伝説の……
ピリリリリ。
その日、そのアプリをインストトールしている男(もののふ)たちのスマホが一斉に鳴った。
【お知らせ】
限定解除クエスト:本来あなたの攻略対象ではありませんが、魔物娘側からの要請により、一部の魔物娘の攻略者制限を解除いたします。危険な存在である彼女たちを攻略するかどうかは、自己責任でお願いいたします。
何か問題が起ころうと、当方一切対応いたしませんのでよろしくお願いいたします。
◆
俺は総合格闘技をやっている。この地区では敵なし。相手が女でリングがベッドだろうそれは変わらない。俺はスマホを手にしている。そこにはとあるアプリが起動されている。
まもむすGO。
この世界で正体を隠して暮らしている魔物娘。彼女たちの正体を暴き、手篭めにしろという過激なふれこみのゲームだ。俺はこれでアマゾネスの嫁を手に入れた。
俺が満足できるまで耐えられる女がいなくなっていた時に出会った彼女は、一言で言って、サイコーだった。俺も満足していた。だが、馬鹿な男の性として、それなら他の魔物娘はどうなのだ、と考えてしまった。だが俺の攻略対象として限定解除される相手はいなかった。
断っておくが俺は嫁を愛している。だがこの衝動は抑えられない。それに嫁も、「あんたが強者であるならば、何人も嫁を作ってもかまわない」とも言っていた。強いものはより多くの女を手に入れて幸せにする義務があるらしい。
今回の【お知らせ】を受け取ったのはそんな時だ。
これは俺にうってつけのクエストだった。文面からして、危険な匂いがするじゃないか。俺は危険を求める男でもある。
俺ははち切れんばかりの筋肉に、力を込める。俺の危険な香りを感じ取った勘のいい奴らは俺から距離を置く。
そうして俺は期待に胸と股間を膨らませ、そこにたどり着いた。
そう語る彼は、そんな事を考えていた人物だとは到底思えない穏やかな風貌の青年だった。ここは穏やかな光が差し込むとある喫茶店。私は記者として彼にインタビューを行なっていた。
「浮気なんかしようとするかだ。ばーか」
嫁のアマゾネスに頭を叩かれても彼は苦笑するだけ。はち切れそうな筋肉、というものはもうないが、その代わりになにか、芯の通った貫禄のようなものを身にまとっている。彼は遠い目で語る。
「そうだ。俺は自分が強者だと奢っていた。それを気づかせてくれた彼女たちには感謝してもしきれない」
彼はその強者だという存在に出会い、格闘技をやめて、それまで貯めた賞金でこの喫茶店を開いたのだという。
「それで、たどり着いた後はどうなったんですか? もしかして彼女たちに叩きのめされた、とか?」
ボイスレコーダー片手の問いかけに、彼はただ首をふった。
「ーー何も。俺はその姿を見ただけで、これは勝てない、と思ってしまったんだ。あれが、頂きというものか……とね」
そう言う彼は、少しだけ寂しそうに笑っていた。
◆
ふふん。僕はお金持ちだ。
貧乏人どもはこのアプリを使ったところで遊び尽くすことなど無理だろう。お金持ちの僕は精力剤も使い放題。触手プレイも分身プレイも体内回帰プレイだって、思いのままだ。僕はこのアプリのおかげで人間には体験させられない快楽を存分に味わった。
僕の嫁はキキーモラだった。
僕の言いつけをきちんと守る、ま、言ってみれば奴隷だね。うん? ひどい扱いなんてしていないさ。だって、そうするとあいつ怖いし……ゴホン。そんな事はどうでもいいんだよ!
だから、僕が新しい嫁を作ったって何も言いようがないのさ。
でも残念ながら、僕のアプリにはあいつのゲット済みのマーク以外映らなかった。ふん、僕に恐れをなして魔物娘たちはその股を開くことを躊躇っているらしい!
だからその【お知らせ】を受け取った僕は是非もなく飛びついたね。危険な魔物? むしろ望むところだ。僕の課金アイテムとテクだったらイチコロさ。そんな事、決まってる事じゃないか。
課金アイテムの、我が友天の触手ならどんな魔物娘だって雁字搦めにして超絶絶頂間違いなしさ。僕は精力剤を飲みながら、リムジンで運ばれて、あの場所にたどり着いたのさ。
「僕は、そんな鼻持ちならないやつだったんですよ」
気恥ずかしそうな彼は、その話にそぐわない、柔和な微笑みを浮かべる紳士だった。彼の妻だとうメイドのキキーモラに案内された客室は見事なものだった。一目で年代物とわかるアンティークが揃えられている。しかし、無駄に自己主張することなく、静かな格というものを備えているかのようで、目の前の人物から受ける印象も同様だった。
「お坊っちゃまは今でもまだまだ子供ですよ」
「君にとっちゃベッドの中だろうと僕はそうだろうさ。でも、いつか、何も使わず、君のご主人さまになってみせる」
「そんな事を言われても……私はもうとっくにお坊っちゃまの奴隷ですよ」
ふんわりと微笑むキキーモラに対して、彼は真剣な瞳を返す。
「違う。妻だ」
「まあ……」
頬を染めるキキーモラと彼は非の打ち所がない仲睦まじい夫婦に思える。
「では、彼女たちには課金アイテムも効果がなかったのだ、と」
しかし私の予想に反して彼は首を振る。
「使っていない。使っても無駄だと思ったんだ。確かに僕はお金持ちで、課金アイテムも自由に使えた。でも、それだけではどうにもならない、と彼女たちを見て思った。そんな、存在だったんだ……。彼女たちの前ではお金はただの紙くずで、課金アイテムも意味がない、ってね。そして、彼女たちを目にした時、僕の脳裏に浮かんだのは、」
そうして彼は自身の妻と視線を交わす。
自身の抗いえない存在を目の当たりにして、彼は彼女の本当の大切さに気づけたのだという。
それは魔物娘として詳しく聞きたいところではあったが、今はその、彼が出会ったという存在についての取材だ。
「彼女たちの事を詳しく聞きたいのですが……」
だが、私の質問に彼は申し訳なさそうに肩を竦めただけ。
「僕が話せるのはそれだけだ。膝を折ってしまった僕を妻が回収してくれて、家でお説教を受けた。その内容なら話せるけど? 彼女に取り上げられた僕のアプリから天の触手が伸びてきて……」
「いえ、それは結構です」
私は丁寧に彼の申し出を辞して、そのお屋敷を後にした。
◆
私はアプリ『まもむすGO』において、実装以来クリアされていないという伝説のクエストについて取材していた。だが、そのクエストに挑戦したという彼らに話を聞いても、彼女たち自身についての話は聞けなかった。
今ではそのクエストは、彼女たちに出会った男は綺麗になって帰ってくるので、魔物娘たちの間では『泉の女神』クエストなどとも呼ばれていた。あなたの落とした男はこの普通の男と綺麗な男のどちらですか、という話だ。
ピリリリリ。私の携帯が鳴った。着信を見れば編集長。
「はい、……はい。えぇっ、あ、あやややや、はい、了解です」
私の取材はここまでらしい。結局、私は彼女たちの事を取材しきれなかった。悔しい。でも、烏天狗の名にかけて、いつかは……。
私は空を見上げる。ヌけるような青い空。この空の下、どこかに彼女たちはいるのだろうか。
その存在を目にしただけで男たちが、膝を折ってしまう魔物娘たち、そして、彼女たちを落とせる男はいつか、現れるのだろうかーー。
◆
「運営、仕事しろォ……」
おしゃれなカフェのオープンテラス。三人の喪女がお茶を嗜んでいた。
「どーして、誰でも攻略できるようにしてもらったはずなのに誰も現れないのよ! 運営の怠慢に違いないわ!」
そう憤るのは着物を着たリリムの女性。真っ白な髪に赤い瞳。見るだけで膝を折って昇天させられてしまうような美しき存在。洋風な顔立ちだと言うのに和服がよく似合い、和洋折衷、相反する属性が引き起こした衝撃が、天上の造形師すら生み出せない美を実現させていた。彼女だけでもそうだと言うのに、その場にいたのは彼女だけではない。
「にゅふふー。自分の力不足を運営のせいにするのはダメユーザーの見本ですよ、お姉さま。お相手が現れないのはお姉さま自身の問題」
ゴスロリ服に身を包んだリリムの少女。真っ白な髪に赤い瞳。幼い顔立ちながら、むしろかえって煮詰められた背徳が溢れ出したかのような色気がある。思わず五体投地をして踏みにじられたくなるような、地獄の業火にも似た劣情を覚えさせる。二人が並べば、この世の美を全て網羅したほどに神々しい。だが、この場にはもう一人いる。
「はは、それを言うなら私たちもだろう。なかなか強力なブーメランだ」
白のスーツを着こなしているが、彼女は紛れもなく女性だ。男装しているらしいが、抑え切ることのできない暴力的な色香が芳香を放つ。事実、シルクハットのキノコは芳香を放っているのだろう。足を組む様は艶かしく、男女の美を兼ね備えた倒錯的で異質な美を体現している。
彼女たちはそれぞれ、
リリム、リンク・ブリッジガード
リリム、オーバー・ブリッジガード
マッドハッター、ノーネイム・ルーレット
こんな三人が一所にそろえば、そこは美の特異点と化す。
だから、運営の怠慢などでは決してないのである。
というか会長による企業の私物化。会長のわがまま、そういった類の代物である。しかし、まもむすGOの開発目的の一つに彼女たちの夫探しがあったことも確かである。
また男が寄ってきはしたが、彼女たちに辿り着けずに膝を折って去っていく。
それに彼女たちが気づくことはない。足元を歩く虫けらに、どうしてティラノサウルスが気づけるというのだ。
「はーあ、いつになったら素敵な旦那さまに出会えるのかしら」
「にゅふ、お姉さまは無理なんじゃありませんか? 知ってますか? 運営はこのクエストをバーゲンクエストと呼んでいるって。言い得て妙。にゅふふ。いたっ、いたた! ホッペを引っ張るのはやめてください」
「ボクはこうして君たちとお茶を飲み続けるのもやぶさかじゃないけどね。ベッドでも? 女同士も悪くない」
「「却下します」」「残念、つれない」
三者三様やり取りで、そのお茶会は続いていく。
「私たち、いえ、私を落としてやるって男、求むー!」
今日もリリムの怪獣のようなほえ声が、青空へと吸い込まれていくのだった。
バーゲンクエスト。
挑戦者求む。
ピロン♪
【お知らせ】
・イベント告知(これは魔物娘側のみに通知されております)
イベント名:パンデモニウム監獄・肉柱を折れ!
にゅふふー、皆さまどうお過ごしかしら?
この過激派リリムのオーバーちゃんが運営に掛け合ってイベントを開催するわ。優勝者には豪華賞品! 参加したかったら耳の穴をかっぽじってよぉく聞きなさい。
社会的に更生不能と判断された犯罪者が秘密裏に収容される刑務所がいくつかあるの。そこを見つけた私はそれを買い取って合体させてパンデモニウム監獄の一支部に改造した。そこはこの世界から隔離された異界。そこで、狩りを行います。
イベント当日には収容された囚人たちの食事に精力剤をまぜちゃいます。それを摂取した男性は数日はビンビンのまま。その精を吐き出させて折ったおチンポの数を競う。精力剤には特殊な魔力マーカーも仕込んでおくから折った人のアプリがそれを感知して計測するわ。
一番多くのおチンポを折った方に豪華賞品を贈呈。ドンドンパフパフー!
別に優勝を狙わなくても構わないわ。お気に入りの男性を見つけてその人専属の看守になるのもオッケー。そのためにこの監獄はそれぞれに個室で作ってあるわ。そ・れ・に、これは自分の性技を試す絶好のチャンス。
いい成績を収めた子なら、私の部隊に配属させてあげることもやぶさかじゃあないわ。
さぁ、みんなの挑戦、待ってるわ〜♡
その日、そのアプリをインストトールしている男(もののふ)たちのスマホが一斉に鳴った。
【お知らせ】
限定解除クエスト:本来あなたの攻略対象ではありませんが、魔物娘側からの要請により、一部の魔物娘の攻略者制限を解除いたします。危険な存在である彼女たちを攻略するかどうかは、自己責任でお願いいたします。
何か問題が起ころうと、当方一切対応いたしませんのでよろしくお願いいたします。
◆
俺は総合格闘技をやっている。この地区では敵なし。相手が女でリングがベッドだろうそれは変わらない。俺はスマホを手にしている。そこにはとあるアプリが起動されている。
まもむすGO。
この世界で正体を隠して暮らしている魔物娘。彼女たちの正体を暴き、手篭めにしろという過激なふれこみのゲームだ。俺はこれでアマゾネスの嫁を手に入れた。
俺が満足できるまで耐えられる女がいなくなっていた時に出会った彼女は、一言で言って、サイコーだった。俺も満足していた。だが、馬鹿な男の性として、それなら他の魔物娘はどうなのだ、と考えてしまった。だが俺の攻略対象として限定解除される相手はいなかった。
断っておくが俺は嫁を愛している。だがこの衝動は抑えられない。それに嫁も、「あんたが強者であるならば、何人も嫁を作ってもかまわない」とも言っていた。強いものはより多くの女を手に入れて幸せにする義務があるらしい。
今回の【お知らせ】を受け取ったのはそんな時だ。
これは俺にうってつけのクエストだった。文面からして、危険な匂いがするじゃないか。俺は危険を求める男でもある。
俺ははち切れんばかりの筋肉に、力を込める。俺の危険な香りを感じ取った勘のいい奴らは俺から距離を置く。
そうして俺は期待に胸と股間を膨らませ、そこにたどり着いた。
そう語る彼は、そんな事を考えていた人物だとは到底思えない穏やかな風貌の青年だった。ここは穏やかな光が差し込むとある喫茶店。私は記者として彼にインタビューを行なっていた。
「浮気なんかしようとするかだ。ばーか」
嫁のアマゾネスに頭を叩かれても彼は苦笑するだけ。はち切れそうな筋肉、というものはもうないが、その代わりになにか、芯の通った貫禄のようなものを身にまとっている。彼は遠い目で語る。
「そうだ。俺は自分が強者だと奢っていた。それを気づかせてくれた彼女たちには感謝してもしきれない」
彼はその強者だという存在に出会い、格闘技をやめて、それまで貯めた賞金でこの喫茶店を開いたのだという。
「それで、たどり着いた後はどうなったんですか? もしかして彼女たちに叩きのめされた、とか?」
ボイスレコーダー片手の問いかけに、彼はただ首をふった。
「ーー何も。俺はその姿を見ただけで、これは勝てない、と思ってしまったんだ。あれが、頂きというものか……とね」
そう言う彼は、少しだけ寂しそうに笑っていた。
◆
ふふん。僕はお金持ちだ。
貧乏人どもはこのアプリを使ったところで遊び尽くすことなど無理だろう。お金持ちの僕は精力剤も使い放題。触手プレイも分身プレイも体内回帰プレイだって、思いのままだ。僕はこのアプリのおかげで人間には体験させられない快楽を存分に味わった。
僕の嫁はキキーモラだった。
僕の言いつけをきちんと守る、ま、言ってみれば奴隷だね。うん? ひどい扱いなんてしていないさ。だって、そうするとあいつ怖いし……ゴホン。そんな事はどうでもいいんだよ!
だから、僕が新しい嫁を作ったって何も言いようがないのさ。
でも残念ながら、僕のアプリにはあいつのゲット済みのマーク以外映らなかった。ふん、僕に恐れをなして魔物娘たちはその股を開くことを躊躇っているらしい!
だからその【お知らせ】を受け取った僕は是非もなく飛びついたね。危険な魔物? むしろ望むところだ。僕の課金アイテムとテクだったらイチコロさ。そんな事、決まってる事じゃないか。
課金アイテムの、我が友天の触手ならどんな魔物娘だって雁字搦めにして超絶絶頂間違いなしさ。僕は精力剤を飲みながら、リムジンで運ばれて、あの場所にたどり着いたのさ。
「僕は、そんな鼻持ちならないやつだったんですよ」
気恥ずかしそうな彼は、その話にそぐわない、柔和な微笑みを浮かべる紳士だった。彼の妻だとうメイドのキキーモラに案内された客室は見事なものだった。一目で年代物とわかるアンティークが揃えられている。しかし、無駄に自己主張することなく、静かな格というものを備えているかのようで、目の前の人物から受ける印象も同様だった。
「お坊っちゃまは今でもまだまだ子供ですよ」
「君にとっちゃベッドの中だろうと僕はそうだろうさ。でも、いつか、何も使わず、君のご主人さまになってみせる」
「そんな事を言われても……私はもうとっくにお坊っちゃまの奴隷ですよ」
ふんわりと微笑むキキーモラに対して、彼は真剣な瞳を返す。
「違う。妻だ」
「まあ……」
頬を染めるキキーモラと彼は非の打ち所がない仲睦まじい夫婦に思える。
「では、彼女たちには課金アイテムも効果がなかったのだ、と」
しかし私の予想に反して彼は首を振る。
「使っていない。使っても無駄だと思ったんだ。確かに僕はお金持ちで、課金アイテムも自由に使えた。でも、それだけではどうにもならない、と彼女たちを見て思った。そんな、存在だったんだ……。彼女たちの前ではお金はただの紙くずで、課金アイテムも意味がない、ってね。そして、彼女たちを目にした時、僕の脳裏に浮かんだのは、」
そうして彼は自身の妻と視線を交わす。
自身の抗いえない存在を目の当たりにして、彼は彼女の本当の大切さに気づけたのだという。
それは魔物娘として詳しく聞きたいところではあったが、今はその、彼が出会ったという存在についての取材だ。
「彼女たちの事を詳しく聞きたいのですが……」
だが、私の質問に彼は申し訳なさそうに肩を竦めただけ。
「僕が話せるのはそれだけだ。膝を折ってしまった僕を妻が回収してくれて、家でお説教を受けた。その内容なら話せるけど? 彼女に取り上げられた僕のアプリから天の触手が伸びてきて……」
「いえ、それは結構です」
私は丁寧に彼の申し出を辞して、そのお屋敷を後にした。
◆
私はアプリ『まもむすGO』において、実装以来クリアされていないという伝説のクエストについて取材していた。だが、そのクエストに挑戦したという彼らに話を聞いても、彼女たち自身についての話は聞けなかった。
今ではそのクエストは、彼女たちに出会った男は綺麗になって帰ってくるので、魔物娘たちの間では『泉の女神』クエストなどとも呼ばれていた。あなたの落とした男はこの普通の男と綺麗な男のどちらですか、という話だ。
ピリリリリ。私の携帯が鳴った。着信を見れば編集長。
「はい、……はい。えぇっ、あ、あやややや、はい、了解です」
私の取材はここまでらしい。結局、私は彼女たちの事を取材しきれなかった。悔しい。でも、烏天狗の名にかけて、いつかは……。
私は空を見上げる。ヌけるような青い空。この空の下、どこかに彼女たちはいるのだろうか。
その存在を目にしただけで男たちが、膝を折ってしまう魔物娘たち、そして、彼女たちを落とせる男はいつか、現れるのだろうかーー。
◆
「運営、仕事しろォ……」
おしゃれなカフェのオープンテラス。三人の喪女がお茶を嗜んでいた。
「どーして、誰でも攻略できるようにしてもらったはずなのに誰も現れないのよ! 運営の怠慢に違いないわ!」
そう憤るのは着物を着たリリムの女性。真っ白な髪に赤い瞳。見るだけで膝を折って昇天させられてしまうような美しき存在。洋風な顔立ちだと言うのに和服がよく似合い、和洋折衷、相反する属性が引き起こした衝撃が、天上の造形師すら生み出せない美を実現させていた。彼女だけでもそうだと言うのに、その場にいたのは彼女だけではない。
「にゅふふー。自分の力不足を運営のせいにするのはダメユーザーの見本ですよ、お姉さま。お相手が現れないのはお姉さま自身の問題」
ゴスロリ服に身を包んだリリムの少女。真っ白な髪に赤い瞳。幼い顔立ちながら、むしろかえって煮詰められた背徳が溢れ出したかのような色気がある。思わず五体投地をして踏みにじられたくなるような、地獄の業火にも似た劣情を覚えさせる。二人が並べば、この世の美を全て網羅したほどに神々しい。だが、この場にはもう一人いる。
「はは、それを言うなら私たちもだろう。なかなか強力なブーメランだ」
白のスーツを着こなしているが、彼女は紛れもなく女性だ。男装しているらしいが、抑え切ることのできない暴力的な色香が芳香を放つ。事実、シルクハットのキノコは芳香を放っているのだろう。足を組む様は艶かしく、男女の美を兼ね備えた倒錯的で異質な美を体現している。
彼女たちはそれぞれ、
リリム、リンク・ブリッジガード
リリム、オーバー・ブリッジガード
マッドハッター、ノーネイム・ルーレット
こんな三人が一所にそろえば、そこは美の特異点と化す。
だから、運営の怠慢などでは決してないのである。
というか会長による企業の私物化。会長のわがまま、そういった類の代物である。しかし、まもむすGOの開発目的の一つに彼女たちの夫探しがあったことも確かである。
また男が寄ってきはしたが、彼女たちに辿り着けずに膝を折って去っていく。
それに彼女たちが気づくことはない。足元を歩く虫けらに、どうしてティラノサウルスが気づけるというのだ。
「はーあ、いつになったら素敵な旦那さまに出会えるのかしら」
「にゅふ、お姉さまは無理なんじゃありませんか? 知ってますか? 運営はこのクエストをバーゲンクエストと呼んでいるって。言い得て妙。にゅふふ。いたっ、いたた! ホッペを引っ張るのはやめてください」
「ボクはこうして君たちとお茶を飲み続けるのもやぶさかじゃないけどね。ベッドでも? 女同士も悪くない」
「「却下します」」「残念、つれない」
三者三様やり取りで、そのお茶会は続いていく。
「私たち、いえ、私を落としてやるって男、求むー!」
今日もリリムの怪獣のようなほえ声が、青空へと吸い込まれていくのだった。
バーゲンクエスト。
挑戦者求む。
ピロン♪
【お知らせ】
・イベント告知(これは魔物娘側のみに通知されております)
イベント名:パンデモニウム監獄・肉柱を折れ!
にゅふふー、皆さまどうお過ごしかしら?
この過激派リリムのオーバーちゃんが運営に掛け合ってイベントを開催するわ。優勝者には豪華賞品! 参加したかったら耳の穴をかっぽじってよぉく聞きなさい。
社会的に更生不能と判断された犯罪者が秘密裏に収容される刑務所がいくつかあるの。そこを見つけた私はそれを買い取って合体させてパンデモニウム監獄の一支部に改造した。そこはこの世界から隔離された異界。そこで、狩りを行います。
イベント当日には収容された囚人たちの食事に精力剤をまぜちゃいます。それを摂取した男性は数日はビンビンのまま。その精を吐き出させて折ったおチンポの数を競う。精力剤には特殊な魔力マーカーも仕込んでおくから折った人のアプリがそれを感知して計測するわ。
一番多くのおチンポを折った方に豪華賞品を贈呈。ドンドンパフパフー!
別に優勝を狙わなくても構わないわ。お気に入りの男性を見つけてその人専属の看守になるのもオッケー。そのためにこの監獄はそれぞれに個室で作ってあるわ。そ・れ・に、これは自分の性技を試す絶好のチャンス。
いい成績を収めた子なら、私の部隊に配属させてあげることもやぶさかじゃあないわ。
さぁ、みんなの挑戦、待ってるわ〜♡
17/08/26 09:43更新 / ルピナス
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