えられん。

「あぁもう、分かった! 分かったからガラスを叩くな髪を引っ込めろ折角の髪が傷むだろうが!」
「お兄ちゃん……入れてくれるの……?」
「はいはい、入れてあげますよっての! まったく……」

 そう言って根負けした俺が戸を開けた途端。

「お兄ちゃん!」
「うわっ!?」

 さっきまでのガラス越しの恨みがましい様子は何処へやら、義妹は満面の笑みで俺に抱き着いてきた。
 既に素っ裸のダイナマイトバディを惜しげもなく晒しつつ、裸体のところを見るとだらしないぐらい馬鹿でかい柔らかお乳が押し付けられる。

「こんにゃろ、演技の上手なことで……」
「えへへ……だってこうするとお兄ちゃんがお風呂に入れてくれるんだもん♪」
「だもん、じゃない。アレは心臓に悪いんだぞ?」

 ニコニコとした顔を寄せられてしまうと思わずため息が漏れてしまう。
 こんなにお美人さんになっても、中身はまだまだ子供だな。そんなところが情けなくて、けれども同時にやっぱり可愛いなとも思ってしまって。

「お兄ちゃん、トリートメントしてー♡」
「そう言いながら人の股間の物を掴むんじゃありませんそこから出るものはヘアーコンディショナーではなくて精液です髪にかけるものではありません」
「じゃあ……こっちのお手入れ、してくれる?」
「止めろくださいお股に指を誘導しないでダメお兄ちゃん我慢できなくなるから」

 そんなこんなで俺は、義妹と日々アホみたいな長風呂をすることになるのであった。





 僕の隣の席にはマンティスさんがいる。

 僕と目が合うと微笑んで、僕といつも楽しげに会話に花を咲かして。
 一応学校に来て授業は受けているけれど、どうやら興味はあんまり無いみたい。
 友人付き合いは増えてきても大体僕と一緒で、いつもいつも僕の隣にいる……そんな存在になった。

 そう、親しくなった。
 彼女と接する機会が増えたどころか、彼女の恋人というポジションに収まったのだ。
 こう、なんていうか、ある意味で当然の帰結として。

「………………」

 お昼休みのチャイムが鳴って、みんなで思い思いの休憩を取り始める頃。

 マンティスさんは喜びすくっと立って、椅子を僕の席の目の前に移動させて、再び行儀よく座り。

「さ、ご飯食べよう?」

 じっと、僕のことを上目遣いで見つめてくる。

「ま、待っててね。今支度をするから」

 その視線の圧力に簡単に負け、僕は手早く自分の鞄を漁り、弁当箱を二つ取り出す。

 今度は出てきた弁当箱を見つめながら、いそいそとお箸を取り出して。
 包みを解いて、パカっと蓋を開けると、マンティスさんに向けて僕はお口をパカっと開けて。

 あー。

「あーん」

 そこに彼女はすかさずお弁当のシュウマイを入れる。

 あむ、もぐもぐ……。

 お口の中に肉厚なシュウマイの旨味が広がり、思わず目尻が下がった僕を、嬉しそうな様子て見つめているマンティスさん。

 続いて僕の方もお箸を掴み、もう一つのお弁当からシュウマイを取り出して。
 すると今度はマンティスさんの方が、目を閉じながら僕に向かってパカッと口を開けて。

「あーん」

 そこに僕はすかさずお弁当のシュウマイを入れる。

 あむ、もぐもぐ……。

 続いて胡麻塩を振ったご飯を一口。紅生姜と昆布、蒲鉾……僕らは次々にお弁当の中身を平らげていく。お互いがお互いの口にお弁当をあーんさせながら。

 周囲はすっかりお決まりになった僕らのお昼の光景を見て、クスクスと忍び笑いを漏らしている。僕だって恥ずかしいのだけれど、でも仕方ない。これというのも僕が彼女にお弁当を食べさせ続けた結果なのだ。


 ある日お弁当を忘れたらしく、大きな音でお腹を鳴らしていたマンティスさんを不憫に思い。
 そしてお弁当を上げたのをきっかけに、彼女はちょこちょこお弁当を忘れるようになり。

 その度お弁当を差し入れしているうちに、彼女はお弁当を持参することをやめてしまって。

 マンティスさんの給餌係として毎日お弁当を貢ぐ日々幾星霜。

 すっかり僕はマンティスさんな彼女にとって、繁殖期の相手にも都合の良さそうな男だろうと認識されてしまったようで。

 ある日投稿したら突然首根っこを掴まれて、彼女のお家まで飛んで連れてかれてしまい。
 制服ビリビリにされて押し倒されて、ベッドに組み伏せられながら、晴れて感情表現豊かになった彼女の熱烈な愛の言葉を浴びせられ。
 おめでとう。その日からクラスのみんなに負けないぐらいのバカップル。

「……おいしい?」

 もぐもぐとご飯を噛んだまま、こくりと頷く僕。
 そうだよね、とってもおいしいもんねと、彼女は米粒も残さずお弁当を平らげ、そして僕にもお弁当を食べさせる。
 ……バカップルしててもお弁当を作ってるのは僕の方なのが、何とも言えないけれど。でも、けれども。

 二人でお弁当を食べきり、満足げにけふっと息をつく彼女の。
 僕に向けて、昔よりももっと素敵な微笑みを浮かべて口にする。

「ごちそうさま。今日もお弁当、ありがとう」

 この一言が、これ以上無いってほど嬉しく感じてしまうから。
 僕は明日も、これからも。
 二人分のお弁当を作ってきて、そして食べさせっこをしてようと。
 心底バカップル極まりなくも幸せいっぱいなことを考えてしまうのだった。


おしまい♪

20/07/13 17:23更新 / まわりちゃん

■作者メッセージ
一つ一つ載せてるとまた作品数が膨れてしまうのでまとめて載せちゃいました。

ご賞味いただいた皆様はどのネタが気に入られたでしょうか?

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