読切小説
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三びきの山羊が、がらがらどーん!




ある北の国のおはなし。

その国には魔物たちがすみついた、高い高い山がありました。

山の魔物たちはおなかをすかせると、山をおりて里へと出向き、

里の男たちをはらいっぱい食べてまるまるふとって帰っていきました。


今日はさんびきの山羊たちが、里へおりようとしています。

大きい山羊を先頭に、後ろから中くらいの山羊、そして小さい山羊の三ひき。

大きい山羊が里へおりるたったひとつの道、がけにかかる橋にさしかかったところ。



「なんだあ、おめえは!」



橋のまんなかで、たくましいトロールがとおせんぼしています。

大きい山羊はどすんどすんと、恐れることなく近づいていきました。



「おまえこそなんだ、そこをどけ!」

「ここはおらあのなわばりだ! おめさこそどっかいけ!」

「できん相談だ。 ケガする前にどいたほうがいいぞ・・・!」

「これいじょう近づくなら、おめさ食ってやるぞお!」

「食う? あたしをか? ・・・上等だ!」




キマイラ「トロールごときがいい度胸だ! 相手になってやるぞ!」




ボ ウ ッ !


「・・・あたしの炎がきかない?!」

「おらあは大地の子だあ! 火も毒も魔法も、おらにはきかね!」

「なら力くらべだ!」

「おおっ、かかってこいや!」


ガ シ ッ !!


「・・・なんてバカぢからだ・・・!」

「どうしたあ、そんだけかあ? ふふふ、おめさ、うまそうだあ」

「・・・なめるなあっ!」

「わああ?!」




がらがらがら・・・

 ど ー ん 。




トロールは橋から投げ落とされて、ばたんきゅうと倒れてしまいました。

気がついたら、大きな山羊が馬乗りになっています。



「まだやるか」

「ま、まいった。 降参だあ・・・」

「おまえは、よく闘った。 気に入ったよ」

「うう・・・ くやしい、くやしいだよ・・・」





(次に来るやつを、食ってやれ)

(わたしより小さいから、お前なら負けない)





トロールは橋の上で、次にくる山羊を待ちかまえました。

しばらく待っていると、橋の向こうからひょこひょこと、中くらいの山羊がやってきます。



「待てえっ、そこの山羊っ!」

「きゃあ?!」



トロールのすがたをみた中くらいの山羊は、びっくりして尻もちをついてしまいます。

トロールはのっしのっしと、山羊に近づいていきました。



「おらあはいま、はらがぺっこぺこだあ! おとなしく食われろ!」

「食われろって・・・ あ、あたしを食べる気?!」

「おうよ! おめさ、食うてやるぞお!」

「そ、それじゃ・・・」





サテュロス「それじゃ、あたしと勝負してください!」





「勝負だあ? おめえがか。 はっは、言っとくが、おらには笛も歌もきかんぞお」

「そ、それじゃ、これならどうですか!」

「・・・酒? 飲みくらべかあ。 おっし、ええだぞ」

「・・・負けませんよ?」

「おう。おらあ、いっぺん酒ってのを、のんでみたかっただあ」




ごく、ごく。 ごく、ごく。




「・・・ぷ、ぷはっ」

「おう、おめさ、ちっこいのになかなか強えだなあ」

「ま、まだまだっ・・・」

「はっは、相手が悪かったなあ。おらあには酒も毒も・・・ あれ?」

「・・・トロールさん?」

「あ、あれれ、あたまが、ぽわーん・・・」




がらがらがら・・・

 ど ーーー ん 。




トロールはひっくりかえって、橋から落っこちてしまいました。

橋の上から中くらいの山羊が、心配そうに見ています。



「大丈夫? ごめんなさい、じゃあ通りますね」

「な、なんでだあ・・・ おらには、毒も、酒も・・・」

「これ、『愛』の酒なんです。 愛で酔わない魔物はいませんよ」

「そ、そんなあ・・・」





(つぎの山羊さんは、とーってもちっちゃいですから)

(おいしく食べちゃってくださいね)





トロールは今度という今度こそはと、橋の上で身がまえました。

しばらく待っていると、ちいさなちいさな山羊が、ちょこちょことやってきました。



「食ってやるぞ、食ってやるぞお!!」



トロールはぐわあっと、小さな山羊につかみかかります。

小さな山羊はにっこにっこ笑って、とことことトロールに近づいていきました。





バフォメット「うふふふふ。 あそぼ、お姉ちゃん」











「うあああああんっ! こんなの、こんなの、はじめてだよお〜〜〜っ!」






がらがらがら・・・


ど ー ー ー ー ー ー ー ー ん。




小さな山羊は魔法も何もつかわず、手とおくちだけでトロールをめろめろにしちゃいました。

橋からひっくりかえって落っこちたトロールは、小さな山羊にぺこぺこあやまっていました。



「・・・あんたがサバトの山羊さまだって知ってたら、ケンカなんか売らなかっただよ・・・」

「あなたは、里に男の人を食べに行かないの?」

「おらあ、大地の子だ。ついこないだ、ここで生まれたんだ」

「うん」

「おら、まだ、ここから動けないだよ・・・」

「そうだったんだ・・・」



三びきの山羊は、里でいっぱい男たちを食べ、まるまるつやつやむちむちと太りました。

そして帰りは三ひきいっしょに、橋までやってきました。



「むぐ、はふ、ばく・・・ う、うめ、うんめえ」

「はっは、いい食べっぷりだ。 遠慮するな、もっと食えよ」



大きな山羊は、トロールにたくさんの食べものと飲みものをふるまってくれました。

トロールのおなかはぱんぱんにふくれて、いっぱいになりました。



「こ、これが、おらあか・・・?」

「あなたはもともと、とてもきれいなんですよ。 はい、これが仕上げ」



中くらいの山羊はトロールの髪をゆって、きれいな服に着がえさせてくれました。

そして『初恋』の酒をふるまってくれました。

あまずっぱくて、なんだか胸がどきどきしてきます。



「どうかな? おたがい、ぴったりタイプだと思うんだけど」

「う、うわあ、すっげ・・・」

「・・・美しい」



小さな山羊は、とてもりっぱないでたちの戦士さまをトロールの前に連れてきてくれました。

さっきもらったお酒がからだじゅうにまわってきて、顔があつくなってきます。



「お、おらあなんかで、ほんとうにええだか」

「あなたこそ、はじめてが俺でいいのか。 大地の姫君よ」

「ひ、ひめぎみなんて、そんな・・・」




「よろしく、おねがい、しますだあ」





がらがらがら・・・

 ど ー ん ♥





こうしてトロールは、生まれてはじめて、おなかも胸もいっぱいになりました。

そして戦士さまをそのままだんなさまにして、三ひきの山羊といっしょになかよく暮らしましたとさ。



めでたしめでたし。



17/11/05 10:39更新 / 一太郎

■作者メッセージ
勢いで押しきってみた。 濃厚に百合百合させたかったけど自重。

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