32.初めてのお使い
「では、頼んだぞ……。しかし、どうしたのじゃ、お主は……」
メイちゃんが訝しげな視線をカーラに向けています。
本当にどうしたのでしょうか? なんでも無いと言っていますが、そんな訳はありません。
そんな子鹿のように足を震わせて……。
ブぅレイブのォ! 精の匂いをプンプンさせていたら、ナニも無かったはずがありませんッ!
ナニがあったに違いありません!
酷いです。この私、ヴィヴィアンもブレイブとシたかったのに……。
部屋に戻って来なかったブレイブもブレイブです。
そ・れ・に……。
「なぜ、ブレイブさんにしがみついているのでしょうか? ガーテン……、さん」
白衣の声に、ホルスタウロスの少女が答えます。
「私もモノにされちゃったの♡ 凄く良かったんだぁ。私の性技を最後までさせてくれたのは彼がハ・ジ・メ・テ♡」
「なっ!?」
その言葉に私は絶句してしまいます。私の知らないところで、ハーレム要員を増やしていたとは……。
ブレイブ、恐ろしい子ーーー。私は思わず爪を噛んでしまいます。
? 誰か私を見ています? 私はふと視線を感じたので、周りを見回します。ーーー白衣です。
どうしてでしょうか? そう言えば、チョクチョク白衣からの視線を感じます。
ふ、魔物娘まで、虜にしてしまうとは、罪なワ・タ・シ♡
その思いに答えるのはやぶさかではありません。………。というか、白衣って私の中に一回突っ込んでますよねぇ。
ブレイブが私にしてくれようとした時に間に入り込んでェッ!
ああ、あれは今思い出しても酷い仕打ちでした。考えるだけで、お股がジュンジュンしてしまいます♡
しかし、もうヤられたくはありませんね。ブレイブには私だけに注いでもらいたいものです。
「まぁ、良い。で、キョ……、我が隊に入るということで良いのじゃな?」
キョニューこと、メイちゃんがカーラに確認を取ります。……プッ。
「キャアアアアアア!」
あ、っぶなかったです! いくら魔界銀だとはいえ、顔に向かって巨大な鎌が飛んでくるのは恐怖です。ホラーです。
スプラッタァです! ガクガクブルブル。
思わず漏らしそうになってしまったではないですか。全く。こんな公衆の面前でリリムである私が、そんなことできるわけありません。
………ゴクリ。いえ、何でもありません。
「でも、どうして急に? この状態と関係があるのですか?」
私の問いかけにカーラは目を泳がせます。……珍しい。
その目線の先にはブレイブとガーテンがいます。
「ま、負けられないのだ。とだけ、言っておこう」
「でも、カーラちゃん可愛かったよ」
「なっ……! わ、私に可愛いとなど言うのではなーい!!」
珍しくカーラが真っ赤になっています。
いつもなら、それはそうだろう、フハハハハーーというはずなのに。小一時間くらい問い詰めたいところです。
ですがーーー。
「では、手筈通りにゆこう」
メイちゃんの言葉で、私たちはそれぞれの受け持ちに別れることになったのでした。
◆
昨日頼まれたことはこうでした。
ーーーあの魔女めを支持しておる輩を、こちらにまた引き込むのじゃ。変態とはいえ、お主は魔王様直系の娘、リリムじゃ。お主が口を出せば、手のひらを返す奴もおるかもしれん。
そこで、私たちは町の有力者の元を回ることになったのです。
ちなみに、今ここにいるのは、私、ブレイブ、白衣、アン、です。
初期メンバーですね。
カーラは、キョニュー特戦隊に、………ブハッ!
「ぎゃああああああああ!」
な、なぜ、地面に突然穴が……。穴に入れられるはずの私が、穴に入るとはどういうことですか!?
全く……、というか、この町って、本当にメイちゃんの魔術が行き通っているのですね……。
恐ろしいです。それなら、今でも、メイちゃんが領主でいいのではないでしょうか?
私は何とか穴から這い出します。
え? ………羽は使えなかったのか? ですか……。
私一人分の穴で、羽を羽ばたかせるようなスペースが無かったのです。
容赦がありません。
「大丈夫? ヴィヴィアン」
ブレイブが手を差し出してくれます。
「ありがとうございます」
ああ、私の王子様です。出来るならば、独り占めしたくなくなくなくもありません。
私はウットリとしながら、彼の手を取ります。そのままブレイブに縋り付きます。
「う、わわぁ。ヴィヴィアン?」
ブレイブが驚いています。彼のその顔はいつ見ても良いです。
私はご満悦で笑います。ここは、私の場所です。
誰にも奪わせはしません。
「ダメ、ですか? ブレイブ……」
「だ、ダメじゃないけど……」
私の上目遣いにブレイブはタジタジです。私は得意げになって、彼の手を引いていきます。
このまま、またデートに連れて行ってしまいたいくらい。
でも、私たちはメイちゃんのお使い中です。
そっちを済ませなくてはいけません。デートはその後のお楽しみに取っておきましょう。
私はそのまま、ブレイブの手にしがみついたまま、街の有力者だというヒトたちの元を訪れました。
証言1
メイ? ああ、キョニューちゃんだね。
え? 領主に戻りたい? …………。ホントかなぁ?
彼女、今の方が生き生きしてるよ。やっと適職をみつけたってところかな。
それを取り上げるなんてとんでもない。
証言2
拒否します。
あのマッスルズのむさ苦しさといったら、ありませんでしたよ。
あんなガチムチで固められてしまったら……。街の中の治安部隊なのに、あれはガチ過ぎて笑えません。
ここに訪れる方々も肩身の狭い思いをしてしまっていたようです。
それに、そんな如何にも方達で固めて、街を必死に守ろうとしたあの方の姿を見ていると……。
もともと、街の人々好きなのですから……、より身近に居られる今の方が私はいいと思います。
だって、ホラ。生き生きしているではないですか。
証言3
リリム!? リリム何デ!? ジョジョー。
ごめんなさい、ごめんなさい。もうワーラビットを追いかけて行ったりなんてしません。
だから、マーチヘアの集団を嗾けるなんてやめて下さい。
キエエエエエエエエ!? 僕の人参を食べるのはいいけど、僕に人参を突っ込むのはヤメテェェ。
そんなぶっといのはお尻に入らないよぉおーーーーー!!
RRS(リリムリアリティショック)を発症したため、話が通じず。
マーチヘアの集団が介抱のために別室に連れて行った。
証言4・5・6・7………
メイちゃんは今の方が楽しそう。
(以下同文)
◆
「……………………」
「このままでいいんじゃないかな?」
ブレイブの言葉に私たちの全員が頷きます。
「そうですね。メイちゃんさんは、ちゃんと皆さんに慕われているようですし、領主という立場に拘らなくてもいいと思いますね」
白衣がシミジミとして言いました。
(コクコク)アンの頷き。
「そうですね。私は以前はメイちゃんの屋敷で、お世話になっただけであまり街の人とは話していなかったのですが……。まぁ、今のままで問題はなさそうですね」
私たちは共通の見解として、メイちゃんを領主に戻さない方がいいとしました。
「ですが、それはそれとして、エレンさんは、なぜ要職の方々の名前を奪ったりしたのでしょう?」
白衣の疑問も最もです。それは、わからないことです。
エレンは、なぜそんなことを……。そんなことをしなくとも、誰も反乱も起こさないと思います。
それに、街を出歩く時は子供の姿にならなくてはいけないということですが、実は家の中では自由ということでした。
それなら観光客が増えて街が潤い、いつも楽しい日々。
誰も反乱を起こしようがありません。
そして、街を見回るのは、キョニュー特選隊。武闘派バフォメットのメイちゃんです。この街には彼女の敷いた魔術網があります。
犯罪も犯罪になる前に、防がれます。
それならば、何故……。それは私にもわかりません。ですのでーーー。
「ケルンさんと、駄馬の連絡待ちってところかな」
ブレイブの言葉に私たち全員が驚愕(ビックリ)します。
今、ナント仰いました? ブレイブ=サン。
「どうかしたの?」
ブレイブはなんでも無いことのような顔をしています。ナチュラルにビクトリアのことを駄馬と言ったようです。
ぉおう。アンビリーバボー。何と羨ましい。私はビクトリアに思わず嫉妬してしまいます。
でも、ブレイブの言う通りです。駄馬ってことだけじゃ無いですよ。
ケルンと駄馬は、魔女エレンの屋敷に潜り込んだのです。それが、彼女たちのお使いです。
顔の割れていない彼女たちは、エレンの目的の方を探るために潜入しているのです。
メイちゃんを領主に返り咲かせることを断念? した私たちはもうすることがありません。
彼女たちの連絡待ちです。
だーかーらー。
「では、ブレイブ、デートしましょう。デート、デート。今度は別の劇を見に行きましょう」
他の劇場では、レッドキャップ主演の『お前の帽子は何色だぁ!?』がやっていたはずです。
確か彼氏もいないのに、帽子が白いままのレッドキャップの周りで巻き起こる連続逆レイプ事件の劇です。もうこの時点で、オチは見えていそうですが……。
私はブレイブの手を引きます。ルンルンとスキップを踏もうとする私を白衣の声が止めます。
「そのデート、もちろん私たちもご一緒してよろしいですよね?」
「………………、ええ」
「なんでしょうか、その沈黙は……」
何だか、白衣の視線が冷たい気がします。デートでブレイブを独り占めしたいというのは、普通のことではないのでしょうか?
「……………。ヴィヴィアンさん、何だかこの前からおかしくありませんか?」
「ヴィヴィアンがおかしいのはいつもじゃないの?」
ブレイブが辛辣な言葉を吐きます。それ……、もっとぉ♡
「そうですが、そうではなくてですね……」
白衣が言葉を濁しています。そして、彼女は意を決したように口を開きます。
「やはり、おかしいですよ。ルチアさんを倒したあたりから……」
「……………」
その名前を聞いて、私は黙ってしまいます。
「それまでは、ブレイブさんのハーレムを作ると言って、奔走していたというのに、最近は、むしろ逆。ブレイブさんが、別の女性と仲良くしていると、嫉妬しているようじゃないですか」
「……そう、なの? ヴィヴィアン」
ブレイブが私の瞳を覗き込んできます。そこには咎めるような様子はなく、ただの疑問符だけがありました。
しかし、私は答えられません。………これが、この気持ちが嫉妬だったのでしょうか?
そう、ですね……。確かに私はしていました、ね。
そんなもの、私は持たないと思っていたのですが……。だからこそ、ブレイブにハーレムを作ってもらうことを、私の計画に組み込んだのです。
「ヴィヴィアンさん」
黙って考え込んだ私に、白衣が声をかけます。私は白衣の顔を見ます。
彼女の表情からは、彼女がどんな気持ちを抱いているのかわかりませんでした。
「別に、あなたがどう思おうが勝手ですが、私たちもブレイブさんのことが好きなのです。嫉妬したり、出しぬこうとするのは、まだいいです。が、独り占めしようとするのはやめてください」
白衣の言うことも、もっともです。でもーーー。
「……………。やだ。ブレイブにはもっと私だけを見ていてもらいたい」
私は私の気持ちに気がついてしまいました。
そんなーー、巻き込んだのは私なのに。ブレイブに彼女たちを当てがったのは私なのに。
私はそんな思いを抱くようになってしまっていました。バイコーンがいても、私はそう思ってしまいました………。
「ヴィヴィアンさん。それは勝手すぎますね」
白衣が今までに聞いたことのない声を出しました。私は彼女の顔を見ることができません。
「だって、だって、仕方がないじゃない。そう……、思ってしまったのだから………」
「思うのは勝手です。でも、独り占めはしないでください。私がこう言うのは、このまま放っておくと、いずれヴィヴィアンさんがブレイブさんを連れて、何処かへ行ってしまうのではないかと思ったからです。そんなの私がしたいくらいなのに………」
「ぅえっ!?」
白衣の最後の呟きに、ブレイブが変な声を上げました。
しかし、そうか、そうですね………。その手があったかーーー。
「ダメですよォ。私はすでにブレイブさんには色々と仕込ませていただいていますから。もちろんヴィヴィアンさんにも♡ だから、何処に逃げたって無駄です。それを伝えておきたくて……♡」
ぞ、ぞわぁっ。白衣が白蛇も真っ青なメンヘラ顔(フェイス)を浮かべました。
思わず背筋が寒くなってしまいます。私たちの反応を見て、白衣が表情を和やかな笑みに戻します。
「さて、どれが本当で、どれが冗談だったでしょうか?」
それから、ニマァっと布の顔が歪みます。
………………………。コイツを初期パーティに組み込んだのは間違いだった、と私は今更ながらに後悔しました。
沈黙してしまう私たちの中で、アンちゃんが動いてブレイブを包み込みます。
「アンちゃん、急に何?」
ブレイブが驚いた声を上げて、アンちゃんに動かされた手で白衣の体を掴みます。
そして、マフラーのように自分の首み巻きつけ、私の手を取ります。
アンちゃんは私の手に、文字を書きます。
”皆、一緒がいい”
私はそれを見て………。
咄嗟に手を離して走り出してしまいました。
走り出さずにはいられませんでした。
ブレイブと白衣が何かを言っている気がしますが、止まることはできません。
私は、そのままーーー。
転移門(ゲート)を開いて、自分のお城の部屋に駆け込みました。
私はみんなに合わせる顔がありません。ここならすぐに駆けつけてくることなど出来ません。
私は、ベッドに飛び込んで、枕に顔を押し当てて、声を殺して、泣いてしまったのでした………。
メイちゃんが訝しげな視線をカーラに向けています。
本当にどうしたのでしょうか? なんでも無いと言っていますが、そんな訳はありません。
そんな子鹿のように足を震わせて……。
ブぅレイブのォ! 精の匂いをプンプンさせていたら、ナニも無かったはずがありませんッ!
ナニがあったに違いありません!
酷いです。この私、ヴィヴィアンもブレイブとシたかったのに……。
部屋に戻って来なかったブレイブもブレイブです。
そ・れ・に……。
「なぜ、ブレイブさんにしがみついているのでしょうか? ガーテン……、さん」
白衣の声に、ホルスタウロスの少女が答えます。
「私もモノにされちゃったの♡ 凄く良かったんだぁ。私の性技を最後までさせてくれたのは彼がハ・ジ・メ・テ♡」
「なっ!?」
その言葉に私は絶句してしまいます。私の知らないところで、ハーレム要員を増やしていたとは……。
ブレイブ、恐ろしい子ーーー。私は思わず爪を噛んでしまいます。
? 誰か私を見ています? 私はふと視線を感じたので、周りを見回します。ーーー白衣です。
どうしてでしょうか? そう言えば、チョクチョク白衣からの視線を感じます。
ふ、魔物娘まで、虜にしてしまうとは、罪なワ・タ・シ♡
その思いに答えるのはやぶさかではありません。………。というか、白衣って私の中に一回突っ込んでますよねぇ。
ブレイブが私にしてくれようとした時に間に入り込んでェッ!
ああ、あれは今思い出しても酷い仕打ちでした。考えるだけで、お股がジュンジュンしてしまいます♡
しかし、もうヤられたくはありませんね。ブレイブには私だけに注いでもらいたいものです。
「まぁ、良い。で、キョ……、我が隊に入るということで良いのじゃな?」
キョニューこと、メイちゃんがカーラに確認を取ります。……プッ。
「キャアアアアアア!」
あ、っぶなかったです! いくら魔界銀だとはいえ、顔に向かって巨大な鎌が飛んでくるのは恐怖です。ホラーです。
スプラッタァです! ガクガクブルブル。
思わず漏らしそうになってしまったではないですか。全く。こんな公衆の面前でリリムである私が、そんなことできるわけありません。
………ゴクリ。いえ、何でもありません。
「でも、どうして急に? この状態と関係があるのですか?」
私の問いかけにカーラは目を泳がせます。……珍しい。
その目線の先にはブレイブとガーテンがいます。
「ま、負けられないのだ。とだけ、言っておこう」
「でも、カーラちゃん可愛かったよ」
「なっ……! わ、私に可愛いとなど言うのではなーい!!」
珍しくカーラが真っ赤になっています。
いつもなら、それはそうだろう、フハハハハーーというはずなのに。小一時間くらい問い詰めたいところです。
ですがーーー。
「では、手筈通りにゆこう」
メイちゃんの言葉で、私たちはそれぞれの受け持ちに別れることになったのでした。
◆
昨日頼まれたことはこうでした。
ーーーあの魔女めを支持しておる輩を、こちらにまた引き込むのじゃ。変態とはいえ、お主は魔王様直系の娘、リリムじゃ。お主が口を出せば、手のひらを返す奴もおるかもしれん。
そこで、私たちは町の有力者の元を回ることになったのです。
ちなみに、今ここにいるのは、私、ブレイブ、白衣、アン、です。
初期メンバーですね。
カーラは、キョニュー特戦隊に、………ブハッ!
「ぎゃああああああああ!」
な、なぜ、地面に突然穴が……。穴に入れられるはずの私が、穴に入るとはどういうことですか!?
全く……、というか、この町って、本当にメイちゃんの魔術が行き通っているのですね……。
恐ろしいです。それなら、今でも、メイちゃんが領主でいいのではないでしょうか?
私は何とか穴から這い出します。
え? ………羽は使えなかったのか? ですか……。
私一人分の穴で、羽を羽ばたかせるようなスペースが無かったのです。
容赦がありません。
「大丈夫? ヴィヴィアン」
ブレイブが手を差し出してくれます。
「ありがとうございます」
ああ、私の王子様です。出来るならば、独り占めしたくなくなくなくもありません。
私はウットリとしながら、彼の手を取ります。そのままブレイブに縋り付きます。
「う、わわぁ。ヴィヴィアン?」
ブレイブが驚いています。彼のその顔はいつ見ても良いです。
私はご満悦で笑います。ここは、私の場所です。
誰にも奪わせはしません。
「ダメ、ですか? ブレイブ……」
「だ、ダメじゃないけど……」
私の上目遣いにブレイブはタジタジです。私は得意げになって、彼の手を引いていきます。
このまま、またデートに連れて行ってしまいたいくらい。
でも、私たちはメイちゃんのお使い中です。
そっちを済ませなくてはいけません。デートはその後のお楽しみに取っておきましょう。
私はそのまま、ブレイブの手にしがみついたまま、街の有力者だというヒトたちの元を訪れました。
証言1
メイ? ああ、キョニューちゃんだね。
え? 領主に戻りたい? …………。ホントかなぁ?
彼女、今の方が生き生きしてるよ。やっと適職をみつけたってところかな。
それを取り上げるなんてとんでもない。
証言2
拒否します。
あのマッスルズのむさ苦しさといったら、ありませんでしたよ。
あんなガチムチで固められてしまったら……。街の中の治安部隊なのに、あれはガチ過ぎて笑えません。
ここに訪れる方々も肩身の狭い思いをしてしまっていたようです。
それに、そんな如何にも方達で固めて、街を必死に守ろうとしたあの方の姿を見ていると……。
もともと、街の人々好きなのですから……、より身近に居られる今の方が私はいいと思います。
だって、ホラ。生き生きしているではないですか。
証言3
リリム!? リリム何デ!? ジョジョー。
ごめんなさい、ごめんなさい。もうワーラビットを追いかけて行ったりなんてしません。
だから、マーチヘアの集団を嗾けるなんてやめて下さい。
キエエエエエエエエ!? 僕の人参を食べるのはいいけど、僕に人参を突っ込むのはヤメテェェ。
そんなぶっといのはお尻に入らないよぉおーーーーー!!
RRS(リリムリアリティショック)を発症したため、話が通じず。
マーチヘアの集団が介抱のために別室に連れて行った。
証言4・5・6・7………
メイちゃんは今の方が楽しそう。
(以下同文)
◆
「……………………」
「このままでいいんじゃないかな?」
ブレイブの言葉に私たちの全員が頷きます。
「そうですね。メイちゃんさんは、ちゃんと皆さんに慕われているようですし、領主という立場に拘らなくてもいいと思いますね」
白衣がシミジミとして言いました。
(コクコク)アンの頷き。
「そうですね。私は以前はメイちゃんの屋敷で、お世話になっただけであまり街の人とは話していなかったのですが……。まぁ、今のままで問題はなさそうですね」
私たちは共通の見解として、メイちゃんを領主に戻さない方がいいとしました。
「ですが、それはそれとして、エレンさんは、なぜ要職の方々の名前を奪ったりしたのでしょう?」
白衣の疑問も最もです。それは、わからないことです。
エレンは、なぜそんなことを……。そんなことをしなくとも、誰も反乱も起こさないと思います。
それに、街を出歩く時は子供の姿にならなくてはいけないということですが、実は家の中では自由ということでした。
それなら観光客が増えて街が潤い、いつも楽しい日々。
誰も反乱を起こしようがありません。
そして、街を見回るのは、キョニュー特選隊。武闘派バフォメットのメイちゃんです。この街には彼女の敷いた魔術網があります。
犯罪も犯罪になる前に、防がれます。
それならば、何故……。それは私にもわかりません。ですのでーーー。
「ケルンさんと、駄馬の連絡待ちってところかな」
ブレイブの言葉に私たち全員が驚愕(ビックリ)します。
今、ナント仰いました? ブレイブ=サン。
「どうかしたの?」
ブレイブはなんでも無いことのような顔をしています。ナチュラルにビクトリアのことを駄馬と言ったようです。
ぉおう。アンビリーバボー。何と羨ましい。私はビクトリアに思わず嫉妬してしまいます。
でも、ブレイブの言う通りです。駄馬ってことだけじゃ無いですよ。
ケルンと駄馬は、魔女エレンの屋敷に潜り込んだのです。それが、彼女たちのお使いです。
顔の割れていない彼女たちは、エレンの目的の方を探るために潜入しているのです。
メイちゃんを領主に返り咲かせることを断念? した私たちはもうすることがありません。
彼女たちの連絡待ちです。
だーかーらー。
「では、ブレイブ、デートしましょう。デート、デート。今度は別の劇を見に行きましょう」
他の劇場では、レッドキャップ主演の『お前の帽子は何色だぁ!?』がやっていたはずです。
確か彼氏もいないのに、帽子が白いままのレッドキャップの周りで巻き起こる連続逆レイプ事件の劇です。もうこの時点で、オチは見えていそうですが……。
私はブレイブの手を引きます。ルンルンとスキップを踏もうとする私を白衣の声が止めます。
「そのデート、もちろん私たちもご一緒してよろしいですよね?」
「………………、ええ」
「なんでしょうか、その沈黙は……」
何だか、白衣の視線が冷たい気がします。デートでブレイブを独り占めしたいというのは、普通のことではないのでしょうか?
「……………。ヴィヴィアンさん、何だかこの前からおかしくありませんか?」
「ヴィヴィアンがおかしいのはいつもじゃないの?」
ブレイブが辛辣な言葉を吐きます。それ……、もっとぉ♡
「そうですが、そうではなくてですね……」
白衣が言葉を濁しています。そして、彼女は意を決したように口を開きます。
「やはり、おかしいですよ。ルチアさんを倒したあたりから……」
「……………」
その名前を聞いて、私は黙ってしまいます。
「それまでは、ブレイブさんのハーレムを作ると言って、奔走していたというのに、最近は、むしろ逆。ブレイブさんが、別の女性と仲良くしていると、嫉妬しているようじゃないですか」
「……そう、なの? ヴィヴィアン」
ブレイブが私の瞳を覗き込んできます。そこには咎めるような様子はなく、ただの疑問符だけがありました。
しかし、私は答えられません。………これが、この気持ちが嫉妬だったのでしょうか?
そう、ですね……。確かに私はしていました、ね。
そんなもの、私は持たないと思っていたのですが……。だからこそ、ブレイブにハーレムを作ってもらうことを、私の計画に組み込んだのです。
「ヴィヴィアンさん」
黙って考え込んだ私に、白衣が声をかけます。私は白衣の顔を見ます。
彼女の表情からは、彼女がどんな気持ちを抱いているのかわかりませんでした。
「別に、あなたがどう思おうが勝手ですが、私たちもブレイブさんのことが好きなのです。嫉妬したり、出しぬこうとするのは、まだいいです。が、独り占めしようとするのはやめてください」
白衣の言うことも、もっともです。でもーーー。
「……………。やだ。ブレイブにはもっと私だけを見ていてもらいたい」
私は私の気持ちに気がついてしまいました。
そんなーー、巻き込んだのは私なのに。ブレイブに彼女たちを当てがったのは私なのに。
私はそんな思いを抱くようになってしまっていました。バイコーンがいても、私はそう思ってしまいました………。
「ヴィヴィアンさん。それは勝手すぎますね」
白衣が今までに聞いたことのない声を出しました。私は彼女の顔を見ることができません。
「だって、だって、仕方がないじゃない。そう……、思ってしまったのだから………」
「思うのは勝手です。でも、独り占めはしないでください。私がこう言うのは、このまま放っておくと、いずれヴィヴィアンさんがブレイブさんを連れて、何処かへ行ってしまうのではないかと思ったからです。そんなの私がしたいくらいなのに………」
「ぅえっ!?」
白衣の最後の呟きに、ブレイブが変な声を上げました。
しかし、そうか、そうですね………。その手があったかーーー。
「ダメですよォ。私はすでにブレイブさんには色々と仕込ませていただいていますから。もちろんヴィヴィアンさんにも♡ だから、何処に逃げたって無駄です。それを伝えておきたくて……♡」
ぞ、ぞわぁっ。白衣が白蛇も真っ青なメンヘラ顔(フェイス)を浮かべました。
思わず背筋が寒くなってしまいます。私たちの反応を見て、白衣が表情を和やかな笑みに戻します。
「さて、どれが本当で、どれが冗談だったでしょうか?」
それから、ニマァっと布の顔が歪みます。
………………………。コイツを初期パーティに組み込んだのは間違いだった、と私は今更ながらに後悔しました。
沈黙してしまう私たちの中で、アンちゃんが動いてブレイブを包み込みます。
「アンちゃん、急に何?」
ブレイブが驚いた声を上げて、アンちゃんに動かされた手で白衣の体を掴みます。
そして、マフラーのように自分の首み巻きつけ、私の手を取ります。
アンちゃんは私の手に、文字を書きます。
”皆、一緒がいい”
私はそれを見て………。
咄嗟に手を離して走り出してしまいました。
走り出さずにはいられませんでした。
ブレイブと白衣が何かを言っている気がしますが、止まることはできません。
私は、そのままーーー。
転移門(ゲート)を開いて、自分のお城の部屋に駆け込みました。
私はみんなに合わせる顔がありません。ここならすぐに駆けつけてくることなど出来ません。
私は、ベッドに飛び込んで、枕に顔を押し当てて、声を殺して、泣いてしまったのでした………。
16/12/18 22:13更新 / ルピナス
戻る
次へ