Abyss in Blue
私は昔から泳ぐ事が好きだった。
島の古いしきたりで船に乗せてもらえず、それでも広がる無限の海に対して、出来ることはそれくらいしか無かったというのが正解なのかもしれない。
でも、それでよかった。私を見てくれる君がいたから。泳ぐ私を見てくれる君がいたから。
私と君は、親友だった。二人だけで遊んで、小さな焚火を二人で見つめて夜を越したりした。二人だけの秘密基地も造った。
そして、いつも君と私はライバルだった。
君よりも速く、君よりも深く、私は泳ぐ事ができたから。
でも、もしそれを失ったら。
私よりも君が速くなったら。君が私を追いぬいたら、君はもっと遠くを見てしまうんじゃないかって、私は怖かった。
船という、海を取りあげられて、その次は、君を取りあげられるかと思うと、恐怖で身が震えた。
だから泳ぎは人一倍練習した。君が私だけを見てくれるように、孤高でいられるように。海の中でだけは、強くあれるように。
だから、助けられると思ったんだ。
君が溺れた時、私は助けられると思った。一部の疑問も抱かず、まっすぐ海に飛び込んで、君の元へ向かった。
だって、そうだろう? 私は君よりも速くて、海の中でだけは、キミのヒーローで。だから、助けられなきゃ嘘だって思ったんだ。
その後はよく覚えていない。持てる全ての力を使って、君を助けたことは覚えている。その時、言った言葉も。
気がつけば、私は薄暗い海の中を漂っていた。不思議と、恐怖は無く。ただ、あるべき場所に還ったかのような、不思議な安心感があった。
そこで、私は声を聞くのだ。
――海の娘よ、その道を行け、と。
彼は毎年、この日になると海に100からの花を撒く。あの、因縁の入り江の高台に立ち、その崖の上から献花を施すのだ。
私の墓ではなく、私の消えたこの海へ向けて。
きっと、彼は自分を責めているのだろう。自分だけが生き残ったと思い、償いきれない罪と己の涙の間に挟まれ、苦しんでいるのだろう。
彼の苦しみを癒したい。だが、今の私が、彼に逢う勇気はない。結局、私に出来るのは彼からの献花を集めることだけだ。
「エデン……逢いたいよ……」
海から顔だけを出して、濡れた顔で彼の名を呟く。沖は波音もなく、私の声を吸いつくしてしまう。
その視線の先には、件の入り江。その高台には、まだ誰の姿もない。
彼に逢いに行けたら、どれだけ良いだろう。彼に想いを伝えて、想いのままに彼を愛せたなら、どれだけ良いだろう。
だが、怖い。人では無くなった私を、彼がどのような目で見るのか、それが怖い。もし、怯えたような目で見られたなら、私は私で居られるのだろうか。
「………」
頭を振って、そんな思考を閉めだす。
とぷん、と小さな音と共に、私は水に潜った。途端、眼下には澄んだ青色と、まるで空を飛んでいるかのような美しい景色が広がる。
その海中の青空を、私は飛んだ。人間だった頃とは比べ物にならない速度で、自由自在に泳ぎ回る。
思考が乱れた時は、こうして何もかもを忘れて海を泳げば良い事を、私は知っていた。体中を心地良い清涼感が包み、耳には優しい調べのような水流の音が聞こえる。なにより、目に移る景色はいつまでも美しい景色を楽しませてくれる。
海はいつだって優しい。一見暗い海の底も、時には荒れる水面も、全ては海の感情表現だ。私はそれを知っている。
暗い海の底には日差しがカーテンとなって降り注ぎ、幻想的な景色を生み出すし、荒れ狂った水面からは海の生き物に不可欠な空気が取りこまれる。
それらにいちいち難癖を付けて、自分たちの利を中心に考えるのは人間の悪い癖だと思う……というのは、流石に言いすぎか。
人間にも、人間の生活が掛かっているのだから。彼らも、海に命を繋いで貰っている存在だ。
そんな風に、海を泳いでいると、少し遠くなった入り江の高台に、人影が見えた。その手には、花束のようなものも見える。
――彼が来たのだ。
急ぎ引き返すと、その人影は両手を使って花束を海へと投げ入れた。それは空中で解け、白い花をばらまくように落下する。
だが、私はその花を追えなかった。
「うぁっ、うっぷ! あっ」
耳を澄ませば聞こえる、少年の声。それは間違いなく溺れている、必死で生き延びようとする者の呼吸音だった。
途端、私は弾かれたように泳ぎ出す。声が聞こえるという事は、近くに居るということだ。私は辺りを見渡して声の主を探した。
だが、再び私は泳ぎを止める。私の視線の先では、彼が高台から飛び込んでいた。先ほど彼が撒いた花のように真っ白な水柱が、高々と上がる。
そして、彼は猛然と泳ぎ始める。水を蹴立てて、立ちふさがる波を全て正面から打ち壊して、全てを追いぬく勢いで泳ぎ出す。
それは、力強いのに、どこか危うさを感じさせる泳ぎだった。最初から全力で、自らを省みない泳ぎ。それを、私は知っている――。
「エデン、だめ――!」
しかし、彼は溺れている子供を見つけると片手で捕まえ、暴れる子供を無理やり抱えて泳いでいく。来るときよりも激しく全身を動かし、最早、呼吸すら最小限だ。
その、英雄の行動に、私は動けない。まるで縛りつけられたようにその場で凍りついたように浮かぶのみだ。
エデン自身に死ぬつもりはないのだろう。だが、それは誰が見ても捨て身の救助劇だ。現にエデンの体は暴れる少年を抑えきれず、何度も沈みかける。パニックに陥っている者を救おうとするのは、予想以上に体力をつかうのだ。
その泳ぎを見ていると、涙が出てきた。いつかの私も、あんなふうに捨て身で泳いでいたのだろうか。
「……エデン……君は私が助けるよ。だから――」
死ぬ気で、泳いで良いよ。
そう言って、私は再び泳ぎ出した。
ゆっくりと沈む彼の体を、そっと受け止める。
仄暗い海の中。カーテンのように降り注いだ光が、美しく幻想的な景色を作り出していた。辺りには綺麗な色彩の魚が泳ぎまわり、カーテンの裾にはゆらゆらと葉を揺らす海草が生えている。
エデンは、少しだけ日に焼けた身を晒し、服を揺らしながら私の腕の中で眠る。
このまま、ずっと見ていたいと思う。いつまでも眠るエデンの寝顔を、いつまでも見ていたいと思う。
目を覚まして、今の私に怯えられるよりも。このまま眠るエデンと一緒に、いつまでも暮らすのだ。
だが、それは出来なかった。
例えば、彼が毎年撒く花束。せっかく集めたその花は、海の中では一日と保たずに朽ち果てるのだ。それは、彼とて同じ。
このままでは、じきに彼は死んでしまう。母なる海に当てられて、儚く散ってしまう。
あるいは、花よりも早く。
いつだって、強欲は身を滅ぼすものなのだろうか。
私はその手で、波に揺れる彼の髪を撫でつける。それでも、彼は目を覚まさない。
私は彼を抱いたまま、体勢を入れ替え泳ぎ出す。速度は人間である彼に合わせ、ややゆったりとした速さ。
以前であれば、私とて彼ほどの重量を担いで泳ぐのは難しかっただろう。だが、今の私は海で生きるための体を持っている。それくらい、造作は無かった。
私は、岸を目指して泳ぎ出す――。
それほど泳ぐこともなく、陸を見つけた。私はそこへ上陸し、陽光を反射して眩しく光る、真っ白い砂浜にエデンを仰向けに寝かせた。私も、やわらかい太ももに彼の頭が来るように座る。
彼の横へ座り込むと、一糸纏わぬ体にちりちりと焼けるような熱さが沁みる。だがそんなことはお構いなしに、私は彼に口づけた。身をかがめたせいで、濡れた私の藍色の髪が彼の顔にかかる。
自発呼吸の止まった彼に、私から空気を送り込む。それとは逆に、私には塩辛い海水と彼の唾液が返ってくる。その唾液は、どこか艶めかしくて、まるで私を誘っているように感じてしまう。
気がつけば、蘇生を口実に彼の唇を貪っている私がいた。とっくに彼は呼吸を取り戻している。それでも、私は唇を放さない。
気を失い、抵抗できない彼の唇を無理に奪うことに感じる、背徳感。それは私の心を絶妙に刺激して、私を興奮させていく。気づけば、呼吸が荒くなっていた。
「はぁ、はぁ、エデン……」
濡れて肌に張り付く彼の前髪を、手で梳いて流す。彼は既に大分回復しているようで、こちらが舌を差し込めば彼の方も絡めるように動かしてくる。
私はそれに気を良くして、さらに激しく彼を貪ろと覆いかぶさる。彼の舌に自らの舌を絡め、歯でしごく度に、言いようのない満足感と、それを上回る渇望が私の内側から湧き出る。
熱い衝動、と言い換えてもいいかもしれない。それは本能とも呼べるもので、到底逆らえるものではなかった。熱にうかされるように、だんだんと思考が回らなくなってゆく。
回遊魚が泳がねば死ぬように、サメが泳ぎ続けねば死ぬように、それはあまりにも自然で、それ故私の全てを握っていた。
今、私がこの行為を止めれば、泳ぎつかれた人のように、あっさりと死ぬのではないか、そうとすら思えた。
いつしか、熱さを、時を忘れていた。
「ん……、がはっ!」
唇を貪ったまま、私が彼の衣服に手をかけた時だ。彼が急に意識を取り戻し、激しくせき込んだ。私の口の中には塩辛い水が逆流し、唇が離れる。
気がつけば、私は彼に覆いかぶさるようにしてのしかかっていた。私の指先は彼の濡れた衣服に差し込まれ、いつでもそれを剥ぐ事のできる姿勢だ。そんな私をどう見たか、彼は長い間、私を見つめていた。
「………」
彼の視線に射抜かれて、私もまた、彼を見つめ返す。
そうして、どれほどの時間が過ぎただろうか。
意外にも彼は恐慌することもなく、静かに私の瞳を覗きこむ。
「………。アル、エット?」
アルエット。私の名前。魔物に堕ちても失わなかった、過去の私と現在の私を繋ぐ楔。
「……そうだよ、エデン」
私もまた、照れと恥ずかしさを隠すようにはにかみながら、彼の名前を呼んだ。
私の、エデンに比べれば小さな体をフルに使って、彼に抱きつく。タックルするようにぶつかり、私を受け止めきれなかった彼はごろりと仰向けに砂浜に転がった。
そのがっしりとした体の上に私はまたがる。
「ねぇ、エデン……。逢いたかったよ」
目いっぱい顔を近づけて、そう囁く。息が耳にかかるくらいの位置で、彼を籠絡するように。
案の定彼はすぐに頬を染めて、微かに上ずったような声で答えを返してきた。
「ぼ、僕もだよ。アルエット」
またがったまま、何度もしたように彼の濡れた前髪を手で梳く。髪が邪魔にならぬように横に流し、改めて顔を近づける。
瞳と瞳が真正面から覗き合うような角度で、彼のやや幼さの残る顔を見つめた。
「ねぇ、君のために、ずっと私、我慢してきたんだよ。いつか君に答えを聞こうって思って。でも、勇気が出なくて……」
私は海に沈み、魔へと堕ちた。
だが、心までそう簡単に堕とされてはやらない。私の心を砕けるのは、この世でただ一人、エデンだけだ。
彼を見つめているだけで、私の火処が火照り出すのを感じた。
「迷惑かな? でも私は君の答えが欲しいの。出来れば、相思相愛で君と結ばれたいな、って思うの。だから、君の答えを頂戴?」
言葉を紡ぐ、口の中が潤いだす。同時に、彼の服に押しつけられている秘裂からも、じわりと滲むように暖かい感触が湧きでてくるのを感じた。
――いちいち、免罪符を求めるような私とは違って、魔物の体は正直だ。既に息も荒くなり始め、唾を飲む回数も増えている。
「ア、アルエット……いきなり、どうした……?」
驚いたような、わずかな困惑を瞳に浮かべて、彼はこちらを見る。まだ、怯えの色は無い。
今、私は彼にまたがり、そのまま身を倒して彼に密着しているような状態だ。胸は私と彼の間に挟まれ、弾力に富んだ感触を返してくる。
ああ、彼さえ望めば、今すぐにでも私の全てを差し出すのに。彼さえ許せば、彼の全てを心ゆくまで貪れるのに。
「……私は君が好きなの! だから…だから、君を私に頂戴!」
「!」
彼の顔が、わずかに驚きに歪む。
でも、エデンのそんな顔は見たくなくて、だから、私は彼の表情を変えてやろうと、強引に接吻した。
エデンの顔を両側から押さえるようにして、狙いを定めて顔を近づける。
彼の唇は、まだちょっとだけ塩辛かった。
「ん……、はぁ、あふぅ……」
「ん!? んんんんっ」
もう、遠慮も容赦もない。壺の中の蜜を舐めとるように、舌を伸ばして徹底的に貪りつくす。
私と彼の、溢れんばかりの唾液が交換され、時に唇を伝って滴り落ちる。
「ぁあ……。どう? まだ足りない? もっと、もっともっと私を深くに刻んでも、いい?」
口を開く度に零れる唾液が、彼の服に染みを作っていく。
きっと、彼からは上気した赤い頬の少女が、覗き込むようにして媚態を晒す様が見えている事だろう。
下の口から漏れ出た唾液も、触れるそばから所構わず彼の衣服を濡れ染めにしている。またがっているだけでも、甘いしびれのような快感が太ももを這う。
ああ、早く彼の全てを感じたい。彼に全てを捧げて、なにもかもをかなぐり捨てて快楽の海で溺れたい。
唇を交わした状態で、至近距離から見つめ合う。彼は少し頬を朱に染めて、驚くようにこちらを見つめていた。
「あぁ、そんな風に見ないで……。私おかしくなっちゃうよ……」
最早、実際に感じるはずのない視線すら、私に快楽をもたらすかのようだ。彼に、こんな醜態を晒しているという事実が、私に倒錯的な快楽を与える。
もっと私を見て欲しい。もっと深いところまで。もっともっと深い、溺れてしまうような所まで。
欲望に潤んだ青緑の瞳と、海の底のように深い、底の無い瞳が向かい合う。それだけで、疼くような、痛痒に似た快感が私を突きぬける。
――我慢も、もう限界だ。
「アルエット……。僕も、好きだよ……」
一瞬、唇が離れたそのタイミングで、彼はそっと言う。
唾液に濡れた淫らな唇で、まるで、私を誘うように。
ぴきり、と、私の中の何かが、音を立てて壊れた。同時に、私を最後の一線で踏みとどまらせていた躊躇が、消える。
「はぁ、あ、ありがとぉ……。 これで、君を、はぁ……んっ」
そう言うのと同時に、彼の衣服に手をかける。乾きかけでじめじめした布地を掴んで、左右に引っ張った。
すると、それは簡単に脱がされ、軽く肩に引っ掛かっているだけとなる。同じように、下の服も軽く脱がす。
「あぅ……すごいね…エデンの、おっきくなってるよ」
覆いかぶさったまま雑に脱がした衣服を砂浜に広げ、裸になった彼の上に改めてまたがる。
私の下腹部には、灼けた砂浜のような熱を持つ、たくましい彼の肉棒が当たっていた。思わずじっと見つめ、手で撫でるように触れる。
「あっ……」
「あ、ごめん。……痛かった?」
それはよほど敏感なのか、充血しきった先端に軽く触れただけで彼は身じろぎをする。
「いや、なんでもない……」
彼はそれを恥じるかのように顔を真っ赤にして、軽く首を振った。
その様子がなんだか可愛くて、私は両の手を使って彼を撫でまわす。まんべんなく、手のひらや指先を使い分けるように。
その内、私の熱を持った内股が、さっきよりも激しく蜜を吐きはじめた。私の秘裂から溢れた蜜は、私の内股を伝った後、純白の砂に染みをつくる。
「あはぁ、エデンのここ、どんどん硬くなってくよぉ」
それと同時に、私の中に荒れ狂う名前のつけられない衝動も出口を求めて暴れまわる。このまま放っておいたら、いつか私を突き破ってしまうんじゃないか、と思わせる勢いで。
私はその衝動に突き動かされるようにして、彼の肉棒にそっと口づけた。途端、溢れる唾液が彼の肉棒に絡みつく。
「ん、アルエット……ダメだよ…!」
口づけだけでは済まさず、そのままそれを咥えるように口に含んだ。目いっぱいまで膨らんで硬くなったそれは、私が口を大きく開けてなんとか全部が納まりきる。
唾液は尽きることなく、次から次へと湧いて来て、彼の陰茎を淫らに彩っていく。口に含んだまま下を動かして彼を愛撫すると、その度にそれが動くのを感じた。
口ですればするほど、下の口も淫らな液を滴らせ、不満を訴えるように熱い痛痒を走らせる。既に、私の内またはべたべたに濡れそぼっていた。
まるで、ねだっているいるようだ。おかしなことだ、と思う。どちらも、私の体の一部だというのに。
「んむ……。はぁ、ん……」
私のものと同様に、彼のモノも熱くたぎっているようだ。
それは彼のモノを舐める舌先や、掴み固定する手から、よく伝わってくる。
「あぁッ……アルエットっ……」
「ん、良いの、エデンはじっとしてて……はむ、すぐに私が、んんっ、もっと気持ちよくしてあげるよ」
言いつつ、じっくりと味わうように舐める。唾液でぬるぬるする、大きな逸物を愛おしく。
同時に、手でも愛撫を始める。それは誰に教えられた訳でもなく、私の中で暴れまわる衝動に突き動かされた結果だった。
口だけでなく、手からも与えられる快楽に、彼は言葉を出せずに喘ぐ。
「――ッ!」
その様は、まるで海で溺れた時のようだ。彼は、口をぱくぱくさせながら、手足をばたつかせる。
それで良い。私に、私の愛に溺れて欲しい。欲望に、沈みきって欲しい。
そうして、彼を私に染めるのだ。
「んっ、はぁ、はぁ、もうそろそろ、だよ……?」
彼の肉棒は、ぬらぬらとした粘液のような唾液に覆われ、私の唇と淫らな銀の糸で繋がっている。それは今までより一層雄々しくそそり立ち、私を待っている。
「はむっ、ん、む、んんっ……」
舌が彼を舐め擦る度、指が彼を撫で掻く度、淫靡な水音が砂浜に響く。それに混じって私の嬌声と、彼の声が時折聞こえた。
そして、それらの音がより激しく、最高潮に達した時、それは来た。
「ああッ……! もうダメだ、で、出る……!」
そんな小さな穴の、どこからこれだけの精液が出たのだろう?
彼が吐き出した精液は私の口だけでは納まりきらず、彼のモノを咥えた口の端から零れて、私の口の周りを淫らに汚す。
思わず口を放した後もどぷどぷと精液を吐き出すその肉棒は、残滓のように吐き出した精液を私の髪にかける。
「あ、ゴメン……。不味かったら吐き出しても……」
ごくり、と呑み下す。その上、舌を使って口の周りに付いた精液も、出来る範囲で舐めとる。
やや唖然とした表情を見せるエデンに、私は微笑みかける。
身を引き、彼からも見えるように秘裂に指を差し込む。そうして少しいじれば、大量の愛液と共に真っ赤に充血した陰核が飛び出してきた。彼は半身を起し、顔を赤くしながらも目を背けずにそれを見ている。
真っ赤に充血した大きなクリトリスは、指で触れるだけでも耐えがたい快楽を送ってくる。ともすれば、そのまま指を突っ込んでぐちゃぐちゃにしてしまいたくなる。
私はその衝動を抑え、愛液でぬめる陰核を指でつまんだ。そして、どろどろと蜜を吐き出すそれを指先で撫でながら彼に見せる。
「ほら、もうこんなに濡れちゃった。上の口ばっかり良い思いをするから、こっちの口が淋しいって言ってる」
既に、まるで口を開くように広がった秘裂は、なみなみと蜜を湛え、お尻や内またをべたべたに濡らしている。その中に差し込まれた指も、熱くぬめる愛液が絡みついていた。
それを見せつけ、頬を朱に染めた顔でねだる。
媚態と痴態を晒し、彼の精液で汚れた顔を向けた瞬間、衝撃を感じた。
それが彼に抱きしめられたからだと理解するのに、一瞬の時間を要した。そして、その一瞬の間に、事は終わっていた。
「にゅ、ぅぅううううううッッ………!!」
いましがた彼に見せつけた秘裂に、熱くたぎったなにかが突き刺さった。彼の腕の中で、急に起き上がった彼に押し倒されるように倒れ込む。だが、その衝撃すら忘れるような快楽に包まれていた。
「アルエットが悪いんだよ……こんなにも僕を誘惑して……」
彼は、私を抱きしめながら言う。その顔は真っ赤で、息も荒い。
「あぅぅぅ……、良いよぉ、エデン……!」
先ほどまでとは姿勢が入れ代わり、今度は私が下で喘ぎ声を漏らす。彼は私の上で、まるで獣のような荒い息で私を犯した。
がしりと私の肩を掴む手には力が入っていて、萎える事を知らない下の肉棒は私の敏感な所をぐちゃぐちゃにした。
それのもたらす快楽に耐えきれず、私ははしたなく息を吐く。嬌声を上げる口の端からは透明なよだれが伝い落ちた。
「はぁ、もっと奥に入れて、いい……?」
「ああッ、はふ、いい、よ……んッ」
全身に、震えが走った。
ぞわり、と耳元で風が鳴り、体中に甘い痺れが走る。
「ふぁぁぁああああああああッッ!!」
気がつけば、虚空に向かって声を上げていた。それは淫らな雌の艶声で、歓喜の遠吠えだった。
秘裂の襞をこする彼の棒が愛おしい。陰核にぶつかり、激しく刺激するそれが、たまらなく愛おしい。なにより、耳元で荒く息を吐き、私を拘束するように抱きしめる彼の熱い体が、愛おしかった。
「ああぁ、ダメぇ、勝手に動いちゃうよぉ……!」
足は内を向き、腰は彼の動きに合わせて勝手に動いた。手は彼の背に回され、なにがあろうと彼を放さないようにしがみついている。
私の秘裂は、今までより激しく蜜を吹き、彼と私を濡らした。
それには少量の血も混じっていて、白い砂浜を少しだけ赤く染めた。
「はぁ、も、もしかして、アルエット……」
「んぁぁ……、ん、そうだよ。私、エデンのために……ふッ、我慢、してたって、ああっ! 言ったでしょう?」
そう。
これは、私にとって、初めての行為。
初めては、大好きな彼に、捧げると決めていたから。
「だから、もっとして良いよ。もっと、私を君で染めて………!」
そう言うと、私は彼に全てをゆだねるために、力を抜いた。
腹を上に向けて、力を抜いて相手を見つめる。それは、恭順の証。
もう、彼のせいで、上も下もぐちゃぐちゃだ。心もすっかり溶かされて、あるのは彼への愛情のみ。体は彼の愛情を受け止めるためのもので、心は彼を愛すためのものだった。
「もう、我慢できない……!」
彼は力を抜いた私にがっしり抱きついて来て、それなのに、大切なものを扱うように丁重に、私を慰めた。
よだれで汚れた私の唇をそっと舐め、その舌を差し入れる。
それがあまりにも気持ちよくて、私はふごふごと浅ましく喘いだ。同時に彼の肉棒も今までにない深みを突き立てられ、私の入れてはいけないスイッチを、押す。
「きゃ、あ。くぅあぁぁあああぁああああああッッ!!!」
最早、自分の声さえも耳に入らない。ただ、キーンという耳鳴りに似た音を脳裏に響かせるだけだ。
私の花弁は彼の男根を受け入れつつも、激しく潮を吹いた。きっと、耳が聞こえていたならその噴出音まで聞こえただろう。それほどの勢いだった。
激しく噴き出した潮は、ぱたぱたと彼にかかる。
「うぁぁ……ッ!」
彼が、苦しそうに、嬉しそうに呻く。耳鳴りの向こうで聞こえたその声に、私は欲情する。
未だ蜜をどろどろと吹き出す私の秘裂に自らを突き立てながら、何かを堪えるような彼の声は、それだけの魅力を秘めていた。
それのもたらす快楽に、私はただ喘ぐ。最早、それしかできない。浅ましく、低俗に、快楽に全てを支配されて。それでも、それが彼のもたらした快楽なら、どうでもよかった。
正しく、私の心は彼に砕かれたのだ。
「もっと、もっとぉ! んっぁぁ……! 汚してっ……、めちゃくちゃにぃ……!」
仰向けのまま、彼を受け入れたまま、迎え入れるように四肢を大きく開く。
きれいなことろも、きたないところも、全部見せつけて、その上で彼に染めてほしい。
そのためなら、彼のきたないところも、全部受け入れる。
「う、くぅッ……。アルエット、い、行くよ……!」
「いつでも、いいよぉ……!」
その瞬間。私の奥の奥が、今までに感じたこともないようなシアワセに包まれた。
すっかり白の砂浜が乱れる中、私達は体中に砂をまぶしながら行為を続けた。
熱く火照る体から滲んだ汗で砂が張り付き、それもすぐに相手の体に払われる。私はすっかり彼と私の液でべたべたで、それは彼も同じだった。
髪に、頬に、身体に白い液をまぶし、欲望に蕩けた瞳で痴態を晒す私と、私の艶声を聞きつつその淫らな秘裂に肉棒を突き立てる彼。
あれから、幾度絶頂を迎えただろうか。だが、魔物となった体は疲れを知らず、より残酷に彼を責め立てる。
そして、彼も人にあるまじき精力で私を悦ばせる。それはまるで、あの日からずっと溜めこんでいた何かを、吐き出すかのようだった。
「ねぇ、エデン……」
私は口を開く。さえずりに似た嬌声を吐き出そうとする口を意志で押さえつけて、人の言葉を紡ぐ。
「何? アルエット」
「好きだよ」
そう言って、私は目を閉じた。
そうして、私は眠りに落ちた。海の深みに沈むように。
「ねぇ。泳いで行こう。夕陽の沈むところまで」
「それは、プロポーズ?」
「えへへ、ばれた?」
「良いよ」
「へ?」
「だから、答え」
「え、うん……。なんだか、照れるね」
「泳いで行こう。夕陽の沈むところまで。――どっちが早く泳げるか、競争だ!」
「あ、ちょっと待ってよ! ずるいよ!」
「ははははは――」
昔から、漁民の間に伝わる言葉がある。
それは格言とも、教訓ともいえるものだ。
“海を甘く見た者の末路は、その悉くが虜囚である”
私も彼も。互いが互いの虜囚となって、今を生きている。
今を、生きている。
島の古いしきたりで船に乗せてもらえず、それでも広がる無限の海に対して、出来ることはそれくらいしか無かったというのが正解なのかもしれない。
でも、それでよかった。私を見てくれる君がいたから。泳ぐ私を見てくれる君がいたから。
私と君は、親友だった。二人だけで遊んで、小さな焚火を二人で見つめて夜を越したりした。二人だけの秘密基地も造った。
そして、いつも君と私はライバルだった。
君よりも速く、君よりも深く、私は泳ぐ事ができたから。
でも、もしそれを失ったら。
私よりも君が速くなったら。君が私を追いぬいたら、君はもっと遠くを見てしまうんじゃないかって、私は怖かった。
船という、海を取りあげられて、その次は、君を取りあげられるかと思うと、恐怖で身が震えた。
だから泳ぎは人一倍練習した。君が私だけを見てくれるように、孤高でいられるように。海の中でだけは、強くあれるように。
だから、助けられると思ったんだ。
君が溺れた時、私は助けられると思った。一部の疑問も抱かず、まっすぐ海に飛び込んで、君の元へ向かった。
だって、そうだろう? 私は君よりも速くて、海の中でだけは、キミのヒーローで。だから、助けられなきゃ嘘だって思ったんだ。
その後はよく覚えていない。持てる全ての力を使って、君を助けたことは覚えている。その時、言った言葉も。
気がつけば、私は薄暗い海の中を漂っていた。不思議と、恐怖は無く。ただ、あるべき場所に還ったかのような、不思議な安心感があった。
そこで、私は声を聞くのだ。
――海の娘よ、その道を行け、と。
彼は毎年、この日になると海に100からの花を撒く。あの、因縁の入り江の高台に立ち、その崖の上から献花を施すのだ。
私の墓ではなく、私の消えたこの海へ向けて。
きっと、彼は自分を責めているのだろう。自分だけが生き残ったと思い、償いきれない罪と己の涙の間に挟まれ、苦しんでいるのだろう。
彼の苦しみを癒したい。だが、今の私が、彼に逢う勇気はない。結局、私に出来るのは彼からの献花を集めることだけだ。
「エデン……逢いたいよ……」
海から顔だけを出して、濡れた顔で彼の名を呟く。沖は波音もなく、私の声を吸いつくしてしまう。
その視線の先には、件の入り江。その高台には、まだ誰の姿もない。
彼に逢いに行けたら、どれだけ良いだろう。彼に想いを伝えて、想いのままに彼を愛せたなら、どれだけ良いだろう。
だが、怖い。人では無くなった私を、彼がどのような目で見るのか、それが怖い。もし、怯えたような目で見られたなら、私は私で居られるのだろうか。
「………」
頭を振って、そんな思考を閉めだす。
とぷん、と小さな音と共に、私は水に潜った。途端、眼下には澄んだ青色と、まるで空を飛んでいるかのような美しい景色が広がる。
その海中の青空を、私は飛んだ。人間だった頃とは比べ物にならない速度で、自由自在に泳ぎ回る。
思考が乱れた時は、こうして何もかもを忘れて海を泳げば良い事を、私は知っていた。体中を心地良い清涼感が包み、耳には優しい調べのような水流の音が聞こえる。なにより、目に移る景色はいつまでも美しい景色を楽しませてくれる。
海はいつだって優しい。一見暗い海の底も、時には荒れる水面も、全ては海の感情表現だ。私はそれを知っている。
暗い海の底には日差しがカーテンとなって降り注ぎ、幻想的な景色を生み出すし、荒れ狂った水面からは海の生き物に不可欠な空気が取りこまれる。
それらにいちいち難癖を付けて、自分たちの利を中心に考えるのは人間の悪い癖だと思う……というのは、流石に言いすぎか。
人間にも、人間の生活が掛かっているのだから。彼らも、海に命を繋いで貰っている存在だ。
そんな風に、海を泳いでいると、少し遠くなった入り江の高台に、人影が見えた。その手には、花束のようなものも見える。
――彼が来たのだ。
急ぎ引き返すと、その人影は両手を使って花束を海へと投げ入れた。それは空中で解け、白い花をばらまくように落下する。
だが、私はその花を追えなかった。
「うぁっ、うっぷ! あっ」
耳を澄ませば聞こえる、少年の声。それは間違いなく溺れている、必死で生き延びようとする者の呼吸音だった。
途端、私は弾かれたように泳ぎ出す。声が聞こえるという事は、近くに居るということだ。私は辺りを見渡して声の主を探した。
だが、再び私は泳ぎを止める。私の視線の先では、彼が高台から飛び込んでいた。先ほど彼が撒いた花のように真っ白な水柱が、高々と上がる。
そして、彼は猛然と泳ぎ始める。水を蹴立てて、立ちふさがる波を全て正面から打ち壊して、全てを追いぬく勢いで泳ぎ出す。
それは、力強いのに、どこか危うさを感じさせる泳ぎだった。最初から全力で、自らを省みない泳ぎ。それを、私は知っている――。
「エデン、だめ――!」
しかし、彼は溺れている子供を見つけると片手で捕まえ、暴れる子供を無理やり抱えて泳いでいく。来るときよりも激しく全身を動かし、最早、呼吸すら最小限だ。
その、英雄の行動に、私は動けない。まるで縛りつけられたようにその場で凍りついたように浮かぶのみだ。
エデン自身に死ぬつもりはないのだろう。だが、それは誰が見ても捨て身の救助劇だ。現にエデンの体は暴れる少年を抑えきれず、何度も沈みかける。パニックに陥っている者を救おうとするのは、予想以上に体力をつかうのだ。
その泳ぎを見ていると、涙が出てきた。いつかの私も、あんなふうに捨て身で泳いでいたのだろうか。
「……エデン……君は私が助けるよ。だから――」
死ぬ気で、泳いで良いよ。
そう言って、私は再び泳ぎ出した。
ゆっくりと沈む彼の体を、そっと受け止める。
仄暗い海の中。カーテンのように降り注いだ光が、美しく幻想的な景色を作り出していた。辺りには綺麗な色彩の魚が泳ぎまわり、カーテンの裾にはゆらゆらと葉を揺らす海草が生えている。
エデンは、少しだけ日に焼けた身を晒し、服を揺らしながら私の腕の中で眠る。
このまま、ずっと見ていたいと思う。いつまでも眠るエデンの寝顔を、いつまでも見ていたいと思う。
目を覚まして、今の私に怯えられるよりも。このまま眠るエデンと一緒に、いつまでも暮らすのだ。
だが、それは出来なかった。
例えば、彼が毎年撒く花束。せっかく集めたその花は、海の中では一日と保たずに朽ち果てるのだ。それは、彼とて同じ。
このままでは、じきに彼は死んでしまう。母なる海に当てられて、儚く散ってしまう。
あるいは、花よりも早く。
いつだって、強欲は身を滅ぼすものなのだろうか。
私はその手で、波に揺れる彼の髪を撫でつける。それでも、彼は目を覚まさない。
私は彼を抱いたまま、体勢を入れ替え泳ぎ出す。速度は人間である彼に合わせ、ややゆったりとした速さ。
以前であれば、私とて彼ほどの重量を担いで泳ぐのは難しかっただろう。だが、今の私は海で生きるための体を持っている。それくらい、造作は無かった。
私は、岸を目指して泳ぎ出す――。
それほど泳ぐこともなく、陸を見つけた。私はそこへ上陸し、陽光を反射して眩しく光る、真っ白い砂浜にエデンを仰向けに寝かせた。私も、やわらかい太ももに彼の頭が来るように座る。
彼の横へ座り込むと、一糸纏わぬ体にちりちりと焼けるような熱さが沁みる。だがそんなことはお構いなしに、私は彼に口づけた。身をかがめたせいで、濡れた私の藍色の髪が彼の顔にかかる。
自発呼吸の止まった彼に、私から空気を送り込む。それとは逆に、私には塩辛い海水と彼の唾液が返ってくる。その唾液は、どこか艶めかしくて、まるで私を誘っているように感じてしまう。
気がつけば、蘇生を口実に彼の唇を貪っている私がいた。とっくに彼は呼吸を取り戻している。それでも、私は唇を放さない。
気を失い、抵抗できない彼の唇を無理に奪うことに感じる、背徳感。それは私の心を絶妙に刺激して、私を興奮させていく。気づけば、呼吸が荒くなっていた。
「はぁ、はぁ、エデン……」
濡れて肌に張り付く彼の前髪を、手で梳いて流す。彼は既に大分回復しているようで、こちらが舌を差し込めば彼の方も絡めるように動かしてくる。
私はそれに気を良くして、さらに激しく彼を貪ろと覆いかぶさる。彼の舌に自らの舌を絡め、歯でしごく度に、言いようのない満足感と、それを上回る渇望が私の内側から湧き出る。
熱い衝動、と言い換えてもいいかもしれない。それは本能とも呼べるもので、到底逆らえるものではなかった。熱にうかされるように、だんだんと思考が回らなくなってゆく。
回遊魚が泳がねば死ぬように、サメが泳ぎ続けねば死ぬように、それはあまりにも自然で、それ故私の全てを握っていた。
今、私がこの行為を止めれば、泳ぎつかれた人のように、あっさりと死ぬのではないか、そうとすら思えた。
いつしか、熱さを、時を忘れていた。
「ん……、がはっ!」
唇を貪ったまま、私が彼の衣服に手をかけた時だ。彼が急に意識を取り戻し、激しくせき込んだ。私の口の中には塩辛い水が逆流し、唇が離れる。
気がつけば、私は彼に覆いかぶさるようにしてのしかかっていた。私の指先は彼の濡れた衣服に差し込まれ、いつでもそれを剥ぐ事のできる姿勢だ。そんな私をどう見たか、彼は長い間、私を見つめていた。
「………」
彼の視線に射抜かれて、私もまた、彼を見つめ返す。
そうして、どれほどの時間が過ぎただろうか。
意外にも彼は恐慌することもなく、静かに私の瞳を覗きこむ。
「………。アル、エット?」
アルエット。私の名前。魔物に堕ちても失わなかった、過去の私と現在の私を繋ぐ楔。
「……そうだよ、エデン」
私もまた、照れと恥ずかしさを隠すようにはにかみながら、彼の名前を呼んだ。
私の、エデンに比べれば小さな体をフルに使って、彼に抱きつく。タックルするようにぶつかり、私を受け止めきれなかった彼はごろりと仰向けに砂浜に転がった。
そのがっしりとした体の上に私はまたがる。
「ねぇ、エデン……。逢いたかったよ」
目いっぱい顔を近づけて、そう囁く。息が耳にかかるくらいの位置で、彼を籠絡するように。
案の定彼はすぐに頬を染めて、微かに上ずったような声で答えを返してきた。
「ぼ、僕もだよ。アルエット」
またがったまま、何度もしたように彼の濡れた前髪を手で梳く。髪が邪魔にならぬように横に流し、改めて顔を近づける。
瞳と瞳が真正面から覗き合うような角度で、彼のやや幼さの残る顔を見つめた。
「ねぇ、君のために、ずっと私、我慢してきたんだよ。いつか君に答えを聞こうって思って。でも、勇気が出なくて……」
私は海に沈み、魔へと堕ちた。
だが、心までそう簡単に堕とされてはやらない。私の心を砕けるのは、この世でただ一人、エデンだけだ。
彼を見つめているだけで、私の火処が火照り出すのを感じた。
「迷惑かな? でも私は君の答えが欲しいの。出来れば、相思相愛で君と結ばれたいな、って思うの。だから、君の答えを頂戴?」
言葉を紡ぐ、口の中が潤いだす。同時に、彼の服に押しつけられている秘裂からも、じわりと滲むように暖かい感触が湧きでてくるのを感じた。
――いちいち、免罪符を求めるような私とは違って、魔物の体は正直だ。既に息も荒くなり始め、唾を飲む回数も増えている。
「ア、アルエット……いきなり、どうした……?」
驚いたような、わずかな困惑を瞳に浮かべて、彼はこちらを見る。まだ、怯えの色は無い。
今、私は彼にまたがり、そのまま身を倒して彼に密着しているような状態だ。胸は私と彼の間に挟まれ、弾力に富んだ感触を返してくる。
ああ、彼さえ望めば、今すぐにでも私の全てを差し出すのに。彼さえ許せば、彼の全てを心ゆくまで貪れるのに。
「……私は君が好きなの! だから…だから、君を私に頂戴!」
「!」
彼の顔が、わずかに驚きに歪む。
でも、エデンのそんな顔は見たくなくて、だから、私は彼の表情を変えてやろうと、強引に接吻した。
エデンの顔を両側から押さえるようにして、狙いを定めて顔を近づける。
彼の唇は、まだちょっとだけ塩辛かった。
「ん……、はぁ、あふぅ……」
「ん!? んんんんっ」
もう、遠慮も容赦もない。壺の中の蜜を舐めとるように、舌を伸ばして徹底的に貪りつくす。
私と彼の、溢れんばかりの唾液が交換され、時に唇を伝って滴り落ちる。
「ぁあ……。どう? まだ足りない? もっと、もっともっと私を深くに刻んでも、いい?」
口を開く度に零れる唾液が、彼の服に染みを作っていく。
きっと、彼からは上気した赤い頬の少女が、覗き込むようにして媚態を晒す様が見えている事だろう。
下の口から漏れ出た唾液も、触れるそばから所構わず彼の衣服を濡れ染めにしている。またがっているだけでも、甘いしびれのような快感が太ももを這う。
ああ、早く彼の全てを感じたい。彼に全てを捧げて、なにもかもをかなぐり捨てて快楽の海で溺れたい。
唇を交わした状態で、至近距離から見つめ合う。彼は少し頬を朱に染めて、驚くようにこちらを見つめていた。
「あぁ、そんな風に見ないで……。私おかしくなっちゃうよ……」
最早、実際に感じるはずのない視線すら、私に快楽をもたらすかのようだ。彼に、こんな醜態を晒しているという事実が、私に倒錯的な快楽を与える。
もっと私を見て欲しい。もっと深いところまで。もっともっと深い、溺れてしまうような所まで。
欲望に潤んだ青緑の瞳と、海の底のように深い、底の無い瞳が向かい合う。それだけで、疼くような、痛痒に似た快感が私を突きぬける。
――我慢も、もう限界だ。
「アルエット……。僕も、好きだよ……」
一瞬、唇が離れたそのタイミングで、彼はそっと言う。
唾液に濡れた淫らな唇で、まるで、私を誘うように。
ぴきり、と、私の中の何かが、音を立てて壊れた。同時に、私を最後の一線で踏みとどまらせていた躊躇が、消える。
「はぁ、あ、ありがとぉ……。 これで、君を、はぁ……んっ」
そう言うのと同時に、彼の衣服に手をかける。乾きかけでじめじめした布地を掴んで、左右に引っ張った。
すると、それは簡単に脱がされ、軽く肩に引っ掛かっているだけとなる。同じように、下の服も軽く脱がす。
「あぅ……すごいね…エデンの、おっきくなってるよ」
覆いかぶさったまま雑に脱がした衣服を砂浜に広げ、裸になった彼の上に改めてまたがる。
私の下腹部には、灼けた砂浜のような熱を持つ、たくましい彼の肉棒が当たっていた。思わずじっと見つめ、手で撫でるように触れる。
「あっ……」
「あ、ごめん。……痛かった?」
それはよほど敏感なのか、充血しきった先端に軽く触れただけで彼は身じろぎをする。
「いや、なんでもない……」
彼はそれを恥じるかのように顔を真っ赤にして、軽く首を振った。
その様子がなんだか可愛くて、私は両の手を使って彼を撫でまわす。まんべんなく、手のひらや指先を使い分けるように。
その内、私の熱を持った内股が、さっきよりも激しく蜜を吐きはじめた。私の秘裂から溢れた蜜は、私の内股を伝った後、純白の砂に染みをつくる。
「あはぁ、エデンのここ、どんどん硬くなってくよぉ」
それと同時に、私の中に荒れ狂う名前のつけられない衝動も出口を求めて暴れまわる。このまま放っておいたら、いつか私を突き破ってしまうんじゃないか、と思わせる勢いで。
私はその衝動に突き動かされるようにして、彼の肉棒にそっと口づけた。途端、溢れる唾液が彼の肉棒に絡みつく。
「ん、アルエット……ダメだよ…!」
口づけだけでは済まさず、そのままそれを咥えるように口に含んだ。目いっぱいまで膨らんで硬くなったそれは、私が口を大きく開けてなんとか全部が納まりきる。
唾液は尽きることなく、次から次へと湧いて来て、彼の陰茎を淫らに彩っていく。口に含んだまま下を動かして彼を愛撫すると、その度にそれが動くのを感じた。
口ですればするほど、下の口も淫らな液を滴らせ、不満を訴えるように熱い痛痒を走らせる。既に、私の内またはべたべたに濡れそぼっていた。
まるで、ねだっているいるようだ。おかしなことだ、と思う。どちらも、私の体の一部だというのに。
「んむ……。はぁ、ん……」
私のものと同様に、彼のモノも熱くたぎっているようだ。
それは彼のモノを舐める舌先や、掴み固定する手から、よく伝わってくる。
「あぁッ……アルエットっ……」
「ん、良いの、エデンはじっとしてて……はむ、すぐに私が、んんっ、もっと気持ちよくしてあげるよ」
言いつつ、じっくりと味わうように舐める。唾液でぬるぬるする、大きな逸物を愛おしく。
同時に、手でも愛撫を始める。それは誰に教えられた訳でもなく、私の中で暴れまわる衝動に突き動かされた結果だった。
口だけでなく、手からも与えられる快楽に、彼は言葉を出せずに喘ぐ。
「――ッ!」
その様は、まるで海で溺れた時のようだ。彼は、口をぱくぱくさせながら、手足をばたつかせる。
それで良い。私に、私の愛に溺れて欲しい。欲望に、沈みきって欲しい。
そうして、彼を私に染めるのだ。
「んっ、はぁ、はぁ、もうそろそろ、だよ……?」
彼の肉棒は、ぬらぬらとした粘液のような唾液に覆われ、私の唇と淫らな銀の糸で繋がっている。それは今までより一層雄々しくそそり立ち、私を待っている。
「はむっ、ん、む、んんっ……」
舌が彼を舐め擦る度、指が彼を撫で掻く度、淫靡な水音が砂浜に響く。それに混じって私の嬌声と、彼の声が時折聞こえた。
そして、それらの音がより激しく、最高潮に達した時、それは来た。
「ああッ……! もうダメだ、で、出る……!」
そんな小さな穴の、どこからこれだけの精液が出たのだろう?
彼が吐き出した精液は私の口だけでは納まりきらず、彼のモノを咥えた口の端から零れて、私の口の周りを淫らに汚す。
思わず口を放した後もどぷどぷと精液を吐き出すその肉棒は、残滓のように吐き出した精液を私の髪にかける。
「あ、ゴメン……。不味かったら吐き出しても……」
ごくり、と呑み下す。その上、舌を使って口の周りに付いた精液も、出来る範囲で舐めとる。
やや唖然とした表情を見せるエデンに、私は微笑みかける。
身を引き、彼からも見えるように秘裂に指を差し込む。そうして少しいじれば、大量の愛液と共に真っ赤に充血した陰核が飛び出してきた。彼は半身を起し、顔を赤くしながらも目を背けずにそれを見ている。
真っ赤に充血した大きなクリトリスは、指で触れるだけでも耐えがたい快楽を送ってくる。ともすれば、そのまま指を突っ込んでぐちゃぐちゃにしてしまいたくなる。
私はその衝動を抑え、愛液でぬめる陰核を指でつまんだ。そして、どろどろと蜜を吐き出すそれを指先で撫でながら彼に見せる。
「ほら、もうこんなに濡れちゃった。上の口ばっかり良い思いをするから、こっちの口が淋しいって言ってる」
既に、まるで口を開くように広がった秘裂は、なみなみと蜜を湛え、お尻や内またをべたべたに濡らしている。その中に差し込まれた指も、熱くぬめる愛液が絡みついていた。
それを見せつけ、頬を朱に染めた顔でねだる。
媚態と痴態を晒し、彼の精液で汚れた顔を向けた瞬間、衝撃を感じた。
それが彼に抱きしめられたからだと理解するのに、一瞬の時間を要した。そして、その一瞬の間に、事は終わっていた。
「にゅ、ぅぅううううううッッ………!!」
いましがた彼に見せつけた秘裂に、熱くたぎったなにかが突き刺さった。彼の腕の中で、急に起き上がった彼に押し倒されるように倒れ込む。だが、その衝撃すら忘れるような快楽に包まれていた。
「アルエットが悪いんだよ……こんなにも僕を誘惑して……」
彼は、私を抱きしめながら言う。その顔は真っ赤で、息も荒い。
「あぅぅぅ……、良いよぉ、エデン……!」
先ほどまでとは姿勢が入れ代わり、今度は私が下で喘ぎ声を漏らす。彼は私の上で、まるで獣のような荒い息で私を犯した。
がしりと私の肩を掴む手には力が入っていて、萎える事を知らない下の肉棒は私の敏感な所をぐちゃぐちゃにした。
それのもたらす快楽に耐えきれず、私ははしたなく息を吐く。嬌声を上げる口の端からは透明なよだれが伝い落ちた。
「はぁ、もっと奥に入れて、いい……?」
「ああッ、はふ、いい、よ……んッ」
全身に、震えが走った。
ぞわり、と耳元で風が鳴り、体中に甘い痺れが走る。
「ふぁぁぁああああああああッッ!!」
気がつけば、虚空に向かって声を上げていた。それは淫らな雌の艶声で、歓喜の遠吠えだった。
秘裂の襞をこする彼の棒が愛おしい。陰核にぶつかり、激しく刺激するそれが、たまらなく愛おしい。なにより、耳元で荒く息を吐き、私を拘束するように抱きしめる彼の熱い体が、愛おしかった。
「ああぁ、ダメぇ、勝手に動いちゃうよぉ……!」
足は内を向き、腰は彼の動きに合わせて勝手に動いた。手は彼の背に回され、なにがあろうと彼を放さないようにしがみついている。
私の秘裂は、今までより激しく蜜を吹き、彼と私を濡らした。
それには少量の血も混じっていて、白い砂浜を少しだけ赤く染めた。
「はぁ、も、もしかして、アルエット……」
「んぁぁ……、ん、そうだよ。私、エデンのために……ふッ、我慢、してたって、ああっ! 言ったでしょう?」
そう。
これは、私にとって、初めての行為。
初めては、大好きな彼に、捧げると決めていたから。
「だから、もっとして良いよ。もっと、私を君で染めて………!」
そう言うと、私は彼に全てをゆだねるために、力を抜いた。
腹を上に向けて、力を抜いて相手を見つめる。それは、恭順の証。
もう、彼のせいで、上も下もぐちゃぐちゃだ。心もすっかり溶かされて、あるのは彼への愛情のみ。体は彼の愛情を受け止めるためのもので、心は彼を愛すためのものだった。
「もう、我慢できない……!」
彼は力を抜いた私にがっしり抱きついて来て、それなのに、大切なものを扱うように丁重に、私を慰めた。
よだれで汚れた私の唇をそっと舐め、その舌を差し入れる。
それがあまりにも気持ちよくて、私はふごふごと浅ましく喘いだ。同時に彼の肉棒も今までにない深みを突き立てられ、私の入れてはいけないスイッチを、押す。
「きゃ、あ。くぅあぁぁあああぁああああああッッ!!!」
最早、自分の声さえも耳に入らない。ただ、キーンという耳鳴りに似た音を脳裏に響かせるだけだ。
私の花弁は彼の男根を受け入れつつも、激しく潮を吹いた。きっと、耳が聞こえていたならその噴出音まで聞こえただろう。それほどの勢いだった。
激しく噴き出した潮は、ぱたぱたと彼にかかる。
「うぁぁ……ッ!」
彼が、苦しそうに、嬉しそうに呻く。耳鳴りの向こうで聞こえたその声に、私は欲情する。
未だ蜜をどろどろと吹き出す私の秘裂に自らを突き立てながら、何かを堪えるような彼の声は、それだけの魅力を秘めていた。
それのもたらす快楽に、私はただ喘ぐ。最早、それしかできない。浅ましく、低俗に、快楽に全てを支配されて。それでも、それが彼のもたらした快楽なら、どうでもよかった。
正しく、私の心は彼に砕かれたのだ。
「もっと、もっとぉ! んっぁぁ……! 汚してっ……、めちゃくちゃにぃ……!」
仰向けのまま、彼を受け入れたまま、迎え入れるように四肢を大きく開く。
きれいなことろも、きたないところも、全部見せつけて、その上で彼に染めてほしい。
そのためなら、彼のきたないところも、全部受け入れる。
「う、くぅッ……。アルエット、い、行くよ……!」
「いつでも、いいよぉ……!」
その瞬間。私の奥の奥が、今までに感じたこともないようなシアワセに包まれた。
すっかり白の砂浜が乱れる中、私達は体中に砂をまぶしながら行為を続けた。
熱く火照る体から滲んだ汗で砂が張り付き、それもすぐに相手の体に払われる。私はすっかり彼と私の液でべたべたで、それは彼も同じだった。
髪に、頬に、身体に白い液をまぶし、欲望に蕩けた瞳で痴態を晒す私と、私の艶声を聞きつつその淫らな秘裂に肉棒を突き立てる彼。
あれから、幾度絶頂を迎えただろうか。だが、魔物となった体は疲れを知らず、より残酷に彼を責め立てる。
そして、彼も人にあるまじき精力で私を悦ばせる。それはまるで、あの日からずっと溜めこんでいた何かを、吐き出すかのようだった。
「ねぇ、エデン……」
私は口を開く。さえずりに似た嬌声を吐き出そうとする口を意志で押さえつけて、人の言葉を紡ぐ。
「何? アルエット」
「好きだよ」
そう言って、私は目を閉じた。
そうして、私は眠りに落ちた。海の深みに沈むように。
「ねぇ。泳いで行こう。夕陽の沈むところまで」
「それは、プロポーズ?」
「えへへ、ばれた?」
「良いよ」
「へ?」
「だから、答え」
「え、うん……。なんだか、照れるね」
「泳いで行こう。夕陽の沈むところまで。――どっちが早く泳げるか、競争だ!」
「あ、ちょっと待ってよ! ずるいよ!」
「ははははは――」
昔から、漁民の間に伝わる言葉がある。
それは格言とも、教訓ともいえるものだ。
“海を甘く見た者の末路は、その悉くが虜囚である”
私も彼も。互いが互いの虜囚となって、今を生きている。
今を、生きている。
11/07/18 12:23更新 / 湖