君に知らせない恋心
「・・・はあっ、はあっ」
「・・・・・・どうした、そんな走って。探し人かい?お嬢さん」
「っ‼︎ーーくん⁉︎ねえっ‼︎彼を見てない⁉︎どこにも見当たらないの‼︎」
「・・・」
ーここで分からないと言えば、俺はー
「・・・公園だ。公園にいるよ」
「本当⁉︎分かった‼︎ありがとう‼︎」
タッタッタッタッ・・・
ー君の隣に立てたのだろうかー
高校1年。俺が最も剣道に明け暮れていた年。
その夏の事。
俺の友人に好きな人が出来たと聞いた。友人は、俺の幼稚園の頃からの付き合いで大親友と呼べる間柄だった。
昔から真面目で、恋なんてした事のないアイツが遂に。そう思うとなんか嬉しくて、つい仲間を呼んで飲み会まで開いちまった。はしゃぎすぎなのは自覚していたが、どうにも抑えきれなかった。
しかし。
その飲み会の帰り道、好きな人の名前を聞いて俺は愕然とした。
その名前は、俺がずっと恋い焦がれてきた人の名前だったからだ。
何でもないような顔をして帰り、自分の部屋で泣き叫び、咽び泣いた。何故、何故かと。
神を恨んだ。仏を憎んだ。悪魔を呪った。
何故こんな運命を辿らせる。友と、恋しい彼女を巡って争えと?涙は止まらなかった。
その日、深夜まで泣き続けてようやく泣き止んだ俺は、屋上に出た。
俺の家は、郊外にあり比較的星が見える場所だった。
屋上に寝っ転がり、空を見上げると丁度夏の大三角形が見えた。俺は、星にもある程度詳しかったのですぐに分かった。
デネブ、アルタイル、ベガ。三つの星を見つめ、あるお話を思い出しながら、俺は決意した。
友人がアルタイル、彼女がベガなら俺はデネブだ。夏の大三角形の頂点の一角。さんさんたる輝きを持つ星だ。夏の大三角形のように、友人と争わず彼女と接触し必ず友人の恋を成就させてやる、織姫と彦星が如く。そう、覚悟を決めたのだ。
それから何ヶ月かが過ぎ、俺のお節介もあり友人と彼女はいい関係になりつつあった。夏祭りを楽しみ、学園祭を成功させて、初詣も一緒に行ったそうだ。何の障害もない順風満帆な恋路。
しかし、そこで事件は起きた。
彼女が、魔物娘になってしまったのだ。
彼女は、突然変わった自分の身体を醜い物だと思い込んでしまい、友人から距離を置くようになった。友人はそれを自分が嫌われたのだと勘違いし、此方も距離を置くようになってしまった。
見ていられない。俺は最後の手段に出た。
彼女宛に手紙を書いたのだ。勿論、友人の名で。
ただ一言、「嫌ってないなら会いにきて欲しい」と。
彼女は直ぐに動き、友人を探して走り回っていた。
そうして、場面は冒頭に戻る。
「・・・」
きっと友人と彼女は、お互いの誤解を解けるだろう。2人なら心配いらないと、信じている。
あぁ、でも何故だろうか?涙は止まらなかった。
夏のあの日、覚悟を決めた筈なのに。
いや、覚悟を決めたのではない。自分の心から目をそらして彼等に目を向けたのだ。俺の気持ちから、俺は目をそらしたのだ。
だから目を向けてみればすぐに分かる。悔しいのだ。俺の密かな恋心が、悔し涙を流していたのだ。
その日、俺はまた涙を流した。あの、夏の大三角形を眺めた夏の日のように。
あの時からだろうか?気取った口調を辞め、無口になったのは。そんな事を今とめどなく考えている。
レジスタンスという暴走族に入り、今やテロ扱い。友人とはもう何ヶ月も連絡をとっていない。
「ーーさん⁉︎『バグ』さんが呼んでますよ⁉︎急いでください‼︎」
仲間に急かされ、背を預けていた柱から離れる。
自前の木刀を携え、ふと上を見上げる。
外に見えたのは、夏の大三角形だった。
それにふと手を伸ばし、あの時と同じようにデネブに目を向ける。
デネブが、少し瞬いた気がした。
14/01/30 17:14更新 / ベルフェゴール