陰の華
喜助は慌ててお堂に駆け込んだ。朝はあんなにも晴れていたというのに、山の天候は変わりやすい。夜までには家に帰りたかったのだが、これほどの土砂降りでは、無理して道を行くことも出来ない。
「う、ぅう〜〜」寒さのあまり、歯を噛み合わせ、犬のように唸る。
お堂の格子の障子紙は、ところどころが破けていて、びょうびょうと風も雨も容赦なく入り込む。雨漏りもある。これ以上濡れないような場所は確保しているが、これ以上濡れるところがないくらいには濡れ鼠である。
分厚い雲は重たく、晴れる気配は全くない。お堂の中では、湿っぽい埃の匂いが体を包み込み、寒さだけではなく、不安からも震えずにはいられなかった。
「おっとう……おっかぁ……」
濡れたままの着物は、少年である彼の体温を容赦なく奪う。
彼は小さな山を越えた、隣町までの使いに出かけていた。この山は普段から遊び場にもしているし、隣町へは、両親に連れられて何度も行ったことがある。忙しい両親のために、喜助は心配する二人を押し切って、隣町への使いを買って出たのだった。
行きは晴れていて、何も問題がないように思われた。子供の足でも半日あれば往復できるような距離で、両親は寄り道しないように、と念を押しつつ送り出してくれた。
しかし、喜助はそれを忘れ、ちょうど隣町に来ていた大道芸人の芸に見入ってしまった。そのせいで日もだいぶ傾いて、運悪く土砂降りの雨に出くわしたのだ。
暗がりを打つ容赦ない雨と、遅くなってはならないという焦燥感。それは彼に道を間違えさせた。彷徨った末、彼はびしょ濡れでこのお堂に辿り着いたのである。
「…………ぅう、う、う」
ガチガチと歯を打ち鳴らし、喜助は両手で体を抱いて、いつしか涙をこぼしていた。着物の袖から裾から、ポタポタと水滴がひっきりなしに落ちる。彼は犬のように体をぶるりと震わせる。外はごうごう、びゅうびゅう、雨が唸っていた。
「な、何か……、あったまるもの……」
喜助はお堂の奥に目を向ける。このままでは死んでしまうかもしれない。彼は恐怖と寒さにうち震えて、忘れられた火打ち石や蝋燭を探す。だが、このお堂は荒れ果てて、都合よくそんなものが見つかるはずもない。仏像は、盗まれたのかもともと立っていなかったのか、台座だけが、寂しく横たわっている。
「助けてくれる仏様もいないよぅ……」
喜助が打ちひしがれた声を声を出した時だった。
ピシャァン!
「うわぁあああ!」
激しい雷の音に驚き、尻餅をついてしまった。その閃きで露わになったお堂の隅々は、まるで話に聞く牢屋のようで、もう自分はここから出られないのではないか。そんな空の雲よりも重苦しい不安が、喜助にのしかかって来た。
ザァザァと降りしきる雨の音は、まるで自分を責めているかのようで、それでいて、まるで見えない何者かの唸り声のようで……、”そいつ”が今にも襲いかかって来そうな恐ろしさを感じてしまう。ガタガタガタ、と格子戸が揺れる。
「ぅ、……ぅう、う……あ、ぁあ、あ”〜〜」
喜助は泣き出してしまった。
寒いし怖いし、両親の言いつけを破って寄り道をした自分自身も悔しくて、嵐に負けないくらいの大きな声だった。しかし、いくら泣いたところで誰も助けてはくれない。
しやくり上げる彼の耳に、再び、
ピシャァン!
雷鳴が轟き、稲光が走る。びゅうびゅう、ガタガタ。お堂が、壊れてしまうのではないかと言うくらいに軋む。
ーーその時、彼は見てしまったのだ。
「え……」目をまん丸に見開いて、”それ”がそこに立っているのを見てしまった。
仏像はなかったはずなのに……、朽ちた台座の上に……、何やら人型じみたものが座っていた。
観音さま?
いいや違う。そんなわけはない。
観音さまなら、もっと煌びやかな衣装を着ているはずだ。キラキラ光る綺麗な着物で、ピカピカ光りながら現れてくれるはずだ。
目の前にいる”らしい”そいつは違う。雷でも照らせないほどの真っ黒な着物を着て、どっかりと、おっとうでもしないくらいに、横柄に腰を下ろしている。
ピシャァン!
雷光に照らされて、そいつの顔が見えた。
ーー女だった。彼女はおかしくて仕方ないとばかりに、口端を吊り上げていた。
普通の女ではない。
喜助が今までに見たこともないような美しい女だ。真っ黒な着物を着ているというのに、その肌はまるで雪のように白くて、大きく開いた胸元からは、底の知れない胸の谷間が覗き、乳には綺麗な刺青(スミ)の花が咲いている。もう少し喜助が大きかったのならば、綺麗ではなく、艶やか、と言っただろう。
彼女の裾からは、真っ白な太ももがはみ出して、喜助は言いようもない、何か背中がムズムズする気持ちを抱いた。
女の美しさに一寸(ちょっと)ポカンとしていた喜助だったが、いなかったはずの女が急に現れたおかしさに、吃驚(びっくり)した声を上げてしまう。
「誰!? どこから入ったの!? 観音さまじゃないよね? ま、まさか……あやかし……」
尻餅をついたままの格好で、喜助はずりずりと後退(あとじさ)る。
ビュウッ! ガタガタガタ、ピシャァンッ!
「ひぃいいいッ!」
嵐に雷に、今にも壊れてしまいそうなお堂。自然の猛威にあやかしの女。他の怖いものなど、両親とガキ大将の庄吉くらいしか思いつけないような、”怖い”が喜助を取り巻いていた。
「ん」「ひぃ!」女の声に、喜助は絞められた鳥のような声をあげてしまう。
そんな喜助の顔を見て、
「ふはははははははは」「ぎゃああああ!」
笑い出した女に、とうとう喜助は仰向けにひっくり返ってしまう。女は楽しくてたまらないといった風で、やはり笑う。
「おやおやァ、男の子が情けないねェ。別にとって食やしないんだからサァ。まぁでも。その方が都合がいいかもねェ」
そんな声が、気絶する間際の喜助には聞こえた気がしたのだった。
◆
「おっとぅ……おっかぁ……ごめんなさい」
「んふふ、ちゃあんと謝れるんなら、許してもらえるサ」
「本当?」
「ああ本当サ。あたしは騙しても嘘はつかないよ。ぬら姐さん嘘つかない」
「良かった……」
「んふふ、突っ込みは無しかい。可愛いねェ、ウリウリ」
「ん……、んん……」
喜助はなにやら暖かくて柔らかいものに包まれていた。まるでおっかぁに抱かれているようでとても安心できて、それでも、それだけではないような気持ちも湧いてくる、不思議な感触の中で身じろぎをする。これは夢だろうか……。自分は気持ちの良い夢を見ている……。
「柔らかい……」
喜助は自分を包み込んできている何かに、顔を押し付ける。
何か大変な事があった気がするけれども、夢心地の喜助には、思い出すことは出来なかった。
「ンフフ……。甘えん坊だねェ。もう乳離れはしてるハズだろォ? いんやァ? 男はいつまでたっても乳離れはできないもんだったねェ。ぬら姐さんとした事がうっかりしちまった」
キレが良くも、甘ったるい声に、喜助はさらに顔を埋める。いい匂いがする。まるで金木犀の花のような、ずっと嗅いでいたくて、嗅いでいると、何かがムズムズしてくるような……。
「ほぅら、おっぱいだよォ。もっと顔を埋めるといいサ」
喜助は後ろ頭を優しく撫でられて、ぎゅうぎゅうと柔らかいものに顔を押し当てられる。あまりにもぎゅうぎゅうと押し付けられて……、苦しい。
「ん”、んん”〜〜〜〜ッ!」「ぅ、ァン!」
もがくと、その暖かいものを思いっきり握ってしまった。何かコリコリとしこったものが手のひらに触れた。そこでようやく緩んだ拘束から喜助は抜け出し、「ぷはぁッ!」と大きく息を吸い込む。 ”彼女”の胸で溺れていた。肩で息をする彼を、美しい女の顔が覗き込んでいた。
「ンフフ」
月明かりに照らされた女の顔。嵐は止み、破れた格子紙の隙間からは、青々とした月明かりが射している。彼女の肌が闇に青白く浮かび、その実彼女自身がほの明く光っているかのように、悩ましい曲線を描いていた。優しげながらも婀娜っぽい目つきが、喜助を舐めるように絡みつく。「お姉さんは……」
「目が覚めたらおはようだろゥ」
「うん、おはよう」
「ヨッし、イイ子だ」
ヨシヨシと頭を撫でられて、喜助は悪い気はしなかった。普段だったらもう子供じゃない、と振りほどくところだが、撫でられている事がしっくりきて、気持ちが良くて、振りほどくことが思い浮かばなかった。女の胸の中から喜助は尋ねる。「お姉さんは……誰?」
「誰だと思う?」
質問に質問で返されて、喜助は素直に考えてしまう。女は喜助を面白がるような顔で見てきて、彼は奇妙な胸の高鳴りを不思議に思う。むき出しの肌が合わせられ、喜助は彼女の熱に包まれている。少年はポカポカする体に、さっきまでは何かが違ったのだと思う。
「んふふ、どうしたィ?」
女の甘い吐息が顔にかかり、そこだけが妙に湿っぽくて、生暖かい。
「あっ……」と喜助は自分がどんな状態にいたのかを思い出した。
思い出して……、「あ、あやかし……」
稲光に照らされた彼女の顔を思い出していた。
喜助は慌てて彼女から逃げようとするが、彼女の腕と足はまるで蛇のように絡みついてきて、逃げ出すことはできなかった。わずかに汗ばんだ彼女の肌が、喜助の肌に吸い付いてきて、引きはがせる気はしなかった。
「だぁーめ、逃がさないよ」喜助はもがくが、柔らかい彼女の熱に抱きすくめられて、その暖かさは恐怖心を保つことを許してはくれず、そのまま豊かな胸に顔を埋めてしまいたいとまで思ってしまう。
「ほぅら、怖くないだろゥ……」女は喜助の耳元で、まるで赤子をあやすかのように囁いてくる。「怖いものが、こんなにもあったかくて」「ぅあッ……」耳を舐められた。「柔らかいわけないだろゥ……」
くぐもった吐息が耳をくすぐって、やはり喜助は今までに感じたことのないむず痒さを感じる。おっかぁに抱かれた時にも、村の娘にからかわれて抱きすくめられた時にも感じたことのない感触だった。
「ほぅら、あたしの心臓の音が聞こえるかィ……」
喜助は彼女の胸に耳を押し当てられた、豊かな乳房の向こうから聞こえてくる心臓の音……。甘やかな律動は心を落ち着けてくれた。彼は彼女の胸の中で、コクンと頷く。
「んふふ。怖くないだろォ」
緩めてもらった腕の中から、喜助は彼女を見上げる。その時、彼女の瞳の奥が妖しく光ったのには、喜助は気がつかなかった。
「お姉さんは……誰? どうしてあそこにいたの? 僕が見たときは誰もいなかった……」
喜助に問われた彼女は、やはりんふふと笑う。
「いたじゃあないか。あんたが気がつかなかっただけサ」
「でも、僕が最初にいた時には誰もいなかった……」
「いいや、あたしがいたんだよ。あんたが気・が・つ・か・な・かっ・た・だけ、サ」
彼女から伝わってくる肌色の暖かさ、煙のように絡みついてくる声音に、喜助はそうだったのだ、と思う。「じゃあ、どうして声をかけてくれなかったの?」
「んふふ。坊が可愛くて、ネ」
婀娜っぽい流し目に、喜助はやはりムズムズする感触を抱く。
「僕は子供じゃない」
不思議な感触に訝しがりながらも、喜助はなんとかそれだけを絞り出す。
彼女はやはりんふふと笑って、「そりゃあ悪かった。確かに坊は子供じゃなかった」と、悪びれることなく言う。
「だってサ。あたしと素っ裸で抱き合っているんだから」
その言葉に、喜助はキョトンとした顔を浮かべる。
「どうして裸で抱き合っていると、子供じゃないの……、って、どうして僕は裸で、お姉さんも裸なの……?」
「そりゃあ決まってるじゃないか、坊を食べ……、ゴホン、あっためるためサ」サッと喜助の顔に恐怖の色がさしたのを見て、女は言葉を引っ込めた。「坊はもう死んじまうんじゃないか、ってェくらいに冷えていて、サ」そうして女は喜助の頭を胸に押し付けて撫でてきた。「……んふふ、そぅかぃ、まだ男女のことも知らないンだねェ……、じゅるり」
最後の方の言葉は聞こえなかったが、このまま抱きすくめられていると、何か取り返しのつかないことになりそうだ、と喜助は子供ながらに思う。
「あ、ありがとう。でも、もうあったまったから大丈夫だよ」
「だぁーめ」
喜助は逃げようとするが、女に絡みつかれて、逃げることができない。豊満な彼女の胸が顔いっぱいに押し付けられ、彼女の乳は喜助の形に沈み込む。すべすべとした女の肌が体全体を這う。女のいい香りが鼻腔を満たして、喜助はやっぱりむずむずする感触を持つのだ。
この感触はどこからくるのだろうと彼は思う。どこか下の方から……。そこで、彼は気づいてしまった。自分の股間にあるものが硬くなっていることに。
「わっ! 僕のちんちん、こんなに腫れて!?」
腕の中で慌てふためく喜助に、女はんふふと笑う。その笑い方は、先ほどまでのように、暖かいものではあるのだが、もっとネットリとして熱いもののようだった。
女は喜助を離してくれた。
「どうして僕のちんちん……」
「あーあ、腫れちまったねェ」愉しそうな女の声。まるでオモチャを見つけた猫のような声だった。
喜助は恐る恐る女を見た。女は心配そうに眉を潜めているが、その視線は喜助の股間で硬くなっているものに注がれて、熱っぽく湿っぽい。
「あっため過ぎちまったかもねェ……。あたしが体であんたをぎゅうぎゅうあっためたから、ちんちんが起っきしたんだねェ」
上半身を起した喜助に、女は四つん這いで近づいてくる。月明かりに浮かぶ淫らな曲線は、腰のところでキュッとしまり、尻の膨らみがよぅく分かる。月影が彼女の体を磨いたのか、それとも、月影そのものが彼女なのか……。女の見事な肢体が艶かしく蠢くたび、花のつぼみのような乳首が震える。湧き上がる情動の名を知らず、喜助の男はさらに硬くなってしまう。
「熱い……これ、治るの?」
「知りたいかィ?」
舌舐めずりをしないことが不思議なくらいの女の顔に、喜助はコクコクと頷く。
「じゃあ、」そう言って女の唇を赤い舌が這う。「あたしの言う通りにするんだよゥ」
その言葉に、喜助はなぜだか唾を飲み込んでしまっていた。
◆
「どうだィ? ぬら姐さんの乳挟みは」
「もっとムズムズするぅ……」
「んふふ、そうかィ、なら良くなってる、ってことサ」
女は喜助の肉棒を乳でさらに強く挟み込んできた。喜助は彼女に言われるままに、肉棒を弄ばれていた。
喜助は、ちんちんが硬くなってしまったことを恐ろしく感じてはいたが、彼女の乳に挟み込まれた感触は、悪くないものだった。むしろもっともっと挟み込んで、擦り上げてもらいたいとすら思う。
「わっ、お姉さん。唾を垂らしたら……」
「んふふ、ンッ、こうした方が……、滑りが良くなって、もっと気持ちが良いだろう」
彼女の激しい乳圧の上下運動に、喜助はちんちんのむずむずがより大きくなり、込み上げるものは収まりを知らなかった。
「お姉さん、僕、すごい変な感じで……」喜助は感じたことのない快楽という感情に、おっかなびっくりでありつつも、もっとして欲しいと思う。
「んふふ、いーい顔だねェ、気持ちよくて、雌が欲しいってェ顔だ」
「これが気持ち良いって感じなの?」
「そうそう、そうして大きくなって、びゅうびゅう精液を出すのサ」
「精液?」
「そうサ、そいつを出したら、ちんちんは小さく元どおりになる……」女は喜助の肉棒をさらにしごき上げ、「ハン、む……」
「うわッ」女に肉棒を咥えられた喜助は、悲鳴にも似た声をあげる。「お姉さん、そんなことしたら汚いよぉ」
「大丈夫サ、坊のちんちんが汚いわけなィ。ハム……もしも汚かったとしても、ペロ、……チュ、ちゅ。むしろ大好物だねェ」女は、股間の間から喜助を上目遣いで覗いてくる。少年を弄び、肉棒に媚びる雌の顔。「んふふ、ますます硬くなった。坊は坊でも、肉棒はちゃあんと男だったワケだ。チュ……、レロ、チロチロ……。ン……ンッ……ぷぱぁ……、おやおや、坊はここが弱いのかィ」
女は喜助の反応を満足そうに見て、自分の二つの肉山を出入りする亀頭に舌を這わせ続ける。満遍なくヨダレを滴らせ、彼女の白い肌に咲く花の刺青(スミ)が、淫靡に濡れていた。
「んふふ、いぃ子いぃ子……。だんだん濡れた男の顔になって行く……。ちゅ、んふふ、可愛い、可愛い」
自らの胸の中でピクピク震える幼い肉棒を、彼女は真っ赤な舌で愛(め)で続ける。
「あ、ダメだよお姉さん。なんだか僕おしっこが出ちゃいそうだ」
喜助の焦った声を聞いて、彼女はそれまで彼に這わせていた舌を止めた。ぬらぬらと肉棒を這っていた熱が離れて、喜助はホッとしたような、寂しいような気がした。
「んふふ」
喜助は女の笑い声に彼女の顔を見た。そうして息を飲む。月明かりが射していた。青い月明かりが、上気した彼女の白い肌をほの紅く照らす。少年への愛撫で昂った彼女の股からは、太ももを伝う蜜がこぼれていた。
紫色の彼女の瞳は、まるで二つのお月さまのようで。闇の中、その妖しい輝きに、喜助は吸い込まれて閉じ込められてしまうのではないかと思う。だが、不思議と怖くはなかった。
なぜなら、彼女の目は、彼を傷つけようとするものではなく、彼が欲しくて欲しくてたまらないという、情欲に爛れた、むしろ懇願するような色をしていたからだ。
少年は肩で息をしていた。これから彼女が何をするのかはわからないが、この先に進んでしまえば、自分はもう後戻り出来ないものだという、確信にも似た予感がある。彼は彼女と見つめ合う。
「んふふ」
女は笑う。
彼女は立ち上がり、その魔性の肢体を晒す。青い月明かりが、彼女の肢体のすみずみを這う。格子戸の影が彼女に絡みつき、まるで彼女を閉じ込めている鎖のように見えた。女ははち切れそうな乳房に手を伸ばす。彼女の指は押し込むままに胸の脂肪に沈み込み、蹂躙するように、その形を変え、「んゥ、ァあ……」自らの乳首をつまみ、虐めていた。
濡れた花の刺青(スミ)が、悶えるように蠢く。荒い吐息の女から、だらしのない涎がしたたる。
彼女は反対の手を自分の股間に伸ばす。押しひらくと、彼女という花の蜜がこぼれる。
「ンッ、ふっ、ァ、……ン」
彼女はほっそりとした指を股の割れ目に沈み込ませ、中の肉をほじくっている。「ゥ。……んん」
喜助は彼女が何をやっているのか分からない。だが、自分の股間が痛いくらいに熱くなるのを感じて、これは見てはいけないものなのだと思う。しかし、咲き誇る陰の華の痴態に、目を離せない。それに、離したくない。喜助は、この華を独り占めしたいと思ってしまった。
「坊ゥ……、あたしは坊が欲しくてたまらないよォ、坊も、あたしが欲しくはないかィ?」
悩ましい吐息の美女に、彼は何も考えることが出来ず、ただ首は縦に降(くだ)っていた。
「んふふ、……んぅ」
彼の前で股肉を押し広げ、見せつけるようにして、美女が腰を下ろしてくる。喜助はむき出しになった女の姿をまじまじと見てしまう。股間の真ん中が割れて、プツプツとした肉が見える。彼も彼女も荒い息で、彼の見ている前、少年の肉棒は、彼女の下の口に奥まで咥えこまれた。
「ぅ、わぁ、あああ……」
「ぁあ、坊の熱ぅいのがあたしの奥まで……」
彼女は恍惚として喜助にしがみついてきた。その体格差から、彼の頭は彼女の胸にすっぽりと挟み込まれ、ーー金木犀の香りがした。
肉棒に蕩けるような女の内肉が吸いついてくる。ドロドロに溶かされていくような熱い快楽に、少年は歯を食いしばって必死で耐えていた。
「いいねェ……やっぱり坊はイイ男だ」
鼓膜を凌辱してくるような甘い吐息に、彼は意識が飛びそうになる。
「イイんだよ。あたしのなかで白いおしっこをびゅうびゅう出しちまって。あたしをあんたの肉便器にしちまって……。そうしてあたしを孕ませて、あんたの女にして……。それがぬらりひょんを抱いちまった責任ってェもんサ」
聞こえているのか聞こえていないのか、喜助は彼女の奥までずっぽりと咥えこまれたちんちんが、吹き出してしまわないように必死だった。
「んふふ……」
彼女はネットリと笑い、
「出してくれないんだったら、出させてやるよゥ……」
そう言って腰を振り、膣で彼の肉棒を吸い上げる。
「だ、ダメッ……お姉さん、お姉さんの中におしっこ出ちゃう、あ、っあ……」
「んふふ、んぅ……、イイって言ってるだろォ……ンっ、ハァ……んッ、ンッ……。坊の精子が、坊の子っこが、あたしは欲しくて……アッ、アッあっあっ……」
「ダメェ、出るッ……」
「あ〜〜〜〜ッ、坊やでイッちまぅよぉお〜〜ッ!」
喜助は彼女の奥深くに、味わったことのない快感が噴出していくのを感じた。それは恐ろしくて、恐ろしくとも求めずにはいられない。ずっとこうして包み込まれていたいと感じてしまう感触だった。
「んふふ……、よぅく、出来ました」
女は喜助の頭を優しく撫でてきた。その手つきは優しいものだったが、子供を撫でる手つきではなく、愛しい夫に甘える手つきだった。
「イイ旦那が出来た。これであたしはここから出ることが出来るし、淫らで楽しい浮世を過ごせるってェもんサ。今からこれだったら、坊は末恐ろしくもあるしねェ……んふふ」
恍惚(ウットリ)と喜助を撫でるぬらりひょんだったが、胸から聞こえてきた抗議の声に、おや、と眉を曲げることになる。
「お姉さんの嘘つき……」
真実は言わなくとも嘘も言わないというのが信条の彼女だ。旦那となった少年からそんなことを言われては黙ってはいられない。
「それは心外だねェ……。あたしがいつ嘘を言ったってんだよォ」
そうたしなめる彼女だが、モジモジと動く少年の腰の動きから、彼が言いたいことを察したようだった。彼女の中にあるものは、まだまだ猛々しく熱い。それに気づいて、彼女は驚くとともに背筋がぞくぞくとする。
彼女は彼の上から退いて、”それ”に唇を吊り上げる。幼い体には不釣り合いなものが、雄々しくそそり立っている。
彼女は四つん這いになり、彼に形良く張った尻を向ける。太ももに、白濁と赤い筋が垂れていた。
「あたしは嘘は言っちゃあいないサ。坊のちんちんが治んないのはね、まだまだ白いおしっこを吐き出したりないのサ。ほらほら、あたしの女陰(ほと)にちんちんを入れて、もっともっと突いておくれ」
彼女はそう言って尻を降る。少年は誘われるままに肉尻に手をかけ、肉棒を彼女の入り口に触れさせる。二人の汁が混ざり合う、淫靡な睦み音が立つ。
「そうサ……そうそう、そのまま奥までずっぷりと射し込んで……んゥ、いいよォ……。ンッ、あっ、あっ、あっ……坊の、好きなようにあたしを使えばいいのサ」
女は自分にのし掛かって後ろから好き勝手に突いてくる少年の欲望を愛しく受け止める。肉と肉がぶつかり、乳が揺れ、汗がはじけ、呻き声のような互いの嬌声がお堂に響く。
女は喘ぎ声に乗せて、淫らに底のない情欲の瞳を潤ませる。
「あたしはぬらりひょん、百鬼夜行の主、あんたの白濁でも染めきれない、真っ黒な陰の華。坊の欲望で、目一杯愛でて欲しいねェ。んふ、んふふふふふふ……」
淫らな陰の華は、少年によって、再び浮世の夜に咲き誇るのだった。
◆
「ただいま……」
次の日、朝帰りになってしまった喜助は、恐る恐る家の戸を開けた。
「喜助ッ!」
案の定母親の声が飛んできた。その声にひゃっと肩をすくめる喜助だったが、その後に続いてきた言葉は信じられないものだった。
「まったくこの子ったら、嫁さんと一緒だったっていうのに、野宿とかしたわけじゃないだろうね?」
「え? 嫁さん……?」母親の言葉に、喜助は目を白黒とさせる。
「大丈夫サァおっかさん。ちょうどいい宿があったから、問題なんてなぁんにも無い、のサ」
喜助の後ろからは、彼が昨日会ったばかりの女の声が投げかけられる。
「そうだねぇ、ぬらちゃんが居てくれたから心配はしてなかったけどねぇ。朝ごはんは残ってるから食べるんだったら早くお食べよ」そう言うと母親はクルリと背を向けてしまう。
喜助は女と母親を交互に見比べる。女はなんら不思議なことなど何も無いと言った態度で、むしろ自分こそがこの家の主人なのだと言わんばかりの態度で、喜助の家の敷居をまたぐ。
呆然としている喜助に向かって女はニィ、と唇を吊り上げて艶やかに笑う。この女は、陰の中だけではなく、日の中でも存分に美しい。夜の住人であるくせに、お天道さますら欺いて、堂々と咲き誇る……。
喜助は改めて、自分はとんでもないものを外に出してしまったのだと思う。だが、
「坊ゥ、はやくこっちへ来ておくれよォ、あんたがいないとあたしは寂しくてしょうがないのサ。なんせ、あんたはあたしの旦那なんだからサァ」
そう言って悪びれもせず、くったくなく笑う彼女の顔を見ると、ま、それでもいいか、と喜助は思えてしまうのだった。
「う、ぅう〜〜」寒さのあまり、歯を噛み合わせ、犬のように唸る。
お堂の格子の障子紙は、ところどころが破けていて、びょうびょうと風も雨も容赦なく入り込む。雨漏りもある。これ以上濡れないような場所は確保しているが、これ以上濡れるところがないくらいには濡れ鼠である。
分厚い雲は重たく、晴れる気配は全くない。お堂の中では、湿っぽい埃の匂いが体を包み込み、寒さだけではなく、不安からも震えずにはいられなかった。
「おっとう……おっかぁ……」
濡れたままの着物は、少年である彼の体温を容赦なく奪う。
彼は小さな山を越えた、隣町までの使いに出かけていた。この山は普段から遊び場にもしているし、隣町へは、両親に連れられて何度も行ったことがある。忙しい両親のために、喜助は心配する二人を押し切って、隣町への使いを買って出たのだった。
行きは晴れていて、何も問題がないように思われた。子供の足でも半日あれば往復できるような距離で、両親は寄り道しないように、と念を押しつつ送り出してくれた。
しかし、喜助はそれを忘れ、ちょうど隣町に来ていた大道芸人の芸に見入ってしまった。そのせいで日もだいぶ傾いて、運悪く土砂降りの雨に出くわしたのだ。
暗がりを打つ容赦ない雨と、遅くなってはならないという焦燥感。それは彼に道を間違えさせた。彷徨った末、彼はびしょ濡れでこのお堂に辿り着いたのである。
「…………ぅう、う、う」
ガチガチと歯を打ち鳴らし、喜助は両手で体を抱いて、いつしか涙をこぼしていた。着物の袖から裾から、ポタポタと水滴がひっきりなしに落ちる。彼は犬のように体をぶるりと震わせる。外はごうごう、びゅうびゅう、雨が唸っていた。
「な、何か……、あったまるもの……」
喜助はお堂の奥に目を向ける。このままでは死んでしまうかもしれない。彼は恐怖と寒さにうち震えて、忘れられた火打ち石や蝋燭を探す。だが、このお堂は荒れ果てて、都合よくそんなものが見つかるはずもない。仏像は、盗まれたのかもともと立っていなかったのか、台座だけが、寂しく横たわっている。
「助けてくれる仏様もいないよぅ……」
喜助が打ちひしがれた声を声を出した時だった。
ピシャァン!
「うわぁあああ!」
激しい雷の音に驚き、尻餅をついてしまった。その閃きで露わになったお堂の隅々は、まるで話に聞く牢屋のようで、もう自分はここから出られないのではないか。そんな空の雲よりも重苦しい不安が、喜助にのしかかって来た。
ザァザァと降りしきる雨の音は、まるで自分を責めているかのようで、それでいて、まるで見えない何者かの唸り声のようで……、”そいつ”が今にも襲いかかって来そうな恐ろしさを感じてしまう。ガタガタガタ、と格子戸が揺れる。
「ぅ、……ぅう、う……あ、ぁあ、あ”〜〜」
喜助は泣き出してしまった。
寒いし怖いし、両親の言いつけを破って寄り道をした自分自身も悔しくて、嵐に負けないくらいの大きな声だった。しかし、いくら泣いたところで誰も助けてはくれない。
しやくり上げる彼の耳に、再び、
ピシャァン!
雷鳴が轟き、稲光が走る。びゅうびゅう、ガタガタ。お堂が、壊れてしまうのではないかと言うくらいに軋む。
ーーその時、彼は見てしまったのだ。
「え……」目をまん丸に見開いて、”それ”がそこに立っているのを見てしまった。
仏像はなかったはずなのに……、朽ちた台座の上に……、何やら人型じみたものが座っていた。
観音さま?
いいや違う。そんなわけはない。
観音さまなら、もっと煌びやかな衣装を着ているはずだ。キラキラ光る綺麗な着物で、ピカピカ光りながら現れてくれるはずだ。
目の前にいる”らしい”そいつは違う。雷でも照らせないほどの真っ黒な着物を着て、どっかりと、おっとうでもしないくらいに、横柄に腰を下ろしている。
ピシャァン!
雷光に照らされて、そいつの顔が見えた。
ーー女だった。彼女はおかしくて仕方ないとばかりに、口端を吊り上げていた。
普通の女ではない。
喜助が今までに見たこともないような美しい女だ。真っ黒な着物を着ているというのに、その肌はまるで雪のように白くて、大きく開いた胸元からは、底の知れない胸の谷間が覗き、乳には綺麗な刺青(スミ)の花が咲いている。もう少し喜助が大きかったのならば、綺麗ではなく、艶やか、と言っただろう。
彼女の裾からは、真っ白な太ももがはみ出して、喜助は言いようもない、何か背中がムズムズする気持ちを抱いた。
女の美しさに一寸(ちょっと)ポカンとしていた喜助だったが、いなかったはずの女が急に現れたおかしさに、吃驚(びっくり)した声を上げてしまう。
「誰!? どこから入ったの!? 観音さまじゃないよね? ま、まさか……あやかし……」
尻餅をついたままの格好で、喜助はずりずりと後退(あとじさ)る。
ビュウッ! ガタガタガタ、ピシャァンッ!
「ひぃいいいッ!」
嵐に雷に、今にも壊れてしまいそうなお堂。自然の猛威にあやかしの女。他の怖いものなど、両親とガキ大将の庄吉くらいしか思いつけないような、”怖い”が喜助を取り巻いていた。
「ん」「ひぃ!」女の声に、喜助は絞められた鳥のような声をあげてしまう。
そんな喜助の顔を見て、
「ふはははははははは」「ぎゃああああ!」
笑い出した女に、とうとう喜助は仰向けにひっくり返ってしまう。女は楽しくてたまらないといった風で、やはり笑う。
「おやおやァ、男の子が情けないねェ。別にとって食やしないんだからサァ。まぁでも。その方が都合がいいかもねェ」
そんな声が、気絶する間際の喜助には聞こえた気がしたのだった。
◆
「おっとぅ……おっかぁ……ごめんなさい」
「んふふ、ちゃあんと謝れるんなら、許してもらえるサ」
「本当?」
「ああ本当サ。あたしは騙しても嘘はつかないよ。ぬら姐さん嘘つかない」
「良かった……」
「んふふ、突っ込みは無しかい。可愛いねェ、ウリウリ」
「ん……、んん……」
喜助はなにやら暖かくて柔らかいものに包まれていた。まるでおっかぁに抱かれているようでとても安心できて、それでも、それだけではないような気持ちも湧いてくる、不思議な感触の中で身じろぎをする。これは夢だろうか……。自分は気持ちの良い夢を見ている……。
「柔らかい……」
喜助は自分を包み込んできている何かに、顔を押し付ける。
何か大変な事があった気がするけれども、夢心地の喜助には、思い出すことは出来なかった。
「ンフフ……。甘えん坊だねェ。もう乳離れはしてるハズだろォ? いんやァ? 男はいつまでたっても乳離れはできないもんだったねェ。ぬら姐さんとした事がうっかりしちまった」
キレが良くも、甘ったるい声に、喜助はさらに顔を埋める。いい匂いがする。まるで金木犀の花のような、ずっと嗅いでいたくて、嗅いでいると、何かがムズムズしてくるような……。
「ほぅら、おっぱいだよォ。もっと顔を埋めるといいサ」
喜助は後ろ頭を優しく撫でられて、ぎゅうぎゅうと柔らかいものに顔を押し当てられる。あまりにもぎゅうぎゅうと押し付けられて……、苦しい。
「ん”、んん”〜〜〜〜ッ!」「ぅ、ァン!」
もがくと、その暖かいものを思いっきり握ってしまった。何かコリコリとしこったものが手のひらに触れた。そこでようやく緩んだ拘束から喜助は抜け出し、「ぷはぁッ!」と大きく息を吸い込む。 ”彼女”の胸で溺れていた。肩で息をする彼を、美しい女の顔が覗き込んでいた。
「ンフフ」
月明かりに照らされた女の顔。嵐は止み、破れた格子紙の隙間からは、青々とした月明かりが射している。彼女の肌が闇に青白く浮かび、その実彼女自身がほの明く光っているかのように、悩ましい曲線を描いていた。優しげながらも婀娜っぽい目つきが、喜助を舐めるように絡みつく。「お姉さんは……」
「目が覚めたらおはようだろゥ」
「うん、おはよう」
「ヨッし、イイ子だ」
ヨシヨシと頭を撫でられて、喜助は悪い気はしなかった。普段だったらもう子供じゃない、と振りほどくところだが、撫でられている事がしっくりきて、気持ちが良くて、振りほどくことが思い浮かばなかった。女の胸の中から喜助は尋ねる。「お姉さんは……誰?」
「誰だと思う?」
質問に質問で返されて、喜助は素直に考えてしまう。女は喜助を面白がるような顔で見てきて、彼は奇妙な胸の高鳴りを不思議に思う。むき出しの肌が合わせられ、喜助は彼女の熱に包まれている。少年はポカポカする体に、さっきまでは何かが違ったのだと思う。
「んふふ、どうしたィ?」
女の甘い吐息が顔にかかり、そこだけが妙に湿っぽくて、生暖かい。
「あっ……」と喜助は自分がどんな状態にいたのかを思い出した。
思い出して……、「あ、あやかし……」
稲光に照らされた彼女の顔を思い出していた。
喜助は慌てて彼女から逃げようとするが、彼女の腕と足はまるで蛇のように絡みついてきて、逃げ出すことはできなかった。わずかに汗ばんだ彼女の肌が、喜助の肌に吸い付いてきて、引きはがせる気はしなかった。
「だぁーめ、逃がさないよ」喜助はもがくが、柔らかい彼女の熱に抱きすくめられて、その暖かさは恐怖心を保つことを許してはくれず、そのまま豊かな胸に顔を埋めてしまいたいとまで思ってしまう。
「ほぅら、怖くないだろゥ……」女は喜助の耳元で、まるで赤子をあやすかのように囁いてくる。「怖いものが、こんなにもあったかくて」「ぅあッ……」耳を舐められた。「柔らかいわけないだろゥ……」
くぐもった吐息が耳をくすぐって、やはり喜助は今までに感じたことのないむず痒さを感じる。おっかぁに抱かれた時にも、村の娘にからかわれて抱きすくめられた時にも感じたことのない感触だった。
「ほぅら、あたしの心臓の音が聞こえるかィ……」
喜助は彼女の胸に耳を押し当てられた、豊かな乳房の向こうから聞こえてくる心臓の音……。甘やかな律動は心を落ち着けてくれた。彼は彼女の胸の中で、コクンと頷く。
「んふふ。怖くないだろォ」
緩めてもらった腕の中から、喜助は彼女を見上げる。その時、彼女の瞳の奥が妖しく光ったのには、喜助は気がつかなかった。
「お姉さんは……誰? どうしてあそこにいたの? 僕が見たときは誰もいなかった……」
喜助に問われた彼女は、やはりんふふと笑う。
「いたじゃあないか。あんたが気がつかなかっただけサ」
「でも、僕が最初にいた時には誰もいなかった……」
「いいや、あたしがいたんだよ。あんたが気・が・つ・か・な・かっ・た・だけ、サ」
彼女から伝わってくる肌色の暖かさ、煙のように絡みついてくる声音に、喜助はそうだったのだ、と思う。「じゃあ、どうして声をかけてくれなかったの?」
「んふふ。坊が可愛くて、ネ」
婀娜っぽい流し目に、喜助はやはりムズムズする感触を抱く。
「僕は子供じゃない」
不思議な感触に訝しがりながらも、喜助はなんとかそれだけを絞り出す。
彼女はやはりんふふと笑って、「そりゃあ悪かった。確かに坊は子供じゃなかった」と、悪びれることなく言う。
「だってサ。あたしと素っ裸で抱き合っているんだから」
その言葉に、喜助はキョトンとした顔を浮かべる。
「どうして裸で抱き合っていると、子供じゃないの……、って、どうして僕は裸で、お姉さんも裸なの……?」
「そりゃあ決まってるじゃないか、坊を食べ……、ゴホン、あっためるためサ」サッと喜助の顔に恐怖の色がさしたのを見て、女は言葉を引っ込めた。「坊はもう死んじまうんじゃないか、ってェくらいに冷えていて、サ」そうして女は喜助の頭を胸に押し付けて撫でてきた。「……んふふ、そぅかぃ、まだ男女のことも知らないンだねェ……、じゅるり」
最後の方の言葉は聞こえなかったが、このまま抱きすくめられていると、何か取り返しのつかないことになりそうだ、と喜助は子供ながらに思う。
「あ、ありがとう。でも、もうあったまったから大丈夫だよ」
「だぁーめ」
喜助は逃げようとするが、女に絡みつかれて、逃げることができない。豊満な彼女の胸が顔いっぱいに押し付けられ、彼女の乳は喜助の形に沈み込む。すべすべとした女の肌が体全体を這う。女のいい香りが鼻腔を満たして、喜助はやっぱりむずむずする感触を持つのだ。
この感触はどこからくるのだろうと彼は思う。どこか下の方から……。そこで、彼は気づいてしまった。自分の股間にあるものが硬くなっていることに。
「わっ! 僕のちんちん、こんなに腫れて!?」
腕の中で慌てふためく喜助に、女はんふふと笑う。その笑い方は、先ほどまでのように、暖かいものではあるのだが、もっとネットリとして熱いもののようだった。
女は喜助を離してくれた。
「どうして僕のちんちん……」
「あーあ、腫れちまったねェ」愉しそうな女の声。まるでオモチャを見つけた猫のような声だった。
喜助は恐る恐る女を見た。女は心配そうに眉を潜めているが、その視線は喜助の股間で硬くなっているものに注がれて、熱っぽく湿っぽい。
「あっため過ぎちまったかもねェ……。あたしが体であんたをぎゅうぎゅうあっためたから、ちんちんが起っきしたんだねェ」
上半身を起した喜助に、女は四つん這いで近づいてくる。月明かりに浮かぶ淫らな曲線は、腰のところでキュッとしまり、尻の膨らみがよぅく分かる。月影が彼女の体を磨いたのか、それとも、月影そのものが彼女なのか……。女の見事な肢体が艶かしく蠢くたび、花のつぼみのような乳首が震える。湧き上がる情動の名を知らず、喜助の男はさらに硬くなってしまう。
「熱い……これ、治るの?」
「知りたいかィ?」
舌舐めずりをしないことが不思議なくらいの女の顔に、喜助はコクコクと頷く。
「じゃあ、」そう言って女の唇を赤い舌が這う。「あたしの言う通りにするんだよゥ」
その言葉に、喜助はなぜだか唾を飲み込んでしまっていた。
◆
「どうだィ? ぬら姐さんの乳挟みは」
「もっとムズムズするぅ……」
「んふふ、そうかィ、なら良くなってる、ってことサ」
女は喜助の肉棒を乳でさらに強く挟み込んできた。喜助は彼女に言われるままに、肉棒を弄ばれていた。
喜助は、ちんちんが硬くなってしまったことを恐ろしく感じてはいたが、彼女の乳に挟み込まれた感触は、悪くないものだった。むしろもっともっと挟み込んで、擦り上げてもらいたいとすら思う。
「わっ、お姉さん。唾を垂らしたら……」
「んふふ、ンッ、こうした方が……、滑りが良くなって、もっと気持ちが良いだろう」
彼女の激しい乳圧の上下運動に、喜助はちんちんのむずむずがより大きくなり、込み上げるものは収まりを知らなかった。
「お姉さん、僕、すごい変な感じで……」喜助は感じたことのない快楽という感情に、おっかなびっくりでありつつも、もっとして欲しいと思う。
「んふふ、いーい顔だねェ、気持ちよくて、雌が欲しいってェ顔だ」
「これが気持ち良いって感じなの?」
「そうそう、そうして大きくなって、びゅうびゅう精液を出すのサ」
「精液?」
「そうサ、そいつを出したら、ちんちんは小さく元どおりになる……」女は喜助の肉棒をさらにしごき上げ、「ハン、む……」
「うわッ」女に肉棒を咥えられた喜助は、悲鳴にも似た声をあげる。「お姉さん、そんなことしたら汚いよぉ」
「大丈夫サ、坊のちんちんが汚いわけなィ。ハム……もしも汚かったとしても、ペロ、……チュ、ちゅ。むしろ大好物だねェ」女は、股間の間から喜助を上目遣いで覗いてくる。少年を弄び、肉棒に媚びる雌の顔。「んふふ、ますます硬くなった。坊は坊でも、肉棒はちゃあんと男だったワケだ。チュ……、レロ、チロチロ……。ン……ンッ……ぷぱぁ……、おやおや、坊はここが弱いのかィ」
女は喜助の反応を満足そうに見て、自分の二つの肉山を出入りする亀頭に舌を這わせ続ける。満遍なくヨダレを滴らせ、彼女の白い肌に咲く花の刺青(スミ)が、淫靡に濡れていた。
「んふふ、いぃ子いぃ子……。だんだん濡れた男の顔になって行く……。ちゅ、んふふ、可愛い、可愛い」
自らの胸の中でピクピク震える幼い肉棒を、彼女は真っ赤な舌で愛(め)で続ける。
「あ、ダメだよお姉さん。なんだか僕おしっこが出ちゃいそうだ」
喜助の焦った声を聞いて、彼女はそれまで彼に這わせていた舌を止めた。ぬらぬらと肉棒を這っていた熱が離れて、喜助はホッとしたような、寂しいような気がした。
「んふふ」
喜助は女の笑い声に彼女の顔を見た。そうして息を飲む。月明かりが射していた。青い月明かりが、上気した彼女の白い肌をほの紅く照らす。少年への愛撫で昂った彼女の股からは、太ももを伝う蜜がこぼれていた。
紫色の彼女の瞳は、まるで二つのお月さまのようで。闇の中、その妖しい輝きに、喜助は吸い込まれて閉じ込められてしまうのではないかと思う。だが、不思議と怖くはなかった。
なぜなら、彼女の目は、彼を傷つけようとするものではなく、彼が欲しくて欲しくてたまらないという、情欲に爛れた、むしろ懇願するような色をしていたからだ。
少年は肩で息をしていた。これから彼女が何をするのかはわからないが、この先に進んでしまえば、自分はもう後戻り出来ないものだという、確信にも似た予感がある。彼は彼女と見つめ合う。
「んふふ」
女は笑う。
彼女は立ち上がり、その魔性の肢体を晒す。青い月明かりが、彼女の肢体のすみずみを這う。格子戸の影が彼女に絡みつき、まるで彼女を閉じ込めている鎖のように見えた。女ははち切れそうな乳房に手を伸ばす。彼女の指は押し込むままに胸の脂肪に沈み込み、蹂躙するように、その形を変え、「んゥ、ァあ……」自らの乳首をつまみ、虐めていた。
濡れた花の刺青(スミ)が、悶えるように蠢く。荒い吐息の女から、だらしのない涎がしたたる。
彼女は反対の手を自分の股間に伸ばす。押しひらくと、彼女という花の蜜がこぼれる。
「ンッ、ふっ、ァ、……ン」
彼女はほっそりとした指を股の割れ目に沈み込ませ、中の肉をほじくっている。「ゥ。……んん」
喜助は彼女が何をやっているのか分からない。だが、自分の股間が痛いくらいに熱くなるのを感じて、これは見てはいけないものなのだと思う。しかし、咲き誇る陰の華の痴態に、目を離せない。それに、離したくない。喜助は、この華を独り占めしたいと思ってしまった。
「坊ゥ……、あたしは坊が欲しくてたまらないよォ、坊も、あたしが欲しくはないかィ?」
悩ましい吐息の美女に、彼は何も考えることが出来ず、ただ首は縦に降(くだ)っていた。
「んふふ、……んぅ」
彼の前で股肉を押し広げ、見せつけるようにして、美女が腰を下ろしてくる。喜助はむき出しになった女の姿をまじまじと見てしまう。股間の真ん中が割れて、プツプツとした肉が見える。彼も彼女も荒い息で、彼の見ている前、少年の肉棒は、彼女の下の口に奥まで咥えこまれた。
「ぅ、わぁ、あああ……」
「ぁあ、坊の熱ぅいのがあたしの奥まで……」
彼女は恍惚として喜助にしがみついてきた。その体格差から、彼の頭は彼女の胸にすっぽりと挟み込まれ、ーー金木犀の香りがした。
肉棒に蕩けるような女の内肉が吸いついてくる。ドロドロに溶かされていくような熱い快楽に、少年は歯を食いしばって必死で耐えていた。
「いいねェ……やっぱり坊はイイ男だ」
鼓膜を凌辱してくるような甘い吐息に、彼は意識が飛びそうになる。
「イイんだよ。あたしのなかで白いおしっこをびゅうびゅう出しちまって。あたしをあんたの肉便器にしちまって……。そうしてあたしを孕ませて、あんたの女にして……。それがぬらりひょんを抱いちまった責任ってェもんサ」
聞こえているのか聞こえていないのか、喜助は彼女の奥までずっぽりと咥えこまれたちんちんが、吹き出してしまわないように必死だった。
「んふふ……」
彼女はネットリと笑い、
「出してくれないんだったら、出させてやるよゥ……」
そう言って腰を振り、膣で彼の肉棒を吸い上げる。
「だ、ダメッ……お姉さん、お姉さんの中におしっこ出ちゃう、あ、っあ……」
「んふふ、んぅ……、イイって言ってるだろォ……ンっ、ハァ……んッ、ンッ……。坊の精子が、坊の子っこが、あたしは欲しくて……アッ、アッあっあっ……」
「ダメェ、出るッ……」
「あ〜〜〜〜ッ、坊やでイッちまぅよぉお〜〜ッ!」
喜助は彼女の奥深くに、味わったことのない快感が噴出していくのを感じた。それは恐ろしくて、恐ろしくとも求めずにはいられない。ずっとこうして包み込まれていたいと感じてしまう感触だった。
「んふふ……、よぅく、出来ました」
女は喜助の頭を優しく撫でてきた。その手つきは優しいものだったが、子供を撫でる手つきではなく、愛しい夫に甘える手つきだった。
「イイ旦那が出来た。これであたしはここから出ることが出来るし、淫らで楽しい浮世を過ごせるってェもんサ。今からこれだったら、坊は末恐ろしくもあるしねェ……んふふ」
恍惚(ウットリ)と喜助を撫でるぬらりひょんだったが、胸から聞こえてきた抗議の声に、おや、と眉を曲げることになる。
「お姉さんの嘘つき……」
真実は言わなくとも嘘も言わないというのが信条の彼女だ。旦那となった少年からそんなことを言われては黙ってはいられない。
「それは心外だねェ……。あたしがいつ嘘を言ったってんだよォ」
そうたしなめる彼女だが、モジモジと動く少年の腰の動きから、彼が言いたいことを察したようだった。彼女の中にあるものは、まだまだ猛々しく熱い。それに気づいて、彼女は驚くとともに背筋がぞくぞくとする。
彼女は彼の上から退いて、”それ”に唇を吊り上げる。幼い体には不釣り合いなものが、雄々しくそそり立っている。
彼女は四つん這いになり、彼に形良く張った尻を向ける。太ももに、白濁と赤い筋が垂れていた。
「あたしは嘘は言っちゃあいないサ。坊のちんちんが治んないのはね、まだまだ白いおしっこを吐き出したりないのサ。ほらほら、あたしの女陰(ほと)にちんちんを入れて、もっともっと突いておくれ」
彼女はそう言って尻を降る。少年は誘われるままに肉尻に手をかけ、肉棒を彼女の入り口に触れさせる。二人の汁が混ざり合う、淫靡な睦み音が立つ。
「そうサ……そうそう、そのまま奥までずっぷりと射し込んで……んゥ、いいよォ……。ンッ、あっ、あっ、あっ……坊の、好きなようにあたしを使えばいいのサ」
女は自分にのし掛かって後ろから好き勝手に突いてくる少年の欲望を愛しく受け止める。肉と肉がぶつかり、乳が揺れ、汗がはじけ、呻き声のような互いの嬌声がお堂に響く。
女は喘ぎ声に乗せて、淫らに底のない情欲の瞳を潤ませる。
「あたしはぬらりひょん、百鬼夜行の主、あんたの白濁でも染めきれない、真っ黒な陰の華。坊の欲望で、目一杯愛でて欲しいねェ。んふ、んふふふふふふ……」
淫らな陰の華は、少年によって、再び浮世の夜に咲き誇るのだった。
◆
「ただいま……」
次の日、朝帰りになってしまった喜助は、恐る恐る家の戸を開けた。
「喜助ッ!」
案の定母親の声が飛んできた。その声にひゃっと肩をすくめる喜助だったが、その後に続いてきた言葉は信じられないものだった。
「まったくこの子ったら、嫁さんと一緒だったっていうのに、野宿とかしたわけじゃないだろうね?」
「え? 嫁さん……?」母親の言葉に、喜助は目を白黒とさせる。
「大丈夫サァおっかさん。ちょうどいい宿があったから、問題なんてなぁんにも無い、のサ」
喜助の後ろからは、彼が昨日会ったばかりの女の声が投げかけられる。
「そうだねぇ、ぬらちゃんが居てくれたから心配はしてなかったけどねぇ。朝ごはんは残ってるから食べるんだったら早くお食べよ」そう言うと母親はクルリと背を向けてしまう。
喜助は女と母親を交互に見比べる。女はなんら不思議なことなど何も無いと言った態度で、むしろ自分こそがこの家の主人なのだと言わんばかりの態度で、喜助の家の敷居をまたぐ。
呆然としている喜助に向かって女はニィ、と唇を吊り上げて艶やかに笑う。この女は、陰の中だけではなく、日の中でも存分に美しい。夜の住人であるくせに、お天道さますら欺いて、堂々と咲き誇る……。
喜助は改めて、自分はとんでもないものを外に出してしまったのだと思う。だが、
「坊ゥ、はやくこっちへ来ておくれよォ、あんたがいないとあたしは寂しくてしょうがないのサ。なんせ、あんたはあたしの旦那なんだからサァ」
そう言って悪びれもせず、くったくなく笑う彼女の顔を見ると、ま、それでもいいか、と喜助は思えてしまうのだった。
18/01/20 13:40更新 / ルピナス