三、
「あらぁ、足りひんのとちゃうん?」
と言われたのは、お稲がやって来て数日経った夜のことだった。
彼女はうまく人間の美女に化けているが、その正体は狐の神さまだった。
それは彼女に云われた条件を果たそうとして、“竹筒”を持っいった厠から戻る途中だった。彼女は陽炎のように立っていた。
「そう……なんでしょうか?」
「ああ、足りひんなぁ。お兄はん、まだまだ搾れるやろ」
「そ、それは……」
俺は口ごもった。確かにまだ出来たが、お妙が床に臥せっていると云うのに、こんなことをやっていていいのかと云う罪悪感があった。
「気持ち良くはあらへんの?」
「気持ち良いです」
それも罪悪感を募らせる理由の一つ。
「それに、ウチとの約束、忘れてへんよな」
「はい、それはもちろん……でも……」
「でもやあらへんわぁ、ちゃあんと、精をくれへんと、お妙はんもよくならへんで。これは、お妙はんのためでもあるんや」
そう云われては弱かった。だから、うんと頷くしかなかった。
妹のお妙を治せると云ってウチにやって来たお稲だったが、彼女の看病で、お妙は徐々に快方に向かっていた。
その交換条件として出されていたのが、精を彼女に提供するという云うものだ。俺は彼女に云われた通りに、渡された竹筒に自分の摩羅を抜き差しして、そこに精を吐き出していた。竹筒にはちょうど俺の摩羅にぴったりな穴が開いていて、そこに摩羅をつきいれると、まるでそこにこんにゃくでも入っているかのような、心地良い感触がした。
その竹筒は不思議なことに、中に出した精はどこかに消えていってしまうようだった。
彼女は食事に精のつくものを用意してくれているようで、俺が吐き出す精の量も回数も、徐々に増えていた。それも俺に、竹筒に精を吐き出すことをためらわせる理由の一つだった。
彼女は俺を夫にしたいのだという。
もしかして、俺はあの竹筒に精を吐き出すたびに、何か人ではない何かに変えられていっているのではないか、と恐れていた。妹のために自分が犠牲になることは良かったが、日に日に元気になっていく彼女を見て、未練と云うものが湧いてくるのだった。
「諦めたはずなんだけどなぁ……」
俺は竹筒を持ちながら呟いていた。
いくら血がつながっていないとは云え、お妙は俺の妹だ。あいつも俺を兄と思っている。この関係を壊してしまうわけにはいかなかった。
俺はお妙が好きだった。
女として。
しかし、それは伝えたならば壊れてしまうものなのだとも思っていた。
このままお稲に云われるがままこの竹筒に精を注ぎ入れていたら、俺はいずれ取り返しがつかないことになる。そうしてお妙とは決して結ばれなくなってしまう。
元気になっていく彼女を見て、未練、欲望が湧いてきた。しかし、狐の神さまであるお稲の機嫌を損ねることも怖かったし、何よりお妙を治してくれているのはお稲だった。
悩ましくなった俺は、竹筒に精を吐き出すことがおざなりになっていた。
お稲はそれに気がついているようだった。
俺は――どうしたらいいのか。
悩ましい夜風は、答えてくれない。
◆
――とある晩のことだった。
お稲が俺を起こした。その手には竹筒を持っていた。
「お兄はん、なんや加減しとるん?」
そう切り出された。
窓からは青白い月影が差していた。
彼女は人間に化けたままではあったが、月明かりに濡れた黒髪は、まるで青白い燐光を放っているように思えた。その中で金色に輝く瞳が、闇に潜む肉食獣じみていた。
ゴクリと唾を飲み込む。
「約束、したやんねぇ」
コクリと頷く。
「もっと、出せるやんねぇ」
「…………」
「正直に云わはり」
コクリと頷く。
「どうしてせぇへんの?」
「…………」
黙ったままの俺に、彼女はクスリと微笑んだ。彼女からは、妖気と云えるほどに濃密で、妖しい色気が漂っていた。
「なんやためらうことでもあるん? ないんよねぇ。やったら、ウチが手伝うたるわ」
な、何を。
と云おうとしたが、それは言葉になってはくれなかった。俺の身体は固まっていた。俺は、恐怖の糸でがんじがらめにされた心持ちで、彼女を見ていた。
「そないな恐ろしいもん見る眼で見んといてぇ。約束守らへんお兄はんが悪いんやろ。蒲団から出て、立ちはり。そうや、お利口はん。そのまま着物の帯解いて。んふ、なんや、そっちまで立たせるようにはまだ云うてへんかったんに、期待しとったん?」
艶やかに笑う彼女は、剥き出しになって醜悪に屹立する俺の摩羅に、その肉食獣の視線を注いでいた。
彼女は手に持った竹筒に、俺の摩羅を差し入れる。
「ほな、いっぱい出しはり」
お稲の艶めかしい視線に曝されて、俺は彼女に竹筒で摩羅をしごかれていた。それは自分でする以上に気持ちが良く。精を出すことを我慢できそうになかった。止めてくれ、と云いたいが、彼女の神通力か妖術か、声を出すことは出来なかった。彼女の竹筒を使った手淫はモノスゴく、濡れた竹筒からは、本物の男女の営みのような、淫靡な水音が立っていた。
うぁっ、と云うことも許されず、俺はその中に精を吐き出す。
「んふ、ようけ出たなぁ」
妖艶な彼女の瞳に見つめられて、俺の摩羅は、精を吐き出したというのに萎えてはくれなかった。
「ほぅら、まだ出来るやんなぁ。まったく、ウチの手を使わせるなんて、贅沢なお人やわぁ。んふふ、この子も喜んどる」
再び俺の摩羅をしごきだした彼女は、トンでもないことを言い出す。
「摩羅が萎えるまでちゃあんとぴゅうぴゅうしよなぁ。お兄はんも頑張らんと、お妙はん起きてまうかも知れへんで」
そう言われて、この部屋にはお妙がいることを思い出した。
彼女の蒲団を見れば、その目はぴったり閉じられていてホッとするが、確かに彼女がいつ目を覚ますかわからなかった。
お妙にこの痴態を見られる。そう思ったら、
「あは、固くなったねぇ、ご立派ご立派」
もっと静かにお願いしたい。
そう云いたいが、赦してはもらえない。
そうしているうちに、再び摩羅から精が飛び出して、竹筒に吸い込まれていく。一度目と変わらない量で、竹筒も、俺の摩羅から精を吸い出しているような気がした。だと云うのに、俺の摩羅は萎えてはいなかった。
「……ぅ、うん」
という呻きに、俺は身体を竦ませ――たかったが、やはり金縛られたままで、摩羅を隠すことも、身をよじることも出来なかった。息を殺してお妙を見ていたが、彼女は寝返りを打っただけらしく、俺はホッとする。ホッとしたはずなのに、摩羅はむしろ固くなっていた。
「妹はんに見られるかも思て、興奮したんやねぇ。お兄はん、そういうお人をなんと云うか、知っとります?」悪戯っぽい瞳が上目づかいに覗き込んでくる。お稲の美しい顔の横に、俺の醜悪な摩羅があった。
「へ・ん・た・い。云うんやで。それとも、お妙はんのこと、お兄はんは、好きなんかねぇ。あ、ふふ、身体は正直やわぁ」
俺の摩羅は再び竹筒に納められ、再びしごかれ始める。精を吐き出すたびにより逞しくなっていっているようで、そのたびに竹筒の穴も、ピッタリの大きさに変わるのだった。
四度ほど吐き出して、ようやく萎えてくれた。
「今はまだこんなもんやねぇ」
金縛りから解放された俺は、ドタンと尻もちをついた。
それでもお妙は起きなかった。起きないようにされているのかもしれない、と思った。
満足そうなお稲は、俺の前にコトンと竹筒を置いた。
「一人で出来ひんのやったら、ウチが手伝うたる。いつでも云ってくれて構わんでぇ。お妙はんを治す代わり、この竹筒に精をくれる云うたんはお兄はんやないか。やから、ちゃあんと精を吐いておくれやす」
そう云って彼女は自分の布団に戻って行った。
◆
次の日、俺が家に帰ると、お稲さんはどこかに行っていていなかった。
「ただいま」
「お帰り」
見ればお妙が床から出ていた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。私もそろそろ蒲団から出て身体を慣らしていきなさいって、お稲が」
「そっか」
見違えるほどに顔色の良くなった彼女を見て、俺は今更ながらに安堵の情が湧いてきた。お稲が狐でも、お妙をここまで良くしてくれたのは彼女なのだ。俺は、やはり彼女に云われた通り、あの竹筒に精を吐き出さなくてはならない。
そう思って、竹筒を取り、
「ちょっと、厠に行ってくる」
「そこに精を出すの?」
――固まった。
「何でか知らないけれども、そうすることが、私を治すための交換条件だったんでしょ。お稲さんって、何者なの……」
答えられなかった。
「お妙、何でそんなことを聞いて……」
妹を振り向けば、彼女は頬を染めてこちらを見ていた。その上気した肌と、潤んだ瞳に、女を見つけてしまった。知らず、唾を飲んでいた。
「昨日の夜、見てしまったの……」
「何を……」
そんなこと、彼女のその顔を見れば、聞かなくてもわかった。
俺がお稲に竹筒で精を搾られている光景に違いない。あの時、お妙は俺の痴態を見ていたと云うのか……。
「お稲が、兄ちゃんの、その……摩羅から精を搾るのを」
俺はさらに身を固くした。
「兄ちゃん、あの人、何者なの……」
答えられなかった。
それに答えたら、お稲が何をしてくるかわからなかったからだ。今は俺の精を搾ってくるだけなのだが、あの金縛りと云い、彼女が本気になったら、俺もお妙も抗うことなんて出来ないに違いない。
「それは……云えない」
「そう」
食い下がってくるかと思ったが、お妙は素直に引き下がって……、
「でも、お願いがあるの」
「…………何だ」
「お稲に精を搾る手伝いなんてさせないで、精を搾る手伝いが必要なんだったら、私がやるから」
「お妙、お前、何を……」
「兄ちゃんの精を搾る手伝いくらいだったら、私でも出来る。私のためにしてくれてるんだったら、私がちゃんと手伝わないと……」
狼狽える俺に、お妙は今まで病人だったとは思えない力でしがみついて来た。
「う、わぁッ」
お妙に押し倒されて、竹筒を奪われた。彼女はそのまま俺の着物の裾をはだけて、
「わぁ、もう、大っきい……」
今までにないくらいに怒張していた俺の摩羅を、マジマジと見つめていた。昨日の痴態を見られていたと知ってから、俺の摩羅はすでに痛いくらいに勃起していた。
昨夜お稲に云われたように、俺は変態だったのかもしれない。
だと云うのに、お妙はそのまま竹筒を俺の摩羅にかぶせてきた。
「ぅう、ぐぅ……」
「あっ、ごめん、大丈夫……? 私、こんなの初めてだから……」
「大丈夫だ……」
そう答えるが、大丈夫じゃなかった。どうしてだか、昨夜お稲にシてもらった時よりも、たいそう気持ちが良かった。まるで、鍵穴がぴったりと合わさったような感触だった。
その感触に、俺はすぐに果ててしまうのではないかと思った。
「痛かったり変だったりしたら云って、兄ちゃん」
「お妙、待っ……」
俺が止めるのも聞かず、俺の股間の前で膝をつき、両手で竹筒を前後させた。その角度は、まるで彼女に口でシてもらっているようで、俺はすぐに果ててしまった。だと云うのに、俺の摩羅は萎えず、俺が果てたことに気がつかないお妙は、さらにしごき続けた。
竹筒の中がどうなっているのかは知らないが、今までにない動きを見せて、摩羅の敏感な部分を擦り上げ、俺の精を搾り取ろうと蠕動してきた。
そうだった。確かに今、竹筒の中は蠢いていた。
「うぐッ」
今度は俺が呻き声をあげて果てたからだろう。お妙は一度手を止めて、
「精が出たの?」
と、まるで昔セミを捕まえたと云って来た時と同じような瞳で見つめてきた。だが、そこにはあどけない子供の顔ではなく、男をイかせることが出来たという、雌の顔があった。
彼女は摩羅から竹筒を引き抜き、
「う……」
「きゃっ」
カリが引っかかった刺激に精が飛び出し、妹の顔を汚していた。
「すまん、大丈夫かお妙」
慌てる俺だったが、彼女は顔にかかった俺の精液を指で取ると、
「これが 兄ちゃんの精……」
恍惚(うっとり)とした顔で弄び、それをなんと口に含んでこそぎ取っていた。
「苦……。でも、嫌いじゃない味」
その信じられない、それでも心の奥底では望んでいた淫靡な光景に、俺の摩羅は再び固くなった。
「あ、さっきよりも大きい……。じゃあ、もっと搾らないと、あの女になんか、兄ちゃんの精を搾らせなんてしないんだから」
お妙は再び竹筒を摩羅にかぶせると、上下にしごき始めた。
その顔にまだ俺の精をくっつけて、俺の精を搾ろうとしてくるお妙の姿に、俺は、紛れもない女を見て、摩羅をさらに固くする。
彼女はその動きに夢中で、俺も与えられる快楽に夢中だった。
だから俺は、お妙に、まるで昨夜の月明かりのような、仄青い燐光がチラついていることに、気づきはしなかった。
だからもちろん、
「んふ、いーい具合に煮立っとるわぁ」
戸口の外で、お稲が妖艶な笑みを浮かべて立っていたことも、知るわけがないのであった。
と言われたのは、お稲がやって来て数日経った夜のことだった。
彼女はうまく人間の美女に化けているが、その正体は狐の神さまだった。
それは彼女に云われた条件を果たそうとして、“竹筒”を持っいった厠から戻る途中だった。彼女は陽炎のように立っていた。
「そう……なんでしょうか?」
「ああ、足りひんなぁ。お兄はん、まだまだ搾れるやろ」
「そ、それは……」
俺は口ごもった。確かにまだ出来たが、お妙が床に臥せっていると云うのに、こんなことをやっていていいのかと云う罪悪感があった。
「気持ち良くはあらへんの?」
「気持ち良いです」
それも罪悪感を募らせる理由の一つ。
「それに、ウチとの約束、忘れてへんよな」
「はい、それはもちろん……でも……」
「でもやあらへんわぁ、ちゃあんと、精をくれへんと、お妙はんもよくならへんで。これは、お妙はんのためでもあるんや」
そう云われては弱かった。だから、うんと頷くしかなかった。
妹のお妙を治せると云ってウチにやって来たお稲だったが、彼女の看病で、お妙は徐々に快方に向かっていた。
その交換条件として出されていたのが、精を彼女に提供するという云うものだ。俺は彼女に云われた通りに、渡された竹筒に自分の摩羅を抜き差しして、そこに精を吐き出していた。竹筒にはちょうど俺の摩羅にぴったりな穴が開いていて、そこに摩羅をつきいれると、まるでそこにこんにゃくでも入っているかのような、心地良い感触がした。
その竹筒は不思議なことに、中に出した精はどこかに消えていってしまうようだった。
彼女は食事に精のつくものを用意してくれているようで、俺が吐き出す精の量も回数も、徐々に増えていた。それも俺に、竹筒に精を吐き出すことをためらわせる理由の一つだった。
彼女は俺を夫にしたいのだという。
もしかして、俺はあの竹筒に精を吐き出すたびに、何か人ではない何かに変えられていっているのではないか、と恐れていた。妹のために自分が犠牲になることは良かったが、日に日に元気になっていく彼女を見て、未練と云うものが湧いてくるのだった。
「諦めたはずなんだけどなぁ……」
俺は竹筒を持ちながら呟いていた。
いくら血がつながっていないとは云え、お妙は俺の妹だ。あいつも俺を兄と思っている。この関係を壊してしまうわけにはいかなかった。
俺はお妙が好きだった。
女として。
しかし、それは伝えたならば壊れてしまうものなのだとも思っていた。
このままお稲に云われるがままこの竹筒に精を注ぎ入れていたら、俺はいずれ取り返しがつかないことになる。そうしてお妙とは決して結ばれなくなってしまう。
元気になっていく彼女を見て、未練、欲望が湧いてきた。しかし、狐の神さまであるお稲の機嫌を損ねることも怖かったし、何よりお妙を治してくれているのはお稲だった。
悩ましくなった俺は、竹筒に精を吐き出すことがおざなりになっていた。
お稲はそれに気がついているようだった。
俺は――どうしたらいいのか。
悩ましい夜風は、答えてくれない。
◆
――とある晩のことだった。
お稲が俺を起こした。その手には竹筒を持っていた。
「お兄はん、なんや加減しとるん?」
そう切り出された。
窓からは青白い月影が差していた。
彼女は人間に化けたままではあったが、月明かりに濡れた黒髪は、まるで青白い燐光を放っているように思えた。その中で金色に輝く瞳が、闇に潜む肉食獣じみていた。
ゴクリと唾を飲み込む。
「約束、したやんねぇ」
コクリと頷く。
「もっと、出せるやんねぇ」
「…………」
「正直に云わはり」
コクリと頷く。
「どうしてせぇへんの?」
「…………」
黙ったままの俺に、彼女はクスリと微笑んだ。彼女からは、妖気と云えるほどに濃密で、妖しい色気が漂っていた。
「なんやためらうことでもあるん? ないんよねぇ。やったら、ウチが手伝うたるわ」
な、何を。
と云おうとしたが、それは言葉になってはくれなかった。俺の身体は固まっていた。俺は、恐怖の糸でがんじがらめにされた心持ちで、彼女を見ていた。
「そないな恐ろしいもん見る眼で見んといてぇ。約束守らへんお兄はんが悪いんやろ。蒲団から出て、立ちはり。そうや、お利口はん。そのまま着物の帯解いて。んふ、なんや、そっちまで立たせるようにはまだ云うてへんかったんに、期待しとったん?」
艶やかに笑う彼女は、剥き出しになって醜悪に屹立する俺の摩羅に、その肉食獣の視線を注いでいた。
彼女は手に持った竹筒に、俺の摩羅を差し入れる。
「ほな、いっぱい出しはり」
お稲の艶めかしい視線に曝されて、俺は彼女に竹筒で摩羅をしごかれていた。それは自分でする以上に気持ちが良く。精を出すことを我慢できそうになかった。止めてくれ、と云いたいが、彼女の神通力か妖術か、声を出すことは出来なかった。彼女の竹筒を使った手淫はモノスゴく、濡れた竹筒からは、本物の男女の営みのような、淫靡な水音が立っていた。
うぁっ、と云うことも許されず、俺はその中に精を吐き出す。
「んふ、ようけ出たなぁ」
妖艶な彼女の瞳に見つめられて、俺の摩羅は、精を吐き出したというのに萎えてはくれなかった。
「ほぅら、まだ出来るやんなぁ。まったく、ウチの手を使わせるなんて、贅沢なお人やわぁ。んふふ、この子も喜んどる」
再び俺の摩羅をしごきだした彼女は、トンでもないことを言い出す。
「摩羅が萎えるまでちゃあんとぴゅうぴゅうしよなぁ。お兄はんも頑張らんと、お妙はん起きてまうかも知れへんで」
そう言われて、この部屋にはお妙がいることを思い出した。
彼女の蒲団を見れば、その目はぴったり閉じられていてホッとするが、確かに彼女がいつ目を覚ますかわからなかった。
お妙にこの痴態を見られる。そう思ったら、
「あは、固くなったねぇ、ご立派ご立派」
もっと静かにお願いしたい。
そう云いたいが、赦してはもらえない。
そうしているうちに、再び摩羅から精が飛び出して、竹筒に吸い込まれていく。一度目と変わらない量で、竹筒も、俺の摩羅から精を吸い出しているような気がした。だと云うのに、俺の摩羅は萎えてはいなかった。
「……ぅ、うん」
という呻きに、俺は身体を竦ませ――たかったが、やはり金縛られたままで、摩羅を隠すことも、身をよじることも出来なかった。息を殺してお妙を見ていたが、彼女は寝返りを打っただけらしく、俺はホッとする。ホッとしたはずなのに、摩羅はむしろ固くなっていた。
「妹はんに見られるかも思て、興奮したんやねぇ。お兄はん、そういうお人をなんと云うか、知っとります?」悪戯っぽい瞳が上目づかいに覗き込んでくる。お稲の美しい顔の横に、俺の醜悪な摩羅があった。
「へ・ん・た・い。云うんやで。それとも、お妙はんのこと、お兄はんは、好きなんかねぇ。あ、ふふ、身体は正直やわぁ」
俺の摩羅は再び竹筒に納められ、再びしごかれ始める。精を吐き出すたびにより逞しくなっていっているようで、そのたびに竹筒の穴も、ピッタリの大きさに変わるのだった。
四度ほど吐き出して、ようやく萎えてくれた。
「今はまだこんなもんやねぇ」
金縛りから解放された俺は、ドタンと尻もちをついた。
それでもお妙は起きなかった。起きないようにされているのかもしれない、と思った。
満足そうなお稲は、俺の前にコトンと竹筒を置いた。
「一人で出来ひんのやったら、ウチが手伝うたる。いつでも云ってくれて構わんでぇ。お妙はんを治す代わり、この竹筒に精をくれる云うたんはお兄はんやないか。やから、ちゃあんと精を吐いておくれやす」
そう云って彼女は自分の布団に戻って行った。
◆
次の日、俺が家に帰ると、お稲さんはどこかに行っていていなかった。
「ただいま」
「お帰り」
見ればお妙が床から出ていた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。私もそろそろ蒲団から出て身体を慣らしていきなさいって、お稲が」
「そっか」
見違えるほどに顔色の良くなった彼女を見て、俺は今更ながらに安堵の情が湧いてきた。お稲が狐でも、お妙をここまで良くしてくれたのは彼女なのだ。俺は、やはり彼女に云われた通り、あの竹筒に精を吐き出さなくてはならない。
そう思って、竹筒を取り、
「ちょっと、厠に行ってくる」
「そこに精を出すの?」
――固まった。
「何でか知らないけれども、そうすることが、私を治すための交換条件だったんでしょ。お稲さんって、何者なの……」
答えられなかった。
「お妙、何でそんなことを聞いて……」
妹を振り向けば、彼女は頬を染めてこちらを見ていた。その上気した肌と、潤んだ瞳に、女を見つけてしまった。知らず、唾を飲んでいた。
「昨日の夜、見てしまったの……」
「何を……」
そんなこと、彼女のその顔を見れば、聞かなくてもわかった。
俺がお稲に竹筒で精を搾られている光景に違いない。あの時、お妙は俺の痴態を見ていたと云うのか……。
「お稲が、兄ちゃんの、その……摩羅から精を搾るのを」
俺はさらに身を固くした。
「兄ちゃん、あの人、何者なの……」
答えられなかった。
それに答えたら、お稲が何をしてくるかわからなかったからだ。今は俺の精を搾ってくるだけなのだが、あの金縛りと云い、彼女が本気になったら、俺もお妙も抗うことなんて出来ないに違いない。
「それは……云えない」
「そう」
食い下がってくるかと思ったが、お妙は素直に引き下がって……、
「でも、お願いがあるの」
「…………何だ」
「お稲に精を搾る手伝いなんてさせないで、精を搾る手伝いが必要なんだったら、私がやるから」
「お妙、お前、何を……」
「兄ちゃんの精を搾る手伝いくらいだったら、私でも出来る。私のためにしてくれてるんだったら、私がちゃんと手伝わないと……」
狼狽える俺に、お妙は今まで病人だったとは思えない力でしがみついて来た。
「う、わぁッ」
お妙に押し倒されて、竹筒を奪われた。彼女はそのまま俺の着物の裾をはだけて、
「わぁ、もう、大っきい……」
今までにないくらいに怒張していた俺の摩羅を、マジマジと見つめていた。昨日の痴態を見られていたと知ってから、俺の摩羅はすでに痛いくらいに勃起していた。
昨夜お稲に云われたように、俺は変態だったのかもしれない。
だと云うのに、お妙はそのまま竹筒を俺の摩羅にかぶせてきた。
「ぅう、ぐぅ……」
「あっ、ごめん、大丈夫……? 私、こんなの初めてだから……」
「大丈夫だ……」
そう答えるが、大丈夫じゃなかった。どうしてだか、昨夜お稲にシてもらった時よりも、たいそう気持ちが良かった。まるで、鍵穴がぴったりと合わさったような感触だった。
その感触に、俺はすぐに果ててしまうのではないかと思った。
「痛かったり変だったりしたら云って、兄ちゃん」
「お妙、待っ……」
俺が止めるのも聞かず、俺の股間の前で膝をつき、両手で竹筒を前後させた。その角度は、まるで彼女に口でシてもらっているようで、俺はすぐに果ててしまった。だと云うのに、俺の摩羅は萎えず、俺が果てたことに気がつかないお妙は、さらにしごき続けた。
竹筒の中がどうなっているのかは知らないが、今までにない動きを見せて、摩羅の敏感な部分を擦り上げ、俺の精を搾り取ろうと蠕動してきた。
そうだった。確かに今、竹筒の中は蠢いていた。
「うぐッ」
今度は俺が呻き声をあげて果てたからだろう。お妙は一度手を止めて、
「精が出たの?」
と、まるで昔セミを捕まえたと云って来た時と同じような瞳で見つめてきた。だが、そこにはあどけない子供の顔ではなく、男をイかせることが出来たという、雌の顔があった。
彼女は摩羅から竹筒を引き抜き、
「う……」
「きゃっ」
カリが引っかかった刺激に精が飛び出し、妹の顔を汚していた。
「すまん、大丈夫かお妙」
慌てる俺だったが、彼女は顔にかかった俺の精液を指で取ると、
「これが 兄ちゃんの精……」
恍惚(うっとり)とした顔で弄び、それをなんと口に含んでこそぎ取っていた。
「苦……。でも、嫌いじゃない味」
その信じられない、それでも心の奥底では望んでいた淫靡な光景に、俺の摩羅は再び固くなった。
「あ、さっきよりも大きい……。じゃあ、もっと搾らないと、あの女になんか、兄ちゃんの精を搾らせなんてしないんだから」
お妙は再び竹筒を摩羅にかぶせると、上下にしごき始めた。
その顔にまだ俺の精をくっつけて、俺の精を搾ろうとしてくるお妙の姿に、俺は、紛れもない女を見て、摩羅をさらに固くする。
彼女はその動きに夢中で、俺も与えられる快楽に夢中だった。
だから俺は、お妙に、まるで昨夜の月明かりのような、仄青い燐光がチラついていることに、気づきはしなかった。
だからもちろん、
「んふ、いーい具合に煮立っとるわぁ」
戸口の外で、お稲が妖艶な笑みを浮かべて立っていたことも、知るわけがないのであった。
18/03/10 10:28更新 / ルピナス
戻る
次へ