蜘蛛の夢
「何なんだ。ここは……」
男は広がっていた光景に目を見開いた。
「ここは、アラクネの巣か……？」
洞窟の中には、糸。糸。糸。糸は燐光を放ち、洞窟の中を薄く照らしてる。
縦横無尽に張り巡らされた蜘蛛の巣は、主の几帳面さと、ーー狂気を代弁していた。
単なる蜘蛛の巣ではない。獲物を捕らえるためならば、罠らしく隠すはずだ。しかし、ここは、そうではなかった。
見せつけるかのように。挑発的に、蠱惑的に。見ているだけで、頭の中を掻き毟られるような紋様を形作っている。
「ここが異変の元か……。だが、これは俺の手には追えない」
男はそう呟くと、踵を返そうとする。
冒険者として受けた依頼。それは、この洞窟を調査してもらいたいというもの。
どうしてだか、この洞窟に村人が入れなくなったという。
物理的に入れないのではない。洞窟に入ろうとすると、足が動かなくなるのだと言う。
奇妙な形をした蜘蛛の巣を目にした男は、アラクネ属の魔物が住み着いたのだとアタリをつけた。
それを依頼主に報告して、教会に魔物の討伐要請を出させる。この依頼は、男が洞窟を覗き込んだ時点で終わったはずだ。
それなのに………。
蜘蛛の巣を見ているうちに。男は洞窟の奥へ、奥へと足を進めてしまっていた。
そもそも、これは奇妙な依頼だった。ーーー今になって、分かる。
村人の誰もが、この蜘蛛の巣を認識できていなかったのだ。
もしかすると、この紋様の所為なのだろうか…。不可思議なパターンの紋様には催眠に似た効果があり、特定の者にしかこの蜘蛛の巣を認識できない、とか。
男は嫌な予感を覚えながら、蜘蛛の糸に手繰り寄せられるように洞窟を進んでしまった。そうして、とうとう奥まで辿り着いたのだ。
気付ける者にしか、気づけない代物。
この場合は波長が合うと言ってしまっても良いだろう。男は蜘蛛の巣の存在を認識できてしまった。
それは、蛾（エモノ）を誘う誘蛾灯のように。分かっていても、惹きつけられてしまう代物。
本能が求め、理性を嘲笑うもの。タチの悪いことに、今は理性の方までもが掻き毟られているようだ。
辛うじて残っている理性で、男は思う。
逃げなくてはいけない。だが、踵を返そうとした足が、脳の命令を無視する。
ーーーどうして、逃げようとするの？
どうしても。しかし、どうしようもなくーーー。
逃げちゃイヤ。男のクセに、逃げ出すの？ この……臆病鶏（チキン）。
逃走を求める本能を、闘争を求めない理性が空転させる。
………ふふふ。逃げないの？ もっと、罵られたいの？ このーー。
「変態」
ハッキリと聞こえた声に、男は突き飛ばされたと感じた。
しかし、事実としては、男は自ら蠱惑的な蜘蛛の巣に突っ込んでいた。
男は遮二無二暴れた。暴れるごとに蜘蛛の巣は絡みつき、ドンドンと男を縛り上げていく。
暴れれば暴れる程、糸は絡みつく。そんな、約束事を、ーーー男は知っているのに暴れ続ける。
心臓がバクバクと音を立てている。
ーーー本能がここから逃げ出せと言っている。
ーーー理性がもっと縛られろと言っている。
もっと……、もっと。彼女に好き放題されるために。手も足も出ないように、蜘蛛の巣にまみれろ。
そう理性が囁いている。
「は、はははは」
男の口から、オカシナ笑いが漏れた。
俺はどうしてしまったのだ。何で、自分から蜘蛛の巣に引っかかって。何で、自分から縛られているのだ。
ーーーそれが、あなたの望みなのよ。マゾ豚さん。
違う。理性の隅っこの方の、冷静な自分が必死で否定する。
ーーー違わない。ふふ、ふふふふ。あなたは自分から縛られたかった。縛られて、罵られて。
「食べられたいの」
女だ。女が現れた。
いや、元からいたのかもしれない。
ネバつく蜘蛛の糸で雁字搦めにされた男は、彼女を見た。
仄かに光る蜘蛛の巣の上に。可愛らしい顔の少女が立っていた。
少女は一糸まとわぬ肢体を、余すことなく男に見せつけている。その背から、四本の蜘蛛の足が突き出ていた。
蜘蛛、ということは、アラクネ属であるはずだ。だが、こんな魔物は知らない。
男は、舐め回すように少女の肢体を見てしまう。
「ふふ。うふふふふ」
少女の可愛らしい声が、洞窟の壁に反響する。
その声を聞いた男は、頭がクラクラした。蜘蛛糸が音波に乗って、鼓膜から入りこみ脳内で巣を張っていくよう。
少女の官能的なその声音は外見にそぐわない。だが、この巣の主としてはこの上なくしっくりくる。
男をおびき寄せて籠絡する妖女。パクリと頭から食べられてしまってもおかしくない。
震える体とは裏腹に、食べられたい、と理性が訴えている。
一体、どうしてしまったのだ。俺は……。
男が浮かべた絶望的な表情に、少女が嗜虐的な笑みをこぼす。
「ねえ、ここ。触ってみたい？」
己を視姦してくる男に対して、少女は陰唇を押し広げた。
発情している彼女の股から、一筋の雫が垂れる。それは、地獄に降ろされる蜘蛛糸のよう。
だが、決して掴んではいけない。掴めば、地獄よりも深い深淵に連れ去られてしまう。
そうは言っても、雁字搦めにされた男に手を伸ばすことは出来なかった。
「そんな物欲しそうな目で見ないでよ。気色悪い。誰が、あなたになんか触らせるものですか」
冷たい声音。男の背筋が冷える。しかし、反対に脊髄は熱を持って……。
痴態を痴態と理解して、少女は男に見せつけていた。その証拠に、少女の頬は赤く上気している。
ゴクリ。と男は喉を鳴らす。
「あらあら。こんな子供の体に欲情するだなんて、救いようのない変態さんね」
少女は嬉しそうに、口端を釣り上げる。ーー喜色、狂色。少女の仄暗い瞳の中では、グルグルと二色の光が渦巻いている。
俺にはこんな少女に欲情する趣味はないはずだ。だが、恐ろしいほどの色気をもった彼女から目を離せない。
俺はこんな風に馬鹿にされて、欲情する趣味はない。だが、糸の下で俺のイチモツは痛いくらいに膨れ上がっている。
「ーーー触るのは、私♡」
少女がクスリと笑うと、男の股間の部分の糸が解かれた。
男のズボンが彼女の蜘蛛足によって破られる。男のペニスがビョンとまろび出た。今にもはち切れそうに天井を向いている。
「あーあ。どうしてこんなことになっているのかしら？ ギチギチに縛られているっていうのに。見ているオマンコはこんな子供のものだっていうのに。お兄さん、それで興奮していたの？ 救えない変態ね」
内容とは裏腹に、口調は嬉しそうだ。今にも涎を垂らしそうな蕩けた表情。呼吸は荒く、今にもかぶりつかれそう。
男は嫌が応にも期待して、少女を見つめる。
ピン♡ 少女が亀頭の先端を指で弾いた。「ウグッ」痛みと快感に同時に噛み付かれて、ビクビクっと男が震える。
「アハッ♡ 感じちゃったのかしら？ あンむ」
少女がパクリと、男の肉棒を咥え込んだ。急激に高められた性感帯が、少女のヌメる口の中に収められた。
堪らなかった男は、そのまま射精してしまう。
ビュルビュル。コキュコキュ。
少女は淫靡に頬を窄めて、男のペニスから精液を吸い出していく。歪んだ顔が劣情を刺激する。
今までに感じたことのない快感が、男の脳髄を焼く。焼かれる。焼き尽くされる。
ようやく射精がおさまると、少女は最後の一滴まで、ちゅポン、吸い取って口を離す。
クパッ。口を大きく開けて、少女は口の中を見せつける。
それを舌の上で転がして、口を閉じてよく咀嚼して、飲み込んだ。
「何て、マズイのかしら。何を食べたら……、こんな臭くて、ネバネバして、気持ち悪いものがだせるのかしら。そんな汚液を私の口の中に遠慮もなく吐き出すだなんて。なんて下劣で、下品で、低俗なのかしら」
だらしなく蕩けた顔でそんなことを仰られる。その表情のまま男を見る。そうして、男の口の糸が解かれる。
「ねぇ、今、どんな気持ち？ 手も足も出なくて好き勝手にされて。挙げ句の果てにはマズイだなんて言われて。……あら、聞くまでもなかったわね。このチンポ悦んでるじゃない。気持ち悪い」
「うるさい。今すぐにこの糸を解け」
「解いたら、ナニをするつもり？ 私のことをその汚ったないチンポで犯すつもり？ 最低、クズ、最悪ね。そんなことをされたら、もう気持ちが悪くて……」
そこまで言った少女は、その様を想像したのか、か細い指を自分の股間に伸ばした。
クチュクチュというイヤらしい音。
「ハァ、ン♡ ……そんな、事されたら。もう。おかしくなっちゃいそう」
恍惚とした表情で男のチンポを見つめている。さっき出したばかりだというのに、怒張してグロテスクな血管が浮いている。
「変態、変態、変態、変態、変態、変態、変態」
うわ言のように繰り返す少女は、男の首筋に唇を押し当てる。
首筋を這う舌の感触に、男は背筋を子蜘蛛が這っているような、むず痒い感触を覚える。
ーーーツプリ。
男の目が驚愕に見開かれた。少女の歯が、男の皮膚を破ったのだ。鋭い痛みの後に来たのは、何かが入ってくる感触。
どくどく。体を内側から灼くような。
どろどろ。体を内側から溶かすような。蕩けて。トケテ。融けて。
体が熱い。中でも、チンポが。そこだけが別の生き物になったような。
このまま放っておけば、金玉が爆発してしまいそうな、そんな熱量が蠢いている。
「な、にを……」
男の呻き声に構わず、少女は自身の蜜壺を開いて、男のチンポを招く。
「やめろ！」
男は思わず叫ぶ。今、そんなことをされてしまえば、彼女の中に残らず吐き出してしまうだろう。
吐き出してしまえば、そのキモチヨサを味わってしまえば、戻れなくなる。
それは、予感ではなく、確信。
体を内側から苛むこの感覚はーーー。
「………やめても、いいの？」
「え？」
男の言葉で少女の動きが止まっていた。その顔には意地悪そうな笑みが浮かんでいる。
「本当にやめちゃってもいいの？」
「…………」
男は沈黙して、言葉を返すことができない。
「あーあ。あんまり、ブヒブヒ言うから、私、萎えちゃったかもしれないわ。だから、そんなにやめてって言うならやめてあげてもイイわよ。そんなに物欲しそうな目をしているって言うのに、我慢できるなら、ーーーね♡」
それはこっちの台詞だ。物欲しそうな目をして、股を濡らしているのはそっちの方だろう。
だが、男にそんなことを言うことは出来なかった。
欲しい、欲しい。挿れたい、挿れさせてもらいたい。そこじゃないと、この滾りは心置きなく吐き出せなさそうだ。
頭の中はすでに蜘蛛の巣でいっぱいで、どうしても、拒否する言葉を許してはもらえない。
ハッ、ハッ、と。男の荒い呼吸だけが洞窟の中に木霊している。
「ねぇ。欲しかったら、おねだりしてみてよ。おねだりしたら、挿れさせてあげてもいいわよ」
懇願するような口調で、彼女が言う。
男は屈辱に歯を食いしばり、懇願（おねだり）してしまう。せずには……いられなかった。
「おね、がいします。君の、おまんこに俺のチンポを突っ込ませて欲しい。君のナカにザーメンをぶちまけさせ、………ッ！」
男は獣のような吠え声を上げた。少女は虫のような金切り声を。
噛み付かれた。そう思うほどに、胎内の締め付けは激しくて、熱烈で、容赦がなく、凶悪。
自分は溶けた。
男はそう思った。体の中身が全部ドロドロに溶けて、チンポの先から抜けていく。
そんな錯覚。そんな現実。そんな狂気。
このまま体の中が空っぽになったら……。恐ろしい妄想を、男は心の底から肯定してしまう。
それでいい。それがいい。そうしたい。そうなりたい。
こんな気持ち良さを感じられて、こんな風にこの女をよがらせられるのならば、もうこのまま人間を止めてしまってもいい。
虚ろになった頭でそう思う。心底。深淵の底から。
女の股に自分のチンポはまだ入っている。
彼女の中で、ーーのたうって。子宮の味を感じている。
もっと、味わいたい。もっと、注ぎ込みたい。
男は、紫色をしたチンポをもう一本。女の股にねじ込む。
「ヒギィッ！」
女が苦しそうな声を上げるが、関係ない。だって、
「何してるのよ。二本もチンポを突っ込むだなんて、この節操なし。二本も入れるだなんて、自分の小ささを恥じなさい。この恥知らず」
こんなにも嬉しそうだ。
「ンぐッ！ 〜〜〜〜！」
だが、少し煩いと思った。別のチンポを口に突っ込んで塞ぐ。少女の口をオナホールのように扱って、チンポをしごく。
それでも、この女も大したものだ。
こんな目に合わされていると言うのに、吸って、舌でネブって、気持ちよくしてくれる。
ドピュッ、ドピュッ。
彼女の口の中に、白濁が盛大に噴射された。
口から溢れ出すような量のソレを、彼女は一滴残らず飲み干していく。
男は感嘆する。感嘆したものだから、別の触手チンポをケツマンコにも突っ込んでやった。
引きつけを起こしたように彼女は震えて、前の穴も、後ろの穴も、ギチィと締め付けた。
男は堪らず、彼女のナカにねじ込んでいたチンポから射精する。
止まらない。俺の体はどうなったのか？ 何で、こんな量が出て、何で何本もチンポがあるのだろう。
考えようとする男の理性を、彼女の声が引き裂く。頭の中の蜘蛛の巣は、もうベッタリと張り付いている。
「情けない♡ もっと我慢しなさいよ。チキンで、ロリコンで、マゾで、早漏だなんて、一つもいいところないじゃないあなた」
彼女はそう言って、男の生殖嚢の中に足を沈める。ズブズブと、男のナカに足を沈める。
いい度胸だ。自分から犯され尽くしにくるとは。まずは、その小煩い口を完全に塞いでやる。
男は彼女の口に、五本。触手をねじ込んだ。
少女はそれを受け入れつつ、男の触手に牙を突き立てた。
そこに痛みはなく、あるのは、神経を直接焼き尽くすような快感。
ドクドク。グポグポ。毒どく。ズポズポ。
男の触手を通って、少女の毒が男を侵す。
少女の口を、マンコを、ケツアナを、男の触手が何本も犯す。
侵す、犯す、オカす。
…………おかしい。
人にこんなことが出来ただろうか。出来たのだろう。俺が出来ているのだから。
だから、これもとても普通のことなのだ。
男は蜘蛛の牙で、少女に噛み付いた。
「ギャっ！」
少女が濁った悲鳴を上げる。男はお構いなしに毒を彼女に注ぎ込む。
どくどく、毒毒（どくどく）。彼女が今、自分にしているように。
精をたらふく含んだ毒を彼女に流し込む。
自分を溶かした彼女の毒のように。今度は彼女を溶かす、自分の毒を流し込む。
「あ、あ……」
彼女の口から、掠れたうめき声が漏れている。だが、それも全て、水音で塗りつぶされる。
グチュグチュグチュグチュ、グチュチュチュチュチュチュチュチューーー。
穴という穴を犯し尽くすために、男の生殖嚢からは何本も何本も触手が伸びて。
少女というカタチを蹂躙していく。
耳の穴に、鼻の穴に、目の前に、口の中に、ヘソの上に、膣の中に、ケツの中に。
乳首を凌辱して、表情を溶解させて。その肢体の全てが自分のものだ。
グポグポ、ジュポジュポという淫靡と官能の雑音で、全てを塗りつぶそう。
塗りつぶす色は白。真っ白く濁った海に沈めてやろう。
「ごめんなさい……」
何か、別の雑音が混じった気がするが、気にはならない。
グポグポ、ジュポジュポ。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
ザリザリ。グヌグヌ。
「許して。ごめんなさい」
これは、誰の声だ。
「ごめんなさい。酷いことを言ってごめんなさい。縛ったりしてごめんなさい」
淫猥な音の洪水の前では理性など意味をなさない。
だが、彼女の声だけが大蜘蛛になった男に届く。
「でも、そうしないと、怖かったから。そうしないと、相手を見つけられなかったから」
グポグポ、ジュポジュポ。
遠く、少女の独白が聞こえる。
私の種族は、アトラク＝ナクア。
私たちは男を罵って怒らせて、自分たちを犯させる。
でも、私は、そうされるのが怖かった。私がもともとは人間だった事も関係あるのかもしれない。
だから、縛り付けて、罵って、怒らせて、ーーー私が犯すことにした。
だから、被虐趣味の人だけが引き寄せられるような紋様の蜘蛛の巣を編んだ。
そうしてやって来たあなたを犯すはずだったのに、初めてだった私はやり過ぎてしまった。
分量を大きく超えた私の毒が、あなたをすぐに大蜘蛛の姿にした。大蜘蛛になったあなたは私の糸の戒めを破って襲いかかって来た。
毒の片隅で私は震えていた。恐怖と不安と、期待と歓喜で。
ーー蜘蛛になったあなたは、性癖が逆転したみたい。被虐と嗜虐。
毒によって、嗜虐的な強気に浮かされた私の下では、嗜虐的な弱気の私が震えていた。
私は怖かったのに、体を流れる毒が、あなたを嗜虐的に挑発しろと囁いてきた。私はあなたに犯された。犯されて、今も犯されている。
毒に苛まれた下で、私は怖いと思った。同時に、熱に浮かされた私は気持ち良いと思った。
毒に苛まれた下で、私は嫌だと思った。同時に、熱に浮かされた私は嬉しいと思った。
毒に苛まれた心と、熱に浮かされた私の心が溶け合って。
ーー毒を抜かれた私は、性癖が逆転したみたい。嗜虐と被虐。
私。これ、好き♡
もっと、犯して、被虐的になった私を嗜虐的に犯して。
もっと、もっともっともっと。
もう、どっちがどっちだったかわからないくらいに。
じゃあ、お望み通りにしてやろう。
少女の声にならない言葉を聞いた男は、ひたすらに触手を蠢かせる。
もう、今となっては。
どっちがマゾでサドだったのかはわかりはしない。
誰が何だったのかもわかりはしない。
ーーーそんなことは、取るに足らない些細なこと。
この溶け合う快楽の前では、どれが元で、どれが真で、偽だったとしても。
どうだっていい。この気持ちの良ささえあれば、全ては全て、事もなし。
二人の外もナカも。ドロドロのグチャグチャに。
毒だろうが、精だろうが、混ざってしまえばわからない。
俺は、この女を嬲り続ける。この女も嬉しそうに俺に嬲られている。
蜘蛛になって良かった。人間のままでは味わえなかっただろう快楽で、俺はそんなことすら思う。
人間の俺が蜘蛛になった夢を見ているのか、蜘蛛の俺が人間だったという夢を見ているのか。
人間の彼女が魔物娘になった夢を見ているのか、魔物娘の彼女が人間だったという夢を見ているのか。
何が何だかわからなくなる。蜘蛛の巣が張った頭ではここまでが限界だ。
それでも、この女が夢であることだけは決して無い。そうでなくては困る。
男は、狂った頭で、女だけを求め、彼女を嬲り続ける。
女は、狂った頭で、男だけを求め、彼に嬲られ続ける。
蜘蛛の宴は始まったばかり。
頭の中が蜘蛛の巣で覆い尽くされるまで。
体が蜘蛛の巣以上の白濁で覆い尽くされるまで。
蜘蛛の夫婦は夢を見る。
互いを互いの毒で苛みつつ、
人だった頃の夢、蜘蛛になった後の夢。
愛欲の蜘蛛糸で、誘惑の紋様は紡がれる。
誘蛾の定めは蜘蛛に結実し、深淵を誘う歌となる。
蜘蛛は交わり続ける。
世界を蜘蛛の巣で覆い尽くす、その日を夢見て。
ーーー後日、まことしやかに囁かれるようになった噂がある。
特定の人間以外は決して近寄れない、蜘蛛の村があるのだと。
男は広がっていた光景に目を見開いた。
「ここは、アラクネの巣か……？」
洞窟の中には、糸。糸。糸。糸は燐光を放ち、洞窟の中を薄く照らしてる。
縦横無尽に張り巡らされた蜘蛛の巣は、主の几帳面さと、ーー狂気を代弁していた。
単なる蜘蛛の巣ではない。獲物を捕らえるためならば、罠らしく隠すはずだ。しかし、ここは、そうではなかった。
見せつけるかのように。挑発的に、蠱惑的に。見ているだけで、頭の中を掻き毟られるような紋様を形作っている。
「ここが異変の元か……。だが、これは俺の手には追えない」
男はそう呟くと、踵を返そうとする。
冒険者として受けた依頼。それは、この洞窟を調査してもらいたいというもの。
どうしてだか、この洞窟に村人が入れなくなったという。
物理的に入れないのではない。洞窟に入ろうとすると、足が動かなくなるのだと言う。
奇妙な形をした蜘蛛の巣を目にした男は、アラクネ属の魔物が住み着いたのだとアタリをつけた。
それを依頼主に報告して、教会に魔物の討伐要請を出させる。この依頼は、男が洞窟を覗き込んだ時点で終わったはずだ。
それなのに………。
蜘蛛の巣を見ているうちに。男は洞窟の奥へ、奥へと足を進めてしまっていた。
そもそも、これは奇妙な依頼だった。ーーー今になって、分かる。
村人の誰もが、この蜘蛛の巣を認識できていなかったのだ。
もしかすると、この紋様の所為なのだろうか…。不可思議なパターンの紋様には催眠に似た効果があり、特定の者にしかこの蜘蛛の巣を認識できない、とか。
男は嫌な予感を覚えながら、蜘蛛の糸に手繰り寄せられるように洞窟を進んでしまった。そうして、とうとう奥まで辿り着いたのだ。
気付ける者にしか、気づけない代物。
この場合は波長が合うと言ってしまっても良いだろう。男は蜘蛛の巣の存在を認識できてしまった。
それは、蛾（エモノ）を誘う誘蛾灯のように。分かっていても、惹きつけられてしまう代物。
本能が求め、理性を嘲笑うもの。タチの悪いことに、今は理性の方までもが掻き毟られているようだ。
辛うじて残っている理性で、男は思う。
逃げなくてはいけない。だが、踵を返そうとした足が、脳の命令を無視する。
ーーーどうして、逃げようとするの？
どうしても。しかし、どうしようもなくーーー。
逃げちゃイヤ。男のクセに、逃げ出すの？ この……臆病鶏（チキン）。
逃走を求める本能を、闘争を求めない理性が空転させる。
………ふふふ。逃げないの？ もっと、罵られたいの？ このーー。
「変態」
ハッキリと聞こえた声に、男は突き飛ばされたと感じた。
しかし、事実としては、男は自ら蠱惑的な蜘蛛の巣に突っ込んでいた。
男は遮二無二暴れた。暴れるごとに蜘蛛の巣は絡みつき、ドンドンと男を縛り上げていく。
暴れれば暴れる程、糸は絡みつく。そんな、約束事を、ーーー男は知っているのに暴れ続ける。
心臓がバクバクと音を立てている。
ーーー本能がここから逃げ出せと言っている。
ーーー理性がもっと縛られろと言っている。
もっと……、もっと。彼女に好き放題されるために。手も足も出ないように、蜘蛛の巣にまみれろ。
そう理性が囁いている。
「は、はははは」
男の口から、オカシナ笑いが漏れた。
俺はどうしてしまったのだ。何で、自分から蜘蛛の巣に引っかかって。何で、自分から縛られているのだ。
ーーーそれが、あなたの望みなのよ。マゾ豚さん。
違う。理性の隅っこの方の、冷静な自分が必死で否定する。
ーーー違わない。ふふ、ふふふふ。あなたは自分から縛られたかった。縛られて、罵られて。
「食べられたいの」
女だ。女が現れた。
いや、元からいたのかもしれない。
ネバつく蜘蛛の糸で雁字搦めにされた男は、彼女を見た。
仄かに光る蜘蛛の巣の上に。可愛らしい顔の少女が立っていた。
少女は一糸まとわぬ肢体を、余すことなく男に見せつけている。その背から、四本の蜘蛛の足が突き出ていた。
蜘蛛、ということは、アラクネ属であるはずだ。だが、こんな魔物は知らない。
男は、舐め回すように少女の肢体を見てしまう。
「ふふ。うふふふふ」
少女の可愛らしい声が、洞窟の壁に反響する。
その声を聞いた男は、頭がクラクラした。蜘蛛糸が音波に乗って、鼓膜から入りこみ脳内で巣を張っていくよう。
少女の官能的なその声音は外見にそぐわない。だが、この巣の主としてはこの上なくしっくりくる。
男をおびき寄せて籠絡する妖女。パクリと頭から食べられてしまってもおかしくない。
震える体とは裏腹に、食べられたい、と理性が訴えている。
一体、どうしてしまったのだ。俺は……。
男が浮かべた絶望的な表情に、少女が嗜虐的な笑みをこぼす。
「ねえ、ここ。触ってみたい？」
己を視姦してくる男に対して、少女は陰唇を押し広げた。
発情している彼女の股から、一筋の雫が垂れる。それは、地獄に降ろされる蜘蛛糸のよう。
だが、決して掴んではいけない。掴めば、地獄よりも深い深淵に連れ去られてしまう。
そうは言っても、雁字搦めにされた男に手を伸ばすことは出来なかった。
「そんな物欲しそうな目で見ないでよ。気色悪い。誰が、あなたになんか触らせるものですか」
冷たい声音。男の背筋が冷える。しかし、反対に脊髄は熱を持って……。
痴態を痴態と理解して、少女は男に見せつけていた。その証拠に、少女の頬は赤く上気している。
ゴクリ。と男は喉を鳴らす。
「あらあら。こんな子供の体に欲情するだなんて、救いようのない変態さんね」
少女は嬉しそうに、口端を釣り上げる。ーー喜色、狂色。少女の仄暗い瞳の中では、グルグルと二色の光が渦巻いている。
俺にはこんな少女に欲情する趣味はないはずだ。だが、恐ろしいほどの色気をもった彼女から目を離せない。
俺はこんな風に馬鹿にされて、欲情する趣味はない。だが、糸の下で俺のイチモツは痛いくらいに膨れ上がっている。
「ーーー触るのは、私♡」
少女がクスリと笑うと、男の股間の部分の糸が解かれた。
男のズボンが彼女の蜘蛛足によって破られる。男のペニスがビョンとまろび出た。今にもはち切れそうに天井を向いている。
「あーあ。どうしてこんなことになっているのかしら？ ギチギチに縛られているっていうのに。見ているオマンコはこんな子供のものだっていうのに。お兄さん、それで興奮していたの？ 救えない変態ね」
内容とは裏腹に、口調は嬉しそうだ。今にも涎を垂らしそうな蕩けた表情。呼吸は荒く、今にもかぶりつかれそう。
男は嫌が応にも期待して、少女を見つめる。
ピン♡ 少女が亀頭の先端を指で弾いた。「ウグッ」痛みと快感に同時に噛み付かれて、ビクビクっと男が震える。
「アハッ♡ 感じちゃったのかしら？ あンむ」
少女がパクリと、男の肉棒を咥え込んだ。急激に高められた性感帯が、少女のヌメる口の中に収められた。
堪らなかった男は、そのまま射精してしまう。
ビュルビュル。コキュコキュ。
少女は淫靡に頬を窄めて、男のペニスから精液を吸い出していく。歪んだ顔が劣情を刺激する。
今までに感じたことのない快感が、男の脳髄を焼く。焼かれる。焼き尽くされる。
ようやく射精がおさまると、少女は最後の一滴まで、ちゅポン、吸い取って口を離す。
クパッ。口を大きく開けて、少女は口の中を見せつける。
それを舌の上で転がして、口を閉じてよく咀嚼して、飲み込んだ。
「何て、マズイのかしら。何を食べたら……、こんな臭くて、ネバネバして、気持ち悪いものがだせるのかしら。そんな汚液を私の口の中に遠慮もなく吐き出すだなんて。なんて下劣で、下品で、低俗なのかしら」
だらしなく蕩けた顔でそんなことを仰られる。その表情のまま男を見る。そうして、男の口の糸が解かれる。
「ねぇ、今、どんな気持ち？ 手も足も出なくて好き勝手にされて。挙げ句の果てにはマズイだなんて言われて。……あら、聞くまでもなかったわね。このチンポ悦んでるじゃない。気持ち悪い」
「うるさい。今すぐにこの糸を解け」
「解いたら、ナニをするつもり？ 私のことをその汚ったないチンポで犯すつもり？ 最低、クズ、最悪ね。そんなことをされたら、もう気持ちが悪くて……」
そこまで言った少女は、その様を想像したのか、か細い指を自分の股間に伸ばした。
クチュクチュというイヤらしい音。
「ハァ、ン♡ ……そんな、事されたら。もう。おかしくなっちゃいそう」
恍惚とした表情で男のチンポを見つめている。さっき出したばかりだというのに、怒張してグロテスクな血管が浮いている。
「変態、変態、変態、変態、変態、変態、変態」
うわ言のように繰り返す少女は、男の首筋に唇を押し当てる。
首筋を這う舌の感触に、男は背筋を子蜘蛛が這っているような、むず痒い感触を覚える。
ーーーツプリ。
男の目が驚愕に見開かれた。少女の歯が、男の皮膚を破ったのだ。鋭い痛みの後に来たのは、何かが入ってくる感触。
どくどく。体を内側から灼くような。
どろどろ。体を内側から溶かすような。蕩けて。トケテ。融けて。
体が熱い。中でも、チンポが。そこだけが別の生き物になったような。
このまま放っておけば、金玉が爆発してしまいそうな、そんな熱量が蠢いている。
「な、にを……」
男の呻き声に構わず、少女は自身の蜜壺を開いて、男のチンポを招く。
「やめろ！」
男は思わず叫ぶ。今、そんなことをされてしまえば、彼女の中に残らず吐き出してしまうだろう。
吐き出してしまえば、そのキモチヨサを味わってしまえば、戻れなくなる。
それは、予感ではなく、確信。
体を内側から苛むこの感覚はーーー。
「………やめても、いいの？」
「え？」
男の言葉で少女の動きが止まっていた。その顔には意地悪そうな笑みが浮かんでいる。
「本当にやめちゃってもいいの？」
「…………」
男は沈黙して、言葉を返すことができない。
「あーあ。あんまり、ブヒブヒ言うから、私、萎えちゃったかもしれないわ。だから、そんなにやめてって言うならやめてあげてもイイわよ。そんなに物欲しそうな目をしているって言うのに、我慢できるなら、ーーーね♡」
それはこっちの台詞だ。物欲しそうな目をして、股を濡らしているのはそっちの方だろう。
だが、男にそんなことを言うことは出来なかった。
欲しい、欲しい。挿れたい、挿れさせてもらいたい。そこじゃないと、この滾りは心置きなく吐き出せなさそうだ。
頭の中はすでに蜘蛛の巣でいっぱいで、どうしても、拒否する言葉を許してはもらえない。
ハッ、ハッ、と。男の荒い呼吸だけが洞窟の中に木霊している。
「ねぇ。欲しかったら、おねだりしてみてよ。おねだりしたら、挿れさせてあげてもいいわよ」
懇願するような口調で、彼女が言う。
男は屈辱に歯を食いしばり、懇願（おねだり）してしまう。せずには……いられなかった。
「おね、がいします。君の、おまんこに俺のチンポを突っ込ませて欲しい。君のナカにザーメンをぶちまけさせ、………ッ！」
男は獣のような吠え声を上げた。少女は虫のような金切り声を。
噛み付かれた。そう思うほどに、胎内の締め付けは激しくて、熱烈で、容赦がなく、凶悪。
自分は溶けた。
男はそう思った。体の中身が全部ドロドロに溶けて、チンポの先から抜けていく。
そんな錯覚。そんな現実。そんな狂気。
このまま体の中が空っぽになったら……。恐ろしい妄想を、男は心の底から肯定してしまう。
それでいい。それがいい。そうしたい。そうなりたい。
こんな気持ち良さを感じられて、こんな風にこの女をよがらせられるのならば、もうこのまま人間を止めてしまってもいい。
虚ろになった頭でそう思う。心底。深淵の底から。
女の股に自分のチンポはまだ入っている。
彼女の中で、ーーのたうって。子宮の味を感じている。
もっと、味わいたい。もっと、注ぎ込みたい。
男は、紫色をしたチンポをもう一本。女の股にねじ込む。
「ヒギィッ！」
女が苦しそうな声を上げるが、関係ない。だって、
「何してるのよ。二本もチンポを突っ込むだなんて、この節操なし。二本も入れるだなんて、自分の小ささを恥じなさい。この恥知らず」
こんなにも嬉しそうだ。
「ンぐッ！ 〜〜〜〜！」
だが、少し煩いと思った。別のチンポを口に突っ込んで塞ぐ。少女の口をオナホールのように扱って、チンポをしごく。
それでも、この女も大したものだ。
こんな目に合わされていると言うのに、吸って、舌でネブって、気持ちよくしてくれる。
ドピュッ、ドピュッ。
彼女の口の中に、白濁が盛大に噴射された。
口から溢れ出すような量のソレを、彼女は一滴残らず飲み干していく。
男は感嘆する。感嘆したものだから、別の触手チンポをケツマンコにも突っ込んでやった。
引きつけを起こしたように彼女は震えて、前の穴も、後ろの穴も、ギチィと締め付けた。
男は堪らず、彼女のナカにねじ込んでいたチンポから射精する。
止まらない。俺の体はどうなったのか？ 何で、こんな量が出て、何で何本もチンポがあるのだろう。
考えようとする男の理性を、彼女の声が引き裂く。頭の中の蜘蛛の巣は、もうベッタリと張り付いている。
「情けない♡ もっと我慢しなさいよ。チキンで、ロリコンで、マゾで、早漏だなんて、一つもいいところないじゃないあなた」
彼女はそう言って、男の生殖嚢の中に足を沈める。ズブズブと、男のナカに足を沈める。
いい度胸だ。自分から犯され尽くしにくるとは。まずは、その小煩い口を完全に塞いでやる。
男は彼女の口に、五本。触手をねじ込んだ。
少女はそれを受け入れつつ、男の触手に牙を突き立てた。
そこに痛みはなく、あるのは、神経を直接焼き尽くすような快感。
ドクドク。グポグポ。毒どく。ズポズポ。
男の触手を通って、少女の毒が男を侵す。
少女の口を、マンコを、ケツアナを、男の触手が何本も犯す。
侵す、犯す、オカす。
…………おかしい。
人にこんなことが出来ただろうか。出来たのだろう。俺が出来ているのだから。
だから、これもとても普通のことなのだ。
男は蜘蛛の牙で、少女に噛み付いた。
「ギャっ！」
少女が濁った悲鳴を上げる。男はお構いなしに毒を彼女に注ぎ込む。
どくどく、毒毒（どくどく）。彼女が今、自分にしているように。
精をたらふく含んだ毒を彼女に流し込む。
自分を溶かした彼女の毒のように。今度は彼女を溶かす、自分の毒を流し込む。
「あ、あ……」
彼女の口から、掠れたうめき声が漏れている。だが、それも全て、水音で塗りつぶされる。
グチュグチュグチュグチュ、グチュチュチュチュチュチュチュチューーー。
穴という穴を犯し尽くすために、男の生殖嚢からは何本も何本も触手が伸びて。
少女というカタチを蹂躙していく。
耳の穴に、鼻の穴に、目の前に、口の中に、ヘソの上に、膣の中に、ケツの中に。
乳首を凌辱して、表情を溶解させて。その肢体の全てが自分のものだ。
グポグポ、ジュポジュポという淫靡と官能の雑音で、全てを塗りつぶそう。
塗りつぶす色は白。真っ白く濁った海に沈めてやろう。
「ごめんなさい……」
何か、別の雑音が混じった気がするが、気にはならない。
グポグポ、ジュポジュポ。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
ザリザリ。グヌグヌ。
「許して。ごめんなさい」
これは、誰の声だ。
「ごめんなさい。酷いことを言ってごめんなさい。縛ったりしてごめんなさい」
淫猥な音の洪水の前では理性など意味をなさない。
だが、彼女の声だけが大蜘蛛になった男に届く。
「でも、そうしないと、怖かったから。そうしないと、相手を見つけられなかったから」
グポグポ、ジュポジュポ。
遠く、少女の独白が聞こえる。
私の種族は、アトラク＝ナクア。
私たちは男を罵って怒らせて、自分たちを犯させる。
でも、私は、そうされるのが怖かった。私がもともとは人間だった事も関係あるのかもしれない。
だから、縛り付けて、罵って、怒らせて、ーーー私が犯すことにした。
だから、被虐趣味の人だけが引き寄せられるような紋様の蜘蛛の巣を編んだ。
そうしてやって来たあなたを犯すはずだったのに、初めてだった私はやり過ぎてしまった。
分量を大きく超えた私の毒が、あなたをすぐに大蜘蛛の姿にした。大蜘蛛になったあなたは私の糸の戒めを破って襲いかかって来た。
毒の片隅で私は震えていた。恐怖と不安と、期待と歓喜で。
ーー蜘蛛になったあなたは、性癖が逆転したみたい。被虐と嗜虐。
毒によって、嗜虐的な強気に浮かされた私の下では、嗜虐的な弱気の私が震えていた。
私は怖かったのに、体を流れる毒が、あなたを嗜虐的に挑発しろと囁いてきた。私はあなたに犯された。犯されて、今も犯されている。
毒に苛まれた下で、私は怖いと思った。同時に、熱に浮かされた私は気持ち良いと思った。
毒に苛まれた下で、私は嫌だと思った。同時に、熱に浮かされた私は嬉しいと思った。
毒に苛まれた心と、熱に浮かされた私の心が溶け合って。
ーー毒を抜かれた私は、性癖が逆転したみたい。嗜虐と被虐。
私。これ、好き♡
もっと、犯して、被虐的になった私を嗜虐的に犯して。
もっと、もっともっともっと。
もう、どっちがどっちだったかわからないくらいに。
じゃあ、お望み通りにしてやろう。
少女の声にならない言葉を聞いた男は、ひたすらに触手を蠢かせる。
もう、今となっては。
どっちがマゾでサドだったのかはわかりはしない。
誰が何だったのかもわかりはしない。
ーーーそんなことは、取るに足らない些細なこと。
この溶け合う快楽の前では、どれが元で、どれが真で、偽だったとしても。
どうだっていい。この気持ちの良ささえあれば、全ては全て、事もなし。
二人の外もナカも。ドロドロのグチャグチャに。
毒だろうが、精だろうが、混ざってしまえばわからない。
俺は、この女を嬲り続ける。この女も嬉しそうに俺に嬲られている。
蜘蛛になって良かった。人間のままでは味わえなかっただろう快楽で、俺はそんなことすら思う。
人間の俺が蜘蛛になった夢を見ているのか、蜘蛛の俺が人間だったという夢を見ているのか。
人間の彼女が魔物娘になった夢を見ているのか、魔物娘の彼女が人間だったという夢を見ているのか。
何が何だかわからなくなる。蜘蛛の巣が張った頭ではここまでが限界だ。
それでも、この女が夢であることだけは決して無い。そうでなくては困る。
男は、狂った頭で、女だけを求め、彼女を嬲り続ける。
女は、狂った頭で、男だけを求め、彼に嬲られ続ける。
蜘蛛の宴は始まったばかり。
頭の中が蜘蛛の巣で覆い尽くされるまで。
体が蜘蛛の巣以上の白濁で覆い尽くされるまで。
蜘蛛の夫婦は夢を見る。
互いを互いの毒で苛みつつ、
人だった頃の夢、蜘蛛になった後の夢。
愛欲の蜘蛛糸で、誘惑の紋様は紡がれる。
誘蛾の定めは蜘蛛に結実し、深淵を誘う歌となる。
蜘蛛は交わり続ける。
世界を蜘蛛の巣で覆い尽くす、その日を夢見て。
ーーー後日、まことしやかに囁かれるようになった噂がある。
特定の人間以外は決して近寄れない、蜘蛛の村があるのだと。
17/01/18 21:23更新 / ルピナス