読切小説
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Do you have a lamp?
 今年の収穫を終え、冬耕作の準備までは各々のつかの間の休息を過ごす、私たちの村。
 大人たちはそれぞれ酒場で労をねぎらい合い、子供たちは昼間から村の周りを駆けて遊ぶ。
 楽しい時間。しかし、それゆえに過ぎ去ってしまうのが恐ろしくもある時間。特に、村の子供たちの中でもほとんど最年長といっていい私たちは、楽しさと同時に一抹の寂しさも覚えていた。
 体が大きくなるにつれ、迫ってくる「子供」からの卒業。私たちがこうして無邪気に外を飛び回っていられるのも、今年が最後なのだろう。
 年が明ければマルスは畑を持ち、私やメリー、アイリは家の中で家事に追われる日々が待っている。そんなことは、子供ながら簡単に想像がついた。
 そして、そう遠くない未来。マルスはお嫁さんを貰い、私たちはそれぞれどこかに嫁ぎ、そこで新たな日々を過ごすのだ。
 もちろん、それも一種の幸せだということは分かっている。辺境の村の中には、いつ戦火に飲まれてもおかしくない村や、あっという間に魔物の軍勢に飲まれてしまった村もある。そうした村々に比べれば、何気ない日常を当たり前のように享受できることは、この上ない幸せだ。
 しかし、それでは納得できない部分があるのもまた、確かなことなのだ。
「おーい。おーい、アンジュ。どうしたの? アンジュ」
「………。あら、どうしたの? マルス」
「どうしたの、じゃないよ。さっきからどこか遠くをぼーっと見つめて。どこか具合でも悪いの?」
 一人、草原に寝そべって物思いにふけっていると、心配してくれたのかそばにいたマルスが私に声をかけてきた。慌てて、しかしあせりを押し隠して私は彼に答える。
 マルスは黒い髪に黒い目を持つ、中性的に整った顔立ちを持つ細身の少年だ。これでいて力はなかなかに強いのだが、まるで少女のように華奢で細身な体つきをしている。
「あら、ありがとう。心配してくれたの?」
「そりゃ心配するさ。この村からお医者さまのいる町まで、馬で一刻はかかるんだよ?」
 マルスは、本当に大丈夫? と寝転んだままの私の目を覗き込むように顔を近づけてきた。彼の黒曜石のように澄んだ黒い眼と、至近距離で目が合う。
 性格は穏やかで、物腰は紳士的。言動にはわずかな幼さを残すものの、それも十分かわいさに分類されるものだ。衛士たちの詰め所で剣を習っているらしく、既に下級の魔物ならば一人で相対することができる程度には剣を修めているらしい。
「……ん、大丈夫みたいだね。つらくなったらひどくなる前におじさま達に言うんだよ」
 そう言って、マルスは私から顔を離した。
「子供じゃあるまいし。平気よ。自分のことは自分が一番よく分かってるわ」
 マルスが顔を離したことに安堵しつつ、少し残念に思いながら私は答える。
 マルスは優しくて力持ちで、奢ったところの全くない本当によい少年だが、あえて一つ欠点を挙げるとするならば、それは――。
「マルスー! ちょっと来てー! 木に帽子が引っかかっちゃったのー!」
「ああ! 今行くよ! ……じゃあ、ちょっと行ってくるよ。アンジュもおいで」
 誰にでも優しい、ということだ。
 すべての人に等しく優しさを持って接することができるのは、一見彼の美徳だ。もちろんそれが美徳として見なされる場合も多いだろう。私だってそれが彼でなければ、その人物を賞賛したはずだ。
 しかし、私が彼に思いを寄せているとなれば話はまったく別。その瞬間、その美徳はあいまいな笑みで好意を受け流す悪徳へと変わるのだ。
 今も彼は、少し離れた位置にいるアイリの呼びかけにすぐさま答えて走り出そうとしている。
 もちろん、呼んだのが私であったとしても彼はすぐに駆けつけてくれるだろう。しかし、それは誰であっても同じということなのだ。私が彼の特別だから、ではない。
 彼の中で特別でありたい。そう思うと、私の心は少しだけ、叶わぬ想いに痛んだ。
「ん……私はいいわ。もうちょっとここで、空を眺めてく」
「そっか。じゃあ、本当に風邪を引かないようにね。まだ冬は先だけど、今年は冷えるから」
「……私の事はいいから、早く行ってあげなさい。アイリがまた泣き出すわよ」
 その言葉に、おっと、と駆け出すマルス。その姿に、また心が締め付けられるような痛みを覚える。
 私はいつもこうだ。そばに居てほしいという本音を悟らせないために、あえて強がりを言ってしまう。本当はその本音に気づいて欲しくて仕方がないはずなのに、いつも、いつも。
 彼がこれっぽっちも私に気のあるそぶりを見せないから、どこかで意地を張ってしまっているのかもしれない。
「はぁ……素直になれないなぁ……私」
 空を見上げ、アイリのために木に登るマルスを視界の隅に収めながら、私は一人つぶやくのだった。

     ◆

 仕事を免除され、冬耕作が始まるまでの間のつかの間の休息にも、当然ながら夜はやってくる。
 夜は人の時間ではない。月の出る、魔の支配する時間だ。
 衛士という、村を守るための衛兵の詰め所で見習いをやらせてもらっている僕は、週の決められた日は仕事を早く切り上げ、夜の警備につかせてもらっていた。その仕事は耕作とは違い年中無休、一日たりとも警備を緩めることはない。
「おう、マルス。今日も早いな」
「こんばんは、隊長。今日の僕の当番はどこでしたっけ?」
 小さな砦のような外見の詰め所に入ると、奥のテーブルに腰掛けて装備の手入れをしていた隊長が声をかけてきた。大柄な、ひげの似合う親父さんといった風情の人である。
 面倒見の良さと人柄から衛士の面々からも慕われており、一部の古参の衛視たちからは「親父」呼ばわりされるなど、人情に厚い人物だ。
「お前さんの今日の見回りは………南の丘の方だな。ルートが分かってるなら、早めに始めても問題無いぞ」
 当番表を見て答える隊長。
「あ、丁度今日の昼に行った場所です」
 今日の僕の受け持ちの場所は、アンジュたちと昼に出かけた場所だった。普段はそんなに出かける場所ではないものの、今日行ったばかりのおかげで地形は頭に入っている。
 それに、南側はあまり魔物が出ないと聞いているので、ラッキーな場所だった。
「おお、そうか。じゃあ頼んでも問題なさそうだな。よろしく頼むぞ」
「了解です。隊長」
 僕は手早く鎧を身に着け剣を帯び、おどけた風に敬礼をして見せた。


 衛士詰め所を出発して半刻ほど。
 まだ本格的な冬は訪れていないというのに、夜の風は冷たかった。普段着の上にまとった皮鎧と分厚い外套がその寒さを和らげてくれるものの、簡単な額あてしかしていない顔は凍えるような寒さにさらされている。
 吐く息は白く煙り、思わず僕はぶるぶると身を震わせた。
 村の周辺は地形的な問題で、昼は比較的暖かいが夜冷える。昼間の陽気がうそのようだ。
 月光が照らす南の丘の周辺は、明かりがないと視界が利かないくらい真っ暗だった。こんなにも寒く、こんなにも暗い場所を夜出歩く人間は、まずいない。
 いるとすればそれは僕のような衛士か、さもなければ――。
「誰だ!」
 僕は詰問の声を飛ばしつつ手に持ったランプを掲げ、全身を緊張させながら腰の剣に手をやった。
 僕のような見習いを含め、村の衛士たちは皆ランプを持っている。そうでなければ今日のように暗い夜は視界が悪く、警備などできないからだ。それはもちろん人間の旅人も同じであり、もし旅人たちが夜出歩くことがあったとしても、必ず彼らは明かりを持っているものだ。
 しかし、僕の見つけた人影は明かりの類を何も持っていなかった。
 こんなにも寒く、こんなにも暗い夜に出歩く人間はまずいない。いるとすれば、それは僕のような衛士か、さもなければ魔物だ。
 案の定、人影は、甘ったるい艶を含んだ声で答えた。
「アハッ、見つかっちゃったか〜」
 その声と共に、僕の掲げたランプに声の主の体が闇から引きずり出される。
 まず最初に目に入ったのは、ランプの光を反射して白く輝く髪だった。続いて血色の瞳を持つ白い貌、可愛らしさと艶やかさをブレンドしたような衣服に包まれた肢体が光の下にあらわになる。
 女の子だった。しかし、人にない異形を持った。
「どうもはじめましてかなっ! かっこいいお兄さん。アタシといいコトして遊ばない?」
「君が普通の女の子だったら応じるのも素敵だったけど、そういうわけにはいかないよ」
 ランプを腰に固定し、剣を抜く。同時に、僕は首から提げていた笛を思いっきり吹いた。すると、一拍遅れて西と東から笛の音が返ってくる。
 僕の呼笛に呼応した旨を乗せた返笛だ。遅くとも数分後には、二人の衛士が増援で駆けつけてくれる。
「村には、守りたい人がいるんだ」
「へーえっ! なんか素敵だねっ!」
 剣を向けているというのに、あくまで緊張感のない少女。こちらに近寄ってくるわけでもなく、ただにこにことあどけない笑みを僕に向けている。
 そんな相手に切りかかるのもためらわれて、僕は剣先を下げて言った。
「村を襲う気が無いのなら、悪いけれど立ち去ってくれないかな。僕は君みたいな女の子と戦いたくない」
「うわー、やさしいんだね、お兄さん。今逃げたら許してくれるってコト?」
「この村に手を出さないって、約束してくれるなら」
「わーっ! やさしくて、かっこよくて、それに結構強そうだねっ! アタシ惚れちゃいそう!
 あ、でもでも、お兄さんってモテるよね! お昼も女の子一杯連れてたもんね」
「昼………?」
 角のある少女の言葉に引っかかりを覚え、僕は思わずつぶやく。
 その意味にたどり着いて、僕は下ろしていた剣を再び構えなおした。
「いつから見ていたっ!」
「アハッ、バレちゃった? お兄さんモテモテだもんね。アタシが入る隙間はないかぁ……」
「ずっとこの村を狙ってたのか?」
 今日の昼、僕たちがこのあたりで遊んでいたのを知っていたということは、いつごろからかこの村に狙いを定めていたという事なのだろうか。
 もしそうであるなら、剣に訴えてでもこの少女を追い払わねばならない。
「もう、お兄さん。せっかくのお顔がだいなしになっちゃうよ」
「言ったろ、守りたい人がいるって。そのためなら怒りもするさ」
 怒気を少しだけ和らげて言うと、角のある少女はやっぱり純粋な疑問の表情を浮かべて、可愛らしく小首をひねる。
「守りたいヒト? 守りたいヒト達じゃなくて?」
「え、それは、えっと………」
「ふーん、ふーん。なるほどなるほど……。アタシ、気づいちゃった! へーぇ、なるほど、そうなんだぁー」
 何かに気づいた女の子は、にやりと悪戯っぽい笑みを浮かべて、くるりと僕に背を向けた。ふわりと一瞬広がったスカートから尻尾をのぞかせ、まるでさよならをするようにふるふると左右に揺らす女の子。
「ふふふー。今日のところはこれでかんべんしてやるー! あははははっ」
「えっ? ちょっ」
「じゃあねー! 見回りがんばって! バイバーイ!」
 それだけ言うと、女の子は本当に僕に背を向け、真っ暗な丘に向けて走り出してしまった。そのまま10歩も進まないうちに彼女の姿は闇に包まれ、見えなくなってしまう。
 魔物と相対しているという緊張から一気に置いてきぼりにされた僕は、後を追いかけることも剣をしまうことすら忘れて、その場にへたり込んでしまう。
 そこに、ようやく笛で呼んだ先輩の衛士が駆けつけてきた。長い槍を携えて、油断なくあたりを見渡している。
「おーい、マルスの坊主! 魔物はどこだぁ!」
 どかどかと足音荒く走ってきた大柄な先輩に、僕はへたり込んだまま答える。
「今まさに……逃げていきました……」
「おお! 一人で追い払ったか! やるじゃねぇか坊主!」
 先輩に、わしわしと頭を撫でられる。
「ここは俺がやっといてやる。今日はもう戻ってろ坊主。よくやったな」
「……はい!」
 なんというか、複雑でなにがどうなったのかよく分からない経緯だったものの、すっかり疲れたのも確かで、先輩の心遣いが身にしみた。

     ♥

「さぁて、恋愛沙汰でお悩みの迷える子羊ちゃんがふたり……。ここはアタシの出番かなっ」

     ◇

 朝やらなければいけない仕事だけを済ませてから、私達はマルスの家へと集まった。
 本当なら今日もどこか村の外に出かけて遊ぶ予定だったのだが、珍しくマルスが自分から家へと誘ってきたのだ。
 マルスの家は村に時折訪れる旅人に一泊の宿と食べ物を提供する小さな宿も営んでおり、一階は村の大人達も飲みに来る酒場になっている。酒場は昼間の間食堂としても営業しているので、私達も時折食べに集まることがあった。
 マルスに誘われて、私やほかの少女達が断るはずもない。きっちり三人とも、マルスを合わせれば四人が、彼の家に集合した。
「聞いたわよ、マルス。昨日……今日はお手柄だったそうね」
「アンジュ……耳が早いね。あれはお手柄というか、運がよかっただけだよ」
 それとなく朝耳にした情報で彼をほめると、マルスは苦笑とも微笑ともつかないあいまいな笑みを浮かべた。
「え、マルスがどうかしたの?」
「魔物を追い払ったんですって。朝、教会のシスターさんが褒めてたのを聞いたわ」
「すごいわねぇ!」
 メリーが聞いてきたので私も聞いたままを答えると、彼女はアンリと共に賞賛の言葉を口にした。
 確かにすごいことだ。魔物といえば、人類の天敵であるのに。いくら剣を修めているとはいえ、それで危険がなくなる訳ではない。
「それも、一人で、なんてね……」
「やめてくれよ。そんなにたいした事をしたわけじゃない」
 私の呟きを耳ざとく聞き取ったらしいマルスが、少し照れ気味に言う。
「いいえ、これはすごい事よ! きっとそのときのマルスはかっこよかったんでしょうね!」
 マルスに抱きつかんばかりの勢いでメリー。
 それを少し覚めた目で見つめながら、私は注文していた薄めた果汁のジュースを傾ける。
「ありがとう、みんな……。こうしてもらえると、僕も守りたいものを守れたって気がしてくるよ」
 そう言ったときのマルスの目が私を見ていたような気がしたのは、きっと私の心が生んだ幻想だろう。
 都合のいい願望……それに身を任せてしまえたら、どれほど心地よいことか。しかし現実のマルスはあいまいな笑みを浮かべたまま、誰に寄るでも離れるでもなく微妙な距離を保ち続けている。
 やさしいのは美徳だが、それを自分だけに向けて欲しい……そんなのは恋する乙女の勝手な願望だというのは分かっている。メリーもアンリも友達だ。出し抜くようなことはしたくない。
 でも、やっぱり――。本人の意思を差し置いてくよくよと悩む自分に、思わず私は目を閉じた。
 私が一人で自己嫌悪に陥っている間に一通りメリーとアンリがマルスを褒め殺したところで、昼の訪れを告げる教会の鐘が鳴った。
「あ、あのね、マルス」
「私達、クッキーを焼いたの。今日のお昼に焼きあがるように」
「もしよかったら……食べてくれる?」
 その鐘を待っていたかのように、メリーとアンリが言った。マルスは一瞬きょとんとした表情を見せたものの、またいつものあいまいな笑みになって、
「あ、ありがとう」
 と言った。
「じゃあ、持ってくるわね」
 妙にうきうきと、ふたりは席を立ってマルスの家を後にした。私はそれを見送って、再び果汁の入ったコップを傾ける。
「ねえ、アンジュ……」
「どうしたの? ああ、悪いけれど私からは何もないわよ? あのふたりがクッキーを用意してるのだって今知ったんだし」
 知っていれば私も混ぜてもらうなり、何か別のプレゼントを用意するなりしたんだけれど、と心の中で付け足す。
 しかし、彼はそうじゃないと首を左右に振った。
「さっきから、元気ないよ。何かあったの?」
「あなたのその優しさが苦しいのよ」
 とは流石に言えず。
「あら、優しいのね」
「茶化さないで。本当に大丈夫?」
 その優しさが私だけに向いているのならね。
 もし、私とその他のすべて、どちらか選べと言われたらあなたは選べる? 選べないでしょう?
 そうよね。分かってるわ。あなたはそういう人。だから苦しいのよ。
 心の声が荒れ狂う。なんで私は苛立ちや悲しさを抱いているんだろうか。彼は悪くない。悪いのは私なのに。
「大丈夫よ。私は元気だから」
「……。何かあるなら、本当に相談してよ? 僕だって男なんだから」
 相談したら私を選んでくれるの?
 危うく言葉になりかかった心の声を飲み込んで、私は頷いた。
 丁度そのとき、酒場のドアが開いてメリーとアンリが戻ってくる。二人とも、手には綺麗に手編みされた籠を持っていた。
「お待たせ! マルスもアンジュも一杯食べてね!」
「ああ。……アンジュ、食べようよ」
 マルスはなにもわかってない!
 彼のその声を聞いた瞬間、私は反射的に立ち上がっていた。涙腺やら堪忍袋の尾やらさまざまなものが一斉に崩壊ないし切断され、それを隠そうとしたが故の行動だった。
「帰るわ。今日は体調が悪いの。ごめんね」
 先ほど「元気」と言ったばかりで透け透けの嘘だが、もうそんなことはどうでも良かった。一刻でも早くこの空間から脱出したかった。
 カウンターにお代のコインを叩きつけるように乗せ、籠を持ったまま立ち尽くしている二人の脇を顔も見ずにすり抜ける。歩いていられたのもドアを抜けるまでで、酒場のドアをくぐった瞬間私は家に向かって全力で駆け出した。
 あふれる涙を、ぬぐうことすらせず。


「うわぁぁあああぁあああん………」
 もう何も考えられない。家に帰ってまっすぐ自室への階段を上がりベッドに飛び込み、枕に顔をうずめて私は泣いた。
 アレは駄目だ。駄目駄目だ。あのままでは、私は突然何の前触れもなく癇癪を起こし、そのまま八つ当たり気味に場をかき乱しただけのおかしな女になってしまう。
 しかし、
「いやー、あれはマルスが悪いよ。あんなに乙女心がわかんない男だとは思ってなかったよっ」
 と思う自分も居て………。
「ぅ……誰?」
 違和感を感じて思わず声を上げた。
 まるで私の心の声のようにさらりと会話に混じったのは誰。
「アハッ、見つかっちゃった」
 私が聞くと、そのあどけない少女のような声は案外あっさりと返事を返してきた。
 声のしたほうを見ると、そこには白い髪と白い貌をした、赤い目の少女が私のほうを向いて立っていた。
 彼女は村娘の私では見たこともないような奇抜な、可愛さと色っぽさを両立させたような不思議な服に身を包んでいる。肌を大胆に露出する服装だが、その少女にはなぜかよく似合っていた。同じように、可愛らしい翼や角、やじりをデフォルメしたような先端の尻尾も彼女の小悪魔っぽさをうまく引き立てていた。
「さてっ、恋の問題でお悩みだよね? このアタシがどんな問題でもズバッとすっぱり解決してあげようっ!」
「うぅ……本当に……?」
「任せたまえっ!」
 少女はそう答えると部屋の隅から歩いてきて、まだベッドにうずくまって泣きべそをかいていた私をやさしく抱き起こした。
「ホラ……泣いてちゃ、せっかくきれいなのにもったいないよ?」
「うん……ありがと……」
 少女はそう言って優しい手つきで私の涙をぬぐった。
 しかしその優しさが心にしみて、いったんは止まったはずの涙が再び溢れ出す。
 マルスの持つ、わけ隔てない優しさとはまた別の優しさ……。たとえるなら母性のような、慈しみの優しさだった。
「……あなたは…女神さま?」
 そんなわけはない。
 その問いに、少女は嬉しそうに目を細めて答える。
「女神様かぁ……なんか素敵だねっ。でも違うよ。アタシはただの、悪い悪い魔物だよ」
「そう……でも、構わないわ……。教えてくれるの? マルスを私のものにする方法……」
「ふふふっ、お姉さん、その考え方はとっても魔物的だね。男の子をものにしたいんでしょ……?」
 しゅるり、と布のこすれる音がした。その瞬間、まるで魔法のほうに私の衣服がすべてはだけ、少女の手に奪い去られる。
「だったら、こうしちゃえばいいんだよっ!」
 あっという間に下着だけの姿にされあっけにとられている私を、翼のある少女はベッドに押し倒した。
「ひゃう!」
 ほとんど裸の状態で倒されて、驚きと羞恥で声を上げる。
「恥ずかしい? 言ったでしょ? アタシは悪い悪い魔物だって」
 反射的に抵抗しようとした手を少女に払われ、下着にも手をかけられる。少女のやろうとしていることを今更ながらに悟り、かっと頬が熱くなった。
 それを見たのか、翼のある少女はにやりと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「でも、平気だよ。教えてあげるからさ……いろいろと」
「あっ……ん! な、何するの……」
 少しだけずらされた下着の隙間から、細い少女の指が差し込まれたのを感じた。その刺激に思わず震えた声を上げ、体を動かしてしまう。
 ほんの少しだけ差し込まれた指はぬめりけを帯びた私の愛液を絡ませ、それをまぶす様にゆっくりと動き出した。
 ああ、悪魔だ。私の目の前の少女は、決して女神などではない。
 しかし、私の直感は遅すぎた。今や、私はその悪魔の虜囚。囚われた今となっては、彼女の指先と気まぐれにもてあそばれる他ない――。
「んん……っ」
 思い切り叫べば、下にいる両親に聞こえてしまうかもしれない。今まで感じたことのない快感に飲まれかけながら、そんなことを考えて嬌声を殺す。
 少女の指は、早くも乱れ始めている私とは違い、あくまで静かにゆっくりと私の秘裂を撫で上げ続けた。
「これだけでこんなに感じるんだぁ……すごいねっ」
「ね、ねぇ……は、恥ずかしいよぉ……。んぁ……」
 恥ずかしいと言いながらも、私の口はだらしなく笑みの形にゆがみ、よだれが滴りそうになっている。
 抵抗しようと体を動かすが、力が入らない。快感に脳までしびれて、うまく体が動かせなかった。
 それなのに、少女の指がもたらす刺激にたいしては、体は愚直なまでの反応を返す。早くも、自分の体の動きが制御できなくなりつつあった。
「ああっ…ねぇ、もう……やめようって……だめぇ……」
 未知の快楽に目を見開き、乾きかけの涙を再びこぼれさせながら、今までに感じたことのない感覚に恐怖する。
 やめてと懇願しているのに、身体はもっとやって欲しいとばかりに少女の手にあわせて腰を動かしてしまうのだ。その淫らな動きが恐ろしくて、私は思わず逃げようとする。
「駄目だよっ、お姉さん。教えてって言ったのはお姉さんじゃない」
 しかし、逃げようとする私の体を絡めとるように固定し、小悪魔的な笑みと共に少女は言った。
 その笑みの、なんと妖艶なことか。顔そのものはあどけない少女のものであるのに、まるで何十年、何百年と生きた老獪な妖女のような表情だった。
 その囁く言葉は、あくまで甘い。
「だからって……こんな……はぁん…」
「ほらほら。想い人を虜にするためでしょ?」
「うぅ……」
 口でなんと言っていようと、私の体は正直に快楽に反応する。しまりのない口からはついによだれがあふれ出し、同じく下の口からも蜜がこぼれ始めた。
 私はそれが恥ずかしくて、その痴態を見せまいと体を捻ろうとする。
「や、やぁ……見ないでっ…はぁ……」
 すると、少女はそれを感じたのか、今までの緩やかだった手の動きを変えた。
「ふふ、もうすっかりべたべただねっ。お姉さんって見かけによらず淫乱なんだ。ほら、もうお豆さんもすっかり大きくなって」
「ひぁああ……っ! ら、だめッ! そこ、んぁああ!」
「叫んでもいいよっ! 声は聞こえないから」
 今や、私は自分から股を開き、おねだりをするように少女に向かって突き出しているような姿勢になっていた。例えるとするなら、犬の服従の姿勢。
 いつもの冷静さなどかなぐり捨てて、私は言葉を忘れたように嬌声を垂れ流す。
「き、きもひいいいよぉ……! あぁ……!」
「えへへ、そうでしょっ! じゃあ、とっておきをあげるね!」
 そう言うと、少女は私の愛液まみれになった指を秘部から抜いた。一筋の銀糸が名残を惜しむように橋をかけ、それも半ばで途切れる。
 とたん、すっと覚めていくような感覚が私を襲った。
「いやぁ! もっとぉ、ねぇ……っ」
「えいっ」
 それを一言で例えるとするならば、巨大なハンマーで頭を思いっきり叩かれた感じだった。きたと思った瞬間には、全身が甘くしびれて何も分からなくなってしまっている。
「ふああぁぁぁあああぁあああああッッ!!」
 気がつけば、私は体を少女に押さえつけられたまま激しくのけぞり、体を震わせていた。ただどろどろに溶けてしまったかのような感触と圧倒的な快感だけがある下半身は、私の意志とは無関係にびくびくと痙攣している。
「でてるッ……あついの……!」
「えへへ……これでお姉さんもアタシの仲間だよっ! もう、ややこしいしがらみなんて関係ない。好きな人と、好きなことしてればいいんだよ」
「ああぁぁ……」
 息が苦しい。少女の声が遠い。
 意識が白く塗りつぶされそうになる中、マルスのあいまいな笑いが浮かんできて、私はその幻に手を伸ばしそうとして、ぷっつりと意識を失った。

     ◆

 すっかり日も落ち、メリーとアイリを見送って数刻。パンとスープの簡単な夕食を採り、僕は自室で武具の手入れをしていた。
 僕の武具は衛士詰め所から貸してもらっている古いものなので、手入れを怠るとすぐにそれが実戦に響いてしまう。戦場で信頼できるのは自分の腕と武具だけだと先輩方から教えられて、一日たりとも手入れを欠かしたことはなかった。
 古びたショートソードの、何度も何度も丁寧に研がれた跡のある刃に、目の細かい砥石をかける。この研ぎ跡は、僕の先輩の先輩の……と跡をたどることのできる由緒あるものなのだろう。
 普通、一本の剣をこれほど長く使うことなどできない。折れるか、欠けるか、いずれにせよ世代をまたぐ間に使えなくなってしまう消耗品だ。それでもこの剣がずっと受け継がれているのは、今までの使い手の手入れと、この村の平和さを象徴しているのかもしれなかった。
「剣なんて……使わないなら、そっちのほうが良いからね……」
 昨日出会った、角のある少女を思い出す。あの時は義務感から剣を向けたが、もし出会ったのが昼間の酒場だったなら、もしかしたら友達になれていたかもしれない――。
 もし腰に剣がなかったら、もし彼女に角がなかったなら――そんなことは考えるだけ無駄なのかもしれないが。
 独り言をつぶやき、とりとめのない思考にふけっている間に、体は剣の手入れを終え、仕上げに乾いた布で刀身についた汚れをふき取っていた。
 剣の手入れを終え、あらかじめ汲んできてあった桶の水で手を洗い、昼間に食べ切れなかったクッキーを一つつまむ。その甘い味に昼間の出来事を思い出し、僕は思わずつぶやいた。
「アンジュ……どうしたのかな」
 少し前から元気がないように思える幼馴染の少女。特にここ最近は、何か思い悩んでいるようだった。
 魔物を追い払ったことだって、本音を言えば、もっと彼女に喜んで欲しかった。君を守れたよと、声に出して言いたかった。
 もちろん、そんなことは言わないが。彼女が思い悩んでいるのなら、なおさら一方的な好意をぶつけるわけにはいかない。
 それでも、心配なものは心配だ。
「明日……たずねてみようか」
 そう思って、ふと窓の外を見ると、いつの間にやら外は雨が降っていた。それを認識してから、少し遅れてずっと雨の音がしていたことに気づく。
「雨か……今夜は冷えるな」
 今日、一人で考えても答えなんか出ない。
 明日、何かお土産でも持って彼女に会いに行こう。申し訳ないけど、メリーとアイリには断りを入れて。
 僕はそう結論付けると、今日は早めに寝るために準備を始めた。

     ♥

「さあ、勇気を出して、お姉さん。このまま一気にお兄さんをゲットだっ!」

     ◆

 真夜中。部屋の窓を何かが叩く音がして、僕は目を覚ました。夜中は教会の鐘が鳴らないので実は真夜中かどうかも分からないが、窓の外は真っ暗だった。家の中では物音もしないので、家族は全員寝静まっているようだ。
「何だ……?」
 枝か何かが当たっているのだろうか。それとも、激しい雨が窓を打っているだけ?
 寝ぼけた頭で考えをめぐらせながら、窓際までふらふらと歩く。窓を叩いているそれは、まだ窓の前にいるようだ。どんどん、とよろい戸を叩く音が続いている。
 窓を開けると、外にはフードを深く被った黒ずくめの人影が立っていた。
「うわッ……!?」
「マルス。私よ」
「アンジュ……? こんな時間にどうしたの……って、雨が降ってるね。今扉を開けてくるから、部屋までおいで」
 大げさに驚いてから、僕はアンジュが被っているのが少し大きめのレインコートだと気づいた。彼女は黒いレインコートのフードを目深に被り、僕の家までやってきたのだ。
 彼女の家と僕の家は村の中でも少し離れている。風も強く、傘ではなくレインコートを纏ってきたのだろう。
「ありがとう。お願いするわね」
 彼女を招き入れるために僕は部屋を出て、玄関の扉を開けた。
「ううっ、寒い……」
 扉を少し開けただけだと言うのに、それだけで冷たい風が家の中に流れ込んできた。玄関の隙間から見えるのは暗闇ばかりで、ほんの少し先も見えない。
 まるで昨日の夜を思い出すような、暗くて寒い夜。
「…開けてくれてありがとう」
「いや。アンジュこそどうしたの? 今日の昼のことなら、僕は気にしてないよ」
 暗闇の中から黒いレインコートを纏ったアンジュが現れ、僕は彼女を家に招き入れてから扉を閉めた。
 玄関では寒いので、僕達はすぐに僕の部屋に移動する。
「いいえ……。あなたにどうしても会わなければいけない用があったから」
「何もこんな夜中に来なくても……。寒かったろ。すぐに暖炉に火を入れるから。ここまでは衛士さんに送ってもらったの?」
 寒いのだろう。レインコートを纏ったままのアンジュは僕の部屋に入った後、後ろ手に扉を閉めた。僕はそれを確認して、手早く暖炉に火を灯す。
「衛士は村の中も巡回しているの? なら運が無かったわね。ここに来るまでには会わなかったわ」
「それは運が悪かったね……。まあ、今はゆっくり温まったほうがいいよ。これで濡れたところを拭くといい……って、もうフードはとったら?」
 僕が布を差し出すと、彼女はそれを受け取って小さくうなずいた。
「そうね……」
 それでも、彼女はフードをとるそぶりは見せない。まるではじめからとる気が無いみたいに。
 僕はそれに違和感を感じ、そこから次々とおかしな点があったのに気がついた。
 ごくり、と彼女に気づかれないようにつばを飲み込む。
「ねぇ、アンジュ……。変なこと聞くみたいだけどさ、ランプは持ってるかい……?」
 こんなにも寒く、こんなにも暗い夜に出歩く人間はまずいない。いるとすれば巡回の衛士か、魔物だけだ。
 そして、人間はランプを持っている。ランプを持っていないのなら、それは魔物に違いない――。
 しかし、彼女は僕の声に出さない期待を裏切るように、言った。
「ランプ? ……ああ、持ってくるのを忘れちゃったわ。ほら、今日はあんなにも月が明るいでしょう」
「アンジュ! 君は――!」
「あなたが悪いのよ。マルス」
 はらり、とアンジュはフードを払った。そこから現れた顔は、いつもの彼女の貌だった。
 どこかの高貴な血でも混じっているのかと勘ぐりたくなる綺麗な金の長髪。同じく、冬の澄んだ水面を連想させる青い瞳。顔全体のつくりは少しつめたい感じを抱かせて、クールな彼女にをよく表していた。
 しかし、今までとは決定的に違う場所がある。
「アンジュ……その、角はさ……。冗談だよね」
 象牙色の、すべすべした角。昨日の夜に見た女の子と似た、けれど色の違う角。
 いずれにせよ、角は魔物たちの象徴だ。
 本当なら、僕はすぐ脇に置いてある剣を取って、彼女を切らなければいけない。しかし、僕はアンジュに魅せられてしまったように動けなかった。
 彼女は動けない僕にこれまで見たこと無いほどのあだっぽい笑みで近づいてきて、僕と同じベッドに腰を下ろす。
「ねぇ。マルス……。私、あなたが好きよ。でも、あなたはちっとも応えてくれないのね」
 ぱさり、と音がする。彼女が黒いレインコートを脱ぎ捨てた音だ。
 彼女は、レインコートの下にほとんど何も身に着けていなかった。ほとんど中が透けて見えるスカートや、申し訳程度に胸のふくらみを隠しているリボンのような衣服は、男の劣情をもてあそぼうとしているようにしか思えない。
「ちょっと、なんのつもっ……!」
 僕が口を開いた瞬間、いきなり唇を奪われた。一方的に挿入される舌や薄布ごしに当たる胸の感触が艶かしい。
 とろけたような光を湛える彼女の瞳と目が合うと、アンジュはにっこりと僕に笑いかけた。
「はあ……」
 そのまま、たっぷり一分は口で弄ばれただろうか。僕はそのままベッドの上に仰向けに寝かされ、手を取られて彼女の胸に押し当てられる。
 柔らかな、なんともいえない感触が手の中に満ちた。ふわふわの弾力と、ぷるぷるとした弾性を兼ね備えた、他にはない不思議な感触。
 今まで意図的に過度な接触を避けてきた僕には、女の子の柔らかい体と甘いキスの味は刺激が強すぎた。
「ふふ……ちゃんと、私のこと女だと思ってくれてたのね」
 薄い生地の寝巻き用のズボンの上からそそり起ったモノを撫でながら、アンジュは言った。
「うっ……」
「ズボンの上からじゃ不満……? もう、仕方ないわね……」
「アンジュ、止めようよこんなこと……まだ………子供なんだから」
 僕の上に馬乗りになっていたアンジュは実に手際よく僕のズボンと上着をずらすと、相変わらずの蟲誘的な笑みで答える。
「もう赤ちゃんだってできるわ。もう子供じゃないの」
 白い、ほっそりした彼女の指が僕のモノを上を這い、ゆっくりと刺激していく。
 すっかり大きくなってしまった僕のそれは、与えられた快感にびくびくとうごいた。
「マルスだって、もう大人でしょ……? だって、こんなに立派なんだものね……」
 かすかな水音。その音が彼女が僕のモノに口付けた音だと知ったのは、そのとたん襲ってきた激しい快感によってだった。
「ぐうっ!? く……っ」
「はむ……どう……? ん、気持ちいい?」
 手と口による刺激。彼女もまだ不慣れなようで、時折当たる歯がもどかしい。
 しかし、彼女の唾液でべたべたになったモノはますます雄々しくそそり立ち、ぬらぬらと光沢を放っていた。
「ん……こんなになって……凄いわね…」
 彼女も興奮してきているのか、先ほどよりもはっきりと赤く染まった顔で言う。息も少し乱れてきているのか、はぁはぁという吐息の音がよく聞こえた。
 それでも止める気は全く無いようで、また小さく口を開けてかじる様にモノをしゃぶりだす。
 しばらく、僕の部屋には淫靡で卑猥な水音と、ふたり分の荒い息が充満した。
 しかし、それもすぐに限界が訪れる。
「うっ、ああ……駄目、もう止めて……アンジュ!」
「んん……はぁ、出しても、良いのよ……。はぁ、全部、飲み干してあげるから」
 ベッドのシーツをきつく握り締め、彼女の与える快感に堪えようとするものの、彼女も僕の限界が近いことを悟ったのだろう。一気にモノ全体を口で咥え、口中を使って愛撫してきた。
 口腔全体での刺激は舌や指だけでのそれとは比べ物にならなくて、僕は一気に絶頂へと上り詰める。
「はぁ、はぁ、も、もう、出るよ……!」
 言葉と共に、彼女に咥えられた竿の先端から、熱いものが迸るのを感じた。勢いよく飛び出したそれは、残らず彼女の口の中にぶちまけられる。
「!? んん……!」
 ぶちまけられた瞬間、目を見開き、驚いた顔をするアンジュ。しかしすぐそれはとろけるような笑みに変わり、口の端からこぼれたしずくも残さずに彼女は舐め取った。
 それどころか、一度は口を離した僕のモノにもう一度しゃぶりつき、尿道に残ったものまで残さずに吸い尽くして飲み込む。
「はぁ……いっぱい出たわね……。でも、もっと欲しいわ……」
 そう言う彼女の表情は、もはやいつものクールで怜悧なそれではない。欲望にとろけた、淫魔の表情だった。
 彼女は淫魔らしく、あくまで貪欲に僕を見つめる。
「ねぇ、マルスもそうでしょ……? まだ、ぜんぜん足りないわよね……。そうよ、もっと私に溺れて」
 そう言って僕の手を取り、自身のスカートの中に潜り込ませるアンジュ。透けるほど薄い生地の向こう側にには、アンジュの柔らかい肌と、熱く濡れそぼった割れ目があった。
「んんっ……! マルスのを舐めてたら……私も濡れてきちゃった……。感じるでしょ……?」
 彼女の股の周辺は既にべたべたで、押し当てられた僕の指はぬるぬると滑った。そのたびに彼女は色っぽいあえぎ声を漏らし、そのせいで一度果て力を失ったはずの僕のモノは再び起き上がろうとしている。
 突き動かされるような衝動に駆られて、僕は彼女の割れ目に押し当てられた指をその割れ目に沿って動かした。
「あはぁ……どうしたの……? もっとして欲しいのね……」
 とたん、たっぷりと溢れてくる彼女の蜜。ぬめぬめとしたそれは、僕の腕やアンジュの太ももを伝って流れ落ちる。
「なら、もっと早く言えば良いのに……♥」
 彼女はもう一方の手で僕の起ちかけのものをしごき、再び完全に起き上がらせる。
 すっと、まるで這いずるように僕の体の上を移動し、彼女は自分の体の位置を動かした。先ほどまでは僕の足の上辺りに乗っていたのが、前に出てきたことで丁度僕の腰あたりに馬乗りになっている形になる。
「んんんッ……!」
「くうッ……!」
 すると、彼女はそのまま腰を浮かせ、立ち上がったままの僕の肉棒を自分の秘裂に突き刺した。ずぶずぶと透明な愛液を漏らしながら、彼女は僕を受け入れていく。
 僕のモノがアンジュの中に入っていくたび、僕を激しい快感が襲った。手や口の感触とは比べ物にならない、圧倒的な快感が襲ってくる。結合部は彼女のスカートがうまい具合に隠してしまっているが、二人とも大変なことになっているのは容易に想像がついた。
「うッ、はぁ、はぁ、あ、アンジュ……」
「んぁっ……はぁ、どう……? きもちいいでしょ……?」
 彼女は僕の上でモノを指したり抜いたりを繰り返し、自分自身も快楽に震える声で囁いた。
「はぁ、はぁ、アンジュも……気持ちいい?」
 彼女がずぶりと深くまで僕のモノを入れたとき、僕は荒い息の合間に聞いた。ぎゅっと締まった膣壁に、僕のモノがぎりぎりと締め付けられる。
 もう、何も考えられないほどに思考が快楽で染まって、自分がなぜそんなことを聞いたのかも分からなかった。
「んんっ、あぅ……きもち、いいよ……。でも、まだまだ、なんだから……」
 完全に蕩けきった笑みの彼女。僕も、似たような表情をしているのだろう。
「もっと、感じさせて……ふぅ、あげる……!」
 ずぼり、と音がした気がした。それが、僕が彼女の最奥に到達した瞬間だと知ったとき、僕は理性やらなにやらすべて押し流してしまうほどの快楽に打ちのめされ、気がついたときには彼女の中に二度目の迸るものを放出していた。
「ああああぁぁあっ……!! きもしひいよぉっ!」
 彼女の方も一気に達したのか、体を仰け反らせながら叫び声をあげる。それでも彼女の膣はいまだ緩まず、まるで最後の一滴まで搾り取ろうとするように僕を締め付けた。
 結合部からこぼれた愛液と精液の入り混じった白い液が、僕と彼女を汚す。
「はぁん……きもしひい……」
 恍惚とした表情を浮かべ、なおも僕のモノをこするように責める彼女。そのたびに僕の頭にはしびれるような快楽が走り、どぷどぷととめどなく精を吐き出す。
 それを彼女は貪欲にすべて飲み込み、最後に力を使い果たしたように僕の上に倒れてきた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 顔は赤く、息は荒い。まだそんなに疲れるほどにやっていないはずだが、もともと体力のないアンジュなだけにもうばててしまったのかもしれない。
「……もっと」
「え……?」
「もっとアンジュが欲しい」
 二度も射精して僕もつかれきっているはずなのに、不思議と体は疲れを感じていなかった。あまりの快感ゆえか涙さえ浮かべているアンジュの軽い体を持ち上げ、体の位置を逆転させる。
 今度は、ほっそりしたアンジュを押さえつけるように、僕が上に。
「ひゃん! ……あん、もう……ダメ……」
 まるで懇願するように言うアンジュ。涙目で、上目遣いにこちらを見つめてくるそのしぐさは、いつものアンジュからは想像もできないしおらしさに満ちていた。
 しかし、その仕草さえ、僕を誘うためにあえて演じているもののようにしか見えない。
「さっきから、僕にさんざんやってるくせに」
「うぅ……。あんっ……!」
「ほら。まだまだ感じてるよ」
 胸を覆うリボンのような衣服を脱がせ、あらわになったピンクの突起を軽く触ると、彼女はすぐに反応した。
 胸を隠そうとするアンジュのスカートもそのまま剥ぎ取り、僕は改めてまだ固いままのモノをあてがう。
「だ、ダメだってばぁ……! ぁん……これ以上やったら、はぁ、おかしくなっちゃうよぉ……!」
 綺麗な長い金髪を乱れさせ、青い瞳に涙を浮かべて言うアンジュ。その白い身体は既に汚され、しかし未だ気高く美しい。
 背徳的な、悪魔の囁きのような衝動のまま、僕は彼女の痴態を眺める。
「アンジュを僕だけのものにしたい」
「ぇ……?」
「ずっと、好きだったから……」
 言葉と共に、勢いよく肉棒を挿入した。とたん、まるで迎え入れるように彼女の秘裂が締め付けてくる。
「ああああああぁあぁあぁぁぁッッ!!」
 激しく突いて、抜いて、また差し込む。途中から彼女は叫ぶのやめて、ただ唾液と愛液だけを嬌声の代わりのように吐き出していた。
 それを、身体が疲れて動かなくなるまで繰り返した頃には、僕の意識はぷっつりと途切れてしまっていた。


 早朝、僕はいつもよりずっと早く目を覚ました。
 体を起こすと、僕の体にのしかかるように四つんばいになったアンジュと目があう。
「……なにやってるの、アンジュ」
「ん……おはよう。マルス」
 見れば、僕も彼女もほとんど裸で、彼女は朝から僕の肉棒を嘗め回していた。既に何度か出してしまったのか、彼女の口の周りは白く汚れている。
「はぁ、マルスの……すごいね。何回でも出てくる……」
 怜悧でクールな幼馴染の姿は。もうそこには無かった。
 いるのは、一匹の怠惰で淫乱な淫魔のみ――。
「ねぇ、アンジュ……」
「ん…はぁ、どうしたの……?」
「僕を全部あげるからさ。僕のものになってよ」
 ちゅ、と水音を響かせ、そそり起った肉棒から唇を離す彼女。その青い目は、まっすぐに僕を捉えた。
「馬鹿ね。それはこっちの台詞よ。私の全てをあげるから、私だけを見なさい。
 ――暗闇を歩くのに、ランプなんていらないわ。あなたと、私がいればそれでいいのよ」
 それを聞いた瞬間、僕は再び彼女を押し倒していた。
「きゃ……強引なんだから」
「好きだよ。アンジュ」
 ぎゅっと、その細い体を抱きしめる。
「……私もよ」
 僕達二人の初夜は、まだまだ終わりそうになかった。
12/03/28 21:13更新 /

■作者メッセージ
こんにちは、湖です。

やたら長い駄文にお付き合いいただき、まことにありがとうございました。
暗い夜は明かりを持って出かけましょうね。
感想等、頂けましたらとても嬉しいです。

では、ここまで読んでくださった皆様に深い深い感謝を。

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