「もう一発ッ!!」

洞窟内に突如開いた穴から完全に姿を現したローゼは、再びその薄紫色の水弾を放つ。見れば彼女の周囲には大小様々な大きさの水塊が漂っていた。そしてその中の一つが突然弾けたかと思うと、依然として少年の上にのし掛かったままのサキュバスに向けて先程と同様の水弾がそこから発射されたのだ。
標的となった誘拐犯は一発目を手に受けた反省から今度は素直に上空へと跳んで避けざるを得ない。

「これは…何?」
水弾を弾き、その飛沫を浴びた左手はもうすっかり力が入らずだらりと垂れ下がり、しかし感覚はむしろ異常に鋭敏化していた。それこそ自らの翼による僅かな空気の流れですら敏感に感じてしまう程に…。これではまるで……

「それは闇精霊ウンディ―ネが精製した魔界の水を濃縮したモノをベースに私の魔力と他複数の薬品で効果を増強した液体…貴女を倒すために作った強化武装よ。…さっきのが直撃していれば一発で終わらせられたのに…」

そう呟くように言うと更に次の水弾を構え、放つ。彼女の周囲を漂う水球はいつしか彼女自身を中心に一つの円輪を形勢していた。

……一見攻勢に出ている様に見えるローゼだが、実は内心ではかなり焦っていた。最初の一撃で勝負を決めるのが最良の形だったのだ…、それが躱されたとなると既に彼女は窮地に立たされている事になる。万魔殿でじっくり時間をかけて対策をしてきたとはいえ、元々の実力差はいまだ歴然なのだ。しかし、救いはそれでも初撃が弾かれたとはいえ相手の体に当たった事。それにより敵は片手を封じられ、更にこちらの攻撃を脅威に思う筈……というのがローゼの読みであった。それに沿うならば、まだそのハッタリが効いている間に勝負をかけなければならない…。

(もとより短期決戦の積もりで来た…畳み掛ける！)
２発目の水弾を放ったと同時に彼女は右腕を横へと滑らせ、自身を取り囲む水玉の輪を回転させた。そしてその円周の『軸』を目標の進行方向に合わせると、回転速度と同じペースで次々と水弾を発射してゆく。

…連射…どれだけ狙いをつけた所で相手は弾道を予測して、或いは弾速に反応して回避をしてくるのだから当てようと思えばこうするしかない。一発でも直撃する事を祈って…

しかしローゼの祈りも空しく、洞窟の中という…翼を持つ者にとってその能力を著しく制限される環境にありながら、かのサキュバスは次々と撃ち出される水弾を最小限の動きで華麗に避けてゆく。その身のこなしはまるで宙を舞っているかのようで…

実際にこうして実力差をまざまざど見せつけられローゼの焦りは加速した。その間も自身の周囲に展開した魔水は刻々とその体積を減らし続けており、今ではもう最初の半分以下にまでそれぞれの水塊は縮小しているのだ。
…しかしそれでも連射を止める訳にはいかなかった。この弾丸の雨が、それでも敵の攻撃を阻んでいるという実感があった為である。おそらくこちらの射撃が止んだ瞬間、相手は一気に攻撃に転じ、その瞬間自分は倒されてしまうだろう…そんな確信がローゼの中にはあった。故に水と、それを操る自身の魔力が尽きる前に何か手を考えねば……水の残量をちらりと確認し、彼女は考えを巡らせる。

…だが、結果的にはローゼのその危機感すら、実は甘かった事になる。
彼女が魔水の残量を確認した直後、前方から飛来した闇色の光条がローゼの体を貫いていた。


「……ぇッ?」

ほんの一瞬、彼女が目標から目を逸らしたその瞬間に、あろうことか僅かにブレた弾道の隙間から攻撃を差し込まれたのだ。それはまさに針の穴を通す様な精密さ…それを目の前の敵はいとも簡単にやってのけた、しかも連続で襲いかかる此方の弾丸を避けながら…である。

だが、その事を理解し、絶望出来たのは一瞬だった。

突如、全身の血液が沸騰したかと思うような熱が思考を奪う。汗が滝の如く噴き出し、直後、雷に撃たれたかの様な衝撃がローゼを襲った。
…それがこれまで感じた事の無い程の強烈な快楽による絶頂であると理解したのは、それから数秒経過した後の事である。


「あ゛、あ゛あ゛ぁぉ――――――ッ!!」

一拍遅れてローゼの口から絶叫が迸った。同時に彼女の足下には愛液の水溜まりがみるみると拡がってゆく。


「思ったよりやるじゃない。ああゆう攻撃は好きよ？」

水弾の連撃が止まり、その全てを避けきったサキュバスは両手で股間を抑えながらがくがくと痙攣するローゼの目の前に悠々と降り立った。

「だから私もおんなじ手で応えてあげたわ。…どう？キモチ良かったかしら？
……って聞くまでもなさそうね、そんなイキ顔晒してたら…」

「う゛、う゛……イ゛ッ゛て゛、な゛い゛も゛ん゛…ッ!!」

歯をくいしばって絶叫を殺し、なんとかそれだけ答えた。…が、言った端から勝手に溢れ出す涙と涎と震える脚がそれを否定している。

しかし…

「…そう、それなら…」

彼女の精一杯の虚勢を見てクスリと優しげに微笑むと目の前の仇敵はおもむろにローゼを抱き締めてきた。そして右手をその薄手の服の中へと滑り込ませ…

クチュ…
「ひぅ!?」

濡れそぼったローゼの秘所へとあてがい指２本をその中へ潜り込ませる。

「もっと良くしてあげる…」

それを聞いた瞬間、蕩けていたローゼの表情がひきつった。

「…ま、まさか…」

「この状態で子宮に直接、さっきのを撃ち込んだら…流石に逝けるでしょ？」
「ひッ…」
嫌な予感が的中した。…壊される……必死に指を引き抜き、サキュバスから離れようともがくも、がっちりと自分を抱き締める腕はピクリとも動かない。そうこうしている間に、未だ膣内に潜り込んだ指に魔力が収束してゆくのが感じ取れた。そこから僅かに漏れる余波だけでも抗い難い快楽が発生し、気を抜けばあっという間に絶頂に連れていかれそうだ。だが、その指先に集められた魔力が解放されればその時はそんなものでは済まないであろう事は容易に想像できる…

「あ、あ…や……やめ…」

押し寄せる快楽と恐怖がない交ぜになった泣き笑いのような表情で、ローゼはついに赦しを乞おうとした。しかし…

「イってらっしゃい♪」

バシュッ

その言葉が終わる前に、無情にも闇色の光条がローゼの体幹を貫き、メロウのトレードマークである帽子から頭上へと抜けていた。



「おひゅっ…!?」

空気が抜けるような奇妙な声を発した後、一拍置いて下半身で飛沫が上がった。両目がぐるんと裏返り、全身が弛緩してサキュバスの体にしなだれかかる。魔力で形成していた両足は消え、下半身は桃色の鱗を纏った人魚のそれへと戻ってゆく。

完膚なきまでの完全敗北だった。結局、実力差を埋める事は叶わなかった。


…だが、それでもいいのだ。この敗北を以て、ローゼが撃った最後の、半ばやけっぱちの一手は発動する。

二人の周囲にまだ浮遊していた紫色の水が突然ばしゃりと弾けた。…操者が失神し、彼女の魔力による制御が失われた為だ。
とは言え、魔水の効果事態が失われた訳ではないので、その威力を知っていたサキュバスは飛んでくる飛沫から逃れようと翼を拡げようとする。が、自分にしがみついたまま気絶したローゼが邪魔になり上手くいかない。そしてそのままあえなく魔水の飛沫を全身に浴びてしまう結果となった。

「うあ!!あ、あ…!?」

触れた箇所からすぐさま皮膚に浸透してくるその液体の感触に戦慄したのも束の間、その僅か一秒後、

ドザーーーーーッ

彼女の上空からそれとは比較にならない程大量の紫色をした水が降り注いだ。

「◯!?※×〓△↑―――ッ!?」

…それは先程ローゼが連射し、全て避けられ虚しく洞窟の岩壁に吸い込まれた筈の魔水達だった。彼女の魔力も帯びていたそれは、水弾として撃ち出した後でも、特に問題なく彼女の意思で操る事が出来たのである。
彼女がその事に気付いたのは、残念ながら既に手痛い一撃を貰ってしまった後の事だったが、敵が目の前に降り立ったのを見て瞬時にこの作戦を考え付いた。油断すればすぐにでも意識を持っていかれそうな快感に曝されながら、飛び散った魔水を操作し自分達の真上の天井に集めたのである。そして簡単な命令を与えた後、上空で待機させておいたのだ…いつでも自分のタイミングで落下させられるように…結果としては予想外の追撃により自然落下してしまったわけだが、一応彼女の目論見通り、最大級の攻撃を直撃させる事が出来たのである…自分ごと。

「…ぶはっ!!」

サキュバスが水面からなんとか顔を出した。落下した魔水は再び収束し、今や二人を包み込む巨大な一つの球となっていた。
「収束せよ」「結合せよ」…これがローゼが意識を飛ばす前にギリギリで魔水に与えていた命令である。触れたそばから力を奪うこの魔水に、一度取り込まれてしまえばもう抜け出す術は無い。


「ふみゅ…？」

取り込まれた衝撃でしばらく気絶していたローゼも目を覚ました。自らと、かのサキュバスを内部に取り込み、たぷたぷと揺れる水塊を見渡して作戦が成功した事を理解すると、唖然とした顔で此方を見つめる仇敵ににまっと笑みで返した。
「あ、上手くいったんた…」

「あ、あ、貴女なんてことを……!!」

頭上からの水の奔流をかぶった際に魔水を飲み込んでしまったらしく、声を出すだけで体がピクリと震えている。口内を始め喉の奥まで現在進行形で性感帯に変えられていっているのだ。

「ねぇ…この水…『使える』と思わない？」
「ゑ？」
ローゼは眼下に満ちた紫色の液体を手で掬うとサキュバスの目の前で見せびらかすように傾けてみせる。…水と呼ぶにはあまりにも粘性の高いそれはトロトロと糸を引きながらゆっくりと流れ落ちた。
心なしか先程までよりも更に粘性が高まっているような気がする…。

「…私の頭には約１万冊の成人向け小説、絵本、春画他が記憶されているわ。」
「……、は？」
いきなり何を言い出すんだろうかこの魚類は…

「その中で粘液、スライム責めが登場する作品はおよそ2000強、それらで再現可能な触手モノも含めれば5000は下らない。責めのパターンに換算すればその数実に８７８！」
「……。」
嫌な予感がひしひしと押し寄せる。

「…そしてその全てをコレに記憶させてある！」
「バカなんじゃないのッ!!?」

思わず叫んでいた。

「バカになるのは貴女よ。これからそのパターン全部を水の内蔵魔力が無くなるまで繰り返させるから。…本当は貴女を倒した後食らわせる予定で教え込んだんだけど…こうなったからには私も付き合ってあげるわ。で、最後に正気を保っていた方が勝者ってことで、どう？分かりやすいでしょう？」

「ひーっ…!!」

これまで絶対的優位にいたこのサキュバスに初めて確たる怯えが走った。その内容と、既に快楽に蕩けた顔をしながら平然とそんなことを宣う目の前のメロウに対して…

「じゃあ…は…始めましょうか…あ、呼吸は確保してくれるから大丈夫…んひゅうぅぅぅッ!?」

言い終わる前に魔水はあらかじめインプットされていた動作を開始していた。もはやローゼ本人ですら止めることは出来ない。


「い……いや…入って、来ないでぇっ!!」

口でいくら拒絶した所で身体中の筋肉は既に弛緩し、魔水はあらゆる箇所から体内に入り込んでくる。女性器や肛門、尿道のみならず、毛孔や乳腺にまで侵入し容赦なく改造してゆくのだ。そしてあとはより大きな快楽を生み出せるようになったそれらの器官に対して、液体ならではの変幻自在な責めを無慈悲に、ただ機械的に執行してゆくのみである。

突然、二人を呑み込んでいる水塊の表面がヴン…と震えた。

「「んひぃっ!?」」

二人の嬌声が重なる。

「あ…あはっ、とある文献によると…おしっこの穴ってスゴく気持ちいいらしい…けど…本当なのかな……？」「知らないッ！知らない！知らない!!」
「まあ…もうすぐ、ん、分かるし…ね、じゃ……そろそろ本格的に…、動き出すから、…終わったら…また、会いましょ…」「あっ…あ゛…っ!?」


そしてその数秒後、洞窟内に二人分の絶叫が響き渡った。

■作者メッセージ
最後にようやく、僅かにメロウらしさが出てきたかなと…