連載小説
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変 ーかわるー
暗い視界を開くと見覚えのある肉の天井が見えた。いつの間にか寝てしまっていたようで、テザは直前の記憶を掘り起こそうとするも上手く思い出すことはできない。

ええと、たしか、あれ。なにしてたんだっけ。

ラムが入手した箱の中に酒があったことに舞い上がって、かなりのペースで度数の高いその酒を飲んでしまったことは覚えているがその先が上手く思い出せない。飲みすぎた翌日はいつも鈍い頭痛に悩まされるが酒で記憶が飛ぶ質ではないので喉に魚の骨が刺さったような、何とも奇妙な感覚だった。

テザが少し頭を揺らして頭痛や嘔吐感が無いことを確認すると上体を起こして周囲を見わたす。彼女の傍らには俯いたラムが座っていた。


「おはよう、ラム」

「えっ、あ、ぅ、お、おはようございますぅー……」


テザが声をかけるとラムは明らかに挙動不審となって視線を右往左往させた後、再び俯いて言葉を返す。どうかしたのだろうかと首を傾げたテザはその時に初めて明確な異変に気付いた。
首を傾けた拍子に視界の隅に映った自らの前髪。黒に近い焦げ茶色だったはずのその髪は自分の見間違いでなければ見覚えのある桃色に変わっていた。目の前で俯く、ラムの髪と同じ桃色。
前髪を手で摘もうとしたところでその手も止まる。生まれつき少し浅黒く、日焼けによってさらに濃くなっていた褐色の肌は薄桃色に変わって粘液を滴らせていた。


「……これ」

「あ、あ、あの、ごめんなさいぃ……私、お酒飲みすぎて、押さえられなくなっちゃって……テザさんのこと、めちゃくちゃにしちゃってぇ……気が付いたら、テザさんの身体、そんなことに……ご、ごめなさぁぁぁいぃ!」


そこでテザは意識を手放す直前の狂乱の宴を思い出し、その記憶だけで散々掻き回された自らの秘裂が疼いてジワリと濡れるのを感じた。
テザは自らの下半身に視線を移す。肌の色は全身余すところなくラムとお揃いの薄桃色に置き換わっており、そこから粘液が滴っているのも同様である。
そして、自身の太ももから先は膝のあたりで一つに纏まり、さらに奥の暗がりへと向かう途中で同じようなもう一つの肉と合流して絡み合うように一本になって闇の中へと消えている。そのもう一本の先にいるのは、もちろんラムだ。


「……ラム、お前……」

「っ、ぐすっ、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい!!」

「……ん、まぁ、こっち向けよ」

「……ぅう……ぐしゅ……」


謝罪を繰り返すラムはテザの言葉に泣きべそをかきながら従い、恐る恐るテザと視線を合わせる。

すると、テザはラムと目を合わせた瞬間、頤に手を当てて唇を重ね、彼女の咥内に舌を差し込んだ。


「んっ!?ん、んん!!っぁは、て、テザしゃ、んむっ、うぅっ、ん、む、んぅ……ん、ちゅ、む」

「ん、んむ、む、はぁっ、っん、むぅ、ちゅ、ちゅる……れろ、んぅ、ぅ、んむ」


予想外のテザの接吻にラムの身体は急速に脱力していき、遂には舌を絡ませたまま床に押し倒される。二人はそのまま身体を密着させ隙間なく重ねていく。

テザは異様な空腹感に苛まれていた。しかし、今自分を襲う餓えは潤沢にある食糧をいくら食べても治まることは無いことを本能で理解する。空腹とは全く別物の灼けつくような飢えと渇き。
どのくらい前だったかの会話でラムが途中で切った言葉を思い出す。今のテザにはその時彼女が言おうとしていたであろうことが理解できた。


『そんなに甘いもんが好きなのか』

『そうですねー。でもやっぱり、一番好きなのはおと──』


男の、精。

テザは今、自分の身体がおかしくなりそうなほどにそれを求め、その衝動を発散させるようにラムと激しく舌を絡ませていた。きっとそれは彼女も同じだ。今ならわかる、ラムの好きなものが、嫌いなものが、感じていることが、内に燻る情欲が。


「ん、んむ……ぷは……はぁ……なぁ、ラム?」

「んっ、ん、っはぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はいぃ、なんですかぁ……?」

「……腹、減ったな」

「……んふふ、そうですねぇ、テザさんっ」


二人は一旦唇を離して、淫靡に歪む笑顔で互いに見つめ合った後、再び唇を重ねるのだった。


◇◇◇


天頂付近にある陽が燦燦と強烈な陽射しを注ぐ、とある砂漠地帯。
いつものように晴れ渡りどんどん気温が上がっていくその砂の大地にフラフラと覚束ない足取りで前に進む一つの影があった。
ボロボロの外套とも言えないボロ布に身を包んだ少年はとある国に捕虜として捕らえられた某国の兵士である。見張りの一瞬の隙をついて牢屋から脱出したはいいもの、国の中に居ればいずれは捕まり、良くてまた牢屋に逆戻り、最悪逃亡した捕虜兵の見せしめとして凄惨な死を迎えることは請け合いであることは分かり切っていたため少年はなんとかその国からも脱出し、今は砂と岩しかない砂漠を当てもなく歩いているのであった。危険な賭けではあるが牢屋の中で捕虜として飼いならされ無為な時間を過ごすくらいなら、彼は少しでも希望が見える方へと向かって行動したのである。

しかし、ほとんど着の身着のまま出てきたため砂漠を渡るための装備らしい装備もなく、食糧と水分も残り少ない。このまま砂漠の真ん中で力尽きるか、追っ手に捉えられるのが先かといった状況だ。


「……ん?なんだ、あれ」


少年が進行方向に何かを見つけて思わず呟く。少し歩くペースを速めてそれに近づくと明らかに岩などではない、人工物思われる物が二つ、そこで砂を被っていた。


「……こ、これは」


少年がやっとの思いでそこへたどり着き、落ちている物を拾い上げてその正体を確認する。
片方は望遠鏡。砂に塗れていたので中に砂粒が入りこんでいるんじゃないかと考え少年はその筒を覗いたが、筒によって丸く切り取られた視界は遠方の景色を鮮明に写した。
もう一つは刃が途中で湾曲し、折れ曲がったような形状をしている内反りの片手剣、いわゆるククリナイフである。誰がこんなところに落としたのかは分からないが、かなり丁寧に手入れされていた物らしく試しに身に纏う布切れの端にその刃を押し当ててみると何の抵抗もなくその部分は容易に寸断された。

少年は運良く手に入れた二つの物を軽く振って砂を払う。
強いて言うなら食べ物か水が欲しいところではあったがこの状況で遠くを確認できる手段が手に入り、装備が丸腰から片手でも振れる鋭利な刃物に変わったことはかなり大きい。
追手が来ても相手が気づく前に発見できるかもしれないし、刃物があれば何かと役に立つ。この砂漠で切り開いて食料として利用できそうなのは蛇とサソリくらいであろうか。

その少年がナイフを逆手に持って再び歩みを進めようとした、その時。

どこからか地鳴りが轟き、それはすぐに大きな揺れへと変わった。


「っ、うっ、わ、じ、地震!?」


少年が揺れに足を取られ、よろめき地面に手を着くと丁度彼の目の前で大きな砂埃が舞い上がって砂中から長い胴体を持つ巨大な異形が姿を現す。


「……ぁ、な、なんだ、これ」


少年が立ち上がることも忘れ、砂から突如顔を出した甲殻に覆われた巨大なミミズのような化け物を見上げていると、そのミミズの口と思しき部分が花のように開いて中を露わにした。


「……ぁ、ふ、はぁ、ふふ、おい、見ろラム。男だ。やっとだな……」

「ふふ、そうですねぇ、男の子ですねぇ……かわいいですー……」


異形の口の中から現れたのは二本の舌かと思いきや、二人の全裸の女。一人は肩には掛からないくらいの長さの髪で控えめな胸の気の強そうな女性。もう一人は腰の辺りよりもさらに下に伸びた長い髪で見たことも無いほど豊満な胸を持つ蕩けた表情の女性。
どちらも少年がこれまで会ったどんな女性よりも美しく、そして二人ともその美しい顔が情欲に染まり切っていると性経験の乏しい少年でも一瞬で分かる表情をしていた。


「な……な、なんだお前ら、やめろ!近づくな!」

「だ、大丈夫ですよぉ、怖くないからねー」

「おい暴れんなって、大人しくしてろ」


少年は突然現れた二人に狼狽えながらもなんとか立ち上がり先程入手したナイフを構える。
長髪の女性は武器を構えた少年を見て敵意が無いことを伝えつつ宥めるような言葉をかけたが、髪の短い女性は少年がその言葉を理解するよりも早く距離を詰めてナイフを持つ右手を拳で打ち上げて無力化し、その手を掴むと同時に後ろに回り込んで捻り上げ、同じように逆の手も素早く掴んで捻った。

明らかに何らかの戦闘経験のある、一切淀みのない動き。一体なんなんだこいつらは。

困惑する少年を他所に少年の背後で腕を拘束する女性は身体を密着させてさらに動きを抑えようとし、一方長髪の女性は見事な手際で少年を取り押さえたもう片方の女性に気の抜ける称賛と拍手を送っていた。


「わー、テザさんかっこいいですー」

「ったく、こんな危ないモン振り回しやがって。しかしやっぱこういう時にヌルヌルしてるのと足払いできないのは不便だな……ん?お、少年、良い物持ってるな。ラム、それ拾っといてくれ」

「っぁ、お、おい、なんだ、何するつもりだお前ら」


あっという間に逃げられなくなってしまった少年が声をあげる。自分を拘束した女性に塗れている粘液がたっぷりと身体に付着して身を捩れば抜け出せそうであるが、少年が身動ぎすればするほどその女性の柔らかな肌の質感が背中から伝わって力が抜けていくのだった。

取り落としたナイフを拾った長髪の女性は少年に目線の高さを合わせ真っ直ぐに瞳を見て言う。


「大丈夫ですよ。気持ちいいことしかしませんから」

「きも……ち……?」

「そうだな。まぁ、ナニするかは『ナカ』でじっくり教えてやる。ラム、ちょっとそっち持ってくれ」

「中って……」


その時、少年の頬に滴が落ちた。
雨。違うここは砂漠だ。恐る恐る彼は上を見上げる。
少年の頭上には巨大ミミズが口を開きグロテスクな内部を露わにしながら二人が獲物を連れて帰ってくるのを今か今かと待ち侘びていた。

そう、獲物。自分は今からこいつらに喰われるのだ。


「ぁ……ぁ、ぁ、や、誰か、たすっ、んっ、んむ!?ん、んんー!!んぐ、むーー!!」

「んむ、じゅるっ、む、んぅ、んん、んむ、じゅる、じゅるる」

「おい、持つのそこじゃないって……まぁ、それでいいか。刃物持ってるんだから気を付けろよ」

「んんぅー」


長髪の女性が少年の唇を貪りながらもう一方の女性へ目配せしたのを合図に、彼は彼女達に前後から抱きかかられるような体勢で三人ともその口の中へと吸い込まれていく。

そして三人が完全にその中へ入るとその甲殻に覆われた巨大なミミズは瞬時に口を閉じ、また砂の中へと消えていくのだった。
22/01/31 22:56更新 / マルタンヤンマ
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明けましておめでとうございます(30日遅れ)

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