読切小説
[TOP]
とある武装部隊の今日この頃
これが俺の生きる道(とある武装部隊編)



「D0からA1へ・・・指定の位置に着いた。作戦開始まで待機する」
『了解。しくじるなよD0』
「ああ」
通信機の電源を切り、窓の近くに移動する。
そこから見える場所には少し大きめの廃屋があり、その周りには何人か武装した兵士の姿が見える。
諜報斑がこの近辺の廃屋に主神教団の過激派が潜伏していると言う情報を掴んだので来て見たが・・・
「これはただの過激派じゃなさそうだ」
DP28軽機関銃にモシン・ナガンM1891/30・・・ソビエトの骨董品か。こんなもん標準装備しているとくれば。
「聖ヨハネ主神教団か。こんな処まで出張ってくるとはな。いよいよもって本気か」
聖ヨハネ主神教団。
ロシアに拠点を置く主神教団の一つで過激派の中でも危険度常にレッドゾーンのイカれた野郎どもだ。
魔物娘を人類全体の不倶戴天の怨敵とばかり憎み、その始末の為に無差別放火や辻斬り、挙句の果てに毒ガステロまでやらかしかけたクソの集まり。
「おまけに無駄に士気が高い上に捕まりそうになると即自爆しようとしやがるからタチが悪いんだよな・・・こいつら」
因みに上記の事件、毒ガステロは実行前に食い止められ、無差別放火は被害ゼロに抑えられた。辻斬り犯も、最初の標的のアマゾネスにとっ捕まり、その場で公開レイプ。つまり特に奴らによる被害はない。何がしたかったんだか。
そうして考えていると、入口手前に動きがあった。どうやら見張りが交代するらしい。戦争もテロもない平和な日本に居るというのに、無駄な頑張りご苦労なこった。
「さて・・・そろそろ時間か」
現在午前3時21分。この後24分に、B斑が入口付近より突入・・・に見せかけた陽動を行う事になっている。
其の後頃合いを見て、手薄になった裏口から隠密部隊C斑が侵入し内部を撹乱。そしてC斑の合図と共に重装備部隊A斑が混乱した敵に突っ込み殲滅。これが作戦の大まかな流れになっている。
表向きの、だが。
この作戦の本当の目的は奴らが保持している『聖宝』にある。
聖宝。言葉通り聖なる力を撒き散らす主神の加護を受けた主神教団の切り札。
これを元に大規模な結界を張ったり、味方の大軍に対し強力な強化魔法を掛けることも可能だ。
嘗てはレスカティエという国の結界に、これの一つが利用されていたらしいが・・・詳細は不明だ。
ともかく、それ程の力を持つ物品が日本国内にあるというだけで危険極まりない。なのでこれが猛威を振るう前に回収し、破壊か封印するのが今回の真の目的だ。
それに・・・『アレ』の目撃情報もある。
『D0、D0‼応答しろ‼』
む、B斑から連絡か。物凄い剣幕だが何事だ?
「こちらD0。B1、どうした」
『ターゲット、聖宝『パルキオの鱗』の正確な配置予定場所が割れた‼そちらにデータを送る‼』
「・・・了解。こちらもそろそろ準備する」
『そうしてくれ。くれぐれも回収、頼むぞ』
「任せろ」









20XX年。
それは人類にとって大きな変化の年だった。
突如現れた異世界からのゲート。そこから、淫乱を体現するかのような種族、魔物娘が姿を現したのだ。
彼女達は、当初彼女達を危険視した世界各国と対談しこの世界で自分達が私たち人間と共存していくことを宣言。
どんなやり取りがあったか知らんが、各国はこの前代未聞の自体を認め、彼女達との共存を歓迎した。
俗に言う、『人魔歴』の始まりの日だ。
それから、世界は異世界からの贈り物『魔法』や異世界の新技術によって、豊かに明るく平和に、何より淫らに発展して行った。
街では出会いの場が以前の倍近く増え、魔物娘達の構える店が所狭しと並び、路地からは喘ぎ声が聞こえてくる。
駅にダブルベッド付きの寝室が増え、電車内の逆レイプが横行し、道ゆく人は『ガリガリ君 虜の実味』を齧り、青姦が日常の一ページと化す。
そんな一般人卒倒当たり前の風景が、一般人の当たり前になって行く。そんな頃だった。
また異世界からのゲートが開き、教団が現れた。
教団は、異世界に置いて魔物を滅する立場にある存在だ。
主神の教えを信じ、魔物を悪として戦う。
当然教団はこの世界に現れた魔物娘達を悪だと世界に訴え、共に滅亡させようと話を持ちかけた。
いかに邪悪で狡猾な存在かを必死に語り各国を説得しようとした。
しかし、そんな教団を待っていたのは全世界からのテログループ認識だった。
彼女達と過ごし彼女達の本質を理解していた世界は、教団に対し絶対的な殲滅を宣告した。
しかし、魔物娘達は人の死を嫌う。魔物娘は全世界を説得して回り、自分達が教団を生かし更生させる事を世界に宣言した。
民衆は、親愛なる隣人達の心に打ち震え、政府も国民の強い希望により教団の生け捕りを約束した。
更に、できる限り交渉で彼らを納得させる事も政府は約束した。





あくまで表向き、の話だが。
政府は、主神教団の魔法や士気の高さを危険視し彼らを実力で持って排する為の裏の組織を作り上げた。無論魔物娘側には極秘でだ。
教団の思惑を潰し、異世界のオーパーツを破壊し、奴らの出現するゲートを閉じて回り、現れた教団を力で捕獲する事を任務とした、対教団のスペシャリスト。
国の思惑の数だけ生まれたそれらの組織の一つ。
それが俺の所属する『Human Ace Namber Team』。
通称『HANT』(ハント)だ。
HANTは、日本に本拠地を置いており、自衛隊の基地内に隠れるようにして入口が存在する。
隊員は選りすぐりの自衛隊だけではなく、警察や出所した元犯罪者の中からも能力の高い物が所属しているが、どいつもこいつも血の気が多く、元犯罪者は言わずもがな自衛隊や警察から抜擢を受けた奴らも市民を守るためなら犯人と撃ち合いをするのが当たり前だと言う奴らばかり。とんだ荒くれ者の集団だ。
つまり凶暴すぎて手に負えない猛犬共を、同じく血の気の多い狂犬共にぶつけてどうにかしようと考えて作られた組織。いわば厄介払いと正義をなす事と脅威への対策。政府から見れば一石三鳥のナイスアイデアなのだろう。
それに俺は抜擢された。ま、つまりはそういう事。
本来なら政府の見え透いた思惑など知ったことではなかったが、正直主神教団の存在には無茶苦茶イラついていたので、始末ついでに思惑に乗ってやることにしたのだ。
・・・それに、とある理由もあったしな。
そうしてからもう一年半は経つ。HANTは幾つかの主神教団の拠点を潰し、新鋭のエースチームとして防衛省からの支援を受けて活動している。
そんな俺達の今回の獲物が、聖ヨハネ主神教団と奴らが運んできた聖宝、と言うわけだ。









ズドォン‼ドカカカカカカカカ‼
『突入‼とつにゅぅぅぅう‼』
『敵襲だー‼総員正面玄関の守りにつけ‼』
「・・・時間か」
外から戦闘の音が聞こえてくる。こちらも動くとするか。
腰から引き抜いた2丁のMP-443 Grachに弾を込め、ワイヤーを確認し、フックを腹の金具に引っ掛ける。
確りと引っ掛かったことを確かめ、急ぎヘリから身を躍らせる。そう、俺は廃屋のはるか上空に来ていたのだ。
この下には戦闘が行われている廃屋、そのターゲットがある部屋がある。ターゲットの『パルキオの鱗』は月の光によって力を蓄えるため天窓のある部屋へと今日輸送され安置される予定なのだが、その部屋の真上に今俺は落ちて行っている。
ガクンッ、と体に負荷がかかり空中に制止する。上のワイヤー操作を担当しているやつが止めたのだろう。
タイミング的にはバッチリだった。俺の体は天窓の一歩手前で停止している。
金具を外し、天窓の近くに着地する。直ぐに服の胸ポケットから中に粉末の入った試験管を取り出す。
中に入っているのはある特性のある火薬。爆発の際の音をゼロ近くに出来る代わりに威力が酷く低い。せいぜい強い衝撃を与えるのがせいぜいだろう。
だが、使いようはある。この窓ははめ込み式で開く事は無いが、外のネジを外せばあっさりと窓も外せる。だが、いちいち回して外していれば見つかる危険性も高まる。
そこで、この火薬だ。
トントン、と試験管を叩き窓枠に沿って付着させて行く。
「これでよし、後は・・・」
懐から取り出したマッチに火を付け、放り投げる。マッチの火が火薬に着火すると、
・・・ッ
火薬が音もなく爆発した。すぐさま窓枠に手を掛ける。そして。
ガキ、という音と共に天窓が外れた。四方のネジは完全に外れていた。
これは強い衝撃を窓枠に与える事で、ネジを一瞬で緩ませる事を狙ったやり方だ。ただ窓枠のみに強い衝撃を限定的に当てなければ上手くいかないので、一般人にはオススメ出来ないのだが。まあそれはいいだろう。
窓の淵に手を掛け、室内に降りる。脚を柔らかく使い、音も衝撃も発さないように降りる事に成功した。
中を一頻り見渡すと、パルキオの鱗が安置されるであろう台を見つけた。かなり大仰に飾り付けられている。
「チッ、胸糞悪い。自分達の正義を成すための兵器みたいな物を、まるで神様みたいに飾り付けるのかよ」
所詮『聖宝』などと呼ばれていても、実際は魔物娘達を滅ぼす為の力を振るうための兵器にすぎん。そんな物を神が如く崇め奉るなんて正気とは思えない。所詮信仰心と正義に酔った狂人共の集団か。
と、考えていてもしょうがない。扉の近くに体を貼り付けパルキオの鱗がここに持ち込まれるのを待つ。
ここが襲撃されているのだから、大事な宝など持って急いで逃げるのが普通だろう。だが、この部屋は奴らご自慢の強力な結界に守られているらしくパンツァーファウストすらこの部屋に傷一つつけられない。
だが、このご自慢の結界はパルキオの鱗が必要とする月の光の力すら遮断する上に一度張ると結界に空いた穴以外からは出入りできないかなり融通の利かない物だ。
だから天窓にはこの結界の効果は及んでいないのだが、これは余談か。
ともかくそれだけ強力な結界に守られているこの部屋だ。
奴らはここにパルキオの鱗を保存したがるはず。奴らにとってここは一番安全な場所なのだ。
確かに昔ならそうだろう。
結界に守られて壁は壊せず、扉の前には屈強な剣士が番をしている。ただ一つの突破口の天窓まで辿り着くのには屋根まで登らねばならず、それには縄付き鉤爪を投げて引っ掛けるか、内部に仲間を潜り込ませ縄梯子を下ろしてもらうか。いずれにしてもリスクの高い方法だ。
だが、天窓に辿り着いても窓を開ける際ガラスを割らねばならず音でわかってしまう。



・・・現代でなければな。




『急いでパルキオの鱗を』
『分かっている』
扉の外から声が聞こえる。やはりここに安置する事にしたか。単細胞な奴らだ。読みやすいから助かるが。
さて、構えでも取って待ち構えてやるか。
カツカツと足音が近づいてくる。ヘマをすれば命が危ないがこんな事何百とこなして来た事だ。
ガチャ
「その台に鱗を‼」
「ああ、急ごう」
ミスなど、あり得ないことだ。
バタン‼
「⁉」
「な、なん」
ドン‼スパッ‼
「うっ」
「グウ・・・」
奥の奴にMP-443 Grachを撃ち、手前の男に魔界銀製のナイフを突き立てる。MP-443 Grachの弾丸も、勿論魔界銀製だ。
手前の男の懐から、小さな欠片を取り出す。恐らくこれが
「パルキオの鱗、か。随分小さいな」
一応確認の為に写真と見比べたが、間違いなかった。
急ぎパルキオの鱗を、アラクネの糸に魔女の魔法処理がなされた対聖宝用の特製袋の中にしまい込む。しかしこんなもんどこから仕入れるのやら・・・俺ら裏の部隊に。
内ポケットに入れファスナーを閉める。これで落ちることはまずない。
さて、脱出しようか。とりあえず部隊が突撃してくる予定の裏口に向かうか。扉をそっと開けて、
ー感じた寒気にすぐ閉じる。
ガガガガガガガガガガガ‼
外から銃が弾丸を吐き出す音が。待ち伏せしてやがったのか?さっきの銃声を聞きつけたにしても早すぎる・・・
いや、さっきの奴らについて来ていたのだろう。しかし、銃声からしても相当の数がいるみたいだ。正面玄関に残ってる奴らの数を減らして、捨て駒みたいに残りを使ったのだろうか。そこまでして聖宝を重視するか、奴ら。
暫く、大人しくしていると部屋の外がにわかに騒ぎ出すのが聞こえた。時間的にC班が動き出したか。
ならその隙、つかせてもらおう。ナイフをしまい、もう一丁のMP-443 Grachを引き抜く。
扉に手をかけると、
「スウッ・・・ウリャッ‼」
扉を一気に開けて廊下に飛び出る。その際見えた人数、恐らくは8人、全員後ろを向いていた。弾数的にも大丈夫そうだ。
出てきた俺に反応し、8人がこちらを振り向くが・・・もう遅い。
ズドズドズドズドズドズドズドズドン‼
銃の二丁連射。硝煙が天井に着く頃には。
・・・ドサササササッ
全員が魔界銀にやられ、言葉なく発情していた。これで暫くは動けまい。
「フウッ・・・」
恐らく先程ナイフで突き刺した奴がここのリーダー格だろう。服装がちょっと豪華だったし。
だがあれがリーダーなのかは怪しい。小物臭がハンパないペテン師みたいな顔だったしあんな奴について行こうと言う物好きもいないだろう。
恐らくは副リーダー。参謀役と言った所か。
やはり『アレ』の目撃情報は本当か。これだけの規模を纏め上げるのだ。相当のカリスマがいるはず。なら・・・警戒は必須か。
だが今ここにはいないだろう。『アレ』がいるならこの集団はさらに激しい抵抗をしているはず。今はもはやC班が侵入しただけで騒ぎ出す烏合の衆。指揮官すらいるかどうか怪しい。
脱出するなら今が好機。急ぎ廊下を走り改めて裏口を目指す。
通路を左に曲がり、そのまま直線を駆け抜け、次の通路を右に折れ、そのまま目の前の階段を飛び降りる。多少音がしたが今はC班が撹乱中だ。気づく事もないだろう。
その予想通り内部は慌ただしい様相を呈しており、急ぎC班を捕らえるために走り回っているようだ。
「完全に気づいてないな・・・様子を見なくても平気か」
大混乱している教団の後ろを悠々通り、俺は裏口を抜けて外で待っているであろう仲間の車の元へ急ぐ。
暫く走っていると、路肩に停められた黒いワゴン車に目が留まる。数は三台で、乱雑に停められているようにも見える。だが、手前の二台は奥の一台を守るように左右に配置されていて、奥の一台に分かりにくいが追加の装甲板が付けられている。間違いない。この車だ。
急ぎ奥のワゴン車に飛び乗り、運転手に車を出すように伝える。タイヤが猛スピードで回転し、車は吹っ飛ぶように走り出した。
車の内部で一息。すると助手席の男、先程通信したA班No.1、三国是助(みくにこれすけ)が話しかけてきた。
「首尾は」
「上々だ。パルキオの鱗は無事回収出来たし、奴らの副隊長らしい男も仕留めた」
「やるもんだな。パルキオの鱗は」
「袋の中だ」
「完璧だな」
当然、慣れた任務だ。不足もミスもない。
それより・・・
「そっちはどうなんだ。作戦は順調か」
「誰に物言ってる。今頃はA班が全員、魔界銀の弾幕で全員アヘアヘ言わせてる頃だ」
「頼もしいことだ」
どうやら裏表の作戦は両方成功らしい。これで今回の任務は終わりだ。
それなら大丈夫だな。もう一つの胸ポケットから、タバコとライターを・・・
『緊急連絡‼緊急連絡‼廃墟から700m地点で勇者の姿を確認‼急速な勢いでこちらに向かってきているのを観測班が捉えました‼』
取り出そうというまさにその時、入ってきた通信に車内の空気が一気に張り詰めた。





勇者。
教団のもう一つの切り札で、主神の加護を受けた選ばれし人間。身体能力や精神力の増加に加え、強力な魔法を操れる様になるとも聞く。教団のエリートと行った感じだ。
さらに、『勇者』は一人ではない。何人もの『勇者』が各地に散らばり、その場所に住む魔物を退治するために行動する。
向こうの世界では数々の魔物を退ける活躍をし、魔物娘達からも恐れられている。教団側の強力な戦力だ。
当然此方でも脅威として捉えられている。が。
今の世の中、ただ身体能力の高いだけの一個人が一組織を壊滅させるなど夢のまた夢。脅威ではあるが、あくまでそれなりレベルに留まる。
だが危険な事には変わりはないので、やはり聖宝と同じレベルの警戒を受けており俺たちの獲物の一つとして数えられている。






勇者接近。この状況では洒落にならない情報だ。
その勇者はあの主神教団分隊のリーダーだろう。リーダーが、それも勇者が戻ってきたと有れば士気の上がり様は想像するだに恐ろしい。被害も増える。
なら、到着する前に打ち果たすのみだ。
「勇者だとよ。お前と相棒の出番じゃねえか?」
「ああ。言われずともそのつもりだったさ・・・俺が潰してやる。車をあつらえ向けのポイントに移動させろ」
「了解」






はあ・・・はあ・・・
私は急いでいた。
仲間が、主神様に弓引く愚か者の集団に襲われたとの一報を聞いたからだ。
急がなければ、仲間が皆死んでしまう。主神様に弓引く愚か者に慈悲などないはずだ。きっと残虐極まりない奴らなのだろう。
だが、私が間に合えば皆を奮い立たせることもできるはずだ。私は勇者、教団の希望なのだか・・・
ゴガンッ‼
「ッ⁉」
そう思った矢先の事だ。
私の目の前の地面が突如として吹き飛んだのは。










「OK、誤差は確認した。本命は次だぜ、勇者様・・・」
俺は今、勇者の姿を1km離れたの丘の上から捉えていた。
先程の一発は誤差確認のための捨て弾。ただの鉛玉だ。この距離だと、いくら見えているとはいえ誤差を直すのは容易ではない。そこで一発あえて外し、そこから誤差を割り出し修正する。
因みに、今装備しているのは九七式自動砲(二度目になるが俺たちは裏の組織だ。流されてくる武器は最新式のものもあるが古いものも当然ある。まあ裏の組織にバンバン最新の武器流したら怪しまれるかもしれないし仕方ないとは思うが、モシン・ナガンを流された時は流石に度肝を抜かれた)を少しいじくって装弾数を増やしたカスタム仕様だ。
・・・後砲身の長さ二倍くらいながくしてるだけだけど。弾薬も専用の特注品だ。
反動は頭おかしいレベルである。普通の奴が撃ったら即肩脱臼。下手すると治らない。俺はこれをぶっ放すために、反動を吸収する為の特殊素材ースライムの体を研究して作られたものらしいーを肩に備えた特注品の『狙撃服』を来ているので、滅茶苦茶痛いくらいで済む。
話を戻す。
さて、先程の一発で誤差は確認した。
「誤差修正・・・これが本命だ。確実に行かせてもらう」
引き金に指を掛け、そして
ズドォン‼
九七式自動砲が轟音と共に銃弾を吐き出す。銃弾は目標に吸い込まれるように飛んでいき、
・・・ドキュッ‼
着ている鎧もろとも勇者を後方へ吹っ飛ばす。勇者の体からは出血はない。暫くは動きもしなかったが、そのうち胸を掻き毟り始めた。まるで快楽に悶えているかのように。まあ、実際快楽に悶えているのだけど。
今打ち込んだ弾丸は、魔界銀をサイクロプスが鍛え、作業に、ウィンディーネの魔力が染み込んだ水を使い、ウシオニの血とアルラウネの蜜で焼き入れし、これまた魔界銀製の研ぎ石を使い、最後に、世にも珍しいドーマウスの集団睡眠と、魔王城の魔王の寝室にそれぞれ一週間放り込んで力を纏わせた特注品だ。
一年に数発しか制作できない貴重品。殺さずに、確実に勇者を行動不能にする為の最高級品だ。
こんなものホイホイとは使えない。打ち込んだ所から半径約1kmは間違いなく魔界と化す。ある意味範囲兵器だ。だから急ぎ仲間を引き上げさせ、安全地帯に移動させてから打ち込んだ。
これで勇者の無力化も終了。任務は完了だ。
「ふうっ」
「お疲れさん。流石『勇者殺し』、勇者相手なら外すことはないな」
「勇者じゃなくとも外しはしない」
後ろから話しかけて来た三国と軽口を叩き合う。
「ま、お前さんには感謝してるんだ。いつもいつも勇者を退治してもらってな」
「・・・仕事だからな」
「ま、それでもいいさ。これからも頼むぜ、『大友一輝』D班隊長?」
「・・・」
言われずともがな、だ。










「フゥー・・・」
HANT本部内、喫煙室で俺はタバコを吸っていた。
聖ヨハネが性ヨハネに変わった後、俺たちは本部へ戻ってから各々休息を取っていた。
俺はこういう時間はタバコを吸うと決めている。好きなわけではないが、刑事だった頃からの習慣みたいなものだ。
「フゥー・・・」
紫煙を空中に吐き出す。漂う煙に、なんとなく安心感を感じる気がする。
そんな風に煙をくゆらせながら、俺はここに来る前の会話を思い出していた。





『何の用ですか?総隊長。なんか報告書に手違いでもありました?』

『いや、そういう訳ではない』

『じゃあなんですか。さっさと済ましてくださいよ。こっちだって疲れてるんですから』

『・・・そう、だな。手短に済ますとするか』

ガタッ

『知っての通り、我々は魔物娘側にとっては約束違反もいいところの部隊だ。だからばれないように秘密裏に俺達は動いてきた』

『そうですね。俺達の存在がバレたら、即この組織解体ですよね』

『そうだ。だが、その決してばれてはいけない俺達の存在が、俺達の情報の一部が漏れたという知らせが俺の元に届いた』

『・・・はっ⁉それ、マジですか⁉』

『ああ。しかもバレた相手が大問題だ』

『あんたが大問題とまで言うとは、どちらさんが俺達の情報を?』

『・・・レスカティエの魔姫、デルエラと、ハートの女王だ』

『・・・・・・嘘、だろ?』










「・・・」
魔物娘の中でも、特に快楽と娯楽を重視する『急進派』の中でも有名な奴らにばれちまった、か。
デルエラと言えば、魔界国家の中でも伝説クラスのレスカティエの生みの親にしてリリム。強引な手段を躊躇いもせずに使うまさしく『急進派』。
片やハートの女王。世界で最も快楽と不思議に満ち溢れる国、不思議の国の頂点に君臨するアリス。『急進派』の急先鋒。
そんな奴らに、俺達の存在がばれたか・・・これは、解体も時間の問題か。面倒くせえ。
・・・それにしても。
「二度目だな。魔物絡みで居場所を奪われるのは」
なんとなく、やるせない。こんな政府の恥部みたいな組織だが、仲間はいい奴らだし、友達も出来た。ここも、もう俺の居場所だ。
そんな場所を、人間同士で傷つけ合うのを見ていられないって言う善意100%の理由で奪われる。
怒りも湧くが、どこにも向けようのない物になるだろう。
本当に・・・やるせないな。
あぁ、くそッ。
どうにもやり切れず、タバコを灰皿に力任せに押し付けて火を消す。その仕草がまるで癇癪を起こしたガキのようにも思えて、さらに苛立ちが増す。
そんな風な俺の周りの空気が、変わった。
ピリピリと張り詰めた感じから、何処か甘く眠たくなる雰囲気に。
「・・・キャリアー。今そいつを連れて来てくれてたのはありがたい。むしゃくしゃしてたんだ」
「どう致しまして。じゃ、いつも通り10分?」
「あぁ」
後ろにいた魔物娘、チェシャ猫のキャリアーに礼を言う。何故こんなところにチェシャ猫がいるのか。それは、キャリアーが抱えているもう一人の魔物娘に関係している。
「久しぶりだな・・・静葉」
「うに〜・・・一輝こそ〜久しぶり〜」
眠りながらも、俺と話す魔物娘。
ドーマウスの静葉が、其処にいた。





静葉と知り合ったのは俺がまだ刑事の頃で、魔物娘が現れ始めた頃の事だった。
知り合ったと言うには、おかしな出会い方ではあったが。
その日、俺は仕事の後で疲れており公園のベンチに倒れこむようにして横になっていた。
流石にこのまま寝るのはまずい。真冬の深夜の気温はなめたらまずい。そう思いながらも、俺の瞼は落ちる寸前だった。
限界。そんな時、俺の側にトコトコとやってきてトドメを刺すように眠りに誘ったのが、静葉だ。
静葉は、不思議の国に住んでいたのだが、寝ぼけに寝ぼけてこちらの世界に迷い込んだらしい。
こちらの世界は真冬。寒さに震える静葉が見つけたのが、ベンチに寝っころがっていた俺だ。
だから静葉はここにやってきて、俺に引っ付いたのだ。彼女に罪はない。
ともかく、静葉という熱源を得てしまった俺の体はついに限界を迎え、眠りについてしまったのだ。
朝起きた時、俺は仰天した。覚えの無い魔物娘が引っ付いていたのだ。まあそうなるだろう。
其の後事情を聴いて、柄にもなく可哀想だと思って不思議の国に帰るまで俺が面倒を見ることにした。
その約一ヶ月の間に、俺は静葉に恋をして告白した。プロポーズの言葉は、覚えていない。
静葉は、俺を受け入れてくれた。晴れて俺は静葉の恋人になれたのだ。
おっと、ちなみに俺は童貞だ。まだ静葉を襲っちゃいないぞ。
其の後、静葉と話し合いこちらの世界に住もうじゃないかという事を決めた時に、俺の元に政府からの御達しが届いたのだ。
正直、これを蹴るのは容易だったが、ここに俺がこの話を断れなかった理由がある。
奴らは、静葉の事を知っていたのだ。俺に届いた報せには静葉の情報が嫌という程書き込まれていた。そして、静葉を欲しがっているどっかのクソみたいな成金野郎のボンボンの名前も書いてあった。
俺はこれを受けざるを得なかった。静葉の為に、絶対に。
それと同時に、一旦静葉を俺から引き離すべきだとも考えた。こっちにいる限り静葉を欲しがるクソ共は後を絶たないだろうと考えた俺は、俺が静葉の側にずっと付いていられるようになるまで、静葉に不思議の国にいてもらうことにした。
静葉は、それを渋ったりはせず素直に従ってくれた。ただし条件付きで。
月に一度、始めて出会った13日に二人で会うことを条件にして。それが静葉と俺の関係。
そして、静葉の案内人がキャリアーという訳だ。






「元気してたか。静葉」
「う〜ん・・・元気してたよ〜。一輝、は〜?」
「いつも通りだ。何の問題もないよ」
この一月に一度の機会を、俺は心待ちにしている。
先程は『今連れてきてありがたい』的な事を言った。だが実を言えば、いつ静葉が来たとしても内心はお祭り騒ぎだろう。どんな不機嫌も吹き飛び、ハッピーだ。
「一輝〜。浮気、してない〜?」
「するわけ無いだろ。俺は静葉一筋だ。基本だぜ?」
「なら〜、いいけど〜。浮気は〜ダメだからね〜」
「分かった分かった。ったく、俺の愛はそんなに信用ないかね?」
「そんなこと〜、ないけど〜。けど〜、一輝はかっこいいから〜、他の子が〜一輝を〜ゆうわくするかも〜しれないから〜」
「他の女の誘惑になんか掛かるわけ無い。それとも」
チュッ
「これくらいしないと、信用できないか?」
「・・・にへへ〜。うん。信用してあげる〜」
「はいはい。ありがたいね、お姫様」
他愛のない会話。静葉とのこんな時間を、俺は一番気に入っている。
静葉を感じられるこんな時間が。
けど、そんな時間も長くはない。
「・・・時間だよ。静葉」
「・・・うん」
10分はあっという間に過ぎてしまう。
悲しいが、もう会えないわけでもない。また、会える。
「じゃな、静葉。また来月」
「うん。またね〜、一輝」
だから、惜しみはしない。笑って別れる。
俺が元の位置に戻る頃には、静葉の姿は消えていた。





静葉の姿は、だが。
「キャリアー、何のつもりだ」
そう。
案内人のチェシャ猫、キャリアーの姿はまだここにあったのだ。
「俺に何か用か?」
「用って言うか、聞きたいことがあってね」
何?聞きたいこと、だと?
「なんだ」
「あんた、なんで静葉以外の魔物娘を見る時になんとも言えない視線を送るのかなって」
・・・・・・・・・・・・
「特に犬型に顕著だよね。あんたの視線は」
「・・・良く分かるもんだ。隠していたつもりだが」
「随分あっさり肯定するね。とぼけるもんかと思っていたけど」
「犬型の辺りまで見抜かれたからな。俺のボーダーラインはそこだ」
「理由があんの?何か」
「・・・あぁ」






ー昔、俺が刑事やってたのは知ってるかー
ーまあね、静葉から聞いたよ。警部、だったっけ?ー
ーあぁ。その頃は魔物娘が入ってきたばかりの頃で、魔物娘の社会進出がかなり盛んだったー
ーへえー
ーそん時に、警視庁は魔物娘の大規模な雇用と元々いた人間の刑事の大量リストラに踏み切ったー
ーえっ⁉そんな横暴出来るの⁉警視庁内で反対意見とかはなかったの⁉ー
ー非難覚悟での強硬だ。反対意見なんか無視だよー
ー酷い・・・ー
ー余程優秀な力を持つ魔物娘が欲しかったんだろう。それによってリストラ食らった刑事の数、おおよそ120人。世紀の大リストラだ。新聞でも大々的に取り上げられたー
ーあんたも、それで?ー
ーあぁ、リストラ食らった。最悪だったよ。静葉を守るための刑事としての力をねじり取られたんだー
ー・・・ー
ーその時、俺の後釜に座る奴として上司に紹介されたのがアヌビスだった、それが俺が魔物娘、特に犬型の奴になんとも言えない視線を送る理由さー








「・・・災難、だったね」
「・・・恨むのは筋違い、だけど思うことが何もないのはあり得ない。だから、なんとも言えない視線になるんだ」
「・・・」
沈んだ雰囲気を見せるキャリアー。優しい奴だからな、きっと気にしてるのだろう。
「・・・お前には関係ない。だからそう落ち込むな」
「でも、あたし達があんたの職を潰す原因に」
「やったのはクソ上層部だ。お前達に非はないさ」
「・・・」
どうにも顔を上げようとしねえ。はあ、気にすることねえのにな。
ま、なら上げさせるまでだ
「そんなに気になるか?」
「・・・」
「なら、静葉の事を面倒見る事でチャラにしたらどうだ」
「・・・え?」
「あいつボーッとしてて危なっかしいからよ。あいつの事を見守ってくれれば、俺は嬉しいよ」
「・・・」
「頼む、な?」
さて、どうか?
「・・・うん、あの子が危なっかしいってのは同感だ。分かった、あたしが見とくよ。感謝しなよ」
「おう。頼むわ」
よし、成功。辛気臭えのは苦手なんだ。いや良かった良かった。これで一安心だ。
キャリアーが空中に浮かび、姿を消した。と同時に
ーありがとうー
と、どっかからキャリアーの声が聞こえた。
「どう致しまして」







「起立」
ガタガタガタッ
「礼」
バッ‼
「着席」
ガタガタガタッ
あの後。
俺は次の作戦会議に参加していた。
今回の獲物は、最近噂の『レジスタンス』。社会に反発した若者で結成されたテロ集団だ。
教団ではないが、政府の敵だ。だから俺らに任務が回ってくる。
『レジスタンス』。人と魔物娘の差別に耐えかねた高校生男子生徒が蜂起した集団。現在、警視庁の特殊起動隊すら打ち破る勢いを持っている。・・・警視庁ざまあ。
武装は貧弱だが、土地勘と結束力を武器に戦い抜いているらしい。現在は新宿駅の構内を占拠し、そこに籠城中との事。
・・・差別か。奴らも似たような境遇なのだろうか?俺と同じ目にあった事があるのだろうか?
そう言う感情面から、俺は同情を禁じ得ない。辛いだろうなと思う。





だがそれだけだ






あいつらは、焦り過ぎた。上を恨むのは良い。憎むのも良いだろう。
だが、あいつらは学生だ。俺と違いまだ待遇はなんとかなる可能性はある。話し合いの余地はあった。
しかし『レジスタンス』たちはその選択肢を捨て戦いを選んだ。戦士として戦場に立ったのだ。
なら容赦などしない。奴らの覚悟は容赦などしていたら打ち破れない。だから全力を尽くして潰す。
それに、俺にはここで守る存在もいる。負けられないのはこちらも同じ。
だから、奴らが立ち塞がるというなら・・・
「これより、レジスタンス対策会議を始めさせていただきます」
ただ、打ち果たすのみだ。



17/05/24 01:37更新 / ベルフェゴール

■作者メッセージ
前に書いたレジスタンスの、有る意味逆のサイドを書いてみました。いかがだったでしょうか?

後、厚かましいですが、このお話に出てきたキャラの設定を使ってお話を書いてくれる方、いらっしゃいませんか。
自分のキャラが他の人の手によって動いているのを見るのが好きなんです。
書いてくださると言う優しい方、感想に、「書いてもいいですよ」と書き込んでいただけると幸いです。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33