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――『絡繰祭』の最中、ジョイレイン領周辺で荷馬車の警護をしていた俺達は、サーカスの団長が誘拐されたという知らせを受けた。 直ぐ様奪還に向かった俺達は、隣のジャミバ領……反魔物派領へと殴り込みをかけることになったのだが……。 『バケモンと一緒に行動するなんざ正気の沙汰じゃねぇだろ!』 『この辺りじゃ魔物は仲間ごと殺しても罪になんねぇどころか褒賞金すら貰えんだよ!』 ……下手をすれば、俺があの男を殺めてしまう所だったかもしれない。ある意味であの男は'正しい'。あの地は魔物反対派の土地だ。差別、偏見、根拠なき根拠の殺意。それが法で保証されているだろう土地。 そこにノア――ワーウルフとなった俺の妹を連れ込んで、無事に終わる筈がない事は分かっていたつもりだった。精々真正面から追い返される程度だろうと、高をくくっていた部分もあっただろう。 だが――出会い頭早々、何を起こしたわけでもない俺達を、あの男達は殺そうとした。言葉にありったけの侮蔑と欲を込めて。 存在の絶対的隔絶――人間であったら、まず経験することはないだろう差別の壁を、ノアは最悪の形で経験してしまったのだ。 今でこそ戦闘要員の一人のように動いてはいるが、ノアはそもそも、病弱な少女だった。両親を無くし、友人と呼べる存在からは縁遠く、いつも家の窓から外を眺めているような、弱々しい少女。 外見上の種族は変化したとはいえ、心は人間だったノア。ワーウルフの本能を最初から受け入れたのは、多分病気のせいで対人経験が少なかったからだろう。人間として過ごす事を実感するのは、やはり人と接しているときであるだろうから。 それに、ノアはノアで、本質は全く変化していない。あの種族変化も、ただ動けるようになった、つまり――俺に居るだけで迷惑を掛けることはなくなった(少なくともノアはそう考えていた)、そのプラス面があまりにもノアにとって大きかったために、変化した事へのマイナス面を知ることはなかった。 ――――――――――――― 「……どうしてノアちゃんを旅に行かせたの?」 手紙を書いた直後、とある人物に向けて出す前にヴァンに言われた言葉だ。'妹'の身を案ずるからか、はたまた最愛の妹を苦難の茨道に態々解き放った俺を非難するつもりなのかは知らない。だがヴァンも分かってはいるのだ。 ――ノアが悩んでいる原因が、自分では治すことも出来ないことだと。 だからこそ俺は――元凶と恩人という、互いに成り立つ筈の無い二つの概念のもとに立つ人狼に向けて、こう返す。 「……あいつは自分で答えを探そうともがいている。なら――その機会を妨害するのは、兄として……誰よりもあいつの側にいた兄として、やってはいけないことだからな」 『あはは……大丈夫だよ……お兄ちゃん。私は、大丈夫だから……』 あの事件で、俺はノアに『ノアであることが大事』とあいつの傷を絆創膏で塞いだ。 少なくとも俺には、側に居ることとそれしか出来なかった。 外見と言うのは、視覚を主とする生物にとって重要なファクターとなる。美醜のみならず、正常異形でその存在がカテゴライズされてしまう。 只でさえ『違い』に敏感なのが人だ。そうしなければ生き残れなかったという事情があるにしろ、今回はそれが酷く裏目に出ていた。 ノアが、自分の『違い』を、はっきりと自ら自身からも突き付けられてしまったのだ。 ……護れなかった。あいつの笑顔を。その事実は重苦しく自らの体にのし掛かり、御丁重にも手枷足枷まで填めている。 ヴァン曰く、 「あの仕事の後の御主人様とノアちゃん……見ていて痛々しかったよ……」 だそうだから、俺も相当沈んだ顔をしていたのだろう……。 ―――――――― 「……アタシ、聞いちゃったんだよね……」 ノアが眠りについたのを寝息で確認したヴァンが、木のテーブルに肘を突き、一人今後の展望を考える俺に唐突に話しかけてきたのは、事件が起こってから一週間近く過ぎてからの夜中だった。そして……ノアから'笑顔'が消えてから一週間でもある。 「ノアちゃん……泣きながら、自分を慰めてた。アタシの気配だったらどんな時だってすぐに感じられる筈なのに、あの時は全然……気付いていなかった」 発情……とは違う。ヴァンが言うには、自らの浅ましさ――人間の体と違い、魔物は発情しやすい――を、自らに言い聞かせて、理解させようとしているかのようだったらしい。 俺は頭を抱える。違うんだ、ノア。おまえは化け物なんかじゃない。そう安心できるよう抱き締めることを、俺はしてやりたかった。だがそれは、今のノアには逆効果でしかない。 何も出来ない。何も出来やしない。今のノアに俺が何を言ったとして、逆に無理させていると考えさせてしまうだけに過ぎない。 今、俺は余りに無力だ。ノアに対して、何の解決策も出してやれないなんて……。 思い悩む俺に、向かいの椅子に座ったヴァンは、ゆっくりと、俺の目をしっかりと見据えつつ、いつものヴァンからは想像もつかないような凛とした声で言った。 「……ノアちゃんは魔物じゃない。それは魔物のアタシが断言するよ」 生まれついての魔物であるヴァンは、そう俺にはっきりと告げた。その目は間違いなく、以前俺を諭したときに見せたあの真剣な目だった。 魔物としての本能が切っ掛けかもしれない。だが、ヴァン自身も脳筋かもしれないが少なくとも馬鹿ではない。今のノアの悩みの原因を作り出したのが自分であることぐらいは、当然理解している。 魔物として……ではなく、妹を思いやる姉の心情から、ヴァンはノアを救ってやりたい、ノアの力になりたいとは考えている。 ――だが、俺と同じように、理解してはいただろう。何が出来るわけでもない、と。だからこそ、今こうして俺と話している。いつもの厚かましいほどに押し付けがましい性格なら、強引にノアの部屋に入り込んで無理矢理励ましに行ったとしても何らおかしくはない。 今、俺達に出来るのは、ノアを見守ることだけだ。 仕事など、出来る状態ではない。そもそも今のノアを放っといて仕事など出来る筈もない。 痛々しいほどの沈黙が、俺達の間に――いや、今のレギーア家には満ちていた……。 ――――――― 二週間後辺りから、ノアは吹っ切れた素振りを見せるようになった。だが、それが嘘であることくらい、俺もヴァンも分かっている。笑顔に差す影を見抜けないほど、俺は鈍感ではないし、一緒に暮らした月日は短くはない。 だが……ここで俺がとやかく言えはしない。過剰に労いの言葉をかければかけるほどに、あいつは無理をする。我を忘れる瞬間以外は、あいつの心に自分が魔物であることの負い目や境界が過剰に反り立つ壁となって俺達を退ける。 だから俺達は、なるべく普通に接することにした。それが俺達に出来る、最善の手段だからだ。 ――先延ばしと言われれば否定は出来ない。だが、他に何が出来ただろうか。出来ることと言えば、ノアが病気だった時のように労り続けることくらいだ。それすら、あいつを傷つけることくらいは理解できている。 正直な所、ノアに俺達が出来ることに限界が来ていた。この気持ち悪いほどに普通な、しかしもどかしい日常を過ごすこと以外に……。 ――――――― 俺達の転機となった人物は、四名いる。一人は……会ったのはノアだけだが。 まず二人。異世界から来たという探偵の工藤和馬(クドウカズマ)と、彼が助けたらしい、エイルと名乗るワーウルフ。 俺のところに格闘技――と言うよりは戦闘術と言った方がしっくりくるか――を習いに来た二人……とは言っても、カズマはエイルを紹介しただけだったが。 エイルとノア、二人とも人間からワーウルフになった者同士(お調子者のヴァンが強引にノらせた部分もあるが)悩みを分かち合ったり、解決の糸口を掴み……かけたりもした。その辺りはカズマのフォローも色々あったから、彼のお陰と言っても過言ではない。半年という時も、また傷を少し癒すには最適だったか。 ――だが、野盗の一言で、ノアは再びトラウマを抉り出されることになる。『化け物』『雌犬』……あぁ、思い出すだけで憤怒の炎が哮り声をあげる。何故だ。何故ノアがここまで虐げられねばならない。 だが、俺よりも辛かったのは……カズマの方だろう。怒れるエイルを止めるために、パートナーとしてではなく、ワーウルフの'主人'として振る舞わなくてはいけなくなった。それが当人の望みと真逆であり、最悪の手段であると判っていて……それでも使わざるを得なかったのだ。 「本当の魔物は……人間……いや、人間の心かもしれねぇな」 カズマの漏らした言葉が、今でも俺の耳に残っている。 次に一人、とは言っても、俺とヴァンは姿を見たわけではない。盗賊団征伐の折、俺達とはぐれたノアが、偶然出会った人物だ。 ノア曰く、アクティオン=ブルーエッジと名乗った、肉体の若々しい老人だったそうだ。彼がノアを案内した場所は、ワーウルフと教会によって滅ぼされた土地だった。 盗賊団団長を捕らえた手腕を持っていたその老爺は、今は恨む力を持っていない、と言っていた。だが恐らく、アクティオン氏は全て――この苛烈な事実を受け入れた人なのだろう。受け入れて、前に進もうとする人物。 彼の姿を見、話を聞いたあの日から、ノアは少し、真剣な物思いに耽るようになったと思う。その後ろ姿を眺めていると、兄としては少々複雑だ。 ――兄としてしてやれることは何か、それが押し付けでなくノアの心を引き出すものであるものは何か、ノアの姿を見て、俺も考えていた。ヴァンはお気楽そうに振る舞いつつ、姉としてノアを気にかけている。以前の強引さは鳴りを潜めている。あいつなりに考えている、と言うことか。 そして、あと一人が――今、俺の目の前にいる。いや、俺が'呼んで'、それに応じて来た、と言うのが正しいか。 ――――― 「――お久しぶりです。まさか呼ばれるとは思いませんでしたよ……'狼を従えし者'ガラさん」 「俺としても、呼ぶことになるとは思いませんでしたよ……ブロックスさん」 ブロックス=モーシュ。ノアが心に傷を負ったあの事件での依頼人にして、魔物を護衛役として側に置く行商人だ。今日はあのハーピィは一緒ではないらしい。聞いたところ、懐妊中だとか。つまりあの後ヤった、と。まぁその辺りはいい。 今回呼んだ理由は、表向きは必要物資の購入である。ノアの体調を考えて住むこの地は、必要物資の確保をするには致命的に地の利が悪い。生きる上での最低限の物は手に入るが、それ以上を望もうとすると、どうしても行商に頼らざるを得ないわけだ。 それに、手に入れた賞金を無闇に貯めるわけにもいくまい。適度に使い、適度に投資し、適度に貯蓄する。それが慎ましく生きるコツだ。まぁ……その'適度に'が、ヴァンの所為で難しかったりするのだが……。 ――話がずれた。で、そのついで――とは言っても、次が本題であることは流石にブロックス氏は気付いているか――に、俺は氏に頼むことにしたのだ。 「……ところで、ノアさんは元気ですか?」 荷物を渡し終え、商品代をチップを付けて払ったところで、ブロックス氏は俺に尋ねてきた。俺は事前に二重底の手紙を氏に送っている。当然――答えはこうだ。 「……元気……だったら良かったんですけどね」 其処から俺は、現状発生している事を有りの侭に説明した。ノアがワーウルフになったわけから、俺の仕事を手伝わせるまでの経緯、先の仕事で起こった不幸な出来事(無論、ブロックス氏の所為ではないとしっかり断りを入れた上での話だ)、そして現在まで俺達がやってきたこと……。 正直の所、思い返すだけでも俺は心が痛む。一つの出来事には幸運と不幸が内包されており、それを如何に受け取るかが大切だ、と大概の教えでは告げられるが、まさにその通りだ。 ノアが魔物に変えられた不幸と、ノアの体が頑強になりすぐに死ぬことが無くなった幸運。 足手纏いになりたくないというノアの願いと、荒事を任せたくないという俺の思い。 そして意識してこなかった人と魔物の壁と、最悪の事態――。 幸運が運ぶ不幸、不幸が運ぶ幸運。俺は一体何が出来たんだ……。 それらを全て聞き入れた上で、ブロックス氏は静かに肯き……そして、やや厳しい口調で返してきた。 「――ガラさん。貴方は、ノアさんがこうなるかも知れないと分かって、一緒に仕事をさせていたのですか……?」 「……」 返す言葉もない。当たり前だ。本当に大切に思うならば、バウンディハンター、或いは請負業等という荒事に、妹を参加させること自体が愚の骨頂である。第三者が聞いて、非道だと責めるのは必然だろう。 「同じ場にいる味方に危機が及ぶような危険な仕事だと分かっていて、同行させたのですか?まだ世の酸いも甘いも知らず、既に人として扱われることは無いノアちゃんを、貴方はわざわざこの世の酸味が凝縮された世界に――連れ出していたわけですか」 「……」 俺はうなだれたまま、こくり、と頷いた。その時のブロックス氏の表情はどうだっただろうか。軽蔑しているに違いない。 謗られる覚悟は出来ている。それだけのことを俺はしてきたのだ。外の世界を見せるのに、何も荒事に突っ込ませる必要などないのだから……。 「……」 気まずい沈黙が辺りを満たす。情けない姿を晒している俺だが、正直今の俺が何を言ったとして、言い訳にしかならない。 顔色を伺うわけにはいかない。それをすると俺は、ただの卑屈な奴になってしまう。それはただ俺の立場を悪くするだけだ。 「……」 長らく続いた沈黙が、破られたのは――ブロックス氏の、意外な言葉だった。 「――へっ、ガラとやら。アンタはアンタなりに手ェ尽くしてんじゃねェか」 「――は?」 責められるかと思いきや、いきなり乱雑な口調で何を言い出すのだろう、この人は。 ――いや、変わったのは口調だけじゃない。ブロックス氏の纏う雰囲気が、一気に変化したのだ。商人的などこか柔和なそれから、荘厳、威圧……さながら百獣の王に対面したときのような、力の差を歴然と見せつける猛烈な気配に――。 気圧されている俺を、どこか愉快そうな瞳で見つめつつ、ブロックス氏は続けた。 「アンタの妹さんがワーウルフになってからも、アンタはアンタなりに妹さんの面倒見てんじゃねェか。そもそも聞いてりゃ荒事志願してんのがノアちゃんだ。アンタはそれを無理して止めるべきか?違ェさ。そん時アンタはこう思ったんだろうさ――『置いていくことがノアにとって善なのか』ってなァ?」 「――」 「……だが、ノアちゃんはそれを選んだんだろ?『これ以上お兄ちゃんの重荷になりたくない』、っつー思いでなァ。大した兄妹愛だぜ。 ……だがなァ、互いが互いを縛りあってんだよ」 「――っっ!」 図星、であったのかもしれない。違う、と言いたかったのかもしれない。だがその一言に俺の全身も、思考も感情も硬化した。これ以上話されたくない、俺の弱い心が俺にそうけしかける。従いたくなりそうなその声に……俺は――! 「――!」 ――ブロックス氏の目が、俺を貫く。弱さを許さない光が、'覚悟'を問う確かな'声'が、俺の弱気を一蹴した。戦場での……生死を分かつ感覚に、俺は本能で反応し――。 「……アンタが悩んでんのも、実はアンタの心の奥でノアちゃんを縛ってんじゃねェのか?ノアちゃんがどうしたいか、じゃねェ。アンタがどうさせたいか、どうあって欲しいか、ってなァ……。 まぁ生い立ち考えりゃ当然だ。両親の代わりに、親としてノアちゃんを育ててきてんだ。母性は分からんが、父性は十分あるだろうさ。兄妹愛、っつったが……寧ろ親子愛かもしれねェな……。 ――で、アンタの目を見るに……子離れの覚悟は出来たみてェだな」 「――あぁ」 ――全て、言葉を受け入れた。 完敗だった。あらゆる事を見透かされ、約束までしてしまった。させられた、ではない。それは逃げ道だ。自らが作る逃げ道だ。 そんな俺の様子に、満足げに微笑むと――ブロックス氏は、俺に対して、ギラギラとした力強い視線と共に、こう告げた。 「なら……やることは決まったな。 ――良いぜ、アンタの願い、請け負おうか」 その言葉と同時に、纏っていた、まるで王を相手するような気配は一気に収斂していく。へたり込みはしないが……背中には冷や汗だ。一体、このうら若き(とは言っても俺よりは年上だが)商人は何なんだ……。 「……っふぅ。では、今後の予定を、契約含め話しましょうか」 気配が会ったときのような穏和なそれになったところで、ブロックス氏の口調も変化した。こちらの方が、聞いていて安心する。 ……しかし、いきなり契約とは……どんな商人だ。尤も、やると決まっちゃいるからな。後はその意識が変わらぬうちに、か。 「……了承した」 俺は手渡された荷物をまとめ、ブロックス氏との交渉に入るのだった……。 ―――――― 俺はヴァンに『兄として』と告げたが、アレは実際のところ……『親として』と言い代えることが出来るのかもしれない。 今まで、早くに亡くした親の代わりに無償の愛を注いできた。見返りなぞ必要ない、愛を。だが、それはノアを縛り、俺自身も縛っていた。 あの事件は、一つの契機なのかもしれない。誰しもが考える'存在'というものについて、今一度見つめ直す……。 夕暮れ近く、誰もいなくなった部屋のベッドを整えつつ、俺は何気なく空を眺めた。 行く末を照らす一番星が、しっかりと眩しく光り輝いているのが、俺の目に入った。 先へと目指す光は、決して後ろへ進まない。時も同じ。 故に光の中で、時の中で生きる俺達は、後ろへ進めない。 D.C.が望めない以上、俺達は先に進んでいくのだ。 D.C.が望めたとしても、俺達は先へ進んでいくのだ。 fin.
10/12/04 20:08 up
おまけ:とある日の『ノアの手記』 『人間、化け物。 ワーウルフの手は、あまりペンを持つのに向かない。これは四つ足で走るというワーウルフ本来の走り方を行うために発達したものだから。 人間、化け物。 机に向かって、思い付くことを書き連ねていくけど、その度に目に入る……わたしの手。狼の毛で覆われた、わたしの手。 少なくとも、わたしが人間の体を持っていないことは確かだ。ヴァンお姉ちゃんに、この体にしてもらったから。そのことを恨むことはないし、むしろ感謝している。あのままだと、わたし多分……今、生きていなかっただろうから。 でも……。 人間、化け物。 違ってちゃ、いけないのかな? そもそも違いって、何なんだろうな? お兄ちゃんは言った。 「'ノア'であること、それが大切だ」って。違いはあるから、まずはそれを認めた上で、'ノア'であるべきだって。 逆に考えると、'ノア'じゃなくなる。それはつまり、わたしがわたしじゃなくなってしまうこと。それは、一番あってはならないことで、そして、一番悲しいことなんだろう。もしそんな事態になったら――。 わたしはきっと、涙すら流さなくなるのだろう。 本物の、'化け物'になってしまうんだろう。 大事なのは、わたしが'ノア'……つまり、'わたし'であること。 'わたし'……。 'わたし'であることって、大変だ。 わたしも……ううん、人間だって。自分でも知らないうちに、自分を忘れてしまっている。 わたしを襲ってきた人達。彼らは……'わたし'を持っていたのかな? わたしには、それが分からない。 'わたし'を持っていたからこそ、金のために殺そうとした? 'わたし'を金に奪われていた? それとも……恐怖? ………。 'わたし'って、何なんだろう。』 ――――― バフォ様の話はお待ちを。 皆さんうちのキャラを書いていいのよ! 初ヶ瀬マキナ
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