読切小説
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肉の揺りかご
彼女はジャングルの中を彷徨っていた。
生い茂る蔦ををあてどもなくかき分けて進む。服はじっとりと湿って肌に張り付き、控えめな乳房の谷間を、汗が滑っていく。
密度の高い湿気と熱気で、まるで人体の中に踏み入ってしまったような気持ち悪さ。得体の知れない動物や鳥たちの鳴き声は幻聴のようだった。
彼女はこのジャングルを訪れた調査隊員の一人だった。斜面で足を滑らせた彼女は、目的地で合流しようと思い、コンパスを頼りに歩みを進めた。だが、それは裏目に出た。このジャングルの地質には磁気が含まれているようで、コンパスが役に立たなかったのだ。
落ちた衝撃で通信機器も役に立たない。ジャングルであれば何かしら水気を含んだ植物、果実なり見つけられると思ってはいたのだが、まるで異界に紛れ込んだかのように、進むにつれて見たことのない巨大な植物が視界を埋め尽くしていった。
この時の彼女は気づいてはいなかったのだが、あてどもない彷徨のうち、彼女はいつしか漂ってくる甘い香りにおびき寄せられていた。
まるで爛熟した果実のような、濃厚な香り。
彼女は意識することなく、その方角に向かって進む。
朦朧としていく意識の中、
ーー私はこのまま死んでしまうのだろうか。
ーー死んで、このジャングルの一部になってしまうのだろうか。
そんな考えが霞のように頭を覆っていった。
どれだけ歩いたのだろう。
ふと、ひんやりとした石の感触を覚えた。いつの間にか洞窟に迷い込んだらしい。夢中で蔦を掻き分けていたせいで、気がつかなかった。
最後の蔦を掻き分けた瞬間、彼女の前には石でできた広い通路が開けていた。
この洞窟はいたるところに隙間があり、そこから蔓が入り込んできているようだった。壁は蔦に覆われている。洞窟の中だというのに、完全な暗闇ではなく不思議と視界はきく。その隙間から光が届いてくるのかもしれない。風景がそう変わらなかったことも、彼女が気がつかなかった理由の一つだろう。
奥に進んで行くと徐々に湿度がさがり、温度も下がっていく。もしかすると、この先には泉でも湧いているのかもしれない。彼女はまるで何かに導かれるかのように、あたかも夢遊病者のように奥へ奥へと向かう。
ーー水があれば、助かるかもしれない。
彼女は淡い期待を抱いた。
洞窟の奥は、ちょっとしたホールのような広さがあった。壁も床も天井も蔦に覆われ、床からはまるで鍾乳洞のように奇怪な形の岩がせり出して、それも蔦に覆われている。
彼女はその先に行く道を探した。壁の蔦を掻き分けてどこかに通路が開いていないか彼女は必死で探す。だが、そんなものはなかった。
「行き止まり……」
彼女は愕然として膝をついた。
ーーああ、私はここで一人っきりで死んでしまうのだ。
彼女の心を絶望が支配した。
虚ろな目をした彼女は、ふと、他の蔓とは違った色の蔓を見つけた。ピンク色で毒々しい色合い。だが、その表面には水滴がつき、ひどい渇きを訴えていた彼女の喉はーー半ば自暴自棄な気持ちもあいまって、その蔓に思わず舌を這わせて水滴を舐めとってしまった。
彼女の意識に光が射した。それはあたかも雲間から日光が射しいったよう。彼女は大きく目を見開いた。
ーー甘い。それにおいしい。
この液体には糖分も含まれているらしい。水分を求め、甘味を求め、彼女は夢中で、ピンク色の、ともすれば肉々しいともいえるその蔓を舐めた。液体は次々と蔓から浮き出てくるようで、いつしか彼女はジュポジュポと口いっぱいに頬張り、抽挿するように吸った。
夢中になった彼女の唇の端からはその液体と彼女の唾液が混じった汁が垂れ、淫靡な雫となっていた。
どうやらこの液体には栄養も含まれているらしい。体に力が戻ってくるような気がする。そして徐々に意識もハッキリしてきて……。
彼女は自分のやっていたことに気がついて、真っ赤になった。今の行為はまるで、男性器を舐めているようではなかったか。以前、男性隊員が持っていた卑猥な本で見たことがある。彼女はそれに気がついた時、自分の股間に疼きを感じた。
「何……これ」
初めての感覚だった。下腹部からドロドロとマグマが湧き出てくるような感覚。彼女はそれに怖気付いた。しかし、股間の疼きは止まらず、本能的に湧き上がる好奇心に、彼女は恐る恐る右手を伸ばした。その刺激に彼女はビクリと体をのけぞらせる。
なんだこれは。まるで身体中に電流が走ったような。
怖い。
でも、怖いながらもまた感じてみたいような……。
彼女は再び自らの股間に手を伸ばす。
ビクリ。
ビクリ。
いつしか彼女はズボンの上から何度も陰部をなぞり、そのうち直接触ったのならばどうなるのだろうと、ズボンをおろしてショーツの中に手を差し入れてみた。ほどよく鍛えられた太ももの間の茂みを掻き分けて、彼女は割れ目に指を触れる。
彼女の視界は明滅した。
その衝撃は先ほどまでの比ではなかった。
彼女は身体中の細胞が全て震えるような感覚を、さらに求めてその行為を続けた。ショーツは彼女の中から溢れ出してきた液体でグッショリと濡れ、卑猥な音が石の床に撒き散らされる。
ーーダメだ。このままじゃせっかく取り戻した水分が出て行くばっかりだ。
彼女は快楽に染まった頭でゴクリと喉を鳴らすと、先ほどまで加えていたピンク色の蔓を、再び口に含んだ。
クチュクチュと。
ジュポジュポと。
彼女の上からも下からも卑猥な音がたつ。
だから、彼女は気がつかなかったのだ。ピンク色の蔓は彼女が咥えている一本だけではなく、いつしか彼女の周りに集まって、まるで今にも獲物を丸呑みにしようとする蛇のように、ぬらぬらと粘液を垂らしていたことに。
それはーー触手だった。
「きゃっ!」
触手の一本が彼女の足首に巻きついた。驚いた彼女は急いでそれを外そうとするが、触手は次々と彼女に巻きついてきた。四肢をからめとり、動けない彼女の素肌を這い回った。彼女は諸手を縛られて吊り下げられ、胸を突き出すことになった。足もまとめて触手に縛られている。
「やだ……やめて」
触手から分泌された粘液が肌を濡らす。その粘液が触れた部分は敏感になっているようで、触手の蠢きに、えもいわれぬ快感が伝わってくる。だがそれは蛞蝓が這い回っているようで気色が悪い。触手は服の上から無遠慮に彼女の胸も股間もさすり、やがてそれは彼女の服の中に……。
「いやぁ……んぅッ、ングぅ」
彼女は抗議の声は、無理矢理口内に入り込んだ触手によって黙らされた。彼女は涙目に顔を真っ赤にさせて、口内いっぱいの触手を感じた。触手は容赦なく彼女の喉を陵辱する。
ビクン。と彼女は新しい官能の電流に身をわななかせた。
彼女の乳房に触手が巻きつき容赦なく揉みしだいたのだ。細い触手がその先のピンク色の蕾に手を伸ばす。しこり始めた乳首に巻きついていく。乳房を弄ばれ、彼女は新しい快楽の波に押し流された。彼女の体が絶頂に震える。
だが触手に自由を奪われている彼女は、身をよじらせることもできない。
口内の触手が喉奥で何かを吐き出した。彼女の剥き出しの白い喉が音を立てる。彼女はされるがままに、それを胃の腑に流し込まれた。
ーー苦くて臭い……。
粘度の高い液体が、体の中から熱を伝えてくる。
欲望を吐き出した触手が彼女の口から抜き出される。触手の先からはまだ白濁が放出され、彼女の火照った肌を汚した。粘つく汚液に彼女は嫌悪感を抱いた。
だが。
ドクン、と。
彼女は胎動のような熱を覚えた。溶けていってしまうほどに体が熱い。肌の感覚がさらに鋭敏に、下腹部の疼きは噴火寸前の活火山のように脈動していた。絶え間なく送り込まれる胸の快感に、彼女は恐怖を覚える。
このまま嬲られ続ければ、自分は壊れてしまうのではなかいか。そんな彼女に構わず、触手は彼女の足を引いて、股を開かせようとした。
「いや、やめてッ」
彼女は懇願するように叫んだ。触手が何を求めているのかを悟ったのだ。だが彼女の抵抗も虚しく、彼女のM字型に足を広げられ、尻の肉が前からも見える。
「いやぁあ……」
すでに彼女のショーツは下着の意味をなさないほどにぐっしょりと濡れ、肉の蜜がいやらしくしたたっている。触手は器用にショーツを引っ張り上げた。
「だめぇ……んぁあッ」
彼女のショーツが破られた。途端、敏感な肉は空気に晒されただけで新たな快楽を生んだ。だというのに触手は容赦なく彼女の、まだ触れられたことのない肉のヒダをなぞり、蕾のままだった肉の芽を剥く。肉の芽には細い触手が巻きつき、次々に苛烈な快楽の電気信号が迸った。
官能の渦に飲み込まれた彼女はよだれを垂らし、顔が蕩け始めていた。
再び触手が口に差し込まれた。だが彼女はそれを自らの受け入れたようだった。白濁まじりの彼女の唾液が、顎を伝って乳房に垂れる。彼女の瞳は虚ろに宙を彷徨うが、情欲の色に染まっていた。さらなる快感を求めた彼女の腰が、甘えるように小刻みに揺れていた。
細かな触手が、閉じていた肉の扉を広げた。まるで肉の花が咲いたようだった。そして一本の触手が彼女の中に侵入した。
「ヒグッ!」
ミチミチと体内を満たして押し広げていく異物の感触に、彼女は嗚咽とも嬌声ともつかない声をあげた。
触手はナカのヒダヒダを丹念にしごき上げ、奥にあった膜にふれる。
未知の扉が開かれる予感に、彼女は不安と期待で、口に触手を入れたまま首を振る。目尻には涙が滲む。
ブチ。
触手は彼女の秘密の膜を破った。触手を彼女の初めての血がつたった。
痛みはない。触手の粘液は、痛みを消し去り快楽を増幅させていた。
奥の奥まで入ったそれはさらなる抽挿を繰り返し、彼女のさらに奥、子宮口を容赦なくノックする。ゴリゴリと内側から響いてくる感覚に、もはや彼女は顔を蕩けさせ、それをさらに求めて腰をくねらせる。
彼女の喉からはくぐもった喘ぎ声が漏れている。
彼女に求められた触手は彼女の後ろの穴にも粘液を塗りつける。
彼女の瞳に若干の不安の色が兆したが、次の快楽への期待がそれを塗りつぶした。
「ンぎッ」
排出するはずの穴に逆流して入ってきた触手に、腸壁を擦られ身をよじらせる。やがて、熱く震えた触手は彼女のナカに白濁した粘液を吐き出した。
絶頂につぐ絶頂で、彼女の口からは触手がぶるんととびだし、彼女は獣のような雄叫びをあげ、その声に応えた触手たちが彼女の外側にも白濁の粘液を吐き出していく。ナカもソトも汚された彼女は快楽の海に溺れた。
「もっと、もっと犯して……。気持ちいいの、ちょうだい」
理性の壊れただらしない顔で、彼女はうわ言のように言った。
触手はまるでイソギンチャクのように彼女に群がり、彼女のナカもソトにも愛撫繰り返した。彼女は恍惚としてそれを貪る。
だから、頭の中に響いた声を理解することができなかったのだ。

ーー障壁崩壊、前処理完了。
ーー此レヨリ、次ノ工程二移行シマス。

ピンク色の触手は彼女に快楽を与えつつ、まるで肉の繭のように彼女を包み込んでいく。
彼女の乳房を愛撫し、彼女の穴という穴に触手は入り込んでいる。
蔦に覆われた石の壁でしかなかったホールの一部に亀裂が入った。
重たい音を立てて、それは扉のように開いた。肉繭に包まれた彼女はその中へと収納されていく。触手は全てそこから伸びていた。再び重い音を立てて扉が閉まる。
すると扉には古代の文字が、まるで最新機器の電光掲示のように浮かび上がっていた。
ホールの床から伸びていた鍾乳洞のようなオブジェにも同様の光と文字が浮かび上がっている。石の壁から床から、徐々に重たい稼動音が大きくなっていく。
ホールは今や猛獣のような唸り声をあげていた。
どこからともなく機械音じみた音声が流れる。それは聞いたことのない言語だったが、ただ意味だけを取ることができた。

ーー施術ハ順調。オートマトンノ調整二問題ナシ。
ーー各工程ノ進捗ゴトニ、胸部増大、感度拡張処理、処女膜復元等ヲ行イマス。

扉の向こうに収納された彼女は、肉の触手によって改造されていた。彼女が痛みを感じることはない。彼女が感じるのは、ただ、快楽だけなのだ。
彼女が石の洞窟だと思っていたここは、古代の遺跡だった。
人間をオートマトンへと改造する超古代の工場。だが、オートマトンになるのは女性のみである。
今石の扉の向こうで、触手の揺りかごに揺られる彼女は、彼女を探すために遅れ、やがてやってくる調査隊員たちを機械の体で出迎えるだろう。女性は新しいオートマトンの材料として、男性は彼女たちの伴侶として。この遺跡は歓迎する。
石の扉の向こう。官能の渦の中から、彼女はやがて産声をあげる。

機械音じみた音声が、祝福の言葉を告げる。
ーー起動、問題ナシ。
ーー動作確認、実行。
ーー性行為二ヨル微調整ヲ行イマス。
石の扉が厳かに開いていく。
そこから出てきたのは一体の美しいオートマトンだった。
彼女はかつての調査隊の仲間たちをここへと導くために、遺跡の外へと向かう。
…………。
そのジャングルに向かった調査隊は、誰も戻ることはなかったという。
17/09/07 14:31更新 / ルピナス

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