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人形職人の見習いと人形職人の娘と共に |
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冬の季節は過ぎたというが寒帯気候に位置するこの地域ではまだ大量の積もった雪が残っているというのは珍しくない。
その真新しく積もった雪の上に足跡を残すかのように進んでいく一人の青年がいた。 肩から担いでいるリュックにはスケッチブックや裁縫道具、彫刻刀に絵の具一式などが入っているので疲れと共に汗が出る。 が度々それを手で拭えばくせ毛のある青い髪の毛がなびき、その青い瞳は真っ直ぐに前を向きなおす。 「よいっしょっと! まったくこんな所に住んでいるとは・・・。まあ集中して作りたい気持ちは分からなくもないけど」 彼の名はカイト。未熟者の人形作り職人を目指す青年だ。 彼の父は人形作りの職人であり、その偉大な父の後継者として修行という名の諸国巡りをしている。数多くの人形職人と会い続け、その技を身に着けるといった勉強であり今彼はある人物に会う為この雪国を訪れている。 一歩、一歩、歩くたびに雪が纏わり付き靴を濡らしていき、背中に担いでいる道具が入ったリュックの重さが彼の体に圧し掛かるがそんなのは些細な事だった。 今の彼には期待と好奇心が溢れ出て、今すぐにでも偉大な師を一目見たいという希望に満ちていたからだ。 そして周辺の村から一時間もかけて彼が来たのは立派な屋敷の門前だった。 「よし着いた! ここにケリミア先生がいるんだな!」 彼が呼んだそのケリミアという名の人間はこの地域において偉大な人形職人の五人の一人に数えられるほどの技術を持った職人であり、制作した人形はまるで人間そのものだと称賛されるほどの精巧さを誇る程の技術を持った天才であった。 一度だけ人形の展覧会でカイトはその作品を見たがため息が出るほどの美しさを放っていた。出展されていた人形はジパングと呼ばれる国にいる『花魁(おいらん)』という女性をモデルに制作された人形だがそれは自分の父が作っていた玩具用の面白おかしな人形と方向性が違っていた。整った顔に真紅の唇、さらさらとしたロングの黒髪、人間に限りなく近い肌色を施した表面に、人形が身に着けている紫を基調とした着物までケリミアが制作したという。その人形はまさに人間の女性そのもので女性の美の極みともいえる代物だった。 まさに目から鱗が落ちた気分だった。 あんな人形を自分も作ってみたい、だから自分がこの修行で絶対に会っておきたい人間の一人だと決めていたのだが。 「問題は僕を弟子として雇ってくれるか。いや会話するだけでも出来るかどうか、か」 このケリミアという人物は弟子を取らない主義で馬鹿騒ぎは嫌いだと人里離れたところでひっそりと暮らしている人間であり、そこから察するに馴れ合いとかは好きではないようだ。 その上、この数年で彼と会話した人がいないと聞く。この近くの村でも彼と話した人間がいなかったのだから人間嫌いでもあるようだ。 だが彼は屈する気もないし臆する事もない。 粘り強く根気よく会う事を続けていれば彼だとて人間だ。きっと自分の熱意が伝わり気を変えてくれるだろう。 意を決して門前の鉄格子を開いてみる。 中庭から屋敷へと続く道は既に雪かきが終えており、足が雪に埋もれる心配はない。その屋敷を見てみると決して大きくはないが小規模でなら中でパーティーが出来るほどの大きさを誇っている。ただケリミア一人で住んでいるとなると広すぎて掃除などがおぼつかないだろうが。 そんな勝手な想像を浮かべながらカイトは力強く歩いていき、ついに入口のドアへと着く。 右手で拳を作り、軽くノックを2回ほどした。 「・・・・・・・・・」 しばしの沈黙。 2分待った。けれど扉は開かない。 もう一度軽くノック。今度は三回ほど。 「・・・・・・・・・」 けれど返事はない。 5分待てど開く気配はない。 一度ノックをしようとした矢先だった。 「どなたですか?」 そう言い内側から扉を開けたのはメイド姿をした女性だった。両手には白の手袋に手首まで隠している長袖と足首にまで届いているスカート、必要以上の肌を露出しない姿は清楚さを彷彿させたがカイトはそれを吹き飛ばす程の衝撃にかられた。 というのも扉を開けた女性はまだ若く、自分より年下の、まだ幼さが残る女性だったのだ。 おそらく歳は14、5。腰にまで届く緑色のツインテールと緑色の瞳を持っていた。 こんな歳で使用人として働くというのも驚いたがそれよりも驚いたのは人間嫌いだと思っていたケリミアが他の人間を雇っていたという事実だった。 当てが外れたがこんな事で動揺する程カイトの心は未熟ではない。きちんと初対面用の表情を作り敬語で話しかける。 「あの、僕はケリミアさんに会いたくて来たんです。僕は人形作りの職人を目指していて、ぜひケリミアさんにお話を伺いたくて」 すると彼女はみるみる暗い顔になっていき申し訳なさそうに顔を困らせていた。 「・・・・ここまで来るのに大変だったでしょう。どうぞ中へ入ってください、温かいものでもお出ししますので」 「は、はい。ありがとうございます」 答えなかったのには腑に落ちないが実のところこの雪が積もった道を歩き続けていたのだから疲れも出ており彼女からの提案は何よりもありがたいものであったいた。メイドに勧められ中へと通されたカイトはその装飾に心奪われていた。 客人を迎えるエントランスには天井に吊るされた自分より大きなシャンデリア、規則正しく並べられた彫刻の数々、両脇に階段と曲線を描いた手すり、極め付けが中央に出迎えるかのように鎮座していた大時計だ。ローマ数字で刻印され長針と短針が厳かに時を告げているその様は贅沢とはまた一線違う雰囲気を醸し出している。 「ケリミアさんは芸術にも精通されていたんですね」 年下でも敬語を使っていたのは彼女がメイドであるからそれに合わせなければという義務感からくるものであった。 「いいえ。これは全て奥様の趣味です」 「奥さん? ケリミアさんは家庭を持っていたのですか?」 「はい。家族との時間を大切にしたいらしくこの土地に屋敷を立てて静かに暮らしていたと聞きました」 「メイドさんの・・えっと名前は?」 「ミンクと申します。お見知りおきを」 そう言いスカートの袖を掴みお辞儀をした彼女にカイトは本当に年下なのか思えないほどの落ち着きさを感じた。 「ではミンクさん。ケリミアさんは家族との時間を大切にしていたといいましたね。ではお子さんとかはいたんですか? この屋敷に二人で暮らすには少々大きすぎるような気も」 「娘の私がいました。父と母との三人、そして数多くの使用人達と共にこの屋敷に暮らしていました」 ミンクの声ではない、どこからともなく聞こえた声。 周囲を見渡すと二階から自分を見下ろす形で見ていた女性が一人。 歳は自分と変わらず、如何にも屋敷の娘といった感じのワイン色のフリルが付いたドレスを身に着けており髪は首元までしか届かない、短髪の茶色をした女性だった。 顔たちも整っており確実に美人の部類で胸や尻など女性特有のでっぱりは慎ましく、清楚さを感じさせる容姿だった。 まさしく人間の女性だと他人は主張するのだろうがその時カイトにはまるで彼女が人形のようにほんの一瞬だけ思えたのだ。だが次にはそんなはずはないと迷いを振り切るように首を振った。 「お客さんとは珍しいわ。どこから来たのですか?」 馬鹿な妄想を払ってカイトは現実と向きなおし、きちんと返答と挨拶を述べる。 「ヘイズリから来ました。僕の名はカイトと言います。人形作り職人の卵で是非ケリミアさんとお話をしたくてここに来ました」 すると娘だと主張する女性は何だか申し訳なさそうな顔をしていた。 それは先ほどミンクが見せた表情と似ている。 一体先生の身に何が起こったのか気になって仕方がない。 問いかけようと口を開けようとしたその前に娘が口を開いてきた。 「改めて話す場を用意いたしますので応接間へ先に行ってて下さい」 「カイト様、こちらです」 ミンクが案内しようとしていたのでカイトは少しだけ戸惑ったが次にはミンクの方へと向き直した。 戸惑いを生んだ原因は偉大な先生の居所が気になるというよりも娘の端麗な容姿が気になったと称した方が正しいのかも知れない。 ♢♢♢♢♢♢ 「・・・お父様は既に他界されました。お母様も共に。今は私と数人の使用人とともにこの屋敷を管理しています」 応接間においてケリミアの娘が口にした悲しい真実。 思わず手に取ったカップの取っ手を落としそうになるが両手で包むようにカイトは持ち続けていた。 「そんな・・・。ケリミアさんが・・・・」 ならばあの時彼女が口にしなかったのは納得だ。 誰も会ってすぐの自分に主人が死んだなどと言うはずがないし、話すに相応しい場所を用意しなければならないのは至極当然の事だ。 夢を打ち砕かれた気分になったがすぐに立ち直す。 自分も辛いが一番辛いのは最愛の両親の話を語らなければならないという娘の方だ。 娘さんの方が自分よりも深い傷と悲しみを負っているのだから。 「ごめんなさない。まさかそんな事になっていたなんて、僕の心無い発言を許してください」 「いいえ。お父様は人との交流をあまりしなかったのですから知らなくても無理はありません。それにカイトさんは失礼な発言などしていないのですから謝る事などありません」 しばしの重い沈黙。 早々に話を切り上げてここから去ろうかと思ったがせっかくここまで来たのだから手ぶらで帰るというのも勿体ない気がする。 葛藤し続ける自分の頭を目覚めさせたのは振子型の大時計からの合図だった。 ゴーン、ゴーンという音と共に時刻を告げカイトは思わず時計盤を凝視した。 時刻はもう夕方の6時だ。外を見ればもう夕日は沈みかけ、暗闇が辺りを支配しようとしている。 「そういえば申し遅れましたね。私の名はメイコといいます。どうしますかカイトさん? 今日はもう遅いですしこの館に泊まっていきませんか?」 「いえ、この時間帯ならまだ帰れると思います。一時間ぐらい歩けば近くの村までは」 「ですけど暗い夜道を明かりも無しに歩くのは危険すぎます。仮にランプなどの灯りがあろうともだいたい30分もすれば切れてしまいます。夜道を侮ってはいけませんよ、カイトさん」 確かに彼女の指摘はごもっともだが自分と初対面の、それも傷心中の人間の屋敷に泊まるというのは言わずもがな配慮の意味も込めて遠慮するべき事だろう。 頭の中にある天秤には『危ないので泊まる』と『お嬢さんの為に出る』が均等に釣り合っていたが唐突に『死んだらいけない』という重りがかけられた事で天秤は傾いていく。 やや敬う気持ちでカイトは頼んでみた。 「・・・その、いいんですか。僕がこの屋敷に泊まっても?」 「構いませんよ。部屋は有り余っているのですから」 「・・・・ならお願いします」 「では後で使用人がカイトさんを案内しますので暫くここにいてください。部屋を用意しますから」 恥ずかしい気持ちだったが背に腹は代えられない。 カイトは自分のプライドだけで自殺をするような人間ではないのだ。だからメイコが許可したのには素直に喜んだし、彼女の瞳に秘めていた欲望と彼女の目には獲物を狙っている鷹の如き眼光が眠っていた事には気づかなかった。 いや、カイトには気づけないはずだ。 彼女は例え心の中に狂気を隠していようとも日常をごく自然に振る舞える術と体を持っていたのだから。 ♢♢♢♢♢♢ 「どうぞ、カイト様。こちらです」 通された部屋はソファーにテーブル、ベッドにドレッサーといった客室として十分な広さと家具が備わっていた。 「わざわざ案内してくれた上に荷物まで、申し訳ございません。クドさん」 カイトは紫の髪をポニーテールの様にして束ねた執事姿の男性、クドにお礼を述べた。彼は自分と同世代ぐらいで執事なのだから当然足首まで届く裾に手首を隠す程の黒の上着を着ていた。 それは当然の事だったのだが何故かカイトには少しだけ気がかりだった。 「お気になさずに。これが私達の務めですから。では7時頃になりましたら食事となりますので他の者が呼びに来ます」 カイトのリュックを丁寧にソファーへと置くと執事は部屋から出て行った。 一人になったカイトは改めて部屋を見渡す。全体的に黒を基調とした家具はいつも綺麗にしているのだろうか、ほこりや汚れなどは一切見当たらず新品の様な美しさを放っている。またこの部屋には扉がもう一つ備わっておりそこを開ければトイレとバスタブが置かれているバスルームが。 「至れり尽くせり、だな」 それがカイトの感想だった。 夕食にまでまだ時間がある。 それまで軽く日記とかでも書いてみようかとカイトは思った。 ♢♢♢♢♢♢ ――――――久しぶりの客人、しかも男性の人間だなんて――― ――――――欲しい、彼が欲しくなってきた―――――― ――――――でも彼は明日になれば旅立ってしまう、それは嫌だ――― ――――――そうだ、彼を引き留めればいいんだ―――― ――――――お父様が残した人形達を餌にして、そして料理に――― ――――――でも私の貧相な体を受け入れてくれるの―――― ――――――ならば聞き出せばいい、そして私を作り替えればいい―――― ♢♢♢♢♢♢ 「カイト様。お食事の準備が出来ました。どうぞこちらへ」 ノックの音と共に扉が開き振り向くとそこにいたのは黄色の短髪に黄色の瞳を持った自分よりも若いといっても差し支えない程、まだまだ幼い女の子だった。歳は恐らく12、3歳で彼女の服もまた手袋に長袖と足首にまで届くメイド服だった。 「は、はい。えっと貴方とは初めてですよね? お名前は?」 「リリンと申します。双子のレインと共にお嬢様に仕えています」 ミンクと同じく落ち着いた口調で告げる彼女に歳相当のあどけなさを感じられない。 成人した使用人と大差ない振る舞いだ、とカイトは食堂へと移動している間に思っていた。 こんな幼い女の子までいるのが腑に落ちないが彼女にも止むに止まない事情というものがあるだろし自分には考えられない忠誠とかもあるだろう。だからそれに触れるのは彼女の気を損ねてしまうしプライドというのも傷つけてしまうとカイトは配慮したのでそれ以上考えるのを止めた。 「どうぞ、カイト様」 ゆっくりとリリンが扉を開けるとよく貴族の夕食会とかで見られる長テーブルにクラッシックな椅子群、その一つに対となっているナイフとフォークの束が置かれている。 その隣には先ほど会った執事のクドが立っている。 彼が音を立てずに椅子を引けばそれが合図だ。 カイトはその席へと座ったが内心は臆していた。 (・・・不味いな、テーブルマナーとか曖昧だからこのまま振る舞えるのかな?) 心配を他所にして奥の扉から料理が運ばれてくる。 計、五品。それらが全て自分の所へと置かれていく。 パッと見れば主食は斜め切りにされたフランスパンに白身魚のムニエルらしきもの、キャベツとベーコンのスープに細かく砕いたピーナッツとほうれん草をあえたサラダ、デザートとして橙色のアイス、どうやら高級レストランなどで出されるフルコースとかではないようだ。 まずカイトはうろ覚えの記憶を無理やり引き出してみる。 確かナイフとフォークを取る順番は内側だったからだろうか? その記憶を頼りに両手で一番内側のナイフとフォークを取ると、隣にいた執事が声をかけてきた。 「カイト様? 普通、ナイフとフォークは外側から取っていくのですが?」 どうやら初っ端から間違えてしまった。 次にカイトはその体を硬直させてしまう。 「もしやマナーとかも承知しておられないのですか?」 執事の台詞には決して棘など混じっていない素朴な質問のはずなのにカイトには痛い所を指摘され恥ずかしさや悔しさが混ざり合った感情が噴出してくる毒の様に思えた。 だが出された料理は食べねばならない。 ここは恥を忍んで彼にマナーを聞こうとしたその時だった。 「構いません、カイトさん。ここは貴族の夕食会ではありませんからテーブルマナーや面体は気にせずお召し上がりください」 食堂の扉が開き入ってきたのはまさか、メイコ本人だった。 急に当主が出てきたにも関わらずリリンとクドは慌てる素振りなど見せずにただ一礼してみせた豪胆さにカイトは内心舌を巻いていた。 流石にここの使用人を務めている事のだけはあり、冷静かつ華麗な振る舞いだと感心してしまう。 だが問題はそこではない、館の主に失言を聞かれてしまった事だ。 「偶然廊下で話を聞かせてもらいました。そうですよね、カイトさんはこのような息苦しい生活とは無縁の青年でした。お客様の考慮も忘れて自分勝手に出した私の非をお許し下さい」 「いえ、謝るのはこちらの方です!! こんな豪勢な料理を出された手前、無礼を働いてしまった僕の方に非があります!! だから謝らないでください、メイコさん!!」 「ではカイトさん。改めてテーブルマナーを気にせずどうぞご自由にお召し上がりください」 主からの許可が出ていても、若干ためらいながらカイトは両手に持ってあったナイフとフォークを動かし、魚の身を切り崩し、一部を口へと運ぶ。 食べた。 顎を動かし舌で味を確かめる。 ―――旨い、その一言に尽きた。 「美味しいですよ、この白身魚のムニエル。粉っぽくないしちゃんとバターの味も付いていて、本当に美味しいです」 「喜んでいただいて何よりです」 笑みを見せるメイコにカイトも釣られて笑みを見せたが次に彼女はもう食事を終えているのかという疑問に当たった。 「あれ? メイコさんは食べないのですか? ここでの夕食は客人と主人とが一緒に食べるのが普通なのでは」 「私はもう済ませていますのでご安心を。どうぞ」 表面上はまるで子をあやしている母親の様な慈愛の目で見つめているだけでカイトは何ら不思議には思わなかったので気にせず食べ続ける。 だからその時も気づいていなかった。 メイコの目に欲情の灯りが点り始めていた事を。 狙われたら最後、執念深く追い続けるようとする強欲な目を。 ♢♢♢♢♢♢ 「いやー美味しかったな、あの料理」 部屋に戻りソファーに座っているカイトは余韻に浸りながら呟くと。 『コン、コン』 ドアからノックが聞こえカイトはどうぞ、と許可すると扉が開く。 「カイト様。お着替え物をここに置いておきます」 入ってきたのはまた見た事のないメイドだが歳は自分と変わらない、桃色の長髪と瞳を持った女性だ。他の使用人と同じく肌を露出しない為の手袋に長袖の上着、足首にまで届くスカートのメイド姿であった。 「ええっとお名前は?」 「ルウカと申します」 そう言いながらメイドのルウカはお辞儀をしてみせた。 「それじゃルウカさん、ありがとうございます。でもこんな見ず知らずの僕にここまでしてくれるなんて勿体ないですよ」 「いえ、我々にとっても久しぶりのお客様ですのでカイト様の来訪してくださるなんて何よりの楽しみでした。我々も心なしか嬉しくなってしまいました」 嬉しさがにじみ出ている台詞にカイトも何だか嬉しくなりそうだった。が、その次には気になる台詞を聞き取ったのでルウカに思わず尋ねてみた。 「ん? ちょっと待ってください、ルウカさんは久しぶりのお客さんだと言いましたよね。という事はここには人が滅多に来なかったのですか?」 「ええ。ここ数年で人の来訪者はカイト様が初めてです。何しろここは人里離れた場所に作られたのですから物好きが人間ぐらいしか興味など持たれないでしょう」 「やっぱり人間嫌いだったんですか、ケリミアさんは? 人との交流があまり好きではないと」 「まさか、でなければこの様な屋敷を作るはずがないです」 微笑みながら返すルウカの台詞からは少しばかりの楽しさを感じ取れる。 「旦那様は子供のような無邪気さと気まぐれがありました。以前この辺境に屋敷を建てた理由を尋ねると、町の中とかでこんな屋敷を建ててもつまらないから山の中とかに建てたらミステリアスでワクワクするだろう、と自慢げに答えていました。人形作りの際にも気が向かないと言って放り出したかと思えばすぐにまた再開するという気分屋の一面も見せていました」 「そういう人だからこそあの綺麗な人形達が作れたんですね。ますます尊敬してきました」 そして人形業界は逸材を、彼を失ってしまった損失は大きいといえる。 人間とさほど変わらない精巧な人形を作る技術など簡単に手に入れるものではないし、伝授しても仮に教え通りにしても不細工な人形が出来上がるのはままよくある話だ。 だからこそ彼が生きている間に指南書やら秘伝の巻とかを作り上げ一般に流通させれば ケミリア師匠の二号や三号といった職人が出てくるのにその肥料をまかないのはどうした事か、とカイトは心の奥底で愚痴っていた。 その勝手な愚痴を露知らず―――まあ読心術など習得していない一般のメイドにとっては当然とも言えるが―――メイドのルウカはカイトに迫りこのように切り出した。 「カイト様、お話をよろしいですか?」 「ん? 何ですか?」 「カイト様は人形作りを目指す職人だと伺いました。それでしたら旦那様の仕事場だった部屋をご覧になってみたらどうでしょうか?」 「いいんですか? 娘であるメイコさんの許可とか必要ではないですか?」 「お嬢様へは私が伝えておきますので。それにカイト様も興味があるのではないですか? 旦那様がどんな人形を作っていたのかを」 確かに尊敬する師の顔を見られないのは残念だが仕事場がどんな環境で何を制作していたのかはカイトでなくとも関心はあるし、見学してみたいという気持ちがある。 どうせ時間はあるのだし収穫なしで帰るというのは勿体ない話だ。 カイトはまるでケミリア本人に頼み込むような心意気でルウカへと願い出た。 「是非お願いします。ケミリアさんの仕事場を見させてください」 「では決まりですね。どうぞ良い夢を」 お辞儀をして部屋から出ていくルウカを見送ったカイトはそのままベッドへと寝転がる。 明日が待ち遠しい、万全の状態で見学させてもらおう。 ならば今日はもう早く風呂に入って寝よう、とカイトはバスルームへ入っていった。 ――――これで長くて一日、止められる―――― ――――その間に準備をしなくては――― ――――まずはこの周囲に猛吹雪を起こさせ――― ――――次に彼から好みを聞き、私を変える――― ――――それはこの子にやってもらいましょう――― ――――ふっふっふっ、絶対逃がさないから――― ♢♢♢♢♢♢ そして次の日。 出された朝食を済ませたカイトは使用人と共に仕事部屋を見学しようと屋敷の中を歩いていた。 先導している使用人もまたカイトが見たことがない人物で黄色の短髪に黄色の瞳、さらに自分よりもずっと年下でメイドのリリンと同年代だと思えるほどの幼さが残っていた。 カイトはふとそのリリンという名を思い出したので彼に尋ねてみた。 「もしかして執事さんの名はレインって名前ですか? 双子だっていうメイドのリリンさんから聞きました」 「ご名答です。僕は彼女と共にメイコお嬢様に仕えています。今も、そしてこれからも」 その台詞に並々ならぬ決意が込められているようでカイトはこんな小さい子でも頑張っているのだから自分も見習って、いや年上としての意地を二つか三つぐらい見せなければという謎の対抗心を燃やしていた。 そうこうしている内にレインはある一室の扉で足を止めたのでカイトも釣られて足を止めた。 「こちらが旦那様の仕事場となっておりました」 開かれた扉から中を覗くとそこには別次元が広がっていた。 「人形がこんなに・・・」 制作中だと思われるビスクドールの人形の大群がカイトとレインをお出迎えした。それら人形は乱雑に置かれきちんと五体揃っている人形もあれば、両足が欠けている人形に右腕が欠けている人形、中には頭しかない人形もいる。だがその中をよく見ると違う方法で作られたと思われるビスクドールよりも小さな人形が置かれていたり材質が木材で作られた人形もある。 ここを例えるなら不可思議な人形世界にカイトとレインが迷い込んだような、そんな印象をもたらす仕事場であった。 「旦那様の専門はビスクドールという竃(かまど)を用いて制作する陶器人形ですが他にも糸を操って動かすマリオネットやジパングで見られる雛人形とかも制作しておりました」 「凄いですよ、ケミリアさんは。僕だったら自分の専門分野だけでも手一杯なのにこんな沢山」 「片付けようかと考えた時もありましたが何だか勿体ない気がして、ずっとこのままとなっているんです。お恥ずかしい話ですが」 カイトにとっては全く恥ずかしい話ではない、むしろ誇るべき話だ。 ここまで他分野の人形の知識を収集するのはともかく実際に制作するなど難しい話で、途中で挫折する者もいるだろうが彼は貪欲なまでに人形を愛していた。 目を輝かせじっと人形達を見つめ続けているカイトは不意にレインから声がかけられた時はびっくりした。 「あのカイト様に聞いておきたい事があります」 「は、はい!」 やや裏返った声で返事をしてしまった。 「不躾(ぶしつけ)で真に申し訳ない話なのですが。もしカイト様がビスクドールの女性を作る際、どんな所に重点を置きますか?」 その時のカイトにはただの人形作りの話程度しか思っていなかった。 「えっと、そうだな。まず体格かな? ちゃんと女性らしい曲線と膨らみは持たせたいし、衣装に関してはあまりこだわりってものがないから分からないかな」 「質問を変えましょう。カイト様は作る際に人形の乳房を大きくしてしまう方でしょうか?」 「なっ?! ど、ど、どういう意味ですか?! なぜこんな質問を!?」 「直球すぎてしまいました、お許しください。実はお嬢様もまた旦那様の跡を継ぎ人形作りをしているのですが最近行き詰まりで何か閃きの一つか二つが欲しいという要望がありましたので、カイト様なら何か得られる物があるのではと踏んでこのような質問をいたしました」 「・・・確かに僕が作るとしたらちゃんと女性として作りたいし、胸もまあ。いや嫌らしい意味ではないけど男性と区別する為に大きくして・・・えっと」 口ごもるのも無理はない。 何せ自分の性癖を暴露するのと同義でしかも相手は年下の男の子だ。 年上として恥ずかしい話をするなど是が非でも避けたいのだ、あらゆる意味で。 「ご安心下さい。僕は男ですから恥ずかしがらずこだわりを出しても馬鹿にしませんし他の使用人にも漏らしません。ただお嬢様の力になればそれでいいのです」 「・・・・やっぱ大きい方が好きかな。母性があって甘えられるし。後、お尻とか女性らしいでっぱりとかも好きで。でも長髪はダメかな。びらびらしていると目立って邪魔になっちゃうし」 渋々ながらもきちんと答えて見せたのは彼を含む使用人達への礼儀というものであった。 「それがカイト様の理想の女性像なのですか?」 「そ、そういうわけじゃ!? でも一度ケリミアさんのような、人形を作りたいならそれぐらいの!? それぐらいの女性人形を作ってみたい、かな!?」 最後の方はもう頭の中を空っぽにして告げた台詞だった。 そんな不甲斐ない自分にレインは幻滅してしまったのだろうと思っていた。 一言でいえばもう不埒だ。 自身の性解消をする為に人間の代わりに人形を持ち出すなど人形職人の端くれとして許されることはない罪だ。 どう償えばいいんだ、いやここでは償いというよりも取り繕うべきなのか、はたまた口止め料を払って黙っててもらうべきなのか。 心の葛藤をしていたカイトとは反対にレインはいたって普通で先ほどの性癖暴露染みた話を気にする素振りなど見せていない。 「なるほど分かりましたご回答感謝いたします。おや、もうこんな時間ですか。昼食の準備が出来ていると思いますのでカイト様こちらへ」 時計など置かれていないにも関わらず昼食の時間だと話を切り替えたのは恐らくカイトを気遣っての事なのだろうがその行為が返って気になってしまう事になるのは仕方のない反応であるのは当然だった。 だから昼食を取ってまたここに見学しにきても、夕食を取った後も、寝る寸前になっても カイトは気に病んでいたが明日になればもう気にしない。 一晩寝れば気持ちが和らぐし自分は明日ここから旅立つのだからもう些細な事だからだった。 人間はそういう生き物だったからだ。 ――――やっぱり胸が大きい人が好きなのね――― ――――なら安心した、今作っているのはまさに―――― ――――もう彼を邪魔する準備は出来てる――― ――――今日は徹夜、でも私には睡眠も食事も必要ない――― ――――ふふっ、待っててね愛しの旦那様♪―――― 翌日、それはここから旅立つ日の朝。 既に使用人達にこの事は報告済みでカイトは早起きし荷造りをするだけだった。見納めという事でカイトはカーテンを開け、窓越しから外の景色を眺めようとしてみたが。 「そ、そんな!? 昨日まで天気が良かったのに吹雪の嵐じゃないか!?」 時折太陽がちらつかせた穏やかな気候から一変して一メートル先まで見えない程の吹雪が の目に移りこんでいた。 まるで台風のように風が吹き荒れ雨の代わり雪が窓のガラスに叩き付けられている。 これでは館から出た途端に道に迷って遭難しそうだ。 出発できない、と困り果てているカイトに扉からノックが聞こえた。 「どうぞ」 入ってきたのはメイドのルウカであった。 「カイトさん。外のご様子はご覧になられましたか?」 「は、はい・・・」 「この天気では旅立つのは危険すぎます。どうかもう一晩だけお泊りになりませんか?」 正直に言ってしまえばこの猛吹雪が発生しているとなれば最悪の場合、命を落としかねない。だからルウカの提案は受け入れたいが居候の自分がこのまま滞在するのは使用人や主のメイコにとって迷惑だろうし、どこか申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 道理を取るか、それとも保身を取るか、カイトの心はせめぎ合っていた。 やがてカイトの口からこんな事が口走ってしまった。 「い、いいんですか? 僕、そこまでお金はそこまでないのに・・・」 「ふふっ、面白いことをいうのですね。客人から請求する使用人など何処にいるのですか? お金の事など心配不要です。我々が心配すべきなのはカイト様の身だけなのです。大事なお客様に万一の事があれば居ても立っても居られません。どうかお考えを・・・」 たっぷり5分ぐらい立ってからだった。 「・・・お願いします。もう一晩だけでいいですから」 もう一日だ。きっとこの吹雪も明日には止むだろう。 その時はちゃんとお礼と後日にまた訪れて自作した人形をプレゼントしよう。 そう言い聞かせてカイトは提案を受け入れたのだ。 外は猛吹雪なのだか部屋で大人しくしているしかない。 何もしないでいるのは退屈だが、かといって恩返しとして屋敷内の掃除を手伝うのはルウカたち使用人のプライドを傷つけてしまうし、そもそもここでの掃除のやり方や手順とかも知らない自分が取り組んでも返って仕事を増やすだけだ。 悩んだ結果、もし自分がビスク・ドールを制作する時にどんな形がいいのか設計図を描いてみる事にした。 まずは人間の五体を棒人間の如く書き入れ、そこから肉付きとかをしていく。 今回は女性であり清楚さをイメージしていく事にした。 顔の輪郭、瞳の色、髪の毛、自分が思い浮かんだイメージをスケッチへと書き入れていくとやがて見た事のある造形へと仕上がっていく。 「あれ? これってメイコさんとそっくりじゃないか」 この館の主でケリミアの忘れ形見であるメイコを模写してしまったと初めて気が付いてしまった。自分でも何故彼女を模様してしまったのか見当がつかないが書き直そうという気持ちは起こらない。 好きという感情はない、ただ気になるという感情はあるかもしれない。 「失礼いたします、カイト様。ここの掃除をさせて頂きます」 ノックと同時に扉越しから執事のクドの声が。 どうぞ、とカイトが告げると扉を開けてクドが入ってきた。 その両手にはちり取りと小さな箒を携えていたがクドは目線をカイトの持つスケッチブックへと向けていた。 「おや? カイト様は絵が趣味なのですか?」 「いえ、人形作りの際には設計図としてこのようなスケッチを描いておくんです。といっても今描いているのはもし僕がビスク・ドールを作ったのならという仮定の元でして、実際に作れるかどうか怪しい所ですけども」 「差し支えなければ拝見してもよろしいでしょうか?」 自分の主が描かれているスケッチを見ても使用人は平常心でいられるのかとカイトは迷ったが特にこれといった拒否する理由も見当たらず、恐る恐るだが彼に見せる事にした。 「どうぞ。あ、あくまでも僕のイメージですから気にしないでください」 「では・・・・・・・・これは。お嬢様に似ていますね」 何だかいたずらを母親に見つけられた子供のような気分になり慌てて取り繕うとした。 「いや!? 決してやましい事は考えておりません!! ただ女性のイメージとしてメイコさんが!! でも魅力がないという訳じゃ!!いやいや、お嬢様も十分魅力的ですけども!?」 支離滅裂な言動を繰り返すカイトにクドは冷静さを保っていた。 「なぜそこまで慌てているのですか。私は単に驚いただけですよ」 「・・・でもクドさんはこれを見て僕を嫌らしい目で見ないのですか? だってそこにお嬢様が描かれているのだから少なくとも警戒とかは?」 「まさか。メイコお嬢様が描かれているという根拠だけでカイト様をさげすみませんよ。ただ・・・ カイト様の理想がお嬢様の様な女性だという事なのですか?」 「自分でもよく分からないのですが・・・。女性と言ったら何故か彼女を思い浮かぶんです」 「なるほど、参考になりました」 「えっ?」 「いえいえ、では部屋の掃除をさせていただきます」 スケッチブックを丁重に返したクドは部屋の片隅へと移動する。 そして家具に付着しているホコリを箒で払い、ちり取りでそれを集め、掃除をし始めた。 ただ黙々と静かにしていくその姿をカイトは見ていたが自分が恥ずかしい行為をしてしまったのかと思ったら居心地が悪かった。 だから目線をスケッチブックの方へと向けて一心不乱に描き加えていった。 それで一日を潰せたのはある意味で才能があったのか、それとも紛らわしかっただけなのかも知れない。 ―――私があの人の好みだったなんて――― ―――なら全身を作り替えるのは止めましょう――― ―――大きな胸と女性らしいくびれ、お尻は流用して――― ―――でも結局は新しく作り直す羽目になるわね――― ―――後は関節部かしら? 不具合があれば修正しないと――― ―――だって初体験に取れちゃったら台無しになるもん――― ♢♢♢♢♢♢ 翌日、目が覚めたカイトは体に違和感を持っていた。 というのも自分の下半身、股間の、肉棒がテントを作っていたのだ 別に朝の生理現象としてそそり立つのは可笑しい話ではないが収まる気配がない。 心臓がドクドクと脈打ち、呼吸もいつもとは少し感覚が短い。 まるでセックス前に軽く興奮しているみたいだ。 このままでは不味いので今日こそは旅立とうと信じ、カーテンを開けるが。 「・・・また吹雪か・・・」 昨日と同じ勢いの風と窓に叩き付けられる雪の大群だ。 まさか自分のプライドだけでこの吹雪を歩くのは危険行為であり、命を落としたら元もこうもない。 だが部屋を出て何処かにいるであろう使用人、または屋敷の主に会う為の両足は心なしか重い。まさか二度も頼み込んでしまう羽目になるのは誰でも気が引ける事だろう。 自分が泊まっている部屋は三階でありしらみつぶしに探してもいなかったから二階にいるのではと踏んで階段の方へ向かう。 階段を降りようとしたそこへタイミングを合わせたかのようにルウカとばったり出くわした。 「ル、ルウカさん!」 「カイトさん。今日もまたこの様な天気です。どうかもう一日滞在をお勧めいたします」 「は、はい。ですけど本当に申し訳ございません。こんな厄介者を泊めてくれるだけでも有り難い話なのに食事とかも出してくれて・・・」 「何をおっしゃいますか。私は当然の事をしているだけなのです。どうぞお気になさずに、ではお嬢様に伝えてきます」 そう言い残して去っていくルウカにカイトは感謝の意味も込めて一礼した後、自室へ戻ろうと足を動かした。 だが戻る途中にふとケリミアの仕事場へ見学しに行こうかと考え直した。 部屋に戻ってもやることが見つからないのだから少しでも勉強して技術を学ぼうとするつもりだった。 その仕事場の部屋へと向かい扉を開けると相変わらずそこは異様な人形達が置かれている。奥の方へと進めば人間二人ぐらいがすっぽりと入れるほどの窯と作業台だと思われる机、そして戸棚だった。 何気なくカイトは戸棚の一つ、一つを開けていく。ます初めは人形の眼球に当たる『グラスアイ』と呼ばれる装飾が乱雑に置かれていた。次に参考資料と思われる多種の男女の古ぼけた写真群。そしてその次を開けるとそこにあったのは古ぼけた一冊の本があった。 表紙には文字は掠れていたが『DAIARY』と読み取れた。 「日記なのかな、ケミリアさんの?」 日記が彼の物だと思ったのには深い理由はカイトにはなかった。 この仕事場で置かれていたのだからおそらく彼の物なのだろうと思っただけだ。 暫くその表紙を眺めていたカイトはやがてその日記を懐に入れて部屋を出た。 そして早足でかつ使用人達に見つからないように自室へと戻っていく。 「・・・読むだけ、読み終わったら戻せばいいんだ・・・・」 カイトはそんな独り言を呟いていたのだった。 ざっとチラ見してみると家族関連の事ばかり書かれており人形制作の技術等は書かれていなかったがそれでも一度興味を持った本は最後まで見続けてしまうのが人というものだっだ。 『1月11日 娘の為に人形を作ろうと思う、それも等身大のビックサイズを。材料や予算には問題ない。娘の一世一代のハッピーディなのだからそんなのは些細な事だ。待ってろよ、メイコ。お父さんが素敵なものをあげるからね』 この様に偉大な師の親ばかとも言える行為が書きつられておりカイトは思わずにんまりしてしまう。 「娘思いだったんだな。ケミリアさんは」 そう言いながら次のページへと目を通した。 『2月13日 難航したが設計図は出来た。今回制作するのは五体でそれぞれ妹、男女の双子、兄に姉といったコンセプトだ。娘の要望も取り入れ緑、黄、紫に桃と髪の色を付けていく事にした』 『5月22日 流石に五体分の窯焼きは骨が折れる。しかも人間サイズとなると一日中窯の中を見ていなければならないのは苦痛だがこれも娘の為だ。身を押して頑張ってみよう』 『9月14日 良し、これで素体は完成したが人形の名前はどうするか悩む。また娘に聞いてみよう。人形達の主は娘だけなのだから 追記:桃色の子はルウカと決まった』 その名が日記に書かれていた事で胸が騒めいたがこれはただの偶然だとカイトは自分に言い聞かせた。 不安を晴らそうと次のページを捲る。 『11月1日 衣装についてはルウカと女性を模様した2体にはメイド服、残りの二体には執事服を着させようと思う。妻の協力もありデザインは決まった。あともう一息だ』 胸の騒めきが止まらない。 それどころか加速する一方だ。 カイトの目は日記に釘付けだった。 『12月25日 何とか娘のクリスマスプレゼントに間に合った。私が用意したミンク、ルウカ、リリン、レイン、クドを喜んでもらえると嬉しい。せめて話し相手にもなってくれたらいいな』 使用人たちの名前と同じ名だ。 まさか彼らが全て人形だったという事なのか。 そんなはずはない、彼らは人間のごとく振る舞っていたのだ。 絶対にない、絶対にありえない話だ。 カイトは読むのを止めなかった。 ここまで来たら最後まで読んでしまうのが人というものだった。 『1月20日 娘が重い病にかかった。助かる見込みはないと医者は言った。だが私と妻は諦めたくはない。何とか治療法を探そうとしていると翼を持った魔物と接触し相談してみた』 『2月1日 妻は魔物と化した。この儀式には妻が魔物となる必要があると彼女に言われたが正 直娘にこの儀式を行うべきか迷う』 『2月22日 決心した。娘を、人間の体から解き放ち魔物の体へと移させる事を』 最後の方は殴り書きで終わっており次のページ、その次のページをめくっても黄ばんだ用紙に何も書かれていない状態だった。 続きはないのかめくり続けているとそのページに一枚の写真が貼ってあった。 それに写っていたのはカイトの目を疑う程の衝撃だった。 「これって、メイコさん!?」 古ぼけた写真にはケリミアとその奥さんと見られる一対の夫婦、そして娘であ るメイコの姿があった。 だが驚くべき所はそこではない、写真に写っているメイコの姿は今現在のメイコの姿と瓜二つだったのだ。 この写真の劣化から少なくとも十年ぐらいは経っているのにも関わらず娘は歳を取っていない、変わらない姿のまま生きている。 これが示す意味とは。 途端に恐怖が押し寄せてくる。 自分は得体のしれない者たちによって見張られているという恐怖に。 だから夕食として出されたビーフシチューやスクランブルエッグのトーストなどの味はほとんど覚えておらず、ただ使用人達に怪しまれないよう振る舞わなければならないという圧迫感だけがカイトの口を動かしていた。 ♢♢♢♢♢♢ 夜中、毛布を頭までかぶり猫のように丸くなっているカイトは震えている自分の体を隠すためでもあるがこうすれば自分の考えを読み取れないのではという根拠のない期待からでもある。 (・・・どうしよう、何とかここを抜け出して付近の村へと逃げ込もうか・・・) もし自分の仮説が正しければこの屋敷から逃げたしたらもう使用人達は追ってこれないだろう。だが問題は猛吹雪の中を突き進まなければならない事だ。 ここに来るのに一時間もかかったのだから当然一時間も、いや倍の時間も吹雪に耐えなければならない。 そんなのは自殺行為だ、ならばこのままこの屋敷で過ごしていけばいいのか? それも駄目だ、自分が人間のままでいられる保証はどこにあるのだろう。 軽く興奮状態で鎮まる気配がない自分の男性器、その今でも感じる体の異変は人間とは違う何かへと変貌する前兆なのかもしれない。 考えれば考えるほど混乱してきた。 このままでは頭が煮えたぎってしまいそうだ。気分を変える為に外の冷気でも入れてみようと毛布をかぶったまま窓の方へと近づきカーテンを開ける。 「・・・吹雪が晴れている・・・」 窓を開けて目を二度擦っても景色は変わらない。 風が止み、嘘のように雲が晴れて空が広がっていた。 なぜ昼間だけあんな猛吹雪なのに夜は晴れているのか、思考を張り巡らせ考えてみる。 そういえばこの二日間、お嬢様のメイコに一度も会った事がない。 最後に会ったのは最初の夕食だけだ。そしてその次の朝に吹雪が襲ってきた。 「・・・という事は・・・」 吹雪を作っていたのは彼女の仕業だ、自分をここから出させない為に。 なぜ自分を狙うのか見当が付かなかったがこれで微かな希望が見つかった。 今すぐに逃げる訳にはいかない、ちゃんと準備が必要だ。 この吹雪はメイコの仕業だったのだとすればおそらく次の朝もまた吹雪、そして夜には晴れている。 カイトはその望みを信じ、チャンスを待った。 ―――動いても違和感はない――― ―――にしても胸の部分がずっしりとくる。う〜ん、やっぱり重いかな―――― ―――でも彼の好みがこれだから、それにすぐ慣れるよね――― ―――彼の溜まった性欲を受け止める体としては十分――― ―――ふふっ、病みつきになっちゃうかも――― ♢♢♢♢♢♢ 夜中。 相変わらず朝から猛吹雪で外に出られなかったのでカイトは昼間、メイドのミンクに頼み屋敷の中を案内してもらった。 だがこれは逃げる為のルート把握と使える道具を予め知っておく為の下見だ。 その結果、自分がいける出口は一ヶ所だけ。あのエントランスにある玄関だけだという事が判明した。 他の出口は屋敷の内側からにも関わらず鍵が必要でその鍵の保管場所は聞き出せなかった。 こんな作りの屋敷を設計したケミリアに少しばかり呪ったが、今は恨んでも仕方がない。 眠っているふりをしていたカイトは目をあけて置時計の方を見た。 時刻はもう2時を過ぎている。 そしてカーテンを開ける。 外を見れば吹雪は収まっている。 「よし、決行だ」 足手まといになる工具一式はここに置いていく。 持っていくべきものは金銭と迎撃用の道具、そしてスケッチブックだった。 余計な道具であるお嬢様の絵が描かれたスケッチを何故持っていくのか自分でも分からなかったどうしても手放す事が出来ず、明確な理由が思いつかなかった。 乱雑にそれらをリュックの中へと押し込み、部屋着を脱いでここへ来た時と同じ服へと着替えた。さらに防寒対策として下着をもう一枚、上着をもう一枚着ておく。 部屋と廊下を繋ぐ扉へと歩むカイトの心臓は既に鼓動が早く、それは恐れとも緊張とも言える状態だった。 「でも僕は出るんだ。何としてでも」 自分を奮い立たせてカイトは意を決し、部屋のドアノブに手をかけようとする。 ―――寝室の準備もこれでいい――― ―――後は彼を、カイトさんをここへ来させるだけ――― ―――逃げようとしているのは分かるわよ――― ―――だって私の足下にはカイトさんの部屋があるんだもん――― ―――私の愛しの旦那様、ご無礼を許して―――― ―――でも愛の為なら多少傷ついても仕方ないよね?――― ♢♢♢♢♢♢ 月明りだけが照らされる廊下、音を立てずに静かに進む。 人の気配はない。 このまま上手くいってくれと願いカイトは廊下の角を曲がろうとした。 「どこへ行かれるのですか?」 曲がった瞬間、そこで出くわしたのはメイドのルウカだ。 思わず心臓が飛び出るような気持ちだった。 「夜間の出歩きは危険です。ご自室へお戻り下さい」 口調はいつもと変わらないながらも夜中、それも普段使用人が眠っているはずの時間帯でいるのだから得体の知れない恐怖を感じる。 だがカイトはその恐怖を強引にかき消す。 ―――もう正体は分かっているのだから恐れてはいけないんだ! カイトはすぐさまルウカの頭をがっちりと掴み、力の限り引っ張る。 すると金具が破損する音と共にルウカの首はもぎ取れた。 首なしの胴体の中を見れば空洞、カイトの思った通りだ。 「君の、君の正体は人形。そうなんだろ!」 その頭部が答える事はない。口を動かさず虚ろな目でカイトを見ていた。 それがカイトを苛立たせ、動かないでいる首なしの体を蹴とばしさせた。 抵抗する事無くその蹴りを腹部へと受けた体は床へと倒れこむ。 起き上がるつもりはないようだ。 次に目線を手に持っているルウカの頭部へと向けると。 「逃げ出せはしません。カイトさんは私と共に永遠にここにいるのですから」 恐怖で思わず身震いしたがカイトは勇気を振り絞り屋敷の窓の鍵に手をかけ、開けた。 そこから頭を窓の外へと放り投げた。 尊敬するべき師の人形を壊した事には心が痛んだがこうでもしなければまた自分に襲い掛かってきそうで怖かったのだ。 もう一度首なしの体を見る。 起き上がってこない、なら一応安心だ。 目指すは屋敷の出口、そのまま進もう。 ♢♢♢♢♢♢ 階段を降りて二階の廊下を歩かなければ一階へと降りられない事を初めて知ったときはこんな面倒な作りをしたのだと不思議に思っただけだったが今となっては防犯とかの意味であえて複雑な作りにしたのだろうとカイトは改めた。 というのもカイトの目の前には。 「見つけましたよ。カイトさん」 「お戻り下さい。カイトさん」 双子のリリンとレインがいたからだ。 カイトは迷わず正反対の方向へ全力で走る。 当然、双子もカイトを追いかける。 だたがむしゃらにカイトは逃げているわけではない。 ちゃんと策はある、その為には上へと戻らなければならない。 階段を一段飛ばしで駆け上がり例の部屋へと向かう。 冷静に、冷静にとカイトは自分を言い聞かせて走り続けると目的の部屋を見つけた。 すぐさまそこへと逃げ込む。 内側から鍵を閉めて時間稼ぎをして振り返る。 そしてカイトが見つめる先には屋敷でよく見られる暖炉が置かれていた。 そう、ここは暖炉がある一室で昼間ここに来て絵を描きたいなどと偽り使用人に頼んで暖炉の火を付けておいたのだ。 そこにはまだ火が点っている木炭の塊がありカイトはそばに置いてある火ばさみを使い塊の一つを掴む。 『ドンッ! ドンッ! ドンッ!』 扉越しから叩き付けるような音が、あの二人は無理やりこじ開けようとするつもりだ。 チャンスは一度、どちらか片方を行動不能にさせればそれでいい。 叩く音がするたび留め具が緩みカイトの身が震えるが必死に押さえつける。 もう一撃だ。 もう一撃で留め具が外れ、扉が開かれる。 そして。 『ドンッ!』 同時に扉が開く。 姿が見えた。 狙いを定めて駆ける。 どこでもいい、兎に角当たればいい。 カイトは高温状態の炭火をぶつける。 運よく炭火はレインの顔面、それも両目へと押し付けられ煙が立ち込める。 普通の人間であれば絶叫をあげながら取り乱し、皮膚が焼け焦げる匂いがするがレインは悲鳴など上げずガタガタと体を震わせ後ろから倒れこんだ。 レインの隣にいたリリンが襲い掛かる寸前、カイトは反射的に当てていた炭火をリリンの方にも当てた。 これも運よく両目の方へと押し付けられリリンもまたガタガタと体を震わせた。 そして彼女もまた後ろ向きで倒れこみ動かないでいるのを確認したカイトはようやく一息つけた。 二人は無残にも両目のグラスアイ部分がほぼ焼失し、中心からひびが入っている。 ―――またケミリアさんの人形を壊してしまった。 心の中で懺悔をしながらも二人がまた動くかどうか警戒する。 5分ぐらい立ったが動く気配はない。 カイトは押し付けた炭火を元に戻してその部屋から逃げるように去っていく。 ♢♢♢♢♢♢ また二階へと戻りエントランスへは後数メートルといった所だった。 「私からは逃れませんよ。カイトさん」 「逃がしはしません。カイトさん」 通路の前にはクドとミンク。 今度はそれぞれ片手に鉈(なた)と包丁。 見ただけで脳裏には『死』という一文字が浮かび上がる。 カイトは撃退用としてリュックの中に閉まっておいた彫刻刀を2、3本取り出し二人の方へと放り投げた。 本来この様な使い方は大変危険であり、生身の人間であれば大惨事であるのだが二人の正体は人形だ。 ミンクの方は彫刻刀の一本がおでこの真ん中辺りへと突き刺さったが悲鳴など挙げず右手で彫刻刀を引き抜いてその場に落とす。一方のクドは鉈で防御し重力の法則で彫刻刀が の足元へと落ちていく。 効果はない、ならばあの部屋に行くしかない。 カイトはまたも全力で反対方向へと走り出す。 釣られて二人も後を追う。 目的の部屋は数メートル走ればすぐに見つかった。 急いでその部屋へと入る。 カイトの目の前に広がっていたのは自分よりも少しばかり高い鎧の一団であった。 よく美術館とかで見られる中世の甲冑、それらが部屋の隅や中央に展示されさながら甲冑を来た騎士達が迷路を作り上げている景色だった。 この部屋はケミリアの奥さんが芸術趣味の一つとして一室を借りて集められてきたものだという話を昼間に聞いた。 カイトはすぐさま甲冑群の影へと身を隠し二人が来るのを待つ。 数秒もしないうちに二人はこの部屋へと入ってきた。 二人は共に歩き出しカイトを見つけようときょろきょろと顔を動かす。 四つん這いでカイトは物音を立てんと動き出す。 ちょうど大きな甲冑、それも2メートルはあろうかと言う大鎧の後ろでカイトは立ち止まる。 息を止めて、チャンスを待つ。 二人が大きな甲冑の傍で立ち止まる。 ―――ここだ!! 立ち上がり後ろから甲冑を思いっきり押し倒す。 甲冑は落石の如く崩れていき二人に覆いかぶさろうとする。 避けようとする二人だったが一歩遅かった 無慈悲にも甲冑は二人へと圧し掛かる。 今しかないと思ったカイトは偶然目に映った甲冑の一体が持っていた小型の斧を掴む。 かなり重かったが恐怖で体の感覚が麻痺していた今のカイトには関係なかった。 クドの傍へと近寄り斧を思いっきり振り下ろす。 鈍い音と共に顔面が真っ二つに割れ、人間であればそこから血しぶきが飛び散るが彼からには何も飛び出ない。 クドはその虚ろな目を天井へと向け、動きを止めていた。 ルウカにレインとリリン、さらにクドまでも壊してしまったカイトは心の隅で偉大な師への謝罪を唱えていた。 だがまだ終わりではない。 もう一体残っているのだ。 もぞもぞと動き、脱出したミンクはカイトの方へと振り向き刃物を突き立てて飛びかかる。 だが驚異の反応により紙一重でかわしたがその拍子に斧を落としてしまう。拾おうとしたがミンクがすぐに進路を遮断するように立ち塞がった。 何か使えるものはないか、と見渡すと後ろにいた甲冑の一体が武器を手に持っていた。それは先端が三つに分かれている槍だった。 槍の扱いなど知っているはずもないが今は刺さればそれでいいという打算であった。 その槍を手にしてミンクめがけて突進する。 武器の長さから考えれば有利だったのかミンクはかわす暇もなく両肩と胸の上層あたりに先端が刺さり壁へと叩き付けた。 そしてカイトは渾身の力で槍を、ミンクを壁へと打ち込まんと押し付ける。 歯を食いしばり押し続けているとミンクの肩辺りから中心へ、壁に小さなひびが入ったのを確認した。 警戒を解かずに槍を手から放す。 するとミンクはその場で激しくもがき槍を取り外そうと手を伸ばそうとする。 当然カイトも持ち手の部分を握ろうとするが矛の部分が丁度肩から腕へと繋がる関節部に突き刺さっていたのかミンクの両腕が少ししか動かせず全く届いていなかった。 ならば逃げるチャンスだった。 カイトは一目散に出入り口へと走り出し扉を乱暴に開けるとここから去っていった。 これ以上怖い経験をするのは嫌だ、という気持ちもあるがケミリアの残した人形を壊したくないという気持ちもあったからだ。 ♢♢♢♢♢♢ 廊下を逃げるように走り抜けるとカイトはいよいよエントランスへと突入した。 視線の先には初日に入ってきたあの扉。 そこの扉から出れば自由の身だ。 もう追ってくる使用人はいない、助かるのだ。 カイトの頭にはもうそれしかない。 だからカイトは忘れていたのだ。 自分を狙うもう一人の存在を。 ドアノブに手をかけ、回し、思いっきり引っ張る。 そこには自由が待っている、はずだった。 「カイトさん。外はこんな猛吹雪です。中へとお戻りください」 彼女が、メイコが立っていた。 しかも収まっていたはずの猛吹雪が吹き返しており、その猛吹雪はまるでメイコの狂気とも見て取れるほど激しさだった。 あれほど必死に走っていったのに あれほど苦労して突破してきたのに。 あれほど勇気を出してきたのに。 初めて絶望という二文字が刻み込まれたその体にはもう抵抗する気力がない。 仮に残った勇気やら体力を振り絞りメイコを押しのけ屋敷から出たとしてもこの吹雪だ。すぐに迷い遭難してしまうだろう。 だからカイトは膝から崩れ落ち、次にお尻から床へと座り込んだ。 「・・・もう少し、生きたかったよ・・・」 涙目になりながら呟いた一言。 人間としての命がここで終わるとなると遺言の一つや二つを残したくなる。 その光景をメイコは不可解な顔で見つめていた。 どうやら人間ではない彼女にとって自分の心情など理解していないだろうとカイトはそう思っていた。 だが次にメイコが呟いた台詞はその予想の真逆をいっていたのだ。 「あの、何か勘違いしていませんか? 私はカイトさんの命を奪おうとはしていません」 カイトを気遣う、というよりもただ純粋に困惑しているような口調だったのだ。 散々自分の命を狙ってきてそんな言葉が信用出来るか、などと訴えようとしたがメイコの台詞に殺意とか敵意は感じられない。 けれどそれであっさり信じるなどカイトはおろか普通の人間でも出来ない反応だ。 「なっ!? あのメイドさん達は鉈とか包丁とか持っていたじゃないですか!? あれで僕を殺すつもりだったんですよ!?」 「いえ、あれは特殊な金属でして人の魔力や精神だけを傷つけるだけで肉体を傷つけ血を流す物騒なものではございません。私はカイトさんを逃がしたくないからあれを使ったのです」 話が呑み込めない、いや呑み込める人間がいるはずがない。 もし呑み込める人間がいたとすれば恐ろしく肝が座っている超人ぐらいだろう。 あっけに取られているカイトにメイコは近寄ってくる。 「一から説明しなければなりませんね」 するとメイコは動けなくなったカイトの体を両手で使い、苦も無く持ち上げた。 「え!? ちょ、何を!?」 突然の行動にも驚いたが彼女が自分を持ち上げた事にも驚いた。 「しばらくそのままでいてください。落ち着ける場所でお話しますので」 階段を上がりある一室へと連れて込まれたカイトの眼前には対となるチェアとティーセットが置かれていた。しかもポットはいつの間にやらお湯が入れられており湯気が先端からあふれ出ていた。 メイコはチェアの一つにカイトを降ろすとカップの一つを手に取り、ポットから液体を注ぐとカイトに手渡した。 「ジャスミン茶です。心が落ち着くと思います」 恐る恐るカップを受け取ったカイトはそれを口へ少しずつ流し込む。 液体が胃の中に到達すると自然に硬くなっていた筋肉が解れていき、安心感が増してくるような気分になった。 「落ち着きましたか?」 無言で頷くが実のところまだ半分だけ混乱が続いているが聞く耳と多少頭が働ける事ぐらいは出来る。 「では順にご説明を。カイトさんは魔物娘という存在をご存じですか?」 辺境に住んでいたカイトでもその存在に関する知識だけは持ち合わせていた。 「確か、女の子ばかりで僕たち人間と友好を結びたいと聞きいています」 「その通りです。そして私たちには人間の男性が必要でその為には強引な手段も取る時もございますが決して殺す事などはいたしません。大事なパートナーを殺すのは私たちにとって不利益でもありとんでもない事なのですから」 『魔物娘』と『私たち』という単語で彼女が何者なのか、未だに半分頭が働けないカイトでも直観だけで分かった。 「では・・・メイコさんは一体何の魔物娘なのですか?」 「私は元々、ただの人間でした。けれど重い病にかかって命の危機に瀕していた私をお父様とお母さまは必死に救う方法を探し、そして見つけ出しました。私の魂を人形に入れるという方法で私を魔物娘へと変えたのです。サキュバスや他の魔物娘とかにもなれる可能性はあったのですが病が進行していた体ではなったとしてもその病気は引き継がれる危険があったのでそちらを選んだと父は話しておりました」 「・・・人の体を、肉体を捨てたという事ですか?」 「はい、私はリビングドールという魔物娘になったのです。人形の体に魔力が宿れば、例えどんなにばらばらにされても元通りになる不滅の人形。この体になった事で幾つか面白い力を身に着けました。それは他の人形に私の魂の一部を取りつかせ、自在に動かせるのです。カイトさんと接触していた使用人達は全て私と接触していたという事なのです」 人形職人の娘が人形そのものになるとは何たる奇遇なのだろうか。見方を変えれば最高の喜びなのかもしれないがカイトが注目したのはミンクなどの人形達全員、彼女が操っていたという事実だ。 これは意味する事とは。 「つ、つまり僕がレインに話していた好みとかクドさんに見せていたあの絵とかも全部、知っていると言うのですか・・・」 「恥ずかしがる事はありません。旦那様の趣向を把握しておくのが妻の務めなのですから」 「だ、旦那様!?」 「そうです。カイトさん、私は貴方を好きになりました。他の魔物娘や女性などには渡したくありません。どうか私の夫となってください。こんないきなりのお願いなのは分かっております。けれど私には貴方が必要なのです。不自由はさせません、この屋敷にいれば望むものは全て与えますし、生活も保障いたします。ですから、どうぞお願い致します」 そう言いメイコは頭を下げて懇願し、きちんと誠意の言葉があり目も真剣な表情だったものだから思わずカイトは反射的に了承してしまいそうだった。 だが思考が戻ってきた今、いきなり結婚してくれと言われても命を奪いかねない体験に会った後でこの申し出を受け入れるというのも無茶ではあるし、そもそも強引な手を使わないで直接自分に言ってくれればこんな酷い目に会わずに済んだのだ。 と、口を滑ってしまいそうになるが自分を気に入ってくれた魔物娘においそれと断るわけにもいかないし、仮に断ったとしても彼女は諦めずに頼み続け、最悪この館に自分を監禁するだろうからどちらにしろ選択肢はない。 散々迷ったがカイトは足止めとも、悪あがきとも見て取れる台詞を吐いたのは未練があったからだった。 「ですけど僕は貴方の人形達を壊したんですよ。そんなひどい人間と付き合いたいなんて」 「それなら大丈夫です。時はかかりますがちゃんとあの子達は元通りになりますから。何せ私の魂の一部を取りつかせておりますので再生能力があるのですから」 ・・・どうやら受け入れるしか選択肢はないようだ。 結婚など到底先だと思っていたが間近の男はこんな心境なのだろうかとカイトは思ったが次に内心どこか喜んでいる自分がいるのに気が付いた。 ―――もしかして僕は会った時から気になっていたのだろうな そう思えてくれば段々と嬉しさがこみ上げてくる、男たるものここではっきり示さないと不甲斐ないというものだ。 「その、僕なんかでよろしければ。ああ、でも人形作りだけはさせてください」 「それは約束いたします。カイトさんの生きがいを妻の私が奪うはずはありません」 「では・・・・喜んで、引き受けます」 するとメイコはカイトを覆いかぶさるように抱き着いてきた。 反射的にカイトは両腕を広げカップのソーサーを落とさないようにしたが女性の細い両腕で抱きしめ、激しくすり寄ってくる彼女のせいで持っている手が滑りそうだった。 「ああ、カイトさん!! 私だけのカイトさん!! 本当にありがとうございます!!」 両腕を胴体に回し体を擦りつけながら自分の名を呼び続けるメイコは今この上ない幸せと喜びに満ちているのが分かる。 ずっと抱きしめ続けたい、そんな感情が伝わってくる熱い抱擁であった。 体感的には1時間程、メイコは抱きしめていた両腕を解きカイトから少しだけ距離を置く。 「長くなってしまいましたね。さあ、カイトさんお待たせしてしまいました。夜の営み、始めましょ」 「い、営みってまさか!? エッチ、の事!?」 確かに夫婦となれば当然の行為であろうが、カイトには性の知識があっても実際にやるとは大違いであるし色々と重みも違うのだ。 この場でやろうと誘われれば慌てふためくし穏やかな心境ではなくなるのも当然の反応だ。 「あら、カイトさんだって苦しいはずじゃないですか? 自分の体は今にでも私を襲いたい気持ちでいっぱいではありませんか?」 恐怖と圧迫感で消されていた今だからこそ感じ取れる自分の下半身。 ―――股間辺りに小さいながらもテントが作られていたのだ。 「と言いましても私の方から誘うよう仕向けたのですが。実は料理の方にも細工しておりまして、少々の媚薬を入れさせておりました。初日の夕食からずっと」 何やら聞き捨てならない台詞を吐いた気がするがもう遅い。 結婚の契りをした今となってはもう過ぎた事であり割り切るしかないのだ。 人間と魔物娘の価値観とはズレているという噂を耳にしたがまさかここまでとは思ってもみなかったとカイトは後悔じみた感情を吐いた。 が次には、エッチは嫌いではないと本能を呼び起こし、生唾を飲み対象を見つめていた。 「ですけど襲って欲しいのはこの体ではございません」 するとメイコは崩れるように床へと倒れこみカイトはすかさず彼女の手を引っ張り、転倒を防いだ。 その拍子にメイコの顔を覗き込んだカイトはぎょっと驚いてしまった。 先ほどまで人間のように柔らかだった顔が無機質な人形そのものだったのだ。手の方も見れば人間の皮膚など存在しなく、よく見られる人形の関節部がむき出しの状態だった。 「新しく作ったこの体でお相手していただきたいのです」 声がした方向へ振り返るとそこにいたのはメイコ、のはずだ。 黒い下着姿、その特徴である顔の輪郭と茶色の瞳に首元までしかない茶色の短髪はまさしく彼女であるが体付きが劇的に違っていた。 まず慎ましくわずかな膨らみがあるだけだった彼女の胸は爆乳と言える程までに肥大化しており両腕で抱えられるぐらいの大きさだ。さらにへそまわりは一回り細く、モデルのくびれを彷彿させる美しさだ。そしてお尻はほどよい脂肪と曲線が形作られている、その姿にカイトは嫌でも欲情してしまう。 「ふっふっふ、どうですか♥ 私のおっぱい、カイトさんの肉棒を簡単に包めるぐらいの大きさですよ。くびれとか女性らしい細さはそのままにお尻や太ももは肉付きがいやらしい感じに仕上がっております。カイトさんの好みに合わせて作ったこの体で思う存分味わってください」 「僕の為に作っていたのですか?」 「はい。他にご要望があれば私が新しい人形を作って取りつきますので。どんな体でも貴方の望むがままです」 何だか不倫をしているの様な感覚になったが中身は彼女であるし、身体つきが変わっても顔だけは変わっていない。ならば不埒だとか思わない方がいい。相手は彼女なのだからどんな姿になってもメイコはメイコだと自分に言い聞かせた。 「さあ、カイトさん」 そう言いメイコは手を差し伸べる。 カイトは魅入られた様に差し出してきた手を掴んだ。 ♢♢♢♢♢♢ ほのかなランプの灯りだけが部屋を照らしベッドはぎしぎしと音を立てて動いている。 そのの上でまず初めに行ったのは濃厚なキスと肌の触れ合いだった。 お互いまだ下着姿のまま体と体を寄せ合い唇とその舌を絡ませていた。 「うむっ♥ あんっ♥ ちゅろっ♥ ちゅっ♥ 」 不意にメイコは唇をカイトから引かせる。 「カイトさん。私のおっぱい見てみたいと思いませんか?」 メイコは後ろへ手を回すとフックを外し、ブラを取り外す。 そこから現れたのは豊かな乳房と桃色の乳首、その乳房はカイトの片手を目一杯に広げても収まらない程の大きさに男性の原初的な本能が刺激させる。 「ついでに下も外しますよ♥」 するするとメイコがパンツを脱がしていけばカイトが今まで見たことのない女性器が露わになる。 綺麗かつ誰にも触られた事のない清純さが溢れ、彼女も興奮しているのかそこから体液が流れ始めており、その匂いが鼻を刺激する。 本当に人形なのか忘れてしまうほどの女性美に満ちており淫らであった。 こんな姿を見せられれば興奮するなと言われても無理だ。 既に己の肉棒は臨界点を超えて勃起しているのだ。 「カイトさん・・・。あなたも産まれたままの姿で、私と・・・」 言われるがままカイトは下着を全て脱ぎ捨て裸となる。 隠そうにも隠し切れない熱く火照った男性器がメイコの目に飛び込む。 「まあ、なんて苦しそうなおちんぽ。まず私がこうしてあげますからね」 メイコは硬く煮えたぎるそれを大きな胸で挟み込んだ。 「ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっとしてあげますよ♥」 両肘で胸を圧迫しある程度抑えつけた後、両腕を離し解放させる。 その繰り返しの動作と刺激は彼にとって未知の体験だった。 「ああ、いい!! いい、ですよ!」 「ふふっ、お次はパンパンと動かしちゃいますから」 豊満な胸を上下に動かし肉棒へとさらに刺激を与える。 『パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!』 味わった事のない快楽にカイトは酔いしれ、だらしなく涎を出している。 その光景にメイコはさらに攻めを強める。 「まだまだいきますよ。舌も使っていきますからね」 その爆乳を下の方へと押し付けると、にょきっと赤く充血した亀頭が露わになりメイコは嬉しそうに下で舐め初める。 最初はちょろちょろと先っぽだけで、次には我慢できんと口の中に頬張る。 奥まで入れてから戻しの動作を繰り返す、口でのピストン運動。 それら全てがカイトの頭へと稲妻のように伝わっていき射精寸前へと追い立てる。 「ああっ!! 駄目だっ!! もう、もうっ!?」 「いいですよ、いっぱい、いっぱい出して下さい!!」 一度だけ口を離すとメイコはさらに両手で胸の圧力を強め、口で執拗以上にしゃぶりついてくる。愛すべき女性を手にした男性が夜の奉公をしてくれるとあれば性的な意味での刺激は高まるし、女性が肉体を使い物理的な意味での刺激を強め続ければ自ずと生理現象がやってくる。 「も、もう駄目だっ!! あぐっ!! ああああっ!!」 快楽に浸っていたカイトの体は不意にびくっと動く。 ―――限界が来た。 肉棒から射精する感覚。 男として最高の快楽。 欲望の塊である白濁の液をメイコは受け止め一滴もこぼさんと飲み干している。 「おぐっ!! うっぐ!! っん!! っごく!! っごく!! っごく!!」 射精の余韻に浸り放心状態のカイトだったがまだ宴は終わらない。 「ぷはっ!! 我慢してた甲斐があって濃くておいしいです。でもまだ、まだ足りません。いよいよ本番ですよ」 メイコは立ち上がり自分の下半身を見せびらかした。 自分の男性器を呑み込められる大きさ、そこから溢れ出てくる体液、今からそこに入れられるという性欲にカイトは思わず生唾を飲んだ。 「こ、ここが・・・女性の・・・」 「も、もう入れちゃいますよ! 駄目だと言っても聞きません!! 今からカイトさん専用になるんですっ!!」 メイコはカイトの上へとまたがるとそのまま自分の体を下へと落とす。 『にちゅ!! ず、ずぼっ!!』 これが女性の膣だと知るには数秒かかってしまった。 「あ、あぐっ! ぬっぐっ!!」 カイトはうめき声にも似た声を挙げたが反対にメイコは喜びの声を挙げていた。 「き、きたー♥ 私と一つ!! 私と一つになっちゃいました!! う、動いちゃっ!! 動いちゃうぅぅぅうーー♥」 『にちゅっ!ずぼっ!にちゅっ!ずぼっ!にちゅっ!ずぼっ!」 楽しみことなくただ貪欲にカイトの精液を飲みたいという欲望をむき出しにして激しく腰を動かしている。 それに答えるが如く彼もメイコの子宮の奥深くへと当てるつもりで腰を動かし始めた。 『ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!ぱんっ!』 「あんっ♥ おっぱい、吸って!! 赤ちゃんみたいに吸って!! ちゅう、ちゅうってしてえー♥ 」 メイコの言われる通りカイトは豊満な胸へと導かれるように近づき、乳首に食らいついた。 「ああん♥、痛い!! お願い優しく、優しくうう、してーーー♥」 手加減がうまくいかず思いっきり噛みついてしまったようだ。 徐々に力を緩めると苦痛の表情が快楽の表情へと変わっていく。 これぐらいの力かと思ったカイトは乳首を刺激続けた。 「ち、乳首いーー♥ 吸われて、こりこり刺激されてぇ!! 気持ちいいのおおーー♥」 メイコはカイトの頭を掴み、自分の胸へとさらに押し付ける。 もうカイトの眼前には肌色一色しかない。 そうなれば男性器が一回りだけ大きくなるのは必然だった。 「イっちゃうの!? なら一緒にイこう! 私の、膣で!? 精液を、満たしてね♥ あああん♥」 ―――そして絶頂が来た。 『びゅるるるるるるるーーーーー!!!』 二度目の射精はメイコの体に全てを出しつくす勢いだった。 射精時における痙攣もまた快楽でありカイトはそれに浸り、メイコは愛する男性の精液を受け止める事に喜びと快楽に浸る。理想の性体験だった。 それが数分間続いた後、カイトは自分の男性器を引っこ抜く。 「はあっ! はあっ! はあっ! 気持ちっ・・・良かったっ・・・」 それしか感想がない。 こんな悦楽を味わってしまった自分はもう後戻りは出来ない。 流石に射精を2回もしたのだから体力に限界が近づいている。 自分の一物も萎えているのだ。 「疲れました・・・。すこし休ませてください・・・」 だがメイコはまだし続けたいという潤んだ目で訴えている。 「確かにカイトさんはまだ人間ですから・・・ならこうしましょう」 メイコは自分の乳首にカイトの口を無理やりくわえさせると頭を抱え自分の胸に強く押し付けた。 「ふぁ、ふぁにお?」 「このまま吸い続けてください、今なら出せそうかも♥」 言われた通り乳首を最初は軽く、そして徐々に吸引力を増していく。 「そう♥ このまま♥ ああ、いいっ♥ 出せそう、出しちゃうかも♥ ああんっ!!」 妖艶な声と同時に口の中で広がる甘い味、見るともう片方の乳首から白い液体が噴き出てきた。これはもしや、とカイトは見上げた。 「カイトさんのおかげで私の魔力が漲ってきました。だからこうして、ふふっ♥ 母乳も出せるようになりました。いいんですよ、心行くままに吸い続けて♥」 そう言われれば男の本能に従いもっと飲みたいとむしゃぶりつく。 「ああん、赤ちゃんのように吸い続けて♥ 甘えんぼちゃんなんでちゅねー♥ ママのミルクタンクはまだまだ沢山ありまちゅからねー♥ ほらびゅるびゅる出ちゃうんですよー♥」 メイコがカイトの頭を自分の乳房へと押し付けるたびに甘い味がカイトの口の中へと広がっていき、疲れていたはずの体が漲る。 萎えていたはずの一物がむくむくとそそり立ち硬くなっていく。 「ふふっ、硬くなった♥ カイトさん、また私とやりましょう♥」 もはや考える事など捨てた。 ただ快楽を得るために己の本能に従う。 カイトは乳房から口を離すとメイコの両足を手で抱え、体を持ち上げると自分の体と反対の方向へと向けさせる。 そのままメイコの秘所へと自分の一物を入れ、再びピストン運動をし始めた。 「ああっ、なんて恥ずかしいの!! 見せつけられるように♥ 裸を!? いやん♥ 見ちゃダメええぇぇーー♥」 メイコの顔は恥ずかしさといやらしさが混ざり合った表情を見せていて涎が出ていたにも関わらずそれを拭こうとはしなかった。 「好き!! 大好き!! 絶対離さない!! ずっと私の物!! いっぱいエッチしよ、カイト♥ いいっ♥ そこ、奥に当たって♥ いいっ♥」 あえぎ声と肉体同士が叩き付けられる音が辺りに響きながら性交は続けられていった。 ♢♢♢♢♢♢ 10回目の射精が来た時だ。 メイコがカイトの体を抱きしめるように両足を絡ませ彼が彼女の体を持ち上げながら絶頂した。 「あああぁぁーーー!! また、濃いのが、私の中にぃぃ!! ああん、イ、イちゃった♥ カイトさん、今度は・・・」 するとカイトはメイコにへと体を預けるように前面から倒れこんだ。 「あら? カイトさん?」 また疲れてしまったのかとメイコは自分の乳首にカイトの口を押し当てようと思ったが当の本人はびくっ、びくっ、と体を痙攣させて目が白目になっていた。 どうやらあまりの快感で気絶してしまったようだ。 「ああ、ごめんなさいカイトさん。激しすぎてしまいましたか。私、旦那様が出来てつい嬉しすぎて・・」 心配そうにメイコは見つめていたが次には淫らな笑みを浮かべカイトの頭を撫でながら伝えてくる。 「でも目が覚めたらまたしましょう。今度はどんなプレイでやりましょうか♥」 もう頭の中は次の交わりをする事でいっぱいだ。 既に窓から朝日が差し込もうとしていたのにも関わらず彼女はまだ夜の営みを続けるつもりでいたのだった。 ♢♢♢♢♢♢ それからというものの忙しい数週間だった。 まず目を覚ましたカイトは屋敷の修理に取り掛からなければならなかった。メイコの説明通り首がもげたルウカや、両目を焼かれたレインとリリンや頭を真っ二つにされたクド に関節部を壊されたミンク達人形は何事もなかったかのように五体満足元通りになっていたが自分が槍で壁に付けた傷とかは元通りにはならないので自分で直さなければならない。 幸いにも壊した箇所は少なく人形達、もとい使用人の彼らの手伝いもあり二日で終わった。 次にカイトは大急ぎで両親に結婚と事の経緯を手紙で送らなければならなかった。 手紙を送って2,3日後に両親からの返事が来て恐る恐る封を開けるとその内容は主に結婚おめでとう、だとかその子を幸せにするんだぞ、などという祝電に集約さえており異形の魔物娘を迎え入れた事にパニックしていない文面だった。元々魔物娘に対して中立的な立場であった両親だからかその数日後に二人がこの屋敷へと訪問しメイコがリビングドールで多数の人形を操るという能力を見せてもびっくりしただけで恐れてはいなかった。 次にメイコの両親について報告しようと墓の在り処を聞こうとしたらそんなものは存在しないと返された。 その理由は既にケミリアの妻はダークプリ―ストという魔物娘へと変わっておりこことは別次元の空間、時が止まった万魔殿(パンデモニウム)へと行っているというのだ。 つまりカイトはその空間へと行ったという意味での『他界』を死んだという意味での『他界』と勘違いしてしまったのだ。 なら紛らわしい言い方をしないでもらいたいと愚痴を言いたかったが兎にも角にもちゃんと連絡方法があり後日、ケミリアとその奥さんにこの館に来てもらい結婚の旨を報告した。 二人とも結婚を歓迎しておりカイトはこのどさくさに乗じて弟子入りを願いしたが断られた。本人曰く、人形など自分が作りたいように作るだけで私は放任主義であると言い残してすぐに去っていった。唖然としたがこれでやるべき事は終わり、今は愛すべき妻とそして使用人達と共に屋敷で暮らしている。 「ふう、これでいいかな?」 一仕事終えたカイトは椅子から立ち上がり背伸びをした。 彼が作っていたのはビスクドールと呼ばれる人形、つまり彼は我流でケミリアの技を生み出そうとしていたのだ。 「カイトさん、食事の準備が出来ましたのでどうぞ」 そう呼びかけるメイコの体は両手で抱える程の胸も、いやらしい肉付きのお尻もない初めて会った時と同じの、慎ましい姿であった。 彼の意向であの姿は性交の時だけ限定にしてほしいとの事でメイコはそれを承諾している。 「ああ、メイコさん。どうですかこれ? 女の子を意識してみたのですが」 全体は整っているが髪の質感と色合いに難があると自覚しており偉大な師の娘である彼女には擁護しがたい失敗だとして手厳し発言が飛んでくるかと思っていたが。 「あら? もしかして私とカイトさんとの間に出来たらとか考えて作ったのですか?」 確かに少しばかり彼女を意識して作ってみたのは事実だが自分の子前提で作ったつもりはないにも関わらずメイコは勝手に話を進めていく。 「なんならこの子を私の腹部に入れて、妊婦さんプレイとかでもやってみますか♥ その時はボインボインの体ですか♥ それともこの慎ましい体でやってほしいですか♥」 にやけながら快楽の笑みを浮かび続けるメイコにカイトはたじたじだった。 もう人形の出来うんぬんの話ではない、このままでは自分の性癖が曲げられてしまいそうだったからだ。 「いや僕は普通でやってほしいし、そこまで変態じゃないんだけど・・・」 「構いません♥ どんなプレイも私は喜んでしてあげますから♥ さあ食事の後はお楽しみの時間ですよ。最近カイトさんが構ってくれなくて、体がうずいてうずいて仕方ないの♥」 この2週間ずっとこの人形を制作していたので夜の営みを忘れていたのをカイトは思い出した。 ならば旦那としての務めは果たそうという心意気でカイトは頷くとメイコは近寄り、そして抱きしめた。 「今夜は、寝かせませんよ♥ 一日中やれるかどうか挑戦してみましょ、旦那様♪」 その宣言通り夜になっても朝日が昇ってきても、あえぎ声が屋敷中に響いていたのであった。 17/05/22 18:40 リュウカ
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初めてのエロ小説という事でこんな感じでいいのかな…
後リビングドールの説明と個人自身の想像としてこんな能力とかあるのかななんて思ったりも 取りあえず感想とかお願いします… |
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