愛の行方
リーゼが彼との関係を知ってから数年の月日が流れた。
彼から注がれる愛情の深さを認識し、元の生活に戻った二人だったが、14歳程になったリーゼは新たな問題に直面していた。
「ちょっ!ちょっとパパ!自分の分は自分で洗濯するって言ったでしょ!」
「言ってたけどさ、やっぱり一回でやっちまった方が効率的だろ?」
リーゼは洗濯物を干していた彼に、すごい剣幕で声をかけた。
「効率的とかそんなの…そ、それ!わ、私の、パ…パンt…!」
リーゼは言い切る前に彼が干そうとしていた下着と洗濯カゴを引ったくった。
「あ…ったく、そんなに言うなら洗濯の当番はリーゼで固定するか?」
「パパのパンツを私に洗濯させる気!?パパのバカ!」
そう捲し立てると、リーゼは引ったくった物を持ってかけて行ってしまった。
「なんなんだよ一体…」
彼の呟きはリーゼには届かなかった。
もうお気付きだろう。
14歳の娘、それは異性に過剰な照れを抱き、つい親に反発してしまうという、父親にとって最も難しい時期だ。
リーゼの場合は彼が実の父親ではなかったり魔物であったりと特に複雑である。
「はぁ、またやっちゃった…」
洗濯物をひったくったはいいが、洗濯物は干さねばならない。
結局リーゼは彼のいなくなった物干し場まで戻り、残りを干し始めた。
「なんでよりによってあのパンツなの…。もっと可愛いの履いてればよかったな…」
リーゼは彼への愛情が変化していくのを感じていた。
抱き付けば暖かい気持ちの湧いてきた胸板は今では発情を促し、撫でてもらえば自然と笑顔が浮かんでいたのに最近は嬉しいと同時に顔が真っ赤になってしまうのを感じた。
親愛が恋愛に変化しているのである。
しかしリーゼの恋のお相手は父親である。
普通の魔物なら構わず突き進むのだろうが、リーゼは人間としての育てられてきた。
父親との恋は倫理観が邪魔をするのだが、魔物としての本能は彼を求めて止まないのである。
「こんな娘じゃパパも困るよね…」
しかし、自分の想いに気付かれまいと思えば思うほど過剰で辛辣な言葉が出てしまう。
もしバレて拒絶されても彼は今までのようにそばに居てくれるだろうが、二人の関係は完全に元通りには決してならない。
そう思うとリーゼはなかなか素直になれなかった。
「あ、そろそろ夕飯の仕込みしなきゃ」
そう言うと洗濯物を干し終えたリーゼは家の中に入っていった。
「うん、よく味が染みてて美味い!リーゼ、随分上達したな!」
「べ、別にこんなの早めに準備さえすればいいだけのものだし…」
「そんなことないぞ。焼き加減も絶妙だし、これだけいろんな香りがするんだ、複雑な味付けのはずだ」
彼はリーゼの頭を笑顔で撫でてやった。
「な、撫でないで!もう子供じゃないんだから!」
「お前が何歳になろうが、親にとって見りゃ息子や娘はいつまでたっても子供のままなんだよ」
一度は跳ね除けられたが、彼は構わず再度リーゼの頭を撫でた。
今度は抵抗せず、リーゼは顔を真っ赤にして俯いていた。
一仕切り撫で終えると彼は手を離す。
「ご、ご馳走様…」
「え、もういいのか?」
そう言うとリーゼは食器を片付けはじめた。
「しょ、食欲ないから…」
「熱でもあるんじゃないのか?ちょっとじっとしてろ」
彼はリーゼに近付いていき、腰に手を回して捕まえると、逆の手をリーゼの額に当てた。
「熱あるな。顔も赤いし」
「ちょっとパパ!近いよ!離して!」
「こら、熱あるんだから暴れるなって」
そう言うと彼は額にあてていた手を頭の後ろに回し、引き寄せた。
彼の雄独特の匂いが鼻腔を通してリーゼにある魔物の、雌の部分を刺激してくる。
「ふわっ!は、離してったら!く…くさいの!」
「く、くさっ!?」
愕然とした彼が腕の力を緩めると、リーゼは彼の腕を振りほどき、脱衣所に駆け込んで行き、何かを抱えて自分の部屋に閉じこもってしまった。
その様子を彼は呆然と眺めていたが、しばらくするとリーゼの作った料理を猛然と平らげると、湯を沸かし始めたのだった。
「はぁ…はぁ…」
リーゼは熱い息を吐きながらベッドに倒れ込んだ。
手には脱衣所から持ってきた、彼が猟に出るときに使う肌着がある。
「パパぁ…。スー…ハー…」
リーゼは汗の乾いたそれの匂いを嗅ぐと頭が沸騰しそうになるのを感じていた。
布団を頭から被り、肌着の匂いを嗅いでいるとリーゼの右手は次第に自らの恥部に伸びていく。
「んっ!」
リーゼがそのぴっちり閉じた割れ目を撫でると未だ幼さの残る身体は不慣れな性感を強く感じさせる。
リーゼは布団の暖かさと彼の雄の匂いで彼の腕の中を擬似的に創り出し、彼との情事を想像した。
「パパぁ…そこ…気持ちいぃ…!」
リーゼはゆっくりストロークさせていた指を今度は膣口に沿って円運動させた。
「パパぁ…。欲しい…欲しいよぉ…」
焦らすばかりで膣内には入ることなくリーゼは指を移動させる。
そのまま陰核に到達すると、触れるか触れないかくらいの摩擦で擦り始める。
「リーゼ!リーゼ!大丈夫か!?」
だんだん本当に彼の声が聴こえるような気がして興奮も加速する。
「ふぁっ!パパぁ…パパぁ…!」
リーゼの自慰は未だ続く。
「よし!これだけすれば大丈夫だろ!」
リーゼに置き去りにされた彼は沸かした湯で浸すら体を拭っていた。
擦り過ぎて赤くなってしまっている箇所も間々ある。
「もう…臭くない…よな…?」
彼は猟師である。
そのため、獣の臭いがついてしまったのだろうと彼は思い至り、対処を講じていた。
「体は拭った。髪も洗った。服も着替えた。獣臭さは無いはずだ!」
そう言うと彼はリーゼの部屋へ向かった。
「リ、リーゼ?パパ、もう臭くは……ん?」
「んっ…!はぁ…はぁ…」
リーゼの部屋からは病に喘ぐ愛娘の声。(に聞こえた)
「リーゼ!リーゼ!大丈夫か!?」
「 パパぁ…パパぁ…! 」
自分に助けを求めるリーゼの声(に聞こえた)に彼は急いで扉を開けた。
「リーゼ!大丈夫か!?俺はここにいるぞ!」
「え……?」
布団から顔を出して呆然とするリーゼ。
リーゼは布団にくるまり情事に耽っていたため、彼はリーゼが何をしていたか気付いていない。
それ故、彼はリーゼに構うことなく近付いていった。
「リーゼ大丈夫か!?苦しいのか!?」
「き……」
「き!?」
「きゃあああああああああ!」
彼の鼓膜を破らん勢いで悲鳴を上げるリーゼと、驚きと鼓膜を守るための反射で後ろに転がる彼。
「うおぉぉ…み、耳がぁ…」
「そんなのどうでもいい!なんで勝手に入ってくるのよ!?」
「い、いや、お前の苦しみに喘ぐ声が聞こえてだな…?」
「そ、そんなの出してない!出てってよ!」
そう言うとリーゼは手の届く範囲のものを彼に投げつけた。
「うわっ、やめろリーゼ!わかった!出てくから!」
彼は逃げるように部屋を出ていくのだった。
「おーい、メシだぞー」
「…………」
部屋にいるリーゼに朝食の用意の終了を伝えると、リーゼはムスッとした顔で部屋から出てきた。
「昨晩のこと、まだ怒ってるのか?ノック忘れただけじゃないか…」
(あやうく大変な事になる所だったって言うのに…!)
「しかし、非は確かに俺の方にある。何か償いをして欲しければするぞ?」
「そんなのいいよ…」
リーゼはそれっきり喋らなくなり、さっさと食事を終えると、洗濯のために川に向かってしまった。
「はぁ…」
「ごめんやすー」
取り残された彼が1人で残りを食べていると、外から聞き慣れない言い回しの声が聞こえた。
「あ、今出ます!」
二人の住む森はあまり人の立ち入らない森のため、誰かが訪ねてくることなど滅多になかった。
彼が突然の来訪者に驚きつつ出迎えると、そこにはジパングの行商人であろう女性が立っていた。
もちろんジパングなど知らない彼には変わった格好の行商人らしき女性、位の認識しかない。
「突然訪ねてしもて申し訳おまへん。ウチは旅の商人(あきんど)やっとるもんどす」
「ど、どうも」
彼が面喰らっていると、彼女はどんどん喋り始める。
「こないな何も無さそうな森に人の通った跡が残っとるの見てコレは商売のチャンスや思てな。きっと誰も来んのとちゃいます?せやったらウチの商品見てってぇな。きっと何かしらええもんあるで!何にしても見てみな始まらんな!ちょっと待ってぇや」
彼女が荷物をおろし始めたのを見て彼は慌てて止めた。
「待て待て!こんなところで広げるつもりか!入っていいからそこでにしてくれ!」
「そう言ってくれるのを待っとったんよ」
そう言うと彼女はにっこり微笑んで降ろすふりをしていた荷物を担ぎ直した。
彼が家に入っていくと彼女もついてくるのだが、彼女の絡みつくような視線に彼は振り返った。
「何でジロジロ見てるんだよ…」
「あら、気付いてしもた?いやー、ええ体しとるなー思てな?何してはるお人なん?」
「猟師だが…」
「あー、その厚ぅて頬擦りしとうなるような胸板は弓で鍛えられたもんやったんやなー」
そう言うと彼女は濡れた瞳で彼の胸部を見つめる。
「せや、あんさんはこないなトコで一人きりで暮らしとるん?」
「いや、今は出てるが、娘がいる」
「娘ぇ!?奥さんおるようには見えんよ!?」
彼女は大層驚いた様な声を出した。
「お前失礼じゃないか!?……娘とは血が繋がってない」
「なんやー。ビックリさせんといてー」
そう言うと安心したような笑顔を零した。
「何なんだ一体…。まぁ座っててくれ。茶を用意する」
「おおきにー」
彼はテーブルの椅子に彼女を座らせると、調理場で湯を沸かし始めた。
(コブ付きやけど、それを補って余りあるええ男やん…!ウチ、めっちゃ好みやわ!何としてもモノにしたる!)
湯を沸かす彼の背を見つめながら彼女はそんなことを考えていた。
彼女の正体は刑部狸、歴とした魔物である。
男に妥協を許さない彼女は、夫探しのため耳や尻尾を魔力で隠してジパングから遥々旅をして来たのだった。
「ほら、どうぞ」
「おおきに」
ハーブティーを淹れると、彼はテーブルに戻ってきた。
「それにしても、男手1つで娘育てるんは大変やないの?」
不意な彼女の言葉に、彼はつい近頃の悩みを打ち明けた。
「分かってくれるか…。特に最近は娘がなんで怒ってるかも分からんことがあってな…」
「母親が必要なんちゃう?」
「やっぱり男の片親じゃあ娘の情操教育には限界があるのかな…」
落ち込む彼の様子に彼女はチャンスとばかりに声をかけた。
「なってくれそうなねんごろな関係の女はおらんの?」
「そんなのいりゃあ苦労しねぇよ…」
彼が項垂れると彼女は目を光らせた。
「そうなると探さなあかんなー。やっぱり1人で旅とかできるようなしっかり者の母親がええんちゃう…?」
考え込むふりをしつつもチラチラ彼を見ながらそう言う。
「こんなところで猟師してるオレにそんな出会いがあるかっつうの…」
無意識ではあるが彼女のことは眼中にないかのような発言の彼と、その言葉に膨れる彼女。
しかしその程度てへこたれる魔物ではない。
「とりあえずウチらの出会いの記念として、これ受け取ってや」
そう言うと背負っていた木箱からボトルに入ったワインを取り出した。
「こりゃ随分質のよさそうなワインだな…」
「これはごっつえぇのワインなんよ!とってもええ飲み口でなかなか手に入らんのやで?」
それを聞くと彼の目がすっと細められる。
「なんで行商人のお前がそんな希少なものを俺にくれるんだよ?」
彼は商人、特に行商人が損得抜きで行動することがない人種だということは重々承知している。
それ故彼はまず彼女を疑ってかかった。
「え!?そ、それは…せやから…で、出会いの記念やってぇ」
「それにしては高価すぎるぞ」
彼女が彼に渡そうとしているワインはただのワインではない。
『陶酔の果実』という魔界で育つつブドウのような果実で作られた『魔界ワイン』であり、それで酔うと心地良い陶酔状態になり、何も考えず目の前の恋人、いない場合は目の前の異性と交わろうとしてしまうという代物だった。
(勘のえぇお人や…)
「そ、そない疑わんといてやー」
「無償で物を譲ろうとする商人は信用ならん。なんか余計なモン入ってるんじゃないだろうな?」
「そ、そんならまずウチが飲んでみせるさかい、それなら安心やろ?」
彼は酒好きである。
本心では希少なワインをとても飲んでみたいのである。
安全性を証明しようとする彼女の言葉に心が揺らぐ。
「な、なんでそこまでしてオレにワインを飲まそうとする?」
「そんなんパパさんが気に入ったからに決まっとるやん。気に入ったお人が子育てで疲れとったら酌でもして労りたいやん?」
その言葉に嘘は無いと感じた彼は我慢出来ず、ワインを飲むことにした。
すると彼女は栓を抜き、ワインを飲む。
「んー、ええ香りやなー。ってそんな見んといてや」
ジーッと探るように彼女を見ていた彼だったが彼女がグラス一杯飲み切ると、
「も、問題無さそうだな!オレにも飲ませてくれ!」
急いでカップを持ってくると彼女に差し出した。
彼女はにんまり笑うとカップになみなみワインを注いだ。
彼は香りを愉しむようにワインを揺らし、一口含む。
「これは美味い!なんて口当たりも香りもいいんだ!こんなに美味いワインは飲んだことないぞ!」
「そんなに喜んでもろてウチも嬉しいわー。ささ、もう一献♪」
彼女に促されるまま飲み続けた彼はあっという間に一瓶飲み干してしまった。
「なんかムラムラしてきた…。あ、女だ…」
彼はほんのり赤い顔で陶酔状態になっていた。
ふと性欲を覚え、見回すと目の前に服装は変わっているが美女がいる。
既に彼の頭には彼女との情事の情景しか浮かんでいない。
フラフラと彼女に近付くと、倒れ込むように彼女を押し倒した。
「やんっ♥おいでやすー♥」
彼女はのしかかってきた彼を優しく抱きとめるのだった。
「はぁ…。パパ、いつも通りだったなぁ…。お年頃、くらいにしか思ってないのかなぁ…」
リーゼは朝食を終えると川まで赴き、着用済みの衣服を洗濯していた。
川で濡らし、破れないよう気を付けながら岩に擦りつけて汚れを落とす。
ひと通りの洗濯を終えて家に戻ると、中から話し声が聞こえてきた。
「パパ、独り言すごい…」
家にリーゼと彼以外の会話可能な生き物がいたことが無かったため、来客とは思わず、なんの警戒もなしに家に入っていった。
「パパ…?何して…」
リーゼは彼に声をかけると居間の状況に硬直した。
「うへへ…ほんまええ体しとるわー♥」
先程とは体勢が代わり、商人が彼に跨がって服を脱がせていた。
彼はボーッとしてされるがままである。
彼の体をひと仕切り撫で回すと、彼の上から降りて横にかがむ。
「さてさて、上半身は堪能したし、お次は期待のお魔羅様ー♥」
「な……何してんのよー!」
商人が彼のブレー(ズボン)に手を掛けるとそれまでワナワナと震えていたリーゼが声を張り上げた。
「おわっ!?ま、魔物ぉ!?何で反魔物領のこないな辺鄙な所におるん!?」
「あっ…!」
リーゼは咄嗟に手で角を隠すが、すぐに開き直って商人に食って掛かった。
「うるさい!そんなのアンタには関係ないでしょ!その手を離しなさいよ!」
「なんや横取りする気かいな!こないなええ男なかなかおらんねん!絶対ゆずらんで!」
そう言うと商人は立ち上がり、リーゼに向き直った。
「アンタ見たとこサキュバスみたいやケド、そのサキュバス様が恋愛絡みで暗黙の了解破ってええんか?このお人からはなーんの魔力の匂いもせぇへんで?」
サキュバスという単語にも暗黙の了解にも心当たりのないリーゼは何の事か全然分からない。
しかし、気が動転したリーゼはとにかく言い返す。
「う、うるさい!私はもうずっとパ…その人と一緒にいるの!アンタなんか入り込む余地はないの!どっかいって!」
「小娘がよう吠えるやん。ずっと一緒にいる言うてもこのお人とは未だ結ばれてへんし、本人もねんごろな仲の女はおらん言うとったで?脈無しなんとちゃう?」
女同士の口喧嘩はヒートアップし、険悪な雰囲気が漂っている。
口喧嘩など割と口下手な父親としかしたことのなかったリーゼはネチネチと、かつ的確に痛い所をつく商人の相手にはなり得なかった。
しかし、リーゼは大事な父親兼想い人を取られまいと必死で噛み付いていった。
「うるさいうるさい!私は魔物よ!?アンタなんか一瞬で倒しちゃうんだから!」
「はんっ、アンタ程度の魔力でどないなる言うの?ウチの力見せたるわ」
そう言うと商人は魔力で隠していた耳と尻尾を出し、魔力を片手に集める。
リーゼは呆然とそのさまを見つめている。
「どないや!声も出ぇへんみたいやん!」
「ま…魔物…」
「へ?せやけど…?」
「どいて!パパから離れて!」
「おわっ!?」
リーゼは商人の耳と尻尾を見ると慌てて商人を押しのけ、陶酔を過ぎて眠ってしまっている彼に飛びついた。
「パパを殺す気!?手出しさせないから!」
「パパ…?殺す…?」
魔物としての自覚に乏しいリーゼはいざ他の魔物と対峙しても自分と同族の様に接することは出来なかった。
その上知識だけは魔物は恐ろしいものらしいというものだけあるものだからこんな反応をしてしまったのだ。
そんな事はつゆも知らず、商人の頭には疑問符が飛び交うばかりだ。
「どっかいってったら!」
リーゼは置いてあったワインの空瓶を掴み、振り回した。
「あぶなっ!ちょお待ちぃ!ちょい話せなあかんってコレ!」
商人は尚も空瓶を振り回すリーゼをたしなめ、リーゼの生い立ち、その課程で育まれた気持ちを聞き、リーゼには魔物について話して聞かせた。
「つまり、あなたは別にパパに害をなそうとしてたわけじゃないと。私のことを知らずに、パパと恋人同志になりたかっただけだと」
「せやせや、堪忍してぇな〜。そないな複雑な仲とは知らず、つい…な…?」
しきりに謝る商人の様子にリーゼはホッと胸を撫で下ろした。
「と、ところで…魔物の娘たちは実の父親だろうとお構いなしに…その…シてしまうって言うのは…?」
「嘘やあらへんよ?実際、行商の途中で娘の肉奴隷になっとった父親おったし」
「に、にくっ…!?」
サキュバスではあるが彼の教育のせいで性的な表現に耐性のないリーゼは顔を真っ赤にして俯いた。
そしてそれを見てニマニマする商人。
「そ、それは置いておくとして、ということは…私がパパと…そういう関係になるのも…?」
「おかしゅうないで!」
リーゼが商人の言い切る姿に小さくガッツポーズをしていると、不意に商人は立ち上がった。
「さてと、ウチはそろそろお暇させて頂きます」
「え、もう少しゆっくりすればいいじゃないですか」
初めて魔物を知る相手に出会ったリーゼは商人にもっと質問をしようと考えていたのだ。
「いやぁ…。ウチ、パパさんを騙くらかしてワイン飲ませてしもたんよ。顔合わせづらいねん」
チラリと彼を見やってそういうとバツが悪そうに笑った。
「またちょいちょい寄らせてもらうさかい、そん時お話しよか」
「分かりました…。約束ですよ?」
そう言うと商人は荷物を背負ってドアに向かう。
リーゼも後について行き、見送りながらとある決意を胸に秘めていた。
彼から注がれる愛情の深さを認識し、元の生活に戻った二人だったが、14歳程になったリーゼは新たな問題に直面していた。
「ちょっ!ちょっとパパ!自分の分は自分で洗濯するって言ったでしょ!」
「言ってたけどさ、やっぱり一回でやっちまった方が効率的だろ?」
リーゼは洗濯物を干していた彼に、すごい剣幕で声をかけた。
「効率的とかそんなの…そ、それ!わ、私の、パ…パンt…!」
リーゼは言い切る前に彼が干そうとしていた下着と洗濯カゴを引ったくった。
「あ…ったく、そんなに言うなら洗濯の当番はリーゼで固定するか?」
「パパのパンツを私に洗濯させる気!?パパのバカ!」
そう捲し立てると、リーゼは引ったくった物を持ってかけて行ってしまった。
「なんなんだよ一体…」
彼の呟きはリーゼには届かなかった。
もうお気付きだろう。
14歳の娘、それは異性に過剰な照れを抱き、つい親に反発してしまうという、父親にとって最も難しい時期だ。
リーゼの場合は彼が実の父親ではなかったり魔物であったりと特に複雑である。
「はぁ、またやっちゃった…」
洗濯物をひったくったはいいが、洗濯物は干さねばならない。
結局リーゼは彼のいなくなった物干し場まで戻り、残りを干し始めた。
「なんでよりによってあのパンツなの…。もっと可愛いの履いてればよかったな…」
リーゼは彼への愛情が変化していくのを感じていた。
抱き付けば暖かい気持ちの湧いてきた胸板は今では発情を促し、撫でてもらえば自然と笑顔が浮かんでいたのに最近は嬉しいと同時に顔が真っ赤になってしまうのを感じた。
親愛が恋愛に変化しているのである。
しかしリーゼの恋のお相手は父親である。
普通の魔物なら構わず突き進むのだろうが、リーゼは人間としての育てられてきた。
父親との恋は倫理観が邪魔をするのだが、魔物としての本能は彼を求めて止まないのである。
「こんな娘じゃパパも困るよね…」
しかし、自分の想いに気付かれまいと思えば思うほど過剰で辛辣な言葉が出てしまう。
もしバレて拒絶されても彼は今までのようにそばに居てくれるだろうが、二人の関係は完全に元通りには決してならない。
そう思うとリーゼはなかなか素直になれなかった。
「あ、そろそろ夕飯の仕込みしなきゃ」
そう言うと洗濯物を干し終えたリーゼは家の中に入っていった。
「うん、よく味が染みてて美味い!リーゼ、随分上達したな!」
「べ、別にこんなの早めに準備さえすればいいだけのものだし…」
「そんなことないぞ。焼き加減も絶妙だし、これだけいろんな香りがするんだ、複雑な味付けのはずだ」
彼はリーゼの頭を笑顔で撫でてやった。
「な、撫でないで!もう子供じゃないんだから!」
「お前が何歳になろうが、親にとって見りゃ息子や娘はいつまでたっても子供のままなんだよ」
一度は跳ね除けられたが、彼は構わず再度リーゼの頭を撫でた。
今度は抵抗せず、リーゼは顔を真っ赤にして俯いていた。
一仕切り撫で終えると彼は手を離す。
「ご、ご馳走様…」
「え、もういいのか?」
そう言うとリーゼは食器を片付けはじめた。
「しょ、食欲ないから…」
「熱でもあるんじゃないのか?ちょっとじっとしてろ」
彼はリーゼに近付いていき、腰に手を回して捕まえると、逆の手をリーゼの額に当てた。
「熱あるな。顔も赤いし」
「ちょっとパパ!近いよ!離して!」
「こら、熱あるんだから暴れるなって」
そう言うと彼は額にあてていた手を頭の後ろに回し、引き寄せた。
彼の雄独特の匂いが鼻腔を通してリーゼにある魔物の、雌の部分を刺激してくる。
「ふわっ!は、離してったら!く…くさいの!」
「く、くさっ!?」
愕然とした彼が腕の力を緩めると、リーゼは彼の腕を振りほどき、脱衣所に駆け込んで行き、何かを抱えて自分の部屋に閉じこもってしまった。
その様子を彼は呆然と眺めていたが、しばらくするとリーゼの作った料理を猛然と平らげると、湯を沸かし始めたのだった。
「はぁ…はぁ…」
リーゼは熱い息を吐きながらベッドに倒れ込んだ。
手には脱衣所から持ってきた、彼が猟に出るときに使う肌着がある。
「パパぁ…。スー…ハー…」
リーゼは汗の乾いたそれの匂いを嗅ぐと頭が沸騰しそうになるのを感じていた。
布団を頭から被り、肌着の匂いを嗅いでいるとリーゼの右手は次第に自らの恥部に伸びていく。
「んっ!」
リーゼがそのぴっちり閉じた割れ目を撫でると未だ幼さの残る身体は不慣れな性感を強く感じさせる。
リーゼは布団の暖かさと彼の雄の匂いで彼の腕の中を擬似的に創り出し、彼との情事を想像した。
「パパぁ…そこ…気持ちいぃ…!」
リーゼはゆっくりストロークさせていた指を今度は膣口に沿って円運動させた。
「パパぁ…。欲しい…欲しいよぉ…」
焦らすばかりで膣内には入ることなくリーゼは指を移動させる。
そのまま陰核に到達すると、触れるか触れないかくらいの摩擦で擦り始める。
「リーゼ!リーゼ!大丈夫か!?」
だんだん本当に彼の声が聴こえるような気がして興奮も加速する。
「ふぁっ!パパぁ…パパぁ…!」
リーゼの自慰は未だ続く。
「よし!これだけすれば大丈夫だろ!」
リーゼに置き去りにされた彼は沸かした湯で浸すら体を拭っていた。
擦り過ぎて赤くなってしまっている箇所も間々ある。
「もう…臭くない…よな…?」
彼は猟師である。
そのため、獣の臭いがついてしまったのだろうと彼は思い至り、対処を講じていた。
「体は拭った。髪も洗った。服も着替えた。獣臭さは無いはずだ!」
そう言うと彼はリーゼの部屋へ向かった。
「リ、リーゼ?パパ、もう臭くは……ん?」
「んっ…!はぁ…はぁ…」
リーゼの部屋からは病に喘ぐ愛娘の声。(に聞こえた)
「リーゼ!リーゼ!大丈夫か!?」
「 パパぁ…パパぁ…! 」
自分に助けを求めるリーゼの声(に聞こえた)に彼は急いで扉を開けた。
「リーゼ!大丈夫か!?俺はここにいるぞ!」
「え……?」
布団から顔を出して呆然とするリーゼ。
リーゼは布団にくるまり情事に耽っていたため、彼はリーゼが何をしていたか気付いていない。
それ故、彼はリーゼに構うことなく近付いていった。
「リーゼ大丈夫か!?苦しいのか!?」
「き……」
「き!?」
「きゃあああああああああ!」
彼の鼓膜を破らん勢いで悲鳴を上げるリーゼと、驚きと鼓膜を守るための反射で後ろに転がる彼。
「うおぉぉ…み、耳がぁ…」
「そんなのどうでもいい!なんで勝手に入ってくるのよ!?」
「い、いや、お前の苦しみに喘ぐ声が聞こえてだな…?」
「そ、そんなの出してない!出てってよ!」
そう言うとリーゼは手の届く範囲のものを彼に投げつけた。
「うわっ、やめろリーゼ!わかった!出てくから!」
彼は逃げるように部屋を出ていくのだった。
「おーい、メシだぞー」
「…………」
部屋にいるリーゼに朝食の用意の終了を伝えると、リーゼはムスッとした顔で部屋から出てきた。
「昨晩のこと、まだ怒ってるのか?ノック忘れただけじゃないか…」
(あやうく大変な事になる所だったって言うのに…!)
「しかし、非は確かに俺の方にある。何か償いをして欲しければするぞ?」
「そんなのいいよ…」
リーゼはそれっきり喋らなくなり、さっさと食事を終えると、洗濯のために川に向かってしまった。
「はぁ…」
「ごめんやすー」
取り残された彼が1人で残りを食べていると、外から聞き慣れない言い回しの声が聞こえた。
「あ、今出ます!」
二人の住む森はあまり人の立ち入らない森のため、誰かが訪ねてくることなど滅多になかった。
彼が突然の来訪者に驚きつつ出迎えると、そこにはジパングの行商人であろう女性が立っていた。
もちろんジパングなど知らない彼には変わった格好の行商人らしき女性、位の認識しかない。
「突然訪ねてしもて申し訳おまへん。ウチは旅の商人(あきんど)やっとるもんどす」
「ど、どうも」
彼が面喰らっていると、彼女はどんどん喋り始める。
「こないな何も無さそうな森に人の通った跡が残っとるの見てコレは商売のチャンスや思てな。きっと誰も来んのとちゃいます?せやったらウチの商品見てってぇな。きっと何かしらええもんあるで!何にしても見てみな始まらんな!ちょっと待ってぇや」
彼女が荷物をおろし始めたのを見て彼は慌てて止めた。
「待て待て!こんなところで広げるつもりか!入っていいからそこでにしてくれ!」
「そう言ってくれるのを待っとったんよ」
そう言うと彼女はにっこり微笑んで降ろすふりをしていた荷物を担ぎ直した。
彼が家に入っていくと彼女もついてくるのだが、彼女の絡みつくような視線に彼は振り返った。
「何でジロジロ見てるんだよ…」
「あら、気付いてしもた?いやー、ええ体しとるなー思てな?何してはるお人なん?」
「猟師だが…」
「あー、その厚ぅて頬擦りしとうなるような胸板は弓で鍛えられたもんやったんやなー」
そう言うと彼女は濡れた瞳で彼の胸部を見つめる。
「せや、あんさんはこないなトコで一人きりで暮らしとるん?」
「いや、今は出てるが、娘がいる」
「娘ぇ!?奥さんおるようには見えんよ!?」
彼女は大層驚いた様な声を出した。
「お前失礼じゃないか!?……娘とは血が繋がってない」
「なんやー。ビックリさせんといてー」
そう言うと安心したような笑顔を零した。
「何なんだ一体…。まぁ座っててくれ。茶を用意する」
「おおきにー」
彼はテーブルの椅子に彼女を座らせると、調理場で湯を沸かし始めた。
(コブ付きやけど、それを補って余りあるええ男やん…!ウチ、めっちゃ好みやわ!何としてもモノにしたる!)
湯を沸かす彼の背を見つめながら彼女はそんなことを考えていた。
彼女の正体は刑部狸、歴とした魔物である。
男に妥協を許さない彼女は、夫探しのため耳や尻尾を魔力で隠してジパングから遥々旅をして来たのだった。
「ほら、どうぞ」
「おおきに」
ハーブティーを淹れると、彼はテーブルに戻ってきた。
「それにしても、男手1つで娘育てるんは大変やないの?」
不意な彼女の言葉に、彼はつい近頃の悩みを打ち明けた。
「分かってくれるか…。特に最近は娘がなんで怒ってるかも分からんことがあってな…」
「母親が必要なんちゃう?」
「やっぱり男の片親じゃあ娘の情操教育には限界があるのかな…」
落ち込む彼の様子に彼女はチャンスとばかりに声をかけた。
「なってくれそうなねんごろな関係の女はおらんの?」
「そんなのいりゃあ苦労しねぇよ…」
彼が項垂れると彼女は目を光らせた。
「そうなると探さなあかんなー。やっぱり1人で旅とかできるようなしっかり者の母親がええんちゃう…?」
考え込むふりをしつつもチラチラ彼を見ながらそう言う。
「こんなところで猟師してるオレにそんな出会いがあるかっつうの…」
無意識ではあるが彼女のことは眼中にないかのような発言の彼と、その言葉に膨れる彼女。
しかしその程度てへこたれる魔物ではない。
「とりあえずウチらの出会いの記念として、これ受け取ってや」
そう言うと背負っていた木箱からボトルに入ったワインを取り出した。
「こりゃ随分質のよさそうなワインだな…」
「これはごっつえぇのワインなんよ!とってもええ飲み口でなかなか手に入らんのやで?」
それを聞くと彼の目がすっと細められる。
「なんで行商人のお前がそんな希少なものを俺にくれるんだよ?」
彼は商人、特に行商人が損得抜きで行動することがない人種だということは重々承知している。
それ故彼はまず彼女を疑ってかかった。
「え!?そ、それは…せやから…で、出会いの記念やってぇ」
「それにしては高価すぎるぞ」
彼女が彼に渡そうとしているワインはただのワインではない。
『陶酔の果実』という魔界で育つつブドウのような果実で作られた『魔界ワイン』であり、それで酔うと心地良い陶酔状態になり、何も考えず目の前の恋人、いない場合は目の前の異性と交わろうとしてしまうという代物だった。
(勘のえぇお人や…)
「そ、そない疑わんといてやー」
「無償で物を譲ろうとする商人は信用ならん。なんか余計なモン入ってるんじゃないだろうな?」
「そ、そんならまずウチが飲んでみせるさかい、それなら安心やろ?」
彼は酒好きである。
本心では希少なワインをとても飲んでみたいのである。
安全性を証明しようとする彼女の言葉に心が揺らぐ。
「な、なんでそこまでしてオレにワインを飲まそうとする?」
「そんなんパパさんが気に入ったからに決まっとるやん。気に入ったお人が子育てで疲れとったら酌でもして労りたいやん?」
その言葉に嘘は無いと感じた彼は我慢出来ず、ワインを飲むことにした。
すると彼女は栓を抜き、ワインを飲む。
「んー、ええ香りやなー。ってそんな見んといてや」
ジーッと探るように彼女を見ていた彼だったが彼女がグラス一杯飲み切ると、
「も、問題無さそうだな!オレにも飲ませてくれ!」
急いでカップを持ってくると彼女に差し出した。
彼女はにんまり笑うとカップになみなみワインを注いだ。
彼は香りを愉しむようにワインを揺らし、一口含む。
「これは美味い!なんて口当たりも香りもいいんだ!こんなに美味いワインは飲んだことないぞ!」
「そんなに喜んでもろてウチも嬉しいわー。ささ、もう一献♪」
彼女に促されるまま飲み続けた彼はあっという間に一瓶飲み干してしまった。
「なんかムラムラしてきた…。あ、女だ…」
彼はほんのり赤い顔で陶酔状態になっていた。
ふと性欲を覚え、見回すと目の前に服装は変わっているが美女がいる。
既に彼の頭には彼女との情事の情景しか浮かんでいない。
フラフラと彼女に近付くと、倒れ込むように彼女を押し倒した。
「やんっ♥おいでやすー♥」
彼女はのしかかってきた彼を優しく抱きとめるのだった。
「はぁ…。パパ、いつも通りだったなぁ…。お年頃、くらいにしか思ってないのかなぁ…」
リーゼは朝食を終えると川まで赴き、着用済みの衣服を洗濯していた。
川で濡らし、破れないよう気を付けながら岩に擦りつけて汚れを落とす。
ひと通りの洗濯を終えて家に戻ると、中から話し声が聞こえてきた。
「パパ、独り言すごい…」
家にリーゼと彼以外の会話可能な生き物がいたことが無かったため、来客とは思わず、なんの警戒もなしに家に入っていった。
「パパ…?何して…」
リーゼは彼に声をかけると居間の状況に硬直した。
「うへへ…ほんまええ体しとるわー♥」
先程とは体勢が代わり、商人が彼に跨がって服を脱がせていた。
彼はボーッとしてされるがままである。
彼の体をひと仕切り撫で回すと、彼の上から降りて横にかがむ。
「さてさて、上半身は堪能したし、お次は期待のお魔羅様ー♥」
「な……何してんのよー!」
商人が彼のブレー(ズボン)に手を掛けるとそれまでワナワナと震えていたリーゼが声を張り上げた。
「おわっ!?ま、魔物ぉ!?何で反魔物領のこないな辺鄙な所におるん!?」
「あっ…!」
リーゼは咄嗟に手で角を隠すが、すぐに開き直って商人に食って掛かった。
「うるさい!そんなのアンタには関係ないでしょ!その手を離しなさいよ!」
「なんや横取りする気かいな!こないなええ男なかなかおらんねん!絶対ゆずらんで!」
そう言うと商人は立ち上がり、リーゼに向き直った。
「アンタ見たとこサキュバスみたいやケド、そのサキュバス様が恋愛絡みで暗黙の了解破ってええんか?このお人からはなーんの魔力の匂いもせぇへんで?」
サキュバスという単語にも暗黙の了解にも心当たりのないリーゼは何の事か全然分からない。
しかし、気が動転したリーゼはとにかく言い返す。
「う、うるさい!私はもうずっとパ…その人と一緒にいるの!アンタなんか入り込む余地はないの!どっかいって!」
「小娘がよう吠えるやん。ずっと一緒にいる言うてもこのお人とは未だ結ばれてへんし、本人もねんごろな仲の女はおらん言うとったで?脈無しなんとちゃう?」
女同士の口喧嘩はヒートアップし、険悪な雰囲気が漂っている。
口喧嘩など割と口下手な父親としかしたことのなかったリーゼはネチネチと、かつ的確に痛い所をつく商人の相手にはなり得なかった。
しかし、リーゼは大事な父親兼想い人を取られまいと必死で噛み付いていった。
「うるさいうるさい!私は魔物よ!?アンタなんか一瞬で倒しちゃうんだから!」
「はんっ、アンタ程度の魔力でどないなる言うの?ウチの力見せたるわ」
そう言うと商人は魔力で隠していた耳と尻尾を出し、魔力を片手に集める。
リーゼは呆然とそのさまを見つめている。
「どないや!声も出ぇへんみたいやん!」
「ま…魔物…」
「へ?せやけど…?」
「どいて!パパから離れて!」
「おわっ!?」
リーゼは商人の耳と尻尾を見ると慌てて商人を押しのけ、陶酔を過ぎて眠ってしまっている彼に飛びついた。
「パパを殺す気!?手出しさせないから!」
「パパ…?殺す…?」
魔物としての自覚に乏しいリーゼはいざ他の魔物と対峙しても自分と同族の様に接することは出来なかった。
その上知識だけは魔物は恐ろしいものらしいというものだけあるものだからこんな反応をしてしまったのだ。
そんな事はつゆも知らず、商人の頭には疑問符が飛び交うばかりだ。
「どっかいってったら!」
リーゼは置いてあったワインの空瓶を掴み、振り回した。
「あぶなっ!ちょお待ちぃ!ちょい話せなあかんってコレ!」
商人は尚も空瓶を振り回すリーゼをたしなめ、リーゼの生い立ち、その課程で育まれた気持ちを聞き、リーゼには魔物について話して聞かせた。
「つまり、あなたは別にパパに害をなそうとしてたわけじゃないと。私のことを知らずに、パパと恋人同志になりたかっただけだと」
「せやせや、堪忍してぇな〜。そないな複雑な仲とは知らず、つい…な…?」
しきりに謝る商人の様子にリーゼはホッと胸を撫で下ろした。
「と、ところで…魔物の娘たちは実の父親だろうとお構いなしに…その…シてしまうって言うのは…?」
「嘘やあらへんよ?実際、行商の途中で娘の肉奴隷になっとった父親おったし」
「に、にくっ…!?」
サキュバスではあるが彼の教育のせいで性的な表現に耐性のないリーゼは顔を真っ赤にして俯いた。
そしてそれを見てニマニマする商人。
「そ、それは置いておくとして、ということは…私がパパと…そういう関係になるのも…?」
「おかしゅうないで!」
リーゼが商人の言い切る姿に小さくガッツポーズをしていると、不意に商人は立ち上がった。
「さてと、ウチはそろそろお暇させて頂きます」
「え、もう少しゆっくりすればいいじゃないですか」
初めて魔物を知る相手に出会ったリーゼは商人にもっと質問をしようと考えていたのだ。
「いやぁ…。ウチ、パパさんを騙くらかしてワイン飲ませてしもたんよ。顔合わせづらいねん」
チラリと彼を見やってそういうとバツが悪そうに笑った。
「またちょいちょい寄らせてもらうさかい、そん時お話しよか」
「分かりました…。約束ですよ?」
そう言うと商人は荷物を背負ってドアに向かう。
リーゼも後について行き、見送りながらとある決意を胸に秘めていた。
13/01/20 02:49更新 / ミンティア
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