くらげの1日
私はくらげ。
今日も1日朝からぷかぷかー、ぷかぷかー。
どこかから男が流れてこないかな。
青い空を見て、青い波に流される。
お日さまはサンサンと輝いて、
私の肌を濡らします。
そのうち白い雲がもくもくと、波間の間から立ち昇って、大きな大きな雲になります。
見ているうちにザアザアと、激しい雨が海をかき混ぜます。
私はくるくるくるくる流されて、元いた場所から、何処か遠いところへ流されました。
そのうち雨も止んで。
私はまた、ぷかぷかぷかぷかと浮いています。
そのうち遠くからだんだんと、真っ白い帆を立てた船がやってきました。
風を孕んで全速力。
まるで何かから逃げているよう。
と、その後ろには大きな大きなイカの足が。
ああ、クラーケンさんだ。
と私は思います。
あの大きな大きな足で、船を木っ端微塵にして、男を捕まえるのです。
私の横を鮫の背びれが過ぎていきます。
一目散に、海の宴に乗り遅れないように。
私もそこに続こうかと思ったけれど、まあ、ぷかぷかーぷかぷかー、と浮いています。
向こうから男が流れてこないかな。
見ているうちに、クラーケンさんの足は船に巻きついて、船を真っ二つに割ってしまいました。
中から出てくるのは男たち。
集まってきた海の魔物娘たちは、我先にと争うように男を捕まえていきます。
私は見た事ないけれど、それは聞いたところによる。
バーゲンセールのようだと思いました。
だってそうでしょう。
歳とったーーゴポン。
……年上のお姉さんたちほど必死で、巧みです。
凄いなあ、と思っているうちに、ようやく私も波に揺られてそこにたどり着きます。
でも残念。
残っている男たちはいません。
一番悔しがっているのはクラーケンさんです。
頑張ってね、と思いながら私はまた、波まかせにぷかぷかー、ぷかぷかーと流れていきます。
空ではカモメがゆーらゆーらと揺れています。
きっとカモメは空に浮かんで風まかせ。
私は海に浮かんで波まかせ。
おんなじで、私はクスリと笑います。
あーあ、今日も1日昼もぷかぷかー、ぷかぷかー。
波は私をどこに運んでいくのでしょう。
のんびり揺られる私の横を、また、海の魔物娘たちがものすごい速さで通り過ぎていきます。
どうしてそんなに急ぐのでしょう。
私は分からなくってぷかりと首を、傾げます。
そのうち私とおんなじように流れてきた緑のお友達と、私は一緒になって流されます。
あなたは何処から来たのかしらん?
私が尋ねれば、彼女は何処から来たのか分からないそうです。
私とおんなじだ。
と言って、私たちは一緒になって笑います。
波は速くなったり遅くなったり、高くなったり低くなったり、私たちはのんびりのんびり揺られていきます。
そのうち私たちは別の波に乗ってしまいました。
ここでお別れです。
でも、波に揺られていればまた会うこともあるでしょう。
そう言って私たちは別れます。
ぷかぷか、ぷかぷかり。
私は一人で波間を漂います。
一人になったすぐ後は少し寂しくなったけれど、こうして波に任せて漂っていれば、また誰かに会うこともあるでしょう。
私はやっぱりぷかぷかと波に流されていきます。
そのうち太陽が傾いて、海とぶつかりそうになります。
私は危ないと思うけれど、太陽は燃え尽きることも、海は干上がることもなく、まるで溶け合うようにすれ違っていきます。
赤と青が混ざる空。海と空が混ざる太陽。
そうして空はくるりと夜へと裏返っていきます。
空には星。
海には波。
見えるものは変わっても、私が海にいて、波に揺られていることは変わりません。
私はぷかぷかーぷかぷかーと、夜の海を漂います。
波の白さも海の青さも見えなくなって、揺らいだ黒と星を飾った黒が溶けています。
月のない空は星でいっぱい。
波に揺られていると、そのまま天に昇っていくような心持ちになっていきます。
ちゃぷちゃぷと、波間の音はするけども。
静かな静かな夜の海は、私を何処でもないところへ連れていくようで、ちょっぴり怖くなります。
それでも私は目を瞑って、ぷかぷかーぷかぷかーと波に揺られます。
それは揺りかごのようで。
それはお母さんのお胎の中のようで。
だんだんとウトウトと。
私は眠く……。
はっ、と誰かに私は掴まれました。
そこには何処かで見たような男の人の顔が。
私は彼に言います。
「ただいま」
そうでした。私にはもう夫がいました。
波に揺られるうちにどうにもあやふやになっていたようです。
彼は私に言います。
「おかえり。また波に揺られてたんだね」
「うん。ぷかぷかぷかぷか浮いてたら、またあなたのところへ戻ってこられた」
「そっか」
と、彼は優しく私にキスをしてくれます。
私はくすぐったく感じながら、
「心配した?」と聞きます。
彼は呆れたように頷きます。
「ごめんなさい。でも、どれだけ波に揺られたって、私が辿り着くのはいつだってあなたのところだから」
「うん、それは心配してない」
そうして私たちは何度目になるか分からない再会に、二人で笑うのでした。
今日も1日朝からぷかぷかー、ぷかぷかー。
どこかから男が流れてこないかな。
青い空を見て、青い波に流される。
お日さまはサンサンと輝いて、
私の肌を濡らします。
そのうち白い雲がもくもくと、波間の間から立ち昇って、大きな大きな雲になります。
見ているうちにザアザアと、激しい雨が海をかき混ぜます。
私はくるくるくるくる流されて、元いた場所から、何処か遠いところへ流されました。
そのうち雨も止んで。
私はまた、ぷかぷかぷかぷかと浮いています。
そのうち遠くからだんだんと、真っ白い帆を立てた船がやってきました。
風を孕んで全速力。
まるで何かから逃げているよう。
と、その後ろには大きな大きなイカの足が。
ああ、クラーケンさんだ。
と私は思います。
あの大きな大きな足で、船を木っ端微塵にして、男を捕まえるのです。
私の横を鮫の背びれが過ぎていきます。
一目散に、海の宴に乗り遅れないように。
私もそこに続こうかと思ったけれど、まあ、ぷかぷかーぷかぷかー、と浮いています。
向こうから男が流れてこないかな。
見ているうちに、クラーケンさんの足は船に巻きついて、船を真っ二つに割ってしまいました。
中から出てくるのは男たち。
集まってきた海の魔物娘たちは、我先にと争うように男を捕まえていきます。
私は見た事ないけれど、それは聞いたところによる。
バーゲンセールのようだと思いました。
だってそうでしょう。
歳とったーーゴポン。
……年上のお姉さんたちほど必死で、巧みです。
凄いなあ、と思っているうちに、ようやく私も波に揺られてそこにたどり着きます。
でも残念。
残っている男たちはいません。
一番悔しがっているのはクラーケンさんです。
頑張ってね、と思いながら私はまた、波まかせにぷかぷかー、ぷかぷかーと流れていきます。
空ではカモメがゆーらゆーらと揺れています。
きっとカモメは空に浮かんで風まかせ。
私は海に浮かんで波まかせ。
おんなじで、私はクスリと笑います。
あーあ、今日も1日昼もぷかぷかー、ぷかぷかー。
波は私をどこに運んでいくのでしょう。
のんびり揺られる私の横を、また、海の魔物娘たちがものすごい速さで通り過ぎていきます。
どうしてそんなに急ぐのでしょう。
私は分からなくってぷかりと首を、傾げます。
そのうち私とおんなじように流れてきた緑のお友達と、私は一緒になって流されます。
あなたは何処から来たのかしらん?
私が尋ねれば、彼女は何処から来たのか分からないそうです。
私とおんなじだ。
と言って、私たちは一緒になって笑います。
波は速くなったり遅くなったり、高くなったり低くなったり、私たちはのんびりのんびり揺られていきます。
そのうち私たちは別の波に乗ってしまいました。
ここでお別れです。
でも、波に揺られていればまた会うこともあるでしょう。
そう言って私たちは別れます。
ぷかぷか、ぷかぷかり。
私は一人で波間を漂います。
一人になったすぐ後は少し寂しくなったけれど、こうして波に任せて漂っていれば、また誰かに会うこともあるでしょう。
私はやっぱりぷかぷかと波に流されていきます。
そのうち太陽が傾いて、海とぶつかりそうになります。
私は危ないと思うけれど、太陽は燃え尽きることも、海は干上がることもなく、まるで溶け合うようにすれ違っていきます。
赤と青が混ざる空。海と空が混ざる太陽。
そうして空はくるりと夜へと裏返っていきます。
空には星。
海には波。
見えるものは変わっても、私が海にいて、波に揺られていることは変わりません。
私はぷかぷかーぷかぷかーと、夜の海を漂います。
波の白さも海の青さも見えなくなって、揺らいだ黒と星を飾った黒が溶けています。
月のない空は星でいっぱい。
波に揺られていると、そのまま天に昇っていくような心持ちになっていきます。
ちゃぷちゃぷと、波間の音はするけども。
静かな静かな夜の海は、私を何処でもないところへ連れていくようで、ちょっぴり怖くなります。
それでも私は目を瞑って、ぷかぷかーぷかぷかーと波に揺られます。
それは揺りかごのようで。
それはお母さんのお胎の中のようで。
だんだんとウトウトと。
私は眠く……。
はっ、と誰かに私は掴まれました。
そこには何処かで見たような男の人の顔が。
私は彼に言います。
「ただいま」
そうでした。私にはもう夫がいました。
波に揺られるうちにどうにもあやふやになっていたようです。
彼は私に言います。
「おかえり。また波に揺られてたんだね」
「うん。ぷかぷかぷかぷか浮いてたら、またあなたのところへ戻ってこられた」
「そっか」
と、彼は優しく私にキスをしてくれます。
私はくすぐったく感じながら、
「心配した?」と聞きます。
彼は呆れたように頷きます。
「ごめんなさい。でも、どれだけ波に揺られたって、私が辿り着くのはいつだってあなたのところだから」
「うん、それは心配してない」
そうして私たちは何度目になるか分からない再会に、二人で笑うのでした。
17/07/18 20:28更新 / ルピナス