読切小説
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商人気質なサラリーマン。

お初にお目にかかります。私、この回来で商いをさせてもらっています、元会社員の直江隆宣と申します。以後よろしく。
・・・まあ皆さんお察しの通り、私はこの世界の者ではありません。現代、東京からきました。
仕事終わりに電車に乗って帰る途中に寝てしまい、気付けば海に浮いていました。
パニックになりましたよ。ええ。とにかく必死になって泳いだら1時間くらいで港町らしきところに着きまして、その辺りで力尽きてしまって気絶。再び気がついたらここら編で商いをやっている人の店で寝てました。話を聞けば、ここはジパングと呼ばれる場所だといいことがわかりました。




その後は、とりあえずの居場所としてその人(親方と仮に呼びます)の所でお世話になる事になりまして。有難かったです。
さて、働かざるもの食うべからずの精神からお手伝いを始めたのですが、肉体労働をしたら2日で筋肉痛になってしまい、何とも情けない結果を残してしまいました。
落ち込んで、隅で座り込んでいたらなんか騒がしくなってきて、どうやら会計やら何やらをやっている人がやめたらしいという声が聞こえてきました。その時、私がそれの代わりを務められないかと思いました。幸い、私は経理の資格を持ち合わせており、計算も結構得意だったので、なんとか代わりを務められたのです。その後、親方さんから正式にその仕事を代わりに引き受けてはくれないかと言われ、喜んで引き受けさせてもらいました。
まあここに来る前も会計士のような事を会社でやっていたので、楽しくやらせてもらいました。




もらった仕事を地道にこなして行ったその1年後くらいでしょうか。私に転機が訪れたのは。
その日は、店のみなさん買い付けに出掛けてて誰もいなかったんですがお店のお得意様が急な商談を持ってきたんです。その時は驚きました。誰もいないしどうすれば良いのかも解らず、呆然としていました。が、そうしていても仕方ないので、とりあえず私が応対したんです。話をしてる時はもう無我夢中でした。なんせ店のお得意様、下手な手を打つ事はできません。いや、応対した事自体が本当はアウトなんですが。
終わった時、私顔面真っ白だったそうです。白蛇さんもビックリなくらい。
その後、帰ってきた親方さんに呼び出されました。多分どやされるんだろうなと思って話に臨んだのですが、意外にも褒めてもらえました。実はあの商談、私が話した内容で完璧にまとまっていたみたいて、親方さんから礼を言われたのです。どうやら元の世界での会社勤めが役に立ったようです。何だか嬉しかったですね。
しかし嬉しかったのもつかの間、そのあとの一言で私は凍りつきました。
「お前さん意外に使えるし、ちょっと経験積めば伸びそうだ。よし、行商の旅に出ろ」
「え?」




そんなわけで始まった行商の旅。箱一つ背負い、行く当てもなく彷徨う無謀すぎる旅路です。
親方さんはこれで経験積んだみたいですけど、無論無謀です。
本気で泣きたくなりました。でも泣いてしまうと涙が止まりませんので我慢しました。
道のりは大変でした。なんせ店からもらった品物を売りさばき、得たお金で食料や買い足す品物なんかを揃えていくのですから売れなきゃ話になりません。
必死になって客引きをしました。アピールもしました。魔物娘に襲われぬため、姿を隠す魔法だけを極めました。海も渡りました。
必死に生き抜いて、お店に戻ってきたのがなんと6年後。
しかし、その間に商人としての腕はメキメキ上がりました。親方さんに感謝せねばなりません。




その後、親方さんの推薦により、お店の副責任者になれた私は旅をしていた間に手にした情報と、ツテとを駆使しお店に貢献し続けました。地方への新たな輸送ルート他、新規の顧客や国からの定期的な依頼の確保。魔物娘達からの協力の取り付けなどを行って、その結果お店はさらに大きくなって、扱う品もさらに豊富に。
ギルタブリルの毒やサンドウォームの粘液、サハギンの鱗やアルラウネの蜜。品種改良された虜の実や良質なお酒。さらには魔王軍の武器なども扱えるようになりました。
そんな折、親方さんが引退する事に。何でも嫁ができてそちらに掛かり切りにならないとまずいそうで。淋しがり屋さんだそうですよ。(そんなんで引退してんじゃねえよくそが)
そして、自動的に副責任者だった私が新しい「商長」に就任し、このお店を引っ張って行くことになったのです。




あれから10年・・・




「商長‼西に向かった哲太から連絡‼かなり上質の虜の実を栽培してる場所があるみたいっす‼しかもまだどこからも契約持ちかけられてません‼」
「分かりました。私が直接買い付けましょう」
「商長、魔王城から依頼です。魔物娘用の鎧、8000を五日以内にとの事」
「北西地方第57番倉庫Bブロック92角、北東地方第72番倉庫Tブロック56角にに在庫があります。それで足りるので今すぐ手配を」
「商長‼新しい道が確保できました‼ただ、護衛が必要かと」
「ならすぐに手配してくださいね。依頼金については経理部に」
私が指揮を取り、世界に殴り込んだお店、「彗星屋」は、世界に名高い大店になり、私はそのトップとして日々奮闘しています。世界のシェアのうち、なんと30%を独占。今お店で扱っている商品は何と100000種類を超えました。圧倒的な品揃えと価格の安さで他の追随を許しません。ゴブリン達や刑部狸などを多数店子に迎え、商売のプロフェッショナルを育成する事で人材不足も自分達で防いでいます。
さらに、地域に根付く魔物娘達、例えばドリアードや、アルラウネなどの植物型や、ホーネットなどの巣を作りそこに根付くタイプの物、その一体を縄張りにするワーウルフやオーク、さらに、ジパングなら龍、砂漠地帯ならファラオやアポビス、海ならポセイドン様といったような様々な協力者を得ることで、商いや、商品の輸送を安全、かつスムーズに行えるようになり、お店の発展を促しました。
最近では、北の魔王が治める国とも商売をさせていただいております。魔法剣を大量にお買い上げいただけるので、お得意様です。
そこに出店してる刑部狸さんは、国王様にお熱なようです。叶うとイイですね、その思い。いや気になるんですよ、私が直接商いを叩き込んだ愛弟子だから。






そんなこんなで、今は忙しいながらも十足した毎日を送っているのですが、一つ問題が。
「あらあら直江さん?何をぼーっとされているのですか?そんなに暇になりたいならいつでも代わって差し上げてよ。商長の座」
「・・・はあ。小金さん。それはあり得ない話だといつも言っているんですが」
そう。この小金さんだ。金髪のストレートが似合う美人さんで、種族は妖狐。私がスカウトした人材の中で、最も才があり、そして・・・扱い難い人。
「うふふ、遠慮などされなくてもよろしいのに。魔商人さん?」
「遠慮などしていませんよ。ここは私の店。私が限界迎えるまで私が切り盛りします」
計算と商いに置いてはかなりの自信を持つ様になった私でも、彼女と張り合うとなると相当覚悟がいる程に、頭の回転が早い。
しかも上昇気質の高い人で、慎ましいジパングの魔物とは思えない程図太く、押しが強い。
優しい言葉で相手の懐に入り込み、いつの間にか契約を取り付け去って行くやり方は、見ていて呆れるほどに手際がいい。
オマケに私が何年も掛けて手に入れた(いや、手に入れるつもりはなかったですよ?)商長の座を虎視眈々と狙ってくるのです。コレは先代から受け継いだ大事な物。早々渡せません。だから諦めて欲しいのですが・・・
(・・・小金さんを推す人が増えちゃってるんですよね)
恐らくは彼女の差し金だろう。彼女は人心の掌握が上手い。いい意味で。
だから、彼女かスカウトしてきた人も多く、そのほとんどが彼女の側についています。困りますよねぇ。
さらに、私と長い付き合いの幹部さん達も一部彼女の側に回っています。根回しの周到さは、さすがとしか言いようがありません。
昔はこうではなかったんです。優しくて、自分の失敗を頑張って取り返そうとして。それに、たのしそうで。私が頭を撫でてあげたら素直に喜んでくれました。
けど、最近になり急に態度を変えてきて、商長の座を狙ってきています。はあ・・・お店が大店になってこれからって時に困った人いや、魔物娘さんです。どんな思惑があるのやら?
でも、先代から託されたこのお店だけは渡しません。私の思い出の詰まった大事なお店なんです。
だから・・・
「私の目の黒いうちは、諦めてください。このお店は私が守り繋いで行きます。私が引退した後なら、このお店はあなたの物にしても構いませんよ」
負けませんよ?










負けてもらわないと、困るんですよ・・・直江さん。




私が直江さんと出会ったのは、もうずいぶん昔になるでしょうか。
私が街で働いていた時に、貴方は私の前に現れました。
くたびれた異国の服(スーツと言うらしい)を身に纏い、黒縁メガネのオールバック。地味な格好でしたが、その身体からは言い表せぬ、覇気の様な物が溢れ出ていました。大成する人物特有の。
そして、メガネの奥で光る希望とやる気に満ちた目。それを見た瞬間


ー私はあなたに恋をしましたー


そしてその後のスカウトは迷わず受けて、以来あなたの側に行く為に必死に商売について勉強し、遠くまで商いに出かけ経験を積みました。
そして頑張り続けて数年、私は皆さんの推しを受けて、ついに「副商長」の座に登りつめたのです。
それからは毎日が楽しみに溢れていました。
商談最中に、彼の真剣な横顏を見るのが楽しみでした。
彼が、店子さんにキビキビと指示を出す姿を見るのが楽しみでした。
怪我をしてしまい、商いをみんなに任せっきりにしてしまい、落ち込んでいる彼を見た時は、頑張って支えなければと思いました。


ー私のすべてが彼でしたー


ある時、貴方は私がヘマをした商談を代わってくれました。瞬く間に立て直されて行く状況。私はあなたに迷惑をかけてしまったのが悲しかった。でもあなたは
「失敗くらい誰でもある物です。それに、小金さんはそれを取り返すために頑張っていたではないですか。それだけでも十分ですよ」
そういって、頭を撫でてくれました。あなたの手は、とても暖かかったです。
貴方は私を撫でてくれます。励ます時も、褒める時も。
そんな暖かな貴方がどんどん好きになって行きました。
ずっとこのまま、貴方とお店をやっていけたなら。そう、思っていました。


ーでも神とやらは何処までも残酷な様ですー


つい1ヶ月前でした。貴方の机の上に置かれたそれを見つけたのは。
それは診断書。


彼は死の病を患ったのです。


それを見た時、私は足元が崩れて行く感覚に陥りました。
貴方が死んでしまう。それは全ての終わりに等しかったのです。

その病は、疲労が原因でした。お店で沢山仕事をしていましたから、それも当然でしょう。ですが薬できちんと治療し、少しの間療養すれば必ず治る病でした。しかし、彼は治療を断ったそうです。
私には仕事がありますから、と。


彼らしいとは思いました。彼はこのお店を大事にしていましたから。
でも、それでも死んでいい理由にはなり得ません。命は何よりも重いのです。


だから私は決断しました。貴方を救うため、貴方を一旦お店から遠ざけようと。
その為なら貴方に蛇笏の如く嫌われようと構いません。貴方を救う為なら何も怖くない。


愛しています。直江さん。誰よりも。

17/05/24 01:29更新 / ベルフェゴール

■作者メッセージ
こんにちは。ベルフェゴールです。
さて、単発シリーズ、「これが俺の、生きる道」二作目、如何だったでしょうか。


後、厚かましいですが、この設定を使ってお話を書いてくれる方、いらっしゃいませんか。
自分のキャラが他の人の手によって動いているのを見るのが好きなんです。
書いてくださると言う優しい方、感想に、「書いてもいいですよ」と書き込んでいただけると幸いです。
それでは。

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