【盆踊り】
祭りもこれで最後、盆踊りが始まった。
屋台の電気は落とされて、すべての電灯は提灯お化けの灯りに変わる。
穏やかな炎がそこかしこでチロチロと揺らいでいる。ひたすらお菓子を口に運んでいる提灯お化けがいるが、彼女は燃費が悪いのだろうか。
舞台の上では雷獣の雷鼓が夫ともに太鼓を叩き始める。リズミカルに力強く、彼女の一振りに稲妻が飛ぶ。
ドンドンパチパチ、ドンカッカ。
ガンダルヴァがべベンと三味線鳴らせば、白蛇がピーヒャラ笛で皆を誘う。
シャララとアプサラスが舞えば、狐火が釣られて宙を舞う。ユラユラ踊る彼女たちに誘われて、人が狐憑きになるのはご愛嬌。
音頭をとるのは稲荷のねえさん。
凛、とした声が耳を打つ。
”今宵は祭り、サァさ、皆みな手を取り寄っといで”
相手のいる者たちははお互いの相手と手を取り合い、独り身は空いているもの同士で対になる。
それが人と魔物娘同士であったのなら新しいカップルの誕生に相違ない。
”踊れヤ歌え、生者も死者も隔てなく”
手を取って踊る人々の輪にはゴーストもウィル・オ・ウィスプも混じっている。
黄泉路から戻ってきた彼女たちが再び根の国に戻ることはないだろう。
食べられてしまったお化けたち(男)はもうすでにあちら側だ。
”この世は踊って歌って過ごせリャそれでエェ”
「儲けは出ぇひんかったが、この祭りではこれでもええか」、静かに笑って手拍子を打つ刑部狸のつづみ。
つづみと踊りたそうにしているものの、袖にされ続けている妖狐のレナが寂しそう。
烏天狗の葉香とその夫はそれを周りでハラハラしながら見ている。
”細かいことは気にセンで、笑ったもンの全部取り”
救われた金魚たちもみな笑う。中でも、苦笑いをしているものたちは嫁に小突かれていた。
ガラの悪い男は嫁に文字通り、尻に敷かれてウットリとしている。
福男も、ついでにゲットされてしまった見物の男たちも自分のヨメに夢中だ。
”相手がおってもおらンでも、ガハハと笑ってみなしャんセ”
魔女とアルプが手を取り合いつつ、魔女はやけくそで笑う。それを後ろから熱っぽい目で見つめる力くらべで負けた娘たち。
馬鹿コンビは何かをやったらしく、お互いの彼女にハタかれている。
白澤にチロリと視線を送られて、震えるダークエルフの絵面は珍しい。
”人も魔物もミナ同じ、違うは外見(そとみ)の形だけ”
夫の手を握るのは様々な形をした嫁の手。
中には触れるだけで相手を傷つけてしまいそうな爪を持つ者、手と呼ぶには形が違いすぎる者もいるが、相手を傷つけることも握り損ねることもなくしっかりと手と手をつないで絡ませあっている。
踊りの下手な彼氏の体を髪や糸で操っているのは、毛娼妓や女郎蜘蛛だ。
”外面剥いたら変わリャせぬ”
男女ともにお面をつけたカップルがいる。お面の下の表情は見えずとも、お互いにははっきりとわかるのだろう。
グラキエスは腹をくくって、お面の下の冷淡な美貌を晒しているが、男の方が彼女の笑顔にドギマギしている。
ゴーレムが自分の顔が外れないかプニプニと自分の頬を弄ぶ。
”閨のウチではみな獣”
リャナンシーが冷ややかな目で見つめる中、三等兵が無表情で愛玩動物たちを撫でくり回している。
くっ、悔しそうな、嬉しそうな顔をしているのはヘルハウンドだ。
デビルバグちゃんのバンプアップに歓声が上がる。
”今宵は祭り、皆みな手を取り踊リャンせ”
もともとのカップルも新しいカップルも、誰もが永くともに過ごしたきたように仲睦まじい様子だ。
ドンチャンドンチャン。その様子を肴にして酒を煽る酒屑・酒乱の6匹。
お互いの顔を真っ赤にしながら、手を離さないナイトメアのカップルは初々しい。
”宴もタケナワ円成して、縁も結んだ夏一間(なつひとま)”
稲荷のねえさんの声が人と魔物娘で作られた円を駆け回り、音頭は続いていく。
祭りの熱気が夜気に揺らめいて、稲荷のねえさんは声を一際張り上げる。
”ヨォいヨイ。もうイッチョォ”
祭囃子はさざ波のように広がって、龍神山を囃し立てる。
ピーヒャラピーヒャラ。ドンドンドン。
クゥーアンクゥーアン、コンコンコン。
夏の一幕、人も魔も一様に手を取り合って、一様に円を作って踊る。
老若男女、種族の境も何もない。そこには似たような顔で笑い合う同じ生き物たちがいたーーー。
◆
……はてさて、夏は地獄の釜が開く季節と申します。
此岸と彼岸の境界が……アヤフヤになると申しますか……。
其処此処にいらっしゃるのは……本当に人でございましょうか……。
昔……、村々で開かれた盆踊りには……面をつけて出かけたそうで……ございます。
……お互いの素性を尋ねるのはモチロン……ご法度。
ナゼナラ……、人ではないモノや死者が混じっているからだそうで、………ゴザイマス。
ソレ……以外にも、顔を見ずに……一夜の炎に、身をまかせるためであったトモ。
踊りのアトの草むらでは、ソノ、……、…ナニ、……が行われていた。……ヒッヒヒ。
トモカク、わたしゃが言いたいのは………盆踊り…とは、誰も彼もが……、イロンナ意味で……交わる場だった………というコッタです。
………昼でも……夜でも、夏の陽炎が…揺らめいたその先に見えた…のは、果たして………ナンだったのでございましょうネ………。
屋台の電気は落とされて、すべての電灯は提灯お化けの灯りに変わる。
穏やかな炎がそこかしこでチロチロと揺らいでいる。ひたすらお菓子を口に運んでいる提灯お化けがいるが、彼女は燃費が悪いのだろうか。
舞台の上では雷獣の雷鼓が夫ともに太鼓を叩き始める。リズミカルに力強く、彼女の一振りに稲妻が飛ぶ。
ドンドンパチパチ、ドンカッカ。
ガンダルヴァがべベンと三味線鳴らせば、白蛇がピーヒャラ笛で皆を誘う。
シャララとアプサラスが舞えば、狐火が釣られて宙を舞う。ユラユラ踊る彼女たちに誘われて、人が狐憑きになるのはご愛嬌。
音頭をとるのは稲荷のねえさん。
凛、とした声が耳を打つ。
”今宵は祭り、サァさ、皆みな手を取り寄っといで”
相手のいる者たちははお互いの相手と手を取り合い、独り身は空いているもの同士で対になる。
それが人と魔物娘同士であったのなら新しいカップルの誕生に相違ない。
”踊れヤ歌え、生者も死者も隔てなく”
手を取って踊る人々の輪にはゴーストもウィル・オ・ウィスプも混じっている。
黄泉路から戻ってきた彼女たちが再び根の国に戻ることはないだろう。
食べられてしまったお化けたち(男)はもうすでにあちら側だ。
”この世は踊って歌って過ごせリャそれでエェ”
「儲けは出ぇひんかったが、この祭りではこれでもええか」、静かに笑って手拍子を打つ刑部狸のつづみ。
つづみと踊りたそうにしているものの、袖にされ続けている妖狐のレナが寂しそう。
烏天狗の葉香とその夫はそれを周りでハラハラしながら見ている。
”細かいことは気にセンで、笑ったもンの全部取り”
救われた金魚たちもみな笑う。中でも、苦笑いをしているものたちは嫁に小突かれていた。
ガラの悪い男は嫁に文字通り、尻に敷かれてウットリとしている。
福男も、ついでにゲットされてしまった見物の男たちも自分のヨメに夢中だ。
”相手がおってもおらンでも、ガハハと笑ってみなしャんセ”
魔女とアルプが手を取り合いつつ、魔女はやけくそで笑う。それを後ろから熱っぽい目で見つめる力くらべで負けた娘たち。
馬鹿コンビは何かをやったらしく、お互いの彼女にハタかれている。
白澤にチロリと視線を送られて、震えるダークエルフの絵面は珍しい。
”人も魔物もミナ同じ、違うは外見(そとみ)の形だけ”
夫の手を握るのは様々な形をした嫁の手。
中には触れるだけで相手を傷つけてしまいそうな爪を持つ者、手と呼ぶには形が違いすぎる者もいるが、相手を傷つけることも握り損ねることもなくしっかりと手と手をつないで絡ませあっている。
踊りの下手な彼氏の体を髪や糸で操っているのは、毛娼妓や女郎蜘蛛だ。
”外面剥いたら変わリャせぬ”
男女ともにお面をつけたカップルがいる。お面の下の表情は見えずとも、お互いにははっきりとわかるのだろう。
グラキエスは腹をくくって、お面の下の冷淡な美貌を晒しているが、男の方が彼女の笑顔にドギマギしている。
ゴーレムが自分の顔が外れないかプニプニと自分の頬を弄ぶ。
”閨のウチではみな獣”
リャナンシーが冷ややかな目で見つめる中、三等兵が無表情で愛玩動物たちを撫でくり回している。
くっ、悔しそうな、嬉しそうな顔をしているのはヘルハウンドだ。
デビルバグちゃんのバンプアップに歓声が上がる。
”今宵は祭り、皆みな手を取り踊リャンせ”
もともとのカップルも新しいカップルも、誰もが永くともに過ごしたきたように仲睦まじい様子だ。
ドンチャンドンチャン。その様子を肴にして酒を煽る酒屑・酒乱の6匹。
お互いの顔を真っ赤にしながら、手を離さないナイトメアのカップルは初々しい。
”宴もタケナワ円成して、縁も結んだ夏一間(なつひとま)”
稲荷のねえさんの声が人と魔物娘で作られた円を駆け回り、音頭は続いていく。
祭りの熱気が夜気に揺らめいて、稲荷のねえさんは声を一際張り上げる。
”ヨォいヨイ。もうイッチョォ”
祭囃子はさざ波のように広がって、龍神山を囃し立てる。
ピーヒャラピーヒャラ。ドンドンドン。
クゥーアンクゥーアン、コンコンコン。
夏の一幕、人も魔も一様に手を取り合って、一様に円を作って踊る。
老若男女、種族の境も何もない。そこには似たような顔で笑い合う同じ生き物たちがいたーーー。
◆
……はてさて、夏は地獄の釜が開く季節と申します。
此岸と彼岸の境界が……アヤフヤになると申しますか……。
其処此処にいらっしゃるのは……本当に人でございましょうか……。
昔……、村々で開かれた盆踊りには……面をつけて出かけたそうで……ございます。
……お互いの素性を尋ねるのはモチロン……ご法度。
ナゼナラ……、人ではないモノや死者が混じっているからだそうで、………ゴザイマス。
ソレ……以外にも、顔を見ずに……一夜の炎に、身をまかせるためであったトモ。
踊りのアトの草むらでは、ソノ、……、…ナニ、……が行われていた。……ヒッヒヒ。
トモカク、わたしゃが言いたいのは………盆踊り…とは、誰も彼もが……、イロンナ意味で……交わる場だった………というコッタです。
………昼でも……夜でも、夏の陽炎が…揺らめいたその先に見えた…のは、果たして………ナンだったのでございましょうネ………。
16/08/13 09:01更新 / ルピナス
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