連載小説
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18.Re: Birth
壮絶な最期を遂げたルチアの残骸が青空の下で座り込んでいた。

呆然とするブレイブたちの目の前でルチアの亡骸が淡く光り出す。
何事だと警戒するが、まだ彼らは動くことができない。

ブレイブたちが見つめる中、ルチアの体は光の粒子に変わって立ち上っていく。
引きちぎられた翼も、散らばった髪も、こぼれ落ちた血の雫も、皮も肉も骨も。
全てが淡く光りながら、空へと立ち上る。
それらは中空まで浮かび上がると止まって輝きを増した。

そして、命が生まれ出した。


光の一粒一粒が大きくなり人型を形成していく。
それはどんどんどんどん増えていって、天を埋め尽くすくらいに広がっていく。

誕生したのはエンジェル、フーリー。下級に位置する彼女たちだけではなくキューピッドやヴァルキリーもいる。さらにはデビルやデーモンまで。
ルチアの体だったものから様々な魔物娘たちが生まれた。
数万に及ぶ魔物娘たち。天使型と悪魔型の魔物娘たちがひしめき合う。


そして、すべての者たちが生まれ終わると、空いっぱいに広がる彼女達から一斉に歓声が上がった。
天地を震わせる喜びの大音声。
それぞれが思い思いにブレイブを讃え感謝の言葉を告げる。
ありがとう、ありがとう、ありがとう。
よくやってくれた。君こそ勇者だ。
いくつも投げかけられる思いと声にブレイブはなんだかこそばゆく、目にはじんわりと涙が浮かんでいた。


天から降り注ぐ暖かい光でヴェルメリオも目を開く。
彼女の傷は降り注がれた魔力で綺麗に塞がっていた。
目にした光景に驚きつつも彼女の口からは朗らかな笑い声がついて出た。


目元の涙を拭いながらその光景を誇らし気に見上げていたヴィヴィアンの耳に声が届く。

「おーい、ヴィヴィアン」
「ヴィーちゃーん」
「ヴィ〜っち」
彼女にかけられる幾つもの声。それは懐かしさを含む、どこかで聞いた声だった。

「えっ、あなたたちはまさか」
「そう。そのまさか。坊やと一緒にあの女をブッ飛ばしたと思ったらさ、この体になってたんだよ。俺が女になっちまうなんてなぁ」
カラカラと笑うヴァルキリー。
「私は元から女だけど、こんなちっちゃくなっちゃったー」
胸をさすりつつ嘆くデビル。
「ウチは満足や!」
胸を張って腰をくねらせるデーモン。
「本当は逆だったのにー」
デーモンをポカポカ叩くデビル。

「こんなこと、信じられない」
今までルチアに殺されたはずのヴィヴィアンのかつての仲間たち。
性別は魔物娘になったことでみんな女性になり体格も変わってしまったようだが、全員がヴィヴィアンの元に帰ってきて再び会うことができた。

拭ったはずの涙が溢れ出す。
「みんな、お帰りっ」
顔がぐしゃぐしゃになるのも構わずにヴィヴィアンは彼女たちと笑いあうのだった。





「あれ、どおして私生きてるの?」
天界にある厳かな聖堂で彼女は目を覚ました。
私は確かに自分で自分の心臓を抉りだしたはず。それなのに心臓は胸の内で確かな鼓動を刻んでいる。
そこでルチアはふと違和感を感じた。
今まであったものがない。平たくなってしまった胸をポンポンと撫でる。
自分の手のひらを前に持ってきて、ちっちゃなお手手をグーパーする。

「なんっ、じゃこりゃあああああーーー!」
ルチアの悲鳴が聖堂に響き渡る。
「え、何々どういうこと!?、なんで私ちっちゃくなってるの?。これじゃ、あのガキよりも小さいじゃない」
幼女の声でまくし立てる。
「フザっ、けるなぁ!」
思わず自分が座っている石の台座を殴りつける。

ベキッ。
「いったぁぁ」
いつものようには石の台座は砕けずに、自分の拳の方から嫌な音がした。
真っ赤になってヒリヒリする拳に、ふーふーっと涙目になりながら息を吹きかける。
「石って叩いたら痛いものだったのね」
当たり前のことに今更気がつく。
今までの絶大な力も失って幼女の姿になってしまった自分が情けない。

「これからどうしたらいいのかしら」
ルチアの心に不安という長らく感じてこなかった感情が芽生える。
それと同時にじわっ、とこみ上げてくるものが。
「え、うそうそ。私泣いちゃうの。まさか精神まで体に引きずられているというの。ダメダメ。そんなヴィヴィアンみたいな」
自分が散々いたぶってきたリリムの顔が浮かぶ。浮かんで、浮かんで全身を思い出すと、惨めさが増してくる。

「ひぐっ、びぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜ん。うわぁ〜〜〜ん」
とうとう涙腺が決壊して泣いてしまう。
「ごべんなざ〜い。ゆるじで〜。びぇぇぇぇ〜〜〜ん」
顔を涙と鼻水と涎でぐしゃぐしゃにしながらルチアは泣き叫ぶ。
「わだじ、どうじだらいいの〜〜〜。うえええええ〜〜〜ん」
しばらくはその聖堂から、ピーピー泣く幼女の声が止むことはなかった。





「あっ、ケルンさん」
お姉さん、お姉さま、少女、童女、幼女。あらゆる年代の美女、美少女にもみくちゃにされていたブレイブが私と一緒に歩いてくるケルンの姿を見つけました。
肉の壁からなんとか出てきます。

「別にこの子達全員でブレイブハーレムを作っても構わないけど、ブレイブにはまだまだ旅を続けてやってもらうことがあるんですからね」
「ええっ、そんなの作っちゃったら体がもたないよ」
ブレイブは驚いた声を上げますが、嫌とは言わないあたり流石です、いい傾向です。末恐ろしくさえあります。

「ケルンさん、体の方は大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう。心配かけたね」
ケルンがはにかみながらブレイブに答えます。おやおやぁ。
「私に降りてたあの神様だけど、ブレイブの黒い魔力の光が飛んで行った時にその影響を受けたみたいでさ。それからは大人しくしてたし、私の意識も戻ってたんだ」
そうですね。私が送り返す時にもすんなりとケルンから離れてくれました。
あの様子だと、天界に帰ったら速攻で堕落神として下界に戻ってきてくれるかもしれません。とっても楽しみです。


ヴェルメリオも女の子たちに囲まれています。
「私たちのことを覚えておられるでしょうか。ヴェルお姉さま」
「あなたたちは。もしかして以前私と戦ったことがある」
ヴェルメリオの答えに、きゃー、という黄色い歓声が上がります。
「「ありがとうございます」」
女の子たちが一斉に感激して頭を下げる。

あれは。
伝承に名高いヴェルメリオ親衛隊。
かつて魔王が代替わりしたばかりでヴェルメリオが人型で挑戦を受けていた頃、ヴェルメリオに挑んだものの返り討ちにされその勇姿に惚れ込んでしまった女戦士たちの集団。
なんでも彼女たちがヴェルメリオに挑戦しようとする男性たちを先に倒していたためにヴェルメリオへの挑戦者は女性ばっかりになったのだとか。
私がルチアに対抗するためにルチアに殺された魂を集めていたのですが、ヴェルメリオが狙われているということを知って、ルチア本人とは関わりがなかったのにキューブに吸い込まれてくれいたのでした。

でも、ということは、やはり私のかつての仲間たちが帰ってきてくれたことといい、やっぱりキューブに入っていた魂がルチアの力のカケラと合わさることによって新しい肉体を得て復活できたのでしょう。もっとも人間に戻ることはできずに魔物娘としてですが。
キューブには入っていた魂の中には魔物娘もいたはずなのですが、ルチアのカケラを元として復活したためにみんな天使型か悪魔型になっています。
もちろん森の王冠を守っていたエルフの男性たちも。

「ちょっと。あなた。私よりも美人になってない?」
「そんなことを言われたところで、どうしようもないだろう。生きて戻って、再びお前に会えただけでも贅沢というものだ」
「そうね。でも、あなたの雄々しいモノを再び突き入れてもらえないことは残念かな」
「おい。おまえ、エルフだった頃はそんなこと言ったことなかっただろう?」
「ええ、でも、今は本物の魔物娘になって、ここが疼いて疼いて。あ、女同士でもできなくはないわね。あなたの胸やお尻も触ってみたいし」
「お前、本当に何を言っているんだ。その手は何だ。おい。やめろ、止めてくれ。ぎゃああああああ」
幸せそうで何よりです。

街はひどいことになっていますが、これだけの人数です。
人手はいくらでもあるので復興までそうかからないことでしょう。何なら私のお城の人たちを呼んだってかまいません。


「ヴェルさまー。あの子ってヴェルさまのいい人なんですか?」
「は?。何を言っているのですか、あなたは」
「うん。それ私も気になってたー。ちっちゃいけどカッコよかったよねーあの子」
「ブレイブきゅん。ハァハァ」(注意:カーラではありません)
「いやいや。そんなわけはありません」
「そんなことありますよ。だって、あの子が頑張ってるのを見てた時のヴェル様の顔って、恋する乙女の顔でしたよ〜」
「「「「ねー(ハァハァ:注意:やっぱりカーラではありません)」」」」
自分を囲んでキャイキャイと騒ぐ女の子たちにヴェルリオが珍しく赤くなって焦っています。
よし。もっとやれ。

「じゃあじゃあ。ヴェルさまが違うって言うんだったら、私がもらっちゃおうかな」
「ダメだっ!」
その言葉にヴェルメリオが思わず声を荒げます。
ふっふ〜ん。へ〜え。これはそろそろじゃないですか〜。

「あ、う」
ヴェルメリオの顔が真っ赤になっています。
「やっぱりー」
「照れるヴェル。萌え」(ええ、カーラじゃありませんでした)
「素直になっちゃいなよ、YOU!」
「う、おおおっ」
ヴェルメリオは私を跳ね飛ばして羽ばたいて空に逃げ出します。
「ちょっと私は最後しか茶化してないのにひどいじゃない!」
ひどい奴です。ひどいドラゴンの後を彼女たちが追いかけていきます。
彼女たちが人間だった頃は空を飛べば逃げだせたのでしょうが、今の彼女たちは魔物娘。ドラゴンの後をヴァルキリーやデーモン、キューピッドたちが翼を羽ばたかせて追いかけます。

「来ないでくださいっ」
「「「「「嫌ですっ!」」」」」」
「我らヴェルメリオ親衛隊」
「ヴェル様をお守りするため」
「どこにだってついていきます」
「この体ならそれが出来る!」
「もちろんトイレだって、布団の中だって。ハァハァ」
「「「「それはいけない」」」」

「ぎゃあああああああああ」
ドラゴンの悲鳴が空に響くのでした。


「行っちゃった。でも、あの酒好きなら宴会までには戻ってくるでしょう」
そういえば大事な人を忘れています。さっき似た言動の人がいましたが、彼女ではありませんでした。
「ブレイブ。そう言えば、あの剣ってカーラなのよね」
今はブレスレットになってブレイブの右手首に巻かれている”それ”を私は指差します。
「うん、カーラお姉ちゃん」
ブレイブが自慢げにブレスレットを私に見せます。
そんな風にカーラを自分のものとして自慢げに見せるなんて。私にもしてください。お願いします。

「ずっと寝てるみたいなんだけど。そろそろ起きてくれるかな。カーラお姉ちゃん」
ブレイブがブレスレットをつんつんとつつきます。
ブレスレットはそれに合わせて気持ちよさそうに震えています。
ん、なんか震え方がおかしくないでしょうか。ピクンピクンと気持ちよさそうに。
「って、カーラ。ブレイブに変なところを触らせてない?」
「私が起こしましょう」
白衣がカーラに何かをしたようです。
ブレスレットが一際大きく震えると、形を変えて人型になりました。
質量とか気にしてはいけません。

カーラは人型に戻りました。
戻りましたが。
「「ちっちゃくなってる!?」」
カーラが少女になっていました。
「おお、本当だ。これではブレイブきゅんと同じくらいではないか」
ははは。嬉しそうにカーラがブレイブと自分の背を比べています。
こうして見ると、とてもお似合いに。
いえ、それだけは認めません。
兄妹に見えなくも、うーんうーん、私の中で譲れない何かがうごめいています。

呻く私をよそにブレイブはふらふらとカーラに近づくと、ぎゅっとカーラを抱きしめました。
私と白衣に衝撃が走ります。
「なっ、何してるの、ブレイブ!?」
「ブレイブさん、そういう趣味だったのですか!?。いえ、むしろ今の状態の方が正しいのでしょうか。かくなる上は私も」
「待ちなさい。何か恐ろしいことをしようとしてない?」
「いえいえ、私の繊維をほどいてブレイブさんにちょうどいい大きさに編みなおせば、あら不思議。ちっちゃい姿の私が二人」
「ダメ、絶対。あなたが二人だなんて耐えられない。というかそんなことできるの?」
「さぁ?。やったことはありませんが出来るのではないでしょうか。ブレイブさんのためならやって出来ないことはありません」
「やめてー!」

衝撃を受ける私たちの横でロリカーラは上機嫌です。
「ふはははは。いいぞ、小さくなってもこの体はお前のものだ。好きに愛でるといい。さあ、頭を撫でるのだ」
ブレイブに抱きしめられたままカーラがブレイブに頭を差し出します。
ブレイブはその頭を、撫でています。ああ、頬ずりまで。そんなぁ。

「いつになく情熱的ではないか。ならばこのままベッドへ直行しようではないかぁ!」
少女の口からそんな言葉が出てきます。小さくなってもカーラはカーラです。
ロリ、ショタでお似合いとか誰にも言わせませーん!

「違うよ。これはアンちゃんが」
「「アンちゃん?」」
私と白衣はピタリと動きを止めます。
「アンちゃん、って実は可愛いもの好き?」
ブレイブの言葉にブレイブが頷きます。そして、またぎゅーっとカーラを抱きしめます。
「ふはははは。心地いいぞ、心地いいぞぉう!。もっとだもっと、ぎゅっと抱きしめるのだ!」
カーラがご機嫌です。
「しかも、今ブレイブが私のことを可愛いと言ったな。確かにこの姿は可愛すぎるだろう。私は罪な女だなぁ」

ふはははは。笑い続けるカーラ。
どうしよう。この少女、すっごく殴りたい。
でも、殴ってしまったらまるで少女の若さに嫉妬する、おば、それ以上はいけません!

「この姿ではもうカーラお姉ちゃんではふさわしくないな。よしっ。名残惜しいがこれからはカーラお姉ちゃんではなく、カーラちゃんと呼ぶがいい」
ふははははー。
ぐぅっ。拳が、拳を握る力が強くなってしまいます。

「カーラ、ちゃん?」
ブレイブも素直に呼ばないでください。
「なぁに?。ブレイブくん」
カーラも見た目相応の声でブレイブに応えます。この女、この女、この女ぁぁ。
そんな風に小首を傾げて目をクリクリとさせて。認めたくはありませんが、確かに可愛いじゃありませんか。
え、何ですかブレイブもその顔は。惚けたような。

カーラはそのままブレイブに口づけをします。
「だーい好き、ブレイブくん」
「あ、う、ああ」
ブレイブの顔がみるみるうちに真っ赤になっていきます。
ブレイブの手が緩むとカーラはその腕から抜け出します。名残惜しそうに追いかけるブレイブの手を小悪魔のような微笑みを浮かべて見ています。
そして、いつものカーラの笑みに戻ると、手を握り締めながら天に高く掲げて宣言します。

「これぞ、完っ、全、勝利!」
ふはっ、ふはははは。
カーラの笑い声が天地に響きます。
完全に調子に乗っています。乗りすぎです。お前なんてユニコーンに蹴られてしまえ!


この日、ロリカーラが爆誕したのでした。
16/06/16 10:28更新 / ルピナス
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■作者メッセージ
次はエロかな。誰が、とは言いませんが。


お恥ずかしい話ですが、ガイドラインを確認したところ、自分の掲載の仕方には問題がありました。今後は気をつけさせていただきます。申し訳ありませんでした。
そのため、今日の掲載はこの2話を同時に掲載してストップにしますm(_ _)m

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