連載小説
[TOP][目次]
その6(ラウル編)
 
 ― 真っ暗な闇の中、私は窮屈さで目を覚ました。
 
 「…え?」
 
 恐らく目の前に黒い布が巻かれているのだろう。きゅっと縛った布の感覚が後頭部に残っている。それを剥がそうと万歳のようにあげられた腕を動かそうとしたが、ガチャガチャと金属音がなるだけで一定以上は動かない。下半身はさらに酷く、足を折り曲げた状態で縛り上げられている。その上で足は左右に開くように固定されており、まるで股間を見せつけているような格好にさせられていた。
 
 「な…何だ…!?これは…!!」
 「ようやく起きましたか」
 
 ― え……っ?
 
 思わず紡いだ私の言葉に応えたのは聞き覚えのある声だった。そのまま声の主が私の方へ一歩二歩と近づいてくるのが分かる。それは普通であれば恐ろしいものであるだろう。見知らぬままに淫猥な格好で拘束され、視界まで奪われているのだから。さらに微かに感じる肌寒さが今の私が裸であることを感じさせる。けれど、その声は氷のように冷たいはずなのにそんな不安を一瞬で溶かし、安堵へと変えてくれるのだ。
 
 「ほら…少し頭を上げなさい」
 「あ…」
 
 そのまま私の後頭部へと声の主が手を伸ばすのが分かった。それに私の身体は自然と顔を上げ、『彼』が動きやすいように反応してしまう。声の主に従うよりも先にもっと問いたださなければいけない事があるのは分かっているはずなのに、まるで身体中が『彼』に支配されているように自然と従ってしまう。
 
 ― そんな私の視界がゆっくりと光を取り戻し…。
 
 最初に私の視界に入ってきたのは灰色の壁であった。恐らく地下室か何かなのだろう。壁紙も張られていない殺風景な部屋の中には殆ど物がなかった。生活臭がまるで感じられない部屋の中に唯一あるのは私が背中を預けるベッドだけである。
 
 ― そして…そのベッドの縁に彼…いや、ハワードが腰を掛けていた。
 
 その姿は何時もと同じ制服である。けれど、その瞳は何時もとはまるで違うものであった。暖かい色を伴った普段の瞳とが違い、今のニンゲンはまるで物を見下ろしているような冷たい視線を私に向けている。けれど、それは以前、食堂で乱闘騒ぎを起こした連中に向けるような敵意あるものではなく、何処か自分の所有物を見るような優越感が含まれていた。
 
 「ニンゲン…」
 「へぇ…」
 
 ― 瞬間、私の太腿に衝撃が走った。
 
 パシンと言う音と共に震えた身体に衝撃が走る。それはニンゲンが私の右の内股を平手で叩いたからだろう。ある程度、手加減してくれていたのかそれに対して痛みは殆どない。けれど、その代わり、私がぶたれた部分にはジンジンと骨に響くような熱が広がり始めていた。
 
 「何時から私がそんな呼び方を許可しました?」
 「い、何時からって…」
 
 ― 再び衝撃。
 
 今度は左の内股を叩かれた私の身体がビクンと揺れる。それも先の一撃と同じく、痛みを伴わないものだ。だが、その熱は確実に神経へと伝わり、私の身体中を駆け巡る。まるで身体を熱くさせるようなそれに抗おうにも縛られた状態では何も出来ない。
 
 「ご主人様と呼べとアレほど仕込んだつもりだったんですけどねぇ」
 「ご主人様って一体、何の冗だ…っ!」
 
 ― 再度、衝撃。
 
 「くぅぅ…っ」
 「んー…あんまり強く責め過ぎたんで記憶でも飛んじゃったんですかね?」
 
 右の内股に再び走った衝撃に堪える私の前でニンゲンは不思議そうに首を捻った。そこには何の後悔も苦悩も見えない。まるで家具が壊れた原因を探すように無味乾燥な疑問だけがそこにはあった。
 
 「まぁ…良いでしょう。調教しなおすのも面白そうですし」
 「ち、調教って…」
 
 一人で勝手に答えを出すニンゲンに私は思わずそう返した。勿論、その言葉の意味を私は知っている。本屋でこっそり淫猥な小説を買って以来、私は何度もそれを読み返しているのだ。ここで言う調教というのが人の尊厳を打ち砕くものであり、女をメス奴隷に仕立て上げる事くらいは察する事が出来る。そして…とても気持ち良い事も…♪――
 
 ― な、何を考えてるんだ私は…っ!
 
 ふと浮かんだその考えを私は唯一、自由になる首を左右に振って振り払った。しかし、汚泥から湧き出るようなその思考は何時まで経っても消えてはくれない。まるで数日置いた油汚れのようにべったりと私から離れないのだ。
 
 「おや、まずはそこから説明しないといけませんか?貴女は私に捕まったんですよ。だから…貴女は私のモノなんです」
 
 ― 確かにそう言われてもおかしくない状態だったけれど…。
 
 生活を完全にニンゲンに依存し、一人で外に出ることも危うい私は正直、ペットと言われても否定は出来ない。完全に彼抜きでは生活できなくなってしまった私は囚われたと表現してもおかしくはないだろう。
 
 ― だけど…今までは…っ!
 
 ニンゲンは私を人権のある一個人として扱ってくれていた。私の意思を尊重し、護ってくれる人だったのである。それがどうしてこんな風になってしまったのか、私にはどうにも理解が及ばない。
 
 「し、正気に戻れ!今のお前は何かおかしいぞ!!」
 「いいえ。おかしくなんてないですとも。寧ろ、自分のモノを好きにするのに遠慮する方がおかしいでしょう?」
 
 ― そう言ってニンゲンは私の胸に触れた。
 
 「ふあぁっ♪」
 
 服の上から微かに分かる程度の膨らみが彼の手の中で握られる。掴んでいると言っても過言ではないそれに私の身体は何故か痛みを感じなかった。それよりもビリビリとした感覚が強く、胸を反らすように背中が動いてしまう。
 
 「ふむ…やはり記憶がトんでも感度はそのままのようですね」
 「な、何を言っくぅんっ♪」
 
 一人で勝手に納得するニンゲンの言葉にさえ私はまともに返事が出来ない。彼の手の中で私の胸が弄ばれる度にビリビリした感覚が強くなり、お腹の奥へと沈んでいくのだ。静まるのではなく雌伏し、決起の時を待つようなその感覚は私の実体験的にも快感と分類されるものであった。
 
 ― なんで…こんな…ぁっ♪
 
 勿論、ニンゲンの事は憎からず思っている。いや、多分…私は彼のことを好いているのだろう。それも異性として…女として興味を惹かれている。それくらいは私にだって自覚はあるのだ。
 けれど、それを踏まえてもこんなに感じるなんておかしい。だって、私は訳が分からないまま裸にされ、拘束されているのである。その上、ハワードは私をまるで奴隷のように扱っているのだ。それなのにこんなに感じるなんて…まるで…まるで…――。
 
 ― まるで…コイツの言うとおり…マゾみたいじゃないか…ぁ…♪
 
 「どうです?これほど感じている事こそ貴女が私のものであるという状況証拠の一つだと言えると思うのですが…」
 「か、感じてなんか…っ!」
 「嘘ですね」
 「ひゅぅぅっ♪」
 
 ― 瞬間、ニンゲンの指が私の乳首を圧し潰した。
 
 二つの指で潰れるほど刺激された両方の乳首から溢れんばかりの快感が脳へと刻み込まれていく。それは一瞬ではあったものの、私が嬌声を漏らすのには十分過ぎる。背筋を伝って身体全体に広がるその快感は私のお腹の奥を潤ませ、ジュンっと熱い蜜が零させるほどだったのだから。
 
 「ほら、もうこんなに乳首勃起してるじゃないですか。見られて…拘束されて…感じてるんでしょう?」
 「さ、寒い…だけだ…っ!」
 「強情ですねぇ…」
 
 そう否定する私にニンゲンは呆れたような声を出した。それはきっと意味が無いのにも関わらず意地を張る私に呆れているからなのだろう。彼の言う通り、私の身体は自分でも信じられないほど敏感にされているのだ。どれだけ意地を張ってもいずれは愛液を滲ませ、ニンゲンの前に無様な姿を晒すだろう。
 
 ― でも…だからって…っ!
 
 自分から膝を折ってニンゲンに屈するつもりにはなれなかった。そちらの方が楽なのだろうと理性では分かっていても、エルフとしてのプライドがそれを許さない。意地や誇りを持てるほど立派な生き方をしている訳ではないとは言え、今も尚、それは私の中に残っていた。
 
 ― それに何より…こんな冷たい男がニンゲンだなんて認めたくない…っ!
 
 ハワードは確かに時折、冷たい態度をとる事がある。けれど、それは殆ど私の事を思っての事だ。それ以外の場合は暖かく私のような生意気なエルフを受け入れてくれている。そんなニンゲンがこんな冷たい視線を、冷たい言葉を私に向けるなんて信じられないし、認められないのだ。
 
 「じゃあ…温めてあげましょうか」
 「え…?」
 
 ― そう言って、ニンゲンは私の背中に回った。
 
 無理矢理、上体を起こされた私とベッドの間にするりとニンゲンの身体が入り込む。そのまま一糸も纏わぬ私の身体を彼の腕がぎゅっと抱きしめた。厚手の制服越しにじんわりと広がる彼の体温に肌寒さに震えていた肌が落ち着いていく。
 
 ― あぁ…なんで…なんで…っ!
 
 それどころか不安と怒りにささくれだった心さえニンゲンの体温は癒してくれるのだ。その甘美で中毒性の高い感覚は今まで彼以外に味わった事がない。当然だろう。それほどまでに心を許した相手なんて今までニンゲンにしかいないのだから。そして…こうして身体を溶かされていくような安堵感こそが、目の前の冷たい男が『ハワード』であるという紛れも無い証拠のように私には思えるのだ。
 
 「なんで…こんな事を…」
 「貴女が欲しかったからですよ」
 「んぁ…ぁっ♪」
 
 そう言って愛撫を再開するニンゲンの手に私の口からまた声が漏れる。しかし、それはさっきよりもさらに甘いものになっていた。彼が『ハワード』であると身体が認めてしまったからか、或いは彼に暖められている所為か。どちらであれ、私の身体がまた熱くなったのだけは確かである。
 
 「貴女が欲しくて…自分の物にしたかった。…そんな理由では不服ですか?」
 「そ…それって…んぁっ♪」
 
 ― ニンゲンの言葉に不覚にも胸が高なった瞬間、私の首筋に熱い粘膜が絡みついた。
 
 それがニンゲンの舌であることを認識した頃には私の背筋には鳥肌が浮かんでいた。しかし、それは決して不快感から生まれたものではない。文字通り味わわれているような背徳感がゾクゾクとした快感を走らせるのだ。
 
 「美味しいですよ、貴女の汗…」
 「あぁっ♪」
 
 ねっとりと唾液を塗りつけるように舌を動かしながらの声に感極まったような声をあげてしまう。そんな私の胸に去来するのは喜悦の感情だ。訳の分からない状況に対する不安も恐怖もなく、ただ、美味しいと褒められた事に関する喜び…いや、悦びだけ。まるで身も心も捧げた主人に褒められたような甘い反応に私の心が揺れた。
 
 「それに胸もとても敏感で…弄り甲斐がありますよ」
 「くぅんっ♪」
 
 その揺れが収まるよりも先にニンゲンは私の後ろでそっと囁く。グラつく心がさらに揺れ、私が一体、どうしたいのかさえ胡乱に飲まれていった。後に残るのははっきりと定義出来ない喜悦と快感だけである。
 
 「貴女の乳首も…ほら、こんなに勃起して悦んでくれてる…」
 「ふあぁ…っ♪」
 
 胸の先でそっと自己主張する桜色は既に最高潮の大きさへと達していた。そんな両方の乳首を優しく指で撫でられてしまう。肌と肌を擦れ合わせるよなそれはさっきの押し潰すような刺激とは比べて余りにも弱い。気持ち良くない訳ではないのだが、まるでジワジワと弱火で炙られているような快感なのだ。身体の芯へと張り付き、身体の奥底から敏感にさせるようなそれに私の身体は身悶えする。
 
 「ふふ…もう我慢できませんか?」
 「ち、違っ…!」
 
 ― 反射的にそう否定するものの、私の腰は止まってはくれない。
 
 比較的自由であるそこはまるでオネダリするようにそっと揺れている。それはまだ微かなものであるけれど、ニンゲンの目を誤魔化せはしなかったのだろう。耳の奥にべったりと張り付くようないやらしい声で私を責め立ててくる。
 
 ― その間も彼の手は動き続けて…。
 
 乳首を焦らすその動きに私の口から漏れ出る吐息が音を伴い始めた。ハァハァと胸を膨らませて繰り返されるその呼吸には明らかに媚びの色が含まれているのが分かる。まるでもっと虐めて欲しいと主張するような吐息を抑えようと私は歯を食いしばった。
 
 「おや…抵抗するつもりですか?」
 「……」
 「…まぁ、良いですけどね。どれだけ持つのか楽しみにしていましょう」
 
 そう冷たく言いながら、ニンゲンの手がねっとりと乳首を這い回る。ただ前後に擦るだけではなく、右へ左へと指の位置を移動させ、円を描くように刺激するのだ。乳首全体を暖め、敏感にするようなその愛撫に食いしばった歯が緩みそうになってしまう。それを必死で堪えながら、私は足りない酸素を鼻から取り入れようとしていた。
 
 「ふーっ…ふーぅ…っ♪」
 「必死ですねぇ…まぁ、そんな姿が可愛いんですけれど」
 「んくっ…♪」
 
 ― か、可愛いって…っ!
 
 ふと耳元で呟かれたその声に思わず声が漏れそうになる。それは何とか歯を食いしばって耐えたものの、顔が赤くなることまでは防げない。それを後ろから見られていると思うと恥ずかしくて仕方がないが、私にはどうする事も出来ない。その屈辱感が羞恥と結びつき、私に背徳的な快感を走らせた。
 
 「ほら、見てください。貴女の乳首を今からとっても気持ち良くしてあげますからね」
 「ふぁ…っ♪あぁっ…♪」
 
 ― そう言いながら、ニンゲンは私の胸をクリクリって…ぇっ♪
 
 見せつけるように指の間で乳首が転がされた瞬間、胸の奥で快感が弾けた。焦らされていた効果もあったのだろう。今まで以上にハッキリした快感が身体中に広がり、秋の枯れ草のように燻っていた身体に火を着ける。一気に身体中に燃え広がった欲情の炎は最早、私にはどうする事も出来ない。快感を貪る意識がゆっくりと自分の中で鎌首を持ち上げるのを感じながら、私は必死に再び歯を食いしばろうとした。
 
 「あふゅぅっ♪」
 
 しかし、それよりも先に頭の中に叩き込まれる快感が私の顎を緩ませる。さらに私の意思を阻害するのは目の前で見せつけるように動く彼の指だ。私の乳首を親指と人差指の間で転がす彼の愛撫はとてもいやらしく、目を離せない。そしてその視覚的情報がニンゲンに抗おうとする私の理性をゴリゴリと削り取っていくのだ。
 
 ― はぁ…ぁっ♪ダメだ…このままじゃ…ダメ…だ…っ♪
 
 このままでは遠からず『堕ちて』しまう。そんな思考が私の脳裏を掠めた。だが、今の私にはこの状況を打開する手立ては何一つとして存在しない。ただ、耐える事だけが私に許された反抗である。そして…それすらも出来なくなった時…きっと…私は…――。
 
 「は…ぁ…♪ふぅ…んっ♪」
 「ふふ…随分、素敵な顔をするようになってきましたね。ほら、鏡を御覧なさい」
 「かが…み…?」
 
 ― そんなもの何処にあるんだと言おうとした私の前にそっと鏡が現れた。
 
 しかし、そんなものはついさっきまで存在しなかった。目隠しを剥ぎ取られた時にこの部屋には何の家具も存在しなかったのを確認済みである。だが、現実にその鏡は私の前に現れ、私の痴態を写していた。
 
 ― それは…とても淫らな姿で…。
 
 拘束され、股間を開かされた肌は紅潮し、うっすらとではあるが汗が浮かんでいる。特に顕著なのが弄られている胸であり、ピンと張った乳首は肌よりもさらに赤く染まっていた。私の汗かニンゲンの手汗かは定かではないが、胸全体が濡れ、テカテカと妖しく光っている。その上にある瞳は潤み始め、頬と口元は力なく緩み始めていた。呼吸のために半開きになった口から荒い息を絶え間なく吐き出す姿は到底、抵抗しているようには見えない。
 
 ― これが…今の私の…ぉ…♪
 
 一気に私の脳へと飛び込んできた視覚的情報に私の背筋が震え、被虐的な私の身体の奥からまた甘い蜜がドロリと溢れる。身体の芯から染み出すようなその粘液が蠢く膣肉に押し出され、ぴっちりと閉じた陰裂からそっと顔を出した。そのまま重力に惹かれてトロトロと零れ落ちるそれを見た瞬間、鏡に映るニンゲンの顔が確信を得て歪む。
 
 「…今、流れた粘液はどう説明するつもりです?」
 「そ…それ…はぁ…♪」
 「汗ですか?それとも小便とでも?まぁ、どちらでも良いですけどね」
 「くぅんっ♪」
 
 私の言葉を打ち切りながら、ニンゲンの腕がそっと動く。乳首を弄るだけでは飽きたらず、胸全体を揉みしだくそれに私の口から鼻の抜けた声が漏れた。まるで子犬が構って欲しいと主張するような声に彼が喜悦を浮かばせる。
 
 「どうしたんです?かなり辛そうですけれど…」
 「き…気の所為じゃないか…?」
 
 ― そう言えたのは単純に彼がその手を休めたからに過ぎない。
 
 胸と乳首を弄られながらであれば、こうして答えることは出来なかっただろう。骨の髄まで響いて心臓を高鳴らせるような快感に私は理知的な言葉を紡げる自信がない。嬌声で途切れ途切れか、或いは嬌声だけになるかのどちらかであっただろう。それを自称私のご主人様であるニンゲンが分かっていないはずがない。それでも手を休めたというのはきっと彼も私をそう簡単に『堕とす』つもりはないからなのだろう。
 
 ― 悔しい……悔しい……っ!
 
 どれだけ抵抗しても彼の掌の上で踊らされているだけに過ぎない。その無力感がプライドを刺激し、悔しさを湧き上がらせる。だが、ふつふつと湧き上がるそれは最早、敵意に繋がるものではなくなってしまっていた。
 
 ― 悔しいのに…なのに…私…っ!
 
 その悔しささえ飲み込んでしまう安堵と快感。それに何の抵抗も出来ない無力な自分。私の胸の内側から沸き上がる悔しさはその構図に華を添えるだけであった。私の被虐性を満足させるための『エサ』にまで成り下がったそれに私の背筋がブルブルと震える。
 
 「じゅるる」
 「ひぃんっ♪」
 
 そんな私の耳に粘ついた音が届いた。いや、それは届いたなどと言うような生易しいものではない。鼓膜に直接、叩きつけられるような音である。それに脳がグラリと揺れるのを感じた瞬間、私の耳に生暖かい何かが入り込んできているのを私はようやく自覚した。
 
 ― な、舐められてる…わ、私の耳の中…ニンゲン…にぃ…っ!
 
 じゅるじゅると音を立てながら、舌で耳を蹂躙される感覚。決して清浄とは言えない場所を舐められるそれに私の背筋がまた震えた。はっきりと快感とは言い難いそれは私の心を疼かせ、震える脳をドロリと蕩けさせる。思わず鼻の抜けた声を漏らしてしまう私に羞恥の感情が湧き上がるが、それさえも私の頭の中で荒れ狂うような粘液の音に飲み込まれていった。
 
 ― あ…あぁ…っ♪そ、そんなじゅるじゅるしないで…ぇっ♪頭の中犯さないでぇっ♪
 
 脳が揺れるように感じるほど叩きつけられる粘液の音はまるで脳を食べられているか、犯されているようにも感じるのだ。それに抵抗しようと動く部分を必死になって動かすが、背中に回ったニンゲンは私の身体をがっちりと抑え込んでいる。縛られた状態で彼の腕力に敵うはずもなく、私の抵抗はまるで効果があがらない。
 
 「ぢゅりゅる……ふふ、こうして耳を舐められるのはかなりイイでしょう?」
 「い、イイもの…か!だ、誰がこんな変態な行為で…!」
 「おや?その割には貴女のオマンコは大分、濡れてきてますけれどね」
 「う…」
 
 ニンゲンの言葉にそっと鏡へと目が向いてしまう。そこに映る私の秘所は彼の言葉通り粘液が垂れ落ち、汗とは違う光り方をしていた。恐らくさっきの愛液で決壊したのだろう。ピッチリと閉じた大陰唇の間からは今も小さな粘液の粒が吐き出され、お尻の方へと流れていく。汗のテラテラした輝き方よりももっと淫らでいやらしいそれに私の咽喉が思わず生唾を飲み込んでしまった。
 
 「ほら…もう貴女の身体は私を認め始めたようですよ?」
 「だ、誰がお前なんかを認めるか…!」
 「ほう…じゃあ、貴女は誰相手にだってこうやって濡れてしまう淫乱なんですね」
 「なっ…!」
 
 ― 意地の悪いニンゲンの言葉に私は思わず言葉を詰まらせた。
 
 確かに状況だけ見れば、彼の言葉は正しいだろう。私がニンゲンの所為でこうして秘所を濡らしているのは紛れも無い事実なのだから。しかし、だからと言って私は彼にこうされるのを認めた訳でも、誰に触られても濡れるような淫乱でもない。ただ…ただ…これは…これは…――
 
 「こ、これは…命の危機を感じているが故の防衛反応…だ。レイプされて心から感じるなんて頭のおかしいような話がある訳ないだろう!」
 「ほぅ。では、濡らしているのは否定しないんですね」
 「あっ…」
 
 ― し…しまった…!!
 
 恐らくそう認めさせる事がニンゲンにとっての目的だったのだろう。鏡越しに見えるその冷たい顔には勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。その悔しさしか沸き上がらせない表情と何とか歪ませてやろうと私は必死に頭を動かすが、一度認めた言葉を撤回出来るような名案などそう簡単には浮かばない。
 
 「でも…まぁ、仕方ないですよね。貴女が濡れるのは防衛反応ですから。貴女の意思とは無関係なんですよね」
 「そ、そうだ!そうに決まってる!!」
 
 そんな私の意思を再び確認するようなニンゲンの言葉を私は思わず肯定した。そこには何故、彼がそんな事を言うのかという疑問はない。一度、紡いだ言葉を撤回するような事をコイツの前ではしたくないという意地から出た言葉である。
 
 「じゃあ…例えばこのままずぅっと貴女を焦らした所で貴女は苦痛でも何でもないんですよね?」
 「え…?」
 
 ― こ…このままずっと…?
 
 今のニンゲンの手は決して私を感じさせようとしている訳ではない。言葉を紡がせる為にかなり手加減している状態である。その証拠に、彼の指は乳首には殆ど触らず、胸を弄ぶ手にも殆ど力は入っていなかった。そっと肌と肌を触れ合わせる今の愛撫はお世辞にも理性を奪われるほど気持ち良いとは言えないだろう。
 
 ― だけど…それでも気持ち良くない訳じゃなくて…!
 
 ジワリジワリと胸の奥から背筋を伝い、身体の芯を温めていくような快感。人肌に熱した蜂蜜のようなそれは背筋を震わすほど気持ち良い訳ではない。だが、私の身体はその快感によって順調に暖められ、彼を受け入れる準備を整え始めているのだ。実際、その快感が集まるお腹の奥では何度も愛液が滲み出し、疼きの感覚も短くなっている。
 
 ― こ、このまま放置されたら…きっと…私…。
 
 今はまだ疼きが我慢できなくなるほどではない。だけど…これがずっと続いた後、私が冷静を保てるとは到底、思えなかった。今でさえ加速度的に短く、強くなっていく疼きを持て余し始めているのである。このまま数十分も放置されたら…きっと…私は…――。
 
 「ふふ…不安と欲情にまみれた…とても良い顔ですよ」
 「んぁ…ぁっ♪」
 
 そう言ってニンゲンの唇がヌルリと首筋を這い、乳房に爪を立てられる。痛みと快感が同居した形容しがたい感覚が私の背筋を走り、弱い首筋を良いようにされているという被虐感と交わった。ドロドロとしたその感覚に私の子宮はまたキュンとうなり、愛液を押し流す。再び秘裂の間から愛液が染み出すのを感じた私は反射的に鏡から目を背けた。
 
 「おや…貴女の身体の事ですよ?目を背けてどうするんですか」
 「だ、だって…」
 「ほら、ちゃんと見てあげないと可哀想でしょう」
 
 ― そう言いながら、ニンゲンの左手が私の顎を掴んだ。
 
 そのまま無理矢理、私を前へと向かせる。自然、私の視線はまた粘液の粒を吐き出す秘所へと向かった。疼きが走る度に愛液を零れ落とすそこはもう我慢出来ないと言うかのようにヒクヒクと震えている。オスを必死に誘惑しようとしているメスのような動きに目を背けようとしても、彼の手がそれを許してはくれなかった。
 
 「い、嫌…っ!」
 「一体、何が嫌なんです?」
 
 反射的にそんな言葉が出た瞬間、ニンゲンの顔が不思議そうな色を浮かべる。純粋な子どものような疑問を浮かべるその顔に私の方こそ不思議であると言いたい。こんな風に縛られてレイプされそうになった挙句、無理矢理、自分の痴態を見せつけられて悦ぶ女なんていないだろう。居たとしても一握りの変態だけだ。
 
 ― そう主張する前にニンゲンの口がそっと開き…。
 
 「そんなに嫌なら魔術でも何でも使って私から逃げれば良いでしょう?」
 「そ、それは……」
 
 ― 確かにそれは一理ある。
 
 いや、寧ろ今まで思いつかなかったのが不思議なくらいの正攻法だろう。私の足を縛っている縄や手錠がどれだけ頑丈だとしてもエルフの魔術に耐えられるとは思えない。魔術を使えばコイツを弾き飛ばし、逃げるのだって簡単だろう。実力から言えば、私の方が数段上なのだ。油断さえしなければニンゲンに負ける要素はない。
 
 ― なのに…なのに…どうして私は…。
 
 そう自分を鼓舞しても尚、私の唇は動いてはくれない。頭の中でだって魔術の構成一つ浮かばなかった。それは勿論、魔術の構成を忘れた訳でも、快感に思考が鈍ったからでもない。心はそうすべきだと告げているのに、身体がそれを拒否するように従ってくれないのだ。
 
 ― こ、こんな…まるで…まるで私よりも…。
 
 私よりもニンゲンを上位に置いているような身体の反応に私はグラリと思考が揺れるのを感じる。目眩にも近いそれに私の手が反射的に額に伸びようとした。しかし、その可動域を手錠によって制限されている私にはそれは不可能である。クラクラとする思考を抑える事が出来ないまま、私は心の中で何度も違うと呟いた。
 
 「ふふ…やっぱり抵抗しないんですね。だったら…悦んでるって事じゃないですか?」
 「ち…違う…!そんな…そんなことない…!!」
 
 そう必死で否定するものの、グラグラと揺れる思考はまるで収まってはくれない。何度も違うと否定しているはずなのに、それすら弱々しくなっていくほどだ。自分に対する不信感がまた急速に大きくなっていき、私の心を埋め尽くす。何を信じれば良いのか、何を根拠にすれば良いのか。その基準さえ曖昧になっていく私の後ろでニンゲンがそっと口を開いた。
 
 「強情ですね…それじゃあ…ゲームをしましょうか」
 「…ゲーム?」
 「えぇ。これから一時間、ひたすら焦らされ続けるか…或いはこれから十分、ひたすら責め立てられるか。前者は最後まで屈しなければ、貴女の勝ち。後者なら貴女がイかなければ貴女の勝ち…そんなルールでどうです?」
 
 ― …どうしてだ…?
 
 このまま焦らし続ければ、或いは私を責め続ければ遠からず、私が屈するのはコイツだって分かっているはずだ。それなのにどうしてわざわざゲームという形で勝ちの目を与えるのか、私には分からない。与えられた微かな勝算を叩き潰す事で私を屈服させようとしているのか。或いは何かの罠なのか。
 
 ― どちらにせよ…今の私には…。
 
 このまま無制限で弄ばれた所で勝機はない。何故かは知らないが私は魔術を使えず、ニンゲンの拘束から逃れる術はないのだから。単純な腕力では鍛えている彼に勝てない以上、微かな勝機を掴むためにはゲームとやらに乗ってやるしかないだろう。
 
 ― だけど…その前にゲームの条件だけは確認しておかなければいけない。
 
 「…わ、私の勝ちになったら解放してくれるのか?」
 「えぇ。勿論」
 「…じゃあ…わ、私の負けになったら…私は…どう…なるんだ…?」
 
 ― その声は僅かに震えていた。
 
 まるで期待しているようにも聞こえるその声を私は否定する。だって、そんな事あり得るはずがないのだ。コイツに屈するのを心も何処かで望んでいるなんてあり得るはずがない。身も心もニンゲンの奴隷にされて、心の奥底まで犯されたいなんて…まったく…欠片も…これっぽっちも!!!思ってなどいないのだから。
 
 「んー…そうですね…。じゃあ…貴女が負けたら私に「好き」と告白するって事でどうでしょう?」
 「…こ、こくは…っ!?」
 
 ニンゲンの予想外の言葉に私の声は少し裏返った。しかし、それも当然だろう。ここまで好き勝手しておいて告白しろだなんて色々、順番を間違えているとしか思えない。普通はこうしてレイプのような真似をするよりもそっちの方が先だろう。そももも、こんな風に襲われて告白なんぞするはずが…っ!!
 
 「どうしたんです?顔が赤いですよ?」
 「うぅ…」
 
 ニヤついた笑みを浮かべる彼の言うとおり私の顔は真っ赤になっていた。さっきまで焦らされていた時よりもさらに数段赤いその顔には羞恥の色が溢れんばかりに現れている。きっと頬に手を当てれば風邪と間違わんばかりの熱が灯っているだろう。そう自覚しつつも、私はその生理現象を抑えることが出来ない。
 
 「それで、参加しますか?それともしませんか?」
 「……する」
 
 コイツに告白するなんて恥ずかしいにもほどがあるが、今の条件の通りであれば私にデメリットは殆どない。勝てばこのおかしな状況から逃げられるし、負けても「好き」と言えば良いだけなのだ。嘘を並べるのも禁止されていない以上、それほど悪いデメリットではあるまい。少なくとも「挿入させろ」とか「一生、奴隷として過ごす」などを要求させるよりはよっぽどマシな条件だ。ただ…強いて問題があるとすれば……。
 
 「じゃあ、焦らされるのか責められるのか、どっちにします?」
 「む…ぅ」
 
 ― そう。それが問題だ。
 
 正直、どちらを選んだところで私に勝てる未来が見えない。今も尚、焦らされている感覚から言って、一時間も焦らされたら本当に頭がおかしくなってしまう。逆に今の敏感になった身体で激しく愛撫されれば、五分も持たない気がするのだ。どちらの条件を選んだ所で勝ち筋がまるで見えない。
 
 ― でも…強いて言うのであれば…。
 
 前者は終わった頃には心も屈服している可能性が高い。と言うか…限界を迎えた私がそのままセックスまで及んでいる未来しか見えないのだ。だけど、後者であれば一度イッている分、幾分、冷静さを取り戻せるだろう。負けた後のデメリットを考えるのであれば、よりリカバリーしやすい後者を選ぶのが無難な気がする。
 
 「…後者で」
 「…え?どっちですって?順番じゃなくちゃんと言って下さい」
 「ぬぐ…っ!」
 
 意地の悪い笑みを浮かべるニンゲンに私の言葉が詰まる。コイツの狙いは明白だ。私に懇願させるのが目的なのだろう。そして…圧倒的に立場の弱い私はその目的通りに動くしかない。そんな私の現状に惨めさを感じながら、私は震える唇をそっと開いた。
 
 「わ、私を…責めてくれ」
 
 ― あぁ…い…言っちゃった…ぁ♪
 
 堕落の最初の一歩のような言葉に私の背筋がビクンと震える。焦らされて熱くなった身体に走るゾクリとした快感は形容しがたいほど気持ち良い。辱められているにも関わらず快感を得る浅ましい自分に情けなさを感じる。だが、そんな私とは裏腹にニンゲンの顔は輝かんばかりの笑みを浮かべていた。勝ち誇ったものとはまた違う純粋な笑みを浮かべる理由は私には分からない。だけど、心の底から嬉しそうな彼の表情が私の胸に刻み込まれるように残るのだ。
 
 ― あんな風に…嬉しそうに…喜んでくれる…なんて…♪
 
 「えぇ。上出来ですよ」
 「あぁっ♪」
 
 ― ニンゲンの手が私の乳房に…っ♪
 
 まるで今までずっと放置していた分の鬱憤を晴らそうとしているかのようにニンゲンの手が私の胸へと絡みつく。それは勿論、さっっきの皮膚だけに触れるようなものではない。薄い胸を下からすくい上げるようにして揉み上げ、先端を弄る愛撫だ。他の三指も休んではおらず、柔肉に爪を立てたり、表面を撫でたりしている。
 
 ― 気持ち…良い…っ♪気持ち良い…よぉっ♪
 
 ずっと焦らされてきた神経にそれらの刺激は強すぎるらしい。今までとは比べ物にならない情報量が快楽神経を駆け巡り、快感を全身へと伝えていく。痺れにも似たビリビリとした快感は各所で甘い疼きや熱へと変わり、お腹の奥へとストンと落ちていった。それらがグツグツと煮えたぎる子宮では疼きが止まらず、中で欲求不満がとぐろを巻いているようにも感じる。恐らくさっきまでの愛撫で私は思った以上に焦らされていたのだろう。耳責めでドロリと溶かされた脳もようやく与えられた快感に悦び、甘い蜜を分泌させていた。
 
 ― 欲しい…っ♪もっと欲しい…っ♪もっとこれ欲しひぃっ♪
 
 一瞬の間にこの快感の虜にされてしまった私はもっとして欲しいとばかりに胸を反らした。突き出される小さな胸にニンゲンが私の意図を察したのだろう。またニヤついた笑みを浮かべながら、私の首筋にそっと唇を落とした。
 
 「…これで分かったでしょう?貴女はもう私に堕とされてるんですよ。どれだけ否定しようとしても私に触れられるだけで簡単に堕ちるくらいに…ね」
 「う…っひゅ…ぅぅっ♪」
 
 そんな事はないと言いたかった。私はまだ戦えると言ってやりたかった。しかし、ニンゲンに乳房を揉まれるだけで私の口はそんな言葉一つ紡いではくれない。代わりに漏れるのは発情したメス犬のような甘い声だけだ。
 
 ― 違う…声だけじゃない…っ♪
 
 鏡に映る私の顔もメス犬同然だ。眉をハの字に歪めた下では欲情で潤んだ瞳が妖しく光っている。桜色に紅潮した頬に力はなく、半開きになったままの唇を閉じようともしない。唾液の所為でテラテラと光る唇の端からは唾液が溢れ、口からはケダモノじみた吐息と嬌声が漏れる。その顔がニンゲンに少し触れられるだけで歪み、首筋からブルリと快感の余韻を走らせていた。
 
 ― 私…わた…しぃ…っ♪
 
 手加減されてるのは分かっていた。けれど、容赦のないニンゲンの責めがこんなに気持ち良いなんてまったく予想していなかったのである。あっという間に快楽に飲み込まれた自分を何とか持ち直そうとするが、それすらも彼に抱かれている安堵感と快感に薄れていく。後に残るのはようやく与えられた快感を貪ろうとする浅ましい私の心だけだ。
 
 「どうです?気持ち良いですか?」
 「ん…あぁっ♪」
 
 ― そんな私からすっと彼の手が離れて…っ♪
 
 胸を揉まれていては言葉一つ紡げない私から返事を引き出す為なのだろう。しかし、それは今の私には不満以外の何者でもなかった。折角、こうして気持ち良くしてくれているのに、どうしてそんな意地悪をするのか。そんな気持ちさえ私の中には芽生え始めていたのである。
 
 ― い、意地悪しないでぇっ♪もっと…もっと気持ち良くしてぇっ♪
 
 しかし、どれだけそう心の中で呟いても、ニンゲンはその手を近づけてはくれない。そして、私にはもう理性なんて殆ど残ってはいなかったのである。理性が押し留めるよりも先に限界に達した欲求不満が彼の望んでいる言葉を紡ごうと半開きの唇を動かした。
 
 「き、気持ち良いっ♪気持ち良いのっ♪お前に胸を弄られるだけで私…私ぃっ♪」
 「ふふふ…嬉しいですよ」
 「ひぅんっ♪」
 
 素直に白状したご褒美と言わんばかりに再びニンゲンの手が私の胸へと差し向けられる。ただし、それはさっきと同じではない。乳首を弄る彼の指は少しずつその力を強くしていき、先端が押しつぶされるようだ。けれど、その寸前でそっとニンゲンの指が緩み、押し潰される事はない。勿論、その間も乳首は指の間でクリクリと転がされ、甘い快感を伝える。
 
 ― くひぃいぃっ♪乳首ぃっ♪乳首がぁっ♪と、溶けちゃうぅ♪ドロドロになっちゃうぅっ♪♪
 
 押し潰される前の被虐的な快感。そして解放された瞬間の甘い快感。その二つが乳首でぶつかり合い、私の頭をドロリと溶かす。熱いのか、それとも寒いのかさえ分からなくなってきた先端からは快感だけが波のように押し寄せ、私の中の様々なモノを押し流していった。その中には勿論、意地やプライドというものも含まれていて……――
 
 「どうです?正直になるのはとても気持ち良いでしょう?」
 「き、気持ち良いっ♪気持ち良いのが良いのっ♪今もねっ♪今もそこをコリコリされると背筋がブワァってするのぉっ♪」
 
 ― それはまるで子どものような舌足らずの甘い言葉で…ぇっ♪
 
 いや、きっと今の私は子どもも同然だろう。大人になって得た様々な重荷――意地やプライド、気恥ずかしさなど――を快感で押し流した私は軽い幼児退行を起こしていた。気持ち良いから良い。そんな単純故に大人では口にできない考えが頭の中を支配し、快感だけを貪ろうとする。そんな自分に対して浅ましいと思う自嘲さえ、私の中には最早なく、暖かい大人――ハワードに見を委ねながら、もっと気持ち良くして貰おうとしていた。
 
 「素直な子は好きですよ」
 「あはぁっ♪」
 
 ― 好きってぇっ♪ハワードに好きって言って貰えたぁっ♪♪
 
 その言葉だけで私の全身は震え、子宮がキュンキュンと疼いた。その奥からはまた粘液が湧き出し、シーツへと向かって零れ落ちる。私の愛液でドロドロになったシーツがまた染みを広げるのを見ながら、子宮がキュゥゥと収縮した。絶頂前のあの高鳴りにも似たそれに私は思考を濁らせながら、必死になって彼に応えようとする。
 
 「わ、私もぉっ♪私もハワード好きぃっ♪大好きぃっ♪暖かくて…優しくて…意地悪な貴方が好きなのぉっ♪」
 「光栄ですよ」
 
 私の告白にハワードは嬉しそうに顔を歪めた。そこにはもう最初に会ったような冷たい表情はない。それどころか普段からは感じられないほどの暖かみがその笑顔から伝わってくるのだ。春の日差しにも似たその暖かさに私も思わず嬉しくなって、彼の身体に身を預けてしまう。
 
 「でも…もっと気持ち良くなる言葉があるのは知ってますか?」
 「ふぇ…ぇ♪」
 
 ― もっと…今よりもっと気持ち良くなれるの…?
 
 今でさえ何時、絶頂してもおかしくないほどの快感が私の中を渦巻いていたのだ。これ以上、気持ち良くなるなんて絶頂の時しか考えられない。だけど、今の私にはハワードの言葉は神の言葉にも等しい。疑うことさえ罪深いと感じる彼の言葉を嘘だなんて思えるはずがなかった。
 
 「試しに私に向かって「ご主人様」と言ってみなさい」
 「ご…ご主人…様ぁ…っ♪」
 
 ― その瞬間、私の胸が壊れるほど高鳴って…っ♪
 
 血液を身体中へと送り出す心臓が壊れるのではないかと思うほど早く強く脈打つ。自分自身の鼓膜を震わせるほどの鼓動に私の身体が戦慄いた。今にも蕩けそうなくらいに熱くなっていた全身に鳥肌が浮かび、ゾクゾクとした感覚が止まらない。そして、心臓に乗って身体中を駆け巡るようなその寒気は広がる度に私の中の何かを書き換えていく。
 
 ― でも…それが良い…っ♪おかしくなるのが良いのぉっ♪
 
 今までの自分が否定され、新しい自分が生まれる。その誕生の感覚に私の身体が咽び泣いた。それは勿論、苦痛からではない。消えていく自分が被虐感を掻き立て、背徳的な快感が走っているからだ。それを今までの「私」は決して認めなかっただろう。だが、古い「私」がひび割れた後から現れる新しい「私」はそれすらも肯定し、飲み込もうとしていた。
 
 「ご主人…様ぁっ♪ご主人様っ♪ご主人様ぁっ♪」
 
 誕生の悦びと死の悲しみ。それが故に生まれる背徳的な快感をもっと味わおうと私は彼を…いや、ご主人様を何度も呼んだ。それにご主人様の笑みが深くなり、私の首筋にそっと顔を埋める。そのままご主人様はそっと汗の浮かんだ鎖骨を舐め、私の肌にちゅっと吸い付いた。それだけで私の身体に震えが走り、イきそうになってしまう。
 
 ― あぁ…私…何を勘違いしてたんだろう…♪
 
 この人は私を一番、大事にしてくれるご主人様なのだ。私を一番、愛し、必要としてくれる最高の方なのである。少し意地悪な態度をとるのも私がそれで感じてしまうマゾ奴隷だからに過ぎない。淫乱で変態の私が虐められたいと思うからこそ、ご主人様はこういう愛し方をしてくれるのだ。
 
 「ふぁ…ぁっ♪ご主人様ぁっ♪」
 
 ようやく思い至ったその考えに心の中の迷いがすっと晴れていく。今の私の心には普段と今のご主人様のギャップに困惑する気持ちはない。ただ、変態な私を弄び、気持ち良くしてくれるご主人様への愛情とそれに伴う快感があるだけだ。
 
 「ご主人様…っ♪ご主人様…私…私、幸せですぅっ♪ご主人様に愛して貰って…心の中ポカポカするんですよぉっ♪」
 「私もですよ。貴女にそう言って貰えるだけで嬉しいです」
 「あぁ…っ♪」
 
 ― ご主人様が…喜んでくださってる…っ♪私の言葉で…っ嬉しく思ってくださっている…っ♪
 
 その喜悦が私の中で渦巻き、もっとご主人様を喜ばせてあげたいという気持ちが浮かぶ。しかし、快感で頭を埋め尽くした私にはこれ以上の言葉が思い浮かばない。聡明と讃えられるエルフとは思えないほど鈍い思考に私が微かな苛立ちを覚えた瞬間、ご主人様の指が私の乳首をひねり上げた。
 
 「きゅふぅぅぅぅぅっ♪♪」
 
 それは今までとは比べものにならないほどの暴力的だ。乳首を押し潰すような力がご主人様の指に篭っていた時でもまるで比較にならない。だが、それは決して痛みを訴えるものではなかった。確かに暴力的ではあるが、私の胸に去来するのは今まで以上の被虐的な快感であり、子宮の奥を収縮させる快楽だったのである。
 
 「く…ぅぅぅぅぅんっ♪」
 
 そのまま喘ぎ声をあげる私に構わず、ご主人様がクリクリと手の中で乳首を弄りながら私の胸を引っ張っていく。しかし、人並み以下に薄い私の胸の可動域は殆どない。それでも前へと引っ張ろうとするご主人様の指に私の身体がドロリと溶けるのを感じた。
 
 ― あ…これ…イくんだぁっ♪私…私、イッちゃうんだぁっ♪
 
 何もかも混ざって快感と共に子宮へと堕ちる感覚。それは私にとって感じたことのない快感だった。けれど、私にはそれがオーガズムへの予兆である事がはっきりと分かる。まるでこうして何度もご主人様の手によってイかされたように馴染み深かった。その理由に思考を絶頂へと向け始めた私が思い至るはずがない。
 
 ― それに…ご主人様が一緒ならきっとぉ…っ♪
 
 自分の『記憶』にない『経験』。それは普通であればパニックになってもおかしくはないほどだろう。だけど、私にとって不安を掻き立てるようなものではなかった。その『経験』はご主人様と共に過ごしたものであり、ご主人様が私に悪いようにするはずがない。その信頼感と安心感が私の胸を暖め、不安の影を私の心に届かせないのだ。
 
 ― ご主人様がいるから…ご主人様のお陰で…私…ポカポカで…ビリビリですぅ…っ♪
 
 そんな私の心を絶頂の予兆が飲み込み、快感へと塗り替えていく。子宮に意識が集中するような感覚の中、注ぎ込まれる快感が膨れ上がっていった。自分の身体から快感の波が溢れるのを感じた瞬間、私はその幸せをご主人様に伝えようと口を開く。
 
 「ふあぁぁっ♪イきましゅぅっ♪私、イッちゃぅっ♪ご主人様のおっぱい弄られてアクメするのぉっ♪」
 「えぇ。良いですよ。存分にイきなさい」
 
 ― その言葉が私の中の最後のタガを壊してくれて…ぇっ♪
 
 甘いお許しの言葉に私の視界がパァっと白く染まる。瞬間、身体から溢れそうな快感が弾け、指向性を持って私の身体中を駆け巡った。轟々とまるで嵐のような音を立てながら、私の肉を、骨を、神経を快感は浮きあげていく。その一種、暴力的な感覚に身体がふわりと浮き上がるように感じた。まるで空に吸い上げられ、ご主人様と離されるような浮遊感に漠然とした恐怖を感じた瞬間、ご主人様の腕が私の身体をぎゅっと抱きしめてくれる。
 
 「きゅ…ぅぅぅぅっ♪♪」
 
 浮遊しようとする身体を無理矢理、大地に繋ぎ止められている。その錯覚が私の中で快感と安堵感を結びつけた。どれだけ気持ち良くなっても、おかしくなっても、きっとこの人であれば大丈夫。そんな信頼感が私に嵐のようなオーガズムを受け入れる土壌を作り、快感を引き上げていく。
 
 「ふぁぁ…くぅぅぅぅんっ♪♪」
 
 そして、指の先まで浮き上がるような快感は中々、消えない。まるで尾を引くように何処までも続いていくような感覚さえあった。ご主人様に抱きしめてもらえるだけで今の私は軽くイってしまいそうになるのである。背筋を震わせ、四肢を硬直させるのとはまた違う穏やかで暖かいオーガズムを何度も迎える私はご主人様の腕の中で幸せというものを満喫していた。
 
 「ん…くあぁ…♪」
 
 それでも絶頂がずっと続いてくれる訳ではない。最初のオーガズムの波がゆっくりと引いていくのと同時に快感の量がぐっと下がった。それでも尚、引いていく波が砂を引きずるように快楽神経がジリジリと刺激される。絶頂の余韻でさらに身体が敏感になるのを感じながら、私は大きく胸を膨らませて荒い呼吸を繰り返していた。
 
 「ふあぁ…はぁ…♪」
 「ふふ…良くイけましたね」
 
 そんな甘い息を漏らす私の頬にご主人様の手がそっと掛かる。浮いた汗で張り付いた髪を解くようにそっと撫でてくれるその指は形容しがたいほど優しい。何もかも委ねたくなる衝動が湧き上がるのを感じた私はそっと自分の目を伏せて、撫でられる感覚に意識を集中させた。
 
 ― 暖かい…♪
 
 まるで冬の布団のような優しくも魅惑的な暖かさに私は何時までも浸っていたくなってしまう。けれど、そうしてはご主人様を満足させる事が出来ないと主張する私もいた。そのどちらかも選びとることが出来ず、中途半端な形で立ち止まった私の耳に金属音が聞こえる。
 
 「ふぇ…ぇ♪」
 
 どうしてそんな音が聞こえるのか理解出来ない私は反射的に瞳を開ける。すると、丁度、ご主人様の手が私の手錠を外そうとしている瞬間だった。いい加減、姿勢が苦しかったので拘束を解いてくれるのは勿論、嬉しい。けれど、同時に被虐的な私が少し――ほんの少しだけ残念な気持ちを抱いたのは否定しきれなかった。
 
 ― そんな私の目の前でご主人様が足も解放してくれて…♪
 
 拘束されていた四肢が久しぶりに自由になる感覚に私の心は軽くなる。これも一種、解放からのカタルシスなのだろう。これが目当てで縛られたがる人もいると聞くが、私はそこまで癖になるとは思えない。それよりも縛られてご主人様に何もかも支配して頂く時の被虐感の方がよっぽど……♪――
 
 「さぁ、出来ましたよ」
 「ふぁ…♪」
 
 そう思考の渦に落ちそうになる私を引き上げたのはご主人様の声だった。未だ私の背中に回っているご主人様が微かについた縄の跡をそっと撫でてくれる。癒すような、焦らすようなその愛撫に私の口からまた甘い吐息が漏れた。未だ絶頂の余韻を引きずる私にはそれは間違いなく快感であり、秘所がズキリと疼いてしまうのである。
 
 ― あぁ…♪私…私…全然、満足出来てない…♪
 
 確かに私は一度、イッた。けれど、私の身体は思った以上に貪欲であったらしい。快感を吐き出した子宮の疼きは収まるどころか強くなり、オマンコの方にもズキズキとした強い疼きを走らせている。火照った身体は冷める様子がまるでなく、未だ快感を期待しているのが良く分かった。
 
 ― 欲しい…っ♪奥まで欲しい…っ♪ご主人様のオチンポでジュボジュボってオマンコ思いっきり犯して欲しい…っ♪
 
 エスカレートしていくその欲望を私は最早、止める術を持たなかった。理性は既に飛び、タガはさっきの絶頂で外れてしまったのだから。後に残るのは与えられたエサだけでは満足できず、足を踏み外そうとしているメス犬である。
 
 ― でも…良いの…♪それでも…ご主人様はきっと可愛がってくれるからぁっ♪
 
 メス犬でも、メス豚でも、メス奴隷でも、ご主人様は愛してくれる。愛して、独占して、構ってくれる。それを頭ではなく、心で理解しているからこそ、私は嬉々として足を踏み外し、闇の中へと堕ちていく事が出来るのだ。
 
 「ご主人…様ぁ♪」
 
 ― そう愛しい方を呼びながら、私は解放された足を自分からそっと広げた。
 
 愛液でドロドロになった大陰唇は未だにヒクヒクと震えていた。それも当然だろう。結局、私は胸を弄ってもらっただけでオマンコには一切、手を触れて貰っていないのだ。胸と同等かそれ以上に気持ち良いであろうオマンコが不満を抱いていてもおかしくはない。けれど、それは私の責任だ。こんなに愛していただいているお方を忘れた私の自業自得である。
 
 ― だから…それを償う為にも…ぉっ♪
 
 そっと私の両腕が下へと降りていく。なだらかな曲線を描く胸からきゅっと締まったウェストへ。そのまま広げられた足の間にたどり着いた私の腕はそっと親指で大陰唇を広げて、自分から秘所を晒した。
 
 ― うわぁ…♪私の中…もうこんなにドロドロぉ…っ♪
 
 私自身も初めて見るそこは既に桜色を通り越して赤に近くなっている。中央の膣穴付近はそれが特に顕著で、パクパクと開閉する姿が痛みを訴えているようにも見えた。けれど、ひくつく度に涎のような粘液を吐き出すそこはそれ以上に貪欲かつ飢えているように思えるのである。
 
 ― ううん…♪私…実際に飢えてるんだ…♪
 
 ご主人様のオチンポが欲しくて私の膣肉は必死にオネダリしているのである。硬くて太くて美味しいオチンポを処女マンコで思いっきりしゃぶらせて欲しいと懇願しているのである。ならば…私自身がここで二の足を踏んでいる訳にはいかない。ご主人様の視線が鏡越しにオマンコに突き刺さるのは気持ち良いけれど、これから先に進まなければ頭がどうにかなってしまいそうなのだから。
 
 「私は…ご主人様に身も心も捧げたにも関わらず、それを忘れてしまうようなダメなメス奴隷ですぅ…♪で、ですが…もし、ご慈悲を下さるのであれば…私のオマンコに…ご主人様の太くて硬いオチンポをくださいぃっ♪」
 「良い告白ですよ、ラウラ」
 「あぁぁっ♪」
 
 お褒めの言葉を下さっただけでなく、ラウラと呼んで下さったご主人様に私の背筋が感極まったように震える。お褒めの言葉はともかく、どうして『私の名前』を呼んでくれただけでこんなにも嬉しいのか。けれど、今の私にはそれを考えるよりもご主人様に次にどうして頂けるのかの方が大事だ。このまま私のオネダリを聞いて、犯して下さるのか、それとももう少し焦らされるのか。そのどちらになるのかが私にはよっぽど重要だったのである。
 
 ― そんな私の後ろからご主人様がそっと抜け出し…。
 
 ずっと私を包んでいて下さったご主人様の体温がすっと消える事に身体が不安を訴える。しかし、私の胸にはそれ以上の期待が宿っていた。そんな私を焦らすようにゆっくりとベッドの周囲をぐるりと回りながら、ご主人様はそのメス奴隷の腰の辺りにそっと膝を置いた。そのまま私にのしかかるようにしてご主人様は身体を移動させ、私の首筋にすっとキスをしてくださる。
 
 「覚えておきなさい。貴女の名前はラウラ。私だけのメス奴隷の名前ですからね」
 「ふあぁ…♪」
 
 ― その言葉はまるで烙印のようで…ぇっ♪
 
 心の奥底に所有印を刻みこむようなご主人様の言葉に私が抵抗できるはずもなかった。一瞬で胸の奥底にまで届いたその言葉が私の心の中で何度もリフレインする。甘美過ぎるその言葉に私の意識がまた書き換えられるのを感じながら、私はご主人様の前でゆっくりと唇を開いた。
 
 「はいぃ…♪私は…ううん…ラウラはラウラです…♪ご主人様のメス奴隷のラウラですよぉ…♪」
 「えぇ。それで良いんですよ」
 
 言いつけを護ろうと何度も繰り返した私にご主人様がそっと笑みを浮かべてくれる。心の底から嬉しそうなその表情に私もまた歓喜の感情で一杯になってしまった。それを少しでもご主人様に伝えようと何度も唇を開くが、一杯になった胸は詰まってしまい、言葉を上手く紡ぐ事が出来ない。そんな情けない自分に涙が出そうになった瞬間、ご主人様の手が私の身体を滑り落ちるように降りていった。
 
 「…では…そろそろご褒美をあげましょうかね」
 
 ― そう言うご主人様はいつの間にか裸になっていた。
 
 しかし、私にはご主人様が何時、服を脱いだかなどどうでも良いのだ。気にならない訳ではないが、それよりも遥かにご褒美と言う言葉の方が気になる。一気に期待で胸が高鳴るのを感じた私の前でご主人様はそっと股間にある『モノ』を握った。
 
 ― あ…あれ…?み、見えない…?
 
 ご主人様が確かに私のオマンコに肉棒を合わせてくださっているのが分かる。けれど、ご主人様のオチンポが一体、どのような形状をしているのかはまるで靄が掛かったように分からないままなのだ。いや、それどころかご主人様の裸すらボヤけている。それが裸である事は分かるのに、まるでそこだけ空気が濁っているようにはっきりと見えないのだ。
 
 「じゃあ…挿入れますよ…!」
 
 ― でも…そんなことどうでも良い…よね…♪
 
 そんな事よりも目の前の快感の方が大事だ。そう思考を打ち切った私の前でご主人様の腰がゆっくりと前へと進む。瞬間、私の粘膜に溶けてしまいそうな熱を孕んだ硬いモノが押し当てられた。けれど、その熱は決して不快ではない。寧ろ、これからこの熱で私の膣肉が溶かされてしまうのだと思うと愛おしくて仕方がなかった。
 
 「はいっ♪来てくださいぃっ♪ラウラを…ラウラの身体の奥まで全部…ご主人様で一杯にしてくださいぃっ♪」
 「えぇ…!」
 
 ― その言葉と同時にご主人様の腰が一気に進み…っ♪
 
 その硬いモノで膣肉が押し広げられるのを感じた瞬間、私の思考は一気に弾け…そして………―――
 
 「…ぅ…?」
 
 ― 自分の目に挿し込む光で私の意識は覚醒した。
 
 暖かな日差しをカーテンは遮断しきってはくれないらしい。窓際に備え付けられたこのベッドの近くでは朝は少しだけ眩しいのだ。この朝の光で毎朝、起こされている身としては感謝するべきなのだろうが、それ以上に寝足りない感覚が強い。
 
 ― それに…もう少し寝かせてくれれば夢が………あれ?
 
 「ん…私、何の夢を見てたんだろう…?」
 
 布団の中でもぞもぞと動きながら、私はそう呟いた。何か重大な夢を見ていたはずなのに、何故かまったく思い出せない。それがとてつもなく甘美で気持ち良いのは覚えているものの、実際にどんな夢を見ていたかはまでは手が届かないのだ。
 
 ― まぁ…夢なんてそんなものなのかもしれないが。
 
 しかし、ここ最近ずっと夢の内容をまったく覚えていない日々が続いているのだ。気にしても仕方ないのは分かっていても、やっぱり気になってしまう。
 
 「んー…」
 
 その気持ちを引きずるようにしながら、私はベッドの中でもう一度、寝返りを打った。瞬間、このベッドの『本来の持ち主』の匂いがふわりと漂い、私の意識を緩ませる。何処かコーヒーを彷彿とさせる香りと甘さが同居したそれに私は身を委ねたくなってしまう。けれど、ここでこうして横になり続けている訳にはいかない。日照時間の少ない冬の朝は時間との勝負なのだから。
 
 ― 仕方ない…な。
 
 本来の主がいないとは言え、仕事を疎かにする訳にはいかない。怠惰は何にも勝る堕落であり、その誘惑に負ければズルズルと堕ちて行ってしまう。まして今の私は…不法侵入しているも同然なのだ。最低限の家事くらいは十全にこなしておくべきだろう。
 
 ― そう。あの日…私はニンゲンに捨てられた。
 
 その理由が一体、何なのか私には分からない。私がアイツに少し口答えをしすぎたからなのかもしれないし、それ以外の何かがアイツの気に障ったのかも知れないのだ。私にとって確かなのは…私は本来、この家に居てはならず、ニンゲンから追い出されたという事だけである。
 
 ― …ホント…無様だな私は。
 
 嫌われたのは分かっている。捨てられたのは理解している。なのに、私はそれ以外の思い出に縋るようにこの家から動く気にはなれなかった。私を追いだそうとした家主が戦争に出かけているのを良い事にこうしてこの家の中で暮らし…その事であの医者にも迷惑を掛けている。そんな自分に自嘲が浮かぶが、この家から――ニンゲンの匂いが残るこの家以外に居場所があるとは到底、思えなかった。
 
 「…ハワード……」
 
 ぽつりとニンゲンの名前を呟いた瞬間、私のお腹の奥にズキリと鮮烈な疼きが走った。そっと下に視線を向ければシーツにはっきりと染みがついている。シルクで編まれた寝間着だけでなく、その中にある下着――勿論、女性用のだ――にもベッタリと粘液がしみついていた。どうやら今日も『粗相』をしてしまったらしい。寝ている間にどんな夢を見ているのかは知らないが、後始末のことも考えて欲しいと思う。
 
 ― …案外、ニンゲンの事を夢に見ているのかもな。
 
 そう胸中で呟きながら、私は手馴れた様子でベッドからシーツを剥ぎ取った。そのまま辺りをそっと見渡せば、最低限の家具しか置かれていない部屋が目に入る。持ち主の執着心のなさを体現したような殺風景な部屋には相変わらずニンゲンが帰ってきたような形跡はない。それに安堵と同時に失望を感じながら、私はそっとベッドから降りる。それから替えの下着とパジャマを衣装棚から取り出し、スリッパを履いた。そのまま部屋を出て、玄関へと降りていったが、そこにもニンゲンが帰ってきた気配は感じられない。
 
 ― …何をやっているんだろうな…。
 
 今の私の生命線でもある医者からの手紙にはハワードは無事だと書いてあった。アイツが死んでいたらこの家だって売りに出されるはずだから、それは嘘ではないのだろう。しかし、戦争が終わっても、戦後処理などで忙しいのだろう。ニンゲンは未だに帰って来ず、私はこの広い家で一人で暮らしていた。
 
 ― …寒い…な。
 
 私以外に誰もいない。誰も帰ってこない家。そう考えるだけで冬の寒さが一段と酷くなったような気がする。それを振り払うように私はリビングへ繋がる扉を開けた。そのまま辺りをそっと見回してみるが、カーテンが閉じたままのそこにはやはり人の気配はない。僅かな期待さえ打ち砕かれた私は溜息を吐きながら、そっと脱衣所へと足を向けた。
 
 ― そのまま寝間着とシーツをカゴに入れて…っと。
 
 そのカゴの中に入れられているのも私の衣類のみである。それはここ二週間以上の間、ずっとだ。それなりの地位にあるニンゲンはこれまでの泊まり込みをしたり、早朝から出かけたりと私と生活リズムが合わない事が少なからずあった。しかし、これほどの長期間の間、家に帰って来なかった事は一度だってなかったのである。
 
 ― …アイツは…ちゃんとしているだろうか…?
 
 恐らく戦後処理に追われているであろうニンゲンがちゃんと寝ているのか、そして、ちゃんと食事を摂っているのか。それすらも今の私には分からない。アイツは意外と責任感が強く、無茶をする事が多いのだ。見ず知らずのエルフの尻拭いを潰れる寸前まで行なっていた彼が押し寄せるような仕事の波を相手に生活リズムを維持しているとは到底、思えなかった。
 
 ― せめて…ここに帰ってきてくれれば…。
 
 そうすれば、アイツの好きな淹れたてのコーヒーを飲ませてやれる。温かい食事を食べさせてやれる。柔らかいベッドを用意してやれる。その他、アイツが望む限りのサポートを私がしてやる事が出来る。なのに、ニンゲンは帰ってきてはくれない。まるで私がここにいる事を知っているように…一度も顔を見せてはくれないのだ。
 
 「……会いたいよ…」
 
 ― ふと呟いた言葉を皮切りに私の目尻から涙が零れた。
 
 ニンゲンが傍にいてくれないだけで、彼が帰ってこないだけでこんなに不安になるなんて思ってもみなかった。今まではこの家にいるだけでアイツと一緒にいるような安堵感があったのに、今はそれがまるでない。ニンゲンの生活臭がドンドンと薄れていくのに比例するように、この家もまた私の居場所ではなくなり始めている。
 
 「嫌だよ…一緒に…一緒にいたいよぉ…」
 
 ニンゲンと言う要石から見放され、不安定になった私の心が幾筋もの涙を零す。まるで不安な感情を押し流そうとするようなそれに身体から力が抜けていった。ペタンと床へ座り込んだ私は世界中から孤立しているような不安を何とかしようと必死に震える声を紡ぐ。
 
 「なんでもするから…エッチな事でも…何でもするから帰ってきてよぉ…」
 
 ― しかし、その声に応えてくれる人はいない。
 
 何時だって私を助けに来てくれたヒーローは私を見放したのである。私が生意気だから、私が面白くないから、私が魅力的じゃないから、彼は私を捨ててしまった。それを相談したあの医者は「そんな事はない」と言ってくれたけれど…この家から出て行けとニンゲンから言われた過去は変わらない。どれだけあの医者が励まそうとしてくれても…アイツではない以上、私の心から不安を取り除くことは出来ないのだ。
 
 「素直になるよ…もう我侭も言わないから…何でも言うことを聞くから…奴隷みたいに扱われたって良い…ハワードさえ良ければ…性欲処理にだって使って構わないから…だからぁ…っ」
 
 ― どれだけ言ってもその声がニンゲンに届かない事くらいは私にだって分かっていた。
 
 けれど、今の私はそうしなければ心がバラバラになってしまいそうだったのだ。収まらない不安と孤独感に今にも心が死んでしまいそうだったのである。それを癒してくれる唯一の相手の傍に私は近寄ることが出来ない。そんな私に出来るのは無駄だと分かっても、彼へと縋り、精神の安定を保とうとする事だけだ。
 
 「ハワード…ハワード…ハワード…ハワードぉ…っ」
 
 私の心を宥めてくれたニンゲンの名前を何度も呼びながら、私は溢れる涙を拭った。しかし、ポロポロと溢れる大粒の涙が留まる所を知らない。どれだけ手の甲で目尻を拭っても、後から後から出てくるのである。何をやっても無駄だと知りつつも私は涙を拭い続け、彼の名前を呼び続けた。
 
 「ひっく……う…っ」
 
 ― その涙がようやく収まり始めたのは泣き出してから一時間近くが経過してからだった。
 
 開けっ放しにしたリビングへの扉からは温かい太陽の光が差し込んできている。本来であればもう洗濯物を干していなければいけない時間だ。これ以上、放置していれば、夕方までに乾くか非常に怪しい。しかし、そう分かっていても、脱力した私の身体は動いてはくれなかった。
 
 ― もう…もう限界…。
 
 今までの私の人生の長さからすれば、この半年間の生活はほんの一部でしかない。しかし、そのたった半年間で私の人生はガラリと変わってしまった。性別も変わったし、ニンゲンの発明した器具を大分使いこなせるようになった。コーヒーを愛飲するようになり、インスタント限定ではあるがそれなりのコーヒーを淹れられる。しかし、それ以上に私は…私はもうハワード抜きでは生活出来なくなってしまったのだ。
 
 「うぅ…ハワード…ぉ…」
 
 冬の寒さと寂しさから身を護るように私は両肩を抱いた。けれど、骨の奥まで挿し込むようなその寒さはまったく消えてはくれない。いや、それはどんな暖かな場所に行ってもきっと消えてはくれないのだろう。それが消える場所はただ一つ…ニンゲンの腕の中しかない。
 
 ― 欲しい…抱いて欲しい…彼に…ハワードに壊れるくらい抱きしめて……おかしくなるほどギュッとして欲しい…っ!!
 
 そう願望を並び立てる心とは裏腹に理性はそれが無理であることに気づいていた。だからこそ、用意した自分の腕という代替品もまったく効果をなさない。本当にニンゲンがいなければ、マトモに生活一つ出来なくなってしまった自分に涙で火照った頬を歪めながら、私はそっと立ち上がった。
 
 ― そうだ…私はもう…アイツ抜きじゃ何も出来ない…。
 
 私の心も身体もニンゲンに支配されてしまったのだ。彼の言葉一つで如何様にも左右される身体も心も彼がいなければ、正常に活動が出来なくなってしまったのである。ならば…ならば、その責任くらいは取ってもらって良いんじゃないだろうか?私を抱きしめ、キスして…たっぷりと甘えさせてくれるくらいは…要求しても良いんじゃないだろうか?
 
 ― その代わり私がアイツをとっても気持ち良くしてやれば…それは…。
 
 それはとても幸せな事だろう。お互いにwin-winの理想的な関係のはずだ。そうだ。そうと決まれば、こんな所でグズグズなんてしてられない。早くアイツの所に言って、気持ち良くしてやらなければ。そして、私の全身を使ってたっぷりと射精させてやる代わりにぎゅっと抱きしめてもらうのだ。もし…もし、それを邪魔しようとするのであれば誰だって容赦しない。例えアイツ自身だって…二人の幸せのために言うことを聞いてくれないのであれば私は…私は…――。
 
 ― ……それでまた突き放されるのか?
 
 「…う…ぅ…」
 
 ふと浮かんだ考えに私の足がピタリと止まった。そもそも気持ち良くと言うが…男から女に変わった化物の私でアイツが気持ち良くなってくれるのだろうか?例え気持ち良くなったとしても…一度、見捨てられた私をニンゲンが受け入れてくれるだろうか…?それに…もし…もし、アイツを無理矢理、自分のモノにした所で…ニンゲンは今までと同じように私に微笑んでくれるだろうか?
 
 「う…うぅ…うぅぅぅ…」
 
 ― その他、様々な自問が浮かび上がって私の足を止めた。
 
 今すぐにでもニンゲンに会いたいのに、もう二度と離れたくないのに、臆病な私自身がそれを許さない。けれど、同時にその臆病な私がアイツを最も求めているのも事実だった。完全に真っ二つに割れた私は呻き声をあげながら、そっと自分の頭を抱き抱える。
 
 「…もう…もうやだよこんなの…」
 
 辛い。苦しい。どうにかして欲しい。だけど、それを打開する為の手段を私は選び取る事も出来ない。四方八方全てを壁に塞がれて、自縄自縛に陥っている閉塞感に私は吐き気にも近い感覚を覚えた。思わず胃の中のものを吐き出しそうになるが、幸いにしてここ二週間は食べ物が咽喉を通らなかったので何も出ない。
 
 ― もっとも…どれだけ食べた所で満たされる訳ではないのだけれど。
 
 あの誘拐事件の後、私はどれだけ食べても満たされない感覚に悩まされていた。身体はそれ以上を拒否しているのにもかかわらず、脳は空腹感を訴え続けていたのである。その奇妙な感覚とニンゲンから捨てられたという絶望感が私を食べ物から遠ざけていた。
 
 「どうすれば良いんだ…誰か…誰か教えてくれ……」
 
 ― カタン…
 
 そう呟いた瞬間、玄関の方で何かが投函される音が聞こえた。そっと顔をあげれた瞬間、ガサガサと紙袋と無理矢理、ポストへと詰め込もうとしている音がする。それに少しだけ冷静さを取り戻した私が今日があの医者が私の様子を見に来てくれる日だということを思い出した。
 
 ― とは言え、医者を迎え入れる訳ではない。
 
 予め書いておいた手紙には私の日々の体調や悩みなどが記されている。それをポストから抜き出した医者がその手紙の返事を書いた後、こうして食料を供給してくれるのだ。消耗品などは戦争が始まる前から大分、備蓄してあるとは言え、食料はそういう訳にもいかない。私自身は食べる気がしないとは言え、ニンゲンの夕食くらいは用意しておいてやりたいので、とても助かっている。
 
 ― 私が見捨てられた日の事のお詫びらしいが…。
 
 しかし、私はどうして医者がこんな風に良くしてくれるのかは分からない。そもそも問答無用で魔術を使ったのはニンゲンの方であるし、謝るべきは私達の方だろう。そう何度も手紙には書いたものの、医者は頑なに私の謝意を拒み続け、現在もこうして私の助けになってくれている。それに多大な感謝をしているのは確かではあるが、それでも一人であの医者と会う気にはなれず、苦手意識は未だに払拭出来ない。
 
 ― そうしている内にスタスタと足音が遠ざかるのが聞こえて…。
 
 成人男性のものよりも歩幅が短いそれはまるで私の事を気遣っているように感じる。それに感謝をしながら、私はそっと自分の身体を見下ろした。
 
 ― 酷い格好だな…本当に。
 
 下半身丸出しの状態で泣きわめく自分の姿に思い至り、自嘲が胸中に生まれた。しかし、それは先ほどまでのように生産性が皆無な訳でもない。そんな自分を取り繕い、前へと足を進める気力が私の中へと生まれていたのだから。
 
 ― 今…ニンゲンが何をしているのかは私は知らない。
 
 けれど、ここは彼の家である限り、きっとここへ帰ってくるはずだ。その時の為に私は嘆いているばかりではいられない。少しでも彼に気に入られるように…もう捨てられないで済むように、万全を尽くしておかなければいけないのだから。
 
 ― …そうだな…その為にも…。
 
 今日はニンゲンの好きだといってくれたクリームシチューを作ろう。今度こそコゲ一つない最高のシチューをアイツに食べさせてやるのだ。そうすれば…そうすればあの男は私の事を少しでも必要であると思ってくれるかも知れない。
 
 ― 自分を平静に保つためにその思考に縋りつきながら、私はそっと涙を拭い、着替えを始めたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
12/06/17 21:26更新 / デュラハンの婿
戻る 次へ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33