真夜中のメリーゴーランド
ーー見ィつけた。
◆
チャララン♪ チャララン♪
真夜中の遊園地で、メリーゴーランドが回っています。他の遊具はみんな電気を落としているというのに。それだけが、ポツネン、と浮いたように回転していました。
メリーゴーランドの子馬の一頭に、男が跨っています。
ーー俺は子供では無いのに……、どうしてこんな物に乗っているのだ。
男は訳がわからないといった顔をして、キョロキョロと回りに目をやりました。
しかし、メリーゴーランドの傘の外は真っ暗で、一つとして……灯りは見えません。回り続けるメリーゴーランドから飛び降りることは出来ず、男はされるがままに……白くツルツルとした子馬の首筋を見ながら、ーー上下に揺られていました。
チャララン♪ チャララン♪
同じ節を繰り返し。繰り返し、単調な音楽が流れています。
耳障りなまでに愉快なリズムでも、変化がなければ、ただ神経を逆撫でるものでしかありません。メリーゴーランドが一周しても、やっぱり……男は自分の他に、誰も見ませんでした。
メリーゴーランドの電飾が、コウコウと、メリーゴーランドの円傘の内側を照らしているというのに……、その光は少しも外の闇の中には届かないでいました。
チャララン♪ チャララン♪
こうもメリーゴーランドの外の様子が分からないと、ずっと同じ場所にいるような気がする。いくら回っているとはいえ、子馬同士の距離も変わらず、ずっと同じ光景が続いていると、自分一人だけが世界から浮いている心持ちになってくる。
元来、男は、他の人を省みないほどに気丈なたちでしたが、回り続けるメリーゴーランドの子馬に跨ったままで、……足元から這い上ってくるような不安を感じました。
機械的に単調に繰り返す音楽が……、男を、この時間が何時迄も続くような気持ちにさせて……、ジリジリと、這い上がって来た不安に、背筋を逆なでられるようなーー。
チャーラッラ♪ チャーラッラ♪
突然曲調が変わったことに、男はビクリと身を竦ませました。と同時に、少しだけ安堵もしました。良かった。ずっと、メリーゴーランドで回されているだけじゃない。
男は、子馬にしがみついていた自分の手が、いつの間にか、じっとりと汗ばんでいたことに、気がつきました。このまま、焦らされるように乗り続けていたら、いつか汗でしがみついている手を離してしまうかもしれない。そんな、自分の内から感じる不安で、……背中に感じる冷たさを誤魔化そうとしました。
それでも、嫌な気分は拭えず、
「何なんだ。これは……」
男は呻くような声を出しました。
このメリーゴーランドが何なのかも分からないが……。
それよりも、そもそも何故自分がメリーゴーランドに乗っているのかがわからないーー。
ーー分かりませんか?
静かな。地を這ってくるような女の声が、男の耳に届きました。
「だっ、誰だ!」
心臓が裏返りそうになる思いを必死で堪えて、男は怒鳴ります。怒鳴って、女を威圧することで
自分を保とうと、必死でした。
タッターン♪
音楽が、男を小馬鹿にするように応えます。しかし、女の声は帰って来ません。
嫌でも目に入ってくるメリーゴーランドの外の闇が……、物を言わない圧迫感で迫ってきているようで……。たまらなくなった男は、ワザとーー苛立たしい口調で、再び怒鳴りつけます。
「お前は誰だ!」
女の声は答えず、代わりに、ーーバツン。
と、全ての電飾が消えました。
男は思わず声を上げましたが、
チャーラッラ♪ チャーラッラ♪
一際大きくなった音楽に、彼の声は押しつぶされました。
男の二つ後ろの子馬の背に、ポゥッ、と。ーー仄暗い炎が、一つ、上がります。
後ろから、届いてくる薄い光に向かって、恐る恐る男は振り向きました。
男に見られた炎は、嬉しげに、ゆらぁ……、ゆらぁ……、と風も吹かないのに……揺れました。
チャララン♪ チャララン♪
いつの間にか、曲調はまた最初の単調なものに戻っています。でも、男の耳には、もう、最初のようには聞こえませんでした。それどころか、曲調の変化にすら気がついていないかもしれません。
チャララン♪ チャララン♪
喘ぐように呼吸で……、男はーーよせばいいのにーー、炎に向かって目を凝らしました。
それは、……女、だと男は思いました。
仄暗く揺らいでいる炎を、どうしてだか……、男はそう思いました。
炎が揺らぐと、見覚えのある彼女の髪が風に吹かれた、……ように男には見えました。
「違う。あれは、ただの炎だ……」
ただの炎でも異常なことには変わりはありません。でも……、男にとっては、ただの炎が異常に燃えていてくれた方が、よっぽどーー有り難いものでした。
チャララン♪ チャララン♪
炎が掠れるように消えて、真っ暗なーー、闇が、……戻って来ました。
闇の中、単調な音楽が鳴っています。男は、自分の、浅い、こぼれるようなーー小刻みな息の震えを感じました。息を整えようと思っても、引きつったようになって、どうしても……、上手く息が出来ません。
「ここ、覚えていませんか? 私たちが初めてデートした所ですよ」
先ほどよりも、近い場所から……、同じーー、……女の声がしました。
男は、もう声を出すことが出来ません。声の出し方を忘れたかのように……。
浅い、男の息が、闇を小さく震わせています。
ホウッ。……炎が。ホウッ。二つーー。音楽は止んでいます。
男はカチカチと、歯を打ち鳴らして……。背筋を刃物で優しくなでられているような、……視線を感じました。
「私とデートした時も、ここだったよね」
蛇が、静かに囁くような、……別の声で、男の鼓膜が震えます。
何で、何で……。男の視界がジワリと滲みました。体からグンニャリと力が抜けていく感じがします。頭蓋骨の中では、入り込んできたーー、恐怖という文字が……のたうっていました。
「楽しかったです」
「楽しかったなー」
男と過ごした日々を懐かしむ、男が聞いたことのある声が、……二つ。
右と左から聞こえました。愉快さが滲む、ーー声。彼女たちの、……声。
その声を聞いた男は、彼女たちの最期の顔を思い出して、
「ヒッ、ひひひヒひ」
紙風船から空気が抜けていくように……、笑い出しました。
それ以外の感情をなくしてしまったように、「ひっひ」と男は笑い続けます。
男の空虚な笑い声を聞いて、彼女たちは、ーーソッと、口端だけで微笑みます。
「あらあら、貴方も楽しんでくれているようで、何よりです」
「だらしないなー。あの時はとっても力強かったのに」
いつしかーー、メリーゴーランドは回転を止めていました。
青白い肌の女性が、……二人、ボンヤリと蒼く、陽炎のようにーー男の側に佇んでいます。
二人にはーー、見ているだけで寒くなるような雰囲気があって……、ゾッとするような美しい顔で、クスクスと笑い出しました。
彼女たちは、笑い続ける男をーー、子馬の背から引き摺り下ろすと、……そのズボンを剥ぎ取って、下半身を丸出しにさせました。そうしてーー、やがて、男の上で……、一人が腰を振り始めます。
チャーラッラ♪ チャーラッラ♪ タッターン♪
タッ、タッ、タッ、タッ♪
軽快な曲が流れ出しました。
男と女の回りをメリーゴーランドの子馬たちが走り始めます。
小さな馬車にはもう一人の女性が乗って。
フワリと。曲に合わせて、回りの闇ごと、メリーゴーランドが浮かび上がりました。
その闇の、外。
メリーゴーランドを包む闇は、シャンデリアを編んだような……檻に閉じ込められていました。
ええ、ーーそこは、全部が彼女の檻の中でした。大きな、ウィル・オ・ウィスプの籠の中。
いいえ、彼女の体は大きくなんてなっていません。彼女の檻の中の、彼らのためだけのメリーゴーランドを彼らが訪れていただけなのです。
ウィル・オ・ウィスプの檻の中で、闇の中のメリーゴーランドで、別のウィル・オ・ウィスプが男と交わっています。
メリーゴーランドの主人であるウィル・オ・ウィスプが、自分の檻の中に声をかけます。
「その人が目を覚ましたら、次は私の番ですヨゥ」
仄暗い檻の中から、二人のウィスプ・オ・ウィスプの声が帰って来ます。
「いいですよ。代わり番こですもの」
「待って、まだ私がシてない」
腰を振る度に、男と交わっている彼女の檻が、ガチャガチャと音を立てます。
男は、檻の中で、檻の中に、囲われていました。
男が精を吐き出すと、交代で、もう一人のウィル・オ・ウィスプが彼と交わります。
ガチャガチャ♪
チャララン♪ チャララン♪
されるがままに、メリーゴーランドの中で、男は二人のウィル・オ・ウィスプに代わる代わる犯されていきます。虚ろな目をしたまま、気持ちがイイと、呆然と感じながら……。
今回は、メリーゴーランドの主をやっているウィル・オ・ウィスプが歌います。
「メリーゴーランドは、くるくる回って順番に……」
次の自分の番を想って、頬を昏く、朱に染めて……。
男は、再び目を覚ます頃には、何があったのかを忘れています。
そうして、彼女たちは役割を変えつつ、また、初めっから繰り返します。
チャララン♪ チャララン♪
ーーいつも通りに。
彼女たちは、男に壊れるくらいの恐怖を味あわせてあげます。
チャーラッラ♪ チャーラッラ♪
ーー何度でも、ーー何度でも。繰り返します。
そして、男は壊れると、しばらくして、また忘れて目を覚ますことになります。
男はずっと、檻を変えつつ、新鮮な気持ちで、同じ恐怖を味わい続けます。
「くるくる回って順番に。真夜中のメリーゴーランドは回り続ける……」
ウィル・オー・ウィスプの一人が物憂げに眉を潜めます。
「けれども」
彼女の誰かが呟きます。
「私たちの最期の一瞬には届かない」
その時の事を思い出して、三人はウットリと夢を見るように頬を染めます。
くるくると、メリーゴーランドは回り続けています。
決して醒めることのない、悪夢のオルゴールのゼンマイを巻くように。
メリーゴーランドの音楽に乗って、彼女たちの声が、闇に溶けていきますーー。
チャララン♪ チャララン♪
「私を」「殺した」「責任を」「取って」「ください……」
チャララン♪ チャララン♪ タッターン♪
◆
チャララン♪ チャララン♪
真夜中の遊園地で、メリーゴーランドが回っています。他の遊具はみんな電気を落としているというのに。それだけが、ポツネン、と浮いたように回転していました。
メリーゴーランドの子馬の一頭に、男が跨っています。
ーー俺は子供では無いのに……、どうしてこんな物に乗っているのだ。
男は訳がわからないといった顔をして、キョロキョロと回りに目をやりました。
しかし、メリーゴーランドの傘の外は真っ暗で、一つとして……灯りは見えません。回り続けるメリーゴーランドから飛び降りることは出来ず、男はされるがままに……白くツルツルとした子馬の首筋を見ながら、ーー上下に揺られていました。
チャララン♪ チャララン♪
同じ節を繰り返し。繰り返し、単調な音楽が流れています。
耳障りなまでに愉快なリズムでも、変化がなければ、ただ神経を逆撫でるものでしかありません。メリーゴーランドが一周しても、やっぱり……男は自分の他に、誰も見ませんでした。
メリーゴーランドの電飾が、コウコウと、メリーゴーランドの円傘の内側を照らしているというのに……、その光は少しも外の闇の中には届かないでいました。
チャララン♪ チャララン♪
こうもメリーゴーランドの外の様子が分からないと、ずっと同じ場所にいるような気がする。いくら回っているとはいえ、子馬同士の距離も変わらず、ずっと同じ光景が続いていると、自分一人だけが世界から浮いている心持ちになってくる。
元来、男は、他の人を省みないほどに気丈なたちでしたが、回り続けるメリーゴーランドの子馬に跨ったままで、……足元から這い上ってくるような不安を感じました。
機械的に単調に繰り返す音楽が……、男を、この時間が何時迄も続くような気持ちにさせて……、ジリジリと、這い上がって来た不安に、背筋を逆なでられるようなーー。
チャーラッラ♪ チャーラッラ♪
突然曲調が変わったことに、男はビクリと身を竦ませました。と同時に、少しだけ安堵もしました。良かった。ずっと、メリーゴーランドで回されているだけじゃない。
男は、子馬にしがみついていた自分の手が、いつの間にか、じっとりと汗ばんでいたことに、気がつきました。このまま、焦らされるように乗り続けていたら、いつか汗でしがみついている手を離してしまうかもしれない。そんな、自分の内から感じる不安で、……背中に感じる冷たさを誤魔化そうとしました。
それでも、嫌な気分は拭えず、
「何なんだ。これは……」
男は呻くような声を出しました。
このメリーゴーランドが何なのかも分からないが……。
それよりも、そもそも何故自分がメリーゴーランドに乗っているのかがわからないーー。
ーー分かりませんか?
静かな。地を這ってくるような女の声が、男の耳に届きました。
「だっ、誰だ!」
心臓が裏返りそうになる思いを必死で堪えて、男は怒鳴ります。怒鳴って、女を威圧することで
自分を保とうと、必死でした。
タッターン♪
音楽が、男を小馬鹿にするように応えます。しかし、女の声は帰って来ません。
嫌でも目に入ってくるメリーゴーランドの外の闇が……、物を言わない圧迫感で迫ってきているようで……。たまらなくなった男は、ワザとーー苛立たしい口調で、再び怒鳴りつけます。
「お前は誰だ!」
女の声は答えず、代わりに、ーーバツン。
と、全ての電飾が消えました。
男は思わず声を上げましたが、
チャーラッラ♪ チャーラッラ♪
一際大きくなった音楽に、彼の声は押しつぶされました。
男の二つ後ろの子馬の背に、ポゥッ、と。ーー仄暗い炎が、一つ、上がります。
後ろから、届いてくる薄い光に向かって、恐る恐る男は振り向きました。
男に見られた炎は、嬉しげに、ゆらぁ……、ゆらぁ……、と風も吹かないのに……揺れました。
チャララン♪ チャララン♪
いつの間にか、曲調はまた最初の単調なものに戻っています。でも、男の耳には、もう、最初のようには聞こえませんでした。それどころか、曲調の変化にすら気がついていないかもしれません。
チャララン♪ チャララン♪
喘ぐように呼吸で……、男はーーよせばいいのにーー、炎に向かって目を凝らしました。
それは、……女、だと男は思いました。
仄暗く揺らいでいる炎を、どうしてだか……、男はそう思いました。
炎が揺らぐと、見覚えのある彼女の髪が風に吹かれた、……ように男には見えました。
「違う。あれは、ただの炎だ……」
ただの炎でも異常なことには変わりはありません。でも……、男にとっては、ただの炎が異常に燃えていてくれた方が、よっぽどーー有り難いものでした。
チャララン♪ チャララン♪
炎が掠れるように消えて、真っ暗なーー、闇が、……戻って来ました。
闇の中、単調な音楽が鳴っています。男は、自分の、浅い、こぼれるようなーー小刻みな息の震えを感じました。息を整えようと思っても、引きつったようになって、どうしても……、上手く息が出来ません。
「ここ、覚えていませんか? 私たちが初めてデートした所ですよ」
先ほどよりも、近い場所から……、同じーー、……女の声がしました。
男は、もう声を出すことが出来ません。声の出し方を忘れたかのように……。
浅い、男の息が、闇を小さく震わせています。
ホウッ。……炎が。ホウッ。二つーー。音楽は止んでいます。
男はカチカチと、歯を打ち鳴らして……。背筋を刃物で優しくなでられているような、……視線を感じました。
「私とデートした時も、ここだったよね」
蛇が、静かに囁くような、……別の声で、男の鼓膜が震えます。
何で、何で……。男の視界がジワリと滲みました。体からグンニャリと力が抜けていく感じがします。頭蓋骨の中では、入り込んできたーー、恐怖という文字が……のたうっていました。
「楽しかったです」
「楽しかったなー」
男と過ごした日々を懐かしむ、男が聞いたことのある声が、……二つ。
右と左から聞こえました。愉快さが滲む、ーー声。彼女たちの、……声。
その声を聞いた男は、彼女たちの最期の顔を思い出して、
「ヒッ、ひひひヒひ」
紙風船から空気が抜けていくように……、笑い出しました。
それ以外の感情をなくしてしまったように、「ひっひ」と男は笑い続けます。
男の空虚な笑い声を聞いて、彼女たちは、ーーソッと、口端だけで微笑みます。
「あらあら、貴方も楽しんでくれているようで、何よりです」
「だらしないなー。あの時はとっても力強かったのに」
いつしかーー、メリーゴーランドは回転を止めていました。
青白い肌の女性が、……二人、ボンヤリと蒼く、陽炎のようにーー男の側に佇んでいます。
二人にはーー、見ているだけで寒くなるような雰囲気があって……、ゾッとするような美しい顔で、クスクスと笑い出しました。
彼女たちは、笑い続ける男をーー、子馬の背から引き摺り下ろすと、……そのズボンを剥ぎ取って、下半身を丸出しにさせました。そうしてーー、やがて、男の上で……、一人が腰を振り始めます。
チャーラッラ♪ チャーラッラ♪ タッターン♪
タッ、タッ、タッ、タッ♪
軽快な曲が流れ出しました。
男と女の回りをメリーゴーランドの子馬たちが走り始めます。
小さな馬車にはもう一人の女性が乗って。
フワリと。曲に合わせて、回りの闇ごと、メリーゴーランドが浮かび上がりました。
その闇の、外。
メリーゴーランドを包む闇は、シャンデリアを編んだような……檻に閉じ込められていました。
ええ、ーーそこは、全部が彼女の檻の中でした。大きな、ウィル・オ・ウィスプの籠の中。
いいえ、彼女の体は大きくなんてなっていません。彼女の檻の中の、彼らのためだけのメリーゴーランドを彼らが訪れていただけなのです。
ウィル・オ・ウィスプの檻の中で、闇の中のメリーゴーランドで、別のウィル・オ・ウィスプが男と交わっています。
メリーゴーランドの主人であるウィル・オ・ウィスプが、自分の檻の中に声をかけます。
「その人が目を覚ましたら、次は私の番ですヨゥ」
仄暗い檻の中から、二人のウィスプ・オ・ウィスプの声が帰って来ます。
「いいですよ。代わり番こですもの」
「待って、まだ私がシてない」
腰を振る度に、男と交わっている彼女の檻が、ガチャガチャと音を立てます。
男は、檻の中で、檻の中に、囲われていました。
男が精を吐き出すと、交代で、もう一人のウィル・オ・ウィスプが彼と交わります。
ガチャガチャ♪
チャララン♪ チャララン♪
されるがままに、メリーゴーランドの中で、男は二人のウィル・オ・ウィスプに代わる代わる犯されていきます。虚ろな目をしたまま、気持ちがイイと、呆然と感じながら……。
今回は、メリーゴーランドの主をやっているウィル・オ・ウィスプが歌います。
「メリーゴーランドは、くるくる回って順番に……」
次の自分の番を想って、頬を昏く、朱に染めて……。
男は、再び目を覚ます頃には、何があったのかを忘れています。
そうして、彼女たちは役割を変えつつ、また、初めっから繰り返します。
チャララン♪ チャララン♪
ーーいつも通りに。
彼女たちは、男に壊れるくらいの恐怖を味あわせてあげます。
チャーラッラ♪ チャーラッラ♪
ーー何度でも、ーー何度でも。繰り返します。
そして、男は壊れると、しばらくして、また忘れて目を覚ますことになります。
男はずっと、檻を変えつつ、新鮮な気持ちで、同じ恐怖を味わい続けます。
「くるくる回って順番に。真夜中のメリーゴーランドは回り続ける……」
ウィル・オー・ウィスプの一人が物憂げに眉を潜めます。
「けれども」
彼女の誰かが呟きます。
「私たちの最期の一瞬には届かない」
その時の事を思い出して、三人はウットリと夢を見るように頬を染めます。
くるくると、メリーゴーランドは回り続けています。
決して醒めることのない、悪夢のオルゴールのゼンマイを巻くように。
メリーゴーランドの音楽に乗って、彼女たちの声が、闇に溶けていきますーー。
チャララン♪ チャララン♪
「私を」「殺した」「責任を」「取って」「ください……」
チャララン♪ チャララン♪ タッターン♪
17/04/28 17:20更新 / ルピナス