某ナチスの総統が魔物娘と一緒に青少年健全育成条例に関して何かお言葉があるようです。
ある重要な会合の日、アヌビスの陸軍大将エリアの部下フレン=ヨードルはその会合に遅れてしまい、真っ青な顔をして今会合が行われている会議室の扉の前に立っていた。会合の内容はフレンの所属する軍にとって最重要事項らしいが…。
扉の隙間から、どこか物々しく息がつまるような緊迫感の空気が滲み出て、さらにフレンの心臓の心拍数を高めていく。
(あぁ…行きたくない、こんな中行きたくない…でも行かなければ…大丈夫、謝罪の言葉について考えている)
扉越しから愛しの上司であるアヌビスのエリア=クレープスの凛としたナチュラルな抑揚のない声が聞こえてくる。これ以上彼女を待たせて自分(部下)の失態のせいで、彼女に迷惑をかけるわけにはいかない。それに今回の会合には総統閣下も連ねている、彼女に恥を絶対かかすわけにはいかないのに…俺ってやつは…。
フレンは目頭に溜まる熱い液体を素早く拭い、真っ直ぐとした視線を向けて扉の前に身構える。
(エリア大将が待っている…早く行かなければ)
フレンは腹をくくり意気込んで扉を開いた。
会議は、小さな豆電球の下の中フレンの予想通り息のつまるような雰囲気が充満し、皆総統閣下へと視線を向け誰も視線をそらすことなく真剣な面持ちでエリアの弁に聞き入っていた。
「東京都より情報が入りました。ネットや出版社の間で問題になっていたあの青少年健全育成条例の改正案が東京都の本会議にて提出され、民主、自民、創○公明の3会派の賛成多数で可決されました」
エリアは情報をまとめた報告書に記載された内容を淡々と読み上げていった。その内容を聴いていくうちに、会議に出席している魔物娘の将校たちは皆目元から一筋の涙を流し嘆き悲しむような目で総統閣下をすがる様に見ていた。
その様子を見ていると誰もフレンの存在に気付く者はいない。フレンは何も言うことができず寡黙してしまった。
説明するのを忘れていた。もうそんな条例なんて知っている、なんて言っている方は復習程度でいいのでおおざっぱに目を通してみてください。
青少年健全育成条例というのは、
雑にいえば東京都当局が青少年に悪影響を及ぼすと判断した不健全な作品(不健全な図書)
の販売を規制するための条例。推進の中心人物の石○慎太郎都知事と都議会自○と創○公明が条例改正により、暴力表現など反社会的表現を含んだ作品と共に児童ポルノ撲滅運動の一環として『非実在青少年』(所謂漫画キャラ)による性的表現を含んだ作品も規制しようという方針を表明しました。
非実在青少年の定義
「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの」です。要するに年齢設定が18歳未満である少年・少女のキャラクターの事になります。また、たとえ成人のキャラクターであっても、外見上が18歳未満であればこの定義に含まれる可能性があるようです。
この改正案考えたのは?
東京都の諮問機関「東京都青少年問題協議会」(以下、青少協)です。青少協は、児童ポルノ禁止法で漫画・アニメ・ゲームを規制する必要性を強硬に主張し続けている警察関係団体幹部、キリスト教原理主義団体の顧問弁護士、大学教授、PTA会長などばかりで構成されています。ちなみに青少協で行われた都条例改正案の議論では、数多くの差別発言と暴言が飛び交っていた(例 : 「漫画の規制に反対するオタクは認知障害者である」)
この条例で規制されるジャンルは?
漫画、アニメ、ゲーム、映画のジャンルだそうです。
「規制されるのは成人向けから一般向けまでの全作品対象です。少年向けから青年向け、少女向け、レディース向け、腐女子向け等々例外は何一つありません」
エリアの答えに耳を引くつかせ目を点にして驚愕している一部の女性陣が目立つ。
「どうやら声優の演技まで規制が入っているようです、後同人誌や同人ソフトと呼ばれるものも規制対象に入るようです」
さすがに長々と読むのに疲れたのだろうか、エリアの説明は段々大雑把なものになっていく。嘆息をつき、額に汗でこびり付いた艶やかな綺麗な黒髪を、手で櫛のように整える仕草を見せる。どことなく艶っぽくてフレンの心をドキッとさせた。
「…東京都以外も規制はあるのですか?」
エリアの後ろにいた将校の取り巻きの一人が問いかける。
「厄介なことにこれは同盟国である日本全土に影響を及ぼすようです。流通会社が都から圧力を受けて取り扱わなくなるため、販売もろくにされないでしょう…」
「間違いなく、これはインターネット上でも規制がかかって、私たちの存在が危ういですね…。総統閣下」
総統閣下の側に立つ側近のデュラハンは、歪な装飾が施された鎧から垣間見える、透き通ったような白い肌がこぼれる豊満な胸の谷間を見せながら目を閉じ重苦しく言う。
その言葉に将校たちの取り巻きの動揺した様子が顕著に表れる。髪を鷲頭かむように掻きあげ何やらブツブツと血の気の失せた顔で独り言を呟く者や、意味も無く頭に手をやり奇声を発しながら混乱する者、項垂れて打ちひしがれたように壁に背もたれている者など反応は様々だった。
総統閣下はというと、会議用テーブルに座り黙々とエリアの提出した報告書に目を通し、時折固く閉ざされた唇から唸るような声が漏れて明らかに尋常ではない乱心した様子で、さらに陰鬱とした空気にさらされるのだった。
「この中にはいないと思うが…漫画やアニメが世の人間達に悪影響を与えていると思案する者は去れ…」
その言葉に反応して、将校たちは次々と会議室から逃げるように去って行った。それは決して総統の言葉通りの想いを抱いているのではない。
今から始まる総統のお説教タイムから逃れるためである。
「わわぁ!!何だ?」
フレンは何の事だか分からずいきなりの状況に事態の収拾がつかなかった。それはフレンがこの会合に出席するのが初めてだからである。
(なんでいきなり…)
フレンの疑問をよそに総統閣下のお怒りのお言葉が始まる。
「馬鹿かお前らは、漫画やアニメ見て犯罪やろうとかぬかすような人間私は見たことがないぞ!」
「よく考えろ!そんなことやって性犯罪が減ると本当に思っているのか!?」
総統閣下は口を捲し立て唾でも吐くような勢いで、残ったいつもの人間達に怒鳴り散らすような声を上げ叫ぶ。
「そんなに影響力あるならとっくの昔に日本は性犯罪大国になっている、ろくに東京都の都議会連中は世界の犯罪統計なんて調べてないだろう!!」
言葉ひとつひとつが矢継ぎ早に、残った人間達の耳に刺さる様に入っていく。陸軍大将アヌビスのエリアは黙って総統閣下の言葉を頭の黒い耳を折って半分聞き流す。
エリアにとって、こんな条例の制定は馬鹿馬鹿しいにもほどがあった。こんな下らないことのために同盟国の日本の政治家たちは、真剣に議論しているのかと呆れて言葉も出なかった。
(全くもって滑稽だ…)
「くそ!!何でこんな条例を可決させたんだ、日本の愚民どもは!!これでは俺の大好きな魔物娘の魔女タンをペロペロできない、他のドワーフやサハギンちゃん達をオカズに出来ない…何という拷問だぁ!!」
総統閣下の前で、光で金ぴかにてかるほどの禿げ頭を真っ赤にして頭を抱える。顔の老けた男、陸軍元帥のヴィンセント=カイデルは幼女好きのきわめて変態ロ○コンだった。その禿げ頭と四十代ともとられるような老けた容姿は、染み一つない威厳を兼ね備えた軍服を脱ぎ捨て普段着にでもなれば、ただの変態親父に見えそうにもなかった。
「あの未発達な感じがいいんだ。まだ熟していない青い果実の様に苦いけど、それが癖になっていく…あの素直で無垢な眼差しでこちらを見る姿が…あぁ、たまらない、たまらないよぉ〜」
カイデルは、陸軍トップの威厳もへったくれもない非常に満たされたような笑みを浮かべクルクルと何事かを呟きながらその場で体を意味も無く回っていた。
(ウプッ…下呂が出る…)
フレンは口元を押さえ青ざめた表情で膝折その場で吐くような仕草を見せる。それはフレンだけでなく上司のエリアも総統閣下も側近のデュラハンも右に同じだった。
「…こんな糞変態ロ○コン野郎がいるから、こっちまで規制の嵐がかかったじゃないか。日本の糞愚民どもがぁ〜!俺の大好きな魔物娘のシービショップさんのあの母なる海の様に優しいあの胸の中に飛び込んで、キャッキャウフフできないじゃないか!それに癒し系の天使のような包容力を持つあのホルスタウロスやお美しい嗜虐的な笑みを浮かべるラミア様のお顔が見れなくなるなんて…。あっ、今の俺は死んだに等しい…」
エリアと同じ同僚の陸軍大将ヴィンセント=ガーランドルフは、ムンクの叫びのような顔をしながら口元をワナワナと震わせながら女性の胸の良さを熱く語っている。
「男は皆胸が好きなんだ…『おっぱい、ぷる〜ん、ぷるん』が大好きなんだよ。そんなことに理由なんているか、男が持つ三大欲求は右におっぱい左におっぱいそして最後に真ん中におっぱいなんだよ!!」←(これは一部の言葉です)
訳が分からない…。
フレンは茫然と立ちすくむ。エリアというと腫れ物に触るかのように、そっと自分の胸を触りながら表情を曇らせ悲しげに溜息をついていた。それを見たフレンは『大丈夫ですよ!胸が少しちっちゃい位で世の中生きていけないわけないですから!!それに…僕は胸が小さいほうが好みですから、エリア大将のこと嫌いじゃないですよ』と言いかけたがやめた。それは言おうとした刹那、エリアがフレンのことをどす黒いオーラを放ちながら睨みつけていたからだった。
「『おっぱい、ぷる〜ん、ぷるん』私のセリフなのに…」と総統閣下から小さく言葉が漏れたのに気付いたがフレンは無視した。
ちなみにガーランドルフはカイデルと兄弟で弟にあたる。二人は何時も好みでいがみ合い、結局軍の階級の差でいつも兄であるカイデルが言い争いで最後に『陸軍元帥である俺に逆らうのか?この愚鈍の弟よ』と脅しをかけて終わる。
(結局弟も弟か…何でうちの軍隊のトップは並んでおかしな連中ばかりなんだ…)
フレンとエリアは二人揃ってこめかみ辺りを強く抑えながら、苦虫を噛むような表情を造り溜息をつく。
「おい、この変態禿げロ○コンがぁ!ちょっとお前面貸せ!!」
「おい、兄に対して何という口のきき方だ!それに変態禿げロ○コンだぁ?てめぇはあんなブヨブヨした無駄な脂肪ぶら下げた物が好きなのか?あんなもん年取ったら凋んで張りが無くなって気持ち悪いのなんの!!あんなもの女なんかに必要のないステータスDA☆あんな腐った婆なんて死んでも抱きたくない」
「何だと、そんなの年を取るから仕方のないことなんだよ。そんなことよりてめぇは糞餓鬼の尻ばっか見て欲情しているのか?馬鹿じゃねえのか、いやお前は馬鹿だよ!あんな色気も糞もない貧相な体つき見たってたたねぇんだよ!!あのおっぱい搾っても母乳が出ないんだよ!俺は母乳大好きなんだよ、あれこそ女性の象徴だろうが!?あぁ?」
世にも奇妙な兄弟喧嘩が始まり先ほどまで物々しかった雰囲気の会議室はどこへやら、自分の性癖を語りに語る変態集会のように奇妙な熱の入った物議がそこに醸し出されていた。
蚊帳の外からそれを聴く将校達は皆呆れかえり茫然としていた。
「うっ…うっ、なんでこんなことに…」
将校の一人であるサキュバスの魔物娘は泣きに泣き崩れる。さっきまでの真面目な展開はどこへ行ったのかよ、と突っ込みを入れたいのにこんな意味不明な展開でどうにもならないと泣き崩れていたのだった。
「いや泣くんじゃない、私だって泣きたいよ…」
隣の男性将校はサキュバスを慰めるどころかもらい泣きをしてしまう。その連鎖はあっという間に広がっていき大合唱をするかのようにすすり泣きが廊下に響いていく…。
「ちくしょぉぉめぇええ!このア ン ポ ン タ ン共私の話を聞けぇー!!」
秩序をなくし混沌とする中、総統閣下の張りある一喝した声が会議室中に響き、誰もが総統閣下に注目し始める。ヴィンセント兄弟はお互いの胸倉を掴み合い殴り合うことをやめる。
「真面目に話に戻るぞ。この話を掘り下げると、この条例推進の中心にいる石○という都知事は漫画を読んだことのないそうじゃないか!ということはだ…読んでもないくせにどうしてそんな不健全な本があるということが分かるんだ?読んだこともない奴に害も糞もへったくれもない!!」
総統閣下は言葉を少し詰まらせるも再び話を始める。
「この男だけじゃない、他の推進連中は一体何をしているんだ!?少しは学のある連中かと思ったら、こんなくだらないことを延々と真剣に何故議論しているんだ?こいつ等は本当に大学卒業しているのか、自分達がしていることがどんだけ阿呆のことしているのか分からないほど頭腐っているのか?」
「しかし、未成年向けにしてはやけに過激すぎる漫画があるのは事実です」
エリアは反論者のあえて立ち位置につき、公平さに欠けぬよう総統閣下に食ってかかる。総統閣下のお言葉にはエリアも同意はする、しかしこの場に面子があまりにも偏り過ぎているためことがあらぬ方向へと暴走する恐れのある。過激な勇み足が破滅を導く。
それに人を腐すようなことを言えば逆効果だ。
「だったらそんな物一目につくような所に置いてるんじゃない、未成年どもが買えないようにきっちりと店側や出版社に指導すればいい話だ!!いや、もうすでに出版社たちも東京都もそうならないようにしているかもしれないが…」
それでも現状過激と呼んでもおかしくないような漫画もある事実。十字架を背負うかのような重圧が体を締め付けていく。
「それにこんな曖昧な対象の捉え方じゃ、どの漫画もアニメも壊滅だ!集○社や小○館や講○社なんかの大手の出版社はすべて反対している。大手じゃない出版社たちは声を上げようとしても、東京都からの圧力がかかりだんまりを決め込む始末。ネット上じゃ規制の嵐だ。そうすればエリア君やこのデュラハン君の存在も消える。しかし気になることがある…」
総統閣下はそこで言葉を切り、横にピチッと纏めた髪を激しく振り乱しかなり疲れたような表情を浮かべている。そしてまた椅子の上に派手に座る。傍で寡黙しているデュラハンは気を利かし、会議室の隅に行きそこで茶を沸かし総統閣下の元へと戻ってくる。
「すまないな、デュラハン」
総統閣下だけでなく、お盆にはフレン達の分の茶の入った紙コップがあった。
「お熱いのでお気をつけて」
彼女は淡泊な表情で短く言葉を切るとすぐに総統閣下の側につく。
「すみません…」
「すまんな…」
「面目ない」
「…ありがとう」
お茶での一服時間が始まる。そうすると不思議と煮詰まって煙を上げる頭が、自然と涼しく冷えていく。あぁ、何ともいい気持ち良さに一同は…とても眠くなっていくが、まだ積もる話は終わってはない。
「何故小説やテレビが規制されていないんだ、都知事は昔過激な小説書いて世間からひんしゅくを買ったそうではない、それに映像化もされて。そんな奴が偉そうに大口を叩くとはな…、同盟国日本はおかしな国だな(笑)」
しみじみと語る総統閣下の瞳に光は灯っていない。
「誰ものほほんとしていて条例の意味を全く分かっていない、一般の下衆野郎どもには反吐が出る話ですね総統閣下。テレビで偉そうに専門家気取っているかのような糞タレントがほざいてる姿を見て激しく憤りに駆られる同志達も多いでしょう」
「カイデル元帥、そのような汚らわしいお言葉で語るのをおやめください。むしろそんなことをしては逆効果です、お気持ちは分かりますが相手に生意気な未熟者だと思われるのが関の山です」
エリアは口調を優しく諭すようにカイデルを宥める。それは母親のようにも見える。
「しかし、日本の同志達から寄せられるテレビに対する苦情。馬鹿な企画をして笑いを取るような低俗なバラエティー番組、大して面白くも無いのにスタッフが笑って身内だけで盛り上がる痛々しい番組。読むよりも視認するテレビの方が逆に規制されるべきじゃないのでは?
14歳が妊娠するとかいうドラマなんて放映したくらいだし、9時の某サスペンス劇場も殺人事件だらけで暴力表現モロそのままですし…。AV(アダルトビデオ)やエロ本雑誌、あれこそは本当にいいのかよ、あんな萎えるような女の顔や体ばかり見ると気分が糞になる…。そしてそんな女の尻を追っかけているような糞野郎どもにも反吐が出る。(A○B?なんですかそれ、おいしいの?)
何か古くからある存続メディアばかりが得するようなことばかり…もしかして連中グルになって視聴率のために偏向報道垂れ流して…世論を形成して」
「憶測ばかりで物を語ってはいけません、ガーランドルフ大将」
エリアに強く言われガーランドルフは押し黙るしかなかった。それは彼女の言うとおりだったからだ、はっきりとした根拠はないし自分の個人感情が入り乱れている。そんな物意見ではなく妄想とまで言われ嘲笑されるだけだ。
「エリア君、突然すまないが君にどうか見てもらいたい物がある」
いきなり総統閣下はエリアに話を振る。総統閣下は自身の着る軍服の懐からある一枚のブロマイドの写真を取り出す。
「そっ、それは俺のバフォ様のブロマイド!昨日目を血走りにして探していて見つからなかったのに…。総統閣下何故貴方がこれをお持ちに…!?」
(おい…仕事しろよ)
フレンとエリアは溜息が無くなることはない。今度は胃のあたりがキシキシと穴が開いてくるような感覚がする。
「…このバフォメットのブロマイドがどうかなされたのですか?総統閣下」
エリアの問いに総統閣下は、答えることなく黙ってそのブロマイドをいきなり破り捨て始めた。傍からあの変態ロリコン陸軍元帥から、耳を刺すような不快な悲鳴が聞こえたがフレン達は無視を貫く。(うおぉぉぉ…いわぁーく!!)
「…このように紙や写真の物は、簡単に破ったり燃やしたり捨てたりすれば人には無害だ。ゲームの画面も消してしまえば人に無害。原本があれば幾らでも複製できるし生産もできる…。それにこれはある意味、世の我らの同志達の持て余す性欲を抑制し処理してくれる。云わば我々のような変人を、表の世界で全うに健全にしてくれる優れものだ…。こんなもの犯そうとしてもできないし、そんなことは誰もしないだろう。何せこれを見るだけでもう我々は満足なのだから…。いや、それでしか我々は満足できないんだ!
現実の女性達は…絵が描かれた紙や写真やゲーム画面のキャラの様に簡単に破ったり燃やしたり消したりのようなことしても、元に戻ることはあるのか?ないだろう、生きているのだから!
なら何故連中は現実の女性達を守ろうとしないんだ、こんな薄っぺらの紙の上の線で出来ている生きてない物を守ろうとするんだ。こんなもの規制して守ってどうするんだ…こんなもの白く汚れたっていいだろう…」
総統閣下は終始泣き崩れるようなか細い声を上げる。言葉は何を言っているのか分からず支離滅裂としていた。だがしかし、誰も総統閣下に意見する者はいなかった。総統閣下が何を言いたいのかが何となく分かるような気がしたからである。
「…結局、これは青少年自身の問題ですよね。それに悪いことしてはいけませんよ、と学校が子供たちにしっかりと先導しなければいけないことだと思いますが…一番は親が正しいことを子に教えれるのかということですよね?きっと…。
ここの賛成推進しているPTAは、どうやら規制することで子供を守れると思っているのでしょうか?それは教育から逃げているだけ、一種の育児放棄ですよ。
やはり教会の連中もこれに加担しているとは…他人に押し付けるようなことするなんて、聖職者として有るまじき自身が信じる神を冒涜する背信行為では?狂信者と蔑まれる理由も分からなくもありませんね、この連中を見ていると。これを見ているとますます魔物娘達(エリア大将)と楽しく過ごせればそれでいいです。
東京都の都議会はもし規制し犯罪が抑制されず増えてしまった場合、被害者の遺族たちにどう言い訳をするのでしょうか?僕には民主主義を逸脱し、我が国の同盟国日本の領土である尖○諸島や○島、北○領土などをある意味侵略行為をしている連中と同じだと…もがもが何をするんですか?エリア大将!!」
「これ以上はまずい(政治ネタをやり過ぎ)、やめろ」
フレンはいきなり口元を、エリアのプニプニとした肉球で押さえつけられる。それは苦しく感じたが、どこか心地よく気持ちがよかった。背中のあたりにエリアの大きくもないし小さくも無い非常に形の良い美しいある物が当たって、フレンの脳内はまるで蕩けたような甘いピンク色が広がっている。
(いい匂い…エリア大将の香水の匂いがぁ…当たってる、当たってるよぉ〜)
「しかしそれはどうこう言ったって日本国の国民達が一致団結しなければ意味がないのでは…それに私達には日本国の国籍ないのですし、蚊帳の外の人間が言ったって日本の政府達が『内政干渉だ』と都合よく一点張りしてくるのが関の山なのでは…」
すかさず総統補佐のデュラハンはボソリと独り言のように呟く。
「まっ、今の日本の政権は、総理大臣は無能で健○症を患っている健○長官が影で牛耳っている腰抜け政権だそうだ。そして長官が大好きな○国に左に回ってワンワン吠えている忠犬ハ○公ときてる…」
「もうやめてくださいカイデル元帥。そんなこと言ったら大変です(作者が)」
「だがその政権は最後まで規制に反対したそうだが、そんなことしても国民は誰も付いてこないでしょう、我が同志達も同じ意見で。失政続きでインターネット上では連中を支持する人間はほとんどいないというのが現状。どうせはした金の様に雀の涙ほどもないような票集めだとか、乗せられるとでも思っているのか、と言って嘲笑っていると…。
今の時代に規制なんて…ダ サ イ し!!」
ガーランドルフは捨て台詞の様に吐き捨てると、まだ熱が籠った茶を一気に飲み干した後顔を真っ赤にして手足をばたつかせている。その姿はどこかの漫画のギャグシーンの様で滑稽に見えた。
「総統閣下、情報部からの伝達です。どうやら…」
デュラハンは手に何枚かの紙を手にして総統閣下へと渡す。
そしてそれを総統閣下は素早く目を通していき、そして目を大きく見開き驚嘆した。
「…スターリンめ、どうやら嫁のメデューサを助けるために日本を攻撃するそうだぁ…」
(えっ…?)
「まさか…スターリンはツンデレが好みなのか…」
ヴィンセント兄弟は間抜け顔で口を開きかなり場違いなことを言っていた。
(気にするとこそこですか!?)
フレンとエリアは一緒に突っ込む。
「えっと、どうやらソ連側は上記の理由のため停戦を協定したいとの申し出でして…」
読み上げるデュラハンの声は明らかに呆れかえって溜息が洩れそうだった。
「よし決めた、スターリンと一緒に日本を攻める!!」
総統閣下はいきなり目を光らせ無茶苦茶な宣言をする。それにヴィンセント兄弟達は感極まり賞賛の嵐をおこしている。
「さすが、総統閣下!これで俺のシービショップさんが助かる!!」
「さすが、総統閣下!これで俺の魔女タンハアハアできる!!」
(どうしてこうなった…もう軍隊に弾薬も何もかも底をついているのに…)
フレンとエリアとデュラハンは互いに頭を抱えあった。
扉の隙間から、どこか物々しく息がつまるような緊迫感の空気が滲み出て、さらにフレンの心臓の心拍数を高めていく。
(あぁ…行きたくない、こんな中行きたくない…でも行かなければ…大丈夫、謝罪の言葉について考えている)
扉越しから愛しの上司であるアヌビスのエリア=クレープスの凛としたナチュラルな抑揚のない声が聞こえてくる。これ以上彼女を待たせて自分(部下)の失態のせいで、彼女に迷惑をかけるわけにはいかない。それに今回の会合には総統閣下も連ねている、彼女に恥を絶対かかすわけにはいかないのに…俺ってやつは…。
フレンは目頭に溜まる熱い液体を素早く拭い、真っ直ぐとした視線を向けて扉の前に身構える。
(エリア大将が待っている…早く行かなければ)
フレンは腹をくくり意気込んで扉を開いた。
会議は、小さな豆電球の下の中フレンの予想通り息のつまるような雰囲気が充満し、皆総統閣下へと視線を向け誰も視線をそらすことなく真剣な面持ちでエリアの弁に聞き入っていた。
「東京都より情報が入りました。ネットや出版社の間で問題になっていたあの青少年健全育成条例の改正案が東京都の本会議にて提出され、民主、自民、創○公明の3会派の賛成多数で可決されました」
エリアは情報をまとめた報告書に記載された内容を淡々と読み上げていった。その内容を聴いていくうちに、会議に出席している魔物娘の将校たちは皆目元から一筋の涙を流し嘆き悲しむような目で総統閣下をすがる様に見ていた。
その様子を見ていると誰もフレンの存在に気付く者はいない。フレンは何も言うことができず寡黙してしまった。
説明するのを忘れていた。もうそんな条例なんて知っている、なんて言っている方は復習程度でいいのでおおざっぱに目を通してみてください。
青少年健全育成条例というのは、
雑にいえば東京都当局が青少年に悪影響を及ぼすと判断した不健全な作品(不健全な図書)
の販売を規制するための条例。推進の中心人物の石○慎太郎都知事と都議会自○と創○公明が条例改正により、暴力表現など反社会的表現を含んだ作品と共に児童ポルノ撲滅運動の一環として『非実在青少年』(所謂漫画キャラ)による性的表現を含んだ作品も規制しようという方針を表明しました。
非実在青少年の定義
「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの」です。要するに年齢設定が18歳未満である少年・少女のキャラクターの事になります。また、たとえ成人のキャラクターであっても、外見上が18歳未満であればこの定義に含まれる可能性があるようです。
この改正案考えたのは?
東京都の諮問機関「東京都青少年問題協議会」(以下、青少協)です。青少協は、児童ポルノ禁止法で漫画・アニメ・ゲームを規制する必要性を強硬に主張し続けている警察関係団体幹部、キリスト教原理主義団体の顧問弁護士、大学教授、PTA会長などばかりで構成されています。ちなみに青少協で行われた都条例改正案の議論では、数多くの差別発言と暴言が飛び交っていた(例 : 「漫画の規制に反対するオタクは認知障害者である」)
この条例で規制されるジャンルは?
漫画、アニメ、ゲーム、映画のジャンルだそうです。
「規制されるのは成人向けから一般向けまでの全作品対象です。少年向けから青年向け、少女向け、レディース向け、腐女子向け等々例外は何一つありません」
エリアの答えに耳を引くつかせ目を点にして驚愕している一部の女性陣が目立つ。
「どうやら声優の演技まで規制が入っているようです、後同人誌や同人ソフトと呼ばれるものも規制対象に入るようです」
さすがに長々と読むのに疲れたのだろうか、エリアの説明は段々大雑把なものになっていく。嘆息をつき、額に汗でこびり付いた艶やかな綺麗な黒髪を、手で櫛のように整える仕草を見せる。どことなく艶っぽくてフレンの心をドキッとさせた。
「…東京都以外も規制はあるのですか?」
エリアの後ろにいた将校の取り巻きの一人が問いかける。
「厄介なことにこれは同盟国である日本全土に影響を及ぼすようです。流通会社が都から圧力を受けて取り扱わなくなるため、販売もろくにされないでしょう…」
「間違いなく、これはインターネット上でも規制がかかって、私たちの存在が危ういですね…。総統閣下」
総統閣下の側に立つ側近のデュラハンは、歪な装飾が施された鎧から垣間見える、透き通ったような白い肌がこぼれる豊満な胸の谷間を見せながら目を閉じ重苦しく言う。
その言葉に将校たちの取り巻きの動揺した様子が顕著に表れる。髪を鷲頭かむように掻きあげ何やらブツブツと血の気の失せた顔で独り言を呟く者や、意味も無く頭に手をやり奇声を発しながら混乱する者、項垂れて打ちひしがれたように壁に背もたれている者など反応は様々だった。
総統閣下はというと、会議用テーブルに座り黙々とエリアの提出した報告書に目を通し、時折固く閉ざされた唇から唸るような声が漏れて明らかに尋常ではない乱心した様子で、さらに陰鬱とした空気にさらされるのだった。
「この中にはいないと思うが…漫画やアニメが世の人間達に悪影響を与えていると思案する者は去れ…」
その言葉に反応して、将校たちは次々と会議室から逃げるように去って行った。それは決して総統の言葉通りの想いを抱いているのではない。
今から始まる総統のお説教タイムから逃れるためである。
「わわぁ!!何だ?」
フレンは何の事だか分からずいきなりの状況に事態の収拾がつかなかった。それはフレンがこの会合に出席するのが初めてだからである。
(なんでいきなり…)
フレンの疑問をよそに総統閣下のお怒りのお言葉が始まる。
「馬鹿かお前らは、漫画やアニメ見て犯罪やろうとかぬかすような人間私は見たことがないぞ!」
「よく考えろ!そんなことやって性犯罪が減ると本当に思っているのか!?」
総統閣下は口を捲し立て唾でも吐くような勢いで、残ったいつもの人間達に怒鳴り散らすような声を上げ叫ぶ。
「そんなに影響力あるならとっくの昔に日本は性犯罪大国になっている、ろくに東京都の都議会連中は世界の犯罪統計なんて調べてないだろう!!」
言葉ひとつひとつが矢継ぎ早に、残った人間達の耳に刺さる様に入っていく。陸軍大将アヌビスのエリアは黙って総統閣下の言葉を頭の黒い耳を折って半分聞き流す。
エリアにとって、こんな条例の制定は馬鹿馬鹿しいにもほどがあった。こんな下らないことのために同盟国の日本の政治家たちは、真剣に議論しているのかと呆れて言葉も出なかった。
(全くもって滑稽だ…)
「くそ!!何でこんな条例を可決させたんだ、日本の愚民どもは!!これでは俺の大好きな魔物娘の魔女タンをペロペロできない、他のドワーフやサハギンちゃん達をオカズに出来ない…何という拷問だぁ!!」
総統閣下の前で、光で金ぴかにてかるほどの禿げ頭を真っ赤にして頭を抱える。顔の老けた男、陸軍元帥のヴィンセント=カイデルは幼女好きのきわめて変態ロ○コンだった。その禿げ頭と四十代ともとられるような老けた容姿は、染み一つない威厳を兼ね備えた軍服を脱ぎ捨て普段着にでもなれば、ただの変態親父に見えそうにもなかった。
「あの未発達な感じがいいんだ。まだ熟していない青い果実の様に苦いけど、それが癖になっていく…あの素直で無垢な眼差しでこちらを見る姿が…あぁ、たまらない、たまらないよぉ〜」
カイデルは、陸軍トップの威厳もへったくれもない非常に満たされたような笑みを浮かべクルクルと何事かを呟きながらその場で体を意味も無く回っていた。
(ウプッ…下呂が出る…)
フレンは口元を押さえ青ざめた表情で膝折その場で吐くような仕草を見せる。それはフレンだけでなく上司のエリアも総統閣下も側近のデュラハンも右に同じだった。
「…こんな糞変態ロ○コン野郎がいるから、こっちまで規制の嵐がかかったじゃないか。日本の糞愚民どもがぁ〜!俺の大好きな魔物娘のシービショップさんのあの母なる海の様に優しいあの胸の中に飛び込んで、キャッキャウフフできないじゃないか!それに癒し系の天使のような包容力を持つあのホルスタウロスやお美しい嗜虐的な笑みを浮かべるラミア様のお顔が見れなくなるなんて…。あっ、今の俺は死んだに等しい…」
エリアと同じ同僚の陸軍大将ヴィンセント=ガーランドルフは、ムンクの叫びのような顔をしながら口元をワナワナと震わせながら女性の胸の良さを熱く語っている。
「男は皆胸が好きなんだ…『おっぱい、ぷる〜ん、ぷるん』が大好きなんだよ。そんなことに理由なんているか、男が持つ三大欲求は右におっぱい左におっぱいそして最後に真ん中におっぱいなんだよ!!」←(これは一部の言葉です)
訳が分からない…。
フレンは茫然と立ちすくむ。エリアというと腫れ物に触るかのように、そっと自分の胸を触りながら表情を曇らせ悲しげに溜息をついていた。それを見たフレンは『大丈夫ですよ!胸が少しちっちゃい位で世の中生きていけないわけないですから!!それに…僕は胸が小さいほうが好みですから、エリア大将のこと嫌いじゃないですよ』と言いかけたがやめた。それは言おうとした刹那、エリアがフレンのことをどす黒いオーラを放ちながら睨みつけていたからだった。
「『おっぱい、ぷる〜ん、ぷるん』私のセリフなのに…」と総統閣下から小さく言葉が漏れたのに気付いたがフレンは無視した。
ちなみにガーランドルフはカイデルと兄弟で弟にあたる。二人は何時も好みでいがみ合い、結局軍の階級の差でいつも兄であるカイデルが言い争いで最後に『陸軍元帥である俺に逆らうのか?この愚鈍の弟よ』と脅しをかけて終わる。
(結局弟も弟か…何でうちの軍隊のトップは並んでおかしな連中ばかりなんだ…)
フレンとエリアは二人揃ってこめかみ辺りを強く抑えながら、苦虫を噛むような表情を造り溜息をつく。
「おい、この変態禿げロ○コンがぁ!ちょっとお前面貸せ!!」
「おい、兄に対して何という口のきき方だ!それに変態禿げロ○コンだぁ?てめぇはあんなブヨブヨした無駄な脂肪ぶら下げた物が好きなのか?あんなもん年取ったら凋んで張りが無くなって気持ち悪いのなんの!!あんなもの女なんかに必要のないステータスDA☆あんな腐った婆なんて死んでも抱きたくない」
「何だと、そんなの年を取るから仕方のないことなんだよ。そんなことよりてめぇは糞餓鬼の尻ばっか見て欲情しているのか?馬鹿じゃねえのか、いやお前は馬鹿だよ!あんな色気も糞もない貧相な体つき見たってたたねぇんだよ!!あのおっぱい搾っても母乳が出ないんだよ!俺は母乳大好きなんだよ、あれこそ女性の象徴だろうが!?あぁ?」
世にも奇妙な兄弟喧嘩が始まり先ほどまで物々しかった雰囲気の会議室はどこへやら、自分の性癖を語りに語る変態集会のように奇妙な熱の入った物議がそこに醸し出されていた。
蚊帳の外からそれを聴く将校達は皆呆れかえり茫然としていた。
「うっ…うっ、なんでこんなことに…」
将校の一人であるサキュバスの魔物娘は泣きに泣き崩れる。さっきまでの真面目な展開はどこへ行ったのかよ、と突っ込みを入れたいのにこんな意味不明な展開でどうにもならないと泣き崩れていたのだった。
「いや泣くんじゃない、私だって泣きたいよ…」
隣の男性将校はサキュバスを慰めるどころかもらい泣きをしてしまう。その連鎖はあっという間に広がっていき大合唱をするかのようにすすり泣きが廊下に響いていく…。
「ちくしょぉぉめぇええ!このア ン ポ ン タ ン共私の話を聞けぇー!!」
秩序をなくし混沌とする中、総統閣下の張りある一喝した声が会議室中に響き、誰もが総統閣下に注目し始める。ヴィンセント兄弟はお互いの胸倉を掴み合い殴り合うことをやめる。
「真面目に話に戻るぞ。この話を掘り下げると、この条例推進の中心にいる石○という都知事は漫画を読んだことのないそうじゃないか!ということはだ…読んでもないくせにどうしてそんな不健全な本があるということが分かるんだ?読んだこともない奴に害も糞もへったくれもない!!」
総統閣下は言葉を少し詰まらせるも再び話を始める。
「この男だけじゃない、他の推進連中は一体何をしているんだ!?少しは学のある連中かと思ったら、こんなくだらないことを延々と真剣に何故議論しているんだ?こいつ等は本当に大学卒業しているのか、自分達がしていることがどんだけ阿呆のことしているのか分からないほど頭腐っているのか?」
「しかし、未成年向けにしてはやけに過激すぎる漫画があるのは事実です」
エリアは反論者のあえて立ち位置につき、公平さに欠けぬよう総統閣下に食ってかかる。総統閣下のお言葉にはエリアも同意はする、しかしこの場に面子があまりにも偏り過ぎているためことがあらぬ方向へと暴走する恐れのある。過激な勇み足が破滅を導く。
それに人を腐すようなことを言えば逆効果だ。
「だったらそんな物一目につくような所に置いてるんじゃない、未成年どもが買えないようにきっちりと店側や出版社に指導すればいい話だ!!いや、もうすでに出版社たちも東京都もそうならないようにしているかもしれないが…」
それでも現状過激と呼んでもおかしくないような漫画もある事実。十字架を背負うかのような重圧が体を締め付けていく。
「それにこんな曖昧な対象の捉え方じゃ、どの漫画もアニメも壊滅だ!集○社や小○館や講○社なんかの大手の出版社はすべて反対している。大手じゃない出版社たちは声を上げようとしても、東京都からの圧力がかかりだんまりを決め込む始末。ネット上じゃ規制の嵐だ。そうすればエリア君やこのデュラハン君の存在も消える。しかし気になることがある…」
総統閣下はそこで言葉を切り、横にピチッと纏めた髪を激しく振り乱しかなり疲れたような表情を浮かべている。そしてまた椅子の上に派手に座る。傍で寡黙しているデュラハンは気を利かし、会議室の隅に行きそこで茶を沸かし総統閣下の元へと戻ってくる。
「すまないな、デュラハン」
総統閣下だけでなく、お盆にはフレン達の分の茶の入った紙コップがあった。
「お熱いのでお気をつけて」
彼女は淡泊な表情で短く言葉を切るとすぐに総統閣下の側につく。
「すみません…」
「すまんな…」
「面目ない」
「…ありがとう」
お茶での一服時間が始まる。そうすると不思議と煮詰まって煙を上げる頭が、自然と涼しく冷えていく。あぁ、何ともいい気持ち良さに一同は…とても眠くなっていくが、まだ積もる話は終わってはない。
「何故小説やテレビが規制されていないんだ、都知事は昔過激な小説書いて世間からひんしゅくを買ったそうではない、それに映像化もされて。そんな奴が偉そうに大口を叩くとはな…、同盟国日本はおかしな国だな(笑)」
しみじみと語る総統閣下の瞳に光は灯っていない。
「誰ものほほんとしていて条例の意味を全く分かっていない、一般の下衆野郎どもには反吐が出る話ですね総統閣下。テレビで偉そうに専門家気取っているかのような糞タレントがほざいてる姿を見て激しく憤りに駆られる同志達も多いでしょう」
「カイデル元帥、そのような汚らわしいお言葉で語るのをおやめください。むしろそんなことをしては逆効果です、お気持ちは分かりますが相手に生意気な未熟者だと思われるのが関の山です」
エリアは口調を優しく諭すようにカイデルを宥める。それは母親のようにも見える。
「しかし、日本の同志達から寄せられるテレビに対する苦情。馬鹿な企画をして笑いを取るような低俗なバラエティー番組、大して面白くも無いのにスタッフが笑って身内だけで盛り上がる痛々しい番組。読むよりも視認するテレビの方が逆に規制されるべきじゃないのでは?
14歳が妊娠するとかいうドラマなんて放映したくらいだし、9時の某サスペンス劇場も殺人事件だらけで暴力表現モロそのままですし…。AV(アダルトビデオ)やエロ本雑誌、あれこそは本当にいいのかよ、あんな萎えるような女の顔や体ばかり見ると気分が糞になる…。そしてそんな女の尻を追っかけているような糞野郎どもにも反吐が出る。(A○B?なんですかそれ、おいしいの?)
何か古くからある存続メディアばかりが得するようなことばかり…もしかして連中グルになって視聴率のために偏向報道垂れ流して…世論を形成して」
「憶測ばかりで物を語ってはいけません、ガーランドルフ大将」
エリアに強く言われガーランドルフは押し黙るしかなかった。それは彼女の言うとおりだったからだ、はっきりとした根拠はないし自分の個人感情が入り乱れている。そんな物意見ではなく妄想とまで言われ嘲笑されるだけだ。
「エリア君、突然すまないが君にどうか見てもらいたい物がある」
いきなり総統閣下はエリアに話を振る。総統閣下は自身の着る軍服の懐からある一枚のブロマイドの写真を取り出す。
「そっ、それは俺のバフォ様のブロマイド!昨日目を血走りにして探していて見つからなかったのに…。総統閣下何故貴方がこれをお持ちに…!?」
(おい…仕事しろよ)
フレンとエリアは溜息が無くなることはない。今度は胃のあたりがキシキシと穴が開いてくるような感覚がする。
「…このバフォメットのブロマイドがどうかなされたのですか?総統閣下」
エリアの問いに総統閣下は、答えることなく黙ってそのブロマイドをいきなり破り捨て始めた。傍からあの変態ロリコン陸軍元帥から、耳を刺すような不快な悲鳴が聞こえたがフレン達は無視を貫く。(うおぉぉぉ…いわぁーく!!)
「…このように紙や写真の物は、簡単に破ったり燃やしたり捨てたりすれば人には無害だ。ゲームの画面も消してしまえば人に無害。原本があれば幾らでも複製できるし生産もできる…。それにこれはある意味、世の我らの同志達の持て余す性欲を抑制し処理してくれる。云わば我々のような変人を、表の世界で全うに健全にしてくれる優れものだ…。こんなもの犯そうとしてもできないし、そんなことは誰もしないだろう。何せこれを見るだけでもう我々は満足なのだから…。いや、それでしか我々は満足できないんだ!
現実の女性達は…絵が描かれた紙や写真やゲーム画面のキャラの様に簡単に破ったり燃やしたり消したりのようなことしても、元に戻ることはあるのか?ないだろう、生きているのだから!
なら何故連中は現実の女性達を守ろうとしないんだ、こんな薄っぺらの紙の上の線で出来ている生きてない物を守ろうとするんだ。こんなもの規制して守ってどうするんだ…こんなもの白く汚れたっていいだろう…」
総統閣下は終始泣き崩れるようなか細い声を上げる。言葉は何を言っているのか分からず支離滅裂としていた。だがしかし、誰も総統閣下に意見する者はいなかった。総統閣下が何を言いたいのかが何となく分かるような気がしたからである。
「…結局、これは青少年自身の問題ですよね。それに悪いことしてはいけませんよ、と学校が子供たちにしっかりと先導しなければいけないことだと思いますが…一番は親が正しいことを子に教えれるのかということですよね?きっと…。
ここの賛成推進しているPTAは、どうやら規制することで子供を守れると思っているのでしょうか?それは教育から逃げているだけ、一種の育児放棄ですよ。
やはり教会の連中もこれに加担しているとは…他人に押し付けるようなことするなんて、聖職者として有るまじき自身が信じる神を冒涜する背信行為では?狂信者と蔑まれる理由も分からなくもありませんね、この連中を見ていると。これを見ているとますます魔物娘達(エリア大将)と楽しく過ごせればそれでいいです。
東京都の都議会はもし規制し犯罪が抑制されず増えてしまった場合、被害者の遺族たちにどう言い訳をするのでしょうか?僕には民主主義を逸脱し、我が国の同盟国日本の領土である尖○諸島や○島、北○領土などをある意味侵略行為をしている連中と同じだと…もがもが何をするんですか?エリア大将!!」
「これ以上はまずい(政治ネタをやり過ぎ)、やめろ」
フレンはいきなり口元を、エリアのプニプニとした肉球で押さえつけられる。それは苦しく感じたが、どこか心地よく気持ちがよかった。背中のあたりにエリアの大きくもないし小さくも無い非常に形の良い美しいある物が当たって、フレンの脳内はまるで蕩けたような甘いピンク色が広がっている。
(いい匂い…エリア大将の香水の匂いがぁ…当たってる、当たってるよぉ〜)
「しかしそれはどうこう言ったって日本国の国民達が一致団結しなければ意味がないのでは…それに私達には日本国の国籍ないのですし、蚊帳の外の人間が言ったって日本の政府達が『内政干渉だ』と都合よく一点張りしてくるのが関の山なのでは…」
すかさず総統補佐のデュラハンはボソリと独り言のように呟く。
「まっ、今の日本の政権は、総理大臣は無能で健○症を患っている健○長官が影で牛耳っている腰抜け政権だそうだ。そして長官が大好きな○国に左に回ってワンワン吠えている忠犬ハ○公ときてる…」
「もうやめてくださいカイデル元帥。そんなこと言ったら大変です(作者が)」
「だがその政権は最後まで規制に反対したそうだが、そんなことしても国民は誰も付いてこないでしょう、我が同志達も同じ意見で。失政続きでインターネット上では連中を支持する人間はほとんどいないというのが現状。どうせはした金の様に雀の涙ほどもないような票集めだとか、乗せられるとでも思っているのか、と言って嘲笑っていると…。
今の時代に規制なんて…ダ サ イ し!!」
ガーランドルフは捨て台詞の様に吐き捨てると、まだ熱が籠った茶を一気に飲み干した後顔を真っ赤にして手足をばたつかせている。その姿はどこかの漫画のギャグシーンの様で滑稽に見えた。
「総統閣下、情報部からの伝達です。どうやら…」
デュラハンは手に何枚かの紙を手にして総統閣下へと渡す。
そしてそれを総統閣下は素早く目を通していき、そして目を大きく見開き驚嘆した。
「…スターリンめ、どうやら嫁のメデューサを助けるために日本を攻撃するそうだぁ…」
(えっ…?)
「まさか…スターリンはツンデレが好みなのか…」
ヴィンセント兄弟は間抜け顔で口を開きかなり場違いなことを言っていた。
(気にするとこそこですか!?)
フレンとエリアは一緒に突っ込む。
「えっと、どうやらソ連側は上記の理由のため停戦を協定したいとの申し出でして…」
読み上げるデュラハンの声は明らかに呆れかえって溜息が洩れそうだった。
「よし決めた、スターリンと一緒に日本を攻める!!」
総統閣下はいきなり目を光らせ無茶苦茶な宣言をする。それにヴィンセント兄弟達は感極まり賞賛の嵐をおこしている。
「さすが、総統閣下!これで俺のシービショップさんが助かる!!」
「さすが、総統閣下!これで俺の魔女タンハアハアできる!!」
(どうしてこうなった…もう軍隊に弾薬も何もかも底をついているのに…)
フレンとエリアとデュラハンは互いに頭を抱えあった。
11/02/10 22:30更新 / 墓守の末裔