前編
それはまだ暖かさが残っていた時期だった。
木々が生い茂る森の中、そこを歩く者が一人。
歳は20代後半、手ぶらで胸当てと肩当てを身に着けた軽装の男性だった。
ふと、男性は歩みを止めると口を開いた。
「おかしいな? 何で俺、こんな所で迷ってんだ?」
本日5回目の台詞である。
きょろきょろと顔を動かしてみるが見えてくるのは樹木の大群だけ。
一向に隣町の景色が見えてこなかった。
「このままじゃ遅れっちまうな。どうすっかな〜」
短髪の黒髪を頭をかきむしりながら困り果てていた。
その顔は勇ましいながらも青臭さを残していた彼の名はアトラタ。
反魔物主義の騎士隊に所属している訓練生である。
基礎体力及び知識は平凡だが、それでも訓練生だからそれなりに力はある方だ。
彼は今、自分が住んでいる町から隣町にある訓練場まで通っている最中なのだ。
その道中で何度もこの森の中を歩いていて、もう頭の中にマップが描かれていたはずなのに何故か今日だけこうして道に迷ってしまった。
歩けど歩けど、抜け出せない。
何分もこの森で迷っている気がした。
心なしか森の中は薄暗く時折、カラスの鳴き声が聞こえてくる。
何か不吉な予感がしたが持ち前の前向きな思考ですぐにかき消した。
「いやいや、変な考えはよそう」
真っすぐ行けば出られるはずだ。
そう思い続けていたから遅れて指導官に叱られるなどというネガティブな思考を忘れる事が出来た。
再びアトラタはその足を動かし始めた。
絶対に抜け出せるはずだ。
そう思いながら。
♢♢♢♢♢♢♢♢
暫く歩き続けると、目の前に一軒の小屋を見つけた。
昔ながらの屋根が藁、外壁が木材で出来ていた。
やや古ぼけている家だが決して寂れた印象はしない。
見ると屋根の煙突から煙が噴き出ている。
人がいるという証だ。
この際だ、住んでいるであろう人間に道を尋ねてみようとアトラタは考えた。
家の前に近づき、扉の前に立つとアトラタはノックした。
『コン、コン』
暫くすると鈍い金属音と共に扉が開いた。
「はあい、お待たせ〜」
清楚だがどこか媚びている様な声と共に出てきたのは一人の女性だった。
そこでアトラタは息を呑んだ。
思わず見とれてしまいそうな顔の美しさだった。
一見すれば儚い印象を持たれそうな乳白色の顔たち。
だがそれが逆に真珠の様な美しさと眩さを放っている。
チークや口紅といった余計な化粧はしていなかったのも美しさの要因だった。
瞳の色は金でさらさらとした銀色の髪が腰辺りまで伸びていた。
女性らしい細身としなやかさで、余計な脂肪が一切ない体つき。
袖のない黒を基調としたノースリーブ、下のミニスカートと一体化しており扇状的な印象を与える服を着ていた。
黒のブーツに黒のタイツは膝辺りまで覆われ、中でも一番興味を引いたのは彼女の、その両腕で抱えられるくらいの豊かな胸。
そこにぴっちりと張り付いていた服地、しかし胸全体を覆っている訳ではなく真横から覗けばその胸が素肌を晒していたのだ。
アトラタは本能的にその美貌と妖艶さに見とれ、思わず呆然としてしまった。
慌てて視線を彼女の目線の方に戻し、一つ咳払いをした。
「す、すいません。どうやら道に迷っちゃったようで。その、道を教えていただければ、と」
元々礼儀さやら敬語とか無縁だったアトラタは慣れない丁寧語を使って尋ねるのは精神的に苦痛であった。
決して彼は粗暴とか野蛮な性格とかでなく、ただ気兼ねに声をかけたいだけなのだ。
堅苦しい敬語など抜きで、身分とか関係なく他人と話したい性分なのだ。
されどアトラタには出来ない、正確に言えば出来そうにないのだ。
いないのは分かっているのだが親からの叱責が、周囲からの目が光っているとなれば。
「あらあら、迷っちゃたの?」
「は、はい・・・」
「それは大変。歩き回って疲れているでしょう? 良かったら上がって」
「え? いや、自分はここで道を教えてくれれば」
そもそも一人暮らしの女性の元に男性が上がり込むのは色々不味いであろうとアトラタは考えていたが。
「道は教えるわ。その為に上がってほしいの」
何だそういう事だったかとアトラタは納得した。
こうして自分が迷ったのだから、かなり複雑な道筋なのだろう。
そうなれば立ち話ではなく、家の中でゆっくりと教えなければならなければならないと彼女は考えたのだ。
だからアトラタは彼女に勧められるがまま、家に上がり込んだ。
「さあ、上がって」
「お、お邪魔致します・・」
そう言いアトラタは入り込むと、中は結構広かった。
整理された本棚に、クローゼット、テーブルに椅子と一通り生活必需品が揃っている。
一見すれば規則正しい生活を送ってそうな人間の家だが窓の片隅には枯れて茶色に染まった植物が一つ。
そして彼女一人が寝るには大きすぎる程のベッドが不自然であった。
彼女はテーブルの椅子を引いてアトラタをそこに座るよう促した。
一礼した後、アトラタはゆっくりとその椅子に座り込んだ。
「一人で、住んでいるんですか? 大変です、よね」
たどたどしい敬語で質問したのだから彼女は違和感を感じて首を傾げるのではとアトラタは考えていた。
しかし彼女はアトラタの不慣れな敬語に気にせず、話に応じてくれた。
「いえ、好んで住んでるの。人が多い場所は苦手だから」
そう言い彼女は台所と思わしき場所へと向かい、ポットを手に取る。
「お茶でいいかしら?」
「え? いや自分は道を、教えてもらうだけでいいので」
この時アトラタはまだ彼女に対して警戒していた。
何しろいきなり見ず知らずの男が訪ねてきたのだから、普通の女性だったら自分を怪しがって家に入れるというのはまず考えられない選択だろう。
にも関わらず自分を家に招き入れ、あまつさえこんな見知らぬ自分にお茶を出すというのは人が良すぎるのではないか。
だからアトラタはそれを断ろうとしたのだ。
「あら? 折角、人からのご好意を断るのは無礼じゃないかしら? 時にはお言葉に甘えて受け取るのも礼儀というものよ」
そう指摘されたアトラタは少しだけ迷った。
確かに言われてみればそうかも知れない。
自分の都合一つで彼女の機嫌を損ねてしまっているというのは少々無礼だし、我がままというものではないだろうか。
時に好意を甘んじて受けるのも礼儀の一つだろう。
それに絶対に飲んではいけないというこれと言った理由もなかった。
ならば、と考え直したアトラタは。
「じゃ、・・・一杯だけお願いします」
好意に甘えるが自制という言葉を忘れずに、彼女へ頼んだ。
それを聞いた彼女は少しだけ微笑むと。
「任せて〜」
そう言い彼女は台所らしき場所からコップを二つ取り出した。
次にポットに水を注いでコンロの上に置き、火を付けると。
数秒もしないうちにポットから湯気が出てきた。
その光景にアトラタは少しだけ驚いた。
何しろ沸騰するには数分もかかるものだから、こんなすぐにお湯が沸くなどありえない。
「もう沸いたんです、か?」
「魔法のポットよ。数秒すればすぐに沸騰する代物だから」
それを聞いてアトラタは何の疑問も持たず納得してしまった。
(こんな便利な物があるんだな、俺も今度探してみようか)
そう思ってしまうほどアトラタは単純だった。
そして彼女はコップを二つ取り出し、ポットの中身を注いでいく。
コップの方を見ればマグカップで一方は水色、もう一方は桃色をしていた。
その色にアトラタは少しだけ気になった。
何だか男女のカップルが使いそうなマグカップだったから。
その時は邪推だなと思っていたが。
「はい、どうぞ」
彼女が水色のマグカップを差し出した。
中身を見れば緑色に染まった液体でまったりとした臭いが鼻を刺激した。
「いただき、ます」
お辞儀をしてアトラタはその縁(ふち)に口を付け、一口飲んだ。
味わい深い渋みが口に広がり、アトラタの心を落ち着かせる。
「自己紹介がまだだったわね。フェーレースよ」
「俺・・じゃなかった、自分はアトラタと言います。隣町にある騎士団の訓練生として通っています」
「未来の勇者様って所なのかしら? 立派ね」
「まさか、騎士辺りがいい所ですよ。自分はそこまで」
「じゃあ騎士を目指しているの? だったら腕は相当なものよ。自分に自信を持ちなさい」
「自信・・・そう、ですかね?」
「そうよ。人間なんて自信一つで変われるものなんだから」
そう言いフェーレースが朗らかな笑顔を見せれば、アトラタも釣られて笑みを見せた。
「そう言ってくれるなら、ありがたいですよ。自分、成績とかはあんまり」
「成績なんて人の勝手よ。個人は個人。自分の好きなように生きるのもまた良いものよ」
「好きなようにですか。してみたいですね」
あははっ、と少しだけ気の緩んだ笑みを見せるとフェーレースも笑みを返した。
こうして会話は弾み、アトラタはすっかり彼女に対する警戒心を解いていた。
何故か彼女と話していると口調が砕けて穏やかな気持ちになれた。
加えて訓練場で男ばかり接し、女とはあまり接する機会がなかったアトラタにとって彼女の存在はまるで砂漠の中に見つけたオアシスの様に癒されるのだ。
ありのままの自分になれて気持ちが楽になる。
だからこの時、アトラタは思ったのだ。
(こんな人が俺の傍にいてくれたらな・・・)
そんな夢心地な時間を過ごしたのだから、アトラタは自分が今遅れているという状況を忘れそうになった。
「・・なるほどねぇ。今は訓練生なの?」
「だからこうして訓練を受けに・・」
そこでアトラタは気づいた。
自分は今訓練場へと向かっている最中だという事に。
「ああ、すいません。自分はもういかないと・・・」
そう言いアトラタは椅子を引いて立ち上がろうとした。
「ちょっと待って」
その台詞と同時にフェーレースは右手を挙げた。
彼を引き留めるか、あるいはもっと別の何かを伝える為に。
「・・・ごめんなさいね。私、貴方に伝えなきゃいけない事が二つあるの」
「何を言っているんですか? 伝えなきゃいけない事って。・・・ああ、道ですか? そうですね。出来れば教えてっ・」
「ううん。その必要はもうなくなったの。貴方にとっては・・・」
それを聞いたアトラタの顔は怪訝で、不思議そうな顔をした。
「必要ないって?」
「貴方は道に迷ったって言ったけど、それは間違い。貴方は私の手によって迷い込んでしまったの」
彼女の手によって自分は迷い込んだ?
いや、自分が勝手に迷ってしまったというのに何故そんな事を。
アトラタの頭が追い付かなかった。
だからアトラタは彼女の台詞に口を挟まず、ただただ首を傾げていた。
「それともう一つ。さっき好んで住んでるって言ったけど・・・訂正するわ。もう一人じゃなくなったから全然さみしくないの」
ますます頭が追い付かなかった。
一人じゃなくなったからさみしくない?
彼女が迷い込ませた事ともう一人じゃないという事、それら全ては一体どういう事なのかとアトラタは尋ねようとした時。
―――不意に自身の体がよろめいた。
「あれ? 体が・・・」
凄く重い。
足を動かそうとしても上がらない。
指先も痺れているようだ。
次第に体の感覚が薄れ、床へと倒れこんだ。
立ち上がろうにも体に力が入らない。
口を動かし喋ろうとするも、言葉が出ない。
薄れゆく意識の中、アトラタは見た。
フェーレースの表情を。
頬が赤く火照り、口元をニヤリと尖らせ、悦楽の眼差しで自身を見つめていたのだ。
まるで大好きな獲物を捕まえたかのような、そんな喜びを隠しきれていない表情だった。
「そう、もう一人じゃないのぉ・・・」
その表情を見届けた後、アトラタの意識は闇に包まれた。
♢♢♢♢♢♢♢♢
次に目を覚ましたアトラタは朦朧としていた。
だが無意識で体を動かそうとする条件反射というものはある。
だからアトラタは体を動かそうとしたが。
「あ、あれ?」
自身の体が動けない。
両手両足の手首に鎖やらロープとかが巻かれているという感覚があるのだが、目で見てもその手首には何も巻かれていない。
けれど巻かれているという感覚はあるし、体は動けずまるで体を十字架に張り付けられているかのような状態だ。
「な、なんだこれ?」
慌ててアトラタは辺りを見渡した。
まだここはフェーレースの家だった。
そして自身の目の前には。
「お目覚めかしらぁ? アトラタちゃん?」
彼女が、フェーレースが立っていた。
腕を組みながらアトラタをいやらしく、うっとりとした目で見つめていた。
「フェーレースさん? これは一体どういう事、ですか?」
そこでアトラタは気づいた。
両腕を組んでいた彼女の頭の上には。
とんがり帽子――しかも彼女のその細い体よりも一回りぐらい大きいサイズだった―――があった事に。
そのとんがり帽子はよく魔法使いの女性とかが被っているものとそっくりだ。
そして彼女の手には古ぼけた杖が握られていた。
よくある古ぼけて先端が細く、小枝ぐらいのサイズだ。
「貴方、魔物娘についてご存じかしら?」
いきなりの質問だったが、アトラタはそれにさも当然の如く答えられた。
何せ、反魔物主義の騎士隊に所属していたからだ。
「人間の男を狙う危険な存在・・・まさか!?」
その質問だけでアトラタは勘づいた。
フェーレースは人間ではない。
「そう。私は魔物娘、『ダークメイジ』。自分の欲望を叶えるだけに魔法を使う魔女よ」
「ま、魔法?」
「うん。夢を現実へと変えちゃう素敵な魔法使いで、時には集落ごと魔界に染めちゃうの♥で、貴方の事気に入っちゃったからこうして捉えているのぉ」
今さらっと恐ろしい事を唱えたが、今のアトラタにはそれが重要ではない。
自分を拘束しているという事は即ち、彼女の狙いは考えるまでもなく自分だ。
「お、俺を手籠めにしようとしているのか!?」
魔物相手だと知ったらもう敬語は使わない。
元より敬語を使うのは慣れていないアトラタだったが。
「その通り、でも私は魅了の魔法とかで無理やり心まで掴んで男を手に入れるような酷い女じゃない。ちゃんと貴方の意思で私と一緒にいたいと望んでから付き合う、それが魔物娘の流儀なの」
魔物は思い人が出来ればなりふり構わず相手を懐柔すると、アトラタは聞いていたが彼女は幾らか理性的だった。
だがそれで簡単に受け入れるなど彼には来なかった
現にこうして自分を捕らえていたのだから。
「俺に魔法をかけないで、俺の心を奪うのか? 悪いがそう簡単にはやらねえな。どんなにあんたが高名な魔女だろうと俺の意思は固いぞ」
「ふ〜ん? 私の力を疑っているというの?」
「それは、そうだろ。魔女だったら魔法なり何なり見せてみたらどうだ?」
安い挑発だが確かな自信があった。
どんな自信なのか、と問われれば曖昧な答えになるが。
だが相手が魔物娘だろうと、所詮は人間と同じ性行為をするのだから恐れる事はないと彼は決め込んでいた。
(そうだ、どうせ人間と同じなんだ!! 快楽に耐えればどうって事ないんだ!!)
だが、彼の打算は非常に脆かったと言わざる負えない。
何故なら彼は性体験など一度もしたことなかったからだ。
こっそり隠れて性的な本とかを読み漁っていたがこの身で体験した事などないのだ。
加えてフェーレースは人の枠には収まらない力を有していたのも誤算だっただろう。
「ふふっ♪ 確かにそうよね、なら見せてあげるわぁ♥」
そう言い彼女は持っていた杖を壁際の方へ、ポイっと放り投げた。
「杖は使わないのか?」
「まあ、私にとってはアクセサリーみたいなものよ。持っていなくても力は発揮できるし」
知り合いである魔法使いは杖がなければ力を発揮できないのに、フェーレースは無くても力を使えるという。
並大抵の魔法使いではないのをアトラタはそこで確信した。
「まずは、そうね。あの枯れている植木鉢を・・・」
先ほど不自然に感じていた枯れている花とその植木鉢。
フェーレースはそのしなやかな指先で枯れ萎れていた茎に沿って撫でる。
変化が起きたのは1秒後。
茎に色が付き始めた。
緑色の、健康な色に染まると次に枯れていたはずの花びらが茶色から桃色を帯びて花を咲かせた。
たちまち枯れていたはずの花は元の、美しい一輪と成っていた。
「本当に魔女なのか・・・」
目をパチクリさせてじろじろと見た。
幻術とかにかかっているのだろうかと思ったがこれは現実だ。
されど次には大したことないと考え直した。
「お、俺の知ってる魔法使いだって花を咲かせる事ぐらい出来る! 驚く事もねえな!」
アトラタは鼻を軽くふん、と鳴らした。
されど彼女は動じることも戸惑うこともしなかった。
どうやらアトラタの反応は予想のうちだったようだ。
「もちろんこんなのは序の口。知っているかしら? 私は大きくも成れるのぉ」
アトラタは耳を疑った。
体を大きく?
もしや巨大化の魔法とか使えるというのか?
「ど、どれぐらいなんだ?」
「その気になればこの家よりも大きく♥」
「まさかそんな事・・・」
アトラタは信じられないと言わんばかりの表情を見せて首を左右に振った。
「なら見せてあげる、ほらぁ」
『ググググググッ!!』
そう言うやいなや、フェーレースの体が大きくなり始めた。
彼の体よりも2倍、3倍、それ以上の大きさに成ろうともフェーレースの体は収まらない。
この手の巨大化は衣服がビリビリと破けてしまうのが決まりなのだが彼女の服は破れなかった。
どんどん大きくなっていく彼女にアトラタは目で追っていた。
このままいけば家の、天井を支える柱にぶつかってしまうかという時だ。
「あら。天井に頭をぶつけてちゃうわね」
気づいたフェーレースは背中を曲げて両すねを地面へと付けさせる。
両腕の肘も地面へとつけ、猫の様な体制を取った。
元々体が柔らかいからなのか窮屈そうな顔は見せていない。
フェーレースの背中が天井へに付くか付かないかの大きさになると巨大化は止まった。
「んな・・・アホな・・・」
その姿に文字通り圧倒された。
自分を丸のみ出来る口。
両目は自身の上半身ぐらいはあろうかという大きさだ。
大きくなったその両手はその片手だけで彼を握りつぶせそうだ。
そして一番注目したのは更に豊かになった胸。
たぷんたぷん、と揺らし主張するその胸にアトラタは釘付けになってしまうが次に視線を彼女の顔へと向ける。
その巨大な両目がいやらしい目つきでアトラタを見下ろしている。
家の半分以上を覆うフェーレースの巨体にアトラタは恐怖していた。
「今の私なら、貴方を握りつぶせちゃうけどそんな事は絶対しないわ」
「な、ならどうするつもりだ?」
「勿論、今から貴方とエッチな事をするのぉ♥」
そんな巨体で宣言したのだからアトラタは更に恐怖した。
「そ、そんな状態でなのか!?」
「魔物娘はエッチが大好きなんだから、当たり前でしょう?」
「い、いや!! 止めろ!! 食われる!?」
体を動かしても揺らすぐらいしかできない。
ならばアトラタは必死に口で訴えたが、フェーレースは止める素振りなど見せなかった。
「そのまま丸呑みなんて酷い事しないわ。まあ別の意味で食べちゃうんだけどねぇ♥」
彼女は指先の爪を器用に使いアトラタのズボンを、そしてパンツまでもずり下げた。
そこにあったのは男の生殖器。
興奮状態になっていなかったからかその肉棒は萎えていて皮を被っていた。
異性の、それも倫理的に考えれば絶対に見たくないものであるにも関わらず彼女はうっとりとそして興味津々で見つめていた。
「あらら、まだ起(た)ってないのね? なら起たせてあ・げ・るぅ♥」
「た、起つ!? おいおい、何を!?」
「まずは大きくなったこのお口で、してあげる」
そう言いフェーレースは唇を尖らせ彼の肉棒を吸い付いた。
『うむ♥ れろっ♥ くちゅ♥ ちゅぱ♥ ずずずっ♥』
巨大な舌に自分のイチモツが舐められている。
今の彼女にとって自分のモノは飴玉みたいなものだろう。
おまけに下半身全体が唇に触れているのだ。
プルプルとした感触が下半身全体を覆う。
こんな体験は生まれて初めてだった。
「や、やめ、ろぉ! そ、そこは!!」
快感に耐えながら訴えるが無駄なあがきだった。
フェーレースは次に、その舌を上下に動かし始めた。
『くちゅる♥ ちゅるる♥ くちゅるる♥」
上に下へと舐めまわされ、自分のアソコが敏感になってきた。
消えてなくなりそうな程の快感だ。
「おっ!! おごっ!! あああっ!!」
「ほひゃ、ほひゃ かんちゃんに、落ちにゃいんじゃないの?」
「そ、そんな事はっ!?」
だが彼のイチモツと体は正直だった。
既に硬く勃起し、快感に酔いしれている今アトラタは気づいていなかったが、その先端から亀頭が皮から見え隠れしていたからだ。
快感に引きつられアトラタの理性が崩壊寸前まで引き上げられるが、アトラタはぐっと堪えた。
まだだ、まだ耐えられるはずだ。
そう自分に言い聞かせて。
(た、耐えるんだ!! 良いか、平常心っ!! 平常心だっ!!)
そんな彼の様子を面白がったフェーレースは一旦、その口を離すと。
「それじゃぁ、即イキコースにしようかしら♥」
次には必要以上にその大きい舌で肉棒の裏筋を攻めてきた。
『れろれろっ♥ れろれろっ♥ れろれろっ♥』
筋に沿って舐められている自身の分身。
舌のザラザラで粘液まみれの感触が分身に何度も走ってきた。
このままでは。
「あ、あぐっ!! おおおっ、おっ!?」
アトラタの脳裏に伝わってくる快感の声。
体の奥底から欲情が吹き上がってくる。
―――な、何か出るっ!?
―――尿じゃないあの白い液体がっ!?
(ま、まずいっ!? このままじゃっ!?)
そう思っていた時だ。
不意にフェーレースがその舌を止めた。
口を離すと固く、天へと向かって勃起している己の肉棒が。
しかも寸前で止めてしまったのだから溜まっている白濁とした汁を出したくてビクン、ビクンと主張している。
「何故、止めたんだっ・・・?」
問いかける台詞を間違えていたが今のアトラタにはそれしか出てこなかった。
「まだまだ私の力を味わってもらわなきゃ。私なしじゃ生きてられないくらい依存してもらう為に♥」
フェーレースは片目をパチッと閉じてウインクする。
つまりまだ始まったばかりだという証でもありアトラタはこれから訪れる体験に恐怖しつつも何故か気になってしまった。
「次はそう、小さくも成れるのよ」
「小さくって、元の大きさに戻るだけじゃねえのか?」
アトラタの指摘にフェーレースは首を振った。
「ううん。もっと小さく、ネズミぐらいのサイズに」
「う、噓だろ?」
でかくなれるだけでなく小さくなれるのかと、アトラタは内心驚いていた。
「で、でも見てみなきゃ信じられねえな」
「またまた疑って。なら見せて挙げる」
『ググググググッ!!!』
また彼女は体を震えさせると今度は小さくなり始めた。
彼の数倍はあった巨体はみるみると消えて、元の大きさになるが体の縮小化は止まらなかった。
彼の背丈の半分、それよりも半分、もっと半分まで縮んでいく。
終わった頃には彼女の体は宣言通りネズミぐらいのサイズになっていた。
今のフェーレースはアトラタの手のひら大ぐらいの大きさだ。
これなら自分の足で踏みづけて倒せるかと思った。
だが拘束されている今、その足も体も動かせない。
(せ、せっかくのチャンスだってのにっ!)
だが次には別の感情が吹き出してしまう。
(・・・いやっ? 俺は本当に出来るのか?)
そう思ってしまったのだからアトラタには迷いが生まれた。
本当に彼女を踏みづけ、倒せる事が出来るのか?
でも倒さなければこちらが襲われる。
けれども女性に手を挙げるなど騎士を目指す自分にとって言語道断の非道だ。
その戸惑いが生まれてしまった今、彼にはその答えが出せなかった。
「私を踏みづけるのは止めてね♥ まあ体の自由が効かない今の貴方ならそんな事出来ないと思うけど」
小さくなったフェーレースはそう言うと飛び上がって、アトラタの熱く勃起した肉棒に抱き枕の如く飛びついた。
「今度は体全体を使ってシコシコしてあげるわぁ♥」
肉棒の上へと態勢を整えたフェーレースはそう伝えてきた。
「な、何!? そんな体でなのか!?」
小人が自身のイチモツに飛びついているだけでも興奮もの、じゃなくて恐怖であるのに。
しかも熱く煮えたぎっている今そんな事をされたら…。
「や、止めろっ!! 俺の、アソコからっ!? 離れろっ!!」
だがそんな懇願を聞き入れるフェーレースではなかった。
ならば体を揺らせばフェーレースを振り落とせるかと思ったが、フェーレースはがっちりとイチモツに抱きついていて、振り落とせそうになかった。
「そ〜れ、ごしごっし♥ ごっしごし♥」
『シュ♥ シュ♥ シュ♥ シュ♥』
たるんでいた肉棒の皮を両手で掴み、上下にしごいていく。
女性によって己の分身が弄ばれている光景。
そんなものを見せられているのだからアトラタは直視したくもないし、体が自然と熱を帯びていく。
「ぬ、ぬおっ!? だ、だから止めっ!? ああっ!!」
抗議しても無駄だった。
むしろ彼女がその台詞を聞けば、更に分身をいじめようとするのは必然なのだ。
アトラタの反応に面白がったフェーレースは次の行動に出た。
「ふふっ♪ 玉袋ちゃんも刺激してあげるぅ♥ でも靴のまま貴方の玉袋を押したら流石に痛いわよね〜。なら脱がないと」
そう言い彼女はブーツを脱ぎ捨て、うどんの生地を踏む要領で彼の精巣がある玉袋を踏み込んできた。
「よいしょっと♥ よいしょっと♥」
掛け声をかけながら両足を右左、そして右左と踏んでくる。
踏み込まれることで玉袋越しから伝わってくる、少しだけ冷たく生暖かい感触。
それは己の両手で玉袋を揉み下すのと同じ感覚で気持ちいい行為だった。
「ああっ!? お、おおっ!? ぬうっ!?」
「ほらほら、射精しちゃいなさい〜」
そしてフェーレースはそのまま体全体も使ってアトラタのイチモツをしごいていく。
『シュ♥ シュ♥ シュ♥ シュ♥』
擦れる音を立てながらしごかれている自身の肉棒にアトラタはその体をよがらせていた。
「あ、あぐっ!! う、ううっ!!」
今の彼女はまるで大木にしがみつき、体全体を使ってこすっている。
だがその大木は男性器で、しかもこうして刺激を与えられ続けているのだからアトラタの理性は徐々にすり減っていく。
「ほらほら、まだまだいくわよぉ〜」
先端から出ている赤くむき出しになった亀頭をフェーレースは舌を使って刺激する。
「れろっちゅぱ♥ れろちゅっ♥ ちゅちゅぱっ♥」
アトラタは必死に歯を食いしばって快感に耐えていた。
「こ、こんな所で。出す訳にはっ!?」
「イっちゃいなさい♥ イっちゃっていいのよ♥ ほら! ほら!!」
そう言い彼女は更に擦る速度を上げる。
『シュシュ、シュシュ、シュシュ♥』
彼女が自身の肉棒に抱き着いているという異様な光景。
肉棒越しで感じる彼女の、人肌の暖かさ。
亀頭に伝わる舌の生暖かい感触。
そして彼女の両足で玉袋が刺激されているとなれば、もう。
その全てが快感へと変わってしまい、彼を絶頂へと至らせてしまう―――
『どぴゅ、ぴゅるるるるーーー!!』
「あっ!! あっ!! あっ・・・」
体が痙攣するたびに勢いよく飛び出る白濁とした欲望の塊。
その光景にフェーレースは歓喜の声を挙げた。
「あはっ♥ 出た出た♪」
すぐに顔を近づけさせ噴射した精液を飲みこむ。
「うぐっ♥ ごくっ♥ ごくっ♥ ごくっ♥」
フェーレースは今、小人の状態だったからその口を広げても亀頭の先端をほうばる程度しか広げられない。
だがその体でも彼女は問題なかった。
逆に小さくなったのだから大量に精液を浴びれるという利点にもなるのだ。
見ればフェーレースは体中が精液まみれになっているにも拘わらず嬉しそうに飲んでいる。
その姿は、実に淫らで欲情がそそるものだった。
やがて体の猛りが静まれば膨張していたイチモツも縮小し、射精が収まる。
「ふふふ♥ すっごく濃かったわよ。私好みの味だわぁ♥」
精液まみれになった体を拭こうともしないフェーレース。
彼のイチモツから降りると再びブーツを履いた。
その後、小人だった彼女は元の大きさへと戻っていく。
そして勝ち誇ったかの様な妖しい笑みでアトラタを見つめていた。
「はあ・・・、はあ・・・、はあ・・・」
アトラタは目でフェーレースを睨みつけていたが内心は違った。
(・・・く、くそ・・・き、気持ち良かった・・・)
そんな台詞、彼女の前では口が裂けても言えなかったが。
「さて、次は下のお口にも飲ませて欲しいなぁ♥」
そう言い服の裾を捲り上げ、自身の股を見せびらかす。
彼女の黒のパンツ、それも女性器にあたる箇所が濡れていた。
指で下着をずらすと露になるのはフェーレースの女性器。
下へと向けて綺麗な割れ目と共にその中身から桃色に染まった肉壁が。
そこにフェーレースは妖しく微笑めながら指先を伸ばし、割れ目にそってなぞる。
「こんなに濡れていて、お姉さん困っちゃうわ。ほら、舐めてみる?」
そう言いフェーレースは絡みついた愛液と共に指をアトラタの口元へと差し出す。
甘酸っぱい臭いが鼻を刺激し、思わずその指を舐めようと体を動かしたくなる。
だが残っていた理性の必死な訴えで、踏みとどまったアトラタは首を横へと振った。
「そんなに意地張らないの♥ 貴方の童貞を卒業させてあげるんだからぁ♥」
次に何をしようとしているのか一目瞭然だ。
自分の貞操を本格的に奪うのだ、と。
「でもただ気持ちいい事するだけじゃつまらないわね。・・・・ねえ、小さい女の子としてみたいと思わない?」
「小さい、女の子?」
どういう意味だ、とアトラタが口を開きかけた時だ。
フェーレースの体がまた小さくなり始めた。
だが先ほど見せた縮小化とは全く違う。
豊かな双乳はしぼんていき、膨らみなどまるでない真っ平な胸に成っていく。
すらりと長かった両腕は縮み、子供の如く短い腕に、幼い手と変わっていく。
太ももとすねも縮み、幼少期に差し掛かった少女の長さと細さになっていく。
成熟していた美しい顔は、面影を残しつつも小さくなり丸みを帯びた顔たちに。
腰辺りまで伸びていた銀色の髪の毛までも縮んでいく、がそれでも長い。
髪の先端が床に付くか付かないかの長さだったから。
そして変化が終わると。
―――彼女の体は成人の女性からまだ幼い少女へと成っていた。
歳に換算すれば9、10歳前後だろう。
そして年齢に不釣り合いな、大人用だった彼女の服を身にまとっている。
身にまとっている、というよりも覆い被っていると言った方が正しい。
少し頭を傾ければ帽子が彼女の頭をすっぽりとはまり、彼女の頭を隠れさせる。
見えそうで見えない胸の先端にある桃色の乳首がちらつく。
膝辺りまで覆っていたタイツも体が小さくなった事でずり落ち、足首辺りでタイツの層が作られていた。
「ふふっ♥ 綺麗なお姉さんから可愛い妹さんになってみたわよぉ♥」
そう言いフェーレースは片手でピースをしながらアピールしてきた。
ただの幼女なのだが、時と場所によってその光景が末恐ろしいものであるとアトラタは改めて実感した。
(ま、まさかっ!?)
先程のフェーレースの台詞から察せばその姿で自分と・・・。
「そ、それでどうするつもりだ!?」
大方の予想は出来るのだがそれでも聞いてしまうのは条件反射というやつだった。
「もちろん気持ちいい事♥ でも、ぶかぶかのお洋服になっちゃったわ。ぴったり合う服にしましょうか」
そう言うと彼女の服は、彼女の少女体系に合わせて縮んでいく。
飛び出ていた胸元の生地はぺたんこになった彼女の胸に、ぴったりと合う用に縮んでいく。
タイツも幼くなった彼女にあう様に短く細くなり、彼女の足に沿って昇っていく。
帽子も同じだ。
彼女の頭に合わせて動かしてもすっぽり隠れないように小さくなっていく。
やがて大人用かつ淫らだった服は子供用の可愛らしい服へと変わっていた。
「これで良し、と。じゃあ」
フェーレースは熱く煮えたぎるアトラタのイチモツをじっと見つめた。
彼女が変身しているとはいえ、幼い子供になっているのだ。
小さな女の子が己のイチモツを見ている、いや見られているという事実に背徳感というものが感じられずにはいられない。
「わあぁ、お兄ちゃんのおちんぽ、ビクンビクンしてる!! もう入れたいんだぁ!!」
わざと甘ったるく幼い口調と台詞でフェーレースが語りかけてきた。
それがアトラタの性欲を刺激していくのは予想の内なのだろうから。
「でもまだ入れないよ。うふふ♥」
笑みを浮かべてぷいっと横に振ったフェーレース。
それに思わずアトラタはがっくりと肩を落とし、落胆した。
「じ、焦らすのかよ!! てっきり、それで!?」
「だってまだ柔らかくなってないの〜。わたしのアソコでやるには、じゅんびがひつようなの♥ でもお兄ちゃん、さっき、わたしの誘惑にまけないとかいってたよね?」
フェーレースの指摘に気づいたアトラタは必死に淫らな思考を消そうと顔を左右に振らせた。
「そ、そうだ!!! 俺は屈しない!! お前なんかに屈しないぞっ!!」
「どこまでもつのかな〜、お兄ちゃん?」
意地悪い笑みを浮かべると彼女はスカートをまくし立て、股を開いた。
「まずは、わたしのオナニーを、いまからお兄ちゃんにみせてあげるからぁ♥」
そう言いフェーレースは右手で自身のパンツを掴む。
フェーレースは顔に笑みを浮かべながら、そのままパンツを横へとずらせば。
見えてくる。
彼女の濡れた女性器が。
綺麗な桃色の割れ目から液体が滴り落ち、床にシミを作る。
「みたことないでしょ? おんなのこの、お・ま・ん・こ♪ こんなふうになっているんだよ♪」
生の女性器など産まれて初めて見たことがなかった。
しかもまだ幼い女の子の女性器だ。
決して小さい子が好きという訳ではないがこうやって見せつけられているとなると膨れ上がる性欲は抑えようがない。
「このきれいな、おまんこにぃ♥ ゆびをつっこめばぁ♪」
フェーレースは指先を女性器の中へと入れ、指をかき回し始めた。
『くちゅっ!! くちゅ♥ ちゅるっ!! ちゅ♥』
「ああっ♥ いい、よ!! う、うん そ、こっ!!」
甘い声と共に挙がってくる彼女の息。
それが興奮状態に吐かれる息なのをアトラタは知っている。
「えへへ♥ わたしのおまんこからあついお汁があふれでてきてるよ♥ お兄ちゃん、よくみてぇ♥」
指を一突きする度に水滴サイズの体液が飛び出てくる。
それが女性から流れる愛液なのをアトラタは知っていた。
そして男の本能とは正直なもの。
萎えていたアトラタの肉棒が再び熱く、固くなってきた。
「あんっ!! ううん♥ いい、よ 気持ち、よくなってきた・・・」
指をいじる速度が速くなる。
それに伴い熱い息がフェーレースの口から吐き出される。
『くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅっ!!」
「ふうっ♥ あはっ...ううんっ♥ あんっ♥」
体をビクビクと動かし、快感を感じている子供のフェーレース。
その姿がアトラタの性欲をそそり、彼のイチモツを立たせるのだ。
「もうすぐイくっ!? イっちゃう、からっ!♥」
そう言いフェーレースは更に指の速度を上げる。
自分が絶頂へと行く為に。
『くちゅくちゅくちゅ!! くちゅっくちゅくちゅ!!』
体を激しく、くねらせ何度も何度も熱い息をし続けるフェーレースの痴姿。
それにアトラタは興奮してしまう。
何も言わずただじっと彼女を見つめていた。
そして自慰をしていた彼女はその絶頂へと到達する―――
「あ、あぁんっ♥ もう...イっちゃう! ふああああぁぁぁ♥」
『ぷしゃあああーーー!!』
体を反らせ痙攣しながら、その綺麗な女性器から大量の愛液が飛び散った。
お椀に入った水がそのままぶちまけられたかの様な量だ。
床へと染み込んでいき大量のシミを作り出す。
絶頂に至った後の余韻に浸るフェーレース。
だがその両目はアトラタをじっと見つめていた。
「えへへ、ごめんねお兄ちゃん。わたしだけきもちよくなって、つぎはいっしょにきもちよ〜くなろうねぇ♥」
その言葉を聞いてアトラタは恐怖とも絶望とも似た表情を浮かべた。
確かにそういう趣味の人間がいるのはしっているのだが相手はまだ幼い少女だ。
しかしそれに反して彼の肉棒は興奮し、勃起していた。
「あはは♥ もうお兄ちゃんのバキバキになってくるしそう!! それなら、出させてあ・げ・る♥」
そう言いフェーレースは彼の体を床へとゆっくり押し倒す。
されるがままアトラタは仰向けにされ、フェーレースは彼の上に跨るとその熱く、煮えたぎる肉棒を自身の女性器へ接触させる。
「いれちゃうよ? おにいちゃんのおっきなおちんぽ、わたしのちっちゃなおまんこにいれちゃうからねっ!!」
「だ、駄目だ!! こんな幼い子供とやるなんて!?」
「でもわたしはおとなだよ〜。まずはさきっちょだけ、ね♥」
そう言いフェーレースは腰を下ろし始める。
何とか抵抗しようとするが両手も両足も動かなかった。
だから体を揺するしかなかったがそれでは何も出来ないのと同じだ。
なすすべなく彼の煮えたぎる肉棒は彼女の女性器を迎え入れる。
『くちゅ♥』
肉棒の先端が彼女の膣へ、ずぶりと入る。
その瞬間、アトラタの体に稲妻が走った。
「なっ!? なんだこれ!? 俺の、がっ!?」
感覚がはじけ飛びそうだった。
濡れ濡れの肉が自分の肉棒に絡みつき、性的な本能を呼び出させる。
彼女も同じ快感を味わっていた。
彼の肉棒を入れた瞬間、フェーレースはその体を反らせた。
「もぉ♥ おにいちゃんのおちんぽヒクヒク、しちゃってるの!! でもわ、わたしのおまんこもヒクヒクしてるの♥ このままいっきにズボってしたらどうなるのかな♥」
「や、止めろ!! 俺は決してロリコンとかじゃなくて、健全なエッチってのを!?」
「ダメ! きかないもん!! わたしとエッチしてぇ・・・・ダメダメなぁ、お兄ちゃんにしてあげるぅ♥」
無邪気な笑みを浮かべて告げたフェーレースの姿にアトラタは心底恐怖した。
「あ、ちなみにまだ膜はあるよ♪ オナニーはしてるけどぉ、これがはじめてなんだよ♪ だ・か・ら♥ わたしの処女、お兄ちゃんのどうてえおちんぽとぉ、取り換えっこになるんだよ♥」
そんな事実を聞かされたのだから本当に止めろとアトラタは言いたかった。
だが出来なかった。
体が動けなかったのも要因だったが。
彼の、男としての本能が叫んでいた。
彼女としてみたい、と。
そして幼女のフェーレースは腰を降ろした―――
「うん、しょっと♥」
『ずぼぼぼっ!!』
一気に奥深くまで挿入され、自分の亀頭が何か柔らかいものに接したのを感じた。
次に感じるのは肉棒越しから伝わってくる、濡れたような愛液の感触とまとまりついてくるような肉壁の感触だった。
「ああっ!? こ、これは何だ!? もっと絡みついてきて!?」
「あはは♥ お兄ちゃんとがったいしちゃった♥ わたしのちいさなおまんこじゃ、おさまらりきれない!!」
そう言いフェーレースはその未成熟な両太ももを閉めると。
「あっ!? 膣が締め付け、られる!?」
そもそも幼い体格になったフェーレースの膣は成人男性の肉棒とはサイズが合わない。
断然締め付けがきつい上に、彼女の両太ももによる負荷があるのだ。
一段と締め付けが強くなるのは当然だ。
「うわ〜〜んん♥ お兄ちゃんにおかされているううぅ♥ パパママ〜、わたし、おおきなお兄ちゃんとエッチしちゃってるよおお♥」
頬を赤らめ、叫ぶ彼女の姿は実に淫らだった。
「しかもわたしの初めてうばわれちゃったよ〜♥ ほらほら見てぇ、おまんこから赤い血がながれてるよぉ♥♥♥」
言われててみれば彼女の女性器から赤い液体がタラタラと流れ出ていた。
つまり本当に処女だったという事でありアトラタは罪悪感にも似た感情に際悩まれた。
「ええぇ〜〜〜ん♥ パパママっ!! お兄ちゃんに初めてうばわれちゃったよおぉお〜♥ パパみたいな象さんおちんぽがぁ、わたしのおまんこに突っ込まれてるよおおぉぉ〜♥♥♥ ママみたいなお腹が飛び出た、でっぷりの子供妊婦さんになっちゃうよおおおぉぉ〜♥♥♥」
子供と化したフェーレースはそう言うが彼女の顔は無理やり犯されて涙を流しながら叫ぶ悲哀な顔ではない。
快感を心の奥底から感じ、高揚に満ちている顔だった。
そんな淫らな顔を浮かべながらフェーレースは。
「そんな私の初めてうばった、ダメダメお兄ちゃんには♥ お仕置きしてあげるぅ♥ このままうごか...しちゃうからねぇ♥」
そう言いリズミカルに腰を動かし始めた。
最初はゆっくりと、快感を噛みしめるように。
『パンッ♥ パンッ♥ パンッ♥』
「はつたいけんが、ちいさなこどもでっ♥ やるなんてっ!! お兄ちゃん、いやらしい〜」
腰を上下に振りながらフェーレースが語り掛けてくる。
「ちが、う!! お前が!! 勝手にっ!! あぐっ!!」
「すなおになってっ!! もうおにいちゃん、わたしとエッチしてるんだよぉ♥」
確かにフェーレースから伝わってくる快感は抑えられない。
加えて今のフェーレースは幼い子供であり、アトラタは背徳感とも敗北感とも言えない感情が押し寄せ、それら全ては性欲への快感に変わっていく。
初めのうちは歯を食いしばって耐えられていたが彼女が与えてくる快感の波に彼は次第に耐えられなくなる。
『パンッ♥ パンッ♥ パンッ♥ パンッ♥』
「あ、ああぐっ!? お、おおっ!? あぁあっ!!」
迫ってくる快感に抗えず、言葉になって発散するアトラタのの姿にフェーレースは手を叩いて喜んだ。
「もうお兄ちゃんっ!! そんなによろこんでぇ♥ ならもっとも〜っと、してあげるうっ!!」
そう言いフェーレースは腰を振るう速度を挙げる。
『パンッ♥ パンッ♥ パンッ♥ パンッ♥ パンッ♥』
「ほらほら!! もう、気持ちよくてたまんないよねぇ♥」
何度も肉棒越しに伝わってくる膣肉の感触と締め付けが。
小さな女の子に犯されているという事実が。
そして女性という男が一番求めるものの前に。
もう己の分身が叫んでいた。
―――射精したい、させてくれっ!!
『パン、パン、パン、パン、パンッ♥』
更に彼女が腰を振る速度を上げれば遂には舌をだらしなくたらし、思わず漏らしてしまった。
「いい!! いい!! もうどうにか、なりそう、だ!!」
男の本能に屈してしまったアトラタ。
その光景にフェーレースはニヤリと笑みを浮かべた。
「ねえ、チューしよぉ♥」
フェーレースは口を少しだけ尖らせて迫ってきた。
快感が体を支配している今、アトラタはそれを拒否する事など出来るはずなかった。
言われるがまま彼女の、幼くなったフェーレースの唇に自分の唇を添える。
『ちゅ♥ ちゅぱ♥ ちゅ♥ くちゅ♥』
彼女の舌と唾液が入り込み、口の中が酸っぱくなる。
「おい、ひい♥ おにい、ちゃんのだえき、おいひい♥」
不覚にも小さな子供とやるのも悪くはないと思ってしまった。
彼女の口から流れこんでくる唾液が。
執拗に絡みついてくる彼女の舌が。
―――とてつもなく、気持ちいい。
思わず彼女の背中に両腕を回し、抱きしめてしまった。
それに釣られて彼女もまたアトラタの背中に両腕を回し、抱きしめる。
「あははっ!! やっぱりお兄ちゃんロリコンなんだっ♥ ならいいよっ♥ ロリコンのアトラタお兄ちゃんっ!! いっしょにイこうっ♥!!!」
そしてフェーレースは腰を振るスピードを更に上げ、限界へと。
『パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、パンッ♥』
彼女に釣られて、無我夢中で腰を振り始めたアトラタ。
先程の彼だったならばなんと情けない姿を晒しているのだと呆れていただろうが。
子宮の奥底に亀頭が何度もキスをし続けてアトラタの理性はもう限界だったのだ。
何度も何度も快感が体を突き抜ければ。
彼の肉棒が一回り肥大化する。
それを膣の中で感じ取ったフェーレースは宣言する。
「きゃははっ♪ もうビュルビュルってしたいんだっ♥ もういいんだよ、がまんしなくて♥ いぃっぱぁい、わたしのおまんこに出してええぇええ♥♥ お兄ちゃん〜〜♥!♥!」
最後の一押しどばかりにフェーレースは再び唇を彼の唇にくっ付け、貪る。
そうして激しいキスを繰り返していけば。
腰を振るう速度を上げれば。
待っているのは当然。
絶頂だった―――――
「あっ、あぁあああっ〜〜〜〜!!」
『どぴゅ、ぴゅるるっ!! ぴゅる、るるるるうっーーー!!!』
体の感覚で分かる。
自分は今、開放感に溢れているのを。
そして自分は今、精液を彼女の膣へと出しているのを。
「いやああっ!! あつい、おせいしがぁ♥ ドクン、ドクンってながれこんでるうう♥ ずっこく濃いのがあぁぁああ♥」
見ればと彼女の膣から粘り気のある白液が溢れ出ている。
彼女の愛液と混ざりあい悦楽の桃源郷を演出させる。
「ああん...もったいないよ。おにいちゃんのせいし...こんなにもれてるなんてえぇ♥♥」
フェーレースは体を振るえさせ、歓喜していた。
ずっと待ち焦がれていた瞬間に出くわし、待望の体験をしたのだと。
「はあ・・・はああ・・・はあ・・・」
2度目の射精は、やはり気持ちよかったが体の脱力感というものは拭い去れない。
息切れもしてしまうのも当然だった。
何を考えていたのか分からない程、頭を真っ白にしていたアトラタ。
そんな彼にフェーレースは少しだけ微笑んだ後。
「・・・初めてなのに良く頑張ったわね。偉い、偉い」
急に幼い口調から、大人の女性特有の優しい声でアトラタの頭を撫でた。
その声と仕草にアトラタは何故か安堵出来た。
不思議と体の脱力感が抜け落ち、体力が戻ってきたかのように感じる。
フェーレースは名残惜しそうに彼の肉棒から女性器を引き抜く。
2,3歩だけ後ずさりするとフェーレースの体が大きくなり始めた。
真っ平だったはずの胸は風船が膨らむ様に大きくなり、また豊かな双乳となる。
未発達の両腕両足はすらりと伸びていき見事な脚線美を見せつける。
幼かった丸みの顔も大きくなり女性特有の尖った顔となって、色気を醸し出す成人女性となる。
そして立っていたのは幼い少女から見事な急成長を遂げたフェーレースだった。
「どうかしら? 私の力、これで信じられるようになった?」
無言で頷いたアトラタ。
信じるも信じないも無理やり犯されたのだから信じるしかないだろう。
今でも体の自由が効かず、両手の指先さえ動かせな…。
「んっ?」
そこでアトラタは気づいた。
体の自由が戻っていた事に。
だがこのまま逃げようとする気にはなれなかった。
あんな体験をしたのだから、今でも体がフワフワと浮いている様な感覚だったからだ。
そんなアトラタを尻目にフェーレースは話を進めていた。
「そこで一つ相談。私の使い魔になってちょうだい。使い魔と言っても、私の夫みたいなものよぉ。私と一緒にもっと、もっと気持ちいい事をしましょぉ♥」
―――彼女の夫となるっ!!
その瞬間、アトラタは反射的に彼女を拒絶した。
こんな、人間の正しい性行為とは程遠い体験をし続ければ自分は人間としての道徳観がなくなってしまう。
やはり魔物は人間に害をなす危険な生き物だった。
だからアトラタは口を荒げてしまった。
「い、嫌だ!! 俺は、普通の!! 真っ当な人と付き合って生きたいんだ!!」
ここで誘惑に負けて彼女の使い魔とやらに成ってしまったら、もう人間の世界へ後戻り出来なくなる。
その恐怖が彼を支配し、彼女を拒絶していた。
「真っ当な人生なんてつまらないだけよ。私と一緒に落ちるところまで落ちちゃいましょうよぉ♥ 私のおっぱいもぉ、お尻もぉ、ぜぇんぶ♥ 好きにしていいのよ」
そう言いフェーレースは自身の豊満な胸を揉みだしたり、お尻を彼の前に向けて突き出した。
思わずしゃぶりたくなりそうな乳房に掴んでみたくなりそうなお尻の良さ。
どれも男だったら飛びつきたい程の欲情さを演出していた。
だが襲い掛かっては彼女の思うつぼだ。
「それとも・・・またちいさいわたしになって、いっしょにあそびたいの? お兄ちゃんんっ♥」
再び甘ったるく幼い口調になって問いかけてくるフェーレース。
まさに悪魔の、堕落への誘いだった。
当然アトラタは首を縦に振る事など出来なかった。
「お、落ちるもんか!! 俺は誇りある騎士隊の訓練生だ!! 決して誘惑とかに屈しないんだ!!」
「けどぉ、お兄ちゃん私のはじめてうばっちゃったんだからぁ♥ せきにん取らないとダメだよねぇ〜」
そう言われたアトラタは少しだけたじろいだ。
不可抗力ではるが彼女の処女を奪ったのは事実だ。
されどここで押し負けて彼女の、魔物の夫になるのは絶対になってはいけない。
「んな訳あるかっ!! 兎に角俺は魔物なんかに負けないっ!! 絶対お前のものにはならないぞっ!!」
アトラタは論ある根拠や、皆が納得出来る様な話といった論理的思考を無視して必死に叫んだ。
堕ちない。
絶対に堕ちないぞっ!!
何が来ても俺は絶対に屈しない、堕ちないぞっ!!
是が非でも自分は堕ちないと意思表明する為に。
「むっ〜〜。意地っ張りな人ねぇ」
不満を述べながらフェーレースは少しだけふくれっ面になった。
だが次にフェーレースは口元をニヤリと作り、邪な笑みを浮かべた。
それは良からぬ考えを企んでいる様に見える、狡猾者の如き笑みだ。
「そこまで意思が固いのなら・・・ゲームをしましょうか」
「ゲーム、だ?」
すっきょんきょうな様子でアトラタはその台詞を唱えた。
「ルールは至って簡単。貴方がこの森を抜け出せるかどうか。もし抜け出せたなら私は貴方を諦めるわ、けど抜け出せなかったら・・・」
フェーレースはぺろりと舌なめずりした。
つまり自分がこの森を抜け出せなかった一生彼女と居続け、堕落した生活を送らなければならないという事だ。
分の悪い賭けなのは分かっている。
向こうは恐らく、この地を知り尽くしているだろうから。
だがその微かな勝算が、希望があるなら飲むしかない。
「分かった。乗ってやる・・・」
「ならこの瞬間からゲームの始まりね、貴方が逃げる側で私は追う側なら・・・私は狼。なら狼になっちゃいましょうか」
そう言いフェーレースは自身の頭の上に被っていたとんがり帽子を放り投げた。
次にノースリーブの、一体化していたスカートの裾を両手で掴んだ。
何をする気なのかアトラタは凝視する。
するとフェーレースはその裾を上へと引っ張りながら、カバっと脱ぎ始めたのだ。
フェーレースの白い素肌が現れ、すぐ目についたのはあの豊満な乳房だ。
彼女の両腕で抱えられる程の大きさで、思わず埋もれてみたくなりそうな。
そして乳房の先端にはぷっくりとした乳首。
それが目についたのだから萎えていたはずの肉棒がまた少しだけ固くなり始めた。
しかも驚いたのは、フェーレースはブラジャーを付けていなかったという事だ。
てっきり横の紐がないブラジャーを付けていたのだと思っていたのだが。
「ふ、服を脱ぐのか?! てかパンツだけだったのかよ、付けていたのは!?」
恥じらいの一つも彼女にはないのかとアトラタは思った。
だが彼の指摘にフェーレースは耳も貸さず、脱いでいき更にタイツにも手を伸ばして、するすると脱いでいく。
乱暴に身にまとっていた衣服をあちらこちらに放り投げ、最後にパンツを脱げば現れてきたのは布を一切身にまとっていない彼女の裸体。
柔らかそうな肌に肉付きが良いお尻。
秘所は先ほど子供の姿でセックスをしていたからなのか、未だに愛液が垂れ落ちている。
そして頭に被っていた帽子を放り捨てると自身の髪を一撫でしてアトラタをいやらしくも愛おしい目で見つめた。
「胸が蒸れるからしかたないの。それと服は別に着ていても着ていなくても問題はないの。文字通り狼になるんだからぁ」
「文字通りの、狼?」
自分という獲物を追っかけるのだから彼女は『狼』なのだろうが文字通りとは何なのだろうか。
いや、そもそも服を脱ぐのと関係があるのだろうか。
それがアトラタの関心をそそり、彼女にその両目を向けさせる。
「んっ・・・・!!」
フェーレースの顔が力む。
両手を胸元に当てて、体をブルブルと震えさせながら。
一体、何が起きるのだろうかとアトラタは目を凝視した。
巨大化するのか、それとも小さくなるのか。
はたまた子供にでもなるのか。
その答えはどちらでもなかった。
「あんっ♥」
―――喘ぎ声と共にフェーレースの背中からお尻へと変わる箇所から、尻尾が生えてきた。
ふさふさの、銀色の尻尾だ。
太ももからすねへと変わる関節辺りまでその尻尾が伸ばされ、パタパタと振らせる。
思わず触ってみたくなる程の、ふさふさの尻尾だった。
「う、ううん♥」
次に両足が銀色の毛に覆われていく。
足のつま先から始まり、足首、すねまで、太ももにまで銀色の毛が侵食していく。
付け根から腰のくびれまで、更に秘所だった股も毛に覆われ女性器が見えなくなる。
両腕も同じだ。
指先から手首に、腕に、肩にまで毛に覆われていく。
そして毛は彼女の胴体まで浸食し始める。
「うふん♪」
豊かな双乳が毛に覆われ、腹部にも毛が。
銀色の毛は首元までも浸食し彼女の頭まで侵食するのかとアトラタは思っていた。
だが首から頭へと変わる所で浸食が止まった。
そして気付けば彼女の頭以外の部位は全て銀色の毛に覆われた。
アトラタはその光景に瞬き一つせず見届けてしまった。
「ま、まさか・・・本当に・・・」
「いった通り、私は狼になって貴方を追いかけて食べちゃうって。それよりも貴方、私の変身に釘付けだったわね。もしかしてそっちのフェチがあるのかしら?」
「ば、馬鹿な事言うな!? 俺にそんな趣味は・・・」
だが否定は出来なかった。
人間の女性が―――正確には彼女は魔物娘であり人間ではないが―――別の生き物へと変わる。
こんな非日常的な場面に遭遇し、実際に目にしてしまえば男としての欲望が収まらない。
逃げるには絶好のチャンスなのに逃げようとする気が起きない。
もっと見てみたい、最後まで見たいという欲望が上回っていたのだ。
「ほらほら早く逃げないと、私の変身が完了しちゃうわよ。でも見たいって言うなら構わないわぁ♥」
彼女の言う通り逃げるには絶好の機会だというのにアトラタはその体を動かそうとしなかった。
彼女が変身するその光景に釘付けとなっていた。
「あ、あんっ...♥」
銀色の毛に覆われた彼女の体が小さくなり始めた。
ブルブルと縮んでいき、中動物と同じくらいのサイズになると次は両足が変化し始める。
太ももが更に膨らみ、すねに当たる部位が細くなり外側へと反る様に曲がっていく。
狼特有の後ろ脚だ。
「だ、駄目っ。これ以上は...♥」
その状態では立っていられないのか、彼女は四つん這いとなって床に立つ。
次には胴体が変化し、くびれのあった腰は膨れ上がり狼の胴体に。
豊かな双乳はみるみるとしぼみ、銀色の毛で覆われた真っ平な胸板へと。
そして手には鋭い爪が生えていき、指先が縮み、腕の間隔が短くなっていく。
狼の前足だ。
彼女の頭上から鋭い銀色の耳がぴょこん、と生えてきた。
そこで体の変化は止まった。
見るとフェーレースの頭以外は狼の体と成っていた。
頭だけは変化しなかったので美しい顔たち、そして髪の毛の色と人間時の腰にまで届くほどの長さはそのままだった。
その為、髪の毛は狼の体に被さるぐらいの長さだ。
その光景にアトラタは瞬き一つせずじっと見とどけてしまった。
視線に気づいたフェーレースはにんまりと笑みを浮かべた。
「やっぱり貴方、そっちのフェチだったの。ずっと見ていたみたいだし、素直になれば色んな動物に変身して楽しませてあげるわ」
尻尾をパタパタと振らせ、頭に生えた両耳をピクピクさせながらフェーレースは瞳をウインクさせた。
次には背中を床にくっつけ、バタバタと両手と両足を動かす。
その光景が不可思議で信じられなく、そして欲情をそそるものだった。
人間が動物へと変わっていく過程、興味がない者でも注目してしまう事だろう。
「ついでに狼のアソコも見せつけちゃおうかしらぁ♥」
「な、なにを!?俺はそんな、動物とセックスする変態じゃない!?」
「でも貴方の分身は正直みたい。ほらぁ硬くなってるし♥」
アトラタは下半身を見つめた。
―――指摘の通り、アトラタのイチモツは再び肥大化し始め、天へそそり立とうとしていた。
慌ててアトラタはパンツとズボンを腰に挙げて隠し、否定の声を挙げた。
「ち、違うっ!? これは絶対っ!!」
「強がり言って、どこまで持つのかしら。そろそろ最後の仕上げ、私の顔が狼になる所、よく見ていてぇ」
そして背中から立ち上がり四つん這いとなったフェーレースは瞳を閉じ、再び力む。
すると首辺りまで止まっていたはずの毛が浸食を再開した。
彼女の喉元、おでこ、口、鼻まで浸食し、遂に顔全体が銀色の毛に染まってしまった。
次には顔の下に当たる、口と鼻の箇所が前へと飛び出てくる。
「はあっ♥ はあっ♥ はあっ♥」
口から覗けられる人間の歯は鋭い牙へと変わり、鼻は黒くなるとまん丸い動物特有の鼻へと変わっていく。
最後に彼女の、銀色の髪の毛は縮み始めた。
だが完全には無くならず頭部の後ろあたりに収まるぐらいまで縮んでいった。
そして彼女の目が開けば、もう変化は終わった証だった。
「ふふっ♥ 完全に狼になっちゃたわ。さあ始めましょうか、楽しい楽しい、追いかけっこを♪」
今目の前にいるのは五体満足の、人間だったはずのフェーレース。
されど彼女は今、狼に変身していた。
外見は狼特有の四本足、ふさふさとした尻尾、鋭い牙を持った口と特徴は狼のそれだったが少しだけ違う。
人間時にあった腰まで届く銀色の髪の毛は狼の後頭部から生え、狼の首元辺りまでに収まっている。
印象的な金色の瞳もそのままで本当に彼女が変身したのだと実感出来る。
だが関心している場合ではない、もう逃げなければいけない。
「さあ、襲っちゃうわよぉ♥」
狼となったフェーレースが飛び掛かる。
すかさずアトラタは横に避けると玄関の扉まで走った。
だがそれよりも素早く彼女は先回りして彼の行く手を遮る。
脚力が、素早さが違いすぎる。
これでは簡単に追いつかれてしまう。
辺りをきょろきょろと見渡すと窓の一つが開いていた事に気が付いた。
次に何かないかとポケットを探ってみると丸い何かが指先に接した。
それは煙玉だった。
今日の訓練でこれを行う予定だったから持参していたのだ。
その数は3個、これならいけるとアトラタは思った。
「いただきま〜すっ♥」
すかさずアトラタはその中の一つをを取り出し、それを床元に向って投げつけた。
たちまち煙が発生して、視界が遮られる。
煙で遮られてもルートは覚えている。
この隙にアトラタは開いていた窓へ一直線へと走り抜け、窓のふちに足をかける。
勢いよく乗り越え、外に出た彼はそのまま森の奥へと駆けていく。
兎に角走れば良かった。
森の外に出ればこちらの勝ちなのだから、と。
煙幕が消え狼となったフェーレースの顔―――狼となった彼女の顔は読み取れないが例えでの話だ―――には焦りの色がない。
むしろこの状況を楽しんでいる様な表情だ。
「ふふっ♪ 逃げられると思っているのかしら。私は一度決めた男は逃さないんだから」
フェーレースは狼の飛距離を活かし、余裕で窓枠を飛び越え外に出る。
「次は・・・この子がいいかしらぁ」
そう呟いた彼女の体は再び変化し始める。
ふさふさとした毛はそのままだったが狼の尻尾が潜る様に消えていき。
代わりに出てきたのは短い尻尾、鳥の羽で構成された尾だ。
後足で立ち上がり、前足を横へと広げれば両脇から鳥の羽が生えていき、両腕に収まらない程の大きな翼となる。
次に後足が縮んでいき、短い脚へとなれば。
脚の指先が伸びて、鋭い爪へと変わっていき。
更にぴこんと生えていた両耳が消えていき、口が鳥のくちばしに覆われる。
されど頭部に少しだけ残っていた銀色の髪の毛、そして金色の瞳はそのままだった。
「さて、どこまで行ったのかしら?」
そう言いバサバサと両腕を羽ばたかせ、彼女は飛び立った。
♢♢♢♢♢♢♢♢
全速力で駆けていくアトラタには余裕の表情はない。
何しろすぐに彼女は追ってこれるのだから。
けれど彼はその足を遅くした。
ふと空を見上げたらと何かがこちらへ向かって来ているのだから。
「なんだ、あれ?」
そう呟いていた矢先、空を舞っていた何かが急接近してきた。
それもかなりの速度で、獲物を捕らえるかの如く。
「のわっ!?」
何とか避けられたが地面へと尻をついてしまった。
「あら♪ よく避けられたわねぇ」
鳥のくちばしからフェーレースの声が。
見れば頭の後頭部辺りから銀色の髪の毛が生えている。
それに体格がハトやカラスなんかよりずっと大きい。
こんな鳥は何処にもいないだろうから、フェーレースが変身しているのだとアトラタは直感した。
―――な、何にでも変身出来るのかよっ!?
その事実にアトラタは驚愕すると共に、心の何処かで興奮していた。
「このまま私の家に持ち帰ろうと思ってたのに」
そう言いながら翼を羽ばたかせ木々の枝に着地する。
「もしかして鳥なのか!? そんなでけえ鳥なんていねえだろ!!」
「まあタカになっているんだけど、こんな大きいタカなんているはずないわね」
そしてまたフェーレースはその翼を羽ばたかせ彼へと迫ってくる。
アトラタは迷ったが一瞬だった。
彼女から振り切るには、もうなりふり構わってられないからだ。
ポケットの中にあった煙玉を一つ握りしめる。
立て続けに二つも使う事になるとは思ってもみなかったが仕方ない。
「くらえよっ!!」
アトラタはその煙玉を地面へと叩きつけた。
その拍子に煙幕が発生する。
すかさずアトラタは目についた茂みの中へと隠れ、息を殺した。
その茂みから両目をこしらせ、フェーレースの反応を待った。
「あら? また煙幕? という事は逃げたって事かしら? どこかしらぁ?」
そう言い彼女は周囲をしばらく飛び回っていたがやがて遠くの方へと飛んで行った。
茂みの中から飛び去る姿を見届けたアトラタは軽くガッツポーズをした。
「よっしゃ・・・」
だが助かった、という気持ちはしない。
彼女が自身を見失った隙に脱出しなければ本当の意味で助かったという意味にならない。
ここは彼女のテリトリー、まだまだ道は長いのだから。
♢♢♢♢♢♢♢♢
少しだけ時は前に遡る。
そこは川の岸辺。
フェーレースはバサバサと翼を羽ばたかせて岸辺へと着地した。
「この先は小川、貴方が時期にここに来るのは分かっているから先回りしたの」
いないはずのアトラタに向けてそう呟いたフェーレースはその短い脚を動かし、川の方へと近づくと。
「それじゃ、水辺の動物になっちゃいましょうか」
そしてまた、彼女の肉体が躍動し始めた。
特徴的だった両翼の羽毛が彼女の体へと沈む様に消えていく。
と思えば、次には爬虫類を思わせる固そうな皮膚へと変わっていく。
翼となっていた両腕は縮み始め、その先端には指先が生えてきた。
鳥の短い脚となっていた両足も同じだ。
かぎ爪が膨れ上がり陸上の動物特有の指足へと変わり。
次には鳥の尻尾が消えていき、次には固そうな尻尾が尻から伸びるように出てきた。
そして中型だった体系がどんどん膨れ上がっていく―――
「ふふふ、こんな姿見たらどんな反応するのかしら」
そう呟いていた彼女のくちばしが大きくなり、平べったくなるとその口の中から鋭い歯が生えてきた。
フェーレースはその巨体となった体を動かし川の中へと潜り込み、そして沈んでいった。
♢♢♢♢♢♢♢♢
アトラタは自分の体が水分を求めていた事に気付いていた。
何しろ犯されるわ、襲われるわの連続だったのだからあの時飲んだお茶の水分などとっくに切れていたのだ。
このままでは歩けそうにない。
少しだけふらふらの両足に活を入れて、辺りを彷徨い続けていると偶然にも小川を見つけた。
かなり澄んだ小川で水の底まで透けて見えた。
アトラタはすぐに両手でお椀を作り、水をすくった。
口元へと運び、飲み込んだ。
「んぐっ・・・」
冷たい水が喉元を潤し、彼の熱くなった体を冷ました。
冷静な思考も体力も徐々に取り戻してきた。
「で、これからこの森をどう抜けようか・・・」
目印とかもなくこのまま歩き続けるのは無謀だが彼女から逃げるにはそれしかないのだ。
となれば持久戦しかない。
野宿を繰り返し、彼女から振り切りながら森を抜け出そうかと考えていた、その時。
「んっ・・?」
アトラタは気づいた。
水中の中に巨大な何かが泳いでいた。
水越しだったが大体の体格とかは分かる。
四本足の動物。
固い皮膚に覆われ、長い尻尾がお尻の辺りにくっ付いている。
そして口だと思われる個所は大きく突き出ている。
―――ワニ!?
そもそもワニは暖かい水辺とかに住んでいるのであってこんな小川にワニなどいるはずもない。
だが外見からすれば、あれはワニでしか考えられない。
何故こんな川に住んでいるのか!?
アトラタは混乱していた。
『ザバーンッ!!』
水しぶきが挙がると同時に、ワニらしき動物が飛び出した。
そこで全体像が浮かび挙がる。
硬そうな表面と短い四本足、大きく突き出た口。
だがその金色の瞳、そして後頭部から出ていた銀色の髪の毛―――更に表面の色が銀に覆われていた―――で一瞬で理解できた。
――――フェーレースだ!
「はあい♥ 今度はワニになって貴方を襲っちゃうわぉ♥」
そう言いフェーレースはその巨大で鋭い歯がびっしり生えた口を開き、彼の頭をかじろうとする。
即座にアトラタは首を引くと、獲物を逃がした彼女の口から歯同士がぶつかる様な音を立てた。
「大丈夫。噛まれても血は流れないの。代わりに立ってられない程の快感が走っちゃうけど♪」
「だったら余計怖えよ!?」
アトラタは再び森の方へと走っていく。
彼女は四つん這いになり追いかけるが人間の脚力にはかなわない。
加えてアトラタには例える事が出来ない恐怖に支配され否応にも足の速さが挙がっていた。
すぐに距離が開き、数分もすればアトラタは森の中へと消えていった。
獲物を逃がしたというのに彼女はすぐに追おうとする気配はない。
「あらら、森の中に逃げちゃった」
姿のまま追っても構わないがどうせなら森に相応しい動物へと変わって追いかけようとフェーレースは決めていたのだ。
「森の中なら、この子ね」
短くなった後ろ足で立ち上がると前足がブルブルと震え始めた。
脚と同じだった短い前足が長くなっていく。
両手は両腕よりも太く、大きくなり、両肩に小さい力こぶが出来上がり剛腕の両腕となる。
ワニの特徴である大きな口と顎は縮んでいくと骨格が躍動し始めた。
その背より半分くらいになるが横に広がりたくましい背中に。
固い表面で覆われていた皮膚が、銀色の毛に覆われていく。
「もお〜。女なのにたくましくなって困っちゃうわぁ、ウホホッ…」
♢♢♢♢♢♢♢♢
木々が生い茂る森の中をアトラタは駆けていた。
走りながらアトラタは自身の後ろを振り返ってみると。
―――あいつは追って来てないな。
だが油断はしない、追ってこないのなら距離を離せる機会だ。
されどその時間はあまりにも短かった。
「う〜ほっほっほっ〜!! 見つけたわぁ〜!!」
心臓が飛び出てしまう程、驚いた。
フェーレースの声だ。
雄たけびを上げて、しかも上の方から聞こえてきた。
木の上を見上げると木から木へと何かが飛び移っている。
恐らくその何かはフェーレースなのだろうが。
「何の動物なんだよ!?」
アトラタの前方にドスン、と何かが降りてきた。
強靭な両腕に太い指先。
両足は両腕と半比例して短く二の腕よりも小さい短足だ。
全身は銀色の毛に覆われ、体格も自分とほぼ同じ。
まるで雪山とかに伝わる伝説上の生き物、イエティみたいだ。
そして当たり前の様に金色の瞳と後頭部から銀色の髪の毛が生えていた。
「う、ほほっ!! うほほっ!! ゴリラの素早さに逃げ切れるかしら♥」
そう言いながらゴリラとなったフェーレースは体を反らし、胸板を両手で叩きドラミングさせる。
「ん、んなっ!?」
怖気づいたアトラタは反対側の方へと逃げる。
だがフェーレースが彼より早く先回りし通せんぼされた。
「ゴリラって、そんなに素早かったのか!?」
「ゴリラだっていざとなれば素早くなるの。このまま異種プレイでもしちゃおうかしら♥」
そんなのは絶対に御免だ。
何が何でも逃げなければならない。
だが具体的な案が思い浮かばなかった。
残っていた最後の煙玉を使おうかと考えたがそれは一時しのぎに過ぎない。
絶対に逃げ切れると思った時まで取っておくべきだろう。
ならどうするべきか。
どうやって逃げるか考えながらアトラタは後ずさる。
その度に彼女が一歩踏み出す。
(ええいっ!! 何かねえのかっ!?)
そこでアトラタは周囲を見渡すと丁度いいサイズの枝が落ちていた。
練習場で使っている木刀ぐらいの大きさだった。
たまらずそれを手に取った。
女性に手を挙げるなど気が引けるが今はこれしかない。
「とりゃああ!!」
彼女の顔面目がけて、アトラタは声を挙げながら枝を振り下ろした。
だが寸前で彼女は枝を掴む。
「はい、残念♪」
そして片手の腕力だけで棒を握りつぶし、粉々にさせる。
その光景にアトラタは心底恐怖した。
「今の私はゴリラ。この腕力の前じゃ丸太でも持ってこない限り駄目よ♥」
彼は再び2、3歩後ずさる。
必死に頭を回転させて逃げる術をまた模索していた。
次の一歩でぬるっとした感覚が右足に走った。
見ると地面がぬかるんでいた。
その地面にアトラタは閃いた。
すぐさま両手でそのぬかるんだ地面をすくい、泥だんごを作った。
「う、ほほほっ!! いただきます〜!!」
とびかかる直前、彼女の両目に目がけて泥だんごを投げつける。
「きゃ!!」
見事に泥だんごは彼女の顔面にヒットして彼女の視界を奪った。
その隙にアトラタは全速力で走り抜ける。
だがこのまま走っても彼女に追いつかれる。
ならば隠れて逃げればいいのだが、そんな都合よく隠れ場所を見つけられるはずがない。
(どうかこの時ぐらい加護してくれよ、神様!)
その願いが通じたのか定かではないが走っている途中、大木の一本の根っこ辺りに洞穴みたいな空洞がぽっかりと空いていたのを見つけた。
じっくり考えている暇はなかった。
入り口は狭かったが中は大人一人が入れるぐらいのスペースがあった。
体をよじらせ、中へと入り込んだアトラタ。
息を殺し、彼女が通り過ぎるのを待った。
数秒すると足音が聞こえてきた。
言うまでもなくその足音の主は。
「何処に隠れているのかしら〜。大人しく出てきなさい〜」
そう言われておとなしく出てくる者など誰一人いない。
アトラタは両手で口を覆い、呼吸の音すら消そうとした。
そして自身の体がはみ出し、彼女に見つからないよう体をくねらせ入り口から見えないよう体制を取った。
「仮にも女の子の目に泥をかけちゃんたんだから責任は取らないと〜」
痛いところを突いてくるがここで出てきても彼女に捕まるのが関の山。
どんな台詞を吐こうがアトラタは出てくるつもりはない。
(是が非でも出てくるかよ、馬鹿野郎っ!!)
暫くしているとフェーレースの声が響いてきた。
「う〜ん。もしかして、木の裏とかに隠れているのかしら〜。だったらあの子になっちゃうわよぉ〜」
また別の動物に変身するのかとアトラタは生唾を飲む。
しかし彼女が一体何の動物になるのか見当付かない。
だが確実に自分を探し出す為の動物になろうとしているだろう。
「ああんっ♥ 尻尾が出てきて...、私の毛が...♥ あんっ♥ きゃ♥ うん、ううん♪」
淫らな声色をわざと挙げていたフェーレース。
自分に聞かせて興奮させようとしているのか。
いや、そもそも自分がこの周囲にいるのだろうと考えているのだろうか。
「分からないかしら。ならヒント、四本足の動物っ♥」
その声は唐突だった。
不意に投げかけたフェーレースのヒントとやらは。
それを受け取ったアトラタは考え始めた。
四本足の動物?
それだけでは検討すらつかない。
そもそも4足の動物など沢山いるではないか。
「これでも分からないわね。ならもう一つヒント、大きな動物。ゴリラよりも、ワニよりも大きな動物になっているのぉ」
大きな動物っ!?
それを聞いたアトラタは戦慄した。
そんな巨体の前では自分は何も出来やしない。
「ああん♥ 耳が大きく...鼻がどんどん長くなって...♥」
恐怖が体中を支配し、冷静な思考が出来なくなっていた。
どんな動物なんだ、そして自分が出せる最良の選択は。
アトラタが出せた選択肢は一つだけ。
息を潜め、やり過ごすしかない。
フェーレースに気づかれないように。
やがて死刑宣告とも言えるフェーレースの声が響き渡る。
「変身、完了〜。さあ、探しちゃうわよ〜」
『ドスンッ!、ドスンッ!』
地響きが森に鳴り響いている。
かなり大型の動物になったのだろうが一体何の動物になったのだろうか。
この時だけ何故か、冷静な思考が出来たアトラタは頭の中でフェーレースが述べたヒントを並べていく。
―――四足の動物で。
―――耳が大きくて?
―――鼻が長く?
どんな動物なのだろうか?
心当たりがないな、などと最初は思っていたが次に一つだけ思い出した。
確か鼻が長い四本足の動物と言えば・・・。
『メキメキメキッ!!』
その続きを思い出そうとしていた所でこんな音が聞こえてきたのだからすぐに思考が消し飛んだ。
何の音だろうと恐る恐る覗くと眼面に見えていた樹木の一本が空へと上がっていく。
まるで上から引っこ抜かれる様な感じに。
動物の中であれだけの怪力を発揮出来るのは一体だけ。
(嘘だろ、おい!!)
そう思っていた矢先、自身が隠れていた樹木が上がっていく。
「のわっ!?」
その拍子に樹木の中から放り出されたアトラタはその顔を挙げる。
そして目の前にいたのは。
「見・つ・け・た♥」
その姿に唖然とした。
自分の3,4倍はあるだろう巨体。
ずっしりと重たそうな4脚。
時折後ろからちらつかせる尻尾が何故か可愛らしい。
当たり前の様に頭部の後ろ辺りからは銀髪が生えて、金色の両目が頭部の真横に付いていた。
最大の特徴は頭からはみ出ている大きな耳に、鼻辺りの左右には立派な二本の角が。
そしてその太く長くなった鼻に巻かれていたのは隠れ蓑にしていたあの巨木。
フェーレースは象になってその力で引っこ抜いていたのだ。
「パッ、オオオォーンンッ!!!! どうかしら、象さんパワーで木々を引っこ抜いていったの。まあ、貴方の匂いは覚えているから象さんにならなくても良かったんだけどね」
そう言いフェーレースは象の両前足を挙げて自慢してくる。
ただのアピールのつもりだろうがアトラタには恐怖を刺激する姿でしかない。
「なら何で象なんかに!?」
「私に変身出来ないものはないって証明よ。象にでも、蛇にでも、後は大きな竜とかにでもなれるんだから♥ でもなるべくなら竜にはなりたくないわね。私、人間たちを怖がらせたくないもの」
十分今の自身を怖らせているのだが、という指摘をする暇はない。
あの巨体の前には太刀打ちできない。
ならばアトラタは迷わず逃げ出した。
「逃がさないわよ、パオオォーンンッ!! なんちゃって♪」
ドスン、ドスンと音を立てながらアトラタの後を追いかけるフェーレース。
息を切らしながらアトラタは走り続けるが後ろを振り返れば象となったフェーレースはその巨体を走らせている。
あの巨体にぶつかったらひとたまりもない。
時折、木々にぶつかっても痛がる様子もなく踏み倒して進んでいくフェーレースの姿にアトラタは恐怖していた。
だが幸運にも木々が生い茂るこの場所で象となった彼女は、その巨体で木々を押し倒すしか進められない。
だから彼との距離はみるみると離されていくのだ。
「あら、象さんじゃ体が大きくて木々にぶつかっちゃうし遅いわね。木々が邪魔ならぜぇんぶ、なぎ倒しちゃっおうかしら♪」
「なぎ倒す?」
「貴方も見たいでしょ、私の変身。ならゆっくりと見せてあげるからもう少し近くに寄っていいわぁ」
遠目だったが彼女の外見が変化していくのが分かる。
自分の3,4倍あった巨体はみるみる小さくなっていく。
だがそれでも十分大きな体だ。
自分より一回り大きいぐらいのサイズまで小さくなったのだから。
特徴的だった長くなった鼻と大きな耳は縮んでいく。
やや丸みを帯びた象の背中が角ばっていく。
だがゆっくり鑑賞している暇はない。
この際に逃げなければというよりも逃げるには絶好のチャンスだったのだから。
名残惜しい気持ちを押し殺し、アトラタは走り出す。
「ああん♥ 私が変身している時に逃げないでよ〜。いけずぅ」
遠くからフェーレースの声が聞こえてくるが構う暇などない。
「貴方に対してのサービスだったんだけど、逃げるならゆっくり変身する必要はないわねなら一気になっちゃうからぁ♥」
「しまった!?」
愚策だったかと思ったがもう遅い。
こうなれば少しでも距離を離すしかない。
だから必死にその両脚を働かせ逃げた。
ものの数秒後、フェーレースの声が聞こえてきた。
「さあ、追いかけちゃうわよぉ」
もう変身完了したのかとアトラタは危惧した。
だが距離はかなり離したはずだ。
後ろを振り返れば彼女の姿が見えないのだから簡単には追い付けな・・。
『ガサ、ガガガサッ!! ドーンッ!!』
樹木が倒れていく様な音が聞こえた。
何事かと振り返ればこちらに一直線へと走ってくる動物らしき影が。
その影は樹木の一本へとぶつかるが、逆にその樹木をなぎ倒したのだ。
それが次々と真横へと倒れていったのだから異様でしかない。
一体何の動物に変身したのだろうかとアトラタは目を凝らすと。
見えてきたのは、象と同じ四足歩行の動物だった。
体格は自分より一回り大きいぐらいで、その顔は飛び出ていて、先端には大きな角が一つ。
背中はやや丸みを帯びた象よりも角ばっている。
4足はぶ厚い皮膚で覆われていて、象の足よりも堅そうだった。
そして当然の様に後頭部から銀髪がはみ出て、金色の妖しい両目がこちらへとむけられていた。
その姿はまるで自然界の重戦車だった。
そう、フェーレースはサイになって追ってきているのだ。
「ほらほら♥ サイになった私は止まらないわよぉ♪」
木にぶつかってもそれを蹴散らし、スピードを落とさず、行く手を遮る物全てを破壊しながら獲物である自分に目がけて爆進していく。
たまらずアトラタは脚のスピードを挙げ、差を広げようとするが。
脚の違いか、それとも体力の違いかじわり、じわりとフェーレースとの差が狭まっていく。
気が付けば自身との距離は数メートル程度。
しかも彼女は息切れは疎か鼻歌混じりで猛進してくる。
逆にこちらはもう息を切らしながら必死に走っていた。
これでは彼女にぶつかるのは時間の問題だった。
「ほらほら、このまま貴方にぶつかっちゃうわよ♥ でも安心して、怪我したらすぐに治してあげるから」
「安心なんて出来るか!! 治療と称して俺に快楽とかのヤバい魔法かけるんだろ!?」
「そんな事しないって。私が付きっきりで看病してあげるから♥ 絶対命は取ろうとしないから」
看病もとい自分を拘束するという事だろう。
だが自身の足が限界だ。
逃げ切れないと思ったら絶体絶命の文字が頭に過った。
(く、くそっ!! 駄目だっ、振り切れねえ!!)
心臓が破裂しそうになったアトラタは気づいた。
このまま走れば約10メートルぐらい先で、道が途切れていた。
途切れていたのは、恐らくこの先が切り立った断崖なのだろう。
その先が奈落の底か、はたまた木々が覆い茂っているだけなのかどちらでもいい。
もしかすると断崖ではないのかもしれないが悩んでいる場合ではない。
瞬時にアトラタは後ろをちらっと振り返る。
「看病♥ 看病♥ どんな事して挙げようかしらぁ♥」
そんな事を口ずさみながらその重足で走っているフェーレース。
どうやら彼女は気づいていない。
こうなれば一か八かやるしかない。
アトラタはくるっと回れ右をし、両足をドシっと構えた。
「あら? もしかして受け止めるつもりなのかしら? そっか、諦めて私を抱きしめたいのねぇ♥」
「お、おうそうだ!! 全力で受け止めてやっからかかってこい!!」
「ふふっ♪ なら力加減はしてあげるから安心してぇ。そのまま私の家に帰りましょう♪」
上機嫌で語るフェーレースはスピードを落とさす襲ってくる。
アトラタは待った。
もう少しだ。
もう少し近づければ。
「と〜〜つ、げ〜〜き〜〜♥」
―――今だ!!
すぐに煙玉を取り出し地面へと叩きつける。
煙が上がると同時に真横へと飛ぶ。
勢いを殺せないままフェーレースは煙が立ちこんでいる中を突っ込んでいく。
やがて煙幕の中を突っ切ると同時にフェーレースは気づく。
「あら?」
下が地面ではなく空中であった事に。
「きゃあああああああぁぁぁ!!」
重力の法則に従って、巨体の彼女が下に落ちていく。
『ザッバアアァァンンッ!!』
派手な水しぶきが上がる音がした。
一体どうなったのかとアトラタは崖を覗き込み、暫く傍観した。
見れば崖の下は川になっていたようだ。
水面にブクブクと泡が噴き出していたが彼女は浮かび挙がってこない。
5分待ってみてもやはり挙がってこない。
やがて泡が吹き出さなくなると、アトラタはやっと安堵出来た。
「は、はは・・・。助かった・・・な」
けれど彼の顔はどこか浮かない。
不可抗力とはいえ女性にこんな仕打ちをしてしまったのだから。
けれど助けようとする気持ちは起きない。
助けたらまた自分に襲ってくるのだと思ったら手が出せなかったのだ。
だから心の片隅に罪悪感というものが生まれたのだ。
確かにフェーレースは自分を襲おうとした張本人だが自分の命を奪おうとはしなかった。
アトラタは答えられなかった。
後ろめたい気持ちを残しながらアトラタは歩き始めた。
彼女から逃げられたというのにその足取りは何故か重かった。
♢♢♢♢♢♢♢♢
ばしゃばしゃ、と水音を立てながら川から浮き上がり、そのまま泳いでいた一体の、いや一人の動物がいた。
その巨体を揺らしながら岸辺に上がってきた彼女はその口を開いた。
「もうっ!! 酷いわぁ…。女の子を騙すなんて」
両足を交互に動かしながら犬かきならぬサイかきをしながらフェーレースは陸へと上がってきたのだ。
されどその顔には騙されて怒っているような顔ではない。
体をブルブルと震わせ、体の水滴を払いのけた。
「このまま追いかけてもいいけれど。やっぱり魔女と言ったら・・・」
そう言うとフェーレースの体がまた躍動し始める。
サイの鋼鉄そうな皮膚に、ふさふさの毛が生えていく。
その毛が更に尻尾までもふさふさの毛が。
次に彼女の鼻辺りからヒゲが6本生えると同時にサイの両耳がピコンと立ちあがる。
そしてその巨体はみるみると小さくなっていく――――
木々が生い茂る森の中、そこを歩く者が一人。
歳は20代後半、手ぶらで胸当てと肩当てを身に着けた軽装の男性だった。
ふと、男性は歩みを止めると口を開いた。
「おかしいな? 何で俺、こんな所で迷ってんだ?」
本日5回目の台詞である。
きょろきょろと顔を動かしてみるが見えてくるのは樹木の大群だけ。
一向に隣町の景色が見えてこなかった。
「このままじゃ遅れっちまうな。どうすっかな〜」
短髪の黒髪を頭をかきむしりながら困り果てていた。
その顔は勇ましいながらも青臭さを残していた彼の名はアトラタ。
反魔物主義の騎士隊に所属している訓練生である。
基礎体力及び知識は平凡だが、それでも訓練生だからそれなりに力はある方だ。
彼は今、自分が住んでいる町から隣町にある訓練場まで通っている最中なのだ。
その道中で何度もこの森の中を歩いていて、もう頭の中にマップが描かれていたはずなのに何故か今日だけこうして道に迷ってしまった。
歩けど歩けど、抜け出せない。
何分もこの森で迷っている気がした。
心なしか森の中は薄暗く時折、カラスの鳴き声が聞こえてくる。
何か不吉な予感がしたが持ち前の前向きな思考ですぐにかき消した。
「いやいや、変な考えはよそう」
真っすぐ行けば出られるはずだ。
そう思い続けていたから遅れて指導官に叱られるなどというネガティブな思考を忘れる事が出来た。
再びアトラタはその足を動かし始めた。
絶対に抜け出せるはずだ。
そう思いながら。
♢♢♢♢♢♢♢♢
暫く歩き続けると、目の前に一軒の小屋を見つけた。
昔ながらの屋根が藁、外壁が木材で出来ていた。
やや古ぼけている家だが決して寂れた印象はしない。
見ると屋根の煙突から煙が噴き出ている。
人がいるという証だ。
この際だ、住んでいるであろう人間に道を尋ねてみようとアトラタは考えた。
家の前に近づき、扉の前に立つとアトラタはノックした。
『コン、コン』
暫くすると鈍い金属音と共に扉が開いた。
「はあい、お待たせ〜」
清楚だがどこか媚びている様な声と共に出てきたのは一人の女性だった。
そこでアトラタは息を呑んだ。
思わず見とれてしまいそうな顔の美しさだった。
一見すれば儚い印象を持たれそうな乳白色の顔たち。
だがそれが逆に真珠の様な美しさと眩さを放っている。
チークや口紅といった余計な化粧はしていなかったのも美しさの要因だった。
瞳の色は金でさらさらとした銀色の髪が腰辺りまで伸びていた。
女性らしい細身としなやかさで、余計な脂肪が一切ない体つき。
袖のない黒を基調としたノースリーブ、下のミニスカートと一体化しており扇状的な印象を与える服を着ていた。
黒のブーツに黒のタイツは膝辺りまで覆われ、中でも一番興味を引いたのは彼女の、その両腕で抱えられるくらいの豊かな胸。
そこにぴっちりと張り付いていた服地、しかし胸全体を覆っている訳ではなく真横から覗けばその胸が素肌を晒していたのだ。
アトラタは本能的にその美貌と妖艶さに見とれ、思わず呆然としてしまった。
慌てて視線を彼女の目線の方に戻し、一つ咳払いをした。
「す、すいません。どうやら道に迷っちゃったようで。その、道を教えていただければ、と」
元々礼儀さやら敬語とか無縁だったアトラタは慣れない丁寧語を使って尋ねるのは精神的に苦痛であった。
決して彼は粗暴とか野蛮な性格とかでなく、ただ気兼ねに声をかけたいだけなのだ。
堅苦しい敬語など抜きで、身分とか関係なく他人と話したい性分なのだ。
されどアトラタには出来ない、正確に言えば出来そうにないのだ。
いないのは分かっているのだが親からの叱責が、周囲からの目が光っているとなれば。
「あらあら、迷っちゃたの?」
「は、はい・・・」
「それは大変。歩き回って疲れているでしょう? 良かったら上がって」
「え? いや、自分はここで道を教えてくれれば」
そもそも一人暮らしの女性の元に男性が上がり込むのは色々不味いであろうとアトラタは考えていたが。
「道は教えるわ。その為に上がってほしいの」
何だそういう事だったかとアトラタは納得した。
こうして自分が迷ったのだから、かなり複雑な道筋なのだろう。
そうなれば立ち話ではなく、家の中でゆっくりと教えなければならなければならないと彼女は考えたのだ。
だからアトラタは彼女に勧められるがまま、家に上がり込んだ。
「さあ、上がって」
「お、お邪魔致します・・」
そう言いアトラタは入り込むと、中は結構広かった。
整理された本棚に、クローゼット、テーブルに椅子と一通り生活必需品が揃っている。
一見すれば規則正しい生活を送ってそうな人間の家だが窓の片隅には枯れて茶色に染まった植物が一つ。
そして彼女一人が寝るには大きすぎる程のベッドが不自然であった。
彼女はテーブルの椅子を引いてアトラタをそこに座るよう促した。
一礼した後、アトラタはゆっくりとその椅子に座り込んだ。
「一人で、住んでいるんですか? 大変です、よね」
たどたどしい敬語で質問したのだから彼女は違和感を感じて首を傾げるのではとアトラタは考えていた。
しかし彼女はアトラタの不慣れな敬語に気にせず、話に応じてくれた。
「いえ、好んで住んでるの。人が多い場所は苦手だから」
そう言い彼女は台所と思わしき場所へと向かい、ポットを手に取る。
「お茶でいいかしら?」
「え? いや自分は道を、教えてもらうだけでいいので」
この時アトラタはまだ彼女に対して警戒していた。
何しろいきなり見ず知らずの男が訪ねてきたのだから、普通の女性だったら自分を怪しがって家に入れるというのはまず考えられない選択だろう。
にも関わらず自分を家に招き入れ、あまつさえこんな見知らぬ自分にお茶を出すというのは人が良すぎるのではないか。
だからアトラタはそれを断ろうとしたのだ。
「あら? 折角、人からのご好意を断るのは無礼じゃないかしら? 時にはお言葉に甘えて受け取るのも礼儀というものよ」
そう指摘されたアトラタは少しだけ迷った。
確かに言われてみればそうかも知れない。
自分の都合一つで彼女の機嫌を損ねてしまっているというのは少々無礼だし、我がままというものではないだろうか。
時に好意を甘んじて受けるのも礼儀の一つだろう。
それに絶対に飲んではいけないというこれと言った理由もなかった。
ならば、と考え直したアトラタは。
「じゃ、・・・一杯だけお願いします」
好意に甘えるが自制という言葉を忘れずに、彼女へ頼んだ。
それを聞いた彼女は少しだけ微笑むと。
「任せて〜」
そう言い彼女は台所らしき場所からコップを二つ取り出した。
次にポットに水を注いでコンロの上に置き、火を付けると。
数秒もしないうちにポットから湯気が出てきた。
その光景にアトラタは少しだけ驚いた。
何しろ沸騰するには数分もかかるものだから、こんなすぐにお湯が沸くなどありえない。
「もう沸いたんです、か?」
「魔法のポットよ。数秒すればすぐに沸騰する代物だから」
それを聞いてアトラタは何の疑問も持たず納得してしまった。
(こんな便利な物があるんだな、俺も今度探してみようか)
そう思ってしまうほどアトラタは単純だった。
そして彼女はコップを二つ取り出し、ポットの中身を注いでいく。
コップの方を見ればマグカップで一方は水色、もう一方は桃色をしていた。
その色にアトラタは少しだけ気になった。
何だか男女のカップルが使いそうなマグカップだったから。
その時は邪推だなと思っていたが。
「はい、どうぞ」
彼女が水色のマグカップを差し出した。
中身を見れば緑色に染まった液体でまったりとした臭いが鼻を刺激した。
「いただき、ます」
お辞儀をしてアトラタはその縁(ふち)に口を付け、一口飲んだ。
味わい深い渋みが口に広がり、アトラタの心を落ち着かせる。
「自己紹介がまだだったわね。フェーレースよ」
「俺・・じゃなかった、自分はアトラタと言います。隣町にある騎士団の訓練生として通っています」
「未来の勇者様って所なのかしら? 立派ね」
「まさか、騎士辺りがいい所ですよ。自分はそこまで」
「じゃあ騎士を目指しているの? だったら腕は相当なものよ。自分に自信を持ちなさい」
「自信・・・そう、ですかね?」
「そうよ。人間なんて自信一つで変われるものなんだから」
そう言いフェーレースが朗らかな笑顔を見せれば、アトラタも釣られて笑みを見せた。
「そう言ってくれるなら、ありがたいですよ。自分、成績とかはあんまり」
「成績なんて人の勝手よ。個人は個人。自分の好きなように生きるのもまた良いものよ」
「好きなようにですか。してみたいですね」
あははっ、と少しだけ気の緩んだ笑みを見せるとフェーレースも笑みを返した。
こうして会話は弾み、アトラタはすっかり彼女に対する警戒心を解いていた。
何故か彼女と話していると口調が砕けて穏やかな気持ちになれた。
加えて訓練場で男ばかり接し、女とはあまり接する機会がなかったアトラタにとって彼女の存在はまるで砂漠の中に見つけたオアシスの様に癒されるのだ。
ありのままの自分になれて気持ちが楽になる。
だからこの時、アトラタは思ったのだ。
(こんな人が俺の傍にいてくれたらな・・・)
そんな夢心地な時間を過ごしたのだから、アトラタは自分が今遅れているという状況を忘れそうになった。
「・・なるほどねぇ。今は訓練生なの?」
「だからこうして訓練を受けに・・」
そこでアトラタは気づいた。
自分は今訓練場へと向かっている最中だという事に。
「ああ、すいません。自分はもういかないと・・・」
そう言いアトラタは椅子を引いて立ち上がろうとした。
「ちょっと待って」
その台詞と同時にフェーレースは右手を挙げた。
彼を引き留めるか、あるいはもっと別の何かを伝える為に。
「・・・ごめんなさいね。私、貴方に伝えなきゃいけない事が二つあるの」
「何を言っているんですか? 伝えなきゃいけない事って。・・・ああ、道ですか? そうですね。出来れば教えてっ・」
「ううん。その必要はもうなくなったの。貴方にとっては・・・」
それを聞いたアトラタの顔は怪訝で、不思議そうな顔をした。
「必要ないって?」
「貴方は道に迷ったって言ったけど、それは間違い。貴方は私の手によって迷い込んでしまったの」
彼女の手によって自分は迷い込んだ?
いや、自分が勝手に迷ってしまったというのに何故そんな事を。
アトラタの頭が追い付かなかった。
だからアトラタは彼女の台詞に口を挟まず、ただただ首を傾げていた。
「それともう一つ。さっき好んで住んでるって言ったけど・・・訂正するわ。もう一人じゃなくなったから全然さみしくないの」
ますます頭が追い付かなかった。
一人じゃなくなったからさみしくない?
彼女が迷い込ませた事ともう一人じゃないという事、それら全ては一体どういう事なのかとアトラタは尋ねようとした時。
―――不意に自身の体がよろめいた。
「あれ? 体が・・・」
凄く重い。
足を動かそうとしても上がらない。
指先も痺れているようだ。
次第に体の感覚が薄れ、床へと倒れこんだ。
立ち上がろうにも体に力が入らない。
口を動かし喋ろうとするも、言葉が出ない。
薄れゆく意識の中、アトラタは見た。
フェーレースの表情を。
頬が赤く火照り、口元をニヤリと尖らせ、悦楽の眼差しで自身を見つめていたのだ。
まるで大好きな獲物を捕まえたかのような、そんな喜びを隠しきれていない表情だった。
「そう、もう一人じゃないのぉ・・・」
その表情を見届けた後、アトラタの意識は闇に包まれた。
♢♢♢♢♢♢♢♢
次に目を覚ましたアトラタは朦朧としていた。
だが無意識で体を動かそうとする条件反射というものはある。
だからアトラタは体を動かそうとしたが。
「あ、あれ?」
自身の体が動けない。
両手両足の手首に鎖やらロープとかが巻かれているという感覚があるのだが、目で見てもその手首には何も巻かれていない。
けれど巻かれているという感覚はあるし、体は動けずまるで体を十字架に張り付けられているかのような状態だ。
「な、なんだこれ?」
慌ててアトラタは辺りを見渡した。
まだここはフェーレースの家だった。
そして自身の目の前には。
「お目覚めかしらぁ? アトラタちゃん?」
彼女が、フェーレースが立っていた。
腕を組みながらアトラタをいやらしく、うっとりとした目で見つめていた。
「フェーレースさん? これは一体どういう事、ですか?」
そこでアトラタは気づいた。
両腕を組んでいた彼女の頭の上には。
とんがり帽子――しかも彼女のその細い体よりも一回りぐらい大きいサイズだった―――があった事に。
そのとんがり帽子はよく魔法使いの女性とかが被っているものとそっくりだ。
そして彼女の手には古ぼけた杖が握られていた。
よくある古ぼけて先端が細く、小枝ぐらいのサイズだ。
「貴方、魔物娘についてご存じかしら?」
いきなりの質問だったが、アトラタはそれにさも当然の如く答えられた。
何せ、反魔物主義の騎士隊に所属していたからだ。
「人間の男を狙う危険な存在・・・まさか!?」
その質問だけでアトラタは勘づいた。
フェーレースは人間ではない。
「そう。私は魔物娘、『ダークメイジ』。自分の欲望を叶えるだけに魔法を使う魔女よ」
「ま、魔法?」
「うん。夢を現実へと変えちゃう素敵な魔法使いで、時には集落ごと魔界に染めちゃうの♥で、貴方の事気に入っちゃったからこうして捉えているのぉ」
今さらっと恐ろしい事を唱えたが、今のアトラタにはそれが重要ではない。
自分を拘束しているという事は即ち、彼女の狙いは考えるまでもなく自分だ。
「お、俺を手籠めにしようとしているのか!?」
魔物相手だと知ったらもう敬語は使わない。
元より敬語を使うのは慣れていないアトラタだったが。
「その通り、でも私は魅了の魔法とかで無理やり心まで掴んで男を手に入れるような酷い女じゃない。ちゃんと貴方の意思で私と一緒にいたいと望んでから付き合う、それが魔物娘の流儀なの」
魔物は思い人が出来ればなりふり構わず相手を懐柔すると、アトラタは聞いていたが彼女は幾らか理性的だった。
だがそれで簡単に受け入れるなど彼には来なかった
現にこうして自分を捕らえていたのだから。
「俺に魔法をかけないで、俺の心を奪うのか? 悪いがそう簡単にはやらねえな。どんなにあんたが高名な魔女だろうと俺の意思は固いぞ」
「ふ〜ん? 私の力を疑っているというの?」
「それは、そうだろ。魔女だったら魔法なり何なり見せてみたらどうだ?」
安い挑発だが確かな自信があった。
どんな自信なのか、と問われれば曖昧な答えになるが。
だが相手が魔物娘だろうと、所詮は人間と同じ性行為をするのだから恐れる事はないと彼は決め込んでいた。
(そうだ、どうせ人間と同じなんだ!! 快楽に耐えればどうって事ないんだ!!)
だが、彼の打算は非常に脆かったと言わざる負えない。
何故なら彼は性体験など一度もしたことなかったからだ。
こっそり隠れて性的な本とかを読み漁っていたがこの身で体験した事などないのだ。
加えてフェーレースは人の枠には収まらない力を有していたのも誤算だっただろう。
「ふふっ♪ 確かにそうよね、なら見せてあげるわぁ♥」
そう言い彼女は持っていた杖を壁際の方へ、ポイっと放り投げた。
「杖は使わないのか?」
「まあ、私にとってはアクセサリーみたいなものよ。持っていなくても力は発揮できるし」
知り合いである魔法使いは杖がなければ力を発揮できないのに、フェーレースは無くても力を使えるという。
並大抵の魔法使いではないのをアトラタはそこで確信した。
「まずは、そうね。あの枯れている植木鉢を・・・」
先ほど不自然に感じていた枯れている花とその植木鉢。
フェーレースはそのしなやかな指先で枯れ萎れていた茎に沿って撫でる。
変化が起きたのは1秒後。
茎に色が付き始めた。
緑色の、健康な色に染まると次に枯れていたはずの花びらが茶色から桃色を帯びて花を咲かせた。
たちまち枯れていたはずの花は元の、美しい一輪と成っていた。
「本当に魔女なのか・・・」
目をパチクリさせてじろじろと見た。
幻術とかにかかっているのだろうかと思ったがこれは現実だ。
されど次には大したことないと考え直した。
「お、俺の知ってる魔法使いだって花を咲かせる事ぐらい出来る! 驚く事もねえな!」
アトラタは鼻を軽くふん、と鳴らした。
されど彼女は動じることも戸惑うこともしなかった。
どうやらアトラタの反応は予想のうちだったようだ。
「もちろんこんなのは序の口。知っているかしら? 私は大きくも成れるのぉ」
アトラタは耳を疑った。
体を大きく?
もしや巨大化の魔法とか使えるというのか?
「ど、どれぐらいなんだ?」
「その気になればこの家よりも大きく♥」
「まさかそんな事・・・」
アトラタは信じられないと言わんばかりの表情を見せて首を左右に振った。
「なら見せてあげる、ほらぁ」
『ググググググッ!!』
そう言うやいなや、フェーレースの体が大きくなり始めた。
彼の体よりも2倍、3倍、それ以上の大きさに成ろうともフェーレースの体は収まらない。
この手の巨大化は衣服がビリビリと破けてしまうのが決まりなのだが彼女の服は破れなかった。
どんどん大きくなっていく彼女にアトラタは目で追っていた。
このままいけば家の、天井を支える柱にぶつかってしまうかという時だ。
「あら。天井に頭をぶつけてちゃうわね」
気づいたフェーレースは背中を曲げて両すねを地面へと付けさせる。
両腕の肘も地面へとつけ、猫の様な体制を取った。
元々体が柔らかいからなのか窮屈そうな顔は見せていない。
フェーレースの背中が天井へに付くか付かないかの大きさになると巨大化は止まった。
「んな・・・アホな・・・」
その姿に文字通り圧倒された。
自分を丸のみ出来る口。
両目は自身の上半身ぐらいはあろうかという大きさだ。
大きくなったその両手はその片手だけで彼を握りつぶせそうだ。
そして一番注目したのは更に豊かになった胸。
たぷんたぷん、と揺らし主張するその胸にアトラタは釘付けになってしまうが次に視線を彼女の顔へと向ける。
その巨大な両目がいやらしい目つきでアトラタを見下ろしている。
家の半分以上を覆うフェーレースの巨体にアトラタは恐怖していた。
「今の私なら、貴方を握りつぶせちゃうけどそんな事は絶対しないわ」
「な、ならどうするつもりだ?」
「勿論、今から貴方とエッチな事をするのぉ♥」
そんな巨体で宣言したのだからアトラタは更に恐怖した。
「そ、そんな状態でなのか!?」
「魔物娘はエッチが大好きなんだから、当たり前でしょう?」
「い、いや!! 止めろ!! 食われる!?」
体を動かしても揺らすぐらいしかできない。
ならばアトラタは必死に口で訴えたが、フェーレースは止める素振りなど見せなかった。
「そのまま丸呑みなんて酷い事しないわ。まあ別の意味で食べちゃうんだけどねぇ♥」
彼女は指先の爪を器用に使いアトラタのズボンを、そしてパンツまでもずり下げた。
そこにあったのは男の生殖器。
興奮状態になっていなかったからかその肉棒は萎えていて皮を被っていた。
異性の、それも倫理的に考えれば絶対に見たくないものであるにも関わらず彼女はうっとりとそして興味津々で見つめていた。
「あらら、まだ起(た)ってないのね? なら起たせてあ・げ・るぅ♥」
「た、起つ!? おいおい、何を!?」
「まずは大きくなったこのお口で、してあげる」
そう言いフェーレースは唇を尖らせ彼の肉棒を吸い付いた。
『うむ♥ れろっ♥ くちゅ♥ ちゅぱ♥ ずずずっ♥』
巨大な舌に自分のイチモツが舐められている。
今の彼女にとって自分のモノは飴玉みたいなものだろう。
おまけに下半身全体が唇に触れているのだ。
プルプルとした感触が下半身全体を覆う。
こんな体験は生まれて初めてだった。
「や、やめ、ろぉ! そ、そこは!!」
快感に耐えながら訴えるが無駄なあがきだった。
フェーレースは次に、その舌を上下に動かし始めた。
『くちゅる♥ ちゅるる♥ くちゅるる♥」
上に下へと舐めまわされ、自分のアソコが敏感になってきた。
消えてなくなりそうな程の快感だ。
「おっ!! おごっ!! あああっ!!」
「ほひゃ、ほひゃ かんちゃんに、落ちにゃいんじゃないの?」
「そ、そんな事はっ!?」
だが彼のイチモツと体は正直だった。
既に硬く勃起し、快感に酔いしれている今アトラタは気づいていなかったが、その先端から亀頭が皮から見え隠れしていたからだ。
快感に引きつられアトラタの理性が崩壊寸前まで引き上げられるが、アトラタはぐっと堪えた。
まだだ、まだ耐えられるはずだ。
そう自分に言い聞かせて。
(た、耐えるんだ!! 良いか、平常心っ!! 平常心だっ!!)
そんな彼の様子を面白がったフェーレースは一旦、その口を離すと。
「それじゃぁ、即イキコースにしようかしら♥」
次には必要以上にその大きい舌で肉棒の裏筋を攻めてきた。
『れろれろっ♥ れろれろっ♥ れろれろっ♥』
筋に沿って舐められている自身の分身。
舌のザラザラで粘液まみれの感触が分身に何度も走ってきた。
このままでは。
「あ、あぐっ!! おおおっ、おっ!?」
アトラタの脳裏に伝わってくる快感の声。
体の奥底から欲情が吹き上がってくる。
―――な、何か出るっ!?
―――尿じゃないあの白い液体がっ!?
(ま、まずいっ!? このままじゃっ!?)
そう思っていた時だ。
不意にフェーレースがその舌を止めた。
口を離すと固く、天へと向かって勃起している己の肉棒が。
しかも寸前で止めてしまったのだから溜まっている白濁とした汁を出したくてビクン、ビクンと主張している。
「何故、止めたんだっ・・・?」
問いかける台詞を間違えていたが今のアトラタにはそれしか出てこなかった。
「まだまだ私の力を味わってもらわなきゃ。私なしじゃ生きてられないくらい依存してもらう為に♥」
フェーレースは片目をパチッと閉じてウインクする。
つまりまだ始まったばかりだという証でもありアトラタはこれから訪れる体験に恐怖しつつも何故か気になってしまった。
「次はそう、小さくも成れるのよ」
「小さくって、元の大きさに戻るだけじゃねえのか?」
アトラタの指摘にフェーレースは首を振った。
「ううん。もっと小さく、ネズミぐらいのサイズに」
「う、噓だろ?」
でかくなれるだけでなく小さくなれるのかと、アトラタは内心驚いていた。
「で、でも見てみなきゃ信じられねえな」
「またまた疑って。なら見せて挙げる」
『ググググググッ!!!』
また彼女は体を震えさせると今度は小さくなり始めた。
彼の数倍はあった巨体はみるみると消えて、元の大きさになるが体の縮小化は止まらなかった。
彼の背丈の半分、それよりも半分、もっと半分まで縮んでいく。
終わった頃には彼女の体は宣言通りネズミぐらいのサイズになっていた。
今のフェーレースはアトラタの手のひら大ぐらいの大きさだ。
これなら自分の足で踏みづけて倒せるかと思った。
だが拘束されている今、その足も体も動かせない。
(せ、せっかくのチャンスだってのにっ!)
だが次には別の感情が吹き出してしまう。
(・・・いやっ? 俺は本当に出来るのか?)
そう思ってしまったのだからアトラタには迷いが生まれた。
本当に彼女を踏みづけ、倒せる事が出来るのか?
でも倒さなければこちらが襲われる。
けれども女性に手を挙げるなど騎士を目指す自分にとって言語道断の非道だ。
その戸惑いが生まれてしまった今、彼にはその答えが出せなかった。
「私を踏みづけるのは止めてね♥ まあ体の自由が効かない今の貴方ならそんな事出来ないと思うけど」
小さくなったフェーレースはそう言うと飛び上がって、アトラタの熱く勃起した肉棒に抱き枕の如く飛びついた。
「今度は体全体を使ってシコシコしてあげるわぁ♥」
肉棒の上へと態勢を整えたフェーレースはそう伝えてきた。
「な、何!? そんな体でなのか!?」
小人が自身のイチモツに飛びついているだけでも興奮もの、じゃなくて恐怖であるのに。
しかも熱く煮えたぎっている今そんな事をされたら…。
「や、止めろっ!! 俺の、アソコからっ!? 離れろっ!!」
だがそんな懇願を聞き入れるフェーレースではなかった。
ならば体を揺らせばフェーレースを振り落とせるかと思ったが、フェーレースはがっちりとイチモツに抱きついていて、振り落とせそうになかった。
「そ〜れ、ごしごっし♥ ごっしごし♥」
『シュ♥ シュ♥ シュ♥ シュ♥』
たるんでいた肉棒の皮を両手で掴み、上下にしごいていく。
女性によって己の分身が弄ばれている光景。
そんなものを見せられているのだからアトラタは直視したくもないし、体が自然と熱を帯びていく。
「ぬ、ぬおっ!? だ、だから止めっ!? ああっ!!」
抗議しても無駄だった。
むしろ彼女がその台詞を聞けば、更に分身をいじめようとするのは必然なのだ。
アトラタの反応に面白がったフェーレースは次の行動に出た。
「ふふっ♪ 玉袋ちゃんも刺激してあげるぅ♥ でも靴のまま貴方の玉袋を押したら流石に痛いわよね〜。なら脱がないと」
そう言い彼女はブーツを脱ぎ捨て、うどんの生地を踏む要領で彼の精巣がある玉袋を踏み込んできた。
「よいしょっと♥ よいしょっと♥」
掛け声をかけながら両足を右左、そして右左と踏んでくる。
踏み込まれることで玉袋越しから伝わってくる、少しだけ冷たく生暖かい感触。
それは己の両手で玉袋を揉み下すのと同じ感覚で気持ちいい行為だった。
「ああっ!? お、おおっ!? ぬうっ!?」
「ほらほら、射精しちゃいなさい〜」
そしてフェーレースはそのまま体全体も使ってアトラタのイチモツをしごいていく。
『シュ♥ シュ♥ シュ♥ シュ♥』
擦れる音を立てながらしごかれている自身の肉棒にアトラタはその体をよがらせていた。
「あ、あぐっ!! う、ううっ!!」
今の彼女はまるで大木にしがみつき、体全体を使ってこすっている。
だがその大木は男性器で、しかもこうして刺激を与えられ続けているのだからアトラタの理性は徐々にすり減っていく。
「ほらほら、まだまだいくわよぉ〜」
先端から出ている赤くむき出しになった亀頭をフェーレースは舌を使って刺激する。
「れろっちゅぱ♥ れろちゅっ♥ ちゅちゅぱっ♥」
アトラタは必死に歯を食いしばって快感に耐えていた。
「こ、こんな所で。出す訳にはっ!?」
「イっちゃいなさい♥ イっちゃっていいのよ♥ ほら! ほら!!」
そう言い彼女は更に擦る速度を上げる。
『シュシュ、シュシュ、シュシュ♥』
彼女が自身の肉棒に抱き着いているという異様な光景。
肉棒越しで感じる彼女の、人肌の暖かさ。
亀頭に伝わる舌の生暖かい感触。
そして彼女の両足で玉袋が刺激されているとなれば、もう。
その全てが快感へと変わってしまい、彼を絶頂へと至らせてしまう―――
『どぴゅ、ぴゅるるるるーーー!!』
「あっ!! あっ!! あっ・・・」
体が痙攣するたびに勢いよく飛び出る白濁とした欲望の塊。
その光景にフェーレースは歓喜の声を挙げた。
「あはっ♥ 出た出た♪」
すぐに顔を近づけさせ噴射した精液を飲みこむ。
「うぐっ♥ ごくっ♥ ごくっ♥ ごくっ♥」
フェーレースは今、小人の状態だったからその口を広げても亀頭の先端をほうばる程度しか広げられない。
だがその体でも彼女は問題なかった。
逆に小さくなったのだから大量に精液を浴びれるという利点にもなるのだ。
見ればフェーレースは体中が精液まみれになっているにも拘わらず嬉しそうに飲んでいる。
その姿は、実に淫らで欲情がそそるものだった。
やがて体の猛りが静まれば膨張していたイチモツも縮小し、射精が収まる。
「ふふふ♥ すっごく濃かったわよ。私好みの味だわぁ♥」
精液まみれになった体を拭こうともしないフェーレース。
彼のイチモツから降りると再びブーツを履いた。
その後、小人だった彼女は元の大きさへと戻っていく。
そして勝ち誇ったかの様な妖しい笑みでアトラタを見つめていた。
「はあ・・・、はあ・・・、はあ・・・」
アトラタは目でフェーレースを睨みつけていたが内心は違った。
(・・・く、くそ・・・き、気持ち良かった・・・)
そんな台詞、彼女の前では口が裂けても言えなかったが。
「さて、次は下のお口にも飲ませて欲しいなぁ♥」
そう言い服の裾を捲り上げ、自身の股を見せびらかす。
彼女の黒のパンツ、それも女性器にあたる箇所が濡れていた。
指で下着をずらすと露になるのはフェーレースの女性器。
下へと向けて綺麗な割れ目と共にその中身から桃色に染まった肉壁が。
そこにフェーレースは妖しく微笑めながら指先を伸ばし、割れ目にそってなぞる。
「こんなに濡れていて、お姉さん困っちゃうわ。ほら、舐めてみる?」
そう言いフェーレースは絡みついた愛液と共に指をアトラタの口元へと差し出す。
甘酸っぱい臭いが鼻を刺激し、思わずその指を舐めようと体を動かしたくなる。
だが残っていた理性の必死な訴えで、踏みとどまったアトラタは首を横へと振った。
「そんなに意地張らないの♥ 貴方の童貞を卒業させてあげるんだからぁ♥」
次に何をしようとしているのか一目瞭然だ。
自分の貞操を本格的に奪うのだ、と。
「でもただ気持ちいい事するだけじゃつまらないわね。・・・・ねえ、小さい女の子としてみたいと思わない?」
「小さい、女の子?」
どういう意味だ、とアトラタが口を開きかけた時だ。
フェーレースの体がまた小さくなり始めた。
だが先ほど見せた縮小化とは全く違う。
豊かな双乳はしぼんていき、膨らみなどまるでない真っ平な胸に成っていく。
すらりと長かった両腕は縮み、子供の如く短い腕に、幼い手と変わっていく。
太ももとすねも縮み、幼少期に差し掛かった少女の長さと細さになっていく。
成熟していた美しい顔は、面影を残しつつも小さくなり丸みを帯びた顔たちに。
腰辺りまで伸びていた銀色の髪の毛までも縮んでいく、がそれでも長い。
髪の先端が床に付くか付かないかの長さだったから。
そして変化が終わると。
―――彼女の体は成人の女性からまだ幼い少女へと成っていた。
歳に換算すれば9、10歳前後だろう。
そして年齢に不釣り合いな、大人用だった彼女の服を身にまとっている。
身にまとっている、というよりも覆い被っていると言った方が正しい。
少し頭を傾ければ帽子が彼女の頭をすっぽりとはまり、彼女の頭を隠れさせる。
見えそうで見えない胸の先端にある桃色の乳首がちらつく。
膝辺りまで覆っていたタイツも体が小さくなった事でずり落ち、足首辺りでタイツの層が作られていた。
「ふふっ♥ 綺麗なお姉さんから可愛い妹さんになってみたわよぉ♥」
そう言いフェーレースは片手でピースをしながらアピールしてきた。
ただの幼女なのだが、時と場所によってその光景が末恐ろしいものであるとアトラタは改めて実感した。
(ま、まさかっ!?)
先程のフェーレースの台詞から察せばその姿で自分と・・・。
「そ、それでどうするつもりだ!?」
大方の予想は出来るのだがそれでも聞いてしまうのは条件反射というやつだった。
「もちろん気持ちいい事♥ でも、ぶかぶかのお洋服になっちゃったわ。ぴったり合う服にしましょうか」
そう言うと彼女の服は、彼女の少女体系に合わせて縮んでいく。
飛び出ていた胸元の生地はぺたんこになった彼女の胸に、ぴったりと合う用に縮んでいく。
タイツも幼くなった彼女にあう様に短く細くなり、彼女の足に沿って昇っていく。
帽子も同じだ。
彼女の頭に合わせて動かしてもすっぽり隠れないように小さくなっていく。
やがて大人用かつ淫らだった服は子供用の可愛らしい服へと変わっていた。
「これで良し、と。じゃあ」
フェーレースは熱く煮えたぎるアトラタのイチモツをじっと見つめた。
彼女が変身しているとはいえ、幼い子供になっているのだ。
小さな女の子が己のイチモツを見ている、いや見られているという事実に背徳感というものが感じられずにはいられない。
「わあぁ、お兄ちゃんのおちんぽ、ビクンビクンしてる!! もう入れたいんだぁ!!」
わざと甘ったるく幼い口調と台詞でフェーレースが語りかけてきた。
それがアトラタの性欲を刺激していくのは予想の内なのだろうから。
「でもまだ入れないよ。うふふ♥」
笑みを浮かべてぷいっと横に振ったフェーレース。
それに思わずアトラタはがっくりと肩を落とし、落胆した。
「じ、焦らすのかよ!! てっきり、それで!?」
「だってまだ柔らかくなってないの〜。わたしのアソコでやるには、じゅんびがひつようなの♥ でもお兄ちゃん、さっき、わたしの誘惑にまけないとかいってたよね?」
フェーレースの指摘に気づいたアトラタは必死に淫らな思考を消そうと顔を左右に振らせた。
「そ、そうだ!!! 俺は屈しない!! お前なんかに屈しないぞっ!!」
「どこまでもつのかな〜、お兄ちゃん?」
意地悪い笑みを浮かべると彼女はスカートをまくし立て、股を開いた。
「まずは、わたしのオナニーを、いまからお兄ちゃんにみせてあげるからぁ♥」
そう言いフェーレースは右手で自身のパンツを掴む。
フェーレースは顔に笑みを浮かべながら、そのままパンツを横へとずらせば。
見えてくる。
彼女の濡れた女性器が。
綺麗な桃色の割れ目から液体が滴り落ち、床にシミを作る。
「みたことないでしょ? おんなのこの、お・ま・ん・こ♪ こんなふうになっているんだよ♪」
生の女性器など産まれて初めて見たことがなかった。
しかもまだ幼い女の子の女性器だ。
決して小さい子が好きという訳ではないがこうやって見せつけられているとなると膨れ上がる性欲は抑えようがない。
「このきれいな、おまんこにぃ♥ ゆびをつっこめばぁ♪」
フェーレースは指先を女性器の中へと入れ、指をかき回し始めた。
『くちゅっ!! くちゅ♥ ちゅるっ!! ちゅ♥』
「ああっ♥ いい、よ!! う、うん そ、こっ!!」
甘い声と共に挙がってくる彼女の息。
それが興奮状態に吐かれる息なのをアトラタは知っている。
「えへへ♥ わたしのおまんこからあついお汁があふれでてきてるよ♥ お兄ちゃん、よくみてぇ♥」
指を一突きする度に水滴サイズの体液が飛び出てくる。
それが女性から流れる愛液なのをアトラタは知っていた。
そして男の本能とは正直なもの。
萎えていたアトラタの肉棒が再び熱く、固くなってきた。
「あんっ!! ううん♥ いい、よ 気持ち、よくなってきた・・・」
指をいじる速度が速くなる。
それに伴い熱い息がフェーレースの口から吐き出される。
『くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅっ!!」
「ふうっ♥ あはっ...ううんっ♥ あんっ♥」
体をビクビクと動かし、快感を感じている子供のフェーレース。
その姿がアトラタの性欲をそそり、彼のイチモツを立たせるのだ。
「もうすぐイくっ!? イっちゃう、からっ!♥」
そう言いフェーレースは更に指の速度を上げる。
自分が絶頂へと行く為に。
『くちゅくちゅくちゅ!! くちゅっくちゅくちゅ!!』
体を激しく、くねらせ何度も何度も熱い息をし続けるフェーレースの痴姿。
それにアトラタは興奮してしまう。
何も言わずただじっと彼女を見つめていた。
そして自慰をしていた彼女はその絶頂へと到達する―――
「あ、あぁんっ♥ もう...イっちゃう! ふああああぁぁぁ♥」
『ぷしゃあああーーー!!』
体を反らせ痙攣しながら、その綺麗な女性器から大量の愛液が飛び散った。
お椀に入った水がそのままぶちまけられたかの様な量だ。
床へと染み込んでいき大量のシミを作り出す。
絶頂に至った後の余韻に浸るフェーレース。
だがその両目はアトラタをじっと見つめていた。
「えへへ、ごめんねお兄ちゃん。わたしだけきもちよくなって、つぎはいっしょにきもちよ〜くなろうねぇ♥」
その言葉を聞いてアトラタは恐怖とも絶望とも似た表情を浮かべた。
確かにそういう趣味の人間がいるのはしっているのだが相手はまだ幼い少女だ。
しかしそれに反して彼の肉棒は興奮し、勃起していた。
「あはは♥ もうお兄ちゃんのバキバキになってくるしそう!! それなら、出させてあ・げ・る♥」
そう言いフェーレースは彼の体を床へとゆっくり押し倒す。
されるがままアトラタは仰向けにされ、フェーレースは彼の上に跨るとその熱く、煮えたぎる肉棒を自身の女性器へ接触させる。
「いれちゃうよ? おにいちゃんのおっきなおちんぽ、わたしのちっちゃなおまんこにいれちゃうからねっ!!」
「だ、駄目だ!! こんな幼い子供とやるなんて!?」
「でもわたしはおとなだよ〜。まずはさきっちょだけ、ね♥」
そう言いフェーレースは腰を下ろし始める。
何とか抵抗しようとするが両手も両足も動かなかった。
だから体を揺するしかなかったがそれでは何も出来ないのと同じだ。
なすすべなく彼の煮えたぎる肉棒は彼女の女性器を迎え入れる。
『くちゅ♥』
肉棒の先端が彼女の膣へ、ずぶりと入る。
その瞬間、アトラタの体に稲妻が走った。
「なっ!? なんだこれ!? 俺の、がっ!?」
感覚がはじけ飛びそうだった。
濡れ濡れの肉が自分の肉棒に絡みつき、性的な本能を呼び出させる。
彼女も同じ快感を味わっていた。
彼の肉棒を入れた瞬間、フェーレースはその体を反らせた。
「もぉ♥ おにいちゃんのおちんぽヒクヒク、しちゃってるの!! でもわ、わたしのおまんこもヒクヒクしてるの♥ このままいっきにズボってしたらどうなるのかな♥」
「や、止めろ!! 俺は決してロリコンとかじゃなくて、健全なエッチってのを!?」
「ダメ! きかないもん!! わたしとエッチしてぇ・・・・ダメダメなぁ、お兄ちゃんにしてあげるぅ♥」
無邪気な笑みを浮かべて告げたフェーレースの姿にアトラタは心底恐怖した。
「あ、ちなみにまだ膜はあるよ♪ オナニーはしてるけどぉ、これがはじめてなんだよ♪ だ・か・ら♥ わたしの処女、お兄ちゃんのどうてえおちんぽとぉ、取り換えっこになるんだよ♥」
そんな事実を聞かされたのだから本当に止めろとアトラタは言いたかった。
だが出来なかった。
体が動けなかったのも要因だったが。
彼の、男としての本能が叫んでいた。
彼女としてみたい、と。
そして幼女のフェーレースは腰を降ろした―――
「うん、しょっと♥」
『ずぼぼぼっ!!』
一気に奥深くまで挿入され、自分の亀頭が何か柔らかいものに接したのを感じた。
次に感じるのは肉棒越しから伝わってくる、濡れたような愛液の感触とまとまりついてくるような肉壁の感触だった。
「ああっ!? こ、これは何だ!? もっと絡みついてきて!?」
「あはは♥ お兄ちゃんとがったいしちゃった♥ わたしのちいさなおまんこじゃ、おさまらりきれない!!」
そう言いフェーレースはその未成熟な両太ももを閉めると。
「あっ!? 膣が締め付け、られる!?」
そもそも幼い体格になったフェーレースの膣は成人男性の肉棒とはサイズが合わない。
断然締め付けがきつい上に、彼女の両太ももによる負荷があるのだ。
一段と締め付けが強くなるのは当然だ。
「うわ〜〜んん♥ お兄ちゃんにおかされているううぅ♥ パパママ〜、わたし、おおきなお兄ちゃんとエッチしちゃってるよおお♥」
頬を赤らめ、叫ぶ彼女の姿は実に淫らだった。
「しかもわたしの初めてうばわれちゃったよ〜♥ ほらほら見てぇ、おまんこから赤い血がながれてるよぉ♥♥♥」
言われててみれば彼女の女性器から赤い液体がタラタラと流れ出ていた。
つまり本当に処女だったという事でありアトラタは罪悪感にも似た感情に際悩まれた。
「ええぇ〜〜〜ん♥ パパママっ!! お兄ちゃんに初めてうばわれちゃったよおぉお〜♥ パパみたいな象さんおちんぽがぁ、わたしのおまんこに突っ込まれてるよおおぉぉ〜♥♥♥ ママみたいなお腹が飛び出た、でっぷりの子供妊婦さんになっちゃうよおおおぉぉ〜♥♥♥」
子供と化したフェーレースはそう言うが彼女の顔は無理やり犯されて涙を流しながら叫ぶ悲哀な顔ではない。
快感を心の奥底から感じ、高揚に満ちている顔だった。
そんな淫らな顔を浮かべながらフェーレースは。
「そんな私の初めてうばった、ダメダメお兄ちゃんには♥ お仕置きしてあげるぅ♥ このままうごか...しちゃうからねぇ♥」
そう言いリズミカルに腰を動かし始めた。
最初はゆっくりと、快感を噛みしめるように。
『パンッ♥ パンッ♥ パンッ♥』
「はつたいけんが、ちいさなこどもでっ♥ やるなんてっ!! お兄ちゃん、いやらしい〜」
腰を上下に振りながらフェーレースが語り掛けてくる。
「ちが、う!! お前が!! 勝手にっ!! あぐっ!!」
「すなおになってっ!! もうおにいちゃん、わたしとエッチしてるんだよぉ♥」
確かにフェーレースから伝わってくる快感は抑えられない。
加えて今のフェーレースは幼い子供であり、アトラタは背徳感とも敗北感とも言えない感情が押し寄せ、それら全ては性欲への快感に変わっていく。
初めのうちは歯を食いしばって耐えられていたが彼女が与えてくる快感の波に彼は次第に耐えられなくなる。
『パンッ♥ パンッ♥ パンッ♥ パンッ♥』
「あ、ああぐっ!? お、おおっ!? あぁあっ!!」
迫ってくる快感に抗えず、言葉になって発散するアトラタのの姿にフェーレースは手を叩いて喜んだ。
「もうお兄ちゃんっ!! そんなによろこんでぇ♥ ならもっとも〜っと、してあげるうっ!!」
そう言いフェーレースは腰を振るう速度を挙げる。
『パンッ♥ パンッ♥ パンッ♥ パンッ♥ パンッ♥』
「ほらほら!! もう、気持ちよくてたまんないよねぇ♥」
何度も肉棒越しに伝わってくる膣肉の感触と締め付けが。
小さな女の子に犯されているという事実が。
そして女性という男が一番求めるものの前に。
もう己の分身が叫んでいた。
―――射精したい、させてくれっ!!
『パン、パン、パン、パン、パンッ♥』
更に彼女が腰を振る速度を上げれば遂には舌をだらしなくたらし、思わず漏らしてしまった。
「いい!! いい!! もうどうにか、なりそう、だ!!」
男の本能に屈してしまったアトラタ。
その光景にフェーレースはニヤリと笑みを浮かべた。
「ねえ、チューしよぉ♥」
フェーレースは口を少しだけ尖らせて迫ってきた。
快感が体を支配している今、アトラタはそれを拒否する事など出来るはずなかった。
言われるがまま彼女の、幼くなったフェーレースの唇に自分の唇を添える。
『ちゅ♥ ちゅぱ♥ ちゅ♥ くちゅ♥』
彼女の舌と唾液が入り込み、口の中が酸っぱくなる。
「おい、ひい♥ おにい、ちゃんのだえき、おいひい♥」
不覚にも小さな子供とやるのも悪くはないと思ってしまった。
彼女の口から流れこんでくる唾液が。
執拗に絡みついてくる彼女の舌が。
―――とてつもなく、気持ちいい。
思わず彼女の背中に両腕を回し、抱きしめてしまった。
それに釣られて彼女もまたアトラタの背中に両腕を回し、抱きしめる。
「あははっ!! やっぱりお兄ちゃんロリコンなんだっ♥ ならいいよっ♥ ロリコンのアトラタお兄ちゃんっ!! いっしょにイこうっ♥!!!」
そしてフェーレースは腰を振るスピードを更に上げ、限界へと。
『パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン、パンッ♥』
彼女に釣られて、無我夢中で腰を振り始めたアトラタ。
先程の彼だったならばなんと情けない姿を晒しているのだと呆れていただろうが。
子宮の奥底に亀頭が何度もキスをし続けてアトラタの理性はもう限界だったのだ。
何度も何度も快感が体を突き抜ければ。
彼の肉棒が一回り肥大化する。
それを膣の中で感じ取ったフェーレースは宣言する。
「きゃははっ♪ もうビュルビュルってしたいんだっ♥ もういいんだよ、がまんしなくて♥ いぃっぱぁい、わたしのおまんこに出してええぇええ♥♥ お兄ちゃん〜〜♥!♥!」
最後の一押しどばかりにフェーレースは再び唇を彼の唇にくっ付け、貪る。
そうして激しいキスを繰り返していけば。
腰を振るう速度を上げれば。
待っているのは当然。
絶頂だった―――――
「あっ、あぁあああっ〜〜〜〜!!」
『どぴゅ、ぴゅるるっ!! ぴゅる、るるるるうっーーー!!!』
体の感覚で分かる。
自分は今、開放感に溢れているのを。
そして自分は今、精液を彼女の膣へと出しているのを。
「いやああっ!! あつい、おせいしがぁ♥ ドクン、ドクンってながれこんでるうう♥ ずっこく濃いのがあぁぁああ♥」
見ればと彼女の膣から粘り気のある白液が溢れ出ている。
彼女の愛液と混ざりあい悦楽の桃源郷を演出させる。
「ああん...もったいないよ。おにいちゃんのせいし...こんなにもれてるなんてえぇ♥♥」
フェーレースは体を振るえさせ、歓喜していた。
ずっと待ち焦がれていた瞬間に出くわし、待望の体験をしたのだと。
「はあ・・・はああ・・・はあ・・・」
2度目の射精は、やはり気持ちよかったが体の脱力感というものは拭い去れない。
息切れもしてしまうのも当然だった。
何を考えていたのか分からない程、頭を真っ白にしていたアトラタ。
そんな彼にフェーレースは少しだけ微笑んだ後。
「・・・初めてなのに良く頑張ったわね。偉い、偉い」
急に幼い口調から、大人の女性特有の優しい声でアトラタの頭を撫でた。
その声と仕草にアトラタは何故か安堵出来た。
不思議と体の脱力感が抜け落ち、体力が戻ってきたかのように感じる。
フェーレースは名残惜しそうに彼の肉棒から女性器を引き抜く。
2,3歩だけ後ずさりするとフェーレースの体が大きくなり始めた。
真っ平だったはずの胸は風船が膨らむ様に大きくなり、また豊かな双乳となる。
未発達の両腕両足はすらりと伸びていき見事な脚線美を見せつける。
幼かった丸みの顔も大きくなり女性特有の尖った顔となって、色気を醸し出す成人女性となる。
そして立っていたのは幼い少女から見事な急成長を遂げたフェーレースだった。
「どうかしら? 私の力、これで信じられるようになった?」
無言で頷いたアトラタ。
信じるも信じないも無理やり犯されたのだから信じるしかないだろう。
今でも体の自由が効かず、両手の指先さえ動かせな…。
「んっ?」
そこでアトラタは気づいた。
体の自由が戻っていた事に。
だがこのまま逃げようとする気にはなれなかった。
あんな体験をしたのだから、今でも体がフワフワと浮いている様な感覚だったからだ。
そんなアトラタを尻目にフェーレースは話を進めていた。
「そこで一つ相談。私の使い魔になってちょうだい。使い魔と言っても、私の夫みたいなものよぉ。私と一緒にもっと、もっと気持ちいい事をしましょぉ♥」
―――彼女の夫となるっ!!
その瞬間、アトラタは反射的に彼女を拒絶した。
こんな、人間の正しい性行為とは程遠い体験をし続ければ自分は人間としての道徳観がなくなってしまう。
やはり魔物は人間に害をなす危険な生き物だった。
だからアトラタは口を荒げてしまった。
「い、嫌だ!! 俺は、普通の!! 真っ当な人と付き合って生きたいんだ!!」
ここで誘惑に負けて彼女の使い魔とやらに成ってしまったら、もう人間の世界へ後戻り出来なくなる。
その恐怖が彼を支配し、彼女を拒絶していた。
「真っ当な人生なんてつまらないだけよ。私と一緒に落ちるところまで落ちちゃいましょうよぉ♥ 私のおっぱいもぉ、お尻もぉ、ぜぇんぶ♥ 好きにしていいのよ」
そう言いフェーレースは自身の豊満な胸を揉みだしたり、お尻を彼の前に向けて突き出した。
思わずしゃぶりたくなりそうな乳房に掴んでみたくなりそうなお尻の良さ。
どれも男だったら飛びつきたい程の欲情さを演出していた。
だが襲い掛かっては彼女の思うつぼだ。
「それとも・・・またちいさいわたしになって、いっしょにあそびたいの? お兄ちゃんんっ♥」
再び甘ったるく幼い口調になって問いかけてくるフェーレース。
まさに悪魔の、堕落への誘いだった。
当然アトラタは首を縦に振る事など出来なかった。
「お、落ちるもんか!! 俺は誇りある騎士隊の訓練生だ!! 決して誘惑とかに屈しないんだ!!」
「けどぉ、お兄ちゃん私のはじめてうばっちゃったんだからぁ♥ せきにん取らないとダメだよねぇ〜」
そう言われたアトラタは少しだけたじろいだ。
不可抗力ではるが彼女の処女を奪ったのは事実だ。
されどここで押し負けて彼女の、魔物の夫になるのは絶対になってはいけない。
「んな訳あるかっ!! 兎に角俺は魔物なんかに負けないっ!! 絶対お前のものにはならないぞっ!!」
アトラタは論ある根拠や、皆が納得出来る様な話といった論理的思考を無視して必死に叫んだ。
堕ちない。
絶対に堕ちないぞっ!!
何が来ても俺は絶対に屈しない、堕ちないぞっ!!
是が非でも自分は堕ちないと意思表明する為に。
「むっ〜〜。意地っ張りな人ねぇ」
不満を述べながらフェーレースは少しだけふくれっ面になった。
だが次にフェーレースは口元をニヤリと作り、邪な笑みを浮かべた。
それは良からぬ考えを企んでいる様に見える、狡猾者の如き笑みだ。
「そこまで意思が固いのなら・・・ゲームをしましょうか」
「ゲーム、だ?」
すっきょんきょうな様子でアトラタはその台詞を唱えた。
「ルールは至って簡単。貴方がこの森を抜け出せるかどうか。もし抜け出せたなら私は貴方を諦めるわ、けど抜け出せなかったら・・・」
フェーレースはぺろりと舌なめずりした。
つまり自分がこの森を抜け出せなかった一生彼女と居続け、堕落した生活を送らなければならないという事だ。
分の悪い賭けなのは分かっている。
向こうは恐らく、この地を知り尽くしているだろうから。
だがその微かな勝算が、希望があるなら飲むしかない。
「分かった。乗ってやる・・・」
「ならこの瞬間からゲームの始まりね、貴方が逃げる側で私は追う側なら・・・私は狼。なら狼になっちゃいましょうか」
そう言いフェーレースは自身の頭の上に被っていたとんがり帽子を放り投げた。
次にノースリーブの、一体化していたスカートの裾を両手で掴んだ。
何をする気なのかアトラタは凝視する。
するとフェーレースはその裾を上へと引っ張りながら、カバっと脱ぎ始めたのだ。
フェーレースの白い素肌が現れ、すぐ目についたのはあの豊満な乳房だ。
彼女の両腕で抱えられる程の大きさで、思わず埋もれてみたくなりそうな。
そして乳房の先端にはぷっくりとした乳首。
それが目についたのだから萎えていたはずの肉棒がまた少しだけ固くなり始めた。
しかも驚いたのは、フェーレースはブラジャーを付けていなかったという事だ。
てっきり横の紐がないブラジャーを付けていたのだと思っていたのだが。
「ふ、服を脱ぐのか?! てかパンツだけだったのかよ、付けていたのは!?」
恥じらいの一つも彼女にはないのかとアトラタは思った。
だが彼の指摘にフェーレースは耳も貸さず、脱いでいき更にタイツにも手を伸ばして、するすると脱いでいく。
乱暴に身にまとっていた衣服をあちらこちらに放り投げ、最後にパンツを脱げば現れてきたのは布を一切身にまとっていない彼女の裸体。
柔らかそうな肌に肉付きが良いお尻。
秘所は先ほど子供の姿でセックスをしていたからなのか、未だに愛液が垂れ落ちている。
そして頭に被っていた帽子を放り捨てると自身の髪を一撫でしてアトラタをいやらしくも愛おしい目で見つめた。
「胸が蒸れるからしかたないの。それと服は別に着ていても着ていなくても問題はないの。文字通り狼になるんだからぁ」
「文字通りの、狼?」
自分という獲物を追っかけるのだから彼女は『狼』なのだろうが文字通りとは何なのだろうか。
いや、そもそも服を脱ぐのと関係があるのだろうか。
それがアトラタの関心をそそり、彼女にその両目を向けさせる。
「んっ・・・・!!」
フェーレースの顔が力む。
両手を胸元に当てて、体をブルブルと震えさせながら。
一体、何が起きるのだろうかとアトラタは目を凝視した。
巨大化するのか、それとも小さくなるのか。
はたまた子供にでもなるのか。
その答えはどちらでもなかった。
「あんっ♥」
―――喘ぎ声と共にフェーレースの背中からお尻へと変わる箇所から、尻尾が生えてきた。
ふさふさの、銀色の尻尾だ。
太ももからすねへと変わる関節辺りまでその尻尾が伸ばされ、パタパタと振らせる。
思わず触ってみたくなる程の、ふさふさの尻尾だった。
「う、ううん♥」
次に両足が銀色の毛に覆われていく。
足のつま先から始まり、足首、すねまで、太ももにまで銀色の毛が侵食していく。
付け根から腰のくびれまで、更に秘所だった股も毛に覆われ女性器が見えなくなる。
両腕も同じだ。
指先から手首に、腕に、肩にまで毛に覆われていく。
そして毛は彼女の胴体まで浸食し始める。
「うふん♪」
豊かな双乳が毛に覆われ、腹部にも毛が。
銀色の毛は首元までも浸食し彼女の頭まで侵食するのかとアトラタは思っていた。
だが首から頭へと変わる所で浸食が止まった。
そして気付けば彼女の頭以外の部位は全て銀色の毛に覆われた。
アトラタはその光景に瞬き一つせず見届けてしまった。
「ま、まさか・・・本当に・・・」
「いった通り、私は狼になって貴方を追いかけて食べちゃうって。それよりも貴方、私の変身に釘付けだったわね。もしかしてそっちのフェチがあるのかしら?」
「ば、馬鹿な事言うな!? 俺にそんな趣味は・・・」
だが否定は出来なかった。
人間の女性が―――正確には彼女は魔物娘であり人間ではないが―――別の生き物へと変わる。
こんな非日常的な場面に遭遇し、実際に目にしてしまえば男としての欲望が収まらない。
逃げるには絶好のチャンスなのに逃げようとする気が起きない。
もっと見てみたい、最後まで見たいという欲望が上回っていたのだ。
「ほらほら早く逃げないと、私の変身が完了しちゃうわよ。でも見たいって言うなら構わないわぁ♥」
彼女の言う通り逃げるには絶好の機会だというのにアトラタはその体を動かそうとしなかった。
彼女が変身するその光景に釘付けとなっていた。
「あ、あんっ...♥」
銀色の毛に覆われた彼女の体が小さくなり始めた。
ブルブルと縮んでいき、中動物と同じくらいのサイズになると次は両足が変化し始める。
太ももが更に膨らみ、すねに当たる部位が細くなり外側へと反る様に曲がっていく。
狼特有の後ろ脚だ。
「だ、駄目っ。これ以上は...♥」
その状態では立っていられないのか、彼女は四つん這いとなって床に立つ。
次には胴体が変化し、くびれのあった腰は膨れ上がり狼の胴体に。
豊かな双乳はみるみるとしぼみ、銀色の毛で覆われた真っ平な胸板へと。
そして手には鋭い爪が生えていき、指先が縮み、腕の間隔が短くなっていく。
狼の前足だ。
彼女の頭上から鋭い銀色の耳がぴょこん、と生えてきた。
そこで体の変化は止まった。
見るとフェーレースの頭以外は狼の体と成っていた。
頭だけは変化しなかったので美しい顔たち、そして髪の毛の色と人間時の腰にまで届くほどの長さはそのままだった。
その為、髪の毛は狼の体に被さるぐらいの長さだ。
その光景にアトラタは瞬き一つせずじっと見とどけてしまった。
視線に気づいたフェーレースはにんまりと笑みを浮かべた。
「やっぱり貴方、そっちのフェチだったの。ずっと見ていたみたいだし、素直になれば色んな動物に変身して楽しませてあげるわ」
尻尾をパタパタと振らせ、頭に生えた両耳をピクピクさせながらフェーレースは瞳をウインクさせた。
次には背中を床にくっつけ、バタバタと両手と両足を動かす。
その光景が不可思議で信じられなく、そして欲情をそそるものだった。
人間が動物へと変わっていく過程、興味がない者でも注目してしまう事だろう。
「ついでに狼のアソコも見せつけちゃおうかしらぁ♥」
「な、なにを!?俺はそんな、動物とセックスする変態じゃない!?」
「でも貴方の分身は正直みたい。ほらぁ硬くなってるし♥」
アトラタは下半身を見つめた。
―――指摘の通り、アトラタのイチモツは再び肥大化し始め、天へそそり立とうとしていた。
慌ててアトラタはパンツとズボンを腰に挙げて隠し、否定の声を挙げた。
「ち、違うっ!? これは絶対っ!!」
「強がり言って、どこまで持つのかしら。そろそろ最後の仕上げ、私の顔が狼になる所、よく見ていてぇ」
そして背中から立ち上がり四つん這いとなったフェーレースは瞳を閉じ、再び力む。
すると首辺りまで止まっていたはずの毛が浸食を再開した。
彼女の喉元、おでこ、口、鼻まで浸食し、遂に顔全体が銀色の毛に染まってしまった。
次には顔の下に当たる、口と鼻の箇所が前へと飛び出てくる。
「はあっ♥ はあっ♥ はあっ♥」
口から覗けられる人間の歯は鋭い牙へと変わり、鼻は黒くなるとまん丸い動物特有の鼻へと変わっていく。
最後に彼女の、銀色の髪の毛は縮み始めた。
だが完全には無くならず頭部の後ろあたりに収まるぐらいまで縮んでいった。
そして彼女の目が開けば、もう変化は終わった証だった。
「ふふっ♥ 完全に狼になっちゃたわ。さあ始めましょうか、楽しい楽しい、追いかけっこを♪」
今目の前にいるのは五体満足の、人間だったはずのフェーレース。
されど彼女は今、狼に変身していた。
外見は狼特有の四本足、ふさふさとした尻尾、鋭い牙を持った口と特徴は狼のそれだったが少しだけ違う。
人間時にあった腰まで届く銀色の髪の毛は狼の後頭部から生え、狼の首元辺りまでに収まっている。
印象的な金色の瞳もそのままで本当に彼女が変身したのだと実感出来る。
だが関心している場合ではない、もう逃げなければいけない。
「さあ、襲っちゃうわよぉ♥」
狼となったフェーレースが飛び掛かる。
すかさずアトラタは横に避けると玄関の扉まで走った。
だがそれよりも素早く彼女は先回りして彼の行く手を遮る。
脚力が、素早さが違いすぎる。
これでは簡単に追いつかれてしまう。
辺りをきょろきょろと見渡すと窓の一つが開いていた事に気が付いた。
次に何かないかとポケットを探ってみると丸い何かが指先に接した。
それは煙玉だった。
今日の訓練でこれを行う予定だったから持参していたのだ。
その数は3個、これならいけるとアトラタは思った。
「いただきま〜すっ♥」
すかさずアトラタはその中の一つをを取り出し、それを床元に向って投げつけた。
たちまち煙が発生して、視界が遮られる。
煙で遮られてもルートは覚えている。
この隙にアトラタは開いていた窓へ一直線へと走り抜け、窓のふちに足をかける。
勢いよく乗り越え、外に出た彼はそのまま森の奥へと駆けていく。
兎に角走れば良かった。
森の外に出ればこちらの勝ちなのだから、と。
煙幕が消え狼となったフェーレースの顔―――狼となった彼女の顔は読み取れないが例えでの話だ―――には焦りの色がない。
むしろこの状況を楽しんでいる様な表情だ。
「ふふっ♪ 逃げられると思っているのかしら。私は一度決めた男は逃さないんだから」
フェーレースは狼の飛距離を活かし、余裕で窓枠を飛び越え外に出る。
「次は・・・この子がいいかしらぁ」
そう呟いた彼女の体は再び変化し始める。
ふさふさとした毛はそのままだったが狼の尻尾が潜る様に消えていき。
代わりに出てきたのは短い尻尾、鳥の羽で構成された尾だ。
後足で立ち上がり、前足を横へと広げれば両脇から鳥の羽が生えていき、両腕に収まらない程の大きな翼となる。
次に後足が縮んでいき、短い脚へとなれば。
脚の指先が伸びて、鋭い爪へと変わっていき。
更にぴこんと生えていた両耳が消えていき、口が鳥のくちばしに覆われる。
されど頭部に少しだけ残っていた銀色の髪の毛、そして金色の瞳はそのままだった。
「さて、どこまで行ったのかしら?」
そう言いバサバサと両腕を羽ばたかせ、彼女は飛び立った。
♢♢♢♢♢♢♢♢
全速力で駆けていくアトラタには余裕の表情はない。
何しろすぐに彼女は追ってこれるのだから。
けれど彼はその足を遅くした。
ふと空を見上げたらと何かがこちらへ向かって来ているのだから。
「なんだ、あれ?」
そう呟いていた矢先、空を舞っていた何かが急接近してきた。
それもかなりの速度で、獲物を捕らえるかの如く。
「のわっ!?」
何とか避けられたが地面へと尻をついてしまった。
「あら♪ よく避けられたわねぇ」
鳥のくちばしからフェーレースの声が。
見れば頭の後頭部辺りから銀色の髪の毛が生えている。
それに体格がハトやカラスなんかよりずっと大きい。
こんな鳥は何処にもいないだろうから、フェーレースが変身しているのだとアトラタは直感した。
―――な、何にでも変身出来るのかよっ!?
その事実にアトラタは驚愕すると共に、心の何処かで興奮していた。
「このまま私の家に持ち帰ろうと思ってたのに」
そう言いながら翼を羽ばたかせ木々の枝に着地する。
「もしかして鳥なのか!? そんなでけえ鳥なんていねえだろ!!」
「まあタカになっているんだけど、こんな大きいタカなんているはずないわね」
そしてまたフェーレースはその翼を羽ばたかせ彼へと迫ってくる。
アトラタは迷ったが一瞬だった。
彼女から振り切るには、もうなりふり構わってられないからだ。
ポケットの中にあった煙玉を一つ握りしめる。
立て続けに二つも使う事になるとは思ってもみなかったが仕方ない。
「くらえよっ!!」
アトラタはその煙玉を地面へと叩きつけた。
その拍子に煙幕が発生する。
すかさずアトラタは目についた茂みの中へと隠れ、息を殺した。
その茂みから両目をこしらせ、フェーレースの反応を待った。
「あら? また煙幕? という事は逃げたって事かしら? どこかしらぁ?」
そう言い彼女は周囲をしばらく飛び回っていたがやがて遠くの方へと飛んで行った。
茂みの中から飛び去る姿を見届けたアトラタは軽くガッツポーズをした。
「よっしゃ・・・」
だが助かった、という気持ちはしない。
彼女が自身を見失った隙に脱出しなければ本当の意味で助かったという意味にならない。
ここは彼女のテリトリー、まだまだ道は長いのだから。
♢♢♢♢♢♢♢♢
少しだけ時は前に遡る。
そこは川の岸辺。
フェーレースはバサバサと翼を羽ばたかせて岸辺へと着地した。
「この先は小川、貴方が時期にここに来るのは分かっているから先回りしたの」
いないはずのアトラタに向けてそう呟いたフェーレースはその短い脚を動かし、川の方へと近づくと。
「それじゃ、水辺の動物になっちゃいましょうか」
そしてまた、彼女の肉体が躍動し始めた。
特徴的だった両翼の羽毛が彼女の体へと沈む様に消えていく。
と思えば、次には爬虫類を思わせる固そうな皮膚へと変わっていく。
翼となっていた両腕は縮み始め、その先端には指先が生えてきた。
鳥の短い脚となっていた両足も同じだ。
かぎ爪が膨れ上がり陸上の動物特有の指足へと変わり。
次には鳥の尻尾が消えていき、次には固そうな尻尾が尻から伸びるように出てきた。
そして中型だった体系がどんどん膨れ上がっていく―――
「ふふふ、こんな姿見たらどんな反応するのかしら」
そう呟いていた彼女のくちばしが大きくなり、平べったくなるとその口の中から鋭い歯が生えてきた。
フェーレースはその巨体となった体を動かし川の中へと潜り込み、そして沈んでいった。
♢♢♢♢♢♢♢♢
アトラタは自分の体が水分を求めていた事に気付いていた。
何しろ犯されるわ、襲われるわの連続だったのだからあの時飲んだお茶の水分などとっくに切れていたのだ。
このままでは歩けそうにない。
少しだけふらふらの両足に活を入れて、辺りを彷徨い続けていると偶然にも小川を見つけた。
かなり澄んだ小川で水の底まで透けて見えた。
アトラタはすぐに両手でお椀を作り、水をすくった。
口元へと運び、飲み込んだ。
「んぐっ・・・」
冷たい水が喉元を潤し、彼の熱くなった体を冷ました。
冷静な思考も体力も徐々に取り戻してきた。
「で、これからこの森をどう抜けようか・・・」
目印とかもなくこのまま歩き続けるのは無謀だが彼女から逃げるにはそれしかないのだ。
となれば持久戦しかない。
野宿を繰り返し、彼女から振り切りながら森を抜け出そうかと考えていた、その時。
「んっ・・?」
アトラタは気づいた。
水中の中に巨大な何かが泳いでいた。
水越しだったが大体の体格とかは分かる。
四本足の動物。
固い皮膚に覆われ、長い尻尾がお尻の辺りにくっ付いている。
そして口だと思われる個所は大きく突き出ている。
―――ワニ!?
そもそもワニは暖かい水辺とかに住んでいるのであってこんな小川にワニなどいるはずもない。
だが外見からすれば、あれはワニでしか考えられない。
何故こんな川に住んでいるのか!?
アトラタは混乱していた。
『ザバーンッ!!』
水しぶきが挙がると同時に、ワニらしき動物が飛び出した。
そこで全体像が浮かび挙がる。
硬そうな表面と短い四本足、大きく突き出た口。
だがその金色の瞳、そして後頭部から出ていた銀色の髪の毛―――更に表面の色が銀に覆われていた―――で一瞬で理解できた。
――――フェーレースだ!
「はあい♥ 今度はワニになって貴方を襲っちゃうわぉ♥」
そう言いフェーレースはその巨大で鋭い歯がびっしり生えた口を開き、彼の頭をかじろうとする。
即座にアトラタは首を引くと、獲物を逃がした彼女の口から歯同士がぶつかる様な音を立てた。
「大丈夫。噛まれても血は流れないの。代わりに立ってられない程の快感が走っちゃうけど♪」
「だったら余計怖えよ!?」
アトラタは再び森の方へと走っていく。
彼女は四つん這いになり追いかけるが人間の脚力にはかなわない。
加えてアトラタには例える事が出来ない恐怖に支配され否応にも足の速さが挙がっていた。
すぐに距離が開き、数分もすればアトラタは森の中へと消えていった。
獲物を逃がしたというのに彼女はすぐに追おうとする気配はない。
「あらら、森の中に逃げちゃった」
姿のまま追っても構わないがどうせなら森に相応しい動物へと変わって追いかけようとフェーレースは決めていたのだ。
「森の中なら、この子ね」
短くなった後ろ足で立ち上がると前足がブルブルと震え始めた。
脚と同じだった短い前足が長くなっていく。
両手は両腕よりも太く、大きくなり、両肩に小さい力こぶが出来上がり剛腕の両腕となる。
ワニの特徴である大きな口と顎は縮んでいくと骨格が躍動し始めた。
その背より半分くらいになるが横に広がりたくましい背中に。
固い表面で覆われていた皮膚が、銀色の毛に覆われていく。
「もお〜。女なのにたくましくなって困っちゃうわぁ、ウホホッ…」
♢♢♢♢♢♢♢♢
木々が生い茂る森の中をアトラタは駆けていた。
走りながらアトラタは自身の後ろを振り返ってみると。
―――あいつは追って来てないな。
だが油断はしない、追ってこないのなら距離を離せる機会だ。
されどその時間はあまりにも短かった。
「う〜ほっほっほっ〜!! 見つけたわぁ〜!!」
心臓が飛び出てしまう程、驚いた。
フェーレースの声だ。
雄たけびを上げて、しかも上の方から聞こえてきた。
木の上を見上げると木から木へと何かが飛び移っている。
恐らくその何かはフェーレースなのだろうが。
「何の動物なんだよ!?」
アトラタの前方にドスン、と何かが降りてきた。
強靭な両腕に太い指先。
両足は両腕と半比例して短く二の腕よりも小さい短足だ。
全身は銀色の毛に覆われ、体格も自分とほぼ同じ。
まるで雪山とかに伝わる伝説上の生き物、イエティみたいだ。
そして当たり前の様に金色の瞳と後頭部から銀色の髪の毛が生えていた。
「う、ほほっ!! うほほっ!! ゴリラの素早さに逃げ切れるかしら♥」
そう言いながらゴリラとなったフェーレースは体を反らし、胸板を両手で叩きドラミングさせる。
「ん、んなっ!?」
怖気づいたアトラタは反対側の方へと逃げる。
だがフェーレースが彼より早く先回りし通せんぼされた。
「ゴリラって、そんなに素早かったのか!?」
「ゴリラだっていざとなれば素早くなるの。このまま異種プレイでもしちゃおうかしら♥」
そんなのは絶対に御免だ。
何が何でも逃げなければならない。
だが具体的な案が思い浮かばなかった。
残っていた最後の煙玉を使おうかと考えたがそれは一時しのぎに過ぎない。
絶対に逃げ切れると思った時まで取っておくべきだろう。
ならどうするべきか。
どうやって逃げるか考えながらアトラタは後ずさる。
その度に彼女が一歩踏み出す。
(ええいっ!! 何かねえのかっ!?)
そこでアトラタは周囲を見渡すと丁度いいサイズの枝が落ちていた。
練習場で使っている木刀ぐらいの大きさだった。
たまらずそれを手に取った。
女性に手を挙げるなど気が引けるが今はこれしかない。
「とりゃああ!!」
彼女の顔面目がけて、アトラタは声を挙げながら枝を振り下ろした。
だが寸前で彼女は枝を掴む。
「はい、残念♪」
そして片手の腕力だけで棒を握りつぶし、粉々にさせる。
その光景にアトラタは心底恐怖した。
「今の私はゴリラ。この腕力の前じゃ丸太でも持ってこない限り駄目よ♥」
彼は再び2、3歩後ずさる。
必死に頭を回転させて逃げる術をまた模索していた。
次の一歩でぬるっとした感覚が右足に走った。
見ると地面がぬかるんでいた。
その地面にアトラタは閃いた。
すぐさま両手でそのぬかるんだ地面をすくい、泥だんごを作った。
「う、ほほほっ!! いただきます〜!!」
とびかかる直前、彼女の両目に目がけて泥だんごを投げつける。
「きゃ!!」
見事に泥だんごは彼女の顔面にヒットして彼女の視界を奪った。
その隙にアトラタは全速力で走り抜ける。
だがこのまま走っても彼女に追いつかれる。
ならば隠れて逃げればいいのだが、そんな都合よく隠れ場所を見つけられるはずがない。
(どうかこの時ぐらい加護してくれよ、神様!)
その願いが通じたのか定かではないが走っている途中、大木の一本の根っこ辺りに洞穴みたいな空洞がぽっかりと空いていたのを見つけた。
じっくり考えている暇はなかった。
入り口は狭かったが中は大人一人が入れるぐらいのスペースがあった。
体をよじらせ、中へと入り込んだアトラタ。
息を殺し、彼女が通り過ぎるのを待った。
数秒すると足音が聞こえてきた。
言うまでもなくその足音の主は。
「何処に隠れているのかしら〜。大人しく出てきなさい〜」
そう言われておとなしく出てくる者など誰一人いない。
アトラタは両手で口を覆い、呼吸の音すら消そうとした。
そして自身の体がはみ出し、彼女に見つからないよう体をくねらせ入り口から見えないよう体制を取った。
「仮にも女の子の目に泥をかけちゃんたんだから責任は取らないと〜」
痛いところを突いてくるがここで出てきても彼女に捕まるのが関の山。
どんな台詞を吐こうがアトラタは出てくるつもりはない。
(是が非でも出てくるかよ、馬鹿野郎っ!!)
暫くしているとフェーレースの声が響いてきた。
「う〜ん。もしかして、木の裏とかに隠れているのかしら〜。だったらあの子になっちゃうわよぉ〜」
また別の動物に変身するのかとアトラタは生唾を飲む。
しかし彼女が一体何の動物になるのか見当付かない。
だが確実に自分を探し出す為の動物になろうとしているだろう。
「ああんっ♥ 尻尾が出てきて...、私の毛が...♥ あんっ♥ きゃ♥ うん、ううん♪」
淫らな声色をわざと挙げていたフェーレース。
自分に聞かせて興奮させようとしているのか。
いや、そもそも自分がこの周囲にいるのだろうと考えているのだろうか。
「分からないかしら。ならヒント、四本足の動物っ♥」
その声は唐突だった。
不意に投げかけたフェーレースのヒントとやらは。
それを受け取ったアトラタは考え始めた。
四本足の動物?
それだけでは検討すらつかない。
そもそも4足の動物など沢山いるではないか。
「これでも分からないわね。ならもう一つヒント、大きな動物。ゴリラよりも、ワニよりも大きな動物になっているのぉ」
大きな動物っ!?
それを聞いたアトラタは戦慄した。
そんな巨体の前では自分は何も出来やしない。
「ああん♥ 耳が大きく...鼻がどんどん長くなって...♥」
恐怖が体中を支配し、冷静な思考が出来なくなっていた。
どんな動物なんだ、そして自分が出せる最良の選択は。
アトラタが出せた選択肢は一つだけ。
息を潜め、やり過ごすしかない。
フェーレースに気づかれないように。
やがて死刑宣告とも言えるフェーレースの声が響き渡る。
「変身、完了〜。さあ、探しちゃうわよ〜」
『ドスンッ!、ドスンッ!』
地響きが森に鳴り響いている。
かなり大型の動物になったのだろうが一体何の動物になったのだろうか。
この時だけ何故か、冷静な思考が出来たアトラタは頭の中でフェーレースが述べたヒントを並べていく。
―――四足の動物で。
―――耳が大きくて?
―――鼻が長く?
どんな動物なのだろうか?
心当たりがないな、などと最初は思っていたが次に一つだけ思い出した。
確か鼻が長い四本足の動物と言えば・・・。
『メキメキメキッ!!』
その続きを思い出そうとしていた所でこんな音が聞こえてきたのだからすぐに思考が消し飛んだ。
何の音だろうと恐る恐る覗くと眼面に見えていた樹木の一本が空へと上がっていく。
まるで上から引っこ抜かれる様な感じに。
動物の中であれだけの怪力を発揮出来るのは一体だけ。
(嘘だろ、おい!!)
そう思っていた矢先、自身が隠れていた樹木が上がっていく。
「のわっ!?」
その拍子に樹木の中から放り出されたアトラタはその顔を挙げる。
そして目の前にいたのは。
「見・つ・け・た♥」
その姿に唖然とした。
自分の3,4倍はあるだろう巨体。
ずっしりと重たそうな4脚。
時折後ろからちらつかせる尻尾が何故か可愛らしい。
当たり前の様に頭部の後ろ辺りからは銀髪が生えて、金色の両目が頭部の真横に付いていた。
最大の特徴は頭からはみ出ている大きな耳に、鼻辺りの左右には立派な二本の角が。
そしてその太く長くなった鼻に巻かれていたのは隠れ蓑にしていたあの巨木。
フェーレースは象になってその力で引っこ抜いていたのだ。
「パッ、オオオォーンンッ!!!! どうかしら、象さんパワーで木々を引っこ抜いていったの。まあ、貴方の匂いは覚えているから象さんにならなくても良かったんだけどね」
そう言いフェーレースは象の両前足を挙げて自慢してくる。
ただのアピールのつもりだろうがアトラタには恐怖を刺激する姿でしかない。
「なら何で象なんかに!?」
「私に変身出来ないものはないって証明よ。象にでも、蛇にでも、後は大きな竜とかにでもなれるんだから♥ でもなるべくなら竜にはなりたくないわね。私、人間たちを怖がらせたくないもの」
十分今の自身を怖らせているのだが、という指摘をする暇はない。
あの巨体の前には太刀打ちできない。
ならばアトラタは迷わず逃げ出した。
「逃がさないわよ、パオオォーンンッ!! なんちゃって♪」
ドスン、ドスンと音を立てながらアトラタの後を追いかけるフェーレース。
息を切らしながらアトラタは走り続けるが後ろを振り返れば象となったフェーレースはその巨体を走らせている。
あの巨体にぶつかったらひとたまりもない。
時折、木々にぶつかっても痛がる様子もなく踏み倒して進んでいくフェーレースの姿にアトラタは恐怖していた。
だが幸運にも木々が生い茂るこの場所で象となった彼女は、その巨体で木々を押し倒すしか進められない。
だから彼との距離はみるみると離されていくのだ。
「あら、象さんじゃ体が大きくて木々にぶつかっちゃうし遅いわね。木々が邪魔ならぜぇんぶ、なぎ倒しちゃっおうかしら♪」
「なぎ倒す?」
「貴方も見たいでしょ、私の変身。ならゆっくりと見せてあげるからもう少し近くに寄っていいわぁ」
遠目だったが彼女の外見が変化していくのが分かる。
自分の3,4倍あった巨体はみるみる小さくなっていく。
だがそれでも十分大きな体だ。
自分より一回り大きいぐらいのサイズまで小さくなったのだから。
特徴的だった長くなった鼻と大きな耳は縮んでいく。
やや丸みを帯びた象の背中が角ばっていく。
だがゆっくり鑑賞している暇はない。
この際に逃げなければというよりも逃げるには絶好のチャンスだったのだから。
名残惜しい気持ちを押し殺し、アトラタは走り出す。
「ああん♥ 私が変身している時に逃げないでよ〜。いけずぅ」
遠くからフェーレースの声が聞こえてくるが構う暇などない。
「貴方に対してのサービスだったんだけど、逃げるならゆっくり変身する必要はないわねなら一気になっちゃうからぁ♥」
「しまった!?」
愚策だったかと思ったがもう遅い。
こうなれば少しでも距離を離すしかない。
だから必死にその両脚を働かせ逃げた。
ものの数秒後、フェーレースの声が聞こえてきた。
「さあ、追いかけちゃうわよぉ」
もう変身完了したのかとアトラタは危惧した。
だが距離はかなり離したはずだ。
後ろを振り返れば彼女の姿が見えないのだから簡単には追い付けな・・。
『ガサ、ガガガサッ!! ドーンッ!!』
樹木が倒れていく様な音が聞こえた。
何事かと振り返ればこちらに一直線へと走ってくる動物らしき影が。
その影は樹木の一本へとぶつかるが、逆にその樹木をなぎ倒したのだ。
それが次々と真横へと倒れていったのだから異様でしかない。
一体何の動物に変身したのだろうかとアトラタは目を凝らすと。
見えてきたのは、象と同じ四足歩行の動物だった。
体格は自分より一回り大きいぐらいで、その顔は飛び出ていて、先端には大きな角が一つ。
背中はやや丸みを帯びた象よりも角ばっている。
4足はぶ厚い皮膚で覆われていて、象の足よりも堅そうだった。
そして当然の様に後頭部から銀髪がはみ出て、金色の妖しい両目がこちらへとむけられていた。
その姿はまるで自然界の重戦車だった。
そう、フェーレースはサイになって追ってきているのだ。
「ほらほら♥ サイになった私は止まらないわよぉ♪」
木にぶつかってもそれを蹴散らし、スピードを落とさず、行く手を遮る物全てを破壊しながら獲物である自分に目がけて爆進していく。
たまらずアトラタは脚のスピードを挙げ、差を広げようとするが。
脚の違いか、それとも体力の違いかじわり、じわりとフェーレースとの差が狭まっていく。
気が付けば自身との距離は数メートル程度。
しかも彼女は息切れは疎か鼻歌混じりで猛進してくる。
逆にこちらはもう息を切らしながら必死に走っていた。
これでは彼女にぶつかるのは時間の問題だった。
「ほらほら、このまま貴方にぶつかっちゃうわよ♥ でも安心して、怪我したらすぐに治してあげるから」
「安心なんて出来るか!! 治療と称して俺に快楽とかのヤバい魔法かけるんだろ!?」
「そんな事しないって。私が付きっきりで看病してあげるから♥ 絶対命は取ろうとしないから」
看病もとい自分を拘束するという事だろう。
だが自身の足が限界だ。
逃げ切れないと思ったら絶体絶命の文字が頭に過った。
(く、くそっ!! 駄目だっ、振り切れねえ!!)
心臓が破裂しそうになったアトラタは気づいた。
このまま走れば約10メートルぐらい先で、道が途切れていた。
途切れていたのは、恐らくこの先が切り立った断崖なのだろう。
その先が奈落の底か、はたまた木々が覆い茂っているだけなのかどちらでもいい。
もしかすると断崖ではないのかもしれないが悩んでいる場合ではない。
瞬時にアトラタは後ろをちらっと振り返る。
「看病♥ 看病♥ どんな事して挙げようかしらぁ♥」
そんな事を口ずさみながらその重足で走っているフェーレース。
どうやら彼女は気づいていない。
こうなれば一か八かやるしかない。
アトラタはくるっと回れ右をし、両足をドシっと構えた。
「あら? もしかして受け止めるつもりなのかしら? そっか、諦めて私を抱きしめたいのねぇ♥」
「お、おうそうだ!! 全力で受け止めてやっからかかってこい!!」
「ふふっ♪ なら力加減はしてあげるから安心してぇ。そのまま私の家に帰りましょう♪」
上機嫌で語るフェーレースはスピードを落とさす襲ってくる。
アトラタは待った。
もう少しだ。
もう少し近づければ。
「と〜〜つ、げ〜〜き〜〜♥」
―――今だ!!
すぐに煙玉を取り出し地面へと叩きつける。
煙が上がると同時に真横へと飛ぶ。
勢いを殺せないままフェーレースは煙が立ちこんでいる中を突っ込んでいく。
やがて煙幕の中を突っ切ると同時にフェーレースは気づく。
「あら?」
下が地面ではなく空中であった事に。
「きゃあああああああぁぁぁ!!」
重力の法則に従って、巨体の彼女が下に落ちていく。
『ザッバアアァァンンッ!!』
派手な水しぶきが上がる音がした。
一体どうなったのかとアトラタは崖を覗き込み、暫く傍観した。
見れば崖の下は川になっていたようだ。
水面にブクブクと泡が噴き出していたが彼女は浮かび挙がってこない。
5分待ってみてもやはり挙がってこない。
やがて泡が吹き出さなくなると、アトラタはやっと安堵出来た。
「は、はは・・・。助かった・・・な」
けれど彼の顔はどこか浮かない。
不可抗力とはいえ女性にこんな仕打ちをしてしまったのだから。
けれど助けようとする気持ちは起きない。
助けたらまた自分に襲ってくるのだと思ったら手が出せなかったのだ。
だから心の片隅に罪悪感というものが生まれたのだ。
確かにフェーレースは自分を襲おうとした張本人だが自分の命を奪おうとはしなかった。
アトラタは答えられなかった。
後ろめたい気持ちを残しながらアトラタは歩き始めた。
彼女から逃げられたというのにその足取りは何故か重かった。
♢♢♢♢♢♢♢♢
ばしゃばしゃ、と水音を立てながら川から浮き上がり、そのまま泳いでいた一体の、いや一人の動物がいた。
その巨体を揺らしながら岸辺に上がってきた彼女はその口を開いた。
「もうっ!! 酷いわぁ…。女の子を騙すなんて」
両足を交互に動かしながら犬かきならぬサイかきをしながらフェーレースは陸へと上がってきたのだ。
されどその顔には騙されて怒っているような顔ではない。
体をブルブルと震わせ、体の水滴を払いのけた。
「このまま追いかけてもいいけれど。やっぱり魔女と言ったら・・・」
そう言うとフェーレースの体がまた躍動し始める。
サイの鋼鉄そうな皮膚に、ふさふさの毛が生えていく。
その毛が更に尻尾までもふさふさの毛が。
次に彼女の鼻辺りからヒゲが6本生えると同時にサイの両耳がピコンと立ちあがる。
そしてその巨体はみるみると小さくなっていく――――
17/12/23 00:47更新 / リュウカ
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