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『B』の部屋に飛ばされていたのは、十字の槍を武器にする男――クリッツライ……通称リッツであった。 信仰心と野心が程良くブレンドされたような彼は、何処か煮え切らない思いを抱えながら、細い通路を進んでいた。 「……糞っ、魔物狂いの道化が。その面に己の血で隈取りをさせてやろうか……」 心情的には彼の思いも理解は出来よう。何せ、宿敵がいる領で、何も出来ずにすごすごと帰る羽目になり、さらに非常に腹立たしい声を持つ、顔も知らない相手の掌で踊らざるを得ない状況に置かれているのだ。誰が耐えられようか。 「……」 苛立たしく槍を構え直すリッツ。無闇に館に八つ当たりできない事が、彼のフラストレーションをさらに上げていく……! 「……っつかどれだけ長いんだこの通路!」 先程からかれこれ体感時間十分近く歩いているのに、先が見える気配がない通路。屋敷の構造が分かるはずもない。一体どこに飛ばされたのか、それとも魔法で距離を狂わされているのか、それすら定かではない。 じりじりと、苛立ちが頂点に達しそうなリッツだったが、それでも八つ当たり一つする事もなかったのは、偏に彼の理性と信仰の賜物か。 「……」 下手をすれば爆発しそうな苛立ちを抱えつつ、彼は先へと進んでいく。 ……やがて、ようやく先に光が見え、フラストレーションをぶつけてやろうと愛槍を握り締め、駆け込むと――! 「……は?」 中には異様な風景が広がっていた。いや、異様としか言いようがないだろう。何せ……擂り鉢状の会場、所謂コロッセオとやらが目の前に広がっていたのだから。ただし、客席には誰も居ないが。 いや……コロッセオというよりは、何かの訓練場か?無数の的や武器が備え付けられているということは。 「……お、何だこの石板」 異様な雰囲気を持つ部屋の入り口、その壁に埋め込まれた石板に、何やら文字が刻み込まれている。リッツは魔法に警戒しつつ、簡易の抗魔魔法を用いてからその説明を読んだ。 『これから貴方には、三つの競技を行っていただきます。 三種競技の合計得点によって、貴方が次に進む部屋が決まります。 高得点であればあるほど、領主に会えるかも 〜競技説明〜 1.的破壊 魔力で飛び回る的を50枚全て壊せ。 制限時間10分、的一つにつき40点。クリア時間によるボーナス得点有り。 2.暴徒鎮圧 迫り来る大量の異教徒をしとめろ! 制限時間10分。一人につき30点、10人倒すごとに出る頑丈な兵士は、一人につき80点。クリア時間によるボーナス得点有り。 3.魔物来襲 迫り来る旧世代の魔物をしとめろ! 制限時間10分。一匹につき20点。連続征伐に対するボーナス得点有り。 〜ルール〜 壊すのは的や敵だけにして下さい。設備を意図的に壊したらその時点で失格とし、トばします(様々な意味で)。 武器は手持ちの武器も可能。無い人は貸し出し有りです(尤も、そんな人はここに来ていないでしょうが)。 部屋に入ったら、右手に登録手続きの場所があるので、そちらに向かい名前を書いて下さい(ニックネームでO.K.)。 そうしたらアトラクションが開始しますので、順番通りに場所を回って下さい(その順番にアトラクションは始まりますから)。 後はただ的を壊し敵を倒すだけ!(ここで叫ぶのが戦士の醍醐味) 〜最後に〜 では、高得点目指して頑張って下さい♪ 〜最高記録〜 的壊し:50枚 9:00⇒2000+1000=3000点 暴徒鎮圧:90人⇒3100点 魔物来襲:4500+1400⇒5900点』 「……本格的にアトラクションかよ」 言い得て妙かもしれないが、やらされる方はたまったものではない。……だが、逆に言えば、このアトラクション内では、対象は限られるが暴れられることが可能ではある。それに、どちらにしろリッツに選択肢は残されていない。ならば乗るのが正道と言えよう。 「……しゃあねぇな……ぶちのめしてやんよ!」 愛槍を構えつつ、リッツは部屋に入り――リングスという偽名で登録するのだった……。 ――Get Ready……Go! 「――おぁらぁっ!ちょいやぁ!ふっ、はっ、あぁぁぁらぁっ!」 飛び交う的に対して、槍を変幻自在に振り回すリッツ。直線上に一気に突き出し三枚一気に貫いたかと思うと、そのまま返す刀で二枚を石突きで破壊する。 槍を基点にした回し蹴りで的を一気に蹴り抜きつつ、そのまま槍を大上段に振り抜き、上空に浮かぶ的を両断する。 「――ふぉっ!ふっ!はいやっ!そぁぁぁぃぁっっ!」 一息吐くと、背後に槍を振り抜き、その勢いを殺すことなく棒の如く手元で回し、そのまま辺りに舞う的を、踊るような足尽き手付きで槍に的確に当てていく。さながら新体操のバトンのように背中、腰、胸、首の周りを軸に回転している槍は、その石突きも含めて大半の的をその身で捉え、打ち壊していた。 「――はぃぃぃィィアッ!」 最後、遙か上空の的三つを、貸し出し用の槍を投げて全て貫くと……何処か荘厳で、しかし明るいファンファーレが響き渡った。同時に、何故かキーの妙に高いややガナった男の声が聞こえる。 『1st Stage Clear!! U'r Score is……Oh! Newwwwwwww Recooooooooord!!!』 ……テンションの高さが妙に不釣り合いだ。だが、どうやら新記録らしい。魔力灯を使った謎の設備が、『50 7:03』の文字を描いている。 「軽い軽い軽すぎるぜぇっ!こんなん準備運動だ!」 一応、新記録が出たら出たで嬉しいらしい。一喝したまま、軽く屈伸を行い、次のアトラクションまでの時間を、体を休め、調えるのに使うのだった……。 ENEMY:12
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