笑顔の絶えないブラックな職場です
ボクは今日からこの職場で働く。
前のブラックな仕事を辞め、休止期間を置いて、ボクは次の仕事を厳正に吟味した。この会社は
魔物娘が経営している。
魔物娘。それは異世界からやってきた存在。何でも、神話伝説、民間伝承に歌われるような、現代の日本では漫画やアニメ、ゲームと言った方がいいかも知れないけれど、そうしたものに登場するモンスター達が美女の姿になった存在だと言う。
彼女達にとっても最も大事な事は……その、なんだ。異性とのスキンシップ……はっきり言おう。せ、性……、ま、まぐわい、あー。逆に酷くなった気がする……おセックスだ。
よく言えば、家族との時間を大事にする。うん、初めっからこう言っておけば良かった。
付き合っている異性が居なければ、その相手を見つけるためにも、就業時間は守り、幸せな家族計画を遂行するために、彼女達が経営する企業は、ホワイトである。
そのーーはずだったのに。
ボクはため息を付きつつ道を歩く。周りにはボクのように、肩を落として歩いている人々の群れ。時折、シャキシャキと歩いていく人がいるけれども、それは稀。こんな時間に出社するなんて、ロクな労働体制の企業じゃないに決まっている。もしかすると、彼らもまだマシな方かも知れない。もっと酷ければ、ずっと会社にいるのではないだろうか。そう、思ってしまう。
ボクの頭をしめているのは直前に届いた一通の手紙。
会社から届いた、社訓（？）のようなもの。
そこに書いてあった文言にボクは愕然としたのだ。
課長 命令
私より早くに出社する事。
私より早くに退社しない事。
この命に従わない者は厳罰に処す。
何だ、その漠然としていて、横暴極まりない命令は、どこの亭主関白宣言だろうか。そして罰則まで設けているとは……酷すぎる。魔物娘の企業だから大丈夫だと思っていたのに、結局、以前の企業と同じだ。いや、暗黙のルールではなく明言しているだけまだマシなのかもしれない。
そんな手紙をもらった時点でこの会社を見切ってしまっておいてもよかったと思うのだが、新人研修の時の先輩達のイキイキした顔を思い出し、更には律儀なボクの事、まず、行ってから確かめてみよう、とこうして会社に向かっているわけだ。
ボクが一番乗りだった。早くきすぎたらしい。自分のデスクに着いて時計を見れば、まだ7時。
ボクが配属された部署は、何でもエッチィ道具を売る部署らしい。正直言ってボクはそうしたものは苦手だ。だけど、生きていくためには仕方がない。
ボクがボンヤリと座っていると、ガチャリ、ドアが開いた。時刻は8時。
ボクは急いで立ち上がって振り向く。そこにいたのは、
課長だった。
ボクは呆気に取られてしまう。
だって、まだ、ボク以外の社員は出社していない。だと言うのに、私より先に出社しないと厳罰に処すと言っていたはずの課長が一番早く来てしまった。しかし、驚いていてばかりではいけない。ボクは急いで頭を下げる。
「お、おはようございます！ 今日からこの部署に配属されました。多賀いつきと申します。よろしくお願い致します」
ボクは精一杯元気よく挨拶する。しかし、相手から返答はない。顔を上げれば、何だか彼女は面食らったような顔をしていた。
彼女、課長の黒崎美那さんはダークエルフだ。ボクでも見惚れてしまうような美人で、褐色の肌に銀髪。その鋭くとも色っぽい目つきに流し見られたら、どんな男でもイチコロだと思える。彼女は如何にも出来る女、といった体で、カッチリしたスーツに身を包み、その立ち姿もとても様になっている。でも、今にもはち切れそうな胸に、スカートから伸びる褐色の足は、生唾を飲み込みそうになるくらいの色気に溢れている。色気もある閾値を越えれば暴力になるのだと、ボクはこの時初めて知った。
ボクが惚けたように彼女を見ていると、舌打ちが聞こえた。
ボクはビクリと身を竦ませる。まさか、ボクの視線があからさますぎたのだろうか。
彼女はその美貌に皺を寄せると、
「新入社員でも……全く……何を教育して来たのかしら」
ブツブツ言いながら、自分の席に向かった。
そして途中で思い出したように振り向くと、
「おはよう」
と、不機嫌な様子を隠しもせずに言った。
頭ごなしに叱られる事は無かったものの、ボクは正直生きた心地がしなかった。ボクの何が彼女を怒らせる事になったのか、全く見当はつかないのだけど、彼女を怒らせないためにこそこんな時間に出社したのだけど……それにしても、あんな課長命令があるというのに、どうして先輩達は誰も出社しないのだろう。
ボクは、ボクと課長しかいないこのオフィスの中、身を縮こまらせる。
席に荷物を置いた課長は、おもむろに立ち上がると、あろう事か、掃除用具入れに向かった。
ボクはまさか、と思う。
だが、彼女はそのまさかだった。
ロッカーからほうきを取り出すと、
「ま、待ってください。それはボクにやらせてください！」
ボクは慌てて彼女に駆け寄り、懇願する。
課長に掃除をやらせるわけにはいかない。これはこの部署の決まりだったのかもしれない。早く来た者が掃除をする。だと言うのに、ボクがやっていなかったから課長は不機嫌だったのだ。
しかし、ボクの顔を見る課長の顔は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた……。
「それなら……任せるわ」
課長からほうきを受け取る事に成功したボクは一先ず胸を撫で下ろすが、課長の不穏な様子に心臓はまだバクバクと言っている。
ボクが掃除を終える頃、課長は今度は給湯室へ……。
「ぼ、ボクがやりまーす！」
「そう……」
課長はやはり不機嫌そうな顔で、席へ戻っていった。
「美味しい……」
ボクの淹れたお茶を飲んだ彼女は、驚いた顔をしていた。これはボクの勘違いだとは思うけれど、少し悔しそうな顔も。
「お茶、淹れるの上手いのね」
「ありがとうございます。以前の会社ではよくしていたので。少しでもヌルかったり不味くても怒られますし、だから文句を言われないくらいに美味しく淹れられるように頑張ったんです」
ボクの言葉に課長は奇妙な顔をする。
「あなたが前に勤めていた会社って、◯×商事だったかしら」
「お、覚えていらっしゃるのですか！？」
ボクは目を見開く。
「あなたの履歴書に書いてあったじゃない」
彼女は何でもない事のように言うが、以前の会社の上司はボクの名前ですらちゃんと覚えていなかったと言うのに……大きなカルチャーショックだった。ボクが肯定しつつそれを伝えると、
「そう、◯×商事……」
と彼女は形の良い顎で頷くと、まるで獲物を見つけた肉食獣のような瞳をしていた。その瞳はちょっと、ゾクりとした。
先輩達はまだやって来ない。
ボクはと言えば、課長が意外とチョコチョコ動くので、彼女の動きに合わせて書類を受け取ってコピーを取ったり、お茶を入れ直したり、彼女はなんと花瓶の水換えまでしようとしていた。
キツ目の見た目の課長の、そうした行動は見てみたくもあったけれど、彼女にさせるわけにはいかない。ボクは頑張った。だと言うのに、課長はやはり終始不機嫌だった。
先輩達が出社しない事に憤っているのだろうか。いや、そんな感じでもない。
そして、ついに先輩達が出社する。
それは、10時だった。
『おはようございまーす』
まるで見計らったかのように、彼らは一緒に出社して来た。
彼らに悪びれるところはない。ボクが恐る恐る課長を見て見ると、彼女は、口端だけを吊り上げる笑みを浮かべていた。ボクは震え上がる。これからきっと、彼女の言う罰が下されるのだ。
しかし、その笑みは先ほどの笑みとは違って、まるでやっとお友達と遊べる事を喜ぶ少女のような雰囲気があるのはどうした事だろう？
「おはようございますじゃないッ！」
彼女はまるで活き活きと、声を張り上げる。
『ハイ、ゴメンナサイ！』
先輩達の一糸乱れぬ謝罪のお辞儀。あまりの見事さに、ボクはしばし絶句した。このシンクロ具合と熱意は、きっと、オリンピックでも優勝を狙えるレベルだ。
ピシィ、と空気を切る音が聞こえた。普段の生活で聞きようもない音。
まさか、と課長を見れば、彼女は鞭を携えていた。
そう、鞭だ。
黒い光沢を放つその鞭は、彼女の褐色の肌のようで、それだけで、いたく艶かしかった。
鞭を持った彼女は、女王然として、とてもサマになっていた。その姿なら、先輩達がズボンを下ろして尻を向ける気持ちも理解でき……、いやいや！ 理解出来ない。
「せ、先輩達！ 何をされているんですか！？」
ボクは声を張り上げる。
「規律を破った俺たちは、罰をいただかなくてはいけないのだ！」
彼らは誇らしげな声。
慌てるボクの前で、課長がこちらに視線を寄越す。
「いつき、お前、今日は何時に出社した？」まるで女教官のようなハリのある声。
「え……？ ボク、ですか？」
「そうだ、ボク、だ。私が来た時にはもう、いただろう」
彼女の言葉に先輩の一人が発言する。
「何だって！？ それなら、課長のお掃除姿や上手くお茶を淹れられなくて、寂しそうな顔をしている様子とかを見たというのか！？ なんと羨ましい！ 狡い！」
「え、……え”？」
混乱するボクを諌めるように、鞭の音がした。
「罰を待つブタは喋るんじゃないよ！」褐色の肌でも分かるくらいに彼女の頬は赤かった。「そもそも社畜（ブタ）の鳴き声は違うだろう！ 分かったら返事ッ！」
「ブ、ブヒィいいいッ！」「良し」
彼はまるでよく訓練されたブタのような嘶きを上げ、女王様は満足そうに頷かれていた。
そして、叩かれた彼の顔は紛れもなく歓喜に染まっている。
ボクは白目を向いて驚愕する。これは、なんと言う人権侵害だ。ブラックなんて生易しいものじゃない……！
ボクは理解した。これは……圧倒的、ブラックピンク……。ボクは都会は怖いところだという事を、改めて思った。
「で？ 何時なんだい？」
彼女の冷たい視線に、ボクはしゃくり上げるように答える。
「7時……」パァンッ！
彼女の鞭が一匹の先輩（ブタ）のケツに振るわれた。
「ありがとうございますッ！」ブタが嘶く。
女王様の有難いお言葉が続く。
「聞いたかい？ あんたらどんな教育をしたって言うんだ！」パァンッ！
鞭は振るわれ、別のブタの歓喜の悲鳴が……。
「お、俺がしっかり教育しておきます」
「遅いッ！」再び鞭が振るわれる。
信じられない光景だけど、ボクも黙っているわけにはいかない。
「わ、悪いのは先輩じゃありません！ ぼ、ボクが……」
「黙りな」
女王様の言葉にボクは黙らざるを得なかった。
「悪いのはコイツラだ。叱るなら、右も左も分からない新人に大事な事をしっかり伝えなかった先輩達が悪い。あんな美味しいお茶を淹れてくれたあんたが悪いわけがない」
「あ、ありがとうございます」
パァンッ！ 「ありがとうございますッ！」これは先輩（ブタ）の声。決してボクじゃあない。
「い、今の事は忘れな……」彼女の頬は赤い。
カシャー。シャッター音。
「だ、誰だい今のはー！」課長の叫び。
「誰だー！ 後で俺にも一枚送ってくれー！」「狡いぞ！ 課長の照れ顔なら食券10枚渡したっていい！」
「よぉーし、それで手を打ちましょう」あの人は確か、烏天狗という魔物娘だったはずだ。
しかし、彼女も遅れて来たはずなのに、課長の前に並ばされているのは男性社員ばかりだ。いや、女性も少しいる。彼女は確かオーク……。
パァンッ！ 「ありがとうございますッ！」
彼女（牝ブタ）を叩くときは鞭ではなくハエたたきだった。
男女で使い分けている。さすがにスカートの上から鞭で叩けばスカートが傷つくという配慮だろう。
し、しかし、会社でこれは……、それに叩かれている彼らの心の底からの笑顔は……。
女王様は彼らに罰を与え終わると、席に着く。ボクも恐る恐る席に着けば、隣の席の、頭に猫耳が着いた女性が、
「いやー、今日も汚ったない始業ベルだったにゃー」と言っている。「いつきちゃん、君も明日からはこの時間に来るといいにゃー。叩かれたくなければあそこに並ばなければいいだけにゃし」とも。
そうしてその後、朝礼が始まった。
この会社の始業は、この時間で正しいらしい。
さっきまでブタでしかなかった先輩達は、打って変わって仕事の出来る男と女の顔。その顔は凛々しくて、憧れの対象というに相応しい。恐ろしいまでのメリとハリ。さっきのは彼らにとって朝の体操に等しく、いい仕事の秘ケツは適度な運動と適度なストレス解消……。
「あ、あはははははは」
ボクは乾いた笑いが止まらない。
お母さん、ボクの新しい職場は、笑顔の絶えない素敵な職場でした……。
◆
昼休み、ボクは課長に直々に呼び出された。
ここは給湯室。朝の格好いい彼女の姿は目に焼き付いている。いつ鞭が飛んでくるか、ボクは少し期待してしまう。でも、ボクは叩かれるよりも……。
いやいや、何を言ってるんだボクは……。
あまりに触れたことのない世界に、ボクの価値観はズタボロだ。このままではボクは何かに目覚めてしまいそう。
「課長……な、何か御用でしょうか」
「そんなに畏まらなくっていいよ」
課長は少し呆れた顔。そして小声で。
「お茶の淹れ方を教えてくれないかしら？」
そう切り出して来た。ボクは呆気にとられる。
「な、何よ……。私が部下にお茶を出したいと思ったら悪いって言うの？」
そうなんだ。そのためなんだ。これが、ギャップ萌えという奴なのだろうか。ボクはまた一つ、都会の病みを知った。ボクも都会の一員になれた気がして、ちょっと嬉しい。
「い、いえ、何でもありません」
ボクはホッコリしつつ、彼女にお茶の淹れ方をレクチャーする。配属初日に上司にお茶の淹れ方を教えるって、ここはどんな部署なのだろう、いや、こんな部署だ。
確かに彼女は何度もお茶を淹れるのに失敗して、寂しそうな顔をしていた。短いやり取りだけど、ボクは彼女の人となりが分かった気がする。そして、ボクは一つの決意をするに至った。
「だ、大丈夫ですよ。誰だって正しく練習すればちゃんと出来るようになりますよ」
「そ、そうよね……」
彼女の照れ笑い。ボクの心のアルバムは早くももう三冊目に突入している。
しかし、1冊目を占めているのは朝の、あの凛々しい姿だ。
ボクは頑張っている彼女に、意を決して問いかけてみることにする。
「か、課長……」
「何？」
「あ、あの……」
モジモジするボクを、彼女は待って居てくれる。
その姿にボクはやはりこの人しかいないと確信する。
「お、お姉さまと呼ばせていただいてもよろしいでしょうか！？」
「は、ハィいいい！？」
課長の素っ頓狂な声に、
「ど、どうかいたしましたか課長！」「課長！」「課長！」パァンッ！「ありがとうございますッ！」
飛び込んで来たブタどもを彼女は鞭でなぎ払っていた。
やっぱりそれはお姉さまと呼ぶに相応しい姿だった。
ブタどもを追い払った彼女はボクに問う。
「正気？」
「はい、ボクは正気です。お姉さまは格好良くて、ボクの理想とする女性です。ボクはお姉さまのような人になりたいとずっと思っていたんです！ 引っ込み思案のボクだったけれども、お姉さまを見て、今決めました！」
ボクは力説する。
「こんなチンチクリンななりのボクだけれども、お姉さまにご指導ご鞭撻をいただければ、きっと……」
鼻息荒く顔を近づけるボクに、彼女は面食らったよう。
「いえ、すでに引っ込み思案じゃないような……。でも、人間の小娘にしては、見る目があるわね」
と、彼女は嬉しそうな声音。
「よし、じゃあ、お茶の淹れ方を教えてもらう代わりに、ブタの啼かせ方ってものを教えてあげましょう」
「ハイッ！」と、ボクは力一杯に返事をした。
ボクの生活は充実している。
優しい先輩達に仕事を教えられ、尊敬できる上司に直々に指導を頂いている。ボクの出社時間は課長（お姉さま）と同じ時間。それから他の社員が出社して来るまで、二人で指導し合う。
前の会社では想像も出来なかった事だ。ちなみに前の会社はどこかの魔物娘の企業に買収されたと風の噂で聞いた。
……でも、満たされれば満たされるほど、求めてしまうというのが人間の性だ。
だから、ボクはついにーー。
◆
「本気、なのね……」お姉さまはボクに問いかける。
ボクはお姉さまの家を訪れていた。
とあるマンションの一室。部屋の中は小ざっぱりとして、可愛らしい小物にあふれていた。出会った当初だと、これはやっぱりギャップというものになるのだろうけど、今となっては彼女らしい
、と思うボクがいる。
お母さん、ボクは今日、お姉さまと義姉妹の契りを結んで人間をやめようと思います。こんな娘をどうかお許しください。
彼女を敬愛するあまり、ボクはこの道に足を踏み入れた。
これは必然的な結果だった。
元々ボクにはその気はあったのだけど、彼女に出会って爆発してしまった。
シャワーを浴びてベッドで待つボクは、だんだん緊張して来た。
彼女の匂いがする。甘い香りに、頭がクラクラして来る。
ボクが待っていると、彼女はガウンを羽織った姿で現れた。その姿はそれだけで鼻血が出そうになる程色っぽい。湯上りで上気した褐色の肌は、いっそう艶（つや）めかして扇情的。
ガウンに膨らんだ胸も尻も、これからボクが交わる相手。
ボクの貧相な体を彼女に気に入ってもらえるか、なんて。ボクは生娘のように思う。そんな気持ち、もう昔の事だったはずなのに。ボクの固まった様子を見て、彼女はクスリ、と。婉然と笑う。
「まるで始めてあった頃みたいね」
「そ、そんな事言わないでくださいよ……」
ボクは更に縮こまる。
「大丈夫。私がリードするから。ブタの啼かせ方だけじゃなくて、女の啼かせ方まで教える事になるとは思わなかったわ」
ボクの勘違いでなければ、彼女にも少し緊張している様子がある。
「私も久しぶりだから……」
その言葉にボクはチクリとする。しかし、こんなに魅力的な肢体の彼女なのだ。男がいなかったわけがない。ボクだって、昔、彼氏はいた。その時色々あって、正直男はもうこりごり、とも思っていた。
でも、女性とは初めてだ。
「よ、よろしくお願いいたします」
ボクは彼女のベッドの上で三つ指をついてみる。
彼女はもう一度笑って、ボクを押し倒してくれた。
啄ばむようなキスから、貪るようなディープキス。彼女の舌はまるで蛇のようで、ボクの舌を絡め取って放しはしない。ボクは彼女の唇で溺れる。
彼女の唇はボクの輪郭をなぞって、下降していく。
肌けられたボクのガウンから、自分で言うのも何だけど、慎ましやかな乳房と乳首が露わにされる。ボクは恥ずかしさのあまりに思わず手で隠す。彼女のような立派なものなんて持っていない。
だけど彼女は強引に、ボクの手を引き剥がして、その怜悧な美貌で「隠さないの」と告げる。その氷の針を刺し込まれるような響きに、ボクの背筋がキィン、と音を立てる。
彼女の手つきは巧みで、男のものとは比べものにならない程に繊細で、ボクの乳房を、
「ぅ、……ふぅん」
ボクは指を噛んで、声を押し殺す。でも、彼女はそれも許してくれない。ボクの手を引き剥がすと、まるで釘付けにするような瞳でボクを見る。
ーー隠すな。ーー抑えるな。ーー全てを曝け出せ。女同士で何を躊躇うことがある？
なんて、彼女の瞳は雄弁に語っていた。
ボクは観念する。そして、
「ふぁッ、……ァ、あぁあ」
乳首の先からボクの体に、快感がさざ波のように広がった。お姉さまの舌が、ボクの乳首を苛めている。ああ、聞かれちゃってる。お姉さまに、ボクの恥ずかしい声が。
ボクはお姉さまに聞かれないように、そしてねだる様に、彼女の頭を胸に押し付ける。
「ン、……や、ぁ」
「可愛らしい声で啼くじゃない」
お姉さまの細い指がボクのお腹をさすりながら下っていく。こんな事ならダイエット、もっとしておけばよかったな。なんて、そんな事を思う余裕もなくて、お姉さまの指は私の大事なところに…。
「ふキャ……」
クスクスと笑うお姉さまの瞳。恥ずかしい。ボクからこんな声が出るなんて、お姉さまはボクの顔を舐める様に見て、頬に舌を這わせてくる。それは、舌でボクの生皮を剥がしていく様な行為。
ボクは彼女の指と唇、舌で、剥き出しにされていく。
ボクの体を蛭のような女の舌が這っていく。それはまるでカタツムリのような速度で、ボクのおヘソを。ボクは言いつけも忘れて、口を手で塞いでしまった。
知らなかった。ボク、こんなところがこんなにも弱かったなんて。
「悪い子ね」お姉さまの冷たい瞳。
「ごめんなさい……」
お姉さまはボクにのしかかったまま、羽織っていたガウンを脱ぎ捨てる。一糸まとわぬ褐色の裸身。それはどんな見事な彫刻すら叶わないと思えるほどに、美しかった。ツンとたったオッパイの先には、桜色の乳首。キュッとくびれた腰に、前から見えるムッチリとしたお尻。そのおみ足には、そのスジの人じゃなくても、きっと踏まれたいと思うに違いない。
そして彼女は脱ぎ捨てたガウンの袖で、ボクの手首を縛った。
痛くなくて、それでいて自分では解くことの出来ない絶妙の力加減。ボクは手を縛られた状態で、更にベッドの端に縛り付けられて、口を抑える事も、胸を隠す事も出来ない。
お姉さまの目が、肉食獣めかして輝やいている。唇を舐める。
ああ、ボク、本当に食べられちゃうんだ。
そんな事を思うと、ボクの下腹部は否応なく高まっていく。お姉さまはボクの火照り出したそこを、優しく撫でてくれる。むず痒くて、もどかしくて、酷く熱い。
でも、ボクは足を閉じて、漏れ出す官能の雫をどうにかして隠そうとする。もちろん、お姉さまは許してくれない。股をこじ開けられる。
「こんなに濡れて、まだ魔物娘じゃないというのに、はしたない子ね」
嗜虐的な彼女の声。
「い、言わないでください」
「アラ、私に刃向かうって言うの？ それじゃあ、もうここで止めとこうかしら」
「…………そ、それは。あ……」
ボクの太ももから手を離す彼女に、ボクは情けない声を出した。
「どうしたの？」
「…………ッ、っ……いじわる、です」
「してほしい事があるんだったらちゃんと言わないと、ダ・メ」
彼女の愉しそうな声。
「幸い、明日は休みよ。一晩放置っていうのも私はやぶさかじゃないけれど、どうするの？」
ボクは息を飲む。ここまでされて、ここまで体を火照らせられて、我慢が出来るわけがない。
ボクは意を決して、彼女に懇願する。
「い、イジって……ください」
「それじゃあ、わらかないわ」
「ぅ……」
ボクは彼女の瞳に絡め取られて、生唾を飲み込む。そして、
「ボク、……の。オマンコをいじって下さい。お姉さまの指と舌で愛して……、ボクをイかせて。ボクのオマンコを滅茶苦茶にして、ボクを魔物娘に、お姉さまの妹にして下さいッ！」
「よく出来ました」
「ヒャ、……。ぁ、あああああ！」
食べられた。ボクのオマンコはお姉さまに食べられてしまった。
お姉さまの舌が、ボクのナカで暴れている。暴れている？ 違う。苛めている。時に激しく、時にジレったく。彼女は的確に、ボクの弱いところを見つけ出して、そこを執拗に虐めたと思えば、ワザとそこをさけて、本当に、本当に、もどかしくてボクが彼女を求めれば、そのタイミングで刺激してくれる。
ボクは彼女という嵐に弄ばれる、哀れなむき出しの果実に過ぎない。
ボクは何度イかされたか分からない。
嵐が去った後、全身から力が抜けたボクは、ダラシなく涙もヨダレも、鼻水も垂らして、体をヒクつかせていた。もちろん、ボクのオマンコも。そこはボクの意思を外れたように、彼女を求めて喘いでいる。
「やり過ぎたかしら？ 久しぶりで、可愛い妹だから私も張り切ってしまったわ。ここで止めておく？」
お姉さまはボクにそんな酷い事を言ってくる。ボクはか細く首を振る。だって、お姉さまはまだイっていない。
「大……丈夫です。最後まで、お姉さまがまだ、気持ちよくなっていない……です」
ボクの言葉に、彼女はおこりのように、体を震わせた。その言葉で感じたらしい。彼女の唇は
ボクの恥ずかしい液でベタベタに汚れている。ボクはその光景に、再び暗い熱が、下腹部に渦巻くのを感じた。
「それじゃあ、遠慮なく」
お姉さまはボクに覆いかぶさり、唇を奪ってきた。ボクは乳房を求める赤子のように、彼女の舌に吸い付く。ボクの味がする。お姉さまに虐められたボクの味がした。
そして、お姉さまの乳首とボクの乳首がこすり合わされる。ボリュームのある彼女の胸肉がボクに押し付けられ、ボクは劣等感とともに感じてしまう。お姉さまの乳首はぷっくりと固くなって、ボクの乳首も痛いくらいに固くなっている。
お互いの乳首が引っ掻き合うように重なり、ボクらの吐息は背徳的に高まっていく。
やがて、お姉さまのムッチリとした太ももが、ボクの太ももを割って、ボクの下の唇をさする。ボクの茂みを掻き分けて、お姉さまの茂みも、ボクの太ももに押し付けれている。そこから伝わってくる、彼女の劣情の湿り。
ボクらはお互いの汁で、お互いを濡らす。
ボクは諸手を縛られたまま。ボクも、お姉さまの体を触りたい。
その気持ちが通じたのだろう。お姉さまはボクの戒めを解いてくれた。ボクは待ちかねたように彼女の胸を揉む。どこまでも沈み込んでいきそうな柔らかさなのに、ヤられるままではいないハリが帰ってくる。ボクは夢中で、彼女の乳首もつまんで、そして吸い付く。
ボクのテクニックは当然お姉さまに通じるわけはないのだけど、ボクは一生懸命、彼女を気持ちよくさせようと頑張る。そのうち、お姉さまの反応が微かに違う場所を見つけた。ボクは試しにそこを集中的に狙ってみて、微かにお姉さまの吐息の色が変わる。
「頑張るじゃあないか」
お姉さまの艶っぽい声。
ボクは、夢中で、夢中に。
「ぅ、あッ……」
オマンコに走ったつき刺すような快感に、ボクは思わず体を仰け反らせて、お姉さまの胸に顔を埋めて、身をよじらせる。お姉さまの指が、ボクのナカに侵入している。
やだ、やだやだやだ。
お姉さまをまだ十分感じさせてないっていうのに、ボクだけこんな、こんな簡単にイかされて……。
ボクはお姉さまの胸で絶頂の吐息を吐き出した。
ボクは抗議するようにお姉さまの膣に指を伸ばす。そこはグッショリと濡れていて、ナカはとろけるほどに熱い。肉のヒダヒダがキュウキュウと指を締め付けてきて、ボクが彼女を気持ちよくさせるはずがこちらが、気持ちよくなってしまいそうだ。
ボクは自分の指が心のオチンポになったつもりで、彼女の肉を捏ねてみる。
少し、身をよじってくれた。でも、まだ足りない。
「まだ練習ね。順番に教えてアゲルから、覚悟しておきなさい」
耳元で囁かれた彼女の声に、ボクは背筋を逆なでされたようにゾクゾクとした。
そして彼女は体を起こし、ボクの足を抱える。彼女の胸に挟み込まれたボクの足。
「それじゃあ、いつきを変えてしまいましょう」
彼女はボクの背筋が凍えるような、トロけてしまうような顔で笑う。
「お願いします。ボクをお姉さまの妹に……」
「もう、あなたは私の妹よ」
そんな泣き出してしまいそうなほどに嬉しい言葉と共に、ボクたちの貝は合わさった。
ピッタリと。
噛み付き合うように、ボクたちの秘部は擦りあう。何かが、彼女のオマンコからボクのオマンコに入り込んでくる。
ぼ、ボクはもう、頭が真っ白になる。
もう、オマンコ以外の感覚が全て消しとばされてしまったかのような圧倒的な官能の迸り。だと言うのに、彼女の熱だけがやけに鮮明で、ボクを、ボクの中から塗り替えていく。きっと、これが魔物の魔力というものなのだろう。オチンポよりも激烈で、圧倒的な快楽。こんなもの、抗えるわけがない。
ボクは乾いた土壌のように、彼女を貪欲に吸収していく。
そうしてボクは作り変えられる。お姉さまの魔力によって。人間を止めさせられて、お姉さまと一緒のダークエルフという魔物娘に。
ボクはひときわ高く嘶くと、そのまま快楽の閃光に塗りつぶされた。
ボクはお姉さまの腕の中で、ボクの褐色の肌を見る。
嬉しさのあまり、クスクスと笑いだしたいけれども、快楽の余韻がまだ体に残って、指一本も動かせない。ボク、人間やめちゃったんだ。そんな、背徳的で、刺激的な感情に、体が勝手に震えてしまう。これから、お姉さまを感じさせられるように、ボクは頑張りたいと思います。
あーあ、きっと、明日出社して、ダークエルフになってるボクを見たら、ボクと課長（お姉さま）の関係はバレてしまうだろう。でも、その分先輩達を叩いてあげるから、許してほしい。
「全く、私も初めての時の事を思い出してしまったわ」
お姉さまはいつかのセックスで教えてくれた。
実はお姉さまも、元は人間だったらしい。男とセックスしたのは人間だった時だけらしい。お姉さまにも憧れのお姉さまがいて、その人にダークエルフにしてもらったらしい。
ボクたちは似た者同士だったんだ、とボクは嬉しくなる。
そのお姉さまのお姉さまは、男の人と結婚して、会社を辞めたたらしい。お姉さまは、寂しそうに言っていた。
いつか、お姉さまのお姉さまにボクは会ってみたいと思う。ボクはあなたの妹の妹です、と。
◆
「ありがとうございますッ！」
ボクは遅れてやってきた部下（ブタ）に今日も活き活きと鞭を振るう。
新入社員だったボクも、今では立派な課長（女王様）です。
お姉さまも出世されて、ボクらの爛れた関係は今でも続いている。どうにもボクらは今のところは女性にしか反応しないタチらしい。そんなボクらはいつか、それでも反応できる男性に出会う事が出来るのだろうか？
魔物娘としては失格だけど、今はこうして男性には鞭を振るって、体を重ねるのはお姉さまとだけでいい。それでボクらは満たされている。そんな気持ちを込めて、ボクは鞭を振るう
今日もこの会社は、ダークエルフが率いる、笑顔の絶えないブラックな職場です。
前のブラックな仕事を辞め、休止期間を置いて、ボクは次の仕事を厳正に吟味した。この会社は
魔物娘が経営している。
魔物娘。それは異世界からやってきた存在。何でも、神話伝説、民間伝承に歌われるような、現代の日本では漫画やアニメ、ゲームと言った方がいいかも知れないけれど、そうしたものに登場するモンスター達が美女の姿になった存在だと言う。
彼女達にとっても最も大事な事は……その、なんだ。異性とのスキンシップ……はっきり言おう。せ、性……、ま、まぐわい、あー。逆に酷くなった気がする……おセックスだ。
よく言えば、家族との時間を大事にする。うん、初めっからこう言っておけば良かった。
付き合っている異性が居なければ、その相手を見つけるためにも、就業時間は守り、幸せな家族計画を遂行するために、彼女達が経営する企業は、ホワイトである。
そのーーはずだったのに。
ボクはため息を付きつつ道を歩く。周りにはボクのように、肩を落として歩いている人々の群れ。時折、シャキシャキと歩いていく人がいるけれども、それは稀。こんな時間に出社するなんて、ロクな労働体制の企業じゃないに決まっている。もしかすると、彼らもまだマシな方かも知れない。もっと酷ければ、ずっと会社にいるのではないだろうか。そう、思ってしまう。
ボクの頭をしめているのは直前に届いた一通の手紙。
会社から届いた、社訓（？）のようなもの。
そこに書いてあった文言にボクは愕然としたのだ。
課長 命令
私より早くに出社する事。
私より早くに退社しない事。
この命に従わない者は厳罰に処す。
何だ、その漠然としていて、横暴極まりない命令は、どこの亭主関白宣言だろうか。そして罰則まで設けているとは……酷すぎる。魔物娘の企業だから大丈夫だと思っていたのに、結局、以前の企業と同じだ。いや、暗黙のルールではなく明言しているだけまだマシなのかもしれない。
そんな手紙をもらった時点でこの会社を見切ってしまっておいてもよかったと思うのだが、新人研修の時の先輩達のイキイキした顔を思い出し、更には律儀なボクの事、まず、行ってから確かめてみよう、とこうして会社に向かっているわけだ。
ボクが一番乗りだった。早くきすぎたらしい。自分のデスクに着いて時計を見れば、まだ7時。
ボクが配属された部署は、何でもエッチィ道具を売る部署らしい。正直言ってボクはそうしたものは苦手だ。だけど、生きていくためには仕方がない。
ボクがボンヤリと座っていると、ガチャリ、ドアが開いた。時刻は8時。
ボクは急いで立ち上がって振り向く。そこにいたのは、
課長だった。
ボクは呆気に取られてしまう。
だって、まだ、ボク以外の社員は出社していない。だと言うのに、私より先に出社しないと厳罰に処すと言っていたはずの課長が一番早く来てしまった。しかし、驚いていてばかりではいけない。ボクは急いで頭を下げる。
「お、おはようございます！ 今日からこの部署に配属されました。多賀いつきと申します。よろしくお願い致します」
ボクは精一杯元気よく挨拶する。しかし、相手から返答はない。顔を上げれば、何だか彼女は面食らったような顔をしていた。
彼女、課長の黒崎美那さんはダークエルフだ。ボクでも見惚れてしまうような美人で、褐色の肌に銀髪。その鋭くとも色っぽい目つきに流し見られたら、どんな男でもイチコロだと思える。彼女は如何にも出来る女、といった体で、カッチリしたスーツに身を包み、その立ち姿もとても様になっている。でも、今にもはち切れそうな胸に、スカートから伸びる褐色の足は、生唾を飲み込みそうになるくらいの色気に溢れている。色気もある閾値を越えれば暴力になるのだと、ボクはこの時初めて知った。
ボクが惚けたように彼女を見ていると、舌打ちが聞こえた。
ボクはビクリと身を竦ませる。まさか、ボクの視線があからさますぎたのだろうか。
彼女はその美貌に皺を寄せると、
「新入社員でも……全く……何を教育して来たのかしら」
ブツブツ言いながら、自分の席に向かった。
そして途中で思い出したように振り向くと、
「おはよう」
と、不機嫌な様子を隠しもせずに言った。
頭ごなしに叱られる事は無かったものの、ボクは正直生きた心地がしなかった。ボクの何が彼女を怒らせる事になったのか、全く見当はつかないのだけど、彼女を怒らせないためにこそこんな時間に出社したのだけど……それにしても、あんな課長命令があるというのに、どうして先輩達は誰も出社しないのだろう。
ボクは、ボクと課長しかいないこのオフィスの中、身を縮こまらせる。
席に荷物を置いた課長は、おもむろに立ち上がると、あろう事か、掃除用具入れに向かった。
ボクはまさか、と思う。
だが、彼女はそのまさかだった。
ロッカーからほうきを取り出すと、
「ま、待ってください。それはボクにやらせてください！」
ボクは慌てて彼女に駆け寄り、懇願する。
課長に掃除をやらせるわけにはいかない。これはこの部署の決まりだったのかもしれない。早く来た者が掃除をする。だと言うのに、ボクがやっていなかったから課長は不機嫌だったのだ。
しかし、ボクの顔を見る課長の顔は、苦虫を噛み潰したような顔をしていた……。
「それなら……任せるわ」
課長からほうきを受け取る事に成功したボクは一先ず胸を撫で下ろすが、課長の不穏な様子に心臓はまだバクバクと言っている。
ボクが掃除を終える頃、課長は今度は給湯室へ……。
「ぼ、ボクがやりまーす！」
「そう……」
課長はやはり不機嫌そうな顔で、席へ戻っていった。
「美味しい……」
ボクの淹れたお茶を飲んだ彼女は、驚いた顔をしていた。これはボクの勘違いだとは思うけれど、少し悔しそうな顔も。
「お茶、淹れるの上手いのね」
「ありがとうございます。以前の会社ではよくしていたので。少しでもヌルかったり不味くても怒られますし、だから文句を言われないくらいに美味しく淹れられるように頑張ったんです」
ボクの言葉に課長は奇妙な顔をする。
「あなたが前に勤めていた会社って、◯×商事だったかしら」
「お、覚えていらっしゃるのですか！？」
ボクは目を見開く。
「あなたの履歴書に書いてあったじゃない」
彼女は何でもない事のように言うが、以前の会社の上司はボクの名前ですらちゃんと覚えていなかったと言うのに……大きなカルチャーショックだった。ボクが肯定しつつそれを伝えると、
「そう、◯×商事……」
と彼女は形の良い顎で頷くと、まるで獲物を見つけた肉食獣のような瞳をしていた。その瞳はちょっと、ゾクりとした。
先輩達はまだやって来ない。
ボクはと言えば、課長が意外とチョコチョコ動くので、彼女の動きに合わせて書類を受け取ってコピーを取ったり、お茶を入れ直したり、彼女はなんと花瓶の水換えまでしようとしていた。
キツ目の見た目の課長の、そうした行動は見てみたくもあったけれど、彼女にさせるわけにはいかない。ボクは頑張った。だと言うのに、課長はやはり終始不機嫌だった。
先輩達が出社しない事に憤っているのだろうか。いや、そんな感じでもない。
そして、ついに先輩達が出社する。
それは、10時だった。
『おはようございまーす』
まるで見計らったかのように、彼らは一緒に出社して来た。
彼らに悪びれるところはない。ボクが恐る恐る課長を見て見ると、彼女は、口端だけを吊り上げる笑みを浮かべていた。ボクは震え上がる。これからきっと、彼女の言う罰が下されるのだ。
しかし、その笑みは先ほどの笑みとは違って、まるでやっとお友達と遊べる事を喜ぶ少女のような雰囲気があるのはどうした事だろう？
「おはようございますじゃないッ！」
彼女はまるで活き活きと、声を張り上げる。
『ハイ、ゴメンナサイ！』
先輩達の一糸乱れぬ謝罪のお辞儀。あまりの見事さに、ボクはしばし絶句した。このシンクロ具合と熱意は、きっと、オリンピックでも優勝を狙えるレベルだ。
ピシィ、と空気を切る音が聞こえた。普段の生活で聞きようもない音。
まさか、と課長を見れば、彼女は鞭を携えていた。
そう、鞭だ。
黒い光沢を放つその鞭は、彼女の褐色の肌のようで、それだけで、いたく艶かしかった。
鞭を持った彼女は、女王然として、とてもサマになっていた。その姿なら、先輩達がズボンを下ろして尻を向ける気持ちも理解でき……、いやいや！ 理解出来ない。
「せ、先輩達！ 何をされているんですか！？」
ボクは声を張り上げる。
「規律を破った俺たちは、罰をいただかなくてはいけないのだ！」
彼らは誇らしげな声。
慌てるボクの前で、課長がこちらに視線を寄越す。
「いつき、お前、今日は何時に出社した？」まるで女教官のようなハリのある声。
「え……？ ボク、ですか？」
「そうだ、ボク、だ。私が来た時にはもう、いただろう」
彼女の言葉に先輩の一人が発言する。
「何だって！？ それなら、課長のお掃除姿や上手くお茶を淹れられなくて、寂しそうな顔をしている様子とかを見たというのか！？ なんと羨ましい！ 狡い！」
「え、……え”？」
混乱するボクを諌めるように、鞭の音がした。
「罰を待つブタは喋るんじゃないよ！」褐色の肌でも分かるくらいに彼女の頬は赤かった。「そもそも社畜（ブタ）の鳴き声は違うだろう！ 分かったら返事ッ！」
「ブ、ブヒィいいいッ！」「良し」
彼はまるでよく訓練されたブタのような嘶きを上げ、女王様は満足そうに頷かれていた。
そして、叩かれた彼の顔は紛れもなく歓喜に染まっている。
ボクは白目を向いて驚愕する。これは、なんと言う人権侵害だ。ブラックなんて生易しいものじゃない……！
ボクは理解した。これは……圧倒的、ブラックピンク……。ボクは都会は怖いところだという事を、改めて思った。
「で？ 何時なんだい？」
彼女の冷たい視線に、ボクはしゃくり上げるように答える。
「7時……」パァンッ！
彼女の鞭が一匹の先輩（ブタ）のケツに振るわれた。
「ありがとうございますッ！」ブタが嘶く。
女王様の有難いお言葉が続く。
「聞いたかい？ あんたらどんな教育をしたって言うんだ！」パァンッ！
鞭は振るわれ、別のブタの歓喜の悲鳴が……。
「お、俺がしっかり教育しておきます」
「遅いッ！」再び鞭が振るわれる。
信じられない光景だけど、ボクも黙っているわけにはいかない。
「わ、悪いのは先輩じゃありません！ ぼ、ボクが……」
「黙りな」
女王様の言葉にボクは黙らざるを得なかった。
「悪いのはコイツラだ。叱るなら、右も左も分からない新人に大事な事をしっかり伝えなかった先輩達が悪い。あんな美味しいお茶を淹れてくれたあんたが悪いわけがない」
「あ、ありがとうございます」
パァンッ！ 「ありがとうございますッ！」これは先輩（ブタ）の声。決してボクじゃあない。
「い、今の事は忘れな……」彼女の頬は赤い。
カシャー。シャッター音。
「だ、誰だい今のはー！」課長の叫び。
「誰だー！ 後で俺にも一枚送ってくれー！」「狡いぞ！ 課長の照れ顔なら食券10枚渡したっていい！」
「よぉーし、それで手を打ちましょう」あの人は確か、烏天狗という魔物娘だったはずだ。
しかし、彼女も遅れて来たはずなのに、課長の前に並ばされているのは男性社員ばかりだ。いや、女性も少しいる。彼女は確かオーク……。
パァンッ！ 「ありがとうございますッ！」
彼女（牝ブタ）を叩くときは鞭ではなくハエたたきだった。
男女で使い分けている。さすがにスカートの上から鞭で叩けばスカートが傷つくという配慮だろう。
し、しかし、会社でこれは……、それに叩かれている彼らの心の底からの笑顔は……。
女王様は彼らに罰を与え終わると、席に着く。ボクも恐る恐る席に着けば、隣の席の、頭に猫耳が着いた女性が、
「いやー、今日も汚ったない始業ベルだったにゃー」と言っている。「いつきちゃん、君も明日からはこの時間に来るといいにゃー。叩かれたくなければあそこに並ばなければいいだけにゃし」とも。
そうしてその後、朝礼が始まった。
この会社の始業は、この時間で正しいらしい。
さっきまでブタでしかなかった先輩達は、打って変わって仕事の出来る男と女の顔。その顔は凛々しくて、憧れの対象というに相応しい。恐ろしいまでのメリとハリ。さっきのは彼らにとって朝の体操に等しく、いい仕事の秘ケツは適度な運動と適度なストレス解消……。
「あ、あはははははは」
ボクは乾いた笑いが止まらない。
お母さん、ボクの新しい職場は、笑顔の絶えない素敵な職場でした……。
◆
昼休み、ボクは課長に直々に呼び出された。
ここは給湯室。朝の格好いい彼女の姿は目に焼き付いている。いつ鞭が飛んでくるか、ボクは少し期待してしまう。でも、ボクは叩かれるよりも……。
いやいや、何を言ってるんだボクは……。
あまりに触れたことのない世界に、ボクの価値観はズタボロだ。このままではボクは何かに目覚めてしまいそう。
「課長……な、何か御用でしょうか」
「そんなに畏まらなくっていいよ」
課長は少し呆れた顔。そして小声で。
「お茶の淹れ方を教えてくれないかしら？」
そう切り出して来た。ボクは呆気にとられる。
「な、何よ……。私が部下にお茶を出したいと思ったら悪いって言うの？」
そうなんだ。そのためなんだ。これが、ギャップ萌えという奴なのだろうか。ボクはまた一つ、都会の病みを知った。ボクも都会の一員になれた気がして、ちょっと嬉しい。
「い、いえ、何でもありません」
ボクはホッコリしつつ、彼女にお茶の淹れ方をレクチャーする。配属初日に上司にお茶の淹れ方を教えるって、ここはどんな部署なのだろう、いや、こんな部署だ。
確かに彼女は何度もお茶を淹れるのに失敗して、寂しそうな顔をしていた。短いやり取りだけど、ボクは彼女の人となりが分かった気がする。そして、ボクは一つの決意をするに至った。
「だ、大丈夫ですよ。誰だって正しく練習すればちゃんと出来るようになりますよ」
「そ、そうよね……」
彼女の照れ笑い。ボクの心のアルバムは早くももう三冊目に突入している。
しかし、1冊目を占めているのは朝の、あの凛々しい姿だ。
ボクは頑張っている彼女に、意を決して問いかけてみることにする。
「か、課長……」
「何？」
「あ、あの……」
モジモジするボクを、彼女は待って居てくれる。
その姿にボクはやはりこの人しかいないと確信する。
「お、お姉さまと呼ばせていただいてもよろしいでしょうか！？」
「は、ハィいいい！？」
課長の素っ頓狂な声に、
「ど、どうかいたしましたか課長！」「課長！」「課長！」パァンッ！「ありがとうございますッ！」
飛び込んで来たブタどもを彼女は鞭でなぎ払っていた。
やっぱりそれはお姉さまと呼ぶに相応しい姿だった。
ブタどもを追い払った彼女はボクに問う。
「正気？」
「はい、ボクは正気です。お姉さまは格好良くて、ボクの理想とする女性です。ボクはお姉さまのような人になりたいとずっと思っていたんです！ 引っ込み思案のボクだったけれども、お姉さまを見て、今決めました！」
ボクは力説する。
「こんなチンチクリンななりのボクだけれども、お姉さまにご指導ご鞭撻をいただければ、きっと……」
鼻息荒く顔を近づけるボクに、彼女は面食らったよう。
「いえ、すでに引っ込み思案じゃないような……。でも、人間の小娘にしては、見る目があるわね」
と、彼女は嬉しそうな声音。
「よし、じゃあ、お茶の淹れ方を教えてもらう代わりに、ブタの啼かせ方ってものを教えてあげましょう」
「ハイッ！」と、ボクは力一杯に返事をした。
ボクの生活は充実している。
優しい先輩達に仕事を教えられ、尊敬できる上司に直々に指導を頂いている。ボクの出社時間は課長（お姉さま）と同じ時間。それから他の社員が出社して来るまで、二人で指導し合う。
前の会社では想像も出来なかった事だ。ちなみに前の会社はどこかの魔物娘の企業に買収されたと風の噂で聞いた。
……でも、満たされれば満たされるほど、求めてしまうというのが人間の性だ。
だから、ボクはついにーー。
◆
「本気、なのね……」お姉さまはボクに問いかける。
ボクはお姉さまの家を訪れていた。
とあるマンションの一室。部屋の中は小ざっぱりとして、可愛らしい小物にあふれていた。出会った当初だと、これはやっぱりギャップというものになるのだろうけど、今となっては彼女らしい
、と思うボクがいる。
お母さん、ボクは今日、お姉さまと義姉妹の契りを結んで人間をやめようと思います。こんな娘をどうかお許しください。
彼女を敬愛するあまり、ボクはこの道に足を踏み入れた。
これは必然的な結果だった。
元々ボクにはその気はあったのだけど、彼女に出会って爆発してしまった。
シャワーを浴びてベッドで待つボクは、だんだん緊張して来た。
彼女の匂いがする。甘い香りに、頭がクラクラして来る。
ボクが待っていると、彼女はガウンを羽織った姿で現れた。その姿はそれだけで鼻血が出そうになる程色っぽい。湯上りで上気した褐色の肌は、いっそう艶（つや）めかして扇情的。
ガウンに膨らんだ胸も尻も、これからボクが交わる相手。
ボクの貧相な体を彼女に気に入ってもらえるか、なんて。ボクは生娘のように思う。そんな気持ち、もう昔の事だったはずなのに。ボクの固まった様子を見て、彼女はクスリ、と。婉然と笑う。
「まるで始めてあった頃みたいね」
「そ、そんな事言わないでくださいよ……」
ボクは更に縮こまる。
「大丈夫。私がリードするから。ブタの啼かせ方だけじゃなくて、女の啼かせ方まで教える事になるとは思わなかったわ」
ボクの勘違いでなければ、彼女にも少し緊張している様子がある。
「私も久しぶりだから……」
その言葉にボクはチクリとする。しかし、こんなに魅力的な肢体の彼女なのだ。男がいなかったわけがない。ボクだって、昔、彼氏はいた。その時色々あって、正直男はもうこりごり、とも思っていた。
でも、女性とは初めてだ。
「よ、よろしくお願いいたします」
ボクは彼女のベッドの上で三つ指をついてみる。
彼女はもう一度笑って、ボクを押し倒してくれた。
啄ばむようなキスから、貪るようなディープキス。彼女の舌はまるで蛇のようで、ボクの舌を絡め取って放しはしない。ボクは彼女の唇で溺れる。
彼女の唇はボクの輪郭をなぞって、下降していく。
肌けられたボクのガウンから、自分で言うのも何だけど、慎ましやかな乳房と乳首が露わにされる。ボクは恥ずかしさのあまりに思わず手で隠す。彼女のような立派なものなんて持っていない。
だけど彼女は強引に、ボクの手を引き剥がして、その怜悧な美貌で「隠さないの」と告げる。その氷の針を刺し込まれるような響きに、ボクの背筋がキィン、と音を立てる。
彼女の手つきは巧みで、男のものとは比べものにならない程に繊細で、ボクの乳房を、
「ぅ、……ふぅん」
ボクは指を噛んで、声を押し殺す。でも、彼女はそれも許してくれない。ボクの手を引き剥がすと、まるで釘付けにするような瞳でボクを見る。
ーー隠すな。ーー抑えるな。ーー全てを曝け出せ。女同士で何を躊躇うことがある？
なんて、彼女の瞳は雄弁に語っていた。
ボクは観念する。そして、
「ふぁッ、……ァ、あぁあ」
乳首の先からボクの体に、快感がさざ波のように広がった。お姉さまの舌が、ボクの乳首を苛めている。ああ、聞かれちゃってる。お姉さまに、ボクの恥ずかしい声が。
ボクはお姉さまに聞かれないように、そしてねだる様に、彼女の頭を胸に押し付ける。
「ン、……や、ぁ」
「可愛らしい声で啼くじゃない」
お姉さまの細い指がボクのお腹をさすりながら下っていく。こんな事ならダイエット、もっとしておけばよかったな。なんて、そんな事を思う余裕もなくて、お姉さまの指は私の大事なところに…。
「ふキャ……」
クスクスと笑うお姉さまの瞳。恥ずかしい。ボクからこんな声が出るなんて、お姉さまはボクの顔を舐める様に見て、頬に舌を這わせてくる。それは、舌でボクの生皮を剥がしていく様な行為。
ボクは彼女の指と唇、舌で、剥き出しにされていく。
ボクの体を蛭のような女の舌が這っていく。それはまるでカタツムリのような速度で、ボクのおヘソを。ボクは言いつけも忘れて、口を手で塞いでしまった。
知らなかった。ボク、こんなところがこんなにも弱かったなんて。
「悪い子ね」お姉さまの冷たい瞳。
「ごめんなさい……」
お姉さまはボクにのしかかったまま、羽織っていたガウンを脱ぎ捨てる。一糸まとわぬ褐色の裸身。それはどんな見事な彫刻すら叶わないと思えるほどに、美しかった。ツンとたったオッパイの先には、桜色の乳首。キュッとくびれた腰に、前から見えるムッチリとしたお尻。そのおみ足には、そのスジの人じゃなくても、きっと踏まれたいと思うに違いない。
そして彼女は脱ぎ捨てたガウンの袖で、ボクの手首を縛った。
痛くなくて、それでいて自分では解くことの出来ない絶妙の力加減。ボクは手を縛られた状態で、更にベッドの端に縛り付けられて、口を抑える事も、胸を隠す事も出来ない。
お姉さまの目が、肉食獣めかして輝やいている。唇を舐める。
ああ、ボク、本当に食べられちゃうんだ。
そんな事を思うと、ボクの下腹部は否応なく高まっていく。お姉さまはボクの火照り出したそこを、優しく撫でてくれる。むず痒くて、もどかしくて、酷く熱い。
でも、ボクは足を閉じて、漏れ出す官能の雫をどうにかして隠そうとする。もちろん、お姉さまは許してくれない。股をこじ開けられる。
「こんなに濡れて、まだ魔物娘じゃないというのに、はしたない子ね」
嗜虐的な彼女の声。
「い、言わないでください」
「アラ、私に刃向かうって言うの？ それじゃあ、もうここで止めとこうかしら」
「…………そ、それは。あ……」
ボクの太ももから手を離す彼女に、ボクは情けない声を出した。
「どうしたの？」
「…………ッ、っ……いじわる、です」
「してほしい事があるんだったらちゃんと言わないと、ダ・メ」
彼女の愉しそうな声。
「幸い、明日は休みよ。一晩放置っていうのも私はやぶさかじゃないけれど、どうするの？」
ボクは息を飲む。ここまでされて、ここまで体を火照らせられて、我慢が出来るわけがない。
ボクは意を決して、彼女に懇願する。
「い、イジって……ください」
「それじゃあ、わらかないわ」
「ぅ……」
ボクは彼女の瞳に絡め取られて、生唾を飲み込む。そして、
「ボク、……の。オマンコをいじって下さい。お姉さまの指と舌で愛して……、ボクをイかせて。ボクのオマンコを滅茶苦茶にして、ボクを魔物娘に、お姉さまの妹にして下さいッ！」
「よく出来ました」
「ヒャ、……。ぁ、あああああ！」
食べられた。ボクのオマンコはお姉さまに食べられてしまった。
お姉さまの舌が、ボクのナカで暴れている。暴れている？ 違う。苛めている。時に激しく、時にジレったく。彼女は的確に、ボクの弱いところを見つけ出して、そこを執拗に虐めたと思えば、ワザとそこをさけて、本当に、本当に、もどかしくてボクが彼女を求めれば、そのタイミングで刺激してくれる。
ボクは彼女という嵐に弄ばれる、哀れなむき出しの果実に過ぎない。
ボクは何度イかされたか分からない。
嵐が去った後、全身から力が抜けたボクは、ダラシなく涙もヨダレも、鼻水も垂らして、体をヒクつかせていた。もちろん、ボクのオマンコも。そこはボクの意思を外れたように、彼女を求めて喘いでいる。
「やり過ぎたかしら？ 久しぶりで、可愛い妹だから私も張り切ってしまったわ。ここで止めておく？」
お姉さまはボクにそんな酷い事を言ってくる。ボクはか細く首を振る。だって、お姉さまはまだイっていない。
「大……丈夫です。最後まで、お姉さまがまだ、気持ちよくなっていない……です」
ボクの言葉に、彼女はおこりのように、体を震わせた。その言葉で感じたらしい。彼女の唇は
ボクの恥ずかしい液でベタベタに汚れている。ボクはその光景に、再び暗い熱が、下腹部に渦巻くのを感じた。
「それじゃあ、遠慮なく」
お姉さまはボクに覆いかぶさり、唇を奪ってきた。ボクは乳房を求める赤子のように、彼女の舌に吸い付く。ボクの味がする。お姉さまに虐められたボクの味がした。
そして、お姉さまの乳首とボクの乳首がこすり合わされる。ボリュームのある彼女の胸肉がボクに押し付けられ、ボクは劣等感とともに感じてしまう。お姉さまの乳首はぷっくりと固くなって、ボクの乳首も痛いくらいに固くなっている。
お互いの乳首が引っ掻き合うように重なり、ボクらの吐息は背徳的に高まっていく。
やがて、お姉さまのムッチリとした太ももが、ボクの太ももを割って、ボクの下の唇をさする。ボクの茂みを掻き分けて、お姉さまの茂みも、ボクの太ももに押し付けれている。そこから伝わってくる、彼女の劣情の湿り。
ボクらはお互いの汁で、お互いを濡らす。
ボクは諸手を縛られたまま。ボクも、お姉さまの体を触りたい。
その気持ちが通じたのだろう。お姉さまはボクの戒めを解いてくれた。ボクは待ちかねたように彼女の胸を揉む。どこまでも沈み込んでいきそうな柔らかさなのに、ヤられるままではいないハリが帰ってくる。ボクは夢中で、彼女の乳首もつまんで、そして吸い付く。
ボクのテクニックは当然お姉さまに通じるわけはないのだけど、ボクは一生懸命、彼女を気持ちよくさせようと頑張る。そのうち、お姉さまの反応が微かに違う場所を見つけた。ボクは試しにそこを集中的に狙ってみて、微かにお姉さまの吐息の色が変わる。
「頑張るじゃあないか」
お姉さまの艶っぽい声。
ボクは、夢中で、夢中に。
「ぅ、あッ……」
オマンコに走ったつき刺すような快感に、ボクは思わず体を仰け反らせて、お姉さまの胸に顔を埋めて、身をよじらせる。お姉さまの指が、ボクのナカに侵入している。
やだ、やだやだやだ。
お姉さまをまだ十分感じさせてないっていうのに、ボクだけこんな、こんな簡単にイかされて……。
ボクはお姉さまの胸で絶頂の吐息を吐き出した。
ボクは抗議するようにお姉さまの膣に指を伸ばす。そこはグッショリと濡れていて、ナカはとろけるほどに熱い。肉のヒダヒダがキュウキュウと指を締め付けてきて、ボクが彼女を気持ちよくさせるはずがこちらが、気持ちよくなってしまいそうだ。
ボクは自分の指が心のオチンポになったつもりで、彼女の肉を捏ねてみる。
少し、身をよじってくれた。でも、まだ足りない。
「まだ練習ね。順番に教えてアゲルから、覚悟しておきなさい」
耳元で囁かれた彼女の声に、ボクは背筋を逆なでされたようにゾクゾクとした。
そして彼女は体を起こし、ボクの足を抱える。彼女の胸に挟み込まれたボクの足。
「それじゃあ、いつきを変えてしまいましょう」
彼女はボクの背筋が凍えるような、トロけてしまうような顔で笑う。
「お願いします。ボクをお姉さまの妹に……」
「もう、あなたは私の妹よ」
そんな泣き出してしまいそうなほどに嬉しい言葉と共に、ボクたちの貝は合わさった。
ピッタリと。
噛み付き合うように、ボクたちの秘部は擦りあう。何かが、彼女のオマンコからボクのオマンコに入り込んでくる。
ぼ、ボクはもう、頭が真っ白になる。
もう、オマンコ以外の感覚が全て消しとばされてしまったかのような圧倒的な官能の迸り。だと言うのに、彼女の熱だけがやけに鮮明で、ボクを、ボクの中から塗り替えていく。きっと、これが魔物の魔力というものなのだろう。オチンポよりも激烈で、圧倒的な快楽。こんなもの、抗えるわけがない。
ボクは乾いた土壌のように、彼女を貪欲に吸収していく。
そうしてボクは作り変えられる。お姉さまの魔力によって。人間を止めさせられて、お姉さまと一緒のダークエルフという魔物娘に。
ボクはひときわ高く嘶くと、そのまま快楽の閃光に塗りつぶされた。
ボクはお姉さまの腕の中で、ボクの褐色の肌を見る。
嬉しさのあまり、クスクスと笑いだしたいけれども、快楽の余韻がまだ体に残って、指一本も動かせない。ボク、人間やめちゃったんだ。そんな、背徳的で、刺激的な感情に、体が勝手に震えてしまう。これから、お姉さまを感じさせられるように、ボクは頑張りたいと思います。
あーあ、きっと、明日出社して、ダークエルフになってるボクを見たら、ボクと課長（お姉さま）の関係はバレてしまうだろう。でも、その分先輩達を叩いてあげるから、許してほしい。
「全く、私も初めての時の事を思い出してしまったわ」
お姉さまはいつかのセックスで教えてくれた。
実はお姉さまも、元は人間だったらしい。男とセックスしたのは人間だった時だけらしい。お姉さまにも憧れのお姉さまがいて、その人にダークエルフにしてもらったらしい。
ボクたちは似た者同士だったんだ、とボクは嬉しくなる。
そのお姉さまのお姉さまは、男の人と結婚して、会社を辞めたたらしい。お姉さまは、寂しそうに言っていた。
いつか、お姉さまのお姉さまにボクは会ってみたいと思う。ボクはあなたの妹の妹です、と。
◆
「ありがとうございますッ！」
ボクは遅れてやってきた部下（ブタ）に今日も活き活きと鞭を振るう。
新入社員だったボクも、今では立派な課長（女王様）です。
お姉さまも出世されて、ボクらの爛れた関係は今でも続いている。どうにもボクらは今のところは女性にしか反応しないタチらしい。そんなボクらはいつか、それでも反応できる男性に出会う事が出来るのだろうか？
魔物娘としては失格だけど、今はこうして男性には鞭を振るって、体を重ねるのはお姉さまとだけでいい。それでボクらは満たされている。そんな気持ちを込めて、ボクは鞭を振るう
今日もこの会社は、ダークエルフが率いる、笑顔の絶えないブラックな職場です。
17/08/12 16:46更新 / ルピナス