読切小説
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月の白百合
しゅるり。女体の上を蔦が這っている。
しゅるり。しゅるり。豊かな胸の膨らみを、丸い尻を、なぞる。
胸の上でピンク色に尖った先端を。
股の間でピンク色に剥かれた豆肉を。ーーこねる。

「………おね、がい。もゥ、ヤメて…、こんな事、イヤ……、ンッ」
木々の隙間から漏れる月明かりに照らされて、金髪のうら若き乙女が、その肢体を緑の蔓に弄ばれていた。彼女の艶やかな髪も豊満な肉体も、茶褐色の蜜でベトベトに濡れて、彼女は蔓の愛撫を一身で受けている。
彼女が身をよじっても、ーー蔓はギシギシと揺り籠のように揺れるだけで、緩むことはない。
乙女を縛っている蔓は、リリラウネが足を沈めている、大きな白百合の花から伸びていた。百合の花は、奇妙に白々しく月明かりを反射している。
乙女の嘆願を受けて、リリラウネはその可愛らしい顔に、嗜虐的な笑みを浮かべていた。
「いいえ、やめません。やめるわけがありません。貴女だってやめてくれなかったではないですか。でも……、体は正直なものです。ほら、此処。むせ返るように、ーー濡れています」
くぱぁ、と乙女の女陰が、リリラウネの手によって押し開かれた。緑色の肌の妖女は、その可愛らしい顔を艶然と歪ませている。
「や、やァ……」
「どうして拒むのですか、泣くのは此処だけにしておいてください」
お姉さま。と妖女は囁くように言った。
「許して……。謝るから、私を放してェ……。その顔で、私の事をお姉さまだなんて呼ばないで……」
泣き出しそうな乙女の懇願に、
「あらヒドイ人。お姉さまのことをお姉さまと呼んで何が悪いのでしょうか? それに、申し訳ありませんが、私があなたを放すことはありません。さぁ、一つになりましょう」
リリラウネは愉快そうに、恍惚とした表情を浮かべる。巨大な白百合の花の上で、独りのリリラウネは、自分の片割れを求めていた。

その、二人の嬌態を見ている目。
青年は月明かりの下、百合の花弁の中で行われている、二人の秘め事を見つめていた。
青年も乙女同様に縛られていた。口には丁寧にも猿轡を咬まされて……、彼の生唾を飲み込む音は、蔓にだけ響く。

「イヤッ! 私、……魔物になんてーーなりたくない」
乙女の唯一自由な頭が、イヤイヤと左右に振られる。そんな彼女を愛しむように、甚振るように、巨大な白百合からのびたリリラウネの蔓が、彼女を嬲り続ける。
「そんなことを言って、もう自分でも分かっているのでしょう? 私がお姉さまを放したところで、もう、その疼きは押さえつけられない、と」
ピチャリ。「ンッ、ーーーんぅッ!」蔦で縛られた乙女の肢体を、黄金色の蜜が流れる。「ァ」蜜が流れた箇所は熱を持ち、焦らすような快感を乙女に伝えてくる。身体全体で蠢く快感には、口をパクパクさせることしか出来なかった。
「こんなに私の蜜を浴びたら。もう、トロトロに溶けていたっておかしくはありませんよ」艶然と微笑むリリラウネは、たおやかな指で乙女の肉体に、トロリと蜜を塗り込む。「ああ、可愛らしい。お姉さま、お姉さまお姉さまお姉さま……」
淫らに。妖女の折れそうなほどに細い指先が。官能的に。乙女の、肌色の肉体を撫でる。
その度に、ハープを弾いたような嬌声が、乙女の唇から奏でられる。
リリラウネはウットリと乙女の肉体を楽しむ。乙女の柔らかな肉体は、触っていて飽きることがない。程よい肉付きーーそれでも、手を上に向かって這わせると、手のひらでは包み込めないほどの脂肪の塊がある。
その凶悪なまでの弾力を手のひら全体で堪能しつつ、妖女は、ホゥ、と息をついて、そのたおやかな手の片方を自らの股に伸ばす。クチュクチュ。粘った水音が増える。
「ンッ、……ふぅ、ハァ。お姉さま……愛しています」
右手では豊満な、まだ、他人のものである乳房を揉みしだき、左手では自分を慰める。
リリラウネは夢を見る心地で、思う。早く墜ちてくれないでしょうか。そうしたら、

ーー私と、お姉さまとお兄さま。三人で淫らに愛し合えるのに。

緑の肌の妖女は、チラリ、と、彼に流し目を送る。
「お待ちください、お兄さま。お姉さまを堕としたら、二人で、お兄さまを気持ちよくしてあげますから」
身を焦がす快楽に、口の端から涎を垂らしながら、リリラウネは陶然と言う。
その狂然とした姿を見て、青年は逃げようと身をよじるが、蔓は少しも緩みはしない。

白百合の痴態を見つめつつ、恐怖の中で青年は思う。
ーー彼女は何を言っているのだろう……。僕は、彼女の兄などではない。
………僕らは、この場所で初めて出会った。
青年はリリラウネの少女はもちろん、乙女にも会ったことはなかった。
青年がここを訪れたのは、ある噂話を聞いたからだ。

『満月の夜にだけ咲く大きな白百合』

その噂話に興味を持った青年は、その花を探しに森に入った。
乙女とは森の中で出会った。彼女もその噂話を聞いて、確かめようと思ったそうだ。
申し合わせたわけでなく、偶然、同じ、満月の夜に。それこそ、まるで月明かりに惹かれたように。青年と乙女は出会い、そうして、一人ぼっちのリリラウネに二人は捕まった。
ーーそれだけのこと。
リリラウネには、どう見えているのか。お兄さまと呼ばれた青年は思う。僕に兄弟はいないのに……。あまりもずっと一人ぼっちでいて、月の光を浴びてきた彼女が、どんな狂った世界で生きているのかなどわかりはしない。
青年は、自分を兄に見立てて求めてくる倒錯嗜好のリリラウネの心など、知りたくもないと思う。
初め、リリラウネの顔を見て驚愕に目を見開いていた乙女は、お姉さまと呼ばれ、捕らえて、すでに小一時間、嬲られ続けている。それこそ、蜜で骨の芯まで蕩かすように、ユックリと。
そして、乙女は、ーーもう。
乙女の表情はだらしなく歪み、女陰もヒクヒクと蠢き、ピンク色の肉ヒダは物欲しそうにビショビショに濡れている。
リリラウネは、乙女の様子を見て、蠱惑的な表情で青年に微笑んだ。「仕上げです」彼女は乙女の頬に舌を這わせる。そのまま、唇を奪って、乙女の喉に蜜を流し込む。
「んぅ、グ、……ぅう」
蔓による凌辱と、蜜で蕩かされた乙女の肉体。すでに快楽で明滅してきている彼女の意識では、リリラウネの甘美な蜜の味を拒むことは出来なかった。されるがままに、蜜を飲み込む。
蜜とともに、口の中に抽送されるリリラウネの舌を、いつしか彼女の方から求めるようになり、彼女の金髪が、根元から順に、リリラウネの髪のように白くなっていく。ーー徐々に、……徐々に。肌の色も、彼女を縛り付ける蔓のような緑色に、変わって……、変わってーー。
「ん〜〜! ン〜〜〜!」
青年のくぐもった声に、葉擦れの音がさわさわと、嘲笑するように応える。そろそろと吹き出した風が、嫌でも青年の背筋を寒くさせる。
「どうですか、お兄さま」
青年の視線の先には、
白髪で緑色の肌、スレンダーな体型のリリラウネと。
白髪で緑色の肌、肉惑的な体型のリリラウネが。
ーーーよく似た、蠱惑的な微笑みを浮かべて青年を見つめていた。

大きな白百合の花弁の上に立つ、よく似た顔の姉妹。
もしかしたら、彼女たちは本当に姉妹だったのかもしれない。
自分を自分で慰めるような、淫靡で倒錯的に絡み合う二人の有様。
彼女たちの挑発的な視線を受けて、甘さを増した蜜の香りを嗅いでいると、

ぶるり。

それだけで、射精してしまいそうな欲望が、青年の体のうちに湧き上がった。
ふつふつ、と。ブクブク、と。
二人の蜜の中に身を沈めたい。
今まで散々に痴態を見せつけられた青年は、蔓の戒めが解かれたというのに、フラフラと彼女たちに近寄って行ってしまう。
ウツボカズラに誘われる虫のように。彼女たちに出会ってしまったのならば、抗えない誘惑に惹かれて。
楚々と、白百合の花に足を沈めた彼女のたちの元に。
月明かりが白々と、彼女たちの肢体を、森の闇に浮かべている。
白百合の蜜の中に、青年が足を踏み入れると、花は蕾む。決して三人を外に出さないように。
月の光の狂気を通さない、とばかりに、固く閉じた白百合の花。
月の光を浴びた花は、そうして三人を飲み込んだ。

ーーバックリと。





青年は、満月の夜にだけ咲く白百合の噂話を聞いた。
ーー曰く、白百合の中には可憐な少女が一人ぼっちでいる。
その顔は何処と無く、青年に似ているのだ、と。
だから、コッソリと父親である男爵のお屋敷から抜け出して、この森を訪れた。
そうして青年は彼女たちに出会った。

乙女は、満月の夜にだけ咲く白百合の噂話を聞いた。
ーー曰く、白百合の中には可憐な少女が一人ぼっちでいる。
その顔は乙女にそっくりだ、と。
それは、かつて乙女が犯して森に捨てた、双子の妹なのではないか。自分の母親がかつてされたことを、乙女は妹に行っていた。もし本当に彼女が自分の妹なのか、確かめなければならない。妹が真実を喋り出す前に。
残念ながら、噂話をしていた白いフードの人物は取り逃がしてしまったが、噂話の根元を枯らせば問題ない。
そうして乙女は、二人に出会った。

閉じた白百合の中で、一人ぼっちでなくなったリリラウネは歌う。
「やっと、お兄さまとお姉さまと一緒になれました。私がこのお花と出会ってから、初めて会えた人たちがお兄さまとお姉さまだったなんて、すごく、素敵です」
朗らかに喜ぶリリラウネは、そこで少しだけ顔に憂いを浮かべる。
「でも、どうしてお花さんはもうおしゃべりしてくれなくなったのでしょうか」
でも、そんなこと今はもう些細な問題、とリリラウネは思い直す。だって。
「こうして、お兄さまとお姉さまと一緒になれたのだから」
かつて、満月の夜に咲いていた、空っぽの白百合と出会った少女は、白百合から教えられた自分の兄と姉を手に入れて、無邪気な微笑みを浮かべる。
ーー彼女は自分を飲み込んだ白百合から昔話を聞いていた。
自分には姉と兄がいる。
一人は自分を犯して捨てた双子の姉。
もう一人は、腹違いの兄。母の兄の息子。

三人は満月に照らされた閉じた白百合の中、交わり続ける。
そうして、三人が交わり続けてとろみを増した蜜の抱擁は、まるで母の胎の中ように、……暖かかった。
17/01/20 12:00更新 / ルピナス

■作者メッセージ
横溝的な人間関係ということで、一つ。
芥川短編を読みつつ、触手エロアニメを見ていたら浮かんだ。
鬱々、と。

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