その2
「そこに座りなさい」
言いながらカルナが指を刺したのは見慣れた…訳ではないが、ついこの間、俺たちが朝を迎えた彼女の部屋のテーブルだった。魔界で育つ歪な木から削りだされたそれは意外なほど座り心地は悪くなく、なにより頑丈だ。色は目に優しくない紫色をしているものの、上から染料を塗られているので、それほど気にはならず、こうして家具として部屋に備え付けられている。
―まぁ、それは良いとして…どうすべきかな。
自分がこれからどうすれば穏便に収まるのか。纏まらない考えにヒントが欲しくて周りを見渡すと、そこは以前とはあまり変わっていないように見える。…いや、多分、変わっていないのだろう。俺が自殺騒ぎを起こしてすぐくらいに、この部屋の主も教会との戦いに狩り出されていたのだから。精々、服を片付ける程度で、それ以外のものを弄る余裕なんて無かったに違いない。
「…あんまり女の子の部屋をじろじろ見ない」
「あ、悪い」
そして、そんな部屋の主は、俺の目の前で不機嫌そうに肩肘をつけた上に頭を預けていた。その顔は子供のように膨れている…ように見えなくも無い。さっきまでの怒っていたようなオーラは少し鳴りを潜め、拗ねているような顔に変わっているので、ここまで来る道中に何か良い事でもあったのかと首を傾げるが、特に思いつかなかった。
―だって、会話だって無かったしなぁ…。
話しかけようにも背中でそれを拒絶されているような気がしていたのだから。それでも、その身体を気遣う言葉をかけたが「あぁ」とか「大丈夫」と言った投げやりな言葉しか返って来ず、会話としてまったく成立していなかった。普段ならばそこで「あの日か?」なんて下ネタを振る所だが、今の気まずさではそれは死もネタになりかねない。
―…いや、ちょっと上手い事言ったとか思ってないぞ。まだそこまで歳をくっていない。
「…で、どうして?」
「へ?」
そんな俺の目の前で 少し唇を尖らせてカルナがぽつりと切り出した。…しかし、主語が決定的に抜けているその言葉を俺は理解することが出来ない。理由を聞かれているのは分かるが、心当たりなんて山ほどあって、どれか特定できないのだ。
「…だから、人とえっちした後で自殺しようと思ったのはなんでなのよ」
そんな察しの悪い俺を見かねたのか、今度はきちんと主語をつけて…でも、視線は俺から外して、呟くようにカルナが言った。何処か気まずそうな表情は、責任を感じている所為なのかもしれない。
―当然か。ヤった後、すぐに自殺騒ぎを起こしたわけだしな。
責任感も強いカルナにとっては、自分が原因では無いのか、と自分自身を追い詰めていたの知れない。無論、事実は、俺の自爆に他ならないのだから、カルナに責はまったくないのだが、この女は良くも悪くも厳し過ぎるのだ。他人にも、そして、それ以上に自分にも。
「いや…それは…」
本当はそれを口に出して否定してやりたかった。俺の自爆なのだと、そう言って安心させてやりたかった。けれど、俺の中で、その言葉が纏まって出て来ないで、視線もあさっての方向へと泳いでいく。『好き』と言う感情をまだカルナに伝える覚悟が固まっていない所為か、どうやってそれを隠蔽しながら、事実を伝えるかという方法を算出しようとしていたのだ。しかし、あまり出来の宜しくない俺の頭じゃ、そうそう答えが出るものでもない。
「…やっぱり…私となんか…したくなかった…?」
そんな俺の様子をどんな風に勘違いしたのか、ぽつりとカルナが呟いた。震えながら搾り出したようなその声に驚いて、泳いでいた視線を彼女に向けると何事でもないように取り繕うカルナの目は潤んでいる。また、その目尻には小さな涙粒が浮かんでいて、零れ落ちはしていないものの何らかのショックを受けているのが一目で分かった。
―え?な、なんでそうなるんだよ!?
自分と同じ内容で、カルナもまた悩んでいる事を知って、俺の頭は完全に焼き切れてしまった。ただ、目の前の好きな女をどうやって泣き止ませるかを考えるだけで精一杯で、他の事は全て端のほうへと追いやられ思いつくままの言葉が口から飛び出て行く。
「いや、そうじゃなくてだな。俺としてはすげぇ嬉しかったし、気持ちよかったし、っていうか、お前のことが好きだから後悔するはずはないっていうか」
「……好き?」
―あああああああああっ!何言ってんだ俺ぇえええええ!?
思いもよらない告白に頭を抱えて転がりたい衝動に駆られる俺とは対照的に、片肘をつけた体勢から頭をあげて、驚いたように俺を見つめてくるカルナの表情には僅かに喜びの色が見えるような気がする。…けれど、その意味を俺が深く考えるよりも先に、覚悟も無かった『好き』の言葉をリカバリーしようと、頭は最悪の言葉を選んだ。
「いや、好きって言うのは勿論、仕事の仲間って意味で、そういう意味じゃないって言うか、無論、お前は魅力的な良い女だと思うけど、そういう対象じゃないしっ」
「…そう…なんだ…」
―ぐぁああああああ何やってんだよおおおお!?
今度は今までに無いほど落ち込んだ顔を見せるカルナに自分の言葉の失策を、頭ではなく心で理解して、俺は今度こそ頭を抱えた。自業自得とは言え、どんな言葉が口から出ても、この地獄を悪化させるようにしか思えない。そりゃ頭を抱えたくなるだろう。
―…でも…惚れた女の自責の念くらい…解してやるべきだよな。
どっちへ進んでも地獄への道ならば、苦しむのは俺だけでいい。自業自得な俺とは違い、カルナに自分を責める必要は無いのだから。その所為で…俺とカルナの関係が壊れたとしても、それは俺の責任だ。何より…ここまで来て、覚悟を決められない奴は男じゃない。
「…俺は惚れた女に酔いに任せて襲い掛かって、初めてって奴を無理矢理奪った卑怯者なんだ」
「え…?」
「…だから、死のうとした」
頭を抱えたままの状態で漏れた言葉は、意外なほどすんなり出た。この土壇場でようやく覚悟のようなものが着いた所為だろうか。うじうじと悩んでいた今までが嘘のように、大したことでは無いように思えるのだ。…無論、心臓はどきどき言いっ放しで、今にも破裂しそうだし、これからどんな事を言われるのか、怖くて冷や汗のようなものまで噴出している。…けれど、それでも俺の思考は穏やかで、少し片の荷が下りたような気さえした。
「えーっと…」
そんな俺とは裏腹に、カルナは気まずそうに言葉を濁した。頭を抱えた姿勢のまま、怖くて顔を上げられないが、その表情はきっと困っているものに違いない。その声には怒気のようなものは伝わってこないものの、困惑しているという事は、やはり…俺の片思いだったのだろう。
―仕方ないか。こんな面倒くさい男だものな。
興味を惹きたくて普段からちょっかい出している上に、いざ告白と言う場面になっても、覚悟一つ出来ず、逃げ道を探してしまうような男だ。そんな男が色んな意味で少し厳し過ぎるとは言え、これほど良い女に好いていてもらえるはずはない。
―終わったな…俺。
覚悟していても、明確に振られる予兆を見るだけで心が悲鳴を上げるのが分かった。耳の奥ではめしめしときしむような音が聞こえ、重い空気に耐え切れなくなった心臓が歪に捻じ曲がるようだ。痛みは限界を超えて、本能的にこの場から逃げ出そうという気さえ起こるが、俺の身体はまるで全身鎧を幾つも着込んでいるかのように重く、まったく動く気配すらなかった。
―こんなに居た堪れないのに…早くトドメをさしてくれ…っ!!
「…私にその時の記憶は無いんだけど、そんなに抵抗したの?」
しかし、そう思う俺の心に気づかず、カルナは不思議そうにそう言った。思いもよらない言葉に顔を上げると、そこには口元に手を当てて、真っ赤になっているカルナの顔がある。そこには予想していた困惑や嫌悪と言った感情は見当たらず、何処か恥ずかしがっているような、それでいて喜んでいるような気さえするのだ。
―…あれ?どうしてだ…?
正直、まったく予想してなかった反応に心の中で首をかしげてしまう。
「いや、特に記憶にないが…でも、泥酔してたし、きっと抵抗出来なかったんだと思って…」
俺の口から出た言い訳めいた言葉にカルナは大きく肩を落として息を吐いた。まるで出来の悪い子供に対するような、哀愁と諦観のこもったため息は、ハンスにされたものを含めて、何回目なのか数え切れないほどだろう。
−あれ?今のそんなに悪い答えだったのか?
俺にとって特に問題がないように思える答えは、カルナにとっては、とても諦観の念を感じるものだったのだろう。その表情を何処か呆れたようなーしかし、それ以上に安心したような、と感じるのは俺の欲目かもしれない―ものに変えて、俺をしっかりと見据えた。
「フェイ。貴方はもう少し女心を勉強すべきよ」
言いながらカルナは表情を笑顔に変えた。普段、取り繕って、表情の硬い彼女が浮かべる笑みは格別に目を惹かれる。普段は石のように硬い表情をしているのに、笑うときだけはまるで花が咲いたような華やかなものを浮かべるのだ。それに胸の高鳴りを覚えるのは仕方ないだろう。
−ちくしょう…反則だよなぁ…。
見ているだけで、どきどきする笑みから目を逸らして、俺はそう心の中で呟いた。何時も一人で過ごし、硬い表情で剣を振るう女が、一瞬だけ浮かべたこの笑みが見たくて、俺は何度もカルナにちょっかいを出し始めたほどなのだから。無論、今もその威力は健在でちょっとしたバツの悪さや居心地の悪さも全部、笑顔一つで吹き飛ばされてしまった。
「まぁ、でも、結局は貴方の勘違いだったようで安心したわ」
「うっせぇよ…」
溢れんばかりの笑顔のまま嬉しそうに言うカルナを視線の端で捉えて、俺は拗ねる様にそう言ってしまった。その妙にテレやすい辺りが、俺のダメな部分だと、今日だけで山ほど自覚したが、それでも今すぐ治ってくれるほど浅いものではないらしい。まぁ、まだまだ人生の折り返しにも程遠いのだから、これから追々、治していけば良いだろう。
―…そういえば安心って何が安心だったんだ…?
話の流れ的に自殺する理由が勘違いだったってことだろうか。…あれ?でも、それって…どの辺りが勘違いって事なんだ?襲いかかったとか無理矢理って部分なら、寧ろ襲われたかった、って言う事になるのか…?……いや、カルナに限ってそれは無いな。これだけ硬くて真面目な女が、襲われたい、だなんて思うはずがないのだから。
−脳裏にハンスの言葉が一瞬、蘇るが、俺はそれを無視した。
「そ、それより問題は次よ次」
「次って…何だよ」
焦ったように手を振っているカルナの顔は、普段、余り見ない類の物だ。何かを誤魔化す事に焦りを覚えているような表情は、普段、誰に対しても真摯に向かい合おうとする彼女にとっては間違いなく珍しい。そこそこの付き合いの長さがある俺だが、そんな俺でも始めてみる類の物かもしれないと思うほどだ。
「つ、次は…げ、現場検証よ」
「…は?」
そしてそんなカルナの口から飛び出てきた言葉もまた俺にとっては思わず間抜けな声で聞き返してしまうほど、聞き覚えのあまり無いものだった。だって、そうだろう?警察や警備隊関係者でもないのに現場検証と言う言葉なんて、聞きなれるはずがないのだから。普通は聞き間違いや言い間違いを疑うに決まっている。
「だから、現場検証よ!貴方がどう私を襲ったのかチェックするの!」
―いや、チェックってお前…。
そう反論する前に、カルナは椅子から立って、ずかずかと歩き、ベッドの上に腰下ろした。この前のまま放置され、赤い染みが残っている白いシーツは、乱暴に体重を落とされた所為か、ベッドの上で少し跳ね、抗議するように揺れるベッドと共にカルナの身体を受け止めている。そんなベッドに一瞥をくれる事も無く、出ているところは出ている―勿論、引っ込むところは本当に細いー身体を見せつける様にして、カルナは両膝を合わせたまま、両手を広げた。
「さ、さぁ、来なさい!」
「来なさいってお前…ガチガチじゃねぇかよ」
テーブル越しに俺を見るカルナの腕は緊張の為か小さく震えていた。俺の位置からでは少し遠すぎて分からないが、腕だけではなく、身体全体も恐らくは震えているのだろう。顔一つとっても、さっきまでの笑顔が嘘のように歪に固まっているし、到底、行っていいものとは思えない。
「か、勘違いしないで。ただの武者震いよ」
「いや、何と戦うつもりなんだよお前は」
思わず、そう突っ込みながら俺は目頭を指で押さえた。…今はこんな風だが、普段のカルナは俺のちょっかいに突っ込んでくれる側なのだ。何時もと逆になっている立場に、ちょっとした混乱と頭痛のようなものを感じるのはある意味、仕方のない事だと思う。
「う、うるさいわね。アンタがレイプしたのか、そうでないのか、素面の今、決めてあげようって言うのよ…!文句言わずに来なさい!」
「いや…お前な」
―そもそも来いって言う時点でレイプでも何でも無い訳だから、色々と論理破綻してるぞ。
しかし、話している途中で、ふと、カルナの目に気付いた俺の口から、その言葉が飛び出る事は無かった。気恥ずかしさの所為か顔を真っ赤にしながら俺を呼ぶ、カルナの目は少し濡れている。涙とも少し違うそれは、『あの時』の彼女の誘うような目を彷彿とさせるものだ。
―……いや、あの時とは状況が違うか。
カルナの言うとおり、俺は多少、酒が入っているが、彼女自身は素面だ。それでも尚、ここまで、彼女がしてくれる…と言うのは、つまり…まぁ、ちょっと自信過剰になっていいのかもしれない。彼女の言うとおり、俺には女心と言う奴がまだイマイチ、良く分からないが、それでも、ここまでさせている女に恥をかかせると言うのも、男として情けないと言う事に他ならないだろう。
「…手加減しねぇぞ」
「て、手加減なんてしたら怒るわよ。あ、あくまで現場検証なんだから、この前と同じようにしなきゃ許さないんだからね」
震えながら、気丈に返してくるカルナの言葉と言う許しを得て、俺は椅子から腰を上げた。そのまま一歩、二歩、と近づくと、手を広げたままの姿勢で、俺を見上げる彼女がびくりと震えるのが分かる。その普段からは想像もできないほど緊張している彼女の姿に、一瞬、止めようかと言う考えが鎌首をもたげる。しかし、そんな考えも、カルナの潤んだ瞳の前には無力で、この前と同じように、その肢体に吸い寄せられてしまうのだ。
「…カルナ」
名前を呼びながら触れた手は、やっぱり震えていた。けれど、それでも彼女は俺を受け入れようと両手を広げるのを止めない。どれだけ緊張していても、その姿勢だけは決して崩さない彼女に、俺の中の愛しさと言う感情が燃え上がるのが分かった。
「…何時でも良いから嫌になったら言ってくれよ」
「一回も二回も女の子にとっては同じなのよ。…良いから、アンタは安心して私を襲えば良いの」
最後の予防線もあっさりと超えられて、我慢の限界へと達した俺は、言い知れない衝動のままカルナの肢体を抱きしめた。情欲と愛しさが半分ほど混ざり合ったその感情は、今まで感じたことのないほど強大で俺の身体を支配している。そして、俺はその衝動に逆らう気持ちも起こらないまま、カルナの唇に吸いついた。
−柔らけぇ…。
この前にカルナとキスをした時にも思ったが、彼女の唇は今まで感じた事がないほど、柔らかさと弾力に満ちている。俺のささくれ立った唇でさえ、柔らかく歓迎してくれるそこは、例えるならばコンニャクが一番近いだろうか。瑞々しく、触れるたびに、小さく震える肉はそれだけでも、男ならだれでも持っている支配欲を刺激するのだ。
―だけど、これは前座にすぎない。
何度も何度も、カルナの唇に強引に唇を押し付けてむくむくと支配欲が湧きあがってきた俺は、それに従って、唇をカルナの口内へと押し込んだ。何でも受け入れてくれるような唇とは違い、初めて味わう―実際には最中にも何度かやっているのだけれど、カルナの記憶には無い―強い弾力と柔らかさを持つ粘膜が入り込んでくる感覚にカルナは身体を硬くする。それに一瞬、迷いが生じるものの、「安心して襲えば良い」と言う彼女の言葉を思い出して、気にせず舌を突き入れた。
−そこは以前と同じようにとても甘い空間だった。
唾液の蒸発する匂いに満ちているのか、舌が唾液にも触れていない状態でさえ甘さが伝わるほどのそこは以前と同じように俺を歓迎してくれた。
「ちゅ…ん…ぱぁ…っ♪」
どろどろとした唾液が舌の粘膜に触れるだけで、最高の美酒を味わっているような感覚にさえなれるのに、歯茎を舐めるだけで、いやらしい声を吐いて反応を返してくれるのも以前通りだ。それに調子を乗った俺は、さらに強くカルナを貪ろうと歯茎だけでなく、彼女の舌へと襲いかかる。味覚を司どる粘膜であり、人体の中でも重要なそこは、強張った様に固まっていて俺の舌を拒絶しているように感じるのだ。
―けれど、焦ってはいけない。
硬く歯の後ろで動かない舌を追いつめる様に、俺はぎゅっとカルナの頭を右手で掴んで、ゆっくりとベッドへと押し倒していく。同時に、少し顔を傾けると、一部の隙も無くした唇同士が密着し、舌先がカルナの舌へと少し触れるようになった。そのまま、誘うように、舌先でちょっかいを出すと、彼女の舌も緩やかではあるものの応える様に外へと浮き上がってくる。
−これを可愛がってやれば良い。
少しずつ大胆になってくれた舌を受け入れる様に、舌先から中腹ほどまでを撫で上げる。粘膜同士が擦れ会う感覚は、擬似的な性交でもあるのか、本能的に快感を感じてしまう。それはカルナも同じなのだろう。撫で上げる度に震えるのは単純な驚きだけではないのは、受け入れる様に目を瞑りながら鼻から甘い吐息を吐いている事から分かる。
「んはぁぁ…っ♪」
―可愛い奴だな…本当に。
キスでの交わり…その中でもただの前戯に過ぎないのに、夢中になって鼻の抜けた声を出す姿は、普段からまったく想像もできないモノで、強いギャップを感じさせる。そして、そのギャップが、また可愛らしくて、もっと気持ちよくしてやろうと、もっと貪ってやりたいと、男の情欲を擽るのだ。
「や…ふぁ…♪」
そんな声を上げながら抱きしめる様に俺の背に腕を回し始めたカルナをより貪る為に、俺は口の中にため込んだ唾液を舌に乗せて送りこみ始める。そしてその唾液をすりこむように、舌先で強く撫でるのだ。…正直、最初は拒絶されるかも、と思っていたそれは、この前と同じように意外なほど簡単に受け入れられただけでなく、寧ろもっともっと、と強請る様に舌先で俺の舌をせっついてくる。まるで雛鳥が親に餌を強請る様な仕草に応えて、俺はどろどろと唾液を流し込み、カルナの舌へと塗り込んでいくのだ。
「あ…♪はぁぁ…♪」
それを喜ぶように息を吐きながら、カルナの舌はより貪欲に俺の舌へと絡みついた。それはさっきと同じ、餌をねだる等と言う生易しいモノではなく、唾液の貰い方を覚えたメスのものとなっている。お互いの舌が口腔内で踊るたびに、興奮の為かどろどろと唾液が生産されて、舌を経由して彼女の粘膜へと送りこまれるのだ。それを喜ぶように、しっかりと舌で楽しみ、その後、咽喉を嚥下して味わうカルナの姿に、また強い興奮を覚えてしまう。
―このまま貪ってやろうか…。
そうは思うものの、これ以上は『この前』はやっていない。以前は俺もかなり酒が入っていたので、我慢できず、早々に前戯へと移っていたのだ。あくまでこの行為は『現場検証』であるのだから、唇同士の交歓はここまでにしておくべきだろう。…そう判断し、唇を離すと一本の唾液の橋が落ちるのと同時に、物足りなさそうにカルナが見上げてくる。…邪推するのであればもっと唇の交歓を楽しみたかった、と言う所なのかもしれないが…本当のところは俺には分からない。
−だから、折角だし、聞いてやろう。
「この前はキスはこれくらいの長さだったんだけど…物足りないか?」
「ばっ…変な事言わないでよ…!あくまでこれは現場検証なんだからそんな訳ないでしょう!」
真っ赤になって目線を逸らすカルナを見下ろしながら、何時も通りの問答へと戻った事が何となく嬉しくて、俺は口の端に笑みを浮かべた。それをカルナは自分の事を笑ったのだと思ったのだろう。口を尖らせながら、ぽつりと漏らすように反撃してくる。
「…それよりアンタ、二回目にしちゃ手慣れてると思うんだけど…?」
「そりゃヤるのはそこそこ経験あるしな」
世界各国を回っていた傭兵なのだし、恋こそ今までした事が無いにせよ娼婦と一夜を過ごした回数は数知れない。幸い…と言うか、何と言うか、俺たちのリーダーはそう言った事には理解のある方で、戦場での略奪や暴行は一切許さなかったものの娼館へは良く連れて行って、お勧めの娼婦を紹介してくれたりもしたのだ。リーダーお勧めの娼婦は皆、外れは無く、皆高い技術を持ち、拙い俺をリードしてくれたり、女体の事を教えてくれ、そこそこ技術的な物は持っている自負がある。
「…嘘」
しかし、それがカルナには伝わらってなかったらしい。何処か呆然とした表情のまま俺を見上げるカルナの瞳には情事独特の興奮はなく、信じられない、と言うような感情ばかりが浮かんでいた。
―ちょ…馬鹿か俺は!お堅いカルナ相手にそんな事言ったらこうなるって分かるだろうが!!!
そう自分自身を責める声に全力で同意しながら、俺はこの場を回避しようと、言葉を探し続けた。けれど、思いつくのはハンス直伝の、歯の浮くようなセリフばかりで、俺の口にはどうにも合いそうもない。嘘に敏いカルナ相手に、ハンスの受け売りの言葉を放っても、すぐに見破られて、より状況が悪くなるのは分かりきっているので使えずはずもなかった。俺自身の言葉でなければカルナは納得しないだろうし、受け入れても貰えないだろう。
―じゃあ、俺にだけあるモン……って言えば、やっぱこれしかないよな。
気恥ずかしい。とても気恥ずかしいし、正直言えば、この場から逃げ出したいほどだ。けれど、俺が何よりストレートに感情を表して、この場を少しでも良くする事の出来る言葉なんて、それ一つしか思いつかない。
「…カルナ以外とヤッた回数はそりゃ多いけど…お、お前が初恋だからな!」
「…え?」
―二度も言わせるな馬鹿っ!恥ずかしいんだよ!!!
そんな抗議の言葉さえ、俺の口からは出てこなかった。ただ、顔に熱をため込んで、視線を逸らすことしかできない。…そのまま数秒ほど経った頃だろうか。ようやく意味を理解したカルナは、その表情を柔らかくしながら、微笑みのようなもの―視線を外して、それを真正面から見る事は出来ない俺には推測するしか無いーを浮かべた。
「…その言葉に免じて許してあげる」
「そりゃどうも」
何処か悪戯っぽいニュアンスを含ませた言葉に、皮肉っぽく答えながら、内心、俺は心を撫でおろした。…そりゃ、まぁ、ちょっとした驚きもあったが、無事に収まったし…何より、以前の女を気にするほど、気にかけてくれていると言うのが嬉しい。俺だって逆の立場であれば、やはりショックであろうし、素直に許してくれたカルナに感謝の気持ちすら湧いてくる。
「…じゃあ、続き。するぞ」
「…一々、言わないで良いのよ馬鹿」
気恥ずかしそうに言って、また目を背けるカルナのシャツに手を掛け、一つ、また一つと外していく。興奮しているのか、ボタンを外す度に吐きだす息は何処かオスに媚びるような響きを持っていて、それがまた俺の興奮を掻き立てるのだ。今はまだ我慢できているけれど、長く聞いていると襲いかねないほどの威力を持ったそれを振り払う為にも、俺は手早くボタンを外し、それを肌蹴させると…甘い香り―恐らくはカルナの体臭なのだろう―が一気に弾けて、俺を包みこんでくる。
「…綺麗だ」
思わずそんな言葉が漏れ出るほど、シャツの下から現れたカルナの隠された肢体は美しかった。あれだけ前線に出て闘っているのに、傷一つない珠の肌は瑞々しく、あれだけの長剣を荒々しく振るう筋肉はぷにぷにとした脂肪に包まれていて、一目で見るほど抱き心地が良い。鉄製の首飾りがしっかりと首と胴体を繋げているが、それがまた美しさを引き立てている。彼女自身の肌の白さと相まって純白の平原を思わせる腹部は目に眩しく、ブラに包まれた胸は隠されていながらもその柔らかさと豊満さを惜しげもなく見せつけ、俺の目を引くのだ。
―これが美しいと言わず、何を美しいって言うんだろうな。
無論、俺はただの傭兵だから学なんてない。美術品や芸術の類ならハンスは詳しいが、俺はまったく興味を持っておらず、今まで見る事もなかった。…けれど、そんな俺でさえ美術品の美を集めたのではないかと思うほどの美しさが、今、俺の目の前でさらけ出されている。
「…ありがと」
俺の言葉に顔に赤い色をともし、呟くカルナの顔も美しい…と言うのは少し違うが、愛しさを掻き立てられるものだ。普段の硬い表情を彫刻めいた美しさと評するのならば、今の顔は年相応の女らしい可愛さ、というべきかも知れない。
「…それよりブラの外し方…分かる?」
「フロントホックだろ?…分かってる」
唐突に話を逸らしたのは気恥ずかしいからか、それとも期待からか、どちらとも分からないが、とりあえず俺はカルナの言葉に乗ってやることにした。几帳面に以前と同じ、フロントホックのブラを着けている胸に手を伸ばして、俺はすっと、胸の谷間に触れる。そこはシャツを肌蹴させた時から甘いフェロモンを立ち昇らせていて、ずっと俺の欲情を擽り続けた場所でもあった。
「あ…っ♪」
それだけで一瞬、ぶるりと震えて悩ましげに声を上げるカルナを出来るだけ無視しようとしながら―意識してしまえば今にも脱線してしまいそうだったのだ―俺は結合部を上下に割って、外した。瞬間、今まで抑えつけられていた胸が俺の目の前で弾け、ピンク色の突起が俺の下でふりふりと揺れる。重力に引かれることなく、形よく突き出した胸の頂点は、既に硬くなり始めていて、見ているだけで触れてみたくなるほどだ。
「…あんまりじろじろ見ないでよ」
「…いや、無理だろ」
思わずそう反論してしまうほど、そこは目を惹かれてしまう箇所だ。男の本能の所為か、それとも、胸の谷間から湧き出るような甘いカルナのフェロモンの所為か、ずっと見つめて、何より弄んでやりたくなる場所が俺の意識を乗っ取っていくかのような錯覚さえ覚える。その前には一度見ていると言う経験なんて何の役にも立たず、押し流されるように俺の両手は胸の外周部にそっと触れた。
「…ん…っ♪」
外周部に触れるだけでも、そこがどれだけ重い部分なのか、はっきりと教えてくれるほど肉が詰まったそこは、ふるふると揺れながら、俺の手に柔らかい感触を伝える。けれど、柔らかいだけでなく、重力に逆らうほどの弾力もまた俺の手を弾き返し、何とも言えない、独特の感覚が俺の思考を支配した。その部分をより激しく味わおうとしか考えられなくなった俺は、指先に力を込めて持ち上げる様に下から上へと押し上げる。
―重い…。
片手だけでは包みこめないほど豊満な彼女の乳房は、この前と同じように重かった。けれど、その重さが、より良いメスの証でもあり、オスの本能をぐりぐりと刺激して来る。たっぷりと肉の詰まった、美味しそうな、むしゃぶりつきたいほどの胸が俺の両手にあるのだ。当然だろう。
―そして俺はその本能のまま、そっとカルナの乳房に食いついた。
最初は優しく乳房にキスを落とす。一回、二回と、キスマークを残すように吸いつきながらそこの快感を呼び起こそうとしたのだ。無論、その間も外周部の優しく撫でて、性感を刺激するのも忘れない。それを少しずつ、指先に力を込めて、揉むようにしていくと、カルナは甘く息を吐いてくれる。
「ふ……ぁ♪」
性感を漏れだすような声を上げる度に、カルナの身体からは少しずつ緊張のようなものが解れているのが分かった。最初はぎゅっと硬くしていた身体はベッドに横たわり、シーツを掴んでいるくらいにまで解れている。そんな風にカルナが確かに快感を感じ、受け入れてくれているのが嬉しくて、俺はキスをするのを少しずつ頭頂部へと上げていった。女体の中でも強い性感帯であるそこは、解す様な愛撫に既に臨戦態勢となっていて、ぴんっと主張するように勃っていた。
「…あぁっ♪」
快感を期待してもっと欲しいと自己主張する様にその身を硬くしていた乳首にキスを落とすと、カルナは少し甲高い嬌声を上げた。それをもっと聞きたくて、俺は唇で挟んだ乳首を左右に揺らすように顎を揺らせる。こりこりとした触感を、唇で味わう感覚は、俺にとっても魅力的ではあったが、カルナにとってはより魅力的な事だったのだろう。それは唇に圧力をかける度に、甘い声を漏らす事から十二分に分かる。
「そ、そんなに…あっ…乳首好きなの…?」
―好きな女の胸なんだぞ。嫌いになれる訳ないだろ。
悪戯っぽそうな表情を顔に浮かべて、俺に聞くカルナの言葉にそう返すのも惜しくなるほど、俺は彼女の乳房に夢中になっていた。唇から感じる感触だけでなく、むせかえるようなフェロモンの中で、何時までも揉んでいたくなるような最高の胸が俺の手の中にあるのだ。これで夢中にならない奴は男じゃないだろう。
「あぁっ♪…もう…」
返事をしない俺に呆れたのか、それとも、それだけ夢中になっているのが嬉しかったのか。その声に媚びた物を混ぜながら、カルナは俺の頬に手を当てた。そのまま短き刈りこんだ俺の髪を撫でて、小さく笑みを浮かべた…ような気がした。
「ホント、子供なんだからぁあ…♪」
―ほっとけ。
そう抗議する為に小さく歯を立てたのは、効果的だったらしい。その声を途中に嬌声に近いモノへと代えて、カルナは身体を起こした。まるで快感をより内へと取り込もうとするその姿は、この生真面目な女が俺の手によって性感を開発されているという証左である。…そう思うと、もっと、この女を自分色に染め上げたいと言う支配欲が燃え上がるのだ。
―手始めに…まずはもう少し下だよな。
乳首を唇で挟み込み、時折、舌を転がすと、それだけでむんむんとした甘いフェロモンを立ち昇らせながら、嬌声を上げるのだ。胸はあの時にも強い執着のまま愛撫していたお陰か、歯で挟みこみ、弄ぶのにも嬌声を上げてくれる。今は両手もその乳房を揉み上げる様に愛撫しているが、ここよりもより下の…もっと気持ち良い部分を開拓し始めるのが良いだろう。
−だから、俺は右手だけをするりと胸から離れさせ、そのまま彼女の肢体の線をなぞる様に脇腹まで下ろしていく。
「ひゃ……ちょ、ちょっとくすぐった…っふぁ♪」
抗議の声を無視しながら、俺は気にせず、右手を脇腹から脇近くまでを撫でていく。無論、それが快感だと教え込むのに、胸の愛撫にも力を入れるのを忘れない。左手は片方の揉みしだき、人差指でくりくりと乳首を転がしながら揉み上げて、唇は空いたもう一方を強く吸い上げて、乳首を口の中で歯と舌で歓迎してやる。最初は擽ったそうに身を捩らせるだけだっただったカルナも、胸の快感に屈したのか、抗議を上げる暇もなく、嬌声を上げ続けた。
「やぁ…っ♪く、くすぐったぁ…良い…っ♪」
くすぐったいのか、そうでないのか、もうカルナ自身にも理解できないのだろう。頭の中では胸から感じる性感と、脇腹のくすぐったさが一体になり始め、くすぐったさが快感へと変わり始めている頃に違いない。…男としては少し分かり辛いが、女は全身に性感神経が通っている為に、こうした愛撫でもしっかり感じる事が出来る…らしい。
―まぁ、娼婦の姉ちゃんの受け売りだし、自信は無いんだが。
けれど、今の彼女の様子を見る限り、それはあながち的外れなものだとは思えない。既にくすぐったいと抗議の声を上げる事もなく、はぁはぁと荒い息をつきながら、身を震わせて嬌声を上げる姿は、間違いなく快感を覚えているメスそのものだ。
「ほ、本当にぃ…あぁぁ♪これぇ…これえあの時もやったのぉ…?」
―やべ。すっかり忘れてた。
鼻の抜けたオスに媚びるような声ではあるものの、はっきりとそう言うカルナの声に『現場検証』と言う元々の目的−と言うかお題目と言うか―を思い出した俺は一瞬、手を止めた。…けれど、今更、後戻りは出来ないと思いなおし、気にせずそのまま、彼女の胸にむしゃぶりつく。
「もぉ…っ♪馬鹿ぁぁあ♪」
返事も何も返さない俺に確信を強めたのだろう。そう改めて俺を罵りながらも、カルナはぎゅっと俺の頭を抱き込んだ。豊満な胸が俺に押し付けられ、鼻を塞いで呼吸が出来なくなる。けれど、もう目の前の女を自分色に染める事くらいしか考えていない俺はそれを気にしないまま、より一層強く吸い上げた。同時に左手は親指と人差し指で乳首を摘み、ぎゅっと力を込める。
「んっきゅうぅ…っ♪」
今までにない乱暴な愛撫でも、もう性感へと結びつくようになっているのだろう。耐える様に再び俺の頭を抱き込むカルナは、蕩けた声で応えてくれた。それに、もうしっかりと快楽を感じる下地が出来ている事に安堵した俺は脇腹からさらに下へ、ミニスカートから露出する彼女の太ももへと右手を伸ばす。
「あ……」
それに気づいたのだろうか。カルナは快感に蕩けた声を一瞬、羞恥を含む物に代えて身じろぎした。…驚いて手を止めたが、結局、彼女は何も言わない。…単純にびっくりしただけなのだろう。…そう思い、俺は右手で彼女の太股の外周を撫で始める。最初はゆっくりと、くすぐるように、そして段々、じっくりと、手全体で溶かすように。
「はぁぁ…♪」
脇腹でさえ感じるほど性感が育ち始めた今のカルナにとって、それは愛撫以外に他ならないのだろう。甘く息を吐き、身を震わせながら応えてくれる。それがまた嬉しくて、俺は少しずつ、それを内側へと移動させた。外よりもさらに性感の集中しているそこは、とても敏感で、びくりっと大きくカルナの肩がふるえて、俺の頭を抱きしめる拘束が少しばかり緩む。
―今がチャンスか。
流石にそろそろ息苦しくなってきた頭を乳房から離し、そのまま舌で彼女の肌に線を引きながら腹部へと降りていく。豊満な双丘を下り、僅かに波打つ平原へと渡り、そして、少し凹んだ窪みで舌を止めた。
「や…っそこは…っ」
これから何をするのか気づいたのかカルナが声を上げるが、俺は気にせず、その窪み…彼女の臍を舌で掘り始める。
「んぁぁ…っ♪」
無論、そこは胸や秘所ほど敏感な個所ではない。けれど、子宮の真上であり、臍の緒があった頃には多くの神経が通っていたそこはやはり女にとって強い性感帯の一つである。
―まぁ、それだけじゃないんだが…。
臍の奥って奴は意外なほど人の意識外にある。それは殆どの女にも共通だ。自然、綺麗好きな女でも毎日、臍の奥までは洗っていない。そこを舌で穿られる…と言うのは、強い羞恥を掻き立てられるもので、そんな、女の顔を見るのが俺は好きだったりする。
―まぁ、ちょっと変態的な趣味なんだが…。
ふと見上げると、羞恥に真っ赤になって、快感を堪えているようなカルナの表情が目に入る。…それだけで変態的であるとか、そんなことはどうでもよくなり、もっと恥ずかしくさせてやろうと、そんな嗜虐心が沸き起こってくるのだ。
「…ちょっと匂うぞここ。ちゃんと洗ってるか?」
「うっさい…っ!殴るわよっ!」
羞恥に顔を真っ赤にしながら涙すら目尻に浮かべて、握りこぶしを見せ付ける姿もまた可愛らしい。…まぁ、実際、匂うといっても、胸の谷間から感じたような甘いフェロモンだけで、嫌なものではまったくないのだ。寧ろ男を夢中にさせるその匂いは、良い匂いと言っても差し支えないだろう。
「もう…そこは良いでしょ…っ!!」
流石にちょっと虐め過ぎたのか、少し涙で濁った声でそう言ってくるカルナの言葉に従って、俺は再び舌で線を引くように下腹部へと降りていく。その先ではミニスカートが未だ彼女の秘所を隠し、そして、太股では内側をさわさわと指を波打たせるように、俺の右手が暴れているはずだ。
「…脱がしても?」
「…現場検証なんだからどうせ全部脱がすでしょ」
拗ねるように口を尖らせながら言うカルナの様子に笑みを浮かびそうになるのを必死に堪えながら、俺は彼女のスカートへと手をかけた。趣味の良い薄い青に染められたそれを両手で掴み、するすると下げていく。拗ねたように何も言わないものの、カルナもそれを手助けするように腰を上げたり、足を上げたりしてくれ…ついにぱさりとシーツの上にスカートが脱ぎ捨てられた。
―そして俺の目の前に残るのは薄い一枚の布な訳で。
上品なシルクで作られ、脇にはレースをあしらわれているローレグの下着は見るからに高級品であることが分かる。けれど、今のそれは布キレ一枚では抑えきれないほどの水に濡れ、高級さも上品さも何も感じられない。それは…勿論、その奥にある秘所からの愛液の所為だろう。内股を撫でていた右手にもねっとりとした粘液がついているし、薄々そうかもしれない、とは思っていたが、はっきりと感じてくれていたらしい。それも、『この前』よりも遥かに。
「な、何よ…?」
そんな俺の視線から逃げるように股を閉じながら身を捩ろうとするカルナに、何か言おうとするが良い言葉が何も出てこなかった。からかうのでもない。褒めるのでもない。感じたままの言葉を捜そうとする俺には…残念なことに学がない。「綺麗だ」以上に綺麗なものを指す言葉も、「エロい」以上にいやらしいものを指す言葉も知らないのだ。
―ハンスならまた違うんだろうけれどなぁ…。
だが、今ここにいるのは、俺なのだ。…だからこそ、俺の言葉で言わなければいけない、と言葉を手探りで求める俺は、結局、自分の中で新しい言葉を作り上げることに決める。
「…エロ綺麗だ」
「それ褒めてないでしょ」
―いや、一応、マジで褒めているつもりなんだが…。
どうにもカルナにはお気に召さなかったらしい。顔を赤くしながらも、俺を一目で見下ろす彼女は若干、頬を膨らませながら一刀両断した。…まぁ、そりゃそうだろう。元の気性が真面目であるカルナがエロいとか言われて嬉しいはずも無いのだから。
「いや、俺の本心」
「尚、悪いわよ…あ、ちょっ…っ」
とりあえず喜んでもらえなかったようなので、悦んでもらうことに決めた俺は、その身一杯に愛液を吸い込んだ下着を指で押し込んだ。それだけで限界一杯まで吸い込んだ下着は耐え切れないのだろう。どろどろとした愛液を吐き出し、指を離した後もパンツと指先の間で糸が引く。どろどろの粘液が重力に引かれてシーツへと堕ちていく光景はとても淫靡で興奮をそそられるものだ。
―本当はもっと虐めたかったが…。
今までの行為で既に一杯一杯だった俺は今の光景で我慢ぎりぎりにまで追い込まれてしまう。この後やったはずのオーラルセックスも何もかもが吹き飛んで、ただ、目の前のメスを貪る事しか考えられない。
「…脱がすぞ」
「…うん」
俺の口から出たのは自分でも驚くほど切羽詰ったものだった。まるで十代のガキが始めて女の身体を目の前にしたような、ぎりぎりさは…それほど今の状況と遠くないものなのかもしれない。自分自身で言うのも気恥ずかしいが、俺はこんな歳になって初めて初恋なんてものを経験したガキなのだから。
「…フェイ?」
「あぁ、悪い」
自分自身に苦々しい笑いを浮かべて動きが固まる俺を、急かすようにカルナの言葉が耳に届いた。それに短く応えながら、俺は下着の脇を両手で掴み、ゆっくりと下ろしていく。その瞬間、抑えを失った愛液がどろりと零れ落ち、ベッドの上に大きな染みを一つ作り出した。…けれど、今の俺はそれを知覚する余裕も無く、ただ、目の前に現れた彼女の性器に目を奪われてしまっている。
―この前も思ったがエロいな、マジで。
パンツの下から現れたのは一筋の切れ目…なんて生易しいものではなく、生々しいやらしさに満ちた部分だった。くっぱりと具がはみ出し、呼吸する度に震えるそこは下の口、と言う揶揄に相応しく唇のように突き出した部分が奥へ奥へと導こうと震えている。粘膜の部分は鮮やかなピンク色ではあるものの、期待に口を開けるように開く大淫唇は、これが二度目の―より正確に言うならばこの前気絶するまでヤりあった訳だから二度目ではない―性交であるだなんて誰も信じないだろう、と思うほどやらしい。まだまだ幼い少女の性器ではない。成熟し、孕む準備も出来上がっているメスの搾性器が俺の目の前にはあった。
―ごくり…。
思わず唾を飲み込むのを自覚しながら、俺はベルトに手をかけて、乱暴にズボンと、そしてパンツを脱ぎ、ベッドの上に投げ捨てる。下半身だけ半裸と言う情けない格好となった俺の股間では既に聞かん坊となった俺のムスコが腹筋に着くほど反り返っていて、これから味わえる極上の肉の快楽を思い出して震えていた。
「…わ…っ♪」
そんな俺のムスコを見ないようにか、カルナはその両手を顔の前に置いた。…けれど、指の合間が開いていて、俺からも、そして、彼女からも顔が丸見えである。その視線を追うとしっかりとムスコに釘付けになっている辺り、何がしたいのか良く分からない。けれど、悪戯心が沸きあがってきた俺は見せるけるように腹筋に力を入れて、それをぴくぴくと上下させる。
「そんなにじっくり見つめてくれるのは嬉しいんだが、ついでだし感想も聞きたいな」
「し、知らない…っ!」
俺の言葉で見つめていることに気づいたのか、一瞬、はっとした表情になったカルナはそのまま視線を逸らした。…けれど、まだ気になるのか、時折、チラチラと送ってくる視線が何処かこそばゆい。…けれど、決して不快ではないその視線に勇気付けられるように俺はそっとカルナの太股に手を触れる。…それだけで大体の事を察してくれた彼女は、ゆっくりと足を広げて受け入れる体制を作ってくれた。
「…じゃあ、挿入るぞ」
「あ…ち、ちょっと待って」
このタイミングで制止する声に顔を上げると、そこには真っ赤に顔を染め上げて、右手で口元を隠すようにしているカルナがいた。今から大事な事を伝えようとするような緊張感が部屋に満ちて、今から思う存分貪ろうとしていたオスの本能が萎縮し若干の余裕を取り戻した俺は、何度も何度も口を開こうとして、言葉が出ない彼女の頬に手を置いた。
「…あ…」
「やっぱり怖いか?それならやめるぞ」
―別に俺はケダモノでもなんでもないのだから。
確かにこのタイミングでのお預けは肩透かしと言うレベルではない。ここまで昂ぶり続けたオスは納得しないだろう。けれど、力を取り戻した俺の理性は、それでも良い、と思っていた。俺たちが今からしようとしているのは、交歓だ。お互い快感を与え、貪りあう行為だ。…それを片方が怖がっているのに無理矢理するというのは交歓でもなんでもない…ただの生殖行為、しかもオスの独りよがりなレイプに堕ちる。
―それだけはしたくない。
今日までずっと悩み続けていたような苦しみをもう二度と味わうのは御免蒙りたい。そして、その為ならば、本能でも何でも捻じ伏せて終わらせるつもりが、俺にはあった。
「ううん…そうじゃなくて…その…私、『初めて』だからキスしながら…」
―あぁ…なるほど。そういう事か…。
切れ切れに漏らすような彼女の言葉に得心がいった俺は彼女の頬に触れながらゆっくりと、俺は身体を前へと倒していった。自然、俺の目の前にはカルナの顔が広がり、その瞳にもどんどん近づいていく。
―…綺麗だ。
今日だけで何度そう思ったか分からないが、再びそう心の中で呟いてしまうほど、彼女の瞳は綺麗だった。澄み切った深いダークブルーの瞳は欲情か興奮か羞恥か…どれとも分からないものに濡れていて、引き込まれるような…いや、その瞳の中に落ちていくような錯覚を覚える。
「…じゃあ…カルナの『初めて』貰うからな」
「…うん」
キスをする寸前にそう言葉を交わしてから、俺は彼女の唇に貪りついた。さっき交わした時、キスと同じように甘く、蕩けるようなそれを味わいながら、俺は右手で肉棒の位置を調整し…ゆっくりと一気に突き入れる。
「ふぁあああああっ♪」
俺の口の中にカルナの声が送り込まれてくるのを感じながら、俺は歯を食いしばりたくなるのを必死で堪えていた。既に何度かの経験を持つカルナのそこは既に俺の味を覚えているのか、俺の感じる部分を的確に刺激してくる。腰を進める度に、裏筋にぞりぞりとした膣の突起が当たり、背筋からケツまでぞわりとした寒気にも近い悦楽が走るのだ。本来であれば歯を食いしばって耐えたくなるほどの快感を、俺はカルナとのキスに集中することで必死にやり過ごしながら、膣奥まで進む。
「…ふ…わぁぁ…♪」
こつん、と亀頭と子宮口がぶつかった頃には、既に俺の腰は限界と主張するように震え始めていた。…別に俺は早漏な訳ではない。この前から、罪悪感ばかり募って自家発電もしておらず性欲も溜まっていたし、何より彼女の膣もキスも、そして前倒しになると自然とこすれあう胸も、全てが気持ち良過ぎるのだ。
―でも、ここでイったらあまりにも恥ずかしいよなぁ…。
無論、何週間かのオナ禁生活のお陰で一発や二発では衰えない自信はある。けれど、入れて三擦りもしていないうちに射精してしまうのは、男として大事な尊厳的な何かを折られる気がするのだ。
「…フェイぃ…動かない…の…?」
動かない俺を不審に思ったのか、唇を離して甘える声を出しながら、見上げるカルナの目もまた、限界そうであった。この前、念入りに膣の快感を覚えてもらおうと、クンニしていた所為だろうか。既に強い快感を覚え、蕩けた表情を見せている。それだけではなく、膣奥と亀頭が触れる感覚だけでは満足できないのか、より強く擦れあわそうと、腰を前後に揺らしているのが分かった。
―カルナも我慢できないなら…遠慮は要らないな…っ!
本人も気づいていないほど、自然に悦楽を求めようとするその姿に、脳裏が興奮で燃え上がるような錯覚を覚え、俺はゆっくりとピストン運動を開始する。焦らすようにゆっくりと引き抜き、入れるときはそれよりも若干早く…膣奥にぶつかった後は、ぐりぐりと亀頭を押し付けるように…っ。
「んはぁぁっ♪」
別に激しい動作ではないが、カルナはそれに悦んで嬌声をあげてくれる。下の口では、どろどろとした涎を漏らし、ぎゅっと膣を締め付けてくるのだ。その度に、ぞりぞりと裏筋を穿る突起や、亀頭を洗うようなつぶつぶとした突起が俺のムスコを襲い、射精へのカウントダウンをまた一つ進めようとする。それに抵抗しようと歯の奥が潰れそうになるほど強くかみ締めるが一向に我慢が聞かない。
「ふぇ…ぃぃ…気持ち良い…?」
そんな俺の様子を知ってか知らずか、カルナは熱病に浮かされたような表情でそう言った。それに言葉を返す余裕もない俺は、何度か大きく頷いて、抽送し続ける。一突き、また一突きと奥にぶつかる度に、もっと目の前のメスを貪ろうというオスの本能が燃え上がり、だんだんとその速度が速いものへとなっていった。
「ふぁああああっやあああああっ♪」
それに嬌声を上げるカルナの膣もまたどんどんとその動きを激しいものへと変えていく。最初は奥へ奥へと引き込もうとしていただけなのに、今では膣の中にある無数の突起と連動して引き込むというよりは搾り取るというものに近い。ぞりぞりとした突起が入れるたびに裏筋を擦り、引くときには奥へ奥へと脈動する突起に引っかかって、腰が砕けそうになるほどの快楽が生まれる。
―こりゃ…我慢なんて無理だろ…っ!
一回一回の抽送が肉へと叩きつけるようになった頃には既に脳裏は真っ白に染まり始めていた。視界の端では白いモノがちかちかと光り、ぞくぞくとした感覚が背筋を這い上がろうとしている。股間では開放の時を今か今かと待ち続ける白い精子が暴れ周り、より奥へと精液を送り出そうとする肉棒は一回り大きくなった。
「あぁぁっ♪出そう…?出そうなのね…っ♪」
嬌声の中、虚ろに叫ぶカルナの声に頷きながら、俺は必死に、目の前のメスを孕ませたいという本能を捻じ伏せ、腰を引きずりだそうとした。同意の上であるとは言え、子作りまで合意していない。このままでは膣内に出してして、孕ませてしまったら問題だし、当然のエチケットだろう。けれど、それはしっかりと俺の腰を咥え込んだカルナの細い脚に阻まれてしまった。
「ちょ…お前…っ!こんな時に…っ」
「げ、現場検証だからっ♪膣内にぃっ♪」
嬌声に塗れながらもカルナはしっかりとそう言い放ち、俺の腰を捕まえる足をがっちりとロックした。唯一の逃げ場を封じられて、抽送するしか道がなくなった俺は、ふつふつと湧き上がる本能と射精への欲求についに塗りつぶされ、目の前のメスを貪り、孕ませることしか考えられなくなっていく。
「それに…っ♪私…ふぇいにぃならぁ…ふぇいになら良いからぁああっ♪」
その本能の流れに抵抗しようとしていた最後の理性も、カルナのこの言葉で吹き飛ばされてしまった。逃がさないようにがっちりと腕を掴み、腰を打ち付ける。その度に、ぎゅっぎゅと搾るように律動する膣に腰が砕けそうになるが、それよりも強い本能のまま、俺はピストン運動し続けた。
「あぁあああっ♪もう…ふぇいっ私もうぅ…っ」
切羽詰ったカルナの声と、そしてぎゅっと押し付けられた胸と共に、今までに無い締め付けが俺のムスコを襲った。今までも密着し、突起でとても気持ちよかったものの、膣でムスコが潰されるのではないかと言うほどの圧力がかけられ、つぶつぶの突起もぞりぞりの突起も、一部の隙もないほどに密着する。そのごりごりとぞりぞりの間でサンドされた俺は、最後の我慢ごと押し流され、カルナの膣奥で精液を放った。
「ああああああああああっ♪」
「くぅうううっ…っ」
嬌声を上げて叫ぶカルナとは裏腹に俺は必死に歯を食いしばっていた。射精を受けただけでは満足できず、もっともっとと強請るように律動する膣からの快感は下手をすれば意識ごと持っていかれそうだ、と感じるほどなのだ。それに耐える為、食いしばる歯の根の間から、唾液がどろどろと零れて、メスの悦楽に震えるカルナの肢体に落ちていくが、構っている余裕も無い。
「あぁぁ…♪…ふぁぁあああ…♪」
そしてその膣の律動は、カルナの絶頂が終わり、満足そうに息を吐くまで続いた。…その時間は一分ほどだったのだろうか。実際、膣の中で意識が吹っ飛びそうな快楽と戦い続けていた俺にとってはとても長い…十分ほどの長さにさえ感じた。
「…ん…ぁあ…まだ元気ぃ…♪」
まだ絶頂の余韻が引いていないようで、強い熱を顔に浮かばせながら、とろんと蕩けた目で俺を見上げるカルナがそう言った。…その言葉通り、彼女の膣の中ではまだ俺のムスコは元気に力を漲らせ、次の射精を今か今かと待ちわびている。…自分でも節操がないとは思うが、もう若くないとは言え、まだまだ年老いてもいない男が数週間のオナ禁をしていたのだ。抜かずにもう一発ほどやっても罰は当たらないだろう。
―とは言え…当分動けそうにないんだけれどな。
絶頂の余韻はカルナだけでなく、俺にも引いていた。射精のお陰で、頭の奥はすっきりして、今すぐに本能に負けてしまう事のない…と言うのも勿論あるが、それよりも大きいのはあまりにも強い快感に震えて、少しの間力が入らないであろう俺の腰だ。第三者から見ればかなり情けない姿だが、意識が吹き飛ばされそうなほどの快感によく耐えた、と個人的には褒めてやりたい。
―まぁ、動けないなりに楽しみ方は沢山ある。
俺ははぁはぁと震えるカルナの頬に手を当て、慈しみの感情を込めて、そっと汗が滲む額にキスを落とした。それを受け入れるように目を閉じながら、カルナは何も言わず、俺の背に手を回す。…俺はその手に導かれるように、何度も何度もカルナの首筋にキスを落とし続けた。
「…ん…ふ…ぁ…♪」
そのままお互い何も言わずに数分ほど経った後、カルナはゆっくりと目を開けた。その目は理性の光が宿っていて、さっきまでの交わりに惚けていたそれとは違う。…けれど、まだ理性だけ、と言う訳ではないのか、何処か舌足らずな口を開いて、甘く吐息を吐いていた。
「…大丈夫か?」
「大丈夫よ。…それより…私の『初めて』…どうだった?」
―無論、カルナの処女はこの前、俺が奪っている。
けれど、カルナにその記憶は無い。つまり、今回のこれが、彼女にとっての『初体験』なのだ。例え肉体的には違っても、精神的には『初めて』である交わりの感想を求めるのは、やはりそれだけ何かしらの負い目がある所為なのかもしれない。
―その理由までは分からない…けれど。
それでも、今、彼女が感じているかもしれない不安のようなものだけでも、吹き飛ばしてやろうと、俺は口を開いた。
「…最高だったよ。今までのどんな相手よりもずっと」
それは嘘偽り一つ混じっていない純粋な俺の気持ちだった。泥酔したカルナと一緒にした時よりもさらに興奮し、燃え上がった交わりは、俺の人生の中で間違いなく最高だと言って良い。…と言うか、腰が砕けて、意識が吹っ飛びそうな交わりが一番でないはずがない。これ以上の快楽なんて、ショック死するしか無いのでは、と思うほどの交わりだったのだから。
「そう…♪」
そして、俺の言葉に嬉しそうにカルナは目を細めながら微笑んだ。その微笑みはとても幸せそうで、見ているこっちも幸せな気分になれる反面、背中が何処かむず痒い。それは自分の言った台詞の気恥ずかしさの所為か、それともストレートに喜びを表現してくれているカルナの表情があまりにも眩しいからか…今の俺には判別がつかなかった。
「そ、それよりそっちはどうなんだよ…?」
「え…?」
「そっちは良かったのか…?」
何となく悔しいのでそう返してやると、彼女の顔が再び真っ赤に染まった。そのままぱくぱくと口だけを開け閉めしたかと思うと…きっと眉を吊り上げて、俺の頬を抓ってくる。
「いっいひゃい…っ!」
「そういうデリカシーの無い事言うから女心が分からないって言うのよ…っ!」
本気で怒っている訳では無いだろうか、彼女の指には結構な力が込められているように感じる。情事の後でいつもより恥ずかしがっている所為なのかもしれないが…女心の分からない俺には正確な理由までは掴めなかった。
「まったく…本当、鈍感なんだから」
呆れたように目を瞑るカルナの言葉に、またふつふつと悪戯心が沸きあがってくる。別に怒っている訳ではないのだが、やっぱり、やられっぱなしは性に合わないのだ。出来れば手痛い反撃の一つでもしてやりたい…と辺りを見渡すと、脱ぎ捨てられた俺のズボンと…ベルトに着けてある皮袋が目に入る。
―そういえば…カルナから好きって一言も聞いていないな。
そりゃ、まぁ、ここまでヤった訳だから、嫌われていないとは思う。少し自信過剰かもしれないが、好かれているのかも知れない…と言う気持ちもある。…けれど、それでも、カルナの口から直接一度も「俺の事が好き」と言う言葉を聞けていないのだ。
―これはやはり聞かなきゃいけないだろう。
悪戯心半分、そして好きという言葉が欲しいという純粋な欲求が半分混ざり合いながら、俺は口を開く。
「鈍感ついでに聞きたいんだが…結局カルナは俺のことが好きなのか?」
「そ、それを今、聞く訳…!?」
案の定、再び顔を赤くしながら俺を見上げるカルナの視線は、ちょっとした怒気が篭っていた。…当然だろう。ここまでヤって膣内出しまで許して、好意を疑われるというのは、逆説的にそれだけ軽い女と見られているという事だ。怒るのも無理は無い。けれど、俺にとっても、好きと言ってもらえないのは凄い死活問題なのだ。やはりどうしても確信…というか、証拠のようなものがしっかりと欲しい。
「俺は好きってちゃんと言ったぞ」
「そ、そりゃそうだけど…」
視線を逸らすカルナの目にはさっきほどの怒気がなくなっていた。俺の言わんとしない事が分からないでもないのだろう。泳ぐ視線はさ迷い、答えを探すようにうろついている。さっきカルナから感じた後ろめたい気持ちの正体は、意外とこんなところから来ているのかもしれない…と唐突にそんな事を思った。
「…言ってくれないのか?」
「…いや、その…」
追撃するも、気まずそうに視線をさ迷わせるだけだ。もじもじと指先を回し、顔を赤くして、明後日の方向を見る姿は何処か可愛らしいものだが、今の俺にとっては、若干の落胆を感じさせるものでしかない。
―ならば、最終手段をとるしかないようだな…っ!
そう心に決めて俺はそっとベルトに手を伸ばした。今もしっかりと首は固定具で固定されているし、本気で暴れられたら俺に勝ち目はないので、首を外す事は出来ない。…しかし、カルナに何かすることはできなくても、俺自身に何かする事は十二分に可能なはずだ。
―そして俺にはハンスから譲ってもらった虜の果実がある…っ!
無論、ハンスが嘘を吐いているという疑念はまだ晴れてはいない。そんな都合の良い食べ物が、本当にこの世に存在するのかと言う疑問はまだ解決もしていない。しかし、今の俺が頼れるのはその良く分からない食べ物しかないのだ。
―確かこの辺りに…あぁ、あった。
皮袋から取り出したそれは始めてみた時と同じように瑞々しい。相変わらず形も歪でハート型に近いそれをじっくり見つめると、果実独特の甘い香りがここまで漂ってくるような気さえする。…魔界の土壌で育てられた、と言うし、やはり人が食べやすいように良い匂いをさせるものなのだろう。他に魔界で育てられた果実と同じならば、その味もまた今まで味わったことの無い芳醇な甘さのはずだが…それでも俺には踏ん切りがまだつかなかった。
「あれ…?それ虜の果実じゃない。そんなものをどうして…」
不思議そうに首を傾げるカルナを見下ろしながら、俺は大きく息を吐いた。そして息を吸い込むのと同時に、決心して皮ごと果実に喰いつく…っ!
―それは予想通り甘かった。
食いついた箇所からはどろりとした白濁色の果汁が溢れ、口の中一杯に甘い香りが広がる。次いで広がるのは香りに負けないほどの果実独特の甘さだ。…しかし、負けないと言ってもそれらは決してしつこくない。甘さが広がったかと思うと、今度は匂いが、匂いが引くと、今度は甘さが…と波状攻撃を仕掛けるように、どちらともを立てる感覚は、ぷるぷるとした感触で惜しげもなく与えてくれる乳白色の果肉と相まって人を夢中にさせるのには十分過ぎる。事実、俺は一口でその果実に夢中となって、一口、また一口と齧るが、決して飽きる事はない。
―そして、食べ終わった頃には、完全に虜になっていた。
今すぐ食べたい…!と思うほどの強い中毒性こそないが、露店を見かければ思わず買いこんでしまいそうになるほど、それは美味かったのだ。ハンスが俺に渡すのを渋ったのも、今ならば分かる。あまりにも美味し過ぎて一度、食べてしまえば虜になってしまうことと…もう一つ。食べたことのあるハンスにとってコレを他人に譲るのは結構な決断力の要ることだったに違いない。それに心の中で感謝をしながら、俺は自分の身体を見回した。
―…特に何か変化は無い…よな?
ハンスはフェロモンが出る…だとか言っていたが特に変わっているようには思えない。確かに萎えかけていた股間のムスコはまだびきびきと力を取り戻し始めている自覚はあるが、強い媚薬効果と言われる魔界の植物特有のものだろう。身体から何か湧き出るような光景を漠然と想像していただけに肩透かしを食らったような気分になってしまう。…まぁ、美味い事は美味かったが、担がれただけなのかもしれない…というかきっとそうなのだろう。そんな都合の良い果実なんてあるわけは無いのだから。
―そんな風に肩を落としてため息をつこうとした俺の視界は一気に反転した。
―え…?
疑問に思う暇もなく、揺れた俺の視界はいつの間にかカルナを『見上げて』いる。白いシーツが見えていたはずのカルナの背には天井が見え、俺の背中を引っ張るように重力がかかっているのだから、見上げている…以外の表現のしようがない。
―え?なんでこんな事に…!?
混乱する俺の視界一杯に広がるカルナは少し、首に角度をつけているのでその表情までは見えない。しかし、肌を赤く染めながら、ハァハァと荒く息を吐く姿からはとても冷静には見えないのだ。…そして、そんな姿をしている…と言う事は上下逆転した今の状況はカルナの手によるもの…というのが最有力となる。
―でも、どうしてそんな事を…?
そんな風に内心、首を傾げる俺を見下ろすカルナはゆっくりと顔を上げた。…そこにはさっき取り戻した理性的なものは一切無く、発情期のメス犬という表現が一番、近い。無論、そんなカルナの顔を情事の最中だって見たことの無い俺は、驚いた。…そして、そんな俺の驚きに構わず、カルナは俺の上で腰を前後に振るい始める。前に進むときは粒粒とした部分に全体を弄られ、後ろに引けば肉の突起が裏筋を舐め上げる感覚が俺を襲った。
「はぁああっ♪ふぇいいいぃっ♪」
―ま、まさかこれが虜の果実の効果なのか…!?
舌を突き出して舌足らずの声を惜しげもなく放つカルナの様子を見て、ようやく状況を理解した俺は予想以上の効き目に思考を停止させてしまう。だって、そうだろう?半信半疑の果実の効果が現実で、しかも、さっきまで俺に呆れていた女が、惜しげもなく肢体を晒して俺の上で腰を振るほどなんだから。誰だって、信じられず、思考を止めてしまうに違いない。
―けれど、その一瞬が俺にとっての命取りだった。
その呆然としている間に、しっかりと俺の脚を挟み込み、完全に逃げられないような体勢をカルナが作り出す。まるでベッドの上に縛り付けられているようだと錯覚するほど、がっちりとした拘束は見事だ。肩もカルナの両手でベッドに縫い付けるように押し付けられていて、俺に身じろぎ一つ許す隙さえも与えない。
「うふふ…♪ふぇぇいぃ…♪」
蕩けた表情で俺の名前を呼びながら、腰を前後に揺するカルナはさながらマタタビに溺れたネコだ。しかし、泥酔しているかのように、濡れた目を輝かせ、顔を真っ赤にしている姿は人そのものである。普段、理知的であるはずのカルナが、まるで本能に溺れているかのようなそれは強いギャップを生みだし、とても淫靡だ。
「ね…ぇ…♪私ぃ気持ち良い…?」
媚びるようなその声は普段のカルナとも、最中のカルナとも程遠いものだ。彼女自身には到底結びつかないほど、淫靡なそれは、カルナに化けた化け猫が発情して出した声…と言った方がまだ現実味がありそうに感じる。
―だけど、そりゃ現実逃避だな。
目の前に居るのは間違いなくカルナで、虜の果実の効果とは言え、これは彼女の一面なのだ。本人が意図していないにしても、そこを見間違えば、きっと取り返しのつかないことになってしまう。…だからこそ、俺は自分の取った行動の責任として、今の彼女を受け入れなければいけない。
「ねぇ…応えてぇ…♪ぐちょぐちょのぉ…メスオマンコ気持ち良いぃ…?」
―けれど、そんな覚悟も、カルナの口から飛び出してきたその言葉に吹き飛ばされてしまった。
目の前にいるのが偽者では無いとちゃんと理解している。その口がカルナの口であることも、その言葉がカルナの言葉であることもしっかりと分かっているつもりだ。…けれど、その内容は、普段の彼女とはかけ離れ過ぎている。普段の、ちょっと生真面目で、自分にも他人にも厳しくて、口うるさい所はあるけれど、基本的には優しいカルナから娼婦だって言わないような淫語が飛び出してきただなんて誰が信じられるだろう。
―けれど、俺の理性とは裏腹に、俺の身体はしっかりとそれに反応する。
ぴくんっとまた一つ震えながら俺のムスコはさらに一回り大きくなったのが俺自身にも分かった。そして、彼女の言うとおりぐちょぐちょで突起と粒粒が荒れ狂う膣でそれを感じたのであろうカルナは「あはぁ…♪」と媚びるような息を吐いて、嬉しそうに笑った。
「やっぱりふぇいもぉ…いやらしい言葉が好きなのね…っ♪」
どんなに熟練した娼婦でもここまで淫靡な笑みを浮かべられるのはそうはいない…そう思うほど、劣情と歓喜に塗れた笑顔を見せながら、カルナは俺の肩から両手を離し、自分の胸に触った。そして、そのまま見せ付けるように、俺の目の前で、乳房を揉み始める。細い指がまるで別々のイキモノのように、乳房を這う姿は、まるで陵辱されているようにさえ見える。…けれど、親指の爪が乳首に触れる度に、嬌声をあげる事からも分かるように、間違いなくカルナは悦んでいた。
「私もねぇ…♪こうやっておなにぃする時に…っ♪ふぇいの事を思いながらおなにぃする時にはぁ…っ♪いっぱいえっちな言葉言うんだよぉ…っ♪」
―まるで母乳を搾るように指を食い込ませて
「この指全部ぅ…♪ふぇいの指だと思ってぇ…♪乳首ぐりぐりして悦んじゃんじゃってぇ…♪」
―人差し指と中指の間でしっかりと挟み込んで、押しつぶすように圧力をかけ
「たくさぁん…お乳搾られるの妄想してぇ…♪発情したメスのお乳飲んでくださぁい…って言いながらぁ♪オマンコきゅっきゅしながらぁイッちゃうのぉ♪」
―ぐりぐりとそれを指の間で転がしながら、膣はさらに密着し、肉茎を撫で上げてくる。
それは何より淫靡な告白で、何より淫靡な光景だった。普通であれば誰にだって言いたくは無い自慰の内容を口走りながら、それを目の前で実演する…そんな光景に、俺は一目で目も思考も奪われてしまう。その光景から目を離そうと考える余裕も起こらず、じぃと目を惹きつけられ続けていた。
「他にもぉ…♪クリトリスいじってぇ…皮も剥いて…っ♪爪でちょっと痛いくらいぐりぐりしながらぁ…一杯イかされちゃう妄想してぇ…♪一人で弄ってるのにメスチンポ弄るの許してくださいぃ…とかぁ♪」
腰の動きを一旦、止めて、彼女は実演する為に、両手を下腹部に置き、薄い茂みを押さえつけ、今も俺を咥え込んでいる下の唇を広げた。目の前でひくひくと震える突起は既に皮から飛び出て、自己主張をしている。それを両手の人差し指同士で左右から圧力をかけ、ぐりぐりと揺れるたびに、膣の中も震えて、ぎゅっと抱きついてきた。それにまた反応した肉棒が、より快楽を貪ろうと子宮口を擦りあげる。
「きゃふぅ…っ♪ふぇいのオチンポ…不満なのね…♪もっと気持ちよくなりたいのねぇ♪」
言って、蕩けた表情のままカルナは両手を俺の腹筋に置いて、ゆっくりと腰を引き上げていく。今の今まで逢瀬を楽しんでいた膣が、奪われまいと引き込もうとするが、それはムスコを悦ばせるだけで、あまり意味を成さない。そして亀頭の一部が覗くほど、腰を引き上げた彼女は、そこでぴたりと腰を止めた。
「私も…大好きなフェイと気持ち良くなりたいからぁ…手加減…しないわぁっ♪」
―宣言すると同時に降りてきた肉の檻は今まで以上にしっかりと俺のムスコを捕らえた。
今までがまるでお遊びだったかのように、突起も粒粒も肉棒へと襲い掛かる。撫で上げ、吸い込んでいくようだった突起は一本一本が絡み付いてきて、中々離そうとしない。上の粒粒も興奮の所為か、心なしか大きくなっているようで、より激しく亀頭と擦れあって独特の快感を生み出す。既に一発射精しているので、今すぐ絶頂に追い込まれるほどではないが、それでも、気を抜けば快楽に押し流されてしまいそうだ。
「あはぁぁ♪気持ち良い…っ♪ふぇいのオスチンポ気持ち良いのぉっ♪」
そんな風に抵抗する俺とは違い、カルナは既に快楽に押し流されてしまったようだった。突き出した舌からは唾液が漏れ出て、顎のほうへと伝っている。何処を見ているのか焦点の会わない瞳には意思のようなものも見えず、ただ貪欲に俺を貪ろうとするメスの本能だけは見え隠れしていた。
「ぐりぐりってぇ♪子宮のお口擦られるとびりびりするのっ♪亀頭のカサでぇ…っ♪膣の中、穿られるのも良いぃっ♪」
どんな風に感じているかを叫びながら、カルナはゆっくりとその身体を倒してきた。前屈気味になりながらも、腰だけは激しく振るい、ぐぽんと空気の抜けた音が耳に届くのが、興奮をまた高めていく。部屋中に広がるオスとメスの交わりの匂いを上書きするほど濃厚に広がるフェロモンも広がり、思考がどんどんと霞がかったかのように薄れていくのが分かった。
「ふわぁぁ♪また大きくなったぁ♪」
嬉しそうに嬌声をあげるカルナの言うとおり、俺のムスコは際限なく膨れ上がっていくのではないかと錯覚を覚えるほど、カサを大きく広げて快楽と彼女を貪っていた。頭から、根元までしっかりとカルナに包み込まれているので見る事はできないが、そこから湧き上がる感覚は痛みを感じてもおかしくないほど、突っ張っている。けれど、痛みを感じる事は無く、より広い面積で絡みついてくる膣を意識してしまうのだ。
そして、それはカルナも同じらしい。大きくなった男根をより貪ろうとぎゅっぎゅと強く締め付け、精液を強請るように絡みつく。そしてその動きはどんどんと激しさを増し、それにあわせてカルナの身体も痙攣をし始めた。
「やぁあああ♪ふぇいの精液欲しくてきゅんきゅん唸ってる子宮がっ♪下がってぇ♪こつんこつんってえええっ♪」
既に言葉も論理的なものからはかけ離れてきたカルナは、叫ぶようにそう言った。同時に腰の動きは上下へと叩きつけるものではなく、より快感を貪ろうと膣を抉るように円を描きながら、螺旋状に降りていくものになる。突起と粒粒にシェイクされ、より激しい悦楽を覚えたムスコはぱちゅんと肉と肉がぶつかる音をさせる度に子宮口と強く擦り合わされていた。その度に粒と突起で押し付けるように子宮への精液を強請る膣は強く締め付けてきてくる。
「駄目ぇ♪子宮っもう敏感でぇっ♪子宮限界ぃ♪イッちゃうっううう♪」
叫びながら抱きついてくるカルナが俺の肩を掴み、引っかかれるように立てられた指で皮を抉り取っていく。けれど、それに痛みを感じる余裕は俺にはない。四方八方からぎゅるぎゅると、まるで蟻地獄へと引きずり込んでいくかのような膣の動きに翻弄されていたからだ。無理矢理射精させられるようなそれは本能的に恐怖を感じさせ、俺は必死に絶頂を堪えようとし、身体を丸める。…自然、目の前には唇を突き出したアへ顔を晒すカルナがぐっと近くなり、より興奮を掻き立てられてしまった。
「いっ…ひゅ…♪」
高く絶頂し、体中を痙攣させ、涎を俺の身体に垂らすほど情けなくて…何より淫らな顔を俺に見せつけるカルナの腰は、それでも尚、止まらなかった。既に悦楽を極めているはずなのに、精液が子宮に貰えないのが不満なのか、こつんこつんと子宮口へ押し当てるように小刻みに振り続けている。快感に蕩けきって既に意識も飛ばしている顔を、これだけ間近で見せ付けているのに、まだ貪ろうとするメスの本能に、また強い興奮を覚えるのだ。
「ひゃあああ…っ♪ふぇいいぃ…♪ふぇい…ぃっ♪」
震える舌で必死に俺の名前を呼ぶカルナの姿に、ついに理性は完全に焼き切れた。より強く目の前のメスを貪ろうとする本能に完全に支配された俺の手は自然とカルナの胸に伸び、それを思いっきり掴む。さっき目の前で実演してくれた胸の弄り方を見る限り多少、強めの方がいいだろうと、力を込めた俺の指は弾こうとする弾力に負けず、胸に食い込んでいった。
「んあああっ♪胸っ胸ぇええっ♪」
そして、俺の思惑通り、カルナはそんな乱暴な揉み方でも十二分に快感として受け取っているようだった。だらしなく広げた肢体をふるふるといやらしく振るいながらも、嬌声をあげている。膣の中でもどろりとした熱い粘液が溢れ、膣全体が熱に浮かされたように、より熱く蕩けていくのが分かった。その熱はどんどんと高まっていき、またきゅっきゅと膣が激しく痙攣しだす。…おそらくはまた絶頂しているのだろう。落ち着く暇も無くこれだけ責められているのだから当然だ。
「胸やらぁああっ♪かんひっかんじすぎりゅのぉぉっ♪」
言いながら身を捩るカルナの動きは、未だに小刻みに上下する腰とは違って、とても緩慢だ。絶頂の余韻もまだ強く残る中でまた上り詰めているのだから、逃げる力も殆ど無いのだろう。それとも、口ではそう言いながら、本当はもっと激しいのを求めているのかもしれない。…そう思った俺はぎゅっと潰れるくらい強く、カルナの乳首を摘みあげた。
「ひゃああああああっ♪乳首摘んじゃぁイきゅっ♪またイきゅのぉお♪」
爪の先でしっかりと押さえ込み、くりくりと捻りながら引き上げると、それだけでカルナは悲鳴のような大声をあげて痙攣させた。同時に膣の中ではまた溢れんばかりの熱い粘液が溢れ、結合部からどろどろとした白濁液が漏れ出ているのが見える。ついさっき奥に注ぎ込んだ精液も混じっているのだろうが、その大部分は恐らく、本気汁なのだろう。膣を締め付け、何度も絶頂を極めているカルナの子宮から零れ落ちるのをムスコで直に感じる俺には、それが的外れな予想とはあまり思えなかった。
「いっ…あぁふぁぁああああっ♪」
悲鳴のような声をあげながら、それでもカルナは腰の動きを止めない。寧ろよりもっと激しく腰を奥まで突きこみ、子宮をぶつけるようにして悦楽を貪ろうとしている。無論、それは俺にとっても気持ち良い。上下左右、何処からも絡み付いてくる膣の中は、普通であれば今すぐにでも絶頂してもおかしくない…と思う。けれど、俺の身体と心はどこかズレてしまって、射精のタイミングが掴めないのか、絶頂する予兆すら見せない。
「いあああっ♪なんれぇぇ…っ♪なんれイってくれにゃ…っ♪」
涎で俺の胸の上に水溜りを作っているカルナの問いには答えることができない。何故なら俺自身だって詳しく分かっているわけではないのだ。こんなに気持ち良いのに射精できないなんて遅漏の疑いだってある…と思うが、さっきは普通にイけたし、しっかりと快感も感じている。その辺りから、一番しっくり来るのがその答えと言うだけで正解だ、なんて自分でも思っていないのだ。
「しぇいえき…なんで…っ♪はらま…はらみゃせてほしいのにぃぃっ♪」
―またそんないやらしい言葉言いやがって…っ!
支配欲をぐりぐりと刺激され燃え上がった本能は摘み、陵辱していた胸から手を放し、カルナの形の良い桃尻をしっかりと掴んだ。そのまま、腰を引き落とさせて、亀頭とぶつかった子宮はさらに震え、悦楽だけを飲み込みながら、また彼女を強い絶頂へと導こうとするのが分かる。けれど、俺はそれに構わず、今度は腰を上げるように力を込めて、子宮を突き放そうとする。…そして離れたところで再び、腰を落とさせるのだ。それは、さっきまでとはまったく違うオスの身勝手な抽送だ。しかし、それでも俺のメスはその激しさが良いのか、嬌声をあげて快楽をアピールしている。
「ふあああっ♪はげしっ♪はらませりゅのっはげしいいっ♪」
俺の胸の上でぴくぴくと震えながら舌足らずな声をあげる顔もまた、これが快感であると言う証左だろう。好きな女が俺のオスで蕩け、何度も絶頂を極めている…という証拠でもあるその姿に、俺の支配欲は強い満足を覚えた。と同時に、新しく湧き上がるその支配欲は、カルナの顔も全て征服しようと左手でカルナの顔を抱き寄せさせる。
「あ…っ♪」
そうして近づいたカルナの唇に俺は貪りついた。上と下、両方の口を塞ぎ、口の中一杯に広がる唾液を思うままに貪る俺は、すぐに夢中になって、カルナと舌を絡み合わせる。下の口のいやらしさに決して負けないように、激しく、いやらしく、愛しさと情欲をたっぷり掻き立てるように。
そして、そうなると俺の五感は完全にカルナで一杯となる。俺の眼は視界一杯に広がるカルナしか映さず、俺の舌はカルナの甘い唾液しか感じず、俺の肌は触れ合うカルナからの快感しか受け取らず、俺の鼻はカルナの甘いフェロモンだけを嗅ぎ分け、そして俺の耳にはカルナの嬌声と、肉と肉がぶつかり合う独特の音しか入ってこない。まるで全身をカルナに包まれたような錯覚が生まれた瞬間、いきなり俺の付け根で熱が膨れ上がった。
―な…んだこれ…!?
それは射精の予兆であるというのは分かった。射精する前のどくどくの寒気が背筋を這い上がり、本能的により奥へ奥へと進もうとする動きが激しくなっていき、ムスコもカサを広げて、奥で射精する準備を始めたのだから。けれど、その規模は明らかにおかしかった。そこだけがまるで火でも灯ったのかと、錯覚するような熱はどんどんと俺の肉棒を駆け上がり、子宮へと進んでいき…同時に、俺の身体に今までに無いほどの快感が襲う。
「ひゃああああああああああああああっ♪」
叫ぶカルナの腰を逃がさないようにしっかりと捕らえながら、俺は何度も続く射精の波に堪えようと、歯を食いしばっていた。しかし、今までのツケを全部払わそうとするかのような射精は、一度や二度では決して収まらない。一度目が終われば次が、その次が終わればまた次に…と精液を全部流し込もうとするかのように絶頂が何度も何度も続く。まるで女のイきっぱなしの状態のように絶頂が止まらないほどの快感に恐怖すら感じながら俺は薄れそうになる意識を必死で繋ぎ続けていた。
「…ふぁぁ……んは…ぁ…♪」
そして…どれくらい経った頃だろう。意識が吹っ飛んでいたのか気がつくと、俺の上ではカルナが倒れこんで、甘い吐息を吐きながら、時折、膣をぴくりと痙攣させていた。お互いの肌に浮かぶ汗と汗が擦れ合い、独特の鬱陶しさと…何処か艶かしい感覚を感じながら俺は力の入らない手を必死に動かして、カルナの背を抱きしめる。…同時にべとべととした汗の感覚が、またじわりと広がるが、心地良い倦怠感もあってか、それほど不快ではない。
「ん…っ♪」
それはカルナも同じなのだろうか。抱きしめた腕に甘えるような声を漏らして、身動き一つしようとはしなかった。勿論、身体に殆ど力が入らないから…というのも理由の一つなのだろうが、ようやく吐き出された精液をじっくりと味わうように、目を閉じて身を委ねている彼女が汗の感覚を今更、嫌うとも思えない。
「…うふふ…♪すっごい…出たわねぇ…♪」
―こんな嬉しそうな表情もしてることだしな。
言いながら、ゆっくりと目を開けるカルナの表情は交わりに満足しきったメスのようだ。いや、オスに身を委ね、甘えた表情を浮かべながら時折、膣を締め付ける姿はまさにその通りなのだろう。
―そしてきっと俺も、目の前のメスとの交わりに満足している表情を浮かべているはずだ。
これだけ激しい交わりだったのだ。満足しないはずはない。精も根も尽き果ててて、もう出せるものは何も無い……はずだった。
「でもぉ…ここはこぉんなにまだ元気ねぇ…♪」
言いながらきゅっと締め付けられた『そこ』は確かにまだびきびきと青筋を浮かべて反り返っている。意識が吹っ飛んだのか、そうでないのかさえ定かでは無い射精をあれほど味わったというのに、まだまだ、と快感を欲しがるようにカルナの膣に包まれながら震え続けていた。
―でも、とりあえず今は休ませてくれ…。
そう言葉を放つ前に、カルナは意味ありげな笑みを唇に浮かべながら、その腰を大きく振るった。最初はじっくりと味わうようなその動きは加速度的に早くなり、あっという間に部屋中に肉同士の弾け飛ぶ音が広がり始める。
「あはぁぁぁ♪素敵…っ♪」
肉体的にはともかく精神的には休養を必要としている俺とは裏腹に、カルナはまた激しく悦楽を貪り始める。それを静止しようと口を開いた俺は、言葉を放つ隙も無く、口中を彼女の唾液で一杯にされた。…まるで、俺の静止の言葉を聞きたくないとするその仕草に…ついさっきハンスが酒場で言っていた言葉を思い出す。
―確かあいつは…デュラハンも押さえ込まれているだけで本質は一緒だって…。
それが虜の果実で引き出されたのが、今の姿なのだろう。…そう思うと、ハンスがこの果実を渡すのに迷った理由が何となく推察できた。…無論、ハンスにとって、これが美味しいものであり、渡したがらないというのも、渡したら同じように夢中になるのでは、と懸念していたのもそう的外れではないのだろう。…けれど、多分、一番の理由は…。
―精液を全部搾られきって、腎虚で死ぬ事を心配していたのでは無いだろうか。
無論、魔界の魔力をたっぷり吸った果実はその実いっぱいに強壮効果を溜め込んで、あれほどの射精を繰り返したのに、萎える気配はない。…けれど、目の前でまだまだと無限とも思える貪欲さを見せるメスの前には何時か枯渇してしまうだろう。…その時、俺がどうなるのか、考えるのも恐ろしい。
「もっとぉ…っ♪もっとぉぉぉっ♪大好き…っ♪大好きなふぇいにはらませてほしいののぉぉっ♪」
唇から舌を離し、まるで免罪符のように好きと叫びながら一心不乱に俺を貪るカルナの姿を見ながら、俺は長い長い快楽の坩堝へと落ちていった…。
〜おまけ〜
―流石にちょっとやりすぎたかもしれない…。
そう思うのはやはり私の下で気絶したフェイの姿を見下ろしているからなのだろう。フェイが虜の果実を食べてから…十何回ほどの射精でついに彼が力尽き、意識を完全に飛ばしてしまったのだ。主が気を失っても、身体はまだまだ元気で、勃起した男根が私を貫いているが、流石に眠っている状態でまで精を搾るほど理性を失ってはいない。
―それにしても虜の果実にあんな効果があるだなんて…。
同じ部隊の先輩たちは、「仲直りには虜の果実を食べさせるのが一番よ」と良く言っていたが、今ではその理由が良く分かる。…最初はいきなり何をしているのかと呆然としているだけだったものの、いきなり子宮がきゅんきゅん疼いて、フェイの精液が欲しくてたまらなくなってしまった。彼の身体からぷんぷんと匂うオス臭い香りにも思考が支配され…精液を強請る為に沢山、エッチなことも言った気がする…。さらには彼の気を惹こうと好きだ大好きだなんて数え切れないくらい…口走った。
―あぁああああっ!次はどんな顔をしてフェイに会えばいいのよ…っ!!!
完全に虜の果実の所為にするか、それとも自分の気持ちであると認めるのか…どっちにしても茨の道にしか思えない私は心の中でこっそりと頭を抱えた。
―…それもこれも全部、この男の所為。
私をこんなにも悩ませる男は私の苦悩なんてまったく知らず、すやすやと寝息を立てている。その姿は普段、私にちょっかいをかけてくる悪ガキのような男とは到底思えない。普段からくだらない冗談や、下ネタばかり言って、私の気を惹こうとする子供なのに、私が悩んだり、辛い時には誰よりも一番早く気づいてその悩みを聞いてくれる聡い男だとは思えないのだ。
―…それなのに、変な所で鈍感なんだから。
自称私が初恋の男はどうにも女心にだけは鈍く、私を何時もやきもきさせる。私が隣にいるのに、声をかけてきた魔物娘にデレデレするだなんて、どうかしているとさえ思うのだ。
―すぐ隣には何時だって、告白してくれるのを待っている女がいるのに。
まぁ…自分でもちょっぴり素直ではないと思うけれど、『あの時』だってようやく結ばれた事と責任を取るって言葉が嬉しくてつい泣きだした顔見られたくなくて、また寝起きに夢だと思って甘えまくっている姿を見られたのが気恥ずかし過ぎて、思わず追い出したけれど…それでも、今にも襲い掛かりそうな本能を必死に抑えて告白してくれるのを律儀に待っていたのに。
「…はぁ…」
思わず口から出たため息は自分でも思ったほど…形式めいたものだった。…実際、そんな関係を私はそれほど嫌っていない。仲の良い同僚でよくじゃれあう相手…というのは、やはり物足りない関係ではあるものの、私と彼の一番良い立ち位置だったのだろう。…それは何となく私にも理解できる。だからこそ、私は今の関係を壊すのが怖くて、結局、自分から告白できなかったのだから。
―…でも、その関係はもう変わってしまう。
良くも悪くも私たちは一歩前に進んだ。ちょっとしたすれ違いを乗り越えて、色んな人やものの助けを借りて関係が変わった。…それはもう止めることはできない。
―それなら…仲の良い夫婦で良くじゃれあう相手になれば良いのよね。
ずっと怖くて、フェイが自殺騒ぎを起こしたと聞いた時に落ち込んだ私を慰めてくれたリリィ先輩のように。じゃれ合い、慈しみ、愛し合い、尊敬しあう関係になれば良い。…それはきっと、同僚…と言う関係よりは素敵なものになるだろう。そんな予感がはっきりと私にはあった。
「うぅん……」
そんな私の下で苦しそうにフェイが…私の恋人が呻いた。悪夢でも見ているのか身を捩ろうとしながら、うっすらと目を明けて、虚ろな目で私を見上げる。…瞬間、再び覚醒した主人を喜ぶように、ぴくりと膣の中の男根が震え、べっとりと吸い付いた子宮口が快楽に悦んだ。
―まぁ…でも、その前に…もうちょっとこの『情事』を楽しもう。
「おはようフェイ…♪さぁ…また続きをしましょうねぇ…♪」
微笑む私と対照的に頬を引きつらせる私の未来の旦那様を見下ろしながら…私はさっきの快感を再び味わおうと、理性ごと快楽の坩堝に飛び込んでいった。
言いながらカルナが指を刺したのは見慣れた…訳ではないが、ついこの間、俺たちが朝を迎えた彼女の部屋のテーブルだった。魔界で育つ歪な木から削りだされたそれは意外なほど座り心地は悪くなく、なにより頑丈だ。色は目に優しくない紫色をしているものの、上から染料を塗られているので、それほど気にはならず、こうして家具として部屋に備え付けられている。
―まぁ、それは良いとして…どうすべきかな。
自分がこれからどうすれば穏便に収まるのか。纏まらない考えにヒントが欲しくて周りを見渡すと、そこは以前とはあまり変わっていないように見える。…いや、多分、変わっていないのだろう。俺が自殺騒ぎを起こしてすぐくらいに、この部屋の主も教会との戦いに狩り出されていたのだから。精々、服を片付ける程度で、それ以外のものを弄る余裕なんて無かったに違いない。
「…あんまり女の子の部屋をじろじろ見ない」
「あ、悪い」
そして、そんな部屋の主は、俺の目の前で不機嫌そうに肩肘をつけた上に頭を預けていた。その顔は子供のように膨れている…ように見えなくも無い。さっきまでの怒っていたようなオーラは少し鳴りを潜め、拗ねているような顔に変わっているので、ここまで来る道中に何か良い事でもあったのかと首を傾げるが、特に思いつかなかった。
―だって、会話だって無かったしなぁ…。
話しかけようにも背中でそれを拒絶されているような気がしていたのだから。それでも、その身体を気遣う言葉をかけたが「あぁ」とか「大丈夫」と言った投げやりな言葉しか返って来ず、会話としてまったく成立していなかった。普段ならばそこで「あの日か?」なんて下ネタを振る所だが、今の気まずさではそれは死もネタになりかねない。
―…いや、ちょっと上手い事言ったとか思ってないぞ。まだそこまで歳をくっていない。
「…で、どうして?」
「へ?」
そんな俺の目の前で 少し唇を尖らせてカルナがぽつりと切り出した。…しかし、主語が決定的に抜けているその言葉を俺は理解することが出来ない。理由を聞かれているのは分かるが、心当たりなんて山ほどあって、どれか特定できないのだ。
「…だから、人とえっちした後で自殺しようと思ったのはなんでなのよ」
そんな察しの悪い俺を見かねたのか、今度はきちんと主語をつけて…でも、視線は俺から外して、呟くようにカルナが言った。何処か気まずそうな表情は、責任を感じている所為なのかもしれない。
―当然か。ヤった後、すぐに自殺騒ぎを起こしたわけだしな。
責任感も強いカルナにとっては、自分が原因では無いのか、と自分自身を追い詰めていたの知れない。無論、事実は、俺の自爆に他ならないのだから、カルナに責はまったくないのだが、この女は良くも悪くも厳し過ぎるのだ。他人にも、そして、それ以上に自分にも。
「いや…それは…」
本当はそれを口に出して否定してやりたかった。俺の自爆なのだと、そう言って安心させてやりたかった。けれど、俺の中で、その言葉が纏まって出て来ないで、視線もあさっての方向へと泳いでいく。『好き』と言う感情をまだカルナに伝える覚悟が固まっていない所為か、どうやってそれを隠蔽しながら、事実を伝えるかという方法を算出しようとしていたのだ。しかし、あまり出来の宜しくない俺の頭じゃ、そうそう答えが出るものでもない。
「…やっぱり…私となんか…したくなかった…?」
そんな俺の様子をどんな風に勘違いしたのか、ぽつりとカルナが呟いた。震えながら搾り出したようなその声に驚いて、泳いでいた視線を彼女に向けると何事でもないように取り繕うカルナの目は潤んでいる。また、その目尻には小さな涙粒が浮かんでいて、零れ落ちはしていないものの何らかのショックを受けているのが一目で分かった。
―え?な、なんでそうなるんだよ!?
自分と同じ内容で、カルナもまた悩んでいる事を知って、俺の頭は完全に焼き切れてしまった。ただ、目の前の好きな女をどうやって泣き止ませるかを考えるだけで精一杯で、他の事は全て端のほうへと追いやられ思いつくままの言葉が口から飛び出て行く。
「いや、そうじゃなくてだな。俺としてはすげぇ嬉しかったし、気持ちよかったし、っていうか、お前のことが好きだから後悔するはずはないっていうか」
「……好き?」
―あああああああああっ!何言ってんだ俺ぇえええええ!?
思いもよらない告白に頭を抱えて転がりたい衝動に駆られる俺とは対照的に、片肘をつけた体勢から頭をあげて、驚いたように俺を見つめてくるカルナの表情には僅かに喜びの色が見えるような気がする。…けれど、その意味を俺が深く考えるよりも先に、覚悟も無かった『好き』の言葉をリカバリーしようと、頭は最悪の言葉を選んだ。
「いや、好きって言うのは勿論、仕事の仲間って意味で、そういう意味じゃないって言うか、無論、お前は魅力的な良い女だと思うけど、そういう対象じゃないしっ」
「…そう…なんだ…」
―ぐぁああああああ何やってんだよおおおお!?
今度は今までに無いほど落ち込んだ顔を見せるカルナに自分の言葉の失策を、頭ではなく心で理解して、俺は今度こそ頭を抱えた。自業自得とは言え、どんな言葉が口から出ても、この地獄を悪化させるようにしか思えない。そりゃ頭を抱えたくなるだろう。
―…でも…惚れた女の自責の念くらい…解してやるべきだよな。
どっちへ進んでも地獄への道ならば、苦しむのは俺だけでいい。自業自得な俺とは違い、カルナに自分を責める必要は無いのだから。その所為で…俺とカルナの関係が壊れたとしても、それは俺の責任だ。何より…ここまで来て、覚悟を決められない奴は男じゃない。
「…俺は惚れた女に酔いに任せて襲い掛かって、初めてって奴を無理矢理奪った卑怯者なんだ」
「え…?」
「…だから、死のうとした」
頭を抱えたままの状態で漏れた言葉は、意外なほどすんなり出た。この土壇場でようやく覚悟のようなものが着いた所為だろうか。うじうじと悩んでいた今までが嘘のように、大したことでは無いように思えるのだ。…無論、心臓はどきどき言いっ放しで、今にも破裂しそうだし、これからどんな事を言われるのか、怖くて冷や汗のようなものまで噴出している。…けれど、それでも俺の思考は穏やかで、少し片の荷が下りたような気さえした。
「えーっと…」
そんな俺とは裏腹に、カルナは気まずそうに言葉を濁した。頭を抱えた姿勢のまま、怖くて顔を上げられないが、その表情はきっと困っているものに違いない。その声には怒気のようなものは伝わってこないものの、困惑しているという事は、やはり…俺の片思いだったのだろう。
―仕方ないか。こんな面倒くさい男だものな。
興味を惹きたくて普段からちょっかい出している上に、いざ告白と言う場面になっても、覚悟一つ出来ず、逃げ道を探してしまうような男だ。そんな男が色んな意味で少し厳し過ぎるとは言え、これほど良い女に好いていてもらえるはずはない。
―終わったな…俺。
覚悟していても、明確に振られる予兆を見るだけで心が悲鳴を上げるのが分かった。耳の奥ではめしめしときしむような音が聞こえ、重い空気に耐え切れなくなった心臓が歪に捻じ曲がるようだ。痛みは限界を超えて、本能的にこの場から逃げ出そうという気さえ起こるが、俺の身体はまるで全身鎧を幾つも着込んでいるかのように重く、まったく動く気配すらなかった。
―こんなに居た堪れないのに…早くトドメをさしてくれ…っ!!
「…私にその時の記憶は無いんだけど、そんなに抵抗したの?」
しかし、そう思う俺の心に気づかず、カルナは不思議そうにそう言った。思いもよらない言葉に顔を上げると、そこには口元に手を当てて、真っ赤になっているカルナの顔がある。そこには予想していた困惑や嫌悪と言った感情は見当たらず、何処か恥ずかしがっているような、それでいて喜んでいるような気さえするのだ。
―…あれ?どうしてだ…?
正直、まったく予想してなかった反応に心の中で首をかしげてしまう。
「いや、特に記憶にないが…でも、泥酔してたし、きっと抵抗出来なかったんだと思って…」
俺の口から出た言い訳めいた言葉にカルナは大きく肩を落として息を吐いた。まるで出来の悪い子供に対するような、哀愁と諦観のこもったため息は、ハンスにされたものを含めて、何回目なのか数え切れないほどだろう。
−あれ?今のそんなに悪い答えだったのか?
俺にとって特に問題がないように思える答えは、カルナにとっては、とても諦観の念を感じるものだったのだろう。その表情を何処か呆れたようなーしかし、それ以上に安心したような、と感じるのは俺の欲目かもしれない―ものに変えて、俺をしっかりと見据えた。
「フェイ。貴方はもう少し女心を勉強すべきよ」
言いながらカルナは表情を笑顔に変えた。普段、取り繕って、表情の硬い彼女が浮かべる笑みは格別に目を惹かれる。普段は石のように硬い表情をしているのに、笑うときだけはまるで花が咲いたような華やかなものを浮かべるのだ。それに胸の高鳴りを覚えるのは仕方ないだろう。
−ちくしょう…反則だよなぁ…。
見ているだけで、どきどきする笑みから目を逸らして、俺はそう心の中で呟いた。何時も一人で過ごし、硬い表情で剣を振るう女が、一瞬だけ浮かべたこの笑みが見たくて、俺は何度もカルナにちょっかいを出し始めたほどなのだから。無論、今もその威力は健在でちょっとしたバツの悪さや居心地の悪さも全部、笑顔一つで吹き飛ばされてしまった。
「まぁ、でも、結局は貴方の勘違いだったようで安心したわ」
「うっせぇよ…」
溢れんばかりの笑顔のまま嬉しそうに言うカルナを視線の端で捉えて、俺は拗ねる様にそう言ってしまった。その妙にテレやすい辺りが、俺のダメな部分だと、今日だけで山ほど自覚したが、それでも今すぐ治ってくれるほど浅いものではないらしい。まぁ、まだまだ人生の折り返しにも程遠いのだから、これから追々、治していけば良いだろう。
―…そういえば安心って何が安心だったんだ…?
話の流れ的に自殺する理由が勘違いだったってことだろうか。…あれ?でも、それって…どの辺りが勘違いって事なんだ?襲いかかったとか無理矢理って部分なら、寧ろ襲われたかった、って言う事になるのか…?……いや、カルナに限ってそれは無いな。これだけ硬くて真面目な女が、襲われたい、だなんて思うはずがないのだから。
−脳裏にハンスの言葉が一瞬、蘇るが、俺はそれを無視した。
「そ、それより問題は次よ次」
「次って…何だよ」
焦ったように手を振っているカルナの顔は、普段、余り見ない類の物だ。何かを誤魔化す事に焦りを覚えているような表情は、普段、誰に対しても真摯に向かい合おうとする彼女にとっては間違いなく珍しい。そこそこの付き合いの長さがある俺だが、そんな俺でも始めてみる類の物かもしれないと思うほどだ。
「つ、次は…げ、現場検証よ」
「…は?」
そしてそんなカルナの口から飛び出てきた言葉もまた俺にとっては思わず間抜けな声で聞き返してしまうほど、聞き覚えのあまり無いものだった。だって、そうだろう?警察や警備隊関係者でもないのに現場検証と言う言葉なんて、聞きなれるはずがないのだから。普通は聞き間違いや言い間違いを疑うに決まっている。
「だから、現場検証よ!貴方がどう私を襲ったのかチェックするの!」
―いや、チェックってお前…。
そう反論する前に、カルナは椅子から立って、ずかずかと歩き、ベッドの上に腰下ろした。この前のまま放置され、赤い染みが残っている白いシーツは、乱暴に体重を落とされた所為か、ベッドの上で少し跳ね、抗議するように揺れるベッドと共にカルナの身体を受け止めている。そんなベッドに一瞥をくれる事も無く、出ているところは出ている―勿論、引っ込むところは本当に細いー身体を見せつける様にして、カルナは両膝を合わせたまま、両手を広げた。
「さ、さぁ、来なさい!」
「来なさいってお前…ガチガチじゃねぇかよ」
テーブル越しに俺を見るカルナの腕は緊張の為か小さく震えていた。俺の位置からでは少し遠すぎて分からないが、腕だけではなく、身体全体も恐らくは震えているのだろう。顔一つとっても、さっきまでの笑顔が嘘のように歪に固まっているし、到底、行っていいものとは思えない。
「か、勘違いしないで。ただの武者震いよ」
「いや、何と戦うつもりなんだよお前は」
思わず、そう突っ込みながら俺は目頭を指で押さえた。…今はこんな風だが、普段のカルナは俺のちょっかいに突っ込んでくれる側なのだ。何時もと逆になっている立場に、ちょっとした混乱と頭痛のようなものを感じるのはある意味、仕方のない事だと思う。
「う、うるさいわね。アンタがレイプしたのか、そうでないのか、素面の今、決めてあげようって言うのよ…!文句言わずに来なさい!」
「いや…お前な」
―そもそも来いって言う時点でレイプでも何でも無い訳だから、色々と論理破綻してるぞ。
しかし、話している途中で、ふと、カルナの目に気付いた俺の口から、その言葉が飛び出る事は無かった。気恥ずかしさの所為か顔を真っ赤にしながら俺を呼ぶ、カルナの目は少し濡れている。涙とも少し違うそれは、『あの時』の彼女の誘うような目を彷彿とさせるものだ。
―……いや、あの時とは状況が違うか。
カルナの言うとおり、俺は多少、酒が入っているが、彼女自身は素面だ。それでも尚、ここまで、彼女がしてくれる…と言うのは、つまり…まぁ、ちょっと自信過剰になっていいのかもしれない。彼女の言うとおり、俺には女心と言う奴がまだイマイチ、良く分からないが、それでも、ここまでさせている女に恥をかかせると言うのも、男として情けないと言う事に他ならないだろう。
「…手加減しねぇぞ」
「て、手加減なんてしたら怒るわよ。あ、あくまで現場検証なんだから、この前と同じようにしなきゃ許さないんだからね」
震えながら、気丈に返してくるカルナの言葉と言う許しを得て、俺は椅子から腰を上げた。そのまま一歩、二歩、と近づくと、手を広げたままの姿勢で、俺を見上げる彼女がびくりと震えるのが分かる。その普段からは想像もできないほど緊張している彼女の姿に、一瞬、止めようかと言う考えが鎌首をもたげる。しかし、そんな考えも、カルナの潤んだ瞳の前には無力で、この前と同じように、その肢体に吸い寄せられてしまうのだ。
「…カルナ」
名前を呼びながら触れた手は、やっぱり震えていた。けれど、それでも彼女は俺を受け入れようと両手を広げるのを止めない。どれだけ緊張していても、その姿勢だけは決して崩さない彼女に、俺の中の愛しさと言う感情が燃え上がるのが分かった。
「…何時でも良いから嫌になったら言ってくれよ」
「一回も二回も女の子にとっては同じなのよ。…良いから、アンタは安心して私を襲えば良いの」
最後の予防線もあっさりと超えられて、我慢の限界へと達した俺は、言い知れない衝動のままカルナの肢体を抱きしめた。情欲と愛しさが半分ほど混ざり合ったその感情は、今まで感じたことのないほど強大で俺の身体を支配している。そして、俺はその衝動に逆らう気持ちも起こらないまま、カルナの唇に吸いついた。
−柔らけぇ…。
この前にカルナとキスをした時にも思ったが、彼女の唇は今まで感じた事がないほど、柔らかさと弾力に満ちている。俺のささくれ立った唇でさえ、柔らかく歓迎してくれるそこは、例えるならばコンニャクが一番近いだろうか。瑞々しく、触れるたびに、小さく震える肉はそれだけでも、男ならだれでも持っている支配欲を刺激するのだ。
―だけど、これは前座にすぎない。
何度も何度も、カルナの唇に強引に唇を押し付けてむくむくと支配欲が湧きあがってきた俺は、それに従って、唇をカルナの口内へと押し込んだ。何でも受け入れてくれるような唇とは違い、初めて味わう―実際には最中にも何度かやっているのだけれど、カルナの記憶には無い―強い弾力と柔らかさを持つ粘膜が入り込んでくる感覚にカルナは身体を硬くする。それに一瞬、迷いが生じるものの、「安心して襲えば良い」と言う彼女の言葉を思い出して、気にせず舌を突き入れた。
−そこは以前と同じようにとても甘い空間だった。
唾液の蒸発する匂いに満ちているのか、舌が唾液にも触れていない状態でさえ甘さが伝わるほどのそこは以前と同じように俺を歓迎してくれた。
「ちゅ…ん…ぱぁ…っ♪」
どろどろとした唾液が舌の粘膜に触れるだけで、最高の美酒を味わっているような感覚にさえなれるのに、歯茎を舐めるだけで、いやらしい声を吐いて反応を返してくれるのも以前通りだ。それに調子を乗った俺は、さらに強くカルナを貪ろうと歯茎だけでなく、彼女の舌へと襲いかかる。味覚を司どる粘膜であり、人体の中でも重要なそこは、強張った様に固まっていて俺の舌を拒絶しているように感じるのだ。
―けれど、焦ってはいけない。
硬く歯の後ろで動かない舌を追いつめる様に、俺はぎゅっとカルナの頭を右手で掴んで、ゆっくりとベッドへと押し倒していく。同時に、少し顔を傾けると、一部の隙も無くした唇同士が密着し、舌先がカルナの舌へと少し触れるようになった。そのまま、誘うように、舌先でちょっかいを出すと、彼女の舌も緩やかではあるものの応える様に外へと浮き上がってくる。
−これを可愛がってやれば良い。
少しずつ大胆になってくれた舌を受け入れる様に、舌先から中腹ほどまでを撫で上げる。粘膜同士が擦れ会う感覚は、擬似的な性交でもあるのか、本能的に快感を感じてしまう。それはカルナも同じなのだろう。撫で上げる度に震えるのは単純な驚きだけではないのは、受け入れる様に目を瞑りながら鼻から甘い吐息を吐いている事から分かる。
「んはぁぁ…っ♪」
―可愛い奴だな…本当に。
キスでの交わり…その中でもただの前戯に過ぎないのに、夢中になって鼻の抜けた声を出す姿は、普段からまったく想像もできないモノで、強いギャップを感じさせる。そして、そのギャップが、また可愛らしくて、もっと気持ちよくしてやろうと、もっと貪ってやりたいと、男の情欲を擽るのだ。
「や…ふぁ…♪」
そんな声を上げながら抱きしめる様に俺の背に腕を回し始めたカルナをより貪る為に、俺は口の中にため込んだ唾液を舌に乗せて送りこみ始める。そしてその唾液をすりこむように、舌先で強く撫でるのだ。…正直、最初は拒絶されるかも、と思っていたそれは、この前と同じように意外なほど簡単に受け入れられただけでなく、寧ろもっともっと、と強請る様に舌先で俺の舌をせっついてくる。まるで雛鳥が親に餌を強請る様な仕草に応えて、俺はどろどろと唾液を流し込み、カルナの舌へと塗り込んでいくのだ。
「あ…♪はぁぁ…♪」
それを喜ぶように息を吐きながら、カルナの舌はより貪欲に俺の舌へと絡みついた。それはさっきと同じ、餌をねだる等と言う生易しいモノではなく、唾液の貰い方を覚えたメスのものとなっている。お互いの舌が口腔内で踊るたびに、興奮の為かどろどろと唾液が生産されて、舌を経由して彼女の粘膜へと送りこまれるのだ。それを喜ぶように、しっかりと舌で楽しみ、その後、咽喉を嚥下して味わうカルナの姿に、また強い興奮を覚えてしまう。
―このまま貪ってやろうか…。
そうは思うものの、これ以上は『この前』はやっていない。以前は俺もかなり酒が入っていたので、我慢できず、早々に前戯へと移っていたのだ。あくまでこの行為は『現場検証』であるのだから、唇同士の交歓はここまでにしておくべきだろう。…そう判断し、唇を離すと一本の唾液の橋が落ちるのと同時に、物足りなさそうにカルナが見上げてくる。…邪推するのであればもっと唇の交歓を楽しみたかった、と言う所なのかもしれないが…本当のところは俺には分からない。
−だから、折角だし、聞いてやろう。
「この前はキスはこれくらいの長さだったんだけど…物足りないか?」
「ばっ…変な事言わないでよ…!あくまでこれは現場検証なんだからそんな訳ないでしょう!」
真っ赤になって目線を逸らすカルナを見下ろしながら、何時も通りの問答へと戻った事が何となく嬉しくて、俺は口の端に笑みを浮かべた。それをカルナは自分の事を笑ったのだと思ったのだろう。口を尖らせながら、ぽつりと漏らすように反撃してくる。
「…それよりアンタ、二回目にしちゃ手慣れてると思うんだけど…?」
「そりゃヤるのはそこそこ経験あるしな」
世界各国を回っていた傭兵なのだし、恋こそ今までした事が無いにせよ娼婦と一夜を過ごした回数は数知れない。幸い…と言うか、何と言うか、俺たちのリーダーはそう言った事には理解のある方で、戦場での略奪や暴行は一切許さなかったものの娼館へは良く連れて行って、お勧めの娼婦を紹介してくれたりもしたのだ。リーダーお勧めの娼婦は皆、外れは無く、皆高い技術を持ち、拙い俺をリードしてくれたり、女体の事を教えてくれ、そこそこ技術的な物は持っている自負がある。
「…嘘」
しかし、それがカルナには伝わらってなかったらしい。何処か呆然とした表情のまま俺を見上げるカルナの瞳には情事独特の興奮はなく、信じられない、と言うような感情ばかりが浮かんでいた。
―ちょ…馬鹿か俺は!お堅いカルナ相手にそんな事言ったらこうなるって分かるだろうが!!!
そう自分自身を責める声に全力で同意しながら、俺はこの場を回避しようと、言葉を探し続けた。けれど、思いつくのはハンス直伝の、歯の浮くようなセリフばかりで、俺の口にはどうにも合いそうもない。嘘に敏いカルナ相手に、ハンスの受け売りの言葉を放っても、すぐに見破られて、より状況が悪くなるのは分かりきっているので使えずはずもなかった。俺自身の言葉でなければカルナは納得しないだろうし、受け入れても貰えないだろう。
―じゃあ、俺にだけあるモン……って言えば、やっぱこれしかないよな。
気恥ずかしい。とても気恥ずかしいし、正直言えば、この場から逃げ出したいほどだ。けれど、俺が何よりストレートに感情を表して、この場を少しでも良くする事の出来る言葉なんて、それ一つしか思いつかない。
「…カルナ以外とヤッた回数はそりゃ多いけど…お、お前が初恋だからな!」
「…え?」
―二度も言わせるな馬鹿っ!恥ずかしいんだよ!!!
そんな抗議の言葉さえ、俺の口からは出てこなかった。ただ、顔に熱をため込んで、視線を逸らすことしかできない。…そのまま数秒ほど経った頃だろうか。ようやく意味を理解したカルナは、その表情を柔らかくしながら、微笑みのようなもの―視線を外して、それを真正面から見る事は出来ない俺には推測するしか無いーを浮かべた。
「…その言葉に免じて許してあげる」
「そりゃどうも」
何処か悪戯っぽいニュアンスを含ませた言葉に、皮肉っぽく答えながら、内心、俺は心を撫でおろした。…そりゃ、まぁ、ちょっとした驚きもあったが、無事に収まったし…何より、以前の女を気にするほど、気にかけてくれていると言うのが嬉しい。俺だって逆の立場であれば、やはりショックであろうし、素直に許してくれたカルナに感謝の気持ちすら湧いてくる。
「…じゃあ、続き。するぞ」
「…一々、言わないで良いのよ馬鹿」
気恥ずかしそうに言って、また目を背けるカルナのシャツに手を掛け、一つ、また一つと外していく。興奮しているのか、ボタンを外す度に吐きだす息は何処かオスに媚びるような響きを持っていて、それがまた俺の興奮を掻き立てるのだ。今はまだ我慢できているけれど、長く聞いていると襲いかねないほどの威力を持ったそれを振り払う為にも、俺は手早くボタンを外し、それを肌蹴させると…甘い香り―恐らくはカルナの体臭なのだろう―が一気に弾けて、俺を包みこんでくる。
「…綺麗だ」
思わずそんな言葉が漏れ出るほど、シャツの下から現れたカルナの隠された肢体は美しかった。あれだけ前線に出て闘っているのに、傷一つない珠の肌は瑞々しく、あれだけの長剣を荒々しく振るう筋肉はぷにぷにとした脂肪に包まれていて、一目で見るほど抱き心地が良い。鉄製の首飾りがしっかりと首と胴体を繋げているが、それがまた美しさを引き立てている。彼女自身の肌の白さと相まって純白の平原を思わせる腹部は目に眩しく、ブラに包まれた胸は隠されていながらもその柔らかさと豊満さを惜しげもなく見せつけ、俺の目を引くのだ。
―これが美しいと言わず、何を美しいって言うんだろうな。
無論、俺はただの傭兵だから学なんてない。美術品や芸術の類ならハンスは詳しいが、俺はまったく興味を持っておらず、今まで見る事もなかった。…けれど、そんな俺でさえ美術品の美を集めたのではないかと思うほどの美しさが、今、俺の目の前でさらけ出されている。
「…ありがと」
俺の言葉に顔に赤い色をともし、呟くカルナの顔も美しい…と言うのは少し違うが、愛しさを掻き立てられるものだ。普段の硬い表情を彫刻めいた美しさと評するのならば、今の顔は年相応の女らしい可愛さ、というべきかも知れない。
「…それよりブラの外し方…分かる?」
「フロントホックだろ?…分かってる」
唐突に話を逸らしたのは気恥ずかしいからか、それとも期待からか、どちらとも分からないが、とりあえず俺はカルナの言葉に乗ってやることにした。几帳面に以前と同じ、フロントホックのブラを着けている胸に手を伸ばして、俺はすっと、胸の谷間に触れる。そこはシャツを肌蹴させた時から甘いフェロモンを立ち昇らせていて、ずっと俺の欲情を擽り続けた場所でもあった。
「あ…っ♪」
それだけで一瞬、ぶるりと震えて悩ましげに声を上げるカルナを出来るだけ無視しようとしながら―意識してしまえば今にも脱線してしまいそうだったのだ―俺は結合部を上下に割って、外した。瞬間、今まで抑えつけられていた胸が俺の目の前で弾け、ピンク色の突起が俺の下でふりふりと揺れる。重力に引かれることなく、形よく突き出した胸の頂点は、既に硬くなり始めていて、見ているだけで触れてみたくなるほどだ。
「…あんまりじろじろ見ないでよ」
「…いや、無理だろ」
思わずそう反論してしまうほど、そこは目を惹かれてしまう箇所だ。男の本能の所為か、それとも、胸の谷間から湧き出るような甘いカルナのフェロモンの所為か、ずっと見つめて、何より弄んでやりたくなる場所が俺の意識を乗っ取っていくかのような錯覚さえ覚える。その前には一度見ていると言う経験なんて何の役にも立たず、押し流されるように俺の両手は胸の外周部にそっと触れた。
「…ん…っ♪」
外周部に触れるだけでも、そこがどれだけ重い部分なのか、はっきりと教えてくれるほど肉が詰まったそこは、ふるふると揺れながら、俺の手に柔らかい感触を伝える。けれど、柔らかいだけでなく、重力に逆らうほどの弾力もまた俺の手を弾き返し、何とも言えない、独特の感覚が俺の思考を支配した。その部分をより激しく味わおうとしか考えられなくなった俺は、指先に力を込めて持ち上げる様に下から上へと押し上げる。
―重い…。
片手だけでは包みこめないほど豊満な彼女の乳房は、この前と同じように重かった。けれど、その重さが、より良いメスの証でもあり、オスの本能をぐりぐりと刺激して来る。たっぷりと肉の詰まった、美味しそうな、むしゃぶりつきたいほどの胸が俺の両手にあるのだ。当然だろう。
―そして俺はその本能のまま、そっとカルナの乳房に食いついた。
最初は優しく乳房にキスを落とす。一回、二回と、キスマークを残すように吸いつきながらそこの快感を呼び起こそうとしたのだ。無論、その間も外周部の優しく撫でて、性感を刺激するのも忘れない。それを少しずつ、指先に力を込めて、揉むようにしていくと、カルナは甘く息を吐いてくれる。
「ふ……ぁ♪」
性感を漏れだすような声を上げる度に、カルナの身体からは少しずつ緊張のようなものが解れているのが分かった。最初はぎゅっと硬くしていた身体はベッドに横たわり、シーツを掴んでいるくらいにまで解れている。そんな風にカルナが確かに快感を感じ、受け入れてくれているのが嬉しくて、俺はキスをするのを少しずつ頭頂部へと上げていった。女体の中でも強い性感帯であるそこは、解す様な愛撫に既に臨戦態勢となっていて、ぴんっと主張するように勃っていた。
「…あぁっ♪」
快感を期待してもっと欲しいと自己主張する様にその身を硬くしていた乳首にキスを落とすと、カルナは少し甲高い嬌声を上げた。それをもっと聞きたくて、俺は唇で挟んだ乳首を左右に揺らすように顎を揺らせる。こりこりとした触感を、唇で味わう感覚は、俺にとっても魅力的ではあったが、カルナにとってはより魅力的な事だったのだろう。それは唇に圧力をかける度に、甘い声を漏らす事から十二分に分かる。
「そ、そんなに…あっ…乳首好きなの…?」
―好きな女の胸なんだぞ。嫌いになれる訳ないだろ。
悪戯っぽそうな表情を顔に浮かべて、俺に聞くカルナの言葉にそう返すのも惜しくなるほど、俺は彼女の乳房に夢中になっていた。唇から感じる感触だけでなく、むせかえるようなフェロモンの中で、何時までも揉んでいたくなるような最高の胸が俺の手の中にあるのだ。これで夢中にならない奴は男じゃないだろう。
「あぁっ♪…もう…」
返事をしない俺に呆れたのか、それとも、それだけ夢中になっているのが嬉しかったのか。その声に媚びた物を混ぜながら、カルナは俺の頬に手を当てた。そのまま短き刈りこんだ俺の髪を撫でて、小さく笑みを浮かべた…ような気がした。
「ホント、子供なんだからぁあ…♪」
―ほっとけ。
そう抗議する為に小さく歯を立てたのは、効果的だったらしい。その声を途中に嬌声に近いモノへと代えて、カルナは身体を起こした。まるで快感をより内へと取り込もうとするその姿は、この生真面目な女が俺の手によって性感を開発されているという証左である。…そう思うと、もっと、この女を自分色に染め上げたいと言う支配欲が燃え上がるのだ。
―手始めに…まずはもう少し下だよな。
乳首を唇で挟み込み、時折、舌を転がすと、それだけでむんむんとした甘いフェロモンを立ち昇らせながら、嬌声を上げるのだ。胸はあの時にも強い執着のまま愛撫していたお陰か、歯で挟みこみ、弄ぶのにも嬌声を上げてくれる。今は両手もその乳房を揉み上げる様に愛撫しているが、ここよりもより下の…もっと気持ち良い部分を開拓し始めるのが良いだろう。
−だから、俺は右手だけをするりと胸から離れさせ、そのまま彼女の肢体の線をなぞる様に脇腹まで下ろしていく。
「ひゃ……ちょ、ちょっとくすぐった…っふぁ♪」
抗議の声を無視しながら、俺は気にせず、右手を脇腹から脇近くまでを撫でていく。無論、それが快感だと教え込むのに、胸の愛撫にも力を入れるのを忘れない。左手は片方の揉みしだき、人差指でくりくりと乳首を転がしながら揉み上げて、唇は空いたもう一方を強く吸い上げて、乳首を口の中で歯と舌で歓迎してやる。最初は擽ったそうに身を捩らせるだけだっただったカルナも、胸の快感に屈したのか、抗議を上げる暇もなく、嬌声を上げ続けた。
「やぁ…っ♪く、くすぐったぁ…良い…っ♪」
くすぐったいのか、そうでないのか、もうカルナ自身にも理解できないのだろう。頭の中では胸から感じる性感と、脇腹のくすぐったさが一体になり始め、くすぐったさが快感へと変わり始めている頃に違いない。…男としては少し分かり辛いが、女は全身に性感神経が通っている為に、こうした愛撫でもしっかり感じる事が出来る…らしい。
―まぁ、娼婦の姉ちゃんの受け売りだし、自信は無いんだが。
けれど、今の彼女の様子を見る限り、それはあながち的外れなものだとは思えない。既にくすぐったいと抗議の声を上げる事もなく、はぁはぁと荒い息をつきながら、身を震わせて嬌声を上げる姿は、間違いなく快感を覚えているメスそのものだ。
「ほ、本当にぃ…あぁぁ♪これぇ…これえあの時もやったのぉ…?」
―やべ。すっかり忘れてた。
鼻の抜けたオスに媚びるような声ではあるものの、はっきりとそう言うカルナの声に『現場検証』と言う元々の目的−と言うかお題目と言うか―を思い出した俺は一瞬、手を止めた。…けれど、今更、後戻りは出来ないと思いなおし、気にせずそのまま、彼女の胸にむしゃぶりつく。
「もぉ…っ♪馬鹿ぁぁあ♪」
返事も何も返さない俺に確信を強めたのだろう。そう改めて俺を罵りながらも、カルナはぎゅっと俺の頭を抱き込んだ。豊満な胸が俺に押し付けられ、鼻を塞いで呼吸が出来なくなる。けれど、もう目の前の女を自分色に染める事くらいしか考えていない俺はそれを気にしないまま、より一層強く吸い上げた。同時に左手は親指と人差し指で乳首を摘み、ぎゅっと力を込める。
「んっきゅうぅ…っ♪」
今までにない乱暴な愛撫でも、もう性感へと結びつくようになっているのだろう。耐える様に再び俺の頭を抱き込むカルナは、蕩けた声で応えてくれた。それに、もうしっかりと快楽を感じる下地が出来ている事に安堵した俺は脇腹からさらに下へ、ミニスカートから露出する彼女の太ももへと右手を伸ばす。
「あ……」
それに気づいたのだろうか。カルナは快感に蕩けた声を一瞬、羞恥を含む物に代えて身じろぎした。…驚いて手を止めたが、結局、彼女は何も言わない。…単純にびっくりしただけなのだろう。…そう思い、俺は右手で彼女の太股の外周を撫で始める。最初はゆっくりと、くすぐるように、そして段々、じっくりと、手全体で溶かすように。
「はぁぁ…♪」
脇腹でさえ感じるほど性感が育ち始めた今のカルナにとって、それは愛撫以外に他ならないのだろう。甘く息を吐き、身を震わせながら応えてくれる。それがまた嬉しくて、俺は少しずつ、それを内側へと移動させた。外よりもさらに性感の集中しているそこは、とても敏感で、びくりっと大きくカルナの肩がふるえて、俺の頭を抱きしめる拘束が少しばかり緩む。
―今がチャンスか。
流石にそろそろ息苦しくなってきた頭を乳房から離し、そのまま舌で彼女の肌に線を引きながら腹部へと降りていく。豊満な双丘を下り、僅かに波打つ平原へと渡り、そして、少し凹んだ窪みで舌を止めた。
「や…っそこは…っ」
これから何をするのか気づいたのかカルナが声を上げるが、俺は気にせず、その窪み…彼女の臍を舌で掘り始める。
「んぁぁ…っ♪」
無論、そこは胸や秘所ほど敏感な個所ではない。けれど、子宮の真上であり、臍の緒があった頃には多くの神経が通っていたそこはやはり女にとって強い性感帯の一つである。
―まぁ、それだけじゃないんだが…。
臍の奥って奴は意外なほど人の意識外にある。それは殆どの女にも共通だ。自然、綺麗好きな女でも毎日、臍の奥までは洗っていない。そこを舌で穿られる…と言うのは、強い羞恥を掻き立てられるもので、そんな、女の顔を見るのが俺は好きだったりする。
―まぁ、ちょっと変態的な趣味なんだが…。
ふと見上げると、羞恥に真っ赤になって、快感を堪えているようなカルナの表情が目に入る。…それだけで変態的であるとか、そんなことはどうでもよくなり、もっと恥ずかしくさせてやろうと、そんな嗜虐心が沸き起こってくるのだ。
「…ちょっと匂うぞここ。ちゃんと洗ってるか?」
「うっさい…っ!殴るわよっ!」
羞恥に顔を真っ赤にしながら涙すら目尻に浮かべて、握りこぶしを見せ付ける姿もまた可愛らしい。…まぁ、実際、匂うといっても、胸の谷間から感じたような甘いフェロモンだけで、嫌なものではまったくないのだ。寧ろ男を夢中にさせるその匂いは、良い匂いと言っても差し支えないだろう。
「もう…そこは良いでしょ…っ!!」
流石にちょっと虐め過ぎたのか、少し涙で濁った声でそう言ってくるカルナの言葉に従って、俺は再び舌で線を引くように下腹部へと降りていく。その先ではミニスカートが未だ彼女の秘所を隠し、そして、太股では内側をさわさわと指を波打たせるように、俺の右手が暴れているはずだ。
「…脱がしても?」
「…現場検証なんだからどうせ全部脱がすでしょ」
拗ねるように口を尖らせながら言うカルナの様子に笑みを浮かびそうになるのを必死に堪えながら、俺は彼女のスカートへと手をかけた。趣味の良い薄い青に染められたそれを両手で掴み、するすると下げていく。拗ねたように何も言わないものの、カルナもそれを手助けするように腰を上げたり、足を上げたりしてくれ…ついにぱさりとシーツの上にスカートが脱ぎ捨てられた。
―そして俺の目の前に残るのは薄い一枚の布な訳で。
上品なシルクで作られ、脇にはレースをあしらわれているローレグの下着は見るからに高級品であることが分かる。けれど、今のそれは布キレ一枚では抑えきれないほどの水に濡れ、高級さも上品さも何も感じられない。それは…勿論、その奥にある秘所からの愛液の所為だろう。内股を撫でていた右手にもねっとりとした粘液がついているし、薄々そうかもしれない、とは思っていたが、はっきりと感じてくれていたらしい。それも、『この前』よりも遥かに。
「な、何よ…?」
そんな俺の視線から逃げるように股を閉じながら身を捩ろうとするカルナに、何か言おうとするが良い言葉が何も出てこなかった。からかうのでもない。褒めるのでもない。感じたままの言葉を捜そうとする俺には…残念なことに学がない。「綺麗だ」以上に綺麗なものを指す言葉も、「エロい」以上にいやらしいものを指す言葉も知らないのだ。
―ハンスならまた違うんだろうけれどなぁ…。
だが、今ここにいるのは、俺なのだ。…だからこそ、俺の言葉で言わなければいけない、と言葉を手探りで求める俺は、結局、自分の中で新しい言葉を作り上げることに決める。
「…エロ綺麗だ」
「それ褒めてないでしょ」
―いや、一応、マジで褒めているつもりなんだが…。
どうにもカルナにはお気に召さなかったらしい。顔を赤くしながらも、俺を一目で見下ろす彼女は若干、頬を膨らませながら一刀両断した。…まぁ、そりゃそうだろう。元の気性が真面目であるカルナがエロいとか言われて嬉しいはずも無いのだから。
「いや、俺の本心」
「尚、悪いわよ…あ、ちょっ…っ」
とりあえず喜んでもらえなかったようなので、悦んでもらうことに決めた俺は、その身一杯に愛液を吸い込んだ下着を指で押し込んだ。それだけで限界一杯まで吸い込んだ下着は耐え切れないのだろう。どろどろとした愛液を吐き出し、指を離した後もパンツと指先の間で糸が引く。どろどろの粘液が重力に引かれてシーツへと堕ちていく光景はとても淫靡で興奮をそそられるものだ。
―本当はもっと虐めたかったが…。
今までの行為で既に一杯一杯だった俺は今の光景で我慢ぎりぎりにまで追い込まれてしまう。この後やったはずのオーラルセックスも何もかもが吹き飛んで、ただ、目の前のメスを貪る事しか考えられない。
「…脱がすぞ」
「…うん」
俺の口から出たのは自分でも驚くほど切羽詰ったものだった。まるで十代のガキが始めて女の身体を目の前にしたような、ぎりぎりさは…それほど今の状況と遠くないものなのかもしれない。自分自身で言うのも気恥ずかしいが、俺はこんな歳になって初めて初恋なんてものを経験したガキなのだから。
「…フェイ?」
「あぁ、悪い」
自分自身に苦々しい笑いを浮かべて動きが固まる俺を、急かすようにカルナの言葉が耳に届いた。それに短く応えながら、俺は下着の脇を両手で掴み、ゆっくりと下ろしていく。その瞬間、抑えを失った愛液がどろりと零れ落ち、ベッドの上に大きな染みを一つ作り出した。…けれど、今の俺はそれを知覚する余裕も無く、ただ、目の前に現れた彼女の性器に目を奪われてしまっている。
―この前も思ったがエロいな、マジで。
パンツの下から現れたのは一筋の切れ目…なんて生易しいものではなく、生々しいやらしさに満ちた部分だった。くっぱりと具がはみ出し、呼吸する度に震えるそこは下の口、と言う揶揄に相応しく唇のように突き出した部分が奥へ奥へと導こうと震えている。粘膜の部分は鮮やかなピンク色ではあるものの、期待に口を開けるように開く大淫唇は、これが二度目の―より正確に言うならばこの前気絶するまでヤりあった訳だから二度目ではない―性交であるだなんて誰も信じないだろう、と思うほどやらしい。まだまだ幼い少女の性器ではない。成熟し、孕む準備も出来上がっているメスの搾性器が俺の目の前にはあった。
―ごくり…。
思わず唾を飲み込むのを自覚しながら、俺はベルトに手をかけて、乱暴にズボンと、そしてパンツを脱ぎ、ベッドの上に投げ捨てる。下半身だけ半裸と言う情けない格好となった俺の股間では既に聞かん坊となった俺のムスコが腹筋に着くほど反り返っていて、これから味わえる極上の肉の快楽を思い出して震えていた。
「…わ…っ♪」
そんな俺のムスコを見ないようにか、カルナはその両手を顔の前に置いた。…けれど、指の合間が開いていて、俺からも、そして、彼女からも顔が丸見えである。その視線を追うとしっかりとムスコに釘付けになっている辺り、何がしたいのか良く分からない。けれど、悪戯心が沸きあがってきた俺は見せるけるように腹筋に力を入れて、それをぴくぴくと上下させる。
「そんなにじっくり見つめてくれるのは嬉しいんだが、ついでだし感想も聞きたいな」
「し、知らない…っ!」
俺の言葉で見つめていることに気づいたのか、一瞬、はっとした表情になったカルナはそのまま視線を逸らした。…けれど、まだ気になるのか、時折、チラチラと送ってくる視線が何処かこそばゆい。…けれど、決して不快ではないその視線に勇気付けられるように俺はそっとカルナの太股に手を触れる。…それだけで大体の事を察してくれた彼女は、ゆっくりと足を広げて受け入れる体制を作ってくれた。
「…じゃあ、挿入るぞ」
「あ…ち、ちょっと待って」
このタイミングで制止する声に顔を上げると、そこには真っ赤に顔を染め上げて、右手で口元を隠すようにしているカルナがいた。今から大事な事を伝えようとするような緊張感が部屋に満ちて、今から思う存分貪ろうとしていたオスの本能が萎縮し若干の余裕を取り戻した俺は、何度も何度も口を開こうとして、言葉が出ない彼女の頬に手を置いた。
「…あ…」
「やっぱり怖いか?それならやめるぞ」
―別に俺はケダモノでもなんでもないのだから。
確かにこのタイミングでのお預けは肩透かしと言うレベルではない。ここまで昂ぶり続けたオスは納得しないだろう。けれど、力を取り戻した俺の理性は、それでも良い、と思っていた。俺たちが今からしようとしているのは、交歓だ。お互い快感を与え、貪りあう行為だ。…それを片方が怖がっているのに無理矢理するというのは交歓でもなんでもない…ただの生殖行為、しかもオスの独りよがりなレイプに堕ちる。
―それだけはしたくない。
今日までずっと悩み続けていたような苦しみをもう二度と味わうのは御免蒙りたい。そして、その為ならば、本能でも何でも捻じ伏せて終わらせるつもりが、俺にはあった。
「ううん…そうじゃなくて…その…私、『初めて』だからキスしながら…」
―あぁ…なるほど。そういう事か…。
切れ切れに漏らすような彼女の言葉に得心がいった俺は彼女の頬に触れながらゆっくりと、俺は身体を前へと倒していった。自然、俺の目の前にはカルナの顔が広がり、その瞳にもどんどん近づいていく。
―…綺麗だ。
今日だけで何度そう思ったか分からないが、再びそう心の中で呟いてしまうほど、彼女の瞳は綺麗だった。澄み切った深いダークブルーの瞳は欲情か興奮か羞恥か…どれとも分からないものに濡れていて、引き込まれるような…いや、その瞳の中に落ちていくような錯覚を覚える。
「…じゃあ…カルナの『初めて』貰うからな」
「…うん」
キスをする寸前にそう言葉を交わしてから、俺は彼女の唇に貪りついた。さっき交わした時、キスと同じように甘く、蕩けるようなそれを味わいながら、俺は右手で肉棒の位置を調整し…ゆっくりと一気に突き入れる。
「ふぁあああああっ♪」
俺の口の中にカルナの声が送り込まれてくるのを感じながら、俺は歯を食いしばりたくなるのを必死で堪えていた。既に何度かの経験を持つカルナのそこは既に俺の味を覚えているのか、俺の感じる部分を的確に刺激してくる。腰を進める度に、裏筋にぞりぞりとした膣の突起が当たり、背筋からケツまでぞわりとした寒気にも近い悦楽が走るのだ。本来であれば歯を食いしばって耐えたくなるほどの快感を、俺はカルナとのキスに集中することで必死にやり過ごしながら、膣奥まで進む。
「…ふ…わぁぁ…♪」
こつん、と亀頭と子宮口がぶつかった頃には、既に俺の腰は限界と主張するように震え始めていた。…別に俺は早漏な訳ではない。この前から、罪悪感ばかり募って自家発電もしておらず性欲も溜まっていたし、何より彼女の膣もキスも、そして前倒しになると自然とこすれあう胸も、全てが気持ち良過ぎるのだ。
―でも、ここでイったらあまりにも恥ずかしいよなぁ…。
無論、何週間かのオナ禁生活のお陰で一発や二発では衰えない自信はある。けれど、入れて三擦りもしていないうちに射精してしまうのは、男として大事な尊厳的な何かを折られる気がするのだ。
「…フェイぃ…動かない…の…?」
動かない俺を不審に思ったのか、唇を離して甘える声を出しながら、見上げるカルナの目もまた、限界そうであった。この前、念入りに膣の快感を覚えてもらおうと、クンニしていた所為だろうか。既に強い快感を覚え、蕩けた表情を見せている。それだけではなく、膣奥と亀頭が触れる感覚だけでは満足できないのか、より強く擦れあわそうと、腰を前後に揺らしているのが分かった。
―カルナも我慢できないなら…遠慮は要らないな…っ!
本人も気づいていないほど、自然に悦楽を求めようとするその姿に、脳裏が興奮で燃え上がるような錯覚を覚え、俺はゆっくりとピストン運動を開始する。焦らすようにゆっくりと引き抜き、入れるときはそれよりも若干早く…膣奥にぶつかった後は、ぐりぐりと亀頭を押し付けるように…っ。
「んはぁぁっ♪」
別に激しい動作ではないが、カルナはそれに悦んで嬌声をあげてくれる。下の口では、どろどろとした涎を漏らし、ぎゅっと膣を締め付けてくるのだ。その度に、ぞりぞりと裏筋を穿る突起や、亀頭を洗うようなつぶつぶとした突起が俺のムスコを襲い、射精へのカウントダウンをまた一つ進めようとする。それに抵抗しようと歯の奥が潰れそうになるほど強くかみ締めるが一向に我慢が聞かない。
「ふぇ…ぃぃ…気持ち良い…?」
そんな俺の様子を知ってか知らずか、カルナは熱病に浮かされたような表情でそう言った。それに言葉を返す余裕もない俺は、何度か大きく頷いて、抽送し続ける。一突き、また一突きと奥にぶつかる度に、もっと目の前のメスを貪ろうというオスの本能が燃え上がり、だんだんとその速度が速いものへとなっていった。
「ふぁああああっやあああああっ♪」
それに嬌声を上げるカルナの膣もまたどんどんとその動きを激しいものへと変えていく。最初は奥へ奥へと引き込もうとしていただけなのに、今では膣の中にある無数の突起と連動して引き込むというよりは搾り取るというものに近い。ぞりぞりとした突起が入れるたびに裏筋を擦り、引くときには奥へ奥へと脈動する突起に引っかかって、腰が砕けそうになるほどの快楽が生まれる。
―こりゃ…我慢なんて無理だろ…っ!
一回一回の抽送が肉へと叩きつけるようになった頃には既に脳裏は真っ白に染まり始めていた。視界の端では白いモノがちかちかと光り、ぞくぞくとした感覚が背筋を這い上がろうとしている。股間では開放の時を今か今かと待ち続ける白い精子が暴れ周り、より奥へと精液を送り出そうとする肉棒は一回り大きくなった。
「あぁぁっ♪出そう…?出そうなのね…っ♪」
嬌声の中、虚ろに叫ぶカルナの声に頷きながら、俺は必死に、目の前のメスを孕ませたいという本能を捻じ伏せ、腰を引きずりだそうとした。同意の上であるとは言え、子作りまで合意していない。このままでは膣内に出してして、孕ませてしまったら問題だし、当然のエチケットだろう。けれど、それはしっかりと俺の腰を咥え込んだカルナの細い脚に阻まれてしまった。
「ちょ…お前…っ!こんな時に…っ」
「げ、現場検証だからっ♪膣内にぃっ♪」
嬌声に塗れながらもカルナはしっかりとそう言い放ち、俺の腰を捕まえる足をがっちりとロックした。唯一の逃げ場を封じられて、抽送するしか道がなくなった俺は、ふつふつと湧き上がる本能と射精への欲求についに塗りつぶされ、目の前のメスを貪り、孕ませることしか考えられなくなっていく。
「それに…っ♪私…ふぇいにぃならぁ…ふぇいになら良いからぁああっ♪」
その本能の流れに抵抗しようとしていた最後の理性も、カルナのこの言葉で吹き飛ばされてしまった。逃がさないようにがっちりと腕を掴み、腰を打ち付ける。その度に、ぎゅっぎゅと搾るように律動する膣に腰が砕けそうになるが、それよりも強い本能のまま、俺はピストン運動し続けた。
「あぁあああっ♪もう…ふぇいっ私もうぅ…っ」
切羽詰ったカルナの声と、そしてぎゅっと押し付けられた胸と共に、今までに無い締め付けが俺のムスコを襲った。今までも密着し、突起でとても気持ちよかったものの、膣でムスコが潰されるのではないかと言うほどの圧力がかけられ、つぶつぶの突起もぞりぞりの突起も、一部の隙もないほどに密着する。そのごりごりとぞりぞりの間でサンドされた俺は、最後の我慢ごと押し流され、カルナの膣奥で精液を放った。
「ああああああああああっ♪」
「くぅうううっ…っ」
嬌声を上げて叫ぶカルナとは裏腹に俺は必死に歯を食いしばっていた。射精を受けただけでは満足できず、もっともっとと強請るように律動する膣からの快感は下手をすれば意識ごと持っていかれそうだ、と感じるほどなのだ。それに耐える為、食いしばる歯の根の間から、唾液がどろどろと零れて、メスの悦楽に震えるカルナの肢体に落ちていくが、構っている余裕も無い。
「あぁぁ…♪…ふぁぁあああ…♪」
そしてその膣の律動は、カルナの絶頂が終わり、満足そうに息を吐くまで続いた。…その時間は一分ほどだったのだろうか。実際、膣の中で意識が吹っ飛びそうな快楽と戦い続けていた俺にとってはとても長い…十分ほどの長さにさえ感じた。
「…ん…ぁあ…まだ元気ぃ…♪」
まだ絶頂の余韻が引いていないようで、強い熱を顔に浮かばせながら、とろんと蕩けた目で俺を見上げるカルナがそう言った。…その言葉通り、彼女の膣の中ではまだ俺のムスコは元気に力を漲らせ、次の射精を今か今かと待ちわびている。…自分でも節操がないとは思うが、もう若くないとは言え、まだまだ年老いてもいない男が数週間のオナ禁をしていたのだ。抜かずにもう一発ほどやっても罰は当たらないだろう。
―とは言え…当分動けそうにないんだけれどな。
絶頂の余韻はカルナだけでなく、俺にも引いていた。射精のお陰で、頭の奥はすっきりして、今すぐに本能に負けてしまう事のない…と言うのも勿論あるが、それよりも大きいのはあまりにも強い快感に震えて、少しの間力が入らないであろう俺の腰だ。第三者から見ればかなり情けない姿だが、意識が吹き飛ばされそうなほどの快感によく耐えた、と個人的には褒めてやりたい。
―まぁ、動けないなりに楽しみ方は沢山ある。
俺ははぁはぁと震えるカルナの頬に手を当て、慈しみの感情を込めて、そっと汗が滲む額にキスを落とした。それを受け入れるように目を閉じながら、カルナは何も言わず、俺の背に手を回す。…俺はその手に導かれるように、何度も何度もカルナの首筋にキスを落とし続けた。
「…ん…ふ…ぁ…♪」
そのままお互い何も言わずに数分ほど経った後、カルナはゆっくりと目を開けた。その目は理性の光が宿っていて、さっきまでの交わりに惚けていたそれとは違う。…けれど、まだ理性だけ、と言う訳ではないのか、何処か舌足らずな口を開いて、甘く吐息を吐いていた。
「…大丈夫か?」
「大丈夫よ。…それより…私の『初めて』…どうだった?」
―無論、カルナの処女はこの前、俺が奪っている。
けれど、カルナにその記憶は無い。つまり、今回のこれが、彼女にとっての『初体験』なのだ。例え肉体的には違っても、精神的には『初めて』である交わりの感想を求めるのは、やはりそれだけ何かしらの負い目がある所為なのかもしれない。
―その理由までは分からない…けれど。
それでも、今、彼女が感じているかもしれない不安のようなものだけでも、吹き飛ばしてやろうと、俺は口を開いた。
「…最高だったよ。今までのどんな相手よりもずっと」
それは嘘偽り一つ混じっていない純粋な俺の気持ちだった。泥酔したカルナと一緒にした時よりもさらに興奮し、燃え上がった交わりは、俺の人生の中で間違いなく最高だと言って良い。…と言うか、腰が砕けて、意識が吹っ飛びそうな交わりが一番でないはずがない。これ以上の快楽なんて、ショック死するしか無いのでは、と思うほどの交わりだったのだから。
「そう…♪」
そして、俺の言葉に嬉しそうにカルナは目を細めながら微笑んだ。その微笑みはとても幸せそうで、見ているこっちも幸せな気分になれる反面、背中が何処かむず痒い。それは自分の言った台詞の気恥ずかしさの所為か、それともストレートに喜びを表現してくれているカルナの表情があまりにも眩しいからか…今の俺には判別がつかなかった。
「そ、それよりそっちはどうなんだよ…?」
「え…?」
「そっちは良かったのか…?」
何となく悔しいのでそう返してやると、彼女の顔が再び真っ赤に染まった。そのままぱくぱくと口だけを開け閉めしたかと思うと…きっと眉を吊り上げて、俺の頬を抓ってくる。
「いっいひゃい…っ!」
「そういうデリカシーの無い事言うから女心が分からないって言うのよ…っ!」
本気で怒っている訳では無いだろうか、彼女の指には結構な力が込められているように感じる。情事の後でいつもより恥ずかしがっている所為なのかもしれないが…女心の分からない俺には正確な理由までは掴めなかった。
「まったく…本当、鈍感なんだから」
呆れたように目を瞑るカルナの言葉に、またふつふつと悪戯心が沸きあがってくる。別に怒っている訳ではないのだが、やっぱり、やられっぱなしは性に合わないのだ。出来れば手痛い反撃の一つでもしてやりたい…と辺りを見渡すと、脱ぎ捨てられた俺のズボンと…ベルトに着けてある皮袋が目に入る。
―そういえば…カルナから好きって一言も聞いていないな。
そりゃ、まぁ、ここまでヤった訳だから、嫌われていないとは思う。少し自信過剰かもしれないが、好かれているのかも知れない…と言う気持ちもある。…けれど、それでも、カルナの口から直接一度も「俺の事が好き」と言う言葉を聞けていないのだ。
―これはやはり聞かなきゃいけないだろう。
悪戯心半分、そして好きという言葉が欲しいという純粋な欲求が半分混ざり合いながら、俺は口を開く。
「鈍感ついでに聞きたいんだが…結局カルナは俺のことが好きなのか?」
「そ、それを今、聞く訳…!?」
案の定、再び顔を赤くしながら俺を見上げるカルナの視線は、ちょっとした怒気が篭っていた。…当然だろう。ここまでヤって膣内出しまで許して、好意を疑われるというのは、逆説的にそれだけ軽い女と見られているという事だ。怒るのも無理は無い。けれど、俺にとっても、好きと言ってもらえないのは凄い死活問題なのだ。やはりどうしても確信…というか、証拠のようなものがしっかりと欲しい。
「俺は好きってちゃんと言ったぞ」
「そ、そりゃそうだけど…」
視線を逸らすカルナの目にはさっきほどの怒気がなくなっていた。俺の言わんとしない事が分からないでもないのだろう。泳ぐ視線はさ迷い、答えを探すようにうろついている。さっきカルナから感じた後ろめたい気持ちの正体は、意外とこんなところから来ているのかもしれない…と唐突にそんな事を思った。
「…言ってくれないのか?」
「…いや、その…」
追撃するも、気まずそうに視線をさ迷わせるだけだ。もじもじと指先を回し、顔を赤くして、明後日の方向を見る姿は何処か可愛らしいものだが、今の俺にとっては、若干の落胆を感じさせるものでしかない。
―ならば、最終手段をとるしかないようだな…っ!
そう心に決めて俺はそっとベルトに手を伸ばした。今もしっかりと首は固定具で固定されているし、本気で暴れられたら俺に勝ち目はないので、首を外す事は出来ない。…しかし、カルナに何かすることはできなくても、俺自身に何かする事は十二分に可能なはずだ。
―そして俺にはハンスから譲ってもらった虜の果実がある…っ!
無論、ハンスが嘘を吐いているという疑念はまだ晴れてはいない。そんな都合の良い食べ物が、本当にこの世に存在するのかと言う疑問はまだ解決もしていない。しかし、今の俺が頼れるのはその良く分からない食べ物しかないのだ。
―確かこの辺りに…あぁ、あった。
皮袋から取り出したそれは始めてみた時と同じように瑞々しい。相変わらず形も歪でハート型に近いそれをじっくり見つめると、果実独特の甘い香りがここまで漂ってくるような気さえする。…魔界の土壌で育てられた、と言うし、やはり人が食べやすいように良い匂いをさせるものなのだろう。他に魔界で育てられた果実と同じならば、その味もまた今まで味わったことの無い芳醇な甘さのはずだが…それでも俺には踏ん切りがまだつかなかった。
「あれ…?それ虜の果実じゃない。そんなものをどうして…」
不思議そうに首を傾げるカルナを見下ろしながら、俺は大きく息を吐いた。そして息を吸い込むのと同時に、決心して皮ごと果実に喰いつく…っ!
―それは予想通り甘かった。
食いついた箇所からはどろりとした白濁色の果汁が溢れ、口の中一杯に甘い香りが広がる。次いで広がるのは香りに負けないほどの果実独特の甘さだ。…しかし、負けないと言ってもそれらは決してしつこくない。甘さが広がったかと思うと、今度は匂いが、匂いが引くと、今度は甘さが…と波状攻撃を仕掛けるように、どちらともを立てる感覚は、ぷるぷるとした感触で惜しげもなく与えてくれる乳白色の果肉と相まって人を夢中にさせるのには十分過ぎる。事実、俺は一口でその果実に夢中となって、一口、また一口と齧るが、決して飽きる事はない。
―そして、食べ終わった頃には、完全に虜になっていた。
今すぐ食べたい…!と思うほどの強い中毒性こそないが、露店を見かければ思わず買いこんでしまいそうになるほど、それは美味かったのだ。ハンスが俺に渡すのを渋ったのも、今ならば分かる。あまりにも美味し過ぎて一度、食べてしまえば虜になってしまうことと…もう一つ。食べたことのあるハンスにとってコレを他人に譲るのは結構な決断力の要ることだったに違いない。それに心の中で感謝をしながら、俺は自分の身体を見回した。
―…特に何か変化は無い…よな?
ハンスはフェロモンが出る…だとか言っていたが特に変わっているようには思えない。確かに萎えかけていた股間のムスコはまだびきびきと力を取り戻し始めている自覚はあるが、強い媚薬効果と言われる魔界の植物特有のものだろう。身体から何か湧き出るような光景を漠然と想像していただけに肩透かしを食らったような気分になってしまう。…まぁ、美味い事は美味かったが、担がれただけなのかもしれない…というかきっとそうなのだろう。そんな都合の良い果実なんてあるわけは無いのだから。
―そんな風に肩を落としてため息をつこうとした俺の視界は一気に反転した。
―え…?
疑問に思う暇もなく、揺れた俺の視界はいつの間にかカルナを『見上げて』いる。白いシーツが見えていたはずのカルナの背には天井が見え、俺の背中を引っ張るように重力がかかっているのだから、見上げている…以外の表現のしようがない。
―え?なんでこんな事に…!?
混乱する俺の視界一杯に広がるカルナは少し、首に角度をつけているのでその表情までは見えない。しかし、肌を赤く染めながら、ハァハァと荒く息を吐く姿からはとても冷静には見えないのだ。…そして、そんな姿をしている…と言う事は上下逆転した今の状況はカルナの手によるもの…というのが最有力となる。
―でも、どうしてそんな事を…?
そんな風に内心、首を傾げる俺を見下ろすカルナはゆっくりと顔を上げた。…そこにはさっき取り戻した理性的なものは一切無く、発情期のメス犬という表現が一番、近い。無論、そんなカルナの顔を情事の最中だって見たことの無い俺は、驚いた。…そして、そんな俺の驚きに構わず、カルナは俺の上で腰を前後に振るい始める。前に進むときは粒粒とした部分に全体を弄られ、後ろに引けば肉の突起が裏筋を舐め上げる感覚が俺を襲った。
「はぁああっ♪ふぇいいいぃっ♪」
―ま、まさかこれが虜の果実の効果なのか…!?
舌を突き出して舌足らずの声を惜しげもなく放つカルナの様子を見て、ようやく状況を理解した俺は予想以上の効き目に思考を停止させてしまう。だって、そうだろう?半信半疑の果実の効果が現実で、しかも、さっきまで俺に呆れていた女が、惜しげもなく肢体を晒して俺の上で腰を振るほどなんだから。誰だって、信じられず、思考を止めてしまうに違いない。
―けれど、その一瞬が俺にとっての命取りだった。
その呆然としている間に、しっかりと俺の脚を挟み込み、完全に逃げられないような体勢をカルナが作り出す。まるでベッドの上に縛り付けられているようだと錯覚するほど、がっちりとした拘束は見事だ。肩もカルナの両手でベッドに縫い付けるように押し付けられていて、俺に身じろぎ一つ許す隙さえも与えない。
「うふふ…♪ふぇぇいぃ…♪」
蕩けた表情で俺の名前を呼びながら、腰を前後に揺するカルナはさながらマタタビに溺れたネコだ。しかし、泥酔しているかのように、濡れた目を輝かせ、顔を真っ赤にしている姿は人そのものである。普段、理知的であるはずのカルナが、まるで本能に溺れているかのようなそれは強いギャップを生みだし、とても淫靡だ。
「ね…ぇ…♪私ぃ気持ち良い…?」
媚びるようなその声は普段のカルナとも、最中のカルナとも程遠いものだ。彼女自身には到底結びつかないほど、淫靡なそれは、カルナに化けた化け猫が発情して出した声…と言った方がまだ現実味がありそうに感じる。
―だけど、そりゃ現実逃避だな。
目の前に居るのは間違いなくカルナで、虜の果実の効果とは言え、これは彼女の一面なのだ。本人が意図していないにしても、そこを見間違えば、きっと取り返しのつかないことになってしまう。…だからこそ、俺は自分の取った行動の責任として、今の彼女を受け入れなければいけない。
「ねぇ…応えてぇ…♪ぐちょぐちょのぉ…メスオマンコ気持ち良いぃ…?」
―けれど、そんな覚悟も、カルナの口から飛び出してきたその言葉に吹き飛ばされてしまった。
目の前にいるのが偽者では無いとちゃんと理解している。その口がカルナの口であることも、その言葉がカルナの言葉であることもしっかりと分かっているつもりだ。…けれど、その内容は、普段の彼女とはかけ離れ過ぎている。普段の、ちょっと生真面目で、自分にも他人にも厳しくて、口うるさい所はあるけれど、基本的には優しいカルナから娼婦だって言わないような淫語が飛び出してきただなんて誰が信じられるだろう。
―けれど、俺の理性とは裏腹に、俺の身体はしっかりとそれに反応する。
ぴくんっとまた一つ震えながら俺のムスコはさらに一回り大きくなったのが俺自身にも分かった。そして、彼女の言うとおりぐちょぐちょで突起と粒粒が荒れ狂う膣でそれを感じたのであろうカルナは「あはぁ…♪」と媚びるような息を吐いて、嬉しそうに笑った。
「やっぱりふぇいもぉ…いやらしい言葉が好きなのね…っ♪」
どんなに熟練した娼婦でもここまで淫靡な笑みを浮かべられるのはそうはいない…そう思うほど、劣情と歓喜に塗れた笑顔を見せながら、カルナは俺の肩から両手を離し、自分の胸に触った。そして、そのまま見せ付けるように、俺の目の前で、乳房を揉み始める。細い指がまるで別々のイキモノのように、乳房を這う姿は、まるで陵辱されているようにさえ見える。…けれど、親指の爪が乳首に触れる度に、嬌声をあげる事からも分かるように、間違いなくカルナは悦んでいた。
「私もねぇ…♪こうやっておなにぃする時に…っ♪ふぇいの事を思いながらおなにぃする時にはぁ…っ♪いっぱいえっちな言葉言うんだよぉ…っ♪」
―まるで母乳を搾るように指を食い込ませて
「この指全部ぅ…♪ふぇいの指だと思ってぇ…♪乳首ぐりぐりして悦んじゃんじゃってぇ…♪」
―人差し指と中指の間でしっかりと挟み込んで、押しつぶすように圧力をかけ
「たくさぁん…お乳搾られるの妄想してぇ…♪発情したメスのお乳飲んでくださぁい…って言いながらぁ♪オマンコきゅっきゅしながらぁイッちゃうのぉ♪」
―ぐりぐりとそれを指の間で転がしながら、膣はさらに密着し、肉茎を撫で上げてくる。
それは何より淫靡な告白で、何より淫靡な光景だった。普通であれば誰にだって言いたくは無い自慰の内容を口走りながら、それを目の前で実演する…そんな光景に、俺は一目で目も思考も奪われてしまう。その光景から目を離そうと考える余裕も起こらず、じぃと目を惹きつけられ続けていた。
「他にもぉ…♪クリトリスいじってぇ…皮も剥いて…っ♪爪でちょっと痛いくらいぐりぐりしながらぁ…一杯イかされちゃう妄想してぇ…♪一人で弄ってるのにメスチンポ弄るの許してくださいぃ…とかぁ♪」
腰の動きを一旦、止めて、彼女は実演する為に、両手を下腹部に置き、薄い茂みを押さえつけ、今も俺を咥え込んでいる下の唇を広げた。目の前でひくひくと震える突起は既に皮から飛び出て、自己主張をしている。それを両手の人差し指同士で左右から圧力をかけ、ぐりぐりと揺れるたびに、膣の中も震えて、ぎゅっと抱きついてきた。それにまた反応した肉棒が、より快楽を貪ろうと子宮口を擦りあげる。
「きゃふぅ…っ♪ふぇいのオチンポ…不満なのね…♪もっと気持ちよくなりたいのねぇ♪」
言って、蕩けた表情のままカルナは両手を俺の腹筋に置いて、ゆっくりと腰を引き上げていく。今の今まで逢瀬を楽しんでいた膣が、奪われまいと引き込もうとするが、それはムスコを悦ばせるだけで、あまり意味を成さない。そして亀頭の一部が覗くほど、腰を引き上げた彼女は、そこでぴたりと腰を止めた。
「私も…大好きなフェイと気持ち良くなりたいからぁ…手加減…しないわぁっ♪」
―宣言すると同時に降りてきた肉の檻は今まで以上にしっかりと俺のムスコを捕らえた。
今までがまるでお遊びだったかのように、突起も粒粒も肉棒へと襲い掛かる。撫で上げ、吸い込んでいくようだった突起は一本一本が絡み付いてきて、中々離そうとしない。上の粒粒も興奮の所為か、心なしか大きくなっているようで、より激しく亀頭と擦れあって独特の快感を生み出す。既に一発射精しているので、今すぐ絶頂に追い込まれるほどではないが、それでも、気を抜けば快楽に押し流されてしまいそうだ。
「あはぁぁ♪気持ち良い…っ♪ふぇいのオスチンポ気持ち良いのぉっ♪」
そんな風に抵抗する俺とは違い、カルナは既に快楽に押し流されてしまったようだった。突き出した舌からは唾液が漏れ出て、顎のほうへと伝っている。何処を見ているのか焦点の会わない瞳には意思のようなものも見えず、ただ貪欲に俺を貪ろうとするメスの本能だけは見え隠れしていた。
「ぐりぐりってぇ♪子宮のお口擦られるとびりびりするのっ♪亀頭のカサでぇ…っ♪膣の中、穿られるのも良いぃっ♪」
どんな風に感じているかを叫びながら、カルナはゆっくりとその身体を倒してきた。前屈気味になりながらも、腰だけは激しく振るい、ぐぽんと空気の抜けた音が耳に届くのが、興奮をまた高めていく。部屋中に広がるオスとメスの交わりの匂いを上書きするほど濃厚に広がるフェロモンも広がり、思考がどんどんと霞がかったかのように薄れていくのが分かった。
「ふわぁぁ♪また大きくなったぁ♪」
嬉しそうに嬌声をあげるカルナの言うとおり、俺のムスコは際限なく膨れ上がっていくのではないかと錯覚を覚えるほど、カサを大きく広げて快楽と彼女を貪っていた。頭から、根元までしっかりとカルナに包み込まれているので見る事はできないが、そこから湧き上がる感覚は痛みを感じてもおかしくないほど、突っ張っている。けれど、痛みを感じる事は無く、より広い面積で絡みついてくる膣を意識してしまうのだ。
そして、それはカルナも同じらしい。大きくなった男根をより貪ろうとぎゅっぎゅと強く締め付け、精液を強請るように絡みつく。そしてその動きはどんどんと激しさを増し、それにあわせてカルナの身体も痙攣をし始めた。
「やぁあああ♪ふぇいの精液欲しくてきゅんきゅん唸ってる子宮がっ♪下がってぇ♪こつんこつんってえええっ♪」
既に言葉も論理的なものからはかけ離れてきたカルナは、叫ぶようにそう言った。同時に腰の動きは上下へと叩きつけるものではなく、より快感を貪ろうと膣を抉るように円を描きながら、螺旋状に降りていくものになる。突起と粒粒にシェイクされ、より激しい悦楽を覚えたムスコはぱちゅんと肉と肉がぶつかる音をさせる度に子宮口と強く擦り合わされていた。その度に粒と突起で押し付けるように子宮への精液を強請る膣は強く締め付けてきてくる。
「駄目ぇ♪子宮っもう敏感でぇっ♪子宮限界ぃ♪イッちゃうっううう♪」
叫びながら抱きついてくるカルナが俺の肩を掴み、引っかかれるように立てられた指で皮を抉り取っていく。けれど、それに痛みを感じる余裕は俺にはない。四方八方からぎゅるぎゅると、まるで蟻地獄へと引きずり込んでいくかのような膣の動きに翻弄されていたからだ。無理矢理射精させられるようなそれは本能的に恐怖を感じさせ、俺は必死に絶頂を堪えようとし、身体を丸める。…自然、目の前には唇を突き出したアへ顔を晒すカルナがぐっと近くなり、より興奮を掻き立てられてしまった。
「いっ…ひゅ…♪」
高く絶頂し、体中を痙攣させ、涎を俺の身体に垂らすほど情けなくて…何より淫らな顔を俺に見せつけるカルナの腰は、それでも尚、止まらなかった。既に悦楽を極めているはずなのに、精液が子宮に貰えないのが不満なのか、こつんこつんと子宮口へ押し当てるように小刻みに振り続けている。快感に蕩けきって既に意識も飛ばしている顔を、これだけ間近で見せ付けているのに、まだ貪ろうとするメスの本能に、また強い興奮を覚えるのだ。
「ひゃあああ…っ♪ふぇいいぃ…♪ふぇい…ぃっ♪」
震える舌で必死に俺の名前を呼ぶカルナの姿に、ついに理性は完全に焼き切れた。より強く目の前のメスを貪ろうとする本能に完全に支配された俺の手は自然とカルナの胸に伸び、それを思いっきり掴む。さっき目の前で実演してくれた胸の弄り方を見る限り多少、強めの方がいいだろうと、力を込めた俺の指は弾こうとする弾力に負けず、胸に食い込んでいった。
「んあああっ♪胸っ胸ぇええっ♪」
そして、俺の思惑通り、カルナはそんな乱暴な揉み方でも十二分に快感として受け取っているようだった。だらしなく広げた肢体をふるふるといやらしく振るいながらも、嬌声をあげている。膣の中でもどろりとした熱い粘液が溢れ、膣全体が熱に浮かされたように、より熱く蕩けていくのが分かった。その熱はどんどんと高まっていき、またきゅっきゅと膣が激しく痙攣しだす。…おそらくはまた絶頂しているのだろう。落ち着く暇も無くこれだけ責められているのだから当然だ。
「胸やらぁああっ♪かんひっかんじすぎりゅのぉぉっ♪」
言いながら身を捩るカルナの動きは、未だに小刻みに上下する腰とは違って、とても緩慢だ。絶頂の余韻もまだ強く残る中でまた上り詰めているのだから、逃げる力も殆ど無いのだろう。それとも、口ではそう言いながら、本当はもっと激しいのを求めているのかもしれない。…そう思った俺はぎゅっと潰れるくらい強く、カルナの乳首を摘みあげた。
「ひゃああああああっ♪乳首摘んじゃぁイきゅっ♪またイきゅのぉお♪」
爪の先でしっかりと押さえ込み、くりくりと捻りながら引き上げると、それだけでカルナは悲鳴のような大声をあげて痙攣させた。同時に膣の中ではまた溢れんばかりの熱い粘液が溢れ、結合部からどろどろとした白濁液が漏れ出ているのが見える。ついさっき奥に注ぎ込んだ精液も混じっているのだろうが、その大部分は恐らく、本気汁なのだろう。膣を締め付け、何度も絶頂を極めているカルナの子宮から零れ落ちるのをムスコで直に感じる俺には、それが的外れな予想とはあまり思えなかった。
「いっ…あぁふぁぁああああっ♪」
悲鳴のような声をあげながら、それでもカルナは腰の動きを止めない。寧ろよりもっと激しく腰を奥まで突きこみ、子宮をぶつけるようにして悦楽を貪ろうとしている。無論、それは俺にとっても気持ち良い。上下左右、何処からも絡み付いてくる膣の中は、普通であれば今すぐにでも絶頂してもおかしくない…と思う。けれど、俺の身体と心はどこかズレてしまって、射精のタイミングが掴めないのか、絶頂する予兆すら見せない。
「いあああっ♪なんれぇぇ…っ♪なんれイってくれにゃ…っ♪」
涎で俺の胸の上に水溜りを作っているカルナの問いには答えることができない。何故なら俺自身だって詳しく分かっているわけではないのだ。こんなに気持ち良いのに射精できないなんて遅漏の疑いだってある…と思うが、さっきは普通にイけたし、しっかりと快感も感じている。その辺りから、一番しっくり来るのがその答えと言うだけで正解だ、なんて自分でも思っていないのだ。
「しぇいえき…なんで…っ♪はらま…はらみゃせてほしいのにぃぃっ♪」
―またそんないやらしい言葉言いやがって…っ!
支配欲をぐりぐりと刺激され燃え上がった本能は摘み、陵辱していた胸から手を放し、カルナの形の良い桃尻をしっかりと掴んだ。そのまま、腰を引き落とさせて、亀頭とぶつかった子宮はさらに震え、悦楽だけを飲み込みながら、また彼女を強い絶頂へと導こうとするのが分かる。けれど、俺はそれに構わず、今度は腰を上げるように力を込めて、子宮を突き放そうとする。…そして離れたところで再び、腰を落とさせるのだ。それは、さっきまでとはまったく違うオスの身勝手な抽送だ。しかし、それでも俺のメスはその激しさが良いのか、嬌声をあげて快楽をアピールしている。
「ふあああっ♪はげしっ♪はらませりゅのっはげしいいっ♪」
俺の胸の上でぴくぴくと震えながら舌足らずな声をあげる顔もまた、これが快感であると言う証左だろう。好きな女が俺のオスで蕩け、何度も絶頂を極めている…という証拠でもあるその姿に、俺の支配欲は強い満足を覚えた。と同時に、新しく湧き上がるその支配欲は、カルナの顔も全て征服しようと左手でカルナの顔を抱き寄せさせる。
「あ…っ♪」
そうして近づいたカルナの唇に俺は貪りついた。上と下、両方の口を塞ぎ、口の中一杯に広がる唾液を思うままに貪る俺は、すぐに夢中になって、カルナと舌を絡み合わせる。下の口のいやらしさに決して負けないように、激しく、いやらしく、愛しさと情欲をたっぷり掻き立てるように。
そして、そうなると俺の五感は完全にカルナで一杯となる。俺の眼は視界一杯に広がるカルナしか映さず、俺の舌はカルナの甘い唾液しか感じず、俺の肌は触れ合うカルナからの快感しか受け取らず、俺の鼻はカルナの甘いフェロモンだけを嗅ぎ分け、そして俺の耳にはカルナの嬌声と、肉と肉がぶつかり合う独特の音しか入ってこない。まるで全身をカルナに包まれたような錯覚が生まれた瞬間、いきなり俺の付け根で熱が膨れ上がった。
―な…んだこれ…!?
それは射精の予兆であるというのは分かった。射精する前のどくどくの寒気が背筋を這い上がり、本能的により奥へ奥へと進もうとする動きが激しくなっていき、ムスコもカサを広げて、奥で射精する準備を始めたのだから。けれど、その規模は明らかにおかしかった。そこだけがまるで火でも灯ったのかと、錯覚するような熱はどんどんと俺の肉棒を駆け上がり、子宮へと進んでいき…同時に、俺の身体に今までに無いほどの快感が襲う。
「ひゃああああああああああああああっ♪」
叫ぶカルナの腰を逃がさないようにしっかりと捕らえながら、俺は何度も続く射精の波に堪えようと、歯を食いしばっていた。しかし、今までのツケを全部払わそうとするかのような射精は、一度や二度では決して収まらない。一度目が終われば次が、その次が終わればまた次に…と精液を全部流し込もうとするかのように絶頂が何度も何度も続く。まるで女のイきっぱなしの状態のように絶頂が止まらないほどの快感に恐怖すら感じながら俺は薄れそうになる意識を必死で繋ぎ続けていた。
「…ふぁぁ……んは…ぁ…♪」
そして…どれくらい経った頃だろう。意識が吹っ飛んでいたのか気がつくと、俺の上ではカルナが倒れこんで、甘い吐息を吐きながら、時折、膣をぴくりと痙攣させていた。お互いの肌に浮かぶ汗と汗が擦れ合い、独特の鬱陶しさと…何処か艶かしい感覚を感じながら俺は力の入らない手を必死に動かして、カルナの背を抱きしめる。…同時にべとべととした汗の感覚が、またじわりと広がるが、心地良い倦怠感もあってか、それほど不快ではない。
「ん…っ♪」
それはカルナも同じなのだろうか。抱きしめた腕に甘えるような声を漏らして、身動き一つしようとはしなかった。勿論、身体に殆ど力が入らないから…というのも理由の一つなのだろうが、ようやく吐き出された精液をじっくりと味わうように、目を閉じて身を委ねている彼女が汗の感覚を今更、嫌うとも思えない。
「…うふふ…♪すっごい…出たわねぇ…♪」
―こんな嬉しそうな表情もしてることだしな。
言いながら、ゆっくりと目を開けるカルナの表情は交わりに満足しきったメスのようだ。いや、オスに身を委ね、甘えた表情を浮かべながら時折、膣を締め付ける姿はまさにその通りなのだろう。
―そしてきっと俺も、目の前のメスとの交わりに満足している表情を浮かべているはずだ。
これだけ激しい交わりだったのだ。満足しないはずはない。精も根も尽き果ててて、もう出せるものは何も無い……はずだった。
「でもぉ…ここはこぉんなにまだ元気ねぇ…♪」
言いながらきゅっと締め付けられた『そこ』は確かにまだびきびきと青筋を浮かべて反り返っている。意識が吹っ飛んだのか、そうでないのかさえ定かでは無い射精をあれほど味わったというのに、まだまだ、と快感を欲しがるようにカルナの膣に包まれながら震え続けていた。
―でも、とりあえず今は休ませてくれ…。
そう言葉を放つ前に、カルナは意味ありげな笑みを唇に浮かべながら、その腰を大きく振るった。最初はじっくりと味わうようなその動きは加速度的に早くなり、あっという間に部屋中に肉同士の弾け飛ぶ音が広がり始める。
「あはぁぁぁ♪素敵…っ♪」
肉体的にはともかく精神的には休養を必要としている俺とは裏腹に、カルナはまた激しく悦楽を貪り始める。それを静止しようと口を開いた俺は、言葉を放つ隙も無く、口中を彼女の唾液で一杯にされた。…まるで、俺の静止の言葉を聞きたくないとするその仕草に…ついさっきハンスが酒場で言っていた言葉を思い出す。
―確かあいつは…デュラハンも押さえ込まれているだけで本質は一緒だって…。
それが虜の果実で引き出されたのが、今の姿なのだろう。…そう思うと、ハンスがこの果実を渡すのに迷った理由が何となく推察できた。…無論、ハンスにとって、これが美味しいものであり、渡したがらないというのも、渡したら同じように夢中になるのでは、と懸念していたのもそう的外れではないのだろう。…けれど、多分、一番の理由は…。
―精液を全部搾られきって、腎虚で死ぬ事を心配していたのでは無いだろうか。
無論、魔界の魔力をたっぷり吸った果実はその実いっぱいに強壮効果を溜め込んで、あれほどの射精を繰り返したのに、萎える気配はない。…けれど、目の前でまだまだと無限とも思える貪欲さを見せるメスの前には何時か枯渇してしまうだろう。…その時、俺がどうなるのか、考えるのも恐ろしい。
「もっとぉ…っ♪もっとぉぉぉっ♪大好き…っ♪大好きなふぇいにはらませてほしいののぉぉっ♪」
唇から舌を離し、まるで免罪符のように好きと叫びながら一心不乱に俺を貪るカルナの姿を見ながら、俺は長い長い快楽の坩堝へと落ちていった…。
〜おまけ〜
―流石にちょっとやりすぎたかもしれない…。
そう思うのはやはり私の下で気絶したフェイの姿を見下ろしているからなのだろう。フェイが虜の果実を食べてから…十何回ほどの射精でついに彼が力尽き、意識を完全に飛ばしてしまったのだ。主が気を失っても、身体はまだまだ元気で、勃起した男根が私を貫いているが、流石に眠っている状態でまで精を搾るほど理性を失ってはいない。
―それにしても虜の果実にあんな効果があるだなんて…。
同じ部隊の先輩たちは、「仲直りには虜の果実を食べさせるのが一番よ」と良く言っていたが、今ではその理由が良く分かる。…最初はいきなり何をしているのかと呆然としているだけだったものの、いきなり子宮がきゅんきゅん疼いて、フェイの精液が欲しくてたまらなくなってしまった。彼の身体からぷんぷんと匂うオス臭い香りにも思考が支配され…精液を強請る為に沢山、エッチなことも言った気がする…。さらには彼の気を惹こうと好きだ大好きだなんて数え切れないくらい…口走った。
―あぁああああっ!次はどんな顔をしてフェイに会えばいいのよ…っ!!!
完全に虜の果実の所為にするか、それとも自分の気持ちであると認めるのか…どっちにしても茨の道にしか思えない私は心の中でこっそりと頭を抱えた。
―…それもこれも全部、この男の所為。
私をこんなにも悩ませる男は私の苦悩なんてまったく知らず、すやすやと寝息を立てている。その姿は普段、私にちょっかいをかけてくる悪ガキのような男とは到底思えない。普段からくだらない冗談や、下ネタばかり言って、私の気を惹こうとする子供なのに、私が悩んだり、辛い時には誰よりも一番早く気づいてその悩みを聞いてくれる聡い男だとは思えないのだ。
―…それなのに、変な所で鈍感なんだから。
自称私が初恋の男はどうにも女心にだけは鈍く、私を何時もやきもきさせる。私が隣にいるのに、声をかけてきた魔物娘にデレデレするだなんて、どうかしているとさえ思うのだ。
―すぐ隣には何時だって、告白してくれるのを待っている女がいるのに。
まぁ…自分でもちょっぴり素直ではないと思うけれど、『あの時』だってようやく結ばれた事と責任を取るって言葉が嬉しくてつい泣きだした顔見られたくなくて、また寝起きに夢だと思って甘えまくっている姿を見られたのが気恥ずかし過ぎて、思わず追い出したけれど…それでも、今にも襲い掛かりそうな本能を必死に抑えて告白してくれるのを律儀に待っていたのに。
「…はぁ…」
思わず口から出たため息は自分でも思ったほど…形式めいたものだった。…実際、そんな関係を私はそれほど嫌っていない。仲の良い同僚でよくじゃれあう相手…というのは、やはり物足りない関係ではあるものの、私と彼の一番良い立ち位置だったのだろう。…それは何となく私にも理解できる。だからこそ、私は今の関係を壊すのが怖くて、結局、自分から告白できなかったのだから。
―…でも、その関係はもう変わってしまう。
良くも悪くも私たちは一歩前に進んだ。ちょっとしたすれ違いを乗り越えて、色んな人やものの助けを借りて関係が変わった。…それはもう止めることはできない。
―それなら…仲の良い夫婦で良くじゃれあう相手になれば良いのよね。
ずっと怖くて、フェイが自殺騒ぎを起こしたと聞いた時に落ち込んだ私を慰めてくれたリリィ先輩のように。じゃれ合い、慈しみ、愛し合い、尊敬しあう関係になれば良い。…それはきっと、同僚…と言う関係よりは素敵なものになるだろう。そんな予感がはっきりと私にはあった。
「うぅん……」
そんな私の下で苦しそうにフェイが…私の恋人が呻いた。悪夢でも見ているのか身を捩ろうとしながら、うっすらと目を明けて、虚ろな目で私を見上げる。…瞬間、再び覚醒した主人を喜ぶように、ぴくりと膣の中の男根が震え、べっとりと吸い付いた子宮口が快楽に悦んだ。
―まぁ…でも、その前に…もうちょっとこの『情事』を楽しもう。
「おはようフェイ…♪さぁ…また続きをしましょうねぇ…♪」
微笑む私と対照的に頬を引きつらせる私の未来の旦那様を見下ろしながら…私はさっきの快感を再び味わおうと、理性ごと快楽の坩堝に飛び込んでいった。
10/10/12 22:03更新 / デュラハンの婿
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