連載小説
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重 ーかさなるー
「いけそうか?」

「うーん、柔らかくなってるみたいではあるんですけどぉ……」


一仕事終えて砂中に身を潜める、ラムと名付けられたとあるサンドウォームの口の中。そこでは人型をしたそのサンドウォームの本体と彼女の名付け親であるテザがある物と睨みあっていた。


「やっぱり、服じゃないと上手く溶けませんねぇー……」

「……ん、いや、だいぶ脆くなってるからこれなら多分無理矢理壊せる。ちょっと離れててくれ」

「ほ、ほんとに大丈夫ですかぁ?怪我しないでくださいねー……?」


心配そうにしながらもその場を少し離れるラムを他所に、テザはそれと向き合う。彼女の目の前に置かれているのは木箱、先程の襲撃でラムが手に入れた物で大きさは以前ラムがテザと一緒に飲み込んだ、今はもう跡形もない袋の三倍以上はあろうかという大物である。
ガッチリと釘が打ち付けられている頑丈な箱で、釘抜きなんて気の利いた物があるはずもないラムの口内で二人は一時愕然としたが、無限に湧き出るサンドウォームの粘液を木箱自体に染み込ませることで木材が柔らかくなって壊せるようになるのではないかというテザが思い付いた妙案を現在実行中なのであった。
テザが粘液まみれになった木箱を軽く指で押すと押した方向に少し木が軋む。時間という概念が彼女の中から無くなってしばらく経つが、それでもかなりの長時間と思える間、木箱をラムの粘液に浸した甲斐があったというものだ。後はこの箱の中身が、今二人が必要としている物であるのを祈るだけ。

箱を壊すのはテザの役目である。常時全身から粘液を分泌しているラムの摩擦係数ゼロの拳は木箱に一切ダメージを与えられず、なんならたとえ普通に開く木箱であったとしても蓋の僅かな取っ掛かりに手を引っ掛けてそれを開くという動作すら彼女には出来るか怪しい。

テザは足場の悪い柔らかな床をしっかりと踏みしめ、深呼吸をして拳を作った右手を高く挙げる。
そして──。


「はぁアァっっっッッ!!」


雄たけびと共に目にも止まらぬ速さで一直線に真下へ振り下ろされた拳は狙った部分に命中して、同時に少し湿った破裂音がその空間に響いた。
テザは手元を眺める。自分の拳の下には衝撃に耐えかねて見事にひしゃげて凹んだ木材のひび割れがあった。
割れた木の破片を剥ぎ取るように無理矢理取り除くと遂にその中身が露になる。どうやら衝撃で中身の物がが破損したということも無いようでテザはほっと一息ついた。


「だっ、だだだ、大丈夫ですかぁ!?すごい音してましたよぉ!?」

「あぁ、中身は無事だ。我ながら上手く外側だけ壊せた」

「違いますよぉ!!テザさんのお手々ですぅ!!怪我してませんかぁ!?」


動揺したラムが破壊された木箱には目もくれずテザの元へと近付いて、打ち付けた衝撃でヒリヒリと熱を持つその右手を両の手の平で包み込む。見たところ怪我はしていなかったが痛くないと言えば嘘になってしまうので、テザは自分の右手を包む二つの手を左手で優しく撫でて素直にラムの心配を受け取ったことを彼女に示した。


「大丈夫だ、ありがとうラム。それよりも、これ。見てみろ」


テザがラムの両手から離した左手を木箱に空いた穴に突っ込んで次々に中身を取り出し、並べていく。
そこには魚の干物や南蛮漬け、ソーセージにハム、そしてチーズ、さらには調味料や香辛料、ラムの好きそうな果実や野菜のシロップ漬け、氷砂糖と言うのだろうか、テザが見たことも無いほどの大きな粒の砂糖に至るまで、様々な食糧が入っていたのだった。これだけあれば二人で食べても当分は飢えることは無いだろう。この箱を荷物としてどこかに運んでいたのか、それとも砂漠を渡る食料だったのかは分からないがラムはかなりの大当たりを引いたと言えるだろう。テザは自らが並べた食糧達を見て満足げに笑った。

そして、その箱の中でもテザが特に歓喜したのが。


「これは……っ、酒!!でかしたぞラム!!今日は宴だ、宴!!」

「わー?」


丸い瓶を箱から取り出したテザは片手で器用にその瓶の蓋を開けて一瞬匂いを確認する。そしてすぐ蓋を閉め、珍しく興奮を露にして未だに隣で手を握っているラムの頭をグシャグシャと撫で回した。当のラム本人はよく分からないがテザが喜んでいるので何か良い物があったのだろうとにこやかに笑っている。

その後、箱の中身の確認を終えた二人は今日食べる物を適当にいくつか並べて残りをまた箱に仕舞い、二人の食事が始まった。木箱の中には先程取り出した物を含め同じ酒瓶が三本、違う形の酒瓶の、おそらく違う種類であろう酒も同じくらいの本数ずつ入っており、しばらくは酒にも困ることも無い様子である。


「テザさん、これなんて書いてあるんですかぁ?」


ラムが中央に置かれた酒瓶を手に取ってラベルを見ながら問いかけた。テザが彼女からそれをもらい受け改めてそれを確認するとクスリと笑みを溢し、その後堪えきれないように笑い出した。


「くふ、アハハ。これはな、ラム。『ラム』って書いてあるんだ。お前とお揃いだな、ハハハ」

「わぁ、そんな飲み物があるんですねぇー。確かラムは羊さんのお肉のことでしたよねぇ、じゃあこれは羊さんの飲み物ですかぁ?」

「アハハハハ!違う違う!ラム酒っていう種類の酒があるんだよ……酒って分かるか?まぁそういう種類の飲み物があるんだが、その中にも原料とか製法の違いで色々種類があってな……ラム酒は……麦……いや、トウモロコシ……芋……?……違うな、なんだっけ……忘れた、まぁいいや」


そう言いながらテザはコップとして使っている瓶に琥珀色の液体を流し込む。その液体を興味津々に眺めるラムにテザは半分ほど液体を注いだコップを差し出して言った。


「飲むか?」

「いいんですかぁ?」

「勿論。今日の功労者だからな。先に飲んでくれ」

「じゃあ、遠慮なく……わぁ、なんだか不思議な香りですねー。いただきまぁす」


つい先程まで『酒』という概念すらなかったラムはその液体を一口で煽り、一気に飲み干してしまう。テザが「あ」と声をあげるもすでにコップは既に空になっており、ラムはふぅと一息ついてそれを床に置いた。


「なんだかー、甘いような、でも苦いようなぁ、不思議な味でしたぁ」

「あー……不味くはなかったか?」

「あ、はい。美味しかったですー」

「そうか。ラムは結構イケるクチかもな。先に言っておけば良かったが実はこういう酒はさっきみたいにあんまり一気に飲む物じゃないんだ」

「そうなんですねー」


そんなことを話しつつテザはコップに再び琥珀色の液体を注ぎ、今度は自らの口許に運び、静かに一口含む。
甘い香りが口の中から鼻孔に抜け、その後に仄かな苦味が舌の上に訪れる。
美味だが、かなり度数の強い酒のようでテザは先程かなりの量を一気に飲み下したラムの身体を案じた。人間とは根本的に構造の異なる生物であるがそれでも少し心配である。


「……ふぅ、こんな感じで少しずつ飲むものなんだ、基本は」

「わぁー、なんだかかっこいいですー」

「まぁ、別に絶対にこうしなきゃいけないってわけでもないんだが……ラムがさっきやったみたいな飲み方は勿体ないから止めること」

「はぁーい」


テザのレクチャーに間延びしたラムの声が応える。普段から割とこういう口調なので彼女が酔っているかどうかは判断できないが、にっこりと微笑むラムの眼差しが心なしかいつもよりも少し蕩けているようにテザには見えたのだった。

そうして二人だけの宴は進んだ。
途中までは一つのコップを二人で使っていたが、残り僅かだった野菜の酢漬けの瓶が空いてからはラムに今まで使っていたコップを譲り、テザは新しくその瓶をコップとして使い始めた。
二人が自身のコップを持ってから、酒は飛ぶように無くなっていき、テザがかなり飲んでしまったと少しボンヤリとする頭で自覚する頃には酒瓶に液体はもうあまり残っていないのだった。


「てざさぁーん、もう一本あけますかぁー?」


丸い酒瓶を振って残量を確認していたテザの耳にドロドロに融けた呂律の声が届く。
声のした方を見るとラムが穴の開いた木箱に近寄り、新しい酒瓶を持ち出していた。未開封の酒瓶の蓋は固く閉じられているため粘液の滴るラムの手では上手く開くことはできない。自制があまり得意でないラムを放っておくと一人ですべての酒を飲み干しかねないのでテザはそれに感謝するのであった。

「い、いや。今日はもうやめとく。流石にちょっと調子乗って飲みすぎた」

「そうですかぁ?じゃあ、わたし一人でぇ──」

「ま、待て。ラムも今日はもうやめとけ。さっきも言っただろ、あんまり一気に飲むものじゃないって」

「えぇー!?いやですぅー!もっと飲むんですぅー!」


ラムは頬を膨らませると新しい酒瓶を抱きかかえて駄々をこねる子供のようにゴロゴロとそこら中を転げまわる。子供のように、というか子供そのものである。
少し飲ませすぎたか、とテザは頭を掻いたが不思議とラムのその様子に不快感は覚えず、むしろ少し微笑ましいような、懐かしいような、温かな気持ちとなるのだった。
しばらく身を捩じり、そこら中を転がっていたラムだが疲れたのか静かになると身体を起こし、テザの方を見てニンマリと笑って口を開く。


「てざさん、なんだかうれしそうですー」

「ん?そうか?」

「はいぃ、にっこりしてましたからー」


反射的にテザはラムから目を逸らして自らの口許に手を当てる。確かに、自らの口角が上がっている感触があった。やはり少し飲みすぎたかもしれない。


「どうして隠すんですかぁー、見せてくださいよぉー」


目を逸らしたテザの視界に入る位置にラムが移動する。
自らの気の抜けた表情を見られ、なんとなく恥ずかしくなってしまったテザだがよく考えれば文字通り裸の付き合いをしている関係である。今更恥じらう必要はない、というよりも、もう遅い。
テザは口許から手を下ろし、話し始めた。


「……私、兄弟が三人いるんだが、両親も含めてまぁ揃いも揃って武闘派でな。ちっさい頃から戦闘漬けの喧嘩三昧で育って、お陰でよっぽどじゃない限り自分の身くらいは守れる力は付いたし、それが高じて傭兵なんて仕事もできてた。そんな生活だったから子供の頃から周りの人間はデリカシーの無いガサツな男ばっかでな。だからその……ラムを見てたら、もし姉妹とかいたらこんな感じだったのかな、なんてちょっと思ってな」

「ふふ、そうなんですねー」


ラムの表情は見ずに、テザは既に空になった少し酢の匂いが残るコップの縁を見ながら言う。顔は見えないはずなのに隣にいるラムが自分の横顔をじっと見つめていることが、何故だかわかった。


「……えへへ、てざさんはお姉ちゃんか妹、どっちがいいですかぁ?」

「……ん?……んー、まぁ、そうだな。私はどっちでもいいが、ラムは妹だな。お前はなんか、その、姉って感じではない」

「えぇー?そうですかぁ?じゃあ今日から私がてざさんの妹になりますっ、おねえちゃーんっ」


そんなことを言いながらラムが横からテザに抱き着く。ラムの豊満な胸がテザとの間で滑り、圧力で形を変えた。
首に腕を回して微笑むラムを見ながら何を食べたらこんなにも大きくなるのかと考えつつ、こういうのも案外悪い気分ではないと密かに思うテザは彼女の戯れにしばし付き合うことにした。ラムが持っている粘液でベトベトになった未開封の酒瓶を取って彼女の手の届かない位置へ移動させる。


「今日はもう酒は終わりだ。姉の言うことは素直に聞くもんだぞ」

「えー……お姉ちゃんのケチぃ……」


ラムは口を尖らせて文句を垂れるがテザに回した腕を解く様子はなく、寧ろ腕にさらに力を込めて二人の肌が密着する面積をさらに増やしていた。
酒のせいだろうか。ラムの身体がいつもより火照り、体温が少し高い気がする。テザは心地よい人肌の温もりを感じつつ、空いている手をラムの頭の上に置いて撫で回した。


「ぁ、ふ……えへへ」


ラムが普段よりも数倍蕩けた笑みをテザに向ける。テザもそれに応えるように微笑み、ラムの頭を撫でていた手を顔の形に沿って降ろし彼女の頬に添えた。

熱い。
粘液に塗れていてもその細かさが判別できるほどのキメを持ったラムの柔らかな肌は本当に酒だけでここまで温度が変わるのかと思うほど熱を持っている。その熱は頬だけでなく胸、腕、腹、太腿から触れた部分を介してテザの身体にじんわりと伝わり、先程飲んだ酒のように全身を回る。

ふと、テザの鼻の奥を何かの香りが擽った。
ラム酒に似ているような気もするがもっと芳醇で、甘美で、熟成された濃厚な匂い。
ひょっとして目を離した隙にラムが新しい酒瓶を開けてしまったのかとも考えたが、先程からテザに腕を絡ませ片時も目を逸らすことなくその瞳を見つめている彼女にそんなことはできないはずだ。


「ふふふ……」


妖しく笑うラムの熱い息がテザの耳を優しく撫でる。甘く濃厚な香りはより一層強くなって嗅覚と理性をゆっくりと侵していることに、テザはまだ気づいていない。ラムの右手が首から離れてテザの身体を上から撫でるように滑らせ、触れた箇所に熱い軌跡を残す。頬、首筋、胸、脇腹と順番に温かい粘液がべっとりと塗り込まれ、そこからまた、濃厚な香りが漂った。

これは、まさか、この香りはラムの粘液から出ているのか。

その考えに至って、頻りに自分の身体を撫でるラムから一旦離れようとするテザだが酔った所為か手足が言うことを聞かず、なんとか少し腰を浮かしたところでラムがその身体に寄り掛かって、結局そのまま二人とも仲良く倒れこんでしまった。
仰向けに倒れたテザ。その上には上気した顔のラムが馬乗りでテザの上半身に寝そべるような体勢になって床に片手を着く。テザは目と鼻の先にある、目尻の下がったラムの緋色の濡れた瞳の奥の自分の姿を眺めた。


「……ラ、ラム?」

「……うふふ、おねえちゃん、かわいい……」


明らかに様子がおかしい。やはり飲ませすぎたか。
テザが窘めようと口を開きかけた瞬間、ラムが片手を着いたまま上体を少し起こしてテザを見下ろす。
反対側の手にはテザが先程残量を確認した酒瓶。蓋は空いている。


「……まだ残ってますよぉ……一緒に飲みましょうかぁ……」


そう言うとラムは瓶に残った酒を一気に煽り、そして酒を口に含んだままテザと口付けを交わした。


「なにし、っ!?ん、んっ!んぅ!」

「ん……ん、むぅ、んん、んふ……んぅ」


突然の接吻に抵抗することもままならず、困惑の呻き声を上げることしかできないテザの唇をラムの舌が素早く割り開いて咥内を蹂躙していくとともに、自らの唾液と口に含んだ酒を流し込んだ。自分の舌にラムの長く柔らかな舌が絡みつく未知の感覚に翻弄されるテザは強制的に流し込まれた濃厚な液体を口の中に押し留めておくことができずに、遂にはそれを全て飲み下してしまう。
テザの喉を焼くその液体は彼女が先程まで飲んでいた酒と同じ物のはずだが、鼻へと抜ける香りには先程まではなかった熟れすぎた果実のような臭気があり、その密度の高い匂いは彼女の嗅覚までをも侵食していった。


「んん!!ん!ん、んぅっ、む……ん……ん、く……ん……」

「んふ、ん……む、じゅる、ん、む、ぁ、ふ、む……ん……」


甘い、ひたすらに甘い匂いと感触がテザの理性にジワジワとヒビを入れていく。流し込まれた液体をテザが全て飲み干しても密着する二つの唇は離れることはなく、ラムはその空間の隅々までを自らの舌に覚えさせていくようにゆっくりと時間をかけて、歯茎の隙間や奥歯の溝に至るまで丁寧に舌を這わせ始めた。
テザはなけなしの理性でなんとか抵抗しようと同じように舌を使って、我が物顔で自らの口の中を這い回る異物を押しだそうとするが、ラムにしてみれば、そんな力ない抵抗は嬉しそうに舌を絡ませようとしているようにしか感じられず、更に動きが激しくなったラムの舌にテザの口内は再び掻き回される。


「んっ……ん、ぁ、む……んぅ……ふ、ぅ、んん……」

「ん……!?んん、ん、むぅ、ん、ぁ、むっ、ぅ!う……んん……」


二人が唇を重ねてどのくらい経っただろうか。何分もまだ経過していない、きちんと時間を計れば数十秒ほどの間の出来事だが、口を完全に塞がれ自由に息を吸うこともできず、意識が散漫になっていくテザにはこの時間が無限に感じられた。
一瞬だけ、二人の口が離れ、その隙にテザは大きく口を開けて肺に空気を取り込むがラムが再びその口を塞ぎ、舌を差し込んで、絡ませ合う。


「ん……ふ、んっ、ん、じゅる、むぅ、ん、ふ」

「んっ、ぷぁ、あ、んっ、んん、む、んんっ、ん、む」

「んんむ、ちゅる、っん、ちゅ……ん……んん……ん……」

「ん、むぅ、う……んむ、ん、んふ、む……ふ……む……んん……ちゅぱ」


そして、ようやく二つの唇が離れそれ自体が交尾であるかのような、二人の長い接吻が終わる。
ゆっくりと距離を離していく二人の間には粘ついた唾液が別れを惜しむように橋を架け、やがてそれは重力にしたがって仰向けで寝そべるテザの口許に滴り落ちた。


「ん……ぷは……ふぅ……」

「ん、っは、ぁ……は、ぁ……は……ぁ……ぁ、ふ……ぅ、う」


やっとまともに呼吸が出来るようになったテザは再び肺に空気を取り入れなんとか息を整えようとするが、彼女の火照った身体は彼女自身の意思に反して時折小さく跳ねて落ち着くことを許さない。口許に落ちた二人の唾液と仄かに酒の混じった雫をテザの舌が浚ったが、思考を取りまとめることで精一杯の彼女は自分が無意識に行った卑しい仕草にすら気付くことはなかった。


「はぁ、はぁ、は、ぁ、う、ん……っは、は、ぁ」

「……んふふ、キスしただけなのに……おかおとろとろで……とぉってもえっち……かわいい……」

「は、ぁ……ぁ……?ら、ラム、なんで、こんなこと」

「なんでってぇ……もちろん、きもちいいからにきまってるでしょぉ……?」


蕩ける声でそう言い放つラムの顔が再びテザへと近づく。また口を塞がれると思ったテザは反射的に唇を結び身構えるが、その予想に反してラムの唇はテザの側頭部へと寄せられた。


「おねえちゃんも、きもちよかったでしょ……?いっぱい舌、からませてくれてたもんねー……えへへぇ……」


ラムがテザの耳許で聞いている者の脳まで溶かしてしまいそうな声色に熱い吐息を交ぜて、ボソボソと静かに囁く。
ラムの『きもちいい』という言葉がテザの中で先程まで自分を襲っていた未知の刺激と縫い合わされ、それが快感というものであったと完全に理解してしまう。一旦その味を知ったテザの本能は中毒者が薬物を求めるかの如くそれを激しく欲し始めるが、もはや風前の灯火である彼女の理性がこのまま進むと戻れなくなるぞと警鐘を鳴らす。相反する二つの思いがテザの中をぐるぐると廻っている所に、とどめの一声が浴びせられた。


「きもちいいの、がまんしなくていいからね」


再び静かに囁いたラムの言葉はテザの鼓膜で増幅され、残り僅かな理性を散らしていく。
やっと理解できた暴力的な快感に翻弄されるテザの葛藤を知ってか知らずか、ラムはすぐ近くにあるテザの耳を口に含み、舌とたっぷりの唾液で揉み込んだ。


「はぁむっ、んむ、んむ、ん、ぁんむっ、んっ、んん……んふ、ん、んむぅ」

「っ、はぁっ!?ひっ、ぃ、ん、んっ、く、ぅ、う、はひ、ぃあ、や、やめ、ぇうっ、ぁ」

「ん、ちゅう……じゅる、じゅるる、じゅるるるる、ん、ちゅ、ちゅぱ、あむ、むぐ、んっむ、んん、む、んふ」

「いひゃ、ぁ……?……っ、ぁ、ぁあ!すわな、い、でぇっ、っくぅうぅ……!……っ、は、はぁ、あっぅ、っ、ぃ、はひ、は、みみ、かむなぁ、ぁ、あ……っあぁ」


先程の濃厚な口付けとは種類の違う、周囲の音を取り込む敏感な器官に直接刺激を与えられ、淫らな水音と共に直に身体にぶちこまれる快楽にテザは身を震わせ手足を藻掻かせた。ラムの舌が耳の窪みをなぞり孔に入ろうとするのも、耳たぶを唇で吸われるのも、耳自体に歯を立てられ甘く咀嚼されるのも、あらゆる刺激が快感に置き換えられ彼女の脳に火花を散らす。
テザは自分が発しているとは思えないほどの高く情けない声が漏れ出す口をなんとか閉じようと奮闘するも、その努力は口を離したラムの一言で塵と消えた。


「ん、ぷは……もっと、おねえちゃんのかわいいこえ、ききたいなぁ……」


甘くねだるその言葉はテザの脳に最も優先される事として認識され、自制や羞恥、常識といった概念を塗りつぶして全てを桃色に染めた。


「っぁ、はぁ、はぁ、は、ぁ……ら、ラム……」

「ふふ、なぁに……?」

「……もっと、もっと、して」


ラムは満足気に笑って再びテザの耳を口に含み、反対側の耳に粘液の滴る片手を添えて手持ち無沙汰な逆の手でテザの控えめな主張のある胸部を撫で始める。
三点から快楽を流し込まれ、もう閉じることもできないテザの口は途切れ途切れの甲高い嬌声を発した。


「んっ、んん、む、ぅ、ぁん、ん、む、っは、ちゅっ、ちゅ、ちゅ、ぅ、はぁぐ、む、ん……んふふ」

「あっ、ぁ、やぁ、あっ!ぅ、は、ぁ、だ、め、ぇっ、あっ、ぅ、あぁっ、あんっ、ひゃぁ、ひっ」

「はむ、んん、ん、ぅ、じゅ、じゅる、じゅるるるる、じゅる……れろぉ、むぅ……ちゅ」

「はぁ、あっぁ、んっぅうう、やっ、ぁ、ひゃっ、ふぁあああっ!そ、それぇ、らめっ、は、ああぁっ!……は……は、ぁ……ぁんっ」


テザの片耳をラムの舌が撫で、唇が食み、吸われ、反対側の耳を細く柔らかな手指が優しく握りこむ。両耳からの変則的な刺激にテザは為す術なく身を捩り喘ぐことしかできず、それに加えラムの片方の手が自分の控えめな胸を愛でる動作が溶けるような悦楽を与えた。


「ちゅ、ちゅぅ……っ、ぷは……ふふふ」

「んっ、ぁ、は、ぁ……ひゃ……は、ふぅ……はぁ……」

「おみみ、もうぐちゃぐちゃだねー……じゃあつぎはー……んふふ」


胸に添えられていたラムの片手が腹を撫で、さらにその下へと向かう。そしてその手がテザの股座まで到達すると、既にドロドロに濡れている秘裂に指を這わせた。


「っひ」


新たな刺激にまた甲高い声を上げるテザだが、ラムは彼女のその声と表情に快楽と期待以外の色が混じっているのを見逃さなかった。


「……てざさん?」

「……ふぇ?」

「こわいですか?」

「……え、あ、あの、いや」


強く否定したかった。しかし、テザはラムの問いかけにしどろもどろに言葉を濁すだけであった。

実はテザが誰かに身体を許すのは初めてではない。彼女がまだ傭兵になる前、少女と女性の境目あたりの年齢ながら既に暴れ馬であった頃、彼女に交際を申し込んだ奇特な青年がいた。異性は喧嘩相手であるという認識しかなかった当時の彼女は困惑しながらもその申し出を受け入れ、それからしばらく経ったある日、夜中に彼の家へと呼びだされて二人は交わった。
いくらテザが喧嘩馬鹿とはいえ最低限のそういったことに関する知識は持ち合わせていたため、朧げな知識に沿って彼と身体を重ねたのであるが、その行為は男性側がただ快楽を貪るだけの一方的なものだった。テザはその行為に痛みと苦しさしか与えられず、その苦痛は様々な物理的な痛みを味わったはずの彼女ですら涙を流してしまうほどのもので、結局、そのセックスは両者消化不良に終わってしまい、その後、男との関係も自然に無くなった。
その事が原因だったとは彼女自身思いたくはないが、その後のテザは以前より一層戦うことに執着するようになり気が付いた時には兄や父までをも打ち倒し、その身体一つで生活できてしまうほどの強さを手に入れていたのだった。

合意の上の事であり、集団で襲われ無理やり交わらされて処女を散らした、なんて悲惨な記憶では断じて無い。しかし、その思い出はテザにとって確かに苦いものであり、その後の彼女に無意識で他人を一定以上近寄らせないよう行動させるのだった。


「…………」


昔の苦い記憶が蘇ったテザは思わず黙り込んでしまう。その様子を見たラムは彼女の上体を抱き起して、真正面から抱き着いた。温かな、粘液の滴る豊満な身体がテザの上半身の前側にピタリと密着し、ラムの長い桃色の髪が背後に回って背中からテザを包み込む。


「っ、ぁ、ら、ラム……」

「だいじょうぶですよ、てざさん」

「ぁ、あの、わ、わたし」

「わたしは、てざさんにきもちいいことしかしませんから……わたしに、まかせて」


そう言って、ラムはテザの上半身を包みこんだまま、唇を重ねた。
快感を求め、互いの舌を貪る淫らなキスではなく、ただ触れ合うだけの軽い口付け。今のテザにはそれだけでも心が満たされる。


「ん……」

「ん、ぅ……」


テザはここでようやく自分が彼女に全てを預けたがっていることに気が付く。同性であるとか、そもそも種族が異なるとか、そんな柵を越えて自分を受け止めてくれるラムに、身も心も、全てを。
二人は唇を離して無言で互いの瞳を真っ直ぐ見つめ合った。もう見慣れている筈なのにラムの美しい顔からテザは目が離せず、見ているだけで恋を初めて知った少女のように頬が紅潮する。


「…………」

「…………」

「……ラム」

「……はぁい」

「いいよ、きて……私のこと、きもちよくして」


その言葉にラムは微笑みを返して、再び唇を重ねた。彼女の片方の手は先程愛でていた膨らみとは反対側の胸を撫で、逆の手は再びテザの秘裂へと向かう。


「んんぅ……んっ……んむ、ん……むぅ、ちゅ……ぷは」

「んっ、ん、んん、む、ん……っはぁ、ぁ、ふ、っ、ひぁ!そ、そんっ、な、むね、ばっか、なでて、やっぁ、なにが、い、いっ!?ぁっく、う、ああぁっ」

「とってもいいですよぉ、てざさんのおっぱい……ほどよいかたさでぇ……ちょうどいいおおきさでぇ……とってもかわいい……」

「は、ぁ、ふ、は、はは、そりゃ、そんな、でかいむねしてたら、さぞかし、うごき、づら、ぁ、ぁああっ!まっ、らむ、ちょっ、ま、やぁあっ!」


テザの局部に到達したラムの手がまた濡れる割れ目に指を這わせ、今度はそれを割り開いて中へと侵入していく。
自らの大事な部分に何かが押し入る感覚はそれまでの刺激とは比べ物にならないほどの快感をもたらし、テザの脊髄を貫いた。


「あ、あっ!ぁ、や、ぁ、だ、だめ、っ!ひぅ、これ、だめ、だってぇ、あぁっう」

「まだ、いりぐちですよぉ?それともぉ……ダメならここでおわりにしますかぁ?」

「や、あぁ、や、やぁっ!やだっ、いじわる、しないっ、ぁあっ、で、ぇっ、うぁん!」

「ふふ、そんなにかわいいこといわれたらぁ……わたしもガマンできなくなっちゃいますぉ……」


テザの言葉に全身を震わせてそう応えたラムの指が、柔らかな肉を掻き分けて更に奥へと進んでいく。その指がほんの少し進むたびにどんどん増加していく電撃のような悦楽はテザの脳をめった刺しにして『思考』という言葉にそのものすら液状化させて消し去った。


「ぅ、うぅぅ!あ、あっあっ、あ、ぁぁっ!っ、ひ、ぁ、あああぁっ!あ、う、うぅ、ふ、ぅっ」

「……ふぅ、これでぜんぶはいりましたぁ……てざさん、きもちいいですか?」

「ぅあ、ぁ、ぁ?ぁ、はいって、る、ぅ、らむの、ゆび、っあ、ぅ、きもち、ぃ、か、も、ぉっ、はぁっ」

「ふふ、はいっちゃいましたねぇ……きもちいいかも、ですかぁ……じゃあてざさんがちゃんと『きもちいい』っていってくれるまで、いっぱいきもちよくしてあげますねぇ」

「ぁう、ぇ、え……?」


ラムはそう言うが否や、テザの中に差し込んでいた指をゆっくりと引き抜いて、またゆっくりと侵入させる動作を繰り返す。同じように繰り返すわけではなく、その動きは繰り返す度に早さを増していき、突き入れられる指も時折曲がって壁を擦ったり、侵入する角度を変えたりとテザの女陰をラムの指が届く範囲で余すことなく責め立てた。


「あ、ぁっ、あ、ぁ、ぬいちゃ、や、ぁ、っっっあぅ!ぁ、ん、また、はいって、ぇ、ああぁ!ううぅ、っは」

「ふふふ……どんどん、はやくしていきますからぁ……ガマンしちゃダメですよぉ……」

「や、ぁっ、ふ、ま、まって、えっ、あああぁっ!!うぅっ、ふぁ、ぁ、ああぁ!!はぁっ、あ、や、やだ、おかしく、な、る、ぅううっ!!ふぁ、あああっ!!」

「ぁ……あ、はぁ、はぁ、ぁは、っん、てざさん、ステキですぅっ、とってもえっちですよぉっ、いまのカオぉ……っ」

「あ、あんっ、う、ぅんっ、ひっ、やぁ!!や、やら、みないでっ、はず、か、ああぁあっ!!っっくぅぅぅっ!!ふ、ぁ、ああぁ、っあぁ」

「ダメっ、ですよぉっ、そんなえっちでかわいいカオ、かくしちゃ、ダぁ、メ」


徐々に人の域を越えつつある快感にテザは翻弄されるばかりで既に紡ぐ言葉はまともな形を成しておらず、時折反射的に口をついて出る拒絶の声とは裏腹に筋肉が弛緩しきった腕は無意識にラムの身体を抱きしめて離れることを拒み、いつの間にか大きく開いていた脚はテザの意思ではなくラムの指の動きに合わせてピンと足先を伸ばしてビクビクと震える。
ラムの一方的な激しい指の動きがテザを善がらせているが、ラムもまたそんなテザを見るだけで隠しきれないほどの興奮を露わにしており、絡まりあう二人は互いに互いから生じる快楽を享受しあう永久機関と化していたのだった。


「はぁ、はぁ、ほら、てざさん、みて、わたしのむねと、てざさんのむね、ぴったりみっちゃくして、すりあわせたら、っぁん、は、ぁ、とっても、きもちい、い」

「ぁ、ぁ、ぁっあ、ぁ、あぅっ!あぁ、ぁっ、う、ぁ、わたし、も、きもち、いぃっ、ぁ、らむの、むねも、ゆびも、ぉ、きもち、いぃっ」

「っ、ぁ、は、ぁぁぁっ、ちゃんと、きもちいい、っていえましたね、んっ、ぅ、はぁっ」

「んっぁ、きも、ちいいっ、ん、もっと、もっと、さわっ、て、ぇ、ひぃあっ!あ、あ、あぁっ!!っうぁあっ、くっ、うぅっ!!」


ラムの容赦ない責めと互いに身体を使って粘液を塗り合い、擦り合わせ、共に性感を高め合う興奮に軽い絶頂を繰り返していたテザの身体がこれまで体験したことの無い巨大な絶頂の波を予感する。


「はぁ、は、ぁ?っ!?んっ、ぅんん!?っひ!!ぁ、やら、なんか、く、るぅっぅ!!りゃ、らむ、っぅ!!たすけ、ぇ、こわ、っい!?ぃっう、うぁっ!!」

「ふぅっ、ふぅ、はぁ、だいじょうぶ、ですよ、っ、それの、っぉ、あとはぁっ、ぁ、きもちいいのしかっ、っぅ、のこりません、から、ぁ」


そう言ってラムはテザと唇を重ねた。開きっぱなしのテザの口からラムを欲するように舌が伸びて二つの肉が絡まり合い、テザの上半身を包み込む柔らかな身体も舌の動きと連動するように更に激しく動き、それに合わせるように差し込まれた指の動きも激しさを増す。


「んむっ、ん、むぅんっ、ぁむ、じゅる、れろ、んっ、んんっ、んぐぅっ」

「むぅうううぅっ!?ん、んん!!んむっ、ん、むぅっ!!んっ、んんんん!?ん!!んんん!」


焦点の合わない虚ろな瞳で自らが何を見ているかすらも判断できないテザは涙を流して温かな快楽に浸かりながら、ドロドロになって言うことを聞かない両脚をラムの身体へと絡ませて彼女にその身を委ね、それを待った。

そして。


「っ、ぁ──」


頭が真っ白になって、どこかに飛んでいくような、浮き上がっていくような、身体がボンヤリとした幸福感に包まれる。ずっと、ずっと、ここに居たい。

しかし、テザがそれを感じたのは本当にほんの一瞬であった。


「〜〜〜〜〜〜っっっッッッ!?!?!?!?!?ぁ、ぁ、ぁっ、っ、っ〜〜〜〜ッ!!!!!!」


声にならない声が喉から絞り出すように漏れ、テザの全身に異様な力が入る。腕はそれまで抱いていたものを改めて力強く抱きしめ、背筋は針金でも差し込まれたように弓なりに反って戻らず、腰から下が完全に溶解したかのように感覚を失って、股座からちょろちょろと液体が流れだした。
テザが大きな絶頂に打ち震え、全身を痙攣させている最中もラムはそれまでの動きを止めることは無く、テザの身体にさらに快感を累積させていく。


「んっ、ん、んむぅっ、ん、んっ、ぷは、ぁっ、ぁ、んんっ」

「ん、む、はぁっ、ぁ、ぁ、ぁ、っ、ぁ、〜〜〜っ!!ぁ、はぁ、や、ぁ、ら、む、ぅっ、っ〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!ぁ、ぁっあ、あぁぁぁ〜〜〜〜っっっ!!」

「はぁ、ぁ、はぁ、んっ、ふ、んぁ、あぁっ、んぅっ」


一度達しても尚、淀みなく送られてくる快感にテザの身体は連鎖するように何度も爆発していき、その度に彼女の頭の中には火花が散り、雷が落ちて、溶けた金属を流し込まれたように熱くなった。
天国のような責め苦、地獄のような快楽に身体を囚われテザはもう何もできない。

そして、その絶頂が十回に達しようとした時、とうとうテザの脳は限界を超え、彼女の意識は唐突に闇へと吸い込まれたのだった。
22/01/31 22:55更新 / マルタンヤンマ
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