俺たちレジスタンス
「こりゃ劣勢か・・・」
「あ?何弱気なこと言ってんですかぁ。少なくともまだこんな所じゃ負けらんねえッスよ。俺たちを見てくださいっす。ビビってる奴なんざいないッス。気合い十分ッス」
「その割りにはそっちのやつが一人、昨日渋谷の方に消えてったが。あれは作戦か?」
「・・・それだったらどれだけ良かったッスかね。どうやらラミアに目を付けられてたらしくて。声で誘われてたッス」
「あちゃー・・・声でホイホイついて行くって事は、相当骨抜きにされてたな。奪還は無理かねぇ」
「何時ものことでしょ。そっちこそ今朝方一人消えたみたいっスが?」
「バフォメットのお眼鏡に掛かってたみたいで、転送魔法が体に刻まれてた。逃がすつもりはないみたいだな」
「ロリコンお兄さん確定スか。こりゃまた災難ですな。そいつも」
「いやはや、これで何人目だ?謀反確定の奴ら。逃げたのはともかくとして」
「193人目。ホイホイついて行きすぎだと思うッス。本当萎えるッス」
「愚痴ってても仕方が無い。ほれ、そろそろ襲撃のお時間だ。全員に声掛けとけ」
「ヨシキタ。しかし・・・眠いッスな」
「全くだな。はあー・・・」
武装組織レジスタンス。
今の日本でその名を知らないものはいない。
何せ、今の日の本を収める政府に対し、武力による抗議活動を行う反体制組織だからだ。時代錯誤もいいとこの組織ではなかろうか?
主に高校生からなる組織で、武装は主に鉄パイプやゴルフのアイアン、メリケンサックにナイフだ。銃などは所持してないが、それを補ってなお余りあるチームワークと、都市内の裏道や特別な隠れ場所を利用した奇襲攻撃が特徴だ。
気性も荒く、数々の事件を引き起こした。
記憶に新しいのは、都内の工場の施設爆破。
小麦粉を用いた粉塵爆発で機材をメチャクチャにして逃走した。
職員は全員確保されて外へ出されていたため怪我人、死人はゼロだ。
国も、この組織を止めるため自衛隊を投入したが、とうとう自衛隊までレジスタンスに敗北する結果を生み出しただけだった。
所謂勢いと土地勘。それを利用して戦うやり方に、自衛隊も煮え湯を飲まされたのだ。
しかしこのレジスタンス、何故こんな平和な日本で結成されたのか。
原因は、魔物娘達の社会進出にある。
皆様ご存知魔物娘。最近になって、この現代社会に現れ始めた彼女らは心優しく能力も高く、何より美しい。そんな彼女らが原因とは一体どういう意味か?
彼女らも学校には登校する。現代社会に進出し、日本にいるのだから当たり前のことだ。日々の学業をこなし、テストも受ける。
部活にも興味を持ち、それに打ち込むものも出てくるだろう。
そして彼女らは人よりも基本的に能力が高い。頭脳にしても、身体能力しても。その結果何が起こったのかは、有る意味当然のことだった。
人間の学生達が勉学や、部活において彼女らに遅れを取ることになり始めたのだ。
当然ながら、それは仕方のないことなのだろう。彼女らは人の上位種。遅れを取ることはいた仕方ない。
だが、学校の教師たちはそれを忘れ魔物娘たちや魔物になれる可能性を秘めた女子生徒以外に対する態度を一変させたのだ。
口を開けば役立たず。陰口を叩き、そのくせ魔物に対してはベタ褒めすらするのだ。
親も、何かにつけては彼女達と比較することが増えた。
バイトの面接を受ければ、男子というだけで評価が下がる始末。
それに対し、男子学生たちは遂に我慢の限界を超えた。
ー反乱だー
彼らの内、誰かがそう呟いた。
その言葉に殉ずるが如く、各地で生徒達が雄叫びを挙げた。
彼らの目的はただ一つ。自分達を虐げて来た大人たちへの復讐だ。
そうして行動を始めた彼らの動きは全国に広まり、いつしか大きな流れとなって行動し始めた。
それが、レジスタンス発生迄の至りである。
なぜそんなに詳しく知っているかって?
俺自身が、その反乱が起きた時からの初期メンバーだからだ。
このデカイグループの参謀役。それが俺だ。
「バグ」と呼ばれている。
若者達のただのお祭り騒ぎを、ここまで大事に持ち込んだのも、俺が提案した作戦のせいだ。
反省も何もしていない。全ては大人が悪い。法の下の平等なはずの日本で、差別を行ったあいつらが。
だからやってやったのだ。そんなに気に入らなければここまでやった俺たちを止めてみろと、挑戦状まで叩きつけて。
大人たちは何もできなかった。警察ですら俺たちを止めるには至らず、自衛隊も追い返した。
自衛隊は、飽く迄子供の暴動と思っていたらしく面白いくらいにタコ殴りにされてくれた。自衛隊が聞いて呆れる。
国は、流石に高校生相手に銃などは使えず警察にしても自衛隊にしても近接武装のみ。おまけに他の仕事もあるから全ての戦力は回せず、数も同等。条件が同じでこちらの方が勢いがあるならこちらが勝つに決まっていた。
快感だった。奴らの鼻を明かしてやったと思えた。
しかし、それは一時期の勢いに過ぎなかった。魔物達が、俺たちを抑えにかかったのだ。
彼女たちは、人が傷つくのを何よりも嫌う。俺たちが暴れて傷つけ合うなどもってのほかなのだろう。
魔物達は、警察や自衛隊と協力し俺たちを襲い始めた。まあ、性的な意味で。
更に、魔物の中でも特に男を狩る能力が高い者達、アマゾネスを集めた部隊を結成し俺たち初期メンバーの追跡を始めた。
彼女たちの介入により一時期の勢いは衰え、今や逃げ出す奴すらいる状態に。
彼女たちの高い能力は正直脅威以外になり得ない。対策も立てようがないし、彼女達を傷つける理由もないので、警察や自衛隊にやるようには抵抗も出来ない。
悪いのは大人たちであって彼女たちではないのだから。
ここにいる奴らのほとんどは、学校にいる頃彼女たちに世話になったことがある。だから分かる。彼女たちに一切の非はない。
だから彼女たちの介入はかなり厳しい状況へと俺たちを追い込んだ。怪我などさせるわけに行かず、手加減をし過ぎればあっという間にお持ち帰り。涙すら枯れる鬼畜。
だから先ほども言ったように士気は駄々下がり。
しかし、次の作戦が上手く行けば。必ず我々の勢いはまた盛り返すはず。俺はそう睨んでいる。
次の標的は、東京都庁第二本庁舎。東京の行政の主要機関の一つで、新宿区に存在する。ここには、俺たちの初めからの標的の一つ教育委員会が収まっている。
ここが落ちれば俺たちは、目的の一つの達成に寄る高揚で、元の勢いを取り戻すはず。
そのために、先月新宿駅を急襲。占拠し攻撃の為の拠点として利用させてもらっている。警察なども駆け付けたが、突然の襲撃で数を揃えられなかったのだろう。数は多くなかっので、こちらは数で圧倒しゴリ押しで勝利した。
そう、そこまでは良かった。そこまでは・・・
「うわぁ⁉矢がすげえ飛んでくる⁉」
「エルフがいやがるぜ‼ 注意しろ‼」
「っ‼狙撃か⁉どこから‼」
「サイクロプスか‼こんな入り口を遠距離から狙撃するなんて‼やはり目はいいらしいな‼」
「近くのマンホールが震えてるんですけどぉ⁉」
「気を付けろ‼中にバブルスライムがいる‼捕ま」
バカァン‼
「「男〜」」
「「ぎゃああああああ‼ダブル⁈」」
「あぁっ、また二人やられた。どうし・・・歌?」
「ハーピーだ‼急いで耳塞げ‼」
「ああ・・・今行くよ美しき歌君達よ・・・」
「また一人脱落だよ‼」
「いやぁああ‼ミノタウロスが突っ込んでくるぅ⁉」
「みんなバリケードから離れろ‼ぶち壊されたとこからなだれ込んでくるぞ‼」
「もう入ってるけどね〜」
「げえっ⁉ワーム⁉」
うん。見てお分かりの通り待ち伏せされてました。占拠して1日も経たぬうちにすぐ襲撃だもんな。これは待ち伏せられてた意外にあり得ないよね。
「地中部隊進撃〜‼バリケード内の男みんな攫うよ‼」
「「「「「「おぉー‼」」」」」」
「地上部隊‼ミノタウロス達がバリケードぶち壊すと同時に突撃‼ケンタウロス隊は先行‼」
「「「「了解‼」」」」
「空中歌唱部隊は歌で誘惑を続けるよ‼」
「「「「「OK‼」」」」」
「すらいむ隊はこのまままんほーるから侵入をつづけよ〜」
「「「「「「「お〜」」」」」」」
敵さんの部隊を構成しているのは全部魔物。つまり捕まる=敵さんが増えるだ。こんなの鬼だ。泣きたい。
「くそっ‼こんな・・・・・・・・・催眠・・・・・・・・・単眼だァァァ‼ヒャッハー‼」
「スヤァ〜・・・・・・」
「毒針はもう勘弁して‼アーッ‼」
「石になる〜‼」
「あの声が俺を呼んでいる・・・」
「オッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイオッパイ」
「ぎゃはははははははははははははははは‼酒だぁ〜、酒盛りだぁ〜」
「アイエエエエ⁉クノイチ⁉クノイチナンデ⁉」
・・・なんて考えてる間に前線大混乱という。こいつぁミンチよりもひでぇや。
仕方が無い。これは引くしかないだろう。捕まった皆もどうせ死なないだろうし、別に救出せず引いても問題ない。
「第二部隊全員に継ぐ‼ 先日自衛隊の奴らから剥ぎ取ったスタングレネードを使用する‼それで相手が混乱した隙に後方へ撤退しバリケードを立て直す‼いいな⁉」
「「「「「「ウッス‼」」」」」」
皆の返事が来ると同時に、懐のスタングレネードを取り出し、投げる。
「閃光と爆音に備えろ‼」
そう言って身を伏せ、目を閉じ耳を塞ぐ。
ズドォン‼
音が収まると共に俺の部隊は全員立ち上がり回れ右。急ぎ奥へと駆け出した。
逃げるが勝ち。不利な戦いはしないに限る。
俺たちは、其の後急ぎ奥でバリケードを立て直し、そのまま其処で休憩した。俺は後の指揮を他のやつに任せ、このさらに奥。俺たちの拠点に向かった。
「ふう・・・」
拠点の、自分が使っているテントの中で人心地つきつつ、仕事をやる。
今回の戦闘で、今まで生き抜き残った600人あまりの兵力の内、実に73人が捕まる事となった。正直痛手だ。役十分の一がこの防衛で向こう側に回ったのだ。泣きたくもなる。増援すらないので、正直辛い。ただでさえ手が足りないこの状況。増援無しは本当に・・・
それでも文句は言えず、今日から明日に掛けての見張りのローテーションを割り振って行く。後襲撃を受けた際の防衛の人員の割り振りと。
目の前に獲物があるのだ。こんなところでは諦めきれない。攻めて喉首に食らいついて・・・
「『バグ』さん。リーダーが呼んでますよ」
ん?
「ああ。分かった」
リーダーから話か。何の用だろう?
「お疲れさん」
「どうも、っと」
リーダーのテントは、いつも通り必要最低限のものしか置かれていないさっぱりとしたものだった。
その中心に、リーダーが胡座描いて座っている。これまたいつも通り無表情だ。
「話って、なんですか?」
「何。少しお前と話したいと思ってな。酒もある」
・・・文字通りのお話かよ。
まあ、いいか。どうせあのまま仕事してるのも嫌だったし。気分転換にはなるか。
「分かりました。んじゃ、一献いただきます」
「ん」
置いてあった盃を取って酒を注ぐ。
リーダーも酒を注いだ。
「「乾杯」」
盃をカチリとぶつける。そうして盃をお互い傾け、酒を胃に流し込む。
「フー・・・」
「・・・」
静寂。
先にそれを破ったのはリーダーだった。
「初期メンバーも、随分と少なくなっちまったな。残ってるのは俺とお前と、後は『クリック』の奴くらいか」
「他の奴らは全員向こう側に、ですからね」
「そうだな・・・」
俺たち初期メンバーは、始め八人がこの学生の塊を束ねていた。
それが、アマゾネス追撃隊のおかげで五人持ってかれて、残るは三人まで減ってしまった。
それも、その初期メンバーの悉くがその部隊の隊長達にに捕獲されるというおまけ付きで。
その隊長さん達は、俺たちが学校にいた頃から初期メンバー狙っていた魔物達だ。救出なんざ不可能に近いのだ。
「最初は、誰だっけか」
「『フロッピー』の奴ですね。同じ部活にいたリッチに捕まったみたいですけど」
「実験台確定か。これはまた」
フロッピー。
初期メンバーの中で科学に長けたやつで、良く自作の催涙ガスを使っていた思い出がある。
そいつの相手は同じ科学部の先輩リッチ。
科学部に途中から入ってきたにもかかわらず、あっさりとフロッピーの腕を凌いでしまったらしい。
その後も必死になってそいつに挑むも連敗。自分の努力を叩き潰された気分になったそうだ。
それがきっかけで科学部の顧問からのイビリを受け、ここに来たと言っていた。
そしてリッチ率いる部隊とのバトルで、最後に自分が隠し持っていた睡眠ガスを使いその場の全員を道連れに時間稼ぎをしようとして、相手の化学物質であっさりと無効化されて負けたらしい。結構虚しい負け方だと思った。
「次は・・・確か『デスクトップ』だったよな」
「そうですね」
「お相手はオーガだったな」
デスクトップ。
力任せの特攻隊長。 元レスリング部所属。
パワーで右に出るもの無し。あのミノタウロスの突進を生身で受け止めたのは記憶に新しい。
奴を狙っていたのは同学年のオーガ。
レスリング部に置いて敵無しのデスクトップ相手に、『暇つぶし』称して闘いを挑み、デスクトップに苦い敗北の味を思い出させたのがそのオーガだったそうだ。
その後、何度も再戦を申し込むもすげなく断られ、最後には「お前弱いし」の一言で轟沈。
それじゃあ強くなってやるっとばかしここに飛び込み全力で暴れ回り気付けばこの組織の特攻隊長に。
最期は願っていたオーガと再戦を果たし、三時間もの死闘の末惜敗。けれど捕まる前に急いで俺たちの撤退した道を塞ぎ、追撃隊の足止めをしてくれていた。心遣いがありがたかったな。
「『アプリケーション』は・・・」
「いい奴でした。あいつだったら心配ないです」
「・・・そうだな」
アプリケーション。
俺たちの補給線。元々は走り屋だった奴で、気の優しいやつだった。
彼はダークプリーストに狙われていた。
彼はバイクが好きで、いつでも休日はそれを使ってゆっくり近所を走って居たみたいだ。
しかし、そのダークプリーストは未成年でバイクに乗ってる彼が心配だったのか、なんと先生にこれを報告。
校則に乗っ取りバイクは没収。彼は相当落ち込んでいた。なんせ自分がアルバイトして必死になって買ったものだったと聞くし、しょうがないだろう。
其の後は、そのダークプリーストの様子を観ていたらしいが、ただ純粋に自分の事を心配して言ってくれたのだ、心の優しい魔物だと判断。
なのでその怒りの矛先は学校に向けた。ここの輸送部隊隊長として。
その輸送部隊は、アマゾネス隊の襲撃を受け三ヶ月に散り散りになった。一部は帰還したが、アプリケーションは戻ってこなかった。
「偵察隊も隊長がいないと辛いな」
「『キーボード』の事ですか」
「あいつは優秀だったからな」
キーボード。
偵察隊に所属していた元陸上部。剽軽な奴で、みんなのムードメーカーでもあった。
やつを気にかけていたのは陸上部の後輩のコカトリス。
陸上大会の選手に選ばれるほどの足を持っていたキーボードだが、そのコカトリスが憧れの先輩に自分の走りを見てもらいたいと願い全力で走った結果、あっさりとタイムを抜かれ選手の座を持って行かれた。
自分の努力と走りをあっさりと打ち砕かれたキーボードはそのタイムを塗り替えるために何度も走るも記録は塗り替えられず。
いつかリベンジを誓い、この騒ぎに乗じて走りを磨くことにしたらしい。
そんなあいつは、目の色がおかしくなった後輩コカトリスに追尾されて逃走。二日間は逃げ惑っていたらしいがその後の足取りは不明だ。
「後は・・・」
「先月捕まった『ファイアウォール』です」
「・・・そうだったな」
ファイアウォール。
デスクトップに負けず劣らずの巨漢で、護衛隊長。元柔道部。
イジメや先生が行っている差別を快く思っておらず、初期メンバーの仲間入りをした男。静かな熱血漢。
メンバーの中で、特にきっかけもなく入ったのはあいつ位な物だが、それでも仲間や輸送部隊を体を張って守っていた。誰よりもこの集団の掲げた正義を護ろうとしたやつだった。
よくデスクトップの練習相手を勤めていたので、デスクトップが捕まったと聞いたとき誰よりも真っ先に探しに出かけたのもあいつだった。
だが、あいつを誰よりも狙っていたウシオニに、あいつは捕まった。俺たちを逃がすために・・・
ウシオニは気性の荒い魔物。どうなったかは推して知るべしだ(性的な意味で)。
「・・・みんなみんな、俺たちの始めたこの戦で捕まって・・・今どうしてるかすら分からない。」
「そうですね・・・」
俺たちの間に暗い雰囲気が漂う。まるで敗戦後の武将のような。
「いま、人数どれくらいだ」
「500人少々くらいですね。最初の四分の一くらいです」
「減ったな、随分と。たかが五ヶ月くらいで」
「まあ、魔物娘が相手ならこれでも被害は少ないくらいかと」
再び口を閉じ、しばし酒を嗜む。
ふと、気になった事があった。
「そういえばリーダーは、誰か追っかけてくる奴がいるんですか?」
「・・・」
黙り込むリーダー。視線を床に落としている。
と、顔をゆっくりと上げて
「・・・一人だけ、人虎に心当たりがある」
と、呟いた。
「人虎ですか。武闘派の魔物・・・大丈夫なんですか?」
「大丈夫な訳が無い。震えが止まらん」
「ですよね」
そう言いつつも、威風堂々とした態度を崩していないリーダー。流石に肝が据わっている。
「幼馴染か何かで?」
「・・・ま、そんな所だ」
グイッと酒を飲み干すリーダー。
「魔物娘達がここに現れ始めた十年くらい前からの付き合いでな。彼奴は交流のために俺の学校にきた奴の一人だったんだ」
懐かしむように語る、その人虎との思い出。出会い、一緒の帰り道、竹を割ったような性格、共に通った空手道場。
「・・・彼奴との付き合い方が変わったのは高校からでな。彼奴と一緒に道場にいる時、道場の先生の声が聞こえたことがあったんだ」
人間の男子はこれ以上伸びないだろう。ならいっそ、魔物娘だけを指導するかと。そちらの方が自分も教えがいがあるものだと。
「・・・ショックだった。そんな風に思われていたのかと、な。それからかな、何と無くあいつと距離を置くようになったのは」
そして、決意の日の事。
「先生の言った言葉が実行に移されることを知った時、俺の中で何かが切れた。気が付けば先生を殴り飛ばし、俺は逃げ出していた」
そこから、各地の学生達に声をかけ始めたのだと彼は言った。何処か悲しい表情で。
「大人たちを見返してやりたかったんだろう、あの時の俺は。こんな方法で見返せるわけもないのに」
「・・・」
嘆くかのように独白するリーダー。懺悔のようにも聴こえるその言葉には、彼の苦悩が詰まっているように取れた。
「結局の所、俺がやって来た事は八つ当たりだ。悔しくて虚しくて、この気持ちをぶちまけたくてやったガキの喧嘩だ」
そう言いながら、リーダーはまた盃の酒を飲み干した。
「・・・もう、お終いにするか?」
「・・・」
ふと、リーダーがそんな事を言い始めた。
「この喧嘩は俺の我儘そのものだ。そんな物にこれ以上お前たちを付き合わせるわけにもいかない」
沈んだ様子で、そう俺に言うリーダー。
「いまならまだ間に合う。俺が囮になれば、皆を逃がせるはずだ」
必死に訴えかけるリーダー。
確かにそうだろう。今この集団の長が敵の真っ正面に出れば、相手もかなり動揺するはず。大将自らの突撃かと。
その動揺の隙に皆を逃がすのは容易いことだ。俺にも出来る。
そんな、現段階の最上の策を唱えるリーダーに対し。
「なら、俺も我儘ですよ。こんなところまで暴れたんですから。俺は誰よりも我儘です」
と、俺は言い放った。
「・・・」
「・・・」
お互いに暫く睨み合い、そして。
「馬鹿野郎が・・・」
「あんたもな」
ともに苦笑し、再び盃をぶつけた。
「よう、クリック」
「・・・」
「向こうは、明日また仕掛けてくるだろう。また切り込み隊長頼めるか?」
「・・・ん」
「ありがとさん。あ、そうだ」
「・・・?」
「勝てそうか?」
「・・・首なしの剣士だろうと、なんだろうと、この刀でただ二つに断つのみだ」
「頼もしいな。・・・必ず戻ってこいよ」
「・・・」
自分のテントに戻り、布団の近くで明日の防衛について推敲する。思い出すのは、先程のリーダーとの最後の会話。
『バグ、お前は誰かに狙われていないのか?』
『・・・さあ、どうでしょうね』
「・・・」
脳裏にふと浮かぶのは、一人の魔物のこと。
『おい貴様‼いま私にぶつかっただろう‼謝れ‼』
『貴様、弓道部なのか?男が武道など生意気な。料理研究会に入って家事の腕を磨け‼』
『・・・な、中々に上手いじゃないか。弓も』
『私も入ったぞ。弓道部にな』
『料理・・・上手いんだな』
『貴様は‼この私、アマゾネスのエルフィナが必ず婿にする‼覚悟しておけよ‼』
前の学校で、よくつるんでいたアマゾネス。恐らく彼女もアマゾネス隊にいるのだろう。俺を追っかけて。彼女達の気性は知っている。
だが、捕まる訳にはいかないな。まだ俺にはやるべき事がある。まだ、大人たちに目にもの見せていない。
来るなら来いよ。こちとら日本に反旗翻した若さが取り柄の学生集団。勢いはなくなったが、元気はまだ有り余ってるのでな。
学生の底力、見せてやる‼かかってこい‼
17/05/24 01:35更新 / ベルフェゴール