amaMonサービス
通販サイトamaMonから小包が届いた。
「それではここに印鑑をお願いします」
「これ、婚姻届なんですが……」
「あ、すいません。私の印鑑がまだでした。ハイッ、と」
「違ぇよ！」
奇妙なフルフェイスの配達員から小包を受け取った俺は、そそくさと玄関の鍵をしめる。
「ぐッ……なんで商品名を外に貼る……。隠すなら顔じゃなくてこっちだろ」
ダンボールに磔にされた商品シールは、まさしく俺の公開処刑だった。
「まさかこれを紛らわせるためにあんなギャグをしたのか……？」
だが俺は気づいている。俺に向けられていた生暖かい視線に……。あの豊満な体つきは、女性だった。ボケてくれたところできっと、ヘルメットの下には養豚場の豚を見るような目が収まっていたに違いない。
「いいさ、あの娘（こ）のスタイル好みだったし、その顔を想像してオナってやる！」
自分で言ってちょっと泣きそうになりつつ、俺は手元の小包に目を落とす。大きさの割には重さがある。
ーーアダルトグッズ専門通販サイトamaMon。
『あなたの性癖すべて叶えます。淫らな夜に淫らなお供、性戯の味方amaMon』
そんな謳い文句もしっかり商品シールには記載されている。どうやら羞恥プレイのサービスも料金には含まれていたらしい。
オナ友の緑のタヌタヌさんから勧められたサイトだ。そんなことを言うと誤解されそうだから言っておけば、オナ友は男だ。あいつが女だったらどれだけ良かったことか。
はぁ？ おナニーの見せ合いっこなんてするわけないだろ！
ネット上でグッズの情報交換をしてるくらいだ。会ったことはない。
奴から教えてもらったサイトで商品を吟味して、そうして注文した商品がようやく届いた。
クリスマス、独り身の男にアダルトグッズを配達してくれたのがフルフェイスメットの女性、……とんだ聖なる夜だ。そして悲しい夜だった。
こぼれ落ちそうになる涙をこらえながら、俺は配達員の言葉を思い出す。
ーー繊細なので、絶対に落とさないでくださいね。
フルフェイスの彼女は、妙にくぐもった声で俺に念を押していた。
「繊細って……オナホだろ、これ」
俺が頼んだ商品は、ナニを隠そう、オナホだった。ただのオナホだ。繊細なオナホってどんなオナホだよ。そんなオナホ使えなくないか？ どうか、使えるオナホであってください。
と、聖夜にオナホに祈りを捧げる残念な男が俺だ。
「ま、スッゲーイイって聞いてるから、楽しみだな。他のメーカーに戻れなくなるって噂だし。……よっ、と」
俺はベッドの上にオナホの小包を下ろす。
ーーベッド！？ 最初からベッド！？ これから私は、まるで物のように扱われるのですね……興奮します！
「ん、なんだ？」
何か声が聞こえた気がしたが、耳をすませても何も聞こえない。
「気のせいか、あ……」
と気づいた俺はゲンナリとする。
もしかすると隣の家の声かもしれない。きっと彼女を呼んで、性なる夜を過ごそうとしているのだ。
「あ〜あ、彼女欲しい……」
ポツリと漏らした声が、一人っきりの部屋に滲んで消える。はぁ、という俺のため息に、ハァハァ、という息づかいが混じる。
「え……？」
ーー情報通り独り身でした。 ハァハァ、しかし息苦しいです。
「…………」
今、確かに何か聞こえた気がする。くぐもった声で、それでいて可愛らしくも聞こえる声……、俺は思わず唇を引きつらせてしまう。
「誰か、いるのか？」
俺は恐る恐るカーテンを開ける。外は真っ暗で、鍵はきっちり締めてある。
俺が席を外したのは小包を受け取る時だけだった。その隙に忍び込むような泥棒がいるだろうか。もしいたとしても、そんな腕をもつ泥棒が、見るからに盗むものもないような俺のうちに来るはずがない。
聖夜に現れたのが真っ赤なサンタクロースじゃなくて真っ黒な泥棒って……。と、俺は古典的な黒いほっかむりに、黒い装束の泥棒を思い浮かべる。いや、そんな泥棒いるワケないだろ。
そう思った時、ふと連想してしまった。
ーーブラックサンタ。
良い子のところに現れるのが赤い服のサンタクロースというのなら、悪い子のところに現れるのが黒い服のサンタクロースだ。その袋の中には内臓が詰まっていて、悪い子に向かってぶちまける。
そういえば、さっきの配達員も、おかしな黒い服を着ていた。まるで清掃業者のような……。
「はは……まさか、な」
水に一滴だけ垂らされた、赤インクのような疑惑に、俺は知らず、冷や汗をかいていた。受け取った小包に目を向ける。さっき置いたベッドの上からは動いていない。大きさの割には重量があって、小包を中心に布団が凹んでいる。
その凹み方は、ちょうど俺が寝ていた枕の凹み方に似ていた。
俺の”頭”の中で、先ほどの配達員のくぐもった言葉がリフレインする。
ーー繊細なので、絶対に落とさないでくださいね。割れてしまいますから。
割れてしまう。
繊細。
ブラックサンタ。
それらは蜘蛛の糸のようで、粘ついた巣が俺の脳内に形成されていく。
「いや、いやいやいやいや」
俺は慌てて”頭”を振る。が、
あの小包の大きさ、あの重さ。
まるで人の頭のような……。
俺はゴクリと唾を飲み込んでしまう。肌が粟立っていた。一度張られた蜘蛛の巣は、逃れようともがけばもがくほどに体に絡みついてくる。
男が縛られたところで何も愉しくない。そう、”頭”の中で言ってみるが、心を落ち着けるどころか逆効果になっている。
「そ、そんなバカなこと、あるワケが……。だって、俺が頼んだのはただのオナホで……」
小包の中にはみっしりと人の”頭”が詰まっていた。
真っ黒い清掃服のような制服の配達員の姿が”頭”に浮かぶ。
そんな嫌な想像を振り払うため”頭”を振り、俺は小包に手をかける。
頭じゃない頭じゃない頭じゃない。
そう考えるほどに、小包に入った女の生首を想像してしまう。
頭じゃない頭じゃない頭じゃない、頭頭頭頭、頭…………。
まるで夢遊病者のような心持ちで、俺は小包を持つ。それは、ズッシリと、
ーー人の頭の重さがした。
「ぎ、ぎゃああああああ！」
俺は思わず小包を放り投げた。人の頭など持ったことはない。が、そうとしか思えない重みだった。飛んでいく小包から、
ーーキャアアアアアア！
女の悲鳴が聞こえた。
俺の背筋は氷を押し当てられたように冷たくなり、もう立ってはいられなかった。
ドンドン！ ドンドン！
けたたましくドアが叩かれた。焦った、無遠慮な叩き方だった。
俺は腰を抜かしてしまったまま動けない。悲鳴を聞いて駆けつけてきた隣の住人だろうか。すぐに部屋に入ってきて助けて欲しいが、声を出すことすらできず、俺は鈍器で叩くような響きを聞いていた。それは、二日酔いの鈍痛にも似て、巨大な怪物が近づく足音のようでもあった。
ドンドン、ドンドン。
音はドンドン強くなる。
ーーひ、ひどい。優しくしてって言ったのに放り投げるなんて……。素敵……ッ、もう我慢できません！
「ヒィ……」
再び聞こえた声に、俺の口からは掠れた息が漏れた。
何が起こっているか分からず、俺はただ震えることしかできない。
いつの間にか、ドアを叩く音は止んでいた。
だが、カチャリ。
ギィイイイイイ……
「あ、あああああああ……」
ドアが一人でに開いていく。何故？ いや、そんなのは分かりきったことだ。だって、その向こうには、”彼女”が立っていたのだから。
ドアのノブが壊れている。彼女の手には金づちが握られている。
あれで、俺を殺すつもりなのか。フルフェイスのヘルメットの彼女の姿と、白いお面のジェイソンの姿が重なる。彼女の手から金づちが落ちる。
甲高い金属の音が響いた。
俺にこの小包を届けてくれた配達員。真っ黒な清掃員のような制服を着ている。その彼女が俺に向かって歩いてくる。
女性にしては背が高い。玄関から彼女が近づいてくると、言いようのない、不気味さという圧迫感が迫る。プロポーションはいいが、真っ黒な清掃服じみた制服に身を包んでいると、まるでルパンの不◯子ちゃんの変装のようでもあって、俺を処理しに来た殺し屋（プロフェッショナル）に見えてしまう。
その”頭”はフルフェイスのヘルメットだ。
呆然とした俺に向かって、彼女は壁に手を添わせ、まるで手探りのように近づいてくる。
グラグラと、頭に乗っかったヘルメットが揺れる。
今にも落っこちそうに揺れている。それは今にも転がり落ちそうな、俺の理性のようだった。
腰を抜かしたままの俺の前に、彼女が立つ。その時、彼女の首が、……落ちた。
ヘルメット下に、彼女の顔はなかった。
「あ、ははははは」
俺は涙をこぼして、バカみたいな顔で笑う。
首のない女が俺を見下ろしている。豊かな乳房の向こうに、彼女の頭はない。
彼女はおもむろに小包に手を伸ばし、封を開ける。俺は唇をわななかせ、それを見ているだけしかできなかった。
小包の中から彼女の手が引き出されると、そこには、俺が想像していた通りの、一つの美しい女の生首が……。
「問おう、私があなたのプレゼントか」
キリッとした口調の彼女。
理性が限界突破していたが、俺は……。
「クーリングオフで、お願いします」
そう、絞り出したのだった。
ーー後日談
「おらおら、お前は俺が買ったオナホだろ」
「は、はいぃぃぃ。私（わらひ）は、ご主人様のオナホですぅううう」
家事をしてくれている彼女の体を見つつ、俺は彼女の頭(オナホ)を使わせてもらっていた。
どう使っているかは、各人のご想像にお任せする。
クリスマスに売れ残るのは嫌だ、せっかくセリフを考えて待ってたのにあんまりだ、と泣きついてきたデュラハンの彼女を、俺はクーリングオフもせずに毎日使わせていただいている。
何を隠そう、あの首（オナホ）はあの配達員の私物（あたま）だった。
私物を送りつける、生物（なまもの）を送りつける。（彼女はアンデットなので、正確には生物ではないのかもしれないれど）
amaMonに対して言いたいことは色々あるが、彼女と出会えて寂しい聖夜を過ごさずに済んだので、どこに本社があるのか分からないが、amaMonさんにはもう足を向けて寝られない。
彼女なのに扱いが酷くないか、優しく扱えって言ってなかったか、だって？
いや、これは俺の性癖じゃなくてだな、彼女の……。
「もっとォ、もっと乱暴にしてくださいィ！」
「待て落ち着け。乱暴なのはお前だぁあ！ そ、そんな風にしたらおち◯ちんが、おちん◯んが爆発すりゅぅううう！ …………ぅっ」
ーー彼女が届くよ、アーマモン♪
自分へのご褒美は、ぜひamaMonで！
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「まさかこれを紛らわせるためにあんなギャグをしたのか……？」
だが俺は気づいている。俺に向けられていた生暖かい視線に……。あの豊満な体つきは、女性だった。ボケてくれたところできっと、ヘルメットの下には養豚場の豚を見るような目が収まっていたに違いない。
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フルフェイスの彼女は、妙にくぐもった声で俺に念を押していた。
「繊細って……オナホだろ、これ」
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「え……？」
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「…………」
今、確かに何か聞こえた気がする。くぐもった声で、それでいて可愛らしくも聞こえる声……、俺は思わず唇を引きつらせてしまう。
「誰か、いるのか？」
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俺が席を外したのは小包を受け取る時だけだった。その隙に忍び込むような泥棒がいるだろうか。もしいたとしても、そんな腕をもつ泥棒が、見るからに盗むものもないような俺のうちに来るはずがない。
聖夜に現れたのが真っ赤なサンタクロースじゃなくて真っ黒な泥棒って……。と、俺は古典的な黒いほっかむりに、黒い装束の泥棒を思い浮かべる。いや、そんな泥棒いるワケないだろ。
そう思った時、ふと連想してしまった。
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そういえば、さっきの配達員も、おかしな黒い服を着ていた。まるで清掃業者のような……。
「はは……まさか、な」
水に一滴だけ垂らされた、赤インクのような疑惑に、俺は知らず、冷や汗をかいていた。受け取った小包に目を向ける。さっき置いたベッドの上からは動いていない。大きさの割には重量があって、小包を中心に布団が凹んでいる。
その凹み方は、ちょうど俺が寝ていた枕の凹み方に似ていた。
俺の”頭”の中で、先ほどの配達員のくぐもった言葉がリフレインする。
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割れてしまう。
繊細。
ブラックサンタ。
それらは蜘蛛の糸のようで、粘ついた巣が俺の脳内に形成されていく。
「いや、いやいやいやいや」
俺は慌てて”頭”を振る。が、
あの小包の大きさ、あの重さ。
まるで人の頭のような……。
俺はゴクリと唾を飲み込んでしまう。肌が粟立っていた。一度張られた蜘蛛の巣は、逃れようともがけばもがくほどに体に絡みついてくる。
男が縛られたところで何も愉しくない。そう、”頭”の中で言ってみるが、心を落ち着けるどころか逆効果になっている。
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小包の中にはみっしりと人の”頭”が詰まっていた。
真っ黒い清掃服のような制服の配達員の姿が”頭”に浮かぶ。
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頭じゃない頭じゃない頭じゃない。
そう考えるほどに、小包に入った女の生首を想像してしまう。
頭じゃない頭じゃない頭じゃない、頭頭頭頭、頭…………。
まるで夢遊病者のような心持ちで、俺は小包を持つ。それは、ズッシリと、
ーー人の頭の重さがした。
「ぎ、ぎゃああああああ！」
俺は思わず小包を放り投げた。人の頭など持ったことはない。が、そうとしか思えない重みだった。飛んでいく小包から、
ーーキャアアアアアア！
女の悲鳴が聞こえた。
俺の背筋は氷を押し当てられたように冷たくなり、もう立ってはいられなかった。
ドンドン！ ドンドン！
けたたましくドアが叩かれた。焦った、無遠慮な叩き方だった。
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ドンドン、ドンドン。
音はドンドン強くなる。
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「ヒィ……」
再び聞こえた声に、俺の口からは掠れた息が漏れた。
何が起こっているか分からず、俺はただ震えることしかできない。
いつの間にか、ドアを叩く音は止んでいた。
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ギィイイイイイ……
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あれで、俺を殺すつもりなのか。フルフェイスのヘルメットの彼女の姿と、白いお面のジェイソンの姿が重なる。彼女の手から金づちが落ちる。
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その”頭”はフルフェイスのヘルメットだ。
呆然とした俺に向かって、彼女は壁に手を添わせ、まるで手探りのように近づいてくる。
グラグラと、頭に乗っかったヘルメットが揺れる。
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ヘルメット下に、彼女の顔はなかった。
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家事をしてくれている彼女の体を見つつ、俺は彼女の頭(オナホ)を使わせてもらっていた。
どう使っているかは、各人のご想像にお任せする。
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何を隠そう、あの首（オナホ）はあの配達員の私物（あたま）だった。
私物を送りつける、生物（なまもの）を送りつける。（彼女はアンデットなので、正確には生物ではないのかもしれないれど）
amaMonに対して言いたいことは色々あるが、彼女と出会えて寂しい聖夜を過ごさずに済んだので、どこに本社があるのか分からないが、amaMonさんにはもう足を向けて寝られない。
彼女なのに扱いが酷くないか、優しく扱えって言ってなかったか、だって？
いや、これは俺の性癖じゃなくてだな、彼女の……。
「もっとォ、もっと乱暴にしてくださいィ！」
「待て落ち着け。乱暴なのはお前だぁあ！ そ、そんな風にしたらおち◯ちんが、おちん◯んが爆発すりゅぅううう！ …………ぅっ」
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自分へのご褒美は、ぜひamaMonで！
18/01/06 20:59更新 / ルピナス