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「……ふん」 特に興味もないといった風情で手紙を眺めつつ鼻毛を抜くこの男。服装は無駄にハイカラではあるが、その実継ぎ接ぎにされた布というどこかチグハグなもので、まるで道化師のよう。 適度な筋肉の付いた若々しい体をしており、身長もそれなりにある男だが、その髪は全て白く、顔には老い特有の皺が刻まれている。その横には何故か松葉杖と普通の杖が置かれているが、彼の状態からは老いによる衰えなどと言った様相は伺えない。 マジュール=ジョイレイン……『道化公』等と愛と揶揄を込めて呼ばれる元領主だ。今は実権を息子二人に譲り、一人自適――と言うよりは奔放な生活を送っている。 鼻毛を抜いたその抓みを件の手紙で拭い、何の気もなく構えて投げる。放物線を描くどころか直線軌道を進むそれは、吊されている振り子運動を繰り返すダーツ板の、20のトリプルに命中した。 それを特に眺める事無く、乱雑に放置された酒の内から、最も度が強い物を掴み取ると、残量を確認することなくそのまま一気に飲み干した。 「……くすすっ、相変わらずデスねぇ、マジュ」 小馬鹿にするような声。それに振り返る素振りも見せず、やはり興味無さそうに瓶をゴミ箱に放る。 「たりめーだよラッピン。あの若作りヤローのダンスパーティなんざ誰が踊る気になるかよ、ったく。やること為すこと先代魔王時代なんだよ奴ぁ」 ゴミ袋を引きずる男――ラッピン=ドランクンは、その様にもニコニコと笑顔を浮かべたままだった。 「けららっ、まぁまぁ。退屈しないお相手が来たみたいデスよ〜。はい、お手紙」 ゴミ袋を引きずる手とは反対側の手。その手に握られている手紙が、独りでに回転し、マジュールの元に――首筋に向かって高速で、放物線を描いて飛ぶ! 「……んあ?」 間抜けな声を出しつつも、ラッピンに一度も顔を向けることなく手紙を受け取ると、そのまま内容をしげしげと読み……。 「……へっ。ったく、性も懲りもねぇなこのMr.0共は。恨み骨髄なら是非とも俺にその骨髄寄越しやがれってんだ。俺の方が有効活用できらぁ」 口調とは裏腹に、心底楽しそうな声をあげるマジュール。同時に、執務机であろう場所に広がるカードと、その横のビリヤード台に立て掛けてあるキューを手に取った。 「おい!久々の客だ!丁重に……もてなしてやれ。俺も直々に遊んでやるからな!」 胸を四角に膨らまし、キューを杖代わりに進んでいくマジュール公。その姿がドアの向こうに消えた所で、ラッピンは何かを耳にした。その後感じた空気の振動に、'猫の目'と評される魔導師は一人――狂ったように高笑いした。 「にゃっはははははははははは♪♪♪♪♪ようこそはろーえぶり殺りに来た皆ッさん♪うぇるかむとぅあわ正道異端一切合切全て受け入れるぷち屋敷ィ♪チェックインに花火とは随分派手じゃなィか♪チケット代わりって奴かィ? 桶!盥!樽!永遠は此方ァ♪さぁさみなさん最高にバカウケな時間を過ごして頂戴さ!スラップスティックとミュージカルとペテンが支配するこの――'クラウン=ピエロット'でね♪」 ENEMY:???
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