変な人
「撃てえええ!!」
その村の朝はそんな雄叫びに目覚めさせられた。
ドドオンン! ドオン!
様々な魔力弾が放たれ、家屋を吹き飛ばしていく。
はためく旗は光の主神に属するエベナス教の御印。巨大な鷲が杉の枝を咥えている。
しかし、砲撃を受けている者達にそれを確認する余裕はない。
ある者にとっては甘い時間、ある者にとってはかけがえのない時間、またある者にとっては普通の、しかしかけがえのない今朝までの時間が中断させられたのだ。
もともと辺境であり都から外れた土地であるためか人影は少ない。それ故防備もままならない。そこを突かれたというべきか。
いや、それとも…単にそれが人ではなく『魔』に類する者達てあるためか。
ここはかつて宗教国家であったレスカティエ教国の辺境の土地であり、現在は魔界に属するレスカティエ教国の土地である。だが、宗教国家であろうが魔界であろうが、そこに住むものが人であろうが、魔の物であろうが今現在撃たれている由縁に関してはまったくの不当、と言うべきに他ならない。
否、その存在が不当なのか…。
煙と炎、魔力の残滓に煙る先から、様々な影が砲撃を掻い潜り森へと逃げ込んでいく。流石は魔族と言うべきか。
「グアッ!」
だが、今回ばかりは勝手が違った。
悲鳴をあげ倒れたのは若きインキュバス。その前には彼を一刀にして切り伏せた人間が立っている。その胸の鎧当に輝くのは黄金の錫杖。
宗教国家『ラクノチウン』
かつてのレスカティエも宗教国家であったが、そんな国であっても当時から比ることのできないほどの大国家であった。
このラクノチウン。レスカティエが位置する大陸とはかなり離れた大陸に『存在している。そのような遠方からわざわざ大国が来ているということは何を意味するか…。
襲撃された村は四方を森に囲まれているが、今やそこには様々な人間が魔族を待ち構えている。そう、人間は本格的に魔族を駆逐し始めたのだ。
あちらこちらから怒号と悲鳴が合わさる。
そんな中、数名の魔物達が都へと逃れるために包囲網を抜けようとしていた。
「ハア、ハア、皆、大丈夫か?」
先頭のインキュバスが口早に問いかけた。
「ああ、なんとか、後の奴らにも分かるように目印をつけるといた」
「そうか、ハア…ハア…、こっちの方角は都への道とは少しずれる。だがその分方位は薄いはずだ」
「ああ、だったらいいんだけどな」
「…クソッ、教会め!まさかいきなり奇襲とは…!」
「だがまだ運が良かった。子供達も結構連れて来れたし」
「ああ、大丈夫か?ミル?」
そうして後ろに負ぶっていたミミックを気遣うように言った。
「うん。大丈夫…。お兄ちゃんこそ平気…?重くない?」
「なあに、大丈夫だ。元々力強かったろ?今じゃあ魔族だからもっと強い」
「…うん」
「絶対に一人にしねえからな。安心しろ、いいな?」
「うん」
そうして周りの仲間や子供達にも元気付けようとした矢先、
ヒュッ
「ウ!」
「キャッ」
先程のインキュバスの腕に矢が当たり、同時に妹が転げ落ちた。
「ク」
「ウイム!」
横にいたアマゾネスが咄嗟にインキュバスを引き寄せそのまま走る。
「…ウ、あ、待てエマ!まだミルが!」
「知るか!今はお前のことだけを考えてるんだ!絶対離さないからな!」
「やめろ!エマ!」
「だめだ!お前は俺の夫だ!」
「おい!、ミルーー!ミルーー!」
「聞け、ミル!とにかく隠れろ!いいか!」
そうして残りの者達と共に森の奥へと消えていった。
ザッザッザ
「おい、逃げたぞ」
「まあいいだろう後続にも軍が来てるはずだ。まず俺らの足じゃあ敵わねえよ」
ウイム達が逃げた方角から違った場所から2人の兵が現れた。
「それもそうか」
「それよりも、さっきのミルだ」
「ああ、そうだな」
「たぶん恋人か家族に向けたはずだ。他の奴にも連絡して探せ」
「おう」
そうして2人は辺りをくまなく探しながら進んでいった。
「…イッ」
ミルは彼らが過ぎた茂みに隠れていた。子供であり、さらに小柄なのも助かってなんとか隠れられたのだ。
本心としてはここから離れたい模様だが体がうまく動けない様子である。
そうしたまま正午も過ぎ、辺りが少し静かになった。
といってもあちこちから残党狩りの声が聞こえてくる。
だがこのままここにいても拉致があかないと感じ取ったのか、おずおずとミルが這い出てきた。
そうして体の宝箱も出ると一目散に兄達が逃げた方向に駆け出した。
……どれくらい走ったろう。幼いながらも頭に描く地図は正確に叩き込んだはずだ。もうすぐで付くはずだ。そう木々の様子から確信したその時、
ガサガサガサ!
「ん」
一人の人間が現れた。
いや、ちょうど一直線上にいたために、見た。
そうしてお互いが確認しあい数秒が経ったか。
「やれやれ、こんな所でお会いできるとわな〜」
人間が口を開いた
その顔には楽しんでいるのか、呆れているのかよく分からない笑みが浮かんでいる。
「ちょうどいい、お前で試させてもらうか…」
「ヒッ!」
思わずミルは下がる。
何か感じる…。ミルはそう思った。
この人からは、何か巨大で、得体の知れない、それでいて強い気配が。
「クックックック。お前も感じるか、俺も感じるぜ〜」
そういいながらゆらりと体を動かす。
「ウッ」
ミルは思う。どうしよう、どうしよう!
「さあああて、そいじゃあいっちょ…、オグウ!」
「ヒッ!」
咄嗟にミルは目を瞑った。
・
・
・
が、何も来ない。
おそるおそる目を開けてみると、そこには…
「ウオオオ…、やっぱきやがったあああ、くそやろう!だからやめとけばよかったのに!4日経った牛肉なんて!俺は!余り物だからってなんで食べたんだあああああ!」
そんなことをいいながら腹を抱えてもだえ苦しんでいる。
…幼いミルにも分かった。
この人は…、おなかが痛いんだ。それもとてつもなく巨大で、得体の知れない、強い痛みを伴って。
「グ…グウウ…、おい、ガキいいいい!」
「ヒッ!…な、何です…か?」
反射的に答えてしまった。これから私はどうなるんだろう。
「なんか、紙…、持ってる?」
「…ヘッ?」
「さっきからよお、いろんな奴らに試しに聞いてんだよお!紙ねえかって!もうさ、なんて言われたか分かる!?ねえ!日ごろの鍛錬が足りないからだ、とか!私は魔の残党を狩りに行かねばならぬので、とか!?ふざけんじゃねえよ!こちとら胃の雑菌にやられそうなんだよ!4日目の牛肉にやられそうなんだよおおおおお!……あ…」
ひとしきり好き勝手言った人間は一度声を止めた。
そして弱弱しく…
「…紙、下さい」
なんともか細い声でいったのである。
それも両手は腹に当てた状態で土下座をしてまで。
ミルはちょうど宝箱にもよおし用の紙を持っていたので、相手が余りに哀れに見えたこともあり素直に近づいて紙を渡した。
すると人間はガバッとミルに…
「ヒッ!」
襲い掛かったと思いきや紙を引ったくりそのまま茂みの奥へとダッシュした。
「ウ、ウウ。ちくしょお!出ねええ…!ちくしょおこれいやなパターンの腹痛だあああ…」
どうやら格闘はまだまだ続くようである。
「あの…」
この子供、まだいたのかと思わず突っ込みたくなる。
「ぁ・・・ああん?」
「どうして草を使わないんですか?」
至極まともな意見である。
「…き…気分の問題…」
そんな問題で騒ぎを起こす奴は見捨てられても当然か。
子供であるが故にそう明確に考えられないがミルも違和感は持ったようである。
「あ、あの…それじゃあ、私…行きますね」
「おう!」
「ヒイッ!」
今度はまた何なのか。ミルは今度こそだめかと身構える。
「速く行け!もうそろそろ出そうだ!おおおおおオオオオ!」
「ハ…ハヒィッ!」
そうしてミルは一目散に駆け出していった。
森は予想通りやすぐに抜けられた。先程の場所から距離と言う距離もなかったほどだ。ここまで来れば人間もそうやすやすと入って来れない。
ミルが安堵に包まれて一息つこうとした頃、
「アアアアオオオウ!グレエエエエエイトゥゥ!!」
「ヒッ!…あれ?この声って…」
至福に包まれたなんともいえない安堵の声が森にこだました。
その村の朝はそんな雄叫びに目覚めさせられた。
ドドオンン! ドオン!
様々な魔力弾が放たれ、家屋を吹き飛ばしていく。
はためく旗は光の主神に属するエベナス教の御印。巨大な鷲が杉の枝を咥えている。
しかし、砲撃を受けている者達にそれを確認する余裕はない。
ある者にとっては甘い時間、ある者にとってはかけがえのない時間、またある者にとっては普通の、しかしかけがえのない今朝までの時間が中断させられたのだ。
もともと辺境であり都から外れた土地であるためか人影は少ない。それ故防備もままならない。そこを突かれたというべきか。
いや、それとも…単にそれが人ではなく『魔』に類する者達てあるためか。
ここはかつて宗教国家であったレスカティエ教国の辺境の土地であり、現在は魔界に属するレスカティエ教国の土地である。だが、宗教国家であろうが魔界であろうが、そこに住むものが人であろうが、魔の物であろうが今現在撃たれている由縁に関してはまったくの不当、と言うべきに他ならない。
否、その存在が不当なのか…。
煙と炎、魔力の残滓に煙る先から、様々な影が砲撃を掻い潜り森へと逃げ込んでいく。流石は魔族と言うべきか。
「グアッ!」
だが、今回ばかりは勝手が違った。
悲鳴をあげ倒れたのは若きインキュバス。その前には彼を一刀にして切り伏せた人間が立っている。その胸の鎧当に輝くのは黄金の錫杖。
宗教国家『ラクノチウン』
かつてのレスカティエも宗教国家であったが、そんな国であっても当時から比ることのできないほどの大国家であった。
このラクノチウン。レスカティエが位置する大陸とはかなり離れた大陸に『存在している。そのような遠方からわざわざ大国が来ているということは何を意味するか…。
襲撃された村は四方を森に囲まれているが、今やそこには様々な人間が魔族を待ち構えている。そう、人間は本格的に魔族を駆逐し始めたのだ。
あちらこちらから怒号と悲鳴が合わさる。
そんな中、数名の魔物達が都へと逃れるために包囲網を抜けようとしていた。
「ハア、ハア、皆、大丈夫か?」
先頭のインキュバスが口早に問いかけた。
「ああ、なんとか、後の奴らにも分かるように目印をつけるといた」
「そうか、ハア…ハア…、こっちの方角は都への道とは少しずれる。だがその分方位は薄いはずだ」
「ああ、だったらいいんだけどな」
「…クソッ、教会め!まさかいきなり奇襲とは…!」
「だがまだ運が良かった。子供達も結構連れて来れたし」
「ああ、大丈夫か?ミル?」
そうして後ろに負ぶっていたミミックを気遣うように言った。
「うん。大丈夫…。お兄ちゃんこそ平気…?重くない?」
「なあに、大丈夫だ。元々力強かったろ?今じゃあ魔族だからもっと強い」
「…うん」
「絶対に一人にしねえからな。安心しろ、いいな?」
「うん」
そうして周りの仲間や子供達にも元気付けようとした矢先、
ヒュッ
「ウ!」
「キャッ」
先程のインキュバスの腕に矢が当たり、同時に妹が転げ落ちた。
「ク」
「ウイム!」
横にいたアマゾネスが咄嗟にインキュバスを引き寄せそのまま走る。
「…ウ、あ、待てエマ!まだミルが!」
「知るか!今はお前のことだけを考えてるんだ!絶対離さないからな!」
「やめろ!エマ!」
「だめだ!お前は俺の夫だ!」
「おい!、ミルーー!ミルーー!」
「聞け、ミル!とにかく隠れろ!いいか!」
そうして残りの者達と共に森の奥へと消えていった。
ザッザッザ
「おい、逃げたぞ」
「まあいいだろう後続にも軍が来てるはずだ。まず俺らの足じゃあ敵わねえよ」
ウイム達が逃げた方角から違った場所から2人の兵が現れた。
「それもそうか」
「それよりも、さっきのミルだ」
「ああ、そうだな」
「たぶん恋人か家族に向けたはずだ。他の奴にも連絡して探せ」
「おう」
そうして2人は辺りをくまなく探しながら進んでいった。
「…イッ」
ミルは彼らが過ぎた茂みに隠れていた。子供であり、さらに小柄なのも助かってなんとか隠れられたのだ。
本心としてはここから離れたい模様だが体がうまく動けない様子である。
そうしたまま正午も過ぎ、辺りが少し静かになった。
といってもあちこちから残党狩りの声が聞こえてくる。
だがこのままここにいても拉致があかないと感じ取ったのか、おずおずとミルが這い出てきた。
そうして体の宝箱も出ると一目散に兄達が逃げた方向に駆け出した。
……どれくらい走ったろう。幼いながらも頭に描く地図は正確に叩き込んだはずだ。もうすぐで付くはずだ。そう木々の様子から確信したその時、
ガサガサガサ!
「ん」
一人の人間が現れた。
いや、ちょうど一直線上にいたために、見た。
そうしてお互いが確認しあい数秒が経ったか。
「やれやれ、こんな所でお会いできるとわな〜」
人間が口を開いた
その顔には楽しんでいるのか、呆れているのかよく分からない笑みが浮かんでいる。
「ちょうどいい、お前で試させてもらうか…」
「ヒッ!」
思わずミルは下がる。
何か感じる…。ミルはそう思った。
この人からは、何か巨大で、得体の知れない、それでいて強い気配が。
「クックックック。お前も感じるか、俺も感じるぜ〜」
そういいながらゆらりと体を動かす。
「ウッ」
ミルは思う。どうしよう、どうしよう!
「さあああて、そいじゃあいっちょ…、オグウ!」
「ヒッ!」
咄嗟にミルは目を瞑った。
・
・
・
が、何も来ない。
おそるおそる目を開けてみると、そこには…
「ウオオオ…、やっぱきやがったあああ、くそやろう!だからやめとけばよかったのに!4日経った牛肉なんて!俺は!余り物だからってなんで食べたんだあああああ!」
そんなことをいいながら腹を抱えてもだえ苦しんでいる。
…幼いミルにも分かった。
この人は…、おなかが痛いんだ。それもとてつもなく巨大で、得体の知れない、強い痛みを伴って。
「グ…グウウ…、おい、ガキいいいい!」
「ヒッ!…な、何です…か?」
反射的に答えてしまった。これから私はどうなるんだろう。
「なんか、紙…、持ってる?」
「…ヘッ?」
「さっきからよお、いろんな奴らに試しに聞いてんだよお!紙ねえかって!もうさ、なんて言われたか分かる!?ねえ!日ごろの鍛錬が足りないからだ、とか!私は魔の残党を狩りに行かねばならぬので、とか!?ふざけんじゃねえよ!こちとら胃の雑菌にやられそうなんだよ!4日目の牛肉にやられそうなんだよおおおおお!……あ…」
ひとしきり好き勝手言った人間は一度声を止めた。
そして弱弱しく…
「…紙、下さい」
なんともか細い声でいったのである。
それも両手は腹に当てた状態で土下座をしてまで。
ミルはちょうど宝箱にもよおし用の紙を持っていたので、相手が余りに哀れに見えたこともあり素直に近づいて紙を渡した。
すると人間はガバッとミルに…
「ヒッ!」
襲い掛かったと思いきや紙を引ったくりそのまま茂みの奥へとダッシュした。
「ウ、ウウ。ちくしょお!出ねええ…!ちくしょおこれいやなパターンの腹痛だあああ…」
どうやら格闘はまだまだ続くようである。
「あの…」
この子供、まだいたのかと思わず突っ込みたくなる。
「ぁ・・・ああん?」
「どうして草を使わないんですか?」
至極まともな意見である。
「…き…気分の問題…」
そんな問題で騒ぎを起こす奴は見捨てられても当然か。
子供であるが故にそう明確に考えられないがミルも違和感は持ったようである。
「あ、あの…それじゃあ、私…行きますね」
「おう!」
「ヒイッ!」
今度はまた何なのか。ミルは今度こそだめかと身構える。
「速く行け!もうそろそろ出そうだ!おおおおおオオオオ!」
「ハ…ハヒィッ!」
そうしてミルは一目散に駆け出していった。
森は予想通りやすぐに抜けられた。先程の場所から距離と言う距離もなかったほどだ。ここまで来れば人間もそうやすやすと入って来れない。
ミルが安堵に包まれて一息つこうとした頃、
「アアアアオオオウ!グレエエエエエイトゥゥ!!」
「ヒッ!…あれ?この声って…」
至福に包まれたなんともいえない安堵の声が森にこだました。
11/10/25 23:38更新 / KANZUS
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