救出 (後編)
スライムのセリアティは同僚のレッドスライム、アルセの絶叫で目を覚ました。
(ぁぅ…ここは…私は…)
肉体は開放されたことで一時的に正気を取り戻しているが、精神は飢えに蝕まれ、正常な思考が失われつつある。
それでも、何とか周りの情報を集める。
(敵、この地下室に10人…外に30人……リーゼはもういない…たすけは…くるかどうかはふめ…?)
正気が音を立てて崩れ落ちていく中、彼女が気が付いたのはこの場にいないはずの仲間の魔力。
その気配が外の人間の数を減らしている。
ふらふらと、そしてゆっくりと身体を起こす、入り口の扉には木製の閂が通され、締め切られている。
(しらせなきゃ…ここにいるって…)
セリアティは男達に気づかれないように、そっと枯れ果てた魔力を練る。
不足分は自分の身体を崩しながら、彼女は術式を組み上げた。
それは爆発術と魔力による周辺への連絡術。
彼女は自分の身体が徐々に形を失うのも構わずに、自分の身体の一部にその術式を書き込み、その部分を千切り、扉に投げつけた。
刹那、扉が爆ぜる大きな音がスラム街中に響き渡った。
木製の扉が砕け散る爆発音は、アルセを痛めつけていた男達を驚愕させた。
「うわっ!!!、何が起きた!?」
「あのスライムの仕業だ!!」
「くそっ、まだ動けたのか、あいつにも脱水剤をぶっかけてやれ!!!」
男達が騒ぎ出した途端。
地下室の松明が一斉に消えた。
憤怒の叫び声は困惑へと変わり、男達は暗闇の中を右往左往する。
すると、騒乱の中にあって、やたら耳に残る声が男達全員に聞こえた。
「み〜つけたっ♪」
「!!?」
指を鳴らす音が聞こえ、松明が一斉に灯った。
明かりに照らされ浮かび上がってきたのは2人の少女の姿。
片方は重厚な鎧を着込み片手に大剣を掲げる短髪・栗色髪をしたデュラハン。
もう片方は逆に露出の高い服を着込み、長髪・緑色の髪をし、ニコニコと笑っている下半身が大蛇のエキドナだった。
だが、どちらも怒りに震えているのが良く分かる。
デュラハンは既に大剣を抜いて構えているし、エキドナは瞳孔が縦に細くなっている。
「な…いつの間に…」
「そんな事を心配している場合か?」
デュラハンがそうつぶやくと同時に、彼女の姿が視界から消えた。
次に背後から声が聞こえる頃には、男達は全員床に崩れ落ちていた。
あっという間にあがる呻き声と苦痛の叫びが上がり、それら恐怖の合唱は二人を幾分か満足させた。
「あ〜…もう〜…ちょっとスレイ、私の分も残しておいてよ」
「ルーイェはねちっこいからな…まずはボクが先制して動きを止めておいたから、後は好きに吐かせればいい、ボクは2人を助けてくるよ」
「む〜分かったわよ、そっちは頼んだわ」
スレイと呼ばれたデュラハンはあっさりと剣を収め、アルセとセリアティを開放しに向った。
一方のエキドナのルーイェは蛇腹を床に擦りながら、足の腱を切られて動けなくなっている男に近づいていく。
「くっ…来るなぁ!!」
「おっと♪」
一番近い男が1人、手投げ用のナイフをルーイェに投げ付けて来た。
ルーイェはあっさりとそれを叩き落とし、返礼と言わんばかりにその男に身体を巻きつけた。
ゆっくりと締め上げていくと、男が呻き声を上げる。
「さ〜て、貴方方には2つの道があります」
「?」
「何も言わずにじわじわと嬲り殺されるか、知ってることを全部吐いて楽に死ぬか、選んでくださいね♪」
「ふざけるn、ンギャァァァァァ!!!」
男が抗議の声を上げようとしたところで、彼女は更に男を締め上げた。
全身の骨が軋み、悲鳴を上げる。
他の男達は足を動かせないため、ずりずりと体を引き摺って逃げるしかない。
「さて…教えてくれるかしら?、貴方達が売り飛ばした娘達の行き先を…」
「…しるかぁ…ぐぁ」
男の減らず口に、ルーイェの瞳孔は更に縦に細くなった。
足首が、太腿が、腹部が、胸部が、首が、ギリギリと締め上げられ、男は苦悶の表情と声を上げた。
「…そろそろ、冗談ではすまないわよ?」
「くっ…くそが…」
「口が悪いわね〜」
ルーイェは中々口を割らない男の指に尻尾の先を絡めた。
そして…
「何の…アギィィィィィィ!!!!」
指を…
「あはははは〜、早く吐かないと、体中の骨をぐちゃぐちゃにしちゃうわよ〜♪」
真横にへし折った。
それでもニコニコしながら、彼女は手を緩めずに、隣の指に尻尾を絡める。
尻尾で指を左右に軽く揺らしながら、彼女は男を脅しつけた。
「ヒィィィィ!」
あっという間に、男は情報を垂れ流しにするスピーカと化してしまった。
拉致した少女の情報、取引のあった娼館、儲けやその他もろもろを聞き出したり、記憶を覗いたりして、ルーイェは情報を集めた。
そうこうしている間にスレイが戻ってくる。
「ほら…やっぱりルーイェはねちっこい」
「ごめんなさいね、久し振りに本気で怒ったら…止まらなくなっちゃった♪」
特に悪びれもせずに、ルーイェは細い舌を出して微笑んだ。
この間に男の指は4本がへし折られ、あらぬ方向に曲がっていた。
男は激痛に呻き、のた打ち回っているが、ルーイェもスレイもそれを気に止めもしない。
スレイの後ろにはアルセとセリアティがいた。
2人とも疲れきっている。
アルセは全身に脱水剤を浴びて弱っているし、セリアティは今は外されているものの、首輪によって魔力を奪われていた。
それでも、尚怒りに燃える瞳で男を睨みつけている。
松明に照らされた彼女たち4人は原種の魔物、人肉を喰らう魔物達と同じ気配を放っていた。
「…君達はこいつらをどうする?」
「ふぅー…ふぅー!!」
「あらら…こっちの君は腹ペコみたいだね……そしてとっても怒ってる…」
「私だって許さないわよ…」
脱水剤に侵され、身体が縮み、体躯が幼女のそれになっているが、それでもアルセの中身が変わる事はない。
セリアティにしても、枯渇した魔力を求めて、息を荒げている。
「ボクだって、仲間をこんな目に合わせられて怒ってるよ…切り刻んでやろうか?」
スレイが大剣をゆっくりと引き抜きながら、男を睨みつけている。
笑顔のを浮かべたルーイェはそれを片手で制した。
「やめとき〜、私もこいつらを外の連中同様に嬲り殺そうと思ったけど……もったいないわ」
「ボクはこんな下種の精なんて欲しくないけどね」
「私もよ〜、だからこいつらをデビルバクの住処に放り込んであげようと思ってね〜」
「それはいいね♪」
「!?」
ニコニコと、あくまでも笑顔を崩さずに、ルーイェは言い切った。
男達が騒ぎ出すが、まったく取り合わない。
殺すより残酷な目に遭わせてあげる、彼女は笑いながらそう言った。
スレイもそれに合わせて、ニコリと少女に相応しい笑顔を見せる。
「というわけで、直接地下の住処に転移させてあげるわね、300を超える彼女達を…満足させてあげてね〜」
「ちょ…やめ…っ…」
「命をとらないだけボク等に感謝するんだな」
「ふざけr…ギィァァァァァァアアア!!!!」
ルーイェは男達に別れを告げながら、魔力を練り、言い終える頃には一人一人も足元に魔法陣が現れ、男達をと飲み込んでいった。
あっという間に9人の男達は全員が沼に沈み込むように、暗い水面の様になった魔法陣の中に消える。
転移先から出てきたのか、雨後の筍のように生えた女の手が、男達の身体を掴んでいるように見えた。
おそらく、空間が繋がり、男達の身体の一部が向こうに転移した時点で、向こう側のデビルバク達がそれに気づき、殺到してきたのだろう。
今頃は自分達が女に強要した様に、好き放題嬲られていることだろう。
自業自得なため、その場の4人は誰一人として同情はしていない。
「な…なんで俺は…」
「君は重要な証人だ、ボク達と一緒に来てもらう、そして洗いざらい全部吐いてもらうから覚悟するんだな」
「!!」
ただ1人、転移魔術の対象から外された首領格の男はその後に待ち受ける尋問を想像し、ガチガチと歯を鳴らして震えた。
「さあ…お二人さん、もう大丈夫y、きゃっ…」
スレイが男を拘束している中、ルーイェがアルセ達に近寄っていくと、体躯の小さなレッドスライムが、ルーイェの豊満な胸に飛び込んできた。
「うぇ…ひぐっ…うぇぇ…」
「…よしよし…怖かったのね…」
「ぅー」
普段は気丈で口調もきつい彼女だが、この時とばかりは、ただ泣きじゃくる1人の少女だった。
ルーイェもそんな彼女を甘やかすように、頭を撫で、抱き締めた。
「ごめんなさい…今だけは…」
「いいのよ…って…ちょっと!!」
セリアティはそんな2人にまとめて飛び掛ると、ルーイェの魔力を求めて、身体に纏わり付き始めた。
「ちょっと…やめてよ、セリアティ…何するのぉ!!」
「お腹減った…もうがまんできないのぉ!!」
「あらあら…もうすっかり出来上がってるのね…これは蛞蝓の交尾みたいになりそうね…」
実際に口には出さないが、アルセもルーイェ魔力が欲しくて堪らない様だった。
否定の言葉を口にしながらも、口元が緩んでいるし、身体が既に動いている。
ルーイェはどこか嬉しそうに、2人を愛撫を全身で受ける。
彼女の言ったとおり、蛞蝓の交尾のように3人は絡み合った。
途中でスレイが戻ってきたが、あきれ果てて止める事も無く、貪り合う3人が満足するまで、ニヤニヤと笑いながら見ていた。
情事が済んでから、4人はその場から資料をかき集めて押収し、ギルドまで戻ると、スラムで自白させた情報と連れ帰った男から得た情報、それに押収した娼館とのやり取りの書類等々を参考に、売られた少女達の救出作戦を立案。
ギルド員であるスレイが中心となって捜査員を編成、ルーイェは今まで身分を偽っていたという背景があり、救出部隊には不参加だった。
結局、親魔物派からは20人程の捜査員が集まり、反魔物派のギルドからも50人を超える人員が参加を表明した。
その後一月としないうちに、双方の領地内の捜索を開始され、違法娼館は次々と潰された。
だが、連れ去られた少女は全員救出とはいかず、娼館から個人に買い取られてしまった少女に捜査の手が届かなくなっていた。
それでも50人の人間・魔物の少女を辛うじて救出出来たのは幸いだったのかもしれない。
スラムから連れ帰った男、スラムで尋問をして聞き出した情報を元に娼館を摘発すると、次の娼館の情報が出て、そこを摘発すれば次が…という具合に芋づる式に摘発されてしまったのが間抜けというべきであろう。。
その後は個人に買われてしまった少女を救出するべく、捕らえた娼館の経営者達に対して、尋問を行った。
ちなみに親魔物派は性的な尋問で、反魔物派は苛烈な拷問で、それぞれが情報を搾り出していたようだ。
そして…ハーピーのリーゼは…
救出が…
間に合った。
売られて日付も浅く、魔物ということもあり、個人に買い取られるということは無かった。
だが、救出された時の彼女の有様は目を覆うような状態であった。
短い間であったものの、娼館にいる間に翼は折られ、足は傷つけられ、望まぬ相手と交わってしまったためか、意識は虚ろ。
捜査員の呼びかけにも答えられ無い状態であった。
そんな彼女だったが、アルセとセリアティの献身的な介護で状態は回復に向かい、約3年で正常にコミュニケーションが取れるまで回復した。
だが、ギルドに復帰することは無く、リーゼはそのままギルドを辞めてしまった。
ギルドを去ってからの彼女の記録は残っていない、純粋な魔物として野に下ったのだろう。
アルセとセリアティはその後も2人でコンビを組みギルドの一員として活動を行っていく事となる。
〜あとがき〜
この事件をきっかけに、親魔物派・反魔物派の枠を超えて、人身売買組織と違法娼館が徹底的に撲滅されるに至る。
だが、この手の犯罪はいつの時代もなくなることは無い、人間にしても魔物にしても、少女達を守るためにも、摘発や調査は厳しく行われるべきである。
だが、本質的には魔物達が人間の男を問答無用で連れ去ったり囲ったりする事と大差を感じないのも事実。
人間と魔物の間でいわゆる『魔物の婿探しに関する規約』が取り決められるのはもう少し後の事となる。
余談ではあるが、ルーイェはこの事件の後、周囲の人間や魔物に自分がエキドナであることがばれている。
だが、スレイの口添えもあり、ネーフィア学院の司書としての仕事を続けていくことが出来たようだ。
ギルドに所属する1人、デュラハンのスレイについては、興味深い活動記録が残っているので、そちらを参考にして欲しい。
――――――――――――――――――――
なんてひどい…少女はそう思いながら本を閉じた。
そして、本を机に置きながら、顔を上げると、いつの間にか移動してきたのだろう、目の前の席に緑色の髪の司書が座り、少女を見つめてニコニコしていた。
!
少女は驚き思わず声を上げてしまう。
だが、ここが図書館であることを思い出し、慌てて口を塞いだ。
司書はエキドナである。
そのことを書物で読んでいた少女は神妙な面持ちで司書の顔をじっと見つめた。
瞳孔をよく見ると、ほんの僅か、ほんの僅かだけ人間よりも縦に細い。
目を良く見る…それは相手の顔を見つめることである。
徐々に司書の頬は朱を差し始めていた。
互いに見詰め合って5分ほど経っただろうか。
先に司書が口を開いた……
(ぁぅ…ここは…私は…)
肉体は開放されたことで一時的に正気を取り戻しているが、精神は飢えに蝕まれ、正常な思考が失われつつある。
それでも、何とか周りの情報を集める。
(敵、この地下室に10人…外に30人……リーゼはもういない…たすけは…くるかどうかはふめ…?)
正気が音を立てて崩れ落ちていく中、彼女が気が付いたのはこの場にいないはずの仲間の魔力。
その気配が外の人間の数を減らしている。
ふらふらと、そしてゆっくりと身体を起こす、入り口の扉には木製の閂が通され、締め切られている。
(しらせなきゃ…ここにいるって…)
セリアティは男達に気づかれないように、そっと枯れ果てた魔力を練る。
不足分は自分の身体を崩しながら、彼女は術式を組み上げた。
それは爆発術と魔力による周辺への連絡術。
彼女は自分の身体が徐々に形を失うのも構わずに、自分の身体の一部にその術式を書き込み、その部分を千切り、扉に投げつけた。
刹那、扉が爆ぜる大きな音がスラム街中に響き渡った。
木製の扉が砕け散る爆発音は、アルセを痛めつけていた男達を驚愕させた。
「うわっ!!!、何が起きた!?」
「あのスライムの仕業だ!!」
「くそっ、まだ動けたのか、あいつにも脱水剤をぶっかけてやれ!!!」
男達が騒ぎ出した途端。
地下室の松明が一斉に消えた。
憤怒の叫び声は困惑へと変わり、男達は暗闇の中を右往左往する。
すると、騒乱の中にあって、やたら耳に残る声が男達全員に聞こえた。
「み〜つけたっ♪」
「!!?」
指を鳴らす音が聞こえ、松明が一斉に灯った。
明かりに照らされ浮かび上がってきたのは2人の少女の姿。
片方は重厚な鎧を着込み片手に大剣を掲げる短髪・栗色髪をしたデュラハン。
もう片方は逆に露出の高い服を着込み、長髪・緑色の髪をし、ニコニコと笑っている下半身が大蛇のエキドナだった。
だが、どちらも怒りに震えているのが良く分かる。
デュラハンは既に大剣を抜いて構えているし、エキドナは瞳孔が縦に細くなっている。
「な…いつの間に…」
「そんな事を心配している場合か?」
デュラハンがそうつぶやくと同時に、彼女の姿が視界から消えた。
次に背後から声が聞こえる頃には、男達は全員床に崩れ落ちていた。
あっという間にあがる呻き声と苦痛の叫びが上がり、それら恐怖の合唱は二人を幾分か満足させた。
「あ〜…もう〜…ちょっとスレイ、私の分も残しておいてよ」
「ルーイェはねちっこいからな…まずはボクが先制して動きを止めておいたから、後は好きに吐かせればいい、ボクは2人を助けてくるよ」
「む〜分かったわよ、そっちは頼んだわ」
スレイと呼ばれたデュラハンはあっさりと剣を収め、アルセとセリアティを開放しに向った。
一方のエキドナのルーイェは蛇腹を床に擦りながら、足の腱を切られて動けなくなっている男に近づいていく。
「くっ…来るなぁ!!」
「おっと♪」
一番近い男が1人、手投げ用のナイフをルーイェに投げ付けて来た。
ルーイェはあっさりとそれを叩き落とし、返礼と言わんばかりにその男に身体を巻きつけた。
ゆっくりと締め上げていくと、男が呻き声を上げる。
「さ〜て、貴方方には2つの道があります」
「?」
「何も言わずにじわじわと嬲り殺されるか、知ってることを全部吐いて楽に死ぬか、選んでくださいね♪」
「ふざけるn、ンギャァァァァァ!!!」
男が抗議の声を上げようとしたところで、彼女は更に男を締め上げた。
全身の骨が軋み、悲鳴を上げる。
他の男達は足を動かせないため、ずりずりと体を引き摺って逃げるしかない。
「さて…教えてくれるかしら?、貴方達が売り飛ばした娘達の行き先を…」
「…しるかぁ…ぐぁ」
男の減らず口に、ルーイェの瞳孔は更に縦に細くなった。
足首が、太腿が、腹部が、胸部が、首が、ギリギリと締め上げられ、男は苦悶の表情と声を上げた。
「…そろそろ、冗談ではすまないわよ?」
「くっ…くそが…」
「口が悪いわね〜」
ルーイェは中々口を割らない男の指に尻尾の先を絡めた。
そして…
「何の…アギィィィィィィ!!!!」
指を…
「あはははは〜、早く吐かないと、体中の骨をぐちゃぐちゃにしちゃうわよ〜♪」
真横にへし折った。
それでもニコニコしながら、彼女は手を緩めずに、隣の指に尻尾を絡める。
尻尾で指を左右に軽く揺らしながら、彼女は男を脅しつけた。
「ヒィィィィ!」
あっという間に、男は情報を垂れ流しにするスピーカと化してしまった。
拉致した少女の情報、取引のあった娼館、儲けやその他もろもろを聞き出したり、記憶を覗いたりして、ルーイェは情報を集めた。
そうこうしている間にスレイが戻ってくる。
「ほら…やっぱりルーイェはねちっこい」
「ごめんなさいね、久し振りに本気で怒ったら…止まらなくなっちゃった♪」
特に悪びれもせずに、ルーイェは細い舌を出して微笑んだ。
この間に男の指は4本がへし折られ、あらぬ方向に曲がっていた。
男は激痛に呻き、のた打ち回っているが、ルーイェもスレイもそれを気に止めもしない。
スレイの後ろにはアルセとセリアティがいた。
2人とも疲れきっている。
アルセは全身に脱水剤を浴びて弱っているし、セリアティは今は外されているものの、首輪によって魔力を奪われていた。
それでも、尚怒りに燃える瞳で男を睨みつけている。
松明に照らされた彼女たち4人は原種の魔物、人肉を喰らう魔物達と同じ気配を放っていた。
「…君達はこいつらをどうする?」
「ふぅー…ふぅー!!」
「あらら…こっちの君は腹ペコみたいだね……そしてとっても怒ってる…」
「私だって許さないわよ…」
脱水剤に侵され、身体が縮み、体躯が幼女のそれになっているが、それでもアルセの中身が変わる事はない。
セリアティにしても、枯渇した魔力を求めて、息を荒げている。
「ボクだって、仲間をこんな目に合わせられて怒ってるよ…切り刻んでやろうか?」
スレイが大剣をゆっくりと引き抜きながら、男を睨みつけている。
笑顔のを浮かべたルーイェはそれを片手で制した。
「やめとき〜、私もこいつらを外の連中同様に嬲り殺そうと思ったけど……もったいないわ」
「ボクはこんな下種の精なんて欲しくないけどね」
「私もよ〜、だからこいつらをデビルバクの住処に放り込んであげようと思ってね〜」
「それはいいね♪」
「!?」
ニコニコと、あくまでも笑顔を崩さずに、ルーイェは言い切った。
男達が騒ぎ出すが、まったく取り合わない。
殺すより残酷な目に遭わせてあげる、彼女は笑いながらそう言った。
スレイもそれに合わせて、ニコリと少女に相応しい笑顔を見せる。
「というわけで、直接地下の住処に転移させてあげるわね、300を超える彼女達を…満足させてあげてね〜」
「ちょ…やめ…っ…」
「命をとらないだけボク等に感謝するんだな」
「ふざけr…ギィァァァァァァアアア!!!!」
ルーイェは男達に別れを告げながら、魔力を練り、言い終える頃には一人一人も足元に魔法陣が現れ、男達をと飲み込んでいった。
あっという間に9人の男達は全員が沼に沈み込むように、暗い水面の様になった魔法陣の中に消える。
転移先から出てきたのか、雨後の筍のように生えた女の手が、男達の身体を掴んでいるように見えた。
おそらく、空間が繋がり、男達の身体の一部が向こうに転移した時点で、向こう側のデビルバク達がそれに気づき、殺到してきたのだろう。
今頃は自分達が女に強要した様に、好き放題嬲られていることだろう。
自業自得なため、その場の4人は誰一人として同情はしていない。
「な…なんで俺は…」
「君は重要な証人だ、ボク達と一緒に来てもらう、そして洗いざらい全部吐いてもらうから覚悟するんだな」
「!!」
ただ1人、転移魔術の対象から外された首領格の男はその後に待ち受ける尋問を想像し、ガチガチと歯を鳴らして震えた。
「さあ…お二人さん、もう大丈夫y、きゃっ…」
スレイが男を拘束している中、ルーイェがアルセ達に近寄っていくと、体躯の小さなレッドスライムが、ルーイェの豊満な胸に飛び込んできた。
「うぇ…ひぐっ…うぇぇ…」
「…よしよし…怖かったのね…」
「ぅー」
普段は気丈で口調もきつい彼女だが、この時とばかりは、ただ泣きじゃくる1人の少女だった。
ルーイェもそんな彼女を甘やかすように、頭を撫で、抱き締めた。
「ごめんなさい…今だけは…」
「いいのよ…って…ちょっと!!」
セリアティはそんな2人にまとめて飛び掛ると、ルーイェの魔力を求めて、身体に纏わり付き始めた。
「ちょっと…やめてよ、セリアティ…何するのぉ!!」
「お腹減った…もうがまんできないのぉ!!」
「あらあら…もうすっかり出来上がってるのね…これは蛞蝓の交尾みたいになりそうね…」
実際に口には出さないが、アルセもルーイェ魔力が欲しくて堪らない様だった。
否定の言葉を口にしながらも、口元が緩んでいるし、身体が既に動いている。
ルーイェはどこか嬉しそうに、2人を愛撫を全身で受ける。
彼女の言ったとおり、蛞蝓の交尾のように3人は絡み合った。
途中でスレイが戻ってきたが、あきれ果てて止める事も無く、貪り合う3人が満足するまで、ニヤニヤと笑いながら見ていた。
情事が済んでから、4人はその場から資料をかき集めて押収し、ギルドまで戻ると、スラムで自白させた情報と連れ帰った男から得た情報、それに押収した娼館とのやり取りの書類等々を参考に、売られた少女達の救出作戦を立案。
ギルド員であるスレイが中心となって捜査員を編成、ルーイェは今まで身分を偽っていたという背景があり、救出部隊には不参加だった。
結局、親魔物派からは20人程の捜査員が集まり、反魔物派のギルドからも50人を超える人員が参加を表明した。
その後一月としないうちに、双方の領地内の捜索を開始され、違法娼館は次々と潰された。
だが、連れ去られた少女は全員救出とはいかず、娼館から個人に買い取られてしまった少女に捜査の手が届かなくなっていた。
それでも50人の人間・魔物の少女を辛うじて救出出来たのは幸いだったのかもしれない。
スラムから連れ帰った男、スラムで尋問をして聞き出した情報を元に娼館を摘発すると、次の娼館の情報が出て、そこを摘発すれば次が…という具合に芋づる式に摘発されてしまったのが間抜けというべきであろう。。
その後は個人に買われてしまった少女を救出するべく、捕らえた娼館の経営者達に対して、尋問を行った。
ちなみに親魔物派は性的な尋問で、反魔物派は苛烈な拷問で、それぞれが情報を搾り出していたようだ。
そして…ハーピーのリーゼは…
救出が…
間に合った。
売られて日付も浅く、魔物ということもあり、個人に買い取られるということは無かった。
だが、救出された時の彼女の有様は目を覆うような状態であった。
短い間であったものの、娼館にいる間に翼は折られ、足は傷つけられ、望まぬ相手と交わってしまったためか、意識は虚ろ。
捜査員の呼びかけにも答えられ無い状態であった。
そんな彼女だったが、アルセとセリアティの献身的な介護で状態は回復に向かい、約3年で正常にコミュニケーションが取れるまで回復した。
だが、ギルドに復帰することは無く、リーゼはそのままギルドを辞めてしまった。
ギルドを去ってからの彼女の記録は残っていない、純粋な魔物として野に下ったのだろう。
アルセとセリアティはその後も2人でコンビを組みギルドの一員として活動を行っていく事となる。
〜あとがき〜
この事件をきっかけに、親魔物派・反魔物派の枠を超えて、人身売買組織と違法娼館が徹底的に撲滅されるに至る。
だが、この手の犯罪はいつの時代もなくなることは無い、人間にしても魔物にしても、少女達を守るためにも、摘発や調査は厳しく行われるべきである。
だが、本質的には魔物達が人間の男を問答無用で連れ去ったり囲ったりする事と大差を感じないのも事実。
人間と魔物の間でいわゆる『魔物の婿探しに関する規約』が取り決められるのはもう少し後の事となる。
余談ではあるが、ルーイェはこの事件の後、周囲の人間や魔物に自分がエキドナであることがばれている。
だが、スレイの口添えもあり、ネーフィア学院の司書としての仕事を続けていくことが出来たようだ。
ギルドに所属する1人、デュラハンのスレイについては、興味深い活動記録が残っているので、そちらを参考にして欲しい。
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なんてひどい…少女はそう思いながら本を閉じた。
そして、本を机に置きながら、顔を上げると、いつの間にか移動してきたのだろう、目の前の席に緑色の髪の司書が座り、少女を見つめてニコニコしていた。
!
少女は驚き思わず声を上げてしまう。
だが、ここが図書館であることを思い出し、慌てて口を塞いだ。
司書はエキドナである。
そのことを書物で読んでいた少女は神妙な面持ちで司書の顔をじっと見つめた。
瞳孔をよく見ると、ほんの僅か、ほんの僅かだけ人間よりも縦に細い。
目を良く見る…それは相手の顔を見つめることである。
徐々に司書の頬は朱を差し始めていた。
互いに見詰め合って5分ほど経っただろうか。
先に司書が口を開いた……
10/07/04 16:55更新 / 月影
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